Go言語は本当に「オワコン」なのか?現状と将来性を徹底解説
近年、テクノロジーの世界では新しい言語やフレームワークが次々と登場し、その度に「あの技術はもう古い」「これはもうオワコンだ」といった議論が巻き起こります。Go言語も例外ではありません。特に、登場から10年以上が経過し、RustやZigといった新しいシステム言語が注目を集める中で、「Go言語はもうピークを過ぎたのではないか」「オワコン化しているのではないか」といった声を聞くこともあります。
しかし、本当にGo言語は「オワコン」なのでしょうか? 本記事では、Go言語の誕生背景から、その強みと弱み、現在の立ち位置、そして将来性を徹底的に分析し、「Go言語オワコン説」の真偽を検証していきます。
はじめに:Go言語とは何か? なぜ生まれたのか?
Go言語(Golangとも呼ばれます)は、Googleによって開発されたオープンソースの静的型付けコンパイル言語です。2009年にその存在が発表され、2012年にバージョン1.0がリリースされました。開発の初期段階からRobert Griesemer、Rob Pike、Ken Thompsonといった著名なエンジニアが携わっています。
では、なぜGoogleはGo言語を開発する必要があったのでしょうか? 当時のGoogleでは、大規模な分散システムを構築・運用する上で、既存の言語(主にC++、Java、Pythonなど)にはいくつかの課題がありました。
- C++のコンパイル時間の問題: Googleのソフトウェアは巨大化しており、C++のビルドには膨大な時間がかかっていました。これは開発のイテレーション速度を著しく低下させる要因となっていました。
- 多すぎる言語やバージョン、ライブラリ: Google社内では様々な言語やライブラリが使われており、その多様性がコードの保守性や共通基盤の構築を難しくしていました。
- 並行処理の難しさ: マルチコアプロセッサが一般的になるにつれて、効率的な並行処理の必要性が高まっていましたが、既存の言語での並行処理の実装は複雑でエラーを起こしがちでした(特にC++でのスレッド管理など)。
- 開発効率と実行効率の両立: Pythonのような動的言語は開発効率が高い反面、実行効率に劣ります。一方、C++のようなコンパイル言語は実行効率が高い反面、開発効率が低い傾向にありました。Googleは、この両方を高いレベルで満たす言語を求めていました。
これらの課題を解決するために、Go言語は「シンプルさ」「並行処理の容易さ」「高速なコンパイル」「効率的な実行」「堅牢なソフトウェア構築のサポート」を設計思想の中核として生まれました。
Go言語の設計思想とその「強み」
Go言語がどのような思想に基づいて設計されているのかを知ることは、その強みを理解する上で不可欠です。
- シンプルさと読みやすさ: Go言語の文法は意図的に要素が少なく、非常にシンプルです。例えば、オブジェクト指向におけるクラス継承の概念はありません(インターフェースによるポリモーフィズムは強力です)。また、JavaやC++にあるような複雑な機能(アノテーション、テンプレートメタプログラミングなど)も排除されています。これにより、言語仕様そのものが小さく、学習コストが低いというメリットがあります。さらに、公式に提供される
go fmt
というツールによってコードが自動的にフォーマットされるため、開発者間でコードスタイルが統一されやすく、可読性が高まります。 - 並行処理の容易さ: Go言語の最も革新的な点の一つが、軽量スレッドである「Goroutine」と、そのGoroutine間の安全な通信手段である「Channel」です。OSスレッドよりも遥かに軽量なGoroutineを数万、数十万と簡単に生成でき、Channelを使って安全にデータをやり取りすることで、複雑なロック機構を使わずに並行処理を記述できます。「Don’t communicate by sharing memory; share memory by communicating.(メモリを共有することで通信するのではなく、通信することでメモリを共有せよ)」というGoの哲学がここに凝縮されています。
- 高速なコンパイル: Goコンパイラは、他のコンパイル言語に比べて非常に高速です。これは、言語仕様がシンプルなことに加え、コンパイラ自体が高速に動作するように設計されているためです。開発者はコードを修正する度にすぐにコンパイルして実行できるため、開発のサイクルが高速化します。
- 効率的な実行性能: Go言語はコンパイル言語であり、生成されるネイティブコードは効率的です。メモリ管理はガベージコレクション(GC)によって自動化されていますが、GoのGCは進化を続けており、低レイテンシで動作するように設計されています。これにより、システムプログラミングや高性能なネットワークサービス開発に適したパフォーマンスを発揮します。
- 静的リンクとデプロイの容易さ: Goコンパイラは、必要なライブラリをすべて含んだ単一の実行可能ファイルを生成できます(静的リンク)。これにより、デプロイ先の環境に特定のライブラリがインストールされている必要がなくなり、「依存関係地獄」といった問題を回避できます。サーバーへのデプロイやCLIツールの配布が非常に容易になります。
- 強力な標準ライブラリ: Go言語は、ネットワーキング、HTTP、JSON処理、暗号化、ファイル操作、データベースインターフェースなど、多くの基本的な機能を提供する充実した標準ライブラリを持っています。これにより、外部ライブラリに依存することなく、多くの一般的なタスクをこなすことができます。特に、
net/http
パッケージは高性能なHTTPサーバー/クライアントを簡単に構築できるため、Webサービスのバックエンド開発で広く利用されています。
これらの強みにより、Go言語は特に以下のような分野で急速に普及しました。
- クラウドインフラストラクチャ: DockerやKubernetesといったコンテナ技術/オーケストレーションシステムがGoで開発されたことは非常に大きく、Goをこの分野のデファクトスタンダードに押し上げました。Prometheus, Grafana, Terraform, Consul, etcdなど、多くのクラウドネイティブなインフラツールがGoで書かれています。
- マイクロサービス: GoroutineとChannelによる並行処理の容易さ、高速なコンパイル、単一バイナリでのデプロイ容易性は、マイクロサービスアーキテクチャとの相性が抜群です。各サービスを小さなGoプログラムとして開発・デプロイするスタイルが広く受け入れられています。
- ネットワークサービス: 高性能なHTTPサーバー、APIゲートウェイ、プロキシ、ロードバランサーなど、高い並行処理性能とI/O効率が求められるネットワークアプリケーションの開発にGoは適しています。
- CLIツール: 静的リンクによる単一バイナリ配布の容易さから、クロスプラットフォームで動作するCLIツールの開発にもGoはよく使われています。
Go言語の「弱み」と批判
一方で、Go言語も完璧な言語ではありません。その設計思想ゆえの、あるいは歴史的な経緯からくるいくつかの「弱み」や、開発者コミュニティからの批判も存在します。
- ジェネリクスの遅れ: Go言語は長らくジェネリクス(Generics、総称型)を持っていませんでした。これは、異なる型のデータ構造やアルゴリズムを共通のコードで扱いたい場合に不便をもたらしました。例えば、要素の型を問わない汎用的なリストやマップを実装するのが困難で、インターフェースを使ったり、
interface{}
型を使ったり、コード生成ツールを使ったりする必要がありました。この点は、特にJavaやC#、C++などのジェネリクスに慣れた開発者からの大きな批判の的でした。しかし、Go 1.18でようやくジェネリクスが正式に導入されました。 これにより、この最大の弱みは解消されつつありますが、導入されたジェネリクスが他の言語ほど表現力が豊かではない、あるいはまだ発展途上であるといった意見も一部にはあります。 - エラーハンドリングの冗長性: Go言語の標準的なエラーハンドリングは、関数が戻り値の一つとして
error
型を返し、呼び出し元でif err != nil
というチェックを行うスタイルです。これはシンプルで分かりやすい反面、エラーが発生する可能性のある処理が連続する場合に、コードがif err != nil
で埋め尽くされ、冗長になりやすいという批判があります(「ボイラープレートコード」と呼ばれることがあります)。他の言語にあるような例外処理機構(try-catchなど)がないため、このスタイルが推奨されています。公式のerrors
パッケージによるエラーのラップやアンラップ、エラー型の比較などの機能は強化されていますが、根本的な記述の冗長さについての議論は続いており、将来的な言語仕様の変更(例:try!
のような糖衣構文の導入提案など)も検討されていますが、後方互換性を極めて重視するGoにおいては慎重な議論が必要です。 - 限定的なOOPサポート: 前述の通り、Go言語にはクラス継承がありません。代わりに、構造体とインターフェースによるコンポジション(合成)とポリモーフィズムでオブジェクト指向的な設計を行います。これはGoの設計思想に基づいたものであり、特定の課題(例: 厳格な型階層による柔軟性の低下)を避けるための選択ですが、伝統的なクラスベースのオブジェクト指向に慣れた開発者にとっては、最初戸惑う点となることがあります。しかし、インターフェースはダックタイピングに近い強力な柔軟性を持ち、依存性の注入(DI)などを行う上で非常に有効です。これは弱みというよりは「異なるアプローチ」と捉えるべきでしょう。
- ガベージコレクションの一時停止 (Stop-the-World): Go言語のGCは進化を続けており、初期の頃に比べて一時停止時間は大幅に短縮されましたが、完全にゼロではありません。リアルタイム性が極めて高く、ミリ秒以下のレイテンシが厳密に求められるような一部の特殊なシステム(例: 極めて高速なトレーディングシステムの一部など)では、GCによる一時停止が課題となる可能性がゼロではありません。ただし、ほとんどの一般的なサーバーサイドアプリケーションにおいては、現在のGoのGC性能は十分すぎるほど高速かつ低レイテンシです。
- 成熟したエコシステムの不足 (一部領域): Webフレームワークなど、標準ライブラリだけでは高度な開発には不十分な場合があります。外部のWebフレームワーク(Gin, Echo, Fiberなど)やORM(GORM, sqlboilerなど)は存在し、多くが活発に開発されていますが、Ruby on RailsやDjango、Spring Frameworkのような、長年の歴史を持つ巨大で成熟したエコシステムと比較すると、機能の網羅性やコミュニティの規模、ドキュメントの豊富さという点で劣ると感じる開発者もいるかもしれません。ただし、これはあくまで特定の領域(特にWebアプリケーションのフルスタック開発)における話であり、クラウドネイティブやインフラ領域におけるGoのエコシステムは非常に成熟しています。
「Go言語はオワコン」と言われる理由の考察
Go言語の強みと弱みを踏まえた上で、「Go言語はオワコン」という言説がなぜ生まれるのかを考察してみましょう。
- ピークを過ぎた感: Go言語が技術コミュニティで最も注目を集めたのは、DockerやKubernetesといったキラーアプリケーションが登場し、クラウドネイティブというトレンドの中心にGoが位置づけられた時期かもしれません。これらの技術が成熟し、安定稼働するフェーズに入ると、かつてのような「Goを使えばこんなすごいことができる!」というセンセーショナルな話題は減ります。これは技術が成熟した証拠でもあるのですが、新しい技術の登場に常に飢えている一部の層からは「もう目新しさがない」「流行が終わった」と感じられやすい側面があります。
- 新しい競合言語の台頭: 近年、RustやZigといった新しいシステムプログラミング言語が登場し、それぞれがメモリ安全性や究極的なパフォーマンスといった点でGoとは異なる、あるいは一部でGoを凌駕する強みを打ち出しています。これらの新しい言語に注目が集まることで、相対的にGoの話題性が薄れたと感じる人がいるかもしれません。しかし、後述するように、これらの言語とGoは競合する部分もありますが、得意な領域やトレードオフが異なるため、共存する可能性が高いです。
- 技術トレンドの変化: 現在、技術コミュニティの最大の注目はAI/ML分野に集まっています。この分野ではPythonが圧倒的な強みを持っています。また、フロントエンド技術(React, Vue, Angularなど)やモバイル開発(Swift, Kotlin, Flutterなど)も常に進化しており、これらの分野はGoの主戦場ではありません。Goの得意な領域(バックエンド、インフラ、CLIツールなど)への注目度が相対的に下がったことで、「Goの話を聞かなくなった=オワコン」と感じる人がいるのかもしれません。
- 成熟したことの裏返し: Go言語はもはや「最先端の実験的な言語」ではなく、「ビジネスの現場で安定して使える信頼性の高い言語」としての地位を確立しました。基盤技術として広く使われるようになったことで、その存在が「当たり前」になり、逆にあまり話題に上らなくなったという側面があります。これは「オワコン」なのではなく、「成熟した」と捉えるべきです。例えば、JavaやC++が「オワコン」とあまり言われないのは、それらが長年安定した基盤技術として使われ続けているからです。Goも同じフェーズに入ったと言えるでしょう。
つまり、「Go言語はオワコン」という言説は、多くの場合、技術の「流行」という表面的な側面や、自身の注目分野以外での技術動向への疎さからくる誤解である可能性が高いです。
Go言語の現状:確固たる地位と主要な利用分野
それでは、現在のGo言語はどのような状況にあるのでしょうか? 前述の強みと弱みを踏まえると、Go言語は特定の領域で非常に強く、なくてはならない存在となっています。
現在の主要な利用分野:
- クラウドネイティブ:
- コンテナ: Docker, containerd, Podmanなど、コンテナランタイムの多くがGoで開発されています。
- コンテナオーケストレーション: KubernetesはGoで書かれており、そのエコシステム(etcd, coredns, helmなど)もGoが中心です。CNCF(Cloud Native Computing Foundation)プロジェクトの多くがGoを採用しています。
- サーバーレス: OpenFaaS, KnativeなどのサーバーレスプラットフォームでもGoは広く利用されています。
- IaC (Infrastructure as Code): TerraformはHashiCorp Configuration Language (HCL) を使いますが、実行エンジンはGoで書かれています。
- インフラストラクチャツール:
- 監視・ログ収集: Prometheus, Grafana Agent, Fluentd (の一部), M3DBなど。
- サービスメッシュ/API Gateway: Istio (の一部), Envoy (一部Goで拡張), Traefikなど。
- 分散システム: Consul, etcd, CockroachDB (一部) など。
- プロキシ/ロードバランサー: Nginx Controller (Kubernetes向け), HAProxy Controllerなど。
- ネットワークサービス:
- 高性能なAPIサーバー: マイクロサービスやバックエンドAPIの中心として、Goは高速かつスケーラブルなAPIサーバー構築に広く使われています。
net/http
標準ライブラリや、Gin, Echo, Fiberといった軽量フレームワークがよく利用されます。 - RPCサービス: gRPCとProtocol Buffersを使ったサービス間通信の実装もGoでよく行われます。
- 高性能なAPIサーバー: マイクロサービスやバックエンドAPIの中心として、Goは高速かつスケーラブルなAPIサーバー構築に広く使われています。
- CLIツール:
- Kubernetesの
kubectl
, Docker CLI, Heroku CLI, GitHub CLI (gh
), GoReleaserなど、多くの人気CLIツールがGoで書かれています。配布の容易さが大きなメリットです。
- Kubernetesの
- データ処理:
- 分散データ処理システムの一部(例: Apache FlinkやSparkとの連携部分)、ETLパイプラインの一部など、高性能なデータ処理タスクにGoが使われることがあります。
- セキュリティツール:
- 静的バイナリの作成やネットワーク操作の容易さから、スキャンツールやペネトレーションテストツールなど、セキュリティ関連のツール開発にもGoが使われることがあります。
- FinTech:
- 高速な取引処理やリスク計算など、高い並行処理性能と低レイテンシが求められる金融分野の一部でGoが採用されています。
主要企業のGo言語採用事例
多くの著名なテクノロジー企業がGo言語をプロダクション環境で大規模に利用しています。これは、Goが単なる流行り言葉ではなく、ビジネス上の要求を満たす信頼性の高い技術であることを示しています。
- Google: Goそのものを開発・メンテナンスしており、当然社内の多くのプロジェクトでGoを使用しています。Kubernetes, etcdなども元々はGoogle発です。
- Uber: マイクロサービスアーキテクチャへの移行に伴い、多くのサービスをGoで書き換えました。PythonやNode.jsからの移行事例として知られています。Goの並行処理性能と開発効率が評価されました。
- Dropbox: バックエンドシステムの重要な部分をPythonからGoに移行しました。膨大なデータ処理を行うストレージシステムのパフォーマンス向上にGoが貢献しています。
- Netflix: ストリーミング基盤やインフラストラクチャの一部でGoを利用しています。高負荷な環境での安定性やパフォーマンスが評価されています。
- Twitter: 一部のパフォーマンスが要求されるサービスでGoを利用しています。
- American Express / JPMorgan Chase: 金融分野でのGoの採用事例として挙げられます。リアルタイム処理や高頻度取引システムの一部にGoが使われています。
- Alibaba / Baidu / Tencent: 中国の大手IT企業でもGoは広く利用されており、大規模なサービス開発やインフラ構築に貢献しています。
- その他: Twitch, SoundCloud, Cloudflare, Stripeなど、多くの企業がバックエンドやインフラにGoを採用しています。
これらの事例からも分かる通り、Go言語は特にスケーラビリティ、高可用性、パフォーマンスが求められるシステムにおいて、基盤技術として非常に重要な役割を果たしています。単なるWebサイト制作やモバイルアプリ開発といった用途だけでなく、より低レイヤーに近い、システムの「土台」を支える技術として広く使われています。
Go言語の将来性:進化と新たな可能性
Go言語はすでに成熟した言語ですが、その進化は止まっていません。また、新しい技術トレンドの中でGoが活躍する可能性も秘めています。
進化の方向性:
- ジェネリクスの完成度向上: Go 1.18で導入されたジェネリクスは、今後のバージョンアップでさらに改善・強化されていく可能性があります。より多くのパターンに対応したり、パフォーマンスが最適化されたりすることで、Goの表現力がさらに向上するでしょう。
- エラーハンドリングの改善:
if err != nil
問題に対する根本的な解決策として、言語レベルでの新しいエラーハンドリング機構が提案されており、将来的に導入される可能性があります。ただし、後方互換性を損なわないよう、非常に慎重に検討されています。 - 標準ライブラリとツールの強化: 新しいプロトコルのサポート、既存ライブラリの機能拡充、開発支援ツールの改善など、Goの標準ライブラリとエコシステムは継続的に発展していきます。特に、サプライチェーンセキュリティへの関心の高まりを受けて、モジュール管理や署名に関する機能強化が進んでいます(Go 1.18以降)。
- コンパイラとランタイムの最適化: Goのコンパイラやガベージコレクタは、より高速化、低レイテンシ化、メモリ効率化を目指して継続的に開発が進められています。
- Go 2への展望: ジェネリクスやエラーハンドリングなどの大きな変更は「Go 2」の一部として議論されてきましたが、現在は「Go 2」という明確な区切りを設けず、後方互換性を維持しながら段階的に重要な変更を取り入れていく方針のようです。これは、言語の安定性を重視するGoらしいアプローチと言えます。
新たな可能性:
- WebAssembly (WASM): WebAssemblyは、ブラウザやサーバーサイドでセキュアかつ高性能にコードを実行するためのバイナリ形式です。GoはWASMへのコンパイルをサポートしており、特にWASI (WebAssembly System Interface) と連携することで、サーバーサイドWASMにおける高性能なアプリケーション開発言語としてGoが注目されています。クラウド環境における新しい実行形態として、WASMは大きな可能性を秘めており、Goがその一角を担う可能性があります。
- 組み込み分野: Goのランタイムは比較的小さく、静的リンクによって単一バイナリを生成できることから、一部の組み込みシステムやIoTデバイスでの利用も検討され始めています。リアルタイムOSが必要な厳密な組み込みシステムにはまだ向きませんが、ネットワーク機能を持つ高性能なエッジデバイスなどでの利用が進むかもしれません。
他の言語との比較と棲み分け
「オワコン説」の背景には、他の言語との比較も影響しています。Goは他の主要な言語とどのように異なり、どのように棲み分けていくのでしょうか。
- Python: AI/ML、データサイエンス、スクリプト、Web開発(特にDjango/Flaskを使った快速プロトタイピング)に強い言語です。Goに比べて動的型付けで開発速度が速い反面、実行速度や並行処理性能、メモリ効率の点で劣ります。Goはシステムプログラミング、高性能バックエンド、インフラツールに向いています。両者は明確に得意な領域が異なり、多くの現場で併用されています。
- Java: 長年の実績を持ち、エンタープライズ領域で圧倒的な地位を築いています。大規模開発のための堅牢なエコシステムやツール(Spring, Maven/Gradleなど)が充実しています。Goに比べて言語仕様が複雑で、起動時間やメモリ使用量が多い傾向があります。モダンなマイクロサービスやクラウドネイティブ開発においては、Goの方がシンプルで開発効率が良いと感じられる場面が多いです。既存のJavaシステムとGoベースの新規サービスが共存するケースが多いでしょう。
- Node.js (JavaScript): フロントエンドとバックエンドで同じ言語を使えるのが最大の強みです。イベントループによる非同期処理が得意ですが、CPUバウンドな処理は苦手です。Goは真の並行処理(Goroutineによるマルチコア活用)が得意で、CPUバウンド・I/Oバウンド両方のタスクで高いパフォーマンスを発揮します。開発速度(特にプロトタイピング)はNode.jsが優れる場合もありますが、大規模なバックエンドシステムや分散システムではGoの方がスケーラビリティや信頼性の面で有利なことが多いです。
- Rust: 最近注目されているシステムプログラミング言語です。メモリ安全性(ガベージコレクションなしでデータ競合を排除)と究極的な実行性能に重点を置いています。OS、組み込み、パフォーマンスがクリティカルな領域(ブラウザエンジン、ゲームエンジンなど)で強みを発揮します。Goに比べて学習コストが非常に高いのが難点です。Goは「開発効率と実行効率のバランス」を重視するのに対し、Rustは「実行性能と安全性」を究極まで追求する言語です。インフラのより低レイヤー(カーネルモジュール、高性能ランタイムなど)ではRust、その上のアプリケーションやツールレイヤーではGo、といったように棲み分けが進むと考えられます。競合というよりは、補完関係にある言語と言えるでしょう。
- C++/C#: それぞれ長い歴史と成熟したエコシステムを持ちます。C++は究極のパフォーマンスと低レベル制御が必要な分野(OS、ゲーム、HPCなど)で、C#はWindowsプラットフォームやゲーム開発(Unity)で強いです。Goは、C++より開発効率が高く、C#よりクロスプラットフォーム開発やデプロイが容易といったメリットがあり、特にクラウドネイティブ領域で独自の地位を築いています。
結論として、Go言語は他の言語と完全に置き換わるわけではなく、それぞれの得意な領域で共存していく可能性が高いです。Goは特に「高速な開発サイクル」「高い並行処理性能」「容易なデプロイ」が求められる、クラウドネイティブなバックエンドサービスやインフラツール開発において、今後も主要な選択肢であり続けるでしょう。
結論:「オワコン」どころか、安定と信頼の基盤技術へ
本記事を通じて、Go言語の誕生背景、強み、弱み、現状、そして将来性を詳細に見てきました。結論として、「Go言語はオワコン」という言説は明確に誤りであると言えます。
確かに、かつてのような目新しさやセンセーショナルな話題は減ったかもしれません。新しい言語が登場する中で、技術コミュニティの一部の注目は移っているのも事実です。しかし、これはGo言語が衰退しているのではなく、むしろ成熟期に入り、特定の重要な領域で確固たる地位を確立したことの裏返しです。
Go言語は現在、クラウドインフラストラクチャ、マイクロサービス、高性能ネットワークサービス、分散システム、CLIツールといった分野で、必要不可欠な基盤技術としての地位を築いています。DockerやKubernetesを始めとする多くの重要プロジェクトがGoで開発されており、これは今後も変わらないでしょう。多くの企業がプロダクション環境でGoを大規模に利用しているという事実も、その信頼性と実用性の高さを証明しています。
弱みとして挙げられていたジェネリクスはGo 1.18で導入され、言語は進化を続けています。エラーハンドリングの冗長性などの課題は残っていますが、それらを補って余りあるほどのGoの強み(並行処理の容易さ、開発効率、実行性能、デプロイ容易性など)があるため、多くの開発者や企業にとって魅力的な選択肢であり続けています。
Go言語はもはや「流行りの先端技術」ではなく、「ビジネスを支える安定した信頼性の高い技術」へと変化しました。開発者は、プロジェクトの要件(並行処理の必要性、開発速度、デプロイ環境、チームのスキルセットなど)を考慮し、Goが最適な選択肢であるかを判断すべきです。クラウドネイティブなシステムを構築したい、高い並行処理性能を持つバックエンドサービスを開発したい、配布しやすいCLIツールを作りたい、といった要件がある場合、Goは今でも、そしてこれからも非常に有力な選択肢であり続けるでしょう。
「オワコン」という言葉は、技術の表面的な話題性や一時的なブームに惑わされた、短絡的な評価に過ぎません。Go言語は、その堅牢な設計思想と実用性の高さによって、今後もソフトウェア開発の世界で重要な役割を果たし続けると考えられます。
まとめ
Go言語は、Googleによって開発された静的型付けのコンパイル言語であり、大規模分散システムの課題解決を目指して生まれました。シンプルさ、並行処理の容易さ(GoroutineとChannel)、高速なコンパイル、効率的な実行性能、静的リンクによるデプロイ容易性、強力な標準ライブラリがその主な強みです。
かつてはジェネリクスの欠如やエラーハンドリングの冗長性が弱みとして指摘されましたが、ジェネリクスは導入され、言語は継続的に改善されています。
「Go言語はオワコン」という言説は、技術の成熟や他の新しい技術への一時的な注目によって生まれた誤解である可能性が高いです。実際には、Go言語は現在、クラウドネイティブ(Docker, Kubernetesなど)、インフラストラクチャツール(Prometheus, Terraformなど)、高性能バックエンドサービスといった分野で確固たる地位を築き、多くの著名企業で大規模に利用されています。
Go言語は今後もジェネリクスの改善やエラーハンドリングの検討などを通じて進化を続け、WASMのような新しい領域での活用も期待されます。Python, Java, Node.js, Rustといった他の言語とは、それぞれ得意な領域やトレードオフが異なるため、多くの場合競合ではなく共存の関係にあります。
結論として、Go言語は「オワコン」などではなく、むしろ成熟した信頼性の高い基盤技術として、ソフトウェア開発の現場で今後も重要な役割を果たし続ける可能性が極めて高い言語です。プロジェクトの要件に合致すれば、Goは今でも、そして将来にわたっても非常に優れた選択肢となり得ます。