キャッシュAPI利用時の「caches is not defined」エラーとは?原因と解決策

はい、承知いたしました。キャッシュAPI利用時の「caches is not defined」エラーについて、原因と解決策を詳細に解説する約5000語の記事を作成します。


キャッシュAPI利用時の「caches is not defined」エラーとは?原因と解決策

Webアプリケーションの開発において、オフライン対応やパフォーマンス向上は重要な課題です。これらの課題を解決するために、モダンなWebプラットフォームでは様々なAPIが提供されています。その中でも、Service Workerと連携してリソースのキャッシュをプログラムから制御できる「Cache API」は非常に強力なツールです。

しかし、Cache APIを利用しようとした際に、「caches is not defined」というエラーに遭遇することがあります。このエラーは、Cache APIへのエントリーポイントとなるcachesオブジェクトが、コードが実行されている現在のスコープに存在しないことを示しています。

この記事では、「caches is not defined」エラーが発生する原因を徹底的に掘り下げ、それぞれの原因に対する具体的な解決策を詳細に解説します。Cache APIの基本的な概念から、エラー発生時の診断方法、そして適切なコーディングプラクティスまで、幅広く網羅することで、開発者がこのエラーを効果的に解決し、Cache APIを安全かつ効率的に利用できるようになることを目指します。

1. Cache APIとは何か?

「caches is not defined」エラーの理解を深めるためには、まずCache APIそのものについて正しく理解する必要があります。

Cache APIは、Webブラウザがリソース(HTML、CSS、JavaScript、画像、JSONデータなど)をキャッシュするための仕組みを、JavaScriptから直接、プログラム的に操作できるようにするWeb APIです。これは、Service Workerと組み合わせて使用されることが最も一般的ですが、Windowコンテキスト(通常のWebページ)から利用することも可能です(ただし、特定の条件があります)。

Cache APIの主な目的は以下の通りです。

  • オフラインアクセス: アプリケーションがインターネットに接続されていない状態でも動作するために、必要なリソースを事前にキャッシュしておく。
  • パフォーマンス向上: 一度取得したリソースをキャッシュから素早く提供することで、ネットワーク待ち時間を削減し、ページのロード時間を短縮する。
  • Service Workerとの連携: Service Workerのイベントハンドラ(特にfetchイベント)内で、ネットワークリクエストをキャッシュから取得するか、ネットワーク経由で取得してキャッシュに保存するか、といったキャッシュ戦略を柔軟に実装する。

Cache APIは、ブラウザが自動的に行うHTTPキャッシュとは異なります。HTTPキャッシュはブラウザの設定やHTTPヘッダー(Cache-Control, Expires, ETag, Last-Modifiedなど)に基づいて自動的に行われますが、開発者が細かく制御することは難しいです。一方、Cache APIはJavaScriptコードから明示的にリソースを追加、取得、削除できるため、より高度でアプリケーション固有のキャッシュ戦略を実装できます。

Cache APIは、RequestオブジェクトとResponseオブジェクトのペアをキーと値としてキャッシュに保存します。これは、HTTPリクエストとレスポンスをそのままの形で保存・取得できることを意味します。

Cache APIのエントリーポイントとなるのが、グローバルスコープに存在するcachesオブジェクトです。このオブジェクトを通じて、開発者は以下の操作を行います。

  • caches.open(cacheName): 指定した名前のキャッシュストアを開くか、存在しない場合は新しく作成します。Promiseを返します。
  • caches.match(request, options): 指定したRequestに対応するResponseを、全てのキャッシュストアの中から検索します。Promiseを返します。
  • caches.delete(cacheName): 指定した名前のキャッシュストアを削除します。Promiseを返します。
  • caches.keys(): 存在する全てのキャッシュストアの名前の配列を取得します。Promiseを返します。

これらの操作はすべて非同期であり、Promiseを返します。これは、ディスクI/Oを伴う操作であるため、メインスレッドをブロックしないようにするためです。

Cache APIは、Progressive Web App (PWA) の中核的な技術の一つであり、オフライン機能や「Add to Home Screen」機能と密接に関連しています。

2. 「caches is not defined」エラーとは?

「caches is not defined」というエラーメッセージは、JavaScript実行時にcachesという名前の変数またはオブジェクトが、現在のスコープ内で定義されていないために発生します。これは、他の言語でいうところの「未定義の変数を使おうとした」という状況と同じです。

このエラーが発生するということは、あなたのJavaScriptコードが、cachesオブジェクトが利用可能であると期待しているにも関わらず、実際にはそれが存在しない環境で実行されていることを意味します。

前述の通り、cachesオブジェクトはCache APIへのグローバルなエントリーポイントとして提供されます。しかし、このオブジェクトは 常に どのようなJavaScript実行環境でも利用できるわけではありません。特定の条件が満たされたグローバルスコープでのみ定義されます。

したがって、このエラーに遭遇した場合、最も可能性の高い原因は、コードがCache APIが利用可能であると想定されていない、または利用が制限されている環境で実行されていることです。

次のセクションでは、cachesオブジェクトが定義されるべき場所と、それが定義されない主要な原因について掘り下げていきます。

3. cachesオブジェクトはどこで定義されるべきか?

cachesオブジェクトは、以下の2つの主要なグローバルスコープで定義されます。

3.1. Service Worker スコープ

Service Workerスクリプトのトップレベル、つまりService Workerのグローバルスコープでは、cachesオブジェクトは常に定義されています。Service Workerはブラウザのバックグラウンドで動作するプロキシサーバーのようなものであり、ネットワークリクエストを傍受してプログラム的に制御できます。Cache APIはService Workerの主要な機能の一つであるため、そのスコープで完全に利用可能であることは当然です。

Service Workerスクリプト内では、グローバルオブジェクトはselfで参照できます。したがって、self.cachesとしてアクセスすることも可能ですが、通常は単にcachesとして直接アクセスします。

Service Workerのライフサイクル(install, activate, fetchなどのイベント)中のどのタイミングでも、cachesオブジェクトは利用可能です。これらのイベントハンドラ内で、リソースをキャッシュに追加したり、キャッシュから取得したり、キャッシュをクリアしたりといった操作を行います。

3.2. Window スコープ (メインスレッド) – Secure Context のみ

通常のWebページを実行するメインスレッドのグローバルスコープ(windowオブジェクト)でも、cachesオブジェクトは定義されることがあります。ただし、これには非常に重要な条件があります。それは、ページがSecure Context(安全なコンテキスト)で提供されている必要があるということです。

Secure Contextとは、HTTPSのような暗号化された通信路を通じて提供される環境、または開発目的で例外的に安全とみなされるlocalhostのような環境を指します。HTTPのような非暗号化された接続では、Cache APIを含む機密性の高いAPIの多くは利用できません。これは、キャッシュされたデータが悪意のある第三者によって傍受されたり、改ざんされたりするリスクを防ぐためです。

Secure Contextである場合、メインスレッドのJavaScriptコードからwindow.caches(または単にcaches)としてCache APIにアクセスできます。しかし、Service Workerのスコープとは異なり、メインスレッドからCache APIを直接操作する機会はService Workerほど多くはありません。主なユースケースとしては、ユーザー操作に応じて特定のデータをキャッシュしたり、現在のキャッシュの状態を表示したりする場合などが考えられます。

3.3. cachesオブジェクトが定義されない環境

上記の2つの環境以外では、通常cachesオブジェクトは定義されません。これには以下の環境が含まれます。

  • 通常のWeb Workers (Dedicated Worker, Shared Worker): Service Workerとは異なり、これらの標準的なWorkerのスコープにはcachesオブジェクトは定義されません。WorkerはUIスレッドとは独立したバックグラウンド処理を実行するために使用されますが、Service Workerのようにネットワークプロキシとしての機能は持ちません。
  • Node.jsやその他のサーバーサイドJavaScript環境: Cache APIはWebブラウザのAPIであり、サーバーサイドのJavaScriptランタイムには存在しません。
  • 非Secure Context (HTTP接続): 前述の通り、HTTPSではないHTTP接続で提供されるページでは、メインスレッドでもService WorkerでもCache APIは利用できません(Service Worker自体もHTTPSで提供される必要があります)。
  • 古いブラウザ: Cache APIは比較的新しいAPIであり、古いバージョンのブラウザや、一部のモバイルブラウザではサポートされていない場合があります。
  • Worklet スコープ (Paint Worklet, Audio Workletなど): これらの特殊なWorkerのような環境でも、cachesオブジェクトは定義されません。

4. 「caches is not defined」エラーが発生する主要な原因

これで、cachesオブジェクトがどこで利用可能か理解できたので、エラーが発生する具体的な原因を掘り下げてみましょう。エラーの原因は、基本的にコードがcachesオブジェクトが定義されていない環境で実行されていることに起因します。

主な原因は以下の通りです。

4.1. 間違った実行環境でコードを実行している

これが最も一般的な原因です。Cache APIを使用するコードを、cachesオブジェクトが利用可能でないスコープで実行しようとしています。

  • Service Workerスクリプトではない場所でCache APIコードを実行:
    • 例えば、通常のページの<script>タグ内で、Service Workerのイベントリスナー(installfetchなど)の中で実行されるべきCache API呼び出しを記述している。
    • あるいは、Service Workerではない普通のWeb Worker内でCache APIを呼び出している。
  • メインスレッドで、Secure Contextではない環境でCache APIコードを実行:
    • ページがHTTP接続で提供されているにも関わらず、メインスレッドのJavaScriptからcachesオブジェクトにアクセスしようとしている。
    • ローカルファイルシステムからHTMLファイルを開いている場合など(これもSecure Contextではない)。

4.2. Secure Context (HTTPS) でない

メインスレッドでcachesオブジェクトにアクセスしようとしている場合、そのページがSecure Context(HTTPSまたはlocalhost)で提供されていないとエラーになります。Service WorkerもHTTPSで提供され、HTTPSページから登録される必要があります。HTTPページではService Worker自体が動作しないため、結果としてService Workerスコープでのcaches利用も不可能になります。

4.3. ブラウザがCache APIをサポートしていない

ユーザーが使用しているブラウザが、Cache APIをサポートしていない古いバージョンであるか、またはサポートが不完全なブラウザである可能性があります。

4.4. JavaScriptのロードまたは実行に失敗している

ごく稀ですが、JavaScriptファイル自体のロードに失敗したり、シンタックスエラーなどでスクリプトの実行が途中で停止したりした場合、Cache APIを使用するコードが実行される前にエラーが発生する可能性があります。ただし、この場合「caches is not defined」というよりは、スクリプト全体のロード/パース/実行エラーとして現れることが多いです。

4.5. 単純なタイプミス

スペルミスでcachesではなくcahces`のように記述している可能性もゼロではありません。これは非常に基本的な間違いですが、見落としがちです。

4.6. タイミングの問題 (定義よりは利用の失敗に近いが関連)

Service Workerの登録処理が完了する前に、メインスレッドからService Worker内のキャッシュにアクセスしようとした場合、Service Workerがまだアクティブでないなどの理由で期待する操作ができないことはありますが、「caches is not defined」は通常、そのAPIオブジェクト 自体 が存在しないことを示すため、これは直接の原因というよりは、Service WorkerとCache APIの非同期な性質やライフサイクルに起因する別の問題として現れます。しかし、文脈によっては関連付けて理解する必要がある場合もあります。例えば、Service Workerスクリプトのパース段階でエラーがあると、そもそもService Workerが起動せず、cachesが定義されるべきスコープ自体が有効にならない、といったシナリオはあり得ます。

5. エラー発生時の診断方法

「caches is not defined」エラーに遭遇したら、以下のステップで原因を特定できます。

  1. ブラウザの開発者ツールを開く: Consoleタブを確認し、エラーメッセージとエラーが発生したファイル名、行番号を確認します。これにより、どのコードがエラーを引き起こしているかを特定できます。
  2. 実行環境を確認する:
    • エラーが発生したコードが、通常のWebページ (windowスコープ) で実行されているか、Service Worker (selfスコープ) で実行されているかを確認します。コード内にconsole.log(this)console.log(self)(Service Worker内)/console.log(window)(メインスレッド内)を一時的に挿入して、グローバルオブジェクトを確認するのも有効です。
    • Service Workerの場合は、ブラウザの開発者ツールの「Application」(または「Debugger」など、ブラウザによる)タブを開き、「Service Workers」セクションを確認します。Service Workerが正しく登録され、アクティブになっているかを確認します。Service Workerのコンソールログもここで確認できます。
    • メインスレッドの場合は、ページのURLがhttps://で始まっているか、またはhttp://localhostであるかを確認します。
  3. プロトコルを確認する: ページのURLを確認し、HTTPかHTTPSかを明確にします。HTTPであれば、メインスレッドでもService WorkerでもCache APIは利用できません。
  4. ブラウザの互換性を確認する: 使用しているブラウザのバージョンと、Cache APIのサポート状況を確認します。caniuse.comのようなサイトで「Cache API」を検索すると、互換性情報が得られます。
  5. コードのレビュー: エラーメッセージが指すファイルと行番号のコードを確認します。cachesオブジェクトにアクセスしている箇所を見つけ、それが期待するスコープ(Service WorkerまたはSecure ContextのWindow)にあるかを確認します。スペルミスがないかも再確認します。
  6. Service Workerの登録確認: メインスレッドからService Workerの登録を行っている場合、navigator.serviceWorker.register()が正しく呼び出されているか、登録が成功しているかを確認します。開発者ツールのService Workerセクションで状態を確認できます。
  7. コードの分離: 可能であれば、Cache API関連のコードを最小限のテストケースに分離し、単純な環境で実行してエラーが再現するかを確認します。

これらの診断ステップを通じて、エラーの根本原因が「実行環境の問題」「Secure Contextの不足」「ブラウザ互換性」のいずれであるかを絞り込むことができます。

6. 「caches is not defined」エラーの解決策

診断によって原因が特定できたら、それぞれの原因に応じた解決策を適用します。

6.1. 原因1: 間違った実行環境でコードを実行している場合の解決策

エラーがService Workerのイベントハンドラ内で実行されるべきコードが、誤ってメインスレッドや通常のWorkerで実行されていることによる場合、またはその逆の場合の解決策です。

  • Service Worker内のコードをService Workerスクリプトに移動:
    • installイベント、activateイベント、fetchイベントなどのService Workerライフサイクルに関連するCache APIの操作は、必ずService Workerとして登録されたJavaScriptファイル内に記述します。
    • Service Workerスクリプトは、メインのHTMLファイルとは別のファイルとして作成し、navigator.serviceWorker.register('service-worker.js')のように登録します。
    • Service Workerスクリプト内では、グローバルオブジェクトはselfであり、cachesself.cachesとして定義されます(通常はselfを省略してcachesと記述)。
    • 例:
      “`javascript
      // service-worker.js ファイル内
      self.addEventListener(‘install’, (event) => {
      event.waitUntil(
      caches.open(‘my-cache-v1’) // ここでは ‘caches’ は定義されている
      .then((cache) => {
      console.log(‘Cache opened’);
      return cache.addAll([
      ‘/’,
      ‘/index.html’,
      ‘/styles.css’,
      ‘/script.js’,
      ‘/images/logo.png’
      ]);
      })
      );
      });

      // index.html または別のメインスレッドのスクリプト内
      // caches.open(‘my-cache-v1’).then(…) // ここで実行するとエラーになる可能性が高い
      ``
      * **メインスレッドでCache APIを使用する場合の注意:**
      * メインスレッドで
      cachesオブジェクトにアクセスするコードは、通常のページの

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