【初心者向け】Azure PostgreSQL入門:特徴と選び方

【初心者向け】Azure PostgreSQL入門:特徴と選び方

はじめに:クラウドデータベースの時代とPostgreSQLの魅力

現代のシステム開発において、データベースは必要不可欠な要素です。ユーザー情報、商品データ、トランザクション履歴など、あらゆる情報がデータベースに格納され、アプリケーションの心臓部として機能しています。そして、そのデータベースを運用する場所として、今やクラウドが主流となっています。

マイクロソフトが提供するクラウドプラットフォーム「Microsoft Azure」は、様々な種類のデータベースサービスを提供していますが、その中でも特に人気があり、多くの企業や開発者に採用されているのが「Azure Database for PostgreSQL」です。

PostgreSQLは、オープンソースのリレーショナルデータベース管理システム(RDBMS)として、その高い信頼性、豊富な機能、拡張性から世界中で高く評価されています。一方、Azureは、サーバー、ストレージ、ネットワーク、そして各種サービスをインターネット経由で提供するクラウドサービスです。

Azure Database for PostgreSQLは、この信頼性の高いPostgreSQLを、Azure上で「マネージドサービス」として利用できるようにしたものです。つまり、通常オンプレミス(自社運用)でデータベースを運用する際に必要となる、ハードウェアの準備、ソフトウェアのインストール、パッチ適用、バックアップ、監視といった煩雑な管理作業の多くを、Azureが肩代わりしてくれるサービスなのです。

「でも、データベースって難しそう…」「クラウドってよく分からない…」と感じている方もいるかもしれません。この記事は、そんな初心者の方に向けて、Azure Database for PostgreSQLがどのようなものか、その特徴やメリット、そして数種類あるサービスの中から自社の要件に合ったものを選ぶためのポイントを、約5000語のボリュームで詳細に解説します。

この記事を読めば、以下のことが理解できるようになります。

  • PostgreSQLとはどのようなデータベースなのか
  • Azureクラウドでデータベースを運用するメリット
  • Azure Database for PostgreSQLが提供する主な機能と特徴
  • Azure Database for PostgreSQLの異なるサービス階層(Single Server, Flexible Server, Hyperscale (Citus))の違い
  • 自分のアプリケーションやワークロードに最適なサービス階層の選び方

それでは、まずはPostgreSQLそのものについて見ていきましょう。

PostgreSQLとは?:信頼性と拡張性の高いオープンソースRDBMS

PostgreSQL(ポストグレスキューエル)は、1986年にカリフォルニア大学バークレー校で開発が始まり、現在は世界中の開発者コミュニティによって活発に開発が進められている、オープンソースのリレーショナルデータベース管理システム(RDBMS)です。

リレーショナルデータベース(RDBMS)とは?

RDBMSとは、データを「リレーション」(関連性)を持つ「テーブル」(表)の形式で管理するデータベースのことです。データは行と列で構成され、テーブル同士は主キー(Primary Key)や外部キー(Foreign Key)といった仕組みで関連付けられます。SQL(Structured Query Language)という標準的な言語を使って、データの操作(挿入、更新、削除)や検索を行います。

PostgreSQLの主な特徴

PostgreSQLが多くのユーザーに選ばれる理由は、その優れた特徴にあります。

  1. 標準への準拠: SQL言語の標準規格に非常に忠拠しており、一般的なSQL構文がそのまま利用できます。これにより、他のSQLデータベースからの移行が比較的容易になります。
  2. 豊富なデータ型: 数値、文字列、日付/時刻といった基本的なデータ型に加え、配列、JSON/JSONB(ドキュメント指向データ)、幾何学データ(PostGIS拡張機能)、IPアドレス型など、非常に多くのデータ型を標準で、または拡張機能でサポートしています。特にJSONB型は、リレーショナルDBでありながらNoSQL的な柔軟なデータ構造を扱うのに役立ちます。
  3. 拡張性の高さ: 拡張機能(Extension)という仕組みにより、様々な機能を追加できます。代表的なものとしては、地理空間情報処理を行うPostGIS、統計情報を収集するpg_stat_statements、高性能な全文検索機能などがあります。これらの拡張機能を利用することで、特定の用途に特化した機能を追加できます。
  4. 信頼性と堅牢性: トランザクション処理におけるACID特性(原子性: Atomicity, 一貫性: Consistency, 分立性: Isolation, 永続性: Durability)を完全にサポートしており、データの整合性と信頼性が非常に高いです。クラッシュリカバリ機能も優れています。
  5. 同時実行制御(Concurrency Control): MVCC (Multi-Version Concurrency Control) という仕組みを採用しており、複数のユーザーが同時にデータを読み書きする際にも、互いに干渉することなく効率的に処理できます。これにより、高い同時接続環境でもパフォーマンスを維持できます。
  6. 活発なコミュニティ: 世界中にユーザーと開発者のコミュニティが存在し、活発な議論や開発が行われています。ドキュメントが豊富で、問題発生時にもコミュニティからのサポートを得やすいのが特徴です。
  7. オープンソースライセンス: BSDライセンスに近い寛容なライセンスで提供されているため、商用・非商用問わず無償で利用でき、ソースコードを自由に利用、改変、再配布できます。ライセンス費用を気にする必要がありません。

なぜPostgreSQLが人気なのか?

近年、特にWebアプリケーションやエンタープライズシステムにおいて、PostgreSQLの人気が高まっています。これは、上記の信頼性、豊富な機能、高い拡張性に加え、以下のような理由が挙げられます。

  • 技術的な優位性: 高度なデータ型や拡張機能は、単なるデータ格納庫としてだけでなく、様々な分析や処理の基盤としてPostgreSQLを活用することを可能にしています。
  • コミュニティによる継続的な改善: 商用データベースのように特定の企業に依存せず、コミュニティ主導で開発が進められるため、新しい技術の取り込みが比較的早く、透明性の高い開発が行われています。
  • ベンダーロックインの回避: オープンソースであるため、特定のクラウドプロバイダーやソフトウェアベンダーに縛られることなく利用できます。

これらの特徴を持つPostgreSQLを、Azure上でマネージドサービスとして利用できるのが、Azure Database for PostgreSQLです。

Azureとは?:マイクロソフトの提供するクラウドプラットフォーム

次に、Azureについて簡単に見ていきましょう。Azureは、Microsoftが提供する包括的なクラウドコンピューティングサービスです。サーバー、ストレージ、ネットワークといった基本的なインフラストラクチャから、データベース、AI、IoT、開発ツールなど、様々なサービスを提供しています。

クラウドを使うメリット

なぜ多くの企業や開発者がクラウド、特にAzureのようなパブリッククラウドを利用するのでしょうか?主なメリットは以下の通りです。

  1. コスト効率(従量課金制): 必要なリソース(CPU、メモリ、ストレージなど)を必要な時に必要なだけ利用し、使った分だけ支払う従量課金モデルが基本です。これにより、初期投資(CAPEX: Capital Expenditure)を抑え、運用コスト(OPEX: Operational Expenditure)として計上しやすくなります。また、リソースの利用状況に合わせてスケールアップ/スケールダウンできるため、無駄なコストを削減できます。
  2. スケーラビリティ: ビジネスの成長やトラフィックの変動に応じて、必要なリソースを柔軟かつ迅速に増減できます。オンプレミス環境のように、リソース増強のためにハードウェアを購入し、設置・設定するのに数週間~数ヶ月かかる、といったことはありません。
  3. 運用負担の軽減: ハードウェアの保守、OSのパッチ適用、電源や空調管理といった物理的なインフラ管理はクラウドプロバイダー(この場合はMicrosoft)が行います。これにより、IT担当者はより付加価値の高い業務(アプリケーション開発、サービス改善など)に集中できます。
  4. 高可用性とディザスターリカバリー: クラウドプロバイダーは、複数のデータセンターを持ち、冗長化されたインフラストラクチャを提供しています。これにより、特定のデータセンターで障害が発生してもサービスを継続できる高可用性(HA: High Availability)や、災害時でもサービスを復旧できるディザスターリカバリー(DR: Disaster Recovery)の仕組みを比較的容易に構築できます。
  5. セキュリティ: クラウドプロバイダーは、物理的なセキュリティ、ネットワークセキュリティ、データ暗号化など、高度なセキュリティ対策を施しています。ユーザーは、クラウドプロバイダーが提供するセキュリティ機能を活用し、自社のセキュリティポリシーに合わせて設定を行うことで、高いレベルのセキュリティを確保できます。
  6. 俊敏性: 新しいサーバーやサービスを数分~数時間でプロビジョニング(利用可能な状態にする)できます。これにより、新しいアイデアを迅速に検証したり、サービスを素早く展開したりすることが可能になります。

Azureのデータベースサービス

Azureは、様々な種類のデータベースサービスを提供しています。

  • リレーショナルデータベース(RDBMS):
    • Azure SQL Database (Microsoft SQL Server)
    • Azure Database for PostgreSQL
    • Azure Database for MySQL
    • Azure Database for MariaDB
  • NoSQLデータベース:
    • Azure Cosmos DB (ドキュメント、キーバリュー、グラフ、列ファミリなど複数のAPIをサポート)
    • Azure Cache for Redis (インメモリキャッシュ)
  • 分析データベース:
    • Azure Synapse Analytics (データウェアハウス)
    • Azure Data Explorer (時系列・ログ分析)

このように、Azureは幅広いデータベースニーズに対応できるポートフォリオを持っています。その中でも、オープンソースRDBMSとして人気が高まっているのがAzure Database for PostgreSQLです。

Azure Database for PostgreSQLとは?:マネージドサービスの利点

ここまで、PostgreSQLとAzureについてそれぞれ見てきました。Azure Database for PostgreSQLは、これらの要素を組み合わせたサービスです。具体的には、Azureが提供するインフラストラクチャ上で、PostgreSQLを完全に管理された(マネージドな)サービスとして利用できるものです。

「マネージドサービス」がしてくれること

「マネージドサービス」であることの最大の利点は、データベース運用に関する多くの手間から解放されることです。Azure Database for PostgreSQLを利用することで、あなたは以下のような作業を自分で行う必要がなくなります。

  • ハードウェアの選定、購入、設置: サーバーやストレージの選定、購入手続き、データセンターへの設置といった fisikaru な作業は一切不要です。
  • OSやPostgreSQLのインストール、設定: OSのインストール、PostgreSQLソフトウェアのダウンロード、コンパイル、インストール、初期設定といった煩雑な作業は不要です。
  • パッチ適用とバージョンアップ: OSやPostgreSQLにセキュリティ脆弱性が見つかった場合や、新しいバージョンがリリースされた場合のパッチ適用やバージョンアップは、Azureが自動的に、あるいは簡単な操作で行ってくれます(メンテナンスウィンドウを設定できます)。
  • バックアップとポイントインタイムリカバリ: データベースのバックアップはAzureが自動的に定期実行してくれます。万が一データ損失が発生した場合でも、特定の時点(最大35日前など、設定による)の状態にデータベースを復旧させることができます。
  • 高可用性の維持: サービスのティア(階層)によりますが、Azureが自動的にスタンバイサーバーを用意したり、データの冗長性を確保したりすることで、物理的な障害やシステム障害発生時にもサービスが継続できる仕組みを提供します。
  • 監視と基本的なパフォーマンスチューニング: CPU使用率、メモリ使用率、ストレージI/O、接続数といった基本的なメトリックはAzure Monitorで自動的に収集され、監視できます。また、クエリのパフォーマンスに関する基本的な情報も提供されます。
  • ストレージの管理: ストレージ容量が不足しそうになった場合、自動的に拡張する設定が可能です(上限あり)。

Azure Database for PostgreSQLの共通のメリット

どのサービス階層を選択した場合でも、Azure Database for PostgreSQLとして共通のメリットを享受できます。

  1. 運用コストの削減: ハードウェア購入やメンテナンス費用、データベース管理者の運用負荷軽減による人件費削減が期待できます。
  2. 迅速なプロビジョニング: データベースサーバーを数分~数十分で作成できます。
  3. スケーラビリティ: 必要に応じてコンピューティングリソース(CPU、メモリ)やストレージ容量を柔軟に変更できます。
  4. 高い可用性: Azureのインフラストラクチャとサービス階層に応じた冗長構成により、高い可用性を実現します。
  5. 強固なセキュリティ: VNet統合、ファイアウォール規則、SSL接続、保存時の暗号化、監査ログといった Azure のセキュリティ機能と連携し、データの保護を強化できます。Azure Active Directory (Azure AD) 認証も利用可能です。
  6. Azureエコシステムとの連携: Azure App Service、Azure Kubernetes Service (AKS)、Azure Functions といった他の Azure サービスと容易に連携できます。監視には Azure Monitor、データ分析には Azure Synapse Analytics など、Azure の様々なサービスと組み合わせて利用することで、より強力なシステムを構築できます。
  7. 最新のPostgreSQLバージョン: コミュニティで開発された最新のPostgreSQLバージョンがサポートされます。

マネージドサービスのデメリット(考慮点)

一方で、マネージドサービスであることの制約もあります。

  • フルコントロールではない: データベースサーバーのOSレベルへのアクセスはできません。特定の高度な設定や、OSレベルで動作するPostgreSQLの拡張機能の中には利用できないものもあります。
  • カスタマイズの制限: PostgreSQLの設定パラメーターには、Azure側で管理されているため変更できないものがあります。
  • コスト: 小規模な利用でも、完全に無料というわけではありません(ただし、開発/テスト用途などで安価なティアを選択することは可能です)。従量課金モデルのため、利用量が増えるとコストも増加します。

これらのメリットとデメリットを踏まえ、Azure Database for PostgreSQLが自社の要件に合うかどうかを検討することになります。多くのWebアプリケーションやエンタープライズシステム、SaaS(Software as a Service)などのバックエンドデータベースとして、Azure Database for PostgreSQLは非常に有力な選択肢となります。

Azure Database for PostgreSQLのサービス階層:最適な選び方

Azure Database for PostgreSQLには、ワークロードの種類、パフォーマンス要件、可用性要件、コストなどに応じて、主に以下の3つのサービス階層があります。

  1. Azure Database for PostgreSQL – Single Server
  2. Azure Database for PostgreSQL – Flexible Server
  3. Azure Database for PostgreSQL – Hyperscale (Citus)

これらの階層は、機能、アーキテクチャ、可用性、価格が大きく異なります。適切なサービスを選ぶことが、コスト効率とパフォーマンス、信頼性のバランスを取る上で非常に重要です。

それぞれのサービス階層について詳しく見ていきましょう。

1. Azure Database for PostgreSQL – Single Server

Single Serverは、最も基本的なサービス階層です。単一のデータベースサーバーインスタンスを提供し、シンプルさとコスト効率を重視した設計になっています。

  • アーキテクチャ:
    • コンピューティングリソース(CPU、メモリ)とストレージが物理的に分離された構成です。これにより、コンピューティングとストレージを個別にスケーリングできます。
    • 高可用性については、ノードが停止した場合に新しいノードに切り替える仕組みがありますが、これは非同期レプリケーションに基づいています。計画外のフェイルオーバー時には、DNSの更新と新しいノードへの接続確立に時間がかかる場合があります(通常60~120秒)。
    • データは Azure Storage に格納され、3重に冗長化されています(LRS: Locally Redundant StorageまたはGRS: Geo-Redundant Storageを選択可能)。
  • 機能・性能:
    • 価格ティア: Basic, General Purpose, Memory Optimizedの3種類があります。
      • Basic: バースト可能なコンピューティングリソースを提供し、開発/テストや小規模な低頻度アクセスワークロード向けです。
      • General Purpose: バランスの取れたコンピューティングとメモリ比率で、ほとんどのビジネスワークロードに適しています。
      • Memory Optimized: より高いメモリ容量を提供し、インメモリ分析や高パフォーマンスなトランザクション処理向けです。
    • 各ティア内で、vCore数(CPUコア数)とメモリ容量を選択できます。
    • ストレージ容量は100GiBから16TiBまで選択可能で、IOPS(Input/Output Operations Per Second)はストレージ容量に比例して増加します(General Purpose/Memory Optimizedの場合)。
    • 接続数の上限はvCore数によって異なります。
  • 可用性:
    • SLA (Service Level Agreement) は 99.99% です(Basicティアは対象外)。
    • 計画外の停止が発生した場合、自動的に別の物理マシン上の新しいVMに切り替わります。データの整合性は確保されます。
    • 計画メンテナンスは通常、事前に通知され、サービスの中断が発生する可能性があります。
  • コスト:
    • コンピューティングリソースとストレージ容量に対して時間単位で課金されます。IOPS費用はストレージ費用に含まれます(General Purpose/Memory Optimized)。
    • 他のサービス階層に比べて、一般的にコストは低めです。特にBasicティアは開発/テスト用途に適した低価格設定です。
  • ユースケース:
    • 開発環境、テスト環境
    • 小規模なWebサイトやアプリケーションのバックエンドデータベース
    • 低頻度アクセスや予測可能なワークロードを持つアプリケーション
    • コストを最優先する場合
  • メリット:
    • シンプルで理解しやすいアーキテクチャ
    • 他のサービス階層に比べて低コスト
    • 迅速なプロビジョニング
  • デメリット:

    • フェイルオーバー時間がFlexible Serverに比べて長い可能性がある
    • 可用性ゾーン(Availability Zone)を跨いでの高可用性構成は不可能
    • 細かいネットワーク設定の自由度がFlexible Serverより低い(VNet統合の制約)
    • 一部の最新機能(例: AZ間HA、バースト可能ティア以外での低コストオプション)はFlexible Serverのみで提供される
  • Single Serverを選ぶべきケース:

    • データベースの運用経験が少なく、シンプルな構成を希望する場合
    • 開発環境やテスト環境として利用し、コストを最小限に抑えたい場合
    • 小規模な本番環境で、数秒~数十秒程度のダウンタイムが許容できる場合
    • 特定の機能(AZ間HAなど)が必要ない場合

2. Azure Database for PostgreSQL – Flexible Server

Flexible Serverは、Single Serverの後継となるサービス階層であり、より高い可用性、細かい構成オプション、そしてコスト最適化のための柔軟性を提供することを目的としています。エンタープライズレベルの本番ワークロードに推奨されるサービスです。

  • アーキテクチャ:
    • Single Serverと同様にコンピューティングとストレージは分離されています。
    • 高可用性構成が強化されています:
      • ゾーン冗長HA (Zone-redundant HA): プライマリサーバーとは別の可用性ゾーン(AZ)にスタンバイサーバーを同期レプリケーションで配置します。これにより、データセンター全体の障害が発生した場合でも、自動的にスタンバイサーバーにフェイルオーバーし、サービスの継続性を高めます。フェイルオーバー時間は通常60~120秒未満です。
      • ゾーンなしHA (Same-zone HA): 同じ可用性ゾーン内にスタンバイサーバーを配置します。プライマリVMの障害など、AZ全体ではない障害に対して保護を提供します。コストはゾーン冗長HAより低いですが、AZ障害には耐えられません。
    • 高可用性を有効にした場合、データはプライマリとスタンバイの両方に同期的に書き込まれるため、データの損失は発生しません。
    • データは Azure Storage に格納され、3重に冗長化されています。
  • 機能・性能:
    • 価格ティア: Burstable, General Purpose, Memory Optimizedの3種類があります。
      • Burstable: 低コストで、バースト可能なCPUクレジットを提供します。開発/テストや、低頻度アクセスかつ急な負荷変動があるワークロードに適しています。
      • General Purpose/Memory Optimized: Single Serverと同様の特性を持ちますが、Flexible Serverではより多くの接続数や高いIOPS性能を選択できます。
    • より幅広いvCore数とメモリ容量の選択肢があります。
    • ストレージ容量は32GiBから16TiBまで選択可能で、IOPSはストレージ容量またはプロビジョニングIOPS(General Purpose/Memory Optimizedの場合)によって決まります。
    • Single Serverよりも高い最大接続数をサポートします。
  • 可用性:
    • ゾーン冗長HAを有効にした場合のSLAは 99.99% です。
    • ゾーンなしHAまたは高可用性無効の場合はSLA 99.95% です。
    • 計画外のフェイルオーバー時間はSingle Serverよりも短縮されています。
    • 計画メンテナンスは、高可用性構成の場合、スタンバイサーバーへのフェイルオーバーを活用して、アプリケーションへの影響を最小限に抑えるように設計されています。
  • コスト:
    • コンピューティングリソース(CPU/メモリ)、ストレージ容量、プロビジョニングIOPS(General Purpose/Memory Optimized)に対して時間単位で課金されます。
    • 高可用性(特にゾーン冗長HA)を有効にすると、スタンバイサーバー分のコストが追加されます。
    • Burstableティアは非常に低コストで利用開始できます。
  • ネットワーク:
    • VNet統合が強化されています: Azure Virtual Network (VNet) とネイティブに統合し、データベースサーバーをVNet内に配置できます。これにより、プライベートIPアドレスでのアクセスが可能になり、よりセキュアなネットワーク環境を構築できます。Public Access(許可されたIPアドレスのみ)も選択可能です。
  • ユースケース:
    • エンタープライズ向けの本番環境
    • 可用性と信頼性が非常に重要なミッションクリティカルなアプリケーション
    • 高いパフォーマンスとスケーラビリティが求められるワークロード
    • より詳細な構成やネットワーク設定の自由度が必要な場合
    • コストを最適化しつつ、高い可用性も確保したい場合
  • メリット:
    • Single Serverよりも高い可用性(ゾーン冗長HAオプション)
    • フェイルオーバー時間の短縮
    • より細かい構成オプションと柔軟性
    • 強化されたVNet統合による高いネットワークセキュリティ
    • Burstableティアによる低コストでの利用開始オプション
    • Single Serverの多くの制限が解消されている
  • デメリット:

    • 高可用性構成を有効にした場合、Single Serverよりもコストが高くなる
  • Flexible Serverを選ぶべきケース:

    • 本番環境で利用し、高い可用性(特にAZ障害からの保護)が必要な場合
    • フェイルオーバーによるダウンタイムを最小限に抑えたい場合
    • Azure VNetとのプライベート接続による高いネットワークセキュリティが必要な場合
    • パフォーマンスや構成に関するより細かい制御が必要な場合
    • Single Serverでは要件を満たせない場合(接続数、パフォーマンスなど)

3. Azure Database for PostgreSQL – Hyperscale (Citus)

Hyperscale (Citus) は、PostgreSQLの拡張機能である Citus Data をベースにしたサービスです。PostgreSQLを複数のノードに分散配置することで、水平方向へのスケーリング(スケールアウト)を実現し、大規模なデータセットや高いクエリ並列処理能力を必要とするワークロードに対応します。

  • Citus Data とは:
    • Citus Dataは、PostgreSQLの上に構築されたオープンソースの分散RDBMSです。
    • データを複数のノード(サーバー)に「シャーディング」という手法で分散させ、クエリを複数のノードで並列実行することで、PostgreSQLの機能を維持したまま、大規模なデータを高速に処理できるようにします。
  • アーキテクチャ:
    • コーディネーターノード: クライアントからの接続を受け付け、クエリを解析し、どのワーカーノードがどのデータを保持しているかを把握し、クエリ実行計画を生成します。結果をワーカーノードから集約してクライアントに返します。
    • ワーカーノード: 実際に分散されたデータ(シャード)を保持し、コーディネーターノードからの指示を受けてクエリの一部を実行します。
    • これらのノードは、必要に応じて増減できます。
    • データはワーカーノード間で分散され、各ノード内で冗長化されます。
  • 機能・性能:
    • 水平スケーラビリティ: データ量やクエリ負荷の増加に応じて、ワーカーノード数を増やすことで性能を向上させることができます。TBクラスやPBクラスの大規模データセットを扱うことが可能です。
    • 並列クエリ処理: 多くのクエリを複数のワーカーノードで並列実行できるため、リアルタイム分析や複雑な集計クエリを高速に処理できます。
    • 価格ティア: 基本的なコンピューティングとストレージ容量を選択し、必要なワーカーノード数を追加することで構成します。
    • PostgreSQLの全ての機能が使えるわけではありません。分散環境特有の制約があります(例: クロスシャード結合の制限、一部のSQL構文の制限など)。
  • 可用性:
    • 各ノード(コーディネーター、ワーカー)は内部的に冗長化されています。ノード障害が発生した場合、自動的に代替ノードに切り替わります。
    • SLAはノード数など構成によって異なりますが、高い可用性を提供するように設計されています。
  • コスト:
    • コーディネーターノードとワーカーノードの数、各ノードのコンピューティング、ストレージ容量に対して課金されます。
    • ノード数を増やせば増やすほどコストは増加します。
  • ユースケース:
    • 大規模なマルチテナントSaaSアプリケーションのバックエンドデータベース
    • リアルタイム分析ダッシュボードやデータ分析ワークロード
    • IoTデータや時系列データなど、大量のデータを扱うアプリケーション
    • 高い同時接続数とデータ量の増加に対応する必要がある場合
  • メリット:
    • PostgreSQLの機能性を維持しつつ、TBクラス以上のデータに対して水平スケーリングが可能
    • 大規模データに対する高速なクエリ実行(並列処理)
    • データ量の増加に柔軟に対応できる
  • デメリット:

    • 分散データベース特有の複雑さがあり、設計や運用に考慮が必要(シャーディング戦略など)
    • 全てのPostgreSQL機能が利用できるわけではない
    • 小規模なデータセットやシンプルなワークロードにはオーバースペックで、コスト効率が悪い可能性がある
  • Hyperscale (Citus) を選ぶべきケース:

    • データ量が既にTBクラス以上ある、または近い将来そのレベルに達すると予測される場合
    • 数十TB、数百TBといったデータセットに対して、PostgreSQLのSQLを使って高速な分析クエリを実行したい場合
    • 大規模なマルチテナントSaaSで、各テナントのデータをシャーディングして分離・スケールさせたい場合
    • 単一ノードのパフォーマンス限界を超える必要がある場合
    • 分散データベースの概念を理解し、運用できる体制がある場合

Azure Database for PostgreSQLの主要機能詳細

ここからは、3つのサービス階層に共通する、または各階層で提供される主要な機能について、もう少し詳しく見ていきましょう。

高可用性 (High Availability) とディザスターリカバリー (Disaster Recovery)

  • 高可用性 (HA):
    • Single Server: 99.99% SLA (Basic以外)。計画外停止時は新しいノードへの切り替え(数分かかる可能性あり)。AZを跨いでの冗長化は不可。
    • Flexible Server: 99.99% SLA (ゾーン冗長HA)。スタンバイサーバーへの自動フェイルオーバー(通常60-120秒未満)。ゾーン冗長HAはデータセンターレベルの障害から保護。ゾーンなしHA (99.95% SLA) はAZ内の障害から保護。
    • Hyperscale (Citus): 各ノード(コーディネーター、ワーカー)の内部冗長化。ノード障害時の自動切り替え。クラスター全体の可用性はノード数や構成による。
  • ディザスターリカバリー (DR):
    • バックアップ機能と組み合わせることでDRを実現します。
    • Geo-Redundant Backup (GRS): Single Server および Flexible Server で利用可能なオプション(構成による)。バックアップデータを異なる Azure リージョンにコピーします。これにより、プライマリーリージョン全体が壊滅的な災害に見舞われた場合でも、別のリージョンでデータベースを復旧させることが可能になります。
    • 読み取りレプリカ: 別リージョンに読み取りレプリカを作成することで、そのリージョンへのフェイルオーバー(手動プロモーション)によるDR戦略を構築できます(Single Server/Flexible Server)。

スケーラビリティ

  • コンピューティングのスケーリング:
    • vCore数とメモリ容量を、稼働中でも変更できます(一部制限あり、ダウンタイムが必要な場合あり)。これにより、トラフィックの増減に合わせて性能を調整できます。
  • ストレージのスケーリング:
    • ストレージ容量は、稼働中に増量できます。必要に応じて自動拡張の設定も可能です(上限あり)。
    • IOPS性能は、Single/Flexible ServerのGeneral Purpose/Memory Optimizedティアでは、基本的にストレージ容量に比例します(Flexible ServerではプロビジョニングIOPSも設定可能)。性能要件に合わせてストレージを確保する必要があります。

セキュリティ

Azure Database for PostgreSQLは、多層的なセキュリティ機能を提供します。

  1. ネットワークセキュリティ:
    • ファイアウォール規則: 許可されたIPアドレスまたはIPアドレス範囲からの接続のみを許可します。
    • Azure Virtual Network (VNet) 統合: Flexible Server で強化され、データベースサーバーを VNet 内に配置できます。これにより、プライベートIPアドレスでアクセスし、パブリックインターネットからのアクセスを完全に遮断できます。
    • SSL/TLS暗号化: クライアントアプリケーションとデータベースサーバー間の通信は、SSL/TLSプロトコルを使用して暗号化されます。
  2. 認証:
    • PostgreSQLネイティブ認証: ユーザー名とパスワードによる認証です。
    • Azure Active Directory (Azure AD) 認証: Azure ADのIDを使用してデータベースに接続できます。これにより、ユーザーID管理を一元化し、セキュリティポリシーを強化できます。
  3. データの暗号化:
    • 保存時の暗号化 (Encryption at Rest): データベースに保存されているデータ(データファイル、ログファイル、バックアップ)は、Azure Storage の暗号化機能(SSE: Server-Side Encryption)によって自動的に暗号化されます。この暗号化は、Microsoftが管理するキー(サービスマネージドキー)またはAzure Key Vaultに格納された顧客が管理するキー(CMK: Customer-Managed Keys)を使用して行われます。
    • 転送時の暗号化 (Encryption in Transit): SSL/TLSを使用して通信を暗号化します。
  4. 監査ログ:
    • データベースに対する操作を記録する監査ログを有効にできます。これにより、セキュリティインシデントの追跡やコンプライアンス要件への対応に役立ちます。

バックアップとポイントインタイムリカバリ (PITR)

  • Azure Database for PostgreSQLは、自動的にデータベースのバックアップを取得します。バックアップは、スナップショットまたはストリーミング方式で行われます。
  • バックアップは Azure Storage に安全に保存され、冗長化されます。
  • 保持期間: バックアップの保持期間は、最大35日間(Basicティアは最大10日間)で設定できます。
  • ポイントインタイムリカバリ (PITR): 取得されたバックアップとトランザクションログ(WAL: Write-Ahead Logging)を利用して、指定した時点(例: 昨日の午前10時35分)の状態にデータベースを復旧させることができます。これは、誤ってデータを削除してしまった場合や、データの破損が発生した場合などに非常に強力な機能です。PITRは、新しいデータベースサーバーとしてリストアされます。

監視とパフォーマンスチューニング

  • Azure Monitor: CPU使用率、メモリ使用率、ストレージ使用率、I/O、接続数、レプリケーション遅延など、様々なメトリックをリアルタイムで監視できます。アラートを設定することも可能です。
  • Log Analytics: データベースログ(PostgreSQLログ、Azure診断ログ)を収集し、分析できます。エラーの特定やパフォーマンス問題のデバッグに役立ちます。
  • Query Performance Insight: 実行時間の長いクエリや頻繁に実行されるクエリなど、クエリのパフォーマンスに関する洞察を提供します。どのクエリがリソースを消費しているかを特定し、チューニングに役立てることができます。
  • pg_stat_statements: PostgreSQLの標準拡張機能であるpg_stat_statementsを利用して、サーバー上で実行されたSQL文ごとの統計情報(実行回数、合計実行時間、平均実行時間など)を収集・分析できます。パフォーマンスボトルネックを特定する上で非常に有用です。

レプリケーション

  • 読み取りレプリカ (Read Replicas): プライマリサーバーからデータを非同期的に複製した読み取り専用のレプリカを作成できます(Single Server/Flexible Server)。読み取り負荷の高いワークロードの場合、読み取りトラフィックをレプリカに分散させることで、プライマリサーバーの負荷を軽減し、全体的なパフォーマンスを向上させることができます。
  • ロジカルレプリケーション: PostgreSQLのロジカルレプリケーション機能を利用できます。これにより、特定のテーブルやデータベースの変更を他のPostgreSQLインスタンス(Azure内外問わず)に複製できます。データ移行やリアルタイムETL(Extract, Transform, Load)などに利用されます。

拡張機能 (Extensions)

PostgreSQLの豊富な拡張機能エコシステムは、その強力な特徴の一つです。Azure Database for PostgreSQLは、これらの拡張機能の一部をサポートしています。

  • Azure Portal からサポートされている拡張機能のリストを確認し、サーバーパラメータとして有効化することで利用できます。
  • 主要な拡張機能として、PostGIS(地理空間情報)、hstore(キーバリュー格納)、pg_stat_statements(クエリ統計)、uuid-ossp(UUID生成)、pg_cron(PostgreSQL内でのジョブスケジューリング)などがサポートされています。
  • ただし、全ての拡張機能がサポートされているわけではありません。特にOSレベルの操作を必要とする拡張機能や、Azure側でセキュリティや安定性の観点から許可されていない拡張機能は利用できません。利用したい拡張機能がある場合は、事前にサポート状況を確認することが重要です。

Azure Database for PostgreSQLの選び方のポイント

これまで説明してきた各サービス階層の特徴や機能を踏まえて、どのサービスが自社の要件に最も適しているかを選ぶための具体的なポイントをまとめます。

  1. ワークロードの要件を明確にする:

    • データ量: 現在のデータ量と将来的な増加予測はどれくらいですか?
      • 数十GB~数TB程度であれば、Single ServerまたはFlexible Serverが候補になります。
      • TBクラスを超える、またはPBクラスに達する可能性がある場合は、Hyperscale (Citus) を検討すべきです。
    • パフォーマンス要件: 必要なトランザクション処理性能(IOPS、スループット)や、クエリの実行速度はどれくらいですか?
      • 標準的なWebアプリケーションなど、一般的なトランザクション処理であれば、Single Server (General Purpose/Memory Optimized) または Flexible Server (General Purpose/Memory Optimized) で十分対応できます。
      • 大量データに対する複雑な集計やリアルタイム分析など、高い並列処理性能が必要な場合は、Hyperscale (Citus) が優位です。
    • 同時接続数: 想定される最大同時接続数はどれくらいですか?
      • 各サービス階層でサポートされる最大接続数が異なります。Flexible ServerはSingle Serverよりも高い接続数をサポートできます。
    • ワークロードのタイプ: トランザクション処理が中心か(OLTP: Online Transaction Processing)、それとも分析・集計が中心か(OLAP: Online Analytical Processing)?
      • OLTP中心ならSingle/Flexible Serverが適しています。
      • 大規模データに対するOLAP、特にリアルタイム分析ならHyperscale (Citus) が強力です。
  2. 可用性(HA)と災害復旧(DR)の要件を検討する:

    • どの程度のダウンタイムが許容できますか?
      • 開発/テスト用途や、ダウンタイムが比較的許容できる小規模本番環境であれば、Single Serverでも良いかもしれません。
      • 本番環境で、計画外のダウンタイムを最小限に抑えたい、特にAZ障害から保護したい場合は、Flexible Serverのゾーン冗長HAが必須となります。
      • Hyperscale (Citus) もノード障害からの保護を提供しますが、クラスター全体としての可用性は構成に依存します。
    • リージョン全体の災害から保護する必要がありますか?
      • Geo-Redundant Backup や別リージョンへの読み取りレプリカ作成によるDR戦略が必要な場合は、Single ServerまたはFlexible Serverで検討します。
  3. コストの制約と最適化:

    • 予算はどれくらいですか?
      • 最も低コストなのはSingle ServerのBasicティアやFlexible ServerのBurstableティアです(開発/テスト向け)。
      • 本番環境では、必要なパフォーマンス、可用性、機能に応じてGeneral PurposeやMemory Optimizedティアを選択することになります。
      • Hyperscale (Citus) はノード数に応じてコストが増加するため、大規模データ向けの高価なサービスです。
    • 従量課金モデルを理解し、リソースの適切なサイジングと監視がコスト管理に重要です。
  4. 管理の手間と運用体制:

    • データベースの運用経験はどれくらいありますか?
    • マネージドサービスであるため、基本的な運用管理はAzureが担います。しかし、パフォーマンスチューニング、セキュリティ設定、バックアップ/リカバリ計画、監視アラート設定などはユーザー側で行う必要があります。
    • Hyperscale (Citus) は分散データベースの概念を理解し、シャーディング戦略などを検討する必要があるため、より高度な専門知識が必要になります。Single/Flexible Serverは比較的運用が容易です。
  5. 将来的な拡張性:

    • アプリケーションやデータ量はどの程度のスピードで成長すると予測されますか?
    • Single ServerやFlexible Serverでもスケールアップや読み取りレプリカによるスケールアウトは可能ですが、データ量がTBクラスを超え、今後も指数関数的に増加するような場合は、最初からHyperscale (Citus) を検討する方が良いかもしれません。

簡単な選び方フローチャート(思考プロセス)

以下は、サービス階層を選ぶ際の簡単な思考プロセスをまとめたものです。

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1. 想定データ量とクエリ要件を確認:
データ量がTBクラス以上になる可能性があり、
または大量データに対して並列処理が必要な分析クエリが多いか?

YES → Hyperscale (Citus) を検討
(分散DBの考慮事項とコストに注意)
NO → 2に進む

  1. 可用性要件を確認:
    本番環境で、AZ障害からの保護を含む高い可用性(99.99% SLA)が必要か?

    YES → Flexible Server を検討
    (ゾーン冗長HAを有効にすることを推奨)
    NO → 3に進む

  2. コストとシンプルさを確認:
    開発/テスト用途か、または小規模でコスト重視の本番環境か?
    AZ障害からの保護は不要で、フェイルオーバー時間が多少長くても許容できるか?

    YES → Single Server を検討
    (BasicティアやGeneral Purposeティアから選択)
    NO → Flexible Server を検討
    (BurstableティアやゾーンなしHAも選択肢に含める)
    “`

このフローチャートはあくまで一般的なガイドラインです。最終的な選択は、個々の要件と上記で説明した各サービスの詳細な機能を比較検討して行う必要があります。最初は小規模なFlexible Server (Burstableティアなど) で始めて、必要に応じてスケールアップしたり、機能を強化したりしていくアプローチも有効です。

利用開始までの簡単なステップ

Azure Database for PostgreSQLを利用開始するための大まかなステップは以下の通りです。

  1. Azure アカウントを作成する: まだAzureアカウントを持っていない場合は、Microsoft Azureのウェブサイトからサインアップします。無料アカウントや無料試用版を利用することもできます。
  2. リソースグループを作成する: Azureリソース(仮想マシン、データベース、ネットワークなど)を論理的にグループ化するためのコンテナであるリソースグループを作成します。
  3. Azure Database for PostgreSQL サーバーを作成する: Azureポータル、Azure CLI、Azure PowerShell、Azure Resource Manager (ARM) テンプレート、またはTerraformといったツールを使用して、データベースサーバーを作成します。この際、サービス階層(Single, Flexible, Hyperscale)、リージョン、PostgreSQLのバージョン、コンピューティングリソース、ストレージ容量、管理者ユーザー名/パスワードなどを指定します。
  4. ネットワークを設定する: データベースサーバーへの接続を許可するためのネットワーク設定を行います。パブリックアクセス(ファイアウォール規則)を設定するか、プライベートアクセス(VNet統合)を設定します。本番環境では、セキュリティの観点からプライベートアクセス(VNet統合)が推奨されます(特にFlexible Server)。
  5. 接続情報を取得する: 作成したデータベースサーバーのホスト名(サーバー名)、ポート番号、管理者ユーザー名などの接続情報を取得します。
  6. クライアントから接続する: PostgreSQLクライアントツール(psqlコマンドラインツール、pgAdminなど)や、アプリケーション(Webアプリケーション、バッチ処理プログラムなど)から、取得した接続情報と設定したネットワーク規則を使用してデータベースに接続します。
  7. データベースの作成とデータのロード: 必要に応じてデータベースを作成し、スキーマを定義し、データをロードします。既存のデータベースからの移行ツール(Azure Database Migration Serviceなど)も利用可能です。
  8. 監視と設定: サービスの稼働状況を監視し、必要に応じてサーバーパラメータの調整やバックアップ設定の確認などを行います。

よくある質問 (FAQ)

  • Q: オンプレミスのPostgreSQLからAzure Database for PostgreSQLへの移行は可能ですか?
    A: はい、可能です。 pg_dump/pg_restore や Azure Database Migration Service (DMS) といった様々なツールを利用して移行できます。DMSはオンライン移行(サービスを停止せずに移行)もサポートしています。
  • Q: どのようなPostgreSQLのバージョンがサポートされていますか?
    A: 主要なコミュニティバージョン(例: 11, 12, 13, 14, 15, 16など)がサポートされています。サポートされるバージョンはサービス階層によって異なる場合があります。最新のサポート状況はAzureの公式ドキュメントをご確認ください。
  • Q: 料金体系はどうなっていますか?
    A: 基本的に、選択したサービス階層、コンピューティングリソース(vCore、メモリ)、ストレージ容量、プロビジョニングIOPS、高可用性構成(スタンバイサーバーの有無)、バックアップストレージの利用量、ネットワークトラフィックなどに基づいて時間単位または従量制で課金されます。Azureの料金計算ツールを利用して概算見積もりを行うことができます。
  • Q: どのようなツールでデータベースを管理できますか?
    A: Azure Portal、Azure CLI、Azure PowerShellといったAzureのリソース管理ツールに加えて、標準的なPostgreSQL管理ツール(psqlコマンドライン、pgAdmin)、そしてアプリケーション開発で利用する各種ドライバ(JDBC, Npgsqlなど)でアクセス・管理できます。
  • Q: パフォーマンスが出ない場合はどうすればよいですか?
    A: まずはAzure MonitorやQuery Performance Insightでサーバーのリソース利用状況や遅延しているクエリを確認します。PostgreSQLのログも分析に役立ちます。ボトルネックが特定できれば、以下の対応を検討します。

    • コンピューティングリソース(vCore, メモリ)のスケールアップ
    • ストレージIOPS性能の向上(ストレージ容量を増やす、プロビジョニングIOPSを設定する)
    • 遅延しているクエリのチューニング(インデックスの見直し、SQL文の改善)
    • 読み取りレプリカの追加による読み取り負荷分散
    • (Hyperscaleの場合)ワーカーノードの追加

まとめと次のステップ

この記事では、Azure Database for PostgreSQLがどのようなサービスか、PostgreSQLやAzureの基礎、そして最も重要なサービス階層(Single Server, Flexible Server, Hyperscale (Citus))の特徴と選び方について詳しく解説しました。

Azure Database for PostgreSQLは、信頼性の高いPostgreSQLを、クラウドのメリット(運用負担軽減、スケーラビリティ、高可用性、セキュリティ)を享受しながら利用できる強力なサービスです。それぞれのサービス階層は、異なるワークロードや要件に対応するために設計されています。

  • Single Server: シンプル、低コスト、基本的なワークロード向け。開発/テストや小規模な本番環境に。
  • Flexible Server: 高い可用性(特にAZ障害からの保護)、柔軟な構成、VNet統合強化。多くのエンタープライズ向け本番環境に推奨。
  • Hyperscale (Citus): 水平スケーラビリティ、並列処理。TBクラス以上の大規模データ、リアルタイム分析、大規模SaaS向け。

最適なサービスを選ぶためには、ご自身のアプリケーションやワークロードの現在の要件だけでなく、将来的な成長予測、必要な可用性レベル、予算、そして運用体制を十分に考慮することが重要です。

まずは開発/テスト環境として、比較的安価なFlexible ServerのBurstableティアなどを試してみることから始めるのがおすすめです。実際に触れてみることで、Azure Portalでの操作方法やPostgreSQLへの接続方法、基本的な監視方法などが理解できます。

この記事が、Azure Database for PostgreSQLを始めるための一歩となり、皆様のシステム開発や運用の一助となれば幸いです。

次のステップ:

  1. Azureの公式ドキュメント(Azure Database for PostgreSQLのページ)を参照し、さらに詳細な情報を確認する。
  2. Azureの無料アカウントを作成し、実際にAzure Portalからデータベースサーバーを作成してみる。
  3. 簡単なアプリケーションから接続し、データの読み書きを試してみる。
  4. 必要に応じて、パフォーマンス監視やセキュリティ設定などを体験してみる。

クラウドとPostgreSQLの力を活用して、より効率的でスケーラブル、そして信頼性の高いシステムを構築しましょう!

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