React Cacheで変わるReact開発:使い方とメリット

React Cacheで変わるReact開発:使い方とメリット

はじめに:データフェッチの課題とReact Cacheの登場

Reactアプリケーションを開発する上で、外部APIからのデータ取得は避けられない、そして最も一般的な処理の一つです。しかし、この「データフェッチ」は、アプリケーションの複雑さが増すにつれて、開発者を悩ませる種となりがちでした。

従来のReact(特にFunction ComponentとHooksが登場して以降)でデータフェッチを行う最も一般的な方法は、useEffectフックの中で非同期関数(例:fetchやaxiosなど)を呼び出し、その結果をuseStateフックで管理するというものでした。このアプローチは非常に柔軟で強力ですが、いくつかの課題を抱えています。

  1. ボイラープレートコードの多さ: データフェッチ、ローディング状態の管理、エラー状態の管理、そしてコンポーネントのアンマウント時のクリーンアップなど、一連の処理を毎回useEffect内に記述する必要があり、コードが冗長になりがちです。
  2. データ取得ロジックとUIロジックの密結合: useEffectはコンポーネントのライフサイクルに関連付けられているため、データ取得のロジックが特定のコンポーネント内に閉じ込められやすく、再利用が難しくなります。また、UIのレンダリングとデータ取得の状態(ローディング中か、エラーかなど)が同じコンポーネントで管理されるため、関心の分離が難しくなります。
  3. コンポーネントツリー内でのデータフェッチの非効率性(ウォーターフォール): 複数のコンポーネントが互いに依存するデータを取得する場合、親コンポーネントがフェッチを完了してから子コンポーネントがフェッチを開始するというように、データフェッチが段階的に実行されてしまうことがあります。これは「ウォーターフォール」と呼ばれ、アプリケーション全体のデータ取得に時間がかかり、初期表示が遅くなる原因となります。
  4. 重複したデータフェッチ: 同じデータを複数のコンポーネントが必要とする場合、それぞれのコンポーネントが独立して同じAPIエンドポイントにリクエストを送ってしまう可能性があります。これはサーバーへの負荷を増大させるだけでなく、無駄なネットワーク通信を引き起こし、パフォーマンスを低下させます。
  5. クライアントサイドでのキャッシュ管理の複雑さ: 一度取得したデータを再利用するためには、明示的にキャッシュを実装する必要があります。これはメモリ内のオブジェクトやContext API、あるいはReduxなどの状態管理ライブラリを使って実現できますが、キャッシュの有効期限、更新、無効化といった管理が非常に複雑になりがちです。多くの場合は、React QueryやSWRのようなサードパーティ製のデータフェッチライブラリに頼ることになります。これらのライブラリは素晴らしい解決策を提供しますが、アプリケーションに新たな依存関係と学習コストをもたらします。

Reactコミュニティは長年これらの課題に取り組んできました。そして、React v18以降で導入されたConcurrent Features(並行モード)と、それに付随するSuspenseという概念が、これらの問題に対する根本的な解決策の道を開きました。Suspenseは「データがまだ準備できていない場合に、レンダリングを一時停止し、フォールバックUIを表示する」という機能を提供します。しかし、Suspenseはあくまで「UI側」の機能であり、データ取得そのものをどう行うか、あるいはその結果をどうキャッシュするかについては、React自身は直接的なAPIを提供していませんでした。

そこで登場するのが、React Cacheです。

React Cache(正確には、現在実験的なAPIとして提供されているcache関数など)は、特定の「関数呼び出しの結果」をメモ化し、キャッシュする機能を提供します。これは一見地味な機能に見えるかもしれませんが、SuspenseやServer Componentsといった新しいReactのパラダイムと組み合わせることで、前述のデータフェッチに関する多くの課題を劇的に改善する可能性を秘めています。

この記事では、React Cacheがどのように機能するのか、その使い方、そしてそれがReact開発にもたらすメリットについて、詳細に掘り下げていきます。約5000語にわたり、基本的な考え方から、SuspenseやServer Componentsとの連携、そして実践的な応用例や注意点までを網羅的に解説します。

React Cacheの基本:cache()関数の理解

React Cacheの核となるのは、cache()という関数です。これは、メモ化(Memoization)の概念を応用したもので、特定の関数を呼び出した際に、その引数と結果のペアを記憶しておき、同じ引数で再度関数が呼び出された場合には、実際の関数を実行せず、記憶しておいた結果を返すという働きをします。

ただし、React Cacheのcache()は、単なるメモ化関数とは少し異なります。Reactのレンダリングサイクルやサスペンスとの連携を前提として設計されており、特に非同期関数の結果をキャッシュし、Suspenseと連携してローディング状態を扱うことに長けています。

cache()関数の基本的なシグネチャは以下のようになります(これはReactの実験的なAPIとして提供されているため、プレフィックスが付くことがあります。例: unstable_cache):

“`javascript
import { cache } from ‘react’; // あるいは ‘react/experimental’ など

const cachedFn = cache(originalFn);
“`

ここで、originalFnはキャッシュしたい関数です。cache()関数は、originalFnと同じシグネチャを持つ新しい関数cachedFnを返します。このcachedFnを呼び出すと、以下の動作が行われます。

  1. cachedFnが特定の引数セットで初めて呼び出された場合、内部的にoriginalFnがその引数で実行されます。その結果(同期的な値、あるいは非同期関数の場合はPromise)が、その引数セットと紐づけられてキャッシュに保存されます。そして、結果が返されます。
  2. cachedFn同じ引数セットで再度呼び出された場合、originalFnは実行されません。代わりに、キャッシュに保存されている以前の結果がすぐに返されます。

重要なのは、「同じ引数セット」がどのように判定されるかです。デフォルトでは、cache()は引数の参照等価性(reference equality)に基づいてキャッシュキーを生成します。つまり、同じ値を持つオブジェクトや配列であっても、異なる参照であれば異なる引数セットと見なされ、キャッシュはヒットしません。プリミティブ型(文字列、数値、真偽値など)の場合は、値が同じであれば同じ引数セットと見なされます。

例:

“`javascript
import { cache } from ‘react’;

// 例1:同期関数のキャッシュ
const calculateSum = cache((a, b) => {
console.log(Calculating sum for ${a}, ${b}...);
return a + b;
});

console.log(calculateSum(2, 3)); // “Calculating sum for 2, 3…”, 5
console.log(calculateSum(2, 3)); // 5 (キャッシュから、ログは出ない)
console.log(calculateSum(5, 1)); // “Calculating sum for 5, 1…”, 6
console.log(calculateSum(2, 3)); // 5 (キャッシュから)

// 例2:非同期関数のキャッシュ
const fetchData = cache(async (id) => {
console.log(Fetching data for ID: ${id}...);
const response = await fetch(/api/items/${id});
if (!response.ok) {
throw new Error(Failed to fetch item ${id});
}
return response.json();
});

// 非同期関数のキャッシュは、Promiseの状態をキャッシュします。
// Suspenseと組み合わせて使用します。
// 例として、コンポーネント内で使用するイメージ:
// async function ItemDisplay({ id }) {
// const item = await fetchData(id); // awaitはServer Componentでのみ可能
// return

Item: {item.name}

;
// }

// Client Componentで使う場合はResourceとしてラップするなど工夫が必要(後述)
“`

この非同期関数のキャッシュが、Reactのデータフェッチ戦略において非常に重要になります。cache()でラップされた非同期関数(Promiseを返す関数)が呼び出されたとき、そのPromiseの状態(Pending, Fulfilled, Rejected)がキャッシュされます。

  • PromiseがPendingの場合、キャッシュはPromise自体を保持します。このPromiseを待つコンポーネント(Server Componentでのawaitや、Client ComponentでResourceをuseする場合)はサスペンドします。
  • PromiseがFulfilledの場合、解決された値がキャッシュされます。次に同じ引数で呼ばれたときは、すぐにその値が返されます。
  • PromiseがRejectedの場合、エラーがキャッシュされます。次に同じ引数で呼ばれたときは、そのエラーがスローされます。これはError Boundaryによって捕捉されることを期待します。

このように、cache()は関数呼び出しとその結果(値またはPromise、エラー)を記憶することで、同じ呼び出しに対する重複した処理を防ぎます。

キャッシュのライフサイクル:

React Cacheのキャッシュは、Reactの実行環境(レンダリングパスやリクエスト)に関連付けられています。サーバーサイドレンダリング(SSR)では、通常1つのリクエストに対して1つのキャッシュインスタンスが使われます。クライアントサイドレンダリング(CSR)やハイドレーションでは、別のキャッシュインスタンスが使われます。これにより、サーバーとクライアントで同じデータフェッチロジックを共有しつつ、それぞれのコンテキストで適切にキャッシュが機能します。

ただし、React Cache自身には、キャッシュの有効期限を設定したり、明示的にキャッシュを無効化したりするための標準的なAPIは提供されていません(少なくとも、コアのcache関数には)。キャッシュの無効化は、Server Actionsなどのフレームワークレベルの機能を利用したり、新しい引数で関数を再度呼び出したり、Reactのレンダリングプロセスを通じて間接的に管理されることが想定されています。この点については、後述の「より進んだ使い方と考慮事項」で詳しく解説します。

React Cacheを使ったデータフェッチ:SuspenseとResourceとの連携

React Cacheの真価は、SuspenseやServer Componentsといった新しいReactの機能と組み合わせることで発揮されます。特に、非同期処理の結果をキャッシュし、それを使ってコンポーネントをサスペンド(一時停止)させるという挙動は、Suspenseによるローディング状態の管理と非常に相性が良いです。

Reactの新しいデータフェッチの考え方では、データ取得を「Resource」として表現することが推奨されます。Resourceは、サスペンド可能なデータソースをラップしたオブジェクトであり、そのデータを読み取るためのread()メソッドを持ちます。read()メソッドを呼び出すと、データが準備できていればその値を返し、まだ準備できていなければサスペンドをトリガーします。

React CacheはこのResourceを作成するための強力な基盤を提供します。cache()でラップした非同期関数は、Resourceのファクトリー関数として機能します。

Resourceの作成(Client Componentsで使用する場合の例):

Client ComponentsでSuspenseと組み合わせてデータフェッチを行う場合、通常は以下のようなパターンでResourceを作成します。

“`javascript
import { cache } from ‘react’;
// use 関数は ‘react’ または ‘react/experimental’ からインポート

// 1. キャッシュ可能な非同期フェッチ関数を定義
const fetchItem = cache(async (id) => {
console.log([FETCH] Fetching item ${id}...);
const response = await fetch(/api/items/${id});
if (!response.ok) {
throw new Error(Failed to fetch item ${id});
}
const data = await response.json();
// フェッチに時間がかかることをシミュレート
// await new Promise(resolve => setTimeout(resolve, 1000));
return data;
});

// 2. Resourceを作成するファクトリー関数を定義
// この関数は、特定のIDに対するResourceインスタンスを返す
const createItemResource = (id) => {
// cache関数でラップしたフェッチ関数を呼び出し、Promiseを取得
const promise = fetchItem(id);

// Resource オブジェクトを定義
// readメソッドはPromiseの状態に応じて挙動を変える
const resource = {
read() {
// Promiseの状態をチェック
// Pendingならthrow Promise -> Suspenseが捕捉
// Fulfilledならreturn value -> コンポーネントがデータを取得
// Rejectedならthrow error -> Error Boundaryが捕捉
// このあたりの内部的なロジックは、ReactのuseフックやSuspenseのランタイムが面倒を見ます
// 実際には use(promise) のように書くことが多いです
throw promise; // useフックを使わない場合の概念的な動作
},
// 他にも preload メソッドなどを持つことがある(ローディング開始を早める)
};
return resource;
};

// Resource インスタンスの取得
const itemResource1 = createItemResource(1);
const itemResource2 = createItemResource(2);
// 同じIDなら同じpromiseを返す(キャッシュヒット)
const itemResource1_again = createItemResource(1); // キャッシュヒット! fetchItem(1)は再実行されない
“`

Client Componentでの利用(useフックを使用):

ResourceをClient Componentで使用する最も推奨される方法は、Reactの新しいuseフック(実験的)を使うことです。useフックはPromiseやContextといったResourceから値を読み取ることができます。特にPromiseに対してuseを使うと、PromiseがPendingの場合はコンポーネントをサスペンドさせ、Fulfilledになれば値を返し、Rejectedになればエラーをスローします。

“`javascript
import { use } from ‘react’; // ‘react’ または ‘react/experimental’ からインポート
import { cache } from ‘react’; // ‘react’ または ‘react/experimental’ からインポート

// 1. キャッシュ可能な非同期フェッチ関数を定義
const fetchItem = cache(async (id) => {
console.log([FETCH] Fetching item ${id}...);
const response = await fetch(/api/items/${id});
if (!response.ok) {
throw new Error(Failed to fetch item ${id});
}
const data = await response.json();
// await new Promise(resolve => setTimeout(resolve, 1000)); // シミュレート
return data;
});

// 2. Resourceを作成せず、use() に直接 promise を渡すパターンも可能
// ただし、Resourceとしてラップする方が柔軟性がある場合も
// 例: Resource内にpreloadロジックなどを含める場合

// Client Component
function ItemDisplay({ id }) {
// useフックでPromiseを読み込む
// fetchItem(id) は cache された Promise を返す
const item = use(fetchItem(id)); // PromiseがPendingならサスペンド

// Promiseが解決されるまで、この部分は実行されない
return (

Item Details

ID: {item.id}

Name: {item.name}

Price: ${item.price}

);
}

// App Component (親コンポーネントなど)
function App() {
return (

Welcome

{/ Suspenseでラップして、ローディング状態を扱う /}
Loading item 1…\

}>


{/ 別のSuspenseでラップすることも、同じSuspenseでラップすることも可能 /}
Loading item 2…\

}>


{/ 同じIDの場合はキャッシュが使われる /}
Loading item 1 again…\

}>
{/ キャッシュヒット! /}

);
}
“`

この例では、ItemDisplayコンポーネントはfetchItem(id)という非同期処理の結果を直接use()フックで読み込んでいます。fetchItemcache()でラップされているため、同じidであればキャッシュされたPromiseが返されます。

  • もしfetchItem(1)が初めて呼び出された場合、PromiseはPendingになり、use(fetchItem(1))を呼び出したItemDisplayコンポーネントはサスペンドします。最も近い親のSuspenseコンポーネントが捕捉し、fallbackが表示されます。Promiseが解決されると、Reactはコンポーネントを再レンダリングし、use()は解決された値を返し、実際のコンテンツが表示されます。
  • もしfetchItem(1)が再び呼び出された場合(例: 別の場所や再レンダリング時)、cacheのおかげで新しいPromiseは作成されず、以前のPromiseが返されます。もしそのPromiseが既に解決済みであれば、use()はすぐにその値を返し、サスペンドは発生しません。もしまだPendingであれば、引き続きサスペンドします。

これにより、宣言的な方法でデータ取得とローディング状態を扱うことができます。useEffectで手動で状態を管理する必要はありません。

Server Componentsでの利用:

Server Componentsでは、非同期処理の結果をawaitで待つことができます。React Cacheでラップされた関数も同様にawaitできます。Server Componentsはレンダリング中にサスペンドしない代わりに、Promiseが解決されるまで待機してからHTMLを生成します。これにより、クライアントに送信されるHTMLには既にデータが含まれているため、初期表示が高速になります。

“`javascript
// このファイルは Server Component として扱われることを想定 (例: Next.js App Router)
import { cache } from ‘react’;

const fetchItem = cache(async (id) => {
console.log([SERVER FETCH] Fetching item ${id}...);
const response = await fetch(https://dummyjson.com/products/${id}); // 例としてダミーAPIを使用
if (!response.ok) {
throw new Error(Failed to fetch item ${id});
}
const data = await response.json();
// await new Promise(resolve => setTimeout(resolve, 1000)); // シミュレート
return data;
});

// Server Component
async function ItemDisplay({ id }) {
// Server Components では await が使える
// fetchItem(id) は cache された Promise を返す
const item = await fetchItem(id); // Promiseが解決するまで待機

// Promiseが解決された後に以下のJSXが生成される
return (

Item Details (Server Fetched)

ID: {item.id}

Name: {item.title}

{/ ダミーAPIのプロパティ名 /}

Price: ${item.price}

);
}

// Parent Server Component
async function Page() { // 例: Next.jsのPageコンポーネント
// Server Components 内で複数のデータフェッチを並列で行う
// cache された関数を呼び出すことで、同じIDの重複フェッチを防ぐ
const item1Promise = fetchItem(1);
const item2Promise = fetchItem(2);
const item3Promise = fetchItem(1); // キャッシュヒット! item1Promise と同じPromise

// await は並列で行うことも可能 (Promise.allなどを使わなくても自然に書ける)
// コンポーネントのレンダリングツリーが構築される過程でPromiseが評価される

return (

Server Fetched Content

Loading Item 1…\

}>
{/ ItemDisplay内で await が行われるため、SuspenseはSSRストリーミングと連携 /}


Loading Item 2…\

}>


Loading Item 1 Again…\

}>
{/ 同じIDのため、もし上のItemDisplay(id=1)が既に解決されていれば、即座に表示される /}

);
}
“`

Server Components内でcache()された関数をawaitする場合、そのPromiseはサーバー上で解決されます。同じリクエスト内で同じ引数で関数が再度呼び出されても、cacheによって最初の呼び出しの結果(解決済みの値またはエラー)が返されるため、重複したフェッチは発生しません。

Server ComponentsとSuspenseを組み合わせることで、HTMLストリーミングが実現されます。サーバーはまずローディング状態を示すフォールバック(Suspenseの子要素)を含むHTMLを送信し、データの準備ができたコンポーネントから順に、完成したHTMLチャンクをストリームとして送信します。これにより、ユーザーはすべてのデータが揃うのを待つことなく、ページのコンテンツの一部を早期に見始めることができます。

React Cacheのメリット

React Cache(およびSuspense、Server Componentsとの連携)は、従来のReact開発におけるデータフェッチの課題を解決し、多くのメリットをもたらします。

1. パフォーマンスの向上

2. 開発体験の向上

3. 状態管理ライブラリとの比較

React Cacheは、React QueryやSWRといった既存のデータフェッチ/キャッシュライブラリが提供する機能の一部を、Reactのコア機能として提供するものです。これらのライブラリは、キャッシュの自動更新(Stale-while-revalidateなど)、バックグラウンドフェッチ、ポーリング、ミューテーションとキャッシュ無効化のための豊富なAPI、DevToolsなど、非常に洗練された機能を提供しています。

React Cacheは、これらのライブラリの完全な代替を目指すものではないかもしれません。特にクライアントサイドでの複雑なキャッシュ無効化やバックグラウンド更新、DevToolsなどを重視する場合は、引き続きReact QueryやSWRが有力な選択肢となるでしょう。

しかし、React Cacheは以下の点で優位性を持つ可能性があります。

React Cacheは、サードパーティライブラリが提供する豊富な機能が必要ないシンプルなケースや、Server Componentsを主に使用するアプリケーションにおいて、データフェッチのキャッシュ基盤として非常に有効です。また、React QueryやSWRのようなライブラリも、将来的にReact Cacheを内部的に利用することで、Reactの新しい機能との連携を強化していく可能性があります。つまり、競合関係というよりは、React Cacheがデータフェッチキャッシュの新しい標準的な基盤となる可能性が高いと言えます。

React Cacheのより進んだ使い方と考慮事項

キャッシュの更新・無効化 (Cache Busting)

React Cacheの最も重要な側面の1つは、キャッシュの更新や無効化をどのように行うかです。前述の通り、コアのcache()関数自体には、キャッシュを明示的にクリアしたり、無効期限を設定したりするためのAPIはありません。これは、React Cacheが「関数呼び出しの結果のメモ化」というシンプルで純粋な機能に徹しており、キャッシュのライフサイクル管理は、より高レベルの抽象化(Reactのレンダリング、フレームワーク機能など)に委ねられているためです。

キャッシュの更新・無効化は、主に以下のパターンで行われます。

  1. 新しい引数での呼び出し: cache(fn)でラップされた関数を、以前とは異なる引数で呼び出すと、新しいキャッシュエントリが作成されるか、あるいはその引数に対応するキャッシュエントリが既に存在すればそれが使用されます。既存のキャッシュエントリが無効になるわけではありませんが、必要に応じて新しいデータをフェッチさせることができます。
  2. Reactの状態更新と再レンダリング: Client Componentsにおいて、useStateuseReducerなどで管理している状態が変化し、それがデータフェッチ関数の引数に影響する場合、コンポーネントの再レンダリングによってcacheされた関数が新しい引数で呼び出される可能性があります。これにより、必要なデータが再フェッチ(またはキャッシュから読み込み)されます。
  3. Server Actionsによるキャッシュ無効化: App Router (Next.jsなど) で提供されているServer Actionsは、サーバー上で安全に実行できる非同期関数であり、フォーム送信やボタンクリックといったユーザーインタラクションから呼び出されます。Server Actionsには、特定のデータキャッシュを無効化したり、特定のパスを再検証(revalidate)したりするための機能が統合されています。これは、ミューテーション(データの変更)後にリスト表示などを最新の状態に更新する際の標準的なアプローチとなります。

Client Componentsのみで構成されるアプリケーション(CSRのみ)の場合、キャッシュの無効化はより課題となる可能性があります。Server Actionsのような組み込みのキャッシュ無効化機能がないため、状態管理ライブラリや独自のキャッシュ管理層が必要になるかもしれません。しかし、Reactの推奨するアーキテクチャはServer ComponentsとClient Componentsの組み合わせに向かっているため、Server Actionsによるキャッシュ無効化が今後の主流となるでしょう。

Server ComponentsとClient Componentsを跨いだデータ共有

Server Componentsでデータフェッチを行い、その結果をClient Componentsに渡す場合、注意が必要です。Server ComponentsからClient Componentsに渡せるPropsは、シリアライズ可能な値(文字列、数値、真偽値、null、undefined、プレーンなオブジェクトや配列で、シリアライズ可能な値を含むもの)に限られます。Promiseや関数、クラスインスタンスなどは直接渡せません。

したがって、Server Componentでawait cache(fn)(...)として取得したデータは、シリアライズ可能な形式であればそのままClient ComponentのPropsとして渡すことができます。

“`javascript
// Server Component (Page.js)
import { cache } from ‘react’;
import ClientItemDisplay from ‘./ClientItemDisplay’; // Client Component をインポート

const fetchItem = cache(async (id) => {
const res = await fetch(.../items/${id});
return res.json(); // JSONデータは通常シリアライズ可能
});

async function Page({ params }) {
const item = await fetchItem(params.id);

return (

Item Page

{/ サーバーでフェッチしたデータをpropsとしてクライアントコンポーネントに渡す /}

);
}
“`

一方、Client Componentでuse()フックを使ってデータをフェッチする場合、use(cache(fn)(...))のように直接記述します。この場合、データフェッチはClient Componentのレンダリング中に発生し(あるいはハイドレーション中)、サスペンドをトリガーします。このデータはClient Component内で閉じ込められます。

Server ComponentsとClient Componentsを組み合わせる場合、一般的にはServer Componentsで可能な限りのデータフェッチを行い、クライアント側ではUIインタラクションに関連するデータフェッチや、サーバーでは実行できない処理(ブラウザAPIへのアクセスなど)を行うという分担が推奨されます。React Cacheは、この両方のシナリオで効率的なデータ取得をサポートします。

Streaming HTMLとの連携

Server ComponentsとSuspense、そしてReact Cacheを組み合わせることで、Streaming HTMLが実現されます。

  1. サーバーは最初に応答として基本的なHTML構造と、サスペンドする可能性のあるコンポーネントのフォールバックUIを含むHTMLを送信します。
  2. ブラウザは受信したHTMLをすぐにレンダリングし、ユーザーはページの一部を早期に確認できます。
  3. サーバーはバックグラウンドでデータフェッチ(cacheされた関数が利用される)を並列実行します。
  4. データが解決されたコンポーネントから順に、そのコンポーネントの完成したHTMLチャンクがストリームとしてブラウザに送信されます。
  5. ブラウザはストリームで受信したHTMLチャンクを使って、既存のフォールバックUIを置き換えていきます。

これにより、すべてのデータが揃うのを待ってから完全なHTMLを送信する従来のSSRよりも、ページの表示開始が速くなり、体感的なパフォーマンスが向上します。React Cacheは、このプロセスにおいて重複するフェッチを排除し、効率的なデータ取得を保証する役割を果たします。

エラーハンドリング

cache()でラップされた非同期関数がPromiseをRejectした場合、そのエラーはキャッシュされます。use()フックがそのキャッシュされたPromiseを読み取ろうとすると、use()フックはそのエラーをスローします。このスローされたエラーは、最も近い親のError Boundaryによって捕捉されることを期待します。

Error Boundaryは、コンポーネントツリー内のJavaScriptエラー(レンダリング中、ライフサイクルメソッド、コンストラクタ内など)を捕捉し、フォールバックUIを表示するコンポーネントです。サスペンド中に発生したPromiseのRejectも捕捉対象となります。

したがって、データフェッチエラーを適切に処理するためには、データフェッチを行うコンポーネント(あるいはその親)をError Boundaryでラップする必要があります。

“`javascript
import { ErrorBoundary } from ‘react-error-boundary’; // 例: react-error-boundary ライブラリ

function ErrorFallback({ error, resetErrorBoundary }) {
return (

Something went wrong:

{error.message}

);
}

function App() {
return (

Welcome


Loading item 1…\

}>




Loading item 2…\

}>


);
}
“`

この構造により、ItemDisplayコンポーネント内で発生したデータフェッチエラーはError Boundaryによって捕捉され、個別のエラーメッセージや「リトライ」ボタン(resetErrorBoundaryを呼び出すことで、エラー状態をリセットし、コンポーネントの再レンダリングと再フェッチを試みる)を表示できます。

キャッシュされるデータのサイズとメモリ使用量

cache()は関数呼び出しの引数と結果をメモリ上に保持します。頻繁に異なる引数で呼び出される関数や、非常に大きなデータを返す関数をキャッシュする場合、メモリ使用量が増大する可能性があります。

React Cacheのキャッシュは、Reactのレンダリングパスやリクエストに紐づいているため、通常は単一のリクエスト/レンダリング中にのみ存続します。しかし、フレームワークによっては、リクエスト間やセッション間でキャッシュを共有・永続化する機能を提供している場合もあります。そのような場合、キャッシュサイズはさらに重要な考慮事項となります。

現時点では、キャッシュのサイズを明示的に制御したり、キャッシュエントリを個別に削除したりするための高レベルなAPIはReact Cacheにはありません。大規模なアプリケーションや、大量の異なるデータを扱う場合は、キャッシュ戦略を慎重に検討するか、あるいはより高度なキャッシュ管理機能を持つサードパーティライブラリの利用を検討する必要があるかもしれません。ただし、前述のようにServer Actionsによるタグベースやパスベースのキャッシュ無効化は、Server Components環境における主要な制御手段となります。

デバッグ方法

React Cacheのキャッシュの挙動は、特にSuspenseやServer Componentsと絡むと複雑になることがあります。デバッグには、以下の点に注目すると良いでしょう。

React Cacheと関連技術

React Cacheは単独で機能するというより、React v18以降の新しいパラダイムを構成する他の技術と組み合わせて真価を発揮します。

これらの技術は相互に連携し、データフェッチ、ローディング、エラーハンドリング、そしてUIのレンダリングを、より効率的かつ宣言的な方法で実現します。React Cacheは、この新しいデータフローにおける「キャッシュ層」として機能します。

実践例:より複雑なシナリオでのReact Cache活用

認証が必要なAPIフェッチ

認証が必要なAPIをフェッチする場合、認証トークンが必要になります。このトークンは通常、クライアントサイドのCookieやlocalStorage、あるいはContextなどで管理されます。

Server Componentsで認証付きフェッチを行う場合、Cookieはサーバー側で取得可能です。cacheされたフェッチ関数内でCookieからトークンを読み取り、リクエストヘッダーに含めることができます。この際、認証トークン自体をキャッシュキーの一部に含める必要はありません。なぜなら、認証が成功すれば同じIDのデータは同じになるはずだからです。ただし、ユーザーが変わった場合(=認証トークンが変わった場合)はキャッシュを無効化する必要があります。これは、Server Actionsやフレームワークの認証更新フローと連携して実現されることが多いです。

“`javascript
// Server Component (認証付きフェッチの例)
import { cache } from ‘react’;
import { cookies } from ‘next/headers’; // 例: Next.js の場合

const fetchPrivateItem = cache(async (id) => {
const cookieStore = cookies();
const authToken = cookieStore.get(‘authToken’)?.value; // サーバー側でCookieからトークンを取得

if (!authToken) {
throw new Error(‘Authentication required’); // トークンがなければエラー
}

console.log([SERVER FETCH] Fetching private item ${id} with token...);
const response = await fetch(.../private/items/${id}, {
headers: {
‘Authorization’: Bearer ${authToken},
},
});

if (!response.ok) {
// エラーレスポンスの場合も詳細な情報を付加するとデバッグしやすい
const errorBody = await response.text();
throw new Error(Failed to fetch private item ${id}: ${response.status} ${response.statusText} - ${errorBody});
}
return response.json();
});

async function PrivateItemDisplay({ id }) {
try {
const item = await fetchPrivateItem(id);
return (

Private Item Details

ID: {item.id}

Name: {item.name}

);
} catch (error) {
// Error Boundary で捕捉できないサーバー側での同期エラーもここで処理可能
return

Error fetching private item: {error.message}

;
}
}

// Server Page
async function Page({ params }) {
return (
Loading private item…\

}>
{/ PrivateItemDisplay 内で認証付きフェッチが実行される /}


);
}
“`

Client Componentsで認証付きフェッチを行う場合、use()cache()を組み合わせる際に、認証トークンへのアクセス方法が問題になります。cache()でラップする関数は、引数に基づいてキャッシュキーを生成するため、認証トークンがキャッシュキーの一部に含まれない場合、トークンが変更されても古いデータが返される可能性があります。

これを避けるためには、認証トークンをフェッチ関数の引数に含めるか、あるいはフェッチ関数自体が認証トークンに依存していることを示す何らかの識別子を引数に含める必要があります。

“`javascript
// Client Component (認証付きフェッチの例)
import { cache, use } from ‘react’;
import { useAuthToken } from ‘./AuthContext’; // 例: Auth Context からトークンを取得

// 認証トークンを引数に取るキャッシュ関数
const fetchItemWithAuth = cache(async (id, authToken) => {
console.log([CLIENT FETCH] Fetching item ${id} with auth...);
const response = await fetch(/api/items/${id}, {
headers: {
‘Authorization’: Bearer ${authToken},
},
});
if (!response.ok) {
throw new Error(Failed to fetch item ${id});
}
return response.json();
});

function ItemDisplay({ id }) {
const authToken = useAuthToken(); // Auth Context からトークンを取得

// トークンをフェッチ関数の引数に含める
// トークンが変わるとキャッシュキーも変わり、再フェッチされる可能性がある
const item = use(fetchItemWithAuth(id, authToken)); // use() は Promise を待つ

return (

Item Details

ID: {item.id}

Name: {item.name}

);
}

// App Component (親など)
function App() {
return (
{/ AuthContext プロバイダー /}
Loading…\

}>



);
}
“`

この例では、fetchItemWithAuthidauthTokenを引数に取ります。cacheはこれらの引数に基づいてキャッシュキーを生成するため、idが同じでもauthTokenが異なれば、異なるキャッシュエントリと見なされ、再フェッチが発生します。これにより、ユーザーがログイン/ログアウトしたり、トークンが更新されたりした場合に、適切なデータが取得されるようになります。

mutation後のキャッシュ無効化(Server Actions連携)

ユーザーがデータを変更する操作(例: 商品の編集、コメントの投稿)を行った後、リスト表示などを最新の状態に更新したい場合、関連するキャッシュを無効化する必要があります。Server Components 環境では、Server Actionsがこの目的のために設計されています。

“`javascript
// Server Action (例: 商品情報を更新する)
‘use server’; // Server Action としてマーク

import { revalidatePath, revalidateTag } from ‘next/cache’; // Next.js のキャッシュ無効化APIの例
import { cache } from ‘react’; // 同じキャッシュインスタンスを参照できると仮定

// 更新対象となるキャッシュされたフェッチ関数 (Server Component 内で使用)
const fetchProductDetail = cache(async (productId) => {
console.log([SERVER FETCH] Fetching product ${productId}...);
// … API call to get product details …
const res = await fetch(.../products/${productId}, { next: { tags: [‘product’, product-${productId}] } }); // Next.js のタグ付け機能
if (!res.ok) throw new Error(‘Failed to fetch product’);
return res.json();
});

const fetchProductList = cache(async () => {
console.log(‘[SERVER FETCH] Fetching product list…’);
// … API call to get product list …
const res = await fetch(.../products, { next: { tags: [‘product’, ‘collection’] } }); // Next.js のタグ付け機能
if (!res.ok) throw new Error(‘Failed to fetch product list’);
return res.json();
});

// Server Action 関数
export async function updateProduct(productId, formData) {
// 1. フォームデータから更新情報を取得
const name = formData.get(‘name’);
const price = formData.get(‘price’);

// 2. データベースや外部APIを更新するロジック
console.log([SERVER ACTION] Updating product ${productId}...);
// 例: fetch API で PUT リクエストを送信
const response = await fetch(.../products/${productId}, {
method: ‘PUT’,
headers: {
‘Content-Type’: ‘application/json’,
// … 認証ヘッダーなど …
},
body: JSON.stringify({ name, price }),
});

if (!response.ok) {
const errorBody = await response.text();
throw new Error(Failed to update product ${productId}: ${response.status} ${response.statusText} - ${errorBody});
}

// 3. キャッシュを無効化
// 更新された商品の詳細キャッシュと、商品リストのキャッシュを無効化する
revalidatePath(/products/${productId}); // 商品詳細ページのキャッシュを無効化 (パスベース)
revalidatePath(‘/products’); // 商品リストページのキャッシュを無効化 (パスベース)
// あるいはタグベースで無効化 (fetch オプションでタグを付けている場合)
revalidateTag(product-${productId}); // 特定の商品キャッシュを無効化
revalidateTag(‘collection’); // 商品リストなどのコレクションキャッシュを無効化

console.log([SERVER ACTION] Product ${productId} updated and cache revalidated.);

// 必要であれば、更新後のデータを返すことも可能
// const updatedProduct = await response.json();
// return updatedProduct;
}

// — Client Component で Server Action を呼び出す例 —
// import { updateProduct } from ‘./actions’; // Server Action をインポート

// function EditProductForm({ product }) {
// const [isPending, startTransition] = useTransition();
// const [error, setError] = useState(null);

// async function handleSubmit(event) {
// event.preventDefault();
// setError(null);
// startTransition(async () => { // Transition 内で状態更新や Server Action 呼び出しを行う
// const formData = new FormData(event.currentTarget);
// try {
// await updateProduct(product.id, formData);
// // 更新成功時の処理 (例: ページ遷移、成功メッセージ表示)
// console.log(“Product updated successfully!”);
// } catch (err) {
// setError(err);
// }
// });
// }

// return (
//

// {/ フォーム要素 /}
//
// {error &&

{error.message}

}
//

// );
// }
“`

この例では、updateProductというServer Actionが、商品の更新APIを呼び出した後、revalidatePathrevalidateTagといったAPIを呼び出しています。これらのAPIはフレームワーク(Next.jsなど)が提供するもので、React Cacheを含むデータキャッシュを無効化し、次回のレンダリング時に最新のデータがフェッチされるように指示します。

Client ComponentからServer Actionを呼び出す場合、useTransitionと組み合わせて非ブロッキングな形で実行することが推奨されます。これにより、データの更新中にUIがフリーズするのを防ぎ、ローディング状態などを適切に表示できます。

ページネーションや無限スクロール

ページネーションや無限スクロールのように、同じ種類のデータを異なる「ページ」や「オフセット」で取得する場合、キャッシュキーの設計が重要になります。ページ番号やオフセットをcache関数の引数に含めることで、それぞれのページ/オフセットに対するデータが個別にキャッシュされます。

“`javascript
import { cache } from ‘react’;
import { use } from ‘react’; // Client Component の場合

const fetchItems = cache(async (page, pageSize) => {
console.log([FETCH] Fetching items - Page: ${page}, Size: ${pageSize});
// … API call with pagination parameters …
const response = await fetch(/api/items?page=${page}&pageSize=${pageSize});
if (!response.ok) throw new Error(‘Failed to fetch items’);
return response.json(); // 例: { items: […], totalPages: N } のような構造
});

// Client Component の場合
function ItemList({ initialPage = 1, pageSize = 10 }) {
const [currentPage, setCurrentPage] = useState(initialPage);

// 現在のページとサイズに対応するデータをキャッシュから取得/フェッチ
const data = use(fetchItems(currentPage, pageSize));

const items = data.items;
const totalPages = data.totalPages;

return (

Page {currentPage} of {totalPages}

);
}

// App Component
function App() {
return (
Loading first page…\

}>


);
}
“`

この例では、fetchItems関数はページ番号とページサイズを引数に取ります。cacheのおかげで、一度フェッチしたページデータはキャッシュされ、ユーザーが前後のページを移動して再び訪れた場合、ネットワークリクエストなしでキャッシュからデータが取得されます。

無限スクロールの場合も同様に、オフセットや取得件数を引数に含む関数をcacheでラップし、ユーザーがスクロールして次のデータが必要になった際に新しい引数で関数を呼び出します。取得済みのチャンクはキャッシュされるため、スクロールバックしてもデータが再フェッチされることはありません。ただし、無限スクロールで大量のデータをキャッシュするとメモリ使用量が増える可能性がある点には注意が必要です。

注意点・制約

React Cacheは非常に強力ですが、いくつかの注意点と制約があります。

  1. 実験的なAPI: 記事執筆時点では、React Cacheに関連するAPI(特にcache関数)は、Reactの実験的な機能として提供されている場合があります(例: unstable_cache)。これらのAPIは将来的に変更される可能性があり、本番環境での利用にはリスクが伴うことがあります。ただし、App Router (Next.jsなど) がこれを基盤として採用していることから、安定化が進むことが期待されます。
  2. 汎用的な状態管理ツールではない: React Cacheはあくまで「関数呼び出しの結果のキャッシュ」に特化したツールです。UIの状態(例: モーダルの開閉、フォームの入力値)や、アプリケーション全体で共有される複雑な状態管理には適していません。これらの目的には、useStateuseReducer、Context API、あるいはReduxやZustandなどの状態管理ライブラリを使用すべきです。
  3. キャッシュ無効化の仕組み: コアのcache()関数には明示的な無効化APIがない点が、従来のデータフェッチライブラリ(React Query, SWRなど)と比較した際の大きな違いです。キャッシュ無効化はServer Actionsなど、より高レベルなフレームワーク機能に依存する場合が多いです。クライアントサイドのみのアプリケーションでは、キャッシュ無効化戦略を独自に構築するか、サードパーティライブラリに頼る必要があるかもしれません。
  4. 引数の参照等価性: デフォルトでは、cache()は引数の参照等価性に基づいてキャッシュキーを判定します。オブジェクトや配列を引数として渡す場合、中身が同じでも参照が異なればキャッシュがヒットしません。安定したキャッシュキーを得るためには、引数としてプリミティブ型を使用するか、あるいは引数から安定したハッシュ値などを生成してキャッシュキーとするようなラッパー関数を作成するなどの工夫が必要になる場合があります。
  5. Client-side Routing (CSR) のみでの利用: React CacheはServer ComponentsやSSRストリーミングと組み合わせて使用することで、特に大きなメリット(ウォーターフォール緩和、初期表示高速化)を発揮します。完全にクライアントサイドレンダリングのみのアプリケーションでもcacheuse()フックを組み合わせて使用することは可能ですが、Server Components環境ほど大きな変革をもたらさないかもしれません。既存のCSRアプリケーションに導入する場合は、既存のデータフェッチライブラリとの比較検討が重要です。
  6. メモリ使用量: 大量の異なる引数でcacheされた関数を呼び出す場合、キャッシュサイズが大きくなりメモリを消費する可能性があります。アプリケーションの規模やデータの特性によっては、メモリ使用量を監視し、必要に応じてキャッシュ戦略を見直すことが重要です。

これらの注意点を理解した上で、React Cacheをアプリケーションに導入することが重要です。特に、Server ComponentsとSuspenseを前提とした新しいReact開発においては、その設計思想に合致しており、強力なデータフェッチ基盤となり得ます。

まとめ:React Cacheが拓く新たな開発パラダイム

React Cacheは、単なる関数のメモ化ツールではありません。それは、ReactのSuspense、Error Boundary、Server Components、Server Actionsといった新しい技術と連携し、データフェッチのあり方を根本から変革する可能性を秘めた基盤技術です。

従来のuseEffectuseStateによるデータフェッチは、コードが冗長になりがちで、データ取得ロジックとUIロジックが密結合し、ウォーターフォールや重複フェッチといったパフォーマンス上の課題を抱えていました。また、クライアントサイドでのキャッシュ管理は非常に複雑でした。

React Cacheは、関数呼び出しの結果を効率的にキャッシュすることで、これらの課題に対する洗練された解決策を提供します。特にServer Components環境では、cacheされた非同期関数をawaitすることで、サーバーサイドでのデータフェッチを直感的かつ効率的に記述できます。Client Componentsでも、use()フックと組み合わせることで、宣言的なデータフェッチとSuspenseによるきめ細かいローディング状態管理を実現できます。

その主なメリットは、重複フェッチの排除、ウォーターフォール問題の緩和、Suspense/Error Boundaryとの自然な連携によるコードの簡潔化と開発体験の向上、そしてServer Componentsアーキテクチャとの深い統合によるパフォーマンスの最適化です。

React Cacheは、React QueryやSWRといった既存のライブラリの全ての機能を置き換えるものではありませんが、データフェッチキャッシュの新しい標準的な基盤として位置づけられる可能性があります。特にServer Componentsを積極的に活用するアプリケーションにおいては、Server Actionsによるキャッシュ無効化機能と組み合わせることで、非常に効率的で管理しやすいデータフローを構築できます。

まだ実験的な側面もありますが、React Cacheが示す方向性は、今後のReact開発におけるデータフェッチの主流となる可能性が高いです。SuspenseやServer Componentsと共に、React Cacheを理解し活用することで、より高性能で開発しやすいモダンなReactアプリケーションを構築するための強力な武器となるでしょう。

この記事を通じて、React Cacheの基本的な使い方、メリット、そしてServer ComponentsやSuspenseといった関連技術との連携について、深く理解していただけたなら幸いです。新しい技術への挑戦は学習コストを伴いますが、React Cacheがもたらす開発体験とアプリケーションのパフォーマンス向上は、その投資に見合う価値があるはずです。ぜひ、ご自身のプロジェクトでReact Cacheを試してみてください。

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

上部へスクロール