SQLiteとExcelの連携入門:データ活用を始めよう
はじめに
現代において、データはビジネスや研究、日々の意思決定において不可欠な存在です。膨大なデータの中から価値ある情報を引き出し、活用する能力は、ますます重要になっています。しかし、多くの人がデータ活用を始めようとした際に直面するのが、「データをどこに、どのように保存し、どう扱うか」という課題です。
データを取り扱うツールとして、多くの人が最初に思い浮かべるのはExcelではないでしょうか。Excelは表計算ソフトとして非常に普及しており、直感的な操作でデータの入力、集計、簡単な分析、グラフ作成が可能です。しかし、データ量が増加したり、複数の人が同時にデータを扱ったり、複雑な関連性を持つデータを管理したりする場合、Excelだけでは限界を感じることがあります。
一方、データベースは大量のデータを構造化して効率的に管理し、SQLという強力な言語を使って柔軟にデータを抽出・加工することに長けています。しかし、本格的なデータベースシステム(例えば、MySQLやPostgreSQL、SQL Serverなど)は、多くの場合サーバーの構築や専門知識が必要となり、個人の学習や小規模なプロジェクトには敷居が高く感じられることがあります。
そこで注目したいのが、SQLiteです。SQLiteは、サーバーを必要としないファイルベースの軽量なデータベースシステムです。特別なインストールや設定なしに、ファイルをコピーするだけでデータベースを持ち運び、利用できます。手軽に始められるデータベースとして、個人開発者や学習者、さらには多くのソフトウェアの組み込みデータベースとしても広く利用されています。
この記事では、このSQLiteとExcelを連携させる方法に焦点を当てます。SQLiteで大量の構造化データを効率的に管理し、Excelの使い慣れたインターフェースや分析機能を活用することで、それぞれのツールの弱点を補い合い、より効果的なデータ活用を実現できます。
この記事は、以下のような方を対象としています。
- Excelでのデータ管理に限界を感じている方
- データベースに興味があるが、何から始めて良いか分からない方
- SQLiteを使ってみたいが、具体的な活用方法を知りたい方
- 手軽に始められるデータ分析環境を構築したい方
この記事を通じて、SQLiteとExcelを連携させる基本的な方法から、具体的な手順、実践例、さらには注意点や発展的な内容まで、詳細に解説していきます。約5000語の網羅的な内容で、あなたのデータ活用の第一歩を力強くサポートすることを目指します。さあ、SQLiteとExcelの連携の世界へ踏み出しましょう!
SQLiteとは何か?
SQLiteは、高速で、コンパクトで、サーバーを必要としない自己完結型のトランザクションSQLデータベースエンジンです。データベース全体が単一のディスクファイルに格納されるため、非常に軽量で、簡単にコピーや移動が可能です。
SQLiteの概要と特徴
- ファイルベース: データベース全体が1つのファイル(通常
.db
や.sqlite
という拡張子を持つ)に格納されます。特別なサーバープロセスは不要です。 - サーバーレス: 他の多くのデータベースシステムとは異なり、独立したデータベースサーバープロセスを実行する必要がありません。アプリケーションにライブラリとして組み込んで使用するのが一般的です。
- 軽量: コードサイズが小さく、メモリ使用量も少ないです。リソースが限られた環境でも動作します。
- 自己完結型: 外部の依存関係がほとんどなく、配布が容易です。
- トランザクション対応: ACID特性(原子性、一貫性、独立性、永続性)を持つトランザクションを完全にサポートしています。データの信頼性が高いです。
- 標準SQL準拠: SQL-92規格の主要な部分を実装しています。基本的なSELECT, INSERT, UPDATE, DELETE, CREATE TABLEなどのステートメントを使用できます。JOINやサブクエリ、集約関数なども利用可能です。
- オープンソース: パブリックドメインとして提供されており、商用・非商用問わず自由に利用できます。
SQLiteの用途
SQLiteは、その手軽さと機能性から幅広い用途で利用されています。
- 組み込みシステム: スマートフォン(Android, iOS)、テレビ、カーナビなどのデバイスに組み込まれています。
- デスクトップアプリケーション: ウェブブラウザ(Firefox, Chromeなど)、メールクライアント(Thunderbird)、様々なアプリケーションの設定情報やローカルデータストアとして利用されています。
- 開発・テスト: サーバー側のアプリケーション開発において、軽量なテスト用データベースとして頻繁に使用されます。
- 簡単なデータ管理: 小規模なプロジェクトや個人のデータ管理、学習用など、手軽にデータベースを使いたい場合に最適です。
- ファイルフォーマット: 一部のアプリケーションでは、独自のファイルフォーマットの代わりにSQLiteデータベースファイルを使用しています。
SQLiteのインストール方法
SQLite自体は、多くのオペレーティングシステムに標準で搭載されているか、簡単にインストールできます。ここでは主要なOSでの基本的な方法を紹介します。
Windows:
- SQLiteのコマンドラインツール(
sqlite3.exe
)は、SQLiteの公式ウェブサイト(https://www.sqlite.org/download.html)からダウンロードできます。「Precompiled Binaries for Windows」セクションにある「sqlite-tools-win64-x64-….zip」などのファイルをダウンロードし、適当な場所に解凍します。 - 解凍したフォルダにパスを通すか、コマンドプロンプトやPowerShellでそのフォルダに移動して
sqlite3.exe
を実行します。 - より使いやすいGUIツールとしては、「DB Browser for SQLite」が非常に人気があり、おすすめです。https://sqlitebrowser.org/ からダウンロードしてインストールできます。
macOS:
- macOSには、通常SQLiteが標準でインストールされています。ターミナルを開き、
sqlite3 --version
と入力してバージョン情報が表示されれば利用可能です。 - もしインストールされていない場合や、最新版を使いたい場合は、Homebrewを使って
brew install sqlite
でインストールできます。 - GUIツールとしては、DB Browser for SQLiteのmacOS版を利用できます。
Linux:
- 多くのLinuxディストリビューションには、SQLiteが標準でインストールされています。ターミナルを開き、
sqlite3 --version
で確認できます。 - インストールされていない場合は、パッケージマネージャーを使ってインストールできます。例えば、Debian/Ubuntu系なら
sudo apt update && sudo apt install sqlite3
、Fedora系ならsudo dnf install sqlite
、Arch Linux系ならsudo pacman -S sqlite
などです。 - GUIツールとしては、DB Browser for SQLiteのLinux版を利用できます。
ここでは、GUIツールであるDB Browser for SQLiteの利用を前提として説明を進めることが多いですが、基本的な概念はコマンドラインツールでも同じです。
SQLiteの基本的な操作
DB Browser for SQLiteを使って、基本的なデータベース操作を見てみましょう。
-
データベースファイルの作成:
- DB Browser for SQLiteを開きます。
- 「新しいデータベース」ボタンをクリックします。
- データベースファイルの保存場所とファイル名(例:
mydata.db
)を指定して保存します。これで空のデータベースファイルが作成されます。
-
テーブルの作成:
- データベースファイルを開いた状態で、「データベース構造」タブを選択します。
- 「テーブルを作成」ボタンをクリックします。
- テーブル名(例:
users
)を入力します。 - 「フィールドを追加」ボタンをクリックして、列(フィールド)を定義します。
- 例:
id
(INTEGER, PK, AI – 主キー, 自動インクリメント)、name
(TEXT),age
(INTEGER),email
(TEXT, UNIQUE – ユニーク制約)
- 例:
- データ型は INTEGER (整数), REAL (浮動小数点数), TEXT (文字列), BLOB (バイナリデータ) などがあります。
- 制約(PK: 主キー, NN: NULL不許可, UNIQUE: 一意制約, AI: 自動インクリメント)を設定します。
- 「OK」をクリックするとテーブルが作成されます。
-
データの挿入 (INSERT):
- 「データ閲覧」タブを選択します。
- ドロップダウンリストから作成したテーブル(
users
)を選択します。 - 「新しいレコード」ボタンをクリックして、各フィールドにデータを入力します。
- または、「SQLを実行」タブでSQLステートメントを記述して実行します。
sql
INSERT INTO users (name, age, email) VALUES ('山田 太郎', 30, '[email protected]');
INSERT INTO users (name, age, email) VALUES ('佐藤 花子', 25, '[email protected]'); - 実行後、「データ閲覧」タブに戻るとデータが確認できます。
-
データの選択 (SELECT):
- 「SQLを実行」タブを選択します。
- SQLステートメントを記述して実行します。
sql
SELECT * FROM users; -- usersテーブルのすべての列、すべての行を選択
SELECT name, age FROM users WHERE age > 28; -- ageが28より大きい人のnameとageを選択
SELECT * FROM users ORDER BY age DESC; -- ageの降順ですべての列を選択 - クエリ結果が下部に表示されます。
-
データの更新 (UPDATE):
- 「SQLを実行」タブでSQLステートメントを記述して実行します。
sql
UPDATE users SET age = 31 WHERE name = '山田 太郎'; -- 山田 太郎のageを31に更新
- 「SQLを実行」タブでSQLステートメントを記述して実行します。
-
データの削除 (DELETE):
- 「SQLを実行」タブでSQLステートメントを記述して実行します。
sql
DELETE FROM users WHERE name = '佐藤 花子'; -- 佐藤 花子のレコードを削除
DELETE FROM users; -- テーブルの全レコードを削除(注意!)
- 「SQLを実行」タブでSQLステートメントを記述して実行します。
これらの基本的なSQL操作を組み合わせることで、SQLiteデータベース内のデータを自由に操作できます。Excelとの連携では、主にSELECTステートメントを使ってSQLiteからデータを取得することになります。
Excelとは何か?
Excelは、マイクロソフトが開発・販売している表計算ソフトです。行と列で構成されるシート上にデータを入力し、計算、集計、分析、グラフ作成などを行うことができます。
Excelの概要と特徴
- 表計算: セルにデータを入力し、数式や関数を使って計算を行うことができます。
- データ管理: 簡単なリスト形式でのデータ管理が可能です。フィルターや並べ替えを使ってデータを絞り込んだり並べ替えたりできます。
- 集計・分析: SUM, AVERAGE, COUNTなどの基本的な関数に加え、ピボットテーブルや分析ツールパックなど、高度な集計・分析機能も備わっています。
- 可視化: 棒グラフ、折れ線グラフ、円グラフなど、多様なグラフを作成してデータを視覚的に表現できます。
- 操作性の高さ: 直感的なユーザーインターフェースで、マウス操作を中心にデータを取り扱うことができます。
- VBA (Visual Basic for Applications): マクロ機能により、繰り返し作業の自動化や、より複雑な処理をプログラミングで実現できます。
Excelの用途
Excelはビジネスの現場を中心に、非常に幅広い用途で利用されています。
- データ入力・管理: リスト形式のデータ入力、在庫管理、顧客リストなど。
- 集計・レポート作成: 営業成績の集計、経費精算、月次レポートなど。
- データ分析: アンケート結果の分析、売上予測、統計分析など。
- 計画・シミュレーション: 予算計画、プロジェクト計画、財務シミュレーションなど。
- 簡単なデータベース代替: 小規模なデータであれば、フィルターや検索機能を使って簡易的なデータベースのように使うこともあります。
Excelの基本操作(SQLite連携に必要な範囲)
SQLiteとの連携では、主にExcelで「外部データを取り込む」機能を使います。
- リボンの「データ」タブ: 外部データを取り込むための機能が集約されています。ここからデータベースや他のファイル形式、Webサイトなど様々なソースからデータを取得できます。
- テーブルとして書式設定: 取り込んだデータをExcelの「テーブル」機能として扱うことで、データの管理や更新が容易になります。
- Power Query: 「データの取得と変換」グループにある機能で、様々なデータソースからデータを取得し、整形・変換する強力なツールです。複雑なデータクリーニングやETL(抽出、変換、ロード)処理を行うことができます。
- ピボットテーブル/ピボットグラフ: 取り込んだデータを集計・分析・可視化する際に利用します。
- データ接続: 外部から取り込んだデータは「接続」として管理されます。この接続設定を通じて、元のデータソース(SQLiteデータベース)に変更があった場合に、Excel側のデータを更新(リフレッシュ)できます。
Excelは非常に強力で柔軟なツールですが、データ量の増加や構造の複雑化、複数人での同時編集といった点では限界があります。これらのExcelの弱点を、SQLiteが補う形で連携することで、より効率的で堅牢なデータ管理・活用が可能になります。
なぜSQLiteとExcelを連携させるのか?
SQLiteとExcelは、それぞれ異なる強みと弱みを持つツールです。これらを連携させることで、それぞれの欠点を補い合い、より強力なデータ活用環境を構築できます。
それぞれの弱点を補う関係
-
Excelの限界:
- データ量: 数十万行、数百万行といった大量のデータを扱うと、動作が遅くなったり、ファイルサイズが非常に大きくなったりします。
- 構造化: リスト形式のシンプルなデータ管理は得意ですが、複数の関連するテーブルを扱うような複雑なデータ構造(リレーショナルデータ)の管理には不向きです。
- データ型: セルのデータ型は比較的柔軟ですが、厳密なデータ型制約や入力規則を設定するのが難しい場合があります。
- データ整合性: データの重複や不整合が発生しやすいです。
- 複数ユーザー: 同じファイルを複数人が同時に編集するのは困難です(共有機能はあるが限界がある)。
- クエリ: SQLのような強力な抽出・加工言語がないため、複雑な条件でのデータ抽出や集計が難しい場合があります(フィルターや関数で代替することはあるが、限界がある)。
-
SQLiteの限界:
- GUI: 標準では強力なGUIツールを持っていません(DB Browser for SQLiteなどの外部ツールが必要)。
- 分析・可視化: データの集計や抽出は得意ですが、Excelのようなグラフ作成機能やピボットテーブルのような柔軟な分析機能は持っていません。
- レポート作成: 整った形式でデータを表示するレポート作成機能は基本的にありません。
連携によるメリット
SQLiteとExcelを連携させることで、以下のメリットが得られます。
- 大量データの効率的な管理:
- Excelでは扱いにくい大量のデータをSQLiteで管理できます。SQLiteは数GB、数十GBといったサイズのデータベースファイルも効率的に扱うことが可能です。
- データの構造化と整合性の向上:
- SQLiteのリレーショナルデータベース機能を利用して、データを複数のテーブルに分割し、関連付けて管理できます。これにより、データの冗長性を排除し、一貫性と整合性を高めることができます。主キー、外部キー、制約などを利用してデータの品質を維持できます。
- SQLによる強力なデータ抽出・加工:
- SQLiteに格納されたデータに対して、SQLを使って柔軟かつ強力なクエリを実行できます。複雑な条件での抽出、データの結合(JOIN)、集計(GROUP BY)、並べ替え(ORDER BY)などを効率的に行えます。
- Excelでの柔軟な分析・可視化:
- SQLiteからSQLで抽出・加工したデータをExcelに取り込み、Excelの得意な分析機能(ピボットテーブル、関数、分析ツール)や可視化機能(グラフ)を使って、分かりやすくレポートを作成できます。
- データの更新管理:
- Excelに取り込んだデータは、SQLite側のデータが更新された際に、Excelの「更新」機能を使って最新の状態に容易に反映させることができます(ODBC接続などを使用した場合)。
- 手軽な導入:
- 両ツールとも比較的導入が容易です。特にSQLiteはサーバー構築不要なため、手軽に始められます。
これらのメリットから、SQLiteとExcelの連携は、特に以下のようなケースで非常に有効です。
- 大量のログデータや観測データを定期的に収集・分析したい場合
- 顧客データ、販売データ、在庫データなど、複数の関連するデータを構造的に管理したい場合
- Excelでデータ分析を行いたいが、元のデータがExcelの行数上限を超えている場合
- SQLの学習と実践を兼ねてデータ管理を行いたい場合
- 本格的なデータベースシステムを導入する前に、手軽にデータベースの概念を試してみたい場合
次のセクションでは、具体的な連携方法について詳しく見ていきます。
SQLiteとExcelの連携方法
SQLiteとExcelを連携させるには、いくつかの方法があります。最も一般的で推奨されるのは、ODBCドライバーを利用する方法です。その他、Power Queryを利用する方法や、単純なファイルのインポート・エクスポートによる方法もあります。
方法1: ODBCドライバーを利用する方法
ODBC(Open Database Connectivity)は、様々なデータベースに接続するための標準的なインターフェースです。データベースの種類によらず、共通の方法でデータにアクセスできるようにするために設計されました。ExcelはODBCをサポートしており、SQLite用のODBCドライバーをインストールすることで、ExcelからSQLiteデータベースに直接接続し、SQLクエリを実行してデータを取得できるようになります。
ステップ1: SQLite ODBCドライバーのインストール
Excel(Microsoft Office)のビット数(32ビット版か64ビット版か)に合わせて、適切なSQLite ODBCドライバーをインストールする必要があります。多くの最新のOfficeは64ビット版ですが、念のため確認してください。
- ドライバーのダウンロード: SQLite ODBCドライバーは、SQLiteの公式ウェブサイトではなく、有志によって開発・配布されています。最も広く利用されているのは、Christian Werner氏が提供しているドライバーです。彼のウェブサイト(例: http://ch-werner.de/sqliteodbc/)から、ご自身のWindowsのOSビット数(32bit or 64bit)とExcelのビット数に合ったドライバー(
sqliteodbc.exe
またはsqliteodbc_w64.exe
)をダウンロードします。 - ドライバーのインストール: ダウンロードした実行ファイルを実行し、インストーラーの指示に従ってインストールします。特別な設定は不要な場合が多いです。
ステップ2: WindowsでのODBCデータソース設定
ExcelからSQLiteデータベースに接続するために、まずWindowsのODBCデータソースを設定します。これにより、特定のSQLiteデータベースファイルに、後から分かりやすい名前で接続できるようになります。
-
ODBC データソース アドミニストレーターを開く:
- Windowsの検索バーに「ODBC データソース」と入力し、「ODBC データソース (32ビット)」または「ODBC データソース (64ビット)」を選択して開きます。Excelのビット数に合わせて適切な方を開いてください。もしExcelが64ビット版なら、「ODBC データソース (64ビット)」を開きます。
- または、「コントロールパネル」->「管理ツール」->「ODBC データソース」から開くこともできます。
-
データソースの追加:
- 「ユーザーDSN」または「システムDSN」タブを選択します。「ユーザーDSN」はそのユーザーのみが利用できます。「システムDSN」はそのコンピューターのすべてのユーザーが利用できます。通常は「ユーザーDSN」で十分です。
- 「追加」ボタンをクリックします。
- インストール済みのドライバー一覧が表示されるので、「SQLite3 ODBC Driver」または「SQLite ODBC Driver」を選択し、「完了」をクリックします。
-
データソースの設定:
- 設定画面が開きます。
- Data Source Name (DSN): Excelからこのデータソースを識別するための任意の名前を入力します(例:
MySalesDatabase_SQLite
)。 - Database Name: 接続したいSQLiteデータベースファイルのフルパスを指定します。「Browse」ボタンをクリックしてファイル(例:
C:\Data\mydata.db
)を選択するのが簡単です。 - Optional: Passwordなどのオプション設定がありますが、SQLiteデータベース自体にパスワードを設定していない限り、通常は空欄で構いません。
- 「OK」をクリックして設定を保存します。
これで、MySalesDatabase_SQLite
という名前のODBCデータソースを通じて、指定したSQLiteデータベースファイルに接続できるようになりました。
ステップ3: ExcelからのODBC接続設定とデータの取り込み
いよいよExcelからODBCデータソース経由でSQLiteデータベースのデータを取り込みます。
- Excelを開く: 新しいブックまたは既存のブックを開きます。
- 「データ」タブ: リボンの「データ」タブをクリックします。
- 「データの取得」: 「データの取得と変換」グループにある「データの取得」をクリックします。
- 「その他のデータソースから」: ドロップダウンメニューから「その他のデータソースから」を選択します。
-
「ODBCから」: サブメニューから「ODBCから」を選択します。
-
ODBCデータソースの選択:
- 「ODBCから」ダイアログボックスが開きます。
- 「データソース名 (DSN)」のドロップダウンリストから、先ほど設定したDSN(例:
MySalesDatabase_SQLite
)を選択します。 - 必要に応じて、ユーザー名やパスワードを入力しますが、SQLiteでは通常不要です。
- 「OK」をクリックします。
-
ナビゲーター:
- 指定したODBCデータソース(SQLiteデータベース)に接続されると、「ナビゲーター」ウィンドウが表示されます。
- ここに、データベース内のテーブルやビューが表示されます。
- 取り込みたいテーブル(例:
sales_data
)を選択します。プレビューが表示されます。 - テーブル全体を取り込む場合は、テーブル名を選択した状態で右下の「読み込み」ボタンをクリックします。
-
データの読み込み:
- 選択したテーブルのデータがExcelシートに取り込まれ、Excelの「テーブル」として書式設定されます。
- これで、SQLiteデータベースのデータがExcelで利用できるようになりました。
ステップ4: SQLクエリの実行とデータの取り込み
テーブル全体を取り込むのではなく、特定の条件で絞り込んだり、複数のテーブルを結合したり、集計したりした結果をExcelに取り込みたい場合は、SQLクエリを書いてデータを取得します。
- 上記ステップ3の「ODBCから」ダイアログを開き、DSNを選択するまでは同じです。
- DSNを選択し「OK」をクリックした後、ナビゲーターウィンドウが表示されます。
- ナビゲーターウィンドウの左下にある「詳細エディター」または「SQL ステートメント」ボタン(Excelのバージョンによって表示が異なる場合があります)をクリックします。
- すると、SQLステートメントを入力する画面が表示されます。ここに、実行したいSQLクエリを入力します(例:
SELECT * FROM sales_data WHERE order_date >= '2023-01-01'
)。 - 「OK」をクリックすると、指定したSQLクエリの結果がナビゲーターウィンドウにプレビュー表示されます。
- 結果を確認後、「読み込み」ボタンをクリックすると、クエリ結果がExcelシートに取り込まれます。
この方法のメリットは、SQLite側で複雑な抽出・加工をSQLで行い、Excelには必要なデータだけを取り込める点です。
ステップ5: データの更新(リフレッシュ)
Excelに取り込んだデータは、デフォルトではその時点のスナップショットです。SQLiteデータベース側のデータが後から更新された場合、Excelのデータは自動的には追随しません。最新の状態にするには、「更新」操作が必要です。
- Excelシートの、SQLiteから取り込んだデータが格納されているテーブル内の任意のセルを選択します。
- リボンの「データ」タブにある「すべて更新」または「更新」ボタンをクリックします。「更新」のドロップダウンメニューから、特定の接続のみを更新することも可能です。
- これにより、Excelは再度SQLiteデータベースに接続し、最初の接続時に指定したテーブル全体またはSQLクエリを実行し直し、データを最新の状態に更新します。
接続設定によっては、ファイルを開いたときに自動的に更新する設定や、一定時間ごとに更新する設定も可能です。Excelの「データ」タブ -> 「接続」 -> 「接続のプロパティ」から設定を確認・変更できます。
ODBC連携の注意点:
- ビット数の整合性: ODBCドライバー、ODBCデータソース アドミニストレーター、およびExcelのビット数(32bit/64bit)は一致させる必要があります。異なるビット数では接続できません。
- ドライバーのインストール: 正しいドライバーがインストールされていることが前提です。
- ファイルパス: SQLiteデータベースファイルのパスが変わると、ODBC設定やExcelの接続設定を変更する必要があります。ネットワーク共有フォルダなどに置くと、複数のユーザーが同じパスでアクセスしやすくなります。
- 書き込みは難しい: 基本的に、この方法ではExcelからSQLiteデータベースにデータを書き込むことはできません。データの取得(参照)が主目的となります。
方法2: 外部ツール/アドインを利用する方法
ODBCドライバーを利用するのが標準的な方法ですが、それ以外にも特定のExcelアドインやデータ連携ツールがSQLiteとの連携機能を提供している場合があります。これらのツールは、ODBC設定が不要だったり、より使いやすいインターフェースを提供したりすることがあります。ただし、多くの場合、これらのツールは有料であったり、機能が限定されていたりします。
また、最も単純な連携方法としては、SQLiteからCSV形式でデータをエクスポートし、ExcelでそのCSVファイルをインポートするという方法もあります。
- SQLiteからのCSVエクスポート: DB Browser for SQLiteなどのツールや、
sqlite3
コマンドラインツールを使って、SQLクエリの結果をCSVファイルに出力します。
sql
-- コマンドラインツールでの例
.mode csv
.output output.csv
SELECT * FROM my_table;
.quit - ExcelでのCSVインポート: Excelの「データ」タブ -> 「データの取得」-> 「ファイルから」 -> 「テキスト/CSVから」を選択し、エクスポートしたCSVファイルを開いて取り込みます。
このCSVを経由する方法は、手軽ですが以下の欠点があります。
- 手動作業: エクスポートとインポートの作業が手動で発生します。頻繁なデータ更新には向きません。
- データ型の問題: CSVはテキスト形式なので、データ型情報が失われる可能性があります。Excelで再度データ型を調整する必要がある場合があります。
- 全量インポート: 通常、クエリの結果全体をインポートするため、必要な部分だけを選択的に取り込むのが難しい場合があります(Excel側でフィルターや削除は可能ですが)。
- 更新が手間: SQLite側のデータが更新されても、Excel側で「更新」ボタンを押すだけでは最新化されません。再度CSVをエクスポートし、Excel側でデータを置き換えるなどの作業が必要です。
したがって、CSVによる連携は、一度だけデータを移行したい場合や、データの更新頻度が非常に低い場合に適しています。
方法3: Power Queryを利用する方法
Excelの「データの取得と変換」機能、通称「Power Query」は、様々なデータソースに接続し、データの取得、変換、整形、結合などを行うことができる強力なツールです。Power QueryもODBC接続をサポートしているため、基本的な接続方法は方法1と似ていますが、取得したデータに対してさらに複雑な前処理(ETL処理)を施してからExcelシートに読み込むことができます。
Power Queryを使ったSQLite連携(ODBC経由):
- Excelの「データ」タブ -> 「データの取得」 -> 「その他のデータソースから」 -> 「ODBCから」を選択します。
- ODBCデータソース名(DSN)を選択し、「OK」をクリックします。
- ナビゲーターが表示され、テーブルやビューが一覧表示されます。
-
取り込みたいテーブルを選択し、ここで「読み込み」ボタンではなく「データの変換」ボタンをクリックします。
-
Power Query エディター:
- Power Query エディターが開きます。ここに、選択したテーブルのデータが表示されます。
- エディターのインターフェースを使って、データのフィルタリング、列の削除・名前変更、データ型の変更、複数テーブルの結合(マージ)、データの集計(グループ化)、新しい列の追加(条件列、カスタム列)など、様々な変換ステップを適用できます。
- Power Query エディターで行った操作は、「適用したステップ」として記録されます。
-
SQLクエリの利用:
- Power QueryでODBCデータソースに接続する際にも、SQLクエリを利用してデータを取得できます。先ほどと同様に、「ODBCから」ダイアログでDSNを選択した後、詳細オプションを開いてSQLステートメントを入力します。
- Power Queryは、このSQLクエリの結果を最初のステップとして取り込み、その後の変換処理を適用します。
- クエリ フォールディング: Power QueryがODBC経由でデータベースに接続する場合、Power Query エディターで行った一部の変換処理(フィルタリング、列選択、グループ化など)は、可能であればデータベース側で実行されるSQLクエリに変換されます。これを「クエリ フォールディング」と呼びます。クエリ フォールディングが可能な場合、Excel側で全てのデータを読み込んでから処理するよりも、データベース側で効率的に処理が行われるため、パフォーマンスが向上します。
-
データの読み込み:
- Power Query エディターで必要な変換処理をすべて終えたら、リボンの「ホーム」タブにある「閉じて読み込む」ボタンをクリックします。
- 変換後のデータがExcelシートに取り込まれます。
-
データの更新:
- ODBC接続と同様に、Excelの「データ」タブにある「更新」ボタンで、SQLiteデータベースからデータを再度取得し、Power Query エディターで設定した変換ステップを再適用して、データを最新の状態に更新できます。
Power Queryを利用するメリット:
- 強力なデータ変換: データのクレンジングや整形など、複雑な前処理をGUIで直感的に設定できます。
- ETL機能: データの抽出、変換、ロード(ETL)のワークフローを構築できます。
- 自動化: 設定した変換ステップは保存されるため、データの更新時に自動的に同じ処理が適用されます。
- クエリ フォールディングによるパフォーマンス向上: 可能な場合、データベース側で処理を行うことで大規模データでも効率的に処理できます。
Power Queryは、単にデータを取得するだけでなく、取得したデータに対して何らかの加工が必要な場合に非常に有効な手段です。現代のExcelでのデータ連携において、Power Queryは中心的な役割を担っています。
実践的な連携例:販売データの分析
ここでは、SQLiteに格納された販売データをExcelに取り込み、分析する具体的な手順を追って説明します。
シナリオ設定:
- あなたは小売店のデータアナリストです。
- 日々の販売データ(注文ID, 日付, 商品名, カテゴリ, 単価, 数量, 顧客IDなど)がSQLiteデータベースのテーブルに記録されています。
- このデータを使って、月ごとの売上集計や、カテゴリ別の売上ランキングなどをExcelで分析・可視化したいと考えています。
ステップ1: SQLiteでのデータベース・テーブル設計
このシナリオで必要となるであろうテーブルをSQLiteで設計します。ここではシンプルに1つのテーブルで販売データを管理するとします。
- データベースファイル:
sales.db
を作成します。 - テーブル:
orders
という名前のテーブルを作成します。order_id
INTEGER PRIMARY KEY AUTOINCREMENTorder_date
TEXT (または REAL/INTEGERで日付を格納)product_name
TEXTcategory
TEXTunit_price
REALquantity
INTEGERcustomer_id
INTEGER
SQLiteでは日付型は標準ではサポートされていませんが、TEXT型(’YYYY-MM-DD HH:MM:SS’形式など)、REAL型(Unixタイムスタンプ)、INTEGER型(Julian Day Numbers)などで日付や時刻を格納するのが一般的です。ここでは簡単なTEXT型で扱います。
ステップ2: SQLiteへのデータ投入
サンプルデータを作成し、orders
テーブルに投入します。CSVファイルからインポートするのが簡単な方法の一つです。
例として、以下の内容のCSVファイル(sample_sales.csv
)を作成します。
csv
order_id,order_date,product_name,category,unit_price,quantity,customer_id
1,2023-01-05,りんご,果物,150,3,101
2,2023-01-05,みかん,果物,100,5,102
3,2023-01-06,バナナ,果物,200,2,101
4,2023-01-06,ブロッコリー,野菜,180,1,103
5,2023-01-07,キャベツ,野菜,250,1,102
6,2023-02-01,りんご,果物,150,4,103
7,2023-02-02,みかん,果物,100,6,101
8,2023-02-03,牛乳,乳製品,220,2,104
9,2023-02-03,ヨーグルト,乳製品,180,1,104
10,2023-03-10,バナナ,果物,200,3,102
DB Browser for SQLiteを使って、このCSVファイルをorders
テーブルにインポートします。
- DB Browser for SQLiteで
sales.db
を開きます。 - 「ファイル」メニュー -> 「インポート」-> 「CSVファイルからテーブル」を選択します。
- インポート元のファイルとして
sample_sales.csv
を選択します。 - 「テーブル名」として
orders
を指定(または新しいテーブル名を設定)し、既存テーブルに追加する場合はチェックを入れます。 - 「ヘッダー行」にチェックを入れます。
- 「OK」をクリックしてインポートを実行します。
- 「データ閲覧」タブで
orders
テーブルを選択し、データが正しくインポートされたか確認します。
ステップ3: ODBCデータソースの設定
上記「SQLiteとExcelの連携方法」のステップ2に従い、sales.db
ファイルに対するODBCデータソースを設定します。DSN名を例えば SalesDB
とします。
ステップ4: Excelからのデータ取得(ODBCまたはPower Query)
Excelを開き、ODBCデータソース SalesDB
からorders
テーブルのデータを取得します。
方法A: ODBC直接接続で全量取得
- Excelの「データ」タブ -> 「データの取得」-> 「その他のデータソースから」-> 「ODBCから」を選択。
- データソース名(DSN)で
SalesDB
を選択し、「OK」。 - ナビゲーターで
orders
テーブルを選択し、「読み込み」。
これにより、orders
テーブルの全データがExcelシートにテーブルとして読み込まれます。
方法B: Power Queryで取得し、売上金額を計算
Power Queryを使うと、Excelに取り込む前にデータを加工できます。ここでは、単価と数量から「売上金額」を計算する列を追加してみましょう。
- Excelの「データ」タブ -> 「データの取得」-> 「その他のデータソースから」-> 「ODBCから」を選択。
- データソース名(DSN)で
SalesDB
を選択し、「OK」。 - ナビゲーターで
orders
テーブルを選択し、「データの変換」。 - Power Query エディターが開きます。
- リボンの「列の追加」タブを選択します。
- 「カスタム列」ボタンをクリックします。
- 新しい列名として「売上金額」と入力します。
- カスタム列の数式として
[unit_price] * [quantity]
と入力します。(列名は正確に入力) - 「OK」をクリックすると、「売上金額」列が追加されます。
- 必要に応じて、日付列のデータ型を日付型に、金額列を数値型に設定し直します(自動認識されることも多いです)。
- リボンの「ホーム」タブに戻り、「閉じて読み込む」をクリックします。
これにより、SQLiteから取得したデータに「売上金額」が計算された状態でExcelシートに読み込まれます。
方法C: Power QueryでSQLクエリを使って月次売上を集計して取得
Excel側で集計するのではなく、SQLite側で集計した結果を直接取得することもできます。
- Excelの「データ」タブ -> 「データの取得」-> 「その他のデータソースから」-> 「ODBCから」を選択。
- データソース名(DSN)で
SalesDB
を選択し、「OK」。 - ナビゲーターが表示されたら、左下の「SQL ステートメント」をクリックします。(または詳細オプション)
- SQLクエリを入力します。月ごとの合計売上を計算するクエリは以下のようになります。(SQLiteの日付関数
strftime
を利用)
sql
SELECT
strftime('%Y-%m', order_date) AS SalesMonth,
SUM(unit_price * quantity) AS MonthlySales
FROM orders
GROUP BY SalesMonth
ORDER BY SalesMonth;
このクエリは、order_date
を ‘YYYY-MM’ 形式の文字列に変換し、その月ごとにunit_price * quantity
の合計(売上金額)を計算します。 - 「OK」をクリックすると、ナビゲーターにクエリ結果(月ごとの売上金額)が表示されます。
- 「読み込み」をクリックします。
これにより、SQLiteで集計された月ごとの売上データがExcelシートに読み込まれます。
ステップ5: Excelでのデータ分析・可視化
Excelに取り込んだデータを活用して分析やレポートを作成します。
-
全量データを取得した場合(方法A, B):
- Excelのテーブルを選択した状態で、リボンの「挿入」タブ -> 「ピボットテーブル」をクリックします。
- ピボットテーブルフィールドで、例えば「行」に
SalesMonth
(またはPower Queryで追加した「売上金額」)、そして「値」に売上金額
(計算済みの場合)またはunit_price
とquantity
を掛け合わせた集計フィールドを設定します。 - これにより、月ごとの売上合計、カテゴリ別の売上合計など、様々な集計を柔軟に行えます。
- ピボットテーブルからピボットグラフを作成すれば、売上推移などを視覚的に表現できます。
- 通常のExcel関数(SUMIFS, AVERAGEIFSなど)やフィルター、並べ替え機能を使って、特定の条件での分析を行うことも可能です。
-
集計済みデータを取得した場合(方法C):
- 読み込まれた月ごとの売上データを使って、直接折れ線グラフなどを作成し、売上推移を可視化できます。
- データが少ない場合は、追加の集計や分析は不要かもしれません。
ステップ6: データ更新時の対応
SQLiteデータベースに新しい販売データが追加された場合、Excelのデータを最新の状態にするには、リボンの「データ」タブにある「更新」ボタンをクリックするだけです。ExcelはODBC接続を通じてSQLiteから最新のデータを取得し直し(Power Queryを使用している場合は変換ステップも再適用し)、Excelシートを更新します。ピボットテーブルやグラフも、更新されたデータに基づいて再計算・再描画されます。
Excelで更新したデータをSQLiteに戻す(考慮事項)
ODBCやPower Queryを使った標準的な連携では、Excel側で編集したデータや、Excelで計算した結果を直接SQLiteデータベースに書き戻す機能は提供されていません。これは、データベースの整合性を保つため、また、Excelの編集がそのままデータベースの構造やデータに影響を与えるのを防ぐためです。
もしExcelでデータを編集し、その結果をSQLiteに反映させたい場合は、以下のいずれかの方法を検討する必要があります。
- 手動でのSQL INSERT/UPDATE/DELETE: Excelで編集したデータをCSVなどでエクスポートし、SQLite側でSQLを使って手動でインポートしたり、UPDATE/DELETEステートメントを実行したりする。
- VBAの利用: ExcelのVBAを使って、ODBC経由でSQLiteに接続し、プログラムからSQLのINSERT/UPDATE/DELETEステートメントを実行してデータを書き込む。これはプログラミングの知識が必要です。
- 外部ツール: データ連携ツールやETLツールなど、双方向のデータ同期や書き戻しをサポートするツールを利用する。
一般的には、SQLiteはマスターデータを管理し、Excelは取得したデータを分析・可視化する、という一方向のデータフローで利用するのが、最も安全で簡単なSQLiteとExcelの連携スタイルです。
連携における注意点とトラブルシューティング
SQLiteとExcelの連携を行う際に遭遇しやすい問題と、その解決策について説明します。
データ型マッピングの問題
SQLiteとExcelでは、サポートしているデータ型やその解釈が異なります。ODBCドライバーがデータ型を変換してくれますが、完璧ではありません。
- SQLiteのデータ型: INTEGER, REAL, TEXT, BLOB。数値型にはINTEGERとREALしかないなど、他のデータベースに比べてシンプルです。また、厳密な型付けではなく、柔軟な型アフィニティを持ちます。
- Excelのデータ型: 数値、文字列、日付、ブール値など。
よくある問題:
- SQLiteのTEXT型に格納された日付や時刻が、Excelで正しく日付/時刻として認識されない(単なる文字列として表示される)。
- SQLiteのINTEGERやREAL型が、Excelで意図しない書式(桁数や小数点の有無など)で表示される。
- Power Queryでデータを取得した際に、列のデータ型が「Any」(任意)と認識されてしまい、その後の処理でエラーになる。
対策:
- SQLite側: 可能であれば、SQLiteにデータを格納する際に、Excelでの利用を考慮した形式で格納する。例えば、日付は
'YYYY-MM-DD'
や'YYYY-MM-DD HH:MM:SS'
のTEXT形式で格納すると、ExcelやPower Queryで日付型として認識されやすいです。数値も、計算に必要な場合は小数点以下をREAL型で保持するなど、格納時にデータ型を意識する。 - Excel側 (ODBC直接接続): Excelに取り込んだ後、Excelの機能を使って列のデータ型や表示形式を設定し直す。
- Excel側 (Power Query): Power Query エディターで、各列のデータ型を明示的に設定します(例えば、日付列をDate型、金額列をDecimal Number型などに変換)。これにより、Excelシートに読み込まれる際には正しい型として扱われます。これが最も推奨される方法です。
パフォーマンスの問題
大量のデータをSQLiteからExcelに読み込む際に、時間がかかったり、Excelの動作が重くなったりすることがあります。
原因:
- SQLiteデータベースのサイズが大きい。
- ネットワーク経由でSQLiteファイルにアクセスしている(OneDriveやネットワークドライブなど)。
- Excelに一度に大量の行を読み込もうとしている。
- 複雑なSQLクエリやPower Queryでの変換処理に時間がかかっている。
- Excelの計算やピボットテーブルの更新に時間がかかっている。
対策:
- 必要なデータだけを取得する: SQLクエリを使って、必要な列だけを選択したり、WHERE句で条件を指定して行数を絞り込んだりする。全量ではなく、分析に必要な期間やカテゴリのデータのみを取得するようにSQLを最適化する。
- SQLite側での集計: 大量の生データをExcelに取り込んでから集計するのではなく、SQLite側でSQLのGROUP BY句などを使って集計した結果をExcelに取り込む(前述の実践例 ステップ4-方法Cのような方法)。
- Power Queryの活用とクエリ フォールディング: Power Queryを使用し、フィルタリングや列選択、グループ化などの処理をデータ取得の最初のステップ付近に配置する。これにより、クエリ フォールディングが働き、データベース側で効率的に処理が行われる可能性が高まります。
- ハードウェア: より高性能なCPU、大容量のメモリ、SSDなどを搭載したコンピューターを使用する。
- SQLiteファイルの配置: ローカルドライブにSQLiteファイルを置くと、ネットワーク経由よりもアクセス速度が速くなります。
- Excelの「接続のプロパティ」: 「ファイルを開くときにデータを更新する」設定をオフにする、バックグラウンドで更新する設定にするなど、パフォーマンスに影響する設定を見直す。
接続エラー
ODBCデータソースへの接続が失敗する場合があります。
原因:
- ODBCデータソース名(DSN)が間違っている。
- SQLiteデータベースファイルのパスが間違っている、またはファイルが存在しない。
- Excelのビット数とODBCドライバー/DSNのビット数が一致していない。
- ODBCドライバーが正しくインストールされていない。
- SQLiteデータベースファイルへのアクセス権限がない。
- ネットワークドライブ上のファイルの場合、ネットワークに接続できていない。
対策:
- DSN名の確認: Excelで指定したDSN名が、ODBC データソース アドミニストレーターで設定した名前と完全に一致しているか確認する。
- ファイルパスの確認: ODBC データソース アドミニストレーターで設定したSQLiteデータベースファイルのパスが正しいか、その場所にファイルが存在するか確認する。可能であれば、絶対パスで指定する。
- ビット数の確認: Excelのファイル -> アカウント -> Excelのバージョン情報でビット数を確認し、ODBC データソース アドミニストレーターを開く際に正しいビット数(32ビットまたは64ビット)を選択したか確認する。ドライバーも同じビット数でインストールされているか確認する。
- ドライバーの再インストール: 必要であれば、ODBCドライバーをダウンロードし直し、管理者権限で再インストールしてみる。
- ファイルアクセス権限: SQLiteデータベースファイルが保存されているフォルダへの読み取り権限があるか確認する。
- テスト接続: ODBC データソース アドミニストレーターの設定画面に「テスト」ボタンがある場合は、そこで接続できるか確認する。
セキュリティ
SQLiteファイルは単なるファイルであるため、ファイルシステムレベルでのセキュリティ管理が必要です。
- アクセス制限: 許可されたユーザーだけがSQLiteファイルにアクセスできるように、フォルダのアクセス権限を設定します。
- 暗号化: 重要なデータを含む場合は、SQLiteデータベースファイルを暗号化することも可能ですが、これは標準のSQLiteでは難しく、サードパーティ製のツールやライブラリが必要になることが多いです。ODBCドライバーが暗号化をサポートしているかも確認が必要です。
データの整合性(Excel側からSQLiteへの書き込み)
前述のように、ExcelからSQLiteへの直接的な書き込みは標準では困難です。Excelでの変更をSQLiteに反映させる必要がある場合は、データの整合性をどのように保つか慎重に検討する必要があります。
- 一方通行を基本とする: データの流れは「SQLite(マスター)→ Excel(分析・可視化)」の一方向とするのが最もシンプルで安全です。Excelでの分析結果をレポートとして保存したり、SQLiteに書き戻す必要のない別のデータベースやファイルとして保存したりすることを検討します。
- 書き戻しが必要な場合: VBAなどでプログラム的にSQLを使って書き戻す場合は、エラー処理やトランザクション管理を適切に行い、データの不整合が発生しないように注意が必要です。主キーを元にレコードを特定し、UPDATEやDELETEを行う必要があります。
より高度な連携に向けて
SQLiteとExcelの連携をさらに深め、データ活用の幅を広げるための発展的な内容を紹介します。
SQLの活用(Excel内でSQLを書く)
Power Query経由でODBC接続する際にSQLクエリを書けることは既に述べました。さらに、一部のExcelアドインやVBAを利用することで、Excelのシート内から直接SQLクエリを実行し、結果を取得することも可能です。これにより、SQLiteデータベースの構造を意識しながら、Excelのシート上でデータ操作のロジックを記述できるようになります。
- Power Query: Power Query エディターの詳細エディター(またはSQLステートメントオプション)でSQLを書くのが、Excel標準機能としては最も一般的な方法です。SQLの専門知識が活かせます。
- VBA: VBAコードからADO (ActiveX Data Objects) などのデータベース接続ライブラリを利用して、SQLite ODBCドライバー経由でSQLiteに接続し、SQLステートメントを実行してデータを取得したり、シートに書き出したりすることができます。これにより、データ取得の自動化や、より複雑なワークフローを構築できます。例えば、特定のボタンをクリックしたら最新データを取得する、といった処理を実装できます。
Power BIなど他のBIツールとの連携
Power QueryはExcelだけでなく、MicrosoftのBIツールであるPower BIでも利用されています。Power BI DesktopもODBC接続をサポートしており、SQLiteデータベースからデータを取り込んで、より高度なデータモデリング、分析、インタラクティブなレポートやダッシュボード作成を行うことができます。
Excelでの分析に限界を感じる場合や、より多くの人との情報共有が必要な場合は、Power BIへのステップアップも検討できます。基本的なデータ取得・変換の考え方はExcelのPower Queryと共通しているため、スムーズに移行しやすいです。
VBAを使った自動化
ExcelのVBA(Visual Basic for Applications)を活用することで、SQLiteとの連携処理を自動化できます。
- 定期的なデータ取得: VBAを使って、ブックを開いたときや特定の時間になったときに、SQLiteから最新データを自動的に取得する。
- Excelでの処理後の書き出し(上級者向け): Excelで集計・加工した結果データを、VBAを使ってSQLiteデータベースの別のテーブルに書き戻す(例: 月次集計結果テーブルを作成するなど)。これは、SQLとデータベース操作に関する深い理解が必要です。
- 連携処理のUI化: ユーザーがボタンをクリックするだけでデータ連携や分析が実行されるような、カスタムのユーザーインターフェースを作成する。
VBAを使った連携は、より柔軟でカスタマイズされたデータ活用システムを構築できますが、VBAのプログラミングスキルが必須となります。
Pythonなどのプログラミング言語経由での連携
もしプログラミングに抵抗がないのであれば、Pythonなどの言語を使うことで、SQLiteとExcelの連携をさらに強力に、そして自動化・発展させることができます。
- Pythonとpandas/sqlite3: Pythonの標準ライブラリ
sqlite3
を使えばSQLiteデータベースを簡単に操作できます。さらに、データ分析ライブラリであるpandas
を使えば、データベースから取得したデータをDataFrameという扱いやすい形式でメモリ上に展開し、高度なデータ操作や分析を行うことができます。分析結果はpandas
からExcelファイル(.xlsx
)として出力できます。この方法は、大量データのバッチ処理や複雑なデータパイプライン構築に適しています。
この方法はExcelを「データの受け渡しや最終的なレポート形式」として利用し、実際のデータ処理の大部分をプログラミングで行うスタイルになります。
まとめ
この記事では、SQLiteとExcelという二つの強力なツールを連携させる方法について、詳細に解説しました。
- SQLiteは、軽量で手軽なファイルベースのデータベースとして、大量データや構造化データの管理に優れています。
- Excelは、直感的な操作でデータの集計、分析、可視化を行うのに長けています。
- これらを連携させることで、SQLiteのデータ管理能力とExcelの分析・表現力を組み合わせて、より高度で効率的なデータ活用が可能になります。
主な連携方法としては、ODBCドライバーを利用する方法が最も標準的で推奨されます。これにより、ExcelからSQLiteデータベースに直接接続し、SQLクエリで必要なデータを抽出してExcelに取り込み、分析・可視化を行うことができます。Power Queryを併用することで、取得したデータの整形や複雑な変換も容易に行えます。
一方で、連携にはデータ型の問題、パフォーマンス、接続エラー、セキュリティなどの注意点も伴います。これらを理解し、適切に対処することで、スムーズなデータ連携を実現できます。また、ExcelからSQLiteへの書き込みは標準では難しいため、データのフローはSQLiteからExcelへの一方向を基本とするのが一般的です。
さらに、VBAやPythonなどのプログラミング言語、あるいはPower BIのような他のBIツールと組み合わせることで、より高度なデータ連携や自動化、分析、レポート作成へと発展させることが可能です。
SQLiteとExcelの連携は、本格的なデータベースシステムに手を出す前のデータ活用の第一歩として、非常に有効な手段です。手元にあるExcelデータをより効率的に管理したい、データベースの基本に触れてみたい、手軽に大量データの分析環境を構築したい、といったニーズに応えることができます。
この記事が、あなたのデータ活用を始めるための一助となれば幸いです。ぜひ実際に手を動かし、SQLiteとExcelの連携を体験してみてください。データの世界は、きっともっと面白くなるはずです。
付録/参考情報
- SQLite 公式ウェブサイト: https://www.sqlite.org/ – SQLiteに関する全ての情報があります。
- SQLite ODBC Driver (by Christian Werner): http://ch-werner.de/sqliteodbc/ – Windows用のSQLite ODBCドライバーのダウンロード元。
- DB Browser for SQLite: https://sqlitebrowser.org/ – SQLiteデータベースを操作するためのGUIツール。初心者におすすめです。
- Microsoft Excel サポート: https://support.microsoft.com/ja-jp/excel – Excelの機能に関する公式情報。
- Microsoft Power Query ドキュメント: https://learn.microsoft.com/ja-jp/power-query/ – Power Queryに関する詳細なドキュメント。