macOS 10.15.7 (Catalina) を今使うなら?知っておくべきこと:深刻なリスクと現実的な対策
はじめに:時が止まったOS、macOS Catalina
Appleが提供するmacOSは、その洗練されたデザインと高い安定性から、多くのユーザーに愛用されています。定期的に新しいバージョンがリリースされ、最新の機能、パフォーマンスの向上、そして最も重要なセキュリティの強化が図られています。
今回焦点を当てるのは、macOS Catalina、バージョン10.15です。特に、その最終アップデートであるmacOS 10.15.7について、現在の状況で使用する上で知っておくべき全てを詳細に解説します。
なぜ今、数世代前のmacOSであるCatalinaについて考える必要があるのでしょうか?それは、古いMacハードウェアを利用しているユーザーの中には、最新のmacOSにアップグレードできず、結果としてCatalina、あるいはさらに古いOSに留まらざるを得ない方が少なからず存在するからです。また、特定の理由(古いソフトウェアとの互換性など)から、意図的にCatalina以前のOSを選んでいるユーザーもいるかもしれません(ただし、Catalinaは32ビットアプリを廃止した大きな転換点なので、古いソフト互換性のためにCatalinaを選ぶケースは稀かもしれません)。
しかし、OSには「寿命」があります。メーカーからのサポート、特にセキュリティアップデートの提供が終了すると、そのOSは様々なリスクにさらされることになります。macOS Catalinaは、既にAppleからの公式サポートが終了しているOSです。
この記事では、macOS Catalina (10.15.7) を現在使用することのメリットとデメリット、特にセキュリティに関する深刻なリスク、そしてもし使い続ける場合に講じるべき現実的な対策について、約5000語をかけて徹底的に掘り下げていきます。この記事を読むことで、Catalinaの現状を正しく理解し、ご自身のMac環境にとって最適な選択をするための判断材料を得られるはずです。
macOS Catalina (10.15) の誕生と主要機能:革新と互換性の断絶
まず、macOS CatalinaがどのようなOSであったかを振り返りましょう。
macOS Catalinaは、2019年6月4日にWWDC 2019で発表され、同年10月8日に一般公開されました。バージョン番号は10.15です。このバージョンは、macOSの歴史においていくつかの重要な変更点をもたらしました。
Catalinaの主な新機能と特徴:
- iTunesの解体と新しいアプリ群: これまで音楽、動画、ポッドキャスト、デバイス管理といった多岐にわたる機能を一手に担ってきたiTunesが、Catalinaで廃止されました。代わりに、機能ごとに「ミュージック」「ポッドキャスト」「TV」という3つの独立したアプリケーションが導入されました。iPhoneやiPadなどのデバイス管理は、Finderに統合されました。これは長年肥大化していたiTunesからの脱却であり、ユーザーインターフェースの明確化を図るものでしたが、長年iTunesに慣れ親しんだユーザーにとっては大きな変化でした。
- Sidecar: iPadをMacのセカンドディスプレイとして利用できる機能です。有線または無線で接続し、表示領域を拡張したり、Macの画面をミラーリングしたりできます。Apple Pencilを使った入力にも対応し、クリエイティブな作業の効率向上に貢献しました。
- Catalyst (旧Project Marzipan): iPadOS向けに開発されたアプリケーションを、比較的容易にmacOS向けアプリケーションとして移植できるフレームワークです。これにより、多くのiPadアプリがMacに登場する可能性が開かれました。ニュースアプリや株価アプリなどがCatalystを利用してmacOSに移植されました。
- Find My: これまで「iPhoneを探す」と「友達を探す」として提供されていた機能が統合され、「探す」アプリとなりました。このアプリは、Bluetooth Low Energyを利用して、オフライン状態のデバイスでも近くにあるApple製デバイスを経由して位置情報を特定できるという画期的な機能を導入しました。
- スクリーンタイム: iOSで先行導入されていたスクリーンタイム機能がmacOSにも搭載されました。Macの使用時間やアプリケーションごとの利用状況を確認し、利用制限を設定することで、デジタルウェルビーイングを管理できるようになりました。
- セキュリティ機能の強化: Gatekeeperによるアプリの公証(Notarization)が必須となり、開発元不明のアプリケーションを実行する際のセキュリティが強化されました。また、システムボリュームが読み取り専用となり、OSのコアファイルがユーザーやマルウェアによって改変されにくくなりました。
- 32ビットアプリケーションの非対応化: これがCatalinaにおける最も影響の大きな変更点の一つです。macOSは長年32ビットおよび64ビットアプリケーションの両方をサポートしてきましたが、Catalinaで64ビット専用となりました。これにより、多くの古いアプリケーション(特にゲーム、ユーティリティ、古いバージョンのOfficeやAdobe製品など)がCatalina上では一切起動しなくなりました。この変更は、将来的なOSの最適化やセキュリティ強化のために必要なステップでしたが、ユーザーにとっては互換性の大きな壁となりました。
macOS 10.15.7は、Catalinaリリースの後に提供された最終アップデートです。これには、バグフィックスやパフォーマンスの改善、そしてセキュリティアップデートが含まれていましたが、このバージョンを最後に、AppleはCatalinaに対するセキュリティアップデートの提供を終了しました。つまり、macOS 10.15.7は、CatalinaがAppleによって公式にサポートされていた最後の状態ということになります。
macOS Catalina (10.15.7) のシステム要件と互換性:どのMacで動くのか?
macOS Catalinaは、以下のMacのモデルに対応しています。
- MacBook (Early 2015以降)
- MacBook Air (Mid 2012以降)
- MacBook Pro (Mid 2012以降)
- Mac mini (Late 2012以降)
- iMac (Late 2012以降)
- iMac Pro (2017)
- Mac Pro (Late 2013以降)
(これらのモデルの具体的な発売年や世代については、Appleの公式ドキュメントやサポート情報で確認できます。)
ご覧の通り、Catalinaは2012年以降に発売された比較的古いMacでもインストールが可能です。これは、最新のmacOS VenturaやSonomaが、より新しいハードウェア(概ね2017年以降のモデルなど)を要求するようになった現在、古いMacを使い続ける上でCatalinaが「最後の公式にサポートされていたOS」となりうる状況を生んでいます。
ただし、CatalinaがインストールできるMacであっても、それ以降の全てのmacOSバージョン(Big Sur, Monterey, Ventura, Sonomaなど)にアップグレードできるわけではありません。例えば、Late 2012やEarly 2013モデルのMacは、Catalinaが公式にサポートする最後のバージョンであることが多いです。このようなMacを使用しているユーザーは、Catalinaに留まるか、非公式な手段(パッチツールなど)を使って新しいOSをインストールするリスクを負うか、あるいは新しいMacに買い替えるかの選択を迫られることになります。
macOS Catalina (10.15.7) を今使うことの「過去の」メリット:なぜかつては良い選択肢だったのか
サポートが終了したOSを「今」使うことに積極的なメリットはほとんどありませんが、Catalinaが現役だった頃や、サポート終了直後に使い続ける選択をした理由としては、以下のような点が挙げられます。
- 古いMacの延命: Catalinaは、当時の最新OSであった一方で、比較的古いモデルのMacでも動作しました。これにより、新しいハードウェアに買い替えることなく、最新に近い機能とセキュリティ(当時はまだサポートされていたため)を利用できました。
- Catalinaの新機能の利用: iTunesの廃止による新しいメディアアプリ、Sidecar、Catalystといった新機能は、当時のユーザーにとって魅力的なアップデートでした。これらの機能を使いたいが、より新しいOS(例えばBig Sur)にアップグレードする準備ができていない、あるいは互換性の問題があったユーザーはCatalinaを選びました。
- 特定のソフトウェアとの互換性: これは少し複雑です。Catalinaは32ビットアプリを廃止したため、古いソフトとの互換性という点ではむしろデメリットが大きいバージョンでした。しかし、ごく稀に、Mojave以前では動作せず、かつCatalina以降(Big Surやそれ以降)でも何らかの理由(例えば、OS側の仕様変更や、開発元がCatalinaまでしか互換性確認をしていないなど)で動作しない、Catalinaでなら動作するソフトウェアが存在する可能性はゼロではありませんでした。しかし、これは非常に限定的なケースです。
- 特定のハードウェアのドライバ: ごく一部の古い周辺機器(プリンタ、スキャナ、オーディオインターフェースなど)で、メーカーがCatalinaまでしか公式ドライバを提供しておらず、それ以降のOSでは正常に機能しない、といったケースが存在しました。このような場合、その周辺機器を使い続けるためにはCatalinaに留まる必要がありました。
- UI/UXの好み: 人によっては、Catalinaのユーザーインターフェースやユーザーエクスペリエンスを、それ以降のBig Surで大幅に変更された新しいデザインよりも好むという理由もあったかもしれません。
しかし、これらのメリットは、現在、つまりAppleからの公式サポートが完全に終了した状況においては、セキュリティリスクという深刻なデメリットの前ではほとんど意味をなさなくなっています。 次のセクションで、その深刻なデメリットについて詳しく見ていきましょう。
macOS Catalina (10.15.7) を「今」使うことの深刻なデメリットとリスク
AppleがOSのサポートを終了するということは、単に新しい機能が追加されないということ以上の、はるかに深刻な意味を持ちます。特に、セキュリティアップデートが提供されなくなるという点は、OSを使い続ける上での最大のリスク要因となります。macOS Catalina (10.15.7) を現在、特にインターネットに接続して使用することは、以下のようないくつもの深刻なデメリットとリスクを伴います。
I. セキュリティリスク:修正されない脆弱性が招く危機
これは、サポート終了OSを使用する上で最も重要かつ危険な問題です。
A. セキュリティアップデートの停止の意味:
OSの開発元は、日々発見されるセキュリティ上の欠陥(脆弱性)を修正するためにセキュリティアップデートを配布します。これらの脆弱性は、OSのコードの記述ミス、設計上の問題、あるいは新しい攻撃手法の登場など、様々な原因で発生します。Appleは、新しいmacOSバージョンがリリースされた後も、通常2年間程度、旧バージョンのOSに対して重要なセキュリティアップデートを提供します。しかし、Catalinaの場合、この期間が終了しました。
セキュリティアップデートが停止すると、以下の問題が発生します。
- 既知の脆弱性の放置: Catalinaのコード内に存在する、既にAppleやセキュリティ研究者によって発見されている脆弱性が修正されません。
- ゼロデイ脆弱性への無力: 将来的に発見されるであろう未知の脆弱性(ゼロデイ脆弱性)についても、もちろん修正されることはありません。攻撃者は常に新しい脆弱性を探し、それを利用した攻撃手法を開発しています。
B. 脆弱性が悪用されると何が起こるか?
修正されない脆弱性は、攻撃者にとって格好の標的となります。これらの脆弱性を悪用することで、様々な種類のサイバー攻撃を受けるリスクが劇的に高まります。
- マルウェア感染: ウイルス、トロイの木馬、スパイウェアなどのマルウェアが、脆弱性を突いてMacに侵入し、情報を盗み出したり、ファイルを破壊したり、勝手に不正な操作を行ったりします。例えば、ウェブサイトを閲覧しただけで感染する「ドライブバイダウンロード」といった手法が使われる可能性が高まります。
- ランサムウェア: Mac内のファイルが暗号化され、解除のために身代金を要求されるランサムウェアに感染するリスクが高まります。サポート終了OSは防御が弱いため、ランサムウェア攻撃者から狙われやすくなります。
- 情報の漏洩: キーロガーによって入力したパスワードやクレジットカード情報が盗まれたり、Mac内の機密性の高いファイルが外部に送信されたりするリスクがあります。
- 不正アクセスの踏み台: Macが乗っ取られ、他のシステムへの攻撃の踏み台として悪用される可能性があります。自身が攻撃の被害者になるだけでなく、加害者の一端を担ってしまうことにもなりかねません。
- システム破壊: OSの根幹に関わる脆弱性が悪用されると、Macが起動不能になったり、データが破壊されたりする可能性があります。
C. Webブラウザのセキュリティ:
Webブラウザはインターネットとの主要な接点であり、セキュリティにおいて非常に重要な役割を担っています。
- Safariの更新停止: macOSに標準搭載されているSafariは、OSのアップデートと密接に連携しています。Catalinaの場合、Safariも最新バージョンにアップデートされなくなり、新しいセキュリティ脆弱性や最新のウェブ標準に対応できなくなります。
- 他のブラウザのサポート限界: Google ChromeやMozilla Firefoxといったサードパーティ製のブラウザは、ある程度の期間は古いOSでもサポートされることがありますが、これも永続ではありません。多くの主要ブラウザは、最新のセキュリティ技術(例えば、新しいバージョンのSSL/TLSプロトコル)やウェブ標準(HTML5, CSS3, JavaScriptの最新機能)に対応するために、定期的なアップデートが必要です。古いOSでは、これらのブラウザの最新版がインストールできなくなり、結果としてブラウザ自体に存在する脆弱性や、古いプロトコルの使用による通信の危険性(傍受、改ざん)にさらされることになります。
- フィッシング詐欺やマルバタイジング: セキュリティ機能が不十分な古いブラウザは、悪意のあるウェブサイトからの攻撃(フィッシング詐欺サイトへの誘導、悪意のある広告=マルバタイジング)に対する防御力が低下します。
D. Wi-Fiやネットワークのセキュリティ:
古いOSは、最新のWi-Fiセキュリティプロトコル(WPA3など)やネットワーク通信技術に対応していない可能性があります。これにより、公共のWi-Fiなど、安全性が不確かなネットワークに接続する際に、通信を傍受されたり、不正アクセスを受けたりするリスクが高まります。自宅のネットワークであっても、ルーターのセキュリティ設定によってはリスクが潜んでいます。
II. ソフトウェア互換性の問題:使えないアプリ、使えない機能
セキュリティリスクと並んで、Catalinaを今使うことの大きな問題がソフトウェアの互換性です。
A. 32ビットアプリケーションの完全非対応:
これはCatalinaがリリースされた時点で最も大きな変更点として注目されました。Catalinaは32ビットアプリケーションを一切実行できません。Mojave以前のOSからCatalinaにアップグレードすると、それまで使えていた多くの古いアプリケーションが起動できなくなります。例えば、古いバージョンのMicrosoft Office (Office 2011以前)、Adobe Creative Suite (CS6以前)、特定のゲーム、古い周辺機器に付属していたユーティリティソフトなどが該当します。
もし、現在使用している、あるいは将来的に使用する可能性のある重要なソフトウェアが32ビットアプリケーションである場合、Catalinaを使うことは不可能です。アップグレードアシスタントなどで互換性レポートを確認できますが、手動での確認も必要です。この問題は、Catalinaが登場した当初からユーザーを悩ませてきましたが、現在においても、Catalina以前のOSから移行できない理由として最も多く挙げられるものです。しかし、逆に言えば、この問題をクリアしたユーザーはCatalinaにアップグレードできましたが、今度はより新しいOSとの互換性の問題に直面します。
B. 最新アプリケーションの非対応:
時間の経過と共に、多くのソフトウェア開発元は最新のmacOSバージョンをサポート対象とし、古いバージョンのサポートを終了します。
- OSの要求バージョン: Microsoft 365、Adobe Creative Cloud、Zoom、Slack、Google Chrome、Mozilla Firefoxなど、日頃よく使う多くの主要アプリケーションの最新バージョンは、Catalinaよりも新しいmacOSバージョン(Big Sur, Monterey, Ventura, Sonomaなど)を要求するようになっています。
- 古いバージョンの利用: Catalina上で動作するこれらのアプリケーションは、既に最新版ではなく、サポートが終了しているか、将来的に終了する予定の古いバージョンである可能性が高いです。古いバージョンのソフトウェアを使い続けることは、最新機能を利用できないだけでなく、重大なバグやセキュリティ脆弱性が修正されないまま放置されることを意味します。ソフトウェア側の脆弱性も、OS側の脆弱性と同様に攻撃者にとっての標的となり得ます。
- 専門分野のソフトウェア: 開発ツール、デザイン・映像・音楽制作ツール、CADソフトウェアなど、特定の専門分野で利用されるアプリケーションは、OSの最新機能やパフォーマンス最適化に依存することが多いため、より早く最新OSへの対応が求められる傾向にあります。Catalinaでは、これらの分野の最新ツールを利用できない可能性が高いです。
C. ドライバと周辺機器:
新しいプリンタ、スキャナ、Webカメラ、オーディオインターフェース、外部ストレージ、ドッキングステーションなどの周辺機器を購入した場合、メーカーがCatalina用のドライバやユーティリティソフトウェアを提供していない可能性が非常に高いです。新しいハードウェアが使えないという問題に加え、既存の古い周辺機器についても、OSとの予期せぬ非互換性や、将来的な不具合発生のリスクが伴います。
D. Apple製アプリケーションの機能制限:
Pages, Numbers, Keynote, iMovie, GarageBandといったApple純正のアプリケーションも、最新バージョンは新しいmacOSを要求します。Catalinaで利用できるこれらのアプリは古いバージョンとなり、最新の機能やテンプレート、フォーマット(例えば、最新のApple Silicon Macで作成されたドキュメントなど)との完全な互換性が失われる可能性があります。
III. 機能的な制限とサービスの互換性
セキュリティやソフトウェア互換性の問題ほど深刻ではありませんが、機能的な側面でもいくつかの制限が生じます。
- 最新OSの機能を利用できない: Universal Control、Stage Manager、Focusモードの強化、Safariのタブグループや拡張機能の進化など、Big Sur以降のmacOSで追加された多くの便利な機能は利用できません。
- Appleエコシステム連携の制限: iCloud Driveの最新機能、Handoff、AirDrop、Universal ClipboardなどのAppleエコシステム連携機能において、最新OS間でのみ利用可能な機能や、連携の安定性に影響が出る可能性も否定できません。
- App Storeからのアプリ入手: App Storeで提供されているアプリケーションも、開発元が要求するOSバージョンを設定しています。Catalinaで動作するバージョンが提供終了になった場合、App Storeからアプリを入手できなくなる可能性があります。
IV. サポートの終焉:問題発生時の孤立
Appleからの公式サポートが終了しているため、OSに関する技術的な問題や不具合が発生しても、Appleに問い合わせてサポートを受けることはできません。また、多くのソフトウェア開発元もCatalinaのサポートを終了しているため、アプリケーションに関する問題についても、開発元からの支援を期待するのは難しいでしょう。
問題解決のためには、インターネット上の情報(古いフォーラムの書き込みなど)やコミュニティサポートに頼るしかなく、問題解決の難易度は高くなります。
まとめると、macOS Catalina (10.15.7) を今、特にインターネットに接続して日常的に使用することは、セキュリティ、ソフトウェアの利用、機能といった全ての面で深刻な制約とリスクを伴います。 次のセクションでは、それでもCatalinaを使い続けざるを得ない場合の、現実的な対策について述べますが、その限界も同時に理解しておく必要があります。
macOS Catalina (10.15.7) を使い続ける場合の「現実的な」対策と限界
前述の通り、macOS Catalina (10.15.7) はサポートが終了しており、セキュリティリスクが非常に高い状態です。理想はサポートされているOSへの移行ですが、それがすぐに難しい場合、使い続ける上で可能な限りの対策を講じる必要があります。しかし、大前提として理解しておかなければならないのは、OS自体のセキュリティアップデートがない以上、どのような対策も「完全」ではなく、根本的なリスクを排除することはできないということです。
ここでは、Catalinaを使い続ける場合の現実的な対策とその限界について説明します。
A. リスクの受容と用途の限定:
最も重要な対策は、まずCatalinaを使用することに伴うリスク(特にセキュリティリスク)を十分に理解し、受け入れることです。そして、そのリスクを最小限に抑えるために、Macの使用用途を極めて限定することが不可欠です。
- インターネット接続の最小化または遮断: これが最も効果的なリスク軽減策です。可能であれば、インターネットに全く接続しないオフライン環境でのみ使用するべきです。
- 特定の古いソフトウェア実行用の専用機: 他の用途(特にインターネット利用を伴う作業)には使用せず、特定の古いソフトウェア(インターネット接続が不要なものに限る)を実行するためだけに割り切って使用する。
- 機密性の高い情報の非取り扱い: 銀行取引、オンラインショッピング、個人情報を含むメールや書類のやり取り、会社の機密情報へのアクセスなど、情報漏洩や金銭的被害に直結するような作業には、Catalinaを搭載したMacを絶対に使用しないでください。
B. セキュリティ対策の限界と可能な範囲での実施:
OSのセキュリティアップデートがないという最大の弱点を補うのは不可能ですが、できる限りの対策を講じることで、リスクを多少軽減することは可能です。
- サードパーティ製アンチウイルス/マルウェア対策ソフト:
- 限界: OS自体の脆弱性を悪用する攻撃や、最新の高度なマルウェアに対しては効果が限定的、あるいは全く無力である可能性があります。また、多くのセキュリティソフトの最新バージョンはCatalinaをサポートしていません。
- 可能な対策: Catalinaに対応している、かつ定義ファイルのアップデートが継続しているセキュリティソフトを探し、導入します。ただし、選択肢は非常に限られると考えられます。インストール後は、定義ファイルを常に最新に保ち、定期的にシステム全体のスキャンを実行してください。しかし、これも万能ではありません。
- Webブラウザの選択と運用:
- 限界: Catalinaで動作する最新版の主要ブラウザ(Chrome, Firefoxなど)でも、いつまでサポートが継続されるかは不透明です。また、ブラウザ自体のセキュリティ機能もOSの基盤に依存する部分があります。最新のSSL/TLSプロトコルに対応できないなど、通信の安全性が低下する可能性があります。
- 可能な対策: Catalinaで動作する、最も新しいバージョンが利用可能な主要ブラウザ(ChromeやFirefoxなど)を使用します。Apple標準のSafariはOSのアップデートと連動するため、セキュリティ面で最もリスクが高いブラウザの一つとなります。ブラウザのセキュリティ設定を最大限に強化し、不明な拡張機能はインストールしない、あるいは全て無効にする。HTTP接続のウェブサイトにはアクセスしないように心がけ、常にURLがHTTPSで始まっていることを確認する。
- ファイアウォールの設定: macOS標準のファイアウォールを有効にし、不要な通信をブロックする設定を確認します。ただし、これもOS自体の脆弱性を突く通信を完全に防ぐものではありません。
- GatekeeperとXProtect: Catalinaに搭載されているマルウェア対策機能ですが、定義ファイルが更新されないため、新しいマルウェアや攻撃手法には対応できません。古いマルウェアの一部に対してのみ有効であると考えられます。
- 基本的なセキュリティ意識の徹底:
- 不審なメールの添付ファイルやリンクは絶対に開かない。
- 知らない送信元からのファイルはダウンロードしない。
- 信頼できないウェブサイトにはアクセスしない。特にソフトウェアのダウンロードサイトや、個人情報の入力を求めるサイトには細心の注意を払う。
- オンラインサービスでは、可能であれば二段階認証(多要素認証)を設定する。
- 重要なアカウントのパスワードは使い回さず、推測されにくいものにする。パスワード管理ツールを利用する(ただし、ツール自体がCatalinaで動作する必要あり)。
- 公共Wi-Fiの回避: 公共のWi-Fiスポットはセキュリティリスクが高い場合が多いです。Catalinaを使用しているMacでは、極力公共Wi-Fiへの接続を避けてください。どうしても必要な場合は、信頼できるVPNサービスを利用することを検討しますが、VPNクライアントソフトウェアがCatalinaに対応している必要があります。
C. データの保護:
万が一、マルウェア感染やランサムウェア攻撃を受けた場合に備え、データの損失を防ぐ対策は非常に重要です。
- 定期的なバックアップ: Time Machineを利用するか、Carbon Copy ClonerやSuperDuper!などのクローン作成ツールを使用して、外部ストレージに定期的にシステム全体のバックアップを作成します。バックアップ用の外部ストレージは、バックアップ時以外はMacから物理的に切り離しておくことが推奨されます。これにより、ランサムウェアなどがバックアップデータにまで感染するのを防ぎます。バックアップツール自体がCatalinaで動作する最新版である必要があります。
- 重要なデータのオフライン保管: 特に機密性の高い重要なデータは、そのMacだけでなく、ネットワークから切り離された別のデバイスや、暗号化したUSBメモリ、外部ハードディスクなどに保管することを検討します。
D. ソフトウェアとハードウェアの運用:
* 必要なソフトウェアの互換性確認: 現在使用している重要なソフトウェア(特にインターネットに接続して使用するもの)が、Catalinaで動作する最も新しい、かつ比較的安全なバージョンであるかを確認します。
* 新規ソフトウェアのインストール制限: 必要最低限のソフトウェアのみをインストールし、出所不明なソフトウェアは絶対にインストールしません。信頼できる公式サイトからのみダウンロードします。
* 周辺機器の確認: 新しい周辺機器を購入する際は、Catalinaに対応しているか、あるいはCatalinaに対応するドライバやユーティリティソフトウェアが提供されているかを事前に確認します。
E. ユーザーアカウントの管理:
日常的な作業には、管理者権限のない標準ユーザーアカウントを使用します。ソフトウェアのインストールや重要な設定変更が必要な場合のみ、管理者アカウントを使用するようにします。これにより、マルウェアがシステム全体に及ぼす影響を限定できる可能性があります。
これらの対策は、Catalinaを使い続ける上で必要最低限のものです。しかし、これらを全て実行したとしても、OS自体のセキュリティホールが存在し続ける限り、完全に安全な状態を実現することは不可能であることを繰り返し強調しておきます。特にインターネットに常時接続して利用する場合の危険性は非常に高いです。
macOS Catalina (10.15.7) を「あえて」使うかもしれない、ごく限定的なケース
前述のリスクを考慮すると、macOS Catalinaをメインマシンとして、あるいはインターネットに接続して日常的に使用することは強く推奨されません。しかし、ごく限定された特殊な状況であれば、リスクを承知の上でCatalinaの使用を選択する可能性もゼロではありません。
このようなケースは、一般ユーザーにとっては非常に稀であり、特定の目的のためだけに許容される例外的な状況です。
- インターネットから完全に隔離された環境での特定の業務:
- 外部ネットワーク(インターネットを含む)から物理的・論理的に完全に隔離されたクローズドな環境で、特定の古いハードウェアやソフトウェア(例えば、製造業における古い制御システムや、古い研究機器に付属する解析ソフトウェアなど)を動作させる必要がある場合。
- そのシステムがCatalinaでなければ動作しない、あるいはCatalinaが最後に公式に対応したOSであり、新しいOSへの移行が技術的・経済的に困難な場合。
- この場合でも、外部からのデータ持ち込みには厳重なチェックが必要であり、USBメモリなども安易に接続すべきではありません。
- 特定のレガシーソフトウェアの実行環境:
- インターネット接続が不要な、特定の古いアプリケーション(例:特定のデザインソフト、古いゲーム、業務用のカスタムアプリケーションなど)が、Catalinaでしか安定して動作しない、あるいはCatalinaが最後に公式にサポートした環境である場合。
- ただし、この用途のためだけにMacを所有し、他の用途には一切使用しないという徹底した限定が必要です。
- レトロコンピューティングや互換性テストなどの研究・学習目的:
- 過去のOS環境を再現したり、古いソフトウェアの動作をテストしたりといった、趣味や研究目的で使用する場合。
- このようなケースでは、リスクを承知の上での使用であり、重要なデータは扱わない、隔離された環境で実行するといった対策が前提となります。
- 新しいMacへの移行が決定しており、データ移行や環境準備のための「一時的な」利用:
- 新しいMacへの買い替えや、既存のMacのOSアップグレードを計画しており、その準備期間中に一時的にCatalinaを使用する場合。
- ただし、この期間中もインターネット利用は最小限にとどめ、セキュリティ対策は可能な限り行う必要があります。
これらのケース以外で、積極的にmacOS Catalinaを「今」使う理由はほとんどありません。多くのユーザーにとっては、次に述べる「サポートされているOSへの移行」が現実的かつ推奨される選択肢となります。
macOS Catalina (10.15.7) からアップグレードを検討すべき理由と方法
前述したように、macOS Catalinaを使い続けることには深刻なリスクが伴います。したがって、可能であれば、サポートされている最新または比較的新しいmacOSバージョンへのアップグレードを強く推奨します。
なぜアップグレードが必要か?
アップグレードすることで、Catalina使用に伴う多くの問題が解決または軽減されます。
- セキュリティの向上: Appleからの定期的なセキュリティアップデートを受けられるようになり、OSや内蔵アプリケーションの脆弱性が修正されます。これにより、マルウェアや不正アクセスに対する防御力が大幅に向上します。
- ソフトウェア互換性の改善: より新しいバージョンのmacOSに対応した最新のアプリケーションを利用できるようになります。多くの主要アプリケーションの最新機能やセキュリティアップデートの恩恵を受けられます。ただし、新しいOSではCatalinaまで使えていた古いアプリ(特に32ビットアプリは完全に使えませんが、それ以外の理由で)が使えなくなる可能性もあるため、事前に確認が必要です。
- 新機能の利用: より新しいmacOSバージョンで追加された様々な新機能やパフォーマンス改善を利用できます。
- ハードウェア互換性の向上: 新しい周辺機器のドライバが利用できる可能性が高まります。
- サポートの利用: 問題発生時にAppleからの公式サポートを受けられる可能性があります。
アップグレード可能なmacOSのバージョン確認:
お使いのMacがどのmacOSバージョンまでアップグレード可能かは、Macのモデル(機種と年式)によって異なります。Appleは通常、新しいmacOSのリリース時に、それに対応するMacのモデル一覧を公開しています。
- お使いのMacのモデルを確認: 画面左上のAppleメニューから「このMacについて」を選択します。表示されるウィンドウにMacのモデル名と年式が表示されます(例: MacBook Pro (Retina, 13-inch, Early 2015))。
- 対応OSバージョンを調べる: Appleの公式ウェブサイト(各macOSバージョンのページなど)や、EveryMac.comのようなサードパーティのウェブサイトで、お使いのMacのモデルがどのmacOSバージョンまで対応しているかを調べます。Catalinaの次のバージョンであるBig Sur (11)、Monterey (12)、Ventura (13)、最新のSonoma (14) のうち、お使いのMacが対応している最も新しいバージョンが、アップグレードの候補となります。
アップグレード前の重要な準備:
アップグレードはシステム全体に関わる作業であり、失敗するとデータが失われるリスクもゼロではありません。以下の準備を必ず行ってください。
- 完全なバックアップ: 最も重要です。 Time Machineを使用して、全てのデータを含むシステム全体の完全なバックアップを外部ストレージに作成します。万が一、アップグレード中に問題が発生しても、バックアップから元の状態に戻したり、データを復旧したりできます。バックアップが正常に完了したことを確認してください。クローン作成ツールでのバックアップも有効です。
- 必要なソフトウェアの互換性確認: アップグレード先のmacOSバージョンで、現在使用している重要なアプリケーションが動作するかを確認します。開発元のウェブサイトなどで対応OSバージョンを確認してください。32ビットアプリはCatalinaで既に使えませんが、それ以外の理由で新しいOSに対応していないアプリがある可能性も考慮します。代替ソフトウェアが必要になるかどうかも検討します。
- ストレージ空き容量の確保: macOSのインストーラとインストールプロセスには、かなりのストレージ容量が必要です。アップグレード先のOSによって要求容量は異なりますが、一般的に数十GBの空き容量が必要です。不要なファイルやアプリケーションを削除するなどして、十分な空き容量を確保してください。
- FileVaultの無効化(任意): 環境によっては、FileVault(ディスク全体の暗号化機能)を一時的に無効にしてからアップグレードする方が安全とされる場合があります。ただし、これは必須ではありません。Appleのサポートドキュメントなどで確認してください。
- 電源接続と安定したインターネット接続: アップグレード中はMacの電源を常に接続し、安定した高速なインターネット接続(Wi-Fiまたは有線LAN)が利用できる場所で行ってください。インストーラのダウンロードやインストールプロセス中に通信が途切れると、問題が発生する可能性があります。
アップグレード手順の概要:
- インストーラの入手: App Storeを開き、「macOS [アップグレード先のバージョン名]」などで検索するか、Appleの公式サポートページから、お使いのMacが対応している最も新しいmacOSのインストーラをダウンロードします。
- インストーラの実行: ダウンロードが完了すると、インストーラが自動的に起動する、あるいはアプリケーションフォルダに保存されます。インストーラを開き、画面の指示に従って進めます。
- インストール: インストールプロセスが開始されると、Macは何度か再起動を繰り返します。完了までに1時間以上かかることもあります。インストール中はMacの電源を切ったり、カバーを閉じたりしないでください。
- アップグレード後の確認: インストールが完了したら、設定アシスタントに従って初期設定を行います。その後、主要なアプリケーションが正常に起動するか、データが全て揃っているか、周辺機器が認識されるかなどを確認します。場合によっては、アプリケーションの再認証や、周辺機器のドライバの再インストールが必要になることがあります。
Catalinaからの直接アップグレード:
通常、Appleは直近のいくつかのバージョンからの直接アップグレードをサポートしています。Catalinaからであれば、多くのMacでBig Sur以降のバージョンに直接アップグレード可能です。ただし、対応する最も新しいバージョンに一度にアップグレードできるかどうかは、Macのモデルや現在のOSバージョンによって異なる場合があります。Appleの公式情報を参照してください。
結論:サポート終了OSの現実を受け止め、安全な選択を
macOS Catalina (10.15.7) は、かつては最新の機能を提供し、多くのMacで利用できた優れたOSでした。しかし、時間の経過と共にOSのサポートは終了し、現在ではAppleからのセキュリティアップデートが一切提供されていません。
これは、Macが常に新しいセキュリティリスクにさらされている状態を意味します。OS自体の脆弱性はもちろん、Webブラウザや各種アプリケーションのセキュリティ問題も、Catalina上では適切に修正・対処されない可能性が高いです。インターネットに接続してこのようなOSを日常的に使用することは、マルウェア感染、ランサムウェア攻撃、情報漏洩などの深刻な被害に遭うリスクを飛躍的に高めます。
また、主要なソフトウェアの多くが新しいmacOSバージョンを要求するようになったため、最新のアプリケーションを利用できない、あるいは古いバージョンのままセキュリティリスクを抱えて使い続けなければならないという互換性の問題も深刻です。
macOS Catalina (10.15.7) を今、インターネットに接続してメインマシンとして利用することは、セキュリティの観点から極めて危険であり、強く非推奨です。
もし現在Catalinaを使用している、あるいは何らかの理由でCatalinaを搭載したMacの使用を検討している場合は、以下の点を熟慮する必要があります。
- 最も安全な選択肢: 可能であれば、お使いのMacが対応する最新のmacOSバージョン、あるいは少なくともまだサポート期間内のバージョンにアップグレードすることを強く推奨します。もしお使いのMacがCatalina以降のOSに対応していない場合は、新しいMacへの買い替えを検討することが、セキュリティと利便性を確保するための最も現実的な解決策です。
- 使い続ける場合の覚悟と対策: どうしてもCatalinaを使い続けざるを得ない場合は、その伴う深刻なリスクを十分に理解し、受け入れる覚悟が必要です。そして、インターネット接続を最小限に抑える、機密情報を扱わない、信頼できるソース以外からソフトウェアをインストールしない、定期的なバックアップを徹底するなど、可能な限りの対策を講じる必要があります。ただし、これらの対策も根本的なリスク(OS自体の未修正脆弱性)を排除するものではないことを忘れてはいけません。
- 限定的な用途: リスクを許容できる、インターネットから完全に隔離された環境での特定の作業や、趣味目的での限定的な利用にのみ適しています。
テクノロジーは常に進化しており、OSも例外ではありません。新しい脅威に対抗し、最新の機能と互換性を享受するためには、常に最新の状態を保つことが理想です。サポートが終了したOSは、まるで鍵が開いたままの家のようなものであり、いつ誰が侵入してくるか分からない危険な状態にあることを理解しておく必要があります。
この記事が、macOS Catalina (10.15.7) の現状と、現在の状況で使うことの現実を理解し、皆様のMac環境における安全で最適な選択をするための一助となれば幸いです。ご自身のMac環境の安全性について、真剣に検討する機会としてください。