SQL Server Native Clientとは?特徴と利用方法を解説

SQL Server Native Clientとは?特徴と利用方法を解説

はじめに:データベース接続技術の進化とSQL Server Native Clientの登場

現代のソフトウェア開発において、データベースへのアクセスは必要不可欠な要素です。アプリケーションがリレーショナルデータベース管理システム(RDBMS)と連携するためには、クライアント側とサーバー側の間に「接続」を確立し、SQLコマンドを送信し、結果を受け取るための仕組みが必要となります。この仕組みは、一般に「クライアントライブラリ」や「ドライバー」「プロバイダー」と呼ばれます。

データベース接続技術は、時間の経過とともに進化してきました。初期のデータベースは、それぞれ独自のネイティブAPIを提供しており、開発者は特定のデータベース製品のためだけにコードを書く必要がありました。これは、異なるデータベース製品を利用する際に大きな障壁となります。この問題を解決するために登場したのが、標準化されたデータベースアクセスインターフェースです。マイクロソフトは、その歴史の中で主要な標準としてODBC (Open Database Connectivity) とOLE DB (Object Linking and Embedding for Databases) の二つを推進してきました。

ODBCは、C言語APIをベースとしたクロスプラットフォームなデータベースアクセス標準として広く普及しました。アプリケーションはODBCドライバーを介して様々なデータベースに接続できます。OLE DBは、COM (Component Object Model) をベースとした低レベルなデータアクセスインターフェースであり、より多様なデータソース(リレーショナルデータベースだけでなく、スプレッドシートやテキストファイルなども含む)へのアクセスを目指しました。OLE DBの上位には、より使いやすいCOMコンポーネントとしてADO (ActiveX Data Objects) が構築され、特にVisual BasicやASPなど、Windowsプラットフォームでの開発者に広く利用されました。

SQL Serverも、その歴史の中でこれらの標準インターフェースに対応してきました。SQL Server 6.5以前のネイティブAPIに加え、SQL Server 7.0以降では専用のODBCドライバーとOLE DBプロバイダーが提供されるようになりました。しかし、これらの従来のクライアントライブラリは、新しいSQL Serverのバージョンで導入される革新的な機能(例えば、SQL Server 2005で追加されたMultiple Active Result Sets (MARS) やService Broker、Query Notificationsなど)に迅速に対応することが難しいという課題を抱えていました。従来のライブラリは、古いSQL Serverのバージョンとの後方互換性を維持する必要があり、最新機能のサポートは限定的になる傾向があったのです。

このような背景から、SQL Server 2005の登場に合わせて、マイクロソフトは新しい統合されたクライアントライブラリとして「SQL Server Native Client (SNAC)」を導入しました。SNACは、当時の最新のSQL Serverの機能を最大限に活用できるように設計され、ODBCとOLE DBの両方のインターフェースを単一のDLLとして提供しました。これにより、開発者は最新のSQL Server機能を利用しつつ、既存のODBCまたはOLE DBベースのアプリケーションからスムーズに移行、あるいは新規開発を行うことが可能になりました。

しかし、重要な注意点として、SQL Server Native Clientは現在では非推奨(Deprecated)となり、サポート期間が終了(End-of-Life, EOL)しています。 したがって、新規のアプリケーション開発でSNACを利用することは推奨されません。既存のSNACを利用しているアプリケーションについても、後述する代替ドライバーへの移行が強く推奨されています。

この記事では、SQL Server Native Clientがどのようなものであったか、その特徴や当時の利用方法、そしてなぜ現在は非推奨となり、どのような代替ドライバーが推奨されているのかについて、詳細に解説します。SNACは過去の技術となりつつありますが、その技術的な背景や果たした役割を理解することは、SQL Serverのクライアント接続技術の歴史を知る上で非常に有益です。

SQL Server Native Client (SNAC) とは

SQL Server Native Client (SNAC) は、SQL Server 2005と共に導入された、SQL Serverに接続するためのスタンドアロンなデータアクセスAPIライブラリです。正式名称は「Microsoft SQL Server Native Client」です。SNACは、従来のSQL Server用のODBCドライバーおよびOLE DBプロバイダーを置き換えるものとして開発されました。

SNACが提供する主な機能は、以下の二つのインターフェースです。

  1. ODBCドライバー: ODBCアプリケーションからSNACを利用するためのインターフェース。
  2. OLE DBプロバイダー: OLE DBアプリケーションからSNACを利用するためのインターフェース。

つまり、SNACはODBCドライバーとしても、OLE DBプロバイダーとしても機能する、統合されたクライアントライブラリでした。これは、アプリケーションがどちらのデータアクセス技術(ODBCまたはOLE DB/ADO)を使用していても、同じ基盤の上でSQL Serverの最新機能にアクセスできることを意味します。

SNACが登場した主な理由は、SQL Server 2005で導入された多くの新機能を効率的かつ完全にサポートするためでした。従来のSQL Server用クライアントライブラリ(SQL Server Driver for ODBCやMicrosoft OLE DB Provider for SQL Server)は、これらの新機能の全てには対応していなかったか、対応していても性能や使いやすさに課題がありました。SNACは、これらの新機能を最初から考慮して設計されたため、SQL Server 2005以降のバージョンが提供する高度な機能を、クライアントアプリケーションから最大限に引き出すことが可能になりました。

SNACは、SQL Server 2005 (SNAC 9.0) から始まり、SQL Server 2008 (SNAC 10.0)、SQL Server 2008 R2 (SNAC 10.5)、そしてSQL Server 2012 (SNAC 11.0) まで提供されました。各バージョンは、対応するSQL ServerのバージョンやOS、そしてその時点での最新機能をサポートするように更新されていました。

SNACは、従来のクライアントライブラリと比較して、以下のような点で優れていました。

  • 新機能への対応: MARS, Query Notifications, Snapshot Isolation, UDT, XML, FILESTREAMなど、SQL Server 2005以降の主要な新機能をサポートしました。
  • パフォーマンス: 新しい機能への対応だけでなく、既存機能においてもパフォーマンスが改善されました。特に、大量データの挿入や取得、バッチ処理などにおいて効果が見られました。
  • セキュリティ: 接続の暗号化(SSL/TLS)や認証方式(Kerberosなど)に関するサポートが強化されました。
  • 開発の簡素化: ODBCとOLE DBの両方をサポートする単一のライブラリであるため、開発環境のセットアップや配布が比較的容易になりました。

しかし、前述のように、SNACは既にサポートが終了している技術です。SQL Server 2014以降のバージョンに対してはSNACは公式には対応しておらず、新しい機能のサポートも追加されていません。したがって、SNACはもはや現役のクライアントライブラリではなく、歴史的な役割を終えた技術と位置づけられます。

SNACのアーキテクチャ

SQL Server Native Clientは、クライアントアプリケーションとSQL Serverの間でデータ交換を行うための複雑なアーキテクチャを持っています。基本的な構造は、ODBCまたはOLE DBのインターフェース層、データ転送を行うためのプロトコル層、そして実際のネットワーク通信を担うトランスポート層から構成されます。

クライアントアプリケーションからSQL Serverへアクセスする際の、SNACを介した一般的なデータフローは以下のようになります。

  1. アプリケーション層: 開発者が記述したアプリケーションコードが、ODBC APIまたはOLE DB API(ADOなどの上位ライブラリを含む)を呼び出します。
  2. SNACインターフェース層: アプリケーションからのAPIコールは、SNACの内部で実装されたODBCドライバーまたはOLE DBプロバイダーによって受け取られます。この層は、標準的なODBC/OLE DBインターフェースをSQL Server固有の機能にマッピングします。
  3. SNACプロトコル層: インターフェース層からのリクエストは、TDS (Tabular Data Stream) プロトコルに変換されます。TDSは、SQL Serverがクライアントとの間でデータをやり取りするために使用するアプリケーション層プロトコルです。SQLステートメントの送信、結果セットの受信、エラー情報の伝達、認証情報の交換などがTDS上で行われます。
  4. SNACネットワークライブラリ: TDSパケットは、選択されたネットワークプロトコルを使用して送信可能な形式にラップされます。SNACは、以下のネットワークプロトコルをサポートします。
    • TCP/IP: 最も一般的なネットワークプロトコルです。インターネット経由またはローカルネットワーク経由でSQL Serverに接続する際に使用されます。ほとんどのシナリオで推奨されるプロトコルです。
    • 名前付きパイプ (Named Pipes): 同じマシン上またはLAN内のマシン間でプロセス間通信を行うためのプロトコルです。TCP/IPよりも設定が容易な場合がありますが、パフォーマンスはTCP/IPに劣る可能性があります。デフォルトで有効になっていることもありますが、TCP/IPが推奨されることが多いです。
    • Shared Memory: クライアントアプリケーションとSQL Serverが同じマシン上で動作している場合にのみ利用可能なプロトコルです。ネットワークスタックを介さないため、最も高速な接続方法です。ローカル接続の場合はデフォルトで使用されることがあります。
    • VIA (Virtual Interface Adapter): 高性能コンピューティング環境で、InfiniBandのようなVIA対応ネットワークアダプターを使用して高速な通信を行うためのプロトコルです。現在ではあまり一般的ではありません。
  5. OSネットワークスタック: 選択されたプロトコル(TCP/IPなど)に基づいて、OSのネットワークスタック(Winsockなど)が呼び出され、実際のネットワーク通信が行われます。
  6. SQL Server: SQL Serverのネットワークライブラリが着信パケットを受け取り、TDSプロトコルを解釈し、データベースエンジンで処理を行います。処理結果は逆の経路をたどってクライアントに返されます。

SNACは、この一連のプロセスにおいて、従来のドライバー/プロバイダーよりもTDSプロトコルの新しい機能をより深くサポートしていました。例えば、MARSは単一の接続上で複数の保留中のリクエストと結果セットを持つことを可能にするTDSプロトコルの拡張機能ですが、SNACはこの拡張機能をクライアント側で適切に処理できるように設計されていました。同様に、Query Notificationsやその他の新機能も、TDSプロトコルを介してSNACとSQL Serverの間で効率的に通信されるように実装されていました。

SNACの内部構造としては、sqlncliXX.dll (XXはバージョン番号、例: sqlncli11.dll for SNAC 11.0) という一つのダイナミックリンクライブラリの中に、ODBCドライバーマネージャーから呼び出されるODBCドライバー機能と、OLE DBコンシューマー(アプリケーション)から呼び出されるOLE DBプロバイダー機能の両方が実装されています。これにより、コードベースが共通化され、新しいSQL Server機能のサポートをODBCとOLE DBの両方に同時に提供することが容易になりました。

総じて、SNACのアーキテクチャは、SQL Serverの最新機能を効率的に利用するためのプロトコルサポートを強化しつつ、ODBCとOLE DBという異なるインターフェースを単一のライブラリで提供するという、当時のSQL Serverクライアント接続技術における先進的な試みでした。

SNACの特徴と利点

SQL Server Native Clientは、従来のSQL Server用クライアントライブラリと比較して、いくつかの重要な特徴と利点を持っていました。これらの特徴は、特にSQL Server 2005以降のバージョンで開発されるアプリケーションにとって魅力的でした。

1. SQL Server新機能への対応

SNACの最大の利点は、SQL Server 2005以降で導入された多くの革新的な機能をクライアント側から完全にサポートしたことです。主要な対応機能には以下のようなものがあります。

  • Multiple Active Result Sets (MARS): 単一の接続上で、複数のSQLステートメントを同時に実行し、それぞれの結果セットを同時に取得できる機能です。従来の環境では、一つのコマンドが結果セットを完全に読み取るまで、その接続上で別のコマンドを実行することはできませんでした。MARSは、特にADO.NETのようなマネージド環境において、複雑なデータアクセスパターンをシンプルに実装するのに役立ちました。
  • Query Notifications (クエリ通知): データベースのデータが変更された際に、クライアントアプリケーションに非同期で通知を送る機能です。これは、キャッシュの無効化やリアルタイムに近いデータ更新が必要なアプリケーションで非常に有用です。SNACは、この通知を受け取るためのクライアント側のメカニズムを提供しました。Service Brokerと連携して動作します。
  • Snapshot Isolation (スナップショット分離レベル): SQL Server 2005で導入された、行のバージョン管理に基づく新しいトランザクション分離レベルです。リーダーはライターをブロックせず、ライターはリーダーをブロックしないため、同時実行性が向上します。SNACは、アプリケーションがこの分離レベルを指定して接続し、トランザクションを実行することをサポートしました。
  • User-Defined Types (UDT): .NET Frameworkで定義されたカスタム型をSQL Serverの列として格納できる機能です。SNACは、これらのUDTデータをクライアントとサーバー間でやり取りするためのサポートを提供しました。
  • XMLデータ型: SQL ServerのネイティブXMLデータ型をサポートしました。SNACを使用することで、クライアントアプリケーションはXMLデータを効率的に格納、取得、操作することができました。
  • FILESTREAM: 大容量のバイナリデータをファイルシステム上に格納しつつ、トランザクション整合性をSQL Serverで管理する機能です。SNACは、FILESTREAMデータへのパスを取得したり、ストリームとしてアクセスしたりするための機能を提供しました。
  • 新しいデータ型: VARCHAR(MAX), NVARCHAR(MAX), VARBINARY(MAX), XML, UDT, DATE, TIME, DATETIME2, DATETIMEOFFSET など、SQL Server 2005および2008で追加された新しいデータ型を完全にサポートしました。

2. パフォーマンスの向上

SNACは、従来のクライアントライブラリに比べて、多くのデータアクセスシナリオでパフォーマンスが向上していました。特に以下のような点です。

  • 一括挿入 (Bulk Insert): 大量のデータを効率的にデータベースに挿入する機能です。SNACは、ODBCまたはOLE DBインターフェースを通じて、この一括挿入操作をより高速に実行するための最適化を提供しました。
  • 大規模な結果セットの取得: 大量の行や大きなデータを含む結果セットを取得する際のパフォーマンスが向上しました。
  • パラメータ処理: パラメータ付きクエリの処理効率が改善されました。

これらのパフォーマンス改善は、SNACが新しいTDSプロトコルの機能を活用し、より効率的なデータ転送メカニズムを実装していたことによります。

3. セキュリティ機能の強化

セキュリティ面でも、SNACは強化された機能を提供しました。

  • SSL/TLS暗号化: クライアントとサーバー間の通信をSSL/TLSで暗号化する機能が強化されました。これにより、ネットワーク上を流れるデータを盗聴されるリスクを低減できます。接続文字列オプションやODBCデータソース設定で容易に構成できました。
  • 認証方式: Windows認証(Kerberos認証を含む)やSQL Server認証に加え、証明書認証などの新しい認証方式への対応が強化されました。
  • サーバー証明書の検証: 信頼されていない証明書を使用した場合に警告を発したり、証明書を強制的に検証したりするオプションが提供され、中間者攻撃(Man-in-the-Middle attack)のリスクを低減するのに役立ちました。

4. 安定性と信頼性

SNACは、新しいコードベースで開発されたため、従来のライブラリが抱えていた一部のバグや制限が解消され、接続の安定性やエラーハンドリングが改善されました。特に、大規模なシステムや長時間稼働するアプリケーションにおいて、その安定性が評価されました。

5. 開発の効率化

ODBCとOLE DBの両方を単一のライブラリとして提供することで、開発者はSQL Serverへのアクセスに必要なコンポーネントとしてSNACだけを考慮すればよくなりました。インストールや配布も単一のmsiファイルで行えるため、アプリケーションのデプロイメントが簡素化されました。

これらの特徴と利点により、SQL Server 2005から2012にかけては、多くの新規および既存のアプリケーションがSQL Server Native Clientを採用しました。特に、最新のSQL Server機能を活用したい、あるいはパフォーマンスやセキュリティを重視する開発者にとって、SNACは魅力的な選択肢でした。

しかし、繰り返しになりますが、SNACは既にEOLを迎えています。これらの利点も、現在では後継であるMicrosoft ODBC Driver for SQL ServerやMicrosoft OLE DB Driver for SQL Server (MSOLEDBSQL) によって提供されており、さらに新しいSQL Serverの機能にも対応しています。

SNACのバージョンと対応状況

SQL Server Native Clientは、特定のSQL Serverバージョンに合わせてリリースされ、いくつかのバージョンが存在します。各バージョンは、対応するSQL Serverの機能セットやサポートされるオペレーティングシステムが異なります。

主要なSNACのバージョンは以下の通りです。

  1. SQL Server Native Client 9.0 (SQLNCLI.DLL):
    • リリース: SQL Server 2005と共にリリースされました。
    • 対応SQL Server: SQL Server 2005。限定的ながらSQL Server 2000への接続も可能でしたが、SQL Server 2005の新機能は利用できません。
    • 特徴: SQL Server 2005の新機能(MARS, Query Notifications, Snapshot Isolation, UDT, XML, FILESTREAMなど)に初めて対応したバージョンです。
  2. SQL Server Native Client 10.0 (SQLNCLI10.DLL):
    • リリース: SQL Server 2008と共にリリースされました。
    • 対応SQL Server: SQL Server 2008およびそれ以前のバージョン(SQL Server 2000, 2005)。
    • 特徴: SQL Server 2008で導入された新機能(DATE, TIME, DATETIME2, DATETIMEOFFSET, geography, geometry, hierarchyid データ型、Sparse Columns、拡張イベントなど)に対応しました。
  3. SQL Server Native Client 10.5 (SQLNCLI10.DLL):
    • リリース: SQL Server 2008 R2と共にリリースされました。
    • 対応SQL Server: SQL Server 2008 R2およびそれ以前のバージョン。
    • 特徴: SQL Server 2008 R2の新機能に対応しました。DLLファイル名は10.0と同じですが、バージョン番号は異なります。
  4. SQL Server Native Client 11.0 (SQLNCLI11.DLL):
    • リリース: SQL Server 2012と共にリリースされました。
    • 対応SQL Server: SQL Server 2012およびそれ以前のバージョン。
    • 特徴: SQL Server 2012で導入された新機能(Always On可用性グループのMulti-Subnet Failover、カラムストアインデックスなど)に対応しました。Windows Server 2012 R2 / Windows 8.1までを公式にサポート OS としているドキュメントが多いです(実際の動作環境はこれ以降のOSでも可能な場合もありますが、公式サポート範囲外です)。

これらのバージョンは、対応するSQL Serverのインストールメディアに含まれているか、Microsoftダウンロードセンターから単体でダウンロード可能でした(EOLのため、現在は入手困難または不可能になっています)。各SNACバージョンは、それ以前のSQL Serverバージョンにも接続できますが、新しいSQL Serverバージョンで導入された機能は、その機能をサポートするSNACバージョンを使用しないと利用できませんでした。例えば、SQL Server 2012の新機能であるMulti-Subnet Failoverを利用するには、SNAC 11.0以降が必要でした。

SNACの非推奨化とEOL (End-of-Life)

ここで最も重要な点は、SQL Server Native Clientは既に非推奨となり、サポートが終了しているということです。

  • 非推奨化: SQL Server Native Clientは、SQL Server 2012を最後に新しいバージョンがリリースされていません。これは、マイクロソフトがSQL Server 2014以降のバージョンにおいて、SNACを非推奨技術と位置づけたことを意味します。非推奨とは、将来のバージョンで削除される可能性がある、あるいは積極的な開発が停止されることを示します。
  • EOL (End-of-Life): SNACの各バージョンには、マイクロソフトの製品ライフサイクルポリシーに基づくサポート期限が設定されていました。たとえば、SQL Server 2012に付属するSNAC 11.0の延長サポートは2022年7月に終了しました。つまり、セキュリティアップデートやバグ修正が提供されなくなっています。

SNACが非推奨となった主な理由はいくつかあります。

  • 新しいSQL Server機能への対応の遅れ: SNACの開発が停止したため、SQL Server 2014以降で導入された新しい機能(例: Always Encrypted, Azure Active Directory認証, In-Memory OLTPの新しい機能など)には対応していません。
  • クロスプラットフォーム対応の欠如: SNACはWindowsプラットフォーム専用でした。しかし、近年のデータアクセス技術はクロスプラットフォーム化が進んでいます。
  • 開発リソースの集中: マイクロソフトは、後継となる新しいクライアントライブラリに開発リソースを集中させることを決定しました。

代替となるクライアントライブラリ

マイクロソフトは、SNACの代替として以下のクライアントライブラリを推奨しています。

  1. Microsoft ODBC Driver for SQL Server:
    • ODBCアプリケーションからの接続に推奨されます。
    • Windowsだけでなく、LinuxやmacOSなどのクロスプラットフォームに対応しています。
    • 最新のSQL Serverバージョン(SQL Server 2014, 2016, 2017, 2019, 2022)およびAzure SQL Database/Managed Instanceの新しい機能を積極的にサポートしています(Always Encrypted, Azure AD認証, Multi-Subnet Failoverなど)。
    • 定期的にアップデートされ、セキュリティ修正やパフォーマンス改善が含まれています。
  2. Microsoft OLE DB Driver for SQL Server (MSOLEDBSQL):
    • 既存のOLE DBまたはADOアプリケーションからの接続に推奨されます。
    • OLE DBインターフェースを維持しつつ、最新のSQL ServerバージョンおよびAzure SQL Database/Managed Instanceの新機能(Always Encrypted, Azure AD認証, Multi-Subnet Failoverなど)に対応しています。
    • OLE DBアプリケーションからの移行パスとして提供されており、SNACのOLE DBプロバイダーの後継と位置づけられます。
    • こちらも定期的にアップデートされています。

したがって、新規の開発ではこれらの新しいドライバーを使用し、既存のSNACを使用しているアプリケーションは、可能な限り速やかにこれらの代替ドライバーへの移行を検討する必要があります。EOL製品を使い続けることは、セキュリティリスクや互換性の問題、技術的な制約など、様々なリスクを伴います。

SNACの利用方法 (EOL前/移行期を想定)

SQL Server Native Clientは現在非推奨でEOLですが、既存のアプリケーションで利用されている場合や、過去のシステムを理解する必要がある場合に、その利用方法を知っておくことは役立ちます。ここでは、SNACを(EOL前の時点での一般的な)利用方法について解説します。新規の開発では推奨されないことに留意してください。

SNACを利用するためには、まずクライアントマシンにSNACをインストールする必要があります。インストール後、ODBCデータソースアドミニストレーターで設定を行うか、アプリケーションの接続文字列に直接指定して利用します。

1. SNACのインストール

SNACは、対応するSQL Serverのインストールメディアに含まれているか、またはMicrosoftダウンロードセンターから単体でダウンロードできるmsiファイルとして提供されていました。ファイル名は通常 sqlncli.msi または sqlncli_x64.msi のような形式でした。

インストール手順は標準的なWindowsインストーラーの手順に従います。msiファイルを実行し、ウィザードに従って進めます。特に難しい設定項目はありません。インストールが完了すると、システムに必要なDLLファイル(例: sqlncli11.dll)が配置され、ODBCドライバーやOLE DBプロバイダーとしてシステムに登録されます。

注意: 現在、公式のダウンロードリンクは削除されている可能性が高いです。EOL製品をインターネット上の非公式な場所から入手することは、セキュリティリスクを伴うため避けるべきです。どうしても必要な場合は、過去の正規のインストールメディア等を探す必要がありますが、推奨されません。

2. ODBCによる接続

SNACをODBCドライバーとして利用する場合、主に以下の二つの方法があります。

  • DSN (Data Source Name) を使用する: ODBCデータソースアドミニストレーターで接続設定を定義し、アプリケーションからはそのDSN名を指定して接続します。
  • 接続文字列を使用する (DSN-less connection): アプリケーションコード内で、必要な接続情報をすべて含む接続文字列を直接指定します。
2.1 ODBCデータソースアドミニストレーターでの設定
  1. Windowsの「ODBC データソース (32ビット/64ビット)」を開きます。
  2. 「システム DSN」タブを選択し、「追加」ボタンをクリックします。
  3. インストールされているドライバーの一覧から、利用したいSNACバージョン(例: SQL Server Native Client 11.0)を選択し、「完了」をクリックします。
  4. 「Microsoft SQL Server Native Client 11.0 に新規データソースを作成」ダイアログが開きます。
    • 名前: DSNの名前を指定します(例: MySNACConnection)。
    • 説明: オプションの説明を入力します。
    • どのSQL Serverに接続しますか?: 接続するSQL Serverのサーバー名またはIPアドレスを指定します。インスタンス名がある場合は ServerName\InstanceName の形式で指定します。
  5. 「次へ」をクリックし、認証方法を選択します(Windows認証またはSQL Server認証)。
  6. 必要に応じてデフォルトデータベース、言語、SETオプションなどを設定します。
  7. 「完了」をクリックし、最後に「データソースのテスト」をクリックして接続を確認します。

アプリケーションコードからは、指定したDSN名を指定して接続API(例: SQLConnectSQLDriverConnect)を呼び出します。

“`c++
// C/C++ (ODBC API)
SQLHANDLE hEnv, hDbc;
SQLAllocHandle(SQL_HANDLE_ENV, SQL_NULL_HANDLE, &hEnv);
SQLSetEnvAttr(hEnv, SQL_ATTR_ODBC_VERSION, (SQLPOINTER)SQL_OV_ODBC3, SQL_IS_INTEGER);
SQLAllocHandle(SQL_HANDLE_DBC, hEnv, &hDbc);

// DSN を使用して接続
SQLCHAR dsnName[] = “MySNACConnection”;
SQLConnect(hDbc, dsnName, SQL_NTS, NULL, 0, NULL, 0);

// エラーチェックや後続の処理
// …

// 接続解除とハンドルの解放
SQLDisconnect(hDbc);
SQLFreeHandle(SQL_HANDLE_DBC, hDbc);
SQLFreeHandle(SQL_HANDLE_ENV, hEnv);
“`

2.2 接続文字列による接続

DSNを使用しない場合、アプリケーションコード内で接続文字列を構築して接続します。SNAC ODBCドライバーの接続文字列は以下のようになります。

Driver={SQL Server Native Client 11.0};Server=myServerAddress;Database=myDataBase;Uid=myUsername;Pwd=myPassword;

またはWindows認証の場合:

Driver={SQL Server Native Client 11.0};Server=myServerAddress;Database=myDataBase;Trusted_Connection=yes;

アプリケーションコードからの利用例(C/C++ ODBC API):

“`c++
// C/C++ (ODBC API)
SQLHANDLE hEnv, hDbc;
SQLAllocHandle(SQL_HANDLE_ENV, SQL_NULL_HANDLE, &hEnv);
SQLSetEnvAttr(hEnv, SQL_ATTR_ODBC_VERSION, (SQLPOINTER)SQL_OV_ODBC3, SQL_IS_INTEGER);
SQLAllocHandle(SQL_HANDLE_DBC, hEnv, &hDbc);

// 接続文字列を使用して接続 (DSN-less)
SQLCHAR connectionString[] = “Driver={SQL Server Native Client 11.0};Server=myServerAddress;Database=myDataBase;Uid=myUsername;Pwd=myPassword;”;
SQLDriverConnect(hDbc, NULL, connectionString, SQL_NTS, NULL, 0, NULL, SQL_DRIVER_COMPLETE);

// エラーチェックや後続の処理
// …

// 接続解除とハンドルの解放
SQLDisconnect(hDbc);
SQLFreeHandle(SQL_HANDLE_DBC, hDbc);
SQLFreeHandle(SQL_HANDLE_ENV, hEnv);
“`

SQLDriverConnect 関数は、接続文字列を使用してより柔軟な接続確立が可能です。

ODBC経由でSNACの新機能を利用するには、接続文字列オプションやODBC APIの特定の関数や属性を設定する必要がありました。例えば、MARSを有効にするには接続文字列に MARS_Connection=Yes; を追加します。

3. OLE DBによる接続

SNACをOLE DBプロバイダーとして利用する場合も、接続文字列を指定して接続します。OLE DBアプリケーションや、OLE DBを内部で使用するADOアプリケーションから利用します。

3.1 接続文字列による接続 (OLE DB/ADO)

OLE DBまたはADOアプリケーションでの接続文字列は、使用するプロバイダー名を指定します。SNAC OLE DBプロバイダーのプロバイダー名は通常 SQLNCLI.1, SQLNCLI10.1, SQLNCLI11.1 のようになります。

Provider=SQLNCLI11;Server=myServerAddress;Database=myDataBase;Uid=myUsername;Pwd=myPassword;

またはWindows認証の場合:

Provider=SQLNCLI11;Server=myServerAddress;Database=myDataBase;Integrated Security=SSPI;

ADO (ActiveX Data Objects) からの利用例(Visual Basic/VBAまたはC#/VB.NET (COM Interop経由)):

“`vb
‘ Visual Basic/VBA (ADO)
Dim conn As New ADODB.Connection
conn.Open “Provider=SQLNCLI11;Server=myServerAddress;Database=myDataBase;Uid=myUsername;Pwd=myPassword;”

‘ コマンドの実行、レコードセットの取得など
‘ …

conn.Close
Set conn = Nothing
“`

C++ (ATL/OLE DBテンプレートまたはADO) からも同様に、この接続文字列を指定して接続オブジェクトを生成し、利用します。

OLE DB経由でSNACの新機能を利用する場合も、接続文字列オプションを使用することが一般的でした。例えば、MARSを有効にするには接続文字列に MARS Connection=True; を追加します(ODBCとはオプション名や値の指定方法が異なる場合があります)。

4. 開発時の注意点 (過去の視点)

SNACを利用してアプリケーションを開発する際には、いくつかの注意点がありました。

  • バージョン依存性: アプリケーションが特定のSNACバージョン(例: SNAC 11.0)で導入された新機能を利用している場合、そのSNACバージョンがクライアントマシンにインストールされている必要がありました。また、開発環境と実行環境でSNACのバージョンを一致させるのが望ましいとされていました。
  • 32ビット/64ビット: SNACには32ビット版と64ビット版がありました。アプリケーションのアーキテクチャ(32ビットか64ビットか)に合わせて適切なSNACバージョンをインストールする必要がありました。特にODBCの場合、32ビットアプリケーションは32ビットODBCドライバー、64ビットアプリケーションは64ビットODBCドライバーを使用する必要があり、ODBCデータソースアドミニストレーターも32ビット版と64ビット版を使い分ける必要がありました。
  • 配布: アプリケーションを配布する際には、依存するSNACのmsiインストーラーも同時に配布し、ユーザー環境にインストールしてもらう必要がありました。
  • SQL Serverバージョンとの互換性: SNACは新しいSQL Serverバージョンに対応するために開発されましたが、古いSQL Serverバージョン(SQL Server 2000など)との完全な互換性には限界がある場合もありました。公式ドキュメントでサポートマトリックスを確認することが重要でした。

現在これらの注意点は、EOL製品であるというリスクの観点からさらに深刻になります。EOL製品はセキュリティ脆弱性に対する修正が提供されないため、利用を続けることはセキュリティリスクを増大させます。また、新しいOSやSQL Serverバージョンとの互換性が保証されません。

SNACの新機能の詳細解説

SQL Server Native Clientが提供した最も重要な価値は、SQL Server 2005以降で導入された多くの新機能をクライアントアプリケーションから利用可能にした点です。ここでは、SNACがサポートした主要な新機能について、より詳細に解説します。

1. Multiple Active Result Sets (MARS)

概要:
MARSは、単一のデータベース接続上で複数の保留中のリクエストを持ち、それぞれの結果セットを同時にアクティブにできる機能です。従来のデータアクセスモデルでは、一つの接続上でSELECTステートメントを実行し、その結果セットを完全に読み取り終えるまで、別のSELECTやUPDATEなどのステートメントを同じ接続で実行することはできませんでした。特に、親レコードを取得し、その親レコードのIDを使って子レコードを取得するようなパターンで、同じ接続を使い回したい場合に不便でした。通常、この問題を回避するには、複数の接続を確立する必要があり、接続プーリングが適切に構成されていてもオーバーヘッドが発生しました。

SNACでのサポート:
SNACは、クライアント側でMARSを処理するためのロジックを実装することで、この機能を提供しました。接続文字列に特定のオプション (MARS_Connection=Yes; for ODBC, MARS Connection=True; for OLE DB) を指定することで有効化できます。

利用方法:
MARSが有効な接続では、一つのコマンド(例: SELECT * FROM ParentTable)を実行し、その結果セットを完全に取得する前に、別のコマンド(例: SELECT * FROM ChildTable WHERE ParentID = @parentID)を実行できます。これは特に、ADO.NETなどの高レベルなライブラリを使用する場合に透過的に利用されることが多かったです。開発者は、親レコードのループ内で子レコードを取得する際に、同じ SqlConnection オブジェクトを使用できるようになります。

利点:
* 開発の簡素化: 親子関係のデータを取得する際などに、複数の接続を管理する必要がなくなり、コードがシンプルになります。
* パフォーマンス: 多くの接続を確立・管理するオーバーヘッドを削減できます。ただし、MARSは同時に実行されるステートメントが少ないシナリオで最も効果的であり、多数の長時間実行クエリを同時に行うような場合には、個別の接続の方が適していることもあります。
* リソース効率: 接続数を減らすことで、クライアント側およびサーバー側のリソース消費を抑えることができます。

注意点:
MARSはすべてのシナリオに適しているわけではありません。長時間かかる操作(大きなトランザクションなど)を同時に多数実行する場合や、ロックの競合が発生しやすいシナリオでは、期待通りの効果が得られない場合や、むしろ問題が発生する可能性もありました。また、MARSは単一のトランザクション内で動作するわけではないため、同時実行されるコマンド間の原子性や一貫性については別途考慮が必要でした。

2. Query Notifications (クエリ通知)

概要:
クエリ通知は、特定のSELECTステートメントの結果セットが、後続のデータベース変更によって変更された可能性がある場合に、クライアントアプリケーションに通知を送信する機能です。これは、キャッシュされたデータが無効になったことを知りたい場合や、データベースの変更にリアルタイムに近い形で反応したいアプリケーションに非常に有用です。SQL ServerのService Broker機能と連携して動作します。

SNACでのサポート:
SNACは、SQL Serverからの通知メッセージを受信し、それをアプリケーションが処理できる形式で提供するクライアント側の基盤を提供しました。ODBC APIやOLE DBプロバイダーインターフェースに、通知要求を設定したり、通知イベントを処理したりするための関数や属性が追加されました。ADO.NETでは、SqlDependency クラスがこの機能をラップして、より簡単に利用できるようにしていました。

利用方法:
アプリケーションは、通知を受け取りたいSELECTステートメントを実行する際に、通知要求を設定します。SQL Serverはこのクエリの結果セットに影響を与えるようなデータ変更が発生すると、Service Brokerを介してSNACに通知を送信します。SNACは、登録されたコールバック関数を呼び出すか、イベントを発生させるなどしてアプリケーションに通知します。

利点:
* リアルタイム性: データベースの変更をポーリングする(定期的に問い合わせる)必要がなくなり、変更発生時にほぼリアルタイムで知ることができます。
* リソース効率: 不要なポーリングをなくすことで、クライアント側、サーバー側、およびネットワークのリソース消費を大幅に削減できます。
* キャッシュ管理: アプリケーションレベルのキャッシュを効果的に無効化し、常に最新のデータを表示するのに役立ちます。

注意点:
クエリ通知は、特定の形式のSELECTステートメントに対してのみ機能します(制限された関数、JOIN、GROUP BYなど)。通知は「データが変更された 可能性 がある」ことを知らせるものであり、具体的に何がどのように変更されたかを知るためには、アプリケーションが改めてデータを取得し直す必要があります。また、通知システムのセットアップ(Service Brokerの有効化など)がサーバー側で必要でした。

3. Snapshot Isolation (スナップショット分離レベル)

概要:
スナップショット分離レベルは、SQL Server 2005で導入された新しいトランザクション分離レベルです。従来のロックベースの分離レベル(READ COMMITTEDなど)とは異なり、行のバージョン管理を使用して、リーダーがライターをブロックせず、ライターがリーダーをブロックしないようにします。トランザクションがデータを読み取る際、そのトランザクション開始時点でのデータのスナップショット(バージョン)を参照するため、読み取り一貫性が向上し、「ダーティリード」や「ノンリピータブルリード」といった問題を回避しつつ、同時実行性を高めることができます。

SNACでのサポート:
SNACは、ODBCまたはOLE DB接続を確立する際に、スナップショット分離レベルを指定するための接続属性やプロパティを提供しました。これにより、アプリケーションは接続またはトランザクション単位でこの分離レベルを使用できます。

利用方法:
SQL Serverデータベースでスナップショット分離レベルが有効化されている(ALTER DATABASE SET ALLOW_SNAPSHOT_ISOLATION ON; および/または ALTER DATABASE SET READ_COMMITTED_SNAPSHOT ON;)ことを前提に、クライアントアプリケーションは接続やトランザクションの開始時に分離レベルを SNAPSHOT に設定します。

sql
-- SQL Server側の設定例
ALTER DATABASE MyDatabase SET ALLOW_SNAPSHOT_ISOLATION ON;
ALTER DATABASE MyDatabase SET READ_COMMITTED_SNAPSHOT ON; -- またはこれでREAD COMMITTEDの挙動をスナップショットベースに変更

クライアント側では、接続文字列オプション(例えば、ODBCでは TransactionIsolationLevel=Snapshot; のようなオプションが利用可能でした)や、トランザクションを開始する際のAPI呼び出しで分離レベルを指定します。

利点:
* 同時実行性の向上: ロック競合が減るため、特に読み取りが多いシナリオでアプリケーションのスループットが向上します。
* 読み取り一貫性: トランザクション開始時点のスナップショットを参照するため、トランザクション期間中に他のトランザクションによる変更の影響を受けず、一貫したデータを読み取ることができます。

注意点:
スナップショット分離レベルを使用するには、データベース側での設定が必要です。また、行のバージョンストアを維持するために tempdb に追加のディスク領域が必要になります。書き込み競合が発生した場合、トランザクションがデッドロックではなく「更新競合」エラーで失敗する可能性があります。アプリケーションは、このようなエラーを適切に処理する必要があります。

4. その他の機能サポート

SNACは、上記以外にも多くのSQL Server 2005/2008/2012で導入された機能をサポートしました。

  • UDT (User-Defined Types): .NET Frameworkで定義されたカスタム型をSQL Serverの列として格納した場合、SNACはこれらの値をクライアントアプリケーションとサーバー間で適切に変換し、やり取りする機能を提供しました。開発者は、クライアント側で.NETのオブジェクトとしてUDTデータを扱うことができました。
  • XMLデータ型: SQL ServerのネイティブXMLデータ型をサポートしました。SNACはXMLデータを文字列、バイト配列、またはストリームとして扱うためのインターフェースを提供し、クライアントアプリケーションがXMLデータを効率的に操作できるようにしました。
  • FILESTREAM: 大容量バイナリデータをSQL Serverの管理下でファイルシステムに格納するFILESTREAM機能に対応しました。SNACは、FILESTREAM列のパスを取得し、そのパスを使ってストリームアクセス(ファイルの読み書き)を行うための機能を提供しました。
  • 新しい日付/時刻型: SQL Server 2008で導入された DATE, TIME, DATETIME2, DATETIMEOFFSET 型を完全にサポートしました。従来の DATETIME 型よりも精度の高い日付/時刻情報を扱うことができるようになりました。
  • SQL Server 2012 Always On可用性グループの Multi-Subnet Failover: 複数のサブネットにまたがる可用性グループ構成において、フェイルオーバー時のアプリケーションの再接続時間を短縮する機能です。SNAC 11.0は、接続文字列オプション(MultiSubnetFailover=Yes;)を指定することで、この機能をクライアント側で利用できるようにしました。

これらの新機能サポートにより、SNACはSQL Server 2005から2012の期間において、最新のSQL Server機能を活用したい開発者にとって不可欠なクライアントライブラリとなりました。各機能の詳細は、当時のSNACに関するMicrosoft公式ドキュメントに豊富に記載されていました。

SNACの非推奨化とEOLについて

前述の通り、SQL Server Native Clientは現在、マイクロソフトによって非推奨とされており、サポートが終了しています(End-of-Life, EOL)。これは非常に重要な点であり、既存のSNACを使用しているシステムにおいては、その利用継続にリスクが伴うことを意味します。

なぜSNACは非推奨になったのか?

SNACが非推奨となり、後継ドライバーが登場した背景にはいくつかの理由があります。

  1. 新しいSQL Server機能への追随の困難: SNACはSQL Server 2012のリリースに合わせてSNAC 11.0が最後となり、それ以降新しいバージョンは開発されていません。SQL Serverは2014、2016、2017、2019、2022と新しいバージョンがリリースされ、Azure SQL DatabaseやAzure SQL Managed Instanceといったクラウドサービスも進化し続けています。これらの新しいバージョンやサービスで導入された機能(Always Encrypted、Secure Enclaves、Azure Active Directory認証、UTF-8サポートなど)にはSNACは対応していません。
  2. クロスプラットフォーム対応の必要性: SNACはWindows専用でした。しかし、近年はアプリケーション開発環境やデプロイメント環境が多様化し、LinuxやmacOSなどの非WindowsプラットフォームからSQL Serverへ接続するニーズが増大しています。SNACはこのようなニーズに対応できませんでした。
  3. 開発リソースの最適化: ODBCとOLE DBの両方をサポートする単一のライブラリとして開発されたSNACですが、マイクロソフトはデータアクセス技術全体の戦略を見直し、特定のインターフェース(ODBCやOLE DB)に特化した、より焦点を絞ったドライバーの開発にリソースを集中させる判断をしました。

これらの理由から、SNACの開発は停止され、代わりに新しい世代のドライバーであるMicrosoft ODBC Driver for SQL ServerとMicrosoft OLE DB Driver for SQL Server (MSOLEDBSQL) が開発、提供されることになりました。これらの新しいドライバーは、より頻繁に更新され、最新のSQL Server機能やクロスプラットフォーム環境に対応しています。

EOL (End-of-Life) によるリスク

SNACのサポート終了(EOL)は、その利用を継続する上で深刻なリスクをもたらします。

  1. セキュリティリスク: EOLを迎えたソフトウェアは、マイクロソフトからのセキュリティアップデートが提供されません。新たなセキュリティ脆弱性が発見された場合でも、それが修正されることはありません。SNACのような、アプリケーションが外部のデータベースサーバーと通信するためのコンポーネントにセキュリティ脆弱性が存在することは、システム全体を危険にさらすことになります。例えば、脆弱性を突かれて、データベースへの不正アクセスやデータ漏洩、あるいはクライアントマシンの乗っ取りにつながる可能性があります。
  2. バグ修正なし: EOL製品は、バグや不具合が発見されても修正されません。既存のバグによってアプリケーションの予期しない動作やエラーが発生したり、特定の条件下でクラッシュしたりする可能性があります。これらの問題は、アプリケーションの安定性や信頼性を著しく損ないます。
  3. 互換性の問題: 新しいバージョンのWindows OS、開発ツール、.NET Frameworkなどとの互換性が保証されません。OSのアップデートなどによって、それまで正常に動作していたSNACが突然機能しなくなる可能性があります。
  4. サポートなし: マイクロソフトによる技術サポートを受けることができません。SNACに関する問題が発生しても、ベンダーからの支援を得ることができないため、問題解決が非常に困難になります。
  5. 新しいSQL Server機能が利用できない: 前述のように、SQL Server 2014以降で導入された多くの便利な新機能(パフォーマンス、セキュリティ、可用性などに関するもの)を利用できません。これは、最新のデータベース環境のメリットを享受できないことを意味します。

これらのリスクを考慮すると、SNACを業務で使用するシステムで使い続けることは、非常に危険な行為と言えます。

推奨される代替クライアントライブラリ

SNACからの移行先として推奨されるのは、以下の二つのドライバーです。どちらを選択するかは、既存のアプリケーションがODBCを使用しているか、またはOLE DB/ADOを使用しているかによります。

Microsoft ODBC Driver for SQL Server
  • 特徴: ODBCベースのアプリケーション向けの最新ドライバーです。Windows、Linux、macOSで利用可能であり、クロスプラットフォーム開発に適しています。SQL Server 2012以降およびAzure SQL Database/Managed Instanceの新しい機能を積極的にサポートしています(Always Encrypted、Azure AD認証、UTF-8サポート、Always On Multi-Subnet Failoverなど)。パフォーマンスも継続的に改善されています。
  • 移行パス: 既存のODBCアプリケーションの場合、使用するドライバー名をSNACのものから「ODBC Driver 17 for SQL Server」や「ODBC Driver 18 for SQL Server」などに変更することで移行できる可能性があります。接続文字列オプションにも一部変更があるため、ドキュメントを確認する必要があります。
Microsoft OLE DB Driver for SQL Server (MSOLEDBSQL)
  • 特徴: 既存のOLE DBまたはADOアプリケーション向けの最新ドライバーです。OLE DBインターフェースを維持したまま、最新のSQL ServerバージョンおよびAzure SQL Database/Managed Instanceの新しい機能に対応しています。SNACのOLE DBプロバイダーの後継として位置づけられます。Windowsでのみ利用可能です。
  • 移行パス: 既存のOLE DBまたはADOアプリケーションの場合、接続文字列のプロバイダー名をSNACのもの(例: SQLNCLI11)から「MSOLEDBSQL」(プロバイダー名は MSOLEDBSQL)に変更することで移行できる可能性があります。OLE DBインターフェースの互換性が高いため、ADOなどからの利用においてはコードの変更が最小限で済むことが多いです。

どちらのドライバーも、マイクロソフトによって積極的に開発・保守されており、定期的にアップデートがリリースされています。セキュリティ修正や新しい機能のサポートが継続的に提供されるため、安心して利用できます。

既存のSNACアプリケーションへの対応

SQL Server Native Clientが既にEOLとなっている現状を踏まえ、既存のシステムでSNACを使用している場合は、速やかに代替ドライバーへの移行を検討する必要があります。EOL製品を使い続けることの危険性は高く、放置することは重大なリスク要因となります。

1. EOLのリスクを理解する

まず、システムを管理・運用する担当者は、SNACがサポートされていないこと、そしてそれに伴うセキュリティ、安定性、互換性に関するリスクを正しく理解する必要があります。これらのリスクを組織内の関係者(経営層、開発チーム、運用チームなど)と共有し、移行の必要性について合意形成を図ることが重要です。

2. 可能であれば代替ドライバーへの移行を検討する

最も推奨される対応策は、使用しているSNACを、対応する新しいドライバー(ODBC Driver for SQL ServerまたはMSOLEDBSQL)に置き換えることです。

  • 移行先の選定: アプリケーションがODBCを使用しているか、またはOLE DB/ADOを使用しているかを確認し、それぞれMicrosoft ODBC Driver for SQL ServerかMicrosoft OLE DB Driver for SQL Server (MSOLEDBSQL) を移行先として選択します。
  • ドライバーの入手とインストール: マイクロソフトのダウンロードセンターから最新のドライバーをダウンロードし、開発環境やテスト環境、そして最終的には本番環境にインストールします。
  • 接続情報の変更: アプリケーションコードまたはODBCデータソース設定において、使用するドライバー名やプロバイダー名を新しいものに変更します。接続文字列オプションも一部変更が必要な場合があるため、新しいドライバーのドキュメントを参照しながら調整します。
  • 互換性テスト: 移行先のドライバーに変更した後、徹底的なテストを実施します。
    • 基本的な接続: データベースへの接続が正常に行えるか。
    • クエリ実行: SELECT, INSERT, UPDATE, DELETEなどの基本的なSQLステートメントが正しく実行できるか。
    • パラメータ処理: パラメータ付きクエリが正しく機能するか。
    • トランザクション: トランザクションが意図通りに動作するか。
    • データ型: アプリケーションが扱う様々なデータ型(特に新しいデータ型やXML, UDTなど)が正しく扱えるか。
    • 新機能: もしSNAC経由でMARS, Query Notifications, FILESTREAMなどの機能を利用していた場合、それらが新しいドライバーで正常に機能するか、あるいは代替手段が必要かを検証します。
    • パフォーマンス: 移行によってパフォーマンスが低下しないか、あるいは向上するかを確認します。
    • エラーハンドリング: エラー発生時のアプリケーションの振る舞いが意図通りか確認します。
  • テスト環境の構築: 本番環境とできるだけ近い構成のテスト環境を用意し、そこで十分なテストを行うことが不可欠です。
  • 段階的なロールアウト: 移行による影響を最小限に抑えるため、可能であれば段階的に本番環境へ適用します。小規模なグループや非クリティカルなシステムから開始し、問題がないことを確認しながら対象範囲を広げていく方法が考えられます。

移行作業は、特に大規模で複雑なアプリケーションの場合、容易ではない可能性があります。しかし、EOL製品を使い続けるリスクと比較すれば、多くの場合、移行の労力をかける価値は十分にあります。

3. 移行が困難な場合の暫定的な対応策

アプリケーションの構造上の制約やリソース不足など、やむを得ない事情で直ちに代替ドライバーへの移行が困難な場合もあるかもしれません。その場合でも、リスクを最小限に抑えるための暫定的な対策を講じる必要があります。ただし、これはあくまで一時的な回避策であり、根本的な解決策ではないことを強く認識してください。

  • システムを隔離する: 可能であれば、SNACを使用しているシステムをネットワーク的に隔離し、外部からのアクセスを制限するなどして、セキュリティリスクを低減します。
  • 監視を強化する: SNACに関連するログやエラーを注意深く監視し、異常が発生した際に早期に検知できるようにします。
  • セキュリティ対策を強化する: SNACを使用しているサーバーやクライアントマシンに対して、OSやその他のソフトウェアのセキュリティパッチを常に最新の状態に保つ、ファイアウォール設定を厳格にする、侵入検知/防御システムを導入するなど、多層的なセキュリティ対策を強化します。ただし、SNAC自体の脆弱性に対する保護には限界があります。
  • リスク許容度を評価する: EOL製品を使い続けることによるリスクを組織として許容できるか、その影響範囲はどの程度かを評価し、リスク回避計画(例: 問題発生時の緊急対応計画)を策定します。

これらの暫定策は、EOL製品を使い続けることの根本的なリスク(特に未知のセキュリティ脆弱性)を排除するものではありません。したがって、これらの対策を講じつつも、並行して代替ドライバーへの移行計画を進めることが最も重要です。移行が技術的またはビジネス上のボトルネックになっている場合は、外部の専門家やSIerに相談することも検討すべきです。

まとめ

SQL Server Native Client (SNAC) は、SQL Server 2005から2012にかけて、当時の最新のSQL Server機能への対応、パフォーマンス向上、セキュリティ強化を実現するために開発された、ODBCドライバーおよびOLE DBプロバイダーを統合したクライアントライブラリでした。MARS、Query Notifications、Snapshot Isolation、新しいデータ型など、多くの革新的な機能へのクライアント側からのアクセスを提供し、その時代のSQL Serverアプリケーション開発において重要な役割を果たしました。

しかし、技術の進化とマイクロソフトの戦略変更により、SNACの開発は停止され、現在では非推奨となり、全てのバージョンがサポート期間を終了(EOL)しています。EOL製品の利用は、セキュリティリスク、安定性の問題、互換性の懸念など、多くの危険を伴います。

そのため、新規のアプリケーション開発でSNACを利用することは絶対に推奨されません。既存のSNACを使用しているアプリケーションについても、速やかにマイクロソフトが推奨する代替ドライバーである「Microsoft ODBC Driver for SQL Server」(ODBCアプリケーション向け)または「Microsoft OLE DB Driver for SQL Server (MSOLEDBSQL)」(OLE DB/ADOアプリケーション向け)への移行を強く推奨します。これらの新しいドライバーは、最新のSQL Server機能に対応し、継続的に開発・保守されているため、安全かつ安定して利用できます。

既存のSNACアプリケーションの移行は、互換性の確認やテストが必要であり、容易ではない場合もありますが、EOLリスクを回避し、将来にわたって安全で信頼性の高いシステムを維持するためには不可欠な取り組みです。この記事が、SQL Server Native Clientの理解を深め、適切な移行計画を検討する一助となれば幸いです。

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