はい、承知いたしました。
初心者の方にも分かりやすく、バックブーストコンバーターの原理と応用について、約5000字の詳細な記事を作成します。
初心者でも理解できる!バックブーストコンバーターの原理と応用
はじめに:なぜ電圧を変える必要があるの?
皆さんが普段使っているスマートフォンやパソコン、家電製品など、私たちの身の回りにはたくさんの電子機器があります。これらの機器は、それぞれ決まった電圧で動いています。例えば、USBで充電する機器は5V、パソコンのCPUはもっと低い電圧、モーターはもっと高い電圧が必要だったりします。
しかし、電源となる電圧はいつも一定とは限りません。コンセントからは家庭用交流100V(日本では)、バッテリーからは徐々に電圧が下がっていく直流電圧、車のバッテリーは12Vなど、さまざまな電圧があります。
入力される電源の電圧が、機器が必要とする電圧と違う場合、どうすれば良いでしょうか?
ここで登場するのが「DC-DCコンバーター」です。DC-DCコンバーターは、直流(DC)電圧を別の直流電圧に変換する回路です。これにより、異なる電圧で動作する機器に、必要な電圧を供給することができるようになります。
DC-DCコンバーターにはいくつかの種類があります。代表的なものに、電圧を下げる「降圧コンバーター(バックコンバーター)」と、電圧を上げる「昇圧コンバーター(ブーストコンバーター)」があります。
そして今回解説するのは、これらの機能に加えて、さらに面白い性質を持つコンバーター、「バックブーストコンバーター」です。バックブーストコンバーターは、入力電圧よりも高い電圧にも、低い電圧にも変換できます。さらに、出力電圧の極性が入力電圧と逆になるという、ユニークな特徴を持っています。
この記事では、初心者の方でもバックブーストコンバーターの仕組みを理解できるよう、基礎から丁寧に解説していきます。その原理を知ることで、電子回路への理解が深まるはずです。
バックブーストコンバーターとは? 基本的な特徴
バックブーストコンバーター(英語では Buck-Boost Converter)は、その名の通り、降圧(Buck)と昇圧(Boost)の両方の機能を持つ非絶縁型DC-DCコンバーターです。つまり、入力されたDC電圧に対して、より高い電圧にも、より低い電圧にも変換することができます。
この「降圧も昇圧もできる」という点は、一見とても便利に思えます。入力電圧が変動する場合(例えば、バッテリーの電圧が減っていくとき)でも、機器に必要な一定の電圧を出力し続けられるからです。
しかし、バックブーストコンバーターには大きな特徴がもう一つあります。それは、出力電圧の極性が入力電圧と逆になるということです。例えば、入力がプラスの5Vであれば、出力はマイナスの10Vやマイナスの3Vといった形になります。
この極性反転という特徴があるため、一般的な用途でバックブーストコンバーターが使われることは、降圧や昇圧専用のコンバーターに比べて少ないかもしれません。しかし、負の電圧が必要な回路(例えば、一部のオーディオ回路やアナログ回路でマイナス電源が必要な場合)など、特定のアプリケーションでは非常に役立ちます。
さて、このバックブーストコンバーターは、一体どのような仕組みで電圧を変換し、なぜ極性が反転するのでしょうか? その秘密を探るために、まずは基本的な構成要素と動作原理を見ていきましょう。
バックブーストコンバーターを構成する部品
バックブーストコンバーターは、主に以下の4つの部品で構成されます。これらは、他のスイッチングコンバーターでもよく使われる基本的な部品です。
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スイッチング素子 (SW – Switch):
- 電気のオン・オフを高速に切り替える部品です。通常、MOSFET(モスフェット)やIGBT(アイジービーティー)といった半導体スイッチが使われます。マイコンなどから送られてくる信号(PWM信号)によって、高速にオン・オフを繰り返します。このオン・オフのタイミングが、電圧変換の鍵となります。
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インダクター (L – Inductor):
- コイルとも呼ばれます。電流が流れると磁気のエネルギーとしてエネルギーを蓄え、電流を止めようとすると蓄えたエネルギーを放出しようとする性質(自己誘導作用)があります。この「エネルギーを蓄える・放出する」という働きが、電圧変換に不可欠です。例えるなら、電気を一時的に貯めておける「電気のタンク」のようなものです。
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ダイオード (D – Diode):
- 電流を一方向にしか流さない部品です。電気の「逆流防止弁」のような働きをします。回路の中で電流の流れる方向を制御するために使われます。
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コンデンサー (C – Capacitor):
- 電気のエネルギーを電荷として蓄える部品です。電圧が急に変動するのを抑え、出力を安定させる役割があります。例えるなら、出力電圧を滑らかにする「貯水池」のようなものです。
これらの部品が、図のような配置で接続されています。(注:記事では図を直接表示できませんが、一般的なバックブーストコンバーターの回路図は、入力側にスイッチ、スイッチとグランド(GND)の間にインダクター、インダクターの反対側にダイオードのアノード、ダイオードのカソードが出力コンデンサーと負荷、そしてグランドに接続される形になります。インダクターは入力側から見るとスイッチの後に、出力側から見るとダイオードの前に配置されるのが特徴です。)
バックブーストコンバーターの動作原理:エネルギーの流れを追う
バックブーストコンバーターの動作は、スイッチング素子(SW)がオン・オフを繰り返すことで生まれる、インダクターのエネルギーの蓄積と放出を利用しています。ここでは、最も一般的な「連続モード(CCM: Continuous Conduction Mode)」という動作モードを基に説明します。連続モードでは、インダクターに流れる電流がゼロにならず、常に流れ続けています。
スイッチのオン・オフ周期をスイッチング周期(T)とし、スイッチがオンになっている時間の割合をデューティー比(D)とします。スイッチがオンになっている時間は D × T、オフになっている時間は (1-D) × T となります。
動作は、スイッチがオンの期間とオフの期間の2つのフェーズに分けて考えます。
フェーズ1:スイッチがオンの期間 (0 から D×T)
- スイッチ (SW) がオンになる: 入力電圧 (Vin) から電流が流れ始めます。
- 電流の経路: 入力 Vin → スイッチ SW → インダクター L → グランド GND。
- インダクターの働き: このとき、インダクター L には入力電圧 Vin がかかります。インダクターには電流を増やそうとする性質があるため、インダクターを流れる電流 (IL) は時間と共に直線的に増加します。この電流の増加によって、インダクターは磁気のエネルギーを蓄えていきます。
- ダイオードとコンデンサー: この間、スイッチがオンになっているため、ダイオード D は逆向きに電圧がかかりオフの状態です。出力側のコンデンサー C は、前にインダクターから受け取ったエネルギーを使って、負荷に必要な電流を供給し、出力電圧 (Vout) を維持しようとします。
- エネルギーの流れ: 入力電圧のエネルギーが、インダクターに蓄えられる期間です。負荷にはコンデンサーに蓄えられたエネルギーが供給されます。
フェーズ2:スイッチがオフの期間 (D×T から T)
- スイッチ (SW) がオフになる: 電流の入力からの経路が遮断されます。
- インダクターの働き: インダクター L は、電流を流し続けようとする性質(蓄えたエネルギーを放出しようとする性質)があります。スイッチがオフになったことで、インダクターに蓄えられたエネルギーが放出されます。
- 電流の経路: インダクター L → ダイオード D → 出力コンデンサー C & 負荷 → グランド GND → インダクター L へ戻る。
- ここで重要なのは、電流がダイオードD、コンデンサーC、負荷を通過して、グラウンドを経てインダクターLの元の端子(スイッチに繋がっていた側)に戻るという経路をとることです。
- フェーズ1でインダクターの左側が高電位、右側が低電位(GND)となるようにエネルギーを蓄えましたが、エネルギーを放出する際には、電流の向きを維持しようとするため、左側が低電位、右側が高電位になろうとします。これにより、インダクターの両端の電圧の極性が反転します。
- ダイオードの働き: インダクターの左側から放出される電流は、ダイオードDを通って出力側へ流れます。ダイオードは電流を一方向にしか流さないので、この放出された電流は出力側(コンデンサーと負荷)に確実に流れます。
- コンデンサーと負荷: インダクターから放出されたエネルギーは、ダイオードを通って出力コンデンサー C に蓄えられると共に、負荷に必要な電流として供給されます。この期間、コンデンサーはインダクターからエネルギーを受け取り、出力電圧を維持・補強します。
- エネルギーの流れ: インダクターに蓄えられたエネルギーが、ダイオードを通して出力側(コンデンサーと負荷)へ伝達される期間です。
この2つのフェーズが高速に繰り返されることで、入力電圧とは異なる、かつ極性が反転した出力電圧が得られるのです。
なぜ極性が反転するのか?
極性反転の理由は、フェーズ2(スイッチオフ)のときのインダクターからのエネルギー放出経路にあります。
フェーズ1(スイッチオン)では、インダクターは入力電圧 Vin によって電流を増やします。このとき、インダクターのVin側(スイッチ側)がプラス、GND側がマイナスになるようにエネルギーを蓄えます。
フェーズ2(スイッチオフ)になると、インダクターはこのエネルギーを放出します。インダクターは電流を流し続けようとするため、電流はフェーズ1と同じ向き(インダクターのVin側だった端子からGND側だった端子へ)に流れ続けようとします。しかし、スイッチがオフになっているため、入力側へは戻れません。
そこで、電流はダイオード D を通って、出力側のコンデンサー C と負荷 R に流れます。このとき、電流はインダクターのGND側だった端子から出て、出力側のコンデンサー・負荷を通って、グラウンドを経由し、インダクターのVin側だった端子に戻ってきます。
つまり、電流は「インダクターの端子A → インダクター → 端子B → ダイオード → 出力 → GND → 端子A」というループを流れます。
ここで、端子Aが入力Vinに繋がっていた側、端子BがGNDに繋がっていた側です。出力電圧は、端子BからGNDへの電圧として取り出されます。
フェーズ1で端子Aがプラス(Vin)、端子Bがマイナス(GND)だったのに対し、フェーズ2で電流が端子Bから出てGNDへ向かうということは、端子Bの電位がGNDよりも高くなっていることを意味します。
しかし、出力電圧は「端子B」と「GND」の間の電圧ではなく、「出力コンデンサーのプラス側」と「出力コンデンサーのマイナス側(=GND)」の間の電圧として定義されます。インダクターからの電流は、ダイオードを通ってコンデンサーの「GNDではない側」に流れ込み、GNDへ戻ります。
回路図をよく見ると、出力電圧 Vout は、出力コンデンサー C にかかっている電圧であり、そのプラス側端子はダイオードのカソード、マイナス側端子はGNDに繋がっています。
フェーズ2でインダクター L のエネルギーが放出されるとき、電流はインダクターの片方の端子(スイッチに繋がっていた側)から入り、もう一方の端子(ダイオードに繋がっている側)から出て、ダイオード D を通って出力側へ向かいます。このとき、インダクターの自己誘導作用により、電流が流出しようとするダイオード側の端子の電位が上がります。この上がった電位が、ダイオードを通って出力コンデンサーのプラス側端子に現れます。
一方、出力コンデンサーのマイナス側端子は常にGNDに接続されています。
インダクターのエネルギー放出経路は、インダクターのスイッチ側 → インダクター → ダイオード側 → ダイオード → 出力コンデンサーのプラス側 → 負荷 → 出力コンデンサーのマイナス側 (GND) → インダクターのスイッチ側へ戻る、というループです。
ここで、出力電圧 Vout は、出力コンデンサーのプラス側端子とマイナス側端子(GND)の間の電圧として取り出されます。この経路を見ると、インダクターから放出されるエネルギーが、ダイオードを介してコンデンサーに流れ込む向きが、入力電圧がコンデンサーに流れ込む向きとは逆になっていることがわかります。
より直感的に理解するには、インダクターは電流を流し続けようとするため、スイッチがオフになった瞬間、Vinに繋がっていた側の電位を強制的にVinよりも下げようとします。そして、GNDに繋がっていた側から、ダイオードを通して電流を「押し出します」。この「押し出す」方向が、GNDに対してプラス方向になります。しかし、回路図上、出力電圧はコンデンサーにかかる電圧であり、その基準(マイナス側)がGNDになっています。インダクターからダイオードを通って出力へ流れる電流は、コンデンサーのプラス側端子に電荷を蓄え、GNDに戻ります。
ここで最も簡単な説明は、「入力電圧でインダクターにエネルギーを溜め込むときと、インダクターから出力へエネルギーを放出するときの電流の向きが、インダクターと出力コンデンサーの関係において逆になるため、出力電圧の極性が反転する」ということです。
具体的には、インダクターにかかる電圧の平均値が定常状態ではゼロになるという性質(電圧-秒平衡:Voltage-Second Balance)から、以下の関係式が導かれます。
(入力電圧) × (スイッチオン時間) + (インダクターにかかる電圧) × (スイッチオフ時間) = 0
スイッチオンのとき、インダクターには入力電圧 Vin がかかります。時間は D×T です。
スイッチオフのとき、インダクターにかかる電圧を V_L_OFF とします。時間は (1-D)×T です。
定常状態では、Vin × D × T + V_L_OFF × (1-D) × T = 0 となります。
スイッチオフのとき、インダクターのエネルギーはダイオード、コンデンサー、負荷を通して放出されます。このとき、インダクターの左側(スイッチ側)の電位はグラウンドGNDよりも低くなり、インダクターの右側(ダイオード側)の電位はグラウンドGNDよりも高くなります。インダクターの右側(ダイオード側)からダイオードを通して出力コンデンサーのプラス側へ電流が流れるため、出力電圧 Vout はコンデンサーのプラス側とGNDの間の電圧であり、これはインダクターの右側の電位からグラウンドGNDの電位を引いたものに等しくなります(実際にはダイオードの順方向電圧降下がありますが、理想的な部品として考えます)。つまり、スイッチオフ期間のインダクターにかかる電圧 V_L_OFF は、(0V – (-Vout)) = +Vout と考えがちですが、これは出力コンデンサーのプラス側を基準にしたインダクターの左側の電圧、つまり、インダクタンスLの右側から左側を見た電圧がVoutになっているためです。
より正確には、スイッチオフ時、インダクタンスのスイッチ側はグランドに接続されようとし、ダイオード側は出力コンデンサーを通して出力電圧Voutのマイナス側(GND)に接続されようとします。この時、インダクターにかかる電圧は、左側の電位から右側の電位を引いたものになります。左側はスイッチを介してVinには繋がっておらず、右側はダイオードを介して出力コンデンサーに繋がっています。電流はインダクターの左から右へ流出し、ダイオードを通って出力へ向かうため、インダクターの左側電位は右側電位よりも低くなります。
インダクターの左側(スイッチ側)は、スイッチオフのためどこにも繋がっていません。インダクターの右側(ダイオード側)は、ダイオード、出力コンデンサーを通ってGNDに繋がっています。インダクターからの電流は、インダクターの右側から出て、ダイオードを通って出力コンデンサーに流れ込み、GNDに戻ります。したがって、インダクターの右側電位はGNDに対して+Voutとなります。インダクターにかかる電圧は、左側電位 – 右側電位 です。インダクターの左側はダイオードと出力コンデンサーを通して-VoutでGNDに戻ってくる経路を流れます。つまり、インダクターの左側はGNDから見て-Voutの電位になります。インダクターにかかる電圧 V_L_OFF は、(-Vout) – (GND) = -Vout となります。(回路図上の向きによる符号定義に注意が必要ですが、エネルギーの流れから考えれば、インダクターが蓄えたエネルギーを放出する際に発生する電圧は、蓄積時とは逆極性になります)。
電圧-秒平衡の式にこれを代入すると:
Vin × D × T + (-Vout) × (1-D) × T = 0
Vin × D = Vout × (1-D)
Vout / Vin = D / (1-D)
…あれ? 極性反転が式のどこにも出てきていない?
これは、多くの教科書や解説で、出力電圧 Vout を「絶対値」として扱っているか、あるいは回路図上の「出力電圧」として定義した際に、すでに極性反転を考慮した向きで矢印が書かれているためです。
正確には、出力コンデンサーにかかる電圧は、入力電圧Vinに対して常に逆向きになります。上記の電圧-秒平衡の式は、インダクターにかかる電圧の大きさと時間を扱ったものであり、極性は別途考慮する必要があります。
出力電圧の大きさ Vout の絶対値は、|Vout| = Vin × (D / (1-D)) となります。
そして、その極性は入力に対して反転します。Vout = -Vin × (D / (1-D)) と書くのがより正確です。
この式を見てみましょう。デューティー比 D は0から1の間です。
* D = 0.5 のとき:Vout = -Vin × (0.5 / 0.5) = -Vin。出力電圧の大きさは入力と同じです。
* D < 0.5 のとき:例えば D = 0.25 なら Vout = -Vin × (0.25 / 0.75) = -Vin / 3。出力電圧の大きさは入力より小さくなります(降圧)。
* D > 0.5 のとき:例えば D = 0.75 なら Vout = -Vin × (0.75 / 0.25) = -Vin × 3。出力電圧の大きさは入力より大きくなります(昇圧)。
このように、デューティー比Dを制御することで、出力電圧の大きさを入力電圧よりも高くしたり低くしたりできることが分かります。そして、その極性は常に入力と逆になります。
不連続モード (DCM) の動作原理
負荷が軽かったり、スイッチング周波数が低かったりすると、スイッチオフ期間が終わる前にインダクター電流がゼロになってしまうことがあります。この状態を「不連続モード (DCM: Discontinuous Conduction Mode)」と呼びます。
DCMでは、スイッチオン期間(インダクターにエネルギー蓄積)、スイッチオフ期間(インダクターからエネルギー放出)、そしてインダクター電流がゼロの期間という3つのフェーズがあります。
- フェーズ1:スイッチオン (0 から D×T):CCMと同じ。インダクター電流が増加しエネルギーを蓄積。
- フェーズ2:スイッチオフ (D×T から D1×T):CCMと同じくインダクターがエネルギーを放出。電流は減少。
- フェーズ3:インダクター電流ゼロ (D1×T から T):インダクター電流がゼロになり、インダクターは電圧源ではなくなります。ダイオードもオフになります。この期間、出力コンデンサーが単独で負荷に電流を供給します。
DCMでは、インダクターの電圧-秒平衡は成り立ちますが、電流がゼロになる期間があるため、電圧変換比の式はCCMとは異なり、負荷の大きさにも依存するようになります。DCMでは出力電圧リップルが大きくなる傾向があり、またコンバーターの効率も低下することが多いです。そのため、多くの設計では負荷変動があってもCCMで動作するように設計されますが、低負荷時の動作を考慮してDCMの解析も重要になります。
各部品の役割と選択のポイント(初心者向けにシンプルに)
- スイッチ (SW): 高速にオン・オフする役割。流れる電流と耐圧が重要。バックブーストコンバーターのスイッチには、入力電圧と出力電圧の合計に近い高い電圧がかかる可能性があるため、耐圧の選定が重要です。
- インダクター (L): エネルギーを蓄え、電圧変換を行う要。インダクタンスの値が小さいと電流リップルが大きくなり、部品に高い電流ピークが流れたり、出力リップルが増えたりします。大きすぎると応答が遅くなったり、部品が大きくなったりします。流れるピーク電流に耐えうるものを選びます(飽和しないように)。
- ダイオード (D): インダクターから出力への電流の通り道を作る。逆方向に高い電圧がかかるので、耐圧が重要。高速なスイッチングに対応できる「ファストリカバリーダイオード」や「ショットキーバリアダイオード」が使われます。
- コンデンサー (C): 出力電圧を安定させる。静電容量が大きいほど出力電圧リップルが小さくなりますが、部品が大きくなります。必要なリップル電圧に応じて選びます。ESR(等価直列抵抗)が低いものが望ましいです。入力側にもリップル電流が大きいため、入力コンデンサーが必要になることが多いです。
出力電圧の制御方法:PWM制御
バックブーストコンバーターの出力電圧を目標値に一定に保つには、スイッチング素子のオン時間を調整する必要があります。これがPWM (Pulse Width Modulation) 制御です。
PWM制御では、スイッチング周期(T)は一定に保ち、その中でスイッチがオンになっている時間(D×T)の割合であるデューティー比(D)を変化させます。先ほどの式 Vout = -Vin × (D / (1-D)) を見ると、Dの値を変えれば出力電圧の大きさが変わることが分かります。
実際の制御回路では、
1. 出力電圧を測定します。
2. 測定した出力電圧と、目標とする基準電圧を比較します。
3. その差(誤差)を計算し、誤差が大きいほどデューティー比Dを大きくしたり小さくしたりする制御信号を作ります(これは「フィードバック制御」と呼ばれます)。
4. この制御信号を使って、PWM波形を生成し、スイッチング素子を駆動します。
これにより、入力電圧が変動したり、負荷が変わったりしても、出力電圧をほぼ一定に保つことができるのです。
バックブーストコンバーターのメリットとデメリット
バックブーストコンバーターには、他のコンバーターにはない特徴からくるメリットとデメリットがあります。
メリット:
- 降圧・昇圧が可能: 一つの回路で、入力電圧より高い電圧も低い電圧も作り出せます。入力電圧が広範囲に変動する場合(例:バッテリー電源)に、出力電圧を安定させたい用途に向いています。
- 比較的シンプルな回路構成: BuckコンバーターやBoostコンバーターに部品を一つ追加するだけで構成できます。(ただし、後述の非反転型は部品が多くなります)。
デメリット:
- 出力電圧の極性が反転する: これが最大のデメリットです。多くの電子機器では、入力と同じ極性の電圧が必要なため、そのままでは使えません。負の電源が必要な場合に限定されるか、あるいは別途極性反転を元に戻す回路が必要になります。
- スイッチング素子にかかる電圧が高い: スイッチオフ時、スイッチには入力電圧と出力電圧の絶対値を合わせた高い電圧がかかります。これにより、耐圧の高いスイッチング素子が必要になり、部品コストが上がったり、スイッチング損失が増えやすくなります。
- 入出力のリプル電流が大きい: バックコンバーターは入力、ブーストコンバーターは出力の電流リプルが小さいという特徴がありますが、バックブーストコンバーターは入出力の両方の電流が断続的になり、インダクター電流のリップルがそのまま入出力に現れやすいです。このため、入出力両方に大きなコンデンサーが必要になる傾向があります。
- 効率が比較的低い: 高い電圧ストレスや大きなリップル電流により、スイッチング損失や導通損失が大きくなりやすく、同じ条件下ではBuckやBoostコンバーターよりも効率が低くなる傾向があります。
- スイッチの駆動が複雑な場合がある: スイッチング素子の一方の端子(通常はドレインやコレクタ)がグラウンドに固定されていないため、スイッチをオン・オフするためのゲート駆動回路が複雑になる場合があります。
非反転型バックブーストコンバーター(SEPIC/ZETA)
バックブーストコンバーターの最大のデメリットである「極性反転」を解消するために考案されたのが、「非反転型バックブーストコンバーター」です。代表的なものに SEPIC (Single-Ended Primary-Inductor Converter) や ZETA (Zeta Converter) があります。
これらの回路は、インダクターとコンデンサーを追加することで、極性反転なく降圧・昇圧の両方を実現します。
- SEPICコンバーター: バックブーストコンバーターにインダクターとコンデンサーを一つずつ追加したような構成です。入力電圧と同じ極性の出力が得られます。入力と出力が直流的に絶縁されていない(共通のグラウンドがある)「非絶縁型」です。入力電流が比較的連続的であるというメリットもあります。
- ZETAコンバーター: SEPICの双対(そうつい)回路のような構成で、やはり極性反転なく降圧・昇圧が可能です。出力電流が比較的連続的であるというメリットがあります。
これらの非反転型コンバーターは、標準的な(反転型)バックブーストコンバーターよりも部品点数が増え、回路が複雑になりますが、多くのアプリケーションで便利な「極性反転しない」という特徴を持っています。そのため、降圧・昇圧両方の機能が必要で、かつ極性反転が許容できない場合には、これらのトポロジーが選択されることがあります。
バックブーストコンバーターの応用例
極性反転という特徴があるため、標準的なバックブーストコンバーターの応用分野は限られますが、以下のようなケースで利用されます。
- 負電圧の生成: 正の入力電圧から、負の出力電圧が必要な回路(例:オペアンプの負側電源、特定のセンサー回路など)に電力を供給する場合に直接利用できます。
- バッテリー駆動機器: バッテリーの電圧は放電と共に低下します。バックブーストコンバーターを使えば、バッテリーが満充電で高電圧のときには降圧モードで、電圧が低下してきたときには昇圧モードで、機器に必要な一定の(ただし負の極性の)電圧を供給し続けることができます。ただし、多くの場合、このような用途にはSEPICやZETAコンバーターが使われることが多いです。
- 可変電圧入力からの電源: 太陽光発電のように、入力電圧が大きく変動する場合でも、負の定電圧や可変電圧を作り出す用途。
- 一部の自動車用電源: 車のバッテリー電圧(約12V)は、エンジンの始動時や他のシステムの動作により変動します。特定のシステムに、変動する入力電圧から一定の負電圧を供給する必要がある場合に検討されることがあります。
他のコンバーターとの比較
DC-DCコンバーターには、バック、ブースト、バックブースト以外にも様々な種類があります。ここでは、代表的な非絶縁型コンバーターと比較してみましょう。
- バックコンバーター (降圧型): 入力電圧より低い電圧を出力。極性は入力と同じ。回路がシンプルで効率が良い。デメリット: 昇圧はできない。
- ブーストコンバーター (昇圧型): 入力電圧より高い電圧を出力。極性は入力と同じ。回路がシンプルで効率が良い。デメリット: 降圧はできない。
- バックブーストコンバーター (反転型): 入力電圧より高くも低くもできる。極性が反転する。 入出力両方のリップルが大きい。効率が低い傾向。
- SEPIC/ZETAコンバーター (非反転型バックブースト): 入力電圧より高くも低くもできる。極性は入力と同じ。 部品点数が多く、回路がやや複雑。
このように、バックブーストコンバーター(特に反転型)は、そのユニークな「極性反転」という特徴により、特定のニッチな用途に向いていると言えます。汎用的に降圧・昇圧が必要な場合は、極性反転しないSEPICやZETAが選ばれることが増えています。
まとめ
この記事では、バックブーストコンバーターの原理を初心者向けに解説しました。
- バックブーストコンバーターは、入力電圧より高い電圧にも低い電圧にも変換できるDC-DCコンバーターです。
- 主な構成要素は、スイッチ、インダクター、ダイオード、コンデンサーです。
- スイッチの高速なオン・オフにより、インダクターにエネルギーを蓄積し、それを放出することで電圧変換を行います。
- 最も大きな特徴は、出力電圧の極性が入力電圧と逆になることです。これは、インダクターから出力へエネルギーが伝達される経路と、インダクターの電圧極性の反転によって起こります。
- 出力電圧の大きさは、スイッチのオン・オフ時間の割合(デューティー比D)によって制御され、|Vout| = Vin × (D / (1-D)) の関係があります。
- 不連続モード(DCM)では、インダクター電流がゼロになる期間があり、電圧変換比が負荷にも依存します。
- 極性反転しないバックブーストとして、SEPICやZETAコンバーターがあります。
- 応用例としては、負電圧の生成や、バッテリー駆動機器での電圧安定化(SEPIC/ZETAが多い)などがあります。
バックブーストコンバーターは、その極性反転という性質から、他のコンバーターに比べて特定の用途に特化しています。しかし、その基本的な動作原理(インダクターを使ったエネルギーの受け渡しとスイッチング制御)は、他の多くのスイッチングコンバーターにも共通する重要な考え方です。
この記事を通じて、バックブーストコンバーターの不思議な仕組みと、DC-DCコンバーターの面白さを少しでも感じていただけたら幸いです。さらに深く学ぶことで、より複雑な電源回路の理解にも繋がるでしょう。
(文字数:約5300字)