Debian 10 “buster” 紹介 – 特徴と変更点

Debian 10 “buster” 紹介 – 特徴と変更点の詳細

はじめに

オープンソースの世界において、Debianは揺るぎない基盤として広く認識されています。その長い歴史、厳格なポリシー、そしてコミュニティ主導の開発モデルは、多くの派生ディストリビューションの礎となり、安定性と信頼性の代名詞として知られています。Debianは、単なるオペレーティングシステム(OS)の集合体ではなく、フリーソフトウェアの理念を追求し、世界中の開発者とユーザーによって支えられる巨大なプロジェクトです。

Debianプロジェクトは1993年にイアン・マードックによって開始されました。その哲学は、完全にフリーなソフトウェアで構成され、ボランティアによって開発および維持されるユニバーサルなOSを提供することにあります。以来、Debianは進化を続け、今日のLinuxディストリビューションにおいて最も影響力のあるプロジェクトの一つとなりました。そのリリースサイクルは比較的長く、一度「stable」としてリリースされると、そのバージョンは数年間にわたってセキュリティアップデートと重要なバグ修正のみが提供されることで知られています。これにより、Debian Stableは、特にサーバー環境や、長期的な安定性が求められるエンタープライズ環境で高い評価を得ています。

各Debianリリースには、ディズニー/ピクサー映画『トイ・ストーリー』のキャラクターから取られたコードネームが付けられます。これは、プロジェクトの初期からの伝統であり、開発者たちに親しみやすさと一貫性をもたらしています。過去のリリースでは「woody」「sarge」「etch」「lenny」「squeeze」「wheezy」「jessie」「stretch」といったコードネームが使われてきました。そして、今回詳細に紹介するのは、これらの伝統を受け継ぐDebian 10「buster」です。「buster」は、アンディ少年が飼っている犬の名前から取られています。

Debian 10 “buster” は、2019年7月6日に正式にリリースされました。これは、約2年にわたる開発期間を経て、「stretch」の後継として登場したメジャーリリースです。Debianの安定版リリースとしては通算10番目にあたります。Debianの安定版ポリシーに基づき、「buster」はリリース後約5年間のサポートが提供されます。最初の3年間はDebian Security teamによるセキュリティアップデート、その後約2年間はLong Term Support (LTS) チームによる限定的なセキュリティアップデートが提供される予定です。

この記事では、Debian 10 “buster” がもたらす主要な特徴、ソフトウェアパッケージの更新、システム基盤の変更、セキュリティの強化、デスクトップ環境の進化など、多岐にわたる変更点と改善について詳細に解説します。Debian 9 “stretch” からのアップグレードを検討している方、新規にDebianの導入を考えている方、あるいは単に最新のDebian Stableがどのような進化を遂げたのかに興味がある方にとって、この記事が包括的な情報源となることを目指します。

それでは、Debian 10 “buster” の世界へ深く潜り込んでいきましょう。

Debian 10 “buster” の概要

Debian 10 “buster” は、Debianプロジェクトの安定版(stable)リリースの最新版として、その名の通り、非常に高い安定性と信頼性を提供します。2019年7月6日のリリース以来、サーバー用途からデスクトップ、開発環境、さらには組み込みシステムまで、幅広い分野で利用されています。

リリースサイクルとサポート期間

Debianの安定版リリースは、通常約2年ごとに新しいバージョンがリリースされます。各安定版リリースは、通常3年間の公式なセキュリティサポートと、その後2年間の長期サポート(LTS)が提供され、合計約5年間にわたってメンテナンスされます。「buster」もこのポリシーに従い、2022年半ばまでセキュリティチームによる公式サポート、その後2024年半ばまでLTSチームによるサポートが提供される予定です。この長期的なサポート体制は、特にエンタープライズ環境や、頻繁なシステムアップデートを避けたい場合に大きなメリットとなります。

「stable」リリースの重要性

Debianにおける「stable」とは、単にバグが少ないという意味だけでなく、リリース後に新しいメジャーバージョンのソフトウェアが追加されないというポリシーを意味します。リリース時に含まれるパッケージは、その後セキュリティフィックスや重要なバグ修正のみが適用され、バージョン番号が大きく変わることはありません。これにより、システムの挙動が予測可能になり、特定のソフトウェアバージョンに依存するアプリケーションやサービスを安定して運用できます。この「リリース後は変化が少ない」という性質こそが、Debian Stableがサーバー用途で絶大な信頼を得ている理由です。

一方、最新のソフトウェアバージョンを常に利用したいユーザー向けには、「testing」や「unstable」(sid)といったブランチも存在しますが、これらは安定性よりも新機能や開発の進捗を優先するため、日常的な利用や本番環境での使用には向きません。「buster」は、その間のバランスを取りたいユーザー、あるいは高い安定性を最優先するユーザーにとって最適な選択肢となります。

用途に適した環境

Debian 10 “buster” は、その汎用性の高さから多岐にわたる用途に適しています。

  • サーバー: Webサーバー(Apache, Nginx)、データベースサーバー(PostgreSQL, MariaDB)、ファイルサーバー、メールサーバーなど、あらゆる種類のサーバー構築に理想的です。安定した基盤と長期サポートは、サーバー運用において最も重要な要素の一つです。
  • デスクトップ: GNOME, KDE Plasma, Xfce, LXQtなど、主要なデスクトップ環境が豊富に用意されています。日常的なオフィスワーク、Webブラウジング、マルチメディア利用、ソフトウェア開発など、個人用デスクトップとしても快適に使用できます。広範なハードウェアサポートと多様なパッケージは、多くのユーザーのニーズに応えられます。
  • 開発環境: 最新ではないものの、安定したバージョンの開発ツールチェイン(GCC, Python, Perl, Rubyなど)が提供されます。特定のバージョンのライブラリやツールが必要な開発プロジェクトにおいて、安定した開発基盤として利用できます。また、Dockerなどのコンテナ技術のサポートも強化されています。
  • 組み込みシステム: サポートされている多様なアーキテクチャ(ARM系など)と、minimalインストールが可能なことから、組み込みデバイスやIoT機器のプラットフォームとしても利用されています。
  • 仮想化環境: KVM, Xen, VirtualBoxなどの仮想化技術上でのゲストOSとしても、ホストOSとしても安定して動作します。

Debian 10 “buster” は、Debianの伝統であるフリーソフトウェアの原則を堅持しつつ、現代的なシステム要件に応える多くの改善と新機能を取り入れています。次のセクションからは、これらの具体的な特徴や変更点について、より深く掘り下げていきます。

主要な特徴と新機能

Debian 10 “buster” は、Debian 9 “stretch” から多くの重要なアップデートと変更を含んでいます。ここでは、特に注目すべき主要な特徴と新機能について詳しく見ていきます。

カーネルの更新:Linux 4.19

オペレーティングシステムの心臓部であるLinuxカーネルは、Debian 10 “buster” ではバージョン4.19系が採用されました。これは、”stretch” の4.9系から大幅なジャンプとなります。カーネルのバージョンアップは、通常、以下のようなメリットをもたらします。

  • 広範なハードウェアサポート: 新しいデバイスドライバが追加され、最新のCPU、GPU、ネットワークインターフェースカード、ストレージコントローラなどのハードウェアへの対応が強化されます。これにより、より新しいハードウェアを搭載したシステムでDebianを円滑に動作させることが可能になります。
  • パフォーマンス向上: スケジューラ、メモリ管理、ファイルシステムなど、カーネル内部の多くのコンポーネントが改善され、システム全体のパフォーマンスが向上する可能性があります。特に、特定のワークロードやI/O処理においてその恩恵を受けられることがあります。
  • セキュリティ強化: カーネルレベルでのセキュリティ機構の追加や改善が行われます。例えば、CPUの投機的実行に関する脆弱性(Meltdown, Spectreなど)への対策も、カーネルアップデートを通じて提供されます。
  • 新機能のサポート: ファイルシステム関連の機能強化(例: Btrfs, XFSの改善)、ネットワーキング機能の追加(例: eBPF関連の機能拡張)、仮想化機能の改善など、さまざまな分野で新しい機能が利用可能になります。

Linux 4.19 LTS(Long Term Support)カーネルがベースとなっているため、長期的なメンテナンスと安定性が期待できます。これはDebian Stableのポリシーと非常に合致しています。

デスクトップ環境の更新

Debianは多様なデスクトップ環境を公式にサポートしていることで知られています。「buster」では、主要なデスクトップ環境がそれぞれ新しいバージョンに更新され、多くの改善や新機能が導入されています。

  • GNOME 3.30: “stretch” のGNOME 3.22から大幅にバージョンアップしました。GNOME 3.30では、パフォーマンスの改善(特にシェル)、ディスク使用量アナライザーやGNOME Boxesなどのアプリケーションの更新、設定パネルの整理などが行われています。最大の変更点の一つは、デフォルトのディスプレイサーバーがWaylandになったことです(後述)。
  • KDE Plasma 5.14: KDE Plasma 5.8からアップデートされました。このバージョンでは、ウィジェット管理、通知システム、Discoverソフトウェアセンターの改善、Waylandサポートの進展などが見られます。安定性と機能性のバランスが取れたデスクトップ環境です。
  • LXQt 0.14: “buster” から新たに公式にサポートされたデスクトップ環境です。LXDEとRazor-qtプロジェクトが統合されて生まれた軽量なデスクトップ環境で、Qtテクノロジーをベースにしています。古いハードウェアやリソースに制約のある環境でも快適に動作することを目指しています。シンプルで分かりやすいインターフェースが特徴です。
  • Xfce 4.12: “stretch” と同じバージョンですが、Debianのパッケージとしては様々な修正や改善が加えられています。軽量でありながら機能が豊富で、カスタマイズ性の高さから根強い人気があります。
  • MATE 1.20: GNOME 2のフォークであるMATEもバージョン1.20に更新されました。伝統的なデスクトップパラダイムを好むユーザーに人気の環境です。HiDPIディスプレイのサポート改善などが含まれています。
  • LXDE 0.99.2: 依然として利用可能ですが、開発はLXQtへの移行が進んでいます。非常に軽量なデスクトップ環境です。

これらのデスクトップ環境は、インストール時に選択可能です。ユーザーは自分の好みやシステムのスペックに合わせて最適な環境を選ぶことができます。

システム基盤の変更

OSの根幹をなすシステム基盤にも重要な変更が加えられています。

  • systemd 241: DebianはInitシステムとしてsystemdを採用しており、「buster」ではバージョン241に更新されました。systemdは、サービスの起動管理、ログ管理(journald)、デバイス管理(udev)、ネットワーク設定(systemd-networkd)、時刻同期(systemd-timesyncd)など、多岐にわたる機能を提供します。systemd 241では、セキュリティ機能の強化、コンテナ関連の改善、ネットワーク設定機能の拡充などが行われています。
  • AppArmorデフォルト有効化: Debian 10のインストーラーで推奨される標準インストールでは、セキュリティ強化機構であるAppArmorがデフォルトで有効化されるようになりました。AppArmorは、強制アクセス制御(MAC: Mandatory Access Control)システムの一つで、特定のアプリケーションがアクセスできるシステムリソース(ファイル、ネットワークなど)をプロファイルに基づいて制限することで、脆弱性が悪用された場合の被害を最小限に抑えるのに役立ちます。これにより、システムのセキュリティレベルが向上します。
  • NTPからtimedatedへの移行(chrony/systemd-timesyncd): 時刻同期のメカニズムが変更されました。従来のNTPデーモン(ntpd)に代わり、デフォルトではsystemd-timesyncdが利用されます。systemd-timesyncdはシンプルで軽量なNTPクライアントです。より高度な時刻同期機能やNTPサーバー機能が必要な場合は、chronyが推奨されるNTP実装として利用できます。chronyは、複雑なネットワーク環境や不安定な接続でも正確な時刻同期を維持するのに優れています。
  • Cryptsetupの新しいデフォルト(LUKS2): ディスク暗号化に使用されるcryptsetupツールは、新しいフォーマットであるLUKS2をデフォルトで使用するようになりました。LUKS2は、より柔軟なメタデータ管理、新しい暗号化アルゴリズムへの対応、リペア機能の強化など、LUKS1に比べて多くの改善が施されています。既存のLUKS1パーティションも引き続き利用可能ですが、新規に暗号化する際はLUKS2が推奨されます。

これらのシステム基盤の変更は、システムの起動速度、安定性、セキュリティ、管理性など、多方面に影響を与えます。

セキュリティの強化

Debianは伝統的にセキュリティを重視していますが、「buster」ではその取り組みがさらに強化されています。

  • AppArmorデフォルト有効化: これはシステム基盤の変更としても挙げましたが、セキュリティ面での重要性が非常に高いため、改めて強調します。AppArmorがデフォルトで有効になることで、インストール直後から多くの標準アプリケーションに対して強制アクセス制御が適用され、潜在的な攻撃対象領域が減少します。
  • APTのセキュリティ関連の改善: パッケージ管理システムAPTにおけるHTTPSサポートが改善され、apt コマンドはデフォルトでHTTPS経由でのリポジトリアクセスを優先するようになりました(リポジトリがHTTPSに対応している場合)。これにより、中間者攻撃(Man-in-the-Middle attack)によるパッケージの改ざんリスクが低減されます。apt-transport-https パッケージはデフォルトでインストールされます。
  • Unattended-Upgradesの推奨: Debianインストーラーでは、自動セキュリティアップデート機能である unattended-upgrades パッケージのインストールが推奨されるようになりました。これにより、ユーザーが手動でアップデートを実行しなくても、セキュリティパッチが自動的に適用され、システムを常に最新の安全な状態に保つことができます。
  • Linuxカーネルのセキュリティ機能: Linux 4.19カーネルに含まれる各種セキュリティ機能(namespaces, cgroups, seccompフィルタリングの強化など)が利用可能です。
  • Fortified Headersの利用: 標準ライブラリ(libc)において、バッファオーバーフローなどの脆弱性を検出しやすくするための「Fortified Headers」がデフォルトで有効化されています。これにより、多くのアプリケーションにおける潜在的なセキュリティ問題が早期に発見されるか、悪用が難しくなります。

これらの変更により、Debian 10 “buster” は、リリース時点でこれまで以上に堅牢なセキュリティ体制を提供しています。

ソフトウェアパッケージの更新

Debianの最大の特徴の一つは、その膨大なソフトウェアパッケージ群です。「buster」には、約57,703個のパッケージ(Debian 9の約51,000個から増加)が含まれており、そのうち約35,500個が新規に追加またはメジャーバージョンアップされたものです。主要なソフトウェアパッケージも大幅に更新されています。

  • 開発ツールチェイン:
    • GCC 8.3: デフォルトのC/C++/FortranコンパイラがGCC 8.3になりました。新しい言語標準への対応や最適化の改善が含まれます。
    • G++ 8.3
    • Clang/LLVM 7.0
    • Python 3.7.3 (デフォルト)、Python 2.7.16 (共存)
    • Perl 5.28
    • PHP 7.3
    • Ruby 2.5
    • Go 1.11
    • Rustc 1.34
    • OpenJRE/JDK 11
  • データベース:
    • PostgreSQL 11
    • MariaDB 10.3
    • MySQL (現在はMariaDBがデフォルトだが、MySQL互換性も高い)
    • SQLite 3.27
  • Webサーバー:
    • Apache 2.4.38
    • Nginx 1.14
  • コンテナ関連:
    • Docker 18.09
    • containerd 1.2
    • runc 1.0rc6
    • kubernetes (kubeadm, kubectl, kubelet) 1.13
  • ライブラリ:
    • Glibc 2.28
    • OpenSSL 1.1.1
    • GnuPG 2.2 (新しい鍵フォーマットへの対応など)
  • その他:
    • Samba 4.9
    • VLC 3.0
    • LibreOffice 6.1
    • GIMP 2.10
    • Inkscape 0.92
    • VirtualBox 6.0
    • Evolution 3.30
    • Thunderbird 60

これらのパッケージ更新により、開発者はより新しいツールやライブラリを利用できるようになり、ユーザーはより多くの機能や改善されたパフォーマンスを持つアプリケーションを利用できます。ただし、Debian Stableのポリシーとして、これらのバージョンは「buster」のリリース時点での安定版であり、リリース後にそのメジャーバージョンが大きく上がることはありません。最新のソフトウェアバージョンを常に追いかけたい場合は、他のディストリビューション(例: Fedora, Arch Linux)や、Debianの”testing”または”unstable”ブランチを検討する必要があります。しかし、「buster」に含まれるソフトウェアは、リリース時点での安定性と機能性のバランスが取れており、多くの用途で十分なものとなっています。

注目すべき変更点と改善

Debian 10 “buster” には、上記の主要な特徴以外にも、ユーザーエクスペリエンスやシステム運用に影響を与える様々な変更点や改善が含まれています。ここでは、特に注目すべきいくつかの点に焦点を当てます。

Waylandのデフォルト化 (GNOME)

GNOMEデスクトップ環境を選択した場合、Debian 10 “buster” では、デフォルトのディスプレイサーバーが従来のX.orgからWaylandに変更されました。これは、Debianデスクトップにおける比較的大規模な変更点の一つです。

  • Waylandとは?
    Waylandは、X.orgサーバーに代わる新しいディスプレイサーバープロトコルです。X.orgが長年にわたって築き上げられた複雑なアーキテクチャを持つ一方、Waylandはよりシンプルで現代的な設計を目指しています。
  • Waylandの利点:
    • セキュリティ: Waylandは、各アプリケーションが他のアプリケーションのウィンドウ内容にアクセスすることを制限することで、X.orgよりも本質的に安全な設計になっています。キーロガーのような攻撃を防ぐのに役立ちます。
    • シンプルさ: 設計がシンプルになったことで、開発やメンテナンスが容易になり、将来的な機能拡張も行いやすくなります。
    • パフォーマンスとスムーズさ: X.orgにおける不要なレイヤーや描画時の余分なコピーを排除することで、特にウィンドウの移動やアニメーションなどにおいて、よりスムーズでティアリングのない描画を実現できます。HiDPI環境でのスケーリングも改善されています。
  • Waylandの欠点と課題:
    • 互換性: 一部の古いアプリケーションや、X.orgに深く依存する特定の機能(例: グローバルショートカットツール、一部の画面キャプチャ/共有ツール、グラフィックドライバによってはハードウェアアクセラレーションが完全でない場合)は、Wayland環境で正しく動作しないか、機能が制限されることがあります。
    • リモートデスクトップ/画面共有: VNCやRDPのような従来のリモートデスクトップ技術は、Waylandの設計とは相性が悪く、別途対応が必要です。PipeWireのような新しい技術がこの問題の解決を目指しています。
    • ドライバの成熟度: Waylandを完全に活用するためには、グラフィックドライバの成熟度も重要です。特にプロプライエタリなNVIDIAドライバなどでは、Waylandサポートが遅れる傾向がありました(「buster」リリース時点では改善が進んでいますが)。

GNOME環境で互換性の問題に遭遇した場合や、特定のX.org依存機能が必要な場合は、ログイン画面でセッションタイプを「GNOME on Xorg」に切り替えることで、従来のX.orgセッションを使用することが可能です。デフォルトがWaylandになったとはいえ、X.orgが利用できなくなったわけではありません。この変更は、将来的なディスプレイ技術への移行を見据えた重要な一歩です。

ネットワーク設定

従来のDebianでは、/etc/network/interfaces ファイルを使った静的なネットワーク設定が一般的でした。Debian 10でもこの方法は引き続きサポートされていますが、デスクトップ環境ではNetworkManager、サーバー用途やsystemdを積極的に活用したい環境ではsystemd-networkdといった、より現代的なネットワーク管理ツールが推奨される傾向にあります。

  • NetworkManager: 主にデスクトップ環境で利用され、GUIツールやコマンドラインツール(nmcli)を通じて、有線、無線、VPNなどのネットワーク接続を簡単に管理できます。動的なネットワーク設定や、複数のネットワークを頻繁に切り替えるような環境に適しています。
  • systemd-networkd: systemdの一部として提供されるネットワーク管理デーモンです。設定ファイル(.networkファイルなど)を用いてネットワークインターフェースを設定します。シンプルで信頼性が高く、サーバー環境やコンテナ環境での利用に適しています。

Debian 10のインストーラーでは、デフォルトでNetworkManagerがインストールされることが多く、特にデスクトップ用途ではこれを使用することになります。サーバー用途で最小構成を選ぶ場合は、/etc/network/interfaces またはsystemd-networkdを手動で設定することになります。ネットワーク設定の管理方法にいくつかの選択肢があることを理解しておくことが重要です。

プリンターとスキャナーのサポート

Debian 10では、プリンターとスキャナーのサポートが大幅に改善されました。特に、ドライバー不要の印刷(Driverless Printing)とスキャン(Driverless Scanning)に関する対応が強化されています。

  • CUPS (Common UNIX Printing System): プリンティングシステムであるCUPSは新しいバージョンに更新され、IPP EverywhereやAirPrintなどのドライバー不要印刷技術への対応が向上しました。これにより、ネットワーク上でこれらの技術に対応したプリンターを自動的に検出し、別途ドライバーをインストールすることなく印刷できるようになります。
  • SANE (Scanner Access Now Easy): スキャンニングライブラリであるSANEも更新され、IPP ScanやeSCLといったドライバー不要スキャン技術への対応が進みました。対応スキャナーであれば、特別なドライバーなしでスキャンが可能になります。

これらの改善により、現代的なプリンターや複合機を使用しているユーザーにとって、セットアップが格段に容易になります。もちろん、従来の専用ドライバーが必要なプリンター/スキャナーも引き続きサポートされます。

UEFIサポートの改善

Debianは以前からUEFI(Unified Extensible Firmware Interface)をサポートしていましたが、「buster」ではそのサポートがさらに洗練されました。特に、Secure Bootへの対応が重要な変更点です。

Secure Bootは、UEFIファームウェアの機能の一つで、OSのブートローダーやカーネルが信頼できる署名を持っているかを確認することで、悪意のあるソフトウェアによる起動プロセスへの介入を防ぎます。Windows 8以降をプリインストールした多くのPCでは、Secure Bootが有効になっています。

Debian 10では、Microsoftが提供する署名サービスを利用して、DebianのGRUBブートローダーとLinuxカーネルモジュール(shimローダー経由)に署名が施されています。これにより、Secure Bootが有効なシステムでも、追加の設定なしにDebianをインストールして起動することが可能になりました。これは、特にデュアルブート環境を構築するユーザーや、Secure Bootを無効にしたくないユーザーにとって朗報です。

ライブイメージとインストーラー

Debian 10のインストーラーも様々な改善を受けています。

  • ライブイメージの種類: GNOME, KDE Plasma, Xfce, LXDE, LXQt, MATEなど、主要なデスクトップ環境を搭載したライブイメージが提供されています。これにより、インストール前に特定のデスクトップ環境を試すことが容易になりました。また、標準のインストーラーイメージとは別に、ライブイメージから直接システムをインストールすることも可能です。
  • NVIDIAファームウェアの追加: 一部のライブイメージには、非フリーなNVIDIAグラフィックカード用のファームウェアが含まれるようになりました。これにより、NVIDIAハードウェアを搭載したシステムでライブ環境を起動する際の表示問題を軽減できる場合があります(ただし、これは非フリーなコンポーネントを含むため、公式のフリーソフトウェアのみのイメージとは別に提供されます)。
  • インストーラーの使いやすさ: インストーラー自体も継続的に改善されており、ハードウェア検出の精度向上や、パーティショニングツールの改良などが行われています。

多言語対応

Debianは世界中のユーザーによって開発され、利用されているため、多言語対応は常に重要な要素です。「buster」では、より多くの言語がサポートされ、翻訳の精度も向上しています。日本語を含む多くの言語で、インストールからデスクトップ環境、主要なアプリケーションに至るまで、十分にローカライズされた環境を利用できます。

アーキテクチャ

Debian 10 “buster” は、以下の9つの公式アーキテクチャをサポートしています。

  • amd64 (64-bit PC)
  • i386 (32-bit PC)
  • armel (EABI)
  • armhf (ARM hard float ABI)
  • arm64 (AArch64)
  • ppc64el (PowerPC 64-bit Little Endian)
  • s390x (IBM System z)
  • mips (Big Endian)
  • mipsel (Little Endian)

特に、arm64はサーバーや組み込みデバイスの分野で重要性を増しており、サポートの強化は歓迎すべき点です。i386アーキテクチャは引き続きサポートされていますが、将来的なサポートについては議論が続いています。しかし、「buster」においては32-bit PC環境での利用も可能です。

これらの変更点と改善は、Debian 10 “buster” が単なるパッケージのアップデート版ではなく、システムの安定性、セキュリティ、使いやすさ、ハードウェアサポートなど、多岐にわたる側面で進化を遂げたリリースであることを示しています。

アップグレードとインストール

Debian 10 “buster” を使い始める方法は主に二つあります:新規インストールと、既存のDebianシステムからのアップグレードです。

Debian 9 “stretch” からのアップグレード手順

Debianの安定版からのアップグレードは、Debianが最も力を入れている部分の一つであり、比較的スムーズに行えるように設計されています。Debian 9 “stretch” から Debian 10 “buster” への標準的なアップグレード手順は以下の通りです。

  1. システムの準備:

    • 現在のシステムのバックアップを取ることを強く推奨します。重要なデータはもちろん、設定ファイルなども含めてバックアップしておくと安心です。
    • システムを最新の状態にアップデートします。まず、apt update でパッケージリストを更新し、次に apt upgrade または apt full-upgrade で現在のバージョンのパッケージをすべて更新します。
    • /etc/apt/sources.list および /etc/apt/sources.list.d/ ディレクトリ内のファイルを編集し、リポジトリのコードネームを “stretch” から “buster” に変更します。セキュリティリポジトリやその他の追加リポジトリも同様に変更します。
    • サードパーティのリポジトリ(例: VirtualBox, Chromeなど)がある場合は、そのリポジトリがbusterをサポートしているか確認し、必要に応じて設定を変更または一時的に無効化します。
  2. アップグレードの実行:

    • apt update を実行して、新しいリポジトリからパッケージリストを取得します。ここでエラーが出ないか確認します。
    • apt upgrade を実行して、システムをアップグレードします。このコマンドは既存のパッケージをアップグレードしますが、新しいパッケージのインストールや既存パッケージの削除は行いません。
    • apt full-upgrade を実行します。このコマンドは、必要に応じて新しいパッケージのインストールや競合するパッケージの削除を行うことで、システム全体を “buster” の状態にアップグレードします。これがアップグレードの主要なステップです。途中で設定ファイルに関する質問(新しいバージョンをインストールするか、現在の設定を維持するかなど)が表示されることがあります。多くの場合、デフォルトの選択肢(通常は新しいバージョンをインストールし、元の設定を.dpkg-oldなどのファイルに保存)で問題ありませんが、カスタマイズしている設定がある場合は慎重に選択してください。
    • アップグレード中にエラーが発生しないか注意深く監視します。
  3. 後処理:

    • 不要になったパッケージを削除します。apt autoremove コマンドを使用すると、他のパッケージに依存されなくなったパッケージを削除できます。
    • システムを再起動します。多くの場合、新しいカーネルやsystemdなどの変更を反映するために再起動が必要です。
    • 再起動後、システムが正常に起動し、主要なアプリケーションが問題なく動作するか確認します。特に、デスクトップ環境、ネットワーク接続、サウンド、プリンターなどの基本的な機能を確認します。

アップグレード時の注意点:

  • リリースノートの確認: アップグレードを行う前に、Debian 10 “buster” の公式リリースノートを必ず確認してください。リリースノートには、既知の問題、非互換性、特定のパッケージに関する注意点などが詳しく記載されています。これはスムーズなアップグレードのために非常に重要です。
  • ディスク容量: アップグレードには十分なディスク容量が必要です。事前にディスク容量を確認しておきましょう。
  • 非互換性: 大幅なバージョンアップを含むパッケージ(例: データベース、プログラミング言語環境など)では、下位互換性が完全に維持されない場合があります。特定のアプリケーションがこれらのパッケージに依存している場合は、アップグレード後にアプリケーションの動作確認や設定の見直しが必要になる可能性があります。
  • GNOMEのWaylandデフォルト化: GNOMEデスクトップを使用している場合、デフォルトがWaylandになります。互換性の問題があれば、ログイン画面でX.orgセッションを選択してください。
  • サービスの状態: systemdのUnitファイルなどが更新されることがあります。アップグレード後にサービスが正常に起動しているか、systemctl status <service_name> などで確認してください。

ほとんどのユーザーにとって、公式の手順に従えばアップグレードは成功しますが、本番環境や重要なシステムの場合は、事前にテスト環境でアップグレードを試すことを強く推奨します。

新規インストール方法

Debian 10 “buster” を新規にインストールする場合、まずインストールイメージを入手する必要があります。

  1. インストールイメージの入手:

    • Debianの公式サイト(www.debian.org)から、使用したいアーキテクチャおよびインストールメディア(DVD、CD、USBメモリ、ネットワークインストールなど)に応じたISOイメージファイルをダウンロードします。
    • デスクトップ環境を含むライブイメージも提供されていますので、インストール前に試してみたい場合はそちらを選べます。
    • 非フリーファームウェアが必要なハードウェア(特に無線LANアダプターや一部のグラフィックカード)を使用している場合は、non-freeファームウェアを含む非公式なイメージが便利です。これらはdebian.org/CD/faq/#firmwareで入手できます。
  2. インストールメディアの作成:

    • ダウンロードしたISOイメージを、DVDに焼くか、USBメモリに書き込みます。USBメモリに書き込む場合は、ddコマンドやEtcherのようなツールを使用します。
  3. インストールプロセスの実行:

    • 作成したインストールメディアからコンピュータを起動します。UEFIまたはLegacy BIOSモードで起動します。
    • 画面の指示に従って、言語、地域、キーボードレイアウトを選択します。
    • ネットワーク設定(有線LANが推奨されますが、非公式イメージを使えば無線LANも設定可能)。
    • ホスト名とドメイン名を設定します。
    • rootパスワードを設定し、新しいユーザーアカウントを作成します。
    • パーティショニングを行います。自動パーティショニングを選択することも、手動で詳細に設定することも可能です。LVMやディスク暗号化(LUKS2がデフォルト)のオプションも選択できます。新規インストールの場合、ファイルシステムの選択(ext4が一般的)や、/, /home, /var, swap などのパーティション分割を行います。
    • ベースシステムのインストールが行われます。
    • パッケージマネージャー(APT)の設定を行います。通常は、最寄りのミラーサイトが自動的に選択されます。
    • インストールするソフトウェアを選択します。デフォルトでは、デスクトップ環境(選択したもの)、標準システムユーティリティなどが選択されています。必要に応じて、Webサーバー、SSHサーバー、データベースサーバーなどのタスクを追加で選択できます。
    • GRUBブートローダーをインストールします。通常は、システムのプライマリディスクのMBRまたはUEFIパーティションにインストールします。
    • インストールが完了したら、インストールメディアを取り出してシステムを再起動します。
  4. インストール後の設定:

    • システムが起動したら、作成したユーザーアカウントでログインします。
    • sudo apt updatesudo apt upgrade を実行し、システムを最新の状態に更新します。
    • 必要に応じて、追加のソフトウェアをインストールしたり、システム設定をカスタマイズしたりします。

推奨されるインストール方法やパーティショニングのヒント:

  • LVM: 論理ボリュームマネージャー(LVM)を使用すると、パーティションのサイズ変更やスナップショット取得が容易になります。特にサーバー用途や柔軟なストレージ管理が必要な場合に推奨されます。
  • ディスク暗号化 (LUKS): 機密性の高いデータを扱う場合は、ディスク全体または重要なパーティションを暗号化することを検討してください。Debian 10ではLUKS2がデフォルトです。
  • パーティション分割: 少なくとも / (root) と swap パーティションを作成するのが一般的です。個人のホームディレクトリを /home パーティションとして分離すると、OSの再インストール時にユーザーデータを維持しやすくなります。サーバーでは /var を分離すると、ログファイルやデータベースファイルなどがシステムパーティションを圧迫するのを防げます。
  • ネットワークインストール (netinst): 最小限のイメージで起動し、必要なパッケージをネットワーク経由でダウンロードしながらインストールする「netinst」イメージは、ディスク容量を節約でき、常に最新のパッケージをインストールできるというメリットがあります。
  • 非フリーファームウェア: 無線LANなどが認識されない場合は、non-freeリポジトリを有効にして必要なファームウェアパッケージをインストールする必要があるかもしれません。非公式のファームウェア込みイメージを使うと、インストール時のハードウェア検出がスムーズになる場合があります。

新規インストールは、システムをクリーンな状態から構築できるため、古い設定やファイルに起因する問題を回避できます。特に大幅な環境変更を伴う場合や、全く新しいハードウェアにインストールする場合は、新規インストールが推奨されます。

コミュニティとサポート

Debianプロジェクトは、世界中のボランティアによって支えられるコミュニティ主導のプロジェクトです。この強力なコミュニティは、開発、ドキュメンテーション、翻訳、ユーザーサポートなど、プロジェクトのあらゆる側面に関わっています。Debianユーザーは、この活発なコミュニティから様々な形でサポートを受けることができます。

  • メーリングリスト: Debianには、様々なトピックに関する多数のメーリングリストが存在します。ユーザー向けの質問リスト ([email protected]) や、開発者向けのリストなどがあり、他のユーザーや開発者に質問したり、情報を共有したりできます。多くの問題は、過去のメーリングリストのアーカイブを検索することで解決策が見つかります。
  • IRCチャンネル: Freenodeネットワーク上には、Debian関連のIRCチャンネル(例: #debian, #debian-ja (日本語), #debian-usersなど)があり、リアルタイムで他のユーザーや開発者とコミュニケーションを取ることができます。緊急性の高い問題や、インタラクティブなサポートが必要な場合に便利です。
  • Debian Wiki: Debian Wikiは、Debianに関する膨大な情報のリソースです。インストールガイド、特定のハードウェアに関する情報、ソフトウェアの設定方法、トラブルシューティングなど、様々なトピックに関する情報がコミュニティによって収集・整備されています。多くの問題の解決策はWikiで見つかります。
  • バグトラッキングシステム (BTS): Debian Bug Tracking System (bugs.debian.org) は、バグの報告、追跡、修正を行うための公式ツールです。問題に遭遇した場合、まずはBTSで同じ問題が報告されていないか検索し、なければ新規に報告することで、開発者による修正を促すことができます。
  • Debian User Forums: 公式ではありませんが、コミュニティによって運営されているユーザーフォーラムも存在します。メーリングリストよりも手軽に質問できる場合があります。
  • ドキュメンテーション: Debianは詳細なドキュメンテーションを提供しています。Debianリファレンス、Debian管理者ハンドブック、公式リリースノートなどは、システムの理解や管理に役立ちます。

セキュリティアップデートの提供体制

Debian Stableの最大の強みの一つは、迅速かつ安定したセキュリティアップデートの提供体制です。Debian Security teamは、報告されたセキュリティ脆弱性に対して迅速に対応し、影響を受けるパッケージの修正版をリリースします。これらのアップデートは、apt コマンド(通常は apt upgradeapt full-upgrade)を通じて利用可能になり、システムのセキュリティを維持するために定期的に適用することが強く推奨されます。先述のunattended-upgradesパッケージを利用すれば、セキュリティアップデートを自動的に適用することも可能です。

Long Term Support (LTS) プロジェクト

公式なセキュリティサポート期間が終了した後も、古い安定版リリースを使い続けたいユーザーのために、Debian LTS (Long Term Support) プロジェクトが存在します。LTSチームは、特定の古い安定版リリースに対して、公式サポート期間終了後さらに約2年間のセキュリティアップデートを提供します。「buster」も、公式サポート終了後にLTSの対象となる予定です。これにより、合計で約5年間、安心して「buster」を利用できる環境が提供されます。LTSはコミュニティのボランティアによって運営されており、特定のアーキテクチャ(amd64, i386, armel, armhf)が主な対象となります。

Debianコミュニティは、DebianというOSがフリーソフトウェアの原則に基づき、誰でも利用・改良できる状態であり続けるための重要な推進力です。何か問題に遭遇した場合や、システムの理解を深めたい場合は、これらの豊富なコミュニティリソースを活用することをお勧めします。

他のディストリビューションとの比較 (簡単に)

Linuxディストリビューションは数多く存在し、それぞれに特徴があります。Debian 10 “buster” を他の主要なディストリビューションと比較することで、その位置づけがより明確になります。

  • Ubuntu: UbuntuはDebianをベースにしていますが、いくつかの点で異なります。

    • リリースサイクル: Ubuntuは通常6ヶ月ごとにリリースされ、LTS版は2年ごとにリリースされます。Debianの約2年ごとのリリースサイクルよりも頻繁です。
    • ソフトウェアの鮮度: UbuntuはDebian Stableよりも新しいバージョンのソフトウェアを多く含みます。特に開発ツールやデスクトップアプリケーションはUbuntuの方が新しい傾向があります。
    • ポリシー: Ubuntuは、Debianよりも非フリーなソフトウェアやドライバを含むことに寛容です。これにより、新しいハードウェアのサポートはUbuntuの方が容易な場合があります。
    • 企業サポート: Canonical社による企業サポートが提供されています。
    • ターゲット: Ubuntuはデスクトップユーザーや特定の開発者コミュニティ(例: AI/ML)を強く意識しています。
    • Debian Stable vs Ubuntu LTS: どちらも長期サポートを提供しますが、Debian Stableはリリース後の変更が非常に少ない点が特徴です。Ubuntu LTSはポイントリリース(例: 20.04.1, 20.04.2)を通じて、新しいカーネルやグラフィックスタックが提供されることがあります。
    • 結論: 最新のソフトウェアを使いたい、企業サポートが必要、デスクトップでの使いやすさを重視するならUbuntu。安定性、フリーソフトウェア原則、サーバー用途での信頼性を重視するならDebian Stableという選択が考えられます。
  • Fedora: Red Hatがスポンサーするコミュニティプロジェクトです。

    • リリースサイクル: 約6ヶ月ごとにリリースされます。リリース間隔はDebianより短く、ソフトウェアは非常に新しい傾向があります。
    • ポリシー: フリーソフトウェアを重視しますが、Debianほど厳格ではありません。新しい技術を積極的に採用する「先進的」なディストリビューションです。
    • 安定性: 最新技術を採用するため、安定性はDebian Stableに比べて劣る可能性があります。あくまで新しい技術の実験場、Red Hat Enterprise Linux (RHEL) の先行開発版という側面があります。
    • 結論: 最新のフリーソフトウェア技術を試したい、開発者向けの機能が必要、リリースサイクルが短い方が良いというユーザー向けです。安定性や長期サポートはDebian Stableの方が優れています。
  • CentOS / AlmaLinux / Rocky Linux: RHELのソースコードを基にした派生ディストリビューションです(CentOSはRHELに近い位置づけから変更されました)。

    • 安定性/サポート: RHELと同様に、非常に長いサポート期間と高い安定性を誇ります。エンタープライズ環境での利用を強く意識しています。
    • ソフトウェアの鮮度: Debian Stableと同様に、リリース後のソフトウェアバージョンは基本的に固定されます。ソフトウェアの鮮度はDebian Stableと同等か、やや古い場合があります。
    • パッケージ: RHEL系のパッケージングシステム(RPM)を使用します。
    • 結論: RHEL互換性が必要、非常に長期的な安定性とサポートが必要なサーバー環境向けです。Debian Stableもサーバー用途に強いですが、パッケージングシステムやコミュニティ文化が異なります。

Debian 10 “buster” の位置づけ:

Debian 10 “buster” は、これらのディストリビューションの中で、以下の特徴を持ちます。

  • 安定性: 極めて高い安定性を提供し、リリース後のソフトウェア変更は最小限です。
  • フリーソフトウェア: フリーソフトウェアの原則を厳格に守り、非フリーなコンポーネメントはデフォルトでは含まれません。
  • 汎用性: サーバーからデスクトップまで、幅広い用途に対応できる多様なパッケージとアーキテクチャをサポートします。
  • コミュニティ: 非常に強力で独立したコミュニティによって支えられています。
  • パッケージ数: 膨大な数のソフトウェアパッケージが利用可能です。
  • リリースサイクル: 比較的長いリリースサイクル(約2年)と長期サポート(約5年)を提供します。

これらの特徴から、Debian 10 “buster” は、特に「安定性」と「フリーソフトウェア」を重視するユーザーや組織、そしてサーバー用途において、優れた選択肢となります。最新のソフトウェアを常に追いかけたいユーザーや、非フリーなドライバの導入を容易に行いたいユーザーにとっては、他のディストリビューションの方が適している場合もあります。しかし、Debianの堅牢な基盤と広範なパッケージは、多くのニーズに応えられるポテンシャルを持っています。

まとめと将来展望

Debian 10 “buster” は、2019年7月6日にリリースされたDebianプロジェクトの安定版の節目となるリリースです。このバージョンは、Debianの長年にわたるフリーソフトウェアの原則と安定性へのコミットメントを維持しつつ、現代的なシステム要件に応えるための多くの重要な更新と改善を含んでいます。

主要な特徴としては、Linux 4.19カーネルへのアップデートによるハードウェアサポートの拡大とパフォーマンス向上、GNOME 3.30(Waylandデフォルト化)、KDE Plasma 5.14、新規追加されたLXQt 0.14など、主要なデスクトップ環境の更新が挙げられます。システム基盤では、systemd 241の採用、AppArmorのデフォルト有効化、NTPからtimedatedへの移行、CryptsetupにおけるLUKS2のデフォルト化など、セキュリティと管理性を向上させる変更が行われました。ソフトウェアパッケージも大幅に更新され、開発ツール、データベース、Webサーバー、コンテナ関連ツールなど、多岐にわたる分野で新しいバージョンが利用可能になりました。

特に注目すべき変更点としては、GNOMEデスクトップにおけるWaylandのデフォルト化があり、これはディスプレイサーバー技術の将来を見据えた大きな一歩です。また、Secure Bootへの対応強化により、より多くのPCでDebianをインストールしやすくなりました。プリンターやスキャナーのドライバー不要サポートの改善も、デスクトップユーザーにとって嬉しい変更点です。

Debian 10 “buster” は、その高い安定性、堅牢なセキュリティ、そして膨大なソフトウェアパッケージの提供により、サーバー、デスクトップ、開発環境など、幅広い用途において信頼できるプラットフォームを提供します。約5年間の長期サポートが約束されているため、一度導入すれば長期にわたって安心して利用できます。

Debian 9 “stretch” からのアップグレードは、公式手順に従えば比較的スムーズに行えますが、重要なシステムの場合は事前のテストとリリースノートの確認が不可欠です。新規インストールも、提供される多様なイメージとインストーラーの改善により、以前より容易になっています。

Debianコミュニティは、このプロジェクトを支える重要な柱です。何か問題に遭遇したり、さらに深く学びたい場合は、メーリングリスト、IRCチャンネル、Wiki、BTSといった豊富なコミュニティリソースを活用することをお勧めします。

Debianプロジェクトの開発は止まることなく続いています。「buster」の次の安定版であるDebian 11「bullseye」の開発も進められています。各開発サイクルを通じて、Debianは常に進化し、フリーソフトウェアの世界におけるその重要な役割を果たし続けています。

もしあなたが、安定性、セキュリティ、そしてフリーソフトウェアの理念を重視するユーザーであれば、Debian 10 “buster” は間違いなく検討に値する優れたオペレーティングシステムです。サーバーとして堅牢な基盤を求める場合も、日常的な使用に耐えうる信頼性の高いデスクトップを求める場合も、「buster」はその期待に応えてくれるでしょう。

この詳細な解説が、Debian 10 “buster” を理解し、その利用を検討する上での助けとなれば幸いです。


参考情報:

(注:この文章は、指定された文字数(約5000語)を目指して詳細に記述されたものです。実際の利用においては、必要な部分を抜粋したり、さらに具体的な情報を追記したりして調整してください。技術的な内容はリリース当時の情報を元に記述しています。)

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