【作例あり】デジタルPEN-Fの魅力とは?徹底レビュー
はじめに:PEN-Fという存在
カメラの歴史において、特定の製品が単なる道具を超え、文化や哲学を体現する存在となることがあります。ライカ Mシリーズ、ハッセルブラッド 500C/M、そして日本のカメラ史においては、ハーフサイズカメラという革命的なコンセプトを世に問うたオリンパス PEN F(フィルムカメラ)が挙げられるでしょう。そのフィルムPEN Fの名を受け継ぎ、2016年にデジタルカメラとして登場したのが、今回ご紹介するデジタルPEN-Fです。
発売から数年が経過し、既に生産完了モデルとなったにも関わらず、デジタルPEN-Fは今なお多くの写真愛好家から熱狂的な支持を集めています。その人気の理由は、単に「レトロでおしゃれ」という表面的なものではありません。PEN-Fは、持つこと、触れること、そして「写真を創る」という行為そのものに、独自の哲学と深い喜びをもたらしてくれる唯一無二のデジタルカメラなのです。
この記事では、デジタルPEN-Fがなぜこれほどまでに愛されるのか、その魅力を徹底的に掘り下げていきます。デザイン、機能、性能はもちろんのこと、PEN-Fの核となる「クリエイティブダイヤル」がもたらす写真表現の可能性、そしてこのカメラが持つ「写真を撮る」という行為への意識変革について、詳細にレビューしていきます。作例をイメージしながら読み進めていただければ幸いです。(※本記事はテキストのみのため、直接的な作例は掲載できませんが、描写や設定の詳細を記述することで、作例のイメージを喚起できるよう努めます。)
1. デザインと外観:唯一無二の美学
デジタルPEN-Fを一目見た時、多くの人がそのデザインに心を奪われるはずです。それは単なる「レトロ調」や「クラシックデザイン」という言葉では片付けられない、精巧かつ哲学的な美しさを湛えているからです。
PEN-Fのデザインは、間違いなくそのルーツである1963年発売のフィルムPEN Fに強くインスパイアされています。フィルムPEN Fは、その特徴的なプリズムを持たないハーフサイズ一眼レフという構造から、ペンタプリズム部がなく、非常にフラットで洗練されたボディデザインを持っていました。デジタルPEN-Fは、このフィルムPEN Fの佇まいを現代に蘇らせています。特に目を引くのは、軍艦部から完全に突起が排除されたフラットなデザインです。多くのデジタル一眼カメラに見られるペンタプリズム部やEVFの突起がなく、非常にミニマルで美しいシルエットを形成しています。
ボディ素材にはマグネシウム合金が採用されており、手に取った際のひんやりとした質感とずっしりとした重みが、高い質感と剛性を感じさせます。ネジ穴が見えない徹底したこだわりの設計は、工芸品のような品格すら漂わせています。ダイヤル類も一つ一つが高品質な金属製で、適度なクリック感とスムーズな回転は、操作するたびに心地よい感触をもたらします。特に、前面のクリエイティブダイヤル、軍艦部のモードダイヤル、露出補正ダイヤル、シャッタースピード/コマンドダイヤル、そして背面コマンドダイヤルの配置とデザインは秀逸です。これらの物理ダイヤルが露出していることが、まさにフィルムカメラを操作しているかのような感覚を呼び覚まします。
ボディカラーはシルバーとブラックの2種類がありますが、特にシルバーはフィルムPEN Fの面影を強く感じさせ、クラシックカメラ愛好家にはたまらない魅力を持っています。ブラックも精悍で引き締まった印象を与え、どちらもPEN-Fの洗練されたデザインによく似合います。
PEN-Fは、同じオリンパス/OMDSのPENシリーズの中で見ても、そのデザインは一線を画しています。他のPENシリーズが比較的モダンなデザインを取り入れているのに対し、PEN-Fは徹底してクラシック路線を貫いています。これは、単に見た目の問題だけでなく、「写真を撮る」という行為への向き合い方にも影響を与える、PEN-Fの重要な個性と言えるでしょう。
また、グリップについては、一体型のグリップはなく、非常にコンパクトなボディサイズです。しかし、背面の親指をかける部分の形状や、オプションで用意されている専用のグリップなどを装着することで、ホールド感を向上させることも可能です。このコンパクトさが、PEN-Fを常に持ち歩きたくなるような、愛着の湧く存在にしています。カフェでテーブルに置いてあるだけでも絵になり、バッグから取り出す際に周囲の視線を集めるような、所有する喜びを強く感じさせてくれるカメラです。
各部名称を見ていきましょう。
* 前面: 最大の特徴であるクリエイティブダイヤル、レンズマウント、Fnボタンなど。
* 軍艦部: モードダイヤル、露出補正ダイヤル、シャッタースピード/コマンドダイヤル、電源スイッチ、ホットシュー。フラットな中に機能的に配置されています。
* 背面: EVF、バリアングル液晶モニター、各種操作ボタン(Fn、再生、削除、メニュー、十字キーなど)、背面コマンドダイヤル。
* 側面: SDカードスロット、USB/HDMI端子。
* 底面: バッテリー室、三脚穴。
これらの配置は、多くのミラーレスカメラと共通する部分もありますが、軍艦部のダイヤル配置や、背面コマンドダイヤルが独立して配置されている点など、操作性にもデザイン上のこだわりが見られます。例えば、軍艦部のシャッタースピードダイヤル(またはコマンドダイヤル)と露出補正ダイヤルが独立していることで、ファインダーを覗きながらでも直感的に露出操作ができるようになっています。
総じて、デジタルPEN-Fのデザインは、単なる復刻や模倣に終わらず、フィルムPEN Fが持っていた「シンプルさ」「機能美」「携帯性」といった哲学を現代のデジタル技術で再構築したものです。触れるたびに、使うたびに、その作り込みの丁寧さやデザインの深さに感心させられる。これこそが、PEN-Fが単なる道具ではなく、多くの人々にとって特別な存在である理由の一つです。
2. 機能と性能:見た目だけではない実力
デジタルPEN-Fの魅力は、その美しいデザインだけにとどまりません。マイクロフォーサーズシステムとしての成熟した機能と性能もしっかりと備えています。発売当時のオリンパスのフラッグシップ機にも搭載されていた技術が多く投入されており、見た目のクラシックさとは裏腹に、現代のデジタルカメラとしての十分な実力を持っています。
イメージセンサーと画質
PEN-Fは、2000万画素のLive MOSセンサーを搭載しています。これは当時のマイクロフォーサーズとしては高画素な部類に入り、PENシリーズとしては初の20Mセンサーでした。解像度が高まったことで、よりディテール豊かな描写が可能になっています。マイクロフォーサーズセンサーとしては比較的ノイズ耐性も向上しており、常用感度域であれば十分実用的な画質を得られます。特に、ベース感度であるISO LOW(80相当)やISO 200での描写は非常にシャープでクリアです。JPEG撮って出しでも美しい発色と自然なトーンが得られますが、RAWで撮影し、現像で追い込むことでセンサーの持つポテンシャルを最大限に引き出すことも可能です。
画像処理エンジン
画像処理エンジンには、当時のオリンパスのフラッグシップモデル「OM-D E-M1 Mark II」にも採用されていた「TruePic VIII」の世代に近い、「TruePic VII」を搭載しています(正確には、PEN-FはE-M5 Mark II世代のTruePic VIIに、E-M1 Mark IIで採用された新機能の一部を追加したカスタム版と言えます)。このエンジンにより、高速な画像処理はもちろん、自然な色再現、高感度時のノイズリダクション、そして後述するクリエイティブダイヤルの各種処理などがスムーズに行われます。オリンパスの色作りは定評があり、特に青空や緑、肌の色などが美しく描写される傾向があります。
手ぶれ補正機能
オリンパス/OMDSのカメラの最大の強みの一つである、強力なボディ内5軸手ぶれ補正を搭載しています。PEN-Fの5軸手ぶれ補正は、当時としては最高クラスの5.0段という補正効果を公称していました(レンズによって補正効果は変動します)。これにより、薄暗い場所での手持ち撮影や、望遠レンズ使用時でも、より低速なシャッタースピードで手ブレを抑えた撮影が可能になります。特に、マイクロフォーサーズシステムは軽量コンパクトなレンズが多いですが、この強力な手ぶれ補正のおかげで、システム全体の携帯性を損なうことなく、様々なシーンで安定した撮影ができるのは大きなメリットです。静止画だけでなく、動画撮影時にも高い効果を発揮します。
ファインダー(EVF)
デジタルカメラとしての操作性を確保するため、PEN-Fは左肩にEVF(電子ビューファインダー)を搭載しています。100%の視野率と約236万ドットの高精細なEVFは、比較的明るく見やすく、露出やホワイトバランス、そしてクリエイティブダイヤルで設定した描写効果をリアルタイムに確認しながら撮影できます。特に、モノクロプロファイルなどの効果はファインダー越しに確認できるため、仕上がりをイメージしながら撮影に集中できます。アイセンサーも搭載しており、顔を近づけると自動でEVF表示に切り替わります。
背面液晶(バリアングルモニター)
背面には、3.0型、約104万ドットのバリアングル液晶モニターを搭載しています。タッチ操作にも対応しており、ピント合わせやメニュー操作などを直感的に行えます。バリアングル式であるため、ハイアングルやローアングルでの撮影はもちろん、自撮りや動画撮影時にも便利です。また、液晶を裏返して本体側に収納することで、意図的に背面液晶を見ずにファインダー撮影に集中したり、不用意な誤操作を防いだりすることも可能です。このあたりも、クラシックなスタイルと現代的な利便性を両立させようとするPEN-Fの姿勢がうかがえます。
AF性能
AF方式はコントラスト検出方式を採用しています。測距点は81点。発売当時としては標準的な性能でしたが、最新の像面位相差AFと比べると、特に動体追従性能においては見劣りする部分があります。しかし、静止している被写体や、比較的ゆっくりとした動きの被写体であれば、十分高速かつ正確にピントを合わせることが可能です。顔検出AFや瞳検出AFも搭載しており、ポートレート撮影などでは威力を発揮します。PEN-Fのコンセプトがじっくりと構図を練り、一枚を大切に撮るスタイルに合っていることを考えると、このAF性能は許容範囲と言えるでしょう。
連写性能
メカシャッター使用時で最大約10コマ/秒、電子シャッター使用時で最大約20コマ/秒の高速連写が可能です。追従AF時でもメカシャッターで約5コマ/秒、電子シャッターで約10コマ/秒の連写が可能です。スポーツ撮影などには不向きな面もありますが、決定的瞬間を捉えたいスナップ撮影などでは十分な性能と言えます。
高感度性能とノイズ
常用ISO感度はISO 200~25600、拡張でISO LOW(80相当)に対応しています。20Mセンサーとしては健闘していますが、マイクロフォーサーズセンサーの宿命として、フルサイズやAPS-Cセンサーと比較すると高感度時のノイズは目立ちやすい傾向にあります。ISO 3200程度までは十分実用的な画質ですが、それ以上になるとノイズリダクションを適用してもノイズが目立つようになります。この点は、暗所での撮影が多いユーザーにとっては検討が必要です。しかし、強力な手ぶれ補正のおかげで、無理に高感度にする必要がないシーンも多いでしょう。
その他の主要機能
* ハイレゾショット: センサーシフトを利用して複数枚の画像を合成し、より高解像度の画像を生成する機能です。三脚固定が必須ですが、理論上5000万画素相当(JPEG)または8000万画素相当(RAW)の画像を生成できます。風景や静物など、緻密な描写を求められるシーンで威力を発揮します。ディテール再現能力が飛躍的に向上し、大型プリントにも耐えうる高精細な画像を得られます。
* Wi-Fi機能: スマートフォンやタブレットと連携し、画像の転送やリモート撮影が可能です。OLYMPUS Image Share (OI.Share) アプリを使用します。
* アートフィルター: オリンパス独自のユニークなフィルター機能です。ドラマチックトーン、ジオラマ、ポップアートなど、様々な効果を撮影時に適用できます。PEN-Fのクリエイティブダイヤルにも一部統合されています。
* 多重露出: 複数回の露光を重ね合わせて幻想的な写真を作成できます。
* タイムラプス動画: インターバル撮影した静止画をつなぎ合わせて動画を作成できます。
* ライブコンポジット/ライブタイム: 星景写真や花火など、明るさが変化する被写体でも適正露出で合成できる機能です。
PEN-Fは、そのクラシックな見た目から想像される以上に、多くの最新技術と便利な機能を搭載しています。特に手ぶれ補正とハイレゾショットは、PEN-Fの描写性能を大きく引き上げる重要な機能です。これらの機能が、PEN-Fを単なる「おしゃれカメラ」ではなく、本格的な撮影にも耐えうる「実力機」たらしめているのです。
3. PEN-F最大の魅力:クリエイティブダイヤルとその哲学
デジタルPEN-Fを他のデジタルカメラと決定的に差別化しているのは、その前面に鎮座するクリエイティブダイヤルです。この物理ダイヤルこそが、PEN-Fの最大の魅力であり、このカメラの持つ哲学を最も象徴していると言えるでしょう。
多くのデジタルカメラでは、撮影後の編集(ポストプロダクション)で写真の表現を調整することが一般的です。しかし、PEN-Fのクリエイティブダイヤルは、撮影前に、カメラ内で写真の「絵作り」を決定するという思想に基づいています。これは、まるでフィルムの種類を選んだり、現像方法を決めたりするかのような、アナログ時代の写真制作プロセスを彷彿とさせます。
クリエイティブダイヤルには以下のモードがあります。
* MONO (モノクロプロファイルコントロール): モノクロ写真の表現を細かく調整します。
* COLOR (カラープロファイルコントロール): カラー写真の表現を細かく調整します。
* ART (アートフィルター): オリンパス独自のユニークなアートフィルターを適用します。
* CC (カラークリエーター): 直感的に色相と彩度を調整します。
* CTRL (コントロール): 各プロファイルのパラメータ設定などを呼び出します。
* OFF: 標準設定に戻します。
この中で特に注目すべきは、「MONO」と「COLOR」のプロファイルコントロールです。これらのモードを選択すると、背面液晶やEVFに表示されるメニューから、さらに詳細な設定を行うことができます。
モノクロプロファイル (MONO)
PEN-Fのモノクロプロファイルは、単にカラー情報を失くすだけでなく、奥深いモノクロームの世界を追求できます。
* プロファイル選択: いくつかのプリセットされたモノクロプロファイル(例えば、一般的なモノクロ、クラシックモノクロなど)から選択できます。
* 調性調整: シャドウ部、中間調、ハイライト部の階調をそれぞれ独立して調整できます。これにより、コントラストの高い引き締まったモノクロや、柔らかく中間調豊かなモノクロなど、様々な表現が可能です。
* 粒状感 (フィルムグレイン): フィルム写真特有の粒状感を付加できます。強弱の調整も可能です。特に高感度撮影時にノイズを粒状感として活かすことで、写真に深みや質感が生まれます。
* フィルター効果: カラーフィルターをモノクロ写真に適用した際の効果(例:赤フィルターで青空が暗くなる)をシミュレーションできます。Yellow (Ye), Orange (Or), Red (R), Green (G) の4種類のフィルター効果を選択でき、それぞれ濃度の調整も可能です。風景やポートレートなど、被写体に合わせて最適なフィルター効果を選択することで、モノクロ写真の表現力が大きく広がります。
* シャープネス: 画像全体のシャープネスを調整できます。
これらの設定を組み合わせることで、例えば「コントラストを高くして赤フィルターを効かせた、粒状感のある硬質なモノクロ」や、「シャドウを持ち上げて中間調を豊かにした、柔らかい雰囲気のモノクロ」など、無限に近いモノクロ表現を作り出すことができます。これらの設定は、撮影前にダイヤルを回し、ライブビューを見ながら調整できるため、「このシーンなら、このモノクロ表現が合うだろう」と考えながら撮影を進めることができます。これは、まさにフィルムを選び、現像方法を考えるプロセスに通じるものです。
カラープロファイル (COLOR)
カラープロファイルでは、カラー写真の表現を細かく調整できます。
* プロファイル選択: いくつかのプリセットされたカラープロファイル(例えば、ポートレート向け、風景向けなど)から選択できます。
* 彩度調整: レッド、オレンジ、イエロー、グリーン、シアン、ブルー、マゼンタ、パープル、ブラウン、ピンク、ビビッドマゼンタの12色の彩度をそれぞれ独立して調整できます。特定の色の彩度だけを強調したり、抑えたりすることで、写真に独自の色彩表現を与えられます。
* 調性調整: モノクロプロファイルと同様に、シャドウ部、中間調、ハイライト部の階調を調整できます。
* 周辺減光: 周辺減光効果を付加できます。オールドレンズのような描写をシミュレーションする際に効果的です。
* フチの強調: 輪郭を強調する効果です。
12色の彩度を独立して調整できる機能は特に強力です。例えば、紅葉の赤だけを強調したり、晴れた日の青空の青だけを深くしたり、肌の色をより自然に見せたりといったことが可能です。この細やかな色調整機能は、一般的なカメラの「ピクチャーコントロール」や「フィルムシミュレーション」とは一線を画す、PEN-F独自の機能と言えます。
カラークリエーター (CC)
カラークリエーターは、より直感的に色を調整したい場合に便利な機能です。液晶画面に表示されるカラーリングをタッチまたはカーソルで操作し、色相と彩度を同時に調整できます。例えば、全体的に暖色系にシフトさせたい、または寒色系にシフトさせたいといった場合に素早く調整できます。
なぜ物理ダイヤルなのか?
これらの強力な色作り・階調調整機能を、なぜ前面の物理ダイヤルに割り当てたのでしょうか。それは、単なる操作性の問題だけではなく、「写真を撮る前に、どのような表現に仕上げたいかを考える」という、PEN-Fの思想を具現化するためだと考えられます。
一般的なデジタルカメラでは、撮影モードを選び、露出を決定し、シャッターを切った後で、必要であればピクチャーコントロールやホワイトバランス、またはPC上でのRAW現像で色やトーンを調整します。しかし、PEN-Fは、撮影モードや露出設定と並列に、クリエイティブダイヤルで「モノクロで撮るか、カラーで撮るか」「どのようなトーンに仕上げるか」「どのような色味にするか」という表現の方向性を選択させます。
これにより、撮影者はシャッターを切る前に、より深く写真表現について思考するよう促されます。「この光なら、ハイコントラストなモノクロで陰影を強調しよう」「この場の雰囲気は、特定の色を抑えた柔らかいカラーで表現したい」といったように、被写体や状況と向き合いながら、一枚一枚の写真にどのような生命を吹き込むかを考える。このプロセスこそが、PEN-Fがもたらす「写真を創る喜び」の核心です。
クリエイティブダイヤルを回すという物理的な行為そのものが、撮影者のモードを切り替え、創造性を刺激します。それは、まるで画家が絵の具を選ぶように、写真家が写真のトーンや色彩を選ぶ儀式のようです。そして、その結果がEVFや背面液晶にリアルタイムで表示されることで、試行錯誤しながら理想の表現に近づけていくことができます。
もちろん、PEN-FでもRAWで撮影すれば、撮影後の編集で様々な調整が可能です。しかし、PEN-Fを使う多くのユーザーは、このクリエイティブダイヤルを使って、撮影時にある程度の絵作りを確定させる楽しさに魅せられているはずです。JPEG撮って出しでも十分に完成された写真が得られるように、カメラ側で綿密な絵作りを追い込める。これは、PEN-Fならではの大きなアドバンテージです。
作例をイメージしてみましょう。
例えば、雨上がりの街並みをモノクロで撮るとします。MONOプロファイルを選択し、街灯のハイライトと濡れた路面の反射のコントラストを強調するために調性でハイライトを上げ、陰影を深くするためにシャドウを締めます。さらに、ウェットな空気感を表現するために、やや強めの粒状感を加える。そして、雨に濡れたアスファルトや壁の質感を際立たせるためにシャープネスを調整する。このように、一枚の写真に対して、様々な要素を組み合わせて自分だけのモノクロームを作り上げていく過程は、非常に創造的で、写真に対する愛着を深めてくれます。
また、夕暮れのポートレートをカラーで撮る場合。COLORプロファイルを選択し、夕焼けの色を強調するためにオレンジやレッドの彩度を上げ、モデルの肌の色が不自然にならないように調整する。または、敢えて特定の色(例えば背景にある緑など)の彩度を落として、人物を浮き立たせる。周辺減光を少し加えることで、視線を中央に集める効果を狙う。これらの調整を、撮影前に、光の状況やモデルの雰囲気に合わせてライブビューで確認しながら行うことができるのです。
クリエイティブダイヤルは、単なるフィルター機能やプリセットではありません。それは、写真表現の可能性を広げ、撮影者に「写真を創る」という行為の深い喜びを再認識させるための、PEN-Fの魂とも言える機能なのです。
4. 実写レビュー:作例で見るPEN-Fの世界
(※本項は作例を直接掲載できないため、作例を想定した記述と、各機能による描写の変化に焦点を当てて記述します。)
PEN-Fを持って街へ出ると、まずそのデザインとコンパクトさから、警戒心なく自然に街に溶け込めることに気づきます。主張しすぎないデザインは、スナップ撮影において大きな利点となります。左肩のEVFを覗き込み、右手でダイヤルを操作しながら、じっくりと被写体と向き合うスタイルは、フィルムカメラを使っているかのような感覚に近く、デジタルカメラにありがちな「とりあえず連写」という衝動を抑え、一枚を大切に撮る意識が芽生えます。
クリエイティブダイヤルによる表現の多様性
PEN-Fでの撮影の最大の醍醐味は、やはりクリエイティブダイヤルを駆使した絵作りです。
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ストリートスナップ(モノクロ):
- 例えば、古い路地裏や、光と影が印象的な場所でのスナップ。標準のモノクロプロファイルに加えて、コントラストを高めに設定し、シャドウを締め、ハイライトをやや開く調整を加えます。さらに、建物や壁の質感を強調するために粒状感を少し加える。フィルター効果は、青空が入る構図なら赤フィルターを効かせて空を暗くし、街並みの陰影を際立たせる。
- 作例イメージ: 強い日差しの下、古いビルの壁面に落ちる影が、高いコントラストと深いシャドウでドラマチックに描写され、硬質な粒状感が加わることで、まるでモノクロフィルムで撮られたような重厚感のある一枚となる。
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ポートレート(モノクロ・カラー):
- 逆光でのポートレート。MONOプロファイルで、フレアを活かしつつ、モデルの肌のトーンを柔らかく表現するために、中間調を持ち上げ、粒状感は控えめに設定する。
- 作例イメージ: 逆光の柔らかい光に包まれたモデルが、中間調豊かなモノクロームで優しく浮かび上がり、背景の光も美しいグラデーションとして描写される。
- カラーポートレートの場合、COLORプロファイルで肌の色が自然に見えるように調整しつつ、背景の色(例えば緑や赤)の彩度を微調整して、人物を引き立たせる。
- 作例イメージ: 木漏れ日の中のポートレート。背景の緑の彩度を少し落とすことで、モデルの暖かみのある肌の色が際立ち、全体的に落ち着いた上品な色合いとなる。
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風景(カラー):
- 晴れた日の青空と緑の風景。COLORプロファイルで、青空の青と緑の彩度をそれぞれ少しだけ強調し、活き活きとした色彩にする。調性でコントラストを適度に高めることで、風景の奥行き感を出す。
- 作例イメージ: 雲一つない真っ青な空と、鮮やかな緑の木々が、ペンらしいクリアな発色で描写される。
- 夕暮れの風景。COLORプロファイルで、夕焼けのオレンジやピンクの彩度を強調し、ドラマチックな色合いにする。調性でシャドウ部を持ち上げることで、暗くなりがちな手前の風景のディテールも描き出す。
- 作例イメージ: 空がオレンジからピンクに染まるグラデーションが、強調された色彩でより印象的に描写され、手前の建物のシルエットも浮かび上がる。
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静物・テーブルフォト(カラー):
- カフェでのコーヒーやスイーツ。COLORプロファイルで、コーヒーのブラウンやスイーツのフルーツの彩度を調整し、美味しそうに見せる。調性で柔らかいトーンにする。
- 作例イメージ: カップに入ったコーヒーの深みのあるブラウンと、添えられたフルーツの鮮やかな色が、適度な彩度と柔らかい階調で食欲をそそるように描写される。
レンズとの組み合わせ
マイクロフォーサーズシステムは、小型軽量ながら高性能な交換レンズが豊富に揃っています。PEN-Fは、特にPROシリーズやPREMIUMシリーズといった高品位な単焦点レンズとの組み合わせで、その描写力を最大限に発揮します。
- M.ZUIKO DIGITAL ED 17mm F1.2 PRO: 大口径広角単焦点。PEN-Fのボディ内手ぶれ補正と組み合わせることで、暗所での手持ち撮影や、美しいボケを活かした表現が容易になります。PEN-Fの解像力と相まって、高い描写力を発揮します。
- M.ZUIKO DIGITAL 25mm F1.8: 軽量コンパクトな標準単焦点。スナップやポートレートに最適で、PEN-Fとのバランスが非常に優れています。明るい開放F値とPEN-Fの描写特性で、美しいボケと自然な描写が得られます。
- M.ZUIKO DIGITAL 45mm F1.8: 軽量コンパクトな中望遠単焦点。ポートレート撮影に最適です。開放F値1.8の大きなボケと、PEN-Fの豊かなトーンコントロールで、印象的なポートレートを撮影できます。
- M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO: 高性能な標準ズーム。PEN-Fの高い描写力と、F2.8通しの明るさ、そして使いやすい焦点距離で、様々なシーンに対応できる万能な組み合わせです。
これらのレンズとPEN-Fのクリエイティブダイヤルを組み合わせることで、さらに多様な写真表現が可能になります。例えば、F1.8の単焦点レンズでボケを大きく作り、被写体にピントを合わせた上で、背景の色をCOLORプロファイルで調整したり、全体をMONOプロファイルでドラマチックなモノクロに仕上げたりといった具合です。
ハイレゾショットの活用
PEN-Fのハイレゾショットは、特に風景や建築物、美術品など、ディテールを緻密に捉えたいシーンで非常に有効です。三脚必須という制限はありますが、通常撮影では得られない圧倒的な解像感をもたらします。
- 作例イメージ: 三脚に固定して撮影した壮大な山の風景。ハイレゾショットで撮影することで、遠景にある岩肌の凹凸や、木々の葉一枚一枚までが驚くほどシャープに描き出され、肉眼で見る以上の解像感と臨場感を持った一枚となる。
ハイレゾショットは、PEN-Fのポテンシャルを最大限に引き出す隠れた(?)実力機能と言えるでしょう。
PEN-Fでの実写体験は、単にシャッターを切るという行為に留まりません。それは、どのように光を捉え、どのように色やトーンを表現するかを、一枚ごとに深く考え、カメラという道具を通じて自身の感性を形にしていくプロセスです。クリエイティブダイヤルが生み出す多様な描写は、常に新しい発見と表現の喜びを与えてくれます。
5. PEN-Fを使うということ:撮影体験と哲学
デジタルPEN-Fは、単なる高性能なミラーレスカメラではありません。それは、ユーザーに特定の「撮影体験」を促し、写真に対する哲学を再考させる力を持ったカメラです。
まず、そのデザインと操作性です。徹底してアナログライクなデザインと物理ダイヤルによる操作は、現代のデジタルカメラに慣れたユーザーにとっては新鮮であり、またフィルムカメラを知る世代にとっては懐かしさを感じさせるものです。軍艦部のモードダイヤル、露出補正ダイヤル、シャッタースピードダイヤル、そして前面のクリエイティブダイヤル。これらのダイヤルを指先で操作する感触は、デジタルのメニュー画面を深く潜っていく操作とは全く異なります。
シャッタースピードや露出補正をダイヤルでカチカチと設定し、クリエイティブダイヤルを回して「モノクロにするか、カラーにするか」「どんな雰囲気に仕上げるか」を考える。EVFを覗きながら、これらの設定がライブビューに反映されるのを確認し、構図を練る。この一連の動作は、非常に儀式的であり、自然とじっくりと被写体と向き合うスタイルになります。速写性や連写性能を追求するカメラとは異なり、PEN-Fは一枚の写真に集中し、その一枚を丁寧に作り上げることを促します。
「なぜ、この設定で撮るのか?」
PEN-Fは常にユーザーにこの問いを投げかけているかのようです。クリエイティブダイヤルで絵作りを決定することは、単に見た目の効果を選ぶだけでなく、その写真で何を表現したいのか、どのようなメッセージを伝えたいのかという、写真の根源的な問いに向き合うことでもあります。モノクロにするということは、色という情報を取り去り、光と影、形と質感、そして階調という要素だけで世界を再構成するということです。特定の色の彩度を調整するということは、写真全体の印象を操作し、感情や雰囲気を強調するということです。
PEN-Fは、撮影後の編集で「どうにでもなる」という考え方ではなく、「撮影時にいかに完成度を高めるか」というプロセスを重視しています。もちろん、RAWで撮影して後から編集することも可能ですが、PEN-Fの真髄は、このカメラの持つ優れたカメラ内処理と、それを自在に操るクリエイティブダイヤルにあると言えるでしょう。撮影時に写真の方向性を定めることで、一枚一枚の写真に対する思い入れが深まり、より意図を持った写真表現が可能になります。
また、PEN-Fのコンパクトさと美しいデザインは、常にカメラを持ち歩きたいという気持ちにさせてくれます。日常の中でふと目に留まった光景や、何気ない瞬間に、PEN-Fを構える。その行為自体が、日常を切り取り、特別なものに変える喜びを与えてくれます。それは、スマートフォンで写真を撮るのとは全く異なる、カメラという道具を通した豊かな体験です。
PEN-Fは、最新・最速の性能を求めるプロフェッショナル向けのカメラではありません。しかし、写真表現を深く追求したいアマチュア写真家、ファッションやデザインに敏感で、カメラそのものにも美しさを求めるユーザー、そしてフィルムカメラ時代の撮影スタイルに郷愁を感じるユーザーにとっては、これ以上ないほど魅力的な選択肢となるでしょう。
このカメラは、「写真を楽しむ」という行為そのものを再定義してくれるかもしれません。単なる記録ではなく、自己表現の手段として写真と向き合いたい、そしてその過程でカメラという道具との対話を深めたい。そう考える人にとって、PEN-Fはかけがえのないパートナーとなるはずです。生産完了となった今でも、多くの人々が探し求め、手に入れたいと願うのは、このカメラが持つ単なるスペックを超えた、深い魅力を理解しているからに他なりません。
ターゲットユーザーは?どんな人におすすめか?
- 写真表現を追求したいアマチュア写真家: 特にモノクロ写真や独特な色彩表現に興味がある人。クリエイティブダイヤルによる緻密な絵作りは、表現の可能性を大きく広げます。
- デザインにこだわる人: カメラそのものにも美しさを求める人。PEN-Fのクラシックで工芸品のようなデザインは、所有欲を強く満たしてくれます。
- スナップシューター: 軽量コンパクトで、街に溶け込めるカメラを探している人。じっくり構図を練り、一枚を大切に撮るスタイルが好きな人。
- フィルムカメラ愛好家: フィルム時代のPEN Fを知っており、その哲学や操作性に共感する人。デジタルながらアナログライクな操作感を楽しみたい人。
- マイクロフォーサーズユーザー: 既にマイクロフォーサーズのレンズを持っており、ユニークで高品質なボディを探している人。
逆に、最新のAF性能で動きの速い被写体を追いたい人、高感度性能を重視して暗所での撮影が多い人、本格的な動画撮影をメインに考えている人にとっては、PEN-Fは最適な選択肢ではないかもしれません。しかし、それはPEN-Fの欠点というよりは、そのコンセプトの違いによるものです。PEN-Fは、万能選手ではなく、特定の哲学と楽しみ方を持った、個性的なカメラなのです。
6. PEN-Fの惜しい点(デメリット)
PEN-Fの魅力について深く掘り下げてきましたが、どんなカメラにも完璧なものはありません。PEN-Fにもいくつかの惜しい点が存在します。購入を検討する際には、これらの点を理解しておくことが重要です。
- AF性能: コントラストAF方式を採用しているため、特に動きの速い被写体(スポーツ、乗り物、走り回る子供やペットなど)に対する追従性能は、最新の像面位相差AFや、AIを活用した被写体認識AFを搭載したカメラと比較すると見劣りします。静止物や比較的ゆっくりとした動きの被写体であれば問題ありませんが、動体撮影をメインにするユーザーには不向きです。
- 動画機能: 発売当時のミラーレスカメラとしては標準的な性能ですが、最新のミラーレスカメラと比較すると、動画機能は限定的です。4K動画撮影には対応しておらず、フルHDでの撮影となります。また、動画撮影中のAF性能も静止画ほど優れていません。本格的な動画撮影を考えている場合は、別のカメラを検討した方が良いでしょう。
- バッテリー持ち: バッテリー容量は他のPENシリーズと同程度ですが、EVFや液晶モニター、手ぶれ補正などを使用すると、一日中撮影を楽しむには予備バッテリーが必須となるでしょう。クラシックなデザインゆえに大型バッテリーを搭載しづらい側面もありますが、最新機種と比べると持ちはあまり良くありません。
- 防塵防滴ではない点: PEN-Fは美しいデザインを優先したためか、防塵防滴構造ではありません。雨の中や砂埃の多い場所での撮影には注意が必要です。オリンパス/OMDSのOM-Dシリーズの多くのモデルが防塵防滴に対応していることを考えると、この点は惜しいと感じるユーザーもいるでしょう。
- 高価である点(中古市場含む): 発売時の価格もPENシリーズとしては高価でしたが、生産完了後もその根強い人気から、中古市場でも高値を維持しています。美品や程度の良い個体は、発売当初の価格に近い、あるいはそれを超える価格で取引されることも珍しくありません。これは人気の裏返しでもありますが、気軽に手を出せる価格帯ではないことはデメリットと言えるでしょう。
- 発売から時間が経過している点: 2016年発売であり、既に数年が経過しています。センサーや画像処理エンジンなどの基本性能は今でも十分通用しますが、最新のカメラに搭載されているような機能(例:深度合成、高精度な被写体検出AFなど)は搭載されていません。また、今後のメーカーによるファームウェアアップデートや修理サポートなども、最新機種に比べると期間が短くなる可能性があります。
これらのデメリットは確かに存在しますが、PEN-Fの最大の魅力であるデザイン性、クリエイティブダイヤルによる絵作り、そして独自の撮影体験といった長所が、これらの欠点を補って余りあると感じるかどうかは、ユーザー次第です。PEN-Fは、スペックだけでは測れない、感性的な魅力を持ったカメラであり、その点を理解し、共感できる人にとっては最高のパートナーとなり得ます。
7. 競合機種との比較
デジタルPEN-Fは、その独自のコンセプトゆえに、直接的な競合機種を見つけるのが難しいカメラです。しかし、あえて同世代・同価格帯の他社ミラーレス機や、オリンパス/OMDS内の他のモデルと比較することで、PEN-Fの位置づけをより明確に理解できます。
同世代・同価格帯の他社ミラーレス機との比較:
* 富士フイルム X-Pro2/X-T2: 富士フイルムのXシリーズも、クラシックなデザインと操作性、そして独自のフィルムシミュレーションによる色作りを特徴としています。X-Pro2はレンジファインダースタイル、X-T2は一眼レフスタイルで、PEN-Fと同様に物理ダイヤルが多く配置されています。AF性能や高感度性能、動画機能などはXシリーズの方が優れている部分もあります。しかし、PEN-Fの前面クリエイティブダイヤルによる絵作りの自由度(特にモノクロや個別の色調整)は、Xシリーズのフィルムシミュレーションとは異なるアプローチであり、PEN-F独自の強みです。デザインの方向性も、Xシリーズがよりモダンなクラシックデザインであるのに対し、PEN-FはフィルムPEN Fへのオマージュを徹底しています。
* パナソニック LUMIX GX7 Mark II/GX8: 同マイクロフォーサーズシステムとして、パナソニックのGXシリーズもレンジファインダースタイルのコンパクトなミラーレスカメラです。GX7 Mark IIは小型軽量でPEN-Fに近いコンセプトを持っています。しかし、PEN-Fのような突き抜けたデザイン性や、前面クリエイティブダイヤルはありません。パナソニックは動画性能やAF性能(DFD技術)に強みがありますが、PEN-Fが持つ「写真表現をカメラ内で完結させる」という思想とは異なります。
オリンパス/OMDSの他のPENシリーズやOM-Dシリーズとの位置づけ:
* OLYMPUS PEN E-Pシリーズ/E-PLシリーズ: これらのPENシリーズは、PEN-Fよりもカジュアルでモダンなデザインが特徴です。より小型軽量なモデルが多く、初心者にも扱いやすいインターフェースを持っています。しかし、PEN-Fのような金属ボディの質感や、クリエイティブダイヤルによる緻密な絵作り機能はありません。PEN-FはPENシリーズのフラッグシップ的な位置づけであり、より写真表現を追求するユーザーをターゲットとしています。
* OLYMPUS/OM SYSTEM OM-D E-Mシリーズ: OM-Dシリーズは、一眼レフスタイルのフラッグシップモデル(E-M1シリーズ)や、小型軽量ながら高性能なモデル(E-M5シリーズ、E-M10シリーズ)があります。多くのモデルが防塵防滴に対応し、AF性能や連写性能、動画性能など、総合的なスペックではOM-Dシリーズの方が優れている場合が多いです。特にE-M1 Mark II以降のモデルは、像面位相差AFを搭載し、動体追従性能が大幅に向上しています。PEN-FはOM-Dシリーズとは明確に異なるコンセプトで開発されており、デザイン性やクラシックな操作性、そしてクリエイティブダイヤルによる絵作りを重視するユーザーに向けたモデルと言えます。
PEN-Fは、スペックシートだけを見ると、同世代の他の高性能ミラーレスカメラに劣る部分もあります。しかし、PEN-Fを選ぶ理由は、そのスペックだけにあるのではありません。それは、そのデザイン、操作性、そしてクリエイティブダイヤルという独自の機能が提供する、唯一無二の「写真体験」にあるのです。競合他社や自社の他のモデルと比較しても、PEN-Fは特定の哲学を持った、非常に個性的な存在として位置づけられています。
8. まとめ:PEN-Fは唯一無二の存在
デジタルPEN-Fは、単なる「レトロでおしゃれなカメラ」ではありません。それは、日本のカメラ史に名を刻むフィルムPEN Fの遺伝子を受け継ぎ、現代のデジタル技術で「写真を創る」という行為の喜びを再構築した、唯一無二の存在です。
その最大の魅力は、何と言ってもそのデザインとクリエイティブダイヤルに集約されます。工芸品のように美しく精巧な金属ボディ、物理ダイヤルによるアナログライクな操作感は、持つこと、触れること自体が喜びであり、撮影へのモチベーションを高めてくれます。そして、前面のクリエイティブダイヤルは、単なる便利な機能ではなく、写真表現を追求するためのツールであり、撮影前に絵作りを決定するという、フィルム時代を思わせる哲学を体現しています。モノクロプロファイルやカラープロファイルによる緻密なトーン・色彩調整は、他のカメラではなかなか味わえない、PEN-Fならではの表現の可能性を広げてくれます。
もちろん、PEN-Fは見た目だけでなく、カメラとしての基本性能も高いレベルでまとまっています。2000万画素の高解像度センサー、強力な5軸手ぶれ補正、そしてハイレゾショット機能などは、PEN-Fの描写力を確かなものにしています。AF性能や動画機能など、最新のフラッグシップ機には及ばない点もありますが、PEN-Fのコンセプトである「じっくりと一枚を創る」というスタイルにおいては、これらの点は大きな問題とならない場合が多いでしょう。
PEN-Fを使うということは、単に記録のために写真を撮るのではなく、自己表現の手段として写真と向き合うということです。クリエイティブダイヤルを回し、ファインダー越しに仕上がりを想像しながら、一枚一枚の写真を丁寧に作り上げていく。このプロセスは、写真に対する意識を変化させ、撮影そのものをより深く、より創造的な体験へと変えてくれます。
2021年に生産完了となったPEN-Fですが、中古市場での人気は衰えることを知りません。それは、多くの写真愛好家が、このカメラが持つスペックだけではない、感性的な魅力と、写真に対する真摯な哲学に共感しているからでしょう。
もしあなたが、
- カメラそのものにも強い魅力を感じる方
- 単なる記録ではなく、写真で自己表現をしたい方
- モノクロ写真や独自のカラー表現に興味がある方
- じっくりと一枚の写真と向き合いたい方
- 常に持ち歩きたくなる、コンパクトで美しいカメラを探している方
であれば、デジタルPEN-Fは最高のパートナーとなる可能性を秘めています。価格は決して安くありませんし、最新機能のすべてを網羅しているわけでもありません。しかし、それを補って余りある、PEN-Fにしかない魅力がそこにはあります。
デジタルPEN-Fは、過去へのノスタルジーに浸るだけでなく、未来への写真表現の可能性を切り拓く、まさに温故知新を体現したカメラです。「写真って、もっと自由で、もっと楽しいものなんだ」――PEN-Fは、そんな大切なことを、私たちに思い出させてくれる存在なのかもしれません。
(※本記事はテキストのみであり、作例を直接掲載することはできませんが、記述内容から作例のイメージを喚起できるような表現を心がけました。実際にPEN-Fの作例をご覧いただくことで、その魅力の理解がさらに深まるはずです。)