なぜ選ばれる?Ubuntu LTS とは?サポート期間とメリットを解説

なぜ選ばれる?Ubuntu LTS とは?サポート期間とメリットを解説

はじめに

オープンソースのオペレーティングシステムとして、世界中で最も広く利用されているLinuxディストリビューションの一つがUbuntuです。デスクトップからサーバー、クラウド、IoTデバイスまで、あらゆる場所でその姿を見ることができます。そのUbuntuの中でも、特に多くの企業や個人ユーザーに選ばれているのが、「LTS」と名付けられたリリースです。

「LTS」とは一体何でしょうか?なぜ、多くのユーザーは短期サポートの通常リリースではなく、LTSバージョンを好むのでしょうか?そして、LTSを選ぶことでどのようなメリットが得られるのでしょうか?

この記事では、UbuntuのLTSリリースに焦点を当て、その定義、長期にわたるサポート期間の詳細、そしてLTSが多くのユーザーに選ばれる理由である「メリット」について、約5000語を費やして徹底的に解説します。単なる機能紹介にとどまらず、その背景にある設計思想、開発プロセス、コミュニティの役割、そして実際の利用シーンに至るまで、多角的な視点からUbuntu LTSの魅力に迫ります。

この記事を読むことで、以下の点を深く理解できるでしょう。

  • Ubuntuのリリースモデルの種類とその違い
  • Ubuntu LTSとは具体的にどのようなリリースか
  • Ubuntu LTSの長期サポートが提供する期間と範囲
  • Ubuntu LTSがもたらす圧倒的な「安定性」と「信頼性」
  • 長期的な「セキュリティアップデート」が運用にもたらす恩恵
  • 無償での長期サポートが実現する「コスト効率」
  • 活発な「コミュニティ」と広範な「エコシステム」の重要性
  • Ubuntu LTSが適した利用シーンとそうでない利用シーン
  • 他のLinuxディストリビューションとの比較におけるUbuntu LTSの立ち位置

Linuxの利用を検討している方、現在Ubuntuを利用しているがLTSの重要性を改めて知りたい方、企業のシステム担当者、開発者、そしてLinuxを深く学びたいと考えているすべての方にとって、この記事がUbuntu LTSへの理解を深める一助となれば幸いです。さあ、世界で最も人気のあるLinuxの要とも言えるUbuntu LTSの世界へ踏み込んでいきましょう。

Ubuntuのリリースモデル

Ubuntuには、主に二種類のリリースモデルが存在します。一つは短期サポートの「通常リリース」、そしてもう一つが長期サポートの「LTSリリース」です。これらのリリースは、それぞれ異なる目的とターゲットユーザーを持って設計されています。LTSを理解するためには、まずUbuntu全体のリリースサイクルを知ることが重要です。

Ubuntuは、Canonical社によって開発・維持されており、約6ヶ月ごとに新しいバージョンがリリースされるサイクルを採用しています。このリリースの周期は非常に規則的で予測可能であり、バージョン番号はリリースされた西暦の下二桁と月の二桁で構成されます(例: 20.04、2020年4月リリース)。コードネームも付けられており、形容詞と動物の名前の組み合わせが慣例となっています(例: 20.04 LTS Focal Fossa – 焦点の合ったキツネザル)。

通常リリース(Standard Release)

約6ヶ月ごとにリリースされる通常リリースは、最新のソフトウェアバージョンや新しい技術、機能を取り込むことを目的としています。カーネル、デスクトップ環境(GNOMEなど)、アプリケーションなど、多くのソフトウェアパッケージが最新または比較的新しいバージョンで提供されます。

しかし、通常リリースのサポート期間は比較的短く、デスクトップ版とサーバー版ともに9ヶ月間です。この期間内に、バグ修正やセキュリティアップデートが提供されます。9ヶ月を過ぎると、そのバージョンのサポートは終了し、ユーザーはセキュリティリスクを避けるために新しいバージョンにアップグレードする必要があります。

通常リリースは、以下のようなユーザーや目的に適しています。

  • 常に最新のソフトウェアや機能を試したい開発者やエンスージアスト
  • 新しい技術を早期に導入したいユーザー
  • デスクトップ環境で最新のハードウェアサポートが必要なユーザー(ただし、LTSのHWEスタックである程度対応可能)
  • 短期間でシステムを構築・破棄するような使い捨ての環境

しかし、サポート期間が短いため、長期にわたる安定稼働が求められるサーバー環境や、頻繁なバージョンアップグレードが困難な企業環境にはあまり向いていません。ここに、LTSリリースの存在意義が生まれます。

LTSリリース(Long Term Support Release)の位置づけ

Ubuntu LTSは、通常リリースとは異なり、2年ごとにリリースされます。つまり、通常リリースが4回リリースされる間に、LTSリリースが1回登場する計算になります。LTSリリースの最大の目的は、長期にわたる安定性と信頼性を提供することです。

LTSリリースでは、最新技術の積極的な導入よりも、既存技術の安定化と成熟度に重点が置かれます。各ソフトウェアパッケージのバージョンは、そのLTSバージョンがリリースされる時点での安定板が選択され、その後は基本的にバージョンアップは行われず、バグ修正やセキュリティパッチの適用が主となります。これにより、リリース後の予測不可能な変更を最小限に抑え、長期的な運用における安定性を確保しています。

LTSリリースは、その名の通り「Long Term Support」、すなわち長期にわたるサポートが提供されます。このサポート期間は通常リリースよりも格段に長く、これがLTSが多くのユーザーに選ばれる最大の理由の一つです。サポート期間の詳細については後述しますが、これによりユーザーは安心して長期間同じバージョンを利用し続けることができます。

LTSリリースは、以下のようなユーザーや目的に特に適しています。

  • 企業のサーバー環境、基幹システム
  • クラウドプラットフォームの基盤
  • 安定稼働が最優先される生産環境
  • 長期プロジェクトの開発環境
  • 頻繁なアップグレードを避けたいデスクトップユーザー
  • セキュリティと信頼性が重視される組み込みシステムやIoTデバイス

このように、Ubuntuのリリースモデルは、最新技術への迅速な追従を求めるユーザーと、長期的な安定性と信頼性を求めるユーザー、それぞれのニーズに応えるように設計されています。LTSリリースは、後者のニーズに特化した、Ubuntuの中でも特に重要な位置を占めるバージョンと言えます。

Ubuntu LTS とは?

では、Ubuntu LTS(Long Term Support)について、さらに詳しく掘り下げてみましょう。LTSは、文字通り「長期サポート」を意味し、通常の9ヶ月間のサポート期間を持つリリースとは一線を画します。

「Long Term Support」の正式な定義と特徴

UbuntuにおけるLTSの定義は、単にサポート期間が長いというだけではありません。そこには、そのバージョンがリリースされるまでの開発プロセスや、リリース後のメンテナンスポリシーにおいて、安定性と信頼性を最優先するという明確な意図があります。

LTSバージョンは、約2年間の開発期間を経てリリースされます。この期間中、通常リリースで導入された新機能や技術が十分にテストされ、成熟度が確認されたものがLTSに採用されます。つまり、LTSは通常リリースの結果を踏まえた上で構築される、いわば「選りすぐられた」技術の集合体と言えます。

LTSリリースの主な特徴は以下の通りです。

  1. 安定性重視: 新しい機能や最新バージョンよりも、実績があり十分にテストされたソフトウェアパッケージが優先的に採用されます。これにより、予期せぬ挙動やバグの発生リスクを低減します。
  2. 長期的なサポート: 通常リリースが9ヶ月であるのに対し、LTSはより長い期間、公式なサポートが提供されます。これが最大の差別化要因です。
  3. 予測可能なリリースサイクル: LTSバージョンは2年ごとに、偶数年の4月にリリースされることが決まっています(例: 14.04, 16.04, 18.04, 20.04, 22.04)。これにより、ユーザーは将来のシステム更新計画を立てやすくなります。
  4. 厳格なテスト: LTSリリースは、通常リリース以上に厳格なテストプロセスを経ています。多くのユーザーによるベータテストや、自動化されたテスト、そしてCanonical社による品質保証プロセスを経て、高い安定性が確認されてからリリースされます。
  5. 限定的な変更: リリース後は、基本的に機能の追加やメジャーバージョンアップは行われません。提供されるアップデートは、主にバグ修正とセキュリティパッチに限定されます。これにより、運用中にシステムの挙動が大きく変わるリスクを防ぎます。

通常リリースとの決定的な違い(サポート期間)

前述したように、通常リリースとLTSの最も決定的な違いは「サポート期間」です。

  • 通常リリース: デスクトップ版、サーバー版ともに 9ヶ月間のサポート
  • LTSリリース:
    • 標準サポート (無償): デスクトップ版、サーバー版ともに 5年間
    • Extended Security Maintenance (ESM): サーバー版(またはUbuntu Proを利用するデスクトップ版)では、標準サポート終了後さらに 最大5年間 のセキュリティアップデートが提供されます(合計最大10年間)。ESMは商用利用の場合は通常有償ですが、個人利用や小規模利用の場合は無償枠が提供されます。

このサポート期間の長さの違いは、システムの運用戦略に大きな影響を与えます。通常リリースを運用する場合、9ヶ月ごとに新しいバージョンへのアップグレードを検討・実行する必要があります。これはシステム担当者にとって大きな負担となる可能性があります。一方、LTSバージョンであれば、最低でも5年間、ESMを利用すれば最大10年間、同じバージョンを使い続けることができるため、アップグレードの頻度を大幅に減らすことができます。これにより、システム更新にかかるコストとリスクを削減し、運用効率を向上させることが可能になります。

現在の最新LTSバージョンと過去の主要LTSバージョン

UbuntuのLTSバージョンは、2006年の6.06 LTS (Dapper Drake) から始まりました。その後、2年ごとに新しいLTSバージョンがリリースされています。

  • 6.06 LTS (Dapper Drake) – 2006年6月リリース (最初のLTS)
  • 8.04 LTS (Hardy Heron) – 2008年4月リリース
  • 10.04 LTS (Lucid Lynx) – 2010年4月リリース
  • 12.04 LTS (Precise Pangolin) – 2012年4月リリース
  • 14.04 LTS (Trusty Tahr) – 2014年4月リリース
  • 16.04 LTS (Xenial Xerus) – 2016年4月リリース
  • 18.04 LTS (Bionic Beaver) – 2018年4月リリース
  • 20.04 LTS (Focal Fossa) – 2020年4月リリース (現在も広く利用されているLTS)
  • 22.04 LTS (Jammy Jellyfish) – 2022年4月リリース (現在の最新LTS)

現在主流となっているLTSバージョンは、20.04 LTSと22.04 LTSです。特に22.04 LTSは最も新しいLTSとして、今後数年間にわたり多くのシステムで利用されることが見込まれています。これらのバージョンは、リリース時点での最新かつ安定した主要ソフトウェア(Linuxカーネル、GNOMEデスクトップ環境、GCCコンパイラ、Pythonなど)を含んでおり、企業や開発者が長期的なプロジェクトに取り組む上で信頼できる基盤を提供します。

このように、Ubuntu LTSは単にサポート期間が長いだけでなく、その開発・リリースプロセスにおいて安定性と信頼性を最優先しており、これが多くのユーザーに選ばれる理由の根幹をなしています。

サポート期間の詳細

Ubuntu LTSの最大の強みである「長期サポート」について、その具体的な期間と内容をさらに詳しく見ていきましょう。サポート期間は、システムの安定稼働とセキュリティ維持において極めて重要な要素です。

標準サポート期間(無償)

Ubuntu LTSの標準サポート期間は、リリースから5年間です。この期間中、Ubuntuの公式リポジトリを通じて、以下の種類のアップデートが無償で提供されます。

  • セキュリティアップデート: 発見された脆弱性に対する修正パッチが提供されます。これはシステムの安全性を維持する上で最も重要なアップデートです。Ubuntu Security Notice (USN) という形で迅速に情報が公開され、対応するパッケージのアップデートが提供されます。
  • バグ修正: ソフトウェアの動作上の不具合(バグ)に対する修正が提供されます。これにより、システムの安定性と機能の正確性が保たれます。
  • 重要なアップデート: 特定のハードウェアサポートの改善や、極めて重要なソフトウェアの互換性問題など、システム全体の安定性や機能性に影響を与える重要な修正が提供されることもあります。ただし、これは機能追加やメジャーバージョンアップとは異なります。

この5年間の標準サポートは、デスクトップ版、サーバー版、そして公式フレーバー(Kubuntu, Xubuntu, Lubuntu, Ubuntu MATE, Ubuntu Budgie, Ubuntu Studioなど)のLTSバージョンすべてに適用されます。多くの企業や個人ユーザーにとって、5年間の無償サポートは十分な期間であり、この間は安心して同じバージョンのUbuntuを利用し続けることができます。

Extended Security Maintenance (ESM) について

5年間の標準サポート期間が終了した後も、さらにセキュリティアップデートが必要な場合があります。特に、コンプライアンス要件が厳格な企業環境や、長期的なプロジェクトで古いバージョンのOSを使い続けざるを得ない状況などがこれにあたります。このようなニーズに応えるために提供されているのが、「Extended Security Maintenance (ESM)」です。

ESMは、Canonical社が提供する有償の追加サポートサービスです。ESMを利用することで、標準サポート終了後、さらに最大5年間(合計でリリースから最大10年間)のセキュリティアップデートを受け取ることができます。ESMは、主要なパッケージ(mainリポジトリのパッケージ)に対して提供されます。

ESMは、商用サービスであるUbuntu Advantage for Infrastructureの一部として提供されます。しかし、個人ユーザーや小規模な組織向けには、Ubuntu Pro (旧 Ubuntu Advantage for Infrastructure Essential) を利用することで、最大5台までのデバイスでESMを含むいくつかの追加機能を無償で利用できる枠が提供されています。これにより、個人開発者や小規模なテスト環境などでも、長期的なセキュリティサポートの恩恵を受けることが可能になっています。

ESMを利用することのメリットは以下の通りです。

  • コンプライアンス対応: 業界規制や社内ポリシーで特定の期間、OSのセキュリティサポートが必須となっている場合に、その要件を満たすことができます。
  • システム移行期間の確保: 新しいOSバージョンへの移行は時間とコストがかかる作業です。ESMを利用することで、標準サポート終了後も時間をかけて計画的に移行を進めることができます。
  • レガシーシステムの維持: 古いハードウェアや特定のソフトウェアとの互換性の問題から、最新のOSバージョンにアップグレードできないシステムを安全に維持することが可能になります。

ESMは特にサーバー環境でその価値を発揮しますが、Ubuntu Proを通じてデスクトップ環境でも利用できるようになったことで、より幅広いユーザーが長期サポートの恩恵を受けられるようになっています。

カーネルライブパッチについて

サーバー環境において、セキュリティアップデートのためにOSを再起動することは、サービスの停止を意味し、ビジネスに大きな影響を与える可能性があります。特にカーネルのセキュリティアップデートは、通常再起動が必要です。

Ubuntu LTSでは、この課題に対応するために「カーネルライブパッチ (Kernel Livepatch)」機能を提供しています。この機能を利用すると、再起動することなくカーネルのセキュリティ脆弱性に対するパッチを適用できます。

カーネルライブパッチは、Ubuntu Advantage (Ubuntu Pro) の一部として提供されます。ESMと同様に、個人ユーザーや小規模な組織向けには、Ubuntu Proを利用することで、最大5台までのデバイスで無償で利用できる枠が提供されています。

カーネルライブパッチのメリットは以下の通りです。

  • サービス中断の最小化: セキュリティアップデートのためにサーバーを停止する必要がなくなり、サービスの可用性を高めることができます。
  • 迅速なセキュリティ対応: カーネル脆弱性が発見された際に、システム再起動の計画や承認プロセスを待つことなく、迅速にパッチを適用できます。
  • 運用効率の向上: メンテナンスウィンドウを気にする必要が減り、運用担当者の負担を軽減します。

この機能は、24時間365日稼働が求められるサーバー環境や、ダウンタイムが許されないミッションクリティカルなシステムにおいて、Ubuntu LTSをさらに魅力的な選択肢としています。

パッケージのサポート期間(メインリポジトリ、ユニバースなど)

Ubuntuのソフトウェアパッケージは、いくつかのリポジトリに分類されています。主なものは以下の通りです。

  • main: Canonical社によって公式にサポートされている無償ソフトウェア。セキュリティアップデートが最優先で提供されます。
  • restricted: デバイスドライバーなど、Canonical社が配布はするものの、オープンソースではないソフトウェア。mainと同様にサポートされます。
  • universe: コミュニティによって維持されている無償ソフトウェア。Ubuntuの公式な保証はありません。
  • multiverse: 著作権や法的な問題により制限があるソフトウェア(プロプライエタリなドライバーなど)。コミュニティによって維持されており、公式な保証はありません。

標準サポート期間(5年間)およびESM(最大5年間追加)で提供されるセキュリティアップデートは、主にmainリポジトリおよびrestrictedリポジトリのパッケージが対象となります。

universeリポジトリのパッケージは、コミュニティによって維持されており、そのサポートは個々のパッケージのメンテナーやコミュニティの活動に依存します。Canonical社による公式な長期サポートは提供されません。ただし、人気のある重要なパッケージについては、コミュニティ内で長期的なサポートが非公式に提供されることもあります。

したがって、システムを構築する際には、利用するソフトウェアがどのリポジトリに含まれているかを確認することが重要です。特に長期的な安定稼働が求められるシステムでは、可能な限りmainまたはrestrictedリポジトリのパッケージを選択することが推奨されます。どうしてもuniverseやmultiverseのパッケージが必要な場合は、そのパッケージ自体のサポート状況や代替手段の有無を事前に確認する必要があります。

このように、Ubuntu LTSのサポート期間は非常に長く、特に重要なソフトウェアに対しては最大限のセキュリティと安定性が保証されています。ESMやカーネルライブパッチといった追加機能を利用することで、さらに手厚いサポートを得ることも可能です。これらのサポート体制が、Ubuntu LTSがエンタープライズ分野やミッションクリティカルなシステムで広く採用される強力な根拠となっています。

なぜUbuntu LTSは選ばれるのか?(メリットの詳細な解説)

Ubuntu LTSが多くのユーザーや組織に選ばれるのには、明確な理由があります。その理由は、長期サポート期間がもたらす様々なメリットに集約されます。ここでは、その主要なメリットを一つずつ、詳細に解説していきます。

安定性

システムの安定性は、特にサーバーやエンタープライズ環境、あるいは長期的に利用するデスクトップ環境において最も重要な要素の一つです。Ubuntu LTSは、この安定性を最大限に追求しています。

  • 厳格なテストプロセス: LTSリリースは、通常リリース以上に徹底的なテストを経てリリースされます。開発サイクル中にコミュニティによる大規模なテストイベントが開催されるほか、Canonical社内部でも自動化されたテストスイートや手動による品質保証プロセスが実行されます。何百万台もの物理・仮想マシンでのインストールテストや、様々なハードウェア構成での互換性テストなど、多岐にわたる検証が行われます。これにより、既知の不具合や互換性問題を可能な限り排除した上でリリースされます。
  • 新機能よりバグ修正と安定化を優先: LTSリリースの開発目標は、最新機能の導入ではなく、既存機能の成熟と安定化です。通常リリースで先行導入された技術やソフトウェアは、LTSに取り込まれるまでに十分な期間を経て、潜在的な問題点が修正されています。リリース後も、提供されるアップデートは主にバグ修正やセキュリティパッチに限定されるため、システムの予期せぬ変更が少なく、長期にわたって安定した稼働が期待できます。
  • 長期的な運用に適している理由: サーバー、データベース、Webアプリケーションなどの基幹システムは、一度構築したら特別な理由がない限り構成を変更したくないものです。Ubuntu LTSは、リリースから長期間(5年間、ESM込みで10年間)にわたって安定した基盤を提供するため、このような長期運用システムに最適です。運用中にOSレベルで大きな変更が入ることがほとんどないため、アプリケーションやサービスの互換性問題が発生しにくく、計画外のダウンタイムのリスクを低減できます。

セキュリティ

長期にわたるセキュリティの維持は、現代のサイバーセキュリティ環境において必須です。Ubuntu LTSは、これを強力にサポートします。

  • 長期にわたるセキュリティアップデート提供: 標準5年間、ESM込みで最大10年間という長期にわたり、主要なソフトウェアパッケージに対するセキュリティ脆弱性の修正が提供されます。これは、サポート期間が短いOSを利用する場合に比べて、システムを既知の脆弱性から保護できる期間が格段に長いことを意味します。OSのサポート切れはセキュリティリスクを直接的に高める要因となるため、長期サポートは非常に重要です。
  • 迅速な脆弱性対応(USN: Ubuntu Security Notice): Ubuntu Security Teamは、発見されたセキュリティ脆弱性に対して迅速に対応します。影響を受けるパッケージの特定、修正パッチの開発、テスト、そしてアップデートパッケージの公開までの一連のプロセスが効率的に行われます。セキュリティ情報はUbuntu Security Notice (USN) として公開され、ユーザーはこれを確認して速やかにシステムにパッチを適用することができます。
  • ESMによるさらに長いサポート: 前述のように、ESMは標準サポート終了後もセキュリティアップデートを継続的に提供します。これにより、コンプライアンス要件を満たしたり、システム移行期間中にセキュリティを確保したりすることが可能になります。
  • セキュリティ機能との連携: Ubuntu自体が持つ様々なセキュリティ機能(例えば、強制アクセス制御フレームワークであるAppArmor、UEFI Secure Bootによる起動プロセスの検証、ファイアウォール設定ツールであるufwなど)と連携し、OS全体のセキュリティレベルを高めます。LTSバージョンでは、これらの機能も長期間にわたって安定した形で利用できます。

信頼性

安定性とセキュリティに裏打ちされたUbuntu LTSは、非常に高い信頼性を誇ります。

  • 商用利用における実績: 世界中の多くの企業、組織、クラウドプロバイダーがUbuntu LTSを基盤として採用しています。これにより、Ubuntu LTSは実世界の厳しい環境でその信頼性を証明してきました。大規模なデプロイメントでの実績は、新しいユーザーがLTSを選択する際の強力な後ろ盾となります。
  • 多くの企業、組織での採用事例: 金融機関、政府機関、学術研究機関、テクノロジー企業など、信頼性が最も重視される分野でUbuntu LTSは広く利用されています。これらの事例は、Ubuntu LTSがミッションクリティカルなシステムにも耐えうる堅牢性を持っていることを示しています。
  • ダウンタイムを最小限に抑えるための考慮: カーネルライブパッチのような機能は、システムのダウンタイムを最小限に抑えるための設計思想を反映しています。長期的な運用において、計画外の停止はビジネス損失に直結するため、信頼性の高いOSはダウンタイムリスクの低減に大きく貢献します。

コスト効率

Ubuntu LTSは、無償のオープンソースソフトウェアでありながら、企業レベルのサポート体制を持っています。これが、高いコスト効率を実現しています。

  • 無償での長期サポート: 5年間の標準サポートが無償で提供されることは、非常に大きなメリットです。商用OSの場合、長期サポートや拡張サポートは別途ライセンス費用やサポート費用がかかることが一般的です。Ubuntu LTSであれば、基本的な運用に必要なセキュリティアップデートやバグ修正を無償で受けられるため、OSライセンス費用や初期サポート費用を大幅に削減できます。
  • サポート期間中のアップグレード不要(コスト削減): 5年間同じバージョンを使い続けられるため、OSのメジャーバージョンアップグレードを頻繁に行う必要がありません。アップグレード作業は、システム構成によっては数日、数週間かかる場合があり、人的コストや検証コストが発生します。アップグレードの頻度を減らすことで、これらのコストを削減できます。
  • ハードウェア要件の安定性: LTSバージョンがリリースされると、そのバージョンがサポートするハードウェアの範囲は基本的に固定されます(HWEスタックによる新しいハードウェアサポートの追加はありますが)。これにより、システムを構築する際に必要なハードウェアの選定が容易になり、将来的なハードウェアとの互換性に関する予測を立てやすくなります。

コミュニティとエコシステム

強力なコミュニティと広範なエコシステムは、Ubuntu LTSの利用体験をさらに豊かなものにします。

  • 活発なコミュニティサポート: Ubuntuは世界中に膨大な数のユーザーと開発者を持つ、最も活発なLinuxコミュニティの一つです。公式フォーラム、Ask Ubuntu、メーリングリスト、IRCチャンネルなど、様々な場所でユーザー同士が情報交換や問題解決のためのサポートを行っています。LTSバージョンはユーザー数が特に多いため、遭遇する可能性のある問題に対する情報や解決策が見つかりやすい傾向があります。
  • 豊富なドキュメントと情報: Ubuntuに関する情報は、公式ドキュメントから非公式なブログ、チュートリアルサイトまで、インターネット上に非常に豊富に存在します。特にLTSバージョンに関する情報は、多くのユーザーによって共有・検証されているため、信頼性の高い情報にアクセスしやすいです。
  • 広範なソフトウェア互換性(特にサードパーティ製ソフトウェア): 多くのサードパーティ製ソフトウェアベンダーは、Linux版を提供する場合、Ubuntu LTSを主要なサポート対象プラットフォームとしています。これは、Ubuntu LTSの普及率が高く、企業利用が多いためです。特定のアプリケーションをLinux上で実行したい場合、Ubuntu LTSであれば高い互換性が期待できます。
  • ハードウェアベンダーからのサポート: Dell, HP, Lenovoなどの大手ハードウェアベンダーは、Ubuntuプリインストールモデルを提供しており、特にLTSバージョンをサポート対象としています。これにより、ハードウェアとOSの組み合わせにおける互換性やドライバの問題が少なく、安心して利用できます。

予測可能性

ビジネスやシステム運用においては、予測可能性が非常に重要です。Ubuntu LTSは、明確なリリースサイクルとサポートポリシーにより、高い予測可能性を提供します。

  • 決まったリリースサイクルとサポート期間: 2年ごとのLTSリリース、5年間の標準サポート期間、そしてESMによる最大10年間のサポート期間は、すべて事前に明確に定められています。これにより、システム担当者はOSのライフサイクルを把握し、計画的なアップグレードやシステムリプレースの計画を立てることができます。
  • 計画的なシステム更新が可能: サポート終了時期が明確なため、それに合わせて新しいLTSバージョンへの移行計画を立てることができます。十分な時間をかけて移行計画、テスト、実行を行うことで、リスクを最小限に抑えることができます。
  • 将来の投資判断が容易: システム構築やソフトウェア開発を行う際に、ベースとなるOS(Ubuntu LTS)が長期間サポートされることが分かっているため、安心して長期的な投資判断を下すことができます。OSのサポート切れによる予期せぬシステム再構築や移行の必要性を回避できます。

これらのメリットが複合的に作用することで、Ubuntu LTSは単なるOSの選択肢の一つではなく、企業や個人のIT戦略において重要な役割を果たす基盤として位置づけられています。安定性、セキュリティ、信頼性、コスト効率、コミュニティ、そして予測可能性といった要素が、多くのユーザーがUbuntu LTSを選び続ける強力な動機となっています。

Ubuntu LTS の利用シーン

Ubuntu LTSが提供するメリットは、様々な分野や用途でその真価を発揮します。ここでは、Ubuntu LTSが具体的にどのようなシーンで活用されているのかを見ていきましょう。

エンタープライズサーバー(Webサーバー、DBサーバー、アプリケーションサーバーなど)

Ubuntu LTSの最も代表的な利用シーンの一つが、企業のサーバー環境です。安定性、信頼性、長期サポートというLTSの特性は、サーバー運用に不可欠な要素と完全に合致します。

  • Webサーバー: Apache, NginxなどのWebサーバーソフトウェアを動作させる基盤として、Ubuntu LTSは広く利用されています。安定したOS上でこれらのソフトウェアを動作させることで、高い可用性を持つWebサービスを提供できます。
  • データベースサーバー: PostgreSQL, MySQL, MongoDBなどのデータベースソフトウェアを実行する環境として最適です。データの整合性と可用性はデータベースシステムにおいて最も重要であり、LTSの堅牢性がこれを支えます。
  • アプリケーションサーバー: Java (Tomcat, WildFly), Python (Django, Flask), Ruby (Rails), Node.jsなどのアプリケーションフレームワークやランタイムを動作させるプラットフォームとして、Ubuntu LTSは多くの開発者や運用担当者に選ばれています。長期サポートにより、アプリケーションのデプロイ環境を長期間安定して維持できます。
  • ファイルサーバー/ストレージ: SambaによるWindows互換ファイル共有や、NFSによるUnix/Linux間共有など、ファイルサーバーとしても安定した動作を提供します。ZFSなどの先進的なファイルシステムも利用可能です。
  • メールサーバー: Postfix, Dovecotなどのメールサーバーソフトウェアを動作させるための、信頼できる基盤となります。

企業のITインフラにおいて、一度構築したら数年間は変更しないことが望ましいサーバーシステムにとって、5年間あるいは10年間のサポートが提供されるUbuntu LTSは極めて自然な選択肢となります。

クラウドコンピューティング(AWS, Azure, GCPなどでの利用)

パブリッククラウド環境においても、Ubuntu LTSはデファクトスタンダードの一つとなっています。主要なクラウドプロバイダー(AWS, Microsoft Azure, Google Cloud Platformなど)は、Ubuntu LTSの公式イメージを提供しており、ユーザーは簡単にUbuntu LTSのインスタンスを起動できます。

  • 仮想マシンの基盤: クラウド上で動作するほとんどのワークロードは、仮想マシン上で実行されます。Ubuntu LTSは、これらの仮想マシンの安定したOS基盤として利用されます。
  • コンテナホスト: DockerやKubernetesのようなコンテナ技術の普及に伴い、コンテナをホストするOSの重要性が増しています。Ubuntuはコンテナとの親和性が高く、特にLTSバージョンはコンテナ基盤として広く利用されています。Canonical社はKubernetesディストリビューションであるCharmed KubernetesやMicroK8sも提供しており、これらもUbuntu LTS上で動作します。
  • クラウドネイティブアプリケーション: マイクロサービスやサーバーレスコンピューティングなど、クラウドネイティブなアプリケーションの実行環境としてもUbuntu LTSが利用されます。長期サポートは、これらの新しいアーキテクチャにおいても安定した運用を可能にします。

クラウド環境では、数多くのインスタンスが起動・停止を繰り返しますが、その基盤となるOSが安定しており、セキュリティアップデートが継続的に提供されることは、クラウド全体の信頼性を高める上で不可欠です。

デスクトップ環境(企業の標準OS、開発者環境)

Ubuntu LTSは、サーバーだけでなく、デスクトップOSとしても多くのユーザーに選ばれています。

  • 企業の標準デスクトップOS: 多くの企業が、従業員向けの標準デスクトップOSとしてUbuntu LTSを採用しています。これにより、OSのライセンス費用を削減できるだけでなく、長期的なサポートによりIT部門の管理負担を軽減できます。特定のLTSバージョンに統一することで、ソフトウェアの互換性問題も最小限に抑えられます。
  • 開発者環境: プログラマーやシステム管理者にとって、Ubuntu LTSは非常に人気のある開発環境です。豊富なソフトウェアパッケージ、最新の開発ツールへのアクセス(ただしLTSバージョン時点での安定版)、そして安定した基盤は、開発効率を高めます。特に、Web開発、データサイエンス、AI/ML、クラウドネイティブ開発など、Linuxとの親和性が高い分野で好まれます。多くの開発ツールやライブラリはUbuntu LTS上での動作が検証されています。
  • 教育機関/研究機関: 大学や研究機関では、研究用の計算機や学生向けのPCにUbuntu LTSがよく導入されています。無償で利用でき、長期サポートにより管理が容易であること、そして科学技術計算やプログラミングに必要なツールが豊富に揃っていることが理由です。

デスクトップ利用においても、5年間のサポート期間は魅力的です。頻繁にOSをアップグレードする必要がなく、慣れ親しんだ環境を長期間使い続けることができます。

組み込みシステム、IoTデバイス

小型のコンピューターや特殊なハードウェア上で動作する組み込みシステムやIoTデバイスでも、Ubuntu LTSはその存在感を増しています。

  • 産業用制御システム: 工場などの産業現場で利用される制御システムやHMI (Human Machine Interface) 端末のOSとして、Ubuntu LTSが採用されることがあります。長期的な供給とサポートが必須となる分野です。
  • デジタルサイネージ、キオスク端末: 公共空間に設置されるデジタルサイネージや情報キオスク端末のOSとしても利用されます。安定稼働とリモートからのセキュリティアップデートが重要です。
  • ロボティクス: ロボット制御ソフトウェアの開発・実行環境として、Ubuntuは広く利用されています。特にLTSバージョンは、長期的なロボットプロジェクトにおいて安定した基盤となります。ROS (Robot Operating System) はUbuntu上での動作が強く推奨されています。
  • ネットワーク機器: ルーターやスイッチなどのネットワーク機器の制御OSとして、カスタマイズされたUbuntu LTSが使用されることがあります。
  • ドローン、自動運転車: 高度な計算能力を持つドローンや自動運転車の開発・実行プラットフォームとしても、Ubuntuが検討・採用されることがあります。

これらのデバイスは一度デプロイされると、数年間、あるいはそれ以上の期間にわたって現場で稼働し続けることが一般的です。OSの長期サポートは、これらのデバイスを安全かつ安定的に運用するために不可欠です。Ubuntu Coreのような、トランザクションアップデートやセキュリティに特化したUbuntuの派生版も存在しますが、従来のデスクトップ/サーバー版LTSも広範なハードウェア互換性と開発のしやすさから、多くの組み込み/IoTプロジェクトで採用されています。

このように、Ubuntu LTSは単一の用途に留まらず、企業の基幹システムから個人の開発環境、さらには特殊な組み込みデバイスに至るまで、安定性、セキュリティ、信頼性、そして長期サポートが求められるあらゆるシーンで、その価値を発揮しています。

Ubuntu LTS の考慮事項とデメリット

Ubuntu LTSは多くのメリットを提供しますが、どのような技術にも完璧なものは存在しません。LTSを選択するにあたって、考慮すべき点や、場合によってはデメリットとなりうる側面も存在します。これらを理解することで、より適切な判断を下すことができます。

最新のソフトウェアバージョンがすぐに利用できない場合がある

LTSリリースの最大の特徴である「安定性重視」の裏返しとして、リリースに含まれるソフトウェアパッケージのバージョンは、そのLTSがリリースされた時点での「安定版」が採用されます。これは、最新バージョンに比べて枯れており、多くの不具合が修正されている可能性が高い一方で、開発コミュニティでリリースされたばかりの最新機能や改良点はすぐに利用できないことを意味します。

例えば、特定のプログラミング言語(Python, Rubyなど)やデータベース、開発ツールにおいて、最新バージョンで導入された新機能やパフォーマンス改善を利用したい場合、Ubuntu LTSの公式リポジトリに含まれるバージョンは少し古い可能性があります。この場合、ユーザーは以下のいずれかの対応をとる必要があります。

  • そのソフトウェアの新しいバージョンがLTSのリリースサイクル中にバックポートされるのを待つ(これはセキュリティ修正や重要なバグ修正が中心であり、機能追加は稀です)。
  • PPA (Personal Package Archive) やSnap, Flatpakなどの別の配布メカニズムを利用して新しいバージョンをインストールする。
  • ソースコードから自分でビルドする。
  • (開発目的であれば)より新しいソフトウェアバージョンを含む通常リリースを利用する。

特に、新しいフレームワークやライブラリに依存する開発を行う場合、LTSのパッケージバージョンが要件を満たさない可能性も考慮する必要があります。

新しいハードウェアへの対応が遅れる可能性がある

LTSリリースは、そのリリース時点でのハードウェアを主なターゲットとしています。リリース後に市場に登場する非常に新しいハードウェア(最新世代のCPU、GPU、Wi-Fiチップ、ストレージコントローラーなど)に対するドライバーサポートや最適化は、通常リリースに比べて導入が遅れる傾向があります。

もちろん、重要なハードウェア対応は、LTSのリリース後もHWE (Hardware Enablement) スタックとして提供されることがあります。HWEスタックは、新しいLTSバージョンで導入されたカーネルやグラフィックスタックを、以前のLTSバージョンにバックポートする仕組みです。これにより、例えばUbuntu 20.04 LTS上で、22.04 LTSでサポートされた新しいハードウェアが利用できるようになるなど、新しいハードウェア対応をある程度取り込むことが可能です。

しかし、それでも最新リリースに含まれる最新のカーネルやドライバと比べると、対応にタイムラグが生じる可能性があります。もし、システム構築において最新のコンシューマー向けハードウェアを積極的に採用したい場合は、LTSがリリースされた直後よりも、ある程度時間が経過し、HWEスタックが成熟してから利用するか、あるいは特定のハードウェアとの互換性を事前に十分確認する必要があります。サーバーやエンタープライズ向けのハードウェアは、比較的安定しており、LTSでのサポートも充実している傾向があります。

短期リリースに比べて新機能の導入が遅い

これは前述の「最新ソフトウェアバージョン」と関連しますが、OS自体の新しい機能(例えば、デスクトップ環境のメジャーアップデート、ファイルシステムの新しい機能、ネットワーク機能の改良など)の導入も、通常リリースに比べてLTSでは慎重に行われ、遅れる傾向があります。

LTSは「安定」を追求するため、革新的な新機能よりも、既存機能の洗練と安定化に重点を置きます。新しい技術はまず通常リリースで導入され、ユーザーからのフィードバックやテストを経て、十分に成熟したと判断されてから次のLTSに取り込まれます。

したがって、常にOSレベルでの最新技術や機能を使いたいユーザー(例えば、最先端のグラフィックス技術やウィンドウシステムを試したいデスクトップユーザーなど)にとっては、LTSは物足りなく感じられる可能性があります。そういったユーザーは、通常リリースを短いサイクルで乗り換えていく方が適しているかもしれません。

アップグレードパス(次のLTSへの移行)の難しさ(場合による)

Ubuntu LTSは長期利用を前提としていますが、いつかはサポートが終了し、次のLTSバージョンにアップグレードするか、新しいシステムを構築する必要があります。Ubuntuは、LTSバージョンから次のLTSバージョンへの直接アップグレードをサポートしています(例: 20.04 LTSから22.04 LTSへ)。

しかし、このメジャーバージョンアップグレードは、システム構成によっては手間がかかる作業となる可能性があります。特に、多くのサードパーティ製ソフトウェアをインストールしている、独自のカスタマイズを施している、あるいは複雑なサーバー構成をとっている場合などです。パッケージの依存関係の変更、設定ファイルの変更、利用しているアプリケーションとの互換性問題などが発生するリスクがあります。

Ubuntuは比較的スムーズなアップグレードパスを提供しようと努力していますが、それでもゼロリスクではありません。多くの企業では、アップグレードよりも新しいLTSバージョンで新規にシステムを構築し直し、データを移行する方が、予期せぬトラブルを避ける上で確実であると判断することもあります。

とはいえ、適切に計画し、テストを行えば、LTS間のアップグレードは十分可能です。しかし、このアップグレードの手間やリスクは、LTSを長期利用する上での考慮事項の一つと言えるでしょう。

ESMのコスト(大規模商用利用の場合)

ESMによる5年間の追加サポートは非常に魅力的ですが、これは商用利用においては基本的に有償です。個人ユーザーや小規模な利用(最大5台まで)であれば無償枠がありますが、それ以上の規模で利用する場合、Ubuntu Advantage (Ubuntu Pro) の契約が必要となり、コストが発生します。

もちろん、このコストは他の商用OSのサポート費用や、OSのサポート切れによるシステム移行コスト、あるいはセキュリティリスクと比較考量されるべきものです。ESMの費用対効果は、企業の規模や運用ポリシー、システム構成によって異なります。

ESMが必要となるのは標準サポート期間(5年間)が終了した後であり、まずは5年間の無償サポートを最大限に活用できる点がLTSの大きなメリットであることは変わりありません。しかし、10年間という超長期サポートを前提とする場合は、ESMのコストを事前に把握しておく必要があります。

これらの考慮事項やデメリットは、Ubuntu LTSのメリットと比較衡量し、自身の利用目的や環境に最も適したリリースを選択するための判断材料となります。全ての人にとってLTSが最良の選択肢とは限りませんが、多くのシナリオにおいて、LTSが提供するメリットはデメリットを上回る価値を持っています。

他のLinuxディストリビューションのLTSと比較

Ubuntu LTSは、Linuxディストリビューションの中でも特に著名な長期サポート版ですが、他の主要なLinuxディストリビューションにも同様に長期的なサポートを提供するモデルが存在します。ここでは、いくつかの代表的なディストリビューションと比較しながら、Ubuntu LTSの立ち位置を明確にします。

Debian (Stableブランチ)

Debianは、Ubuntuの母体となったディストリビューションであり、その安定性と自由度の高さで知られています。Debianのリリースモデルは、以下のようなブランチ(開発段階や性質による区分)に分かれています。

  • Unstable: 開発版。常に最新のソフトウェアが導入されるが、不安定。
  • Testing: Unstableからバグが修正されたものが移行。次のStable候補。
  • Stable: 十分にテストされ、安定していると判断されたバージョン。Debianにおける「LTS」に相当する位置づけ。
  • Oldstable: 現在のStableの前のバージョン。セキュリティアップデートが提供される。

DebianのStableブランチは、新しいバージョンがリリースされるまで(通常約2年間)サポートされ、その後さらに約1年間のセキュリティサポートが提供されます(合計約3年間)。さらに、特定の旧Stableバージョンに対しては、コミュニティ主導のDebian LTSプロジェクトによって、リリースから約5年間のセキュリティサポートが提供されています。

Ubuntu LTS vs. Debian Stable/LTS:

  • サポート期間: 標準のサポート期間は、Ubuntu LTS (5年) の方がDebian Stable (約3年) よりも長いです。コミュニティLTSを加えると、Debianも5年になりますが、Debian LTSはコミュニティ主導であり、Canonical社のような単一組織による商用サポート(ESMのようなもの)は別途探す必要があります(またはThird-party LTS)。
  • リリースサイクル: Ubuntu LTSは2年ごとと予測可能ですが、Debian Stableのリリースは「準備ができ次第」であり、周期は一定していません。
  • 最新性: 一般的に、Debian Stableはリリース時点でUbuntu LTSよりも少し古いパッケージを含む傾向があります。これは、Debianの「十分に枯れてから導入」という哲学によるものです。
  • 使いやすさ/ターゲット: Ubuntuは、特にデスクトップ環境やクラウド環境での使いやすさ、商用サポートの提供を意識しており、初心者や企業ユーザーにも比較的アクセスしやすいです。Debianはより自由度が高く、ミニマルなシステム構築や、Linuxの内部を深く理解したいユーザーに向いています。
  • エコシステム: Ubuntuはサードパーティ製ソフトウェアやハードウェアベンダーからのサポートが非常に豊富です。これはDebianよりも進んでいる点と言えます。

CentOS Stream / RHEL (Red Hat Enterprise Linux)

Red Hat Enterprise Linux (RHEL) は、エンタープライズ市場で広く利用されている商用Linuxディストリビューションです。RHELは非常に長いサポート期間を提供しており、そのサポート期間はバージョンによって異なりますが、一般的にリリースから10年間、さらにExtended Life Cycle Support (ELS) を購入することで最大13年間まで延長可能です。

かつて、RHELの無償クローンであるCentOS (Community ENTerprise Operating System) が、RHELと同様に10年間のサポートを提供する無償の「LTS」として非常に人気がありました。しかし、CentOSプロジェクトの戦略が変更され、CentOS Linux 8をもって終了し、現在はCentOS StreamというRHELの「開発版」(RHELの次のマイナーリリースに入る変更が先行して反映されるローリングリリース的な位置づけ)に移行しました。

RHELの長期サポートを無償で利用したい場合は、RHEL自体に用意された開発者向け無償ライセンス(小規模利用向け)や、RHELのクローンであるRocky LinuxやAlmaLinuxなどを利用するという選択肢があります。これらのクローンはCentOS Linuxの後継として、RHELとバイナリ互換性を持ち、長期サポート(通常10年間)を提供しています。

Ubuntu LTS vs. RHEL / CentOS Stream / RHELクローン:

  • サポート期間: RHEL (10年以上) やそのクローン (10年) は、標準のUbuntu LTS (5年) よりも長いサポート期間を提供します。ESM込みのUbuntu LTS (最大10年) と比較すると同等か、RHELがやや長い期間を提供する可能性があります。
  • 商用サポート: RHELはRed Hat社による強力な商用サポートが中心です。Ubuntu LTSはCanonical社による商用サポート(Ubuntu Advantage)に加え、活発なコミュニティサポートがあります。RHELクローンは主にコミュニティサポートとなります。
  • 最新性: RHELはUbuntu LTSと同様に安定性を重視するため、リリースに含まれるパッケージは比較的古い傾向があります。CentOS Streamは開発版のため、比較的新しいパッケージを含みますが、安定性はLTSに劣ります。
  • ターゲット: RHELとそのクローンは、主にエンタープライズのサーバー環境を強く意識しています。Ubuntu LTSはサーバーだけでなく、デスクトップ、クラウド、組み込みと幅広い用途をカバーしています。
  • エコシステム: RHELはエンタープライズ分野で非常に強いエコシステムを持ち、多くのエンタープライズ向けソフトウェアがRHELをサポートしています。Ubuntuも近年エンタープライズ分野でのプレゼンスを高めており、クラウド分野では特に強力です。

Fedora (短期間リリース)

FedoraはRed Hat社がスポンサーとなっているコミュニティディストリビューションであり、RHELの「開発版」的な位置づけを持ちます(ただし、CentOS Streamとは開発の流れが異なります)。Fedoraは非常に新しいソフトウェアや技術を積極的に取り込むことを目的としており、リリースサイクルは約6ヶ月と短く、各リリースのサポート期間も約13ヶ月と非常に短いです。

FedoraにはLTSのような長期サポートモデルは存在しません。最新技術のテストベッドとしての性格が強く、常に新しいバージョンに追従することが前提となっています。

Ubuntu LTS vs. Fedora:

  • サポート期間: Fedora (約13ヶ月) はLTSではありません。長期サポートが必要な場合は、Ubuntu LTSやRHEL/そのクローンを選択する必要があります。
  • 最新性: Fedoraは常に最新のソフトウェアや技術を取り込んでおり、この点ではUbuntu LTSやRHELよりもはるかに「新しい」です。
  • 安定性: 最新技術を積極的に導入するため、LTSに比べると安定性は劣る傾向があります。
  • ターゲット: Fedoraは、最新技術を試したい開発者、Linuxの最先端を知りたいエンスージアスト、そしてRHELの将来を知りたいユーザーなどに向いています。Ubuntu LTSは、安定性、信頼性、長期サポートを重視するユーザーに向いています。

openSUSE Leap (LTS的な位置づけ)

openSUSEには、ローリングリリースのTumbleweedと、定期リリース版のLeapがあります。Leapは、RHELの無償版であるCentOSと同様に、SUSE Linux Enterprise (SLE) をベースとしており、エンタープライズ向けの技術をコミュニティ向けに提供する役割を持っています。

openSUSE Leapは、SLEの特定のバージョンに対応しており、通常約3年間のサポートが提供されます。これはUbuntuの標準LTS (5年) よりは短いですが、ローリングリリースではない安定版として利用できます。

Ubuntu LTS vs. openSUSE Leap:

  • サポート期間: Ubuntu LTS (5年) の方がLeap (約3年) よりも標準サポート期間が長いです。
  • ベース: LeapはSLEをベースとしており、エンタープライズ向けの技術を多く取り入れています。UbuntuはDebianをベースとしつつ、独自のパッケージングや開発プロセスを持っています。
  • パッケージ管理: UbuntuはAPT、openSUSEはZypperという異なるパッケージ管理システムを使用します。
  • ターゲット: どちらもデスクトップ、サーバーの両方で利用されますが、openSUSEはエンタープライズ分野や、YaSTという強力な管理ツールを好むユーザーに一定の人気があります。Ubuntuはより幅広い層に受け入れられています。

比較のまとめ:

Ubuntu LTSは、5年間(ESM込みで最大10年間)という長期サポート期間、安定性、広範なエコシステム、そして使いやすさという点で、多くのユーザーにとってバランスの取れた選択肢と言えます。RHELやそのクローンはさらに長いサポート期間を提供することがありますが、主にエンタープライズサーバー市場に特化しており、商用サポートの形態や利用哲学が異なります。Debian Stableは非常に安定していますが、標準サポート期間はUbuntu LTSより短く、LTSはコミュニティ主導です。Fedoraのような短期リリースはLTSとは性質が全く異なります。

このように比較すると、Ubuntu LTSは「無償で利用可能」「比較的使いやすい」「サーバーからデスクトップ、クラウドまで幅広い用途に対応」「5年間の十分な標準長期サポート」という点で、ユニークな立ち位置を占めていることが分かります。これが、特にクラウド環境や企業の標準OSとして、世界中で広く採用されている理由の一つと言えるでしょう。

Ubuntu LTS の将来展望

Ubuntu LTSは、その成功と普及により、Linuxエコシステムにおいてますます重要な存在となっています。Canonical社は、LTSリリースの品質向上とサポート体制の強化に継続的に取り組んでおり、その将来は明るいと言えるでしょう。

次のLTSバージョンへの期待

LTSリリースは2年ごとにサイクルを繰り返しており、現在の最新LTSである22.04 LTS (Jammy Jellyfish) の次は、2024年4月に24.04 LTSがリリースされる予定です。新しいLTSバージョンがリリースされるたびに、そこには過去2年間の通常リリースで成熟した新しい技術や、既存技術の改良が取り込まれます。

24.04 LTSでは、例えば以下のような点が期待されます(開発状況や方針により変更の可能性はあります):

  • 新しいLinuxカーネルバージョンによるハードウェアサポートの向上やパフォーマンス最適化
  • 新しいGNOMEデスクトップ環境バージョン(またはそれに準ずる安定版)によるユーザーエクスペリエンスの向上
  • 重要なソフトウェアパッケージ(GCC, Python, OpenSSLなど)の新しい安定版の導入
  • セキュリティ機能の強化
  • Snapパッケージやコンテナ技術とのさらなる連携強化
  • クラウド環境やエッジデバイスへの対応強化

次のLTSバージョンは、現在のLTSバージョンを置き換える後継として、今後数年間にわたって利用されるシステムの基盤となるため、多くのユーザーからの期待が集まっています。

SnapパッケージやWaylandなどの新技術の導入状況

Ubuntuは伝統的にdebパッケージによるソフトウェア管理システム(APT)を主に使用してきましたが、近年は新しいパッケージングフォーマットであるSnapパッケージにも力を入れています。Snapは、アプリケーションとその依存関係をまとめてパッケージ化し、セキュリティサンドボックス内で実行する技術です。これにより、ディストリビューションのバージョンに依存せず最新版のソフトウェアを提供しやすくなる、セキュリティを強化できるといったメリットがあります。

LTSバージョンにおいても、主要なアプリケーション(ブラウザ、エディタなど)がSnapパッケージで提供されることが増えています。これは、LTSの安定した基盤上で、一部のアプリケーションをより新しいバージョンや独立した形で提供するという、LTSの哲学とSnapの利点を組み合わせる方向性を示しています。

また、デスクトップ環境における新しいディスプレイサーバープロトコルであるWaylandへの移行も進んでいます。UbuntuはGNOMEデスクトップにおいてWaylandの採用を進めており、LTSバージョンでもWaylandがデフォルトまたは推奨される方向に向かう可能性があります。これは、セキュリティやパフォーマンスの向上をもたらす一方で、一部のレガシーなアプリケーションや特定のグラフィックドライバとの互換性問題を引き起こす可能性もあり、LTSにおいては安定性を考慮した上で慎重に進められています。

これらの新しい技術の導入は、Ubuntu LTSの利用体験を向上させる一方で、一部のユーザーにとっては慣れや対応が必要となる変化をもたらす可能性も秘めています。

クラウド、コンテナ、AI分野でのLTSの役割

クラウドコンピューティング、コンテナ技術(Docker, Kubernetes)、そして近年急速に発展しているAI/ML分野は、Linux、特にUbuntuの主要な活躍の場となっています。

  • クラウド: Ubuntu LTSは、主要なクラウドプロバイダーにおけるデファクトスタンダードOSの一つであり続けています。クラウド環境でのセキュリティ、安定稼働、そしてスケーラビリティのニーズに応えるため、Ubuntu LTSはクラウド向けに最適化されたイメージ提供や、クラウド関連技術(OpenStackなど)との連携を強化していくでしょう。
  • コンテナ: コンテナイメージのベースOSとして、あるいはコンテナ実行環境(Docker, containerd)やオーケストレーションツール(Kubernetes)のホストOSとして、Ubuntu LTSの重要性は増しています。軽量なコンテナイメージであるUbuntu BaseやUbuntu Minimal、そしてMicroK8sのようなKubernetesディストリビューションの提供は、コンテナ分野におけるUbuntuの存在感をさらに高めています。長期サポートは、コンテナ化されたアプリケーションをデプロイする基盤として信頼性を提供します。
  • AI/ML: データサイエンスや機械学習の分野では、Python, TensorFlow, PyTorch, CUDAなどのライブラリやフレームワークが多用されます。これらの多くはLinux上で動作し、特にUbuntuが主要な開発・実行プラットフォームとして利用されています。NVIDIAとの連携によるGPUコンピューティングへの対応強化や、関連ライブラリの提供など、Ubuntu LTSはAI/ML分野でのニーズに応えるための機能強化を進めていくと考えられます。

これらの分野での技術革新は非常に速いですが、その基盤となるOSには安定性と信頼性が求められます。Ubuntu LTSは、最新技術への対応を一定の安定性基準でフィルタリングしつつ、長期的なサポートを提供することで、これらの先進分野における安定した足場を提供し続けるでしょう。

Canonical社のビジネス戦略とLTSの関係

Ubuntu LTSの強力なサポート体制や、ESM、カーネルライブパッチ、Ubuntu Proといった付加価値サービスは、Ubuntuの開発元であるCanonical社のビジネス戦略と密接に関連しています。Canonical社は、無償のオープンソースソフトウェアであるUbuntuを提供しつつ、企業向けの商用サポートやサービスを提供することで収益を上げています。

LTSリリースは、まさにこのビジネスモデルの中心にあります。多くの企業は、無償で高性能なOSであるUbuntu LTSを導入し、必要に応じてCanonical社から有償のサポートや追加サービスを購入します。これにより、Canonical社はUbuntuの開発・維持に必要な資金を確保し、ユーザーは高品質かつサポートの行き届いたOSを利用できるという、双方にとってメリットのある関係が成り立っています。

今後もCanonical社は、企業のニーズに応える形でLTSのサポート体制を強化し、セキュリティや運用効率を高める新しいサービスを提供していくと考えられます。これにより、Ubuntu LTSはエンタープライズ分野での競争力をさらに高め、より多くのユーザーに選ばれる存在であり続けるでしょう。

まとめ

この記事では、「なぜ選ばれる?Ubuntu LTS とは?サポート期間とメリットを解説」と題し、Ubuntu LTSについて多角的な視点から詳細に解説してきました。

Ubuntuには短期サポートの通常リリースと長期サポートのLTSリリースがあり、LTSは2年ごとにリリースされ、標準で5年間、ESMを利用すれば最大10年間という長期にわたる手厚いサポートが提供されるバージョンです。この長期サポートは、単に期間が長いだけでなく、セキュリティアップデートやバグ修正が継続的に提供されることを意味します。

Ubuntu LTSが多くのユーザーや組織に選ばれる最大の理由は、その長期サポートがもたらす圧倒的な「メリット」にあります。

  1. 安定性: 厳格なテストプロセスと安定性重視の開発方針により、長期にわたるシステム運用において予測可能な安定性を提供します。
  2. セキュリティ: 5年または10年という長期にわたるセキュリティアップデート提供と、迅速な脆弱性対応により、システムを安全に保つことができます。ESMやカーネルライブパッチといった追加機能もセキュリティを高めます。
  3. 信頼性: 世界中の多くの企業や組織での採用実績、そして高い安定性とセキュリティが、Ubuntu LTSの信頼性を確立しています。
  4. コスト効率: 無償での長期サポートにより、OSのライセンス費用や頻繁なアップグレードにかかるコストを削減できます。
  5. コミュニティとエコシステム: 活発なコミュニティ、豊富な情報、そして広範なソフトウェア/ハードウェア互換性が、利用における様々な側面をサポートします。
  6. 予測可能性: 決まったリリースサイクルと明確なサポート期間により、システム計画や投資判断を容易にします。

これらのメリットにより、Ubuntu LTSは企業のサーバー環境、クラウドプラットフォーム、開発環境、そして安定稼働が必須な組み込みシステムなど、幅広い分野で利用されています。

一方で、LTSには「最新のソフトウェアバージョンが利用しにくい」「新しいハードウェア対応にタイムラグがある」「新機能の導入が遅い」といった、安定性重視ゆえの考慮事項も存在します。また、超長期サポートにはESMのコストが発生する場合もあります。これらのデメリットとメリットを比較検討し、自身のニーズに合ったリリースを選択することが重要です。

他のLinuxディストリビューションと比較しても、Ubuntu LTSは無償での長期サポート、使いやすさ、幅広い用途への対応という点でユニークな位置を占めています。RHELやそのクローンはさらに長いサポートを提供することもありますが、エンタープライズサーバーに特化している傾向があります。Debian Stableは非常に安定していますが、標準サポート期間はLTSより短いです。

Ubuntu LTSは今後も進化を続け、新しい技術を取り込みつつ、クラウド、コンテナ、AIといった分野での役割をさらに拡大していくと見られます。Canonical社のビジネス戦略も、LTSを中心とした商用サポートによって成り立っており、LTSの品質とサポート体制は今後も維持・強化されていくでしょう。

どのようなユーザー/組織にLTSが適しているか

以上の点を踏まえると、Ubuntu LTSは特に以下のようなユーザーや組織に強く推奨されます。

  • 長期的なシステム運用を計画している企業や組織: サーバー、基幹システム、社内共通デスクトップ環境など。
  • 安定性、信頼性、セキュリティを最優先する環境: 生産システム、ミッションクリティカルなアプリケーション、コンプライアンス要件があるシステムなど。
  • 頻繁なOSアップグレードを避けたいユーザーや組織: アップグレードにかかる手間やコストを削減したい場合。
  • 無償で利用できる高性能なOSを探しているユーザーや組織: コストを抑えつつ、エンタープライズレベルのサポートを得たい場合。
  • 特定のサードパーティ製ソフトウェアやハードウェアを利用する場合: Ubuntu LTSでの動作が公式にサポートされていることが多いです。

結論:なぜUbuntu LTSは多くのユーザーに選ばれ続けるのか

結論として、Ubuntu LTSは、その「長期サポートによる圧倒的な安定性、セキュリティ、信頼性」を、「無償かつ幅広い用途」で提供できるという点において、他の追随を許さない強力なアドバンテージを持っています。システム運用において最も重要視されるこれらの要素を満たしつつ、導入・維持のコストを抑えることができるため、企業から個人まで、世界中の多様なユーザーに選ばれ続けているのです。予測可能なリリースサイクルとサポートポリシーは、将来計画を容易にし、安心して長期的に利用できる基盤を提供します。

Ubuntu LTSは、単なるOSのバージョンではありません。それは、安定した未来を見据えた技術選択であり、運用効率を高めるための賢い戦略であり、そして世界中の開発者や組織に信頼される、オープンソースの力強い証明なのです。もしあなたがLinuxディストリビューションの選択に迷っているなら、特に長期利用を考えているのであれば、Ubuntu LTSは間違いなく最有力候補の一つとなるでしょう。その豊富なメリットを理解し、ぜひあなたのシステム構築や開発に活かしてください。

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