変圧器に必須のb種接地(第二種接地)を分かりやすく紹介

変圧器に「必須」とされるB種接地(第二種接地)の全て ~高低圧混触事故から命と設備を守る技術~

電気は現代社会に不可欠なエネルギー源です。私たちの家庭やオフィス、工場、あらゆる場所で電気の恩恵を受けています。そして、その電気が安全かつ安定的に供給されるために、電力系統には様々な技術や設備が用いられています。その中でも特に重要な役割を担うのが「変圧器」です。

変圧器は、発電所から送られてくる高電圧の電気を、私たちが利用しやすい低電圧(例えば家庭用の100Vや200V)に変換する役割を果たします。あるいは、逆に電圧を上げることもあります。電力の長距離輸送には高電圧が効率的ですが、利用する際には低電圧が必要です。この電圧変換を担う変圧器は、電力供給網の中核を成す存在と言えるでしょう。

しかし、変圧器は高電圧側と低電圧側という、電圧が大きく異なる二つの回路を持っています。通常はこれらの回路は絶縁体によって完全に隔てられていますが、何らかの原因でその絶縁が劣化したり破壊されたりすると、「高低圧混触」という非常に危険な事態が発生する可能性があります。

もし高圧側の電圧(例えば6600Vや22000V)が低圧側の回路(100Vや200V)に流れ込んでしまったらどうなるでしょうか?低圧機器は設計電圧をはるかに超える高電圧に晒され、焼損や火災の原因となります。さらに深刻なのは、低圧機器に触れている人が極めて高い電圧に感電するリスクです。通常の低圧回路であれば、地絡事故が起きても適切な接地があれば感電のリスクを低減できますが、高電圧が侵入した場合は状況が全く異なります。想像するだけで恐ろしい事態です。

このような壊滅的な事故を防ぐために、変圧器には「B種接地(第二種接地)」と呼ばれる特定の種類の接地工事が義務付けられています。この記事では、なぜ変圧器にB種接地が必須なのか、B種接地がどのように高低圧混触事故から私たちを守るのか、その技術的な仕組み、そして施工や保守管理に至るまでを、初心者にも分かりやすく、しかし詳細に解説していきます。

第1章 電気設備における「接地(アース)」の基本を知る

B種接地について深く理解するためには、まず電気設備における「接地(アース)」の基本的な考え方を知っておく必要があります。

1.1 接地とは何か? その目的

接地とは、電気設備や機器の金属製の筐体、あるいは電路の一部を導線で大地と接続することです。「アースを取る」とも言われます。なぜこのようなことをするのでしょうか?主な目的は以下の通りです。

  • 感電防止: 機器の内部で漏電が発生し、筐体に電気が流れてしまった場合、接地がされていなければ、人が筐体に触れた瞬間に人体を通じて電気が大地へ流れ、感電してしまいます。接地がされていれば、漏電電流は人体よりも抵抗の低い接地線を通って大地へ流れるため、感電のリスクを大幅に低減できます。
  • 機器の保護: 漏電や短絡事故が発生した際に、接地線を通じて大きな電流が流れることで、回路の保護装置(ヒューズや遮断器)が素早く動作し、事故回路を電源から切り離します。これにより、機器の損傷や火災の発生を防ぎます。
  • 異常電圧の抑制: 落雷や、異なる電圧の電路が混触した際に発生する異常な高電圧を、接地を通して大地へ逃がし、電路や機器にかかる電圧を抑制します。
  • ノイズ対策: 機器から発生する電気的なノイズを大地へ逃がしたり、外部からのノイズの影響を受けにくくしたりする効果もあります。

このように、接地は電気設備の安全性と安定運用に欠かせない非常に重要な技術なのです。

1.2 電気設備技術基準における接地の種類

電気設備技術基準では、施設の重要性や電路の電圧に応じて、いくつかの種類の接地が定められています。主なものは以下の4種類です。

  • A種接地(第一種接地): 高圧または特別高圧の機器(避雷器、高圧引込線に接続される機器など)の金属製筐体などに施されます。比較的低い接地抵抗値が要求されます(原則10Ω以下)。高電圧設備における地絡事故時の感電防止や機器保護が目的です。
  • B種接地(第二種接地): 変圧器の低圧側電路の中性点またはこれに準ずる点に施されます。この記事の主題です。 後述しますが、接地抵抗値の基準が他の種別とは異なり、高圧側の地絡電流に依存して計算されます。高低圧混触事故時の異常電圧抑制と保護装置の動作が目的です。
  • C種接地(第三種接地): 300Vを超える低圧の機器の金属製筐体などに施されます。原則10Ω以下の接地抵抗値が要求されます。低圧設備における漏電時の感電防止や機器保護が目的です。
  • D種接地(特別第三種接地): 300V以下の低圧の機器の金属製筐体などに施されます。原則100Ω以下の接地抵抗値が要求されます(特定の条件では500Ω以下)。低圧設備における漏電時の感電防止や機器保護が目的です。

これらの接地は、それぞれ異なる目的と基準を持っており、施設や機器の種類、電圧レベルに応じて適切に使い分ける必要があります。

1.3 なぜ変圧器には特定の種類の接地が必要なのか?

一般的な電気機器にはC種またはD種接地が施され、高圧機器にはA種接地が施されます。しかし、変圧器にはB種接地という独特な接地が必要とされます。その理由は、変圧器が持つ「高圧回路と低圧回路の両方を持つ」という特性にあります。

前述の通り、変圧器には高低圧混触という固有のリスクが存在します。この混触事故が発生した場合、単に機器の筐体を接地するだけ(A種、C種、D種)では不十分なのです。変圧器の低圧側「電路そのもの」と大地を、高圧側の状況を考慮した特殊な条件で接地する必要があるのです。これがB種接地の本質であり、他の接地とは一線を画す理由です。

次の章では、このB種接地が具体的にどのようなものなのか、そしてなぜ変圧器に必須とされるのかを掘り下げていきます。

第2章 B種接地(第二種接地)とは? その独特な役割

B種接地は、変圧器の安全性確保において最も重要な役割を担う接地です。その定義、適用範囲、そして他の接地との決定的な違いを見ていきましょう。

2.1 B種接地の定義と適用範囲

電気設備技術基準の解釈 第24条には、B種接地について規定されています。これによると、B種接地は「高圧電路又は特別高圧電路と低圧電路とを結合する変圧器の低圧側電路」に施設することが義務付けられています。具体的には、変圧器の低圧側巻線の「中性点」に接地を施します。単相変圧器で中性点がない場合は、巻線の一端などに接地を施します。

この接地は、変圧器が設置される場所(例えば、電柱上の柱上変圧器、受変電設備内の変圧器など)に関わらず必要です。つまり、高圧または特別高圧から低圧に変圧を行う全ての変圧器にB種接地が必須とされています。

2.2 B種接地の決定的な違い:高低圧混触時の異常電圧抑制と保護装置の動作

B種接地がA、C、D種接地と最も異なる点は、その主目的が「高低圧混触事故が発生した際に、低圧側電路にかかる異常電圧を抑制し、高圧側の保護装置(遮断器など)を確実に動作させること」にある点です。

他の接地(A, C, D種)は、主に機器の漏電や短絡事故が発生した際に、感電防止や自回路の保護装置動作を目的とします。しかし、B種接地は、自らの低圧側電路ではなく、事故の原因となっている高圧側回路を停止させるという、言わば「上流」の保護を担う側面が非常に強いのです。

では、具体的にB種接地はどのようにこの役割を果たすのでしょうか? その仕組みを高低圧混触事故のシナリオを通して理解しましょう。

第3章 高低圧混触事故のメカニズムとその深刻なリスク

変圧器の高圧側巻線と低圧側巻線は、通常、電気的に完全に絶縁されています。この絶縁は、例えば絶縁油と巻線間の距離、巻線に施された絶縁紙やワニスなどによって保たれています。しかし、経年劣化、外部からの衝撃、過負荷による温度上昇、異常電圧の印加(雷サージなど)といった様々な要因によって、この絶縁が破壊されることがあります。絶縁が破壊されると、高圧側巻線と低圧側巻線が物理的または電気的に接触し、「高低圧混触」が発生します。

3.1 高低圧混触が発生した場合に何が起こるか?

高低圧混触が発生すると、極めて危険な事態が連鎖的に発生します。

  1. 低圧側電路への高電圧侵入: 変圧器の高圧側の電圧(例: 6600V)が、低圧側の電路(例: 100V/200V)に直接加わります。
  2. 低圧機器の絶縁破壊、損傷: 100Vや200Vでの使用を想定して設計された低圧機器(家電製品、照明器具、コンセント、配線など)は、数千ボルトもの高電圧に耐えるようには作られていません。瞬時に絶縁が破壊され、焼損したり火花を散らしたりします。
  3. 使用者の感電リスクの急増: 低圧電路に接続されている機器の金属製筐体や、場合によっては配線そのものに高圧電圧がかかります。人がこれに触れると、人体を通して大地へ電流が流れ、極めて高い電圧での感電となります。通常の低圧漏電とは比較にならないほど危険で、致死的な感電となる可能性が非常に高いです。
  4. 火災の発生リスク: 機器の焼損や配線のショートによって発生する熱や火花が、周囲の可燃物に引火し、火災を引き起こす可能性があります。
  5. 広範囲への影響: 混触事故が発生した変圧器につながる低圧側の全ての電路に高電圧が波及する可能性があります。これは、その建物の低圧配電盤につながる全てのコンセントや照明、接続機器が危険な状態になることを意味します。

高低圧混触事故は、単なる機器の故障ではなく、人命に関わる重大な事故につながる可能性があるのです。この恐ろしいシナリオを防ぐための最後の砦が、B種接地なのです。

第4章 B種接地が高低圧混触事故からどう守るのか? その仕組み

さて、B種接地がどのようにして高低圧混触事故の被害を防ぐのか、その具体的な仕組みを詳しく見ていきましょう。ここがB種接地の最も重要なポイントです。

4.1 B種接地線を通じて大地へ流れる電流

変圧器の低圧側中性点(またはそれに準ずる点)は、B種接地線を通じて大地に接続されています。通常、低圧側電路は大地に対してほぼ接地電位(0V)に近い状態に保たれています。

高低圧混触が発生すると、高圧側巻線と低圧側巻線が接触し、高圧側の電圧が低圧側電路に印加されます。このとき、低圧側電路はB種接地によって大地に接続されていますから、高圧回路の一部(混触点)から変圧器の低圧側巻線を通り、B種接地線を通って大地へ向かう電流の通り道ができます。

この電流は、高圧回路の一線地絡電流に似た性質を持ちます。なぜなら、高圧側は通常、非接地方式や抵抗接地方式、直接接地方式など、大地との間に何らかのインピーダンス(または直接)がある電路であり、混触によって大地への新たな経路が生まれたことになるからです。

4.2 最も重要な役割:高圧側配電用変電所の保護装置を動作させること

高低圧混触事故が発生した際に、B種接地が果たす最も重要な役割は、この電流を利用して、変圧器の「高圧側」につながる配電線路の保護装置(遮断器など)を動作させることです。

高圧側の配電線路は、通常、配電用変電所から供給されています。変電所やフィーダーには、地絡事故や過電流事故を検出するためのリレーや遮断器が設置されています。

高低圧混触が発生し、B種接地を通じて大地へ電流が流れると、この電流は高圧側の電源(変電所)から事故点(変圧器内の混触箇所)を経由して大地へ流れ、再び変電所の接地系統を通じて電源に戻るという回路を形成します。この「大地を通る電流」を、変電所や配電線路に設置された地絡保護リレーなどが検出します。

地絡保護リレーが、設定された電流値や電圧変化を検出すると、「地絡事故発生」と判断し、その配電線路の遮断器に開放指令を出します。遮断器が開放されると、事故を起こしている変圧器を含む配電線路が高圧電源から切り離されます。

これにより、低圧側電路への高電圧印加は、保護装置が動作するまでの非常に短い時間(通常、数サイクル〜1秒程度)で停止されます。B種接地は、高低圧混触事故を早期に検出し、高圧側の電源を遮断するための「引き金」のような役割を果たしているのです。

4.3 なぜ「低圧側にかかる電圧」を抑制するのか? I_g * R_B の基準

高低圧混触事故が発生し、B種接地を通じて高圧側の地絡電流 I_g [A] が大地へ流れるとき、B種接地抵抗 R_B [Ω] によって、低圧側電路の電位は大地に対して I_g × R_B [V] だけ上昇します。この電圧上昇が、低圧側電路に接続されている機器や人に加わる電圧となります。

電気設備技術基準では、この「低圧側電路に加わる異常電圧」が、感電による危険が生じにくい許容値を下回るように、B種接地抵抗 R_B の値を規制しています。具体的には、以下の基準が設けられています。

原則:
変圧器の高圧側電路の一線地絡電流を I_g [A]、B種接地抵抗を R_B [Ω] としたとき、I_g × R_B ≦ 150 [V] となるようにB種接地抵抗値を定める必要があります。(電気設備技術基準の解釈 第24条 第1項)

この150Vという値は、高圧地絡時の事故電圧がかかる比較的短時間であれば、人体への危険が少ないとされる電圧として設定されています。

ただし、以下の条件を満たす場合は、基準が緩和されます。

  • 高圧電路又は特別高圧電路に設置された遮断器が、地絡を生じた際に1秒以内に自動的に電路を遮断する場合:
    I_g × R_B ≦ 300 [V] (電気設備技術基準の解釈 第24条 第2項)
    地絡事故を早期に遮断できる場合は、許容電圧が300Vに緩和されます。これは、短時間であればより高い電圧でも危険性が少ないという考え方に基づいています。日本の多くの配電線路はこの条件を満たしています。
  • 高圧電路又は特別高圧電路に設置された遮断器が、地絡を生じた際に0.5秒以内に自動的に電路を遮断する場合:
    I_g × R_B ≦ 600 [V] (電気設備技術基準の解釈 第24条 第3項)
    さらに早期に遮断できる場合は、許容電圧が600Vに緩和されます。

これらの基準から分かるように、B種接地抵抗値は、高圧側電路の「一線地絡電流 I_g」の大きさに依存して決定されます。高圧側の一線地絡電流が大きいほど、同じ R_B の値でも電圧上昇 I_g × R_B は大きくなるため、要求される R_B の値は小さく(抵抗値が低く)なければなりません。逆に、高圧側の一線地絡電流が小さければ、より高い R_B の値が許容されます。

高圧側の一線地絡電流 I_g は、配電系統の構成(電源トランスの容量、線路長、地中ケーブルか架空線かなど)によって異なります。配電用変電所から供給されるフィーダーごとに、電力会社によって計算された値が示されるのが一般的です。この値を確認することが、B種接地工事を行う上で非常に重要になります。

4.4 抵抗値が基準を満たさない場合のリスク

もしB種接地抵抗 R_B が基準値 I_g × R_B ≦ 許容電圧 を満たさない場合、どのようなリスクがあるのでしょうか。

  • 保護装置が動作しない、または遅延する: B種接地を流れる電流 I_g に対し、接地抵抗 R_B が非常に大きい場合、流れる電流の絶対値が小さくなります。この電流が、高圧側の地絡保護リレーの設定値に満たない場合、リレーは地絡事故を検出できず、遮断器は動作しません。結果として、高低圧混触事故が発生しても、高圧側の電源が遮断されず、低圧側電路に危険な高電圧が印加され続けることになります。
  • 低圧側電路の電位上昇が過大になる: 基準を超える電圧 I_g × R_B が低圧側電路にかかり続けます。これにより、感電のリスクが高まるだけでなく、低圧機器の絶縁破壊がさらに進行したり、火災のリスクが高まったりします。

したがって、B種接地工事において、求められる接地抵抗値を確実に達成することは、単に基準を満たすだけでなく、事故時の被害を最小限に抑えるために不可欠なのです。

4.5 複数の変圧器がある場合の接地システム

一つの受変電設備内に複数の変圧器がある場合、B種接地はそれぞれの変圧器に対して独立して施すのが原則ですが、適切な方法で共通接地とすることも可能です。共通接地とする場合は、全ての変圧器の高圧側一線地絡電流のうち最大のもの I_g_max と、共通のB種接地抵抗 R_B_common に対して、I_g_max × R_B_common ≦ 許容電圧 の基準を満たす必要があります。共通接地は接地工事の効率化につながることもありますが、接地系統の複雑化や、一つの接地極の劣化が全ての変圧器の安全性に影響するといった側面もあります。

第5章 B種接地の具体的な施工方法

B種接地の重要性を理解したところで、実際にB種接地をどのように施工するのか、その手順と注意点を見ていきましょう。求められる接地抵抗値を達成するためには、適切な施工方法が不可欠です。

5.1 接地抵抗値目標の設定

まず、B種接地工事を行う前に、目標とする接地抵抗値を明確にする必要があります。これは、前述の基準 I_g × R_B ≦ 許容電圧 を満たす値です。

  • 高圧側電路の一線地絡電流 I_g の値を確認します。これは電力会社から提供される情報や、配電系統の計算によって得られます。
  • 高圧側の遮断器の動作時間に応じた許容電圧(150V, 300V, 600V)を確認します。多くの場合300Vが適用されます。
  • 目標とする接地抵抗値 R_B_target は、 R_B_target ≦ 許容電圧 / I_g となります。

例えば、高圧側一線地絡電流が10Aで、許容電圧が300Vの場合、目標とするB種接地抵抗値は 300V / 10A = 30Ω 以下となります。

5.2 接地極の種類とその選定

接地抵抗値を達成するために、大地に埋設する導体である「接地極」を選定します。接地極の種類には様々なものがあり、土壌の性質や必要な接地抵抗値に応じて使い分けられます。

  • 接地棒: 最も一般的に用いられる接地極です。銅被覆鋼棒やステンレス棒などがあり、地面に打ち込んで使用します。複数本を打ち込み、互いに接続することで抵抗値を下げることができます。深くまで打ち込むことで、土壌抵抗率の低い層を利用できる場合があります。
  • 接地線: IV線や屋外用ビニル絶縁電線(OW線)などが使用されます。地面に溝を掘って埋設したり、建物の基礎に沿って埋設したりします。メッシュ状に配置することで、広範囲で接地抵抗を低減できます。
  • 接地板: 銅板などを地面に埋設します。比較的大きな接触面積が得られます。
  • 建物の基礎を利用した接地: 建物の鉄筋コンクリート基礎に含まれる鉄筋や、基礎に沿って埋設した接地線などを利用する工法です。大規模な構造物では、非常に低い接地抵抗値が得られる可能性があります。これを「構造体接地」や「基礎接地」と呼びます。

一般的には、接地棒の多条打ちや、接地線と接地棒の組み合わせがよく用いられます。

5.3 接地抵抗を低減するための工夫

目標とする接地抵抗値を達成するためには、接地極の選定だけでなく、様々な工夫が必要です。接地抵抗は、主に接地極の形状、大きさ(表面積)、埋設深さ、そして土壌の抵抗率によって決まります。土壌抵抗率が低い(導電性が高い)ほど、同じ接地極でも低い抵抗値が得られます。

  • 接地極の本数を増やす(多条打ち): 接地棒を複数本打ち込み、それらを接地線で互いに接続します。ただし、接地棒同士の間隔が狭すぎると抵抗低減効果が薄れるため、接地棒の長さの2倍程度の間隔をあけて配置するのが効果的とされます。
  • 接地極を深く埋設する: 土壌抵抗率は地表付近の乾燥した層で高く、深い湿潤な層で低い傾向があります。接地極を深く埋設することで、より抵抗率の低い土壌を利用し、季節による抵抗値の変動も抑制できます。
  • 接地極の表面積を増やす: 長い接地棒を使用したり、複数の接地線や接地板を使用したりすることで、大地との接触面積を増やし、接地抵抗を低減します。
  • 接地抵抗低減材の使用: 土壌抵抗率が高い場所では、接地極の周囲に接地抵抗低減材と呼ばれる改良材(炭素粉末を主成分とするものなど)を充填することがあります。これにより、接地極と土壌間の接触抵抗を下げ、実効的な接地抵抗値を低減できます。ただし、使用方法や効果は製品によって異なるため、適切な選定が必要です。
  • 土壌の乾燥対策: 特に夏場など土壌が乾燥しやすい場所では、接地抵抗値が上昇するリスクがあります。接地極を深く埋設するほか、接地場所をコンクリートなどで覆って乾燥を防ぐといった対策も有効な場合があります。

5.4 接地線の選定と接続

接地極と変圧器の低圧側中性点(または接地箇所)を接続する接地線も適切に選定し、施工する必要があります。

  • 接地線の太さ: 接地線には、事故時に大きな電流が流れる可能性があります。そのため、十分な機械的強度と、短絡電流に耐えうる断面積が必要です。電気設備技術基準や内線規程に基づき、電路の使用電圧や使用される電線の太さに応じて適切な太さの接地線を選定します。例えば、低圧幹線が50mm²以下の場合、接地線は16mm²以上の軟銅線またはこれと同等以上の強さ及び太さの導線、低圧幹線が50mm²を超える場合、接地線は低圧幹線の太さの1/2以上の太さの軟銅線またはこれと同等以上の強さ及び太さの導線と規定されています(内線規程3135-1)。
  • 接続方法: 接地線と接地極、あるいは接地線同士の接続は、電気抵抗が小さく、機械的に十分な強度があり、腐食しにくい方法で行う必要があります。圧着端子を用いたボルト締め接続や、専用のコネクタ、溶接(テルミット溶接など)が用いられます。接続部が土中になる場合は、防食処理(防水テープ巻きなど)をしっかりと施すことが重要です。
  • 保護: 接地線は、原則として損傷を受けるおそれがないように施設するか、損傷を受けるおそれがある場所では適切に保護する必要があります。例えば、露出部では保護管に入れるなどです。また、接地線が構造物の金属部分などに接触しないように施設することも、不要な電流経路を防ぐために重要です。

5.5 接地抵抗測定方法

接地工事が完了したら、実際に接地抵抗値を測定し、目標とする値が達成されていることを確認する必要があります。接地抵抗の測定には「接地抵抗計(アーステスター)」を使用します。

  • 測定原理: 接地抵抗計は、測定対象の接地極(E極)に補助接地極(P極)と電流電極(C極)を用いて一定の電流を流し、E極とP極間の電位差を測定することで、オームの法則(抵抗 = 電圧 / 電流)に基づいて接地抵抗値を算出します。
  • 3極法(精密測定): E極、P極、C極の3本のプローブを使用する測定方法です。最も正確な測定方法とされており、B種接地などの重要な接地工事の完了確認にはこの方法が推奨されます。各プローブを接地極から適切な距離(接地抵抗計の取扱説明書に記載)を離して直線状に配置します。
  • 2極法(簡易測定): E極とC極(またはP極と共通)の2本のプローブを使用する方法です。既設の低抵抗な接地極(水道管など)を補助極として利用します。手軽ですが、測定対象の接地抵抗値だけでなく、補助極の接地抵抗値や測定コードの抵抗値も含まれてしまうため、精度は劣ります。B種接地の正式な測定には不向きです。

測定を行う際は、土壌の状態(乾燥していると抵抗値が高くなる)や他の接地極との位置関係などに注意が必要です。複数の場所で測定を行い、平均値や最小値を確認することも有効です。

第6章 B種接地の保守と管理

一度施工されたB種接地も、時間の経過とともに劣化し、接地抵抗値が変化する可能性があります。安全性を維持するためには、適切な保守と管理が不可欠です。

6.1 定期的な点検の重要性

接地極の腐食、接地線の断線や接続部の劣化、土壌の乾燥や地下水位の変動などにより、接地抵抗値は上昇することがあります。接地抵抗値が基準値を上回ってしまうと、事故時に保護装置が動作しなかったり、低圧側電路の電位上昇が許容値を超えたりするリスクが生じます。

これを防ぐために、電気設備技術基準では、電気設備の所有者または占有者に対して、設備の維持管理義務を課しています。これには、接地設備の定期的な点検と測定が含まれます。

6.2 点検内容

B種接地の定期点検では、主に以下の項目を実施します。

  • 外観検査: 接地線に損傷(断線、被覆の破れ、腐食)がないか、接続部に緩みや腐食がないかを目視で確認します。接地極が露出している場合は、その状態も確認します。
  • 接地抵抗測定: 接地抵抗計(3極法など)を用いて、実際の接地抵抗値を測定します。この値が、設置時の基準値や維持管理目標値を満たしているかを確認します。測定は、土壌の状態が安定している時期(極端な乾燥や湿潤時を避ける)に行うのが望ましいです。
  • 記録: 点検結果(測定値、外観の状態、実施日など)を記録として残します。これにより、経時的な変化を把握し、異常の兆候を早期に発見できます。

点検の頻度は、電気設備の重要性や設置環境によって異なりますが、法令に基づき、自家用電気工作物では年1回以上の点検・測定が推奨されています。

6.3 接地抵抗が上昇する原因と対策

接地抵抗値が基準値を上回った場合、その原因を特定し、適切な対策を講じる必要があります。

  • 原因:
    • 接地極や接地線の腐食、断線、接続部の劣化
    • 土壌の過度な乾燥や凍結
    • 接地場所の改変(建物の新設、舗装などにより土壌の性質が変化)
    • 地下水位の低下
    • 他の接地極や埋設物からの影響(接地極周辺の電流分布の変化)
  • 対策:
    • 腐食した接地極や接地線の交換、接続部の補修
    • 接地極の打ち増し(多条打ち)、より深い層への再設置
    • より長い接地棒や他の種類の接地極への変更
    • 接地抵抗低減材の充填
    • 接地場所の土壌改良や保湿対策

対策実施後には、必ず再度接地抵抗を測定し、基準値を満たしていることを確認することが重要です。

第7章 関連する法規・基準

B種接地は、人命や設備保護に関わる重要な安全対策であるため、様々な法規や技術基準によってその実施が義務付けられています。主なものを以下に示します。

  • 電気設備に関する技術基準を定める省令(電気設備技術基準): 電気工作物の安全性確保のために国が定めた最低限の技術基準です。接地に関する基本的な考え方や種別などが規定されています。
  • 電気設備の技術基準の解釈: 電気設備技術基準の具体的な解釈や適用方法を示したものです。B種接地抵抗値の具体的な計算基準(I_g * R_B ≦ 150V など)は、主にこの解釈に定められています。
  • 内線規程: 電気工事の専門家団体である日本電気協会が、電気設備の技術基準の解釈などを踏まえて、電気使用場所の設備(内線)に関する具体的な工事方法や資材について定めた自主規格です。電気工事の実務においては、この内線規程が広く参考にされています。B種接地の接地線の太さや施工方法などについても詳細に規定されています。

これらの基準は、電気設備の安全性を確保するための重要な根拠となります。B種接地工事を行う際や維持管理を行う際には、これらの最新の規定を遵守する必要があります。

第8章 まとめと今後の展望

この記事では、変圧器に必須とされるB種接地(第二種接地)について、その基本的な考え方から、高低圧混触事故時の役割、接地抵抗値の基準、具体的な施工方法、そして保守管理に至るまでを詳しく解説しました。

B種接地は、単に変圧器の低圧側を大地に接続するだけでなく、高低圧混触という変圧器固有の危険に対して、高圧側の保護装置を確実に動作させて事故回路を早期に遮断するという、非常に重要な安全機能を提供しています。その接地抵抗値の基準が、高圧側の一線地絡電流という、一見無関係に見えるパラメータに依存しているのは、この「高圧側保護装置との連携」というB種接地の核心的な役割があるためです。

私たちの社会は、ますます電気への依存度を高めています。再生可能エネルギーの導入拡大、電気自動車の普及、デジタル技術の発展など、電力システムは常に変化し、高度化しています。このような状況においても、電力の安全供給の根幹を支える変圧器の役割は変わりません。そして、その安全を守るB種接地の重要性もまた、決して揺らぐことはありません。

電気設備に携わる全ての人々、そして電気を利用する私たち一人ひとりが、接地の重要性、特に変圧器におけるB種接地の独特な役割を正しく理解することは、電気の恩恵を安全に享受するために不可欠です。適切な知識を持ち、基準に適合した施工を行い、そして定期的な点検とメンテナンスを怠らないこと。これらが、高低圧混触事故という恐ろしい事態を防ぎ、私たち自身と大切な設備を守ることにつながります。

この記事が、B種接地に対する理解を深め、電気設備の安全確保に貢献できれば幸いです。


(注記:記事の作成にあたり、電気設備技術基準、電気設備の技術基準の解釈、内線規程等の一般的な電気工学知識を参照していますが、特定の条文番号や具体的な数値基準については、最新の法令や規程を参照の上、ご確認ください。I_gの値や遮断時間による許容電圧の適用条件は、個別の配電系統や設備によって異なる場合があります。)

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