Oracle Universal Installer (OUI) とは?機能と役割を解説

はい、承知いたしました。Oracle Universal Installer (OUI) の機能と役割について、詳細な解説を含む約5000語の記事を作成します。


Oracle Universal Installer (OUI) とは?機能と役割を徹底解説

はじめに:エンタープライズシステムの複雑性とインストーラーの必要性

現代のビジネスを支えるエンタープライズシステムは、しばしば非常に複雑なアーキテクチャを持っています。特にデータベースシステムは、その性能、可用性、セキュリティがビジネスの継続性に直結するため、高機能で信頼性の高い製品が要求されます。Oracle Databaseは、その卓越した機能群とエンタープライズレベルの堅牢性から、長年にわたり多くの組織で採用されてきました。

しかし、Oracle製品は機能が豊富である反面、インストール、構成、そして日々の管理が複雑になりがちです。OSとの依存関係、多数のコンポーネント、パッチ適用やバージョンアップの要件、クラスタ環境特有の設定など、考慮すべき事項は膨大に存在します。これらの作業を手作業で行うと、人為的なミスが発生しやすく、膨大な時間とコストがかかるだけでなく、環境によって手順がばらつき、運用の標準化が困難になるという課題があります。

こうした背景から、Oracle製品の導入プロセスを標準化し、複雑性を吸収し、自動化を可能にするための専用ツールが不可欠となりました。そこで開発され、Oracle製品のデプロイメントと管理において中心的な役割を担っているのが、「Oracle Universal Installer(OUI)」です。

OUIは単なるファイルコピープログラムではありません。Oracle製品の導入から廃棄に至るまでの「ライフサイクル管理」を支援するための、高度な機能を備えた統合ツール群です。本記事では、このOUIがどのようなツールであり、どのような機能と役割を果たしているのかを、その内部構造や具体的な使用シナリオ、トラブルシューティングのポイントを含めて詳細に解説します。

Oracle Universal Installer (OUI) とは

Oracle Universal Installer(OUI)は、Oracle製品群のインストール、構成、パッチ適用、アンインストールといった一連のライフサイクル管理タスクを実行するための、Javaベースのソフトウェアです。その名称にある「Universal」が示す通り、多岐にわたるOracle製品(データベース、Fusion Middleware、各種クライアント、アプリケーションなど)と、多様なオペレーティングシステム(Linux, Unix, Windows, macOSなど)に対して、一貫性のある統一されたインストールおよび管理体験を提供することを目的としています。

OUIが登場する以前のOracle製品は、インストール手順が製品ごと、あるいはバージョンごとに大きく異なり、管理者にとって大きな負担となっていました。OUIはこれらの差異を吸収し、ウィザード形式の対話型インターフェースや、自動化に適したサイレントインストール機能を提供することで、製品導入の負荷を大幅に軽減しました。

OUIの操作モードは主に以下の2つです。

  1. GUIモード:
    グラフィカルユーザーインターフェース(GUI)を使用するモードです。ユーザーは画面上の指示に従って必要な情報を入力したり、オプションを選択したりしながらインストールを進めます。多くのユーザーにとって直感的で分かりやすく、小規模な環境や最初のインストール試行などでよく利用されます。GUI表示には、X Window System (Unix/Linux) やデスクトップ環境 (Windows) が必要です。

  2. サイレントモード (CLIモード):
    コマンドラインインターフェース(CLI)を使用するモードです。あらかじめ用意した設定ファイルである「応答ファイル(Response File)」に基づいて、ユーザーの操作を介さずに自動的かつ非対話形式でインストールを実行します。多数のサーバーに同じ構成で製品をデプロイする場合や、環境構築の自動化スクリプト、クラウド環境でのプロビジョニングなどに不可欠なモードです。GUI環境がないサーバーでも実行可能です。

OUI自体はJavaアプリケーションとして開発されており、実行にはJava Runtime Environment(JRE)が必要です。Oracle製品のインストールメディアには、OUIが依存する特定のバージョンのJREが通常含まれているため、別途システムにJavaをインストールしていなくても、インストールメディアからOUIを起動することが可能です。

OUIの主要な機能

OUIは、単にソフトウェアをインストールするだけでなく、Oracle製品の導入から管理に関わる様々な機能を提供します。ここでは、その主要な機能を詳しく解説します。

  1. 製品のインストール (Installation)
    OUIの最も基本的な、そして中心的な機能です。Oracle製品の実行可能ファイルやライブラリ、設定ファイルなどをシステムに展開します。

    • インストールタイプの選択: 用途に応じて、以下のようなインストールタイプを選択できます。
      • Typical (標準): 推奨される設定で迅速にインストールを完了します。基本的な環境構築に適しています。
      • Custom (カスタム): インストールするコンポーネント(例:Oracle Text, Spatial, Partitioningなどのオプション)や、インストール先ディレクトリ、各種設定を細かく指定できます。特定の機能のみが必要な場合や、非標準的な構成を行う場合に選択します。
      • Software Only (ソフトウェアのみ): ソフトウェアバイナリだけをインストールし、データベースインスタンスの作成やネットワーク設定などの論理的な構成は後回しにします。この場合、インストール後にDBCA (Database Configuration Assistant) やNETCA (Net Configuration Assistant) などの構成アシスタントを別途実行する必要があります。これにより、インストールと構成のプロセスを分離し、柔軟な対応を可能にします。
    • システム要件と依存関係のチェック: インストールを開始する前に、OUIはシステムが製品のインストール要件を満たしているかを自動的に検証します。必要なOSバージョン、カーネルパラメータ、必須パッケージ(ライブラリ)、メモリ、スワップ領域、ディスク容量、ユーザー権限などをチェックし、不足があれば警告またはエラーとして表示します。エラーが検出された場合は、通常問題を解決しないとインストールを続行できません。これにより、インストール後の予期せぬ不具合を未然に防ぎます。
    • Oracle Homeへの配置: Oracle製品は「Oracle Home」と呼ばれる専用のディレクトリツリーにインストールされます。OUIは、指定されたOracle Homeパスの下に、製品のファイルやディレクトリを配置します。一つのOS上に複数のOracle Homeを作成し、異なるバージョンのOracle製品を共存させたり、開発用と本番用で異なるOracle Homeを使用したりすることが可能です。
    • rootスクリプトの実行: UNIX/Linux環境では、インストールプロセスの一部として、特定の権限設定やOSレベルの構成を行うために、root ユーザー権限でのスクリプト(例: $ORACLE_HOME/root.sh, $ORACLE_BASE/oraInventory/orainstRoot.sh など)の実行が必要になる場合があります。OUIはGUI上でその旨を通知し、ユーザーに手動での実行を促します(サイレントインストールの場合もログに出力されます)。これらのスクリプトは、OSカーネルとの連携や共有メモリの設定など、重要なシステムレベルの構成を行うため、必ず指示通りに実行する必要があります。
  2. 製品のアンインストール (Deinstallation)
    システムにインストールされたOracle製品をクリーンに削除する機能です。単にファイルやディレクトリを削除するだけでなく、インストール時にOUIが記録した情報を基に、関連するファイル、ディレクトリ、レジストリ設定(Windows)、そして後述するOracle Inventoryの情報を体系的に削除します。

    • クリーンな削除: OUIによるアンインストールは、製品に関連する設定やメタデータを含めて削除するため、手動での削除よりもクリーンかつ確実にシステムから製品を排除できます。これにより、将来的に同じ製品を再インストールしたり、別のOracle製品をインストールしたりする際に発生しうる問題を回避できます。
    • Oracle Homeの削除: 基本的には、指定したOracle Homeとその配下の製品ソフトウェアが削除されます。
    • インベントリからの登録解除: アンインストールされた製品およびOracle Homeの情報は、Oracle Central Inventoryから登録解除されます。これにより、システムのOracle製品管理情報が最新の状態に保たれます。

    重要な注意点として、OUIのアンインストール機能は、通常データベースのデータファイル、制御ファイル、REDOログファイルといった「データベース自体」を構成するファイルを削除しません。データベースインスタンスや関連ファイルを完全に削除するには、DBCAや手動でのファイル削除といった別途の手順が必要です。OUIのアンインストールは、あくまで「Oracle Home」にインストールされたソフトウェアバイナリとその関連設定の削除が主目的です。

  3. アップグレードおよびパッチ適用 (Upgrade and Patching)
    既存のOracle製品を新しいバージョンに更新したり、バグ修正やセキュリティ脆弱性対策のためのパッチを適用したりする機能です。

    • メジャーバージョンアップグレード: 例として、Oracle Database 12cから19cへのようなメジャーバージョンアップグレードの場合、通常はまず新しいバージョンのOracleソフトウェアを、既存とは別の「新しいOracle Home」にOUIを使用してインストールします(アウトオブプレイスアップグレード)。その後、DBUA (Database Upgrade Assistant) などのツールを使用して、既存データベースを新しいバージョンのソフトウェアで動作するようにアップグレードします。OUIは、この新しいバージョンのソフトウェアインストールを担当します。
    • パッチセットの適用: Oracleは、累積的なバグ修正や新機能を含む「パッチセット」をリリースすることがあります。これらのパッチセットは、多くの場合OUIを使用してインストールされます。既存のOracle Homeに適用することも、新しいOracle Homeに適用することもあります。
    • 個別パッチ/バンドルパッチの適用: セキュリティ修正や特定のバグ修正のための個別パッチや、複数のパッチをまとめたバンドルパッチ(PSU, RUR, RUなど)は、通常OPatchという別のツールを使用して適用されます。OPatchはOracle Homeに対して直接パッチファイルを適用しますが、この時OPatchはOUIが管理する「Oracle Inventory」情報を参照して、どのOracle Homeにどのバージョンの製品がインストールされているか、そしてどのパッチが既に適用されているかなどを確認します。OUIはパッチ適用処理自体は行いませんが、OPatchが必要とするインベントリ情報を提供する基盤となります。
  4. 製品の構成 (Configuration)
    ソフトウェアのインストール後、製品を実際に使用可能にするための様々な設定を行う機能です。OUI自身がすべての構成タスクを実行するわけではなく、製品固有の「構成アシスタント(Configuration Assistant)」と連携して動作するのが一般的です。

    • 構成アシスタントとの連携: 例えば、Oracle Databaseのインストールが完了すると、OUIは自動的にDBCA (Database Configuration Assistant) を起動します。ユーザーはDBCAを使用して、データベースインスタンスの作成、ストレージの設定(ASM, ファイルシステム)、初期パラメータの設定、サンプルスキーマのロードなどを行います。同様に、ネットワーク設定にはNETCA (Net Configuration Assistant)、Automatic Storage Management (ASM) の設定にはASMCA (ASM Configuration Assistant) などが使用されます。OUIはこれらのアシスタントを起動したり、サイレントインストール時には応答ファイルで指定された設定を基にこれらのアシスタントを自動実行させたりします。
    • OUI内の構成ステップ: 一部の基本的な構成ステップは、OUIのインストールプロセスの一部として直接実行されることもあります。これには、root権限で実行されるスクリプトによるOSレベルの構成や、Oracle Home内のバイナリのリンク設定などが含まれます。
  5. インベントリ管理 (Inventory Management)
    OUIの中核をなす機能の一つであり、システムにインストールされているすべてのOracle製品に関する情報を一元管理する仕組みです。この管理情報は「Oracle Inventory」と呼ばれます。

    • Oracle Central Inventory: システム全体で共有されるインベントリ情報です。このサーバーにインストールされているすべてのOracle Homeに関する情報(パス、バージョン、Home名、Homeタイプなど)、Oracle製品の言語設定、Oracle Inventory自体のログファイルなどが含まれます。Central Inventoryの場所は、OSごとに決まった場所にあるポインタファイル oraInst.loc (Linux/Unix) やレジストリ (Windows) に記録されています。Central Inventoryは通常 /etc/oraInst.loc に指定されたディレクトリ(例: /u01/app/oraInventory)に格納されており、実体はXMLファイル群 (ContentsXML/inventory.xml など) とログファイル群 (logs/) で構成されます。
    • Oracle Home Inventory: 各Oracle Homeディレクトリ内に存在するインベントリ情報です ($ORACLE_HOME/inventory)。このディレクトリには、その特定のOracle Homeにインストールされている製品コンポーネントの詳細や、そのHomeに適用されているパッチに関する情報が格納されています。
    • インベントリの重要性: OUIだけでなく、パッチ適用ツールであるOPatchや、Oracle Homeの管理を行う他のツール(例: orainst コマンド)も、Oracle Inventoryの情報を参照して動作します。Inventoryがシステム上のOracle製品の「真の状態」を示す情報源となるため、その整合性は極めて重要です。Inventoryが破損したり、実際のインストール状態と乖離したりすると、インストール、アンインストール、パッチ適用といったOUIやOPatchの操作が正しく行えなくなるため、Inventoryの適切な管理と保護は非常に重要です。
    • インベントリ管理コマンド: OUIには、インベントリの状態を確認したり、手動でOracle HomeをCentral Inventoryに登録・解除したりするためのコマンドラインオプションが用意されています。例えば、runInstaller -attachHome ... で既存のOracle HomeをInventoryに登録したり、runInstaller -detachHome ... でInventoryから登録解除したり、runInstaller -printInventory でInventoryの内容を表示したりできます。これらのコマンドは、Inventoryに問題が発生した場合や、手動でのリカバリ作業が必要な場合に使用されます。
  6. 静的インストール / サイレントインストール (Silent Installation)
    ユーザーの入力を介さずに、あらかじめ定義された設定に従って自動的にインストールを実行する機能です。応答ファイル(Response File)を使用します。

    • 応答ファイル (.rsp): テキスト形式の設定ファイルで、OUIのGUIウィザードで入力するであろうすべての情報(インストールタイプ、インストール先パス、コンポーネント選択、パスワード、データベース名、ポート番号など)をキー=値の形式で記述します。Oracle製品のインストールメディアには、各製品・バージョンに対応したサンプル応答ファイルが必ず含まれています。これらのサンプルファイルを編集するか、OUIを -record オプション付きで実行して手動インストールの入力を記録させることで、独自の応答ファイルを作成できます。
    • 用途: 大規模なサーバーファームへの一斉展開、開発/テスト/本番環境の標準化、クラウド環境での自動プロビジョニング、DevOpsパイプラインへの統合など、繰り返し行われる環境構築作業において絶大な効果を発揮します。
    • 実行方法: OUIの実行ファイル (runInstaller または setup.exe) を、-silent オプションと -responseFile オプションを指定してコマンドラインから実行します。例: ./runInstaller -silent -responseFile /path/to/your_response_file.rsp
    • セキュリティ: 応答ファイルにはパスワードなどの機密情報が含まれる場合があるため、ファイルのパーミッション設定など、セキュリティ対策を十分に行う必要があります。
  7. クラスタ環境へのインストール (Cluster Installation)
    Oracle Real Application Clusters (RAC) のように、複数のサーバーノードで共有ストレージ上のデータベースに同時にアクセスするクラスタ環境へのソフトウェアインストールをサポートします。

    • クラスタ検証: RACインストールでは、複数のノード間のネットワーク接続、共有ストレージへのアクセス、Clusterware (GI) の状態などが非常に重要です。OUIはインストールを開始する前に、これらのクラスタ環境特有の前提条件を自動的に検証する機能を持ちます。
    • 複数ノードへの展開: OUIを使用してRACソフトウェアをインストールする場合、通常はクラスタ内のいずれか一つのノードからインストールを開始します。OUIは指定された他のノードに自動的にソフトウェアバイナリを配布し、各ノードでインストールプロセスを実行します。これにより、個々のノードで手動インストールを行う必要がなくなります。
    • 共有Oracle Home: Oracle Clusterware File System (ACFS) のような共有ファイルシステム上にOracle Homeを配置し、クラスタ内の複数のノードが同じOracle Homeを共有する構成もサポートされます。OUIはこのような共有環境へのインストールにも対応しています。
  8. ロギング機能 (Logging)
    OUIは、実行されたすべての操作、メッセージ、警告、エラーなどを詳細なログファイルに記録します。これらのログは、インストールやその他の操作中に問題が発生した場合の原因特定とトラブルシューティングにおいて、最も重要な情報源となります。

    • ログファイルの場所: OUIのログファイルは、通常Oracle Central Inventoryのログディレクトリ(例: $ORACLE_BASE/oraInventory/logs)または、OUIの実行ユーザーのホームディレクトリ直下のインストーラーログディレクトリ(例: $HOME/oraInventory/logs)に作成されます。
    • 主要なログファイル:
      • installActions<timestamp>.log: インストール、アンインストール、パッチ適用などの主要な処理の進行状況、成功/失敗、エラーメッセージが記録されます。最も頻繁に参照されるログファイルです。
      • installer<timestamp>.log: OUIプロセスの起動、GUI表示に関する情報、内部的なエラーなどが記録されます。
      • configActions<timestamp>.log: インストール後に実行される構成アシスタント(DBCAなど)に関する情報が記録されることがあります。
    • ログの分析: インストールが失敗した場合、ログファイルを開き、最後に記録されているエラーメッセージやスタックトレースを確認します。これにより、エラーが発生したステップや原因(ファイルアクセス権限、領域不足、前提条件不足、内部エラーなど)を特定できます。
  9. プリチェック / 検証 (Pre-checks / Validation)
    製品のインストールを開始する前に、ターゲットシステムがインストール要件を満たしているかを自動的に検証する機能です。これは、インストール途中の失敗を防ぐための重要なステップです。

    • 検証項目: OSバージョン、必要なOSパッケージ、カーネルパラメータ、メモリ、スワップ、ディスク容量、ユーザー権限、環境変数、ネットワーク設定、クラスタ構成(RACの場合)など、多岐にわたる項目がチェックされます。
    • 結果の表示: チェック結果はGUIまたはログファイルに表示されます。問題が検出された場合は、その詳細と解決策が示されます。エラーレベルの警告が表示された場合は、その問題を解決しないとインストールを続行できません。警告レベルの場合は、続行できることがありますが、推奨されません。
    • 重要性: プリチェックは、インストール後の不安定性やサポート対象外となる構成を避けるためにも非常に重要です。Oracle製品のインストール手順では、OUIのプリチェックをパスすることが必須条件となります。

OUIの役割と重要性

OUIは、Oracle製品のデプロイメントと管理において、以下の点で極めて重要な役割を果たしています。

  1. 標準化と一貫性: OUIは、異なるOSやハードウェアプラットフォーム上でも、Oracle製品のインストール手順を統一します。これにより、管理者はプラットフォームごとの違いを意識することなく、一貫した手順で製品を導入できます。これは、管理者のトレーニングコスト削減や、運用ミスの軽減に大きく貢献します。
  2. 複雑性の隠蔽: Oracle製品の内部構造は非常に複雑ですが、OUIはユーザーに対してウィザード形式の分かりやすいインターフェース(または応答ファイル)を提供することで、その複雑さを隠蔽します。ユーザーは専門的な知識がなくても、必要な情報を入力するだけで、適切なディレクトリ構造の作成、ファイルの配置、レジストリ設定、権限設定などが自動的に行われます。
  3. ライフサイクル全体の管理: OUIは、インストールだけでなく、アンインストール、パッチ適用、アップグレードの基盤ともなります。製品の導入から使用終了までのライフサイクル全体をサポートする中心的なツールとして機能します。
  4. 信頼性の向上: OUIに組み込まれた前提条件チェック機能や、標準化されたインストール手順は、手動でのインストールに比べて失敗のリスクを大幅に低減します。また、問題発生時も、標準的なログファイルから原因を特定しやすいため、トラブルシューティングにかかる時間を短縮できます。
  5. 自動化の実現: 応答ファイルを使用したサイレントインストール機能は、多数のサーバーへの展開や、IaC (Infrastructure as Code) による環境構築の自動化に不可欠です。クラウド環境や仮想化環境での迅速なプロビジョニングにおいて、OUIのサイレントインストール機能は重要な役割を果たします。
  6. 資産管理の基盤: Oracle Inventoryは、システム上にインストールされているすべてのOracle製品、そのバージョン、インストール場所、適用パッチなどを正確に記録します。これは、企業のソフトウェア資産管理(SAM)において非常に価値の高い情報であり、ライセンス遵守の確認や、必要なセキュリティパッチの適用状況の把握などに役立ちます。

OUIの内部構造と動作原理

OUIがどのように動作しているのかを理解することは、特に高度なカスタマイズやトラブルシューティングを行う上で役立ちます。

  1. Javaベースのアプリケーション: OUIはJavaで記述されたクロスプラットフォームアプリケーションです。そのため、Java Runtime Environment (JRE) が必須です。通常、インストールメディアに同梱されているJREが使用されます。これにより、OS標準のJavaバージョンに依存することなく、特定の製品バージョンに必要なJREでOUIを実行できます。
  2. Oracle Inventoryの仕組み: OUIの最も重要な構成要素がOracle Inventoryです。
    • oraInst.loc: このファイルは、システムに一つだけ存在し、Oracle Central Inventoryのルートディレクトリがどこにあるかを示すポインタの役割を果たします。Linux/Unixでは /etc/oraInst.loc に配置されることが一般的で、ファイル内容は通常 inventory_loc=<path_to_oraInventory_dir>inst_group=<oraInventory_owner_group> の形式です。OUIやOPatchはこのファイルを最初に読み込み、Central Inventoryの場所を特定します。
    • Central Inventory Root (oraInventory): oraInst.loc が指し示すディレクトリです。このディレクトリ配下に、システム全体のInventory情報が格納されます。
      • ContentsXML/: システムにインストールされているすべてのOracle Homeに関するメタ情報がXMLファイル (inventory.xml など) として格納されます。各Oracle Homeの名前、パス、インストールされている製品群、バージョン、パッチ情報などが含まれます。これはInventoryの中核データです。
      • logs/: OUIおよびOPatchの実行ログファイルが格納されます。
      • oui/: OUI自身の実行ファイルやライブラリが格納されています。Oracle Home内にOUIのコピーが存在する場合、その $ORACLE_HOME/oui/bin ディレクトリからOUIを起動することも可能です。
      • orainstRoot.sh (Linux/Unix): Central Inventoryの権限などを設定するためのスクリプト。root ユーザーで実行されます。
    • Oracle Home Inventory (<Oracle Home>/inventory): 各Oracle Homeディレクトリ内にもInventoryディレクトリが存在します。ここには、その特定のOracle Homeにインストールされている製品コンポーネントの詳細(どの製品のどのオプションがインストールされているか)や、そのHomeに適用された個別のパッチ情報(Patches/ ディレクトリ内のXMLファイルなど)が格納されています。このHome Inventoryは、特定のOracle Homeに対する操作(例: $ORACLE_HOME/oui/bin/runInstaller -deinstall) の際に参照されます。
  3. 製品定義: OUIが特定のOracle製品をインストールするためには、その製品の構造、ファイルリスト、依存関係、インストール手順などの情報が必要です。これらの情報は、通常インストールメディアの特定のディレクトリ(例: database/stage/Components)に格納されている製品定義ファイル(XMLファイルやメタデータを含むJARファイルなど)として提供されます。OUIはこれらの定義ファイルを読み込み、インストール計画を生成します。
  4. インストールアクション: 製品定義ファイルには、インストール中に実行すべき個々のアクションが定義されています。これには、ファイルのコピー、ディレクトリの作成、シンボリックリンクの作成、レジストリキーの設定、ファイルの権限変更、OSレベルのスクリプト実行、構成アシスタントの起動などが含まれます。OUIのインストールエンジンは、これらのアクションを定義された順序で実行していきます。
  5. 応答ファイルの解析: サイレントインストール時には、OUIはGUIの代わりに応答ファイルから設定値を読み取ります。応答ファイルには、キーと値のペアで設定項目が記述されており、OUIはその値をインストールアクションのパラメータとして使用します。

具体的な使用シナリオと手順例 (概要)

ここでは、代表的なOUIの使用シナリオについて、その手順の概要を示します。詳細な手順は、製品のバージョンやOSによって細部が異なりますので、必ずOracle公式のインストールガイドを参照してください。

  1. 単一インスタンスOracle Databaseのインストール (GUIモード)

    • 準備: OSの前提条件を満たしているか確認し、必要であればパッケージインストールやカーネルパラメータ調整を行います(Oracle Preinstallation RPMを利用すると便利です)。Oracleソフトウェアをインストール・実行するOSユーザー(例: oracle)を作成し、必要なグループ(oinstall, dba など)に所属させます。
    • OUIの起動: ソフトウェアオーナーユーザーでログインし、X Window System が表示可能な環境であることを確認します。ダウンロードしたインストールメディアのzipファイルを解凍し、解凍されたディレクトリにある runInstaller スクリプトを実行します。
    • ウィザードの進行: OUIのGUIウィザードが表示されます。
      • セキュリティアップデートの設定(My Oracle Supportアカウント情報の登録、推奨パッチの確認)。
      • インストールオプションの選択(例: 「Create and configure a single instance database」を選択すると、ソフトウェアインストールと同時にDBCAが実行されデータベースが作成されます。ソフトウェアのみの場合は「Install database software only」を選択します)。
      • システムクラス(Desktop/Server)。
      • Grid Infrastructureの構成(RAC/Clusterwareを使用しない場合はスキップ)。
      • インストールタイプ(Typical/Custom/Software Only)。
      • Oracle Home User(Windowsの場合)。
      • インストール場所(Oracle Baseディレクトリ、Oracle Homeディレクトリ)。
      • Edition(Enterprise Edition, Standard Edition 2など)。
      • データベース構成の詳細(選択した場合):Global Database Name (DB_UNIQUE_NAME), Oracle System Identifier (SID), Container Database (CDB) / Pluggable Database (PDB) 設定, メモリ割り当て, 文字コードセット, サンプルスキーマの有無, Oracle Management Cloudとの連携など。
      • リカバリオプション(Fast Recovery Area (FRA) の設定)。
      • パスワード設定(SYS, SYSTEM, PDB Adminなどのパスワード)。
      • リスナー設定(通常自動的に作成されます)。
      • プリチェックの実行。
      • サマリー画面での設定内容確認。
    • インストール実行: 「Install」をクリックすると、ファイルのコピー、リンク、設定が開始されます。
    • rootスクリプト実行: インストール途中または最後に、rootユーザーで特定のスクリプトを実行するよう指示される場合があります。指示に従い、別のターミナルでrootユーザーに切り替えてスクリプトを実行します。
    • 構成アシスタント実行: ソフトウェアのみインストールした場合、OUI完了後に手動でDBCAやNETCAなどを起動して構成を行います。データベース同時作成を選択した場合は、OUIが自動的にDBCAを起動し、ウィザードに従ってデータベースを作成します。
    • 完了: インストールおよび構成が完了すると、完了メッセージが表示されます。ログファイルを確認し、エラーがないか確認します。
  2. Oracle Real Application Clusters (RAC) のインストール (GUI/サイレント)
    RACのインストールは、まずOracle Clusterwareを含むOracle Grid Infrastructure (GI) をインストールし、その上にOracle Databaseソフトウェアをインストールするという2段階の手順が必要です。

    • Grid Infrastructure (GI) のインストール:
      1. 準備: クラスタ内の全ノードでOS前提条件、ネットワーク(Public/Private)、共有ストレージ(ASMディスク)、Grid Infrastructureインストール用ユーザー(例: grid)、クラスタ検証ユーティリティ (CVU) の実行など、厳密な事前準備が必要です。
      2. OUI起動: GIインストールメディアからOUIを起動します。
      3. インストールオプション: 「Install and Configure Oracle Grid Infrastructure for a Cluster」を選択します。
      4. クラスタ構成: クラスタタイプ(Standard Cluster)、クラスタ名、SCAN名/ポート、ノード情報の追加、ネットワークインターフェースのマッピング(Public/Private/ASM)、ASMディスクグループの構成(ディスクパスの指定、冗長性レベル)、ASMCAの自動起動設定などを設定します。
      5. プリチェック: クラスタ環境特有の厳しいプリチェックが実行されます。ネットワーク検証や共有ストレージ検証は特に重要で、ここでエラーが出た場合は徹底的に原因を排除する必要があります。
      6. インストール実行: 「Install」をクリックすると、指定したすべてのノードにGIソフトウェアが配布・インストールされます。
      7. rootスクリプト実行: OUIの指示に従い、クラスタ内の各ノードでrootユーザーとして指定されたスクリプト(root.sh, orainstRoot.sh など)を実行します。
      8. ASMCA実行: 自動起動設定をしている場合、インストール完了後にASMCAが起動し、ASMディスクグループが構成されます。
    • RAC Database Softwareのインストール:
      1. 準備: Databaseソフトウェアインストール用ユーザー(例: oracle)が必要です。
      2. OUI起動: DatabaseソフトウェアインストールメディアからOUIを起動します。
      3. インストールオプション: 通常は「Install database software only」を選択します(RACデータベースの作成はDBCAで行います)。
      4. クラスタインストール: RAC環境であることをOUIが認識し、クラスタデータベースインストールオプションが表示されます。Oracle Homeの場所を指定します。
      5. ノード選択: ソフトウェアをインストールするクラスタノードを選択します。
      6. プリチェック: データベースソフトウェアに関するプリチェックが実行されます。
      7. インストール実行: 「Install」をクリックすると、選択されたノードにデータベースソフトウェアが配布・インストールされます。
      8. rootスクリプト実行: 必要に応じて、各ノードでrootユーザーとしてスクリプトを実行します。
    • RAC Databaseの作成: ソフトウェアインストール後、DBCAを起動し、RACデータベースを作成します。DBCAはGIによって構成されたASMストレージを利用し、クラスタ内のノードにわたるインスタンスを構成します。
  3. 応答ファイルを使用したサイレントインストール

    • 応答ファイルの準備: インストールメディアに含まれるサンプル応答ファイル (.rsp 拡張子) を、インストールシナリオに合わせてコピー・編集します。GUIモードで入力するであろうすべての情報を応答ファイルに正確に記述します。必須パラメータが不足していると、サイレントインストールは失敗します。パスワードなどの機密情報は、そのままテキストで保存されるため、ファイルのパーミッションなどで保護する必要があります。一部のパスワードパラメータは暗号化して記述することも可能ですが、通常はクリアテキストで記述します。
    • OUIの実行: ソフトウェアオーナーユーザーでログインし、コマンドラインターミナルを開きます。OUIの実行ファイル (runInstaller または setup.exe) を、-silent オプションと -responseFile オプションを指定して実行します。
      bash
      # Linux/Unixの場合
      /path/to/installer/runInstaller -silent -responseFile /path/to/your_response_file.rsp -ignorePrereq # -ignorePrereqは非推奨
      # Windowsの場合
      C:\path\to\installer\setup.exe -silent -responseFile C:\path\to\your_response_file.rsp

      -ignorePrereq オプションは、前提条件チェックでエラーが見つかってもインストールを強制的に続行させますが、インストール後の不具合の原因となるため、本番環境では絶対に使用せず、事前にプリチェックの問題を解消しておくべきです。
    • 進行状況の確認: サイレントインストール中はGUIが表示されないため、インストールの進行状況や結果はログファイル (installActions<timestamp>.log など) を確認することで把握します。
    • rootスクリプト実行: サイレントインストール中でも、root権限でのスクリプト実行が必要な場合があります。OUIはログにその旨を出力し、インストール自体は停止せずに続行されることが多いです。自動化スクリプトを作成する場合は、ログを監視してrootスクリプトの実行指示を検知し、別途root権限でスクリプトを実行する処理を組み込む必要があります。
    • 完了: インストールが完了すると、OUIプロセスは終了します。ログファイルで最終的な成功または失敗を確認します。構成アシスタントの実行も応答ファイルで制御できます。
  4. 製品のアンインストール

    • OUIの起動: アンインストールしたいOracle Homeに関連付けられたOUI、またはCentral Inventoryに登録されているOUIを起動します。ソフトウェアオーナーユーザーでログインし、コマンドラインで以下のコマンドを実行します。
      bash
      # アンインストールしたい Oracle Home の OUI を使用する場合 (推奨)
      $ORACLE_HOME/oui/bin/runInstaller -deinstall -home $ORACLE_HOME
      # Central Inventory の OUI を使用する場合
      $ORACLE_BASE/oraInventory/oui/bin/runInstaller -deinstall -home $ORACLE_HOME # Inventory の場所に注意
    • アンインストール対象の選択: OUIが起動し、指定したOracle Homeにインストールされている製品コンポーネントが表示されます。アンインストールしたい製品またはOracle Home全体を選択します。
    • アンインストール実行: 確認後、アンインストールを実行します。OUIは製品に関連するファイルを削除し、InventoryからそのOracle Homeおよび製品情報を登録解除します。
    • 完了: アンインストールが完了すると、完了メッセージが表示されます。ログファイルで結果を確認します。データベースファイル自体は通常削除されないため、必要に応じて手動で削除します。

トラブルシューティングの基礎

OUIを使用したインストールや管理タスクで問題が発生した場合、原因を特定し解決するために以下の基本的な手順と考慮事項があります。

  1. ログファイルの徹底的な確認: 何よりもまず、OUIが生成したログファイル(特に installActions<timestamp>.log)を確認します。エラーメッセージ、エラーコード(例: INS-xxxx, PRVF-xxxx)、警告、スタックトレースなどが記録されています。ログの末尾から遡って、エラーが発生した正確なステップと原因を特定しようとします。
  2. エラーメッセージ/コードの検索: ログファイルで見つかった具体的なエラーメッセージやコードを、Oracle Supportのナレッジベース (My Oracle Support, MOS) やインターネットで検索します。多くの場合、同じ問題に遭遇した他のユーザーや、Oracleが提供する解決策に関する情報が見つかります。MOSのドキュメント番号(Doc ID)が見つかれば、最も信頼性の高い情報源となります。
  3. 前提条件チェックの再実行: インストールが失敗した場合、OUIの実行ファイルに -executePrereqs オプションを付けて再度前提条件チェックのみを実行してみます。これにより、インストール失敗の原因が環境設定の問題であるかを再確認できます。プリチェックで検出された問題を解決してから、再度インストールを試みます。
  4. OSユーザーの権限と環境変数: OUIを実行しているOSユーザー(例: oracle ユーザー)が、インストール先のディレクトリ、Oracle Baseディレクトリ、Oracle Inventoryディレクトリに対して適切な読み取り、書き込み、実行権限を持っていることを確認します。また、ORACLE_BASE, ORACLE_HOME (インストール前のソフトウェアオンリーの場合など), PATH, LD_LIBRARY_PATH / LIB_PATH / SHLIB_PATH (UNIX/Linux), TEMP/TMP (Windows) といった環境変数が正しく設定されているか確認します。不適切な umask 設定もファイル作成エラーの原因となることがあります。
  5. ディスク容量: インストール先のファイルシステム、Oracle Baseディレクトリ、そして一時ファイルが作成される /tmp ディレクトリ(Windowsでは%TEMP%)に十分な空き容量があることを確認します。インストールに必要な容量は製品やインストールタイプによって異なりますが、OUIのウィザードやドキュメントに記載されています。
  6. Oracle Inventoryの問題: Oracle Central Inventory (oraInventory) が破損したり、権限が正しくなかったりすると、OUIがOracle Homeを認識できなかったり、起動自体に失敗したりすることがあります。
    • /etc/oraInst.loc (Linux/Unix) やレジストリ (Windows) の内容が正しいか、Oracle Central Inventoryの場所を正しく指しているか確認します。
    • oraInventory ディレクトリとその配下のファイル/ディレクトリの所有者と権限が正しいか確認します(通常はInventoryグループとInventoryオーナーユーザー)。
    • Inventoryの整合性に問題がある場合、OPatchの opatch lsinventory -invPtrLoc <oraInst.loc> コマンドで状態を確認したり、Oracle Supportが提供するInventory修復ツールや手順を実行する必要がある場合があります。Inventoryの直接的な手動編集はリスクが高いため、慎重に行うか、可能な限りOracle推奨の手順に従います。
  7. OSパッチとパッケージ: 特定のOracle製品バージョンは、特定のOSパッチレベルや、特定のOSパッケージ(例: binutils, compat-libstdc++, glibc など)のバージョンを必要とします。OUIのプリチェックで不足が指摘された場合は、指示に従ってパッケージをインストールします。
  8. 互換性: 使用しているOUIのバージョン、インストールしようとしているOracle製品のバージョン、OSのバージョン/アーキテクチャの組み合わせが、Oracleのサポートマトリックス上でサポート対象となっているかを確認します。通常、インストールメディアに含まれるOUIは、その製品をそのOSにインストールするために必要なバージョンです。

関連ツールとの連携

OUIはOracle製品のデプロイメントエコシステムの中核を担いますが、単独で全ての作業を完結させるわけではありません。他のツールと連携して機能します。

  • Configuration Assistants (DBCA, NETCA, ASMCAなど): OUIは主にソフトウェアバイナリの展開を担当します。データベースインスタンスの作成、リスナー設定、ASM構成といった論理的な構成は、それぞれ専用の構成アシスタントが行います。OUIはインストール完了後にこれらのアシスタントを起動したり、サイレントインストールではアシスタントの自動実行を制御したりします。
  • OPatch: 個別パッチやバンドルパッチをOracle Homeに適用するためのツールです。OPatchはOUIのOracle Inventory情報を参照して、パッチ適用対象のOracle Homeを特定し、パッチの衝突チェックや適用/削除を行います。パッチセット全体のインストールにはOUIが使われることもありますが、累積パッチやセキュリティパッチにはOPatchが使われるという役割分担があります。
  • Gold Image: OUIでインストールされたOracle Homeを、標準的なテンプレートとしてディスクイメージ化(Gold Image化)することができます。このGold Imageを利用すると、新しいサーバーへのデプロイメントをOUIの全プロセスを繰り返すことなく、イメージのコピーと簡単な構成のみで迅速に行えるようになります。
  • Rapid Home Provisioning (RHP) / Fleet Patching and Provisioning (FPP): 大規模環境やクラウド環境におけるOracle Databaseのプロビジョニング、パッチ適用、アップグレードを高度に自動化するためのツールです。RHP/FPPは、OUIで作成されたGold Imageを基盤として、多数のサーバーに対して標準化されたOracle Homeのデプロイやパッチ適用を効率的に行います。OUIは、RHP/FPPが使用するGold Imageを作成する際に、ベースとなるインストールエンジンとして使用されます。つまり、OUIはこれらの高レベル自動化ツールのさらに下位層、基盤部分を担っていると言えます。

OUIの進化と将来

Oracle Universal Installerは、Oracle製品の進化、特にクラウドや自動化の流れに合わせて機能強化や位置づけの変化を続けています。

  • バージョンの進化: Oracle Databaseのメジャーバージョンアップ(10g, 11g, 12c, 18c, 19c, 21cなど)とともに、OUI自体のバージョンも更新され、対応OSやハードウェアの拡大、ユーザーインターフェースの改善、新しい機能(例: マルチテナント対応、インメモリオプション対応)のサポートなどが追加されてきました。
  • クラウド環境と自動化: Oracle Cloud Infrastructure (OCI) やその他のクラウドプラットフォームでは、DBaaS (Database as a Service) やPaaS (Platform as a Service) の形態でデータベースが提供されることが増えています。これらのサービスでは、基盤となるOracleソフトウェアのデプロイメントは、クラウドプロバイダーによって自動的に行われます。ユーザーが直接OUIを操作する機会は減るかもしれませんが、これらのサービスの内部では、引き続きOUIのエンジンやInventory管理の仕組みが基盤として動作している可能性があります。
  • IaCとの統合: Infrastructure as Code (IaC) の普及に伴い、Oracle環境の構築もTerraform, Ansible, Chef, Puppetなどの汎用的なIaCツールと連携して行われるケースが増えています。OUIの応答ファイルによるサイレントインストールは、これらのツールから呼び出され、自動化されたデプロイメントパイプラインの一部として組み込まれることが一般的になっています。Oracle自身も、Kubernetes OperatorやTerraform Providerを提供しており、これらを通じて宣言的な方法でOracle Databaseをデプロイする際に、OUIがバックエンドで利用されることもあります。
  • 今後の展望: 今後も、OUIはOracle製品のオンプレミスデプロイメントにおいて中心的なツールであり続けるでしょう。同時に、クラウドネイティブな環境や高度な自動化の要求に応えるため、他のツールとの連携強化、APIを通じた制御性の向上、コンテナ環境への対応などがさらに進化していく可能性があります。しかし、その根幹にある「Oracleソフトウェアを標準化された方法でデプロイし、システム上で管理する」というOUIの基本的な役割は変わらないと考えられます。

まとめ

Oracle Universal Installer (OUI) は、Oracle Databaseをはじめとする広範なOracle製品の導入・管理において、最も重要かつ中心的な役割を担うツールです。その機能は単なるソフトウェアのインストールにとどまらず、アンインストール、パッチ適用、アップグレードの基盤となり、製品のライフサイクル管理全体をサポートします。

GUIモードによる分かりやすい対話型インストールは、手動での環境構築に適しており、初めての製品導入でもスムーズな操作を可能にします。一方、応答ファイルを利用したサイレントインストール機能は、大規模な環境への展開や、自動化されたプロビジョニング、IaCの実践において不可欠な機能です。

OUIの信頼性の高い前提条件チェックは、インストール後の不具合を未然に防ぐ上で極めて重要です。また、システム上のOracle製品の情報を一元管理するOracle Inventoryは、製品の管理、パッチ適用、トラブルシューティングの基盤となる、OUIの中核をなす要素です。

OUIは、DBCAやNETCAといった構成アシスタント、パッチ適用ツールのOPatch、さらにはGold ImageやRHP/FPPといったより高度な自動化ツールとも連携し、Oracle製品のデプロイメントエコシステムにおいて重要な位置を占めています。

Oracle製品を扱うすべてのエンジニアにとって、OUIの機能、GUIおよびサイレントモードでの使用方法、インベントリの仕組み、そして基本的なトラブルシューティングの方法を理解することは、日々の運用管理業務の効率化と、システムの安定稼働のために不可欠です。

技術の進化に伴い、クラウド環境やコンテナ化が普及し、デプロイメントの自動化がますます進む中でも、OUIによって確立されたソフトウェアデプロイメントと管理の基本的な考え方やメカニズムは、形を変えつつも今後もOracle製品の基盤として生き続けるでしょう。したがって、Oracle Universal Installerは、過去から現在、そして将来にわたって、Oracle製品管理者にとって常に学び、使いこなすべき重要なツールであり続けると言えます。


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