データ保護の基本:RAIDの仕組みと計算方法を理解する
1. はじめに:データ保護の重要性とRAIDの位置づけ
現代社会において、データはビジネスや個人の活動にとって不可欠な資産です。企業の顧客情報、財務データ、研究開発データから、個人の写真、動画、重要なドキュメントまで、あらゆるデータがデジタル化され、日々生成・蓄積されています。これらのデータが失われることは、単なる不便を超え、事業の停止、信用の失墜、法的な問題、あるいは個人的な思い出の喪失といった深刻な結果を招く可能性があります。
データ損失の原因は多岐にわたります。最も一般的な原因の一つは、データを保存しているストレージデバイス、すなわちハードディスクドライブ(HDD)やソリッドステートドライブ(SSD)の物理的な故障です。ストレージデバイスは精密機器であり、経年劣化や物理的な衝撃、不良セクタの発生などにより、いつかは故障します。また、人為的なミスによる誤った削除や上書き、悪意のあるソフトウェア(マルウェアやランサムウェア)、さらには地震や火災といった自然災害なども、データ損失のリスク要因となります。
これらのリスクからデータを守るためには、多層的なアプローチが必要です。その中核をなす技術の一つが「RAID(Redundant Array of Independent Disks)」です。RAIDは、複数のストレージデバイスを組み合わせて一つの論理的なユニットとして扱うことで、データ保護(耐障害性)と性能向上を両立させる技術です。
本記事では、この重要なデータ保護技術であるRAIDについて、その基本的な仕組みから、主要なRAIDレベルごとの詳細、容量や性能の計算方法、さらには導入・運用上の注意点や限界までを、約5000語というボリュームで包括的かつ詳細に解説していきます。RAIDの概念をしっかりと理解することで、ご自身のデータ保護戦略をより効果的に構築するための一助となることを目指します。
2. RAIDとは何か?その定義と目的
RAIDとは、「Redundant Array of Independent Disks」の略称で、直訳すると「独立ディスクの冗長アレイ」となります。初期の頃は「Inexpensive Disks(安価なディスク)」と表現されることもありましたが、現在では性能や信頼性の向上した「Independent Disks(独立ディスク)」という言葉がより一般的です。
RAIDの基本的な考え方は、複数の物理的なストレージデバイス(通常はHDDやSSD)を仮想的に束ね、あたかも一つの大きなストレージデバイスであるかのようにOSやアプリケーションから認識させることです。これにより、以下のような目的を達成します。
- 耐障害性の向上 (Fault Tolerance): ディスクの故障が発生した場合でも、システム全体の運用を継続し、データの損失を防ぎます。これは、データを複数のディスクに分散させたり、冗長な情報(コピーやパリティ)を持たせたりすることで実現されます。
- 性能の向上 (Performance Improvement): データの読み書きアクセスを複数のディスクに分散させることで、単一のディスクで処理するよりも高速なデータ転送速度を実現します。
つまり、RAIDは単にディスク容量をまとめる技術ではなく、複数のディスクを賢く利用して、データの安全性やアクセス速度を高めるための技術なのです。
RAIDは、実装方法によって「ハードウェアRAID」と「ソフトウェアRAID」に大別されます。ハードウェアRAIDは、専用のRAIDコントローラカードやマザーボード上のチップセットによってRAID機能を実現します。一方、ソフトウェアRAIDは、OSの機能としてRAIDを構築します。これらについては後ほど詳細に解説します。
また、RAIDにはデータの冗長性や分散方法に応じて、いくつかの異なる「レベル」が存在します。それぞれのレベルは、耐障害性、性能、利用可能な容量、必要なディスク数などが異なります。どのRAIDレベルを選択するかは、用途や目的に応じて慎重に検討する必要があります。
3. なぜRAIDが必要なのか?単一ディスクの限界
RAIDがなぜ必要とされているのかを理解するためには、単一のストレージデバイスが抱える限界を知ることが重要です。
まず、最も顕著な限界は「故障率」です。近年のストレージデバイスは信頼性が向上しているとはいえ、機械部品(特にHDD)や電子部品で構成されているため、必ず寿命があり、故障する可能性はゼロではありません。ディスクが故障すると、そのディスクに保存されていたデータは通常、アクセスできなくなります。もしそのディスクが唯一のデータ保存場所であった場合、データは完全に失われます。ビジネス環境であれば、顧客データ、取引記録、業務アプリケーションなどが失われれば、事業継続が困難になるでしょう。個人利用であっても、大切な写真や動画、作成したドキュメントが突然消えてしまうのは非常に困ります。
特に、ストレージの大容量化が進むにつれて、単一のディスクに保存できるデータ量は増大しています。これは便利である反面、もしその大容量ディスクが故障した場合の損失も大きくなることを意味します。また、大容量ディスクはリビルド(後述)に時間がかかる傾向があり、その間のシステム停止時間や再故障のリスクも高まります。
次に、「性能」の限界です。単一のディスクで処理できるデータの読み書き速度には物理的な制約があります。特に、同時に多数のアクセス要求が発生するようなサーバー環境では、ディスクI/O(入出力)がボトルネックとなり、システム全体の応答速度が低下することがしばしばあります。データベースサーバーやファイルサーバー、仮想化環境など、頻繁かつ大量のデータアクセスが必要な用途では、単一ディスクの性能では要求を満たせない場合があります。
これらの課題を解決するために、RAIDが登場しました。複数のディスクを組み合わせることで、ディスク故障によるデータ損失のリスクを低減し、さらに複数のディスクで並行して処理を行うことで、単一ディスクの性能限界を超えることを目指します。RAIDは、単にディスクの物理的な集合ではなく、論理的な構造とデータ配置の工夫によって、ストレージシステム全体の信頼性と性能を高めるためのアーキテクチャなのです。
4. RAIDの基本的な概念:ストライピング、ミラーリング、パリティ
RAIDの様々なレベルを理解する上で、基盤となるいくつかの概念があります。これらは、複数のディスクにデータをどのように配置し、冗長性をどのように確保するかを定義するものです。主要な概念は以下の3つです。
4.1. ストライピング (Striping)
ストライピングは、データを小さなブロックに分割し、そのブロックを複数のディスクに順番に分散して書き込む方式です。例えば、データA、B、C、Dがあった場合、データAをディスク1に、データBをディスク2に、データCをディスク3に、データDをディスク1に、といった具合に、複数のディスクにまたがってデータを書き込みます。
- 仕組み: データを一定サイズの「ストライプユニット(またはブロック)」に分割し、RAIDグループ内の各ディスクに順番に配置します。
- 目的: 複数のディスクに対して同時に読み書きを行うことで、データ転送速度を向上させます。特に大きなファイルをシーケンシャルに読み書きする場合に効果的です。
- 耐障害性: ストライピング自体には冗長性はありません。RAID 0のようにストライピングのみを使用する場合、構成しているディスクが1台でも故障すると、データは完全に失われます。なぜなら、データは分割されているため、一部のブロックが失われると元のデータを復元できないからです。
- 利用可能な容量: 構成する全ディスク容量の合計となります。
ストライピングは主に性能向上に貢献する技術であり、データ保護の観点からはリスクの高い手法です。
4.2. ミラーリング (Mirroring)
ミラーリングは、同じデータを複数のディスクに同時に書き込む方式です。少なくとも2台のディスクが必要で、一方のディスクに書き込まれたデータは、もう一方のディスクにも完全に同じ内容が書き込まれます。鏡(ミラー)のように同じ内容を複製することからこの名があります。
- 仕組み: 同じデータを2台(またはそれ以上)のディスクに複製して保存します。
- 目的: 高い耐障害性を実現します。構成するディスクのうち1台(またはミラーリングしている数に応じて複数台)が故障しても、残りのディスクに全く同じデータが保存されているため、データは失われず、システムは稼働を続けられます。
- 耐障害性: 高いです。ミラーリングされたディスクの数-1台の故障に耐えられます(例:2台でミラーリングなら1台、3台なら2台)。
- 利用可能な容量: 構成する全ディスク容量の合計ではなく、最も小さいディスク容量と同じになります(全てのディスク容量が同じ場合は、1台分の容量のみが利用可能です)。例えば、1TBのディスク2台でミラーリングした場合、利用可能な容量は1TBです。残りの1TBは冗長性のために使用されます。
ミラーリングは耐障害性に優れますが、利用可能な容量が構成ディスク総容量の半分(2台ミラーの場合)になるため、容量効率は悪くなります。また、書き込み時には全てのミラーディスクに書き込む必要があるため、書き込み性能は単一ディスクと同等か、わずかに低下する場合があります。一方、読み取り時には複数のミラーディスクから並行して読み取ることで、読み取り性能を向上させることが可能です(ただし、これはRAIDコントローラの機能に依存します)。
4.3. パリティ (Parity)
パリティは、誤り訂正符号の一種を用いて、データの冗長性を持たせる方式です。元のデータに加えて、特定の計算によって得られる「パリティ情報」を別のディスクに保存します。もしデータディスクが故障した場合、残りのデータディスクとパリティ情報を使って、失われたデータを計算によって復元することができます。
パリティの計算には、通常XOR(排他的論理和)演算が用いられます。例えば、データA, B, Cがあり、パリティPを生成する場合、P = A XOR B XOR C となります。もしデータBが失われた場合、残りのA, C, Pから B = A XOR C XOR P という逆算によってBを復元できます。
- 仕組み: データを複数のディスクに分散(ストライピング)させると同時に、パリティ情報を計算して別のディスク(またはパリティも分散)に保存します。
- 目的: 容量効率を維持しつつ、耐障害性を実現します。ミラーリングよりも少ないディスク容量で冗長性を確保できます。
- 耐障害性: パリティ情報の保存方法やパリティの数によって異なります。一般的に、単一パリティ(RAID 3, 4, 5など)は1台のディスク故障に耐えられます。二重パリティ(RAID 6)は2台のディスク故障に耐えられます。
- 利用可能な容量: 構成する全ディスク容量から、パリティ情報のために使用される容量を除いたものになります。単一パリティの場合は1台分の容量が、二重パリティの場合は2台分の容量がパリティに使用されます。
パリティ方式は、ミラーリングに比べて容量効率が良い反面、パリティの計算と書き込みが必要になるため、書き込み性能は低下する傾向があります。特に、小さなデータを頻繁に書き換えるようなランダムライトのワークロードでは、「ライトペナルティ」と呼ばれる性能低下が発生しやすくなります。また、故障したディスクを交換してデータを復元する「リビルド」の処理は、ミラーリングに比べて計算負荷が高く、時間がかかります。
5. 主要なRAIDレベルの詳細:仕組み、利点、欠点、計算方法
RAIDの基本概念であるストライピング、ミラーリング、パリティを組み合わせたり、特定の配置方法を採用したりすることで、様々なRAIDレベルが定義されています。ここでは、現在一般的に使用されている主要なRAIDレベルについて、その仕組み、利点、欠点、および容量・性能の基本的な計算方法を詳しく見ていきます。
RAIDレベルは、RAID 0から始まり、RAID 1、RAID 5、RAID 6といった単一レベルに加え、複数のレベルを組み合わせた複合レベル(ネストされたRAIDレベル)であるRAID 10、RAID 01などがあります。かつてはRAID 2, 3, 4も定義されていましたが、現在ではほとんど使用されていません。
説明に際しては、ディスク容量を1TBとし、全て同じ容量のディスクを使用することを前提とします。必要なディスク数は、各RAIDレベルによって異なります。
5.1. RAID 0 (ストライピング)
- 仕組み: データをストライプユニットに分割し、RAIDグループを構成する全てのディスクに分散して並行して書き込みます。パリティやデータの複製は行いません。
- 例: 3台のディスク (D1, D2, D3) で構成。
- データブロック: A1, A2, A3, A4, A5, A6…
- 配置: D1にA1, A4…、D2にA2, A5…、D3にA3, A6… のように、ブロックを順番に各ディスクに配置します。
- 必要なディスク数: 2台以上
- 利点:
- 高い性能: 複数のディスクに同時にアクセスするため、特にシーケンシャルリード/ライト性能が大幅に向上します。構成ディスクの数にほぼ比例して性能が向上する可能性があります。
- 利用可能な容量: 構成する全ディスク容量の合計値を最大容量として利用できます。容量効率が最も高いレベルです。
- 欠点:
- 耐障害性がない: 冗長性がないため、構成するディスクが1台でも故障すると、データが完全に失われます。故障リスクは構成ディスクの数に比例して高まります。
- 用途例: データ損失が許容される一時的なデータ保存、キャッシュ、ビデオ編集など、高い性能が最優先されるが、データ保護は他の手段(バックアップなど)で別途行うシステム。本番環境での重要なデータ保存には向きません。
- 計算方法:
- 利用可能な容量: (1ディスクの容量) × (ディスク数)
- 例: 1TBディスク 3台の場合 → 1TB × 3 = 3TB
- 読み取り性能: (1ディスクの読み取り性能) × (ディスク数) (理論値。コントローラやワークロードによる影響が大きい)
- 書き込み性能: (1ディスクの書き込み性能) × (ディスク数) (理論値。コントローラやワークロードによる影響が大きい)
- 利用可能な容量: (1ディスクの容量) × (ディスク数)
5.2. RAID 1 (ミラーリング)
- 仕組み: データを2台(またはそれ以上)のディスクに全く同じ内容で書き込みます(ミラーリング)。
- 例: 2台のディスク (D1, D2) で構成。
- データブロック: A, B, C…
- 配置: D1にA, B, C… を書き込むと同時に、D2にもA, B, C… を書き込みます。常にD1とD2は同じ内容になります。
- 必要なディスク数: 2台以上 (通常は2台)
- 利点:
- 高い耐障害性: 構成ディスクのうち1台が故障しても、残りのディスクに全く同じデータが保存されているため、データは失われません。システムは継続して稼働できます。
- 高速な読み取り: 複数のミラーディスクから同時にデータを読み取ることが可能な場合、読み取り性能が向上することがあります(コントローラ依存)。
- シンプルな仕組み: 理解しやすく、実装も比較的容易です。
- 欠点:
- 容量効率が悪い: 利用可能な容量は、構成ディスク総容量の半分(2台ミラーの場合)になります。コストパフォーマンスは低くなります。
- 書き込み性能: 少なくとも2台のディスクに書き込む必要があるため、書き込み性能は単一ディスクと同等か、わずかに低下する場合があります。
- 用途例: オペレーティングシステム(OS)のシステムドライブ、重要なアプリケーションのデータ、データベースのログファイルなど、高い可用性と信頼性が求められるが、容量効率はそれほど重要ではないシステム。
- 計算方法:
- 利用可能な容量: (最も小さい1ディスクの容量)
- 例: 1TBディスク 2台の場合 → 1TB (2TB中の1TBは冗長性に使用)
- 例: 1TBディスク 3台でトリプルミラーリングの場合 → 1TB (3TB中の2TBは冗長性に使用)
- 読み取り性能: (1ディスクの読み取り性能) または (1ディスクの読み取り性能) × (ミラー数) (コントローラ依存)
- 書き込み性能: (1ディスクの書き込み性能) と同等か若干低下
- 利用可能な容量: (最も小さい1ディスクの容量)
5.3. RAID 5 (分散パリティ)
- 仕組み: データをストライプユニットに分割して複数のディスクに分散して書き込むと同時に、各ストライプのパリティ情報を計算し、データとは別のディスクに分散して書き込みます。パリティは固定されたディスクに書き込まれるのではなく、各ディスクに分散して書き込まれます。これにより、特定のディスクがパリティディスクになるのを防ぎ、ディスク全体の負荷分散を図ります。
- 例: 3台のディスク (D1, D2, D3) で構成。
- データブロック: A1, A2, A3, A4, A5, A6…
- パリティブロック: P12 (A1とA2のパリティ), P45 (A4とA5のパリティ)…
- 配置例 (ストライプ0): D1にA1, D2にA2, D3にP12
- 配置例 (ストライプ1): D1にA4, D2にP45, D3にA5
- 配置例 (ストライプ2): D1にP… , D2に… , D3に…
- 各ストライプにおいて、パリティは必ずデータとは異なるディスクに配置されます。
- 必要なディスク数: 3台以上
- 利点:
- 耐障害性と容量効率のバランス: 1台のディスク故障に耐えつつ、ミラーリングよりも容量効率が良いです。利用可能な容量は構成ディスク総容量から1台分を引いたものになります。
- 比較的良好な読み取り性能: 複数のディスクから並行してデータを読み取れるため、読み取り性能はRAID 0に近いレベルが期待できます。
- 欠点:
- ライトペナルティ: データの書き込み時には、元のデータを読み込み、新しいデータと比較して、新しいパリティ情報を計算し、データとパリティの両方を書き込むという処理が必要です。この「Read-Modify-Write」プロセスにより、特にランダムライト性能が単一ディスクよりも低下します。これを「ライトペナルティ」と呼びます。RAID 5のライトペナルティは通常4倍と言われます(元のデータ読み込み、元のパリティ読み込み、新しいパリティ計算、データ書き込み、パリティ書き込み)。
- リビルド時の性能低下とリスク: 故障したディスクを交換し、パリティ情報と他のデータから失われたデータを復元する「リビルド」処理は、計算負荷が高く、時間がかかります。リビルド中はシステム性能が著しく低下し、またリビルド中に別のディスクが故障すると、データは完全に失われます(ダブルフォールト)。ディスク容量が増大するにつれてリビルド時間も増え、このリスクは高まります。
- 用途例: ファイルサーバー、ウェブサーバー、一般的なアプリケーションサーバーなど、容量、性能、耐障害性のバランスが求められるシステム。ただし、高いランダムライト性能が求められるデータベースなどには向かない場合があります。
- 計算方法:
- 利用可能な容量: (1ディスクの容量) × (ディスク数 – 1)
- 例: 1TBディスク 3台の場合 → 1TB × (3 – 1) = 2TB
- 例: 1TBディスク 5台の場合 → 1TB × (5 – 1) = 4TB
- 読み取り性能: (1ディスクの読み取り性能) × (ディスク数 – 1) (パリティディスクからも読み取り可能だが、実質データディスク数で計算されることが多い)
- 書き込み性能: (1ディスクの書き込み性能) / 4 (ライトペナルティを考慮した概算。実際の性能はワークロードやコントローラに依存)
- 利用可能な容量: (1ディスクの容量) × (ディスク数 – 1)
5.4. RAID 6 (二重分散パリティ)
- 仕組み: RAID 5と同様にデータをストライプして分散書き込みを行いますが、パリティ情報を2種類計算し、それぞれ別のディスクに分散して書き込みます。これにより、2台のディスク故障まで耐えることができます。パリティの計算には、通常、一方にXORを用い、もう一方にはガロア体上の演算など、XORとは異なる計算を用います。
- 例: 4台のディスク (D1, D2, D3, D4) で構成。
- データブロック: A1, A2…
- パリティブロック: P1 (XORパリティ), Q1 (第二パリティ)
- 配置例 (ストライプ0): D1にA1, D2にA2, D3にP1, D4にQ1
- 配置例 (ストライプ1): D1にP…, D2にQ…, D3にA…, D4にA…
- データ、Pパリティ、Qパリティは各ストライプで異なるディスクに分散配置されます。
- 必要なディスク数: 4台以上
- 利点:
- 高い耐障害性: 2台のディスク故障まで同時に耐えることができます。特に大容量ディスクを使用し、リビルド時間が長くなるシステムで、リビルド中の再故障リスクを低減するのに有効です。
- RAID 5に次ぐ容量効率: 利用可能な容量は構成ディスク総容量から2台分を引いたものになります。
- 欠点:
- より大きなライトペナルティ: 2種類のパリティを計算・書き込みする必要があるため、RAID 5よりも書き込み性能が低下します(ライトペナルティは通常6倍と言われます)。
- リビルド時間の増加: RAID 5と同様にリビルドは計算負荷が高く、時間もかかります。また、2台故障した場合のリビルドはさらに複雑で時間を要します。
- 必要なディスク数が多い: 最低4台のディスクが必要です。
- 用途例: 信頼性を最優先し、特に大容量環境で2台故障のリスクを低減したいシステム。ストレージアレイ製品などで広く採用されています。ファイルサーバー、アーカイブストレージなど。
- 計算方法:
- 利用可能な容量: (1ディスクの容量) × (ディスク数 – 2)
- 例: 1TBディスク 4台の場合 → 1TB × (4 – 2) = 2TB
- 例: 1TBディスク 6台の場合 → 1TB × (6 – 2) = 4TB
- 読み取り性能: (1ディスクの読み取り性能) × (ディスク数 – 2) (理論値)
- 書き込み性能: (1ディスクの書き込み性能) / 6 (ライトペナルティを考慮した概算。実際の性能はワークロードやコントローラに依存)
- 利用可能な容量: (1ディスクの容量) × (ディスク数 – 2)
5.5. RAID 10 (RAID 1+0)
- 仕組み: RAID 1(ミラーリング)とRAID 0(ストライピング)を組み合わせた複合レベルです。まず複数のディスクをペアにしてRAID 1グループ(ミラー)を作成し、そのミラーグループ複数をRAID 0としてストライピングします。
- 例: 4台のディスク (D1, D2, D3, D4) で構成。
- D1とD2でRAID 1グループ (ミラーグループM1) を作成。
- D3とD4でRAID 1グループ (ミラーグループM2) を作成。
- ミラーグループM1とM2をRAID 0としてストライピングします。
- データブロック: A1, A2, A3, A4…
- 配置: A1をM1に書き込み(D1とD2に同じデータ)、A2をM2に書き込み(D3とD4に同じデータ)、A3をM1に書き込み… という具合に、ストライプ単位でミラーグループに分散します。
- 必要なディスク数: 4台以上 (2台のRAID 1グループを2つ以上組み合わせるため、常に偶数台)
- 利点:
- 高い性能: RAID 0と同様にストライピングによって性能が向上します。また、RAID 1の読み取り性能向上も期待できます。特にランダムアクセス性能に優れます。
- 高い耐障害性: RAID 1のミラーリングによって耐障害性を確保します。各ミラーグループ内で1台の故障に耐えられます。また、異なるミラーグループであれば、複数のディスクが故障してもデータを保護できます(例: M1のD1とM2のD3が同時に故障してもデータは失われない)。同じミラーグループ内の2台が同時に故障した場合のみデータが失われます(例: M1のD1とD2が同時に故障)。
- 高速なリビルド: ミラーリングベースのため、パリティ計算が不要で、リビルドは単純なディスクコピーとなり、RAID 5/6よりも高速です。
- 欠点:
- コストが高い/容量効率が悪い: RAID 1の組み合わせであるため、利用可能な容量は総容量の半分となり、容量効率はRAIDレベルの中で最も悪いです。
- 用途例: データベースサーバー、トランザクション処理システム、仮想化基盤など、高い性能(特にランダムライト)と高い耐障害性が同時に求められる、非常に重要なシステム。
- 計算方法:
- 利用可能な容量: (1ディスクの容量) × (ディスク数 / 2)
- 例: 1TBディスク 4台の場合 → 1TB × (4 / 2) = 2TB
- 例: 1TBディスク 6台の場合 → 1TB × (6 / 2) = 3TB
- 読み取り性能: (1ディスクの読み取り性能) × (ディスク数) (理論値。各ミラーから並行読み取り可能)
- 書き込み性能: (1ディスクの書き込み性能) × (ディスク数 / 2) (各ミラーグループに並行書き込み可能)
- 利用可能な容量: (1ディスクの容量) × (ディスク数 / 2)
5.6. RAID 01 (RAID 0+1)
- 仕組み: RAID 10と似ていますが、RAID 01はRAID 0とRAID 1の適用順序が逆です。まず複数のディスクをRAID 0としてストライピングしたグループを複数作成し、それらのグループ間をRAID 1としてミラーリングします。
- 例: 4台のディスク (D1, D2, D3, D4) で構成。
- D1とD2でRAID 0グループ (ストライプグループS1) を作成。
- D3とD4でRAID 0グループ (ストライプグループS2) を作成。
- ストライプグループS1の内容をストライプグループS2にミラーリングします。
- 必要なディスク数: 4台以上 (2台以上のディスクでRAID 0グループを2つ以上組み合わせるため、常に偶数台)
- 利点: RAID 10と同様の高い性能と容量効率の悪さ。
- 欠点:
- 耐障害性: RAID 10と比較して耐障害性が劣る場合があります。RAID 0グループ内で1台でも故障すると、そのRAID 0グループ全体が使用できなくなります。例えば、ストライプグループS1内でD1が故障するとS1全体が使用不可になり、S2が健全であればS2からデータを読み取れます。しかし、もしS2内のD3も故障した場合、S1とS2の両方が使用不可となり、データは失われます。RAID 10の場合、M1のD1とM2のD3が故障してもデータは失われませんでした。つまり、RAID 01は同じストライプグループ内で2台故障するとアウトですが、RAID 10は異なるミラーグループであれば複数故障に耐えられます。同じディスク数で比較した場合、RAID 10の方が故障からの回復力が高いと言えます。
- 用途例: RAID 10と同様の用途で使われることがありますが、耐障害性の点でRAID 10が一般的に推奨されます。
5.7. その他のRAIDレベル(参考)
- RAID 2, RAID 3, RAID 4: 歴史的なRAIDレベルで、現在ではほとんど使われていません。パリティの計算方法や配置方法に違いがありますが、RAID 5がこれらに代わって普及しました。
- RAID 50 (RAID 5+0): RAID 5グループを複数作成し、それらをRAID 0でストライピングします。RAID 5よりも性能と耐障害性を向上できます。
- RAID 60 (RAID 6+0): RAID 6グループを複数作成し、それらをRAID 0でストライピングします。RAID 6よりもさらに高い耐障害性と性能を提供します。
- JBOD (Just a Bunch Of Disks): これは厳密にはRAIDではありません。複数のディスクを単に連結して一つの大きな論理ボリュームとして扱いますが、データ分散や冗長性は全くなく、耐障害性も性能向上もありません。ディスク数が増えるほど故障リスクは高まり、1台故障すると全データが失われる可能性があります。
6. RAIDの容量と性能の計算方法:具体的な例
前章で各RAIDレベルの計算方法に触れましたが、ここではより具体的に、同じ容量のディスク(例: 4TB)を複数台使用した場合の、利用可能な容量と理論上の性能について計算例を示します。性能は、単純化のため「単一ディスク性能」を基準とした倍率で示します。実際の性能はRAIDコントローラの種類、キャッシュの有無、ディスクの種類(HDD/SSD)、ワークロード(シーケンシャル/ランダム、リード/ライト比率)、ストライプユニットサイズなどに大きく依存するため、あくまで目安としてください。
計算の前提:
- 使用するディスク: 全て同じ容量、同じ性能
- 1ディスクの容量: 4TB
- 1ディスクの読み取り性能: R (単位は任意、例: MB/s, IOPS)
- 1ディスクの書き込み性能: W (単位は任意)
RAIDレベル | 必要なディスク数 (N) | 利用可能な容量 | 読み取り性能 (理論上の倍率) | 書き込み性能 (理論上の倍率) | 例 (4TBディスク) |
---|---|---|---|---|---|
RAID 0 | 2台以上 | N × 4TB | N × R | N × W | 4台: 4 × 4TB = 16TB R × 4, W × 4 |
RAID 1 | 2台以上 (通常2台) | 4TB | N × R (コントローラ依存) | 1 × W (または低下) | 2台: 4TB R × 2 (可能性), W × 1 |
RAID 5 | 3台以上 | (N – 1) × 4TB | (N – 1) × R | 約 W / 4 | 4台: (4-1) × 4TB = 12TB R × 3, 約 W / 4 |
RAID 6 | 4台以上 | (N – 2) × 4TB | (N – 2) × R | 約 W / 6 | 6台: (6-2) × 4TB = 16TB R × 4, 約 W / 6 |
RAID 10 | 4台以上 (偶数) | (N / 2) × 4TB | N × R | (N / 2) × W | 4台: (4/2) × 4TB = 8TB R × 4, W × 2 |
RAID 50 | 6台以上 (RAID 5 G個, 各RAID 5はM台) | G × (M – 1) × 4TB | (G × M) × R | 約 G × (W / 4) | 6台 (3台RAID5を2個): 2 × (3-1) × 4TB = 16TB R × 6, 約 2 × (W / 4) |
RAID 60 | 8台以上 (RAID 6 G個, 各RAID 6はM台) | G × (M – 2) × 4TB | (G × M) × R | 約 G × (W / 6) | 8台 (4台RAID6を2個): 2 × (4-2) × 4TB = 16TB R × 8, 約 2 × (W / 6) |
具体的な計算例:
容量4TBのHDDを8台使用してRAIDアレイを構築する場合の、利用可能な容量と特徴を比較してみましょう。
- RAID 0 (8台):
- 容量: 8 × 4TB = 32TB
- 特徴: 最高性能だが、1台故障で全損。
- RAID 1 (8台を4組のペアに):
- 容量: 4TB (利用可能なのは1組のペアの容量のみ)
- 特徴: 非常に高い耐障害性だが、容量効率最悪。通常はこんな使い方はしない。RAID 10のベースとなる。
- RAID 5 (8台):
- 容量: (8 – 1) × 4TB = 28TB
- 特徴: 容量効率が良い。1台故障に耐える。書き込み性能にライトペナルティ。リビルドリスクあり。
- RAID 6 (8台):
- 容量: (8 – 2) × 4TB = 24TB
- 特徴: 2台故障に耐える。RAID 5より容量効率は劣るが、耐障害性高い。書き込み性能はRAID 5よりさらに低い。
- RAID 10 (8台, 4組のミラーペア):
- 容量: (8 / 2) × 4TB = 16TB
- 特徴: 高性能かつ高耐障害性。容量効率は悪い。異なるペアであれば複数故障に耐える。リビルド高速。
- RAID 50 (8台, 4台RAID 5グループを2個):
- 容量: 2 × (4 – 1) × 4TB = 2 × 3 × 4TB = 24TB
- 特徴: RAID 5より性能と耐障害性が向上(各RAID 5グループ内で1台まで故障可)。
- RAID 60 (8台, 4台RAID 6グループを2個):
- 容量: 2 × (4 – 2) × 4TB = 2 × 2 × 4TB = 16TB
- 特徴: RAID 6より性能が向上。RAID 10と同様の容量だが、耐障害性(各RAID 6グループ内で2台まで故障可)と書き込み性能が異なる。
このように、同じディスク数でもRAIDレベルによって利用可能な容量や性能、耐障害性は大きく異なります。どのRAIDレベルを選択するかは、必要な容量、予算、性能要件、そして最も重要な耐障害性要件を考慮して決定する必要があります。
補足:ディスク容量が異なる場合のRAID
RAIDアレイを構築する際は、原則として同じ容量、できれば同じモデルのディスクを使用することが推奨されます。異なる容量のディスクを混在させた場合、利用可能な容量は最も小さいディスクの容量に制限されるのが一般的です。
- RAID 0: 全てのディスク容量のうち、最も小さい容量に合わせて切り詰められ、その合計が最大容量となります。例: 1TB, 2TB, 3TBの3台でRAID 0 → 1TB × 3 = 3TB しか利用できない。
- RAID 1: 最も小さいディスク容量までしか利用できません。例: 1TBと2TBの2台でRAID 1 → 1TBしか利用できない。
- RAID 5/6/10など: 同様に、最も小さいディスク容量に合わせて各ディスクの容量が切り詰められます。例: 1TB, 2TB, 3TBの3台でRAID 5 → (3 – 1) × 1TB = 2TB しか利用できない。
異なる容量のディスクを使用すると、システムが複雑になり、管理が難しくなり、期待通りの性能が得られない場合もあります。特別な理由がない限り、同じ容量・モデルのディスクで揃えるのが最善です。
7. ハードウェアRAID vs ソフトウェアRAID
RAID機能は、実装される場所によって大きく二つに分けられます。
7.1. ハードウェアRAID
ハードウェアRAIDは、専用のRAIDコントローラカード(拡張カードとしてサーバーやワークステーションに搭載)や、マザーボード上に組み込まれたRAIDチップセットによって実現されます。
- 仕組み: RAIDコントローラ自体がRAIDの計算処理やディスク制御を行います。OSからは、RAIDアレイ全体が一つの物理ディスクであるかのように見えます。RAIDコントローラには、専用のプロセッサ(RAIDチップ)とキャッシュメモリが搭載されていることが一般的です。
- 利点:
- 高い性能: RAID処理を専用のハードウェアが行うため、CPU負荷が低く、高速なデータ転送や多数の同時アクセスに対応できます。特に複雑なRAIDレベル(RAID 5, 6など)や高性能が求められるRAIDレベル(RAID 10)でそのメリットが大きい。
- OSからの独立性: RAIDの構築・管理はOSに依存せず、コントローラのBIOSや専用ユーティリティで行います。OSの種類に関係なく利用できます。
- 高度な機能: ホットスワップ(システム稼働中にディスク交換)、ホットスペア(予備ディスクによる自動リビルド)、バッテリーバックアップ付きキャッシュ(停電時のデータ保護)、スナップショットなどの高度な機能を持つ製品が多いです。
- 欠点:
- コストが高い: 専用のコントローラカードは高価です。マザーボード内蔵型は比較的安価ですが、機能が限定的な場合があります。
- 互換性: コントローラが故障した場合、全く同じモデルか互換性のあるコントローラでなければRAIDアレイを認識・復旧できない場合があります。
- 柔軟性: 一度設定したRAIDレベルや構成の変更が難しい場合があります。
7.2. ソフトウェアRAID
ソフトウェアRAIDは、オペレーティングシステム(OS)の機能としてRAIDを実現します。Windowsの「ストレージスペース」や「ディスクミラー」、Linuxの「mdadm」、macOSの「ディスクユーティリティ」などがこれに該当します。
- 仕組み: RAIDの計算処理やディスク制御は、OSのカーネルや関連ソフトウェアが担当します。ディスクは個別の物理ディスクとしてOSに認識され、その上でRAIDが構成されます。
- 利点:
- 低コスト: 専用ハードウェアが不要なため、追加費用がかかりません(OSの機能として提供されるため)。
- 高い柔軟性: OSの機能であるため、RAID構成の変更や異なるメーカーのディスクの混在(推奨はされないが)が比較的容易です。ハードウェアに縛られず、異なるハードウェア構成のシステムでもRAIDアレイを移行できる場合があります。
- 欠点:
- CPU負荷が高い: RAID処理をOSのCPUで行うため、特に複雑なRAIDレベルや高負荷なワークロードではシステム全体のCPU負荷が増加し、性能が低下する可能性があります。
- 性能が劣る場合がある: ハードウェアRAIDに比べて、一般的に性能は劣る傾向があります。
- OSへの依存性: OSが起動しないとRAIDアレイにアクセスできません(システムドライブをソフトウェアRAIDにする場合は注意が必要)。また、OSの種類によって利用できるRAIDレベルや機能が異なります。
- 機能の制限: ハードウェアRAIDが持つような高度な機能(ハードウェアホットスペアなど)は利用できないか、ソフトウェア的な実装にとどまります。
どちらを選ぶか?
どちらのRAID方式を選択するかは、用途、予算、求められる性能と信頼性によって異なります。
- ハードウェアRAID: ミッションクリティカルなサーバーシステム、高性能なストレージアレイ、多数のディスクを扱う場合など、高い性能、信頼性、可用性が求められる場合に適しています。初期投資は高くなりますが、長期的な運用においては安定性と管理の容易さでメリットがあります。
- ソフトウェアRAID: 個人利用、小規模なファイルサーバー、コストを抑えたい場合など、そこまで高い性能や可用性が要求されない場合に適しています。柔軟性があり、手軽にRAIDを試すことができます。
最近では、マザーボード内蔵型のチップセットRAID(これもハードウェアRAIDの一種ですが、専用コントローラほど高機能ではないことが多い)や、OSの機能が強化されたソフトウェアRAIDも増えており、両者の境界は曖昧になりつつあります。
8. RAIDの導入と運用上の注意点
RAIDを導入し、効果的に運用するためには、いくつかの重要な注意点があります。
8.1. 適切なRAIDレベルの選択
これは最も重要なステップです。前述の各RAIDレベルの特徴を理解し、以下の要素を考慮して最適なレベルを選択してください。
- 必要な耐障害性: 何台までのディスク故障に耐える必要があるか?(1台ならRAID 1, 5、2台ならRAID 6, 10の一部構成など)
- 性能要件: 読み取りと書き込みのどちらが重要か? シーケンシャルアクセスが多いか、ランダムアクセスが多いか?(性能重視ならRAID 0, 10。ランダムライトが多いならRAID 10が有利など)
- 容量要件と予算: どのくらいの容量が必要か? 容量効率は重要か?(容量効率ならRAID 5, 6が有利、コストならソフトウェアRAIDなど)
- 必要なディスク数: 構成可能なディスク数に制限はないか?
例えば、OSのシステムドライブであればRAID 1(耐障害性最優先)、大容量ファイルサーバーであればRAID 5またはRAID 6(容量と耐障害性のバランス)、データベースサーバーであればRAID 10(性能と耐障害性)といった選び方が考えられます。
8.2. ディスクの選定と混在
前述の通り、RAIDアレイを構成するディスクは、容量だけでなく、可能な限り同じモデル、同じ製造時期のものを使用するのが理想的です。異なるモデルやメーカーのディスクを混在させると、性能が低下したり、予期しない問題が発生したりする可能性があります。特に、異なる速度や回転数のHDDを混在させると、アレイ全体の性能は最も遅いディスクに律速されることが多いです。
また、RAIDアレイ構築時には、同一ロットのディスクを多数使用することを避けるという考え方もあります。これは、製造上のわずかな欠陥などが原因で、同一ロットのディスクが近い時期にまとめて故障する「同時多発故障」のリスクを考慮したものです。重要なシステムでは、購入時期やロットをずらしたディスクでRAIDを組むことも検討されます。
8.3. リビルド(Rebuild)のリスクと対策
RAID 5やRAID 6などのパリティベースのRAIDレベルでは、ディスクが故障した場合、新しいディスクに交換して、残りのデータとパリティ情報から失われたデータを復元する「リビルド」処理が行われます。リビルドは以下の課題を伴います。
- 処理時間の長さ: 大容量ディスクの場合、リビルドには非常に長い時間がかかります(数時間から数日)。
- 性能低下: リビルド中はRAIDコントローラやディスクに大きな負荷がかかるため、システム全体の性能が著しく低下します。
- 再故障リスク: リビルド処理中は、残りの健全なディスクに対して通常よりも高い負荷がかかり、また大量のデータを読み出すことで、普段は顕在化しない不良セクタが発見される可能性が高まります。このリビルド中に別のディスクが故障すると(特にRAID 5で多い)、アレイが復旧不能になり、データが完全に失われるリスクがあります(ダブルフォールト)。
このリスクを低減するために、以下の対策が有効です。
- RAID 6やRAID 10の採用: 2台以上の故障に耐えられるRAIDレベルを選択する。
- ホットスペアの導入: 予備ディスクをRAIDグループに追加しておき、故障時に自動的にリビルドを開始させることで、手動でのディスク交換や設定の手間を省き、復旧までの時間を短縮します。
- 定期的なパリティチェック: データとパリティの一貫性を定期的にチェックし、不良セクタなどを早期に発見・修復します(スクラブや整合性チェックと呼ばれる機能)。
- 高性能なRAIDコントローラ: リビルド処理を高速化できる高性能なコントローラを選択します。
- ディスクの監視と proactive replacement: SMART情報などを活用してディスクの状態を定期的に監視し、故障の兆候が見られるディスクは故障する前に交換します。
8.4. RAIDはバックアップではない
これは非常に重要な点です。RAIDは、ディスク故障などの単一障害点からのデータ損失を防ぎ、システムの可用性を高めるための技術です。しかし、RAIDは「バックアップ」の代わりにはなりません。
RAIDが保護できないデータ損失の原因は多数あります。
- 人為的なミス: 誤ったファイル削除や上書きは、RAIDアレイ上のデータに対しても同様に発生します。RAIDは削除されたファイルを元に戻す機能はありません。
- ソフトウェアの障害: OSやアプリケーションのバグ、ファイルシステムの破損などが原因でデータが破壊される可能性があります。RAIDはデータの論理的な整合性を保証するものではありません。
- ウイルスやマルウェア: ランサムウェアなどによってデータが暗号化されたり破壊されたりした場合、RAIDアレイ上のデータも同様に影響を受けます。
- 物理的な災害: 火災、水害、地震などにより、RAIDアレイを構成する全てのディスクやシステム自体が物理的に破壊される可能性があります。
- 盗難: システム全体が盗難された場合、データも失われます。
これらのリスクからデータを保護するためには、バックアップが必要です。バックアップとは、RAIDアレイ上のデータを別のストレージメディア(テープ、別のHDD、クラウドストレージなど)に複製し、必要に応じてその時点のデータに戻せるようにすることです。理想的には、定期的なバックアップを取得し、そのバックアップデータを物理的に離れた場所に保管する(オフサイトバックアップ)ことで、これらのリスクに対する耐性を高めることができます。
RAID + バックアップ という組み合わせが、強力なデータ保護戦略の基本となります。RAIDは日常的な運用における耐障害性を確保し、バックアップはより広範な災害からの復旧手段を提供します。
8.5. 定期的な監視とメンテナンス
RAIDアレイは、一度構築すれば放置して良いものではありません。構成ディスクの状態、RAIDコントローラのエラーログなどを定期的に監視することが非常に重要です。
- ログの監視: RAIDコントローラやOSのストレージ関連ログを定期的に確認し、警告やエラーが発生していないかをチェックします。
- ディスク状態の監視: SMART情報などを利用して、構成ディスクの健康状態(不良セクタの増加、温度、エラーレートなど)を監視します。
- パリティ整合性チェック (スクラブ): RAID 5/6などでは、定期的にデータとパリティの一貫性をチェックする処理を実行します。これにより、データ化け(Bit Rot)や静かなデータ破壊を発見し、修復することができます。
- ファームウェアの更新: RAIDコントローラやディスクのファームウェアは、性能向上やバグ修正のために定期的に更新されます。安定稼働のためには、ベンダーが提供する最新の安定版ファームウェアを適用することが推奨されます。
- アラート設定: ディスク故障などの問題が発生した場合に、メールなどで管理者へ自動的に通知されるように設定しておくことは必須です。
9. RAIDの限界と将来の展望
RAIDは長年にわたりデータ保護の標準技術として広く利用されてきましたが、ストレージ環境の変化に伴い、いくつかの課題や限界も指摘されています。
9.1. URA(Unrecoverable Read Errors)とリビルドリスク
ディスクの大容量化は、前述の通りリビルド時間の増大と、それに伴うリビルド中の再故障リスクを高めます。特に、特定のモデルのHDDにおいて、リビルド中にURA(Unrecoverable Read Error:回復不可能な読み取りエラー、不良セクタ)が発生し、そのデータブロックを復元するために必要なパリティ情報も同様に失われている場合、アレイ全体が復旧不能になるリスクが指摘されています。ディスクの容量が増えるほど、リビルド時に全容量を読み出す際の累積的なURA発生確率も高まります。
この問題に対して、RAID 6などの2台故障に耐えるレベルへの移行や、より高速なリビルドを可能にする技術(例:迅速なRAID再構築)が求められています。
9.2. SSDにおけるRAID
SSD(Solid State Drive)はHDDと比較して、機械的な稼働部分がなく、高速なランダムアクセス性能、低消費電力といった利点があります。SSDをRAIDアレイに使用する場合、HDDとは異なる考慮が必要です。
- ウェアレベリング: SSDには書き込み回数に寿命(ウェアレベリング)があります。RAID 5/6のようにパリティ計算によって特定のディスクへの書き込みが増えるパターンは、そのディスクの寿命を早める可能性があります。RAID 10は各ディスクへの書き込み量が均等になりやすいため、SSDとの相性が良いとされます。
- TRIMコマンド: OSが不要になったデータブロックをSSDに通知し、内部的に消去処理を行うことで書き込み性能や寿命を維持するTRIMコマンドは、RAIDコントローラが対応している必要があります。ハードウェアRAIDコントローラによってはTRIMコマンドに対応していない場合があり、性能低下や寿命の短縮を招く可能性があります。
- 過剰なプロビジョニング (Over-provisioning): SSD内部には、ユーザーから見えない予備領域(過剰なプロビジョニング領域)があり、ウェアレベリングやガベージコレクション、不良ブロック代替などに使用されます。RAID構築時にこの領域を考慮に入れる必要がある場合もあります。
9.3. RAID以外のデータ保護技術
大容量・分散環境においては、RAID以外のデータ保護技術も登場しています。
- オブジェクトストレージとイレージャーコーディング: Google Cloud StorageやAmazon S3といったオブジェクトストレージは、データを「オブジェクト」として管理し、その内部ではデータを細かく分割して複数のストレージノードに分散保存し、冗長性確保にイレージャーコーディング (Erasure Coding) という技術を利用していることが多いです。イレージャーコーディングはRAID 6を発展させたようなもので、より多くのディスク(ノード)にデータを分散させつつ、少ないオーバーヘッドで高い冗長性を実現できます。RAID 6が「NディスクでK台故障に耐える」という考え方に対し、イレージャーコーディングは「N個のデータチャンクからK個のパリティチャンクを生成し、合計N+K個のチャンクを分散配置。そのうち任意のM個(M<=K)のチャンクが失われても復元可能」といった形で、より柔軟かつ効率的な冗長性を提供します。大容量分散ストレージシステムで広く採用されています。
- 分散ファイルシステム: HDFS (Hadoop Distributed File System) やCephといった分散ファイルシステムも、データを複数のノードに分散保存し、レプリケーション(複製、RAID 1に類似)やイレージャーコーディングを用いてデータ保護を実現しています。
これらの技術は、ペタバイト級の大容量データや、 géographique に分散した環境でのデータ保護に適しています。しかし、一般的なサーバーやPC環境においては、RAIDは依然として主要かつ効果的なデータ保護・性能向上技術であり続けています。
10. まとめ:RAIDを活用した堅牢なデータ保護戦略の構築
本記事では、データ保護の基本であるRAIDについて、その歴史的な背景から、ストライピング、ミラーリング、パリティといった基本的な概念、主要なRAIDレベル(RAID 0, 1, 5, 6, 10など)の詳細な仕組み、利点、欠点、そして容量と性能の計算方法、ハードウェアRAIDとソフトウェアRAIDの違い、さらには導入・運用上の注意点や、RAIDの限界と将来的な技術についても詳しく解説しました。
RAIDは、複数のディスクを組み合わせることで、単一ディスクの故障によるデータ損失のリスクを低減し、あるいはデータアクセス性能を向上させるための強力な技術です。特に、サーバー環境においては、RAIDによる耐障害性の確保は、システム運用継続の観点からほぼ必須と言えるでしょう。
しかし、RAIDは万能ではありません。ディスク故障以外の様々なリスク(人為的ミス、ソフトウェア障害、マルウェア、物理災害など)からのデータ損失を防ぐことはできません。したがって、RAIDはあくまでデータ保護戦略の一部であり、定期的なバックアップと組み合わせて運用することが非常に重要です。RAIDはシステムの可用性を高め、バックアップはデータ消失からの復旧を可能にします。
適切なRAIDレベルの選択は、システムの用途、必要な耐障害性、性能要件、そして予算によって異なります。各RAIDレベルの特性を理解し、自らの要件に最も合ったものを選ぶことが肝心です。また、RAIDアレイを構築した後も、ディスクの状態監視、ログのチェック、定期的なパリティチェックといった適切な運用とメンテナンスが不可欠です。
本記事が、皆様がRAIDの仕組みを深く理解し、ご自身のシステムにおけるデータ保護戦略をより堅牢なものとするための一助となれば幸いです。データの価値は高まる一方であり、それをいかに守るかは、今後もITシステムの設計・運用において最も重要な課題の一つであり続けるでしょう。