データ保護の決定版?Arcserve UDPの実力に迫る
はじめに:データ保護の重要性と現代の課題
現代のビジネスにおいて、データは企業の生命線です。顧客情報、取引履歴、機密文書、知的財産など、あらゆるデジタル資産がビジネスの継続と成長に不可欠な役割を担っています。しかし、この貴重なデータは、常に様々な脅威に晒されています。ハードウェア障害、ソフトウェアエラー、人為的なミス、自然災害、そして最も深刻な脅威の一つであるサイバー攻撃(特にランサムウェア)などです。
データが失われたり、アクセス不能になったりすることは、ビジネスにとって壊滅的な影響を及ぼします。業務停止による機会損失、復旧にかかる膨大なコスト、顧客からの信頼失墜、さらには法的な責任問題に発展する可能性もあります。そのため、信頼性の高いデータ保護ソリューションは、企業が事業を継続し、将来にわたって成長していくための基盤となります。
しかし、現代のIT環境は非常に複雑化しています。オンプレミスの物理サーバー、仮想化環境(VMware vSphere, Microsoft Hyper-V, Nutanix AHV, KVMなど)、多様なアプリケーション(Exchange, SQL Server, Oracleなど)、そしてクラウド環境(AWS, Azure, GCP)やSaaSアプリケーション(Office 365, Google Workspaceなど)が混在しています。さらに、リモートワークの普及により、エンドポイントデバイスの保護も重要性を増しています。
このような複雑な環境において、従来の個別最適化されたバックアップツールでは、管理の煩雑化、コスト増大、保護漏れの発生、そして災害発生時の迅速な復旧の困難さといった問題が顕在化しています。企業は、これらの課題を解決し、あらゆる場所に存在するデータを包括的に保護できる、統合的なデータ保護プラットフォームを求めています。
本記事では、こうした現代のデータ保護課題に対する有力なソリューションの一つである「Arcserve Unified Data Protection (UDP)」に焦点を当てます。Arcserve UDPは、その名の通り、データ保護を「統合」し、「統一」されたアプローチで実現することを目指して設計された製品です。果たしてArcserve UDPは、現代の複雑なデータ保護ニーズを満たし、「データ保護の決定版」となりうるのでしょうか?その実力と機能、アーキテクチャ、そして活用シーンを詳細に掘り下げていきます。
現代のデータ保護を取り巻く課題
Arcserve UDPの詳細に入る前に、まず現代の企業が直面している具体的なデータ保護の課題を整理しておきましょう。
- 増大し続けるデータ量: デジタルトランスフォーメーション(DX)の加速に伴い、企業が扱うデータ量は指数関数的に増加しています。ビッグデータ、IoT、AIなどの活用が進むにつれて、この傾向はさらに強まるでしょう。バックアップ対象データの増加は、バックアップ時間、ストレージ容量、そしてコストの増大に直結します。
- 多様化・複雑化するIT環境: 物理サーバー、仮想環境(複数ハイパーバイザー)、プライベートクラウド、パブリッククラウド(マルチクラウド)、コンテナ、SaaSアプリケーションなど、企業ITインフラは特定の環境に限定されず、様々なテクノロジーが組み合わされています。それぞれの環境に特化したツールを導入・運用することは、管理負荷を著しく高めます。
- サイバー脅威の高度化: 特にランサムウェアは、企業にとって最大の脅威の一つとなっています。バックアップデータ自体を暗号化したり削除したりする巧妙な手口も出現しており、単にバックアップを取得するだけでは不十分です。バックアップデータの保全性と迅速な復旧能力が求められます。
- 厳格化するビジネス継続性(BC)/災害復旧(DR)要件: 障害や災害発生時のダウンタイムは、ビジネスにとって許容できない損失につながります。Recovery Point Objective (RPO: 復旧時点目標) と Recovery Time Objective (RTO: 目旧時間目標) は、ビジネス継続計画において非常に重要な指標となります。ゼロに近いRPO/RTOを実現するための仕組みが必要です。
- コンプライアンスと規制: データ保護に関する法規制(GDPR, CCPA, 各国・地域の個人情報保護法など)や業界標準(HIPAA, PCI DSSなど)は年々厳格化しています。データの保存期間、アクセス制御、監査証跡などが要求され、これらに対応できるデータ保護ソリューションが不可欠です。
- 運用負荷とコスト: 前述の課題に対応するために、多くのツールを導入したり、複雑な手順を踏んだりすることは、IT部門の運用負荷を高め、人件費やライセンスコスト、ストレージコストなどのコスト増大を招きます。効率的でコスト効果の高いソリューションが求められています。
これらの課題に対し、Arcserve UDPはどのようなアプローチで応えるのでしょうか。
Arcserve UDPとは:統合型データ保護プラットフォーム
Arcserve Unified Data Protection(UDP)は、物理、仮想、クラウド、アプリケーション、エンドポイントなど、あらゆるデータソースを単一のアーキテクチャとコンソールで保護することを目的とした、統合型のデータ保護およびBC/DRソリューションです。
UDPの根幹にあるのは、「統合」という思想です。従来のバックアップツール、レプリケーションツール、ハイアベイラビリティツールなどを個別に運用するのではなく、これらを単一のプラットフォームに集約することで、管理を簡素化し、データ保護戦略全体を効率化することを目指しています。
Arcserve UDPは、以下の主要な要素で構成されます。
- 統合管理コンソール (UDP Console): データ保護ポリシーの作成、ジョブの監視、復旧操作などを集中的に行うためのWebベースのGUI。
- 復旧ポイントサーバー (Recovery Point Server – RPS): バックアップデータの集約、重複排除、圧縮、暗号化、レプリケーション、データストア管理などを行う中心的な役割を担うサーバー。
- エージェント (Agent): 保護対象サーバー(物理、仮想、アプリケーション)にインストールされ、バックアップデータの取得やリストアを実行するソフトウェア。特定の仮想化環境やSaaSに対しては、エージェントレスでの保護も提供されます。
- データストア (Data Store): RPS上に構築される、重複排除されたバックアップデータの保存領域。
このアーキテクチャにより、多様な環境のデータを一元的に管理・保護し、柔軟かつ迅速なリカバリーを実現します。特に、後述する「グローバルソース側重複排除」と「インスタントVM」、「High Availability」といった機能は、UDPの大きな特徴であり、現代のデータ保護課題に対する強力な解決策を提供します。
Arcserve UDPの主要機能:多角的なデータ保護の実現
Arcserve UDPが「データ保護の決定版」となりうる実力は、その豊富な機能セットにあります。主要な機能を詳しく見ていきましょう。
1. 包括的な保護対象
Arcserve UDPは、現代企業が扱う可能性のあるほぼ全てのデータソースを保護対象としています。
- 物理サーバー: Windows Server, Linux Server(RHEL, CentOS, Ubuntu, SLESなど)に対応し、エージェントをインストールして保護します。ベアメタルリカバリー(BMR)にも対応しています。
- 仮想マシン: 主要なハイパーバイザーであるVMware vSphere, Microsoft Hyper-V, Nutanix AHV, KVMをサポートします。VMware/Hyper-Vに対してはエージェントレスバックアップが可能で、VMレベルでの保護、vCenter/SCVMMとの連携、Changed Block Tracking (CBT) を利用した効率的な増分バックアップを実現します。
- アプリケーション: Microsoft Exchange, SQL Server, SharePoint, Oracle Databaseなどの主要なエンタープライズアプリケーションをエージェント経由で保護します。アプリケーション整合性のあるバックアップを取得し、アイテム単位(Exchangeメールボックス、SQLテーブルなど)での柔軟なリカバリーが可能です。
- クラウドインスタンス: Amazon EC2, Microsoft Azure VMなどのクラウド上の仮想マシンを保護します。クラウドネイティブのスナップショットと連携したり、エージェントをインストールして保護したりする方式があります。
- Office 365: Exchange Online, SharePoint Online, OneDrive for Business, Microsoft TeamsなどのSaaSアプリケーションのデータを保護し、クラウド上のデータ消失リスク(ユーザーによる誤削除、悪意のある削除、サービス障害など)に備えます。テナントレベルでのバックアップと、きめ細やかなアイテム単位のリカバリーに対応しています。
- エンドポイント: クライアントPCやノートPC(Windows/Mac)を保護します。モバイルユーザーのデータ損失対策として重要であり、中央管理による効率的なバックアップ運用を実現します。
- ファイルサーバー/NAS: SMB/NFS共有されたファイルシステムのバックアップに対応します。
- UNIX: SolarisやAIXといったUNIXシステムについても、特定のバージョンや構成であれば保護が可能です。
これほど多様な環境を一つの製品で保護できることは、管理の統合という点で大きなメリットをもたらします。
2. 高効率なバックアップ:重複排除と圧縮
増大するデータ量への対応として、Arcserve UDPは強力な重複排除と圧縮機能を備えています。
- グローバルソース側重複排除: UDPの最大の特徴の一つが、この機能です。バックアップ対象サーバー(ソース側)で、UDPエージェントがデータをブロック単位で読み込み、そのハッシュ値を計算します。このハッシュ値は、RPS上のデータストアに存在するブロックのハッシュ値と比較されます。もしRPSに同じハッシュ値を持つブロックが既に存在する場合、実際のデータブロックはRPSに転送されず、代わりにRPS上の既存ブロックへのポインタ情報のみが転送されます。新しいブロックのみがRPSに転送され、データストアに保存されます。
「グローバル」とは、単一の保護対象サーバーだけでなく、複数の保護対象サーバー間で共通するブロックを重複排除できることを意味します。例えば、複数の仮想マシンが同じOSイメージを使用している場合、そのOSイメージ部分は全てのVMで重複排除されます。
「ソース側」で行うため、ネットワーク経由で転送されるデータ量が大幅に削減されます。これにより、バックアップ時間短縮、ネットワーク帯域消費の抑制、そしてRPS側のストレージ容量削減といった効果が得られます。 - インライン処理: UDPの重複排除はインラインで行われます。つまり、データがRPSに書き込まれる際にリアルタイムで重複排除処理が行われます。バックアップ後のポスト処理として重複排除を行う方式に比べて、ストレージへの書き込み量が最初から少なくなるため、RPSのストレージ負荷を軽減できます。
- 圧縮: 重複排除された後、データはさらに圧縮されてデータストアに保存されます。これにより、ストレージ容量を最大限に節約できます。
これらの機能により、通常、オリジナルデータの1/10~1/50程度にまでバックアップ容量を削減できると言われています。これは、ストレージコストの削減だけでなく、レプリケーション時のネットワーク負荷軽減にも大きく貢献します。
3. 高速バックアップ:継続的な増分バックアップ
Arcserve UDPは、初回のフルバックアップ後、継続的に増分バックアップを取得する「Incremental Forever」戦略を基本としています。
- 増分バックアップ: 前回バックアップ以降に変更があったブロックのみをバックアップします。これにより、バックアップ時間と転送データ量を大幅に削減します。
- Changed Block Tracking (CBT) / ブロックレベルバックアップ: 物理サーバーでは独自技術、仮想マシンではハイパーバイザーのCBT機能(VMware vSphere)や同様の機能(Hyper-Vなど)を活用して、変更されたブロックを効率的に追跡・特定します。
- スナップショット連携: ファイルシステムやアプリケーションデータの整合性を確保するために、バックアップ前にVSS(Volume Shadow Copy Service on Windows)などのスナップショット技術と連携します。
継続的な増分バックアップにより、バックアップウィンドウを短縮し、RPOを小さくすることが可能になります。
4. 柔軟で迅速なリカバリー
バックアップの目的は「リカバリー」です。Arcserve UDPは、障害の種類や状況に応じて最適なリカバリー手段を提供します。
- ファイル/フォルダリカバリー: バックアップイメージから、特定のファイルやフォルダを選択して元の場所や別の場所にリストアできます。直感的なWebインターフェースから簡単に実行できます。
- アプリケーションアイテムリカバリー: Exchangeメールボックス、SQL Serverデータベース/テーブル、SharePointドキュメント、Oracleテーブルスペースなど、アプリケーションの最小単位でのリカバリーが可能です。例えば、誤って削除したメール1通だけを復旧したいといったニーズに対応できます。
- ベアメタルリカバリー (BMR): OSやアプリケーションを含むシステム全体を、OSがインストールされていない状態(ベアメタル)の新しいハードウェアや仮想マシンに復旧できます。ハードウェア障害時などに、システムを迅速に復旧させるための重要な機能です。CD/USBブート可能なBMRメディアを利用します。
- インスタントVM: バックアップイメージ(特定の復旧ポイント)を、バックアップデータが保存されているRPS上、または別のHyper-VやVMwareホスト上に、仮想マシンとして即座に起動させる機能です。バックアップデータから直接VMを起動するため、実際のリストアが完了するのを待つ必要がありません。これにより、システム障害発生時のRTOを劇的に短縮(数分~数十分)できます。テスト環境としての利用や、緊急時の代替システムとしても有効です。
- インスタントBMR: 物理サーバーのバックアップイメージを、インスタントVMと同様に仮想マシンとして即座に起動できる機能です。物理サーバーが利用不能になった場合に、迅速に仮想環境上で代替システムを立ち上げることが可能です。
- クロスプラットフォームリカバリー: 異なるハードウェアやハイパーバイザー間でのリカバリーをサポートします(例:物理サーバーからVMwareへのBMR、Hyper-V VMからVMware VMへのリカバリーなど)。
これらの多様なリカバリーオプションにより、あらゆる障害シナリオに対応し、ビジネス影響を最小限に抑えることが可能になります。
5. 高度なBC/DR機能:High Availability (HA) とレプリケーション
Arcserve UDPは、単なるバックアップ・リカバリーだけでなく、より厳しいRPO/RTO要件に対応するためのBC/DR機能も提供します。
- High Availability (HA): Arcserve Replication and High Availability (RHA) の技術を統合した機能です。プライマリサーバーとレプリカサーバー間でデータをほぼリアルタイムにレプリケーションし、プライマリサーバーに障害が発生した際には、レプリカサーバーに自動的にフェイルオーバーします。アプリケーションレベルでの監視も可能で、サービスの可用性を極めて高いレベルで維持できます。RPOを秒単位に、RTOを数分以内にまで近づけることが可能です。この機能は、基幹業務システムなど、ダウンタイムが許されない重要なシステムに最適です。
- レプリケーション: RPSに保存されたバックアップデータを、遠隔地の別のRPSやクラウドストレージに転送する機能です。災害対策サイトへのデータ複製に利用されます。重複排除されたデータのみが転送されるため、必要なネットワーク帯域は最小限に抑えられます。複数世代の復旧ポイントを遠隔地に保管することで、広域災害発生時のデータ復旧拠点として機能します。
- WAN最適化: 遠隔地へのレプリケーション効率を高めるために、WAN最適化技術(圧縮やプロトコルの最適化など)も利用可能です。
HAとレプリケーションを組み合わせることで、重要なシステムはHAで可用性を高めつつ、その他のシステムはレプリケーションによる遠隔バックアップで災害対策を行うといった、多段階のBC/DR戦略を構築できます。
6. クラウド連携の強化
現代のIT環境において、クラウドは重要な要素です。Arcserve UDPはクラウドとの連携機能を強化しています。
- クラウドストレージへのバックアップ保存: AWS S3, Azure Blob Storage, S3互換ストレージなどの主要なオブジェクトストレージサービスを、バックアップデータの保存先として利用できます。これにより、オンプレミスストレージの容量を節約し、安価かつ耐久性の高いクラウドストレージに長期保管したり、災害対策サイトの代替として利用したりすることが可能です。
- クラウド上でのリカバリー: クラウドストレージに保存したバックアップデータから、AWS EC2やAzure VMとして仮想マシンを起動したり、データをリストアしたりできます。オンプレミス環境が利用不能になった場合のDRサイトとしてクラウドを活用できます。
- クラウドインスタンスの保護: 前述の通り、クラウド上のVMやSaaS(Office 365)も保護対象となります。
ハイブリッドクラウド環境やマルチクラウド環境におけるデータ保護ニーズにも対応可能です。
7. 統合管理と運用効率化
Arcserve UDPは、単一の統合管理コンソールから全ての保護対象、バックアップジョブ、リカバリー、レプリケーション、HAを管理できます。
- ポリシーベースの管理: 保護対象や要件に応じてバックアップスケジュール、保存世代数、重複排除設定、レプリケーション設定などを定義したポリシーを作成し、複数の保護対象に適用できます。これにより、管理作業を標準化・効率化できます。
- 中央集中監視とレポート: ダッシュボードでバックアップ状況、ジョブの成功/失敗、容量使用状況などを一目で確認できます。詳細なレポート機能により、監査やコンプライアンス対応に必要な情報を容易に生成できます。
- RESTful API: 外部の運用管理ツールやオーケストレーションシステムとの連携を可能にするRESTful APIを提供しています。
統合管理により、複数のバックアップツールを使い分ける必要がなくなり、IT管理者の運用負荷を大幅に軽減できます。
8. セキュリティ機能
データ保護においてセキュリティは不可欠です。
- 暗号化: バックアップデータの保存時(保管中の暗号化)およびネットワーク転送時(転送中の暗号化)に、AES-256などの標準的な暗号化アルゴリズムを使用してデータを保護します。
- Assured Recovery: バックアップデータの整合性を定期的に検証する機能です。ファイルシステムレベルでのチェックに加え、仮想マシンバックアップの場合はバックアップイメージから実際に仮想マシンを起動して(ステージング環境やInstant VMを利用)、OSの起動可否やアプリケーションサービスの起動可否を確認できます。ランサムウェアなどによるバックアップデータの改ざんや破損を検知し、確実にリカバリーできることを保証します。
- 変更不能(Immutable)ストレージ連携: AWS S3 Object Lockなどの変更不能なストレージ機能と連携することで、バックアップデータを一定期間、削除や変更から保護し、ランサムウェアによるバックアップデータの破壊を防ぐ対策を強化できます。
これらのセキュリティ機能は、サイバー攻撃に対する防御策として非常に重要です。
Arcserve UDPのアーキテクチャ:スケーラブルで堅牢な基盤
Arcserve UDPのアーキテクチャは、大規模な環境や分散した環境にも対応できるよう設計されています。主要なコンポーネントとその役割を再確認し、その利点を掘り下げます。
- UDP Console: データ保護環境全体を管理する単一のWebインターフェースを提供します。中央に1台配置することで、複数のRPSや保護対象エージェントを一元管理できます。
- 復旧ポイントサーバー (RPS): バックアップデータを受け取り、重複排除・圧縮を施し、データストアに保存する役割を担います。RPSは分散配置が可能です。各拠点やセグメントごとにRPSを配置し、その間でデータをレプリケーションするといった構成が可能です。RPSは、バックアップ元(ソース側)のデータを受け取るだけでなく、重複排除処理を行い、データストアという特殊な形式でデータを保持します。インスタントVMやインスタントBMRは、このRPS上のデータストアから直接仮想マシンを起動することで実現されます。
- データストア (Data Store): RPS上に構築される、重複排除・圧縮されたバックアップデータの保存領域です。UDPの重複排除技術はこのデータストアと密接に関連しています。データストアは複数のストレージデバイス(ローカルディスク、SAN/NASなど)を束ねて構築することも可能です。
- エージェント (Agent): 保護対象となる物理/仮想サーバー、アプリケーション等にインストールされ、バックアップ処理やリカバリー処理を実際に行います。エージェントはUDP ConsoleとRPSから指示を受けて動作します。
- プロキシ (Proxy): エージェントレスバックアップの場合に利用されることがあります。例えば、VMware環境のエージェントレスバックアップでは、vSphere環境と連携し、仮想マシンのスナップショット取得やデータの読み出しを代行する役割を担うサーバー(一般的にはWindows Server)です。これにより、バックアップ処理の負荷を分散させたり、バックアップ元環境への直接的な負荷を軽減したりできます。
アーキテクチャの利点:
- スケーラビリティ: RPSを複数配置することで、バックアップ負荷を分散させ、大規模な環境に対応できます。各RPSが独自のデータストアを持つことで、ストレージ容量も柔軟に拡張できます。
- 分散配置: 複数拠点を持つ企業の場合、各拠点にRPSを配置し、本社やDRサイトのRPSにデータをレプリケーションするという構成が容易に実現できます。これにより、拠点内のバックアップ・リカバリーを高速化しつつ、中央での一元管理と遠隔地へのDR対策を両立できます。
- 効率的なデータフロー: ソース側重複排除とRPSでの一元的なデータ集約により、データ転送量と保存容量を効率化します。
- 柔軟なデプロイ: 物理アプライアンス、仮想アプライアンス、ソフトウェアインストールなど、様々な形態で導入が可能です。
このアーキテクチャは、現代の複雑で分散したIT環境において、効率的かつ堅牢なデータ保護基盤を提供するための鍵となっています。
Arcserve UDPの活用シーン
Arcserve UDPの包括的な機能と柔軟なアーキテクチャは、様々な企業の多様なニーズに対応できます。代表的な活用シーンをいくつかご紹介します。
- 中小企業の包括的なデータ保護: IT担当者が限られている中小企業にとって、多様なツールを使い分けるのは大きな負担です。UDPは、物理サーバー、仮想マシン、PCなどのデータを単一のコンソールで保護できるため、管理負荷を大幅に軽減できます。重複排除によるコスト削減も中小企業にとって大きなメリットとなります。
- 大企業の複数拠点管理: 多くの拠点を持つ大企業では、各拠点のデータ保護を効率的に行う必要があります。UDPの分散RPSアーキテクチャを利用すれば、各拠点にRPSを配置してローカルでの高速バックアップ・リカバリーを実現しつつ、データを中央のRPSにレプリケーションして一元管理・DR対策を行うことが可能です。
- 仮想化環境の保護: VMwareやHyper-Vなどの仮想化環境が中心の企業にとって、エージェントレスバックアップやインスタントVM機能は非常に有効です。VMレベルでの保護、vCenter/SCVMM連携による自動検出・保護、そして障害時の迅速なVM起動により、仮想化環境の可用性を高めます。
- クラウド移行・ハイブリッドクラウド環境: クラウドへのデータ移行や、オンプレミスとクラウドを組み合わせたハイブリッドクラウド環境では、データの所在が分散します。UDPは、オンプレミスデータからクラウドへのバックアップ/レプリケーション、クラウドストレージへのバックアップ保存、クラウド上でのリカバリー、そしてクラウド上のインスタンス保護まで対応できるため、ハイブリッド環境全体のデータ保護を統合的に実現できます。
- BCP/DR対策の構築: 広域災害などによるシステム停止リスクに備えるには、遠隔地へのデータ複製と、そこでシステムを迅速に立ち上げる仕組みが必要です。UDPのレプリケーション機能と、遠隔地RPSでのインスタントVM/BMR機能を利用することで、効果的なDRサイトを構築できます。特に、HA機能は、RPO/RTOを極めて小さくする必要がある基幹システムに最適です。
- ランサムウェア対策強化: ランサムウェアはバックアップデータも標的とします。UDPのAssured Recoveryによるバックアップデータの整合性検証、変更不能ストレージ連携によるデータ保護は、ランサムウェアからの復旧可能性を高める重要な対策となります。
- データ保護の一元化による運用コスト削減: 複数のバックアップツールを運用している場合、ライセンスコスト、メンテナンスコスト、そして最も大きい運用管理にかかる人件費が増大します。UDPに統合することで、これらのコストを削減し、ITリソースをより戦略的な活動に振り向けることが可能になります。
データ保護の決定版となりうるか? Arcserve UDPの実力評価
さて、本記事のテーマである「データ保護の決定版となりうるか?」という問いに対する評価です。Arcserve UDPは、その機能、アーキテクチャ、そして対応範囲から見て、現代の多くの企業にとって「データ保護の決定版」となりうる非常に強力な候補であると言えます。
Arcserve UDPの強み:
- 圧倒的な保護範囲の広さ: 物理、仮想、クラウド、アプリケーション、SaaS、エンドポイントなど、これほど多様な環境を一つの製品で保護できるソリューションは多くありません。企業が様々なシステムを運用している場合でも、UDPでほぼ全てのデータ保護ニーズをカバーできる可能性が高いです。
- 単一コンソールによる統合管理: 複雑なIT環境下でのデータ保護管理の煩雑さを解消し、運用効率を劇的に向上させます。ポリシーベースの管理により、標準化と自動化が進みます。
- 優れた重複排除機能: グローバルソース側重複排除は、バックアップデータの容量とネットワーク負荷を大幅に削減し、コスト効果の高いデータ保護を実現します。
- 高速なバックアップと柔軟なリカバリー: 継続的な増分バックアップによる短いバックアップ時間、そしてファイル単位、アプリケーションアイテム単位、BMR、インスタントVM/BMRといった多様なリカバリーオプションは、あらゆる障害シナリオへの対応能力を高めます。
- 強力なBC/DR機能: HAとレプリケーション機能は、RPO/RTO要件が厳しい企業にとって不可欠な機能です。特にHAは、基幹システムの可用性を極めて高いレベルで実現します。
- スケーラビリティと分散配置: 大規模環境や複数拠点環境にも柔軟に対応できるアーキテクチャを持っています。
- 信頼性と実績: Arcserveは長年の歴史を持ち、データ保護分野での豊富な経験と実績を持つベンダーです。多くの企業で導入されており、信頼性の高い製品を提供しています。
考慮すべき点:
- 機能の豊富さゆえの初期学習コスト: 多様な機能を持つため、製品の全ての機能を理解し、自社の環境に最適に構成するためには、ある程度の学習時間が必要となる場合があります。
- ライセンス体系: 保護対象の種類や機能(バックアップのみか、HAも含むかなど)によってライセンス体系が異なります。自社の要件に合わせた適切なライセンス選定とコスト評価が必要です。
- サイジング: 保護対象のデータ量、RPO/RTO要件、保存期間などを考慮して、RPSのスペックやデータストア容量を適切にサイジングする必要があります。特に重複排除効果はデータ特性によって変動するため、事前の評価が望ましいです。
結論:
Arcserve UDPは、現代の複雑なIT環境におけるデータ保護の主要な課題(データ量増大、環境多様化、サイバー脅威、BC/DR、運用負荷)に対して、包括的かつ効率的な解決策を提供するプラットフォームです。その統合管理能力、広範な保護対象、優れた重複排除、そして強力なリカバリー/BC/DR機能は、多くの企業にとってデータ保護戦略の中核となりうる十分な実力を持っています。
特に、以下のような企業にとっては、「データ保護の決定版」として有力な選択肢となるでしょう。
- 物理、仮想、クラウドなど多様な環境が混在しており、管理を統合したい企業。
- RPO/RTO目標を厳しく設定しており、迅速なリカバリーや高い可用性を実現したい企業。
- 増大するバックアップデータとストレージコストに課題を感じている企業。
- 複数拠点があり、分散環境のデータ保護と中央での管理・DRを両立したい企業。
- ランサムウェア対策を強化し、バックアップデータの信頼性を高めたい企業。
ただし、導入を検討する際には、自社の具体的なIT環境、データ保護要件(RPO/RTO、保存期間、コンプライアンス)、予算などを詳細に洗い出し、Arcserve UDPの機能がそれらに適合するかを十分に評価することが重要です。トライアル版などを利用して、実際の環境で性能や使い勝手を確認することをお勧めします。
導入を検討する際のポイント
Arcserve UDPの導入を成功させるために、以下のポイントを考慮することをお勧めします。
- 現行環境の棚卸しと要件の明確化: 保護対象となるサーバー(物理/仮想、OS, アプリケーション)、データ量、ネットワーク構成などを詳細に把握します。また、ビジネス継続性計画に基づいたRPO/RTO要件、データの保存期間、コンプライアンス要件などを明確にします。
- 必要な機能の選定: UDPの機能セットの中から、自社に必要な機能(バックアップのみか、HAも必要か、クラウド連携は必須かなど)を絞り込みます。
- サイジングの検討: 保護対象データ量、重複排除効果の期待値、RPO/RTO要件(特にRPSのディスク性能)、バックアップデータ保存期間、レプリケーション帯域などを考慮して、RPSの台数やスペック、データストアの容量、ネットワーク帯域などを設計します。Arcserveのプリセールス担当者やパートナーと連携して正確なサイジングを行うことを推奨します。
- 導入形態の選択: ソフトウェアインストール、仮想アプライアンス、物理アプライアンス(Arcserve UDP Appliance)の中から、自社のITインフラや運用体制に最適な形態を選択します。
- ライセンス形態の確認: 保護対象の種類(CPUソケット、容量、エージェント数など)や機能によってライセンス体系が異なります。自社の構成に合った最もコスト効果の高いライセンス形態を確認します。
- トライアルによる実機評価: 可能であれば、実際の環境に近い構成でトライアル版を導入し、バックアップ速度、重複排除効果、リカバリー手順、インスタントVMの性能などを検証します。
- サポート体制の確認: 導入後の運用において、ベンダーやパートナーからのサポート体制は重要です。日本語サポートの状況や、提供されるサポートレベルを確認します。
これらのステップを踏むことで、Arcserve UDPが自社のデータ保護戦略に適合するかを適切に判断し、スムーズな導入と効果的な運用につなげることができます。
まとめ
データ保護は、ビジネスを継続し、将来にわたって成長していくための基盤です。現代の複雑で多様なIT環境、増大するデータ量、そして高度化するサイバー脅威は、従来の個別最適化されたデータ保護ツールでは対応が困難になってきています。
Arcserve Unified Data Protection (UDP) は、物理、仮想、クラウド、アプリケーション、エンドポイントといったあらゆるデータソースを、単一の統合アーキテクチャと管理コンソールで保護するという革新的なアプローチを提供します。グローバルソース側重複排除による効率的なデータ管理、インスタントVM/BMRによる迅速なリカバリー、そしてHA機能による高い可用性の実現は、現代企業が求める厳しいRPO/RTO要件に応えます。また、ランサムウェア対策機能やクラウド連携機能も強化されており、変化の激しいIT環境において、データ保護戦略の中心的役割を担いうるポテンシャルを持っています。
「データ保護の決定版」と呼べるソリューションは、企業の個別具体的な要件や環境によって異なります。しかし、Arcserve UDPが提供する包括性、統合性、そして高度な機能は、多くの企業が直面するデータ保護課題を解決し、強固なBC/DR基盤を構築するための非常に強力な選択肢となりえます。まさに、現代のデータ保護ニーズに対応する「決定版」候補の一つとして、その実力は十分に評価に値すると言えるでしょう。自社のデータ保護戦略を見直す際には、ぜひArcserve UDPを詳細に検討してみる価値があります。