DockerでGPUを動かす!NVIDIA Container Toolkit徹底解説


DockerでGPUを動かす!NVIDIA Container Toolkit徹底解説

はじめに

近年のテクノロジー進化、特に深層学習(Deep Learning)や高性能計算(HPC)分野において、GPU(Graphics Processing Unit)は不可欠な存在となっています。その圧倒的な並列処理能力により、膨大な計算を高速に行うことが可能になり、AI研究開発やデータ分析のスピードを飛躍的に向上させています。

一方で、開発環境の構築は常に課題となります。GPUを最大限に活用するためには、特定のバージョンのNVIDIAドライバー、CUDA Toolkit、cuDNN、そして使用する深層学習フレームワーク(TensorFlow, PyTorchなど)といった様々なソフトウェアコンポーネントを、互換性を保ちながらインストール・設定する必要があります。この作業は非常に煩雑であり、異なるプロジェクトやチーム間で環境を共有したり、再現性を確保したりすることが困難でした。

ここで登場するのが「コンテナ技術」です。Dockerに代表されるコンテナ技術は、アプリケーションとその依存関係をすべてパッケージ化し、どの実行環境でも同じように動作することを保証します。これにより、「私の環境では動いたのに…」といった問題を解消し、開発、テスト、デプロイのプロセスを劇的に効率化します。

しかし、Dockerの黎明期においては、コンテナからホストマシンが持つ物理的なGPUリソースに直接アクセスすることは容易ではありませんでした。GPUは単なるハードウェアではなく、特定のドライバやランタイム、ライブラリといった複雑なソフトウェアスタックと密接に連携しているため、単純なファイルシステムのマウントだけでは対応できなかったのです。

この課題を解決するために開発されたのが、NVIDIA Container Toolkit(旧称 nvidia-docker)です。このツールキットは、DockerコンテナがホストのGPUに透過的にアクセスできるようにするための特別な仕組みを提供します。これにより、GPUを必要とするアプリケーション(深層学習モデルの学習・推論、データ分析など)を、ホスト環境を汚すことなく、コンテナ内で手軽に実行できるようになります。

本記事では、このNVIDIA Container Toolkitに焦点を当て、その歴史、仕組み、インストール方法、基本的な使い方から、実践的な活用例、さらにはKubernetes連携などの高度なトピックまで、約5000語にわたって徹底的に解説します。

この記事を読むことで、あなたは以下のことを習得できます。

  • なぜDockerとGPUを組み合わせる必要があるのかを理解する。
  • NVIDIA Container ToolkitがどのようにGPUアクセスを可能にしているのか、その内部構造を知る。
  • NVIDIA Container Toolkitを自身の環境に正しくインストールできる。
  • DockerコンテナでGPUを利用するための基本的なコマンドとオプションを使いこなせる。
  • 深層学習フレームワークを使ったGPUコンテナの実行例を学ぶ。
  • よくあるトラブルシューティングの方法を知る。

対象読者は、GPUを使った開発に興味のあるエンジニア、データサイエンティスト、研究者、またはコンテナ技術に関心のある方々です。Dockerの基本的な使い方の知識があると、より理解が深まります。

さあ、DockerとGPUを連携させ、より効率的で再現性の高い開発・運用環境を構築するための第一歩を踏み出しましょう。

GPUコンピューティングの基礎

本題に入る前に、GPUコンピューティングの基本的な概念と、なぜそれが深層学習に不可欠なのかを簡単に振り返ります。

GPUとは何か? CPUとの違い

CPU(Central Processing Unit)は、コンピュータの中心的な処理装置であり、逐次処理や複雑なロジックの実行に優れています。汎用性が高く、様々なタスクをこなすことができます。

一方、GPU(Graphics Processing Unit)は、元々はコンピュータグラフィックス処理、特に3Dグラフィックス描画のために開発されました。3Dグラフィックスは、画面上の無数のピクセルに対して、色、テクスチャ、陰影といった計算を同時に行う必要があります。この性質から、GPUは非常に多くの単純な計算コア(ストリーミングマルチプロセッサ – SMなど)を持ち、大量のデータを並列に処理することに特化しています。

深層学習におけるニューラルネットワークの計算は、膨大な数の行列演算やベクトル演算で構成されます。これらの演算は、互いに独立して並列に実行できるものが非常に多いため、GPUの並列処理能力と非常に相性が良いのです。CPUでも計算は可能ですが、GPUに比べてコア数が圧倒的に少ないため、大規模なモデルの学習には膨大な時間がかかります。

深層学習とGPU

深層学習モデルの学習プロセスは、入力データに対する予測を行い、その誤差を計算し、誤差を減らすようにモデルのパラメータ(重みやバイアス)を更新するというサイクルを繰り返します。このサイクルの中で、特に計算負荷が高いのが以下の部分です。

  1. 順伝播(Forward Propagation): 入力データがネットワークを通過し、最終的な出力(予測結果)を計算するプロセスです。各層での行列演算や活性化関数の適用が含まれます。
  2. 逆伝播(Backward Propagation): 出力層での誤差を計算し、その誤差を層を遡るように伝播させながら、各パラメータに対する勾配(パラメータを微小に変化させたときの誤差の変化率)を計算するプロセスです。こちらも大量の行列演算や勾配計算を含みます。

これらの演算は、データ並列性やタスク並列性が非常に高いため、GPUの多数のコアで並列に実行することで、学習時間を劇的に短縮できます。例えば、数日かかっていた学習が、高性能なGPUを使うことで数時間に短縮されることも珍しくありません。

GPUを利用するためのソフトウェアスタック

GPUを効果的に利用するためには、ハードウェアだけでなく、以下のソフトウェアコンポーネントが必要になります。

  1. NVIDIA Driver: オペレーティングシステムがGPUハードウェアを認識し、通信するための基本的なソフトウェアです。GPUベンダー(NVIDIA)が提供します。
  2. CUDA Toolkit: NVIDIAが提供する、GPUでの汎用並列コンピューティングのためのプラットフォームおよびAPIです。C++, Pythonなど様々な言語からGPUを操作するためのライブラリや開発ツールを含みます。深層学習フレームワークの多くは、内部的にCUDAを利用してGPU計算を実行します。
  3. cuDNN (CUDA Deep Neural Network library): NVIDIAが提供する、深層学習プリミティブ(畳み込み、プーリング、正規化、活性化関数など)の高性能な実装ライブラリです。深層学習フレームワークは、CUDAだけでなくcuDNNも利用することで、さらに高速な計算を実現します。
  4. 深層学習フレームワーク: TensorFlow, PyTorch, Chainerなどのフレームワークです。これらはCUDAやcuDNNを利用して、高レベルなAPIを通じて簡単にGPUを使った計算を実行できるようにします。

これらのコンポーネントは、それぞれ特定のバージョン間の互換性が必要です。例えば、あるバージョンのCUDA Toolkitは特定のバージョンのNVIDIA Driverを要求し、あるバージョンのTensorFlowは特定のバージョンのCUDA ToolkitとcuDNNを要求するといった具合です。この依存関係の管理が、開発環境構築を難しくする一因です。

Dockerの基本とGPU利用の課題

次に、Dockerの基本的な仕組みと、それがどのようにGPU利用の課題と結びつくのかを見ていきましょう。

Dockerの基本的な仕組み

Dockerは、OSレベルの仮想化技術を利用したコンテナプラットフォームです。主な構成要素は以下の通りです。

  • Dockerfile: コンテナイメージを構築するための手順を記述したテキストファイルです。どのOSイメージをベースにするか、必要なソフトウェアのインストール、設定ファイルのコピーなどを記述します。
  • Image: Dockerfileをビルドして作成される、アプリケーションとその実行に必要な全ての依存関係(コード、ランタイム、システムツール、システムライブラリなど)をパッケージ化した静的なスナップショットです。読み取り専用であり、タグ(例: ubuntu:20.04, tensorflow/tensorflow:2.10.0-gpu)でバージョン管理されます。
  • Container: イメージを実行したインスタンスです。イメージは静的ですが、コンテナは実行中に状態を持つことができます。コンテナはホストOSから隔離されており、独立したファイルシステム、ネットワークインターフェース、プロセス空間を持ちます。

Dockerの利点は以下の通りです。

  • 再現性: イメージは固定されているため、同じイメージから作成されたコンテナは、どの環境でも同じように動作します。
  • ポータビリティ: イメージはレジストリ(Docker Hubなど)を通じて簡単に共有・配布できます。
  • 環境構築の容易さ: Dockerfileを使えば、複雑な環境もコードとして管理でき、数コマンドで再現できます。
  • 隔離性: コンテナはホストOSや他のコンテナから隔離されているため、依存関係の衝突を防ぎます。

従来のDockerにおけるGPU利用の難しさ

さて、この素晴らしいコンテナ技術をGPU計算に適用しようとすると、いくつかの課題に直面しました。

従来のDockerコンテナは、デフォルトではホストのハードウェアリソースに直接アクセスできません。ファイルシステムやネットワークはコンテナ独自のものが提供され、ハードウェアデバイス(/dev/以下のデバイスファイルなど)もデフォルトでは限定的なものしか見えません。

GPUを利用するためには、コンテナ内で以下のリソースにアクセスできる必要があります。

  1. NVIDIA GPUデバイスファイル: /dev/nvidia0, /dev/nvidia-uvm, /dev/nvidia-modesetなどのデバイスファイルを通じて、コンテナ内のプロセスがGPUハードウェアと通信します。
  2. NVIDIA Driverライブラリ: ホストOSにインストールされているNVIDIAドライバーの一部(特にユーザー空間ライブラリ、例: libcuda.so, libnvidia-ml.so)が、コンテナ内のアプリケーションから利用できる必要があります。これらのライブラリは、コンテナ内のCUDA Toolkitや深層学習フレームワークがGPUを操作するために必要です。

従来のDockerでこれを実現しようとすると、以下のような問題がありました。

  • デバイスマッピング: docker runコマンドの--deviceオプションを使って、ホストのGPUデバイスファイルを一つずつコンテナにマッピングする必要がありました。複数のGPUがある場合や、必要なデバイスファイルが増えた場合、コマンドが複雑になります。
    例: --device /dev/nvidia0:/dev/nvidia0 --device /dev/nvidia-uvm:/dev/nvidia-uvm ...
  • ライブラリの依存性: ホストOSにインストールされているNVIDIA Driverライブラリと、コンテナ内のCUDA Toolkitやアプリケーションが期待するライブラリのバージョンが一致している必要がありました。バージョンが異なると、ライブラリが見つからない、あるいは互換性がないといったエラーが発生します。コンテナイメージを構築する際には、ホストのドライバーバージョンに合わせてコンテナ内のライブラリを調整する必要があり、イメージのポータビリティが損なわれました。
  • 環境変数の設定: コンテナ内でGPUを正しく認識・利用するためには、LD_LIBRARY_PATHなどの環境変数を適切に設定する必要がありました。これも手動で行うのは煩雑です。

これらの課題により、GPUをコンテナ化して利用することのメリット(特にポータビリティと環境構築の容易さ)が十分に享受できませんでした。GPU計算のコンテナ化を真に実用的で簡単に実行できるようにするために、特別なツールキットが求められるようになりました。

NVIDIA Container Toolkit(旧nvidia-docker)とは

ここで、本記事の主役であるNVIDIA Container Toolkitの登場です。

歴史的背景:nvidia-docker v1, v2

NVIDIAは、DockerでGPUを利用するための公式なソリューションとして、当初 nvidia-docker という名前のプロジェクトを開始しました。

  • nvidia-docker v1: これはDockerのラッパー(Wrapper)スクリプトとして実装されました。ユーザーは通常のdockerコマンドの代わりにnvidia-dockerコマンドを使います。nvidia-docker run ...と実行すると、このラッパーが内部でDockerコマンドを呼び出す際に、必要なGPUデバイスのマッピングやライブラリのバインドマウント、環境変数の設定などを自動的に行ってくれました。これは初期のソリューションとして機能しましたが、Dockerの内部的な仕組みに依存しており、新しいDockerバージョンへの対応が追従しにくいという課題がありました。

  • nvidia-docker v2: DockerのランタイムAPIが進化し、外部のランタイムをプラグインとして利用できるようになりました。nvidia-docker v2はこの新しい仕組みを活用し、Dockerのデフォルトランタイムであるruncに代わる独自のランタイムとして実装されました。これにより、docker runコマンドに--runtime=nvidiaオプション(後にDocker自体に--gpusオプションとして統合)を付けるだけでGPUを利用できるようになり、よりDockerネイティブな連携が可能になりました。

nvidia-container-toolkitへの名称変更とアーキテクチャの変化

nvidia-docker v2以降、プロジェクトの名称はより汎用的な NVIDIA Container Toolkit に変更されました。これはDockerだけでなく、Podmanやcri-oといった他のコンテナランタイムとも連携できるようにするための動きです。

現在のNVIDIA Container Toolkitは、いくつかのコンポーネントに分かれています。

  • libnvidia-container: これはNVIDIA Container Toolkitの中核をなすライブラリです。コンテナが起動される際に、ホストのNVIDIAドライバーに関する情報を取得し、必要なGPUデバイスファイル、ドライバーライブラリ、および設定ファイルをコンテナ内部に自動的にマウントしたり、適切な環境変数を設定したりする役割を担います。このライブラリは、様々なコンテナランタイムから利用できるように設計されています。
  • nvidia-container-toolkit: これはlibnvidia-containerを利用するためのコマンドラインインターフェースやフックを提供します。Dockerなどのコンテナランタイムは、コンテナを起動する前に特定の処理(フック)を実行する機能を持っています。nvidia-container-toolkitはこのフックを実装し、コンテナが起動する直前にlibnvidia-containerを呼び出してGPU関連の設定を行わせます。
  • nvidia-container-runtime: これはDockerのOCIDefaultRuntime(Open Container Initiativeの標準ランタイム)をラップし、libnvidia-containerを組み込んだランタイムです。Docker v19.03以降で推奨される--gpusオプションを使う場合、Dockerデーモンは内部的にこのランタイム(または同様の機能を持つランタイム)を呼び出すように設定されます。

これらのコンポーネントが連携することで、ユーザーはdocker run --gpus ...というシンプルなコマンドを実行するだけで、コンテナ内でGPUが利用できるようになります。Toolkitがバックグラウンドで、ホストのGPUデバイスやドライバーライブラリを検出し、コンテナ内のファイルシステムにマウントし、CUDAなどが正しく動作するための環境変数を設定してくれるのです。

--gpus allオプションの仕組み

Docker v19.03以降で導入された--gpusオプションは、NVIDIA Container Toolkitの登場によって実現された機能です。

docker run --gpus all ...というコマンドを実行すると、Dockerデーモンは、事前に設定されたNVIDIA Container Toolkitを呼び出します。Toolkitは以下の処理を行います。

  1. ホストシステム上のNVIDIA GPUを検出します。
  2. 検出した全てのGPUデバイスファイル(例: /dev/nvidia0, /dev/nvidia1, /dev/nvidiactl, /dev/nvidia-uvm, /dev/nvidia-modesetなど)を特定します。
  3. ホストシステムにインストールされているNVIDIAドライバーのユーザー空間ライブラリ(例: /usr/lib/x86_64-linux-gnu/nvidia, /usr/lib32/nvidiaなど)のパスを特定します。
  4. これらのデバイスファイルやライブラリディレクトリを、コンテナのルートファイルシステム内の適切な場所にバインドマウントするための設定を作成します。
  5. コンテナ内でGPUを正しく認識・利用するために必要な環境変数(例: NVIDIA_VISIBLE_DEVICES, NVIDIA_DRIVER_CAPABILITIES, NVIDIA_REQUIRE_CUDAなど)を設定します。
  6. これらの設定情報を含むOCI Runtime Specificationに準拠した設定をDockerデーモンに渡します。
  7. Dockerデーモンは、受け取った設定に基づいてコンテナを起動し、指定されたデバイスやライブラリをコンテナ内部にマウントします。

この一連の処理により、コンテナ内部からはあたかもGPUデバイスや必要なドライバーライブラリが最初からそこに存在するかのように見え、特別な設定なしにCUDAなどのライブラリがGPUを利用できるようになります。ユーザーは --gpus all と指定するだけで、ホストのGPUリソースにアクセスできる便利な仕組みです。

NVIDIA Container Toolkitのインストール

実際にNVIDIA Container Toolkitをインストールしてみましょう。インストールは比較的簡単ですが、いくつかの前提条件があります。

対応OSと要件

NVIDIA Container Toolkitは、主要なLinuxディストリビューションに対応しています。公式ドキュメントでサポートされているOSを確認することをおすすめします。

  • Linux環境: WindowsやmacOS上のDocker DesktopでもGPUサポートは提供されていますが、これは内部的に仮想マシンを使ってLinux環境を構築し、その上でNVIDIA Container Toolkitやそれに類する技術を利用しています。本記事では、ネイティブなLinux環境へのインストールを主に解説します。
  • NVIDIA GPU: 当然ながら、システムにNVIDIA製のGPUが搭載されている必要があります。
  • NVIDIA Driver: 最新かつ安定版のNVIDIA DriverがホストOSに正しくインストールされている必要があります。CUDA ToolkitやContainer Toolkitのバージョンによっては、要求されるドライバーバージョンの最低要件がありますので、公式ドキュメントを確認してください。nvidia-smiコマンドを実行して、GPU情報とドライバーバージョンが表示されるか確認してください。
  • Docker: 安定版のDocker Engineがインストールされている必要があります。特に--gpusオプションを利用するためには、Docker Engineのバージョンが19.03以降である必要があります。

公式リポジトリからのインストール手順

NVIDIA Container Toolkitは、NVIDIAが提供する公式リポジトリからインストールするのが最も推奨される方法です。これにより、依存関係やアップデートが適切に管理されます。

インストール手順は使用しているLinuxディストリビューションによって異なりますが、ここではUbuntuとCentOS/RHEL/Fedoraの例を示します。

Ubuntu (apt)

  1. 古いバージョンのnvidia-dockerの削除 (もしインストールしていれば):
    bash
    # もしインストールしていれば削除
    sudo apt-get remove nvidia-docker nvidia-docker-engine
  2. Docker GPGキーの追加とリポジトリの設定:
    Docker公式の手順に従ってDockerリポジトリを追加します。
    “`bash
    # Add Docker’s official GPG key:
    sudo apt-get update
    sudo apt-get install ca-certificates curl gnupg
    sudo install -m 0755 -d /etc/apt/keyrings
    curl -fsSL https://download.docker.com/linux/ubuntu/gpg | sudo gpg –dearmor -o /etc/apt/keyrings/docker.gpg
    sudo chmod a+r /etc/apt/keyrings/docker.gpg

    Add the repository to Apt sources:

    echo \
    “deb [arch=”$(dpkg –print-architecture)” signed-by=/etc/apt/keyrings/docker.gpg] https://download.docker.com/linux/ubuntu \
    “$(. /etc/os-release && echo “$VERSION_CODENAME”)” stable” | \
    sudo tee /etc/apt/sources.list.d/docker.list > /dev/null
    sudo apt-get update
    3. **NVIDIA Container Toolkit GPGキーの追加とリポジトリの設定**:bash

    Add the public key for the NVIDIA Container Toolkit repository

    curl -fsSL https://nvidia.github.io/libnvidia-container/gpgkey | sudo gpg –dearmor -o /usr/share/keyrings/nvidia-container-toolkit-keyring.gpg
    sudo chmod a+r /usr/share/keyrings/nvidia-container-toolkit-keyring.gpg

    Add the repository to Apt sources:

    distribution=$(. /etc/os-release;echo $ID$VERSION_ID)
    if [ “$distribution” == “ubuntu18.04″ ]; then
    distribution=”ubuntu20.04”
    fi
    curl -s -L https://nvidia.github.io/libnvidia-container/$distribution/libnvidia-container.list | \
    sed ‘s#deb https://#deb [signed-by=/usr/share/keyrings/nvidia-container-toolkit-keyring.gpg] https://#g’ | \
    sudo tee /etc/apt/sources.list.d/nvidia-container-toolkit.list
    sudo apt-get update
    *注意: `distribution`の判定部分は、環境によって調整が必要な場合があります。公式ドキュメントの最新手順を確認してください。*
    4. **NVIDIA Container Toolkitのインストール**:
    bash
    sudo apt-get install -y nvidia-container-toolkit
    5. **Dockerデーモンの設定更新**:
    インストールスクリプトがDockerデーモンの設定ファイルを変更する場合がありますが、確実に反映させるために以下のコマンドを実行します。
    bash
    sudo nvidia-ctk runtime configure –runtime=docker
    このコマンドは、Dockerデーモンの設定ファイル(通常 `/etc/docker/daemon.json`)を編集し、`default-runtime` または `runtimes` の設定に NVIDIA コンテナランタイムを追加します。
    6. **Dockerデーモンの再起動**:
    bash
    sudo systemctl restart docker
    “`

CentOS/RHEL/Fedora (yum/dnf)

  1. 古いバージョンのnvidia-dockerの削除 (もしインストールしていれば):
    bash
    # もしインストールしていれば削除
    sudo yum remove nvidia-docker nvidia-docker-engine
  2. NVIDIA Container Toolkitリポジトリの設定:
    “`bash
    # Use the distribution’s name and version
    distribution=$(. /etc/os-release;echo $ID$VERSION_ID)

    Add the package repository

    curl -s -L https://nvidia.github.io/libnvidia-container/$distribution/libnvidia-container.repo | \
    sudo tee /etc/yum.repos.d/nvidia-container-toolkit.repo
    *注意: `distribution`の判定部分は、環境によって調整が必要な場合があります。公式ドキュメントの最新手順を確認してください。*
    3. **NVIDIA Container Toolkitのインストール**:
    bash
    sudo yum clean all # または sudo dnf clean all
    sudo yum update -y # または sudo dnf update -y
    sudo yum install -y nvidia-container-toolkit # または sudo dnf install -y nvidia-container-toolkit
    4. **Dockerデーモンの設定更新**:bash
    sudo nvidia-ctk runtime configure –runtime=docker
    5. **Dockerデーモンの再起動**:bash
    sudo systemctl restart docker
    “`

インストール後の確認

インストールが完了したら、正しく設定されているか確認します。

1. NVIDIA Container Toolkitのバージョン確認:
bash
nvidia-container-toolkit --version

バージョン情報が表示されれば、ツールキット自体はインストールされています。

2. Dockerのruntime設定確認 (任意):
/etc/docker/daemon.json ファイルの内容を確認すると、NVIDIAランタイムが追加されていることがわかります。
json
{
"runtimes": {
"nvidia": {
"path": "nvidia-container-runtime",
"runtimeArgs": []
}
}
}

または、Docker v19.03より古い設定方式を使っている場合は default-runtime: nvidia となっているかもしれません。nvidia-ctk runtime configure コマンドがこの設定を自動で行います。

3. GPUを使ったDockerコンテナの実行テスト:
最も簡単な確認方法は、NVIDIAが提供するCUDAベースのイメージを使って、コンテナ内でnvidia-smiコマンドを実行することです。

bash
sudo docker run --rm --gpus all nvidia/cuda:11.8.0-base-ubuntu22.04 nvidia-smi

* --rm: コンテナ終了時にコンテナを自動的に削除します。
* --gpus all: このオプションがNVIDIA Container Toolkitを呼び出し、コンテナに全てのGPUへのアクセスを許可します。
* nvidia/cuda:11.8.0-base-ubuntu22.04: NVIDIAが公式に提供するCUDAベースのイメージです。使用しているホストのドライバーやGPUに合わせて適切なバージョンを選択してください。nvidia/cuda イメージは、様々なバージョンのCUDA、cuDNN、OSを含む豊富なタグが提供されています。
* nvidia-smi: コンテナ内で実行するコマンドです。ホストのGPU情報が表示されるはずです。

このコマンドを実行して、ホストOSでnvidia-smiを実行したときと同じようなGPU情報が表示されれば、NVIDIA Container Toolkitは正しく機能しています。

+-----------------------------------------------------------------------------+
| NVIDIA-SMI 525.85.12 Driver Version: 525.85.12 CUDA Version: 12.0 |
|-------------------------------+----------------------+----------------------+
| GPU Name Persistence-M| Bus-Id Disp.A | Volatile Uncorr. ECC |
| Fan Temp Perf Pwr:Usage/Cap| Memory Usage | GPU-Util Compute M. |
| | | MIG M. |
|===============================+======================+======================|
| 0 Tesla T4 Off | 00000000:1A:00.0 Off | 0 |
| N/A 42C P8 9W / 70W | 0MiB / 15360MiB | 0% Default |
| | | N/A |
+-------------------------------+----------------------+----------------------+
...

(表示される情報は環境によって異なります)

もしエラーが発生する場合(例: --gpusオプションが認識されない、コンテナ内でnvidia-smiが見つからない/実行できない、GPU情報が表示されない)、トラブルシューティングのセクションを参照してください。

トラブルシューティングのヒント(インストール時)

  • --gpus is not supported on this daemon...: Docker Engineのバージョンが19.03より古いか、NVIDIA Container Toolkitが正しくインストールされ、Dockerデーモンの設定が更新されていない可能性があります。Dockerのバージョンを確認し、もし古ければアップデートしてください。また、sudo nvidia-ctk runtime configure --runtime=docker を実行し、sudo systemctl restart docker でデーモンを再起動してください。
  • コンテナ内でnvidia-smicommand not found: 使用しているコンテナイメージにnvidia-smiが含まれていない可能性があります。NVIDIA公式のnvidia/cudaイメージには含まれています。あるいは、コンテナ内で/usr/binなどのPATHが正しく設定されていない可能性も考えられます。
  • コンテナ内でGPU情報が表示されない、またはエラーが出る: ホストのNVIDIA Driverが正しくインストール・ロードされているか確認してください(sudo nvidia-smi)。また、ホストのドライバーバージョンと、コンテナイメージ内のCUDAバージョンとの互換性を確認してください。nvidia/cudaイメージは、特定のドライバーバージョンを要求する場合があります。
  • パーミッション問題: Dockerコマンドをsudoなしで実行したい場合は、ユーザーをdockerグループに追加し、ログインし直してください。sudo usermod -aG docker $USER

NVIDIA Container Toolkitの使い方

NVIDIA Container Toolkitがインストールされ、正しく機能していることを確認できたら、実際の使い方を見ていきましょう。使い方は非常にシンプルです。docker runコマンドに--gpusオプションを追加するだけです。

基本的なコンテナ実行方法 (--gpus all)

最も一般的な使い方は、ホストが持つ全てのGPUをコンテナに認識させる方法です。

bash
docker run --rm --gpus all <image_name> <command>

例: NVIDIA公式のCUDAイメージでPythonインタプリタを起動し、CUDAが利用可能か確認する

bash
docker run --rm --gpus all nvidia/cuda:11.8.0-base-ubuntu22.04 python -c "import torch; print(torch.cuda.is_available()); print(torch.cuda.device_count())"

このコマンドは、nvidia/cudaイメージを使ってコンテナを起動し、コンテナ内でPyTorchを使ってCUDAが利用可能か、利用可能なGPUの数を表示します。Trueと、利用可能なGPUの数が表示されれば成功です。

同様にTensorFlowの例:

bash
docker run --rm --gpus all tensorflow/tensorflow:2.10.0-gpu python -c "import tensorflow as tf; print(tf.config.list_physical_devices('GPU'))"

このコマンドは、TensorFlowの公式GPUイメージを使ってコンテナを起動し、TensorFlowが認識しているGPUデバイスのリストを表示します。利用可能なGPUが表示されれば成功です。

特定のGPUを選択する方法 (--gpus device=...)

複数のGPUが搭載されている環境で、特定のGPUだけをコンテナに使わせたい場合があります。これは--gpusオプションのdeviceパラメータを使って行います。GPUの指定方法にはいくつかあります。

1. インデックス番号で指定:
nvidia-smiコマンドで表示されるGPUのインデックス番号(通常0から始まります)で指定します。

  • GPU 0 だけを使う:
    bash
    docker run --rm --gpus device=0 <image_name> <command>
  • GPU 0 と GPU 2 を使う:
    bash
    docker run --rm --gpus device=0,2 <image_name> <command>
  • GPU 1 を使う(インデックス1):
    bash
    docker run --rm --gpus device=1 <image_name> <command>

2. UUIDで指定:
各GPUにはユニークなUUIDが割り当てられています。nvidia-smi -q | grep UUID で確認できます。UUIDで指定すると、ハードウェア構成の変更に強く、より確実に特定のGPUを指定できます。

  • 特定のUUIDを持つGPUを使う:
    bash
    # 例: UUIDが GPU-f9f0c... のGPUを使う
    docker run --rm --gpus device=GPU-f9f0c... <image_name> <command>
  • 複数のUUIDを持つGPUを使う:
    bash
    # 例: UUIDが GPU-f9f0c... と GPU-a1b2c... のGPUを使う
    docker run --rm --gpus device=GPU-f9f0c...,GPU-a1b2c... <image_name> <command>

    複数のGPUを指定する場合は、カンマ区切りで列挙します。

GPUオプションの詳細

--gpusオプションには、alldevice以外にもいくつかの指定方法があります。

  • --gpus all: ホスト上の全てのGPUデバイスをコンテナに公開します。
  • --gpus none: GPUを公開しません。--gpusオプションを指定しない場合と同じデフォルトの挙動です。
  • --gpus device=...: 特定のGPUデバイスを指定します。インデックスまたはUUIDで指定できます。
  • --gpus <number>: 利用可能なGPUのうち、指定した数のGPUをランダムにコンテナに割り当てます。例えば、ホストに4つのGPUがあり、--gpus 2と指定すると、ランダムに2つのGPUがコンテナに割り当てられます(通常はインデックスの若いものから)。device=...で明示的に指定する方が一般的です。
  • --gpus capabilities=...: GPUの特定の機能(capability)に基づいてGPUを公開します。例えば、utilitynvidia-smiのような管理ツールに必要な機能、computeはCUDA計算に必要な機能を示します。通常はデフォルト設定(compute, utility)で問題ありません。
  • --gpus all,"capabilities=compute,utility": 全てのGPUを公開し、かつcomputeutilityのcapabilityを有効にする(これは--gpus allのデフォルトの挙動と同じです)。

ほとんどの場合、--gpus all または --gpus device=... を使用することになるでしょう。

CUDAバージョンに合わせたイメージの選択

コンテナ内でGPU計算を行うためには、コンテナイメージ内に適切なバージョンのCUDA ToolkitとcuDNNがインストールされている必要があります。また、ホストOSのNVIDIA Driverのバージョンは、コンテナ内のCUDAバージョンと互換性がある必要があります。

NVIDIAは、様々なバージョンのCUDA、cuDNN、そしてベースOS(Ubuntu, CentOSなど)を含む公式の nvidia/cuda イメージをDocker Hubで提供しています。これらのイメージは、GPU計算に必要なソフトウェアスタックがあらかじめビルドされており、そのままGPUコンテナのベースイメージとして利用できます。

Docker Hubでnvidia/cudaイメージを探すと、非常に多くのタグが存在することがわかります。タグ名には、通常 CUDAバージョン-cuDNNバージョン-OSバージョン といった情報が含まれています。

例:
* nvidia/cuda:11.8.0-base-ubuntu22.04: CUDA 11.8、cuDNNなし、Ubuntu 22.04ベース
* nvidia/cuda:11.8.0-cudnn8-devel-ubuntu22.04: CUDA 11.8、cuDNN 8、開発ツール含む、Ubuntu 22.04ベース
* nvidia/cuda:12.2.2-runtime-ubuntu20.04: CUDA 12.2.2、cuDNNなし、ランタイムのみ、Ubuntu 20.04ベース

どのイメージを選択するかは、ホストのNVIDIA Driverバージョンと、使用したい深層学習フレームワークが要求するCUDA/cuDNNバージョンによって決まります。

  • ホストドライバーとCUDAの互換性: NVIDIAの公式ドキュメントで、各CUDAバージョンの最低限必要なドライバーバージョンを確認できます。コンテナ内のCUDAバージョンがホストドライバーバージョンと互換性がないと、GPUが正しく動作しません。通常、新しいドライバーは古いCUDAバージョンともある程度互換性がありますが、古いドライバーは新しいCUDAバージョンをサポートしないことが多いです。
  • フレームワークとCUDA/cuDNNの互換性: 使用する深層学習フレームワーク(TensorFlow, PyTorchなど)は、特定のバージョンのCUDA ToolkitとcuDNNでビルドされています。フレームワークの公式ドキュメントで、どのバージョルのCUDA/cuDNNが必要かを確認し、それに合ったnvidia/cudaイメージを選択してください。多くのフレームワークは、特定のnvidia/cudaイメージを推奨しているか、それらをベースにした公式GPUイメージ(例: tensorflow/tensorflow:*-gpu, pytorch/pytorch:*-cuda*)を提供しています。

基本的には、NVIDIA公式のnvidia/cudaイメージや、深層学習フレームワーク公式のGPU対応イメージをベースとして使用するのが最も簡単で確実な方法です。

Dockerfileでの利用方法

NVIDIA Container Toolkitは、コンテナの実行時にGPUリソースをコンテナに提供するランタイムレベルのツールです。したがって、Dockerfile自体に特別な変更を加える必要はほとんどありません。

Dockerfileでは、GPU計算に必要なソフトウェアスタック(CUDA, cuDNN, フレームワークなど)を含むベースイメージを選択し、アプリケーションコードや依存関係を追加します。

“`Dockerfile

NVIDIA公式のCUDA/cuDNNイメージをベースにする

FROM nvidia/cuda:11.8.0-cudnn8-devel-ubuntu22.04

必要なシステムパッケージをインストール (例: Python3, pip)

RUN apt-get update && apt-get install -y –no-install-recommends \
python3 python3-pip \
&& rm -rf /var/lib/apt/lists/*

Pythonの仮想環境を作成し、そこにフレームワークをインストールする例

COPY requirements.txt /app/

WORKDIR /app

# RUN python3 -m venv .venv && \
# . .venv/bin/activate && \
# pip install –upgrade pip && \

pip install -r requirements.txt

または、グローバルにインストールする例 (非推奨だが手軽)

RUN pip3 install –no-cache-dir tensorflow==2.10.0 pytorch==1.13.1 torchvision==0.14.1 torchaudio==0.13.1 –extra-index-url https://download.pytorch.org/whl/cu118

アプリケーションコードをコンテナにコピー

COPY your_script.py /app/
WORKDIR /app

コンテナ起動時に実行するコマンド

ENTRYPOINT [“python3”]
CMD [“your_script.py”]
“`

このDockerfileでイメージをビルドし、そのイメージを使ってコンテナを実行する際に、docker run --gpus all ... のように--gpusオプションを付けます。

重要なのは、Dockerfile内でCUDAやcuDNNをソースからビルドしたり、特別な設定をしたりする必要がないという点です。必要なライブラリは、ベースイメージとして使用するnvidia/cudaイメージに含まれています。

実践的な活用例

ここでは、深層学習フレームワーク(TensorFlow, PyTorch)を使ったGPUコンテナの実行例を具体的に見ていきます。

例: TensorFlowの公式イメージを使ったGPUテスト

TensorFlowは、GPU対応の公式DockerイメージをDocker Hubで提供しています。これらは、特定のバージョンのCUDA/cuDNNを含むNVIDIA公式イメージをベースに、TensorFlowとその依存関係がインストールされています。

使用例: 最新のGPU対応TensorFlowイメージを使ってコンテナを起動し、GPUが認識されているか確認する。

“`bash

Docker Hubで tensorflow/tensorflow タグを確認し、適切なバージョンを選択

例: tensorflow/tensorflow:2.10.0-gpu

DOCKER_IMAGE=”tensorflow/tensorflow:latest-gpu”

コンテナを実行し、TensorFlowが認識する物理GPUデバイスを表示

docker run –rm –gpus all $DOCKER_IMAGE python -c “import tensorflow as tf; print(tf.config.list_physical_devices(‘GPU’))”
“`

出力例(GPUが認識されている場合):

[PhysicalDevice(name='/physical_device:GPU:0', device_type='GPU')]

複数のGPUがある場合、--gpus device=0,1のように指定すれば、指定したGPUだけが表示されるはずです。

例: PyTorchの公式イメージを使ったGPUテスト

PyTorchも、GPU対応の公式DockerイメージをDocker Hubで提供しています。

使用例: 最新のGPU対応PyTorchイメージを使ってコンテナを起動し、CUDAが利用可能か、利用可能なGPUの数を表示する。

“`bash

Docker Hubで pytorch/pytorch タグを確認し、適切なバージョンを選択

例: pytorch/pytorch:1.13.1-cuda11.6-cudnn8-devel

DOCKER_IMAGE=”pytorch/pytorch:latest” # または特定のタグ

コンテナを実行し、PyTorchがCUDAを利用できるか、GPU数を表示

docker run –rm –gpus all $DOCKER_IMAGE python -c “import torch; print(torch.cuda.is_available()); print(torch.cuda.device_count())”
“`

出力例(GPUが認識されている場合):

True
1

(利用可能なGPUの数が表示されます)

カスタムイメージの構築

公式イメージに必要なライブラリやアプリケーションを追加して、独自のカスタムイメージを構築することも一般的です。

  1. ベースイメージの選択: NVIDIA公式のnvidia/cudaイメージか、フレームワーク公式のGPUイメージを選択します。使用したいフレームワークのバージョンと、それが要求するCUDA/cuDNNバージョン、そしてホストのドライバーバージョンとの互換性を考慮して選びます。
    例: FROM nvidia/cuda:11.8.0-cudnn8-devel-ubuntu22.04
  2. 依存関係のインストール: RUN命令を使って、Pythonライブラリ(フレームワーク含む)、システムライブラリ、必要なツールなどをインストールします。pip installapt-get installなどを使用します。
  3. コードのコピー: COPY命令を使って、ローカルにあるアプリケーションコードやデータファイルをコンテナイメージ内にコピーします。
  4. 作業ディレクトリの設定: WORKDIR命令で、コマンド実行時のカレントディレクトリを設定します。
  5. エントリーポイント/デフォルトコマンドの設定: ENTRYPOINTCMD命令で、コンテナ起動時に実行されるデフォルトのコマンドやスクリプトを設定します。

“`Dockerfile

例: PyTorchを使って特定のスクリプトを実行するカスタムイメージ

FROM nvidia/cuda:11.8.0-cudnn8-devel-ubuntu22.04

必要に応じてシステムパッケージをインストール

RUN apt-get update && apt-get install -y –no-install-recommends git && \
rm -rf /var/lib/apt/lists/*

PyTorchとその他の必要なPythonライブラリをインストール

RUN pip3 install –no-cache-dir \
torch==1.13.1+cu118 torchvision==0.14.1+cu118 torchaudio==0.13.1 \
-f https://download.pytorch.org/whl/torch_stable.html \
numpy pandas scikit-learn

アプリケーションコードをコピー

COPY src/ /app/src/
COPY main.py /app/
WORKDIR /app

実行コマンド

CMD [“python3”, “main.py”]
“`

このDockerfileをビルドしてイメージを作成し(例: docker build -t my-gpu-app .)、docker run --gpus all my-gpu-appのように実行すれば、GPUが利用可能なコンテナでアプリケーションを実行できます。

パフォーマンスに関する考慮事項

コンテナを使用することによるGPUパフォーマンスへのオーバーヘッドは、通常無視できるほど小さいです。NVIDIA Container Toolkitは、GPUデバイスとドライバーライブラリをコンテナのファイルシステムに透過的にマウントするだけであり、GPUの計算自体はホストOSを介さずに直接ハードウェアで行われます。

ただし、以下の点に注意すると、さらにパフォーマンスを最適化できます。

  • ホストのNVIDIA Driverの最新化: 最新のドライバーは、多くの場合、新しいGPU機能への対応やパフォーマンス改善を含んでいます。コンテナ内のCUDAバージョンと互換性のある最新のドライバーを使用することが推奨されます。
  • 適切なCUDA/cuDNNバージョンの選択: 使用する深層学習フレームワークの推奨バージョンに合わせたCUDA/cuDNNを選択することが、フレームワークの性能を最大限に引き出す上で重要です。
  • データセットの扱: 大規模なデータセットを扱う場合、データをホストマシン上に置き、Dockerのボリュームマウント機能(-v /host/data:/container/data)を使ってコンテナ内部からアクセスするのが一般的です。データの読み込み・書き込み性能がボトルネックにならないよう、高速なストレージ(SSDなど)を使用することが推奨されます。
  • GPU使用率とメモリ使用量の監視: nvidia-smiコマンドをホストやコンテナ内で実行することで、GPUの使用率やメモリ使用量を確認できます。コンテナの負荷が高すぎる場合や、GPUリソースが十分に活用されていない場合に原因特定の手がかりになります。

高度なトピック

NVIDIA Container Toolkitは、単に単一のホストでDockerコンテナからGPUを使うだけでなく、より複雑な環境やシナリオにも対応しています。

Kubernetesとの連携 (NVIDIA device plugin for Kubernetes)

コンテナオーケストレーションプラットフォームであるKubernetes上でGPUリソースを管理し、GPUを必要とするPodに割り当てるためには、追加のコンポーネントが必要です。NVIDIAは、Kubernetesのための NVIDIA device plugin for Kubernetes を提供しています。

このDevice Pluginは、Kubernetesノード上でデーモンセットとして動作し、そのノードに搭載されているGPUリソースをKubernetesに報告します。Kubernetesスケジューラーは、Podの要求(例: resources: limits: nvidia.com/gpu: 1)に基づいて、GPUが利用可能なノードにPodをスケジュールします。

PodがGPUを要求してノードにスケジュールされると、そのノード上のKubelet(各ノードのエージェント)は、コンテナランタイムインターフェース(CRI)を通じて、コンテナランタイム(例: containerd, CRI-O, またはDockerとdockershim)にコンテナの起動を指示します。この際、KubeletはDevice Pluginと連携し、Podが必要とするGPUデバイスに関する情報を取得します。

コンテナランタイムは、受け取った情報(どのGPUデバイスを使うか、必要なライブラリなど)をNVIDIA Container Toolkitに渡します。NVIDIA Container Toolkitは、前述の仕組みを使って、指定されたGPUデバイスや必要なライブラリをコンテナにマウントし、環境変数を設定します。

このように、Kubernetes環境では、NVIDIA Device PluginとNVIDIA Container Toolkitが連携して、PodへのGPU割り当てと、コンテナからのGPUアクセスを可能にしています。ユーザーはPodの仕様にGPUリソース要求を記述するだけで、Kubernetesが適切なノードを選択し、コンテナ内でGPUが利用できるようになります。

Docker Swarmなど他のコンテナオーケストレーションツールでの利用

Docker SwarmでもGPUリソースを利用できます。Docker Engine 19.03以降では、ServiceやStackの定義ファイル(Docker Composeファイル形式)でdeploy.resources.reservations.devicesフィールドを使ってGPUリソースを要求できます。

yaml
version: '3.7' # 3.7以上が必要
services:
gpu_service:
image: my-gpu-image
command: python train.py
deploy:
resources:
reservations:
devices:
- driver: nvidia # NVIDIA GPUを指定
count: all # または特定の数 (例: 1)
capabilities: [gpu] # または [compute, utility]

この定義を使ってサービスを作成すると、Docker SwarmはGPUリソースが利用可能なノストでコンテナを起動し、NVIDIA Container ToolkitがGPUをコンテナに公開します。

PodmanやCRI-Oなど、OCI Runtime Specificationに準拠した他のコンテナランタイムでも、NVIDIA Container Toolkit(またはlibnvidia-container)を利用することでGPUをサポートできます。nvidia-ctk runtime configure コマンドは、これらのランタイム向けの設定も生成できます。

GPU共有 (MIG – Multi-Instance GPU) とコンテナ

NVIDIA A100などの一部の新しいGPUでは、MIG(Multi-Instance GPU)という機能がサポートされています。これは、一つの物理GPUを、ハードウェアレベルで独立した複数の小さなGPUインスタンスに分割する機能です。各MIGインスタンスは独立したメモリ、キャッシュ、計算コアを持ち、異なるコンテナやユーザーに割り当てることができます。

MIGを利用することで、GPUリソースをより細かく、安全に共有できます。NVIDIA Container ToolkitとNVIDIA Device Plugin for Kubernetesは、MIGインスタンスの検出と、特定のMIGインスタンスをコンテナに割り当てる機能をサポートしています。

Kubernetesでは、MIGを有効にしたノード上のDevice Pluginが、利用可能なMIGインスタンス(例: nvidia.com/mig-1g.5gb)をKubernetesに報告し、Podからはそのリソースを要求できるようになります。コンテナランタイムとNVIDIA Container Toolkitは、指定されたMIGインスタンスのみをコンテナに公開します。

これにより、複数のユーザーやジョブが、一つの物理GPU上で互いに干渉することなく、より効率的にリソースを共有できるようになります。

セキュリティに関する考慮事項

NVIDIA Container Toolkitは、ホストOSのGPUデバイスファイルやドライバーライブラリをコンテナにマウントします。これにより、コンテナ内のプロセスはこれらのリソースに直接アクセスできるようになります。

この仕組みは非常に便利ですが、セキュリティの観点からは以下の点を考慮する必要があります。

  • コンテナの権限: --gpusオプションを使用するコンテナは、GPU関連のデバイスやライブラリにアクセスするための特別な権限を持つことになります。信頼できないイメージや、悪意のあるコードを含む可能性があるコンテナを実行する際には注意が必要です。
  • ドライバーの脆弱性: GPUドライバーに脆弱性が見つかった場合、ホストだけでなく、GPUリソースにアクセスできるコンテナも影響を受ける可能性があります。ホストのNVIDIA Driverは常に最新の状態に保つことが重要です。
  • マルチテナント環境: 複数のユーザーが同じホスト上でGPUコンテナを実行する場合、意図しない情報漏洩やリソースの枯渇を防ぐために、MIGやGPU仮想化技術、あるいは適切なオーケストレーションツール(Kubernetesなど)によるリソース分離・管理を検討する必要があります。

トラブルシューティング(実行時)

GPUコンテナの実行中に発生しがちなエラーとその対処法です。

  • docker: Error response from daemon: --gpus is not supported on this daemon or requires setting default-runtime.:
    • 原因: Docker Engineのバージョンが古い(19.03未満)か、NVIDIA Container Toolkitが正しくインストールされていない、またはDockerデーモンの設定ファイル/etc/docker/daemon.jsonにNVIDIAランタイムが正しく設定されていない。
    • 対処法: Docker Engineを最新版にアップデートする。NVIDIA Container Toolkitを公式手順に従ってインストールする。sudo nvidia-ctk runtime configure --runtime=docker を実行し、sudo systemctl restart docker でDockerデーモンを再起動する。
  • コンテナ内でnvidia-smitorch.cuda.is_available()などが機能しない:
    • 原因1: --gpus allオプションを付け忘れている。
    • 対処法1: docker runコマンドに--gpus all(または適切な--gpus device=...)オプションを追加する。
    • 原因2: ホストのNVIDIA Driverが正しくインストールされていない、またはロードされていない。
    • 対処法2: ホストでsudo nvidia-smiを実行し、GPU情報が表示されるか確認する。表示されない場合は、NVIDIA DriverのインストールやOSの再起動が必要かもしれません。
    • 原因3: コンテナイメージ内のCUDA/cuDNNバージョンと、ホストのNVIDIA Driverバージョンとの互換性がない。
    • 対処法3: ホストのnvidia-smiでドライバーバージョンを確認し、それに互換性のあるCUDAバージョンのコンテナイメージ(nvidia/cudaタグリストやフレームワークのドキュメントを参照)を使用する。または、ホストのドライバーを更新する。
    • 原因4: コンテナイメージに必要なCUDA/cuDNNまたはフレームワークが正しくインストールされていない。
    • 対処法4: 使用しているコンテナイメージに、GPU計算に必要なソフトウェアスタックが含まれているか確認する。NVIDIA公式やフレームワーク公式のGPUイメージを使用するか、Dockerfileを確認・修正する。
    • 原因5: コンテナ内の環境変数(LD_LIBRARY_PATHなど)が正しく設定されていない。NVIDIA Container Toolkitが自動で設定しますが、Dockerfile内でENVなどで上書きしていないか確認する。
  • docker build時にGPUを使いたい(例えば、CUDA拡張をビルドするなど):
    • 原因: docker buildコマンドには--gpusオプションはありません。ビルド時にはランタイム機能である--gpusは利用できません。
    • 対処法: ビルド環境(ホストまたは別のビルドコンテナ)にNVIDIA DriverとCUDA Toolkitをインストールする必要があります。Dockerfile内でCUDA拡張をビルドする場合、ビルドを実行する環境(docker buildx build --platform linux/amd64 --gpu ...のような実験的な機能もありますが、一般的ではありません)でCUDA Toolkitが利用可能である必要があります。多くの場合、ビルドはCPUで行い、実行時にGPUを利用する設計にします。複雑なビルドが必要な場合は、 multi-stage build を利用して、ビルドステージと実行ステージを分けることが有効です。
  • nvidia-container-toolkit または libnvidia-container 関連のエラーメッセージ:
    • 原因: NVIDIA Container Toolkit自体のインストールや設定に問題がある。
    • 対処法: インストール手順(リポジトリ追加、GPGキー、パッケージインストール、nvidia-ctk runtime configure、Docker再起動)を再度確認・実行する。/etc/docker/daemon.jsonの内容を確認する。システムログ(journalctl -u dockerなど)にエラーが出ていないか確認する。

これらのトラブルシューティングのヒントを参考に、問題解決に取り組んでください。ほとんどの場合、Dockerデーモンの設定、ホストドライバーとコンテナ内CUDAの互換性、または--gpusオプションの付け忘れが原因です。

まとめ

本記事では、「DockerでGPUを動かす!NVIDIA Container Toolkit徹底解説」と題して、Dockerコンテナ内でGPUを利用するための鍵となるツール、NVIDIA Container Toolkitについて詳細に解説しました。

GPUコンピューティングが深層学習や高性能計算に不可欠であること、そして従来のDockerではGPUリソースへのアクセスが容易ではなかったという背景を確認しました。

NVIDIA Container Toolkitは、この課題を解決するために開発された、GPUデバイス、ドライバーライブラリ、および必要な環境変数をコンテナに透過的に公開するためのツールキットです。そのアーキテクチャは、libnvidia-containernvidia-container-toolkit、そしてnvidia-container-runtimeといったコンポーネントによって構成されており、Docker Engine v19.03以降で標準化された--gpusオプションを通じて利用できる仕組みを理解しました。

UbuntuやCentOSといった主要なLinuxディストリビューションへのインストール手順を具体的に説明し、docker run --gpus all <image_name> <command> というシンプルなコマンドでGPUコンテナを実行できることを確認しました。特定のGPUを指定するための--gpus device=...オプションの使い方や、CUDAバージョンに合わせたベースイメージの選び方についても解説しました。

さらに、TensorFlowやPyTorchといった深層学習フレームワークを使った具体的なGPUコンテナの実行例を紹介し、カスタムイメージの構築方法についても触れました。コンテナによるGPUパフォーマンスへの影響は小さいこと、そしてデータセットの扱い方や監視が重要であることを述べました。

高度なトピックとして、KubernetesにおけるNVIDIA Device Pluginとの連携、Docker Swarmでの利用、そしてMIGによるGPU共有の可能性についても触れました。最後に、GPUコンテナ利用におけるセキュリティ上の考慮事項や、よくあるトラブルシューティングについても具体的な対処法を提示しました。

NVIDIA Container Toolkitを利用することで、GPUを必要とするアプリケーションのコンテナ化が非常に容易になります。これにより、開発環境の再現性が高まり、チーム間での環境共有が容易になり、学習・推論環境のデプロイも標準化・効率化できます。深層学習やデータ分析のワークフローにおいて、コンテナ技術とGPUを組み合わせることは、もはやデファクトスタンダードと言えるでしょう。

本記事が、あなたがDockerとGPUを活用した開発・運用に取り組む上での助けとなれば幸いです。公式ドキュメントや関連リソースも参照しながら、ぜひ自身の環境でGPUコンテナを試してみてください。

参考文献/リソース


以上で、「DockerでGPUを動かす!NVIDIA Container Toolkit徹底解説」の記事は終了です。約5000語を目指して執筆しました。必要に応じて、特定のセクションをさらに深掘りしたり、具体的なコード例やスクリーンショットを追加したりすることで、より実践的な内容にすることも可能です。

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