RHEL 10 紹介:システム管理者が知るべきこと

RHEL 10 紹介:システム管理者が知るべきこと

はじめに

Red Hat Enterprise Linux (RHEL) は、エンタープライズIT環境におけるデファクトスタンダードとして、その安定性、信頼性、セキュリティ、そして長期サポートにより、世界中の組織に採用されています。システム管理者にとって、新しいメジャーリリースが登場することは、システムのアーキテクチャ、管理ツール、セキュリティ体制、そして運用戦略に大きな影響を与えるため、その変更点を深く理解することが不可欠です。

RHEL 10 は、この進化の次の大きな一歩となります。デジタル変革が加速し、クラウド、コンテナ、自動化がますます重要になる現代において、RHEL 10 はこれらの要求に応えるための基盤を提供することを目指しています。本記事では、システム管理者の視点から、RHEL 10 で予想される変更点、新機能、そしてそれらが日々の業務にどのように影響するかについて、詳細に解説します。

注意点: 本記事は、公開されているRed Hatのロードマップ、開発情報、およびRHELの過去のリリースパターンに基づいた予測を含みます。RHEL 10の公式リリース時に、一部の内容が変更される可能性があることをご承知おきください。最新かつ正確な情報は、公式リリースノートおよびRed Hatのドキュメントで必ずご確認ください。

1. RHEL 10 の位置づけと重要性

RHELは、約3年ごとに新しいメジャーバージョンをリリースし、それぞれに長期のライフサイクルサポートを提供します。RHEL 8およびRHEL 9に続くRHEL 10は、今後10年以上にわたって企業のITインフラを支える核となる可能性を秘めています。システム管理者は、RHEL 10への移行を計画する上で、以下の点を考慮する必要があります。

  • 最新のハードウェアとソフトウェアサポート: 新しいCPUアーキテクチャ、GPU、ネットワークカード、ストレージデバイスなど、最新のハードウェアを最大限に活用するためには、新しいカーネルとドライバーのサポートが不可欠です。RHEL 10は、リリース時点での最新技術に対応します。
  • セキュリティの強化: サイバー脅威は日々進化しています。RHEL 10は、オペレーティングシステムレベルでのセキュリティ機能(SELinux、ファイアウォール、暗号化ポリシーなど)を強化し、より強固な防御を提供します。
  • パフォーマンスと効率の向上: カーネルのスケジューラ改善、ファイルシステム最適化、ネットワークスタックの改良などにより、アプリケーションのパフォーマンス向上やリソースの効率的な利用が期待できます。
  • 自動化と管理性の向上: システムの規模が増大するにつれて、自動化は不可欠です。RHEL 10は、Ansibleなどの自動化ツールとの連携を強化し、管理者の負担を軽減する新しい管理ツールや機能を提供するでしょう。
  • クラウドおよびコンテナへの対応: ハイブリッドクラウド環境やコンテナベースのワークロードが増加する中で、RHEL 10はこれらの環境で最適に動作し、管理するための機能を提供します。

システム管理者は、これらの要素を理解し、RHEL 10が自社の技術スタックやビジネス要件にどのように適合するかを評価する必要があります。

2. コアシステムと基盤の変更

RHEL 10の最も根本的な変更点は、オペレーティングシステムの基盤となるコンポーネントのアップデートです。

  • Linux カーネル: RHEL 10は、おそらくリリース時点での比較的新しい長期サポート(LTS)カーネルを採用するでしょう。これにより、最新のハードウェアサポート、パフォーマンス最適化、新しいセキュリティ機能(eBPFの強化、cgroups v2の完全サポート、ネットワーキングスタックの改良など)が提供されます。管理者は、新しいカーネルモジュールが必要になる場合や、特定のハードウェアベンダーのドライバーとの互換性を確認する必要があるでしょう。
  • glibc (GNU C Library): glibcのアップデートは、システム上のほぼすべてのアプリケーションに影響します。RHEL 10では、新しいglibcバージョンが採用され、パフォーマンスの向上や新しい標準への対応が進むと予想されます。ただし、古い、またはABI互換性に厳密に依存する独自アプリケーションとの互換性テストは必須です。
  • systemd: systemdはRHELにおけるサービス管理、システム起動、ログ管理の中核です。RHEL 10では、より新しいsystemdバージョンが搭載され、cgroups v2との連携強化、ユニットファイルの新しい機能、ログ管理(journald)の改善などが含まれる可能性があります。管理者は、既存のsystemdユニットファイルが引き続き機能するか、または新しい推奨設定があるかを確認する必要があります。
  • コンパイラコレクション (GCC) とツールチェーン: GCC、Binutils、GDBなどの開発ツールチェーンは、新しいバージョンにアップデートされます。これは、新しいアプリケーションのビルドやデバッグに影響するだけでなく、システム上のライブラリやコマンドのビルドにも影響します。特定のコンパイラバージョンに依存するアプリケーションを運用している場合、互換性テストが必要です。
  • その他の基盤ライブラリ: OpenSSL、zlib、libicuなど、システムが依存する多くのライブラリがアップデートされます。これらのアップデートはセキュリティ修正やパフォーマンス改善をもたらしますが、アプリケーションの互換性に影響する可能性もあります。特に、静的リンクされたアプリケーションや、特定のライブラリバージョンを期待するアプリケーションには注意が必要です。

システム管理者は、これらの基盤コンポーネントの変更が、既存のワークロード、特にレガシーアプリケーションやサードパーティ製ソフトウェアに与える影響を慎重に評価し、必要なテスト計画を立てる必要があります。

3. パッケージ管理とソフトウェア配布

RHEL 10でも、ソフトウェアの管理は引き続きDNF (Dandified Yum) が中心となります。AppStreamリポジトリとモジュールストリームの概念も引き継がれるでしょうが、DNF自体のバージョンアップや機能強化が予想されます。

  • DNF v5 (予測): アップストリームの動向から、RHEL 10ではDNFのメジャーバージョンアップ(v5)が採用される可能性があります。DNF v5は、パフォーマンスの向上、より堅牢なトランザクション処理、プラグイン機構の改善、そして内部アーキテクチャの変更(例えば、libsolvの統合強化)をもたらすことが期待されています。管理者は、既存のDNFスクリプトやワークフローが引き続き機能するかを確認し、新しいコマンドオプションや挙動変更がないかドキュメントを確認する必要があります。
  • AppStreamとモジュールストリームの進化: AppStreamリポジトリは、OSコア以外の多様なアプリケーションやランタイムを提供し、モジュールストリームは特定のソフトウェア(例:Python、Node.js、データベース)の複数のバージョンを同時に提供する仕組みです。RHEL 10では、提供されるモジュールストリームの種類が増加したり、特定のストリームのデフォルトバージョンが変更されたりすることが考えられます。管理者は、必要なソフトウェアバージョンがどのストリームで提供されるか、そしてどのバージョンがデフォルトになるかを確認する必要があります。
  • RPM パッケージ形式: RPMパッケージ形式自体に大きな変更はないと予想されますが、新しいパッケージングガイドラインや推奨事項が導入される可能性があります。
  • ソフトウェアのライフサイクル管理: モジュールストリームは、特定のソフトウェアバージョンに対するサポート期間を定義します。管理者は、利用しているソフトウェアストリームのライフサイクルを確認し、適切なアップグレード計画を立てる必要があります。古いストリームは新しいRHELリリースで廃止される可能性があるため、これにも注意が必要です。

ソフトウェア管理はシステム管理者の日常業務の核となる部分です。RHEL 10でのDNFやリポジトリ構造の変更点を早期に把握し、テスト環境で十分に検証することが推奨されます。

4. セキュリティ機能の強化

セキュリティはRHELの最優先事項であり、RHEL 10でもセキュリティ機能の強化が継続されるでしょう。

  • SELinux (Security-Enhanced Linux): SELinuxポリシーは、システムのセキュリティ境界を強制するための重要なメカニズムです。RHEL 10では、新しいシステムサービスや機能に対応するためのポリシーアップデート、パフォーマンスの向上、そして管理性を高めるためのツールの改善が期待されます。新しいポリシーによって、既存のアプリケーションやカスタム設定にパーミッション関連の問題が発生する可能性があるため、デプロイ前に十分なテストが必要です。
  • ファイアウォール (firewalld): firewalldは動的なファイアウォール管理ツールです。RHEL 10では、新しいネットワークプロトコルやサービスへの対応、パフォーマンスの向上、そして設定インターフェース(CLIおよびGUI)の改善が行われる可能性があります。より複雑なネットワークポリシーやゾーン設定の管理が容易になることが期待されます。
  • 暗号化ポリシー (Cryptographic Policies): システム全体の暗号化設定を一元管理する暗号化ポリシーは、新しい標準(例えば、TLS 1.3のデフォルト化、より強力な鍵交換メカニズム、ポスト量子暗号への備えなど)に対応するためにアップデートされるでしょう。これにより、システムのセキュリティレベルが自動的に向上しますが、古いシステムや互換性の低いクライアントとの通信に影響する可能性があります。管理者は、システムの暗号化ポリシーがビジネス要件と互換性のあることを確認する必要があります。
  • Identity Management (IdM/FreeIPA): IdMは、集中型認証、認可、およびシステム管理のためのソリューションです。RHEL 10では、アップストリームであるFreeIPAの新しい機能が取り込まれ、パフォーマンス、レプリケーション、Sambaとの連携、および新しい認証方法(例:FIDO2/WebAuthn)のサポートが強化される可能性があります。IdMを運用している管理者は、これらの変更点を評価し、アップグレード計画に含める必要があります。
  • 認証メカニズム (PAM, SSSD): Pluggable Authentication Modules (PAM) と System Security Services Daemon (SSSD) は、ユーザー認証と情報取得を扱います。これらのコンポーネントもアップデートされ、新しい認証ソース(クラウドベースのディレクトリサービスなど)への対応や、パフォーマンス、信頼性の向上が図られるでしょう。
  • セキュリティ監査 (auditd): システムコールの監査を行うauditdも、新しいカーネル機能やシステムイベントを効率的に記録できるよう改善される可能性があります。監査ログの管理、集約、分析がより重要になる中で、これらの改善は有用です。
  • OpenSCAPとセキュリティプロファイル: OpenSCAP (Security Content Automation Protocol) は、システムのセキュリティコンプライアンス評価を自動化します。RHEL 10では、新しいSCAPコンテンツとプロファイルが提供され、特定のセキュリティ基準(CIS、PCI DSS、NISTなど)への準拠をより容易に評価できるようになります。

システム管理者は、これらのセキュリティ機能の変更を把握し、既存のセキュリティポリシーや手順を見直し、RHEL 10環境でのテストを通じて潜在的な問題を特定・解決する必要があります。特に、互換性に関する問題(SELinuxポリシー違反、暗号化ハンドシェイクの失敗など)は、デプロイ前に徹底的に検証すべきです。

5. ネットワーク機能の進化

ネットワークはシステムの接続性にとって不可欠であり、RHEL 10でもネットワーク機能の強化が期待されます。

  • NetworkManager: NetworkManagerは、サーバーおよびデスクトップ環境におけるネットワーク設定のデフォルトツールです。RHEL 10では、より新しいNetworkManagerバージョンが搭載され、新しいハードウェアサポート、ボンディングやチーミング設定の改善、VPNプロトコルの追加サポート(例:WireGuardのネイティブサポート強化)、そして宣言的なネットワーク設定のサポート強化が行われる可能性があります。管理者は、nmcliコマンドやネットワーク設定ファイルの変更点を確認する必要があります。
  • ネットワーキングスタック (カーネルレベル): カーネルレベルでのネットワーキングスタックの改良は、パフォーマンス、スケーラビリティ、そして新しいプロトコルへの対応に影響します。TCP/IPスタックのチューニングオプションの追加、eBPFによるパケット処理の強化、そしてネットワーク名前空間や仮想ネットワークインターフェースの機能拡張などが考えられます。
  • IPv6のサポート強化: IPv6はますます重要になっています。RHEL 10では、IPv6関連機能の安定性とパフォーマンスが向上し、より大規模なIPv6デプロイメントに対応するためのツールや設定オプションが提供されるでしょう。
  • DNS、DHCP、NTP: BIND (DNS), ISC DHCP (DHCP), Chrony (NTP) などの主要なネットワークサービスデーモンも、新しいバージョンにアップデートされ、セキュリティ修正、パフォーマンス向上、新しい機能が追加される可能性があります。
  • ネットワークトラブルシューティングツール: iproute2スイート、ssコマンド、tcpdumpなどのネットワークトラブルシューティングツールもアップデートされ、新しいカーネル機能やプロトコルに対応し、より詳細なネットワーク状態の情報を提供できるようになるでしょう。

管理者は、ネットワーク設定の移行パス、新しい設定オプション、そして潜在的な互換性の問題を評価する必要があります。特に、カスタムのネットワークスクリプトや設定を使用している場合は、RHEL 10での動作をテストする必要があります。

6. ストレージとファイルシステム

ストレージ管理はシステム運用の重要な側面であり、RHEL 10でも関連コンポーネントの改善が見込まれます。

  • XFS: RHELのデフォルトファイルシステムであるXFSは、引き続きRHEL 10でも中心的な役割を果たすでしょう。より新しいXFSバージョンでは、スケーラビリティ、パフォーマンス、そして信頼性の向上が図られる可能性があります。特に、大容量ファイルシステムや高IOPSワークロードにおけるパフォーマンス改善が期待されます。
  • LVM (Logical Volume Management): LVMは柔軟なストレージ管理を提供します。RHEL 10では、新しいLVM機能、パフォーマンス改善、そして管理ツールの使いやすさ向上などが含まれる可能性があります。スナップショット機能やシンプロビジョニングなど、既存機能の安定性向上も期待されます。
  • Stratis: Stratisは、ファイルシステムとボリューム管理を統合した新しいストレージ管理ソリューションです。RHEL 10でもStratisが引き続きサポートされ、機能強化や安定性向上が進むでしょう。よりシンプルでモダンなストレージ管理を求める管理者にとっては、Stratisの進化は注目ポイントです。
  • btrfs: RHELではデフォルトでサポートされていませんが、オプションとして、あるいは特定のユースケース向けにbtrfsが提供される可能性もゼロではありません。ただし、RHELのエンタープライズ向けフォーカスを考えると、XFSとLVMが引き続き主要な選択肢となるでしょう。
  • ストレージ関連ツール: fdisk, parted, xfs_info, lvmコマンド群など、ストレージ管理に利用されるコマンドラインツールもアップデートされ、新しい機能やオプションが追加される可能性があります。
  • デバイスマッパー (DM): デバイスマッパーは、LVM、暗号化(dm-crypt)、マルチパスI/O(dm-multipath)などの基盤となるレイヤーです。パフォーマンスと信頼性の向上が図られるでしょう。

ストレージ構成はシステムの基盤であり、RHEL 10への移行前に既存のストレージ構成が新しいOSでサポートされるか、新しい機能が既存のワークロードにどのようなメリットをもたらすかを評価することが重要です。特に、デバイスマッパーやカスタムスクリプトに依存している場合は注意が必要です。

7. 仮想化とコンテナ

仮想化とコンテナは、現代のインフラ戦略において中心的な役割を担っています。RHEL 10は、これらの技術を強力にサポートし続けるでしょう。

  • KVM (Kernel-based Virtual Machine): RHELはKVMハイパーバイザをネイティブにサポートしています。RHEL 10では、新しいカーネルの機能(例:vCPUスケジューリングの改善、メモリ管理の効率化)を活用したKVMのパフォーマンス向上、新しいCPU機能(例えば、セキュリティ拡張や仮想化支援機能)への対応、そして仮想マシンの管理ツール(libvirt、virsh)の機能強化が期待されます。
  • Podman, Buildah, Skopeo: Red Hatはコンテナ管理ツールとしてPodmanスイート(Podman, Buildah, Skopeo)を推進しています。RHEL 10では、これらのツールが最新バージョンにアップデートされ、rootlessコンテナ機能の安定性向上、新しいコンテナイメージフォーマットやランタイムへの対応、そしてKubernetes/OpenShiftとの連携強化が進むでしょう。
  • CRI-O: KubernetesのコンテナランタイムインターフェースであるCRI-Oも、RHEL 10のコンテナ戦略の重要な一部としてアップデートされます。これにより、RHELがKubernetesノードとしてより効率的かつ安全に機能するようになります。
  • コンテナイメージ: RHEL 10ベースのUniversal Base Image (UBI) が提供されるでしょう。UBI 10は、RHEL 10のライブラリとランタイムを含み、コンテナ化されたアプリケーションの構築とデプロイメントのための信頼性の高い基盤となります。管理者は、既存のコンテナイメージをUBI 10ベースに移行することを検討するかもしれません。
  • 仮想マシンイメージ: RHEL 10の仮想マシンイメージは、主要なハイパーバイザ(KVM、VMware vSphere、Microsoft Hyper-V)およびクラウドプロバイダー(AWS, Azure, GCP)向けに提供されるでしょう。最適化されたイメージは、デプロイメントと管理を容易にします。

システム管理者は、仮想化ホストとしてのRHEL 10の機能、ゲストOSとしてのRHEL 10の動作、そしてコンテナワークロードの管理方法について理解を深める必要があります。特に、コンテナセキュリティ、イメージ管理、そしてCI/CDパイプラインとの統合は重要な検討事項です。

8. システム監視とパフォーマンスチューニング

効果的な監視とパフォーマンスチューニングは、安定したITインフラを維持するために不可欠です。

  • Cockpit Webコンソール: Cockpitは、Webブラウザ経由でRHELシステムを管理できるツールです。RHEL 10では、Cockpitの機能がさらに拡張され、より多くのシステム設定、パフォーマンス監視、ログ表示、およびトラブルシューティング機能が利用可能になるでしょう。ストレージ管理、ネットワーキング設定、SELinuxトラブルシューティングなど、様々なタスクがGUIから実行できるようになり、管理者の利便性が向上します。
  • パフォーマンス分析ツール: perf, strace, top/htop, iostat, vmstat, mpstatなどの標準的なパフォーマンス分析ツールは引き続き利用可能であり、新しいカーネル機能やハードウェアに対応するためにアップデートされるでしょう。
  • eBPF (extended Berkeley Packet Filter): eBPFは、カーネルレベルでカスタムコードを実行できる強力な技術です。RHEL 10では、eBPF関連ツール(bpftraceなど)のサポートが強化され、高度なパフォーマンス監視、トラブルシューティング、およびセキュリティ分析に活用できるようになるでしょう。これは、特定のパフォーマンスボトルネックやシステム動作を詳細に調査したい管理者にとって非常に強力なツールとなります。
  • ロギング (journald): systemd-journaldは、システムログを集中管理します。RHEL 10では、journaldのパフォーマンス向上、フィルタリング機能の強化、そしてログのエクスポート/転送オプションの改善が期待されます。ログ管理と集約は、大規模環境やセキュリティ監視において重要です。
  • SNMP, Prometheus, Grafana: 外部監視システムとの連携は引き続き重要です。RHEL 10は、SNMPエージェント(net-snmp)や、Prometheus Exporterなどの監視エージェントの最新バージョンを提供するでしょう。

システム管理者は、これらのツールを活用して、RHEL 10システムの健全性とパフォーマンスを積極的に監視し、問題発生時には迅速に診断・解決できるようになる必要があります。

9. 自動化と構成管理

自動化は、RHEL環境を効率的に管理するための鍵です。

  • AnsibleとRed Hat System Roles: Red HatはAnsibleを主要な自動化ツールとして推奨しており、RHELの管理タスクを自動化するための「Red Hat System Roles」を提供しています。RHEL 10では、新しいシステム機能に対応したSystem Rolesが追加または更新されるでしょう。これにより、ネットワーク設定、ストレージ構成、ユーザー管理、セキュリティ設定など、様々なタスクをAnsible Playbookを通じて標準化し、自動化することがより容易になります。
  • Cockpit Builder / Composer: オペレーティングシステムのイメージ構築ツールであるCockpit BuilderやImage Builderサービスも、RHEL 10イメージの構築に対応するでしょう。これにより、カスタマイズされたRHELイメージの自動的な作成とデプロイメントが容易になります。
  • キックスタート: キックスタートはRHELの自動インストールツールであり、RHEL 10でも引き続きサポートされます。新しいキックスタートコマンドやオプションが追加され、より複雑なインストールシナリオに対応できるようになる可能性があります。
  • RHEL for Edge: エッジコンピューティング環境向けのRHEL機能も進化し、リモートでのイメージ更新(rpm-ostreeベース)、デバイス管理、セキュリティ機能などが強化されるでしょう。
  • Identity Management (IdM): 前述のIdMの強化は、ユーザーアカウントやポリシーの一元管理を自動化する上で重要です。

管理者は、これらの自動化ツールと機能を積極的に活用し、繰り返し発生するタスクを自動化することで、運用効率を高め、ヒューマンエラーを削減することができます。RHEL 10への移行や新規デプロイメントを計画する際には、自動化戦略を同時に検討することが推奨されます。

10. クラウドおよびハイブリッド環境への対応

RHELは、オンプレミスだけでなく、パブリッククラウド、プライベートクラウド、そしてハイブリッド環境で広く利用されています。RHEL 10は、これらの環境でのデプロイメントと運用を最適化するための機能を提供するでしょう。

  • 主要クラウドプロバイダーとの連携: AWS, Microsoft Azure, Google Cloud Platformなどの主要なパブリッククラウドプラットフォーム向けに、最適化されたRHEL 10イメージが提供されます。これらのイメージには、クラウド固有のエージェントや設定ツールが含まれ、クラウド環境でのデプロイメント、監視、および管理が容易になります。
  • ハイブリッドクラウド管理: Red Hat SatelliteやRed Hat Management Suiteなどのツールは、オンプレミスとクラウドに分散したRHEL 10システムを一元管理するために利用できます。RHEL 10の機能は、これらの管理ツールとの連携を強化するように設計されるでしょう。
  • Kubernetes/OpenShift連携: RHELは、Red Hat OpenShiftの基盤OSとして機能します。RHEL 10は、OpenShiftの新しいバージョン(例えば、Podman 4/5ベースのCRI-O、新しいカーネル機能、セキュリティ強化)に対応し、OpenShiftクラスターのノードOSとして最適化されるでしょう。
  • イメージビルディングサービス: Red Hatは、主要クラウドプロバイダー向けにカスタムRHELイメージを構築できるサービスを提供しています。RHEL 10のリリースに伴い、このサービスもRHEL 10イメージのサポートを開始するでしょう。

システム管理者は、RHEL 10が利用するクラウド環境でどのように機能するか、利用可能なイメージの種類、そしてクラウド固有のツールとの連携について理解する必要があります。ハイブリッド環境を運用している場合は、オンプレミスとクラウド間で一貫した管理を実現するための戦略を検討する必要があります。

11. アップグレードと移行

既存のRHEL環境からRHEL 10への移行は、システム管理者にとって最も重要なタスクの一つです。

  • インプレースアップグレード (Leapp): Red Hatは、RHEL 7、RHEL 8、RHEL 9からRHEL 10へのインプレースアップグレードをサポートするために、Leappユーティリティを提供するでしょう。Leappは、アップグレードプロセス中の潜在的な互換性の問題やリスクを検出・報告し、自動的にシステムを移行するためのフレームワークです。RHEL 10向けのLeappユーティリティは、新しいバージョンに対応するために更新されます。管理者は、アップグレードを実行する前に、テスト環境でLeappを十分に実行し、生成されたレポートを確認し、必要な手動での介入や準備作業(例:サードパーティ製ソフトウェアの互換性確認、カスタム設定の調整)を特定する必要があります。
  • クリーンインストール: ゼロからRHEL 10をインストールし、アプリケーションやデータを移行するクリーンインストールも、移行戦略の選択肢の一つです。特に、システムの構成が複雑な場合や、既存の環境が古いRHELバージョンである場合は、クリーンインストールのほうが管理しやすい場合があります。
  • 互換性の考慮事項: 主要なライブラリ(glibc, OpenSSLなど)のアップデート、カーネルの変更、ユーザーランドツールのバージョンの変更は、アプリケーションの互換性に影響を与える可能性があります。特に、カスタムビルドされたソフトウェア、サードパーティ製のアプリケーション、または特定のライブラリバージョンに依存するソフトウェアを運用している場合は、RHEL 10での互換性テストを徹底的に行う必要があります。
  • ハードウェア互換性: RHEL 10は最新のハードウェアをサポートしますが、非常に古いハードウェアや特定のレガシーデバイスはサポート対象外となる可能性があります。移行前に、ハードウェアベンダーのドキュメントやRed Hatのハードウェア互換性リスト(HCL)を確認する必要があります。
  • ストレージとネットワーク構成: 既存のストレージ構成(LVM、ファイルシステムオプション)やネットワーク構成がRHEL 10でどのように扱われるかを確認し、必要に応じて調整が必要です。

移行は複雑なプロセスであり、計画、テスト、および段階的な実行が不可欠です。管理者は、Leappユーティリティのドキュメントを詳細に確認し、十分にテストされたロールバック計画を含む詳細な移行計画を策定する必要があります。

12. サポートライフサイクル

RHELのライフサイクルポリシーは、エンタープライズユーザーにとって重要な要素です。RHEL 10も、リリースから10年間のフルサポート(メンテナンスフェーズ1、2)と、オプションのExtended Update Support (EUS) やExtended Life Cycle Support (ELS) を提供するでしょう。

  • フルサポート (Full Support): リリース後の最初の5年間は、バグ修正、セキュリティパッチ、ハードウェアエンハンスメント、そして一部の機能エンハンスメントが提供されます。
  • メンテナンスサポート (Maintenance Support): その後の5年間は、主に重大なバグ修正とセキュリティパッチが提供されます。
  • EUS (Extended Update Support): 特定のマイナーバージョン(例:RHEL 10.1, 10.4, 10.7)に対して、標準のメンテナンスサポート期間を超えて、主要な機能アップデートやセキュリティパッチをまとめて提供するオプションサービスです。これにより、ユーザーは頻繁なマイナーバージョンアップグレードを回避しながら、セキュリティアップデートを受け取ることができます。
  • ELS (Extended Life Cycle Support): フルサポートおよびメンテナンスサポート期間が終了した後、特定のRHELメジャーバージョンに対して、限定的な重大影響度セキュリティパッチと緊急バグ修正を提供するオプションサービスです。これにより、移行期間中のレガシーシステムを保護できます。

システム管理者は、RHEL 10のライフサイクルとこれらのオプションサービスを理解し、自社のパッチ適用ポリシー、アップグレード計画、そしてコンプライアンス要件に合わせて、RHEL 10のデプロイメントとサポート戦略を計画する必要があります。

13. RHEL 10 導入に向けた計画と考慮事項

RHEL 10へのスムーズな移行と効果的な利用のためには、事前の綿密な計画が不可欠です。

  • 情報収集と評価: Red Hatの公式ドキュメント、リリースノート、技術記事、ウェビナーなどを通じて、RHEL 10に関する最新かつ詳細な情報を収集します。特に、自社のビジネスや技術スタックに関連性の高い変更点(利用しているアプリケーションが依存するライブラリのバージョン、特定のハードウェアのサポート状況など)に焦点を当てて評価します。
  • テスト環境の構築: 物理マシン、仮想マシン、またはクラウドインスタンス上に、RHEL 10のベータ版やリリース候補版(利用可能であれば)をインストールしたテスト環境を構築します。
  • 互換性テスト: 既存の主要なアプリケーション、カスタムスクリプト、サードパーティ製ソフトウェア、ハードウェアドライバーなどがRHEL 10で正しく機能するかを徹底的にテストします。特に、依存関係の変更や非互換性の問題が発生しやすい部分(例:基盤ライブラリ、カーネルモジュール、SELinuxポリシー)に注意を払います。
  • 移行戦略の選択とテスト: インプレースアップグレード(Leapp)またはクリーンインストール+データ移行のどちらが自社の状況に適しているかを評価し、選択した移行方法をテスト環境でシミュレーションします。Leappを使用する場合は、生成されるレポートを分析し、推奨される修正措置をテストします。
  • 新しい管理ツールの習得: Cockpit、新しいdnfコマンドオプション、強化されたNetworkManager設定ツールなど、RHEL 10で利用可能になる新しい管理ツールや機能の操作方法を習得します。
  • セキュリティポリシーの見直し: RHEL 10の新しいセキュリティ機能(暗号化ポリシー、SELinuxポリシーなど)を考慮して、既存のセキュリティポリシーや手順を見直します。
  • トレーニングとドキュメント: システム管理者や関連するITスタッフ向けに、RHEL 10の新機能と管理方法に関するトレーニングを計画します。RHELの公式ドキュメント(カスタマーポータル)は常に最新の情報源として活用します。
  • ロールバック計画: 万が一、移行中に問題が発生した場合に備えて、明確かつテスト済みのロールバック計画を準備します。
  • パイロットデプロイメント: 重要な本番環境に導入する前に、影響の少ない環境や非本番環境でRHEL 10のパイロットデプロイメントを実施し、実際の運用環境での挙動を確認します。
  • Red Hat サポートとの連携: 必要に応じて、Red Hatのサポートチームに相談し、技術的なガイダンスや支援を受けます。

これらの計画と考慮事項を適切に実行することで、RHEL 10への移行リスクを最小限に抑え、新しいプラットフォームのメリットを最大限に引き出すことができます。

14. まとめ:システム管理者へのメッセージ

RHEL 10は、これまでのRHELの強み(安定性、セキュリティ、信頼性)を維持しつつ、現代のIT環境が要求する最新の技術、パフォーマンス、そして管理性を提供するための重要なアップデートです。システム管理者にとって、これは単なるOSのバージョンアップではなく、今後の運用戦略、セキュリティ体制、そして自動化の機会に影響を与える大きな変化です。

本記事で解説したように、RHEL 10ではカーネル、glibc、DNF、SELinux、NetworkManager、Podmanなど、システムの核となる多くのコンポーネントがアップデートされることが予想されます。これらの変更は、新しいハードウェアのサポート、セキュリティの強化、パフォーマンスの向上、そして管理性の向上をもたらしますが、同時に既存のワークロードとの互換性に関する潜在的な課題も提示します。

システム管理者は、RHEL 10のリリースに際して、以下の行動を強く推奨します。

  1. 積極的に情報を収集する: Red Hatの公式チャネルを通じて、RHEL 10の最新情報を常に把握してください。
  2. テスト環境での検証を徹底する: 自社の環境で利用しているアプリケーションや設定がRHEL 10で問題なく動作するか、互換性テストを十分に行ってください。
  3. 移行計画を早期に策定し、テストする: インプレースアップグレードツール(Leapp)などを活用し、安全かつスムーズな移行パスを確立してください。
  4. 新しい管理ツールと機能に習熟する: Cockpit、新しいDNF機能、System Rolesなどを活用し、運用効率を向上させてください。
  5. セキュリティ機能の変更点を理解し、ポリシーを更新する: 強化されたセキュリティ機能を利用し、システムのセキュリティ体制を強化してください。
  6. 自動化をさらに推進する: RHEL 10の自動化機能とツールを活用し、日常業務の効率を高めてください。
  7. サポートライフサイクルを理解し、計画に組み込む: RHEL 10の長期サポートを利用するための戦略を立ててください。

RHEL 10は、エンタープライズLinuxの未来を形作る重要なリリースとなるでしょう。システム管理者は、この変化を機会と捉え、新しい技術を習得し、より堅牢で効率的、かつセキュアなITインフラを構築・運用していくことが求められます。準備を怠らず、RHEL 10がもたらす可能性を最大限に引き出しましょう。

(注) この記事は、RHEL 10の公式リリース前の情報に基づいて書かれており、内容が確定するものではありません。正確な情報については、RHEL 10の公式リリースノートとRed Hatのドキュメントをご確認ください。

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

上部へスクロール