【徹底解説】Canon EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM:性能・描写・評判の全てを知る
写真愛好家にとって、望遠レンズは世界を切り取るための強力なツールです。遠くの被写体を間近に引き寄せ、圧縮効果で独特な遠近感を生み出し、背景を大きくぼかすことで主題を際立たせる。その中でも、キヤノンのEFレンズラインアップにおいて、汎用性と高性能を高次元で両立させた望遠ズームレンズとして、多くのプロ・アマチュア写真家から絶大な支持を受けているのが、「EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM」です。
このレンズは、スポーツ、野鳥、鉄道、航空機、風景、さらにはポートレートまで、幅広いジャンルで活躍できるポテンシャルを秘めています。先代の「EF100-400mm F4.5-5.6L IS USM」(通称I型)から約16年の時を経て登場した「II型」は、光学性能、AF性能、手ブレ補正効果、操作性など、あらゆる面で劇的な進化を遂げました。
本記事では、この「EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM」について、その「性能」「描写」「評判」を徹底的に掘り下げて解説していきます。約5000語に及ぶ詳細な分析を通じて、このレンズの真価、そしてなぜ多くのユーザーに愛され続けているのかを明らかにします。購入を検討されている方、すでにお使いの方も、ぜひ最後までお読みいただき、このレンズの魅力の全てを知っていただければ幸いです。
1. Canon EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM とは
まず、EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USMがどのようなレンズなのか、その概要と位置づけを確認しましょう。
このレンズは、キヤノンの交換レンズラインアップにおける「Lレンズ」シリーズに属します。「L」はLuxury(贅沢、高品質)を意味し、蛍石やUDレンズといった特殊光学材料を惜しみなく投入し、高度な設計と厳しい品質管理のもとで製造される、キヤノンの最高級レンズ群です。優れた光学性能、高い堅牢性、防塵防滴性能などを備え、プロフェッショナルの要求に応えるべく設計されています。
EF100-400mm IIは、焦点距離100mmから400mmをカバーする望遠ズームレンズであり、開放F値は広角端100mmでF4.5、望遠端400mmでF5.6となります。ズーム全域でF2.8やF4といった明るさを維持するレンズ(いわゆる「大口径ズーム」)ではありませんが、その分、比較的軽量・コンパクトにまとめられており、手持ち撮影の機動性を確保しています。
キヤノンの望遠レンズラインアップには、EF400mm F2.8L IS III USMやEF500mm F4L IS II USMといった超望遠単焦点レンズも存在します。これらの単焦点レンズは圧倒的な明るさと描写性能を誇りますが、焦点距離が固定されており、非常に高価で重量も大きくなります。一方、EF100-400mm IIは、ズームによって柔軟に画角を選べる利便性があり、単焦点レンズに迫る描写性能を持ちながらも、価格やサイズにおいてより現実的な選択肢となります。
スポーツ写真では、選手の動きに合わせて瞬時にズームしてフレーミングを変えたり、野鳥撮影では鳥の大きさに応じて焦点距離を調整したり、鉄道撮影では編成全体から先頭車両のアップまで一本で対応したりと、そのズームレンジの広さが最大の武器となります。
本記事では、このEF100-400mm IIの魅力と実力を、スペック、性能、描写、評判という多角的な視点から徹底的に深掘りしていきます。
2. 基本スペック:EF100-400mm II の素顔
EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USMの主要なスペックを見ていきましょう。これらの数値が、レンズの性能や使い勝手を決定づける要素となります。
項目 | 仕様 |
---|---|
レンズマウント | キヤノンEFマウント |
対応センサー | 35mmフルサイズ、APS-C |
焦点距離 | 100-400mm |
開放F値 | F4.5(100mm時)- F5.6(400mm時) |
最小絞り | F32(100mm時)- F40(400mm時) |
レンズ構成 | 16群21枚 |
特殊レンズ | 蛍石レンズ1枚、UDレンズ1枚 |
コーティング | ASC (Air Sphere Coating)、SWC (Subwavelength Structure Coating)、フッ素コーティング |
絞り羽根枚数 | 9枚(円形絞り) |
最短撮影距離 | 0.98m |
最大撮影倍率 | 0.31倍(400mm時) |
フィルター径 | 77mm |
最大径×長さ | 約φ94mm×193mm |
質量 | 約1,570g(三脚座含む) |
手ブレ補正効果 | 4段分 (CIPA基準) |
ISモード | Mode 1, Mode 2, Mode 3 |
AF駆動 | リング型USM |
フルタイムMF | 可能 |
AFリミッター | 搭載(FULL / ∞-6m / 6m-0.98m) |
防塵防滴 | 配慮された構造 |
フード | EW-77B(バヨネット式、操作窓付き) |
三脚座 | 着脱式(アルカスイス互換シュー付き) |
発売時期 | 2014年12月 |
このスペック表から、このレンズが随所に改良が加えられていることが読み取れます。特に注目すべきは、最短撮影距離の短縮(I型の1.8mから0.98mへ)、最大撮影倍率の向上(I型の0.2倍から0.31倍へ)、手ブレ補正効果の向上(I型の2段分から4段分へ)、ズーム方式の変更(直進式から回転式へ)、そしてASCコーティングの採用などです。これらの進化が、性能、描写、使い勝手の向上に大きく貢献しています。
3. 性能詳細分析:進化の真髄に迫る
EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USMが、先代からどのように進化し、どのような高性能を実現しているのかを、各項目ごとに詳細に見ていきましょう。
3.1. 光学性能:妥協なき高画質への追求
Lレンズたる所以は、その優れた光学設計と特殊光学材料にあります。EF100-400mm IIも例外ではありません。
- レンズ構成: 16群21枚のレンズ構成を採用しています。これはI型の17群21枚から変更されていますが、枚数は同じでも配置やレンズの種類が最適化されています。
- 特殊光学材料: 色収差を徹底的に抑制するために、蛍石レンズ1枚とUD(Ultra Low Dispersion)レンズ1枚を贅沢に配置しています。蛍石はフッ化カルシウムを主成分とする結晶体で、ガラスでは不可能なレベルで分散を抑える特性を持ちます。UDレンズも特殊低分散ガラスであり、これらを組み合わせることで、望遠レンズで発生しやすい望遠端での色収差(特に軸上色収差)を効果的に補正し、色にじみのないクリアな描写を実現しています。
- ASC (Air Sphere Coating): キヤノン独自のコーティング技術であるASCが初めて採用されたEFレンズの一つです。ASCは、レンズ表面にナノメートルレベルの空気の層を格子状に配置することで、入射する光の反射を極めて低く抑える技術です。これにより、特に逆光などの厳しい条件下でのフレアやゴーストの発生を大幅に抑制し、ヌケの良いクリアな描写を実現します。他にもSWC (Subwavelength Structure Coating) やスーパースペクトラコーティングといった多層膜コーティングも組み合わせることで、高い透過率と低反射率を実現しています。
- フッ素コーティング: レンズの最前面と最後面には、フッ素コーティングが施されています。これは、汚れや指紋が付着しにくく、付着した場合でも簡単に拭き取れるため、屋外でのハードな使用にも耐えうるメンテナンス性を確保しています。
- テレコンバーター対応: キヤノンのエクステンダー EF1.4x IIIおよびEF2x IIIに対応しています。
- EF1.4x III装着時:焦点距離140-560mm、開放F値 F6.3-F8。多くのEOSボディで測距点に制限はあるもののAFが可能です。
- EF2x III装着時:焦点距離200-800mm、開放F値 F9-F11。AF可能なボディは大幅に制限されます(中央1点F8対応のボディなど)。
テレコンバーター使用時は、開放F値が暗くなるため、AF性能や描写性能は単体使用時よりも低下しますが、超望遠域をカバーできる選択肢として有効です。II型はI型に比べて、テレコンバーター装着時でも比較的良好な描写を維持すると評価されています。
3.2. AF性能:高速・高精度な追従性
望遠ズームレンズにおいて、AF性能は被写体を捉え続けるために極めて重要な要素です。EF100-400mm IIは、最新のAFシステムを搭載し、高いパフォーマンスを発揮します。
- リング型USM: AF駆動には、高速かつ静音性に優れるリング型超音波モーター(USM)を採用しています。これにより、一瞬のシャッターチャンスを逃さないスピーディな合焦と、動画撮影時にも耳障りにならない静かな動作を実現しています。
- 高速CPUと最適化アルゴリズム: レンズ内に搭載された高速CPUと、最新のAF制御アルゴリズムにより、高精度なAF制御が可能です。特に、動体予測AF(AI Servo AF)使用時には、被写体の動きに正確に追従し、高い合焦率を誇ります。スポーツ選手や野鳥、鉄道などの予測不能な動きをする被写体に対しても、粘り強くピントを合わせ続けます。
- AFリミッタースイッチ: 撮影シーンに応じてAFの合焦範囲を制限できるAFリミッタースイッチを搭載しています。「FULL」(全範囲)、「∞-6m」(6mから無限遠)、「6m-0.98m」(最短撮影距離0.98mから6m)の3段階に切り替え可能です。例えば、遠くの被写体のみを狙う場合には「∞-6m」に設定することで、手前の障害物などにピントが迷うのを防ぎ、より高速かつ正確なAFを実現できます。
- フルタイムマニュアルフォーカス: AFで合焦後、AFモードのままでもピントリングを回すことで瞬時にMFによる微調整が可能です。これにより、AFが迷った場合や、より厳密なピント合わせを行いたい場合に素早く対応できます。
3.3. IS性能:強力な手ブレ補正
望遠域での手持ち撮影は、わずかな手ブレでも画像に大きく影響します。EF100-400mm IIは、最新世代の手ブレ補正機構を搭載し、その効果は大幅に向上しました。
- 4段分の手ブレ補正効果: 公称値で4段分の手ブレ補正効果を実現しています(CIPA基準準拠)。これは、手ブレ補正なしの場合と比較して、シャッタースピードを4段分遅くしても同等の手ブレ抑制効果が得られることを意味します。例えば、通常なら1/400秒で手ブレするところを、1/25秒でも手ブレせずに撮影できる可能性があるということです。これにより、光量の少ない条件下での手持ち撮影や、意図的に遅いシャッタースピードを使いたい表現(水の流れを滑らかにするなど)が可能になります。
- ISモードの進化: 撮影シーンに合わせて使い分けられる3つのISモードを搭載しています。
- Mode 1 (標準): 静止している被写体の撮影に適しています。水平・垂直方向の両方の手ブレを補正します。
- Mode 2 (流し撮り): 流し撮りを行う際に使用します。カメラを振る方向(水平または垂直)のみ手ブレ補正をOFFにし、もう一方の軸の手ブレのみを補正します。これにより、動いている被写体をシャープに捉えつつ、背景を意図的にブレさせる表現をサポートします。カメラの動きを自動で検知し、水平流し撮りか垂直流し撮りかを自動判別して補正軸を切り替えます。
- Mode 3 (シャッター時のみ): スポーツ撮影など、動きの激しい被写体を追いかける際に最も有効なモードです。IS補正は、シャッターボタンを半押ししている間ではなく、実際にシャッターが切れる瞬間にのみ行われます。これにより、フレーミング中にファインダー像が不自然に揺れることがなくなり、動体追従性が向上します。シャッターチャンスを逃さない直感的なフレーミングが可能になります。
- 高度な制御: レンズ内のジャイロセンサーに加え、カメラからの画像情報も活用して手ブレ量を高精度に検知し、最適に補正を行う制御システムを採用しています。
3.4. 操作性・ユーザビリティ:現場で活きる改良点
EF100-400mm IIは、実際の撮影現場での使い勝手を向上させるための様々な改良が施されています。
- 回転式ズーム: 先代のI型が直進式ズームだったのに対し、II型では一般的な回転式ズームに変更されました。直進式ズームは素早い焦点距離変更が可能という利点がありますが、鏡筒の伸縮に伴う埃の吸い込みや、レンズの自重による伸び縮み、そして独特の操作感に好みが分かれる側面がありました。回転式ズームになったことで、より安定した操作感となり、細かい焦点距離の調整が容易になりました。ズームリングのトルク感は適切で、自重で勝手に伸びるようなことはありません。
- ズームトルク調整リングの廃止: I型にあったズームトルク調整リングは、回転式ズーム化に伴い廃止されました。これにより、ズームリング操作がよりシンプルになっています。
- フォーカスプリセット機能: フォーカスプリセットスイッチとプリセットリングを搭載しています。あらかじめ特定の距離にピントを合わせて登録しておけば、撮影中にスイッチを操作するだけで瞬時に登録した距離にピントを移動させることができます。鉄道撮影で特定の場所に列車が来たときに素早くピントを合わせたい場合などに非常に便利な機能です。
- 着脱式三脚座: 三脚座は着脱式となっており、手持ち撮影が多い場合には取り外して軽量化できます。三脚座リングもスムーズに回転し、縦横の切り替えが容易です。さらに、三脚座の脚部分にはアルカスイス互換のシューが一体化されているため、アルカスイス互換クランプを使用している三脚や雲台に直接装着でき、別途プレートを用意する必要がありません。これは非常に便利な改良点です。
- レンズフードEW-77B: 付属のレンズフードEW-77Bは、誤って外れるのを防ぐロック機構付きのバヨネット式です。また、フード側面に「操作窓」が設けられています。この窓を開けることで、フードを装着したままでもPLフィルターや可変NDフィルターなどの回転式フィルターを操作することができます。これは野外撮影でフィルターを多用するユーザーにとって、地味ながら非常に便利な機能です。
- 防塵防滴構造: Lレンズとして、マウント部や操作部には防塵防滴に配慮したシーリングが施されています。これにより、多少の雨や埃の中でも安心して撮影を続けることができます(ただし、完全防水ではありませんので過信は禁物です)。
- 最短撮影距離の短縮: I型の1.8mから大幅に短縮され、0.98mとなりました。これにより、望遠端400mmでも被写体に1m未満まで近づいて撮影することが可能になりました。最大撮影倍率も0.31倍に向上したため、小さな被写体や花、昆虫などを望遠マクロ的に大きく写すことができるようになり、撮影の幅が大きく広がりました。
- 堅牢性: Lレンズらしい高い耐久性を備えており、プロフェッショナルユースにも耐えうる堅牢な造りとなっています。
これらの性能向上、特に光学性能、AF性能、IS性能、そして最短撮影距離の短縮と回転式ズームへの変更といった操作性の改善は、このEF100-400mm IIがI型から「単なるリニューアル」ではなく、「全く新しいレンズ」として設計されたことを物語っています。
4. 描写性能詳細分析:写真に写し出される世界
レンズの性能はスペックだけでなく、実際に撮影された画像がどのように描写されるかで評価されます。EF100-400mm IIの描写性能は、多くのユーザーから高い評価を得ています。
4.1. 解像力:シャープネスとディテール
- 中心部解像力: ズームレンジ全域で、特に絞り開放付近から中心部は非常にシャープで高い解像力を発揮します。被写体の細部までクリアに描写し、ピントが合った部分は驚くほどカリッと写ります。特に望遠端400mmの描写は、先代のI型から劇的に向上しており、このレンズの最大の強みの一つと言えます。
- 周辺部解像力: フルサイズセンサー使用時でも、周辺部まで比較的均一な高い解像力を維持しています。開放絞りでは周辺部が若干甘くなる傾向はありますが、一絞り(例えばF8やF11)絞り込むことで、画面全体で非常に高い解像力を得ることができます。APS-Cセンサーのカメラと組み合わせた場合は、もともと描写の良い中心部を使うことになるため、画面全体でさらに高いシャープネスが得られます。
- ズーム全域での描写: 100mmから400mmまで、どの焦点距離でも安定して高い描写性能を発揮します。特に望遠端400mmでの描写の良さが特筆されますが、広角端100mmから中望遠域200mm付近でも単焦点レンズに迫る解像力を持っています。
4.2. ボケ味:背景を美しく分離
望遠レンズは背景を大きくぼかすことができるため、ボケ味は主題を際立たせる上で非常に重要です。EF100-400mm IIは、比較的良好なボケ味を持っています。
- ボケの質: 9枚羽根の円形絞りを採用しているため、絞り開放付近では円形の美しい玉ボケが得られます。背景の点光源などは、滑らかで自然な丸いボケとなります。大きくぼかした場合、ボケの輪郭が二重になる「二線ボケ」の傾向はほとんど見られず、比較的滑らかなボケが得られます。
- 焦点距離とボケ: 望遠端400mm、開放F5.6、そして最短撮影距離0.98mまで寄ることができるため、背景を大きく、かつ滑らかにぼかすことが可能です。これにより、主題である被写体を背景から際立たせ、立体感のある描写が得られます。ポートレートなどでも、中望遠域を使用することで自然な圧縮効果と美しいボケを活かした表現が可能です。
4.3. 色再現性:キヤノンらしい自然な色合い
キヤノンのLレンズは、一般的に自然で忠実な色再現性が特徴です。EF100-400mm IIも、その伝統を受け継いでいます。
- ニュートラルな色調: 特定の色に偏ることなく、見た目に近い自然な色合いで描写します。これにより、風景やポートレートなど、被写体本来の色を大切にしたいシーンで威力を発揮します。
- 透明感と抜け感: 特殊光学材料や最新のコーティング技術により、透明感が高く、ヌケの良いクリアな描写が得られます。特に順光での撮影では、晴れ渡った空の色や、葉っぱの一枚一枚の鮮やかさなどが印象的に再現されます。
4.4. 逆光性能:フレア・ゴーストへの強さ
ASCコーティングの採用により、EF100-400mm IIは逆光に対する耐性が大幅に向上しました。
- フレア・ゴーストの抑制: 太陽などの強い光源が画面内や画面付近にある場合でも、フレア(画面全体が白っぽくなる現象)やゴースト(光源の形が写り込む現象)の発生が極めて少なく抑えられています。これにより、夕景や朝日を背景にしたドラマチックなシーンでも、コントラストが高くクリアな画像を撮影することが可能です。
- フードの効果: 付属のレンズフードEW-77Bを装着することで、画面外からの不要な光の入射を防ぎ、さらなる逆光耐性の向上が期待できます。
4.5. 収差補正:歪みと光量落ち
望遠ズームレンズでは、多かれ少なかれ歪曲収差や周辺光量落ちが発生しますが、EF100-400mm IIはこれらを良好に補正しています。
- 歪曲収差: ズーム全域で歪曲収差は少なく抑えられています。特に望遠端ではほとんど気にならないレベルです。
- 周辺光量落ち: 開放絞り、特に望遠端400mm F5.6では、フルサイズセンサー使用時に若干の周辺光量落ちが見られることがありますが、一絞り絞ることで改善されます。また、EOSデジタルカメラでは、カメラ内レンズ光学補正機能により、撮影時に自動的に周辺光量落ちや歪曲収差を補正することも可能です(JPEG撮影時)。RAWデータで撮影した場合でも、現像ソフトで容易に補正できます。
総合的に見て、EF100-400mm IIの描写性能は、そのズームレンジと価格帯を考慮すると非常に高いレベルにあります。単焦点レンズの最高峰には及ばないかもしれませんが、ズームレンズとしての利便性を考慮すれば、十分に満足のいく描写を提供します。特に望遠端400mmの解像力は、I型から劇的に向上しており、このレンズの描写性能を語る上で欠かせないポイントです。
5. 評判と評価:ユーザーの声から見る真価
EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USMは、発売以来、写真愛好家やプロフェッショナルから非常に高い評価を受けています。その評判は、このレンズの実際の使用感や価値を測る上で重要な情報源となります。
5.1. 高い評価の理由
- I型からの劇的な進化: 最も多くのユーザーが指摘し、高く評価している点です。特に、望遠端400mmでの描写性能の向上、手ブレ補正効果の強化(2段分から4段分へ)、AF速度と追従性の向上は、体感できるレベルでの大きな改善です。これらの進化により、動体撮影や低光量下での撮影がより確実かつ快適になりました。
- 描写性能への賛辞: 「シャープネスが素晴らしい」「ヌケが良くてクリア」「ボケが滑らかで綺麗」といった描写に関する肯定的なレビューが多数見られます。特に400mmでの解像力は、かつての同クラスのズームレンズでは考えられなかったほど高いレベルに達しており、単焦点レンズと比較されることもあります。
- 操作性の改善(回転ズーム、三脚座): 直進ズームから回転ズームへの変更は、好みが分かれる部分ではありますが、多くのユーザーは回転ズームを支持しており、操作性が安定したと感じています。また、アルカスイス互換の三脚座や、フィルター操作窓付きのフードといった細かい配慮も、実際の撮影現場での利便性向上に貢献しており、高く評価されています。
- 最短撮影距離の短縮とマクロ性能: 0.98mまで寄れるようになったことで、これまで撮れなかった被写体や表現が可能になった点を喜ぶ声が多いです。望遠端での最大撮影倍率0.31倍は、本格的なマクロレンズには及びませんが、テレマクロ的な表現として十分に楽しめます。
- 信頼性と耐久性: Lレンズとしての堅牢性や防塵防滴性能は、過酷な環境下での撮影を行うユーザーにとって不可欠な要素であり、その信頼性の高さが評価されています。
5.2. 比較対象となるレンズ
EF100-400mm IIは、その立ち位置からいくつかのレンズと比較検討されることが多いです。
- EF100-400mm F4.5-5.6L IS USM (I型): 買い替えを検討しているユーザーにとって、最も直接的な比較対象です。II型はあらゆる面でI型を凌駕しており、特に描写性能とIS効果は雲泥の差があるため、予算が許せばII型への買い替えが強く推奨されます。
- EF70-200mm F2.8L IS III USM + エクステンダー: F2.8通しの明るさと高い描写性能を持つEF70-200mm F2.8L IIIに、EF1.4x IIIまたはEF2x IIIを装着することで、望遠域をカバーする選択肢です。EF70-200mm F2.8L III単体ではEF100-400mm IIよりも描写やボケ味に優れる部分がありますが、エクステンダー装着時は開放F値が暗くなり、描写性能も若干低下します。また、ズームレンジの切り替え(レンズ交換)の手間があります。EF100-400mm IIは一本で100-400mmをカバーできる利便性があります。どちらが良いかは、主にどの焦点距離帯を重視するか、明るさが必要か、利便性を取るかなどで判断が分かれます。
- RF100-400mm F5.6-8 IS USM / RF100-500mm F4.5-7.1L IS USM: EOS Rシステムユーザー向けの後継または類似焦点距離のRFレンズです。EF100-400mm IIはマウントアダプター経由でEOS Rシステムでも使用できますが、RFレンズはボディとの連携がより高度になり、描写性能やIS効果などでさらに進化しています(特にRF100-500mmL)。ただし、RF100-400mm F5.6-8はLレンズではなく、RF100-500mmLはEF100-400mm IIよりもさらに高価です。EFシステムをメインで使っているユーザーにとっては、EF100-400mm IIは引き続き最高の選択肢の一つです。
5.3. 懸念点やデメリット(少数意見)
非常に評価の高いレンズですが、敢えて懸念点を挙げるとすれば以下の点です。
- 価格: I型に比べて価格は上昇しており、レンズ単体としては高価な部類に入ります。ただし、その性能を考えれば妥当、あるいはコストパフォーマンスが高いと感じるユーザーも多いです。
- 重量: 約1.5kgという重量は、同クラスのレンズとしては標準的ですが、一日中手持ちで撮影する場合にはそれなりの負担になります。三脚や一脚の使用を検討する方が多いでしょう。
- 開放F値: F4.5-5.6という開放F値は、明るい単焦点レンズやF2.8通しのズームレンズと比較すると暗いため、光量の少ない条件下や、より大きな背景ボケが必要な場合には不利になります。しかし、IS効果が4段分と強力になったことで、ある程度はカバーできるようになりました。
全体として、EF100-400mm IIは、その性能、描写、操作性において、ユーザーの期待を大きく上回る、非常に完成度の高い望遠ズームレンズとして広く認められています。特にI型からの進化は目覚ましく、買い替え組からの評価は特に高い傾向にあります。
6. 利用シーン別ガイド:このレンズを使いこなす
EF100-400mm IIは、その広いズームレンジと高性能を活かして、様々なシーンで活躍します。代表的な利用シーンとそのポイントを見ていきましょう。
6.1. スポーツ写真
- 最適な焦点距離: 100mmから400mmという焦点距離は、フィールドスポーツ(サッカー、ラグビーなど)、トラック競技、モータースポーツなど、様々なスポーツシーンをカバーするのに最適です。選手の動きに合わせて瞬時にズームして、全身からクローズアップまで対応できます。
- AF性能の活用: 高速・高精度なリング型USMとAI Servo AFにより、激しく動き回る選手にも粘り強くピントを追従させることができます。AFリミッタースイッチを使って合焦範囲を制限すると、さらに効率的なAFが可能です。
- IS Mode 2/3の活用: 流し撮りで動きの速さを表現したい場合はIS Mode 2、フレーミングを重視してシャッターチャンスに集中したい場合はIS Mode 3が有効です。
- おすすめ設定: シャッタースピード優先AE(Tvモード)で高速シャッター(1/500秒以上)を設定し、ISO感度はオートまたはマニュアルで調整するのが一般的です。AFモードはAI Servo AF、AFエリア選択モードは被写体の動きに応じてゾーンAFや拡張AFエリアなどが有効です。
6.2. 野鳥写真
- 焦点距離の重要性: 野鳥は非常に警戒心が強く、近づくのが困難な被写体です。400mmという焦点距離は、手持ちで野鳥撮影を行う上で実用的な最も長い部類に入ります。テレコンバーター(EF1.4x III)を装着すれば560mmまで伸ばせるため、さらに遠くの鳥を狙うことも可能です。
- AF性能とIS Mode 3: 木々の間を素早く飛び回る鳥にも、高速AFとAI Servo AFで追従します。IS Mode 3は、鳥をファインダーで追いかける際のフレーミングを安定させるのに役立ちます。
- 最短撮影距離の活用: 小さな野鳥や止まっている鳥を近くから撮る場合、最短撮影距離0.98mの寄れる性能が活きます。
- おすすめ設定: 絞り優先AE(Avモード)で開放F値付近を使用し、背景を大きくぼかすのが一般的です。シャッタースピードは鳥の動きに応じて調整します。IS Mode 3、AFモードはAI Servo AFが基本となります。三脚や一脚を使用すると、より安定した撮影が可能です。
6.3. 鉄道写真
- 望遠圧縮効果: 400mmという望遠端は、遠くの被写体を圧縮し、線路や背景を密集させて写す「望遠圧縮効果」を出すのに非常に適しています。編成写真や、遠景と組み合わせた風景鉄道写真などで威力を発揮します。
- 流し撮り(IS Mode 2): 走行中の列車を流し撮りする際に、IS Mode 2が効果を発揮します。シャッタースピードを遅く設定し、列車の動きに合わせてカメラを振ることで、背景が流れてスピード感を表現できます。
- フォーカスプリセット: 定点撮影で、列車が特定の地点に来た時にピントを合わせたい場合、事前にその地点でピントを合わせてプリセットしておけば、瞬時に合焦させることができ、構図に集中できます。
- おすすめ設定: 被写界深度とシャッタースピードのバランスを考慮して設定します。編成全体をシャープに写したい場合はF8~F11程度に絞り込みます。流し撮りではシャッタースピード優先AE(Tvモード)で1/60秒~1/125秒程度から試してみると良いでしょう。
6.4. 航空機写真
- 望遠端の活用: 飛行場やイベントで航空機を撮影する場合、400mmの望遠端が有効です。滑走中の機体や、着陸・離陸シーン、展示されている機体のディテールなどを狙うのに適しています。
- IS Mode 2/3: 飛行中の機体を追跡する流し撮り(Mode 2)や、一瞬のシャッターチャンスを狙う際にフレーミングを安定させる(Mode 3)など、状況に応じてISモードを使い分けます。
- 逆光性能: 太陽を背景にした夕景や朝日の中での撮影など、逆光になるシチュエーションが多い航空機写真において、ASCコーティングによる高い逆光耐性は大きなアドバンテージとなります。
- おすすめ設定: シャッタースピード優先AE(Tvモード)で高速シャッター(1/500秒以上)を設定するのが基本です。天候が良い日中であれば、開放付近でも高い解像力が得られます。
6.5. 風景写真
- 圧縮効果と部分切り取り: 広角レンズで広大な風景を写すのとは異なり、望遠レンズは遠くの山々や建物、樹木などを引き寄せ、圧縮効果で独特の遠近感を生み出すことができます。また、風景の一部を切り取って主題を際立たせる用途にも適しています。
- 解像力: 絞り込んだ際の画面全体の高い解像力は、風景の細部までクリアに写し撮るのに役立ちます。
- おすすめ設定: 風景写真では絞り込んで画面全体をシャープに写すことが多いため、絞り優先AE(Avモード)でF8~F11程度に設定するのが一般的です。
6.6. ポートレート
- 中望遠域での使用: 100mmから200mm程度の中望遠域は、ポートレート撮影にも適しています。適度な距離感を保ちつつ、被写体を自然なパースペクティブで捉えることができます。
- 背景ボケ: 望遠端400mmまで使用すれば、背景を大きくぼかして被写体を浮かび上がらせることができます。最短撮影距離0.98mまで寄れるため、顔のアップなどを印象的な背景ボケとともに写すことも可能です。
- おすすめ設定: 絞り優先AE(Avモード)で開放F値(F4.5~F5.6)を使用し、背景を大きくぼかすのが一般的です。モデルとの距離や背景との距離によって、ボケ具合を調整します。
6.7. 動植物のクローズアップ(簡易マクロ)
- 最短撮影距離と最大撮影倍率: 最短撮影距離0.98m、最大撮影倍率0.31倍という性能は、昆虫や花などの小さな被写体をクローズアップして撮影する際に非常に便利です。本格的なマクロレンズほどではありませんが、手軽に望遠マクロ的な表現を楽しめます。
- 望遠によるボケ: 望遠端で寄ることで、被写体は大きく写り、背景は大きくぼけるため、主題を際立たせた印象的なクローズアップ写真が撮影できます。
- IS効果: 被写体に近距離で望遠端を使用する際も、IS効果により手ブレを抑え、安定したフレーミングと撮影が可能です。
- おすすめ設定: 絞り優先AE(Avモード)で、開放付近を使用すると背景が大きくぼけます。被写界深度が非常に浅くなるため、ピント合わせは慎重に行いましょう。
このように、EF100-400mm IIは一本で非常に幅広いジャンルの撮影に対応できます。各シーンに合わせてレンズの持つ性能(AF、IS、ズームレンジ、最短撮影距離など)を適切に使い分けることで、そのポテンシャルを最大限に引き出すことができるでしょう。
7. 購入を検討している方へ:選択のヒント
EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USMの購入を検討されている方のために、いくつかのヒントを提供します。
7.1. どんな人におすすめか
このレンズは、以下のような方におすすめです。
- キヤノンのEFマウントシステムを使用しており、高性能な望遠ズームレンズを探している方。
- スポーツ、野鳥、鉄道、航空機など、動体撮影が多い方。
- 一本で広い望遠域をカバーしたい方。
- 描写性能、AF性能、手ブレ補正効果の高いレベルを求める方。
- Lレンズの堅牢性や防塵防滴性能に魅力を感じる方。
- 将来的にEOS Rシステムへの移行を検討しているが、まずはEFシステムでレンズ資産を構築したい方(マウントアダプター経由でRシステムでも使用可能です)。
- EF100-400mm I型からの買い替えで、描写や性能の劇的な向上を求めている方。
7.2. 価格帯
新品価格は、キヤノンオンラインショップなどで確認できますが、一般的には20万円台後半から30万円台前半で販売されることが多いです。Lレンズとしてはミドルレンジの価格帯ですが、その性能と汎用性を考えると、十分な価値があると言えるでしょう。
中古市場でも流通しており、状態によって価格は変動しますが、人気が高いため比較的安定した価格で取引されています。中古品を購入する際は、レンズの状態(傷、埃、カビなど)、動作確認(AF、IS、ズームリングなど)、付属品(フード、三脚座、元箱など)をよく確認することが重要です。信頼できる販売店からの購入をおすすめします。
7.3. メンテナンスと保管
高価で精密なレンズですので、適切なメンテナンスと保管が重要です。
- 撮影後は、ブロアーで埃を吹き飛ばし、レンズクリーニングペーパーやクロスで優しく汚れを拭き取ります。フッ素コーティングのおかげで、汚れは比較的簡単に落ちます。
- 湿気はカビの原因となるため、保管は防湿庫に入れるのが最も理想的です。防湿庫がない場合は、乾燥剤を入れた密閉容器などで保管しましょう。
- 直射日光の当たる場所や高温になる場所(車内など)での保管は避けてください。
- 定期的なメンテナンスやクリーニングは、キヤノンのサービスセンターで依頼することも可能です。
7.4. 代替候補
前述のEF70-200mm F2.8L IS III + エクステンダーの組み合わせも有力な代替候補ですが、完全に同じ用途というわけではありません。EFマウントの望遠ズームで他に選択肢としては、EF70-300mm F4-5.6L IS USM(より軽量・コンパクト、焦点距離は短い)、EF70-300mm F4-5.6 IS II USM(非Lレンズ、より安価)、またはより高価な超望遠単焦点レンズなどがあります。しかし、100-400mmというズームレンジと、Lレンズとしての高性能・汎用性を兼ね備えたレンズとしては、EFシステムにおいてはEF100-400mm F4.5-5.6L IS II USMが事実上、唯一無二の存在と言えるでしょう。
EOS Rシステムへの移行を視野に入れている場合は、RFレンズのRF100-400mm F5.6-8 IS USMやRF100-500mm F4.5-7.1L IS USMも検討対象になります。これらはボディとの連携がよりスムーズで、IS効果などがさらに向上している場合があります。しかし、EFレンズ資産を活用したい場合や、RF100-500mmLが高価すぎる場合、EF100-400mm IIをマウントアダプター経由で使用する選択肢は非常に有力です。
8. まとめ:EF100-400mm II が写真にもたらすもの
キヤノン EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM は、まさに現代の高性能望遠ズームレンズのマスターピースと呼ぶにふさわしい一本です。先代からあらゆる面で大幅な進化を遂げ、その性能は同クラスのレンズの常識を覆しました。
妥協のない光学設計と特殊光学材料によるクリアでシャープな描写。高速・高精度で粘り強いAF性能。4段分もの強力な手ブレ補正効果と、撮影シーンに合わせた3つのISモード。そして、回転ズームやアルカスイス互換三脚座、最短撮影距離の短縮など、現場での使い勝手を徹底的に考慮した操作性の改善。これらが組み合わさることで、EF100-400mm IIは単なるズームレンズを超えた、表現の可能性を大きく広げるツールとなっています。
スポーツの決定的瞬間、飛び立つ野鳥の姿、迫力ある列車の走行シーン、遠景の美しいディテール、そして背景を溶かすようなポートレートやマクロ表現まで。このレンズ一本で、これまで撮りたかった多くのシーンを高いクオリティで捉えることができるでしょう。
EOS Rシステムが登場し、RFレンズが拡充されつつある現在でも、EFマウントボディを使用している写真家にとって、EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USMは、紛れもなく最高の望遠ズームレンズの一つであり続けます。EFマウント資産を活かしつつ、高いレベルでの望遠撮影を実現したいユーザーにとって、これほど頼りになる相棒はそう多くありません。
もしあなたが、高性能な望遠ズームレンズを探しており、キヤノンEFマウントシステムをメインでお使いであれば、EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USMは間違いなく検討すべき最有力候補です。その卓越した性能と描写は、あなたの写真表現を新たな高みへと導いてくれるはずです。
このレンズを手にすれば、遠くの世界がぐっと身近になり、これまで見えなかった被写体の魅力や、切り取ることで生まれる新しい構図の発見があるでしょう。あなたの写真ライフが、この素晴らしいレンズによってさらに豊かなものになることを願っています。
9. 免責事項
本記事は、キヤノン EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USMに関する一般的な情報と筆者の見解に基づき記述されています。レンズの性能や描写は、使用するカメラボディ、撮影条件、現像処理、個体差などによって異なる場合があります。また、製品の仕様や価格は変更される可能性があります。本記事の内容によって生じたいかなる損害についても、筆者および掲載者は一切の責任を負いかねますので、あらかじめご了承ください。製品のご購入に際しては、メーカー公式サイトや正規販売店からの最新情報をご確認の上、ご自身の判断で行ってください。
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