はい、承知いたしました。Azure Functionsの料金体系について、従量課金プランを中心に、他のプランと比較する詳細な記事を、約5000語で記述します。
Azure Functions料金ガイド:従量課金とその他のプランを比較
はじめに: Azure Functionsとサーバーレスの魅力
クラウドコンピューティングの進化は、私たちのアプリケーション開発と運用のアプローチを大きく変えました。中でも「サーバーレス」という概念は、開発者がインフラストの管理から解放され、ビジネスロジックの実装に集中できる環境を提供することで、多くの注目を集めています。Azure Functionsは、Microsoft Azureが提供するサーバーレスコンピューティングサービスの中核をなすものであり、イベントに応じてコードを実行する「Function-as-a-Service (FaaS)」の実装です。
Azure Functionsの魅力は多岐にわたります。特定のイベント(HTTPリクエスト、データベースの変更、ファイルアップロード、メッセージキューへの書き込みなど)が発生したときにのみコードが実行されるため、アイドル状態のサーバーを維持する必要がありません。これにより、運用コストの削減、管理の手間軽減、そしてトラフィックの変動に応じた自動的なスケーリングが実現されます。開発者は、アプリケーション全体ではなく、特定の機能(関数)単位で開発・デプロイを行うことができ、マイクロサービスアーキテクチャやイベント駆動型アーキテクチャの実装を容易にします。
しかし、これらのメリットを最大限に享受するためには、Azure Functionsの料金体系を正確に理解することが不可欠です。サーバーレスの特徴である「使った分だけ支払う」というモデルは、従来の固定料金モデルとは大きく異なります。特に従量課金プランは、その特性を最も顕著に表しており、ワークロードによっては非常にコスト効率が高くなりますが、その計算方法は従来のサーバー料金とは異なるため、事前に十分に理解しておく必要があります。
本記事では、Azure Functionsの主要な料金プランである「従量課金プラン」、「Premiumプラン」、「Dedicatedプラン(App Service Plan)」について、それぞれの料金計算方法、メリット・デメリット、そして推奨される利用シナリオを詳細に解説します。特に従量課金プランについては、その計算ロジックを具体的な例を交えて深く掘り下げます。さらに、各プランを比較検討し、自身のワークロードに最適なプランを選択するための基準を提供します。最後に、Azure Functionsのコストを最適化するためのヒントについても触れます。
このガイドを通じて、Azure Functionsの料金体系に対する理解を深め、より効果的かつ経済的にAzure Functionsを活用できるようになることを目指します。
Azure Functionsの主要な料金プラン
Azure Functionsは、ユーザーの多様なニーズとワークロード特性に合わせて、複数のホスティングプランを提供しています。これらのプランは、スケーリング方法、料金体系、提供される機能(仮想ネットワーク統合、コールドスタートの有無など)において大きく異なります。主なプランは以下の3つです。
-
従量課金プラン (Consumption Plan)
- サーバーレスの概念を最も純粋に体現したプランです。
- イベントが発生したときにのみ関数が実行され、使ったリソース(実行時間とメモリ)と実行回数に応じて課金されます。
- アイドル時のコストはゼロです。
- 自動的にスケールアウトします。
-
Premiumプラン (Azure Functions Premium Plan)
- 従量課金プランのイベント駆動型スケーリングと、App Service Planのようなプリウォーミングされたインスタンスのメリットを組み合わせたプランです。
- コールドスタートなしで低レイテンシを実現できます。
- 仮想ネットワーク統合などの高度な機能を提供します。
- インスタンスの稼働時間に基づいて課金されます(ただし、トラフィックに応じて自動スケールします)。
-
Dedicatedプラン / App Service Plan
- 既存のApp Service Plan上でAzure Functionsを実行するプランです。
- App Service Planのインスタンスに対して固定料金(SKUによる)が課金されます。
- 他のApp Serviceリソース(Webアプリなど)とリソースを共有できます。
- 実行時間制限がありません(ホスティングプランによる)。
これらのプランの中から、ワークロードの性質(イベントの頻度、実行時間、必要な応答速度、ネットワーク要件、負荷の変動パターンなど)と予算に合わせて最適なものを選択することが、コスト効率とパフォーマンスの両立において非常に重要です。
次章からは、これらの各プランについて、より詳細に掘り下げていきます。まずは、Azure Functionsの象徴とも言える「従量課金プラン」から見ていきましょう。
従量課金プラン (Consumption Plan) の詳細
従量課金プランは、Azure Functionsが提供するプランの中で最もシンプルかつ、サーバーレスの「使った分だけ支払う」という概念を強く反映したものです。イベントが発生したときに関数が実行され、その実行が終了するとリソースが解放されます。アイドル時には一切コストが発生しないため、コスト効率を最大化したい場合に非常に魅力的な選択肢となります。
料金計算の仕組み
従量課金プランの料金は、主に以下の2つの要素に基づいて計算されます。
-
リソース消費量 (Resource Consumption)
- これは、関数の実行中に消費されたCPUとメモリの量を合計したものです。
- 「GB-秒 (GB-seconds)」という単位で計算されます。
- 計算方法:
実行時間 (秒) × 平均メモリ使用量 (GB)
例えば、ある関数が0.5秒実行され、その間に平均128MB(=0.125GB)のメモリを使用したとします。この場合のGB-秒は
0.5秒 × 0.125GB = 0.0625 GB-秒
となります。Azure Functionsは、実行中の関数のメモリ使用量を測定し、実行時間全体の平均を算出します。この平均メモリ使用量と実行時間の積が、課金対象となるGB-秒の合計に追加されます。
-
実行回数 (Executions)
- 関数がトリガーされ、実行を開始した回数です。
- 成功、失敗に関わらず、実行が開始された回数がカウントされます。
例えば、HTTPトリガーの関数に100回リクエストがあった場合、実行回数は100回となります。キューに100個のメッセージが追加され、それによってキュートリガーの関数が100回実行された場合も、実行回数は100回となります。
料金は、これらの合計GB-秒と合計実行回数に対して課金単価が適用されて計算されます。具体的な単価はAzureの料金ページで確認できますが、例えば執筆時点では以下のようになっています(リージョンによって異なる場合があります)。
- リソース消費量:約 $0.000016 / GB-秒
- 実行回数:約 $0.20 / 100万回
無料枠 (Free Grant) について
従量課金プランには、毎月一定量の無料枠が付与されます。これは、小規模なワークロードや開発・テスト環境でAzure Functionsを試すのに非常に役立ちます。
執筆時点での無料枠は以下の通りです。
- リソース消費量:毎月 40万 GB-秒
- 実行回数:毎月 100万回
この無料枠を超えた分に対してのみ課金が発生します。多くの小規模なアプリケーションや自動化スクリプトであれば、この無料枠に収まることも少なくありません。
課金の具体例(計算シミュレーション)
無料枠を考慮に入れた上で、具体的なシナリオで料金をシミュレーションしてみましょう。
例1:低頻度・短時間実行のシンプルな関数
- シナリオ:cronトリガーで1日1回実行され、外部APIを呼び出してデータを取得する関数。
- 実行頻度:1日1回 → 1ヶ月あたり約30回
- 1回の実行時間:平均2秒
- 1回の実行での平均メモリ使用量:平均64MB (= 0.0625 GB)
計算:
- 1回の実行あたりのGB-秒:
2秒 × 0.0625 GB = 0.125 GB-秒
- 1ヶ月あたりの合計GB-秒:
0.125 GB-秒/回 × 30回 = 3.75 GB-秒
- 1ヶ月あたりの合計実行回数:
30回
無料枠との比較:
- 合計GB-秒 (3.75 GB-秒) は無料枠 (40万 GB-秒) よりはるかに少ない。
- 合計実行回数 (30回) は無料枠 (100万回) よりはるかに少ない。
結果:
このシナリオでは、無料枠に完全に収まるため、1ヶ月あたりの料金は ほぼゼロ円 になります。
例2:中頻度・中時間実行のデータ処理関数
- シナリオ:メッセージキューにメッセージが到着するたびにトリガーされ、メッセージの内容を処理してデータベースに書き込む関数。
- 実行頻度:1日あたり1000回 → 1ヶ月あたり約3万回 (30日として)
- 1回の実行時間:平均5秒
- 1回の実行での平均メモリ使用量:平均256MB (= 0.25 GB)
計算:
- 1回の実行あたりのGB-秒:
5秒 × 0.25 GB = 1.25 GB-秒
- 1ヶ月あたりの合計GB-秒:
1.25 GB-秒/回 × 3万回 = 37,500 GB-秒
- 1ヶ月あたりの合計実行回数:
3万回
無料枠との比較:
- 合計GB-秒 (37,500 GB-秒) は無料枠 (40万 GB-秒) より少ない。
- 合計実行回数 (3万回) は無料枠 (100万回) より少ない。
結果:
このシナリオでも、無料枠に完全に収まるため、1ヶ月あたりの料金は ほぼゼロ円 になります。無料枠はかなりの量があることがわかります。
例3:高頻度・短時間実行のAPIバックエンド
- シナリオ:モバイルアプリからのHTTPリクエストを受け付け、認証処理と簡単なデータ取得を行うAPIバックエンド関数。
- 実行頻度:1秒あたり10回 → 1ヶ月あたり約2600万回 (30日として)
- 1回の実行時間:平均0.1秒
- 1回の実行での平均メモリ使用量:平均128MB (= 0.125 GB)
計算:
- 1回の実行あたりのGB-秒:
0.1秒 × 0.125 GB = 0.0125 GB-秒
- 1ヶ月あたりの合計GB-秒:
0.0125 GB-秒/回 × 2600万回 = 325,000 GB-秒
- 1ヶ月あたりの合計実行回数:
2600万回
無料枠との比較:
- 合計GB-秒 (325,000 GB-秒) は無料枠 (40万 GB-秒) より少ない。
- 合計実行回数 (2600万回) は無料枠 (100万回) を大幅に超えている。
結果:
- GB-秒については無料枠内で課金なし。
- 実行回数については無料枠を超えた
2600万回 - 100万回 = 2500万回
が課金対象。 - 実行回数に対する料金:
2500万回 / 100万回 × $0.20 = 25 × $0.20 = $5.00
このシナリオでは、主に実行回数に対して課金が発生し、1ヶ月あたり約5ドルの料金が発生します。それでも、非常に多くの実行回数に対して非常に低価格であることがわかります。
例4:長時間実行・高メモリ使用のバッチ処理
- シナリオ:キューに登録されたタスク(例:画像のリサイズ)を実行する関数。処理に時間がかかり、メモリも多く消費する。
- 実行頻度:1日あたり100回 → 1ヶ月あたり約3000回
- 1回の実行時間:平均30秒
- 1回の実行での平均メモリ使用量:平均512MB (= 0.5 GB)
計算:
- 1回の実行あたりのGB-秒:
30秒 × 0.5 GB = 15 GB-秒
- 1ヶ月あたりの合計GB-秒:
15 GB-秒/回 × 3000回 = 45,000 GB-秒
- 1ヶ月あたりの合計実行回数:
3000回
無料枠との比較:
- 合計GB-秒 (45,000 GB-秒) は無料枠 (40万 GB-秒) より少ない。
- 合計実行回数 (3000回) は無料枠 (100万回) より少ない。
結果:
このシナリオでも、無料枠に完全に収まるため、1ヶ月あたりの料金は ほぼゼロ円 になります。実行回数が少なくても、単発のGB-秒が大きいワークロードでも、無料枠はかなり余裕があることがわかります。
例5:無料枠を超過する大規模なAPIバックエンド
- シナリオ:例3と同じAPIバックエンドだが、トラフィックがさらに多い。
- 実行頻度:1秒あたり50回 → 1ヶ月あたり約1億3000万回
- 1回の実行時間:平均0.1秒
- 1回の実行での平均メモリ使用量:平均128MB (= 0.125 GB)
計算:
- 1ヶ月あたりの合計GB-秒:
0.0125 GB-秒/回 × 1億3000万回 = 1,625,000 GB-秒
- 1ヶ月あたりの合計実行回数:
1億3000万回
無料枠との比較:
- 合計GB-秒 (1,625,000 GB-秒) は無料枠 (40万 GB-秒) を超えている。
- 合計実行回数 (1億3000万回) は無料枠 (100万回) を大幅に超えている。
結果:
- GB-秒に対する課金対象:
1,625,000 GB-秒 - 400,000 GB-秒 = 1,225,000 GB-秒
- GB-秒に対する料金:
1,225,000 GB-秒 × $0.000016/GB-秒 ≈ $19.60
- 実行回数に対する課金対象:
1億3000万回 - 100万回 = 1億2900万回
- 実行回数に対する料金:
1億2900万回 / 100万回 × $0.20 ≈ 129 × $0.20 = $25.80
このシナリオでは、1ヶ月あたりの合計料金は約 $19.60 + $25.80 = 約 $45.40 となります。非常に大量のトラフィックを処理しても、コストは依然として比較的低いことがわかります。
注意点:
- 上記の単価や無料枠は執筆時点のものであり、変更される可能性があります。必ず公式のAzure Functions料金ページで最新情報を確認してください。
- 料金はリージョンによって異なる場合があります。
- 関数アプリ自体に関連するストレージアカウントやその他のAzureサービス(データベース、キュー、イベントハブなど)の料金は、Functionsの料金とは別に発生します。
これらの例からわかるように、従量課金プランは、特にイベントの発生頻度が変動したり、アイドル時間が長かったりするワークロードにおいて、非常にコスト効率が高くなる可能性があります。無料枠も十分に大きいため、多くの小規模から中規模のアプリケーションであれば、ほとんど料金が発生しないことも珍しくありません。
メリット
従量課金プランの主なメリットは以下の通りです。
- コスト効率(アイドル時のコストゼロ): これが最大のメリットです。関数が実行されていない間は、コンピューティングリソースに対する料金は一切発生しません。これにより、予測不能なトラフィックや、特定のイベントが発生したときだけ実行されるようなワークロードにおいて、大幅なコスト削減が期待できます。
- 自動スケール: トラフィックやイベントの量に応じて、Azureによって自動的にインスタンス数が増減されます。ユーザーはスケーリングの設定をほとんど気にする必要がありません。これにより、急激な負荷増加にも対応できます。
- メンテナンス不要: 基盤となるインフラストラクチャ(サーバーOS、パッチ適用など)の管理は全てMicrosoftが行います。開発者はアプリケーションコードに集中できます。
- 無料枠: 毎月一定量の無料枠が提供されるため、小規模なワークロードや検証においては、実質無料で利用開始できます。
デメリット
一方で、従量課金プランにはいくつかのデメリットも存在します。
- コールドスタート (Cold Start): 関数がしばらく実行されていない場合、次にイベントが発生した際に新しいインスタンスが起動する必要があります。このインスタンス起動には時間がかかり、最初の実行においてレイテンシが増加する可能性があります。これが「コールドスタート」と呼ばれる現象です。レイテンシに非常に敏感なアプリケーション(特にAPIなど)では問題となることがあります。
- 最大実行時間制限 (Timeout): 従量課金プランで実行される関数には、最大実行時間の制限があります(デフォルト5分、最大10分)。この制限を超える実行は、自動的に停止されます。長時間実行されるタスクには向いていません。
- ネットワーク分離の制限: 従量課金プランの関数は、デフォルトでは仮想ネットワーク内に配置されません。これにより、仮想ネットワーク内のリソース(プライベートエンドポイントを持つデータベースなど)に安全にアクセスすることが困難になる場合があります。
- 予測性の低さ: 料金がワークロードの実行回数や実行時間に直接依存するため、ワークロードが予測不能な場合、料金も予測しにくくなる可能性があります。
利用が推奨されるシナリオ
従量課金プランは、その特性から以下のシナリオで特に推奨されます。
- イベントドリブンなワークロード: メッセージキュー処理、データベース変更のトリガー、ファイル処理、定期的なタスク実行など、特定のイベントに応答する非同期的な処理。
- 低頻度または予測不能な負荷: トラフィックが少なく、かつ発生タイミングや量が予測しにくいアプリケーション。アイドル時間が長いため、固定コストをかけずに済みます。
- 開発・テスト環境: 本番環境のような高負荷が継続的に発生しない環境で、低コストでFunctionsの機能を検証したい場合。
- バッチ処理 (短時間で終了するもの): 短時間で完了する小さなバッチ処理タスクを定期的に、またはイベントドリブンに実行する場合。
Premiumプラン (Azure Functions Premium Plan) の詳細
Premiumプランは、従量課金プランのイベント駆動型スケーリングの利便性と、App Service Planのプリウォーミングされたインスタンスによる低レイテンシを両立させたプランです。従量課金プランのデメリットであるコールドスタートや最大実行時間制限を克服しつつ、トラフィックに応じた自動スケーリングのメリットも享受したい場合に選択されます。
料金計算の仕組み
Premiumプランの料金計算は、従量課金プランとは異なり、App Service Planに近い考え方に基づいています。主に以下の要素で構成されます。
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プロビジョニングされたインスタンスの稼働時間 (Provisioned Instance Runtime): Premiumプランでは、常に一定数以上の「常時ウォーム (Always Ready)」なインスタンスを保持するように設定できます(最小インスタンス数)。これらのインスタンスは、トラフィックがなくても常に稼働しており、課金対象となります。スケーリングによってインスタンス数が増加した場合は、その増分インスタンスの稼働時間も課金対象となります。
- 課金単位は「秒」または「時間」で、使用しているインスタンスのサイズ(CPU/メモリのスペック)によって単価が異なります。
- インスタンスサイズは、EP1 (175 ACU, 3.5 GB RAM), EP2 (350 ACU, 7 GB RAM), EP3 (700 ACU, 14 GB RAM) などから選択できます。
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スケーリングの仕組み: Premiumプランもトラフィックに応じて自動的にスケールアウトします。しかし、従量課金プランとは異なり、インスタンスはプリウォーミングされているため、コールドスタートが発生しません。スケールアウトの上限インスタンス数も設定できます。
従量課金プランのような「GB-秒」や「実行回数」に基づく直接的な課金ではなく、「インスタンスの稼働時間」に対する課金となるため、アイドル時でも最小インスタンス数分のコストは必ず発生します。しかし、トラフィックに応じて柔軟にスケールし、トラフィックが減ればインスタンスも削減されるため、App Service Planのような固定インスタンスによる運用よりは、コスト効率が高くなる場合があります。
メリット
Premiumプランの主なメリットは以下の通りです。
- コールドスタートなし(低レイテンシ): 最小インスタンス数を設定することで、常にウォームな状態のインスタンスを用意できます。これにより、イベント発生時の応答速度が向上し、特にレイテンシに敏感なAPIやリアルタイム処理に適しています。
- 仮想ネットワーク接続: Azure Virtual Network (VNet) への統合をサポートしています。VNet内のプライベートなリソースに安全にアクセスしたり、ネットワークレベルの分離を実現したりすることが可能です。
- より長い実行時間: 実行時間の上限が、従量課金プランの10分から、最大60分または無制限(host.jsonの設定によるが、長時間実行には注意が必要)へと延長されます。これにより、より時間のかかる処理を実行できるようになります。
- より高度なスケーリング制御: 最小インスタンス数と最大インスタンス数を細かく設定できます。最小インスタンス数を増やすことで、より多くのトラフィックに瞬時に対応できるキャパシティを確保できます。
- より高性能なハードウェア: 従量課金プランよりも高性能なインスタンスサイズを選択できます。
デメリット
Premiumプランの主なデメリットは以下の通りです。
- 常時コストが発生する: 最小インスタンス数を1以上に設定している場合、トラフィックがないアイドル状態でも、その最小インスタンス数分のコストが継続的に発生します。
- 従量課金より高価になりがち: 特にトラフィックが非常に少なく、アイドル時間が大半を占めるワークロードの場合、従量課金プランの無料枠や使った分だけの課金と比べて、Premiumプランの固定コストは割高になる傾向があります。
- コスト予測が従量課金より複雑: 料金はインスタンスの稼働時間によって決まりますが、スケーリングによってインスタンス数は変動するため、正確な月額料金を事前に見積もるには、トラフィックパターンに応じたインスタンス数の変動をある程度予測する必要があります。
利用が推奨されるシナリオ
Premiumプランは、以下のシナリオで特に推奨されます。
- 低レイテンシが求められるAPIバックエンド: コールドスタートを回避し、常に高速な応答が必要なREST APIやGraphQL APIなど。
- 仮想ネットワーク内のリソースとの連携: プライベートなネットワーク内にあるデータベース、ストレージ、オンプレミスリソースなどに安全にアクセスする必要がある場合。
- 長時間実行される関数: 従量課金プランの10分制限を超えるような、比較的長い時間(ただし最大60分程度)かかる処理を実行する場合。
- 予測可能または比較的高負荷なワークロード: ある程度のトラフィック量が継続的に発生し、ピーク時のトラフィック増加にも迅速に対応したいが、App Service Planのような固定リソースは過剰かもしれない場合。
- エンタープライズレベルの要件: VNet統合や専用インスタンス(実際には共有インスタンスだが、Dedicated Planとの比較で)に近い安定したパフォーマンスが必要な場合。
Dedicatedプラン / App Service Plan の詳細
Dedicatedプラン(通常、既存のApp Service Plan上でAzure Functionsを実行することを指します)は、Web AppやAPI Appなど、他のApp Serviceリソースと同じApp Service Plan上にAzure Functionsをデプロイして実行するホスティングモデルです。このプランは、サーバーレスというよりは、従来のIaaSやPaaSに近い概念でリソースを管理します。
料金計算の仕組み
Dedicatedプランの料金は、基盤となるApp Service Planの料金体系に完全に依存します。
- App Service PlanのSKUに基づく固定料金(に近い): 料金は、選択したApp Service PlanのSKU(Basic, Standard, Premium, Isolatedなど)と、プロビジョニングしたインスタンス数に基づいて計算されます。
- SKUによって、提供されるコンピューティングリソース(CPU、メモリ)、機能(カスタムドメイン、SSL、スケーリングオプションなど)、そして単価が異なります。
- インスタンス数は、手動で設定することも、オートスケールルールに基づいて自動的に増減させることも可能ですが、従量課金やPremiumプランほど自動的かつ柔軟なスケーリングではありません。
- インスタンスの稼働時間に対する課金: プロビジョニングされたインスタンスが稼働している時間に対して課金が発生します。トラフィックがないアイドル状態でも、設定されたインスタンス数分の料金は継続的に発生します。
要するに、App Service Planで仮想マシンを借りて、その上でFunctionsを動かしている、というイメージに近いです。リソース(インスタンス)を「借りっぱなし」なので、使っているかどうかにかかわらず料金が発生します。
メリット
Dedicatedプラン / App Service PlanでFunctionsを実行する主なメリットは以下の通りです。
- 他のApp Serviceリソースとのリソース共有: 既に運用しているApp Service Planがある場合、その上でFunctionsを実行することで、リソースを共有し、全体のコスト効率を高めることができます。Webサイトのバックエンドの一部をFunctionsで実装し、同じApp Service Plan上でホストするといったことが可能です。
- 予測可能なコスト(固定料金に近い): 設定したApp Service PlanのSKUとインスタンス数に基づいて料金が決まるため、従量課金プランのようにワークロードの変動によって料金が大きく変わることが少なく、コスト予測が比較的容易です。
- より詳細な制御: 基盤となるVMインスタンスのサイズ、数、スケールルールなどを細かく制御できます。
- 実行時間制限なし: App Service Plan上で実行されるFunctionsには、ホスティングプランによる実行時間制限がありません(ただし、個別の関数の実行時間が非常に長くなると、リソースを占有してしまう問題は発生し得ます)。長時間のバッチ処理などに適しています。
- 仮想ネットワーク統合: App Service Planの機能として、VNet統合が可能です。
- コールドスタートの問題を回避: App Service Planのインスタンスは常時稼働しているため、コールドスタートの問題は発生しません。
デメリット
Dedicatedプラン / App Service Planの主なデメリットは以下の通りです。
- アイドル時でもコストが発生: トラフィックがゼロの状態でも、設定したインスタンス数分の料金が発生し続けます。これは従量課金プランとの最も大きな違いです。
- スケーリングが従量課金ほど自動ではない: オートスケールの設定は可能ですが、従量課金プランのようにイベント量に応じて完全に自動的にゼロからスケールアウトし、アイドル時にゼロに戻るといった柔軟性はありません。最小インスタンス数は常に稼働しています。
- Functions専用にする場合は割高になることも: App Service PlanはWebアプリなどのホスティングを前提とした設計であり、Functionsだけのために専有して利用する場合、従量課金やPremiumプランと比較してコスト効率が悪くなる可能性があります。特に、実行頻度が低く、アイドル時間が長いFunctionsには不向きです。
利用が推奨されるシナリオ
Dedicatedプラン / App Service Planは、以下のシナリオで特に推奨されます。
- 既存のApp Service Planを有効活用したい場合: 既にApp Service PlanでWebアプリなどを運用しており、そのインフラストラクチャを利用してFunctionsもホストしたい場合。
- 他のApp ServiceリソースとFunctionsをまとめて管理したい場合: 関連するWebアプリやAPIとFunctionsを同じプラン上で管理し、リソースやネットワーク設定を共有したい場合。
- 実行時間制限がないこと、固定費用に近いことを重視する場合: 10分を超える長時間実行が必要なタスクがあり、かつコストの予測性を重視する場合。
- コールドスタート回避とVNet統合が必要で、かつ他のApp Serviceリソースとの共有が前提にある場合。
各プランの比較
ここまで見てきた3つの主要なホスティングプランについて、重要な要素を表形式で比較してみましょう。
特徴 | 従量課金プラン (Consumption) | Premiumプラン (Premium) | Dedicatedプラン (App Service Plan) |
---|---|---|---|
料金計算方法 | GB-秒 + 実行回数 | プロビジョニングされたインスタンスの稼働時間 | App Service Plan SKU + インスタンス数 |
アイドル時のコスト | ゼロ | 最小インスタンス数分のコストが発生 | 設定されたインスタンス数分のコストが発生 |
スケーリング | イベント量に応じて自動的にゼロからスケール | イベント量に応じて自動的に最小数からスケール | 設定したルールに基づき手動または自動スケール |
コールドスタート | 発生する可能性あり | 最小インスタンス数により回避可能 | 発生しない |
最大実行時間 | 最大10分 (デフォルト5分) | 最大60分または無制限 | 無制限 |
VNet統合 | 不可 (Hybrid Connectionsなどで代替) | 可能 | 可能 |
コスト効率 | 低頻度・予測不能な負荷に最適 | 中~高負荷で低レイテンシが必要な場合に効率的 | 既存AS Plan活用、長時間実行に効率的 |
管理の手間 | 最も少ない | 少ない | App Service Planの管理が必要 |
無料枠 | あり (GB-秒と実行回数) | なし (App Service Planの無料SKUは限定的) | なし (App Service Planの無料SKUは限定的) |
推奨シナリオ | イベントドリブン、低頻度、開発/テスト | 低レイテンシAPI、VNet統合、中~高負荷 | 既存AS Plan活用、長時間実行、固定コスト重視 |
どのような基準でプランを選択すべきか
上記の比較表や各プランの詳細を踏まえ、自身のワークロードに最適なプランを選択するための基準を整理します。
-
ワークロードの特性:
- イベントの頻度と予測可能性: イベントが不定期で発生し、アイドル時間が長い場合は従量課金プランが有利です。トラフィックが比較的安定している、あるいは予測可能な場合は、PremiumやDedicatedも選択肢に入ります。
- 実行時間: 10分を超える実行が必要な場合は、PremiumまたはDedicatedプランが必要です。
- 負荷の変動パターン: 急激な負荷変動に柔軟に対応したい場合は、従量課金やPremiumの自動スケーリングが適しています。
-
パフォーマンス要件:
- レイテンシ(応答速度): コールドスタートによるレイテンシ増加が許容できない場合は、PremiumまたはDedicatedプランを選択する必要があります。APIバックエンドのような即時応答が必要なアプリケーションでは特に重要です。
- スループット: 非常に高いスループットが必要な場合は、PremiumやDedicatedでより高性能なインスタンスや最小インスタンス数を確保することが有効な場合があります。
-
ネットワーク要件:
- 仮想ネットワーク統合: プライベートなネットワーク内のリソースに安全にアクセスする必要がある場合は、VNet統合をサポートするPremiumまたはDedicatedプランが必須です。
-
予算とコスト管理の方法:
- コスト予測の容易さ: 厳密なコスト予測が必要な場合は、比較的固定費用の要素が大きいDedicatedプランが向いている場合があります。ただし、トラフィック変動が激しい場合はPremiumの方が最終的に安くなることもあります。
- アイドル時のコスト許容度: アイドル時に一切コストをかけたくない場合は従量課金プラン一択です。ある程度の固定費が発生しても、高性能や低レイテンシを重視する場合はPremiumまたはDedicatedを選択します。
- 無料枠の活用: 小規模なワークロードであれば、従量課金プランの無料枠だけで運用できる可能性があります。
-
既存インフラストラクチャとの連携:
- 既存App Service Plan: 既に運用中のApp Service Planがある場合は、DedicatedプランでFunctionsをホストすることで、リソースを共有し、管理を簡素化できる可能性があります。
これらの基準を総合的に評価し、自身のアプリケーションやシステムにとって最適なプランを選択することが重要です。最初は従量課金プランで開始し、パフォーマンスや機能の要件(コールドスタート、VNet統合、実行時間など)に応じてPremiumやDedicatedプランへの移行を検討するというアプローチも一般的です。
コスト最適化のヒント
どのプランを選択した場合でも、Azure Functionsのコストをさらに最適化するための方法はいくつか存在します。
従量課金プランの場合
従量課金プランでは、GB-秒と実行回数を最小限に抑えることがコスト削減につながります。
- 関数の実行時間の短縮: 関数が短い時間で完了するようにコードを最適化します。ボトルネックを特定し、効率的なアルゴリズムや処理方法を採用します。非同期処理を活用することも有効です。
- メモリ使用量の削減: 関数の実行中に使用するメモリ量を減らします。不要なオブジェクトの生成を避ける、大きなデータをストリーミングで処理するなど工夫します。
- 不要なトリガーや実行の抑制: 関数が意図しないタイミングで実行されていないか確認します。トリガーの設定を適切に行い、無駄な実行を削減します。例えば、Blob Storageトリガーであれば、特定のファイルパターンのみを対象にする、など。
- リージョンの選択: Azureの料金はリージョンによって異なります。可能であれば、より安価なリージョンを選択することでコストを削減できる場合があります(ただし、レイテンシや他のサービスとの連携も考慮が必要です)。
Premiumプランの場合
Premiumプランでは、インスタンスの稼働時間に対する課金が主な要素です。
- インスタンスサイズの最適化: ワークロードに対して適切なインスタンスサイズ(EP1, EP2, EP3など)を選択します。小さすぎるとスケールアウトが頻繁に発生したりパフォーマンスが低下したりし、大きすぎるとアイドル時のコストが無駄になります。実際のパフォーマンスメトリクス(CPU使用率、メモリ使用率)を確認しながら最適なサイズを見つけます。
- 最小インスタンス数の調整: 最小インスタンス数を必要最低限に設定します。応答速度の要件を満たしつつ、アイドル時のコストを最小限に抑えるように調整します。トラフィックパターンを分析し、ピーク時とアイドル時で必要な最小キャパシティを見積もります。
- 最大インスタンス数の設定: 無制限にスケールアウトするのを防ぐために、適切な最大インスタンス数を設定します。これにより、予期せぬトラフィック増加によるコストの急増を抑えることができます。
Dedicatedプランの場合
Dedicatedプランでは、App Service Planのコストが全てです。
- App Service Plan SKUの最適化: ワークロードに必要なリソース量(CPU、メモリ、ネットワーク帯域など)と機能(VNet統合、スロット数など)に基づいて、適切なSKUを選択します。過剰なリソースを持つSKUはコスト効率が悪くなります。
- インスタンス数の最適化: オートスケール設定を適切に行い、必要なときに必要なだけインスタンスが稼働するようにします。ただし、アイドル時コストは発生することを前提とします。
- 他のApp Serviceリソースとの併用効果: Functionsだけでなく、WebアプリやAPIなど、他のワークロードも同じApp Service Planでホストすることで、全体的なコスト効率を高めることができます。リソースを共有することで、個別に運用するよりも割安になる場合があります。
全プラン共通のヒント
- コスト監視と分析: Azure Cost Management + Billingツールを活用して、Functionsおよび関連サービスのコストを継続的に監視・分析します。どの関数がどれだけコストを消費しているか、どのような要因でコストが増加しているかを把握することで、効果的な最適化策を見つけられます。Application Insightsなどの監視ツールで関数の実行時間やメモリ使用量を確認することも重要です。
- 関連サービスのコスト考慮: Functions自体の料金だけでなく、Functionsが利用する他のAzureサービス(Storage Account, Cosmos DB, Event Hubs, Service Bus, Application Insightsなど)の料金も全体コストに含まれることを忘れてはいけません。これらのサービスもコスト効率の良い構成になっているか確認します。
- 効率的なコード: どのプランであっても、効率的でリソース消費の少ないコードは、結果的にコスト削減につながります。例えば、不要なライブラリのロードを避ける、データベースへのクエリ回数を減らす、外部サービスの呼び出し回数を最適化するなどです。
これらのヒントを参考に、自身のAzure Functions環境におけるコストを継続的に最適化していくことが推奨されます。
まとめ
Azure Functionsは、開発者がインフラスト管理から解放され、イベント駆動型のアプリケーションを効率的に構築できる強力なサーバーレスプラットフォームです。その柔軟な料金体系は、多様なワークロードのニーズに応えるために設計されています。
本記事では、Azure Functionsの主要な3つのホスティングプラン、すなわち従量課金プラン、Premiumプラン、Dedicatedプラン(App Service Plan)について、その料金計算の仕組み、メリット・デメリット、そして推奨される利用シナリオを詳細に解説しました。
- 従量課金プランは、「使った分だけ支払う」というサーバーレスの概念を最も体現しており、イベントの発生頻度が低く予測不能なワークロードや、アイドル時間が長い場合に最もコスト効率が高い選択肢です。無料枠も大きく、多くの小規模なユースケースでは無料で運用可能です。ただし、コールドスタートや実行時間制限といった制約があります。
- Premiumプランは、従量課金プランの自動スケーリングと、App Service Planのプリウォーミングされたインスタンスの利点を組み合わせたプランです。コールドスタートを回避し、低レイテンシやVNet統合が必要な、比較的負荷の高いワークロードに適しています。アイドル時にも最小インスタンス数分のコストが発生します。
- Dedicatedプラン(App Service Plan)は、既存のApp Service Planを有効活用したい場合や、実行時間制限のない長時間の処理が必要な場合、他のApp ServiceリソースとFunctionsを統合して管理したい場合に選択されます。料金はApp Service Planの構成に依存し、アイドル時にもコストが発生します。
どのプランが最適かは、ワークロードの特性(イベントの頻度、実行時間、レイテンシ要件など)、ネットワーク要件、そしてコストに対する考え方によって異なります。最適なプランを選択し、さらに本記事で紹介したコスト最適化のヒントを実践することで、Azure Functionsをより効果的かつ経済的に活用することができます。
Azure Functionsの料金体系は、一見すると複雑に感じられるかもしれませんが、それぞれのプランの基本的な考え方と料金計算の要素を理解すれば、自身のニーズに合った選択が可能になります。定期的にAzureの料金ページを確認し、最新情報を把握することも重要です。
サーバーレスの力を借りて、これからのアプリケーション開発と運用をさらに進化させていきましょう。
【免責事項】
本記事に記載されている料金単価や無料枠に関する情報は、執筆時点(2023年10月)に基づいています。Azureの料金やサービス内容は予告なく変更される可能性があります。必ずMicrosoft Azure公式の料金ページで最新の情報をご確認ください。また、実際のコストは、個別の構成、利用状況、リージョンなどによって変動します。