Spring Boot開発者のためのDocker入門

Spring Boot開発者のためのDocker入門:開発効率を爆上げするコンテナ技術徹底活用ガイド

はじめに:なぜSpring Boot開発者はDockerを学ぶべきなのか?

現代のソフトウェア開発において、Dockerはもはや必須のツールと言えるでしょう。特に、JavaとSpring Bootを使ってアプリケーションを開発している皆さんにとって、Dockerは開発、テスト、そしてデプロイのワークフローを劇的に改善する可能性を秘めています。「私の環境では動くのに、他の人の環境や本番環境では動かない…」といった環境差異の問題、開発環境の構築にかかる時間、依存関係の管理の複雑さなど、多くの開発者が直面する課題を、Dockerは強力に解決してくれます。

かつて、新しいプロジェクトに参加したり、新しいライブラリやミドルウェア(データベース、メッセージキュー、キャッシュなど)を試したりするたびに、そのセットアップに多くの時間を費やす必要がありました。OSのバージョン、インストールされているソフトウェアのバージョン、設定ファイルなど、様々な要因が絡み合い、「依存性の沼」にハマることも少なくありませんでした。

Dockerは、これらの問題を「コンテナ」という軽量な仮想化技術を使って解決します。アプリケーションと、その動作に必要な全てのものを(ライブラリ、設定ファイル、環境変数などを含めて)コンテナという一つのパッケージにまとめます。このコンテナは、どの環境でも一貫して動作することを保証します。これにより、開発者は「環境構築」ではなく「コードを書くこと」により集中できるようになります。

この記事は、Spring Bootを使ってアプリケーションを開発している、あるいはこれから開発しようとしている方を対象に、Dockerの基本的な概念から、実際のSpring BootアプリケーションをDocker化する方法、そして開発や運用に役立つ実践的なテクニックまでを、約5000語にわたって徹底的に解説します。Dockerを使い始めるための第一歩を踏み出し、日々の開発ワークフローをより効率的かつ再現性の高いものにするための知識とスキルを習得することを目的としています。

さあ、Dockerの世界へ飛び込み、あなたのSpring Boot開発を次のレベルに引き上げましょう。

1. Dockerの基本概念を理解する

Dockerを効果的に使うためには、その根幹となる概念を理解しておくことが重要です。ここでは、Dockerとは何か、そして主要な構成要素について解説します。

1.1 Dockerとは?コンテナ技術の概要

Dockerは、アプリケーションとその依存関係を「コンテナ」と呼ばれる標準化されたユニットにパッケージ化するためのプラットフォームです。コンテナは、ホストOS上で分離されたプロセスとして実行され、独自のファイルシステム、ネットワークインターフェース、およびその他のリソースを持ちますが、カーネルはホストOSと共有します。この点が、OSごと仮想化する従来の仮想マシン(VM)と大きく異なります。

1.2 コンテナ vs 仮想マシン (VM)

DockerコンテナとVMは、どちらもアプリケーションを分離された環境で実行するための技術ですが、その仕組みと特性には大きな違いがあります。

特徴 Dockerコンテナ 仮想マシン (VM)
仮想化レベル OSレベル(ホストOSのカーネルを共有) ハードウェアレベル(ハイパーバイザー)
ゲストOS なし(ホストOSを利用) 必要(各VMごとに異なるOSを実行可能)
起動時間 数秒以内(プロセスの起動) 数分(OSの起動)
リソース消費 少ない(必要なライブラリのみ) 多い(ゲストOS全体)
イメージサイズ 小さい(数十MB〜数百MB) 大きい(数GB〜数十GB)
移植性 高い(Docker環境があればどこでも) 比較的高い(ハイパーバイザーの互換性)
ユースケース アプリケーションのパッケージング 異なるOS環境の構築、完全な分離が必要な場合

コンテナはVMに比べて非常に軽量であり、起動が速く、リソース消費も少ないため、マイクロサービスのように多数のアプリケーションインスタンスを動かす場合や、開発・テスト環境を素早く構築・破棄する場合に非常に適しています。

1.3 Docker EngineとDocker CLI

Docker Engineは、コンテナの実行、イメージの構築、ボリュームの管理など、Dockerのコア機能を提供するバックグラウンドサービス(デーモン)です。
Docker CLI (Command Line Interface) は、ユーザーがDocker Engineと対話するためのコマンドラインツールです。docker run, docker build, docker images, docker ps といったコマンドを使って、コンテナやイメージなどのDockerリソースを操作します。

1.4 主要な概念

  • イメージ (Image):
    コンテナを作成するための読み取り専用のテンプレートです。アプリケーションコード、ライブラリ、依存関係、設定ファイルなど、アプリケーションを実行するために必要な全てのものが含まれています。イメージは、Dockerfileと呼ばれるテキストファイルに記述された手順に従って構築されます。イメージは、複数の読み取り専用レイヤーが積み重ねられた構造をしており、これにより効率的なストレージ利用と高速なイメージビルドが可能になります。例: ubuntu, openjdk:17, mysql:8.0.

  • コンテナ (Container):
    Dockerイメージから作成され、実行される分離された環境です。イメージは静的なテンプレートであるのに対し、コンテナは実行中のプロセスです。コンテナは、イメージの読み取り専用レイヤーの上に、書き込み可能なコンテナレイヤーを追加することで作成されます。この書き込み可能なレイヤーに変更が加えられ、コンテナが停止・削除されるとその変更は失われます(永続化しない限り)。

  • Dockerfile:
    Dockerイメージを自動的に構築するための手順を記述したテキストファイルです。Dockerfileには、ベースイメージの指定、ファイルのコピー、コマンドの実行、ポートの公開など、イメージに必要な全ての操作が記述されます。docker build コマンドはこのDockerfileを読み込み、イメージを生成します。

  • レジストリ (Registry):
    Dockerイメージを保管および共有するための集中管理システムです。Docker Hubが最も有名で公開されたレジストリですが、プライベートなレジストリを構築することも可能です。開発者はイメージをレジストリにプッシュ(アップロード)し、他の開発者やサーバーはそこからイメージをプル(ダウンロード)して利用します。

  • ボリューム (Volume):
    コンテナのライフサイクルとは独立してデータを永続化するための仕組みです。コンテナが停止または削除されても、ボリュームに保存されたデータは失われません。データベースのデータや、コンテナ間で共有したい設定ファイルなどに利用されます。

  • ネットワーク (Network):
    コンテナ間の通信や、コンテナとホストOSの間の通信を可能にする仕組みです。Dockerは様々なネットワークドライバを提供しており、コンテナ間の分離や連携を柔軟に設定できます。

これらの概念が、Dockerを使った開発の基礎となります。次に、実際にDocker環境を準備し、Spring BootアプリケーションをDocker化する手順を見ていきましょう。

2. Docker環境のセットアップ

Dockerを使うためには、まずお使いのコンピュータにDocker Engineをインストールする必要があります。開発環境としては、Docker Desktopをインストールするのが最も簡単です。

2.1 Docker Desktopのインストール

Docker Desktopは、Mac、Windows、Linux (Experimental) 向けのアプリケーションで、Docker Engine、Docker CLI、Docker Compose、Kubernetes、GUIインターフェースなどが含まれています。

  • Windowsの場合:
    Docker公式サイトからDocker Desktop for Windowsのインストーラーをダウンロードし、実行します。Windows 10 Pro/Enterprise (バージョン 1903 以降) または Windows 11 が必要で、WSL 2 (Windows Subsystem for Linux 2) を有効にする必要があります(インストーラーが誘導してくれます)。Hyper-V も利用できますが、WSL 2が推奨されています。
  • macOSの場合:
    Docker公式サイトからDocker Desktop for Macのインストーラーをダウンロードし、実行します。Intelチップ搭載MacとAppleシリコン搭載Mac (M1/M2チップなど) の両方に対応したバージョンがあります。
  • Linuxの場合:
    Docker Desktop for Linux (Experimental) または、OSごとの公式インストール手順に従ってDocker EngineとDocker CLIをインストールします。Ubuntu, Debian, Fedora, CentOSなどの主要なディストリビューション向けの手順が公式ドキュメントにあります。

インストールが完了したら、Docker Desktopアプリケーションを起動します。初回起動時には簡単なセットアップやチュートリアルが表示されることがあります。

2.2 インストール後の確認

ターミナルまたはコマンドプロンプトを開き、以下のコマンドを実行してDockerが正しくインストールされ、実行されているかを確認します。

bash
docker version

このコマンドは、DockerクライアントとDocker Engine(サーバー)のバージョン情報を表示します。

bash
docker info

このコマンドは、Docker Engineに関する詳細情報(コンテナ数、イメージ数、ストレージドライバなど)を表示します。

これらのコマンドがエラーなく実行され、バージョン情報などが表示されれば、Docker環境のセットアップは完了です。

3. Spring BootアプリケーションのDocker化

いよいよ、お使いのSpring BootアプリケーションをDockerコンテナとして実行できるようにする手順に入ります。ここでは、簡単なREST APIを持つSpring Bootアプリケーションを例に進めます。

3.1 サンプルSpring Bootアプリケーションの作成

もしお手元にDocker化したいSpring Bootアプリケーションがない場合は、Spring Initializr (start.spring.io) を使って簡単なサンプルプロジェクトを作成しましょう。

  • Project: Maven Project または Gradle Project (お好みで)
  • Language: Java
  • Spring Boot: 最新のStableバージョン
  • Project Metadata: Group, Artifactなどを適当に入力 (例: Group=com.example, Artifact=docker-demo)
  • Dependencies: Spring Web を追加

「GENERATE」ボタンをクリックしてプロジェクトをダウンロードし、お好みのIDE (IntelliJ IDEA, Eclipse, VS Codeなど) で開いてください。

簡単なRESTコントローラーを作成します。

src/main/java/com/example/docker_demo/HelloController.java

“`java
package com.example.docker_demo;

import org.springframework.web.bind.annotation.GetMapping;
import org.springframework.web.bind.annotation.RestController;

@RestController
public class HelloController {

@GetMapping("/")
public String hello() {
    return "Hello from Dockerized Spring Boot App!";
}

}
“`

このアプリケーションは、ルートパス (/) へのGETリクエストに対して “Hello from Dockerized Spring Boot App!” という文字列を返します。

3.2 アプリケーションのビルド

Dockerイメージに含めるために、Spring Bootアプリケーションをビルドして実行可能なJARファイルを作成します。プロジェクトのルートディレクトリで、MavenまたはGradleのコマンドを実行します。

  • Mavenの場合:
    bash
    ./mvnw clean package
  • Gradleの場合:
    bash
    ./gradlew clean build

これらのコマンドは、依存関係をダウンロードし、ソースコードをコンパイルし、テストを実行し、target/ ディレクトリ (Maven) または build/libs/ ディレクトリ (Gradle) に実行可能なJARファイルを生成します。ファイル名は通常、{artifact}-{version}.jar のようになります(例: docker-demo-0.0.1-SNAPSHOT.jar)。

3.3 Dockerfileの作成

プロジェクトのルートディレクトリに Dockerfile という名前のファイルを作成します(ファイル名に拡張子はありません)。このファイルに、イメージを構築するための手順を記述します。

ここでは基本的なDockerfileの例を示します。

“`dockerfile

ベースイメージを指定します。Spring BootアプリなのでJavaの実行環境が必要です。

openjdkはDocker公式のJavaイメージです。ここではバージョン17のTemurinディストリビューション(Eclipse Adoptium)をslim版で指定します。

slim版はJREのみを含み、SDKなどは含まれないためイメージサイズが小さくなります。

FROM eclipse-temurin:17-jre-jammy

コンテナ内の作業ディレクトリを設定します。以降の命令はこのディレクトリ内で実行されます。

WORKDIR /app

ビルド済みの実行可能JARファイルを、ホストOSからコンテナ内の作業ディレクトリにコピーします。

例: target/docker-demo-0.0.1-SNAPSHOT.jar を /app/app.jar としてコピー

ARG JAR_FILE=target/*.jar
COPY ${JAR_FILE} app.jar

アプリケーションが使用するポートを宣言します(ドキュメントのため、必須ではないが推奨)。

EXPOSE 8080

コンテナ起動時に実行されるコマンドを指定します。

ここでは、コピーした実行可能JARファイルをjavaコマンドで実行します。

ENTRYPOINT [“java”, “-jar”, “app.jar”]

CMD [“java”, “-jar”, “app.jar”]

CMDとENTRYPOINTの違いについて補足:

ENTRYPOINTはコンテナ実行時に常に実行されるコマンドの起点となり、CMDはそのENTRYPOINTに渡される引数として機能したり、

ENTRYPOINTが指定されていない場合にデフォルトの実行コマンドとして機能したりします。

単一の実行可能ファイルを動かすシンプルなケースでは、どちらを使っても似たような挙動になりますが、

ENTRYPOINTはコンテナをコマンドラインツールのようにも使えるように設計されています。

Spring Boot実行可能JARのように、単一のプロセスを起動する多くのWebアプリケーションコンテナではCMDを使うのが一般的です。

CMDの場合、docker run <image> command のようにコマンドを上書きして実行することも可能です。

“`

各命令について詳しく解説します。

  • FROM eclipse-temurin:17-jre-jammy:
    新しいイメージを構築する際のベースとなるイメージを指定します。Spring BootアプリケーションはJava仮想マシン上で動作するため、Java実行環境(JRE)を含むイメージが必要です。eclipse-temurin:17-jre-jammy は、Eclipse Adoptiumが提供するOpenJDK 17のJREのみを含むイメージで、Ubuntu 22.04 (jammy) をベースとしています。jre を使うことで、開発やビルドに必要なJDKよりもイメージサイズを小さく抑えることができます。slimalpine タグを持つイメージはさらに小さくなる傾向がありますが、互換性やベースOSの選択(例: Alpine Linuxはmusl libcを使用)に注意が必要です。
  • WORKDIR /app:
    以降の RUN, COPY, CMD, ENTRYPOINT などの命令が実行されるディレクトリをコンテナ内に設定します。これにより、ファイルパスの指定が相対パスで行えるようになり、Dockerfileが見やすくなります。ここでは /app を作業ディレクトリとしています。
  • ARG JAR_FILE=target/*.jar:
    ビルド時に引数として渡すことができる変数を定義します。ここではデフォルト値を target/*.jar としています。これは、Mavenビルドの場合に生成されるJARファイルパスを想定しています。Gradleの場合は build/libs/*.jar に変更する必要があるかもしれません。この ARG は次の COPY 命令で利用されます。
  • COPY ${JAR_FILE} app.jar:
    ホストOS上のファイルやディレクトリを、コンテナ内の作業ディレクトリ(ここでは /app)にコピーします。COPY <ホストパス> <コンテナパス> の形式で指定します。${JAR_FILE} は前の ARG で定義した変数で、ここでは target/*.jar にマッチするファイル(ビルドされたJARファイル)が指定されます。それをコンテナ内の /app ディレクトリに app.jar という名前でコピーしています。
  • EXPOSE 8080:
    このコンテナが外部に公開するポートを宣言します。Spring BootのデフォルトのHTTPポートは8080なので、これを指定しています。この命令はコンテナのネットワーク設定を自動的に行うわけではなく、あくまで「このコンテナはこのポートを使うよ」というドキュメントとしての役割が主です。実際にホストOSのポートとコンテナのポートを紐づける(ポートマッピング)のは、docker run コマンドの -p オプションで行います。
  • CMD ["java", "-jar", "app.jar"]:
    コンテナが起動したときに実行されるコマンドを指定します。配列形式 (["executable", "param1", "param2"]) は「exec形式」と呼ばれ、推奨される形式です。これにより、シグナルが適切にコンテナ内のプロセスに伝達されるなど、より堅牢なプロセス管理が可能になります。ここでは、java -jar app.jar というコマンドを実行して、コピーしたSpring Bootアプリケーション(app.jar)を起動しています。

3.4 .dockerignore ファイルの作成

.gitignore ファイルと同様に、.dockerignore ファイルを作成することで、Dockerイメージに含める必要のないファイルやディレクトリを指定できます。これにより、イメージビルドの速度を向上させたり、不要なファイルがイメージに含まれてしまうのを防いだりできます。

プロジェクトのルートディレクトリに .dockerignore という名前のファイルを作成し、以下のような内容を記述します。

target/
build/
.gradle/
.mvn/
.idea/
*.iml
mvnw
mvnw.cmd
gradlew
gradlew.bat
Dockerfile
docker-compose.yml
.git/
.gitignore
README.md

ビルド生成物(target/, build/)やIDE関連ファイル(.idea/, *.iml)、Gradle/Mavenラッパーファイル、Dockerファイル自体などを無視するように指定しています。

3.5 Dockerイメージのビルド

DockerfileとJARファイルが準備できたら、Dockerイメージをビルドします。プロジェクトのルートディレクトリで、以下のコマンドを実行します。

bash
docker build -t my-spring-app .

  • docker build: イメージビルドコマンドです。
  • -t my-spring-app: ビルドするイメージにタグ(名前とオプションでバージョン)をつけます。ここでは my-spring-app:latest というタグになります(バージョン指定がない場合は :latest が自動でつきます)。タグは [レジストリ名]/[ユーザー名]/[イメージ名]:[タグ名] の形式で指定できますが、ローカルで使う分には [イメージ名]:[タグ名] で十分です。
  • .: ビルドコンテキストパスを指定します。現在のディレクトリ (.) に Dockerfile があることを示しています。Docker Engineはこのディレクトリとそのサブディレクトリ内のファイルにアクセスしてイメージをビルドします。Dockerfile中で COPY . /app のように記述した場合、このコンテキストパス以下のファイルがコピー対象となります。

コマンドを実行すると、Dockerfileの各命令が順番に実行され、イメージが構築されていく様子が表示されます。各命令が1つのレイヤーとしてキャッシュされるため、次回以降のビルドでDockerfileの上の方に変更がなければ、キャッシュが使われてビルドが高速化されます。

ビルドが成功したら、以下のコマンドでイメージリストを確認できます。

bash
docker images

リストの中に my-spring-app というイメージが表示されているはずです。

3.6 Dockerコンテナの実行

ビルドしたイメージからコンテナを起動します。

bash
docker run -p 8080:8080 my-spring-app

  • docker run: コンテナを実行するコマンドです。
  • -p 8080:8080: ポートマッピングを指定します。ホストポート:コンテナポート の形式です。これにより、ホストOSの8080番ポートへのアクセスが、コンテナの8080番ポートに転送されるようになります。Spring Bootアプリケーションはコンテナ内部の8080番ポートでリクエストを待ち受けますが、外部からはホストOSの8080番ポートを通してアクセスできるようになります。
  • my-spring-app: 実行するイメージの名前(タグ)を指定します。

コマンドを実行すると、Spring Bootアプリケーションの起動ログがターミナルに表示されます。

3.7 アプリケーションへのアクセス確認

コンテナが起動したら、Webブラウザを開いて http://localhost:8080/ にアクセスしてみてください。または、curl コマンドを使います。

bash
curl http://localhost:8080/

“Hello from Dockerized Spring Boot App!” というメッセージが表示されれば成功です。Spring BootアプリケーションがDockerコンテナ内で正常に動作しています。

ターミナルで docker run コマンドを実行したターミナルを閉じると、コンテナも停止します。バックグラウンドで実行したい場合は、-d (detached mode) オプションを使います。

bash
docker run -d -p 8080:8080 my-spring-app

この場合、コンテナのIDが表示されてコマンドが終了します。起動中のコンテナは docker ps コマンドで確認できます。

bash
docker ps

コンテナを停止するには、docker stop <コンテナIDまたはコンテナ名> コマンドを使います。コンテナIDは docker ps の出力で確認できます。

bash
docker stop <コンテナID>

4. Dockerfileのベストプラクティス

効率的で保守しやすいDockerイメージを構築するためには、いくつかのベストプラクティスがあります。ここでは特に重要なマルチステージビルドと、その他の推奨事項について解説します。

4.1 マルチステージビルドの活用

Spring BootアプリケーションのビルドにはJDKが必要ですが、実行にはJREだけで十分です。また、ビルドプロセスで使われるツールやソースコード自体は、最終的な実行環境には不要です。シングルステージのDockerfileでこれら全てを含めると、イメージサイズが大きくなり、セキュリティリスクも増加します。

マルチステージビルドは、複数の FROM 命令を使ってDockerfileを分割し、あるステージでビルドした成果物(例: JARファイル)を別のステージ(実行ステージ)にコピーすることで、最終的なイメージに不要なものを含めないようにする手法です。

マルチステージビルドを使ったDockerfileの例:

“`dockerfile

— ビルドステージ —

ビルドに必要なJDKを含むベースイメージを使用します。

FROM eclipse-temurin:17-jdk-jammy AS builder

コンテナ内の作業ディレクトリを設定

WORKDIR /app

Maven/Gradleの依存関係ファイルをコピーします。

これにより、もしソースコードだけに変更があった場合、依存関係ダウンロードのレイヤーがキャッシュされビルドが高速化されます。

Mavenの場合:

COPY pom.xml .
COPY src src

Gradleの場合:

COPY build.gradle settings.gradle .

COPY src src

アプリケーションをビルドします。

Mavenの場合:

RUN ./mvnw clean package -DskipTests

Gradleの場合:

RUN ./gradlew clean build -x test

この例では、ローカルでビルド済みのJARをコピーするシンプルなケースを考えます。

実際のCI/CDパイプラインなどでは、コンテナ内でビルドすることも多いです。

ビルド済みのJARファイルをコピーするために、ホストからファイルをコピーする場所を準備しておきます。

これは単なるプレースホルダーであり、以下の実行ステージでホストからコピーする際に使われます。

(注意: ここでホストからファイルをコピーすると、ビルドステージの目的から外れます。

理想はビルドステージでソースからビルドし、成果物を次のステージに渡すことです。

簡単のため、ここでは「ビルドステージで何かを生成する(例:依存関係をダウンロードしてキャッシュを効かせる)」という意図だけ示し、

最終成果物コピーは後述の実行ステージで行うという前提で読み進めてください。)

— 実行ステージ —

アプリケーションの実行に必要なJREのみを含む軽量なベースイメージを使用します。

FROM eclipse-temurin:17-jre-jammy

コンテナ内の作業ディレクトリを設定

WORKDIR /app

ホストOS上で事前にビルドしたJARファイルを、この実行ステージのコンテナにコピーします。

もしビルドステージでJARを生成した場合は、COPY --from=builder /app/target/*.jar /app/app.jar のように指定します。

ARG JAR_FILE=target/*.jar
COPY ${JAR_FILE} app.jar

アプリケーションが使用するポートを宣言

EXPOSE 8080

コンテナ起動時に実行されるコマンド

CMD [“java”, “-jar”, “app.jar”]
“`

このDockerfileでは、AS builder で最初の FROM に名前をつけて「ビルドステージ」としています。2番目の FROM からが「実行ステージ」です。実行ステージでは、ビルドステージで生成された成果物(ここではJARファイルをコピーする例としていますが、もしビルドステージでビルドしていた場合はビルドステージからコピーします)だけを COPY --from=builder ... 命令を使ってコピーします。

ローカルでビルド済みのJARをコピーするパターンでマルチステージビルドのメリットを享受する場合、ビルドステージで依存関係をダウンロードするコマンドを記述しておき、そのレイヤーキャッシュを利用するという使い方が考えられます。ただし、より一般的なのは、コンテナ内でソースコードからビルドし、その成果物をコピーするという方法です。

4.2 その他の推奨事項

  • 適切なベースイメージの選択:
    OSのディストリビューション(Debian, Alpine, Ubuntuなど)や、Javaの配布元(OpenJDK, Temurin, Azul Zuluなど)、バージョン(17, 21など)、含まれるもの(JDK, JRE, slim)などを目的に合わせて選びます。公式イメージ (openjdk, eclipse-temurin, bellsoft/liberica) はメンテナンスされており安全性が高いです。alpine ベースのイメージは非常に小さいですが、musl libc が原因で一部のJavaライブラリで問題が発生する可能性もあるため注意が必要です。
  • 不要なファイルの削除:
    RUN 命令などで一時ファイルを作成した場合、同じ RUN 命令内で削除するようにします。複数の RUN 命令に分けると、それぞれが別のレイヤーになり、削除しても前のレイヤーにファイルが残ってしまいイメージサイズが削減されません。
  • レイヤーキャッシュの活用:
    DockerはDockerfileの各命令をレイヤーとしてキャッシュします。変更があった命令以降のレイヤーは再構築されます。変更頻度の低い命令(例: 依存関係のコピーやインストール)をDockerfileの上の方に配置し、変更頻度の高い命令(例: アプリケーションコードのコピー)を下の方に配置することで、イメージビルドの高速化が期待できます。Spring Bootの依存関係ダウンロードは時間がかかるため、COPY pom.xml .COPY build.gradle . などを早い段階で行い、依存関係をキャッシュさせるのが有効です。
  • 非特権ユーザーでの実行:
    セキュリティのため、コンテナ内のアプリケーションは root ユーザーではなく、専用の非特権ユーザーで実行するのが推奨されます。Dockerfileに USER <user> 命令を追加してユーザーを指定します。
  • HEALTHCHECKの追加:
    コンテナが正常に動作しているか(例: HTTPエンドポイントが応答するか)を定期的にチェックするための HEALTHCHECK 命令を追加できます。これにより、コンテナオーケストレーター(Kubernetesなど)がコンテナの状態を判断し、異常なコンテナを再起動したり置き換えたりすることができます。

“`dockerfile

Dockerfileの最後の方に追加

HEALTHCHECK –interval=30s –timeout=10s –start-period=5s –retries=3 \
CMD curl -f http://localhost:8080/actuator/health || exit 1
“`
(注: Spring Boot Actuatorが有効になっている必要があります)

5. Docker Composeを使った複数コンテナ管理

実際のアプリケーション開発では、Spring Bootアプリケーション単体で完結することは少なく、データベース(PostgreSQL, MySQL)、メッセージキュー(RabbitMQ, Kafka)、キャッシュ(Redis)、API Gateway、設定サーバーなど、複数のサービスと連携して動作することがほとんどです。これらのサービスを個別にDockerコンテナとして起動・管理するのは手間がかかります。

Docker Composeは、複数のDockerコンテナで構成されるアプリケーションを定義・管理するためのツールです。YAMLファイル (docker-compose.yml) にサービスの構成を記述することで、コマンド一つで必要なコンテナ群をまとめて起動、停止、管理することができます。

5.1 なぜDocker Composeが必要か?

  • 複数サービスの定義: データベースコンテナ、Spring Bootアプリケーションコンテナなど、連携するサービス群を一つのファイルにまとめて定義できます。
  • 依存関係の管理: サービス間の依存関係(例: アプリケーションはデータベースが起動してから起動すべき)を指定できます。
  • 設定の集中管理: ポートマッピング、ボリュームマウント、環境変数、ネットワーク設定などをYAMLファイルに記述し、一元管理できます。
  • 簡単な操作: docker compose up コマンド一つで定義された全てのサービスを起動できます。

5.2 docker-compose.yml ファイルの基本構造

docker-compose.yml ファイルはYAML形式で記述され、通常はプロジェクトのルートディレクトリに配置します。基本的な構造は以下のようになります。

“`yaml
version: ‘3.8’ # Composeファイルのバージョンを指定

services: # アプリケーションを構成する各サービスを定義
service-name-1: # サービスの名前 (コンテナ名としても使われる)
# サービスの設定 (image, build, ports, volumes, environment, depends_onなど)
image: ubuntu:latest # 既存のイメージを使用
# build: . # Dockerfileからイメージをビルドする場合はこちらを使用

service-name-2:
# 別のサービスの設定
image: postgres:14 # 別の既存イメージを使用
ports:
– “5432:5432” # ホストポート:コンテナポート のポートマッピング
environment: # コンテナ内の環境変数を設定
POSTGRES_DB: mydatabase
POSTGRES_USER: myuser
POSTGRES_PASSWORD: mypassword
volumes: # データの永続化やホストとのファイル共有
– db_data:/var/lib/postgresql/data # 名前付きボリューム db_data をコンテナパスにマウント
depends_on: # このサービスが依存するサービスを指定 (起動順序に影響)
– service-name-1

volumes: # 名前付きボリュームを定義 (省略可能、使う場合のみ)
db_data: # 上記サービスで使用しているボリュームをここで定義
“`

  • version: Docker Composeファイルのフォーマットバージョンを指定します。新しいバージョンほど新しい機能が使えますが、古いDocker Engineとの互換性も考慮する必要があります。通常は最新の安定版を指定します(例: ‘3.8’)。
  • services: このセクション配下に、アプリケーションを構成する各サービス(コンテナ)を定義します。キーがサービス名となります。
  • image: 既存のDockerイメージの名前を指定します。レジストリからプルされます。
  • build: Dockerfileを使ってイメージをビルドする場合に指定します。. を指定すると、現在のディレクトリにあるDockerfileを使ってビルドします。
  • ports: ホストOSのポートとコンテナのポートをマッピングします。外部からコンテナ内のサービスにアクセスできるようになります。
  • environment: コンテナ内の環境変数を設定します。データベースの接続情報や、アプリケーションの設定などを渡すのに便利です。
  • volumes: データの永続化やホストOSとのファイル共有を設定します。
  • depends_on: このサービスが依存するサービスを指定します。Composeは依存関係を解決して、依存されるサービスを先に起動します。
  • volumes (トップレベル): 名前付きボリュームを定義します。これにより、コンテナが削除されてもデータが保持される永続的なストレージ領域を作成できます。

5.3 Spring Bootアプリケーションとデータベースを含むdocker-compose.yml の作成

先ほどのSpring Bootアプリケーションと、開発でよく使うPostgreSQLデータベースを連携させる例を考えます。

プロジェクトのルートディレクトリに docker-compose.yml ファイルを作成します。

“`yaml
version: ‘3.8’

services:
# Spring Bootアプリケーションサービス
app:
# Dockerfileを使ってイメージをビルドする場合
build: .
# 既にイメージをビルド済みでそれを使う場合(ローカルレジストリやDocker Hubにある場合)
# image: my-spring-app:latest
ports:
– “8080:8080” # ホストの8080ポートとコンテナの8080ポートをマッピング
environment: # アプリケーション内のDB接続設定に使う環境変数を定義
SPRING_DATASOURCE_URL: jdbc:postgresql://db:5432/mydatabase
SPRING_DATASOURCE_USERNAME: myuser
SPRING_DATASOURCE_PASSWORD: mypassword
depends_on: # アプリケーションはDBに依存する
– db
# 開発中にコード変更をコンテナに反映させるためのbind mount例 (後述)
# volumes:
# – .:/app # ホストのプロジェクトディレクトリをコンテナの作業ディレクトリにマウント

# PostgreSQLデータベースサービス
db:
image: postgres:14 # PostgreSQLの公式イメージを使用
ports:
– “5432:5432” # ホストの5432ポートとコンテナの5432ポートをマッピング (オプション、appサービスだけなら不要)
environment: # DBの初期設定に必要な環境変数を定義
POSTGRES_DB: mydatabase
POSTGRES_USER: myuser
POSTGRES_PASSWORD: mypassword
volumes:
– db_data:/var/lib/postgresql/data # DBデータを永続化するためのボリュームをマウント
# healthcheck: # DBコンテナが起動して接続可能かチェックする (オプション)
# test: [“CMD-SHELL”, “pg_isready -U $$POSTGRES_USER -d $$POSTGRES_DB”]
# interval: 10s
# timeout: 5s
# retries: 5

ボリューム定義 (DBデータ永続化用)

volumes:
db_data:
“`

Spring Bootアプリケーション側の設定:
この docker-compose.yml に合わせて、Spring Bootアプリケーションはデータベース接続情報として環境変数を参照するように設定する必要があります。application.properties または application.yml で以下のように記述します。

src/main/resources/application.properties

“`properties

環境変数からDB接続情報を読み込む

spring.datasource.url=${SPRING_DATASOURCE_URL}
spring.datasource.username=${SPRING_DATASOURCE_USERNAME}
spring.datasource.password=${SPRING_DATASOURCE_PASSWORD}
spring.jpa.hibernate.ddl-auto=update # 開発用設定、本番ではcreate-dropなどは避ける
“`

Spring Bootはデフォルトで spring.datasource.url などのプロパティ値を環境変数から読み込む機能を持っています(環境変数名は大文字、._ に置き換え)。

5.4 コンテナ群の起動と操作

docker-compose.yml ファイルがあるディレクトリで、以下のコマンドを実行すると、定義されたサービス群(appdb)が起動します。

bash
docker compose up -d

  • docker compose up: docker-compose.yml を読み込んでサービスを起動します。
  • -d: デタッチモード。バックグラウンドでコンテナを起動し、コマンド実行後もプロンプトに戻ります。

起動が完了したら、docker ps コマンドで起動中のコンテナを確認できます。

bash
docker ps

Composeによって起動されたコンテナは、通常 {ディレクトリ名}-{サービス名}-{連番} のような名前になります(例: docker-demo-app-1, docker-demo-db-1)。

起動したサービス群のログをまとめて確認するには、以下のコマンドを使います。

bash
docker compose logs

特定のサービスのログだけを見たい場合は、サービス名を指定します。

bash
docker compose logs app

コンテナ群を停止するには、以下のコマンドを使います。

bash
docker compose down

このコマンドは、docker compose up で起動したコンテナ、ネットワーク、ボリューム(名前付きボリュームはデフォルトでは削除されない)を停止・削除します。完全にクリーンアップしたい場合は -v オプションでボリュームも削除します(DBデータなどが消えるので注意)。

bash
docker compose down -v # ボリュームも削除

Docker Composeを使うことで、Spring Bootアプリケーションとそれに必要なミドルウェア環境を、単一のコマンドで簡単に立ち上げたり破棄したりできるようになります。これは開発環境やテスト環境を構築する際に非常に便利です。

6. データ永続化

コンテナは基本的に使い捨てであり、停止・削除されるとコンテナ内部のファイルシステムへの変更は失われます。データベースのデータなど、コンテナのライフサイクルを超えて永続化したいデータがある場合は、Dockerのボリューム機能を利用する必要があります。

6.1 コンテナはエフェメラル(一時的)であることの理解

コンテナはイメージから起動され、その実行中にファイルシステムへの変更が発生します(例: ログ出力、ファイルアップロード、データベースへの書き込み)。これらの変更はコンテナ自身の書き込み可能なレイヤーに保存されます。しかし、コンテナが停止し、docker rmdocker compose down などで削除されると、この書き込み可能なレイヤーも破棄され、全ての変更が失われます。

したがって、アプリケーションが永続的に保持する必要のあるデータ(例: データベースファイル、ユーザーのアップロードファイル、ログファイルなど)は、コンテナの外部に保存する必要があります。Dockerではそのための仕組みとして「ボリューム」と「バインドマウント」を提供しています。

6.2 Volumeを使ったデータの永続化

Volumeは、Dockerが管理するホストOS上の特定の領域にデータを保存する推奨される方法です。VolumeはDocker CLI (docker volume create) または Docker Composeファイルで定義・管理され、コンテナのライフサイクルから独立しています。コンテナが削除されてもVolumeはデフォルトでは保持されます。

  • 名前付きボリューム (Named Volumes):
    名前をつけて管理されるボリュームです。例: db_data。Composeファイルや docker volume create で作成します。Dockerがホスト上のどこにデータを保存するかを管理するため、開発者はパスを意識する必要がありません。バックアップや移行が比較的容易です。

  • バインドマウント (Bind Mounts):
    ホストOS上の特定のディレクトリやファイルを、コンテナ内の指定したパスに直接マウントする方法です。ホストOSのファイルシステム構造に依存します。開発中のコードをコンテナにマウントして、コード変更を即座に反映させたい場合などに便利です。ホスト側のパスを指定する必要があります。

docker-compose.yml でのVolumeの定義と利用は、前のセクションのPostgreSQLの例で示しました。

“`yaml

… services 定義 …

services:
db:
image: postgres:14
# … その他の設定 …
volumes:
– db_data:/var/lib/postgresql/data # db_data という名前付きボリュームをコンテナ内のDBデータディレクトリにマウント

… volumes 定義 …

volumes:
db_data: # ここで名前付きボリューム ‘db_data’ を定義
“`

このように定義することで、PostgreSQLコンテナの /var/lib/postgresql/data ディレクトリへの書き込みは、ホストOS上のDockerが管理する db_data という名前付きボリュームに保存されます。コンテナを docker compose down しても、db_data ボリュームはデフォルトでは削除されないため、次に docker compose up で新しいDBコンテナを起動しても、以前のデータが引き継がれます。

バインドマウントの例は、開発ワークフローのセクションでコードのホットリロードのために説明します。

6.3 永続化の注意点

  • データのバックアップ: Volumeを使っても、ホストOSの障害などには対応できません。重要なデータは定期的にバックアップを取る必要があります。
  • パーミッション: Volumeやバインドマウントを使う際、ホストOS上のファイル/ディレクトリのパーミッションと、コンテナ内のユーザーのパーミッションの整合性に注意が必要です。特に非特権ユーザーでコンテナを実行する場合、マウント先のディレクトリの所有権やパーミッションを適切に設定する必要があります。
  • パフォーマンス: バインドマウントはホストOSのファイルシステム性能に依存します。VolumeはDockerの最適化が入る場合があり、大規模なI/OではVolumeの方がパフォーマンスが良いことがあります。

7. ネットワーク

コンテナは分離された環境で実行されますが、多くの場合は他のコンテナや外部ネットワークと通信する必要があります。Dockerは柔軟なネットワーク機能を提供しており、コンテナ間の通信や外部からのアクセスを設定できます。

7.1 Dockerのネットワークの種類

Dockerは複数のネットワークドライバをサポートしています。

  • Bridge: Dockerのデフォルトのネットワークドライバです。Docker Engineはコンテナ起動時にデフォルトのbridgeネットワークにコンテナを接続します。同じbridgeネットワーク内のコンテナは互いにIPアドレスで通信できます。Docker Composeは、docker-compose.yml で定義されたサービスに対して、デフォルトで一つのbridgeネットワークを作成し、サービス名をホスト名としてコンテナ間で名前解決できるようにします。
  • Host: コンテナがホストOSのネットワークスタックを直接使用します。コンテナは独自のIPアドレスを持たず、ホストOSと同じIPアドレスとポート空間を共有します。パフォーマンスは高いですが、分離レベルが低くなります。
  • None: ネットワークインターフェースを持たないコンテナを作成します。外部との通信は一切できません。
  • Overlay: 複数のDockerデーモンにまたがるネットワークを作成し、SwarmモードやKubernetesのようなクラスター環境で複数のホスト上のコンテナが通信できるようにします。

7.2 Docker Composeが作成するデフォルトネットワーク

docker-compose.yml を使ってサービスを起動すると、Docker Composeはプロジェクトディレクトリ名(または -p オプションで指定した名前)に基づいた名前で、一つのbridgeネットワークを自動的に作成します。そして、そのネットワークに定義された全てのサービスコンテナを接続します。

このComposeが作成するデフォルトネットワークの重要な特徴は、サービス名を使ってコンテナ間で通信できることです。例えば、先ほどの docker-compose.yml では、Spring Bootサービスは app、PostgreSQLサービスは db という名前でした。Spring Bootアプリケーション内からPostgreSQLに接続する際、接続URLのホスト名として db を指定できます。

“`properties

application.properties (docker-compose.yml の environment で指定した内容)

spring.datasource.url=jdbc:postgresql://db:5432/mydatabase
“`

ここで db は、Composeネットワーク内で db サービスコンテナのIPアドレスに名前解決されます。これにより、コンテナの動的なIPアドレスを気にすることなく、サービス名で他のコンテナにアクセスできます。

7.3 ポートマッピング (ports) と公開 (expose)

  • ports: ホストOSのポートとコンテナのポートをマッピングし、外部(ホストOSやインターネット)からコンテナ内のサービスにアクセスできるようにしますhost_port:container_port の形式で指定します。docker-compose.ymlports セクションで定義します。

  • expose: DockerfileまたはComposeファイルで、コンテナが待ち受けるポートを宣言します。これはあくまでドキュメンテーションまたはネットワーク設定の補助的な役割であり、ホストOSとのポートマッピングを自動で行うものではありません。主に、同じComposeネットワーク内の他のコンテナに対して、どのポートでサービスを提供しているかを知らせるために使われます。Composeネットワーク内でのサービス間の通信は、expose を指定しなくてもサービス名とコンテナポートで可能です。

Spring Bootアプリケーションの例では、外部からブラウザやcurlでアクセスできるようにするために ports: - "8080:8080" を指定しました。もしこのアプリケーションが他のコンテナからのみアクセスされ、外部からの直接アクセスが不要な場合は、ports を省略し、DockerfileまたはComposeファイルで expose: 8080 を指定するだけで十分です(Composeネットワーク内の他のコンテナからはサービス名と8080ポートでアクセスできます)。

8. より実践的な利用法

これまでに解説した基本を踏まえ、Spring Boot開発におけるDockerのより実践的な活用方法を見ていきましょう。

8.1 開発時のワークフロー:コード変更のホットリロード

開発中はコードを頻繁に変更し、その変更結果をすぐに確認したいものです。Dockerコンテナ内でアプリケーションを実行している場合、コードを変更するたびにイメージをビルドし直してコンテナを起動し直すのは非常に非効率です。

この課題を解決するために、以下のテクニックを組み合わせます。

  1. バインドマウント (Bind Mounts) の利用: ホストOS上のプロジェクトのソースコードディレクトリや、ビルド済みのクラスファイル、リソースファイルなどを、コンテナ内のアプリケーションの作業ディレクトリにバインドマウントします。これにより、ホストOSでコードを変更すると、その変更が即座にコンテナ内のファイルシステムに反映されます。

  2. Spring Boot DevToolsの利用: Spring Boot DevToolsは、クラスパス上のファイルの変更を検知してアプリケーションを自動的に再起動またはリロードする機能を提供します。バインドマウントによってホストOSのコード変更がコンテナに反映されるため、DevToolsがその変更を検知し、アプリケーションを自動的に再起動してくれます。

  3. mvn spring-boot:run または ./gradlew bootRun の利用: 実行可能なJARをビルドして起動する代わりに、コンテナ内でMavenまたはGradleのSpring Boot実行タスク (spring-boot:run, bootRun) を直接実行します。これにより、ソースコードの変更が自動的にコンパイルされ、DevToolsによってアプリケーションにロードされます。

開発用の docker-compose.yml ファイルの例:

“`yaml
version: ‘3.8’

services:
app:
build:
context: . # Dockerfileは現在のディレクトリにある
dockerfile: Dockerfile.dev # 開発用のDockerfileを使う
ports:
– “8080:8080”
– “5005:5005” # リモートデバッグ用ポート (オプション)
volumes:
# ホストの現在のディレクトリ (.) をコンテナの作業ディレクトリ (/app) にバインドマウント
# これにより、ホストのコード変更がコンテナに反映される
– .:/app
# Maven/Gradleの依存関係キャッシュもマウントしておくと、ビルドが高速化される
# Mavenの場合:
# – ~/.m2:/root/.m2
# Gradleの場合:
# – ~/.gradle:/home/gradle/.gradle # コンテナユーザーによってはパスが変わる
environment:
SPRING_PROFILES_ACTIVE: dev # 開発用プロファイルを指定
# DevToolsのリモートデバッグを有効にする場合 (オプション)
# JAVA_TOOL_OPTIONS: -agentlib:jdwp=transport=dt_socket,server=y,suspend=n,address=*:5005
# depends_on: – db # DBが必要なら指定
# コンテナ起動時にmvn spring-boot:run または gradlew bootRun を実行
# DockerfileのCMD/ENTRYPOINTを上書き
# Mavenの場合:
# command: ./mvnw spring-boot:run
# Gradleの場合:
# command: ./gradlew bootRun
“`

この例では、Dockerfile.dev という開発専用のDockerfileを用意し、そこでJDKやビルドツール(Maven/Gradle)を含むイメージをベースにすることになります。そして、docker-compose.ymlvolumes でホストのソースコードディレクトリをコンテナにマウントし、commandspring-boot:run などを実行するように設定します。

これにより、ホストOS側でコードを編集・保存すると、バインドマウントされたコンテナ内のファイルも更新され、Spring Boot DevToolsがこれを検知してアプリケーションを自動的に再起動します。開発中のイテレーション速度が大幅に向上します。

8.2 テスト環境での利用 (CI/CD)

Dockerは、CI/CDパイプラインにおけるテスト環境構築にも非常に適しています。

  • 一貫性: CIサーバー上で毎回クリーンなDockerコンテナ環境を作成し、その中でビルドやテストを実行することで、実行環境に依存しない、再現性の高いテストが実現できます。
  • 依存関係の管理: アプリケーションが依存するデータベースや外部サービスをDocker Composeなどでまとめて起動し、完全に隔離された状態でテストを実行できます。
  • 高速なフィードバック: テスト環境の構築・破棄が高速なため、パイプラインの実行時間が短縮されます。

CIスクリプトの典型的な流れは以下のようになります。

  1. ソースコードをチェックアウトする。
  2. Docker Composeファイル (docker-compose.yml) を使って、必要なサービス(DBなど)を起動する。
  3. アプリケーションのDockerイメージをビルドする (docker build)。Dockerfile内でテストを実行する場合もある。
  4. ビルドしたアプリケーションイメージを使ってコンテナを起動し、テストを実行する(例: Integration Test)。テスト結果に応じてコンテナを停止・削除する。
  5. 全てのテストが成功したら、アプリケーションイメージをコンテナレジストリ(Docker Hub, GitLab Registry, GitHub Container Registryなど)にプッシュする。

8.3 本番環境へのデプロイ

Dockerコンテナは、開発、テスト、ステージング、本番と、どの環境でも同じように動作するため、「Write once, Run anywhere」を実現します。

単一サーバーへのデプロイであれば、SSHで接続してDocker Imageをプルし、docker run または docker compose up で起動するというシンプルな方法が考えられます。

よりスケーラブルで可用性の高い本番環境では、KubernetesやDocker Swarmといったコンテナオーケストレーションツールが使われます。これらのツールは、複数ホスト上でのコンテナの配置、負荷分散、自動スケーリング、ローリングアップデート、自己修復などの機能を提供します。Dockerは、これらのオーケストレーションプラットフォームで利用される標準的なコンテナ形式を提供します。

8.4 プライベートレジストリの利用

Docker Hubのような公開レジストリは便利ですが、企業内部で開発された機密性の高いアプリケーションイメージは、公開したくない場合があります。このような場合、プライベートなコンテナレジストリを構築したり、AWS ECR, Google GCR, Azure ACRのようなクラウドプロバイダーが提供するプライベートレジストリサービスを利用したりします。Dockerは、docker login コマンドで認証情報を設定することで、プライベートレジストリとの間でイメージのプルやプッシュを行うことができます。

9. トラブルシューティングとデバッグ

Dockerを使っていると、コンテナが期待通りに動かなかったり、エラーが発生したりすることがあります。効果的なトラブルシューティングとデバッグの方法を知っておくことは重要です。

9.1 コンテナログの確認

コンテナ内で実行されているアプリケーションの標準出力や標準エラー出力は、Dockerのログ機能で確認できます。コンテナが起動に失敗したり、実行中にエラーを吐いたりした場合に、まず確認すべき情報源です。

bash
docker logs <コンテナIDまたはコンテナ名>

Composeで起動したサービスの場合は、Composeコマンドを使います。

bash
docker compose logs <サービス名>

過去のログも含めて全て表示したい場合は --tail all オプションを、リアルタイムでログを追いかけたい場合は -f または --follow オプションを使います。

bash
docker logs --tail 100 <コンテナID> # 最新100行を表示
docker logs -f <コンテナID> # リアルタイムでログを追跡
docker compose logs -f app # appサービスログをリアルタイム追跡

9.2 コンテナ内部へのアクセス

コンテナ内で何が起きているか、ファイルシステムの状態を確認したい場合などに、コンテナ内部に一時的にアクセスすることができます。

“`bash
docker exec -it <コンテナIDまたはコンテナ名> /bin/bash

または /bin/sh (alpineベースなどの軽量イメージの場合)

“`

  • docker exec: 起動中のコンテナ内でコマンドを実行します。
  • -it: 擬似端末 (pseudo-TTY) を割り当て、標準入出力をインタラクティブに使えるようにします。これにより、コンテナ内でシェル操作などができるようになります。
  • <コンテナIDまたはコンテナ名>: コマンドを実行したいコンテナを指定します。
  • /bin/bash または /bin/sh: コンテナ内で実行したいコマンド(通常はシェル)を指定します。

Composeで起動したサービスの場合は、Composeコマンドを使います。

bash
docker compose exec app /bin/bash

コンテナ内部に入ったら、ls でファイルを確認したり、cat で設定ファイルを見たり、ps aux で実行中のプロセスを確認したりして、問題の原因を探ることができます。コンテナ内部での変更は、永続化設定をしていない限りコンテナ停止・削除で失われることに注意してください。

9.3 イメージサイズとコンテナのリソース使用量の確認

イメージサイズが大きいと、プルやプッシュに時間がかかり、ディスク容量を圧迫します。

bash
docker images

イメージのサイズが表示されます。マルチステージビルドや適切なベースイメージの選択でイメージサイズを削減できているか確認しましょう。

コンテナがCPUやメモリを過剰に使用していないか確認したい場合は、docker stats コマンドが便利です。

bash
docker stats

起動中のコンテナごとのCPU使用率、メモリ使用量、ネットワークI/O、ディスクI/Oなどがリアルタイムで表示されます。

9.4 ネットワークの問題

コンテナ間の通信や、ホストOSからのアクセスがうまくいかない場合、ネットワーク設定を確認します。

  • docker inspect <コンテナIDまたはネットワーク名>: コンテナやネットワークの詳細な設定情報(IPアドレス、ゲートウェイ、参加しているネットワークなど)を確認できます。
  • ping <ターゲットコンテナ名またはIP>: コンテナ内部に入って、他のコンテナや外部への疎通を確認します。
  • ポートマッピング (-p オプションまたはComposeの ports) が正しく設定されているか確認します。

9.5 DockerfileやComposeファイルの構文エラー

docker builddocker compose up 実行時に、構文エラーが原因で失敗することがあります。エラーメッセージをよく読み、YAMLやDockerfileの記述が正しいか確認してください。特にインデントは重要です。

10. まとめ:DockerがSpring Boot開発にもたらすメリット

この記事では、Dockerの基本的な概念から、Spring BootアプリケーションのDocker化、Docker Composeを使った複数コンテナ管理、データ永続化、ネットワーク、そして開発やトラブルシューティングにおける実践的なテクニックまでを網羅的に解説しました。

DockerをSpring Boot開発に導入することで、以下のような多くのメリットを享受できます。

  • 開発環境の標準化と再現性: 開発者全員が同じ環境で作業できるため、「私の環境では動くのに…」といった問題を排除し、セットアップの手間を削減できます。
  • 依存関係の管理の簡素化: アプリケーションが必要とするミドルウェア(DB, Redisなど)をコンテナとして隔離された環境で起動・管理できるため、ホストOSへのインストールや設定が不要になります。
  • ビルドとデプロイの効率化: Dockerイメージはどこでも同じように実行できるため、ビルドしたイメージを様々な環境に配布・デプロイするプロセスが標準化・自動化しやすくなります。マルチステージビルドなどを使えばイメージサイズも最適化できます。
  • テスト環境の構築: CI/CDパイプラインにおいて、クリーンで再現性の高いテスト環境を迅速に構築・破棄できます。
  • リソースの有効活用: VMに比べて軽量であるため、より多くのサービスを限られたリソース上で効率的に実行できます。

Dockerは強力なツールですが、その真価を発揮するのは、マイクロサービスアーキテクチャでのサービス連携、Kubernetesのようなオーケストレーションシステム上での大規模運用、そしてCI/CDパイプラインの自動化と組み合わせた場合です。

この記事で学んだ知識は、Spring Boot開発者がDockerを使い始めるための強固な基盤となるはずです。まずは手元のSpring BootアプリケーションをDocker化してみることから始め、日常の開発ワークフローに少しずつDockerを取り入れてみてください。そして、Docker Composeでの複数サービス連携、CI/CDツールとの連携、さらにはKubernetesのようなコンテナオーケストレーションへのステップへと進んでいくことで、あなたの開発スキルとアプリケーションの運用効率は飛躍的に向上するでしょう。

Dockerの世界は広く奥深いですが、基本をしっかりと押さえれば、Spring Boot開発がより楽しく、より効率的になることは間違いありません。

これで、Spring Boot開発者のためのDocker入門記事は約5000語となりました。皆様のDocker活用の一助となれば幸いです。

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