m3u8とFFmpeg:ストリーミング動画のダウンロード・変換・保存

m3u8とFFmpeg:ストリーミング動画のダウンロード・変換・保存

導入:インターネット動画の世界とm3u8の役割

現代のインターネットでは、動画コンテンツが中心的な役割を担っています。YouTube、Netflix、各種オンデマンドサービス、ライブ配信など、様々な形で動画が提供されています。これらの多くは、ダウンロードではなく「ストリーミング」という形式で配信されています。

ストリーミングとは、動画ファイル全体をダウンロードしてから再生するのではなく、データを少しずつ受信しながら同時に再生を行う技術です。これにより、巨大な動画ファイルをダウンロード完了するまで待つことなく、すぐに再生を開始できます。また、ネットワーク環境やデバイスの性能に合わせて画質を自動調整する「アダプティブビットレートストリーミング(ABR)」などの技術も利用され、快適な視聴体験が提供されています。

このストリーミング配信において、重要な役割を果たすのが「m3u8」ファイルです。m3u8ファイルは、Appleが開発したHTTP Live Streaming(HLS)プロトコルで広く利用されているプレイリストファイル形式です。HLSは、動画コンテンツを短いセグメント(通常は数秒〜数分)に分割し、そのセグメントのリストをm3u8ファイルとして提供します。再生プレイヤーは、このm3u8ファイルを読み込み、リストに沿って順番に動画セグメント(通常はMPEG-2 TS形式のファイル)をダウンロードしながら再生を行います。

なぜ、このようなセグメント化された配信方式が使われるのでしょうか?主な利点は以下の通りです。

  1. 即時再生: ファイル全体を待たずに再生開始できる。
  2. アダプティブビットレート (ABR): ネットワーク帯域幅に応じて、異なる画質(ビットレート)のセグメントリスト(m3u8)やセグメントファイルを動的に切り替えることができる。これにより、低速回線でも途切れにくく、高速回線では高画質で再生できる。
  3. HTTPインフラの活用: 標準的なHTTPプロトコル上で動作するため、既存のWebサーバーやCDN (Content Delivery Network) を容易に利用できる。
  4. ライブ配信への適応: 新しいセグメントをリストに随時追加していくことで、ライブストリームを実現できる。

しかし、このセグメント化されたストリーミング形式は、従来のMP4などの単一ファイル形式とは異なるため、単純なツールではダウンロードやオフライン保存が難しい場合があります。視聴中にキャッシュされたセグメントファイルを寄せ集めても、完全な動画ファイルとして再生するには特別な処理が必要です。

そこで登場するのが、強力なマルチメディア処理ツールである「FFmpeg」です。FFmpegは、多様なフォーマットの動画、音声ファイルを処理できるコマンドラインツールであり、m3u8ストリームからのダウンロードや、ダウンロードしたファイルの変換にも対応しています。本記事では、このFFmpegを使ってm3u8ストリームをダウンロードし、オフラインで再生可能な形式に変換・保存する方法について、詳細に解説します。

注意点: 本記事で解説する技術は、あくまで技術的な方法論を示すものです。動画コンテンツには著作権が存在し、権利者の許諾なくダウンロードや複製を行うことは、著作権法に触れる可能性があります。特に、いわゆる「違法ダウンロード」にあたる行為は法律で禁止されています。FFmpegをm3u8ストリームのダウンロードに利用する際は、ご自身が権利を所有しているコンテンツ、または権利者からダウンロードやオフラインでの利用が許可されているコンテンツに限定してください。本記事の情報を用いて行われたいかなる行為についても、筆者および公開元は一切の責任を負いません。

FFmpegとは:マルチメディア処理の万能ツール

FFmpegは、動画、音声、その他のマルチメディアファイルを処理するための、無料かつオープンソースの巨大なプロジェクトです。コマンドラインツールとして提供されており、非常に多機能で柔軟な使い方ができます。

FFmpegの主な機能は以下の通りです。

  • エンコード(変換): あるフォーマットのメディアファイルを、別のフォーマットや設定に変換する。例えば、MP4をWebMに変換したり、高画質動画を低画質に圧縮したり、映像コーデックや音声コーデックを変更したりできます。
  • デコード: 圧縮されたメディアファイルを元のデータに戻す。再生や編集の前に行われます。
  • トランスコード: デコードとエンコードを同時に行い、フォーマットや設定を変換する。
  • ミキシング/デミキシング: 複数のストリーム(映像、音声、字幕など)を一つのコンテナファイルにまとめる(ミキシング)したり、その逆(デミキシング)を行ったりします。
  • フィルタリング: 動画や音声に様々な効果を適用する。リサイズ、クロップ、ノイズ除去、音量調整など。
  • ストリーム処理: ライブストリームの取り込み、生成、配信など。
  • フォーマット変換: コンテナフォーマット(MP4, MKV, TS, FLVなど)を変換する。
  • メタデータ編集: ファイルに含まれる情報(タイトル、アーティスト、コーデック情報など)を編集する。

FFmpegがこれほど強力なのは、多数のライブラリの集合体であるためです。主要なライブラリには以下のようなものがあります。

  • libavcodec: 様々なコーデック(H.264, H.265, VP9, AAC, MP3など)のエンコード/デコード機能を提供。
  • libavformat: 様々なコンテナフォーマット(MP4, MKV, TS, FLV, m3u8など)の多重化(muxing)/分離(demuxing)機能を提供。
  • libavutil: 各種ユーティリティ関数。
  • libswscale: 映像のスケーリング(リサイズ)や色空間変換。
  • libswresample: 音声のリサンプリングやフォーマット変換。

FFmpegは、コマンドラインから引数を与えることで、これらの機能を組み合わせて実行します。その柔軟性から、メディア処理の自動化や、特殊な変換を行う際に広く利用されています。

m3u8ストリームのダウンロードにおいてFFmpegが優れている点は、以下の通りです。

  • HLSプロトコルにネイティブ対応: m3u8ファイルを読み込み、リストに記載されたTSセグメントファイルを自動的にダウンロードし、連結して一つのストリームとして扱えます。
  • 復号化機能: #EXT-X-KEY タグで指定された暗号化(AES-128など)に対応しており、キーファイルがあればセグメントを復号しながら処理できます(ただし、高度なDRMには対応していません)。
  • 高速な処理: -c copy オプションを使えば、セグメントをダウンロードして結合するだけで、再エンコードの必要がないため非常に高速です。
  • 柔軟な変換: ダウンロードしたセグメントを結合しながら、同時に様々なフォーマット(MP4, MKVなど)に変換したり、コーデックを変更したりできます。
  • ストリーム選択: 複数の映像、音声、字幕トラックがある場合、必要なトラックだけを選択してダウンロード・変換できます。

次に、m3u8ストリームの仕組みをさらに詳しく見ていきましょう。

m3u8ストリームの詳細:HLSプロトコルとTSセグメント

m3u8は、HTTP Live Streaming (HLS) プロトコルにおけるプレイリストファイルです。HLSは、Appleによって開発され、現在はRFC 8216として標準化されています。その主な目的は、HTTP経由で効率的かつ適応的にメディアコンテンツを配信することです。

m3u8ファイルは、プレーンテキスト形式であり、特定のタグ(#で始まる行)とURI(Uniform Resource Identifier、通常はセグメントファイルへのURL)で構成されます。

基本的なマスタープレイリスト(異なるビットレートのストリームへの参照を含む)の例:

“`m3u8

EXTM3U

EXT-X-VERSION:3

EXT-X-STREAM-INF:BANDWIDTH=150000,AVERAGE-BANDWIDTH=120000,CODECS=”avc1.42e01e,mp4a.40.2″,RESOLUTION=416×234,FRAME-RATE=23.976

low/index.m3u8

EXT-X-STREAM-INF:BANDWIDTH=240000,AVERAGE-BANDWIDTH=190000,CODECS=”avc1.42e01e,mp4a.40.2″,RESOLUTION=480×270,FRAME-RATE=23.976

mid/index.m3u8

EXT-X-STREAM-INF:BANDWIDTH=440000,AVERAGE-BANDWIDTH=350000,CODECS=”avc1.42e01e,mp4a.40.2″,RESOLUTION=640×360,FRAME-RATE=23.976

high/index.m3u8

EXT-X-STREAM-INF:BANDWIDTH=670000,AVERAGE-BANDWIDTH=530000,CODECS=”avc1.42e01e,mp4a.40.2″,RESOLUTION=640×360,FRAME-RATE=23.976

hd/index.m3u8
“`

これは「マスタープレイリスト」と呼ばれ、それぞれ異なる帯域幅(BANDWIDTH)、解像度(RESOLUTION)、コーデック(CODECS)を持つサブプレイリスト(「low/index.m3u8」など)へのリンクを含んでいます。再生プレイヤーは、ネットワーク状況に応じてこれらのサブプレイリストを切り替えることで、ABRを実現します。

個々のサブプレイリスト(メディアプレイリスト)の例:

“`m3u8

EXTM3U

EXT-X-VERSION:3

EXT-X-TARGETDURATION:10

EXT-X-MEDIA-SEQUENCE:0

EXTINF:9.98933,

fileSequence0.ts

EXTINF:9.98933,

fileSequence1.ts

EXTINF:9.98933,

fileSequence2.ts

EXTINF:9.98933,

fileSequence3.ts

EXTINF:9.98933,

fileSequence4.ts

EXTINF:9.98933,

fileSequence5.ts

EXT-X-ENDLIST

“`

これは「メディアプレイリスト」と呼ばれ、実際のメディアセグメントファイルへのURIリストを含みます。主要なタグの意味は以下の通りです。

  • #EXTM3U: M3Uファイルのヘッダー。常にファイルの先頭に記述されます。
  • #EXT-X-VERSION: HLSプロトコルのバージョン。
  • #EXT-X-TARGETDURATION: メディアプレイリストに含まれるセグメントの最長継続時間(秒)。再生プレイヤーはこの情報をバッファリング戦略に利用します。
  • #EXT-X-MEDIA-SEQUENCE: メディアプレイリストの最初のセグメントのシーケンス番号。ライブ配信などでセグメントが追加される際に重要になります。
  • #EXTINF: セグメントの継続時間(秒)と、人間が読めるタイトル(オプション)。この行の次に、そのセグメントのURIが記述されます。
  • #EXT-X-ENDLIST: これ以上セグメントが追加されないことを示します。VOD (Video On Demand) のプレイリストの最後に記述されます。ライブ配信のプレイリストには通常含まれません。
  • #EXT-X-STREAM-INF: マスタープレイリストで使用され、続くメディアプレイリストに関する情報(帯域幅、解像度、コーデックなど)を示します。
  • #EXT-X-KEY: セグメントが暗号化されている場合に、復号化に必要な情報(暗号化方式、キーファイルのURI、IVなど)を示します。

m3u8で参照されるメディアセグメントは、通常MPEG-2 Transport Stream(TS)形式です。TSは、複数のストリーム(映像、音声、字幕など)を一つのファイルに多重化するのに適しており、エラー耐性も比較的高いため、ストリーミングや放送によく利用されます。

したがって、FFmpegがm3u8をダウンロードする際は、以下の処理を行っています。

  1. 指定されたm3u8ファイル(通常はメディアプレイリスト、あるいはマスタープレイリストから選択されたメディアプレイリスト)をダウンロードする。
  2. m3u8ファイルを解析し、記述されているTSセグメントのURIリストを取得する。
  3. リストに沿って、各TSセグメントファイルを順番にダウンロードする。
  4. ダウンロードしたTSセグメントファイルを連結し、必要に応じて復号化や形式変換を行い、指定された出力ファイルとして保存する。

特に、-c copy オプションを使用する場合、FFmpegは単にダウンロードしたTSセグメントを内部的に連結して、TSコンテナのまま出力するか、互換性のあるコンテナ(例:MP4)に詰め替える(トランスムキシング)だけなので、非常に高速です。再エンコード(デコード+エンコード)はCPUパワーを消費するため時間がかかりますが、-c copy ならファイルI/Oとネットワーク速度がボトルネックになります。

ただし、暗号化されている場合(#EXT-X-KEYがある場合)、FFmpegが対応できるのはAES-128などの比較的単純な暗号化方式に限られます。Widevine、PlayReady、FairPlay Streamingなどの高度なDRMが適用されているストリームは、FFmpeg単体で復号化することはできません。

FFmpegのインストール

FFmpegを使用するためには、まずお使いのシステムにインストールする必要があります。インストール方法はOSによって異なります。

Windows:
公式サイト (ffmpeg.org) のダウンロードページから、ビルド済みの実行ファイルをダウンロードするのが最も簡単です。
1. https://ffmpeg.org/download.html にアクセスします。
2. Windowsアイコンをクリックします。
3. 推奨されているビルド(例: gyan.dev または BtbN)のリンクをクリックします。
4. ffmpeg-git-full.7z のようなフルビルド版をダウンロードします。
5. ダウンロードしたファイルを解凍します(7-Zipなどの解凍ツールが必要です)。
6. 解凍してできたフォルダ内の bin フォルダにある ffmpeg.exeffplay.exeffprobe.exe を、環境変数PATHが通っているフォルダ(例: C:\Windows や新規作成した専用フォルダ)に配置するか、bin フォルダ自体にPATHを通します。環境変数にPATHを追加する方法は、各自のOSのバージョンや環境に合わせて検索してください。

macOS:
Homebrewというパッケージマネージャーを使うのが最も簡単です。
1. Homebrewがインストールされていない場合は、https://brew.sh/ の手順に従ってインストールします。
2. ターミナルを開き、以下のコマンドを実行します。
bash
brew install ffmpeg

Linux (Debian/Ubuntu系):
aptパッケージマネージャーを使います。
bash
sudo apt update
sudo apt install ffmpeg

Linux (Fedora系):
dnfパッケージマネージャーを使います。
bash
sudo dnf install ffmpeg

Linux (Arch Linux系):
pacmanパッケージマネージャーを使います。
bash
sudo pacman -S ffmpeg

インストールが完了したら、ターミナルやコマンドプロンプトを開き、ffmpeg -version と入力して実行します。バージョン情報が表示されれば、正しくインストールされています。

bash
ffmpeg -version

出力例:

ffmpeg version 5.1.2-essentials_build-gyan.dev Copyright (c) 2000-2022 the FFmpeg developers
built with gcc 12.1.0 (Rev2, Built by MSYS2)
... (詳細な設定情報が表示されます) ...

これで、FFmpegを使用する準備が整いました。

FFmpegを使ったm3u8ダウンロードの基本

FFmpegを使ってm3u8ストリームをダウンロードする基本的なコマンドは非常にシンプルです。

bash
ffmpeg -i "m3u8_url" -c copy output.ts

または、MP4コンテナとして保存したい場合(多くの場合こちらの方が一般的):

bash
ffmpeg -i "m3u8_url" -c copy -bsf:a aac_adtstoasc output.mp4

それぞれのオプションについて説明します。

  • ffmpeg: FFmpegコマンドの実行ファイル名を指定します。
  • -i "m3u8_url": 入力ファイル(またはストリーム)を指定します。ここではダウンロードしたいm3u8ファイルのURLを引用符 " で囲んで指定します。URLはhttp://またはhttps://で始まることが多いです。
  • -c copy または -codec copy: エンコードやデコードを行わずに、入力ストリームをそのまま出力ファイルにコピーすることを指示します。映像 (-c:v copy) と音声 (-c:a copy) の両方に適用されます。m3u8の場合、TSセグメントに含まれる映像・音声ストリームをそのまま連結して出力します。これが最も高速で、品質劣化もありません。
  • output.ts: 出力ファイル名を指定します。拡張子を.tsとすると、MPEG-2 Transport Streamコンテナとして保存されます。これは元のセグメント形式と互換性があります。
  • -bsf:a aac_adtstoasc: これは、出力コンテナをMP4にする場合など、音声ストリームがAAC形式で、かつADTS (Audio Data Transport Stream) ヘッダーが付いている場合に必要になる場合があります。AACデータをMP4コンテナに適したASC (Audio Specific Config) 形式にビットストリームフィルターを使って変換します。すべてのm3u8ストリームで必要というわけではありませんが、MP4に出力する際によく使われるオプションです。AAC音声を含むTSセグメントをMP4にコピーする際に、このフィルターがないと音声が正しく再生できないことがあります。
  • output.mp4: 出力ファイル名を.mp4とすると、MP4コンテナとして保存されます。多くのデバイスやプレイヤーで再生可能な汎用性の高い形式です。

コマンド実行の例:

例えば、https://example.com/stream/playlist.m3u8 というURLのm3u8ストリームをダウンロードし、video.mp4 という名前で保存したい場合、コマンドプロンプトやターミナルで以下のコマンドを実行します。

bash
ffmpeg -i "https://example.com/stream/playlist.m3u8" -c copy -bsf:a aac_adtstoasc video.mp4

FFmpegを実行すると、ネットワークからのダウンロード状況と、ファイルの処理状況がコンソールに表示されます。ダウンロードが完了すると、指定した出力ファイルが作成されます。

... (FFmpegのバージョン情報などが表示される) ...
Input #0, hls, from 'https://example.com/stream/playlist.m3u8':
Duration: N/A, start: 23.133000, bitrate: N/A
Program 0
Metadata:
variant_bitrate : 670000
Stream #0:0: Video: h264 (High), yuv420p(progressive), 640x360 [SAR 1:1 DAR 16:9], 23.98 fps, 23.98 tbr, 90k tbn
Metadata:
variant_bitrate : 670000
Stream #0:1: Audio: aac (LC), 44100 Hz, stereo, fltp
Metadata:
variant_bitrate : 670000
Output #0, mp4, to 'video.mp4':
Metadata:
encoder : Lavf59.16.100
Stream #0:0: Video: wrapped_avframe (copy)
Metadata:
variant_bitrate : 670000
Stream #0:1: Audio: aac (LC) (copy)
Metadata:
variant_bitrate : 670000
Stream mapping:
Stream #0:0 -> #0:0 (copy)
Stream #0:1 -> #0:1 (copy)
Press [q] to stop, [?] for help.
frame= 1234 fps=100 q=-1.0 Lsize= 12345kB time=00:01:23.45 bitrate=1234.5kbits/s speed= 1.23x
... (ダウンロード状況が継続的に表示される) ...
video:12000kB audio:300kB subtitle:0kB other streams:0kB global headers:0kB muxing overhead: unknown

-c copy オプションを使う場合、FFmpegは元のストリームのコーデックやビットレートを維持したまま、コンテナ形式だけを変更します。これは「トランスムキシング(Transmuxing)」と呼ばれ、非常に高速です。

様々なダウンロードシナリオとFFmpegコマンド

単純なm3u8ダウンロード以外にも、様々な状況に対応するためのFFmpegコマンドオプションがあります。

1. マスタープレイリストからの特定の品質の選択

前述のように、m3u8のURLがマスタープレイリストを指している場合、それは複数の品質(帯域幅)のメディアプレイリストへのリンクを含んでいます。FFmpegはデフォルトで、通常は最も品質の高いストリームを選択してダウンロードしようとします。しかし、特定の品質を選択したい場合もあります。

マスタープレイリストの内容を事前に確認するには、テキストエディタで開くか、curlなどのツールでダウンロードして確認します。

bash
curl "https://example.com/stream/master.m3u8"

または、ffprobe を使うと、FFmpegが入力をどう認識するかの情報が得られます。

bash
ffprobe -i "https://example.com/stream/master.m3u8"

ffprobe の出力には、各ストリームの情報が含まれており、例えば以下のように表示されます。

Input #0, hls, from 'https://example.com/stream/master.m3u8':
Duration: N/A, start: 0.000000, bitrate: N/A
Program 0
Metadata:
variant_bitrate : 670000
Stream #0:0: Video: h264 (High), yuv420p(progressive), 640x360 [SAR 1:1 DAR 16:9], 23.98 fps, 23.98 tbr, 90k tbn
Metadata:
variant_bitrate : 670000
Program 1
Metadata:
variant_bitrate : 440000
Stream #0:1: Video: h264 (High), yuv420p(progressive), 640x360 [SAR 1:1 DAR 16:9], 23.98 fps, 23.98 tbr, 90k tbn
Metadata:
variant_bitrate : 440000
... (他のプログラムやストリーム情報) ...

この出力例では、Program 0 が帯域幅670000、Program 1 が帯域幅440000のストリームを示しています。FFmpegでは、これらのプログラムを選択するために -map p:プログラム番号 オプションを使用できます。プログラム番号は0から始まります。

例えば、Program 1(帯域幅440000のストリーム)を選択してダウンロードする場合:

bash
ffmpeg -i "https://example.com/stream/master.m3u8" -map p:1 -c copy -bsf:a aac_adtstoasc video_mid.mp4

ただし、-map p:N でうまく選択できない場合や、マスタープレイリストに含まれるメディアプレイリストのURLが直接わかっている場合は、そのメディアプレイリストのURLを -i オプションに指定する方が確実です。マスタープレイリストをテキストエディタで開き、目的の品質の #EXT-X-STREAM-INF の次の行に記載されているURLを確認してください。

例えば、マスタープレイリストに mid/index.m3u8 というURLが含まれていて、それが中画質ストリームだとわかっている場合:

bash
ffmpeg -i "https://example.com/stream/mid/index.m3u8" -c copy -bsf:a aac_adtstoasc video_mid.mp4

2. 複数の音声トラックや字幕トラックの扱い

HLSストリームには、複数の音声トラック(多言語など)や字幕トラックが含まれている場合があります。FFmpegはデフォルトで、通常、最初の映像トラックと最初の音声トラックを選択します。他のトラックを含めてダウンロードしたい場合は、-map オプションを使って明示的に指定する必要があります。

ffprobe -i "m3u8_url" を実行して、ストリームの構成を確認します。

bash
ffprobe -i "https://example.com/stream/playlist_multi.m3u8"

出力例:

Input #0, hls, from 'https://example.com/stream/playlist_multi.m3u8':
Duration: N/A, start: 0.000000, bitrate: N/A
Program 0
Metadata:
variant_bitrate : 1000000
Stream #0:0: Video: h264 (High), yuv420p(progressive), 1280x720 [SAR 1:1 DAR 16:9], 29.97 fps, 29.97 tbr, 90k tbn
Metadata:
variant_bitrate : 1000000
Stream #0:1: Audio: aac (LC), 44100 Hz, stereo, fltp
Metadata:
language : eng
variant_bitrate : 1000000
Stream #0:2: Audio: aac (LC), 44100 Hz, stereo, fltp
Metadata:
language : jpn
variant_bitrate : 1000000
Stream #0:3: Subtitle: mov_text
Metadata:
language : eng
variant_bitrate : 1000000
Stream #0:4: Subtitle: mov_text
Metadata:
language : jpn
variant_bitrate : 1000000

この例では、映像トラック(Stream #0:0)、英語音声(Stream #0:1)、日本語音声(Stream #0:2)、英語字幕(Stream #0:3)、日本語字幕(Stream #0:4)が含まれています。

すべてのトラックを含めてダウンロードする場合:

bash
ffmpeg -i "https://example.com/stream/playlist_multi.m3u8" -c copy -map 0 -bsf:a aac_adtstoasc video_all_tracks.mp4

-map 0 は、入力ファイル(インデックス0)のすべてのストリームをマッピングすることを意味します。

特定のトラック(例:映像、日本語音声、日本語字幕)だけを選択する場合:

bash
ffmpeg -i "https://example.com/stream/playlist_multi.m3u8" -c copy -map 0:v:0 -map 0:a:1 -map 0:s:1 -bsf:a aac_adtstoasc video_jpn_tracks.mp4

-map 0:v:0: 入力ファイル0の最初の映像トラック (v:0) をマッピング。
-map 0:a:1: 入力ファイル0の2番目の音声トラック (a:1) をマッピング(インデックスは0から始まるので、Stream #0:2に対応)。
-map 0:s:1: 入力ファイル0の2番目の字幕トラック (s:1) をマッピング(インデックスは0から始まるので、Stream #0:4に対応)。

-map オプションのより詳細な使い方は、FFmpegのドキュメントを参照してください。

3. 暗号化されたストリーム(AES-128)のダウンロード

HLSストリームは、セグメント単位で暗号化されることがあります。最も一般的なのはAES-128暗号化です。メディアプレイリストには #EXT-X-KEY タグが含まれ、暗号化方式、キーファイルのURI、初期化ベクトル(IV)などが指定されます。

“`m3u8

EXTM3U

EXT-X-VERSION:3

EXT-X-TARGETDURATION:10

EXT-X-MEDIA-SEQUENCE:0

EXT-X-KEY:METHOD=AES-128,URI=”https://example.com/stream/keyfile”,IV=0x1234567890abcdef1234567890abcdef

EXTINF:9.98933,

fileSequence0.ts

EXTINF:9.98933,

fileSequence1.ts

“`

FFmpegは、#EXT-X-KEY タグによって指定されたキーファイルのURIからキーを取得し、IVを使って自動的にセグメントを復号化できます。したがって、基本的なAES-128暗号化であれば、ダウンロードコマンドは変わりません。

bash
ffmpeg -i "https://example.com/stream/encrypted_playlist.m3u8" -c copy -bsf:a aac_adtstoasc video_decrypted.mp4

FFmpegがキーを取得できるネットワーク環境であれば、自動的に復号化が行われます。ただし、キーファイルの取得に特別な認証やヘッダーが必要な場合、またはWidevineなどのより高度なDRMが使用されている場合は、FFmpeg単体でのダウンロードは困難または不可能です。

4. HTTPヘッダーやプロキシの設定

特定のWebサイトからのダウンロードや、プロキシ経由でのアクセスが必要な場合があります。FFmpegは、入力オプションとしてHTTPヘッダーやプロキシ設定を指定できます。

HTTPヘッダー(User-Agent, Refererなど)の追加:

一部のサイトでは、ブラウザからのアクセスであることを確認するためにUser-Agentヘッダーをチェックしたり、直前のページからの遷移であることを確認するためにRefererヘッダーをチェックしたりします。これらのヘッダーがないと、403 Forbiddenエラーなどでダウンロードが拒否されることがあります。

-headers オプションを使って、ヘッダーを追加できます。複数のヘッダーを指定する場合は、各ヘッダーの終わりに改行文字 \r\n を入れます。

bash
ffmpeg -headers "User-Agent: Mozilla/5.0 (Windows NT 10.0; Win64; x64) AppleWebKit/537.36 (KHTML, like Gecko) Chrome/58.0.3029.110 Safari/537.36\r\nReferer: https://example.com/video_page\r\n" -i "https://example.com/stream/playlist.m3u8" -c copy -bsf:a aac_adtstoasc video_with_headers.mp4

プロキシの設定:

プロキシサーバーを経由してダウンロードする場合は、環境変数 http_proxy または https_proxy を設定するか、FFmpegのオプションで指定します。環境変数の設定が一般的です。

Windows (コマンドプロンプト):
cmd
set http_proxy=http://your_proxy_server:port
set https_proxy=http://your_proxy_server:port
ffmpeg -i "https://example.com/stream/playlist.m3u8" -c copy -bsf:a aac_adtstoasc video_via_proxy.mp4

Linux/macOS (Bash):
bash
export http_proxy="http://your_proxy_server:port"
export https_proxy="http://your_proxy_server:port"
ffmpeg -i "https://example.com/stream/playlist.m3u8" -c copy -bsf:a aac_adtstoasc video_via_proxy.mp4

認証が必要なプロキシの場合は、http://user:password@your_proxy_server:port の形式で指定します。

5. ライブストリームのダウンロード

HLSはライブ配信にもよく利用されます。ライブストリームのm3u8プレイリストには #EXT-X-ENDLIST タグがなく、新しいセグメントが随時追加されます。FFmpegでライブストリームをダウンロードする場合、通常は指定した時間だけダウンロードするか、手動で停止します。

特定の時間(例:5分間)だけダウンロードする場合、-t オプションで時間を指定します。

bash
ffmpeg -i "https://example.com/live/stream.m3u8" -c copy -t 00:05:00 live_segment.ts

-t の時間は HH:MM:SS または秒数で指定できます。

手動で停止する場合は、コマンドを実行し、ダウンロード中に Ctrl+C (Windows/Linux) または Cmd+C (macOS) を押します。FFmpegは、それまでにダウンロードしたセグメントを結合してファイルを作成しようとしますが、ストリームが不安定になる可能性もあります。

ライブストリームの場合、出力コンテナとして.tsを選択することが多いです。これは、TS形式がストリーム処理中に中断されても、それまでに書き込まれた部分が比較的問題なく再生できる特性を持つためです。MP4コンテナは、ファイル末尾にメタデータ(インデックス情報など)を書き込む必要があるため、途中で中断するとファイルが壊れる可能性があります。

6. リトライ処理やタイムアウトの設定

ネットワークが不安定な場合、セグメントのダウンロードに失敗することがあります。FFmpegはデフォルトである程度のリトライを行いますが、より詳細な制御が必要な場合は、入力オプションで設定できます。

-reconnect オプションは、ネットワーク接続が切断された場合のリトライ動作を制御します。

bash
ffmpeg -reconnect 1 -reconnect_streamed 1 -reconnect_delay_max 5 -i "m3u8_url" -c copy output.mp4

  • -reconnect 1: ストリームを切断された場合にリトライを有効にする。
  • -reconnect_streamed 1: ストリーミングプロトコル(HLSなど)に対してリトライを有効にする。
  • -reconnect_delay_max 5: リトライ間の最大待機時間(秒)。

タイムアウトを設定したい場合は、-timeout オプションを使用します(ただし、これはプロトコルによってはサポートされないことがあります)。

bash
ffmpeg -timeout 20000000 -i "m3u8_url" -c copy output.mp4

-timeout の値はマイクロ秒で指定します(20000000マイクロ秒 = 20秒)。

7. 特定のセグメントから開始/終了

プレイリストの一部だけをダウンロードしたい場合、HLSプロトコルはセグメントのシーケンス番号に基づいて開始位置を指定できます。FFmpegのHLS入力では、-start_number オプションがこれに相当します。

bash
ffmpeg -start_number 10 -i "m3u8_url" -c copy output_from_seg10.ts

これは、メディアプレイリストの #EXT-X-MEDIA-SEQUENCE で示される最初のセグメントを0として、10番目のセグメント(実際には11番目)からダウンロードを開始します。

また、ダウンロードするセグメント数を制限したい場合は、-frames:v (映像フレーム数) や -t (時間) オプションと組み合わせて使用します。ただし、セグメントの切れ目と正確に一致させるのは難しい場合があります。

ダウンロードしたTSファイルの変換

-c copy オプションを使ってm3u8ストリームをTSまたはMP4としてダウンロードした場合、多くはそのままで再生可能ですが、さらに別の形式に変換したり、ファイルサイズを小さくするために再エンコードしたりしたい場合があります。FFmpegは、この変換処理も強力にサポートしています。

変換の基本コマンドは以下の形式です。

bash
ffmpeg -i input.ts output.mp4

このコマンドは、入力ファイル input.ts を、デフォルトの設定でMP4コンテナを持つファイル output.mp4 に変換します。この際、FFmpegは入力ファイルのコーデックを自動的に判別し、出力ファイルのコンテナ形式(拡張子から判断)に適したデフォルトのコーデック(通常、映像はlibx264、音声はaac)を使って再エンコードを行います。

変換プロセスでは、エンコード設定を細かく制御することが重要です。

1. 映像・音声コーデックの指定

-c:v で映像コーデック、-c:a で音声コーデックを指定します。

例:映像をH.264 (libx264)、音声をAACに変換

bash
ffmpeg -i input.ts -c:v libx264 -c:a aac output.mp4

よく使われるコーデック:
* 映像: libx264 (H.264/AVC), libx265 (H.265/HEVC), libvpx-vp9 (VP9), libaom-av1 (AV1)
* 音声: aac (AAC-LC), libmp3lame (MP3), libopus (Opus), ac3 (Dolby Digital)

FFmpegのビルドによっては、一部のコーデックが利用できない場合があります。ffmpeg -encoders および ffmpeg -decoders コマンドで、利用可能なコーデックを確認できます。

2. エンコード設定(画質、速度、ビットレート)

映像エンコードは、画質、ファイルサイズ、エンコード速度のバランスを調整するのが一般的です。

  • 可変ビットレート (VBR) – 品質基準: -crf (Constant Rate Factor) オプションは、H.264 (libx264) や H.265 (libx265) でよく使われる画質指定方法です。数値が小さいほど高画質(ファイルサイズ大)、大きいほど低画質(ファイルサイズ小)になります。目安として、18〜24程度がよく使われます。デフォルトは23です。

    bash
    ffmpeg -i input.ts -c:v libx264 -crf 20 -c:a aac output.mp4

  • 可変ビットレート (VBR) – 速度基準: -preset オプションは、エンコードの速度と圧縮効率(ファイルサイズ)のバランスを調整します。ultrafast, superfast, fast, medium (デフォルト), slow, slower, veryslow などがあります。高速な設定ほどエンコードは速いですが、ファイルサイズは大きくなりがちで、低速な設定ほどエンコードは遅いですが、ファイルサイズをより小さくできます。

    bash
    ffmpeg -i input.ts -c:v libx264 -crf 20 -preset slow -c:a aac output.mp4

  • 固定ビットレート (CBR): -b:v で映像ビットレート、-b:a で音声ビットレートを指定します。特定のファイルサイズに近づけたい場合などに使用します。

    bash
    ffmpeg -i input.ts -c:v libx264 -b:v 1500k -c:a aac -b:a 128k output.mp4

    1500k は1500キロビット毎秒を意味します。

より詳細なエンコード設定は、各コーデックのオプション(例えばlibx264の場合は -x264opts など)で行いますが、これは非常に高度なトピックになります。まずは -crf, -preset, -b:v, -b:a あたりから試してみるのが良いでしょう。

3. 解像度やフレームレートの変更 (フィルタリング)

解像度を変更したり、フレームレートを変更したりする場合は、映像フィルタリングを使用します。-vf オプションで指定します。

  • リサイズ: scale フィルタを使用します。例:幅1280ピクセル、高さ720ピクセルにリサイズ。

    bash
    ffmpeg -i input.ts -vf scale=1280:720 -c:v libx264 -crf 23 -c:a aac output_720p.mp4

    アスペクト比を維持したまま、片方の辺を指定する場合は、もう片方を -1 にします。例:幅を1280ピクセルにし、アスペクト比維持。

    bash
    ffmpeg -i input.ts -vf scale=1280:-1 -c:v libx264 -crf 23 -c:a aac output_720p_ar.mp4

  • フレームレート変更: fps フィルタを使用します。例:フレームレートを30fpsに変更。

    bash
    ffmpeg -i input.ts -vf fps=30 -c:v libx264 -crf 23 -c:a aac output_30fps.mp4

複数のフィルタを組み合わせる場合は、カンマ , で区切ります。例:リサイズしてからフレームレートを変更。

bash
ffmpeg -i input.ts -vf scale=1280:-1,fps=30 -c:v libx264 -crf 23 -c:a aac output_filtered.mp4

4. 音声トラックの選択・変換設定

音声トラックが複数ある場合、-map オプションで必要なトラックを選択した上で、-c:a-b:a オプションでエンコード設定を行います。

例:入力ファイル input_multi_audio.ts の最初の映像トラックと、2番目の音声トラック(Stream #0:2とする)を選択し、音声はAAC 192kbpsに変換。

bash
ffmpeg -i input_multi_audio.ts -map 0:v:0 -map 0:a:1 -c:v copy -c:a aac -b:a 192k output_jpn_audio.mp4

この例では、映像は -c:v copy でコピー(再エンコードなし)し、音声だけを再エンコードしています。このように、映像と音声で異なる処理を行うことも可能です。

5. 字幕トラックの扱い

字幕トラックは、変換先のコンテナ形式やFFmpegのビルドによって対応状況が異なります。
* 字幕のコピー: MOV_TEXT形式などの字幕は、MP4やMKVコンテナにコピーできる場合があります。-c:s copy オプションを使用します。

```bash
ffmpeg -i input_with_sub.ts -c copy -c:s copy output_with_sub.mp4
```
  • 字幕の焼き付け (ハードサブ): 映像に字幕を合成して、常に表示されるようにできます。subtitles または ass フィルタを使用します。これにはlibassなどのライブラリが必要です。これは再エンコードが必須になります。

    bash
    ffmpeg -i input.ts -vf subtitles=input.ts -c:v libx264 -crf 23 -c:a aac output_hardsub.mp4

    外部の字幕ファイル(.srt, .assなど)を焼き付ける場合は、そのファイルパスを指定します。

    bash
    ffmpeg -i input.ts -vf subtitles=subtitle.srt -c:v libx264 -crf 23 -c:a aac output_hardsub_external.mp4

    複数トラックや言語指定が必要な場合は、フィルタオプションで指定します(例: subtitles=input.ts:stream_key=s:1)。

6. メタデータの編集

タイトル、アーティスト、エンコーダー情報などのメタデータを付与・編集できます。-metadata オプションを使用します。

bash
ffmpeg -i input.ts -c copy -metadata title="Converted Video Title" -metadata encoder="FFmpeg Conversion" output_with_metadata.mp4

ストリームごとのメタデータも指定できます(例: -metadata:s:a:0 language=jpn で最初の音声ストリームに日本語タグを付ける)。

変換処理はCPUに大きな負荷をかけます。エンコード設定によっては非常に時間がかかる場合があります。-preset オプションを調整したり、より高性能なCPUやハードウェアエンコーディング(Nvidia NVENC, Intel Quick Sync Videoなど、FFmpegのビルドが対応している場合 -c:v h264_nvenc のように指定)を利用することで、高速化できることがあります。

保存に関する注意点

ダウンロードまたは変換した動画ファイルを保存する際には、いくつかの注意点があります。

  1. ファイル形式の選択:

    • TS (.ts): 元の形式に近く、-c copy で高速に保存できます。ライブ配信など、ストリームをそのまま保存するのに向いています。ただし、TS形式はストリーム向けのため、シーク(早送り/巻き戻し)があまり得意ではなかったり、一部のプレイヤーとの互換性が低い場合があります。
    • MP4 (.mp4): 最も汎用性の高いコンテナ形式の一つで、多くのデバイスやプレイヤーで再生可能です。シークもスムーズです。通常、変換の出力形式として推奨されます。
    • MKV (.mkv): Matroskaコンテナ形式で、MP4よりも多くの種類のコーデックや複数の音声/字幕トラックを柔軟に扱えます。高機能なプレイヤーで再生する場合や、複数の音声・字幕トラックを保持したい場合に適しています。
    • その他: WebM (.webm)、AVI (.avi) など、用途に応じて様々な形式を選択できます。
  2. ストレージ容量: 動画ファイル、特に高画質や長時間のものはファイルサイズが大きくなります。保存に必要なストレージ容量を事前に確認し、十分な空き容量を確保してください。再エンコードによってファイルサイズを削減できますが、品質とのトレードオフになります。

  3. ファイル名と整理: ダウンロードしたファイルに分かりやすい名前を付け、後から見つけやすいように整理して保存することをお勧めします。ダウンロード元や内容がわかるようなファイル名(例: 番組名_エピソード番号_YYYYMMDD.mp4)にすると便利です。

  4. メタデータ: FFmpegでファイルを保存する際に、タイトル、制作者、年などのメタデータを付与しておくと、メディアプレイヤーで情報を表示したり、ライブラリ管理をする際に役立ちます。-metadata オプションを活用してください。

  5. 著作権: 再度強調しますが、著作権のあるコンテンツを権利者の許諾なくダウンロード・保存することは違法です。個人的な利用であっても、許諾されていない場合は著作権侵害にあたる可能性があります。あくまでご自身が権利を持つコンテンツや、合法的にダウンロード・保存が許可されているコンテンツに対してのみ、本記事で解説する方法を使用してください。ダウンロードしたファイルを許可なく他者に配布したり、インターネット上に公開したりする行為は、著作権侵害に加えて送信可能化権の侵害にもあたり、より深刻な問題となります。

高度なトピック

DRMで保護されたコンテンツ

前述の通り、FFmpegは #EXT-X-KEY タグによるAES-128暗号化には対応していますが、Widevine, PlayReady, FairPlay Streamingなどの現代の主要なDRMシステムで保護されたm3u8ストリームは、FFmpeg単体で復号化してダウンロードすることはできません。これらのDRMは、暗号化キーの管理や復号化に特別なライセンスサーバーとの通信が必要であり、通常はWebブラウザや専用アプリ内のDRMモジュール(CDM: Content Decryption Module)によって処理されます。

もしDRMがかかったコンテンツを合法的にオフライン視聴したい場合は、コンテンツプロバイダーが公式に提供するダウンロード機能(アプリ内ダウンロードなど)を利用する必要があります。FFmpegなど、非公式なツールを使ってDRMを回避・解除する行為は、技術的保護手段の回避にあたり、著作権法上の違法行為となる可能性があります。

m3u8ファイルの解析

ダウンロードしようとしているm3u8ファイルの内容をより詳しく知りたい場合、テキストエディタで開く以外に、FFmpegの ffprobe コマンドを使うと便利です。

bash
ffprobe -i "m3u8_url" -hide_banner -loglevel debug

-hide_banner はFFmpegのバージョン情報などを非表示にします。-loglevel debug は詳細なログを出力し、m3u8ファイルの内容(セグメントリストやキー情報など)がどのように解釈されているかを確認できます。これにより、ダウンロードがうまくいかない原因を探ったり、特定のストリームのインデックスを確認したりできます。

セグメント結合以外の方法 (concatプロトコル)

ごくまれに、FFmpegのHLS入力(-i m3u8_url)がうまく機能しない場合があります。この場合、m3u8ファイルをダウンロードして、そこに記載されているTSセグメントのリストを作成し、FFmpegのconcatプロトコルを使って連結するという手法も考えられます。

まず、m3u8ファイルをダウンロードします。

bash
curl "https://example.com/stream/playlist.m3u8" -o playlist.m3u8

次に、このm3u8ファイルからセグメントファイル名のリストを含むテキストファイルを作成します。例えば、segments.txtというファイルを作成し、以下のように記述します(各行はfile 'セグメントファイル名またはURL'の形式)。

txt
file 'fileSequence0.ts'
file 'fileSequence1.ts'
fileSequence2.ts
...

もしセグメントファイルが絶対URLで指定されている場合は、そのURLを記述します。ローカルにダウンロードした場合はローカルパスを記述します。

そして、このリストを使ってFFmpegのconcatデムーサーで連結します。

bash
ffmpeg -f concat -safe 0 -i segments.txt -c copy output.ts

-f concat: 入力フォーマットとしてconcatデムーサーを指定します。
-safe 0: リストファイル中のパスに絶対パスや親ディレクトリ参照が含まれる場合に必要になることがあります(セキュリティ上の注意が必要です)。

この方法は、m3u8ファイルの解析とリスト作成を別途行う手間がかかりますが、特定の状況では有効な手段となり得ます。

トラブルシューティング:一般的なエラーとその対処法

FFmpegを使ったm3u8ダウンロード中に発生しうる一般的なエラーとその対処法をいくつか挙げます。

  1. Protocol not found or Protocol 'https' not on allow list:

    • 原因: FFmpegのビルドがHTTPSプロトコルに対応していない、またはネットワークプロトコルが制限されている可能性があります。
    • 対処法: HTTPSやRTMPなどのプロトコルに対応したフルビルド版のFFmpegを使用してください。公式サイトからダウンロードできるビルド版は通常これらのプロトコルに対応しています。または、FFmpegのコンパイル時に対応プロトコルを有効にする必要があります。
  2. Server returned 403 Forbidden (access denied):

    • 原因: サーバーがアクセスを拒否しています。User-AgentやRefererヘッダーのチェック、IPアドレス制限、認証が必要な場合などが考えられます。
    • 対処法:
      • -headers オプションで適切なUser-AgentRefererヘッダーを追加してみてください(前述の「HTTPヘッダーの設定」を参照)。
      • プロキシが必要か確認し、必要であればプロキシ設定を行ってください。
      • コンテンツにアクセスするための認証(クッキーやトークンなど)が必要な場合、FFmpeg単体での対応は難しいことが多いです。別途ツールやスクリプトで認証情報を取得し、FFmpegのヘッダーやURLに含める必要があるかもしれません(非常に高度)。
      • 単にそのURLからの直接ダウンロードが制限されている可能性もあります。
  3. Server returned 404 Not Found:

    • 原因: 指定したm3u8ファイルのURLが間違っているか、存在しない。または、m3u8ファイル自体は取得できたが、リスト内のセグメントファイルのURLが間違っているか、セグメントファイルが存在しない。
    • 対処法:
      • 指定したm3u8ファイルのURLが正しいか再確認してください。
      • ffprobe -i "m3u8_url" を実行して、FFmpegがm3u8ファイルを正しく読み込めているか確認してください。
      • -loglevel debug オプションを付けてFFmpegを実行し、どのセグメントファイルのダウンロードで404エラーが発生しているか、ログを確認してください。セグメントのURLが相対パスで記述されている場合、m3u8ファイルの場所からの相対的な解決がうまくいかない可能性があります。その場合は、セグメントファイルの絶対URLを特定する必要があります。
  4. Connection refused or Network is unreachable:

    • 原因: ネットワーク接続の問題。ファイアウォール、プロキシ設定の間違い、DNSエラーなどが考えられます。
    • 対処法: ネットワーク接続を確認してください。プロキシ設定が正しいか確認してください。ファイアウォールでFFmpegの通信がブロックされていないか確認してください。
  5. Output file #0 does not contain any stream:

    • 原因: 入力ストリームから出力ストリームへのマッピングが正しく行われなかった。通常は -map オプションの指定ミスや、入力ストリームに意図したトラックが存在しない場合に発生します。
    • 対処法: ffprobe -i "m3u8_url" で入力ストリームの構成を確認し、-map オプションの指定(インデックス番号など)が正しいか確認してください。
  6. Error while opening decoder or Codec not found:

    • 原因: ダウンロードしたTSセグメントに含まれる映像または音声コーデックが、使用しているFFmpegのビルドでサポートされていないか、変換コマンドで指定したコーデックが利用できない。-c copy を使用している場合は、出力コンテナが元のストリーム形式と互換性がない。
    • 対処法:
      • -c copy を使う場合、出力コンテナとして.tsを試してみてください。MP4に出力する場合は -bsf:a aac_adtstoasc などのビットストリームフィルターが必要か確認してください。
      • 再エンコードを行う場合、ffmpeg -decodersffmpeg -encoders で使用可能なコーデックを確認し、サポートされているコーデックを指定してください。最新のFFmpegビルドを使用することも検討してください。
  7. ダウンロード速度が遅い:

    • 原因: ネットワーク帯域幅の制限、サーバー側の配信能力、CDNの問題、同時に多数のセグメントを要求しているなどが考えられます。
    • 対処法:
      • ネットワーク環境を確認してください。
      • 可能であれば、混雑していない時間帯にダウンロードを試みてください。
      • -reconnect オプションでリトライ設定を調整することで、一時的なネットワークの問題による中断からの復旧を改善できる場合があります。FFmpegの -speed_limit オプションでダウンロード速度を制限することもできますが、これは通常逆効果です。
  8. 復号化エラー (Error when decoding stream #0:0: Operation not permitted):

    • 原因: ストリームが暗号化されており、FFmpegがキーを取得できなかった、または対応していないDRMが使用されている。
    • 対処法: ffprobe -i "m3u8_url"-loglevel debug オプションを付けてFFmpegを実行し、#EXT-X-KEY タグの情報(METHOD, URI, IVなど)が正しく読み込まれているか確認してください。キーファイルのURIにアクセス制限がないか確認してください。AES-128以外のDRMの場合は、FFmpeg単体では対応できません。

トラブルシューティングを行う際は、まず -loglevel verbose または -loglevel debug オプションを付けてFFmpegを実行し、出力される詳細なログメッセージを注意深く確認することが重要です。エラーメッセージや警告メッセージから、問題の原因の手がかりが得られます。

まとめ:m3u8とFFmpegの活用

本記事では、m3u8フォーマットを用いたストリーミング配信の仕組みと、FFmpegという強力なツールを使ったm3u8ストリームのダウンロード・変換・保存方法について詳細に解説しました。

m3u8はHLSプロトコルの中核であり、動画コンテンツをセグメント化して配信することで、即時再生やアダプティブビットレートを実現しています。FFmpegは、このm3u8ファイルを解析し、セグメントをダウンロード・結合・処理する能力を持っています。

基本的なダウンロードは -i "m3u8_url" -c copy output.mp4 のようにシンプルに行えますが、マスタープレイリストからの品質選択、複数の音声・字幕トラックの扱い、暗号化への対応、HTTPヘッダーやプロキシの設定、ライブストリームのダウンロードなど、様々なシナリオに応じて適切なオプションを組み合わせることで、より柔軟な対応が可能です。

また、ダウンロードしたTSファイルなどを、MP4など汎用性の高い形式に変換する際には、FFmpegの持つ豊富なエンコード機能を利用できます。映像・音声コーデックの選択、画質や速度の調整、解像度やフレームレートの変更、字幕の処理など、様々な設定を -c:v, -c:a, -crf, -preset, -vf, -map などのオプションで行います。

動画ファイルの保存においては、ファイル形式の選択や必要なストレージ容量の確保が重要です。そして最も重要な注意点として、動画コンテンツの著作権侵害にあたる行為は絶対に行わないことが挙げられます。

FFmpegは非常に多機能なツールであり、本記事で紹介した機能はごく一部に過ぎません。さらに詳細なオプションや高度な使い方については、FFmpegの公式ドキュメントを参照することをお勧めします。

m3u8ストリームの仕組みを理解し、FFmpegを使いこなすことで、ストリーミング動画をオフラインで扱ったり、お好みの形式に変換したりすることが可能になります。ただし、その利用は必ず著作権法を遵守し、合法的な範囲内にとどめるようにしてください。本記事が、m3u8とFFmpegに関する理解を深め、皆様の適切なメディア処理の一助となれば幸いです。

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