Y結線(スター結線)とは? わかりやすく徹底解説
はじめに:電力系統の要、結線の世界へようこそ
私たちの日常生活に不可欠な「電気」。この電気を、発電所から工場や家庭まで効率的に、そして安全に届けるためには、非常に複雑で巧妙なシステムが組まれています。そのシステムを構成する重要な要素の一つに、「交流の結線方法」があります。
特に、産業用電力や大規模な送電には、単相交流ではなく「三相交流」という形式が広く用いられます。三相交流は、単相交流に比べて送電効率が高く、電動機などを安定して効率よく動かすことができるという優れた特性を持っているからです。
この三相交流のシステムにおいて、発電機や変圧器、電動機などの機器内部にあるコイル(巻線)を外部回路に接続する方法として、主に二つの代表的な方式が用いられます。それが「Y結線」と「Δ結線」です。
この記事では、この二つの結線方法のうち、「Y結線」(スター結線とも呼ばれます)に焦点を当て、その基本的な構造から、電気的な特性、利点や欠点、そして実際の電力系統における応用例に至るまで、約5000語というボリュームで徹底的に解説します。
「Y結線」という言葉は聞いたことがあるけれど、具体的にどのようなものかよく分からない、あるいは電気の専門用語に少し苦手意識がある、という方にも理解していただけるよう、できるだけ平易な言葉で、そして段階を追って詳しく説明を進めていきます。
さあ、電力システムを支える「Y結線」の秘密に迫り、その理解を深めていきましょう。
第1章:Y結線の舞台となる「三相交流」の基礎
Y結線を理解するためには、まず「三相交流」とは何か、そしてなぜ電力システムで三相交流が使われるのかを知る必要があります。ここでは、三相交流の基本を解説します。
1.1 単相交流と三相交流の違い
まず、私たちの家庭で一般的に使われている電気は「単相交流」です。コンセントには通常、二つの穴がありますね。これは、電気の通り道が二つあることを示しています。一つは電流が流れていく「往路」、もう一つは電流が戻ってくる「帰路」です。交流なので、電流の向きは絶えず周期的に変化します。この単一の波(相)で電力を供給するのが単相交流です。
一方、「三相交流」は、その名の通り「三つの相」を持つ交流です。これは、単相交流と同じ波形の交流が、時間的に120度ずつずれた状態で三つ同時に存在している状態を指します。電気の通り道が合計で三つ、あるいは四つ必要になります(後述の結線方法によります)。
1.2 三相交流の発生原理
三相交流は、発電機の中で作られます。発電機の固定子には、空間的に120度ずつずらして配置された三組のコイル(巻線)があります。このコイルの中心で、磁石(回転子)を回転させると、それぞれのコイルに電磁誘導によって交流電圧が発生します。
コイルが空間的に120度ずれているため、発生する電圧の波形も時間的に120度ずつずれたものになります。つまり、三相交流は、大きさと周波数が等しく、互いに120度の位相差を持つ三つの単相交流の集合体なのです。
1.3 三相交流の電圧・電流・電力
三相交流システムには、いくつかの電圧や電流の種類があります。
- 相電圧 (Phase Voltage, Vp): 各相(コイル)の両端にかかる電圧です。Y結線では、コイルの一端と、三つのコイルが共通に接続される点(中性点)との間の電圧を指します。
- 線間電圧 (Line-to-Line Voltage, Vl): 異なる相の端子同士の間に存在する電圧です。電線と電線の間の電圧と言い換えることもできます。
- 相電流 (Phase Current, Ip): 各相(コイル)を流れる電流です。
- 線電流 (Line Current, Il): 外部回路に流れる電線の電流です。
これらの電圧や電流の関係は、Y結線かΔ結線かによって異なります。この記事の主題であるY結線の場合の関係は、後ほど詳しく解説します。
三相交流システムで供給される電力は、単相交流の約3倍になります(同じ電圧・電流であれば)。また、三相交流は、電力が時間的にほとんど変動しないという特徴を持っています(瞬時電力が一定)。これにより、電動機などを滑らかに回転させることができ、機器への負担が少なくなります。
1.4 なぜ三相交流が電力システムで標準なのか?
電力システムで三相交流が広く使われる理由は、その優れた特性にあります。
- 高い送電効率: 同じ量の電力を送る場合、単相交流よりも少ない電線本数で済む(場合によっては3本や4本で済む)ため、導体材料を節約できます。また、瞬時電力が一定であるため、送電線での電力損失(ジュール熱)を効率的に抑えられます。
- 機器の効率と安定性: 三相交流で動作する電動機(特に誘導電動機)は、単相交流用電動機に比べて構造が簡単で堅牢でありながら、効率が高く、自己始動能力があり、安定した回転力を得られます。産業用途のほとんどの電動機は三相交流で動作します。
- 電圧の選択肢: 三相交流システムからは、単相交流として取り出すことも可能です。例えば、三相200Vのシステムから、単相100Vや200Vを取り出して家庭やオフィスに供給することができます。
このように、三相交流は電力の発生、送電、そして利用において、効率性、経済性、信頼性の面で多くの利点を持っているため、世界の電力システムで標準的に採用されているのです。そして、この三相交流システムを構成する上で、Y結線は欠かせない役割を果たしています。
第2章:Y結線(スター結線)の構造と定義
いよいよ、Y結線そのものについて深く掘り下げていきましょう。
2.1 Y結線とは何か? 定義と基本構造
Y結線は、三相交流システムにおけるコイル(巻線)の最も基本的な接続方法の一つです。「スター結線」とも呼ばれます。
その定義は以下の通りです。
「Y結線とは、三つのコイル(巻線)の一端同士を一点に集めて共通の接続点とし、他の三端子を外部回路に接続する方式である。」
この「共通の接続点」を「中性点 (Neutral Point)」と呼びます。外部回路に接続される三つの端子を「線路端子 (Line Terminal)」と呼びます。
図で表現すると、三つのコイルをアルファベットの「Y」の字のように配置し、その中心部分で一点に接続するイメージです。あるいは、星の形(スター)に似ていることから、「スター結線」とも呼ばれるわけです。
三つのコイルをそれぞれ U相コイル、V相コイル、W相コイルと呼ぶとします。それぞれのコイルには二つの端子があります。例えば、U相コイルの端子を U1, U2、V相コイルを V1, V2、W相コイルを W1, W2 とします。
Y結線では、U2, V2, W2 のように、それぞれのコイルの一端をまとめて一点に接続します。これが中性点です。そして、残りの端子 U1, V1, W1 を外部回路(電線)に接続します。これらが線路端子です。
2.2 結線図と端子記号
電気回路図では、Y結線はしばしば単純化されて描かれます。三つのコイルを Y字形に配置し、中心で一点に接続している様子が分かります。線路端子には U, V, W または R, S, T といった記号が、中性点には N という記号が付けられるのが一般的です。
実際の機器(発電機、変圧器、電動機など)の端子箱には、これらの端子が配置されており、Y結線で内部が接続されている場合は、各コイルの片側が内部で中性点に接続されており、もう片側が U, V, W の端子として外部に引き出されています。中性点も、必要に応じて端子として外部に引き出されることがあります(三相4線式)。
2.3 発電機、変圧器、電動機におけるY結線
Y結線は、三相交流を扱う様々な機器で内部の巻線接続に用いられます。
- 発電機: 発電所の同期発電機は、高い電圧を効率よく得るために固定子巻線がY結線されていることが非常に多いです。
- 変圧器: 電圧を昇降圧する変圧器では、一次側(入力側)と二次側(出力側)の巻線をそれぞれY結線、Δ結線、あるいはその組み合わせ(Y-Δ、Δ-Yなど)に接続します。特に、高電圧側の巻線や、単相負荷も供給する配電用変圧器の二次側巻線にY結線がよく使われます。
- 電動機: 三相誘導電動機などでは、巻線がY結線またはΔ結線されています。特に、始動電流を抑えるために「Y-Δ始動」という方法が用いられる場合があり、この際には巻線を一時的にY結線にして始動し、その後Δ結線に切り替えて運転します。
このように、Y結線は三相交流機器の基本的な構成要素として、電力システム全体に広く利用されている重要な接続方法なのです。
第3章:Y結線の電気的特性:電圧と電流の関係
Y結線の最も重要な特徴は、その電圧と電流の関係にあります。これがY結線の利点や欠点に深く関わってくるため、しっかりと理解する必要があります。
3.1 電圧の関係:線間電圧は相電圧の√3倍
Y結線における電圧の関係は非常に特徴的です。
- 相電圧 (Vp): 各コイル(U相、V相、W相)の両端、つまり線路端子(U, V, W)と中性点(N)の間に発生する電圧です。三相交流の基本波形そのままの電圧がかかります。
- 線間電圧 (Vl): 異なる線路端子同士(U-V間、V-W間、W-U間)の間に発生する電圧です。
Y結線では、この線間電圧が相電圧よりも高くなります。具体的には、以下の関係が成り立ちます。
Vl = √3 * Vp
なぜこうなるのでしょうか? これは、線間電圧が、位相が120度ずれた二つの相電圧の「差」として現れるからです。電圧はベクトル量として考える必要があります。
例えば、U相の電圧ベクトルとV相の電圧ベクトルを考えます。これらは大きさが等しく(Vp)、互いに120度の位相差があります。U-V間の線間電圧は、U相電圧ベクトルからV相電圧ベクトルを引いたものに相当します(ベクトル差)。
ベクトル図を描くと、U相電圧ベクトルとV相電圧ベクトルがあり、その間の角度は120度です。U-V間の線間電圧ベクトルは、U相電圧ベクトルからV相電圧ベクトルを引いたもの(またはU相電圧ベクトルにV相電圧ベクトルの逆方向ベクトルを加えたもの)となります。
二つの等しい大きさのベクトル(大きさ Vp)があり、そのなす角が120度のとき、その差ベクトルの大きさは、余弦定理などを用いて計算できます。あるいは、幾何学的に考えると、差ベクトルは、大きさがVpのベクトルとVpのベクトルを使い、間に120度を挟んだ二等辺三角形の残りの一辺の長さとなります。この三角形を二つに分割すると、30度-60度-90度の直角三角形が現れ、辺の比率から差ベクトルの大きさが √3 * Vp となることが導き出せます。
したがって、Y結線では、線間電圧は相電圧の約1.732倍になるのです。
この関係がY結線の大きな特徴であり、利点の一つとなります。後述しますが、これにより機器の絶縁設計が容易になったり、同じ巻線で高い電圧を得やすくなったりします。
3.2 電流の関係:線電流は相電流と等しい
Y結線における電流の関係は、電圧の関係よりも直感的です。
- 相電流 (Ip): 各コイル(U相、V相、W相)を流れる電流です。
- 線電流 (Il): 各線路端子(U, V, W)から外部回路へ流れる電流です。
Y結線では、各線路端子はそれぞれの相コイルに直列に接続されています。電流は直列回路では分流せず、同じ道筋を流れます。
したがって、線路端子から流れ出る電流(線電流 Il)は、その線路につながる相コイルを流れる電流(相電流 Ip)と大きさが等しくなります。
Il = Ip
これは、Y結線の電流に関する基本的な関係です。
3.3 電力の関係
三相交流システム全体の電力は、各相の電力を合計したものになります。各相の電力は、その相の電圧(相電圧 Vp)、電流(相電流 Ip)、そして力率(cosθ)によって決まります。
単相の有効電力 P1は、P1 = Vp * Ip * cosθ です。
三相全体の有効電力 Pは、これらの三相の電力の合計ですが、三相交流は平衡している場合(各相の電圧・電流の大きさや位相差が等しい場合)は、単純に単相電力の3倍として計算できます。
P = 3 * P1 = 3 * Vp * Ip * cosθ
ここで、Y結線の電圧と電流の関係式 Vl = √3 * Vp および Il = Ip を代入してみましょう。
Vp = Vl / √3 なので、これを代入すると
P = 3 * (Vl / √3) * Il * cosθ
P = (3 / √3) * Vl * Il * cosθ
P = √3 * Vl * Il * cosθ
となります。これは、Y結線だけでなく、平衡三相回路全体の有効電力を計算する一般的な公式です。
このように、Y結線においては、
* 線間電圧は相電圧の√3倍
* 線電流は相電流と等しい
という非常に重要な関係が成り立ちます。これらの関係が、Y結線の特性を決定づける基盤となります。
第4章:Y結線の主要な特徴と利点
前章で見た電圧・電流の関係や、中性点の存在は、Y結線に多くの特徴と利点をもたらします。
4.1 中性点の存在とその活用
Y結線の最も際立った特徴は、三つのコイルが一点に集まる「中性点」が存在することです。この中性点が、Y結線に特有の多くの利点をもたらします。
4.1.1 三相4線式システムと単相負荷への供給
中性点を外部に引き出して「中性線」として利用することで、三相4線式という配電システムを構築できます。線路端子に接続される三本の線(U相線、V相線、W相線)に中性線を加えた合計四本の電線で電力を供給する方式です。
この三相4線式システムでは、以下の二種類の電圧を利用できます。
- 線間電圧 (Vl): 異なる相線間(U-V間、V-W間、W-U間)の電圧です。これは三相負荷(三相電動機など)を動かすのに使われます。例えば、日本の一般的な低圧配電では200Vや400Vなどがあります。
- 相電圧 (Vp): 各相線と中性線間(U-N間、V-N間、W-N間)の電圧です。これは単相負荷(家庭の電化製品など)を動かすのに使われます。前述の通り、Y結線では Vp = Vl / √3 です。例えば、線間電圧が200Vの場合、相電圧は約 200V / √3 ≒ 115V となります(地域や規格によって異なりますが、日本では200V/100Vや400V/230Vといった組み合わせが一般的です)。
このように、中性点を利用した三相4線式システムは、一つの配電システムから三相負荷と単相負荷の両方に電力を供給できるという、極めて大きな利点を持っています。これは、商業施設やビル、そして一部の住宅地域への配電において、非常に効率的で柔軟性の高いシステムを可能にします。
4.1.2 接地による地絡事故保護と対地電圧抑制
中性点を接地する(大地に接続する)ことができるのも、Y結線の大きな利点です。中性点接地にはいくつかの方式がありますが(直接接地、抵抗接地など)、いずれの方式においても、電力系統の安全性と安定性を向上させる効果があります。
- 地絡事故時の保護: 電路が大地と意図せず接触する事故を「地絡事故」と言います。Y結線の中性点を接地している場合、地絡事故が発生すると、中性点を通じて大地へ電流が流れる経路ができます。この地絡電流を検出することで、保護リレーや遮断器が迅速に動作し、事故回路を切り離して被害の拡大を防ぐことができます。中性点がないΔ結線では、地絡事故が発生しても電流が流れにくく、事故点の検出や保護が難しくなることがあります。
- 対地電圧の抑制: 接地された中性点は、大地の電位(基準電位)と同じになります。これにより、各相線の対地電圧(電線と大地の間の電圧)は、基本的にその相の相電圧 Vp と等しくなります。もし中性点が接地されていなければ、各相線の対地電圧が不安定になったり、地絡事故が発生していない健全な相の対地電圧が上昇したりするリスクがあります。対地電圧を安定させ、抑制することで、機器の絶縁にかかる負担を軽減し、感電事故のリスクも低減できます。
中性点の存在と接地は、Y結線が信頼性が高く、安全な電力システムを構築する上で不可欠な要素となっています。
4.2 絶縁設計の容易さと高電圧への適性
Y結線では、「相電圧 Vp」が「線間電圧 Vl」の 1/√3 倍(約57.7%)になります。これは、各コイル(巻線)にかかる電圧が、線間電圧よりもかなり低いことを意味します。
機器の巻線や端子の絶縁は、そこにかかる電圧の大きさに応じて設計する必要があります。Y結線の場合、巻線にかかる最大の電圧は相電圧 Vp です。同じ線間電圧 Vl のシステムを Δ結線で構築した場合、巻線にかかる電圧は線間電圧 Vl と等しくなります。
つまり、同じ線間電圧を持つシステムをY結線とΔ結線で比較すると、Y結線の方が巻線にかかる電圧が低くなるため、必要な絶縁レベルを低く抑えることができます。これは、特に高電圧を扱う機器において、絶縁材料の使用量を減らし、機器をコンパクトにしたり、製造コストを削減したりすることにつながります。
このため、発電機や送電用変圧器など、高い電圧で運用される機器の巻線には、Y結線が非常によく用いられます。高電圧であればあるほど、絶縁コストやスペースの削減効果が大きくなるからです。
4.3 高い電圧を得やすい(同じ巻線で)
前項と関連しますが、同じ仕様の巻線(例えば、巻線の抵抗、リアクタンス、巻数など)を使ってY結線とΔ結線を組んだ場合、外部に現れる線間電圧はY結線の方が高くなります。
具体的には、Y結線では線間電圧が相電圧の√3倍であるのに対し、Δ結線では線間電圧は相電圧と等しくなります(Vl = Vp)。同じ巻線を使っているということは、巻線一本あたりに発生する電圧(これが相電圧 Vp に相当)は同じと考えられます。
したがって、同じ相電圧 Vp の巻線を使えば、Y結線では Vl = √3 * Vp、Δ結線では Vl = Vp となり、Y結線の方が√3倍高い線間電圧を得られることになります。
これは、特に発電所において、効率よく高電圧を発生させる上で有利な特性です。発電機で発生させた高電圧は、そのまま送電線に乗せられ、遠くまで送電されます。高い電圧で送電するほど、同じ電力を送る際の電流が小さくなり、送電線での電力損失(I^2*R)を低減できるため、効率的な送電が可能となります。
4.4 電流波形のひずみに強い(理論上)
三相交流システムにおいて、電圧や電流の波形は、理想的な正弦波からずれることがあります。これを「波形ひずみ」といい、ひずみを生じさせる成分を「高調波」と呼びます。特に、第3高調波(基本波の3倍の周波数を持つ成分)は、三相回路において特異な振る舞いをします。
Y結線の場合、各相で発生した第3高調波電流は、相電圧と同相になります。もしY結線に中性線がない場合(三相3線式Y結線)、これらの第3高調波電流は中性点に集まりますが、流れていく回路がないため、外部に流出したり、中性点内で循環したりすることはありません。結果として、線電流には第3高調波成分が含まれにくくなります。
一方、Δ結線では、各相で発生した第3高調波電圧がリング状に接続されたΔ回路内で同相になるため、大きな循環電流が流れやすくなります。
この特性から、Y結線(特に中性線なしの場合)は、第3高調波電流が外部に流出しにくいため、線電流の波形ひずみを生じさせにくいという利点があるとされてきました。ただし、後述するように、中性線のあるY結線では状況が異なります。
第5章:Y結線の欠点と課題
Y結線には多くの利点がある一方で、いくつかの欠点や課題も存在します。これらを理解することは、Y結線の適切な利用や対策を講じる上で重要です。
5.1 中性線の必要性(三相4線式の場合)
中性点の存在はY結線の大きな利点ですが、その利便性(単相供給など)を最大限に引き出すためには、中性点を外部に引き出して「中性線」として配線する必要があります。これは、三相3線式に比べて電線が一本増えることを意味します。
電線が増えることで、配線工事の手間やコストが増加します。また、電線の本数が増えるため、配線スペースの確保も考慮する必要があります。特に、大規模な配電システムでは、この中性線のコストも無視できません。
ただし、これはΔ結線と比較した場合の相対的な欠点であり、三相システム全体で単相負荷を供給する場合、Y結線+中性線の三相4線式が最も効率的で標準的な方法であるため、やむを得ない部分でもあります。
5.2 不平衡負荷時の電圧不平衡と中性線電流
三相交流システムでは、理想的には各相にかかる負荷が均等である「平衡負荷」の状態で運用されます。しかし、特に多数の単相負荷が接続される配電システムでは、各相の負荷が不均等になる「不平衡負荷」の状態が頻繁に発生します。
不平衡負荷が発生した場合、Y結線ではいくつかの問題が生じます。
5.2.1 中性線がない場合(三相3線式Y結線)
中性線がない三相3線式Y結線で不平衡負荷が発生すると、中性点の電位が大地電位からずれてしまいます。これにより、各相の線間電圧は平衡していても、各相にかかる電圧(相電圧 Vp)が不平衡になり、負荷機器の動作に悪影響を与えたり、機器の寿命を縮めたりする可能性があります。特に、モーターのように相電圧の平衡が重要な機器にとっては深刻な問題となり得ます。
5.2.2 中性線がある場合(三相4線式Y結線)
中性線がある三相4線式Y結線では、中性点電位のずれは抑制され、各相の相電圧は比較的安定します。しかし、不平衡負荷によって生じる相電流の不平衡は、中性線に「不平衡電流」として集中して流れることになります。
線電流のベクトル和は、平衡状態であればゼロになります。しかし、不平衡負荷の場合、三相の線電流のベクトル和はゼロにならず、その差分が中性線を流れる電流となります。
中性線電流 In = -(Iu + Iv + Iw) (ベクトル和)
不平衡の度合いが大きいほど、中性線に流れる電流も大きくなります。設計上、中性線は他の相線と同じか、あるいは容量を小さくされることもありますが、不平衡電流によっては中性線が過熱するリスクが生じます。
さらに深刻な問題として、現代の電力システムでは、パソコン、蛍光灯(インバータ式)、LED照明、スマートフォン充電器、エアコンなど、多くの電子機器が「非線形負荷」となっています。これらの機器は、電流を流すタイミングが電圧波形と一致せず、特に電圧波形のピーク付近で急峻な電流を消費する傾向があります。この結果、消費する電流には、基本波だけでなく、基本波の整数倍の周波数を持つ「高調波」成分が大量に含まれることになります。
特に、第3次、第9次、第15次といった「3の倍数次高調波」は、三相システムにおいて各相で発生した成分が同相になるという性質を持っています。Y結線の中性線は、これらの同相の高調波電流が合流して流れる主要な経路となります。
例えば、各相から基本波電流10Aと第3高調波電流3Aが流れているとします。平衡負荷であれば、基本波電流は中性線には流れませんが、第3高調波電流は各相で同相であるため、中性線では単純に合計されて 3A + 3A + 3A = 9A となります。基本波電流よりも大きな高調波電流が中性線を流れる可能性があるのです。
この「中性線過電流問題」は、非線形負荷が増加した現代の電力システムにおいて、Y結線(特に三相4線式)の主要な課題の一つとなっています。中性線の過熱による火災リスクや、高調波による機器の誤動作、通信障害などが引き起こされる可能性があります。
対策としては、中性線の電線サイズを他の相線よりも太くする、高調波を抑制・除去するアクティブフィルターやパッシブフィルターを設置する、などが講じられています。
5.3 地絡事故時の電流が大きい(中性点接地の場合)
中性点を接地している場合、地絡事故が発生した際に、中性点を通じて大地へ流れる地絡電流の経路が明確になります。これは事故検出・保護の面では有利ですが、事故点抵抗が低い場合や、中性点を直接接地している場合などには、地絡電流の大きさが非常に大きくなる可能性があります。
大電流が流れると、事故点での損傷が大きくなったり、周辺機器への影響が大きくなったりするリスクが高まります。このため、中性点接地方式の選択(直接接地、抵抗接地、リアクトル接地など)や、高速・高性能な保護リレーの設置などが重要となります。Δ結線のように非接地の場合と比較すると、事故時の電流規模という点ではY結線(接地)の方が大きくなる傾向があります。
第6章:Y結線の具体的な応用例
Y結線は、その特性を活かして電力系統の様々な場面で利用されています。
6.1 発電機の固定子巻線
電力システムの根幹である発電機(特に同期発電機)では、固定子巻線がY結線されていることが非常に多いです。これは、高電圧を得やすいというY結線の特性を最大限に活用するためです。
発電機で発生させた電圧は、変圧器でさらに昇圧されて超高圧送電線で送られます。発電機自身で効率よく高い電圧を発生させることは、その後の昇圧機器の設計を容易にし、送電効率の向上にも寄与します。相電圧に対する線間電圧の√3倍という利点は、高電圧発電にうってつけなのです。
6.2 送配電用変圧器
変圧器は、電力系統の各段階で電圧を変換する重要な機器です。変圧器は一次側と二次側にそれぞれ巻線があり、これらの巻線をY結線またはΔ結線に接続して使用します。この組み合わせによって、電圧の昇降圧比だけでなく、系統の特性(中性点の有無、高調波の挙動など)が大きく変わってきます。
変圧器の主な結線方式とY結線の関連は以下の通りです。
- Y-Y結線: 一次側・二次側ともにY結線。昇降圧に用いられます。双方に中性点が得られる利点がありますが、磁気回路の飽和による第三高調波の問題が生じやすいため、補助的に第三の巻線(三次巻線)をΔ結線として挿入し、高調波を吸収するなどの対策が講じられることがあります。
- Y-Δ結線: 一次側Y、二次側Δ。主に昇圧用変圧器として、発電所から送電線へ送り出す際に用いられます。一次側Y結線で高電圧化の利点を活かしつつ、二次側Δ結線で第三高調波をΔ回路内に閉じ込める効果も期待できます。
- Δ-Y結線: 一次側Δ、二次側Y。主に降圧用変圧器として、送電線や配電線から工場やビル、そして家庭への電力供給(配電)に用いられます。一次側Δで系統のひずみに対応しつつ、二次側Y結線で三相4線式システムを構築し、三相負荷と単相負荷の両方に電力を供給できるという大きな利点があります。私たちの身近にある電柱上の変圧器(柱上変圧器)も、このΔ-Y結線が採用されていることが多いです。二次側Y結線の中性点が接地され、単相100V(または115V相当)と三相200V(または230V相当)が供給されます。
このように、変圧器はY結線の特性を組み合わせて利用することで、多様な電圧変換と配電の要求に応えています。
6.3 配電システム(三相4線式)
前述の通り、Y結線二次側のΔ-Y変圧器から供給される三相4線式システムは、低圧配電の標準的な方式として広く普及しています。
このシステムでは、三本の相線(U, V, W)と一本の中性線(N)が引き出され、工場やビルでは三相200Vや400V(線間電圧)で三相電動機などの三相負荷を、そしてオフィスや家庭では単相100Vや200V(相線と中性線間の電圧、あるいは相線間の電圧)で照明、コンセント機器、単相モーターなどの単相負荷を駆動させることができます。
Y結線によって中性点が得られることで、単相負荷への供給が可能になり、単相と三相の電力を一つのシステムで効率よく供給できるようになります。これは、現代社会の多様な電力需要に応える上で不可欠な仕組みです。
6.4 電動機(Y-Δ始動)
三相誘導電動機は、直接電源に投入すると、始動時に定格電流の数倍~10倍といった大きな電流が流れることがあります。特に容量の大きな電動機では、この突入電流が電源電圧を大きく低下させたり、保護装置を誤動作させたりする原因となります。
この突入電流を抑制するための始動方法の一つに、「Y-Δ始動」があります。この方法では、電動機の三相巻線を、始動時は一時的にY結線に接続します。Y結線で始動すると、巻線にかかる電圧が線間電圧の1/√3となり、流れる電流(線電流)もΔ結線で直接始動するより小さくなります。
電動機が十分に加速して回転数が上昇したら、巻線接続をΔ結線に切り替えて定格運転を行います。Δ結線の方が巻線に線間電圧がそのままかかり、定格のトルクを発生できるからです。
このように、Y結線は単なる定格運転時の接続方法としてだけでなく、始動時の電流抑制という特殊な目的のためにも利用されることがあります。
6.5 その他の応用
- 同期調相機: 送電系統の電圧安定化などに用いられる同期調相機の巻線もY結線されることがあります。
- 電流計・電圧計の接続: 三相回路の電流計や電圧計を接続する際、Y結線とΔ結線のどちらか、あるいは両方の考え方が応用されることがあります。特に、三相電力を測定する二電力計法などでは、Y結線負荷を仮定した理論が用いられます。
第7章:Y結線とΔ結線の比較
三相交流の主要な結線方法であるY結線とΔ結線は、それぞれ異なる特徴を持ち、用途に応じて使い分けられます。ここで両者を比較してみましょう。
項目 | Y結線(スター結線) | Δ結線(デルタ結線) |
---|---|---|
構造 | 三つのコイルの一端を一点に集めて接続(中性点) | 三つのコイルを互いに環状に接続 |
端子数 | 3つ(三相3線式)または4つ(三相4線式、中性点あり) | 3つ(三相3線式) |
電圧の関係 | 線間電圧 Vl = √3 * 相電圧 Vp | 線間電圧 Vl = 相電圧 Vp |
電流の関係 | 線電流 Il = 相電流 Ip | 線電流 Il = √3 * 相電流 Ip |
中性点の有無 | あり(三相4線式では外部に引き出し可能) | なし |
接地 | 中性点を接地可能 | 接地困難(接地する場合、別の中性点を作る必要があるなど) |
絶縁設計 | 巻線にかかる電圧が低いため、比較的容易(高電圧に有利) | 巻線にかかる電圧が高いため、Y結線より高レベルが必要 |
電圧レベル | 同じ巻線で高い線間電圧が得やすい(√3倍) | 同じ巻線ではY結線より低い線間電圧になる(1/√3倍) |
単相負荷供給 | 中性線利用で三相4線式から容易に可能 | 基本的に困難(単相変圧器を組み合わせるなどが必要) |
不平衡負荷 | 電圧不平衡が生じやすい(中性線なし)、中性線電流(中性線あり) | 電圧不平衡は生じにくい、相電流が不平衡になる |
第3高調波 | 線電流には流出しにくい(中性線なし)、中性線に集中(中性線あり) | Δ回路内で循環電流として流れやすい |
地絡事故 | 接地時は地絡電流が大きい傾向、保護リレー動作が容易 | 非接地時は地絡電流が小さい傾向、事故点特定が困難 |
主な用途 | 発電機、送電用変圧器一次側、配電用変圧器二次側、高圧機器 | 電動機、配電用変圧器一次側、低圧機器 |
このように、Y結線は「高い電圧を扱いやすい」「中性点を利用できる」という特徴から、主に高電圧系統や、単相・三相両方を供給する配電系統で有利になります。一方、Δ結線は「中性点がない」「電圧が安定しやすい」「第三高調波を内部で処理しやすい」といった特徴から、低圧動力系統や、特定の用途で有利になります。
電力系統全体では、これらの結線方式が変圧器などを介して組み合わされることで、それぞれの利点を生かし、欠点を補い合うようにシステムが構築されています。例えば、送電系統では発電機がY結線、昇圧変圧器がY-Δ結線、降圧変圧器がΔ-Y結線、そして需要家へΔ-Y結線から三相4線式で供給される、といったリレー形式がよく見られます。
第8章:Y結線に関する発展的な話題
最後に、Y結線に関連するもう少し発展的な話題に触れておきましょう。
8章.1 高調波電流と中性線過電流問題の深掘り
第5章で触れた中性線過電流問題は、現代の電力システムにおいて避けて通れない課題です。非線形負荷から発生する第3次、第9次、第15次…といった3の倍数次高調波は、Y結線の中性線に集まって大きな電流となるため、中性線の過熱、ブレーカーの誤動作、機器の誤作動、通信障害、さらには火災の原因となるリスクがあります。
特にオフィスビルや商業施設など、IT機器やインバータ機器が多く設置されている場所では、中性線電流が相電流の1.5倍~2倍、場合によってはそれ以上になることも報告されています。
この問題に対処するため、以下のような対策が講じられています。
- 中性線のサイズアップ: 他の相線と同じサイズではなく、より太い電線を使用することで、許容電流を大きくし、過熱リスクを低減します。場合によっては、相線の2倍の断面積を持つ中性線が推奨されることもあります。
- 高調波フィルター: アクティブフィルターやパッシブフィルターを設置し、システムから高調波成分を除去または抑制します。アクティブフィルターは高価ですが、高調波成分を能動的に打ち消す効果があります。パッシブフィルターは特定の高調波周波数に対して有効です。
- Δ結線利用: Δ結線は3の倍数次高調波を循環電流として内部に閉じ込める性質があるため、高調波発生源の近くにΔ結線の変圧器やリアクトルを設置することで、系統への高調波流出を抑制する対策がとられることがあります。
- 特別な結線を持つ変圧器: Z結線(ジグザグ結線)変圧器のように、中性点を持つY結線でありながら、3の倍数次高調波を打ち消す特性を持つ変圧器も存在します。
Y結線が持つ中性点の利便性は、現代の電力環境では高調波問題という新たな課題を生み出しており、その対策は電力技術の重要なテーマの一つとなっています。
8章.2 不平衡負荷時の解析(対称座標法の導入)
Y結線、特に中性線がない場合の不平衡負荷時における電圧・電流の複雑な振る舞いを解析するために、「対称座標法」という数学的な手法が用いられます。
対称座標法では、不平衡な三相交流を、以下の三つの平衡した成分の組み合わせとして扱います。
- 正相成分: 基本となる、通常の三相交流と同じ回転方向を持つ平衡成分。
- 逆相成分: 正相成分とは逆の回転方向を持つ平衡成分。不平衡負荷があると発生します。
- 零相成分: 三つの相が同相の平衡成分。不平衡負荷があると発生し、特にY結線の中性線や大地に流れる電流に関係します。
Y結線において、中性線がない場合は零相電流が流れません。このため、零相成分の電圧が発生し、中性点電位が変動して相電圧の不平衡を引き起こします。中性線がある場合は、零相電流が中性線を流れることで、中性点電位の変動が抑制されます。
対称座標法は、電力系統の事故計算(短絡事故、地絡事故など)や保護リレーの設計など、より高度な解析に不可欠なツールであり、Y結線システムにおける不平衡状態を定量的に評価する上で重要な役割を果たします。
8章.3 接地方式とY結線
前述の通り、Y結線の中性点は接地することができますが、その接地方法にはいくつかの種類があり、それぞれ異なる特性と目的を持っています。
- 直接接地方式: 中性点をそのまま大地に接続する方法。地絡事故時の地絡電流が最も大きくなりますが、事故点アーク電圧が低く、健全相の対地電圧上昇が最小限に抑えられるため、超高圧送電系統で広く用いられます。Y結線との相性が良い方式です。
- 抵抗接地方式: 中性点と大地の間抵抗器を接続する方法。地絡電流の大きさをある程度制限しつつ、地絡事故を検出・保護します。直接接地と非接地の中間的な特性を持ち、送配電系統で広く用いられます。
- リアクトル接地方式(消弧リアクトル接地): 中性点と大地の間リアクトルを接続する方法。地絡電流を進み電流によって相殺し、アークを自然消滅させることを目的とします。主に高抵抗接地や非接地に近い系統で、一時的な地絡事故の際に系統停止を防ぐために用いられることがあります。
- 非接地方式: 中性点を大地から絶縁する方法。地絡事故が発生しても地絡電流が非常に小さいという特徴がありますが、事故点の特定が難しく、健全相の対地電圧が√3倍に上昇するリスクがあります。Δ結線と組み合わせられることが多いですが、Y結線でも採用されることがあります(その場合、中性点は単に一点に集まっているだけで接地はされていません)。
Y結線が採用される系統では、これらの接地方式の中から、系統の電圧レベル、規模、信頼性要求、保護方式などを総合的に考慮して最適な方式が選択されます。
8章.4 Y-Δ始動の仕組みと効果
第6章で触れたY-Δ始動は、三相誘導電動機の始動方法として非常に一般的です。その効果を具体的に見てみましょう。
誘導電動機のトルクは、巻線にかかる電圧の2乗にほぼ比例します。また、始動電流は巻線にかかる電圧にほぼ比例します。
Y-Δ始動では、まず巻線をY結線にします。線間電圧をVlとすると、Y結線時の巻線にかかる電圧(相電圧)は Vl / √3 となります。
Δ結線時の巻線にかかる電圧は線間電圧 Vl です。
したがって、Y結線時の巻線電圧はΔ結線時の 1/√3 になります。
これにより、
* 始動電流: Y結線時の始動電流は、Δ結線時の始動電流の約 1/√3 倍になります。そして、線電流(外部から供給される電流)は、Y結線では相電流と等しいため、Δ結線時の線電流(相電流の√3倍)と比較すると、(1/√3) * (1/√3) = 1/3 になります。つまり、Y結線で始動することで、Δ結線で直接始動する場合に比べて、線電流を約1/3に抑えることができます。
* 始動トルク: Y結線時の巻線電圧はΔ結線時の 1/√3 なので、発生するトルクは電圧の2乗に比例するため、Δ結線時の約 (1/√3)^2 = 1/3 になります。
Y-Δ始動は、始動トルクが犠牲になる(1/3になる)代わりに、始動電流を大幅に抑制できる方法です。このため、無負荷または軽負荷で始動できる電動機や、始動電流の抑制が特に求められる場合に採用されます。
まとめ:Y結線は電力システムの縁の下の力持ち
この記事では、三相交流システムにおける基本的な結線方法である「Y結線」(スター結線)について、その基礎から応用までを詳しく解説してきました。
Y結線は、三つのコイルを一点(中性点)に集めて接続する方式であり、その最も重要な電気的特性として、「線間電圧は相電圧の√3倍」「線電流は相電流と等しい」という関係があります。
この特性と中性点の存在が、Y結線に多くの利点をもたらしています。
- 中性点による単相供給と接地: 三相4線式による単相・三相両負荷への対応、そして接地による安全性・安定性の向上。
- 絶縁の容易さ: 巻線電圧が低いため、特に高電圧機器の設計が有利に。
- 高電圧化への適性: 同じ巻線でより高い線間電圧が得られ、効率的な送電に貢献。
一方で、Y結線には欠点や課題も存在します。
- 中性線の必要性: 三相4線式では電線が増加。
- 不平衡負荷時の問題: 中性線がない場合の電圧不平衡、中性線がある場合の不平衡電流と特に高調波による過電流リスク。
これらの特性から、Y結線は発電機の固定子巻線、送配電用変圧器(特に高圧側や二次側Y)、そして三相4線式配電システムといった、電力系統の基幹部分や需要家への供給終端部分で広く採用されています。
Y結線は、単なる電気回路の接続方法に留まらず、電力の発生、送電、配電、利用という一連のプロセスにおいて、システム全体の効率性、安全性、信頼性、そして柔軟性を高める上で、まさに縁の下の力持ちとして機能しています。
Δ結線との違いを理解し、それぞれの結線方式がどのような場所で、どのような目的で使われているのかを知ることは、電力システムへの理解を深める上で非常に役立ちます。
現代社会の電力需要はますます多様化し、再生可能エネルギーの導入やEVの普及など、電力系統を取り巻く環境も変化しています。これらの変化に伴い、Y結線が関係する高調波問題や不平衡負荷への対策技術も進化し続けています。
この記事を通じて、Y結線の基本的な仕組みとその重要性について、読者の皆様の理解が深まったなら幸いです。電気という身近でありながら奥深い世界の、一端に触れていただけたなら嬉しく思います。