UbuntuとCentOS:人気OSの基本情報と選び方を紹介


UbuntuとCentOS:人気OSの基本情報と選び方を紹介

はじめに

現代のITインフラ、Webサービス、そして多くの開発現場において、Linuxは欠かせない存在となっています。その安定性、安全性、柔軟性、そして何よりオープンソースであることのメリットから、サーバー用途を中心に絶大な人気を誇っています。Linuxと一口に言っても、その種類は多岐にわたり、「ディストリビューション」と呼ばれる様々な派生バージョンが存在します。それぞれのディストリビューションは、特定の用途やユーザー層に向けて、カーネル、基本ツール、パッケージ管理システム、デフォルトのソフトウェアなどが組み合わされ、独自の個性を持っています。

数あるLinuxディストリビューションの中でも、特にサーバー用途や開発現場で広く利用され、人気を二分しているのが「Ubuntu」と「CentOS」です。これらのOSは、それぞれ異なる設計思想と成り立ちを持ち、得意とする分野やユーザー層が異なります。どちらを選ぶべきか迷う方も少なくないでしょう。

この記事では、UbuntuとCentOSという二大人気Linuxディストリビューションについて、その基本情報、特徴、メリット・デメリットを詳しく解説します。さらに、それぞれのOSがどのような用途に適しているのか、具体的な選び方のポイントを提示し、読者の皆様が自身の環境や目的に合った最適なOSを選択できるよう、詳細な情報を提供することを目指します。特に、CentOSがCentOS LinuxからCentOS Streamへと移行した影響についても触れ、その代替となるOSについても紹介します。Linux初心者から、サーバー管理者、開発者まで、幅広い読者の方々に役立つ内容となるよう構成しています。

Linuxの基本理解

UbuntuやCentOSについて深く理解する前に、まずは「Linux」そのものについて基本的な知識を確認しておきましょう。

Linuxとは何か?

Linuxは厳密にはオペレーティングシステムの「カーネル(Kernel)」を指します。カーネルはOSの中核であり、ハードウェアとソフトウェアの間を取り持ち、メモリ管理、プロセス管理、デバイス制御、システムコール処理といった基本的な機能を担います。しかし、一般的に「Linux」という言葉を使う場合、それはこのカーネルにGNUプロジェクトのツールやライブラリ、各種アプリケーション、デスクトップ環境などを組み合わせた、完全なオペレーティングシステム全体を指すことが多いです。これを「GNU/Linux」と呼ぶこともありますが、単に「Linux」で広く通用しています。

Linuxはオープンソースソフトウェアであり、そのソースコードは無償で公開されています。誰でも自由に利用、改変、再配布が可能です。この特性が、Linuxが多様なディストリビューションを生み出し、世界中で普及する大きな要因となっています。

なぜLinuxが広く使われるのか?

Linuxがこれほどまでに普及したのには、いくつかの明確な理由があります。

  1. 安定性と信頼性: 長年の開発と多数のユーザーによる利用、テストによって、Linuxカーネルおよび周辺ソフトウェアは非常に高い安定性を誇ります。特にサーバー用途においては、長期間にわたって安定稼働することが求められるため、Linuxは不可欠な選択肢となっています。
  2. 安全性: オープンソースであるため、脆弱性が見つかりやすく、また修正も迅速に行われます。権限管理が厳格であること、セキュリティ関連の機能(SELinux, iptables/nftables, Firewalldなど)が充実していることも、高いセキュリティを実現する要因です。
  3. 柔軟性とカスタマイズ性: 必要最低限のシステムから、デスクトップ環境、サーバー、組み込みシステムまで、用途に応じて自由に構成を変更できます。ソースコードが公開されているため、必要であれば自分で改変することも可能です。
  4. コスト: 多くのLinuxディストリビューションは無償で利用できます。商用サポートを必要とする場合でも、Windows Serverなどの商用OSに比べてコストを抑えられるケースが多いです。
  5. 多様なソフトウェア: オープンソースのソフトウェアを中心に、非常に豊富な種類のアプリケーションが利用可能です。APTやRPMといったパッケージ管理システムを使えば、ソフトウェアのインストール、アップデート、アンインストールを簡単かつ安全に行えます。
  6. コミュニティ: 世界中に開発者やユーザーのコミュニティが存在し、情報交換や問題解決が活発に行われています。これにより、技術的な疑問やトラブルシューティングに関する情報を容易に入手できます。

主要なLinuxディストリビューションの系譜

Linuxディストリビューションは、大きくいくつかの系統に分けることができます。主な系統としては、以下の二つが挙げられます。

  1. Debian系: Debianプロジェクトによって開発されたディストリビューションを基にしています。APT(Advanced Package Tool)という強力で使いやすいパッケージ管理システムを使用するのが特徴です。安定性を重視しており、膨大な数のパッケージが用意されています。UbuntuはこのDebianをベースに開発されています。
  2. Red Hat系: Red Hat社によって開発されたLinuxディストリビューションを基にしています。RPM(Red Hat Package Manager)というパッケージ形式と、YUM(Yellowdog Updater, Modified)やその後継であるDNF(Dandified Yum)というパッケージ管理ツールを使用するのが特徴です。エンタープライズ分野で広く利用されており、商用サポートが充実しています。CentOSは、このRed Hat Enterprise Linux(RHEL)のクローンとして開発されていました。

UbuntuはDebian系、CentOSはRed Hat系に属します。この系統の違いは、パッケージ管理システム、システムの構成、一部のコマンドや設定ファイルの場所などに影響を与えます。

Ubuntuの徹底解説

Ubuntuは、Canonical社が開発・提供しているLinuxディストリビューションです。デスクトップ、サーバー、クラウド、IoTなど、幅広い分野で利用されており、特に近年サーバー用途やクラウド環境での存在感を急速に高めています。

基本情報

  • 開発元: Canonical Ltd.
  • ベース: Debian
  • 成り立ち: Debianの「すべての人にとって使いやすいLinux」という哲学を受け継ぎつつ、よりユーザーフレンドリーなデスクトップ環境と、予測可能で定期的なリリースサイクルを提供することを目指して始まりました。
  • ターゲットユーザー: 初心者からプロフェッショナルまで、デスクトップユーザー、開発者、サーバー管理者など、幅広い層。

特徴

  1. デスクトップ環境:

    • デフォルトのデスクトップ環境はGNOMEです。洗練されたユーザーインターフェースと高い操作性が特徴です。
    • Ubuntuフレーバーとして、KDE (Kubuntu), XFCE (Xubuntu), LXQt (Lubuntu), MATE (Ubuntu MATE) など、様々なデスクトップ環境が提供されており、ユーザーは好みに応じて選択できます。
    • Ubuntuのデスクトップ版は、インストールメディアから簡単に試用でき、インストールもGUIベースで直感的に行えるため、Linux初心者にも優しい設計です。
  2. パッケージ管理システム (APT):

    • Debianから引き継いだAPT (Advanced Package Tool) を使用します。apt update, apt upgrade, apt install <パッケージ名> といったシンプルなコマンドで、ソフトウェアの検索、インストール、アップデート、削除を効率的に行えます。
    • APTは依存関係の解決に優れており、必要なライブラリや他のパッケージを自動的にインストールしてくれます。
    • 利用可能なパッケージの数が非常に豊富で、多くのオープンソースソフトウェアがUbuntuのリポジトリから簡単にインストールできます。
  3. リポジトリ:

    • ソフトウェアパッケージを提供するリポジトリは、以下のように分類されています。
      • main: Ubuntuの公式リポジトリ。Canonicalがサポートするフリーソフトウェア(オープンソースソフトウェア)。
      • restricted: Canonicalがサポートする、一般的に利用されるハードウェアのドライバなど、無償ではない(オープンソースではないが再配布が許可されている)ソフトウェア。
      • universe: コミュニティによってメンテナンスされているフリーソフトウェア。Canonicalによる公式サポートはないが、非常に多くのソフトウェアが含まれています。
      • multiverse: Canonicalもコミュニティもサポートしない、非フリーソフトウェア。法的な制限や著作権の問題がある可能性も。
    • 加えて、PPA (Personal Package Archive) という仕組みがあり、公式リポジトリにない新しいバージョンや、特定のソフトウェアを配布するために個人やチームが独自のaptリポジトリを作成・追加できます。これにより、最新のソフトウェアを比較的容易に利用できます。
  4. リリースサイクルとサポート期間:

    • Ubuntuは年2回、4月と10月に新しいバージョンをリリースします。バージョン名はリリースされた年の下2桁と月の組み合わせ(例: 20.04, 20.10, 21.04, 21.10など)で付けられます。
    • リリースには以下の2種類があります。
      • 標準リリース (Standard Release): 9ヶ月間サポートされます。デスクトップユーザーや最新の技術を試したいユーザー向け。
      • LTS (Long Term Support): 2年ごとにリリースされ、5年間(有償サポートであるUbuntu Advantageを利用すればさらに長期間)サポートされます。安定性と長期運用が求められるサーバー用途やエンタープライズ用途で広く利用されます。重要なバグ修正やセキュリティアップデートが長期間提供されるため、安心して利用できます。
  5. Snapパッケージ:

    • Canonicalが開発した新しいパッケージング形式です。アプリケーションとその依存関係をまとめて一つのパッケージとして配布・インストールできます。これにより、ディストリビューションやバージョンに依存せず、同じパッケージが多くの環境で動作します。
    • ソフトウェアの配布元にとっては依存関係の問題を気にせず配布できるメリットがあり、ユーザーにとっては常に最新版のソフトウェアをインストールできる可能性があります。
    • 一方で、パフォーマンスの問題や、従来のパッケージ管理システムとの共存に関する懸念を示す声もあります。
  6. コミュニティとサポート:

    • Ubuntuは世界中に非常に大きな開発者およびユーザーコミュニティを持っています。公式フォーラム、メーリングリスト、IRCチャンネルなどで活発な情報交換が行われており、トラブルシューティングに関する情報も豊富です。
    • Canonical社による商用サポート「Ubuntu Advantage」も提供されており、エンタープライズ環境での利用において安心して運用できます。
  7. 対応アーキテクチャ: x86 (32-bit, 64-bit) に加えて、ARM (armhf, arm64), POWER, s390x など、幅広いアーキテクチャに対応しています。これにより、多様なハードウェア上で動作させることが可能です。

  8. 用途例:

    • デスクトップPC: GUI環境が使いやすく、日常的なコンピューティングから開発作業まで幅広く利用されます。
    • Webサーバー: Apache, Nginxなどの導入が容易で、LAMP/LEMP環境の構築が一般的です。
    • アプリケーションサーバー: Python, Ruby, Node.js, Javaなどの開発環境や実行環境の構築が容易です。
    • 開発環境: 多くの開発ツールやライブラリが用意されており、最新バージョンも比較的容易に利用できるため、開発者にとって人気の選択肢です。
    • クラウドインスタンス: AWS, Azure, GCPなどの主要なクラウドプラットフォームで公式イメージが提供されており、多くのユーザーが利用しています。
    • IoTデバイス: Ubuntu Coreなど、IoT向けの軽量なバージョンも提供されています。

メリット

  • 豊富なソフトウェアと容易なインストール: APTと巨大なリポジトリのおかげで、必要なソフトウェアを簡単に見つけてインストールできます。PPAを使えば、最新版も比較的容易に入手可能です。
  • デスクトップとしても使いやすい: 高機能で洗練されたデスクトップ環境が提供されており、WindowsやmacOSからの移行ユーザーも比較的違和感なく利用できます。ハードウェア対応も進んでいます。
  • 新しい技術への対応が早い: 新しいカーネルバージョンやソフトウェアが比較的早くパッケージ化され、利用できるようになります(特に標準リリース)。開発者にとってこれは大きなメリットです。
  • 活発なコミュニティと豊富な情報: ユーザー数が多いため、オンラインで多くの情報を見つけることができます。問題に遭遇しても、解決策が見つかりやすいです。
  • クラウド環境での普及: 主要なクラウドベンダーがサポートしており、クラウド上での導入や運用が容易です。

デメリット

  • リリースサイクルが早い (LTS以外): 標準リリースはサポート期間が9ヶ月と短いため、頻繁なアップデートが必要になります。安定性を求めるサーバー用途ではLTS一択となりますが、LTSも5年でサポートが切れるため、計画的なバージョンアップが必要です。
  • エンタープライズ環境での実績: CentOS/RHELと比較すると、伝統的なエンタープライズ分野(特に金融、官公庁など)での実績はまだ少ないと言われることがあります。ただし、近年クラウドシフトが進むにつれてこの状況は変化しています。
  • Snapパッケージへの懸念: 一部のユーザーはSnapパッケージの仕組みや強制的なアップデートに対して懸念を持っています。

CentOSの徹底解説

CentOS(Community ENTerprise Operating System)は、かつてRed Hat Enterprise Linux (RHEL) と完全に互換性のある無償のディストリビューションとして広く利用されていました。しかし、その位置づけは大きく変化しました。

基本情報

  • 開発元: 旧CentOS Project (現在はRed Hat/IBMが主導)
  • ベース: Red Hat Enterprise Linux (RHEL)
  • 成り立ち: RHELのソースコードを基に、有償サポートに必要な要素(商標など)を取り除き、無償で利用できるように再ビルドされたものです。RHELとの高い互換性を維持することを最大の目標としていました(CentOS Linux時代)。
  • ターゲットユーザー: サーバー管理者、エンタープライズ環境、開発者。

特徴

  1. ベース (RHEL):

    • CentOS Linuxは、Red Hat Enterprise Linux (RHEL) のクローンとして開発されていました。RHELはエンタープライズ分野で絶大な信頼を得ている商用Linuxであり、その安定性、信頼性、セキュリティ機能をCentOS Linuxも引き継いでいました。
    • CentOS Streamは、RHELの次のマイナーバージョンの開発版として位置づけられています。RHELの「上流(Upstream)」にあたり、RHELにコミットされる変更がまずCentOS Streamに取り込まれます。これはRHELの「クローン」であったCentOS Linuxとは根本的に異なる点です。
  2. パッケージ管理システム (RPMとDNF):

    • Red Hat系のOSはRPM (Red Hat Package Manager) というパッケージ形式を使用します。
    • パッケージ管理ツールとしては、かつてYUM (Yellowdog Updater, Modified) が主流でしたが、CentOS 8からはDNF (Dandified Yum) がデフォルトとなりました。DNFはYUMの後継として、パフォーマンスや依存関係の解決能力が向上しています。dnf update, dnf install <パッケージ名> といったコマンドを使用します。
  3. リポジトリ:

    • 基本的なリポジトリとして、OSの基本パッケージを含むBaseOSと、アプリケーション関連のパッケージを含むAppStreamなどがあります。
    • CentOS/RHEL系で多くのサードパーティ製ソフトウェアを利用するためには、EPEL (Extra Packages for Enterprise Linux) というコミュニティが提供するリポジトリを追加することが一般的です。EPELには、RHEL互換環境で利用できる追加のパッケージが豊富に用意されています。
  4. リリースサイクルとサポート期間:

    • CentOS Linux (EOL): RHELのリリースサイクルに準拠していました。RHELは通常10年以上の長期サポートを提供しており、CentOS Linuxもそれに倣って長期間のセキュリティアップデートが提供されていました。しかし、CentOS ProjectはCentOS Linux 8のサポートを2021年末で終了し、CentOS Linux 7も2024年半ばでサポートを終了します。つまり、CentOS LinuxはEOL(End Of Life)に向かっています。
    • CentOS Stream: RHELのマイナーバージョンの「開発上流」として、RHELよりも頻繁にアップデートが提供されます。これは安定版とは異なるモデルであり、継続的に変更が取り込まれるローリングリリースに近い側面を持ちます。特定の時点でのスナップショットがRHELのマイナーバージョンとしてリリースされるイメージです。CentOS Stream 8はRHEL 8系のサポート期間(2029年まで)に、CentOS Stream 9はRHEL 9系のサポート期間に準じた期間、アップデートが提供される予定です。
  5. CentOS Stream:

    • CentOS Linuxの後継として発表されたCentOS Streamは、その位置づけが大きく変わりました。RHELの安定版のクローンではなく、RHELの開発プロセスにおけるテストベッド的な役割を担います。これにより、ユーザーはRHELの将来のバージョンにどのような変更が加えられるかを確認できるようになりましたが、本番環境での「安定性」を重視するユーザーにとっては、予期しない変更が取り込まれる可能性への懸念が生じました。
    • この変更を受けて、多くのCentOS Linuxユーザーが、RHEL互換を維持する新たな無償ディストリビューション(後述のAlmaLinuxやRocky Linuxなど)への移行を検討しています。
  6. エンタープライズ向け機能:

    • SELinux (Security-Enhanced Linux): 強制アクセス制御を提供するセキュリティ機能。
    • SystemD: システムとサービスの管理を行うinitシステム。
    • Firewalld: 動的なファイアウォール管理ツール。
    • これらの機能はRHELで培われたものであり、CentOSもこれらを搭載しています。特にSELinuxは強力なセキュリティを提供しますが、設定が複雑な側面もあります。
  7. コミュニティとサポート:

    • CentOS Linux時代はコミュニティによるサポートが主体でした。
    • CentOS Streamでは、Red Hatの開発プロセスに組み込まれる形になりました。開発者やコントリビューターはRed HatとともにCentOS Streamに貢献します。商用サポートが必要な場合は、RHELを利用する必要があります。
  8. 対応アーキテクチャ: x86 (64-bit) を中心に、RHELがサポートする主要なアーキテクチャに対応しています。

  9. 用途例:

    • Webサーバー、データベースサーバー、アプリケーションサーバー: エンタープライズ環境での実績が豊富で、安定稼働が求められるシステムに広く利用されてきました(CentOS Linux)。
    • 仮想化基盤: KVMなどの仮想化技術との連携もスムーズです。
    • オンプレミスデータセンター: 多くの企業が基幹システムや重要システムに利用しています(RHELまたはCentOS Linux)。
    • 開発環境/テスト環境: RHEL互換であるため、RHEL環境で動作させるアプリケーションの開発やテスト環境として利用されてきました(CentOS Linux)。CentOS StreamはRHELの先行開発版として利用される可能性があります。

メリット (CentOS Linux時代)

  • 高い安定性と信頼性: RHEL互換であることから、エンタープライズレベルの安定性と信頼性を持っていました。
  • 長期間のセキュリティアップデート: 通常10年以上の長期サポートが提供されていました。
  • エンタープライズ向け機能の充実: SELinuxなどの高度なセキュリティ機能や堅牢なシステム管理機能が利用できました。
  • 豊富な技術情報: RHELに関する情報が豊富に存在するため、CentOSに関する情報も容易に見つけることができました。特にサーバー管理に関するノウハウが多く蓄積されています。
  • サーバー用途での圧倒的な実績: データセンターやクラウド上でのサーバーOSとして、長らくデファクトスタンダードの一つでした。

デメリット

  • CentOS Streamへの変更: CentOS LinuxのEOLにより、RHEL互換の安定版としてのCentOSは事実上終了しました。CentOS StreamはRHELの開発上流であり、本番環境での「安定性」という観点では懸念が残ります。
  • 最新ソフトウェアの導入の遅れ: CentOS LinuxはRHELの安定性を重視していたため、新しいソフトウェアバージョンが公式リポジトリにパッケージ化されるまで時間がかかる傾向がありました。最新技術をすぐに利用したい場合には不向きでした。
  • デスクトップ用途には不向き: サーバー用途に特化しているため、デフォルトのデスクトップ環境はUbuntuに比べて洗練されておらず、一般的なデスクトップOSとしての利用にはカスタマイズが必要です。
  • パッケージ管理 (DNF/YUM): APTと比較して、DNF/YUMのコマンド体系やリポジトリの管理が初心者には少し分かりにくいと感じられることがあります。

UbuntuとCentOSの比較

UbuntuとCentOS(特にCentOS Linux、そしてその代替)は、どちらも優れたLinuxディストリビューションですが、その設計思想、ターゲット、運用モデルには違いがあります。以下の観点から比較してみましょう。

比較項目 Ubuntu CentOS (CentOS Linux/代替)
ベース/系譜 Debian系 Red Hat系 (RHEL互換)
開発元 Canonical Ltd. CentOS Project (旧) / コミュニティ (代替)
ターゲット デスクトップ、サーバー、クラウド、IoT サーバー、エンタープライズ
パッケージ管理 APT (Advanced Package Tool) DNF (YUM後継) / RPM
パッケージ形式 deb rpm
リポジトリ main, restricted, universe, multiverse, PPA BaseOS, AppStream, EPEL
リリースモデル 標準リリース (9ヶ月), LTS (5年+) RHEL準拠 (長期、CentOS Linux) / 開発上流 (Stream)
ソフトウェアバージョン 比較的新しいものが多い (特に標準リリース) 安定版を重視するため、比較的古いものが多い (CentOS Linux) / Streamは新しい
デスクトップ用途 非常に使いやすい (GNOME他) デスクトップ用途には不向き (サーバー向け)
サーバー用途 近年普及、クラウドで人気 伝統的、エンタープライズ分野での実績豊富
安定性 LTSは高い RHEL互換のため非常に高い (CentOS Linux/代替)
セキュリティ機能 AppArmor (デフォルト), iptables/nftables SELinux (デフォルト), Firewalld
コミュニティサポート 非常に活発、情報豊富 RHELの情報が多い、コミュニティによるサポート (代替)
商用サポート Canonical (Ubuntu Advantage) Red Hat (RHEL)
設定ファイル等 デフォルト設定や一部コマンドが異なる デフォルト設定や一部コマンドが異なる
CentOS Streamの影響 なし CentOS Linuxの代替を検討する必要がある

補足:

  • パッケージ管理: APTはapt-get, apt-cache, aptといったコマンド群を使用し、依存関係解決が非常に強力です。DNFはdnf install, dnf updateといったコマンドを使用します。基本的な操作は似ていますが、オプションや詳細な挙動に違いがあります。
  • セキュリティ機能: UbuntuはデフォルトでAppArmorというアクセス制御システムを使用することが多いですが、SELinuxも利用可能です。CentOS/RHELはデフォルトでSELinuxが有効になっており、より強固な制御が可能ですが、設定が複雑です。ファイアウォールツールもUbuntuはufw (Uncomplicated Firewall) が一般的ですが、CentOS/RHELはFirewalldを使用します。
  • 設定ファイル: システム設定ファイルやログファイルの場所、サービスの起動・停止コマンド(SystemDのsystemctlは共通ですが、サービス名などが異なる場合があります)など、細かな部分で違いがあります。これらはどちらかのOSに慣れていると、もう一方のOSで戸惑う原因となります。
  • ソフトウェアのバージョン: Ubuntuの標準リリースは新しいソフトウェアを比較的早く取り込みますが、CentOS LinuxはRHELの安定版に準拠するため、ソフトウェアのバージョンが古くなる傾向がありました。これは安定性確保のためですが、最新の言語やフレームワークを使いたい場合にはネックとなることがあります。CentOS Streamや代替OSはRHEL互換を目指すため、この傾向は引き継がれる可能性がありますが、EPELなどを利用することで新しいソフトウェアを利用できます。

状況別!最適なOSの選び方

UbuntuとCentOS(およびその代替)のどちらを選ぶかは、あなたの目的、利用環境、スキルセット、そして重要視する点によって異なります。以下に、いくつかの状況に応じた選び方のヒントを示します。

1. サーバー用途

サーバー用途が最も一般的な利用シーンです。ここでは、安定性、セキュリティ、運用コスト、そして将来的な拡張性などを考慮する必要があります。

  • エンタープライズ/ミッションクリティカルなシステム:

    • 安定性と長期サポートが最優先: この場合は、商用サポートが必要であればRed Hat Enterprise Linux (RHEL) が最も確実な選択肢です。費用を抑えたいがRHEL互換の安定性が欲しい場合は、AlmaLinux または Rocky Linux といったCentOS代替OSが有力な候補となります。これらのOSは、RHELのソースコードから再ビルドされており、RHELと同様の安定性と長期サポート(少なくともCentOS Linux 7相当かそれ以上)を提供することを目指しています。
    • Ubuntu LTSも選択肢: Ubuntu LTS (Long Term Support) も5年間の長期サポートが提供されており、近年エンタープライズ環境での採用事例が増えています。特にクラウド環境ではUbuntuの利用者が多い傾向にあります。ただし、伝統的なエンタープライズ分野(金融、公共など)では、CentOS/RHEL系の実績やノウハウが豊富なため、そちらが優先されることも少なくありません。運用チームがどちらのOSに慣れているかも重要な判断基準です。
  • Webサーバー、アプリケーションサーバーなど(一般的な用途):

    • どちらも強力な選択肢です。
    • Ubuntu LTS:
      • 最新技術を積極的に取り入れたい、開発環境とサーバーOSを統一したい、クラウド環境で主に利用する、という場合に適しています。
      • APTパッケージ管理システムが使いやすく、多くのサードパーティ製ソフトウェアが容易にインストールできます。
      • 情報が豊富で、トラブルシューティングがしやすいです。
    • CentOS代替 (AlmaLinux, Rocky Linux):
      • RHEL互換の安定性とセキュリティ機能を重視する場合に適しています。
      • 過去にCentOS Linuxを利用していた、またはRHEL環境での運用経験がある場合に、既存の知識やノウハウを活かせます。
      • 枯れた技術で安定性を求める場合や、特定のエンタープライズ向けソフトウェアを利用する場合に有利なことがあります。
      • SELinuxなどの高度なセキュリティ機能を活用したい場合にも適しています。
    • CentOS Stream: RHELの開発上流として、安定版を求める本番環境での利用は推奨されない場合が多いです。RHELの開発プロセスに関わりたい、将来のRHELの機能を試したいといった目的には利用できます。
  • 個人開発/テスト環境:

    • どちらでも構いません。あなたが使い慣れている方、または本番環境として想定しているOSに近い方を選ぶのが良いでしょう。
    • 仮想マシンやコンテナ上で気軽に試せるため、両方のOSを試してみるのも良い学習になります。
  • クラウド環境 (AWS, Azure, GCPなど):

    • 主要なクラウドベンダーは、Ubuntu LTSとRHEL/CentOS(あるいはその代替)の両方のイメージを提供しています。
    • どちらを選んでも基本的な機能は利用できますが、クラウドベンダー独自のツールやサービスとの連携に若干の違いがある場合があります。
    • AWSではAmazon Linux (RHELベース) も人気があります。AzureではUbuntuとRHEL/CentOS系が共に多く利用されています。GCPでも同様です。
    • あなたが利用したい特定のクラウドサービスや、慣れているOSに合わせて選択するのが現実的です。

2. デスクトップ用途

Linuxを普段使いのデスクトップOSとして利用したい場合です。

  • Linuxデスクトップ初心者、一般的な用途:
    • 圧倒的にUbuntuがお勧めです。洗練されたGNOMEデスクトップ環境は直感的で使いやすく、ハードウェア対応も進んでいます。多くの一般向けアプリケーションが簡単にインストールできます。情報も豊富で、困ったときに解決策を見つけやすいです。
    • Ubuntuには公式フレーバーとしてKubuntu (KDE), Xubuntu (XFCE), Lubuntu (LXQt) などがあり、軽量な環境や他のデスクトップ環境を試したい場合にも選択肢があります。
  • サーバー管理者など、慣れた環境で作業したい:
    • もしあなたが普段からCentOS/RHEL系のサーバーを管理しており、慣れた環境で作業したいのであれば、CentOS代替(AlmaLinuxやRocky Linux)をデスクトップとして使うことも可能です。しかし、Ubuntuに比べてデスクトップ環境のカスタマイズ性や、一般向けソフトウェアのインストールは少し手間がかかる場合があります。

3. 開発環境

アプリケーション開発を行うための環境としてLinuxを選択する場合です。

  • 最新のライブラリやフレームワークを使いたい:
    • Ubuntuが有利な場合が多いです。新しいソフトウェアのパッケージ化が比較的早く、PPAを使えばさらに最新版を利用できます。Python, Node.js, Ruby, PHP, Javaなどの開発環境構築も容易です。
  • RHEL/CentOS系のサーバーで動かすアプリケーションを開発:
    • 本番環境との環境差異を最小限に抑えたい場合は、本番環境と同じCentOS代替 (AlmaLinux, Rocky Linux) またはRHEL (開発者向けの無償サブスクリプションがあります) を開発環境として利用するのが最適です。これにより、開発段階で環境依存の問題に気づきやすくなります。
  • コンテナ (Docker, Kubernetes):
    • コンテナ技術を利用する場合、ベースとなるOSはどちらでも大きな差がない場合があります。アプリケーションはコンテナイメージ内に閉じ込められるため、OSの違いを吸収しやすいからです。UbuntuやRHELのUniversal Base Image (UBI) などがよく利用されます。

4. 学習目的

Linuxやサーバーの基礎を学びたい場合です。

  • Linux全般の基礎を学びたい:
    • どちらのOSを選んでも基本的なLinuxコマンドや概念は学べます。まずはどちらか一方に触れてみて、慣れてきたらもう一方も試してみるのが良いでしょう。コマンド体系やファイルシステム構造など、微妙な違いを知ることも学習になります。
  • サーバー構築/管理を学びたい:
    • エンタープライズ環境でのデファクトスタンダードを知るという意味で、CentOS代替 (AlmaLinux, Rocky Linux) またはRHELを学ぶのは有用です。SELinuxやFirewalldといったRHEL系のセキュリティ機能の設定、SystemDでのサービス管理などを学ぶことができます。
    • クラウド環境での利用も視野に入れるなら、Ubuntu LTSも人気があるため、学ぶ価値は高いです。

CentOS Stream以降の選択肢

前述のように、CentOS ProjectがCentOS LinuxからCentOS Streamへと方向転換したことは、多くのCentOS Linuxユーザーに影響を与えました。安定版RHELの無償クローンとして利用していたユーザーは、新たな代替OSを探す必要に迫られました。

CentOS Linux 8が2021年末にサポート終了し、CentOS Linux 7も2024年半ばにサポート終了するため、既存のCentOS Linuxユーザーは速やかに移行計画を立てる必要があります。

この状況を受けて、RHEL互換の無償ディストリビューションを開発・提供することを目指す新たなプロジェクトが複数立ち上がりました。その中でも主要な代替OSは以下の二つです。

  1. AlmaLinux:

    • CloudLinux社(商用RHELクローンの開発元)が中心となって立ち上げたプロジェクトですが、現在はコミュニティ主導で開発・運営されています。
    • RHELのソースコードから再ビルドされ、RHELとのバイナリレベルでの互換性維持を目指しています。
    • CentOS Linux 8の代替としてAlmaLinux 8が、CentOS Linux 7の代替としてAlmaLinux 7がリリースされており、RHELのリリースに合わせて新しいバージョンが提供されています。
    • 長期サポート(RHELに準拠した期間)を提供する予定です。
    • コミュニティフォーラムやドキュメントも整備されつつあり、多くの企業やユーザーからの支持を集めています。
  2. Rocky Linux:

    • CentOSの創設者であるGregory Kurtzer氏が、CentOS Linuxの理念を引き継ぐ形で立ち上げたプロジェクトです。
    • こちらもRHELのソースコードから再ビルドされ、RHELとの完全な互換性維持を目指しています。
    • AlmaLinuxと同様に、Rocky Linux 8, Rocky Linux 9などがリリースされています。
    • 完全にコミュニティ主導での開発・運営を標榜しており、特定の企業に依存しない体制を目指しています。
    • AlmaLinuxと並んで、CentOS Linuxの主要な代替候補となっています。

これらの代替OSは、CentOS Linuxが提供していた「RHEL互換の無償で安定した長期サポートOS」というニーズに応えるものです。CentOS Linuxからの移行先として検討する場合、どちらの代替OSを選ぶかは、コミュニティの雰囲気や、特定の企業との関連性(AlmaLinuxはCloudLinux社との関係が深い)、開発体制などを考慮して決定することになります。機能的な互換性はどちらも非常に高いです。

もちろん、CentOS Linuxからの移行先はこれらの代替OSに限りません。Ubuntu LTSへの移行、あるいは費用をかけてRHELへ移行するという選択肢もあります。

移行を検討する際のポイント

CentOS Linuxからの移行、あるいは現在利用しているOSからUbuntuやCentOS代替OSへの移行を検討する場合、以下の点を慎重に考慮する必要があります。

  1. 現在のシステム環境の把握:
    • 現在利用しているOSのバージョン、インストールされているアプリケーション、ミドルウェア(Webサーバー、DBサーバー、APサーバーなど)、使用しているライブラリ、カスタムスクリプトなどを詳細に棚卸しします。
    • ハードウェア構成や、特定のハードウェアに依存するドライバなどがないかも確認します。
  2. 必要なソフトウェアの互換性:
    • 移行先のOSで、現在利用している全てのアプリケーションやミドルウェアが公式にサポートされているか、あるいは問題なく動作するかを確認します。古いバージョンのソフトウェアを利用している場合、新しいOSでそのまま動作しない可能性があります。
    • カスタムスクリプトや独自開発のアプリケーションが、新しいOSのライブラリやファイルシステム構成の違いに影響されないかテストが必要です。
  3. 運用チームのスキルセット:
    • 移行先のOSに関する知識や運用経験が、現在の運用チームにあるかを確認します。必要であれば、事前に学習やトレーニングを行う必要があります。Ubuntu系とRed Hat系では、パッケージ管理、設定ファイル、コマンド体系などに違いがあるため、習熟に時間がかかる場合があります。
  4. 移行にかかるコストとリスク:
    • 移行作業自体にかかる人件費、テスト期間、新しいOSの学習コストなどを考慮します。
    • 移行中にシステムが停止する時間、データ移行のリスク、予期せぬトラブル発生のリスクなども評価し、適切な移行計画(段階的な移行、ロールバック計画など)を立てる必要があります。
  5. サポート体制:
    • 移行先のOSのサポート体制を確認します。コミュニティサポートで十分か、商用サポートが必要か、どの程度の期間サポートが必要かなどを検討します。Ubuntu LTSはCanonicalの商用サポートがあり、RHELはRed Hatの商用サポートがあります。AlmaLinuxやRocky Linuxはコミュニティサポートが主体ですが、一部サードパーティによる商用サポートも提供されています。
  6. 将来的なロードマップ:
    • 今後、システムをどのように発展させていくか(例: クラウド移行、コンテナ化、特定のソフトウェア導入など)を考慮し、それらの計画と親和性の高いOSを選択します。特定の技術が特定のOSでより広く利用されている、といった傾向がある場合があります。

まとめ

この記事では、人気のあるLinuxディストリビューションであるUbuntuとCentOS(およびその代替)について、それぞれの基本情報、特徴、メリット・デメリットを詳細に解説し、どのような状況でどちらのOSが適しているか、選び方のポイントを提示しました。

Ubuntuは、Debianをベースとし、デスクトップからサーバー、クラウドまで幅広い用途に対応できる柔軟性が特徴です。使いやすいデスクトップ環境、強力なAPTパッケージ管理システム、豊富なソフトウェア、活発なコミュニティが強みです。特にLTSバージョンはサーバー用途でも広く利用されており、近年クラウド環境での存在感を増しています。最新技術への追随が比較的早いのも開発者にとっては魅力です。

一方、CentOSは、かつてRHEL互換の安定版としてサーバー用途で絶大な信頼を得ていました。その高い安定性、長期サポート、エンタープライズ向け機能は多くのシステムで活用されました。しかし、CentOS LinuxからCentOS Streamへの移行により、その位置づけは大きく変化しました。現在、CentOS Linuxの後継として、RHEL互換を目指すAlmaLinuxRocky Linuxといった代替OSが登場しており、CentOS Linuxユーザーの主要な移行先となっています。これらのOSは、RHELで培われた堅牢性やセキュリティ機能を無償で利用したい場合に適しています。

どちらのOSが「優れている」ということはなく、利用する目的、環境、求める安定性や最新性、そして運用に関わる人々のスキルセットに応じて最適な選択をすることが最も重要です。

  • デスクトップ用途や、最新技術を積極的に取り入れたいサーバー/開発環境、そしてクラウド環境での利用を考えているなら、Ubuntu LTSが有力な候補となるでしょう。
  • エンタープライズ環境での実績、高い安定性と長期サポート、RHEL互換による堅牢性を重視するサーバー用途であれば、CentOS代替(AlmaLinux, Rocky Linux)またはRHEL自体を検討するのが適切です。

OSの選択は、その後のシステムの運用や開発に大きな影響を与えます。この記事で提供した情報が、皆様が自身のニーズに最適なLinuxディストリビューションを選ぶための一助となれば幸いです。

Linuxの世界は常に進化しています。コンテナ技術、サーバーレス、エッジコンピューティングなど、新しい技術が登場する中で、それぞれのOSがどのように適応し、進化していくのか、今後の動向にも注目していくことが重要です。


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