Ubuntu Server 24.04 LTS 登場!注目機能と変更点を徹底解説

Ubuntu Server 24.04 LTS 登場!注目機能と変更点を徹底解説

はじめに:待望のLTSリリース、サーバー運用の新たな標準へ

オープンソースのオペレーティングシステムとして絶大な人気を誇るUbuntuから、サーバー向けの最新長期サポート(LTS)バージョン、Ubuntu Server 24.04 LTS (コードネーム: Noble Numbat) が満を持して登場しました。LTSバージョンは、安定性、セキュリティ、そして長期にわたるサポートが約束されているため、本番環境の基盤として世界中の企業や組織で広く採用されています。

Ubuntu 24.04 LTSは、前回のサーバー向けLTSである22.04 LTS (Jammy Jellyfish) から約2年の開発期間を経てリリースされました。この2年間で、ハードウェア環境は進化し、ソフトウェア技術も大きく変化しています。クラウドネイティブなワークロードはますます重要になり、セキュリティへの脅威は巧妙化し、パフォーマンスへの要求は高まっています。

Noble Numbatは、これらの時代の変化に対応し、現代のサーバーインフラストラクチャが直面する課題に対処するために設計されました。本記事では、システム管理者、開発者、DevOpsエンジニア、そして新しいUbuntu Serverの導入を検討しているすべての方々に向けて、Ubuntu Server 24.04 LTSに搭載された注目すべき機能や変更点を、約5000語にわたって徹底的に解説します。カーネル、主要パッケージ、システム管理、セキュリティ、クラウド連携、ストレージなど、多岐にわたるアップデートの詳細とその影響について、深掘りしていきましょう。

Ubuntu Server 24.04 LTSは、その名の通り、今後数年間のサーバー運用の標準を築くポテンシャルを秘めています。本記事が、その真価を理解し、最大限に活用するための一助となれば幸いです。

Ubuntu Server 24.04 LTSの概要:Noble Numbatの基本情報

  • コードネーム: Noble Numbat (ノーブル・ナンバット)
  • リリース日: 2024年4月25日 (公式リリース日)
  • サポート期間:
    • 標準サポート: 5年間 (2029年4月まで)
    • 拡張セキュリティメンテナンス (ESM): 追加で5年間、合計10年間 (Ubuntu Pro契約により2034年4月まで延長可能)
    • さらに、Ubuntu Pro契約に基づくLegacy Supportを利用することで、合計12年間のサポートも可能です。

LTS (Long Term Support) バージョンであることの最大の利点は、その長期にわたる安定性とセキュリティアップデートの提供です。これにより、一度システムを構築すれば、頻繁なOSアップグレードの必要なく、長期間にわたって安心して運用を続けることができます。Ubuntu Server 24.04 LTSは、エンタープライズ環境、クラウド環境、データセンターなど、ミッションクリティカルなシステムに最適な選択肢と言えるでしょう。

開発目標としては、以下の点が重視されました。
* 最新テクノロジーの統合: 最新のハードウェアとソフトウェアスタックをサポートし、高いパフォーマンスと機能を提供。
* セキュリティの強化: デフォルト設定を含め、多層的なセキュリティ対策を実装し、現代の脅威からシステムを保護。
* 運用性の向上: システム管理、デプロイメント、スケーリングを容易にするためのツールと機能を提供。
* クラウドとエッジへの対応: クラウド環境、コンテナ、エッジデバイスなど、多様なデプロイメントシナリオへの対応強化。

それでは、具体的な機能や変更点について見ていきましょう。

核心部:Linux Kernel 6.8の採用とその影響

Ubuntu Server 24.04 LTSの基盤となるのは、Linux Kernel 6.8です。カーネルはOSの心臓部であり、そのバージョンアップはシステム全体のパフォーマンス、ハードウェアサポート、そして新機能に大きな影響を与えます。Kernel 6.8は、22.04 LTSがベースとしていたKernel 5.15と比較して、多くの重要な変更と改良が加えられています。

Kernel 6.8の主な新機能と改良点

  1. Bcachefsの実験的サポート: Kernel 6.8で最も注目される変更点の一つに、新しいコピーオンライト (CoW) ファイルシステムであるBcachefsの実験的サポートが含まれたことが挙げられます。Bcachefsは、SSDとHDDを組み合わせたハイブリッドストレージ環境での使用を想定して設計されており、高度なデータ整合性、スナップショット、そして優れたパフォーマンスを目指しています。まだ開発途上の段階であり、本番環境での採用には注意が必要ですが、将来のストレージ技術として期待されています。Ubuntu 24.04ではインストーラーからの直接的なサポートはありませんが、手動でのセットアップやテストが可能になっています。
  2. io_uringの機能拡張: 高性能な非同期I/Oフレームワークであるio_uringは、近年Linuxカーネルにおいて最も活発に開発されているサブシステムの一つです。Kernel 6.8では、io_uringの機能がさらに拡張され、ネットワーク操作(UDP/TCPの送受信)、ファイルシステム操作(リンク作成、名前変更など)、さらにはCPUスケジューリング関連の操作までio_uring経由で行えるようになっています。これにより、データベース、ネットワーキングアプリケーション、ストレージシステムなど、I/Oを多用するアプリケーションのパフォーマンス向上が期待できます。
  3. ネットワーキングの強化: MPTCP (Multipath TCP) の機能が改良され、複数のネットワークインターフェイスを同時に使用してTCP接続の帯域幅を向上させたり、フェイルオーバーを実現したりする能力が向上しています。また、ネットワークデバイスドライバーのアップデートや、BPF (Berkeley Packet Filter) を使用したネットワーキング処理の効率化が進んでいます。
  4. メモリ管理の改善: メモリ管理サブシステムに多くの改良が加えられています。特に、メモリ使用量の多いアプリケーションや、高密度なコンテナ環境、仮想マシン環境でのパフォーマンスと安定性が向上しています。メモリ不足時の挙動の改善や、メモリ解放の効率化などが図られています。
  5. 新しいハードウェアのサポート: Intel、AMD、ARMなどの最新世代のCPU、GPU、ネットワークカード、ストレージコントローラーなど、新しいハードウェアコンポーネントに対するドライバーと最適化が含まれています。これにより、最新のサーバーハードウェア上でのUbuntu 24.04 LTSの互換性とパフォーマンスが保証されます。特に、最新のIntel XeonやAMD EPYCプロセッサー、NVIDIAのデータセンター向けGPUなどに対するサポートが強化されています。
  6. セキュリティ関連の機能強化: BPFの機能拡張はセキュリティポリシーの適用や監査にも利用可能になっています。また、Landlockセキュリティモジュールのサポートが強化され、特定のプロセスがアクセスできるファイルシステムパスやネットワークアドレスを細かく制限できるようになっています。その他、様々な脆弱性に対する修正や、カーネル内部の hardening (堅牢化) 措置が施されています。
  7. スケジューラーの改善: CPUスケジューラーにも微細な改善が加えられており、特に多数のプロセスやコンテナが動作する環境での応答性やスループットの向上に貢献しています。

HWE (Hardware Enablement) カーネル

Ubuntu LTSバージョンでは、リリース時に搭載されるカーネル (Generic Kernel) とは別に、後のポイントリリース (24.04.1, 24.04.2など) で新しいハードウェアをサポートするためのHWE (Hardware Enablement) カーネルが提供されるのが一般的です。Ubuntu Server 24.04 LTSでも、リリース後も最新のハードウェアサポートが必要なユーザーのために、HWEカーネルが提供される予定です。これにより、システムの寿命期間中に登場する新しいサーバーハードウェアにも対応できるようになります。ただし、HWEカーネルはGenericカーネルよりも変更頻度が高いため、安定性を最優先する場合はGenericカーネルを選択し続けるという選択肢もあります。

Kernel 6.8の採用は、Ubuntu Server 24.04 LTSが現代の複雑で要求の厳しいワークロードに対応するための強力な基盤を提供することを示しています。特に、I/O性能、メモリ効率、そして最新ハードウェアへの対応は、サーバー環境にとって非常に重要です。

主要パッケージとソフトウェアスタックのアップデート

OSの使い勝手や機能性は、その上に搭載される様々なソフトウェアパッケージのバージョンに大きく依存します。Ubuntu Server 24.04 LTSでは、システム管理、開発、ネットワーキング、データベースなど、サーバー環境で一般的に使用される多くの主要パッケージが最新バージョンにアップデートされています。これにより、新機能の利用、パフォーマンスの向上、そしてセキュリティ脆弱性の修正がもたらされます。

以下に、主なパッケージのバージョンと注目すべき変更点を挙げます。

システム関連

  • OpenSSH 9.6: セキュアなリモート接続のためのSSHサーバー/クライアントがバージョンアップされました。セキュリティの強化、パフォーマンスの改善、新しい暗号アルゴリズムのサポートなどが含まれています。特に、レガシーなプロトコルや鍵交換方式の非推奨化が進んでおり、より安全な設定がデフォルトで推奨されます。
  • OpenSSL 3.2: TLS/SSLライブラリのメジャーアップデートです。TLS 1.3のサポートがより洗練され、新しい暗号化アルゴリズムやハードウェアアクセラレーションのサポートが強化されています。OpenSSL 3.xは、従来の1.x系と比較してライセンスモデルやAPIにも変更があるため、OpenSSLに依存するアプリケーションを開発・運用している場合は注意が必要です。デフォルトでより強固な暗号ポリシーが適用されます。
  • systemd 255+: システムとサービスを管理する中核的なコンポーネントであるsystemdも更新されました。新しいsystemdバージョンでは、コンテナ管理機能 (systemd-nspawn)、セキュリティ機能 (systemd-oomd, systemd-analyze security)、そしてロギング (journald) など、多岐にわたる機能強化が行われています。サービスの依存関係管理や起動速度の最適化も進んでいます。
  • Netplan 1.0+: ネットワーク設定を抽象化して管理するツールであるNetplanがバージョン1.0を超え、成熟度を増しています。Netplan 1.0では、より堅牢なパーサーとバックエンドのサポートが強化され、IPトンネル、VRF (Virtual Routing and Forwarding)、SR-IOVなどの高度なネットワーク機能の設定がより容易になっています。YAML形式の設定ファイルを用いて、複数のネットワークバックエンド (networkd, NetworkManager) に対応できる柔軟性が特徴です。

プログラミング言語ランタイム

  • Python 3.12: Pythonの最新版がデフォルトで提供されます。3.12では、型ヒント機能の強化、f-stringの柔軟性向上、パフォーマンス最適化(特にforループや呼び出しの高速化)など、開発者にとって便利な機能が追加されています。Python 2はすでにサポート終了しており、3.x系への移行が完了していることが前提となります。
  • PHP 8.3: Webアプリケーション開発で広く使われるPHPの最新バージョンが含まれています。PHP 8.x系は、JITコンパイラの導入によるパフォーマンスの大幅な向上や、多くの新しい言語機能、厳密な型チェックなどが特徴です。8.3では、さらにパフォーマンスの最適化やエラーハンドリングの改善が行われています。
  • Ruby 3.2: Ruby言語のバージョン3.2が採用されています。Ruby 3.x系は、並行処理ライブラリであるRactorの導入や、型チェックツールであるTypeProfの改善など、並列性や開発効率の向上に注力しています。
  • Perl 5.38: Perlもアップデートされ、新しい言語機能やモジュールの更新が含まれています。

Webサーバーとデータベース

  • Nginx 1.26: 高性能なWebサーバー/リバースプロキシであるNginxの最新安定版が提供されます。HTTP/3のサポート強化や、モジュール関連の改善などが含まれます。
  • Apache 2.4.58: 世界で最も広く使われているWebサーバーの一つであるApache HTTP Serverも更新されています。セキュリティ修正やパフォーマンスに関する改善が施されています。
  • PostgreSQL 16: 高機能なオープンソースリレーショナルデータベースであるPostgreSQLのメジャーバージョンアップです。性能向上、並列処理の強化、新しいSQL/JSON機能、論理レプリケーションの機能拡張など、多くの新機能が追加されています。
  • MySQL 8.0: 広く利用されているリレーショナルデータベースMySQLのバージョン8.0が引き続きサポートされます。8.0は、ウィンドウ関数、CTE (Common Table Expressions)、原子的なDDL、JSON機能の強化など、モダンなデータベース機能が多数導入されています。
  • MongoDB: NoSQLデータベースであるMongoDBも、より新しいバージョンが利用可能になっています(リポジトリによってバージョンが異なる場合があります)。

コンテナ関連技術

  • Docker 25.0+: コンテナ実行環境としてデファクトスタンダードとなっているDocker Engineの最新版が利用可能です。BuildKitによる高速なイメージビルド、Podmanとの互換性向上、新しいAPIなどが含まれます。
  • containerd 1.7+: Docker Engineの内部でも利用されているコンテナランタイムcontainerdも更新されています。Kubernetesなどのコンテナオーケストレーションとの連携が強化されています。
  • Incus 6.0: Canonicalが開発を主導するコンテナ/VMマネージャーLXDが、Linux Foundationに移管され、名称がIncusに変更されました。Ubuntu 24.04 LTSでは、LXDの代わりにIncus 6.0が標準的なコンテナ/VM管理ツールとして提供されます。LXDからの移行パスも用意されており、よりセキュアで柔軟なコンテナ/VM管理環境を提供します。
  • Kubernetes: UbuntuはKubernetesの実行環境としても非常に人気があります。Canonicalは、軽量なKubernetesディストリビューションであるMicroK8sや、運用自動化ツールJujuと組み合わせたCharmed Kubernetesを提供しています。Ubuntu 24.04 LTS上では、これらのツールを利用して、最新バージョンのKubernetesクラスターを容易に構築・運用できます。

これらのパッケージアップデートは、アプリケーション開発、データベース管理、Webサービス提供、そしてコンテナベースのワークロード実行において、最新の技術と機能を活用するための強固な基盤を提供します。システム管理者は、これらのバージョンアップに伴う変更点や非互換性に注意しながら、既存のアプリケーションやサービスとの互換性を検証する必要があります。

インストーラーの進化:Subiquityの強化

Ubuntu Server 24.04 LTSのインストール体験は、新しいサーバーインストーラーであるSubiquityによって提供されます。Subiquityは、対話型インストールと自動インストール(autoinstall)の両方をサポートしており、柔軟かつ効率的なデプロイメントを可能にします。24.04 LTSでは、このSubiquityインストーラーがさらに強化され、いくつかの注目すべき新機能と改善が追加されました。

Subiquityインストーラーの主な強化点

  1. TPM (Trusted Platform Module) を利用したディスク暗号化のサポート: セキュリティが重視されるサーバー環境において、ディスク暗号化は非常に重要な対策です。24.04 LTSのインストーラーは、TPM 2.0モジュールを利用して、LUKS (Linux Unified Key Setup) によるフルディスク暗号化を自動的に設定するオプションを提供します。これにより、暗号化キーをTPMに安全に保管し、システムの起動時にTPMが整合性を検証することで自動的にディスクを解除できるようになります。物理的なセキュリティが確保された環境や、リモートでの再起動が多い環境で特に有効です。
  2. 自動インストール (Autoinstall) の機能と信頼性の向上: 大規模なデプロイメントやクラウド環境での自動化には、自動インストール機能が不可欠です。Subiquityのautoinstall機能は、Cloud-initのuser-dataフォーマットに基づいたYAMLファイルを使用して、インストールプロセス全体をスクリプト化できます。24.04 LTSでは、autoinstall設定の検証機能が強化され、より複雑なパーティショニング設定、ユーザー設定、パッケージ選択、カスタムスクリプトの実行などが、より信頼性高く行えるようになっています。これにより、データセンターやプライベートクラウドにおけるサーバーのプロビジョニングがさらに効率化されます。
  3. ZFS RootFS サポートの改善: ZFSは高度なデータ保護、スナップショット、クローン、データ圧縮などの機能を提供する先進的なファイルシステムです。UbuntuはZFS RootFSのサポートを早くから提供してきましたが、24.04 LTSではインストーラーからのZFS RootFSのセットアップオプションが改善され、より使いやすく、安定したセットアップが可能になっています。特に、暗号化との組み合わせや、複雑なストレージ構成における互換性が向上しています。
  4. パフォーマンスとユーザーインターフェイスの改善: インストールプロセス全体のパフォーマンスが向上し、より迅速にインストールが完了するようになっています。また、対話型インストールのユーザーインターフェイスも細部が改善され、特に複雑なネットワーク設定やストレージ設定を行う際の操作性が向上しています。

Subiquityの強化は、Ubuntu Server 24.04 LTSのデプロイメントと管理を容易にします。特に、自動インストール機能の向上は、IaC (Infrastructure as Code) の実践を強力に後押しし、モダンなインフラストラクチャ構築において重要な役割を果たします。

システム管理と運用:日々のタスクを効率化

サーバーの日常的な運用・管理は、OSの使いやすさに大きく依存します。Ubuntu Server 24.04 LTSでは、システム管理者が必要とする様々なツールやコンポーネントが更新・強化され、日々のタスクをより効率的かつ安全に行えるようになっています。

ネットワーク設定:Netplan 1.0+

前述の通り、Netplanがバージョン1.0を超えました。Netplanは、/etc/netplan/*.yaml ファイルでネットワーク設定を定義し、それをsystemd-networkdまたはNetworkManagerといったバックエンドに適用するツールです。24.04 LTSにおけるNetplanの改善点は、単なるバグ修正に留まらず、より多くのネットワーク構成に対応できるよう拡張されています。

  • 高度な設定のサポート: VRF (Virtual Routing and Forwarding) や、複雑なルーティングポリシーの設定がYAMLファイルで容易に行えるようになりました。
  • リンク名の整合性: サーバーの再起動やハードウェアの変更によってネットワークインターフェイス名 (eth0, ens192など) が変わってしまう問題は、特に古いシステムで頭痛の種でした。Ubuntuではudevルールなどによってこの問題を緩和してきましたが、Netplanとsystemd-networkdの連携により、より堅牢なリンク名の管理と予測可能な挙動が実現されています。
  • エラーハンドリングと検証: YAML設定ファイルのエラーチェック機能が強化され、設定ミスによるネットワーク接続の問題を未然に防ぎやすくなっています。

サービス管理:systemd 255+

systemdは、システムの起動プロセス、サービスの管理、ログ収集などを担う、現代のLinuxシステムにおける中核的なコンポーネントです。systemd 255+へのアップデートは、Ubuntu Server 24.04 LTSの安定性と機能性に貢献しています。

  • セキュリティとリソース管理: systemd-oomd (Out-of-Memory Daemon) の機能が強化され、メモリ不足に陥った際にシステム全体が停止するのではなく、問題のあるプロセスを特定して終了させることでシステムの可用性を維持する能力が向上しています。また、cgroup v2との連携が強化され、より詳細なリソース制限や監視が可能になっています。
  • ログ管理 (journald): systemd-journaldはシステムログを一元的に管理します。新しいバージョンでは、ログのクエリ機能やストレージ効率が改善されています。また、ログデータの署名機能など、セキュリティ関連の強化も含まれています。
  • systemd-timers: cronの代替としてsystemdが提供するタイマー機能も進化しています。systemd-timersはサービスファイルとの連携が容易で、より詳細なスケジュール設定や依存関係の管理が可能です。特定のサービスが成功した後にタイマーを開始するなど、柔軟なタスク実行スケジューリングが実現できます。
  • systemd-analyze security: システムのセキュリティ設定(SELinux/AppArmorの状態、マウントオプションなど)を分析し、潜在的なリスクをレポートするツールが強化されています。

ユーザーと認証:OpenSSHとsudoの進化

OpenSSH 9.6の導入は、SSH鍵の管理とセキュリティに直接的な影響を与えます。

  • 鍵交換アルゴリズム: レガシーな鍵交換アルゴリズムや公開鍵アルゴリズム (e.g., ssh-rsa + SHA1) の非推奨化や削除が進んでいます。より安全性の高いアルゴリズム (e.g., Ed25519, ECDSA, SHA2) の使用が推奨されます。既存のシステムから24.04 LTSへSSH接続する際に、古い鍵を使っていると接続できなくなる可能性があるため、鍵の更新が必要となる場合があります。
  • SSH設定ファイル: /etc/ssh/sshd_config のデフォルト設定がよりセキュアになっています。例えば、パスワード認証の無効化(公開鍵認証のみを許可)や、rootログインの禁止が強く推奨されます。
  • sudo: ユーザーがroot権限でコマンドを実行するためのsudoもアップデートされ、セキュリティ修正やログ機能の改善が含まれています。sudoersファイルによる権限委譲の設定の柔軟性も向上しています。

ソフトウェア管理:APTとSnap

Ubuntuのパッケージ管理システムであるAPTは引き続き主要なソフトウェア配布チャネルですが、Snapパッケージもサーバー環境で重要な役割を担うようになってきています。

  • APT: APTツール自体もパフォーマンスの改善や依存関係解決のロジックが更新されています。/etc/apt/sources.list.d/ ディレクトリに個別のリポジトリ設定ファイルを配置する方法が推奨され、より管理しやすくなっています。
  • Snap: SnapcraftによってビルドされたSnapパッケージは、アプリケーションとその依存関係をコンテナ化して配布する仕組みです。これにより、システムライブラリに依存しないアプリケーションの配布が可能になり、異なるバージョンの同じソフトウェアを共存させたり、依存関係の衝突を避けたりできます。Ubuntu Server 24.04 LTSでは、一部のサービス(例えば、MicroK8sや一部のクラウドツール)がSnapとして提供されています。Snapの自動更新機能は、サーバー環境では計画的なメンテナンスのために無効化または制御することが推奨される場合があります。

これらのシステム管理・運用関連の変更は、サーバーの安定性、セキュリティ、そして管理の効率性に直接的に寄与します。特に、自動化ツールやスクリプトを使用している場合は、新しいバージョンや変更された設定ファイルのパス、コマンドの挙動などを確認する必要があります。

セキュリティ:多層防御の強化

サーバーセキュリティは、サイバー攻撃が高度化する現代において最も重要な課題の一つです。Ubuntu Server 24.04 LTSは、カーネルレベルからアプリケーションレベルまで、多層的なセキュリティ対策を強化することで、システムの安全性を高めています。

OpenSSL 3.2と暗号化ポリシー

前述のOpenSSL 3.2の導入は、システム全体の暗号化機能に影響を与えます。

  • デフォルトでのTLS 1.3: OpenSSL 3.2では、より安全で高速なTLS 1.3がデフォルトで推奨されるようになっています。古いTLSバージョン (TLS 1.0, 1.1) はデフォルトで無効化される方向に進んでいます。これにより、HTTPS通信やその他のTLS/SSLを使用するサービスのセキュリティレベルが向上します。
  • 強化された暗号ポリシー: Ubuntuはシステムワイドな暗号ポリシー (/etc/crypto-policies/) を提供しており、OpenSSLだけでなく、GNUTLSやNSSなどの他の暗号ライブラリにも影響を与えます。24.04 LTSでは、このポリシーが更新され、より安全な鍵長やハッシュ関数、暗号スイートがデフォルトで強制されるようになります。例えば、SHA-1ハッシュ関数は多くの用途で非推奨となり、より強力なSHA-256などが使用されます。既存のシステムやクライアントが古い暗号化方式に依存している場合、互換性の問題が発生する可能性があるため、テストが必要です。
  • FIPS 140-3: セキュリティが非常に厳しい環境向けに、Ubuntu Pro契約によりFIPS 140-3認証モジュールが提供される予定です。これにより、政府機関や金融機関などの規制要件を満たすことが可能になります。

カーネルレベルのセキュリティ機能

Linux Kernel 6.8では、セキュリティ関連の機能も強化されています。

  • AppArmorの強化: AppArmorは、プロセスごとに強制的なアクセス制御 (MAC: Mandatory Access Control) ポリシーを適用するセキュリティモジュールです。24.04 LTSでは、より多くのシステムサービスやアプリケーションに対するAppArmorプロファイルが提供され、デフォルトでのシステム堅牢性が向上しています。新しいプロファイルは、潜在的な攻撃対象領域を狭め、たとえサービスに脆弱性があっても、システム全体への影響を限定するのに役立ちます。
  • BPF (Berkeley Packet Filter): BPFは、カーネル空間で安全かつ効率的にカスタムコードを実行するためのメカニズムです。セキュリティ分野では、ネットワークトラフィックのフィルタリング、システムコールの監視、セキュリティポリシーの適用などに利用されています。Kernel 6.8では、BPFの機能と性能がさらに向上しており、より高度なセキュリティモニタリングや防御メカニズムの実装が可能になっています。
  • Landlock LSM: Landlockは、ユーザー空間のプロセスがファイルシステムやネットワークにアクセスできる範囲を制限するための新しいLinux Security Module (LSM) です。これは、権限の低いプロセスが誤って(あるいは悪意を持って)システム上の重要なリソースにアクセスすることを防ぐのに役立ちます。Kernel 6.8では、Landlockの機能が拡張され、より詳細な制御が可能になっています。
  • カーネル hardening: ASLR (Address Space Layout Randomization) の強化、スタックプロテクション、メモリ安全性に関するコンパイラフラグの活用など、カーネル自体の脆弱性を悪用した攻撃を防ぐための様々な hardening 措置が講じられています。

ファイアウォール:UFWの改善

Ubuntuのデフォルトファイアウォール管理ツールであるUFW (Uncomplicated Firewall) も、新しいiptables/nftablesバックエンドに対応するなど、内部的な改善が行われています。IPv6のサポートも引き続き良好です。UFWは、シンプルなコマンドラインインターフェイスで基本的なファイアウォールルールを簡単に設定できるため、多くのサーバー環境で利用されています。

デフォルト設定とベストプラクティス

Ubuntu Server 24.04 LTSでは、インストール時のデフォルト設定もセキュリティを考慮して選択されています。例えば、SSHのrootログイン無効化、パスワード認証よりも公開鍵認証の優先などが推奨されています。システム管理者は、公式ドキュメントやセキュリティガイドラインを参考に、自身の環境に合わせてセキュリティ設定をさらに強化することが推奨されます。例えば、不要なサービスの停止、最小限のパッケージインストール、定期的なセキュリティアップデートの適用、そして監査ログの監視などが挙げられます。

サポート期間とセキュリティアップデート

LTSバージョンである24.04 LTSの最大のセキュリティ上の利点は、標準で5年間、Ubuntu Proを契約すれば最大12年間にわたって、重要なセキュリティアップデートが継続的に提供されることです。これにより、新たに発見された脆弱性に対して迅速に対応し、システムの安全性を長期間にわたって維持できます。Ubuntu Security Teamは、広く影響を与える脆弱性(例:Spectre/Meltdown, Log4j, OpenSSLの脆弱性など)に対して、迅速なパッチを提供することで知られています。

これらの多岐にわたるセキュリティ強化は、Ubuntu Server 24.04 LTSが現代の厳しいセキュリティ要件を満たすための強固な基盤を提供することを示しています。

クラウドとコンテナ:モダンなワークロードへの最適化

クラウドコンピューティングとコンテナ技術は、現代のITインフラストラクチャにおいて不可欠な存在です。Ubuntu Serverは、これらの技術との親和性が高く、24.04 LTSではさらなる最適化とサポート強化が行われています。

クラウド環境への対応

Ubuntuは主要なパブリッククラウドプロバイダー (AWS, Azure, GCP) およびプライベートクラウドプラットフォーム (OpenStack) での公式イメージを提供しています。24.04 LTSのイメージは、それぞれのクラウド環境に最適化されており、cloud-init を使用して初回起動時の設定(ホスト名、ネットワーク設定、SSHキー、カスタムスクリプトの実行など)を自動化できます。

  • Cloud-initのアップデート: サーバーインスタンスの初回起動時設定を自動化するツールであるcloud-initも更新されています。より多くの設定オプションがサポートされ、プロビジョニングの信頼性と柔軟性が向上しています。特に、ユーザーデータやメタデータサービスからの設定取得に関する機能が強化されています。
  • 最適化イメージ: 各クラウドプロバイダー向けに、パフォーマンスと起動時間を最適化したイメージが提供されます。NVMeストレージのサポートや、特定のインスタンスタイプに合わせたカーネルモジュールの有効化などが行われています。
  • Canonical Landscape / MAAS: 大規模なプライベートクラウド環境やベアメタル環境の管理には、Canonicalが提供するLandscape (サーバー監視・管理) やMAAS (Metal as a Service) が役立ちます。Ubuntu Server 24.04 LTSは、これらのツールとの連携が強化されており、サーバーのデプロイ、パッチ適用、監視、容量管理などを効率的に行うことができます。

コンテナ技術のサポート

Ubuntu Server 24.04 LTSは、Docker、containerd、Kubernetesといった主要なコンテナ技術を強力にサポートします。

  • Docker Engine: 最新のDocker Engineが利用可能であり、新しいコンテナイメージフォーマット、ビルド機能 (BuildKit)、そしてランタイムの改善などが含まれています。
  • containerd: Kubernetesのデフォルトランタイムとしても広く使われているcontainerdも最新版が提供され、Kubernetesとの連携がよりスムーズになっています。
  • Incus (旧LXD): Canonicalが主導するコンテナ/VMマネージャーであるIncusは、軽量なシステムコンテナ(完全なOS環境をコンテナ内で実行)や仮想マシンを効率的に管理するための強力なツールです。LXDからの名称変更とLinux Foundationへの移管を経て、24.04 LTSではIncus 6.0として提供されます。これにより、開発環境の構築、テスト環境の分離、あるいは本番サービスの一部をコンテナ化するなど、様々な用途で柔軟な仮想化環境を構築できます。LXDからの移行ツールも提供されています。
  • Kubernetes: CanonicalはMicroK8sとCharmed Kubernetesという2つの主要なKubernetesディストリビューションを提供しています。
    • MicroK8s: シングルノードまたは小規模クラスター向けの軽量なKubernetesです。Snapパッケージとして提供されるためインストールが容易で、開発、テスト、エッジ環境などに適しています。24.04 LTSでは、最新のKubernetesバージョン (リリース時点では1.29または1.30が予定されている可能性) がサポートされ、addon機能(DNS, Dashboard, Storageなど)も拡充されています。
    • Charmed Kubernetes: Jujuというオペレーターフレームワークを使用してデプロイおよび管理される、本番環境向けの堅牢なKubernetesです。高可用性、スケーリング、各種クラウドサービスとの連携などが容易に行えます。

Snapパッケージのサーバー活用

Snapパッケージは、アプリケーションとその依存関係をバンドルして配布する仕組みであり、サーバー環境でも特定の用途で活用されています。例えば、開発ツールの配布、特定のバージョンのサービスの提供、あるいは上述のMicroK8sのように、複雑なソフトウェアスタックを簡単にインストール・管理するために利用されます。サーバー環境におけるSnapの利点は、メインシステムから分離されているため依存関係の衝突が少なく、トランザクションアップデートにより安全にソフトウェアを更新できる点です。ただし、Snapの自動更新ポリシーやストレージ使用量については、サーバー運用において計画的に管理する必要があります。

クラウドとコンテナ技術への対応強化は、Ubuntu Server 24.04 LTSが、変化の速い現代のワークロードに迅速かつ効率的に対応するための重要な要素です。

ストレージとファイルシステム:データの信頼性と性能

サーバー環境において、ストレージはデータの永続性とパフォーマンスを左右する生命線です。Ubuntu Server 24.04 LTSでは、様々なファイルシステムやストレージ技術に対するサポートが更新・強化されています。

Bcachefsの実験的サポート

既にカーネルの項で触れましたが、Bcachefsの実験的サポートは、ストレージ技術の進化を示す重要な一歩です。CoWファイルシステムとして、ZFSやBtrfsと競合する位置づけですが、異なる設計思想を持っています。

  • 特徴: スナップショット、データ整合性、圧縮、重複排除などの高度な機能を目指しています。特に、キャッシュ層 (SSD) とストレージ層 (HDD) を組み合わせた環境での性能最適化に強みがあるとされています。
  • 現状: Ubuntu 24.04 LTSではカーネルに組み込まれましたが、まだ「実験的」な段階であり、インストーラーからの公式サポートはありません。本番環境での利用は推奨されていません。しかし、このサポート開始は、将来的にBcachefsがUbuntuの主要なファイルシステムオプションの一つになる可能性を示唆しています。システム管理者は、開発状況を注視し、テスト環境での評価から始めることになるでしょう。

ZFS on Linux のアップデート

ZFSは、データ保護、スナップショット、コピーオンライト、データ圧縮、ボリューム管理機能などを統合した強力なファイルシステムおよびボリュームマネージャーです。UbuntuはZFS on Linuxプロジェクトの成果を取り込み、ZFS RootFSを含むZFSのサポートを積極的に行っています。

  • バージョン: 24.04 LTSに含まれるZFS on Linuxのバージョンは、新しい機能やパフォーマンス最適化、バグ修正が盛り込まれています。
  • 機能: プーリング (zpool)、データセット (zfs create)、スナップショット、クローン、暗号化、圧縮 (LZ4, Zstd)、重複排除など、ZFSの豊富な機能が利用可能です。
  • RootFS: インストーラーからのZFS RootFS設定オプションが改善され、OS自体をZFSプール上にインストールすることが容易になっています。これにより、OSのスナップショットを取得したり、OSのアップデートを安全に行ったりすることが可能になります。
  • 注意点: ZFSは高機能である反面、メモリを多く消費する傾向があり、複雑な設定も可能です。また、ライセンス上の懸念(ZFSのCDDLとLinuxカーネルのGPLの非互換性)が指摘されることもありますが、Ubuntuはモジュールとして提供することで対応しています。利用にあたっては、十分な設計と検証が必要です。

その他のファイルシステム

Ubuntu Server 24.04 LTSは、サーバー環境で広く利用されている他のファイルシステムも引き続きサポートし、それぞれの最新版を提供します。

  • ext4: デフォルトのファイルシステムであり、安定性と信頼性に優れています。小規模から中規模のサーバー、あるいは特定の高度な機能が不要な場合に適しています。
  • XFS: 大容量ストレージや高スループットなI/Oに適したファイルシステムです。特に大規模なファイルシステムやデータベース用途で好まれます。
  • Btrfs: コピーオンライト、スナップショット、サブボリューム、RAID機能などを備えたモダンなファイルシステムです。ZFSと同様に多くの機能を提供しますが、開発状況や安定性についてはZFSと比較されることがあります。Ubuntu 24.04でも利用可能ですが、デフォルトではありません。

LVM (Logical Volume Management)

LVMは、物理ディスクを論理的なボリュームとして管理するための標準的なツールです。柔軟なパーティショニング、スナップショット、ボリュームの拡張/縮小、RAID構成などが可能です。Ubuntu Server 24.04 LTSに含まれるLVMツールは最新版であり、新しいハードウェアや構成オプションへの対応が強化されています。インストーラーはLVMを使用した設定もサポートしており、柔軟なストレージレイアウトを簡単に構築できます。

ストレージ関連のアップデートは、データの信頼性と可用性、そしてシステム全体のパフォーマンスに直接影響します。特に、大量のデータを扱うサーバーや、高いI/O性能が求められるアプリケーションにおいては、適切なファイルシステムとストレージ構成を選択することが非常に重要です。24.04 LTSでは、ZFSの改善やBcachefsの登場など、先進的な選択肢が提供されています。

パフォーマンスと最適化:より高速で効率的な動作へ

サーバーの性能は、アプリケーションの応答性や処理能力に直結するため、常に重要な関心事です。Ubuntu Server 24.04 LTSは、カーネル、ライブラリ、主要パッケージのアップデートを通じて、パフォーマンスの向上とシステムリソースのより効率的な利用を目指しています。

カーネルレベルの最適化

Kernel 6.8は、様々なサブシステムにおいてパフォーマンスに関する改善を含んでいます。

  • io_uringの強化: I/O性能がボトルネックとなるアプリケーション(データベース、キーバリューストア、高性能Webサーバーなど)において、io_uringの機能拡張によるスループット向上やレイテンシ削減が期待できます。
  • メモリ管理: メモリ管理コードの効率化は、大量のメモリを消費するワークロードや、多数のプロセス/コンテナが動作する環境での応答性や安定性に寄与します。
  • スケジューラー: CPUスケジューラーの微調整は、CPUリソースの割り当て効率を高め、全体的なスループットを向上させます。特にマルチコア/マルチプロセッサー環境での効果が期待できます。
  • ネットワーキングスタック: ネットワーク処理の最適化は、ネットワークI/Oを多用するアプリケーションやサービス(ロードバランサー、プロキシ、分散システムなど)の性能向上につながります。

ライブラリとコンパイラ

Ubuntu 24.04 LTSで提供される主要なライブラリや開発ツール(GCC, glibcなど)もアップデートされています。新しいコンパイラバージョンは、生成されるバイナリコードの最適化レベルを向上させ、全体的なパフォーマンス向上に貢献する可能性があります。特に、最新のCPUアーキテクチャに合わせた最適化が強化されています。

パッケージ固有のパフォーマンス改善

個々の主要パッケージも、それぞれのアップデートでパフォーマンスに関する改善を含んでいます。

  • PHP 8.3: JITコンパイラを含むPHP 8.x系の継続的なパフォーマンス改善は、PHPベースのWebアプリケーションの実行速度を大幅に向上させます。
  • PostgreSQL 16: 並列クエリ実行の強化、データソートの高速化、論理レプリケーションのパフォーマンス向上など、データベースの処理能力が向上しています。
  • Nginx / Apache: 最新バージョンでは、静的ファイルの配信やリバースプロキシ処理におけるスループットや接続処理能力が改善されている可能性があります。

パフォーマンス監視とチューニングツール

Ubuntu Server 24.04 LTSは、システムのパフォーマンスを監視し、ボトルネックを特定するための様々なツールを提供します。perf, atop, htop, iostat, vmstat などの標準的なLinuxツールが利用可能です。また、BPFベースの新しいトレーシングツール(bcc, bpftraceなど)を活用することで、より詳細なシステム内部の挙動をリアルタイムで分析し、パフォーマンスチューニングに役立てることができます。

システム管理者や開発者は、これらの新しいツールやアップデートされたコンポーネントを活用することで、デプロイするアプリケーションやサービスのパフォーマンスを最大限に引き出すことが期待できます。ただし、具体的なパフォーマンス向上効果は、ワークロードの種類やハードウェア構成によって異なるため、実際の環境での計測と検証が重要です。

互換性とアップグレード:既存システムからの移行

既存のUbuntu Server LTSバージョン(特に22.04 LTS)から24.04 LTSへのアップグレードを検討しているシステム管理者にとって、互換性とアップグレード手順は重要な関心事です。LTS間のアップグレードは一般的に安定していますが、いくつかの注意点があります。

アップグレードパス

  • Ubuntu 22.04 LTS から 24.04 LTS: 公式なLTS間の直接アップグレードパスが提供されます。通常、24.04 LTSの最初のポイントリリース (24.04.1) がリリースされた後に、アップグレードツール (do-release-upgrade) を使用して実行可能になります。
  • Ubuntu 23.10 から 24.04 LTS: 非LTSバージョンである23.10からのアップグレードパスも提供されます。通常、24.04 LTSのリリースと同時にアップグレード可能になります。

アップグレード前の準備と注意点

  1. バックアップ: 何よりも重要です。システム全体のバックアップを取得し、リストア可能であることを確認してください。
  2. 互換性の確認:
    • サードパーティ製リポジトリ/PPA: 標準のリポジトリ以外のソフトウェアソースを利用している場合、それらが24.04 LTSに対応しているか確認が必要です。非対応の場合は、アップグレード前に無効化するか、代替手段を検討する必要があります。
    • 主要パッケージのバージョンアップ: 多くの主要パッケージがバージョンアップしているため、そこで動作するアプリケーションやサービスが新しいバージョンに対応しているか、あるいは設定ファイルの変更が必要ないか確認してください。特に、PHP, Python, データベース(PostgreSQL, MySQL)のメジャーバージョンアップは互換性に影響を与える可能性があります。
    • 非推奨/削除されたパッケージ: 22.04 LTSで利用可能だった一部のパッケージが、24.04 LTSで非推奨または削除されている可能性があります。事前にリストを確認し、代替となるパッケージや対応策を検討してください。
    • 設定ファイルの変更: /etc ディレクトリ配下の一部の設定ファイルは、新しいパッケージバージョンに合わせて変更が必要になる場合があります。アップグレードツールはこれらの変更を検知し、ユーザーに確認を求める場合がありますが、手動での確認も推奨されます。OpenSSHやOpenSSLの設定ファイルは特に注意が必要です。
  3. システムアップデート: アップグレードを実行する前に、現在のシステム (22.04 LTS または 23.10) を最新の状態にアップデートしておいてください (sudo apt update && sudo apt upgrade)。
  4. アップグレードツールの使用: do-release-upgrade コマンドを使用してアップグレードを実行します。このツールは依存関係の解決や設定ファイルの移行を自動で行いますが、途中でユーザーの確認を求める場合があります。
  5. テスト環境での検証: 重要な本番環境でアップグレードを実行する前に、可能な限り同様の構成を持つテスト環境でアップグレードプロセス全体を検証することを強く推奨します。

互換性に影響を与える可能性のある変更点

  • OpenSSL 3.x: OpenSSL 1.xから3.xへの移行は、レガシーな暗号アルゴリズムやプロトコルに依存するアプリケーションに影響を与える可能性があります。デフォルトの暗号ポリシーもより厳格になります。
  • Python 3.12: Python 2は完全に削除され、Python 3系もバージョンが上がっています。古いPythonスクリプトでPython 3.12との互換性がないものがあるかもしれません。仮想環境 (venv) の使用が推奨されます。
  • Netplan: ネットワーク設定方法の基本的な部分は変わりませんが、新しい機能や設定オプションが追加されています。複雑なネットワーク構成を使用している場合は、設定ファイルの互換性を確認してください。
  • Incus (旧LXD): LXDからIncusへの変更は、コンテナ/VM管理方法に影響を与えます。既存のLXD環境からの移行ツールが提供されますが、運用方法の見直しが必要になる場合があります。

アップグレードは、システムを最新の状態に保ち、新しい機能やセキュリティ改善の恩恵を受けるための重要な手段ですが、計画的かつ慎重に進める必要があります。上記の注意点を参考に、十分な準備を行ってください。

コミュニティとサポート体制

Ubuntuは世界中の開発者やユーザーからなる活発なコミュニティに支えられています。フォーラム、メーリングリスト、IRC/Discordチャンネルなど、様々なチャネルを通じて情報交換や問題解決が行われています。Ubuntu Server 24.04 LTSに関する疑問や問題は、まずこれらのコミュニティリソースで解決策が見つかることが多いでしょう。

一方、エンタープライズ環境やミッションクリティカルなシステムでは、より公式かつ包括的なサポートが必要となる場合があります。Canonicalは、Ubuntu Proというサブスクリプションサービスを提供しており、これにより様々な特典が得られます。

  • Ubuntu Pro:
    • ESM (Extended Security Maintenance): 標準の5年間に加え、さらに5年間のセキュリティアップデート(カーネル、OSインフラストラクチャ、主要なオープンソースパッケージなど)が提供され、合計10年間のサポートが可能になります。
    • Legacy Support: 特定の要件を持つユーザー向けに、ESM期間終了後も追加で2年間のセキュリティサポートが提供され、合計12年間の超長期サポートが可能になります。
    • FIPS 140-3: 認証済みの暗号モジュールが利用可能になります。
    • Landscape / MAAS: これらの運用管理ツールへのアクセスやサポートが含まれます。
    • Canonical Support: 24時間365日のテクニカルサポートオプションが利用可能です。

Ubuntu Proは、特に長期運用が必要なシステムや、セキュリティ規制が厳しい環境において、安心してUbuntu Server 24.04 LTSを利用するための強力な選択肢となります。

まとめと展望:サーバー運用の新たな標準

Ubuntu Server 24.04 LTS (Noble Numbat) は、Linux Kernel 6.8、最新の主要ソフトウェアパッケージ、強化されたインストーラー、そして多層的なセキュリティ改善を特徴とする、非常に強力でモダンなサーバーOSです。その長期サポート期間とUbuntu ProによるESMは、エンタープライズ環境やクラウドインフラストラクチャにおいて、長期にわたる安定した運用基盤を提供します。

注目すべき機能は多岐にわたりますが、特に以下の点は多くのシステム管理者や開発者にとって重要な要素となるでしょう。

  • 最新ハードウェアへの対応とパフォーマンス向上: Kernel 6.8とアップデートされたライブラリにより、最新のサーバーハードウェアの能力を最大限に引き出し、アプリケーションのパフォーマンスを向上させることができます。
  • 強化されたセキュリティ機能: OpenSSL 3.2、新しい暗号ポリシー、AppArmor、カーネル hardeningなど、現代の脅威に対する防御力が向上しています。
  • 運用性の向上: 進化したNetplan、systemd、そして自動インストール機能により、サーバーのデプロイメント、設定、管理がより効率的かつ自動化しやすくなっています。
  • クラウドとコンテナへの最適化: 最新のDocker、containerd、そしてIncus/MicroK8sといったツール群は、コンテナベースのワークロードやクラウドネイティブなアプリケーションをUbuntu Server上で効率的に実行するための強力なサポートを提供します。
  • ストレージ技術の進化: ZFSの改善に加え、Bcachefsの実験的サポートが将来のストレージオプションへの期待を高めます。

Ubuntu Server 24.04 LTSは、新しいサーバーの導入、既存システムのモダナイゼーション、あるいはクラウド環境への移行など、様々なシナリオにおいて最適な選択肢となり得ます。その安定性、セキュリティ、そして豊富な機能セットは、今後数年間のサーバー運用の標準を築くことになるでしょう。

本記事が、Ubuntu Server 24.04 LTSの導入や評価を検討されている皆様にとって、その真価を理解し、システム計画に役立つ情報源となれば幸いです。新しいNoble Numbatと共に、セキュアで高効率なサーバー運用を実現してください。

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