PostgreSQL LTSとは?長期サポート版のメリットと選び方

PostgreSQL LTSとは?長期サポート版のメリットと選び方

PostgreSQLは、その堅牢性、高機能性、そしてオープンソースであるという特性から、世界中で広く利用されているリレーショナルデータベース管理システム(RDBMS)です。企業の基幹システムからWebアプリケーションのバックエンドまで、多岐にわたる分野でその信頼性を発揮しています。

しかし、PostgreSQLのようなデータベースシステムを企業で安定的に、そして安全に運用し続けるためには、「バージョンアップ」という避けて通れない課題が存在します。特に、長期間にわたって同一バージョンのデータベースを利用したいというニーズを持つ企業にとって、PostgreSQLの標準的なサポート期間は必ずしも十分ではない場合があります。

ここで登場するのが「PostgreSQL LTS」という概念です。ただし、一点非常に重要な注意点があります。それは、PostgreSQLコミュニティが公式に「PostgreSQL LTS (Long Term Support)」という名称や特定のプログラムを提供しているわけではないということです。私たちが一般的に「PostgreSQL LTS」と呼ぶものは、主にPostgreSQLを基盤とした製品やサービスを提供するサードパーティベンダーが独自に提供する「長期サポートサービス」を指します。

この記事では、PostgreSQLの標準的なバージョンリリースサイクルとサポートポリシーを解説した上で、「PostgreSQL LTS」として知られるサードパーティによる長期サポートサービスの実態、その具体的なサービス内容、企業がこれらの長期サポート版を利用するメリットとデメリット、そして自社の状況に合ったサービスを選ぶためのポイントについて、詳細かつ網羅的に解説していきます。約5000語のボリュームで、PostgreSQLの長期運用における課題と、それを解決するための「長期サポート」という選択肢について深く掘り下げていきます。

1. PostgreSQLのバージョンリリースサイクルとサポート期間

まず、PostgreSQLコミュニティがどのようにバージョンをリリースし、どのくらいの期間サポートを提供しているのかを理解することが重要です。

PostgreSQLは、活発なコミュニティによって開発が進められています。新しい機能の開発や既存機能の改善、バグ修正、セキュリティパッチの適用などが継続的に行われています。これらの開発成果は、主に「メジャーバージョン」と「マイナーバージョン」という形でリリースされます。

  • メジャーバージョン (Major Version):
    • 通常、年に1回程度の頻度でリリースされます(例: 12 -> 13 -> 14 -> 15 -> 16)。
    • メジャーバージョンアップでは、大きな新機能の追加、既存機能の大幅な変更・改善、性能向上などが含まれます。
    • 後方互換性のない変更が含まれることが多く、メジャーバージョン間の移行には通常、特別な手順(ダンプ/リストア、pg_upgradeなど)が必要です。
  • マイナーバージョン (Minor Version):
    • 各メジャーバージョンに対して、必要に応じて不定期にリリースされます(例: 15.1 -> 15.2 -> 15.3 …)。
    • 主に、そのメジャーバージョンで発見されたバグの修正や、セキュリティ脆弱性への対応が含まれます。
    • 基本的に後方互換性が維持されており、同一メジャーバージョン内でのマイナーバージョンアップは、データの互換性を損なうことなく(多くの場合、データベースクラスターの停止とバイナリの置き換えで)比較的容易に行えます。

PostgreSQLコミュニティは、各メジャーバージョンに対してリリースから5年間のサポートを提供しています。この5年間は、以下の2つのフェーズに分かれます。

  1. アクティブフェーズ (約2年間): 新機能開発が進む期間と重なることが多いです。バグ修正やセキュリティパッチが積極的にバックポートされます。
  2. メンテナンスフェーズ (残り約3年間): 主に重要なバグ修正とセキュリティパッチのみがバックポートされる期間です。この期間中は、新しいマイナーバージョンリリースによってこれらの修正が提供されます。

そして、リリースから5年が経過すると、そのメジャーバージョンは EOL (End-of-Life / サポート終了) となり、コミュニティからの公式なバグ修正やセキュリティパッチの提供が停止されます。例えば、PostgreSQL 11は2018年10月にリリースされ、2023年11月でコミュニティサポートが終了しました。PostgreSQL 12は2019年10月にリリースされ、2024年11月にEOLを迎える予定です。

この「リリースから5年」というサポート期間は、オープンソースプロジェクトとしては比較的長い部類に入りますが、企業の基幹システムなど、一度導入すると数年〜10年以上にわたって同じバージョンを使い続けたいというニーズを持つシステムにとっては、必ずしも十分とは言えません。特に、システムの企画・開発・導入・安定稼働・保守・更改というライフサイクルを考えると、5年という期間はあっという間に過ぎてしまう可能性があります。

システムのライフサイクルがPostgreSQLの標準サポート期間より長い場合、サポートが終了したバージョンを使い続けるか、それともサポート期間内に新しいバージョンへ移行するか、という選択を迫られることになります。サポートが終了したバージョンを使い続けることには、セキュリティリスクの増大や、バグが発生した場合の対応困難化といった大きな課題が伴います。かといって、計画通りにバージョンアップを実施することは、特に大規模システムや複雑なシステムにおいては、多大なコスト(人的リソース、時間、費用)とリスク(互換性問題、サービス停止)を伴うため、容易ではありません。

このような背景から、PostgreSQLの標準サポート期間を延長し、EOL後も安心して利用できるようなサービスへのニーズが生まれてきました。これが、「PostgreSQL LTS」と呼ばれるサードパーティによる長期サポートサービスが登場した理由です。

2. 「PostgreSQL LTS」とは何か?(サードパーティによる長期サポート)

前述の通り、PostgreSQLコミュニティ自体は特定のバージョンに対して「LTS」というラベルを付けたり、標準の5年間以上のサポートを提供したりしていません。コミュニティのリソースは、主に新しいバージョンの開発と、現在のサポート期間内のバージョンに対するメンテナンスに集中しています。これは、PostgreSQLがボランティアベースのオープンソースプロジェクトであるという性質上、特定の旧バージョンに永続的なリソースを割り当て続けることが難しいという側面もあります。

そこで、「PostgreSQL LTS」という言葉が指すのは、PostgreSQLコミュニティの標準サポート期間(5年間)が終了したバージョンに対して、PostgreSQLに関連するビジネスを展開しているサードパーティベンダーが独自に提供する、有償の長期サポートサービスです。

これらのサードパーティベンダーは、PostgreSQLコミュニティで活動している開発者や、PostgreSQLに高度な専門知識を持つエンジニアを擁しています。彼らは、コミュニティが提供を終了した旧バージョンのPostgreSQLに対して、以下のようなサービスを提供することで、企業の長期利用ニーズに応えています。

  • サポート期間の延長: コミュニティのEOL後も、数年間から10年以上にわたるサポートを提供します。
  • セキュリティパッチの提供: EOL後に発見されたセキュリティ脆弱性に対して、該当する旧バージョン向けのパッチを開発・提供します。これは、新しいバージョンのパッチを旧バージョンのコードベースに適用する「バックポート」という技術的な作業を伴います。
  • 重要なバグ修正の提供: セキュリティに関わるものだけでなく、システムの安定性やデータの整合性に関わる重要なバグが発見された場合にも、修正パッチを提供します。
  • 技術サポート: EOLバージョンのPostgreSQLを利用しているユーザーからの問い合わせに対応し、トラブルシューティング、問題解決のための支援を行います。

これらのサービスは、当然ながら無償ではなく、ベンダーとの有償契約に基づいて提供されます。契約内容や提供されるサービスレベル、サポート期間、費用は、ベンダーによって異なります。

つまり、「PostgreSQL LTS」とは、PostgreSQLコミュニティが公式に提供する「特定の長期サポート版」が存在するのではなく、コミュニティ版PostgreSQLの特定の旧バージョンに対して、サードパーティベンダーが独自に提供する「長期保守サービス」を指す総称であると理解することが最も正確です。

企業は、自社のシステムで利用しているPostgreSQLのバージョンがコミュニティのEOLを迎えそうになった際に、すぐに新しいバージョンへ移行することが難しい場合に、このようなサードパーティの長期サポートサービスの利用を検討することになります。

3. サードパーティ製PostgreSQL LTSの具体的なサービス内容

サードパーティベンダーが提供するPostgreSQL LTS(長期サポート)サービスは、提供会社によって詳細な内容は異なりますが、一般的に以下のようなサービスが含まれています。

3.1. 長期にわたるサポート期間の提供

これはLTSサービスの根幹をなすサービスです。PostgreSQLコミュニティによる標準の5年間サポートが終了した後も、さらに数年間(例えば、EOLから3年、5年、あるいはそれ以上)にわたってサポートを継続します。これにより、企業はシステムの更改サイクルに合わせて、PostgreSQLのバージョンアップ計画に猶予を持たせることができます。ベンダーによっては、契約によってサポート期間を柔軟に延長できる場合があります。

3.2. セキュリティパッチのバックポートと提供

PostgreSQLコミュニティのサポートが終了したバージョンでは、その後に発見されたセキュリティ脆弱性に対する公式なパッチは提供されません。これは、サポート終了バージョンを使い続ける上での最大の懸念事項となります。

LTSサービスを提供するベンダーは、新しいバージョンのPostgreSQLで発見・修正されたセキュリティ脆弱性について、その修正内容を分析し、サポート対象の旧バージョンに適用可能な形でパッチを開発します。この作業を「バックポート」と呼びます。そして、開発したパッチを顧客に提供します。

提供形式としては、以下のようなものがあります。

  • バイナリパッケージ: 対象バージョンのPostgreSQL実行ファイルやライブラリを、パッチ適用済みの状態で提供します。多くのユーザーはこの形式を望みます。Linux環境であれば、特定のパッケージリポジトリ(yum/aptなど)を通じて提供されることが多いです。
  • ソースコードパッチ: パッチそのものをソースコード形式で提供します。ユーザー自身がPostgreSQLをコンパイルして適用する必要があります。これは技術的なスキルが必要ですが、環境に合わせてカスタマイズしたい場合などに利用されることがあります。
  • パッチ適用済みのビルド済バイナリ: 特定のOSやアーキテクチャ向けに、ベンダー側でパッチを適用してビルドしたバイナリを提供します。

このセキュリティパッチの提供が、LTSサービスを利用する上で最も重要な動機の一つとなります。これにより、EOLバージョンを使い続けることによるセキュリティリスクを大幅に低減できます。

3.3. 重要なバグ修正のバックポートと提供

セキュリティに関するものだけでなく、システムの安定稼働に重大な影響を与えるようなバグ(例えば、データ破損に繋がる可能性のあるバグ、クラッシュを引き起こすバグなど)がコミュニティのEOL後に発見された場合も、LTSベンダーはこれらのバグに対する修正をバックポートし、顧客に提供します。これにより、予期せぬシステム停止やデータ損失のリスクを低減できます。

ただし、提供されるバグ修正は、一般的に「重要度が高いもの」に限られます。新しい機能に関するバグや、軽微なバグまで全てが修正されるわけではありません。この「重要度」の判断基準はベンダーによって異なります。

3.4. 技術サポート

LTSサービス契約には、通常、対象バージョンのPostgreSQLに関する技術サポートが含まれます。

  • 問い合わせ対応: EOLバージョンのPostgreSQLに関する技術的な疑問や問題について、ベンダーのサポート窓口に問い合わせることができます。
  • トラブルシューティング: システム運用中に発生したエラー、パフォーマンス問題、クラッシュなどのトラブルについて、原因究明や解決策について専門家の支援を受けられます。
  • パッチ適用支援: 提供されたパッチの適用方法に関するアドバイスや、適用作業自体の支援(有償オプションの場合も)を受けられることがあります。

サポートの範囲、対応時間帯(24時間365日対応か、営業時間内か)、応答時間(SLA: Service Level Agreementで保証される)、サポートチャネル(電話、メール、Webフォーム、チャットなど)、そして日本語でのサポートが可能かなどは、ベンダーや契約内容によって大きく異なります。システムの重要度に応じて、必要なサポートレベルを満たしているかを確認することが重要です。

3.5. その他付加価値サービス

LTSベンダーは、長期サポートサービスと組み合わせて、以下のような関連サービスを提供している場合があります。

  • 導入・構築支援: LTS対象バージョンのPostgreSQLの新規導入や、既存環境からの移行に関する支援。
  • コンサルティング: パフォーマンスチューニング、構成設計、障害対策、バックアップ・リカバリ戦略に関する専門的なアドバイス。
  • 監視・運用代行: PostgreSQLサーバーの稼働状況監視、ログ監視、パッチ適用作業、定期メンテナンスなどを代行するサービス。
  • 移行支援: LTSサービスを利用している環境から、新しいPostgreSQLバージョンや別のデータベースへの移行計画策定、および実行支援。

これらの付加価値サービスは、企業の運用負担を軽減したり、専門知識が不足している部分を補ったりする上で役立ちますが、LTS契約に含まれる基本サービスではなく、別途契約や費用が必要となることが一般的です。

このように、サードパーティによるPostgreSQL LTSサービスは、単にサポート期間を延長するだけでなく、EOLバージョンを「安全に」そして「安心して」使い続けるための包括的なサービスとして提供されています。特に、セキュリティパッチと専門家による技術サポートは、EOLバージョンを運用する上で不可欠な要素となります。

4. PostgreSQL LTS(長期サポート版)を利用するメリット

サードパーティが提供するPostgreSQL LTSサービスを利用することには、企業にとって多くのメリットがあります。特に、基幹システムや重要度の高いシステムでPostgreSQLを利用している場合に、そのメリットは大きくなります。

4.1. 安定稼働の確保

PostgreSQLコミュニティのサポートが終了すると、そのバージョンで発見されたセキュリティ脆弱性や重要なバグに対する公式な修正は提供されなくなります。これは、システムを使い続ける上で潜在的なリスクとなります。

LTSサービスを利用することで、EOL後もベンダーからセキュリティパッチや重要なバグ修正が提供されます。これにより、システムの脆弱性を低減し、予期せぬ障害やデータ損失のリスクを回避できます。結果として、システムの安定稼働をより長期間にわたって維持することが可能になります。特に、24時間365日稼働が求められるようなミッションクリティカルなシステムにおいては、この安定稼働の確保は最優先事項の一つです。

4.2. バージョンアップの負担軽減・計画的な実施

PostgreSQLのメジャーバージョンアップは、多くの場合、アプリケーション側の改修や入念なテスト、ダウンタイムを伴う複雑な作業となります。特に大規模なシステムや、PostgreSQLの特定の機能(例えば、レプリケーション設定、拡張機能、カスタム設定など)を深く利用しているシステムでは、バージョンアッププロジェクト全体で数ヶ月から年単位の期間と、多大な人的リソースを要することが珍しくありません。

LTSサービスを利用することで、コミュニティのEOLに縛られることなく、数年間の猶予を得られます。この猶予期間を利用して、企業は自社のビジネス計画やIT予算、人的リソースの状況に合わせて、より計画的かつ段階的に新しいPostgreSQLバージョンへの移行プロジェクトを進めることができます。例えば、「LTSで3年間延命し、その間に次のメジャーバージョンアップに必要な準備を進める」といった戦略が可能になります。急な対応に追われることなく、十分な検証期間を設けることで、バージョンアップに伴うリスクを低減できます。

4.3. コスト削減(短期〜中期)

一見すると、LTSサービスは有償であるためコストが増えるように見えます。しかし、短期〜中期的な視点で見ると、頻繁なバージョンアップに伴うコストと比較して、LTSの方がコスト効率が良い場合があります。

バージョンアップには、以下のような様々なコストが発生します。

  • 開発コスト: アプリケーション側のPostgreSQL新バージョンへの対応改修、テストコード改修など。
  • テストコスト: 新バージョンでの動作検証、パフォーマンステスト、回帰テストなど。システム全体に影響するため広範囲なテストが必要になることが多いです。
  • デプロイ・移行コスト: 新しいPostgreSQL環境の構築、データ移行、切り替え作業。停止時間に伴うビジネス上の機会損失も含まれます。
  • 運用・教育コスト: 新バージョンの運用方法の習得、ドキュメント更新、トラブルシューティング方法の学習。
  • プロジェクト管理コスト: バージョンアッププロジェクトの計画、管理、関係者との調整。

これらのコストは、システムの規模が大きくなるほど、またバージョンアップの頻度が高くなるほど増大します。LTSサービスを利用することで、これらのバージョンアップ関連コストを数年間先送りまたは削減することができます。LTS自体の費用はかかりますが、それがバージョンアップの総コストよりも安価であれば、コスト削減に繋がると言えます。ただし、これはあくまで短期〜中期の話であり、最終的には新しいバージョンへの移行コストは発生することを忘れてはいけません。

4.4. セキュリティリスクの低減

コミュニティサポートが終了したバージョンの最大の懸念点は、新たなセキュリティ脆弱性が見つかっても、それに対するパッチが公式に提供されないことです。これは、システムが既知の、あるいは将来発見される未知の脆弱性にさらされることを意味します。

LTSサービスは、これらのセキュリティ脆弱性に対するパッチを独自に開発・提供することで、このリスクを大幅に軽減します。ベンダーはセキュリティ情報を常に監視しており、発見された脆弱性に対して迅速に対応します。これにより、企業のセキュリティポリシーを遵守しつつ、安心して旧バージョンのPostgreSQLを利用し続けることが可能になります。特に、個人情報や機密情報を取り扱うシステム、外部からの攻撃リスクが高いシステムにおいては、セキュリティリスクの低減は非常に大きなメリットです。

4.5. 技術的な安心感と専門家のサポート

LTSサービス契約には、PostgreSQLの専門家による技術サポートが含まれます。EOLバージョンのPostgreSQLで発生した問題について、自社内に十分な専門知識を持つエンジニアがいない場合でも、ベンダーのサポートを受けることで迅速な問題解決が期待できます。これは、特にマイナーなバージョンや古いバージョンに関する情報は、コミュニティのフォーラムなどでも得にくくなるため、非常に価値があります。専門家の知見に基づいたアドバイスは、問題解決のスピードと正確性を高め、結果としてシステム停止時間を最小限に抑えることに繋がります。

4.6. 特定のOS/ハードウェア/アプリケーションとの互換性維持

特定の古いOS、ハードウェア、あるいはカスタム開発されたアプリケーションが、最新バージョンのPostgreSQLとの互換性問題を抱えている場合があります。これらの依存関係を解消するための改修コストが膨大になる場合、最新バージョンへの移行は現実的ではありません。

LTSサービスは、利用中のPostgreSQLバージョンとその周辺環境との互換性を維持したまま、サポートのみを延長するという選択肢を提供します。これにより、システム全体の刷新が困難な場合でも、データベース層のセキュリティと安定性を確保することができます。これは、特に長期稼働しているレガシーシステムにおいて有効な手段となります。

これらのメリットを総合すると、PostgreSQL LTSサービスは、PostgreSQLの標準サポート期間がシステムのライフサイクルと合わない場合に、セキュリティと安定性を維持しながら、計画的なバージョンアップを実現するための現実的で有効な手段と言えます。

5. PostgreSQL LTS(長期サポート版)のデメリット・考慮事項

PostgreSQL LTSサービスの利用は多くのメリットをもたらしますが、一方でデメリットや考慮すべき点も存在します。サービス導入を検討する際には、これらの点を十分に理解しておくことが重要です。

5.1. コストの発生

PostgreSQLコミュニティ版は無償で利用できますが、サードパーティが提供するLTSサービスは有償です。サポート契約の費用は、対象となるPostgreSQLインスタンスの数、利用しているサーバーのCPUコア数、データ容量、必要なサポートレベル(応答時間、対応時間帯など)、契約期間など、様々な要因によって決定されます。この費用は、運用コストとして継続的に発生します。前述の通り、バージョンアップコストと比較して割安になるケースもありますが、単純な利用コストとしては無償版よりも高くなります。予算計画に含める必要があります。

5.2. 最新機能の利用不可

LTSサービスは、あくまで既存のPostgreSQLバージョンに対するサポートを延長するものです。そのため、当然ながら、サポート対象となっているバージョン以降の新しいメジャーバージョンで追加された最新機能、性能改善、新しいSQL標準への対応などの恩恵を受けることはできません。

例えば、パーティショニング機能の強化、特定のデータ型や関数の追加、クエリプランナーの改善、レプリケーション方式の進化など、新しいバージョンにはPostgreSQLの使い勝手や性能を向上させる多くの変更が含まれています。LTSバージョンを使い続けるということは、これらの最新技術や最適化を利用できないことを意味します。これは、新しいアプリケーションを開発する際や、システムの性能改善を目指す上で制約となる可能性があります。

5.3. 最新の環境との互換性問題の可能性

LTS対象となるPostgreSQLバージョンは、リリースされてから数年以上が経過しています。その間に、オペレーティングシステム(OS)、ハードウェア、関連ミドルウェア(例えば、接続ドライバー、監視ツールなど)は進化し続けます。古いPostgreSQLバージョンが、最新のOSバージョンや新しいハードウェア構成で十分にテストされていない、あるいは既知の互換性問題を抱えている可能性があります。

LTSベンダーが提供するパッチは、PostgreSQL自体の問題に対応するものですが、周辺環境との互換性問題を解決するとは限りません。システム全体のアップデートを検討する際には、PostgreSQLのバージョンだけでなく、OSやハードウェア、アプリケーション、ミドルウェアなども含めた互換性を確認する必要があります。LTSを利用する場合でも、OSなどのバージョンアップ時には注意が必要です。

5.4. 特定ベンダーへの依存(ベンダーロックイン)

LTSサービスは特定のサードパーティベンダーによって提供されます。これは、そのベンダーのサポート体制や技術力、事業継続性に依存することになります。もし将来的にベンダーのサービス内容が変更されたり、サポートが打ち切られたりした場合、別のベンダーに乗り換えるか、急遽バージョンアップを実施する必要が生じる可能性があります。

契約内容をよく確認し、サポート期間中にベンダーが事業を継続できるか、サポートレベルを維持できるかといった点も考慮に入れる必要があります。複数のLTS提供ベンダーが存在する場合、サービスの比較検討だけでなく、ベンダー自体の信頼性や実績も評価基準に含めることが重要です。

5.5. 根本的な解決策ではない(一時的な延命措置)

最も重要な考慮事項は、LTSサービスはあくまで「一時的な延命措置」であるということです。LTSを利用することで数年間はコミュニティのEOLを気にせず運用できますが、LTSベンダーのサポートもいつかは終了します。そして、LTSバージョンは時間が経つほど陳腐化し、最新バージョンとの機能差や性能差は開いていきます。

そのため、LTSサービスはバージョンアップを回避するためのものではなく、バージョンアップ計画を立て、実行するための猶予期間を得るためのものと捉えるべきです。LTS契約期間中に、必ず新しいPostgreSQLバージョンへの移行計画を策定し、必要なリソースを確保し、移行プロジェクトを実行する必要があります。LTSに頼りすぎてバージョンアップを永久に先送りすることは、将来的にさらに大きな問題(例えば、移行先のバージョンの選択肢が狭まる、古い環境から新しい環境への移行がより複雑になるなど)を引き起こす可能性があります。

5.6. パッチ適用の責任は自社(または委託先)にあり

LTSベンダーはセキュリティパッチやバグ修正を提供しますが、提供されたパッチを実際にシステムに適用する作業は、通常、ユーザー企業自身(またはシステム運用を委託している会社)が行う必要があります。パッチ適用作業には、事前のテスト、システム停止(必要に応じて)、適用作業、適用後の確認といった手順が必要です。

このパッチ適用作業は、システム停止を伴う場合もあり、システムの重要度によっては慎重な計画とテストが必要です。ベンダーはパッチ自体の提供や適用方法のアドバイスは行いますが、実際の適用作業のリスク管理や実行責任はユーザー側にあります。フルマネージドサービスの一部としてパッチ適用まで含まれる場合は別ですが、一般的なLTS契約ではこの点は考慮が必要です。

これらのデメリットや考慮事項を踏まえ、LTSサービスを利用することが自社にとって本当に最適な選択肢なのか、費用対効果はどうか、そしてLTS利用期間中にどのようにバージョンアップ計画を進めるのかを慎重に検討する必要があります。

6. PostgreSQL LTS(長期サポート版)の選び方

PostgreSQL LTSサービスを提供しているベンダーは複数存在します。自社のシステムに最適なサービスを選択するためには、いくつかの重要なポイントを比較検討する必要があります。単に「長期サポート」というだけでなく、具体的なサービス内容、費用、そしてベンダーの信頼性を総合的に評価することが重要です。

6.1. 自社のニーズと現状分析

LTSサービスを選ぶ前に、まず自社の現状とニーズを明確に把握することが第一歩です。

  • 現在利用中のPostgreSQLバージョンとEOL時期: コミュニティサポートがいつ終了するのかを正確に把握します。
  • システムの重要度: そのPostgreSQLが稼働しているシステムは、どの程度重要か(基幹システムか、社内ツールか、外部公開サービスかなど)。停止が許されないシステムであれば、より高品質なサポートが必要になります。
  • バージョンアップ計画の状況: 現在、PostgreSQLのバージョンアップ計画はありますか? あるとすれば、いつ頃、どのバージョンへの移行を予定していますか? その計画は実現可能ですか?
  • システムのライフサイクル: そのシステムはあと何年稼働させる予定ですか? LTSによるサポート期間は、このシステムの残りのライフサイクルをカバーできる必要があります。
  • 社内の技術リソース: PostgreSQLの運用管理やトラブルシューティング、バージョンアップ作業を自社で行える技術者はどの程度いますか? 不足している部分は外部サポートで補う必要がありますか?
  • セキュリティポリシー: EOLバージョンの利用に関する社内または業界のセキュリティ要件はありますか? LTSのセキュリティパッチ提供でその要件を満たせますか?
  • 予算: LTSサービスにどの程度の費用をかけられますか? バージョンアップコストと比較して費用対効果はどうか?

これらの点を整理することで、LTSサービスに求める要件が明確になります。

6.2. 提供ベンダーの比較検討

自社のニーズが明確になったら、LTSサービスを提供している複数のベンダーを比較検討します。主な比較ポイントは以下の通りです。

  • サポート期間:
    • 必要な期間(例えば、現在のEOLからあと何年)をカバーできるサポート期間を提供していますか?
    • 契約期間の選択肢は豊富ですか(年単位、複数年契約など)?
    • 将来的なサポート期間延長の可能性はありますか?
  • サポート対象バージョン:
    • 現在利用しているPostgreSQLのメジャーバージョンが、ベンダーのLTSサポート対象に含まれていますか?
    • 複数のバージョンをサポートしているか?(将来的に別のLTSバージョンに移行する可能性も考慮)
  • サポート内容:

    • パッチ提供範囲: セキュリティパッチは提供されるか? 重要なバグ修正も提供されるか? 提供されるパッチの対象範囲(全てのバグか、特定のものか)は?
    • パッチ提供頻度と迅速性: 新しい脆弱性や重要なバグが発見されてから、どのくらいの期間でパッチが提供されますか? 定期的なパッチリリースはありますか?
    • パッチ提供形式: バイナリパッケージ、ソースコード、あるいは特定のパッケージリポジトリで提供されますか? 自社の運用体制に合った形式ですか?
    • 技術サポートの質:
      • サポート対応時間帯(24時間365日か、営業時間内か)。システムの稼働時間帯に合っていますか?
      • SLA(Service Level Agreement)は定義されていますか? (例: 問い合わせへの応答時間目標、問題解決時間目標など)
      • サポート窓口の専門性(PostgreSQLに関する深い知識を持ったエンジニアが対応するか)。
      • サポートチャネル(電話、メール、Web、チャットなど)。使いやすいチャネルは提供されていますか?
      • 日本語でのサポートは可能ですか?
      • オンサイトサポートやリモート接続による詳細調査は可能ですか?(有償オプションの場合も含む)
    • 付加サービス: 監視、運用代行、コンサルティング、移行支援など、LTS以外の関連サービスも必要ですか? ベンダーはそれらのサービスも提供していますか?
  • 実績と信頼性:

    • ベンダーのPostgreSQLに関する実績は豊富ですか? コミュニティへの貢献度は?
    • 同規模または同業種の企業でのサポート実績はありますか? 可能であれば、顧客事例や評判を確認します。
    • 企業の経営状況は安定していますか? 長期間にわたってサポートを継続できる信頼性はありますか?
  • 費用:
    • サポート費用は妥当ですか? 費用の算出基準(CPUコア数、インスタンス数、データ量など)は明確ですか?
    • 契約期間による費用の違いはありますか?
    • 初期費用や隠れた費用はありませんか?
    • バージョンアップ費用や自社運用コストと比較して、費用対効果はありますか?
  • 契約条件:
    • 契約期間、支払い条件、解約条件などを確認します。
    • サポート範囲、免責事項など、SLAの詳細を確認します。

6.3. 比較検討の進め方

  1. 候補ベンダーのリストアップ: PostgreSQL LTSサービスを提供している複数のベンダーをリストアップします。主要なPostgreSQL関連企業(例えば、EDB, 富士通, NTT OSSセンタ, SRA OSSなど)が提供していることが多いです。
  2. 情報収集: 各ベンダーのWebサイトでサービス内容、対象バージョン、サポートレベルなどの情報を収集します。
  3. 問い合わせ・見積もり依頼: 興味を持ったベンダーに直接問い合わせ、詳細なサービス内容の説明を受け、自社の環境やニーズに基づいた見積もりを依頼します。この際に、疑問点や懸念事項を具体的に質問します(例: 「特定の脆弱性に対するパッチ提供実績は?」「〇〇のようなトラブルが発生した場合の対応フローは?」など)。
  4. サービス内容と費用の比較検討: 複数のベンダーから得た情報と見積もりを比較します。単に費用だけでなく、サポート内容、品質、ベンダーの信頼性なども含めて総合的に評価します。
  5. 可能であればトライアルや顧客事例の確認: ベンダーによっては、短期のトライアルを提供していたり、既存顧客からの紹介を受けられたりする場合があります。実際のサポート対応の質などを確認できるとより安心です。
  6. 社内での最終決定: 比較検討の結果を踏まえ、LTS導入によるメリット・デメリット、費用対効果、そして将来的なバージョンアップ計画との整合性などを考慮して、社内で最終的な導入決定を行います。

LTSサービスの選択は、システムの安定稼働とセキュリティ、そして将来のIT戦略に大きく影響します。時間をかけて複数の選択肢を比較検討し、自社にとって最適なパートナーとサービスを見つけることが成功の鍵となります。

7. PostgreSQL LTS導入を検討すべきケース

ここまで解説してきたメリット・デメリットと選び方を踏まえ、具体的にどのような状況にある企業がPostgreSQL LTSサービスの導入を検討すべきかをまとめてみましょう。

  • システムの重要度が非常に高く、短期間でのバージョンアップが困難な場合:

    • 24時間365日稼働が求められる基幹システム、金融システム、公共インフラなど。
    • 大規模なシステムで、バージョンアップに伴うテストや移行作業に膨大な時間とリソースが必要な場合。
    • システムの停止時間がビジネスに与える影響が極めて大きい場合。
      このようなシステムでは、コミュニティのEOLに合わせて急いでバージョンアップを行うことが難しいため、LTSによる猶予期間が有効です。
  • 利用中のPostgreSQLバージョンが近くEOLになるが、すぐに移行するリソースや予算がない場合:

    • IT部門の人員が不足しており、バージョンアッププロジェクトに十分なリソースを割けない。
    • バージョンアップに必要な予算が、現在の会計期間では確保できない。
    • 他の優先度の高いプロジェクトが進行中で、PostgreSQLのバージョンアップに着手できない。
      LTSは、このような時間的、リソース的制約がある場合に、リスクを最小限に抑えながら移行計画を立てるための時間稼ぎとして機能します。
  • 特定の古いOSやアプリケーションとの互換性維持が必須で、最新版への移行が技術的に難しい場合:

    • システム全体が特定の古い環境に依存しており、PostgreSQLだけをバージョンアップすると互換性問題が発生する。
    • アプリケーションのコードがPostgreSQLの特定の古い機能や挙動に強く依存しており、改修コストが大きい。
    • 利用している特定のサードパーティ製ミドルウェアやツールが、最新のPostgreSQLバージョンをサポートしていない。
      やむを得ず古い環境を使い続けなければならない場合、LTSはデータベース層のセキュリティと安定性を維持するための現実的な選択肢となります。
  • セキュリティ要件が厳しく、EOLバージョンの利用がリスクとなるが、移行猶予が必要な場合:

    • 個人情報や機密情報を取り扱うシステムで、セキュリティ監査やコンプライアンス要件が厳しい。
    • 特定のセキュリティポリシー(例: サポート切れソフトウェアの利用禁止)に違反しないための猶予が必要。
      LTSが提供するセキュリティパッチは、このような厳しいセキュリティ要件を満たしつつ、計画的な移行を進めるための期間を提供します。
  • 社内のPostgreSQLに関する専門知識が不足しており、EOLバージョンでのトラブル対応に不安がある場合:

    • PostgreSQLの深い知識を持つエンジニアが社内にいない、あるいは限られている。
    • EOLバージョンに関する技術情報がコミュニティから得にくくなることへの不安。
      LTSに含まれる専門家による技術サポートは、このような場合に大きな安心感をもたらします。

ただし、LTSはあくまで一時的な解決策であり、最終的には新しいバージョンへの移行が必要であるという点を常に念頭に置いておく必要があります。これらのケースに当てはまる場合でも、「なぜバージョンアップが遅れているのか」という根本原因を特定し、LTS期間中にそれを解消するための計画(予算確保、リソース確保、技術負債解消など)を同時に進めることが不可欠です。

8. PostgreSQL LTS導入以外の選択肢

PostgreSQLの標準サポート期間終了が迫った際に検討できる選択肢は、LTSサービスの利用だけではありません。状況によっては、LTS以外の方法がより適切である場合もあります。

  • 計画的なバージョンアップを実施する:

    • これは最も推奨される本来の姿です。システムのライフサイクルに合わせて、定期的にPostgreSQLのバージョンアップを計画し、必要なリソース(人員、予算、時間)を確保して実行します。
    • メリット: 最新の機能や性能改善を利用できる、セキュリティリスクを常に低く保てる、ベンダー依存がない、長期的な運用コストが抑えられる可能性。
    • デメリット: バージョンアップに伴うコストとリスク(開発、テスト、移行)、プロジェクト管理の負担。
  • PostgreSQLをベースとした商用データベース製品やフォーク版を利用する:

    • 一部のベンダーは、コミュニティ版PostgreSQLをベースに、独自の拡張機能や運用管理ツール、そして長期サポートを組み込んだ商用製品を提供しています(例: EDB Postgres Advanced Serverなど)。
    • メリット: コミュニティ版よりも長いサポート期間が保証されていることが多い、商用ならではの豊富な機能やツールが含まれる場合がある、充実したサポート体制。
    • デメリット: ライセンス費用が発生する、コミュニティ版との差異があるため移行が必要になる場合がある、特定のベンダーに依存する。
  • マネージドデータベースサービスを利用する:

    • AWS RDS for PostgreSQL, GCP Cloud SQL for PostgreSQL, Azure Database for PostgreSQLなどのクラウドプロバイダーが提供するマネージドサービスを利用します。
    • メリット: データベースのインストール、設定、パッチ適用、バックアップ、スケーリングなどをクラウドプロバイダーが管理してくれるため運用負担が大幅に軽減される、高い可用性や拡張性が容易に実現できる。
    • デメリット: 利用できるPostgreSQLのバージョンに制約がある場合がある、カスタム設定に制限がある場合がある、ベンダーロックインのリスク、コスト構造が異なる(従量課金制など)。マネージドサービス側がバージョンアップを自動的に実施する場合があり、完全にコントロールできない場合がある。
  • コミュニティのサポート終了バージョンを使い続ける(非推奨):

    • セキュリティリスクやバグ発生のリスクを許容し、サポート契約なしにEOLバージョンを使い続けます。
    • メリット: 追加コストが発生しない。
    • デメリット: セキュリティ脆弱性に対する保護がない(重大な情報漏洩やシステム侵害のリスク)、バグが発生しても修正が適用できない、障害発生時の対応が困難、保険や監査などで問題になる可能性。これは最もリスクが高く、企業の信頼性に関わる選択肢であるため、基本的に推奨されません。

これらの選択肢の中で、LTSサービスは「計画的なバージョンアップが難しい場合に、セキュリティと安定性を維持しながら猶予期間を得る」という、特定の課題に対するソリューションとして位置づけられます。どの選択肢を選ぶかは、自社のシステム特性、重要度、予算、技術リソース、そしてリスク許容度などを総合的に判断して決定する必要があります。多くの場合は、LTSは「バージョンアップまでの繋ぎ」として利用され、最終的には新しいバージョンへの移行が目標となります。

9. まとめ

この記事では、「PostgreSQL LTS」とは何か、その実態、メリット・デメリット、そして選び方について詳細に解説しました。

PostgreSQLには、コミュニティが公式に提供する「LTS版」というものは存在しません。一般的に「PostgreSQL LTS」と呼ばれるものは、PostgreSQLコミュニティによる標準の5年間サポート期間が終了したバージョンに対して、サードパーティベンダーが有償で提供する「長期サポートサービス」を指します。

この長期サポートサービスは、コミュニティのEOL後も、セキュリティパッチの提供、重要なバグ修正のバックポート、そして技術サポートなどを通じて、対象バージョンのPostgreSQLを安全かつ安定して利用し続けることを可能にします。

PostgreSQL LTSサービスの主なメリットとしては、以下の点が挙げられます。

  • 安定稼働の確保: EOL後もセキュリティリスクや重大なバグからシステムを保護します。
  • バージョンアップの負担軽減・計画的な実施: コミュニティのEOLに縛られず、自社のペースで計画的にバージョンアップを進める猶予期間を得られます。
  • コスト削減(短期〜中期): 頻繁なバージョンアップに伴うコストを抑制できる可能性があります。
  • セキュリティリスクの低減: EOLバージョンを使い続けることによる潜在的なセキュリティリスクを回避できます。
  • 技術的な安心感: 専門家によるサポートにより、トラブル発生時も迅速な対応が期待できます。
  • 特定の環境との互換性維持: レガシーな環境で新しいバージョンへの移行が困難な場合に有効です。

一方で、LTSサービスのデメリット・考慮事項としては、以下の点が重要です。

  • コスト発生: サードパーティへの有償サポート費用が必要です。
  • 最新機能の利用不可: 新しいPostgreSQLバージョンで追加された機能や性能改善は利用できません。
  • 特定のベンダーへの依存: サポートを提供するベンダーに依存することになります。
  • 一時的な延命措置: LTSはあくまでバージョンアップまでの繋ぎであり、最終的な移行は必須です。
  • パッチ適用の責任: パッチ自体は提供されますが、システムへの適用は自社で行う必要があります。

PostgreSQL LTSサービスを選ぶ際には、自社の現状とニーズ(利用バージョン、システムの重要度、バージョンアップ計画、予算など)を明確にした上で、複数のベンダーが提供するサービス内容(サポート期間、対象バージョン、パッチ提供範囲と形式、技術サポートレベルなど)、費用、そしてベンダー自体の実績と信頼性を比較検討することが不可欠です。

結論として、PostgreSQL LTSは、PostgreSQLの標準サポート期間がシステムのライフサイクルやバージョンアップ計画と合わない場合に、セキュリティと安定性を維持しながら、計画的な移行を実現するための有効な選択肢となります。しかし、それはあくまで「計画的にバージョンアップを行うための猶予」であり、LTSに依存し続けるのではなく、LTS期間中に新しいバージョンへの移行計画を確実に実行することが、長期的な視点でのシステム運用において最も重要であるという点を忘れてはなりません。

付録:主要なPostgreSQL LTS提供ベンダー(例)

PostgreSQL LTSサービスは様々な企業によって提供されています。代表的なベンダーの例を以下に挙げますが、これらは網羅的なリストではなく、また提供されるサービス内容や対象バージョンは常に変動する可能性があります。具体的な検討にあたっては、各社の公式情報を確認し、直接問い合わせることを推奨します。

  • EnterpriseDB (EDB): PostgreSQLをベースにした商用データベース製品や、コミュニティ版PostgreSQLに対するサポートを提供しています。長期サポートもそのサービスラインナップに含まれる場合があります。
  • 富士通: 企業向けにPostgreSQLのエンタープライズサポートを提供しており、その中で長期保守サービスを提供している場合があります。
  • NTT OSSセンタ: PostgreSQLコミュニティでも活発に活動しており、PostgreSQLのサポートサービスを提供しています。長期保守に関する相談も可能です。
  • SRA OSS, Inc. 日本支社: 日本国内におけるPostgreSQLの著名なサポート提供企業の一つで、エンタープライズ向けに長期サポートを含む様々なサービスを提供しています。

これらのベンダー以外にも、国内外の様々なIT企業がPostgreSQLに関するサポートサービスを提供しています。自社のシステム環境や運用体制、そして必要なサポートレベルに合わせて、最適なベンダーを探してください。

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