【徹底解説】バックブーストコンバータの基礎知識:原理、特徴、メリット

【徹底解説】バックブーストコンバータの基礎知識:原理、特徴、メリット

はじめに:複雑化する電源要求に応えるDC-DCコンバータ

現代の電子機器は、スマートフォンから自動車、産業機器、再生可能エネルギーシステムに至るまで、多種多様な電源電圧を必要とします。しかし、利用可能な電源(バッテリー、ACアダプタ出力、ソーラーパネルなど)の電圧は一定ではありません。例えば、バッテリー電圧は使用とともに降下しますし、ソーラーパネルの出力は日照条件で変動します。このような変動する入力電圧から、機器が必要とする安定した電圧(より高く、より低く、あるいは同じ電圧レベル)を効率よく生成するのが、DC-DCコンバータの役割です。

DC-DCコンバータにはいくつかの種類がありますが、入力電圧よりも高い電圧も低い電圧も生成できる「昇降圧コンバータ」は、特に幅広い入力電圧範囲に対応する必要があるアプリケーションで重宝されます。昇降圧コンバータの中でも、最も基本的でシンプルながらも、重要な特徴を持つのが「バックブーストコンバータ」です。

本記事では、バックブーストコンバータに焦点を当て、その基本的な原理から詳細な動作、特徴、メリット・デメリット、設計上の考慮点、そして他のコンバータとの比較までを徹底的に解説します。約5000語にわたる詳細な説明を通じて、バックブーストコンバータの理解を深め、実際の回路設計やシステム構築に役立てていただくことを目指します。

1. DC-DCコンバータの基礎:なぜ必要か、スイッチング方式の優位性

電子回路に電力を供給する際、安定した電圧は必須です。入力電圧が変動したり、必要な出力電圧が入力と異なる場合、電圧を変換する必要があります。

1.1 なぜDC-DCコンバータが必要なのか

  • 電圧レベルの変換: 電源電圧が機器の要求電圧と異なる場合(例:5Vバッテリーから3.3VのロジックICを駆動、12Vバッテリーから24Vモーターを駆動)。
  • 電圧の安定化: 入力電圧が変動しても、出力電圧を一定に保つ(レギュレーション)。バッテリー駆動機器や、入力電圧が不安定な環境で特に重要。
  • 効率的な電力供給: 不要な電力消費を抑え、バッテリー駆動時間を延ばしたり、システム全体の電力効率を向上させる。

1.2 リニアレギュレータとスイッチングコンバータ

DC-DC変換の手法には、主にリニアレギュレータ方式とスイッチングコンバータ方式があります。

  • リニアレギュレータ: 入力と出力の間に直列に制御素子(トランジスタなど)を配置し、その抵抗値を変化させることで出力電圧を調整します。原理がシンプルでノイズが少ないという利点がありますが、入力と出力の電圧差に電流をかけた分の電力が制御素子で熱として消費されるため、効率が非常に悪い(特に電圧降下が大きい場合)という欠点があります。基本的に降圧しかできません。
  • スイッチングコンバータ: スイッチング素子(MOSFETなど)を高速にオンオフさせ、インダクタやコンデンサといった受動部品にエネルギーを蓄積・放出することで電圧を変換します。原理は複雑でスイッチングノイズが発生しますが、理想的には電力損失がスイッチング時と部品の抵抗成分のみであるため、非常に高い効率(80%~95%以上)を実現できます。昇圧、降圧、あるいはその両方が可能であり、絶縁も非絶縁も実現できます。

高効率が求められる modern なアプリケーションでは、スイッチングコンバータが主流です。バックブーストコンバータは、このスイッチングコンバータの一種です。

1.3 スイッチングコンバータの種類(非絶縁型)

スイッチングコンバータの中でも、入力側と出力側のグランドが共通である「非絶縁型」の代表的なものに以下の種類があります。

  • バックコンバータ (Buck Converter / 降圧コンバータ): 入力電圧より低い出力電圧を生成します。最も基本的で効率も良いタイプの一つです。
  • ブーストコンバータ (Boost Converter / 昇圧コンバータ): 入力電圧より高い出力電圧を生成します。
  • バックブーストコンバータ (Buck-Boost Converter / 昇降圧コンバータ): 入力電圧より高い電圧も低い電圧も生成できます。ただし、出力電圧の極性は入力電圧と逆になります。
  • SEPICコンバータ (Single Ended Primary Inductor Converter): 入力電圧より高い電圧も低い電圧も生成できます。出力電圧の極性は入力と同じです。インダクタを2つ使用します。
  • ZETAコンバータ: SEPICと同様に、入力電圧より高い電圧も低い電圧も生成でき、出力電圧の極性も入力と同じです。SEPICと双対的な回路構成です。

本記事の主役であるバックブーストコンバータは、この中でも特にシンプルな構成で昇降圧を実現できるタイプです。

2. バックブーストコンバータの基本原理

バックブーストコンバータの基本的な回路構成と動作原理を見ていきましょう。ここでは、理想的な部品(スイッチング損失、導通抵抗、順方向降下などがゼロ)を使用し、回路が定常状態(時間が経過しても同じ波形が繰り返される状態)で、連続モード(インダクタ電流がゼロにならないモード、CCM: Continuous Conduction Mode)で動作していると仮定して説明します。

2.1 基本回路構成

バックブーストコンバータの基本回路は、以下の部品で構成されます。

  • スイッチ (S): 高速にオンオフする素子(通常はMOSFETなどのトランジスタ)。入力電圧側とインダクタの間に配置されます。
  • ダイオード (D): スイッチと並列に逆向きに配置され、インダクタと出力コンデンサの間に接続されます。電流が一方向に流れるようにします。
  • インダクタ (L): エネルギーを磁気エネルギーとして蓄積・放出する部品。スイッチとダイオードの共通接続点とグランドの間に接続されます。
  • 出力コンデンサ (Cout): 出力電圧を平滑化する部品。ダイオードと出力の間に配置されます。
  • 負荷 (Rload): コンバータから電力が供給される先(抵抗としてモデル化されることが多い)。出力コンデンサと並列に接続されます。

回路図を文章で表現すると、以下のようになります。入力電圧源 (Vin) のプラス側からスイッチ (S) のドレイン(またはコレクタ)へ。スイッチのソース(またはエミッタ)からインダクタ (L) の一方の端子へ。インダクタのもう一方の端子はグランドに接続されます。ダイオード (D) は、アノード側がインダクタのインダクタのソース側接続点に、カソード側が出力端子 (Vout) へ接続されます。出力端子 (Vout) とグランドの間に、出力コンデンサ (Cout) と負荷 (Rload) が並列に接続されます。出力端子 Vout は、入力グランドに対して負の電圧になります。

2.2 動作モード(連続モード:CCM)

スイッチングコンバータは、スイッチのオンオフ周期に応じて異なる動作モードをとりますが、最も一般的で解析しやすいのが連続モード(CCM)です。CCMでは、インダクタ電流はスイッチング周期全体を通してゼロを下回ることはありません。

スイッチング周期を $T$ とし、スイッチがオンになっている時間の割合をDuty比 $D$ とします。スイッチがオンになっている時間 $T_{on} = D \cdot T$、スイッチがオフになっている時間 $T_{off} = (1-D) \cdot T$ です。

スイッチオン時の動作 ($0 < t \le T_{on}$):

  1. スイッチSがオンになります。 スイッチは導通し、入力電圧源 (Vin)、スイッチ (S)、インダクタ (L) の経路で電流が流れます。
  2. ダイオードDはオフになります。 出力電圧 Vout はグランドに対して負であり、スイッチオン時のインダクタのカソード側電圧(=スイッチのソース側電圧=Vin)よりも低いため、ダイオードは逆バイアスされて電流を流しません。出力回路(CoutとRload)は、ダイオードによって入力回路から切り離されます。
  3. インダクタにエネルギーが蓄積されます。 インダクタには入力電圧 $V_{in}$ が印加されます。インダクタの電圧-電流関係式 $V_L = L \frac{dI_L}{dt}$ から、$V_{in} = L \frac{dI_L}{dt}$ となります。インダクタ電流 $I_L$ は時間に対して線形に増加します($I_L(t) = I_{L,min} + \frac{V_{in}}{L} t$)。このとき、インダクタは入力電圧源からエネルギー $E_L = \frac{1}{2} L I_L^2$ を磁気エネルギーとして蓄えます。
  4. 出力コンデンサが負荷に電力を供給します。 この間、負荷が必要とする電流は、出力コンデンサに蓄えられた電荷によって供給されます。出力コンデンサの電圧はわずかに降下します。

スイッチオフ時の動作 ($T_{on} < t \le T$):

  1. スイッチSがオフになります。 スイッチは電流を遮断します。
  2. ダイオードDがオンになります。 インダクタに流れていた電流は急にゼロになれません(インダクタの性質:電流連続性)。電流の経路が断たれたため、インダクタは電流を流し続けようとして両端に高い電圧を発生させます。インダクタ電流はダイオードを経由して出力回路(CoutとRload)に流れます。ダイオードは順方向にバイアスされて導通します。
    このとき、インダクタの左側の端子電圧は、インダクタ電流が流れ込むダイオードのアノード電圧(ほぼ出力電圧 $V_{out}$)になります。インダクタの右側の端子はグランドに接続されています。したがって、インダクタには $V_{L,off} = V_{out} – 0 = V_{out}$ の電圧が印加されることになります。(注:出力電圧 $V_{out}$ は入力グランドに対して負なので、$V_{out}$ は負の値です。したがって、インダクタには負の電圧が印加されます。)
  3. インダクタのエネルギーが出力に放出されます。 インダクタ電流はダイオード、出力コンデンサ、負荷の経路で流れます。インダクタに印加される電圧は $V_{out}$ であり、この電圧は負の値なので、$V_{out} = L \frac{dI_L}{dt}$ から $\frac{dI_L}{dt} = \frac{V_{out}}{L}$ は負となり、インダクタ電流 $I_L$ は時間に対して線形に減少します($I_L(t) = I_{L,max} + \frac{V_{out}}{L} (t-T_{on})$)。インダクタに蓄えられていたエネルギーは、出力コンデンサと負荷に供給されます。
  4. 出力コンデンサが充電されます。 ダイオードから流れてくる電流は、負荷電流と出力コンデンサを充電する電流に分かれます。これにより、スイッチオン時に放電した出力コンデンサが充電され、出力電圧が平滑化されます。

このオン/オフ動作が高速に繰り返されることで、入力電圧から安定した出力電圧が生成されます。

2.3 入出力電圧の関係式導出(連続モード:CCM)

定常状態の連続モードでは、1スイッチング周期におけるインダクタの電圧の平均値はゼロになります(インダクタの電圧-秒バランスの原理)。もし平均電圧がゼロでないと、インダクタ電流は際限なく増加または減少してしまい、定常状態が維持できなくなります。

スイッチオン時間 $T_{on}$ におけるインダクタ電圧は $V_{in}$ です。
スイッチオフ時間 $T_{off}$ におけるインダクタ電圧は $V_{out}$ です(理想ダイオードを仮定)。

電圧-秒バランスの原理より、
$(V_{in} \times T_{on}) + (V_{out} \times T_{off}) = 0$

$T_{on} = D \cdot T$、 $T_{off} = (1-D) \cdot T$ なので、
$(V_{in} \times D \cdot T) + (V_{out} \times (1-D) \cdot T) = 0$

両辺を $T$ で割ると、
$V_{in} \cdot D + V_{out} \cdot (1-D) = 0$

この式を $V_{out}$ について解くと、
$V_{out} \cdot (1-D) = – V_{in} \cdot D$
$V_{out} = – V_{in} \cdot \frac{D}{1-D}$

これが、理想的なバックブーストコンバータの入出力電圧の関係式です。

この式からいくつかの重要なことがわかります。

  • 出力電圧の極性反転: 出力電圧 $V_{out}$ は常に入力電圧 $V_{in}$ とは逆の極性になります。式中のマイナス記号がこれを示しています。入力が正なら出力は負、入力が負なら出力は正になります。一般的なアプリケーションでは入力は正のDC電圧なので、出力は負のDC電圧となります。
  • Duty比による電圧制御: 出力電圧の絶対値 $|V_{out}|$ は、Duty比 $D$ によって制御できます。
    • $D < 0.5$ のとき: $\frac{D}{1-D} < 1$ となり、$|V_{out}| < V_{in}$ (降圧動作)
    • $D = 0.5$ のとき: $\frac{D}{1-D} = 1$ となり、$|V_{out}| = V_{in}$ (入力電圧と同じ絶対値)
    • $D > 0.5$ のとき: $\frac{D}{1-D} > 1$ となり、$|V_{out}| > V_{in}$ (昇圧動作)
      このように、Duty比を0から1の間で変化させることで、入力電圧より低い電圧も高い電圧も生成可能です。

2.4 インダクタ、コンデンサ、スイッチ、ダイオードの役割

  • インダクタ (L): バックブーストコンバータの心臓部です。スイッチオン時に入力からエネルギーを蓄え、スイッチオフ時にそのエネルギーを出力へ放出する役割を担います。このエネルギーの受け渡しによって電圧変換が可能になります。インダクタ電流のリプル(変動幅)は、インダクタンス値とスイッチング周波数、電圧によって決まります。
  • 出力コンデンサ (Cout): スイッチオフ時にダイオードから供給される電流と、スイッチオン時に負荷が必要とする電流の間のバッファとして機能します。出力電圧のリップルを低減し、負荷に対して安定したDC電圧を供給します。コンデンサの容量が大きいほど、出力電圧リップルは小さくなります。
  • スイッチ (S): 高速でオンオフすることで、インダクタに入力電圧を印加する期間と、インダクタから出力へ電流を流す期間を切り替えます。通常、パワーMOSFETが使用されます。スイッチには、スイッチングオン時にインダクタ電流が流れ始め、オフ時にインダクタに蓄えられたエネルギーが放出される際の高電圧($V_{in} + |V_{out}|$)がかかるというストレスがあります。
  • ダイオード (D): スイッチオフ時にインダクタ電流が出力側へ流れる経路を確保します。スイッチオン時にはインダクタ電流がダイオードを逆流するのを防ぎます。ダイオードには、スイッチオン時にスイッチの両端にかかる電圧(ほぼ $V_{in} + |V_{out}|$)の逆電圧がかかるというストレスがあります。また、スイッチオフ時にはインダクタ電流が流れるため、大きな電流ストレスもかかります。

2.5 極性反転の理由の直感的な説明

なぜ出力電圧が反転するのでしょうか? これは、インダクタの接続方法と動作原理に起因します。

インダクタは、電流が流れる方向に磁束を発生させ、エネルギーを蓄えます。電流が変化しようとすると、その変化を妨げる方向に電圧を発生させます。

バックブーストコンバータでは、スイッチオン時にインダクタは入力電圧 $V_{in}$ によって励磁されます。インダクタの電流は増加し、入力電源側からインダクタへエネルギーが蓄えられます。このとき、インダクタの右端はグランドに接続されています。インダクタに $V_{in}$ が印加されているということは、インダクタの左端の電位は右端(グランド)より $V_{in}$ だけ高いということです。

スイッチがオフになると、インダクタに蓄えられたエネルギーは放出されなければなりません。インダクタ電流は流れる方向(インダクタの左端から右端へ)を維持しようとします。しかし、スイッチは開いているため、電流はダイオードを経由して流れるしかありません。インダクタ電流がダイオードを経由して流れるためには、インダクタの左端の電位がダイオードのアノード電圧(=出力電圧 $V_{out}$)に等しくなり、ダイオードのカソード(出力端子)へ電流が流れる必要があります。

ここで重要なのは、スイッチオン時にインダクタの左端が高電位($V_{in}$)だったのに対し、スイッチオフ時にはそのエネルギーがインダクタ電流を流し続けるために使われ、電流が流れ出す側の電位が低くなる方向にインダクタが逆起電圧を発生させるということです。インダクタの右端は常にグランドです。インダクタ電流が左端から右端(グランド)へ流れ込むということは、左端の電位が右端(グランド)よりも低くなる必要があるということです。このインダクタの左端に接続されているのがダイオードのアノード、すなわち出力電圧 $V_{out}$ なのです。したがって、$V_{out}$ はグランドに対して負の電位になります。

つまり、入力からインダクタへエネルギーを蓄える際の電流の向きと、インダクタから出力へエネルギーを放出する際の電流の向きが、インダクタを挟んで逆方向に流れるため、出力電圧の極性が反転するのです。

3. バックブーストコンバータの主な特徴

基本原理から導かれるバックブーストコンバータの特徴をまとめます。

  • 昇圧・降圧機能: Duty比 $D$ を調整することで、入力電圧 $V_{in}$ に対して出力電圧 $V_{out}$ の絶対値を $|V_{out}| = V_{in} \cdot \frac{D}{1-D}$ の関係で自由に設定できます。$D < 0.5$ なら降圧、$D > 0.5$ なら昇圧、$D = 0.5$ なら入力と同じ絶対値の電圧が得られます。これにより、広範な入力電圧変動に対して、一定の出力電圧を維持することが可能です。
  • 出力電圧の極性反転: 非絶縁型バックブーストコンバータの最も顕著な特徴であり、デメリットとなることも多い点です。入力が正のDC電圧であれば、出力は常に負のDC電圧になります。
  • スイッチ・ダイオードへの高電圧ストレス: スイッチオン時、ダイオードには $V_{in} + |V_{out}|$ に近い逆電圧がかかります。スイッチオフ時、スイッチには $V_{in} + |V_{out}|$ に近い順方向電圧(オフ状態での阻止電圧)がかかります。つまり、スイッチとダイオードは常に入力電圧と出力電圧の絶対値の和に近い高い電圧に耐える必要があります。これは、部品選定上重要な制約となり、特に高入出力電圧が必要なアプリケーションでは、耐圧の高い高価な部品が必要になる場合があります。
  • 非絶縁型: 入力側と出力側のグランドが共通ではありません。入力のプラス端子と出力のマイナス端子が共にグランドになります(入力が正、出力が負の場合)。したがって、入力回路と出力回路の間でグランドを共有する設計はできません。これは、絶縁が必要なアプリケーションや、グランドを共有する他の回路との接続において制約となることがあります。
  • インダクタ・コンデンサへの電流・電圧ストレス: インダクタには入力電流と出力電流の両方が流れるため、大きなピーク電流が流れます。出力コンデンサには、スイッチオフ時に流れるパルス状の大きな電流が流れ込みます。これらの部品にも高い電流ストレスがかかるため、適切な定格の部品を選定する必要があります。特に、出力コンデンサには低ESR(等価直列抵抗)のものが求められます。
  • 効率: 原理的には高効率ですが、スイッチング損失、部品の導通損失(スイッチのオン抵抗、ダイオードの順方向電圧降下、インダクタの抵抗)、インダクタのコア損失などにより損失が発生します。 Duty比が0や1に近い極端な値になる場合や、入出力電圧差が大きい場合に効率が低下しやすい傾向があります。
  • 制御: 出力電圧を安定化するためには、通常PWM (Pulse Width Modulation) 制御が用いられます。出力電圧を検出し、目標電圧との差に基づいてDuty比をフィードバック制御します。非連続モード(DCM)や臨界モードでの動作も可能ですが、CCMに比べて制御が複雑になる場合があります。

4. バックブーストコンバータのメリットとデメリット

バックブーストコンバータは、いくつかの独特なメリットとデメリットを持っています。

4.1 メリット

  • 広範な入出力電圧範囲に対応 (昇降圧機能): これがバックブーストコンバータの最大のメリットです。一つの回路で、入力電圧より高い電圧も低い電圧も生成できるため、入力電圧が大きく変動するアプリケーション(例:バッテリー電圧が満充電から空になるまで変化するシステム)で、一定の出力電圧が必要な場合に非常に有効です。また、負荷の要求に応じて出力電圧を動的に変化させるような用途にも使えます。
  • 比較的シンプルな回路構成: 主要部品はスイッチ、ダイオード、インダクタ、コンデンサと少なく、基本的な構成自体はバックコンバータやブーストコンバータと同程度のシンプルさです。SEPICやZETAコンバータのような他の非反転昇降圧コンバータと比較すると、インダクタが1つで済むため部品点数が少なく、回路がシンプルになります。

4.2 デメリット

  • 出力電圧の極性反転: これはバックブーストコンバータの最も大きな欠点となる可能性があります。入力電圧が正の場合、出力は負になります。多くの電子回路は正の電源電圧を必要とするため、バックブーストコンバータを正の電圧源として利用したい場合は、後段にインバータ回路を追加したり、あるいは入力電圧を負にして使用するといった工夫が必要になります。負電源が必要なアプリケーションには適しています。
  • スイッチ・ダイオードへの高電圧ストレス: スイッチとダイオードには $V_{in} + |V_{out}|$ という高いピーク電圧がかかります。例えば、入力5Vから-12Vを生成する場合、これらの部品には約 17V の電圧ストレスがかかります。入力12Vから-24Vを生成する場合は約 36V、入力24Vから-48Vを生成する場合は約 72Vといった具合に、入出力電圧の合計に応じて耐圧の高い部品が必要になります。これは、高耐圧部品は一般に高価であったり、スイッチング特性が悪化したりするため、回路全体のコストや性能に影響を与えます。
  • 入出力電流の大きなリップル: 入力電流はスイッチングによって断続的になり、大きなリップルを含みます。入力側にフィルタを追加する必要があることが多いです。また、インダクタに流れる電流はスイッチオフ時に出力コンデンサと負荷に供給されますが、スイッチオン時には供給が止まるため、出力電流もスイッチングによって大きなリップルを含みます。特に、出力コンデンサに流れる電流はパルス状で非常に大きくなります。
  • 効率が他のタイプより低い場合がある: 高い電圧ストレスや大きなリップル電流は、部品での損失増加につながります。スイッチのオン抵抗やスイッチング損失、ダイオードの順方向降下損、インダクタやコンデンサの抵抗成分による損失などが、他の基本的なコンバータ(バックやブースト)と比較して、特に広範囲の入出力電圧で動作させる場合に顕著になることがあります。
  • 制御の複雑性: 非連続モード(DCM)や臨界モード(Boundary Mode)での動作も可能ですが、これらのモードでは入出力電圧の関係式がDuty比だけでなく負荷電流にも依存するため、CCMよりも制御が複雑になります。Duty比が小さい(降圧比が大きい)場合や、負荷電流が小さい場合にDCMに移行しやすいため、広い動作範囲で安定した制御を行うには注意が必要です。
  • 入力と出力に共通のグランドがない(非絶縁型の場合): これは「非絶縁型」バックブーストコンバータ固有のデメリットです。入力電源のグランドと出力負荷のグランドを共通にしたい場合、バックブーストコンバータをそのまま使用することはできません。この場合、SEPICやZETAコンバータ、あるいは絶縁型コンバータ(フライバックなど)を選択する必要があります。

これらのメリットとデメリットを比較検討し、アプリケーションの要求仕様(入出力電圧範囲、極性、効率、コスト、絶縁要否など)に基づいて、バックブーストコンバータが最適かどうかを判断する必要があります。

5. 詳細な回路解析(連続モード:CCM)

ここでは、連続モード(CCM)における各部品の電圧・電流波形をより詳細に見ていきましょう。理想部品を仮定し、スイッチング周期 $T$、Duty比 $D$、スイッチング周波数 $f_s = 1/T$ とします。インダクタ電流の最小値を $I_{L,min}$、最大値を $I_{L,max}$ とします。

5.1 インダクタ電流 ($I_L$) 波形

  • スイッチオン時 ($0 < t \le DT$): インダクタには入力電圧 $V_{in}$ が印加されます。インダクタ電流は $V_{in}/L$ の傾きで線形に増加します。
    $I_L(t) = I_{L,min} + \frac{V_{in}}{L} t$
    インダクタ電流の変化量(リップル電流のピークトゥピーク値)$\Delta I_L$ は、この期間の電流増加分です。
    $\Delta I_L = \frac{V_{in}}{L} (DT) = \frac{V_{in} D T}{L}$
  • スイッチオフ時 ($DT < t \le T$): インダクタには出力電圧 $V_{out}$ が印加されます($V_{out}$ は負の値)。インダクタ電流は $V_{out}/L$ の傾きで線形に減少します。
    $I_L(t) = I_{L,max} + \frac{V_{out}}{L} (t – DT)$
    インダクタ電流の変化量 $\Delta I_L$ は、この期間の電流減少分の絶対値です。
    $\Delta I_L = |\frac{V_{out}}{L} (1-D)T| = \frac{|V_{out}| (1-D) T}{L}$
    定常状態では、スイッチオン時の電流増加量とオフ時の電流減少量が等しくなります。
    $\frac{V_{in} D T}{L} = \frac{|V_{out}| (1-D) T}{L}$
    $V_{in} D = |V_{out}| (1-D)$
    $|V_{out}| = V_{in} \frac{D}{1-D}$
    これは先に導出した入出力電圧の関係式(絶対値)と一致します。
    リップル電流 $\Delta I_L$ は、どちらの式を使っても計算できます。通常は入力電圧とDuty比が設計パラメータとして分かりやすいので、$\Delta I_L = \frac{V_{in} D}{L f_s}$ の形で使われます。

インダクタ電流は、最小値 $I_{L,min}$ から最大値 $I_{L,max}$ の間で三角波状に変化します。平均インダクタ電流 $\bar{I}L$ は $(I{L,min} + I_{L,max})/2$ となります。CCMでは $I_{L,min} \ge 0$ です。

5.2 スイッチ電流 ($I_S$) 波形

  • スイッチオン時: スイッチにはインダクタ電流 $I_L$ と同じ電流が流れます。波形はインダクタ電流の増加部分と同じです。電流のピーク値は $I_{L,max}$ です。
  • スイッチオフ時: スイッチは電流を遮断するため、スイッチ電流はゼロになります。

スイッチ電流は、オン期間は三角波の一部、オフ期間はゼロとなる断続的な波形です。この電流のRMS値(実効値)は、スイッチの導通損失($I_{S,RMS}^2 \cdot R_{DS(on)}$)を計算する上で重要です。

5.3 ダイオード電流 ($I_D$) 波形

  • スイッチオン時: ダイオードは逆バイアスされているため、電流はゼロになります。
  • スイッチオフ時: ダイオードにはインダクタ電流 $I_L$ と同じ電流が流れます。波形はインダクタ電流の減少部分と同じです。電流のピーク値は $I_{L,max}$ です。

ダイオード電流は、オン期間はゼロ、オフ期間は三角波の一部となる断続的な波形です。この電流の平均値は出力電流 $\bar{I}_{out}$ に等しくなります。ダイオードの平均電流とRMS値は、ダイオードの損失計算(順方向降下損と導通損)に重要です。

5.4 スイッチ電圧 ($V_S$) 波形

  • スイッチオン時: 理想スイッチでは電圧降下はゼロなので、スイッチ電圧はゼロです。
  • スイッチオフ時: スイッチはオフ状態となり、その両端には電圧がかかります。インダクタの左端はダイオードがオンになっているため出力電圧 $V_{out}$ に等しくなります。インダクタの右端はグランドです。スイッチのドレイン(またはコレクタ)は入力電圧 $V_{in}$ に接続されています。したがって、スイッチのドレイン-ソース間電圧は $V_{in} – V_{out}$ となります。$V_{out}$ は負の値なので、$V_{in} – V_{out} = V_{in} – (|V_{out}|) = V_{in} + |V_{out}|$ という高い電圧がかかります。

スイッチにはオン時に低い電圧(理想的にはゼロ)、オフ時に $V_{in} + |V_{out}|$ という高い電圧がかかります。スイッチ素子(MOSFETなど)は、このピーク電圧に耐えるだけの耐圧を持つ必要があります。

5.5 ダイオード電圧 ($V_D$) 波形

  • スイッチオン時: ダイオードは逆バイアスされます。アノード電圧はインダクタの左端電圧(スイッチのソース側電圧)であり、これはスイッチオン時は $V_{in}$ です。カソード電圧は出力電圧 $V_{out}$ です。したがって、ダイオードにかかる逆電圧は $V_{out} – V_{in}$ となります。$V_{out}$ は負の値なので、$V_{out} – V_{in} = -|V_{out}| – V_{in} = -(V_{in} + |V_{out}|)$ という、スイッチにかかる電圧と同じ大きさの逆電圧がかかります。
  • スイッチオフ時: 理想ダイオードでは順方向電圧降下はゼロなので、ダイオード電圧はゼロです。

ダイオードにはオン時に低い電圧(理想的にはゼロ)、オフ時に $V_{in} + |V_{out}|$ という高い逆電圧がかかります。ダイオード素子は、このピーク逆電圧に耐えるだけの耐圧を持つ必要があります。

5.6 出力コンデンサ電流 ($I_{Cout}$) 波形

出力コンデンサには、スイッチオフ時にダイオードから流れてくるインダクタ電流の一部(ダイオード電流 $I_D$ から負荷電流 $I_{load}$ を引いたもの)が流れ込み、スイッチオン時には負荷電流 $I_{load}$ が流れ出します(ダイオード電流はゼロだから)。
$I_{Cout}(t) = I_D(t) – I_{load}$
* スイッチオン時: $I_D = 0$ なので、$I_{Cout}(t) = – I_{load}$ となります。コンデンサは放電します。
* スイッチオフ時: $I_D = I_L$ なので、$I_{Cout}(t) = I_L(t) – I_{load}$ となります。コンデンサは充電されます。

出力コンデンサ電流は、大きなピークを含むリップル電流となります。このリップル電流のRMS値は、出力コンデンサの発熱や寿命に大きく影響するため、低ESRのコンデンサを選定し、許容リップル電流定格を確認することが重要です。

5.7 出力電圧 ($V_{out}$) 波形

出力コンデンサによって平滑化された電圧です。理想的には一定のDC電圧ですが、実際には出力コンデンサのESRと容量、そして出力コンデンサ電流のリップルによって、わずかなリップル電圧が生じます。出力電圧のリップルは、主に以下の2つの要因で決まります。
1. コンデンサ容量による充放電: 出力コンデンサ電流の積分(電荷の変化)による電圧変動。
2. コンデンサESRによる電圧降下: 出力コンデンサ電流がESRを流れることによる瞬時電圧降下。

出力電圧リップル $\Delta V_{out}$ は、 Duty比、スイッチング周波数、出力コンデンサ容量 $C_{out}$、出力コンデンサESR $R_{ESR}$、そしてインダクタ電流リップル $\Delta I_L$ や出力電流 $\bar{I}_{out}$ に関連して計算されます。
ESR成分によるリップルは主に三角波電流のピーク値で決まり、容量成分によるリップルは三角波電流の積分(コンデンサに蓄えられる電荷)で決まります。一般的に、高周波で動作する場合や低容量コンデンサを使用する場合はESR成分、低周波で大容量コンデンサを使用する場合は容量成分が支配的になります。バックブーストコンバータでは、出力コンデンサに流れる電流のピーク値が大きいため、ESRによるリップルが無視できないことが多いです。

6. 回路設計の考慮事項

バックブーストコンバータを実際に設計・構築する際には、様々な要素を考慮する必要があります。

6.1 部品選定

  • スイッチング素子 (S): 主にパワーMOSFETが使用されます。
    • 耐圧 (V_DSS): スイッチオフ時にかかるピーク電圧 ($V_{in} + |V_{out}|$) 以上の耐圧が必要です。安全率を持たせて選定します。
    • 最大ドレイン電流 (I_D): インダクタ電流のピーク値 ($I_{L,max}$) およびRMS値に耐える必要があります。Duty比が大きい(昇圧比が大きい)ほど、平均インダクタ電流が大きくなるため、スイッチの電流ストレスも増加します。
    • オン抵抗 (R_DS(on)): オン時の導通損失を低減するために、小さいオン抵抗のMOSFETを選びます。損失は $I_{S,RMS}^2 \cdot R_{DS(on)}$ で計算されます。
    • スイッチング特性: ゲート電荷量 ($Q_g$) が小さいほど、スイッチング損失を低減できます。高速スイッチングが可能なものを選びます。
    • パッケージ: 放熱能力を考慮したパッケージを選びます。
  • ダイオード (D): 主にショットキーバリアダイオード (SBD) が使用されます。
    • 耐圧 (V_RRM): スイッチオン時にかかるピーク逆電圧 ($V_{in} + |V_{out}|$) 以上の耐圧が必要です。安全率を持たせて選定します。
    • 最大順方向電流 (I_F): スイッチオフ時に流れるインダクタ電流のピーク値 ($I_{L,max}$) および平均値(出力電流 $\bar{I}_{out}$)に耐える必要があります。
    • 順方向電圧降下 (V_F): オン時の導通損失を低減するために、小さい順方向電圧降下のダイオードを選びます。損失は $\bar{I}D \cdot V_F + I{D,RMS}^2 \cdot R_D$(ダイオード抵抗)で計算されます。ショットキーダイオードはV_Fが低いですが、高耐圧のものは少ない傾向があります。
    • 逆回復時間 (t_rr): スイッチング損失を低減するために、逆回復時間の短いものを選びます。特にSBDは逆回復が非常に速いため、高効率化に適しています。
    • パッケージ: 放熱能力を考慮したパッケージを選びます。
  • インダクタ (L):
    • インダクタンス値: 必要なインダクタンス値は、許容できるインダクタ電流リップル $\Delta I_L$ や、動作モード(CCMかDCMか)によって決定されます。一般的に、インダクタンス値が大きいほどリップル電流は小さくなりますが、部品サイズが大きくなり、応答性が悪化する傾向があります。臨界インダクタンス $L_{crit}$ より大きくすることでCCM動作を保証できます。$L_{crit} = \frac{(1-D)^2 R_{load}}{2 f_s}$(DCM/CCM境界はインダクタ電流の最小値がゼロになる点、$I_{L,min}=0$ に対応する負荷電流から計算)。
    • 飽和電流: インダクタに流れるピーク電流 ($I_{L,max}$) において、コアが飽和しないように十分な定格を持つインダクタを選びます。飽和するとインダクタンス値が急激に低下し、リップル電流が増加したり、回路が不安定になったりします。
    • 直流抵抗 (DCR): インダクタの銅線抵抗成分です。導通損失 ($I_{L,RMS}^2 \cdot DCR$) を低減するために、DCRが小さいものを選びます。
    • コア損失: スイッチング周波数における磁化-減磁サイクルでコアに生じる損失です。適切なコア材を選びます。
    • サイズと形状: 実装スペースや放熱を考慮します。
  • 出力コンデンサ (Cout): 主にアルミ電解コンデンサ、セラミックコンデンサ、フィルムコンデンサなどが使われます。
    • 容量: 出力電圧リップルを許容値以下に抑えるために必要な容量を選びます。容量が大きいほどリップルは小さくなりますが、サイズとコストが増加し、応答性が悪化する可能性があります。
    • 耐圧: 出力電圧 $|V_{out}|$ 以上の耐圧が必要です。安全率を持たせて選定します。
    • ESR (等価直列抵抗): 出力電圧リップルの主要因の一つであり、コンデンサの発熱源となります。可能な限りESRが小さいコンデンサを選びます。低ESRの電解コンデンサや、ESRが非常に低いセラミックコンデンサを複数並列に使用することが多いです。
    • 許容リップル電流定格: 出力コンデンサに流れるリップル電流のRMS値に耐える必要があります。このリップル電流は大きいため、定格の高いコンデンサが必要です。
    • パッケージ: 実装スペースや放熱を考慮します。寿命にも影響します。

6.2 スイッチング周波数の選択

スイッチング周波数 $f_s$ は重要な設計パラメータです。

  • 周波数を高くするメリット:
    • インダクタやコンデンサといった受動部品のサイズを小さくできます。
    • 過渡応答性を改善できます。
  • 周波数を高くするデメリット:
    • スイッチング損失(スイッチやダイオードのオン/オフ時に発生する損失)が増加します。
    • コア損失が増加します。
    • ノイズ対策が難しくなります。

一般的に、携帯機器などの小型化が重要なアプリケーションでは数MHzの高い周波数が使われますが、高効率が求められる大電力アプリケーションでは数十kHzから数百kHzといった低い周波数が使われます。バックブーストコンバータの場合、スイッチとダイオードにかかる電圧が高いため、スイッチング損失が大きくなりやすい傾向があり、周波数を高くすることによる効率低下が顕著になることがあります。

6.3 損失の低減策

  • 低オン抵抗のMOSFET、低順方向電圧・高速なダイオード、低DCR・低コア損失のインダクタ、低ESR・大容量のコンデンサを選定する。
  • スイッチング周波数を適切に選ぶ(効率とサイズ・応答性のトレードオフ)。
  • 最適なDuty比となるように、回路パラメータや動作点を調整する。
  • 部品レイアウトを最適化し、配線による寄生抵抗や寄生インダクタンスを最小限にする。
  • ソフトスイッチング技術( резоonant converter など)の応用も考えられますが、基本バックブースト回路はハードスイッチングが基本です。

6.4 安定化制御

出力電圧を一定に保つためには、フィードバック制御が必要です。一般的にPWM制御が用いられます。出力電圧を検出し、目標電圧との差(誤差)を増幅し、この誤差信号に基づいてDuty比を調整します。

  • 電圧モード制御: 出力電圧の誤差信号からDuty比を生成します。シンプルですが、インダクタ電流や入力電圧の変動に対する応答性が遅くなることがあります。
  • 電流モード制御: インダクタ電流を検出し、それを制御ループに組み込みます。インダクタ電流が制御されるため、入力電圧変動に対する応答性が向上し、補償ネットワークの設計が容易になるなどの利点があります。

制御ループの設計は、コンバータの安定性や応答性に大きく影響するため、慎重に行う必要があります。バックブーストコンバータは、右半平面ゼロ点(RHP Zero)と呼ばれる不安定化要因を持つため、制御設計がバックやブーストコンバータよりも若干複雑になることがあります。

7. バックブーストコンバータの種類と派生、他のコンバータとの比較

バックブーストコンバータは、非絶縁型の「反転型」が基本ですが、これを基にした派生や、同じ昇降圧機能を持つ他のコンバータとの比較も重要です。

7.1 反転型(標準型)バックブーストコンバータ

本記事で解説してきた、入力と出力の極性が逆になるタイプです。最もシンプルで基本的な構成です。

7.2 非反転型バックブーストコンバータ(SEPIC, ZETA)との比較

バックブーストコンバータの最大の欠点である出力極性反転を解消し、入力と同じ極性の昇降圧出力を得るために開発されたのが、SEPICコンバータとZETAコンバータです。

  • SEPICコンバータ: 基本構成は、スイッチ、ダイオード、インダクタ2つ、コンデンサ2つです。中間コンデンサが入力と出力を直流的に絶縁するため、入力と出力のグランドを共通にできます。インダクタが2つ必要ですが、1つのインダクタに2つの巻線を持つ結合インダクタ( Coupled Inductor)を使用することも可能です。スイッチ・ダイオードにかかる電圧ストレスは $V_{in} + V_{out}$ ($V_{out}$は正の値)となり、反転型バックブーストと同じレベルです。
  • ZETAコンバータ: SEPICコンバータと双対的な回路構成を持ち、同様に非反転出力で入力と出力のグランドを共通にできます。部品点数や電圧ストレスもSEPICと同程度です。

反転型バックブースト vs. SEPIC/ZETA:

特徴 反転型バックブースト SEPIC/ZETA
昇降圧機能 可能 可能
出力極性 反転(入力と逆) 非反転(入力と同じ)
グランド 共通ではない 共通にできる
部品点数 インダクタ1、コンデンサ1 インダクタ2、コンデンサ2
スイッチ/ダイオード耐圧 $V_{in} + V_{out}
入力電流 リップル大(断続的) リップル小(連続的)
出力電流 リップル大(断続的) リップル小(連続的))
複雑性 シンプル やや複雑

SEPICやZETAは、非反転出力や共通グランドが必要な場合に有効ですが、部品点数が増え、制御もやや複雑になる傾向があります。一方、反転型バックブーストはシンプルさが最大の利点であり、負電源が必要な場合やグランドが共通でなくても問題ない場合に適しています。

7.3 絶縁型バックブーストコンバータ(フライバックコンバータ)との関係

トランス(変圧器)を使用して入力と出力を電気的に絶縁するコンバータに「フライバックコンバータ」があります。フライバックコンバータの基本原理は、反転型バックブーストコンバータのインダクタをトランスに置き換えたものと考えることができます。

フライバックコンバータでは、スイッチオン時に一次巻線に電流を流してエネルギーを蓄積し、スイッチオフ時に二次巻線から出力へエネルギーを放出します。トランスの巻数比を変えることで、入出力電圧比を調整できるほか、複数の二次巻線を持つことで多出力化も可能です。絶縁機能を持つため、安全性やノイズ対策が重要なアプリケーションで広く利用されます。出力電圧の極性は、二次巻線の接続方法によって反転させることも非反転にすることも可能です。

しかし、フライバックコンバータはトランスが必要になるため、部品が大型化・高コスト化し、トランスからの漏れインダクタンスによる損失が発生するというデメリットもあります。

バックブーストコンバータは非絶縁ですが、その基本的なエネルギー伝達メカニズム(スイッチオン時にエネルギー蓄積、スイッチオフ時に放出)は、フライバックコンバータと共通しています。このことから、バックブーストコンバータは「非絶縁型フライバックコンバータ」と呼ばれることもあります。

8. 応用例

バックブーストコンバータは、その昇降圧機能とシンプルさから様々なアプリケーションで使用されています。

  • バッテリー駆動機器: バッテリー電圧は残量によって変動します。例えば、リチウムイオンバッテリーは満充電で4.2V、空で3.0V程度になります。機器が3.3Vや5Vといった安定した電圧を必要とする場合、入力電圧(バッテリー電圧)が3.0Vから4.2Vの間で変動するため、昇圧も降圧も可能なコンバータが必要になります。バックブーストコンバータは、このような場合に有効です。ただし、出力が負になる点には注意が必要です。負電源が必要なオーディオ回路や計測機器などにそのまま利用できます。正電源が必要な場合は、SEPICやZETAが候補になることが多いです。
  • 自動車用電源: 自動車の電源電圧(12V系)は、エンジンの状態や負荷によって変動します。また、様々な電子機器が異なる電圧(5V、3.3V、24Vなど)を必要とします。バックブーストコンバータは、このような環境で安定した電圧を供給するのに役立ちます。
  • ソーラー発電システム: ソーラーパネルの出力電圧は、日照条件や温度によって大きく変動します。システム効率を最大化するためには、MPPT (Maximum Power Point Tracking) 制御と組み合わせて、パネルの最大電力点電圧を追従する必要があります。バックブーストコンバータは、パネル電圧が高くても低くても、必要な出力電圧を生成できるため、MPPTレギュレータとして使用されることがあります。
  • 汎用電源: 入力電圧範囲が広いACアダプタや、様々なバッテリー電圧に対応する充電器などの電源回路の一部として使用されます。負の出力電圧が必要な場合や、シンプルさが求められる場合に採用されます。

9. トラブルシューティングと注意点

設計や運用において発生しやすいトラブルや注意点です。

  • ノイズ: スイッチング動作により高周波ノイズが発生します。特に、スイッチオン/オフ時の急激な電流・電圧変化は大きなノイズ源となります。適切な部品レイアウト(ループ面積の最小化)、グラウンド配線、フィルタリング(入出力コンデンサ、EMIフィルタなど)による対策が必要です。
  • 熱設計: 部品での損失は熱として放出されます。特にスイッチ、ダイオード、インダクタは発熱しやすい部品です。データシートで最大許容損失や温度を確認し、必要に応じてヒートシンクや放熱基板などの熱対策を行う必要があります。
  • 部品定数のずれ: 部品の実際の値が設計値からずれていると、出力電圧リップルが増加したり、効率が低下したり、最悪の場合は回路が正常に動作しなくなることがあります。部品の許容差を考慮した設計が必要です。
  • 不安定性: フィードバック制御ループが適切に設計されていないと、出力電圧が振動したり、発振したりすることがあります。制御ICのデータシートを参照し、適切な補償回路を設計する必要があります。前述のRHP Zeroに起因する不安定化に注意が必要です。
  • 起動時のオーバーシュート/アンダーシュート: 電源投入時や負荷変動時に、出力電圧が目標値を超えたり下回ったりすることがあります。ソフトスタート機能や、制御ループの応答性調整で対策します。
  • 短絡保護/過電流保護: 負荷短絡や過負荷が発生した場合に、コンバータや接続機器を保護する機能が必要です。電流制限回路やシャットダウン機能を組み込みます。
  • オープンループ動作: 制御ループがない、あるいは機能していない場合、出力電圧が規定値から大きく外れる危険があります。特にDuty比が固定されている場合、入力電圧や負荷が変動すると出力電圧も変動します。

10. まとめ:バックブーストコンバータの役割と今後の展望

バックブーストコンバータは、入力電圧に対して昇圧・降圧のどちらも可能な非絶縁型スイッチングコンバータです。その最大の利点は、シンプルな回路構成で昇降圧機能を実現できる点にあります。しかし、出力電圧の極性が反転すること、そしてスイッチとダイオードに高い電圧ストレスがかかることが大きなデメリットとなります。

これらの特徴から、バックブーストコンバータは以下のようなアプリケーションに適しています。

  • 負の出力電圧が必要な場合
  • 入出力電圧のグランドが共通でなくても問題ない場合
  • 回路のシンプルさやコストが最優先される場合
  • 入出力電圧差がそれほど大きくなく、部品の電圧ストレスが問題になりにくい場合

一方、正の出力電圧が必要で入力と出力のグランドを共通にしたい場合はSEPICやZETAコンバータが、入出力間に絶縁が必要な場合はフライバックコンバータがより適しています。

電子機器の多様化と高効率化の要求は今後も続きます。バックブーストコンバータ自体は古典的な回路方式ですが、高耐圧・高速な新しいパワー半導体(SiCやGaNなど)の登場により、さらに高効率・小型化が可能になる可能性があります。また、高度な制御技術や集積化された電源ICと組み合わせることで、そのデメリットを補いながら、特定のニッチなアプリケーションや、既存の回路の省スペース・高効率化に貢献していくと考えられます。

本記事を通じて、バックブーストコンバータの基本的な原理、動作、特徴、そして設計上の考慮点について、深く理解していただけたなら幸いです。様々なDC-DCコンバータの中から最適な方式を選択する上で、バックブーストコンバータに関する知識が皆様のお役に立てることを願っています。

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