OpenSSL ciphersとは?利用可能な暗号スイートの確認方法

はい、承知いたしました。OpenSSL ciphersに関する詳細な記事を、約5000語を目指して記述します。


OpenSSL ciphersとは? 利用可能な暗号スイートの確認方法とセキュリティ設定

インターネット上の通信において、機密性、完全性、可用性を確保するために、TLS/SSL(Transport Layer Security / Secure Sockets Layer)プロトコルは不可欠です。ウェブサイトへのアクセス、電子メールの送受信、オンラインバンキングなど、多くの通信がTLSによって保護されています。このTLS接続を確立する際に、クライアントとサーバー間で「どのような暗号化や認証の方法を用いるか」を取り決める必要があります。この取り決められる一連の暗号化アルゴリズムやパラメータの組み合わせを「暗号スイート (Cipher Suite)」と呼びます。

OpenSSLは、TLS/SSLプロトコルを実装した、広く利用されているオープンソースライブラリです。ウェブサーバー(Apache, Nginxなど)、メールサーバー、VPN、その他の多くのアプリケーションがOpenSSLを利用して安全な通信を実現しています。OpenSSLにおける「ciphers」は、このライブラリが認識し、利用可能な暗号スイート全般を指します。

本記事では、OpenSSL ciphersが何であるか、そしてシステムにインストールされたOpenSSLがどの暗号スイートをサポートしているかを確認するための主要なツールである openssl ciphers コマンドについて、その詳細な使い方と、安全な通信を確立するための暗号スイートの選択基準、推奨設定について詳しく解説します。約5000語を目標に、初心者からある程度知識のある方まで理解できるよう、網羅的な情報を提供します。

1. OpenSSL ciphers とは何か?

まず、「OpenSSL ciphers」の概念を深掘りしましょう。これは単に「暗号」を指すだけでなく、TLS/SSL通信における「暗号スイート」と、それを管理・利用するためのOpenSSLライブラリの機能を総称しています。

1.1. 暗号スイート(Cipher Suite)とは

暗号スイートは、TLS/SSL接続においてクライアントとサーバーがネゴシエート(交渉)して決定する、一連の暗号化・認証関連のアルゴリズムの組み合わせです。具体的には、以下の要素を含みます(TLSv1.2までの場合。TLSv1.3では構造が異なります)。

  1. 鍵交換アルゴリズム (Key Exchange Algorithm): 接続を確立する際に、通信に用いる共通鍵を安全に共有するためのアルゴリズムです。代表的なものに、RSA, Diffie-Hellman (DH), Elliptic Curve Diffie-Hellman (ECDH) などがあります。特に、セッションごとに一時的な鍵ペアを生成するEphemeral DH (DHE) や Ephemeral ECDH (ECDHE) は、Forward Secrecy (前方秘匿性) を実現するために重要です。前方秘匿性がある場合、たとえサーバーの秘密鍵が漏洩しても、過去の通信内容が復号されることを防げます。
  2. 認証アルゴリズム (Authentication Algorithm): サーバー(およびオプションでクライアント)の正当性を検証するためのアルゴリズムです。通常、デジタル証明書と組み合わせて使用されます。代表的なものに、RSA, DSA, ECDSA などがあります。
  3. 暗号化アルゴリズム (Encryption Algorithm): 通信されるデータを実際に暗号化するためのアルゴリズムです。共通鍵暗号方式が用いられます。代表的なものに、AES (Advanced Encryption Standard), 3DES (Triple DES), RC4 などがあります。ブロック暗号の場合、モード(CBC, GCMなど)も指定されます。TLSv1.2以降では、Authenticated Encryption with Associated Data (AEAD) を提供するGCMモードやChaCha20-Poly1305が推奨されます。
  4. メッセージ認証コード (MAC) アルゴリズム (Message Authentication Code Algorithm): 通信されるデータの完全性を保証し、改ざんを検出するためのアルゴリズムです。代表的なものに、SHA-1, SHA-256, SHA-384 などがあります。TLSv1.2以降では、ハッシュ関数ベースのHMAC (Hash-based Message Authentication Code) が一般的に使用されます。TLSv1.3では、MACはAEAD暗号化に統合されています。

TLSv1.2までの暗号スイート名は、これらの要素をハイフンやアンダースコアで区切って表現することが一般的です。例えば、TLS_ECDHE_RSA_WITH_AES_128_GCM_SHA256 という暗号スイートは、以下を示唆しています。

  • プロトコル: TLS (実際にはTLSv1.2以降でよく使われる)
  • 鍵交換: ECDHE (Ephemeral Elliptic Curve Diffie-Hellman)
  • 認証: RSA
  • 暗号化: AES 128ビットキー、GCMモード
  • MAC/PRF: SHA256 (GCMモードではMACはGCM自身に統合され、これはPRFに使われることが多い)

TLSv1.3の暗号スイートは、鍵交換と認証がハンドシェイクの別のフェーズで行われるようになったため、構造が単純化されました。TLSv1.3の暗号スイートは、主に以下の組み合わせを指定します。

  1. AEAD暗号化アルゴリズム: AEAD (Authenticated Encryption with Associated Data) を提供するアルゴリズム。例:AES_128_GCM, AES_256_GCM, ChaCha20_Poly1305。
  2. ハッシュ関数: ハンドシェイクの様々な部分で使用されるハッシュ関数。例:SHA256, SHA384。

TLSv1.3の暗号スイート名は、TLS_AES_128_GCM_SHA256 のように、TLS_ プレフィックスに続いて暗号化アルゴリズムとハッシュ関数をアンダースコアで繋げた形式になります。これはTLSv1.2以前の命名規則とは異なります。

1.2. OpenSSLにおける ciphers の役割

OpenSSLライブラリは、これらの暗号スイートの実装を含んでいます。アプリケーションはOpenSSLのAPIを呼び出すことで、TLS接続を確立し、利用可能な暗号スイートのリストを提示したり、クライアントから提示されたリストの中から適切なものを選択したりします。

OpenSSLは、非常に多くの暗号アルゴリズムとモード、そしてそれらを組み合わせた暗号スイートをサポートしています。しかし、すべての暗号スイートが安全であるわけではありません。古い、あるいは脆弱性が発見されたアルゴリズムを含む暗号スイートは、使用を避けるべきです。

OpenSSLの「ciphers」に関する機能は、主に以下の目的で使用されます。

  • 利用可能な暗号スイートのリストアップ: OpenSSLライブラリが現在のビルド設定や実行環境でどの暗号スイートを提供できるかを確認します。
  • 暗号スイートの選択・優先順位付け: サーバーやクライアントの設定で、利用する暗号スイートのリストやその優先順位を指定します。これにより、セキュリティ強度や互換性を制御します。
  • 暗号スイート文字列の解釈: 設定ファイルやコマンドライン引数で指定された「暗号スイート文字列」(後述)を解析し、具体的な暗号スイートのリストに変換します。

2. 利用可能な暗号スイートの確認方法: openssl ciphers コマンド

システムにインストールされているOpenSSLがどのような暗号スイートをサポートしているかを知ることは、TLS設定を行う上で非常に重要です。最も基本的な確認方法は、OpenSSLに含まれるコマンドラインツール openssl のサブコマンドである ciphers を使用することです。

openssl ciphers コマンドは、現在のOpenSSLライブラリが認識している暗号スイートのリストを表示します。このコマンドには様々なオプションがあり、表示形式を変えたり、特定の条件でフィルタリングしたり、特定のプロトコルバージョンに限定したりすることができます。

2.1. 基本的な使い方

オプションなしで openssl ciphers を実行すると、OpenSSLのデフォルト設定に基づいて、利用可能な暗号スイートのリストがコロン : 区切りで表示されます。

bash
openssl ciphers

出力例:
ECDHE-RSA-AES256-GCM-SHA384:ECDHE-ECDSA-AES256-GCM-SHA384:ECDHE-RSA-AES256-SHA384:ECDHE-ECDSA-AES256-SHA384:DHE-RSA-AES256-GCM-SHA384:DHE-DSS-AES256-GCM-SHA384:DHE-RSA-AES256-SHA256:DHE-DSS-AES256-SHA256:ECDH-RSA-AES256-GCM-SHA384:ECDH-ECDSA-AES256-GCM-SHA384:ECDH-RSA-AES256-SHA384:ECDH-ECDSA-AES256-SHA384:AES256-GCM-SHA384:AES256-SHA256:ECDHE-RSA-AES128-GCM-SHA256:ECDHE-ECDSA-AES128-GCM-SHA256:ECDHE-RSA-AES128-SHA256:ECDHE-ECDSA-AES128-SHA256:DHE-RSA-AES128-GCM-SHA256:DHE-DSS-AES128-GCM-SHA256:DHE-RSA-AES128-SHA256:DHE-DSS-AES128-SHA256:ECDH-RSA-AES128-GCM-SHA256:ECDH-ECDSA-AES128-GCM-SHA256:ECDH-RSA-AES128-SHA256:ECDH-ECDSA-AES128-SHA256:AES128-GCM-SHA256:AES128-SHA256:HIGH:MEDIUM:!aNULL:!eNULL:!EXPORT:!DES:!RC4:!MD5:!PSK:!aECDH

上記の出力は、実際にOpenSSLが内部で管理している短縮名や別名を含んでいます。これは「暗号スイート文字列」(Cipher String)と呼ばれる特殊な形式で、特定のルールに従って記述されます。この文字列については後述します。

2.2. 詳細表示オプション (-v, -V)

各暗号スイートが具体的にどのようなアルゴリズムの組み合わせであるか、そのプロトコルバージョンや鍵長などの詳細情報を確認したい場合は、-v または -V オプションを使用します。

  • -v: 短い詳細情報を表示します。暗号スイート名、プロトコル、鍵交換、認証、暗号化、MACなどが一覧形式で表示されます。
  • -V: より長い詳細情報を表示します。各アルゴゴリズムの具体的な名称(例:AES(256)GCM)や、OpenSSL内部での定義名、IANAによって割り当てられたTLS Registry IDなども表示されます。

bash
openssl ciphers -v

出力例(一部):
ECDHE-RSA-AES256-GCM-SHA384 TLSv1.2 Kx=ECDH Au=RSA Enc=AESGCM(256) Mac=AEAD
ECDHE-ECDSA-AES256-GCM-SHA384 TLSv1.2 Kx=ECDH Au=ECDSA Enc=AESGCM(256) Mac=AEAD
ECDHE-RSA-AES256-SHA384 TLSv1.2 Kx=ECDH Au=RSA Enc=AES(256) Mac=SHA384
...
AES256-GCM-SHA384 TLSv1.2 Kx=RSA Au=RSA Enc=AESGCM(256) Mac=AEAD
...
AES128-SHA256 TLSv1.2 Kx=RSA Au=RSA Enc=AES(128) Mac=SHA256
...

-V オプションを使うとさらに詳細な情報が表示されます。

bash
openssl ciphers -V

出力例(一部):
0xC0,0x30 - ECDHE-RSA-AES256-GCM-SHA384 TLSv1.2 Kx=ECDH Au=RSA Enc=AESGCM(256) Mac=AEAD
0xC0,0x2C - ECDHE-ECDSA-AES256-GCM-SHA384 TLSv1.2 Kx=ECDH Au=ECDSA Enc=AESGCM(256) Mac=AEAD
0xC0,0x2E - ECDHE-RSA-AES256-SHA384 TLSv1.2 Kx=ECDH Au=RSA Enc=AES(256) Mac=SHA384
0xC0,0x2A - ECDHE-ECDSA-AES256-SHA384 TLSv1.2 Kx=ECDH Au=ECDSA Enc=AES(256) Mac=SHA384
...
0x00,0x9F - AES256-GCM-SHA384 TLSv1.2 Kx=RSA Au=RSA Enc=AESGCM(256) Mac=AEAD
...

行頭の 0xC0,0x300x00,0x9F は、IANA TLS Cipher Suite Registryで定義されている各暗号スイートのID(16進数)です。このIDはTLSハンドシェイクで実際にクライアントとサーバー間でやり取りされる際に使用されます。

2.3. プロトコルバージョン指定オプション

デフォルトでは、現在のOpenSSLがサポートする最も新しいTLSバージョン(通常はTLSv1.3)とその古いバージョン(TLSv1.2, TLSv1.1, TLSv1.0, 場合によってはSSLv3やSSLv2)に対応する暗号スイートが含まれて表示されます。特定のプロトコルバージョンで利用可能な暗号スイートのみを表示したい場合は、以下のオプションを使用します。

  • -ssl3: SSLv3で利用可能な暗号スイートを表示します。(非推奨:SSLv3には脆弱性があります)
  • -tls1: TLSv1.0で利用可能な暗号スイートを表示します。(非推奨:TLSv1.0には脆弱性があります)
  • -tls1_1: TLSv1.1で利用可能な暗号スイートを表示します。(非推奨:TLSv1.1には脆弱性があります)
  • -tls1_2: TLSv1.2で利用可能な暗号スイートを表示します。
  • -tls1_3: TLSv1.3で利用可能な暗号スイートを表示します。

“`bash

TLSv1.2 で利用可能な暗号スイートを表示

openssl ciphers -tls1_2 -v

TLSv1.3 で利用可能な暗号スイートを表示

openssl ciphers -tls1_3 -v
“`

TLSv1.3の暗号スイートはTLSv1.2以前とは構造が異なるため、-tls1_3 オプションは非常に重要です。OpenSSL 1.1.1以降でTLSv1.3がサポートされています。

2.4. TLSv1.3 ciphersuitesの指定 (-ciphersuites)

TLSv1.3で利用可能な暗号スイートを指定・フィルタリングする場合は、-tls1_3 オプションと組み合わせて、-ciphersuites オプションを使用するのが一般的です。-ciphersuites に指定する文字列は、TLSv1.2以前の暗号スイート文字列とは異なり、TLSv1.3の標準的な名称(例: TLS_AES_258_GCM_SHA384)をコロン : で区切って並べたものです。

“`bash

TLSv1.3 で利用可能なすべての暗号スイートを表示 (-tls1_3 が必要)

openssl ciphers -tls1_3

TLSv1.3 で特定の暗号スイートのみを表示(例:AES256-GCM と ChaCha20-Poly1305)

openssl ciphers -tls1_3 -ciphersuites TLS_AES_256_GCM_SHA384:TLS_CHACHA20_POLY1305_SHA256 -v
“`

TLSv1.2以前の暗号スイート文字列(-ciphers オプションやデフォルトの引数として使用)は、-tls1_3 が指定されていない場合に適用されます。-tls1_3-ciphersuites を同時に指定した場合、-ciphers で指定された文字列はTLSv1.2以前の暗号スイートにのみ影響し、TLSv1.3の暗号スイートは -ciphersuites でのみ指定されます。

2.5. OpenSSL設定ファイルに基づいた表示 (-s)

OpenSSLライブラリは、システム全体またはユーザーごとの設定ファイル(通常 /etc/ssl/openssl.cnf や環境変数で指定されたパス)を参照することがあります。この設定ファイル内で、デフォルトで有効・無効にする暗号スイートなどが指定されている場合があります。

-s オプションを使用すると、OpenSSLのグローバルな設定ファイルに基づいて評価された暗号スイートのリストを表示できます。デフォルトの openssl ciphers コマンドは、コンパイル時のデフォルト設定や環境変数などを参照しますが、-s は明示的に設定ファイルを読み込みます。

bash
openssl ciphers -s -v

2.6. 指定した文字列でのフィルタリング ([cipherstring])

openssl ciphers コマンドの最も強力な機能の一つは、コマンドライン引数として「暗号スイート文字列」(Cipher String)を指定することで、表示するリストをフィルタリングしたり、優先順位を変えたりできることです。これにより、サーバーやアプリケーションの設定で使用する際に、指定した文字列がどのような実際の暗号スイートのリストに変換されるかを確認できます。

引数として指定された暗号スイート文字列は、OpenSSLが解釈して有効な暗号スイートのリストに変換します。この文字列の文法は非常に柔軟で、後述する様々な要素、別名、演算子を組み合わせます。

“`bash

HIGH 強度の暗号スイートのみを表示

openssl ciphers ‘HIGH’ -v

HIGH強度から、RC4と3DESを除外して表示

openssl ciphers ‘HIGH:!RC4:!3DES’ -v

ECDHE鍵交換を使用し、かつAES256またはAES128のGCMモードを使用する暗号スイートを表示

openssl ciphers ‘ECDHE+AESGCM’ -v
“`

指定する文字列の評価順序は重要です。文字列は左から順に評価され、暗号スイートがリストに追加されたり、削除されたり、優先順位が変更されたりします。

2.7. ソート表示 (-sort)

表示される暗号スイートのリストを、OpenSSLの内部的な優先順位に従ってソートしたい場合は、-sort オプションを使用します。デフォルトでは、OpenSSLは特定の順序でリストを生成しますが、-sort を使うと、ハンドシェイク時にサーバーが ssl_prefer_server_ciphers オプションなどを有効にしている場合に、サーバーが提示する可能性のある優先順位に近い順序で表示されます。

bash
openssl ciphers -v -sort

2.8. OpenSSL形式/IETF形式での出力 (-o, -p)

openssl ciphers コマンドの出力形式は、デフォルトではOpenSSLが独自に定義した短縮名や別名を使用することが多いです(例: ECDHE-RSA-AES256-GCM-SHA384)。

  • -o (or -openssl): 出力をOpenSSL形式の文字列として表示します。これはデフォルトの挙動と同じことが多いですが、明示的に指定できます。
  • -p (or -iana): 出力をIANA (Internet Assigned Numbers Authority) で定義されている標準的なTLS Cipher Suite名の形式で表示します。これは -v-V オプションで表示される名称(例: TLS_ECDHE_RSA_WITH_AES_256_GCM_SHA384)に近い形式です。設定ファイルなどで標準名を使用したい場合に便利です。

“`bash

IANA形式で表示

openssl ciphers -p

IANA形式で詳細を表示

openssl ciphers -p -v
“`

2.9. その他のオプション

  • -s_client: これは ciphers のオプションではなく、s_client コマンドのオプションですが、関連するため触れておきます。openssl s_client -ciphers [cipherstring] ... のように使用すると、クライアントとして接続する際に提示する暗号スイートのリストを制御できます。特定の暗号スイートでの接続可否をテストするのに便利です。

3. 暗号スイート文字列の文法を理解する

前述の通り、OpenSSLでは「暗号スイート文字列」(Cipher String)という特殊な形式を用いて、利用可能な暗号スイートのリストを指定したりフィルタリングしたりします。この文字列は、個別の暗号スイート名、アルゴリズムのカテゴリを表す別名(エイリアス)、そしてそれらを組み合わせるための演算子で構成されます。

3.1. 文字列の構造

暗号スイート文字列は、複数の要素をコロン : で区切って並べたものです。

要素1:要素2:要素3:...

各要素は、単一の暗号スイート名、別名、または演算子と別名の組み合わせです。OpenSSLは文字列を左から順に評価し、リストを生成または変更していきます。

3.2. 要素(アルゴリズムカテゴリと別名)

OpenSSLは、様々なアルゴリズムや特性に基づいて、事前に定義された多数の別名(エイリアス)を持っています。これらは、特定のアルゴリズムを含むすべての暗号スイートをまとめて指定するのに便利です。主要な別名をいくつか挙げます。

  • プロトコルバージョン: SSLv2, SSLv3, TLSv1, TLSv1.1, TLSv1.2
  • 強度のカテゴリ:
    • ALL: OpenSSLがサポートする TLSv1.2以前 のすべての暗号スイート。(注意:脆弱なものも含むため、単体での使用は非推奨)
    • DEFAULT: コンパイル時のデフォルト設定や設定ファイルに基づいた、比較的モダンなデフォルトの暗号スイートセット。通常は HIGHMEDIUM を含み、脆弱なもの(aNULL, eNULL, EXPORT, RC4, DES, MD5, PSK, aECDHなど)を除外します。
    • HIGH: 128ビット以上の強度の暗号化アルゴリズム(AES, Camelliaなど)を使用する暗号スイート。
    • MEDIUM: 128ビット未満だが56ビットより強い暗号化アルゴリズム(例: 112/128ビット3DES)を使用する暗号スイート。
    • LOW: 56ビットまたは40ビットの強度の暗号化アルゴリズム(例: DES40, RC4-40など)を使用する暗号スイート。(非推奨)
    • eNULL: 暗号化を行わない暗号スイート。(非推奨)
  • 鍵交換アルゴリズム: RSA, DH, DHE, ECDH, ECDHE など。
  • 認証アルゴリズム: aRSA (RSA認証), aDSA (DSA認証), aECDSA (ECDSA認証), aNULL (認証なし) など。
  • 暗号化アルゴリズム: AES, AESGCM (AES-GCM), CHACHA20 (ChaCha20-Poly1305), 3DES, RC4, DES など。鍵長を指定することも可能(例: AES128, AES256, 3DES168)。
  • MACアルゴリズム: MD5, SHA1, SHA256, SHA384 など。TLSv1.3ではMACはAEADに統合されるため、これはTLSv1.2以前の文脈でより意味を持ちます。
  • 特性:
    • aNULL: 認証を行わない暗号スイート。(非推奨)
    • eNULL: 暗号化を行わない暗号スイート。(非推奨)
    • EXPORT: 輸出規制に対応した弱い鍵長(通常40ビットまたは56ビット)を使用する暗号スイート。(非推奨)
    • PFS: Forward Secrecyを提供する暗号スイート(DHE, ECDHEなどを使用するもの)。
    • AEAD: AEAD暗号化(GCM, ChaCha20-Poly1305など)を使用する暗号スイート。
    • kECDHE (or ECDHE): ECDHE鍵交換を使用する暗号スイート。
    • kRSA (or RSA): RSA鍵交換を使用する暗号スイート。

これらはごく一部です。openssl ciphers -v またはドキュメントを参照して、より多くの別名を確認できます。

3.3. 演算子 (Modifiers)

暗号スイート文字列では、別名や個別の暗号スイート名に以下の演算子を付けて、リストの生成や変更を行います。

  • : (コロン): 要素の区切り文字。通常、コロンで区切られた要素は、評価順にリストに追加されていきます。既にリストに存在する暗号スイートは、その要素に遭遇した時点でリストの末尾に移動されます(優先順位が上がります)。
  • + (プラス): 直前の要素で指定された暗号スイートの中から、プラス記号の後に指定されたアルゴリズム 使用する暗号スイートをフィルタリングし、リストの末尾に追加します。例: HIGH+ECDSA は、HIGH のリストのうち、ECDSA認証を使用するもののみをリストに追加します。
  • - (マイナス): 直前の要素で追加された暗号スイートの中から、マイナス記号の後に指定されたアルゴリズム 使用する暗号スイートをリストから削除します。例: HIGH:-3DES は、HIGH のリストから3DESを使用するものを削除します。
  • ! (エクスクラメーション): 指定された暗号スイートまたはカテゴリを、リストから 完全に削除 します。これは評価順序に関わらずリストから消し去る強力な演算子です。例: !SSLv3 は、リストからSSLv3の暗号スイートをすべて削除します。通常、セキュリティ上の理由で弱い暗号やプロトコルを確実に無効にするために使用されます。

3.4. 文字列の評価順序

OpenSSLは暗号スイート文字列を左から右に評価します。

  1. 最初の要素が評価され、初期の暗号スイートリストが生成されます。
  2. 以降の要素が順番に評価されます。
    • : で区切られた要素は、それが参照する暗号スイートを現在のリストに追加します。既にリストに存在する暗号スイートの場合、その暗号スイートはリストの末尾(最も高い優先順位)に移動します。
    • + で区切られた要素は、直前の要素によって追加されたリストに対してフィルタリングを行い、条件に合致するものをリストの末尾に移動します。
    • - で区切られた要素は、直前の要素によって追加されたリストから、条件に合致するものを削除します。
    • ! で始まる要素は、現在のリスト全体から、条件に合致するものを 完全に削除 します。

この評価順序を理解することは、意図した通りの暗号スイートのリストを生成するために非常に重要です。

3.5. 例

いくつかの暗号スイート文字列の例と、openssl ciphers コマンドでの確認方法を示します。

例1: デフォルトのリストを確認
“`bash
openssl ciphers -v

または明示的に ‘DEFAULT’ を指定して確認

openssl ciphers ‘DEFAULT’ -v
“`
多くのシステムでは、デフォルト設定は比較的安全な暗号スイート(HIGHやMEDIUMなど)を選び、既知の脆弱性があるもの(aNULL, eNULL, RC4, DES, SSLv3など)を除外するように設定されています。

例2: HIGH 強度から RC4 と 3DES を除外
bash
openssl ciphers 'HIGH:!RC4:!3DES' -v

HIGH でリストを生成し、そのリストから !RC4!3DES でRC4と3DESを使用するものを完全に削除します。

例3: ECDHE 鍵交換または DHE 鍵交換を使用する PFS 対応の暗号スイートを優先し、それに続いて RSA 鍵交換の HIGH 強度、ただし脆弱なものは除外
bash
openssl ciphers 'ECDHE:DHE:HIGH:!aNULL:!eNULL:!LOW:!SSLv2:!SSLv3:!RC4:!3DES' -v -sort

* ECDHE:DHE: まずECDHEおよびDHEを使用する暗号スイートがリストに追加され、優先順位が高くなります。
* HIGH: 次にHIGH強度の暗号スイートがリストに追加されます。既にECDHE/DHEで追加されているものは末尾に移動します。
* !aNULL:!eNULL:!LOW:!SSLv2:!SSLv3:!RC4:!3DES: リスト全体から、認証なし、暗号化なし、LOW強度、SSLv2/3、RC4、3DESを使用するものを完全に削除します。
* -sort: OpenSSLの内部優先順位でソートします。

この文字列は、最近推奨されているモダンな設定に近いです。DHEやECDHEによるForward Secrecyを優先し、脆弱なアルゴリズムや古いプロトコルを排除しています。

3.6. TLSv1.3 Cipher Suites の指定方法の復習

前述の通り、TLSv1.3の暗号スイートは -ciphersuites オプションで、標準名称をコロンで区切って指定します。

bash
openssl ciphers -tls1_3 -ciphersuites TLS_AES_256_GCM_SHA384:TLS_AES_128_GCM_SHA256 -v

この場合、TLSv1.3ではリストされた2つの暗号スイートのみが許可されます。TLSv1.2以前は、-tls1_3 が指定されていない場合に評価される通常のCipher Stringルールが適用されます。

3.7. 個別名称 vs 別名

暗号スイート文字列では、個別の暗号スイート名(例: TLS_ECDHE_RSA_WITH_AES_256_GCM_SHA384 または OpenSSL形式の ECDHE-RSA-AES256-GCM-SHA384)を直接指定することもできます。

bash
openssl ciphers 'ECDHE-RSA-AES256-GCM-SHA384:AES256-GCM-SHA384' -v

ただし、OpenSSLのバージョンによって同じ暗号スイートでも内部的な名称が異なる場合があるため、特定の個別名称を指定するよりも、別名や演算子を組み合わせて「どのような特性を持つ暗号スイートを許可/禁止するか」という方針で指定する方が、OpenSSLのバージョンアップなどに対する設定の互換性を保ちやすい傾向があります。

4. 暗号スイート選択のセキュリティ上の考慮事項

利用可能な暗号スイートを確認できるようになったところで、次に重要なのは「どの暗号スイートを選択すべきか」というセキュリティに関する判断です。TLS/SSLの設定において、暗号スイートの選択はセキュリティ強度に直結します。

4.1. なぜ弱い暗号スイートを避けるべきか

歴史的に、多くの暗号アルゴリズムやTLS/SSLプロトコルのバージョンに脆弱性が発見されてきました。これらの脆弱性を持つ暗号スイートを使い続けると、通信内容が第三者に傍受・解読されたり、改ざんされたりする危険性があります。

  • SSLv2/SSLv3: Heartbleedバグで有名になったOpenSSLの脆弱性とは別に、プロトコル自体にPOODLE攻撃などの脆弱性があります。使用は完全に非推奨です。
  • TLSv1.0/TLSv1.1: BEAST攻撃、Padding Oracle攻撃など、古いプロトコルバージョンに起因する脆弱性が存在します。また、これらのバージョンでよく使用されるブロック暗号のCBCモードにも脆弱性(Lucky Thirteenなど)があります。現代ではこれらのバージョンも非推奨とされています。
  • RC4: ストリーム暗号ですが、構造的な偏り(バイアス)が発見されており、十分な通信量があれば統計的な攻撃によって解読される可能性があります。使用は非推奨です。
  • DES/3DES: 56ビット鍵のDESはブルートフォース攻撃に対して脆弱です。3DES(168ビット鍵長のように見えますが、実効鍵長は112ビット程度と評価されることが多い)もSWEET32攻撃などの脆弱性が指摘されており、計算能力の向上に伴い安全性が低下しています。使用は非推奨、特に3DESはTLSv1.2以降では推奨されません。
  • MD5/SHA-1: これらのハッシュ関数は衝突攻撃に対して脆弱性が発見されています。MACや証明書の署名にこれらを使用する暗号スイートは安全ではありません。MACにはSHA-256以降の使用が推奨されます。
  • 静的鍵交換(Static DH/ECDH, RSA鍵交換): ephemeral (一時的) ではない鍵交換(例: DH, ECDH, あるいはRSA鍵交換自身)を使用する暗号スイートはForward Secrecyを提供しません。サーバーの秘密鍵が漏洩した場合、過去のすべての通信が解読されてしまいます。前方秘匿性 (PFS) を提供しない暗号スイートは非推奨です。
  • 認証なし (aNULL) / 暗号化なし (eNULL): これらは全くセキュリティを提供しません。使用は絶対に避けるべきです。

4.2. 古いプロトコルと弱い暗号の廃止

現代のTLS/SSL通信では、以下の対応が必須とされています。

  • SSLv2 および SSLv3 の無効化: サーバー、クライアント双方でこれらのプロトコルを無効にするべきです。
  • TLSv1.0 および TLSv1.1 の無効化: 主要なブラウザベンダーはこれらのプロトコルのサポートを既に終了または終了予定であり、広く使用されているウェブサーバーもデフォルトで無効化する方向です。互換性の問題がない限り、無効化を強く推奨します。
  • 弱い暗号アルゴリズムの無効化: RC4, DES, 3DES (特に古いバージョンで使用されるもの), MD5 を使用する暗号スイートを無効にするべきです。eNULL, aNULL, EXPORT などのカテゴリに属する暗号スイートも無効にすべきです。

4.3. Forward Secrecy (PFS) の重要性

Forward Secrecy (PFS) は、長期的な秘密鍵(サーバー証明書に対応する秘密鍵など)が侵害されても、過去の通信セッションの秘密が漏洩しないという特性です。これは、セッションごとに一時的な秘密鍵ペアを生成・使用する鍵交換アルゴリズム(Ephemeral Diffie-Hellman (DHE) や Ephemeral Elliptic Curve Diffie-Hellman (ECDHE))によって実現されます。

PFS対応の暗号スイートを優先的に使用することは、現代のセキュリティ対策において非常に重要です。openssl ciphers の文脈では、DHEECDHE という別名を含む暗号スイートがPFSを提供します。

4.4. Authenticated Encryption with Associated Data (AEAD)

AEADは、データの暗号化と認証を同時に行う暗号モードです。これにより、暗号文の改ざん耐性が向上し、MAC-then-Encryptなどの古い方式で問題となった脆弱性(Padding Oracle攻撃など)を回避できます。TLSv1.2ではオプションでしたが、TLSv1.3では必須となりました。

代表的なAEAD暗号は、AES-GCM (Galois/Counter Mode) や ChaCha20-Poly1305 です。これらの暗号を使用する暗号スイートを優先的に使用することが推奨されます。openssl ciphers の文脈では、AESGCMCHACHA20 という別名がこれらに該当します。

4.5. TLSv1.3 への移行

TLSv1.3は、セキュリティとパフォーマンスの両面でTLSv1.2から大幅に改善されています。脆弱な古い機能(圧縮、再ネゴシエーション、弱い暗号スイートの排除など)が削除され、ハンドシェイクが効率化されています。また、前述の通りAEADとForward Secrecyが必須となりました。

互換性が許す限り、TLSv1.3を有効にし、TLSv1.3対応の暗号スイートを優先することが強く推奨されます。

5. 推奨される暗号スイート設定

これらのセキュリティ上の考慮事項を踏まえ、モダンなシステムにおける推奨される暗号スイート設定の原則と具体的な例を示します。

5.1. 設定の原則

  1. 古いプロトコルの無効化: SSLv2, SSLv3, TLSv1.0, TLSv1.1 を無効にします。
  2. 弱い暗号アルゴリズムの無効化: RC4, DES, 3DES, MD5 を使用する暗号スイートを無効にします。
  3. 認証なし/暗号化なしの無効化: aNULL, eNULL を無効にします。
  4. Forward Secrecy (PFS) の優先: DHE または ECDHE 鍵交換を使用する暗号スイートを優先します。
  5. AEAD暗号化の優先: AES-GCM または ChaCha20-Poly1305 を使用する暗号スイートを優先します。
  6. TLSv1.3 の有効化と優先: TLSv1.3を有効にし、TLSv1.3で許可されている暗号スイートを優先します。
  7. 互換性とのバランス: セキュリティを最大限に高める一方で、一部の古いクライアント(ただし、セキュリティ上問題ない範囲で)との互換性を考慮する必要がある場合もあります。ただし、セキュリティを著しく低下させるような互換性確保は避けるべきです。

5.2. 具体的な推奨 Cipher String 例

推奨設定は、使用しているOpenSSLのバージョンや、ターゲットとなるクライアントの範囲によって多少異なります。Mozilla Foundationは、セキュリティ、互換性、パフォーマンスのバランスを考慮した推奨設定を公開しており、広く参考にされています(Mozilla SSL Configuration Generatorで生成できます)。

以下に、OpenSSLのCipher String形式で、モダンな設定例を示します。これは一例であり、OpenSSLのバージョンによってはサポートされる名称や評価結果が異なる場合があります。必ず openssl ciphers コマンドで意図通りになるか確認してください。

例1: モダンな互換性(TLSv1.2以降、PFS優先、AEAD優先)

“`bash

TLSv1.2 以前向け (Cipher String)

‘ECDHE-ECDSA-AES256-GCM-SHA384:ECDHE-RSA-AES256-GCM-SHA384:ECDHE-ECDSA-CHACHA20-POLY1305:ECDHE-RSA-CHACHA20-POLY1305:ECDHE-ECDSA-AES128-GCM-SHA256:ECDHE-RSA-AES128-GCM-SHA256:DHE-RSA-AES256-GCM-SHA384:DHE-RSA-AES128-GCM-SHA256’

TLSv1.3 向け (-ciphersuites)

‘TLS_AES_256_GCM_SHA384:TLS_CHACHA20_POLY1305_SHA256:TLS_AES_128_GCM_SHA256’
“`

これを OpenSSL Cipher String でまとめて表現すると、例えば以下のような形になります(ただし、TLSv1.3の暗号スイートは通常 -ciphersuites で別途指定します)。

bash
'ECDHE+aRSA+AESGCM:ECDHE+aECDSA+AESGCM:ECDHE+aRSA+CHACHA20:ECDHE+aECDSA+CHACHA20:DHE+aRSA+AESGCM:!aNULL:!eNULL:!LOW:!SSLv2:!SSLv3:!TLSv1:!TLSv1.1'

この文字列を openssl ciphers コマンドで確認します。

bash
openssl ciphers 'ECDHE+aRSA+AESGCM:ECDHE+aECDSA+AESGCM:ECDHE+aRSA+CHACHA20:ECDHE+aECDSA+CHACHA20:DHE+aRSA+AESGCM:!aNULL:!eNULL:!LOW:!SSLv2:!SSLv3:!TLSv1:!TLSv1.1' -v -sort

出力されるリストは、鍵交換(ECDHE, DHE)、認証(aRSA, aECDSA)、暗号化(AESGCM, CHACHA20)の組み合わせのうち、指定された条件に合致するもののみを含み、かつ弱いものや古いプロトコルは除外されていることを確認します。

例2: さらに高いセキュリティレベル(TLSv1.2およびTLSv1.3のみ、PFS必須、AES-GCMまたはChaCha20-Poly1305必須)

“`bash

TLSv1.2 以前向け (Cipher String)

‘ECDHE+AESGCM:ECDHE+CHACHA20:DHE+AESGCM:!aNULL:!eNULL:!LOW:!SSLv2:!SSLv3:!TLSv1:!TLSv1.1:!RC4:!3DES:!MD5’

TLSv1.3 向け (-ciphersuites)

‘TLS_AES_256_GCM_SHA384:TLS_CHACHA20_POLY1305_SHA256:TLS_AES_128_GCM_SHA256’
“`

この文字列を openssl ciphers で確認します。

bash
openssl ciphers 'ECDHE+AESGCM:ECDHE+CHACHA20:DHE+AESGCM:!aNULL:!eNULL:!LOW:!SSLv2:!SSLv3:!TLSv1:!TLSv1.1:!RC4:!3DES:!MD5' -v -sort

この場合、TLSv1.2で使用される暗号スイートは、鍵交換がECDHEまたはDHEであり、暗号化がAES-GCMまたはChaCha20-Poly1305であるもののみに限定されます。認証アルゴリズムは別途指定しない場合、RSAやECDSAなどデフォルトで許可されているものが含まれます。

これらの例は出発点に過ぎません。実際の環境と要件に合わせて調整し、必ず openssl ciphers コマンドでリストの内容を確認してください。特に !SSLv2:!SSLv3:!TLSv1:!TLSv1.1 のように古いプロトコルを明示的に無効化する部分は重要です。

6. サーバーおよびクライアントでの暗号スイート設定

openssl ciphers コマンドで確認した暗号スイート文字列は、OpenSSLを利用するアプリケーション(特にサーバーソフトウェア)の設定ファイルで使用されます。

6.1. Apache HTTP Server での設定例

Apacheでは、mod_ssl モジュールがTLS/SSL通信を扱います。設定は通常、バーチャルホスト設定ファイルや ssl.conf などで行います。

“`apache

サポートするプロトコルバージョンを指定 (古いものを無効化)

SSLProtocol all -SSLv2 -SSLv3 -TLSv1 -TLSv1.1

TLSv1.2 以前で使用する暗号スイートのリストと優先順位を指定

(openssl ciphers コマンドで生成した文字列を貼り付ける)

SSLCipherSuite ‘ECDHE+AESGCM:ECDHE+CHACHA20:DHE+AESGCM:!aNULL:!eNULL:!LOW:!SSLv2:!SSLv3:!TLSv1:!TLSv1.1:!RC4:!3DES:!MD5’

TLSv1.3 で使用する暗号スイートのリストを指定

(openssl ciphers -tls1_3 -ciphersuites … で生成した文字列を貼り付ける)

SSLCipherSuite TLSv1.3 ‘TLS_AES_256_GCM_SHA384:TLS_CHACHA20_POLY1305_SHA256:TLS_AES_128_GCM_SHA256’

サーバーが提示する暗号スイートの優先順位をクライアントの優先順位より優先させる (推奨)

SSLHonorCipherOrder on

DH鍵交換で使用するパラメータの指定 (Forward Secrecy強化のため推奨)

openssl dhparam -out /etc/ssl/certs/dhparam.pem 4096 で生成したファイルを使用

SSLOpenSSLConfCmd DHParameters “/etc/ssl/certs/dhparam.pem” # 最近のバージョン

または SSLSessionCacheSize に依存

``
Apacheの設定変更後、設定ファイルの構文チェック (
apachectl configtest`) を行い、Apacheを再起動するのを忘れないでください。

6.2. Nginx での設定例

Nginxでも同様に、ssl ディレクティブ内で設定を行います。

“`nginx
server {
# … その他の設定 …

listen 443 ssl;

ssl_certificate /path/to/your/cert.pem;
ssl_certificate_key /path/to/your/privkey.pem;
# ... 中間証明書などの指定 ...

# サポートするプロトコルバージョンを指定 (古いものを無効化)
ssl_protocols TLSv1.2 TLSv1.3; # TLSv1.0 および TLSv1.1 を含む場合は TLSv1 TLSv1.1 TLSv1.2 TLSv1.3 と記述

# TLSv1.2 以前で使用する暗号スイートのリストと優先順位を指定
# (openssl ciphers コマンドで生成した文字列を貼り付ける)
ssl_ciphers 'ECDHE+AESGCM:ECDHE+CHACHA20:DHE+AESGCM:!aNULL:!eNULL:!LOW:!SSLv2:!SSLv3:!TLSv1:!TLSv1.1:!RC4:!3DES:!MD5';

# TLSv1.3 で使用する暗号スイートのリストを指定
# (openssl ciphers -tls1_3 -ciphersuites ... で生成した文字列を貼り付ける)
# Nginx 1.13.0 以降で ssl_ciphers と同じディレクティブで指定可能に (コロン区切り)
# ssl_ciphers TLS_AES_256_GCM_SHA384:TLS_CHACHA20_POLY1305_SHA256:TLS_AES_128_GCM_SHA256:ECDHE+AESGCM:ECDHE+CHACHA20:DHE+AESGCM:!aNULL:!eNULL:!LOW:!SSLv2:!SSLv3:!TLSv1:!TLSv1.1:!RC4:!3DES:!MD5';
# ただし、明確に分ける場合は ssl_ciphers に TLSv1.2 以前、ssl_ciphersuites (Nginx 1.13.0 以降) に TLSv1.3 を指定
# ssl_ciphersuites 'TLS_AES_256_GCM_SHA384:TLS_CHACHA20_POLY1305_SHA256:TLS_AES_128_GCM_SHA256';


# サーバーが提示する暗号スイートの優先順位をクライアントの優先順位より優先させる (推奨)
ssl_prefer_server_ciphers on;

# DH鍵交換で使用するパラメータの指定 (Forward Secrecy強化のため推奨)
# openssl dhparam -out /etc/ssl/certs/dhparam.pem 4096 で生成したファイルを使用
ssl_dhparam /etc/ssl/certs/dhparam.pem;

# ... その他の ssl 設定 (ssl_session_cache, ssl_session_timeout, ssl_stapling, ssl_trusted_certificate など)

}
``
Nginxの設定変更後、設定ファイルの構文チェック (
nginx -t`) を行い、Nginxをリロードまたは再起動するのを忘れないでください。

6.3. プログラムでの設定

OpenSSLライブラリを直接使用するプログラム(C/C++, Pythonのsslモジュールなど)でも、利用する暗号スイートのリストを設定するためのAPIが提供されています。例えば、OpenSSLのC言語APIでは SSL_CTX_set_cipher_list() 関数や SSL_CTX_set_ciphersuites() 関数などを使用します。Pythonの ssl モジュールでは、SSLContext オブジェクトの set_ciphers() メソッドなどでCipher Stringを指定できます。具体的な方法は各ライブラリやフレームワークのドキュメントを参照してください。

6.4. クライアントでの設定

ウェブブラウザなどのクライアントアプリケーションも、TLS接続時に使用する暗号スイートのリストを持っています。現代の主要なブラウザは、デフォルトでモダンなTLSバージョンと強い暗号スイートを優先するように設定されています。一部のクライアント(例えば curl コマンドなど)では、コマンドラインオプションで特定の暗号スイートを指定して接続を試みることができます。

“`bash

特定の暗号スイートを指定して接続を試みる

curl –ciphers ECDHE-RSA-AES128-GCM-SHA256 https://example.com

特定の TLS バージョンを指定して接続を試みる

curl –tlsv1.2 https://example.com
curl –tlsv1.3 https://example.com
“`
これは、特定のサーバーがサポートしている暗号スイートやプロトコルバージョンをデバッグするのに役立ちます。

7. TLS/SSL接続の検証

サーバーで暗号スイート設定を行った後、実際に意図した設定が反映されているかを確認することは非常に重要です。これにも openssl コマンドが役立ちます。

7.1. openssl s_client コマンドを使った接続テスト

openssl s_client コマンドは、クライアントとして指定したホストとポートにTLS接続を試みるツールです。このコマンドを使うことで、サーバーが提供している証明書チェーン、サポートしているプロトコルバージョン、そして実際にネゴシエートされた暗号スイートなどを確認できます。

基本的な使い方:

bash
openssl s_client -connect example.com:443

これにより、TLSハンドシェイクのログが表示され、接続が成功した場合、以下のような情報が含まれます。

“`

… (ハンドシェイクの詳細ログ) …


New, TLSv1.2, Cipher is ECDHE-RSA-AES128-GCM-SHA256
Server public key is 2048 bit
SSL-Session:
Protocol : TLSv1.2
Cipher : ECDHE-RSA-AES128-GCM-SHA256
Session-ID: …
Session-ID-ctx: …
Master-Key: …
PSK identity: None
PSK identity hint: None
SRP username: None
TLS session ticket:
Compression: NONE
Start Time: 1678886400
Timeout : 7200 (sec)
Verify return code: 0 (ok)
Extended master secret: yes


… (HTTPリクエストやレスポンスのログ – デフォルトではHTTP GETを試みる) …

``
上記の出力例では、接続に成功し、
TLSv1.2プロトコルとECDHE-RSA-AES128-GCM-SHA256` という暗号スイートがネゴシエートされたことが分かります。

7.2. サポートしているプロトコルと暗号スイートの列挙

特定のプロトコルバージョンを有効にして接続を試みることで、サーバーがそのバージョンをサポートしているか確認できます。

“`bash

TLSv1.3 で接続できるか?

openssl s_client -connect example.com:443 -tls1_3

TLSv1.2 で接続できるか?

openssl s_client -connect example.com:443 -tls1_2

TLSv1.1 で接続できるか? (非推奨のテスト)

openssl s_client -connect example.com:443 -tls1_1

TLSv1.0 で接続できるか? (非推奨のテスト)

openssl s_client -connect example.com:443 -tls1

SSLv3 で接続できるか? (非推奨のテスト)

openssl s_client -connect example.com:443 -ssl3
“`
接続が成功すれば、そのプロトコルバージョンがサポートされています。失敗した場合、「no protocols available」や「handshake failure」などのエラーが表示されます。

また、特定の暗号スイートのみをクライアントとして提示して接続できるかテストすることで、サーバーがその暗号スイートをサポートしているか確認できます。

“`bash

特定の暗号スイートで接続できるか?

openssl s_client -connect example.com:443 -tls1_2 -cipher ECDHE-RSA-AES256-GCM-SHA384
“`
接続が成功すれば、サーバーはその暗号スイートをTLSv1.2でサポートしています。失敗した場合、「no shared cipher」エラーが表示されます。

7.3. サードパーティ製のSSLチェッカー

インターネット上には、ウェブサイトのSSL/TLS設定(サポートプロトコル、暗号スイート、証明書チェーン、脆弱性など)を自動的に診断してくれる無料のオンラインツールが多数存在します。例えば、SSL Labs Server Test (https://www.ssllabs.com/ssltest/) は広く利用されており、詳細なレポートを提供してくれます。これらのツールを活用することで、設定が意図通りになっているか、既知の脆弱性がないかなどを手軽に確認できます。

8. よくある問題とトラブルシューティング

8.1. 「no shared cipher」エラー

これは、クライアントが提示した暗号スイートのリストと、サーバーがサポートしている暗号スイートのリストとの間に、共通して利用可能な暗号スイートが一つも見つからなかった場合に発生するエラーです。

原因:

  • クライアントが非常に古い/新しい暗号スイートしかサポートしていない。
  • サーバーが非常に古い/新しい暗号スイートしか許可していない。
  • サーバー側の設定で、すべての暗号スイートを誤って無効にしてしまった。
  • クライアントとサーバーの両方がTLSv1.3をサポートしているが、共通のTLSv1.3暗号スイートがない(TLSv1.3はTLSv1.2以前とは別のリストで管理されるため)。

対策:

  • サーバー側の設定を確認し、モダンかつある程度の互換性を持つ暗号スイートリストが正しく指定されているか確認します。openssl ciphers コマンドで設定文字列を評価してみます。
  • openssl s_client コマンドを使用して、サーバーがどのプロトコルと暗号スイートをサポートしているか詳細に調査します。
  • クライアント側が古すぎる場合は、クライアントをアップデートするか、サーバー側で一時的に古い暗号スイート(ただし、セキュリティリスクを理解した上で)を有効にすることも検討します(非推奨)。

8.2. パフォーマンスの問題

特定の暗号スイートは、他のものよりもCPUリソースを消費します。例えば、DHE鍵交換はECDHEよりも計算コストが高い傾向があります。また、古い暗号モード(例: CBCモード)は、新しいAEADモード(例: GCMモード)よりもソフトウェア実装でのパフォーマンスが劣ることがあります。

対策:

  • ECDHEやAES-GCM、ChaCha20-Poly1305など、ハードウェア支援が利用可能なモダンな暗号スイートを優先します。
  • サーバー側の設定で ssl_prefer_server_ciphers on (Nginx) や SSLHonorCipherOrder on (Apache) を有効にし、サーバーが推奨するパフォーマンスの高い暗号スイートを優先的に選択させるようにします。
  • TLSv1.3はハンドシェイクが高速化されているため、TLSv1.3を有効にすることもパフォーマンス向上に寄与します。

8.3. レガシーシステムとの互換性

非常に古いOSやアプリケーションを使用しているクライアントは、モダンなTLSバージョンや暗号スイートをサポートしていない場合があります。

対策:

  • 基本的には、古いクライアントのアップデートを推奨します。
  • どうしても互換性が必要な場合は、セキュリティレベルを多少下げることになりますが、古いプロトコル(TLSv1.0/TLSv1.1)や、現代では非推奨とされる一部の暗号スイート(例: AES-CBC-SHA)を、限定的に(例えば、特定のレガシーシステムからのアクセスのみ許可するなど)有効にすることを検討します。ただし、これによりサービス全体が脆弱になるリスクを理解しておく必要があります。
  • 古いプロトコルや暗号スイートを有効にする場合でも、SSLv2, SSLv3, RC4, DES, MD5, aNULL, eNULL, EXPORT は避けるべきです。
  • 互換性確保のために弱い暗号スイートを有効にする場合でも、それらの優先順位を低く設定し、モダンなクライアントは常に強い暗号スイートを使用するように構成します。

9. まとめ

OpenSSL ciphersは、安全なインターネット通信において中心的な役割を担う暗号スイートを管理するためのOpenSSLライブラリの機能です。利用可能な暗号スイートを確認するための openssl ciphers コマンドは、TLS/SSL設定を理解し、適切に行う上で不可欠なツールです。

本記事では、openssl ciphers コマンドの様々なオプション(-v, -V, -tls1_2, -tls1_3, -ciphersuites, -sort など)の詳細な使い方を解説しました。また、暗号スイート文字列の文法、要素(別名)、演算子(: , +, -, !)のルールを理解することで、複雑な暗号スイートのリストを柔軟に指定できることを示しました。

さらに、暗号スイートを選択する上でのセキュリティ上の重要な考慮事項として、古いプロトコルや弱い暗号の危険性、Forward Secrecy (PFS) やAEAD暗号化の重要性、そしてTLSv1.3への移行のメリットについて述べました。これらの知見に基づき、モダンな環境における推奨される暗号スイート設定の原則と具体的なCipher Stringの例を紹介しました。

最後に、サーバーやクライアントでの設定方法の概要(Apache, Nginxなど)と、openssl s_client コマンドを用いた設定の検証方法、そしてTLS設定でよく遭遇する問題とそのトラブルシューティングについて触れました。

TLS/SSLのセキュリティ環境は常に進化しており、新たな脆弱性が発見されたり、より強力なアルゴリズムが開発されたりしています。したがって、一度設定すれば終わりではなく、定期的に設定を見直し、最新のセキュリティ推奨事項に基づいて更新していくことが重要です。openssl ciphers コマンドを日々の運用の中で活用し、ご自身のシステムが常に安全な暗号スイートを使用していることを確認してください。

安全なインターネットのために、適切なTLS/SSL設定と暗号スイートの管理は、現代のシステム管理者や開発者にとって必須のスキルと言えるでしょう。


注記: 本記事は約5000語を目指して記述しましたが、厳密な単語数は環境やツールによって異なる場合があります。内容はOpenSSLの一般的な使い方と概念に基づいており、特定のOpenSSLバージョンやOSディストリビューションの詳細な差異については触れていない場合があります。具体的なコマンドの挙動やサポートされる暗号スイートは、ご利用の環境のOpenSSLバージョンに依存しますので、必ずお手元で確認してください。


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