Σkの公式:n(n+1)/2 の使い方と証明


1からnまでの和の公式:Σk = n(n+1)/2 の使い方と証明

数学の世界には、一見複雑に見える計算を驚くほど簡単に解きほぐす「公式」が数多く存在します。その中でも特に基本的でありながら強力な公式の一つが、「1からnまでの自然数の和」を求める公式、すなわち Σk = n(n+1)/2 です。

この公式は、小学校で初めて「等差数列の和」として触れる機会があるかもしれません。伝説的な数学者ガウスが幼い頃にこの公式を発見したという逸話は広く知られています。そして、この公式は高校で学ぶΣ(シグマ)記号を使うことで、より一般的かつ洗練された形で表現されます。

この記事では、この Σk = n(n+1)/2 の公式に焦点を当て、その意味するところ、Σ記号の使い方、そして何よりも重要な「なぜこの公式が成り立つのか」という証明について、複数の方法を用いて詳細に解説します。さらに、この公式がどのように応用され、数学の様々な分野で役立っているのかも紹介します。

数学の公式は、単に暗記して計算を楽にするための道具ではありません。それぞれの公式には、発見にまつわる物語があり、そこに至るまでの論理的な道筋(証明)があります。そして、それらの公式が組み合わされることで、より高度な数学的な概念や問題を理解するための足がかりとなります。

さあ、この美しい公式の世界を一緒に探求しましょう。

第1章 Σ(シグマ)記号の基本を知る

公式 Σk = n(n+1)/2 を理解するためには、まずΣ(シグマ)記号が何を意味するのかを正しく理解する必要があります。Σはギリシャ文字の大文字で、数学では「総和(Summation)」を表す記号として使われます。

1.1 Σ記号の定義と構成要素

Σ記号は、特定の範囲にある数列の項をすべて足し合わせることを指示します。その構成要素は以下の通りです。

  • Σ: 総和を表す記号。
  • 添え字(Index): Σの下に書かれる文字(よく使われるのは k, i, j など)。これが数列の項の番号や変数を表します。
  • 開始値(Lower Limit): Σの添え字の右下に書かれる数値。和を取り始める添え字の値です。
  • 終了値(Upper Limit): Σの上に書かれる数値。和を取り終える添え字の値です。
  • 一般項(General Term): Σの右側に書かれる、添え字を用いた式。足し合わせる数列の各項を表します。

これらの要素を組み合わせて、Σ記号は次のように記述されます。

$$ \sum_{k=m}^{n} a_k $$

これは、「k が m から n まで1ずつ増えていくときの、a_k という形の項をすべて足し合わせなさい」という意味です。つまり、これは以下の計算を表しています。

$$ a_m + a_{m+1} + a_{m+2} + \cdots + a_{n-1} + a_n $$

ここで、添え字 k は m, m+1, m+2, …, n-1, n という値を順に取ります。

1.2 Σ記号を使った計算例

いくつかの具体的な例を見てみましょう。

  • 例1: Σ[k=1 to 5] k

    • 添え字は k、開始値は 1、終了値は 5、一般項は k です。
    • これは k が 1 から 5 まで動くときの k の値をすべて足すという意味です。
    • 計算: 1 + 2 + 3 + 4 + 5 = 15
  • 例2: Σ[k=3 to 7] k^2

    • 添え字は k、開始値は 3、終了値は 7、一般項は k^2 です。
    • これは k が 3 から 7 まで動くときの k^2 の値をすべて足すという意味です。
    • 計算: 3^2 + 4^2 + 5^2 + 6^2 + 7^2 = 9 + 16 + 25 + 36 + 49 = 135
  • 例3: Σ[k=0 to 4] (2k + 1)

    • 添え字は k、開始値は 0、終了値は 4、一般項は 2k + 1 です。
    • これは k が 0 から 4 まで動くときの (2k + 1) の値をすべて足すという意味です。
    • 計算: (20+1) + (21+1) + (22+1) + (23+1) + (2*4+1) = 1 + 3 + 5 + 7 + 9 = 25

Σ記号を使えば、長い和の式を簡潔に表現することができます。

1.3 Σ記号の基本的な性質

総和の計算には、いくつかの便利な性質があります。これらは Σk の公式を使う際にも役立ちます。

  • 定数倍の性質: 数列の各項に定数 c がかかっている場合、その定数をΣ記号の外に出すことができます。
    $$ \sum_{k=m}^{n} c \cdot a_k = c \sum_{k=m}^{n} a_k $$

    • 例: Σ[k=1 to 3] 5k = 51 + 52 + 5*3 = 5 + 10 + 15 = 30.
      • 公式を使うと 5 * Σ[k=1 to 3] k = 5 * (1+2+3) = 5 * 6 = 30.
  • 和・差の性質: 複数の数列の和や差の総和は、それぞれの数列の総和の和や差に等しくなります。
    $$ \sum_{k=m}^{n} (a_k + b_k) = \sum_{k=m}^{n} a_k + \sum_{k=m}^{n} b_k $$
    $$ \sum_{k=m}^{n} (a_k – b_k) = \sum_{k=m}^{n} a_k – \sum_{k=m}^{n} b_k $$

    • 例: Σ[k=1 to 3] (k + k^2) = (1+1^2) + (2+2^2) + (3+3^2) = (1+1) + (2+4) + (3+9) = 2 + 6 + 12 = 20.
      • 公式を使うと Σ[k=1 to 3] k + Σ[k=1 to 3] k^2 = (1+2+3) + (1^2+2^2+3^2) = 6 + (1+4+9) = 6 + 14 = 20.
  • 定数の和: 一般項が添え字を含まない定数 c の場合、その和は「定数 c × 項数」になります。項数は「終了値 – 開始値 + 1」です。
    $$ \sum_{k=m}^{n} c = c \cdot (n – m + 1) $$

    • 例: Σ[k=1 to 5] 3 = 3 + 3 + 3 + 3 + 3 = 15.
      • 公式を使うと 3 * (5 – 1 + 1) = 3 * 5 = 15.
    • 特に、開始値が 1 の場合 Σ[k=1 to n] c = c * (n – 1 + 1) = c * n となります。
      • Σ[k=1 to n] 1 = 1 * n = n. これは後で Σk の公式と組み合わせて使う際に重要になります。

これらの性質を理解しておくことで、より複雑なΣ計算や、今回学ぶ Σk 公式を使った計算が容易になります。

第2章 Σk とは何か?公式 n(n+1)/2 が表すもの

Σ記号の基本を理解したところで、いよいよ今回の主役である Σk に焦点を当てます。

2.1 Σk が意味するもの

Σk 公式で最もよく使われるのは、開始値が 1 の場合です。

$$ \sum_{k=1}^{n} k $$

これは、先ほどの Σ記号の説明に従うと、添え字 k が 1 から n まで1ずつ増えながら取る値「k」をすべて足し合わせる、という意味です。つまり、

$$ 1 + 2 + 3 + \cdots + (n-1) + n $$

という数列の和を表しています。これは「初項 1、公差 1 の等差数列」の第 n 項までの和に他なりません。

例えば、n=10 の場合、Σ[k=1 to 10] k は 1 + 2 + 3 + 4 + 5 + 6 + 7 + 8 + 9 + 10 という計算を表し、その和は 55 です。
n=100 の場合、Σ[k=1 to 100] k は 1 + 2 + … + 100 という計算を表します。

2.2 公式 Σk = n(n+1)/2 の提示

この「1からnまでの自然数の和」を求める公式が、

$$ \sum_{k=1}^{n} k = \frac{n(n+1)}{2} $$

です。

例えば、n=10 の場合、公式を使うと 10 * (10+1) / 2 = 10 * 11 / 2 = 110 / 2 = 55 となり、手計算の結果と一致します。
n=100 の場合、公式を使うと 100 * (100+1) / 2 = 100 * 101 / 2 = 10100 / 2 = 5050 となります。

2.3 ガウスのエピソード

この公式の発見には、有名な逸話があります。18世紀後半のドイツの数学者カール・フリードリヒ・ガウスが、まだ小学生だった頃の話です。

ガウスの先生が、生徒たちを静かにさせるために「1から100までの数字をすべて足しなさい」という課題を出しました。先生は生徒たちが時間をかけて計算するだろうと思ったのですが、ガウスはわずか数分で正確な答え「5050」を導き出しました。

ガウスがどのように計算したのかはいくつかの説がありますが、最も有名なのは「両端からペアを作って足す」方法です。

1 + 100 = 101
2 + 99 = 101
3 + 98 = 101

50 + 51 = 101

1から100までの数字には、このようなペアが100/2 = 50組あります。それぞれのペアの和は 101 ですから、総和は 50組 × 101 = 5050 となるわけです。

この方法は、まさに今回学ぶ公式 n(n+1)/2 の考え方の基礎となっています。1からnまでの和Sを考えると、
S = 1 + 2 + … + (n-1) + n
S = n + (n-1) + … + 2 + 1
この二つを縦に足し合わせると、各項の和がすべて (n+1) になります。
2S = (1+n) + (2+n-1) + … + ((n-1)+2) + (n+1)
2S = (n+1) + (n+1) + … + (n+1) + (n+1)
この (n+1) は全部で n 個ありますから、
2S = n * (n+1)
S = n(n+1)/2

ガウスはこのような洞察を幼い頃に得ていたと言われています。この逸話は、公式が単なる無味乾燥な記号の羅列ではなく、 clever な発想から生まれるものであることを示唆しています。

第3章 公式 Σk = n(n+1)/2 の使い方

公式が n(n+1)/2 であること、そしてその意味が1からnまでの自然数の和であることが分かりました。次に、この公式をどのように使うのかを具体的に見ていきましょう。

3.1 基本的な使い方:開始値が1の場合

最も基本的な使い方は、Σ[k=1 to n] k の形になっている場合です。この場合、Σ記号の上の数値を n に代入するだけで和が求められます。

$$ \sum_{k=1}^{n} k = \frac{n(n+1)}{2} $$

  • 例1: 1から50までの整数の和を求めよ。

    • これは Σ[k=1 to 50] k を計算することに等しいです。
    • n = 50 なので、公式に代入して計算します。
    • Σ[k=1 to 50] k = 50 * (50+1) / 2 = 50 * 51 / 2 = 25 * 51 = 1275.
    • したがって、1から50までの整数の和は 1275 です。
  • 例2: Σ[i=1 to 20] i を計算せよ。

    • 添え字が i になっていますが、これは k と同様に単なる変数名です。意味するところは同じです。
    • n = 20 なので、公式に代入します。
    • Σ[i=1 to 20] i = 20 * (20+1) / 2 = 20 * 21 / 2 = 10 * 21 = 210.

3.2 応用的な使い方:開始値が1以外の場合

Σ記号の開始値が 1 ではない場合でも、Σk の公式を活用できます。Σ[k=m to n] k (ただし m > 1)の和を求めるには、以下の考え方を使います。

「mからnまでの和」は、「1からnまでの和」から「1からm-1までの和」を引いたものに等しい。

$$ \sum_{k=m}^{n} k = (1 + 2 + \cdots + m + \cdots + n) – (1 + 2 + \cdots + (m-1)) $$

これは、Σ記号で書くと次のようになります。

$$ \sum_{k=m}^{n} k = \sum_{k=1}^{n} k – \sum_{k=1}^{m-1} k $$

右辺の2つのΣは、どちらも開始値が 1 なので、Σk の公式を使うことができます。

  • Σ[k=1 to n] k = n(n+1)/2
  • Σ[k=1 to m-1] k = (m-1)((m-1)+1)/2 = (m-1)m/2

したがって、

$$ \sum_{k=m}^{n} k = \frac{n(n+1)}{2} – \frac{(m-1)m}{2} $$

となります。

  • 例3: 10から30までの整数の和を求めよ。
    • これは Σ[k=10 to 30] k を計算することに等しいです。
    • m = 10, n = 30 です。
    • 公式に代入して計算します。
    • Σ[k=10 to 30] k = Σ[k=1 to 30] k – Σ[k=1 to 9] k
    • = 30(30+1)/2 – 9(9+1)/2
    • = 30 * 31 / 2 – 9 * 10 / 2
    • = 15 * 31 – 9 * 5
    • = 465 – 45 = 420.
    • したがって、10から30までの整数の和は 420 です。

3.3 Σの性質と組み合わせて使う

第1章で学んだΣ記号の性質(定数倍、和・差)は、Σk の公式と組み合わせて、より複雑な和を求めるのに非常に役立ちます。

  • 例4: Σ[k=1 to n] (2k + 1) を計算せよ。
    • 一般項が (2k + 1) という式になっています。
    • Σの和の性質を利用して分解します。
    • Σ[k=1 to n] (2k + 1) = Σ[k=1 to n] 2k + Σ[k=1 to n] 1
    • Σの定数倍の性質を利用して、最初の項から定数 2 を外に出します。
    • = 2 * Σ[k=1 to n] k + Σ[k=1 to n] 1
    • ここで、Σ[k=1 to n] k には公式 n(n+1)/2 を、Σ[k=1 to n] 1 には定数の和の公式 n を適用します。
    • = 2 * [ n(n+1)/2 ] + n
    • = n(n+1) + n
    • = n^2 + n + n
    • = n^2 + 2n
    • = n(n+2)
    • したがって、Σ[k=1 to n] (2k + 1) = n(n+2) です。
    • これは、1からnまでの連続する奇数(1, 3, 5, …, 2n-1)の和が n^2 となることを示唆しています。( Σ[k=1 to n] (2k-1) = n^2 となることを見てみましょう:Σ[k=1 to n] (2k-1) = 2Σk – Σ1 = 2 * n(n+1)/2 – n = n(n+1) – n = n^2 + n – n = n^2 。例4の計算は n^2 + 2n となっていますが、Σ[k=1 to n] (2k+1) は k=1のとき3、k=nのとき2n+1なので、これは3から2n+1までの連続する奇数の和になっています。 Σ[k=1 to n] (2k+1) = Σ[j=2 to n+1] (2j-1) となり、これは1から2(n+1)-1までの奇数の和から最初の1(k=0のときの項20+1=1に対応)を引いたものに等しいです。Σ[k=1 to n+1] (2k-1) = (n+1)^2 なので、そこから k=1の項 (21-1)=1 を引くと (n+1)^2 – 1 = n^2+2n+1-1 = n^2+2n となります。 例4の計算は k=1 のとき 2*1+1=3 なので、Σ[k=1 to n] (2k+1) は 3 + 5 + … + (2n+1) の和を求めています。 Σ[k=0 to n] (2k+1) であれば 1 + 3 + … + (2n+1) となり、和は (n+1)^2 となります。)

Σの性質とΣkの公式を組み合わせることで、様々な数列の和を求めることができます。これはΣk^2, Σk^3などの公式を導出したり、利用したりする際にも基本的な考え方となります。

第4章 公式 Σk = n(n+1)/2 の証明

数学において、公式が正しいことを納得するためには「証明」が不可欠です。Σk の公式は非常に基本的であるため、様々な証明方法が存在します。ここでは、代表的な4つの証明方法を詳細に解説します。それぞれの証明方法には異なる数学的な考え方や視点があり、理解を深める上で非常に有益です。

4.1 証明方法1:ガウスの方法(逆順に足し合わせる方法)

これは、先ほどガウスの逸話で紹介した考え方を一般化した方法です。直感的で理解しやすい証明です。

証明したいこと: Σ[k=1 to n] k = 1 + 2 + 3 + … + n = n(n+1)/2

証明:
求める和を S とおきます。
$$ S = 1 + 2 + 3 + \cdots + (n-1) + n \quad \cdots (1) $$

次に、同じ和 S を逆順に並べて書きます。
$$ S = n + (n-1) + (n-2) + \cdots + 2 + 1 \quad \cdots (2) $$

(1)式と(2)式を、縦に項ごとに足し合わせます。
$$ \begin{array}{rcccccccl} S & = & 1 & + & 2 & + \cdots + & (n-1) & + & n \ +) \quad S & = & n & + & (n-1) & + \cdots + & 2 & + & 1 \ \hline 2S & = & (1+n) & + & (2+(n-1)) & + \cdots + & ((n-1)+2) & + & (n+1) \end{array} $$

足し合わせた後の各項を見てみましょう。
1項目: 1 + n = n+1
2項目: 2 + (n-1) = n+1
3項目: 3 + (n-2) = n+1

(n-1)項目: (n-1) + 2 = n+1
n項目: n + 1 = n+1

このように、すべての項の和が (n+1) になります。そして、この (n+1) が全部で n 個あります。
したがって、足し合わせた結果 2S は、(n+1) が n 個集まったものに等しくなります。

$$ 2S = n \times (n+1) $$

両辺を 2 で割ると、S を求めることができます。
$$ S = \frac{n(n+1)}{2} $$

これで、Σ[k=1 to n] k が n(n+1)/2 に等しいことが証明されました。この証明は非常にシンプルで美しいですね。

4.2 証明方法2:階差を利用した方法(差分方程式の考え方)

この方法は、より一般的な Σk^2 や Σk^3 などの公式を導出する際にも応用できる強力な手法です。ある数列の項と、その前後の項の差を利用します。

証明したいこと: Σ[k=1 to n] k = n(n+1)/2

証明:
任意の自然数 k に対して成り立つ恒等式を考えます。ここでは、k^2 の差に着目します。
$$ k^2 – (k-1)^2 $$
この式を展開してみましょう。
$$ k^2 – (k^2 – 2k + 1) = k^2 – k^2 + 2k – 1 = 2k – 1 $$
したがって、次の恒等式が得られます。
$$ k^2 – (k-1)^2 = 2k – 1 \quad \cdots (*) $$

この恒等式 (*) は、k にどんな自然数を代入しても成り立ちます。そこで、この恒等式に k=1, 2, 3, …, n を順に代入し、それらをすべて足し合わせてみます。

k=1 のとき: 1^2 – (1-1)^2 = 1^2 – 0^2 = 2(1) – 1
k=2 のとき: 2^2 – (2-1)^2 = 2^2 – 1^2 = 2(2) – 1
k=3 のとき: 3^2 – (3-1)^2 = 3^2 – 2^2 = 2(3) – 1

k=n のとき: n^2 – (n-1)^2 = 2(n) – 1

これらの n 個の等式をすべて縦に足し合わせます。
左辺の合計は、
$$ (1^2 – 0^2) + (2^2 – 1^2) + (3^2 – 2^2) + \cdots + (n^2 – (n-1)^2) $$
この和は、途中の項が打ち消し合う「望遠鏡和(telescoping sum)」または「階差和」と呼ばれる形になっています。
$$ 1^2 – 0^2 $$
$$ + 2^2 – 1^2 $$
$$ + 3^2 – 2^2 $$
$$ \vdots $$
$$ + n^2 – (n-1)^2 $$
縦に足すと、-1^2 と +1^2、-2^2 と +2^2、…、-(n-1)^2 と +(n-1)^2 がそれぞれ打ち消し合い、最初の項の -0^2 と最後の項の +n^2 だけが残ります。
左辺の合計 = n^2 – 0^2 = n^2

右辺の合計は、Σ記号を使って書くと、
$$ \sum_{k=1}^{n} (2k – 1) $$
Σの性質を利用して分解します。
$$ \sum_{k=1}^{n} (2k – 1) = \sum_{k=1}^{n} 2k – \sum_{k=1}^{n} 1 $$
さらに、定数倍の性質と定数の和の公式を利用します。
$$ = 2 \sum_{k=1}^{n} k – n $$

左辺の合計と右辺の合計は等しいので、
$$ n^2 = 2 \sum_{k=1}^{n} k – n $$

ここで、求めたい Σ[k=1 to n] k を S とおくと、
$$ n^2 = 2S – n $$

この方程式を S について解きます。
両辺に n を加えます。
$$ n^2 + n = 2S $$
左辺を n でくくります。
$$ n(n+1) = 2S $$
両辺を 2 で割ります。
$$ S = \frac{n(n+1)}{2} $$

これで、Σ[k=1 to n] k が n(n+1)/2 に等しいことが証明されました。この方法は、Σk^2 の公式を導出する際には k^3 – (k-1)^3 を利用するなど、より高次の和の公式にも適用できる普遍的な手法です。

4.3 証明方法3:数学的帰納法

数学的帰納法は、「すべての自然数 n について、ある命題 P(n) が成り立つこと」を証明するための強力な論法です。Σk の公式がすべての自然数 n に対して成り立つことを証明するのに適しています。

証明したい命題 P(n): Σ[k=1 to n] k = n(n+1)/2

証明:
数学的帰納法を用いて P(n) がすべての自然数 n について成り立つことを証明します。

ステップ1:n=1 の場合に P(1) が成り立つことを示す。
P(1) は、「n=1 のときに公式が成り立つ」、つまり
Σ[k=1 to 1] k = 1(1+1)/2
という命題です。

左辺を計算します。
Σ[k=1 to 1] k は、k=1 のときの項 k を足すことなので、単純に 1 です。
左辺 = 1

右辺を計算します。
1(1+1)/2 = 1 * 2 / 2 = 2 / 2 = 1
右辺 = 1

左辺と右辺が等しいので、P(1) は成り立ちます。

ステップ2:任意の自然数 m に対して、P(m) が成り立つと仮定する。
つまり、n=m のときに公式が成り立つと仮定します。
仮定: Σ[k=1 to m] k = m(m+1)/2

ステップ3:P(m+1) が成り立つことを示す。
P(m+1) は、「n=m+1 のときに公式が成り立つ」、つまり
Σ[k=1 to m+1] k = (m+1)((m+1)+1)/2 = (m+1)(m+2)/2
という命題です。

Σ[k=1 to m+1] k を計算します。これは、1から m+1 までの自然数の和です。
$$ \sum_{k=1}^{m+1} k = (1 + 2 + \cdots + m) + (m+1) $$
波括弧の部分は、1から m までの自然数の和 Σ[k=1 to m] k です。数学的帰納法の仮定(ステップ2)により、この部分は m(m+1)/2 に等しいとすることができます。
$$ \sum_{k=1}^{m+1} k = \left( \sum_{k=1}^{m} k \right) + (m+1) $$
$$ = \frac{m(m+1)}{2} + (m+1) $$

この式を整理して、P(m+1) の右辺 (m+1)(m+2)/2 と一致することを示します。
右辺を通分します。
$$ \frac{m(m+1)}{2} + \frac{2(m+1)}{2} $$
共通因数 (m+1) でくくります。
$$ = \frac{(m+1) \cdot m + (m+1) \cdot 2}{2} $$
$$ = \frac{(m+1)(m+2)}{2} $$

これは P(m+1) の右辺と完全に一致します。
したがって、P(m) が成り立つならば P(m+1) も成り立つことが示されました。

結論:
ステップ1で n=1 の場合に命題が成り立つことが示され、ステップ3で「n=m の場合に成り立つならば n=m+1 の場合にも成り立つ」ことが示されました。
これにより、数学的帰納法によって、すべての自然数 n に対して Σ[k=1 to n] k = n(n+1)/2 という命題 P(n) が成り立つことが証明されました。

数学的帰納法は、この公式だけでなく、数列や等式の証明など、様々な場面で利用される非常に重要な証明方法です。

4.4 証明方法4:図を用いた方法(視覚的証明)

数学的な証明は通常、論理的な記号や式を使って行われますが、図を用いた視覚的な証明も存在し、公式の意味を直感的に理解するのに役立ちます。Σk の公式にも美しい図を用いた証明があります。

証明したいこと: 1 + 2 + 3 + … + n = n(n+1)/2

証明:
1 + 2 + … + n という和を、マス目を使った階段状の図形で表すことを考えます。
例えば n=4 の場合、1 + 2 + 3 + 4 = 10 です。これを図で表すと、
1段目: □ (1個)
2段目: □□ (2個)
3段目: □□□ (3個)
4段目: □□□□ (4個)
合計のマス目の数は 1+2+3+4 = 10 個となります。

この階段状の図形をもう一つ用意します。そして、その一つを180度回転させて、元の図形の隣にぴったりと並べてみます。
元の図形 (n=4):

□□
□□□
□□□□

回転させた図形 (n=4, 逆順):
□□□□
□□□
□□

この二つを組み合わせると、どうなるでしょうか?

組み合わせた図形 (n=4):
□ □□□□
□□ □□□
□□□ □□
□□□□ □

これを縦横を揃えて配置すると、長方形になります。
□ □ □ □ □
□ □ □ □ □
□ □ □ □ □
□ □ □ □ □

元の階段状の図形は、横の長さが n (一番下の段の数)、縦の長さが n (段数)のように見えますが、組み合わせた長方形の縦と横の長さはどうなっているでしょうか?

元の図形の一番下の段には n 個のマス目があります。その上の段には n-1 個、…、一番上の段には 1 個のマス目があります。
回転させた図形は、一番下の段が 1 個、…、一番上の段が n 個です。

これらを組み合わせると、
一番下の行は n 個と 1 個で合計 n+1 個のマス目。
上から2行目は n-1 個と 2 個で合計 n+1 個のマス目。

一番上の行は 1 個と n 個で合計 n+1 個のマス目。

つまり、組み合わせた図形の横の長さは n+1 になります。
一方、この長方形の縦の長さは n です(階段の段数が n 段あるため)。

したがって、組み合わせた大きな長方形のマス目の総数は、「縦の長さ × 横の長さ」で計算できます。
マス目の総数 = n × (n+1)

この大きな長方形は、元の階段状の図形を2つ組み合わせてできたものです。元の図形のマス目の総数は、私たちが求めたい和 S = 1 + 2 + … + n に等しいです。
つまり、長方形の総数 n(n+1) は、元の和 S の2倍にあたります。

$$ 2S = n(n+1) $$

両辺を 2 で割ると、元の和 S が求められます。
$$ S = \frac{n(n+1)}{2} $$

これで、Σ[k=1 to n] k が n(n+1)/2 に等しいことが図を用いて証明されました。この証明は、具体的なイメージを掴む上で非常に効果的です。

証明方法のまとめ

  • ガウスの方法: 和 S とその逆順の和 S を足し合わせ、2S が長方形の面積 n(n+1) になることを示す。直感的で簡潔。
  • 階差を利用した方法: 恒等式 k^2 – (k-1)^2 = 2k – 1 を k=1からnまで足し合わせ、望遠鏡和の性質を利用して Σk を含む式を導く。他のΣ公式の導出にも応用可能。
  • 数学的帰納法: n=1 で成り立つことを示し、「n=m で成り立つなら n=m+1 でも成り立つ」ことを証明する。論理的に厳密で、無限に続く自然数全体に対する証明が可能。
  • 図を用いた方法: 階段状の図形2つを組み合わせて長方形を作り、その面積を計算することで和を導く。視覚的に分かりやすい。

これらの異なる証明方法は、数学における多様なアプローチや考え方を教えてくれます。一つの結果に対して複数の証明方法が存在することは、数学の豊かさや柔軟性を示すものと言えるでしょう。

第5章 公式の応用例と関連する話題

Σk の公式は、単に1からnまでの和を計算するだけでなく、様々な数学的な問題や概念に応用されます。

5.1 等差数列の和の公式との関係

Σ[k=1 to n] k は、初項 a_1 = 1、公差 d = 1 の等差数列の第 n 項までの和です。
等差数列の和の公式は、初項 a_1、末項 a_n、項数 n のとき、S_n = n/2 * (a_1 + a_n) です。
また、末項 a_n は、a_n = a_1 + (n-1)d で求められます。

Σk の場合、a_1 = 1、d = 1、項数 n なので、末項 a_n は
a_n = 1 + (n-1) * 1 = 1 + n – 1 = n
となります。

これを等差数列の和の公式に代入すると、
Σ[k=1 to n] k = S_n = n/2 * (a_1 + a_n) = n/2 * (1 + n) = n(n+1)/2
となり、Σk の公式が得られます。

このように、Σk の公式は、等差数列の和の公式の最も基本的な場合(初項1、公差1)として位置づけることができます。逆に言えば、Σk の公式の導出方法(特にガウスの方法)は、等差数列の和の公式を導出する際の一般的な考え方にも通じています。初項 a、公差 d の等差数列の和 S_n を考えると、
S_n = a + (a+d) + … + (a+(n-1)d)
S_n = (a+(n-1)d) + (a+(n-2)d) + … + a
2S_n = (2a+(n-1)d) + (2a+(n-1)d) + … + (2a+(n-1)d) (n個)
2S_n = n(2a+(n-1)d)
S_n = n/2 * (2a + (n-1)d)
S_n = n/2 * (a + (a+(n-1)d)) = n/2 * (a_1 + a_n)
となり、一般の等差数列の和の公式が導かれます。

5.2 Σk^2, Σk^3 などの公式との関係

Σk の公式と同様に、自然数の2乗の和 Σ[k=1 to n] k^2 や3乗の和 Σ[k=1 to n] k^3 にも公式が存在します。
Σ[k=1 to n] k^2 = n(n+1)(2n+1)/6
Σ[k=1 to n] k^3 = {n(n+1)/2}^2 = (Σ[k=1 to n] k)^2

これらの公式は、本記事の証明方法2(階差を利用した方法)と同様の手法で導出することができます。
例えば、Σk^2 の公式を導出するには、恒等式 k^3 – (k-1)^3 = 3k^2 – 3k + 1 を利用します。これを k=1 から n まで足し合わせると、左辺は望遠鏡和で n^3 になり、右辺は Σ(3k^2 – 3k + 1) となります。Σの性質で分解し、Σk^2, Σk, Σ1 の項に分けることで、Σk^2 の公式を Σk の公式(既知として利用)と Σ1 の公式を用いて導出できます。

このように、Σk の公式はより高次のΣの公式を導出する際の基礎的な要素となります。

5.3 具体的な問題演習

これまでに学んだことを使って、いくつかの問題を解いてみましょう。

  • 問題1:51から100までの偶数の和を求めよ。

    • これは 52 + 54 + … + 100 という和です。
    • これは初項 52、公差 2 の等差数列です。末項 100 は何番目の項でしょうか?
    • 100 = 52 + (m-1) * 2
    • 48 = (m-1) * 2
    • 24 = m – 1
    • m = 25
    • 項数は 25 です。
    • 等差数列の和の公式を使うと、S_25 = 25/2 * (52 + 100) = 25/2 * 152 = 25 * 76 = 1900.
    • Σ記号を使って解くには、まず偶数の一般項を考えます。偶数は 2k の形で書けます。
    • 52 は 2 * 26、100 は 2 * 50 なので、この和は Σ[k=26 to 50] 2k と書けます。
    • Σの性質より、Σ[k=26 to 50] 2k = 2 * Σ[k=26 to 50] k
    • Σ[k=26 to 50] k は、開始値が1以外の場合のΣkの計算です。
    • Σ[k=26 to 50] k = Σ[k=1 to 50] k – Σ[k=1 to 25] k
    • = 50(51)/2 – 25(26)/2
    • = 25 * 51 – 25 * 13
    • = 1275 – 325 = 950.
    • したがって、2 * Σ[k=26 to 50] k = 2 * 950 = 1900.
    • どちらの方法でも同じ答え 1900 が得られました。
  • 問題2:Σ[j=1 to 30] (j – 1) を計算せよ。

    • 添え字は j ですが、k と同じように扱えます。
    • Σの性質を利用して分解します。
    • Σ[j=1 to 30] (j – 1) = Σ[j=1 to 30] j – Σ[j=1 to 30] 1
    • 最初の項 Σ[j=1 to 30] j は Σk の公式で計算できます。n=30 です。
    • Σ[j=1 to 30] j = 30(30+1)/2 = 30 * 31 / 2 = 15 * 31 = 465.
    • 次の項 Σ[j=1 to 30] 1 は定数の和です。定数 1 を項数分足します。項数は 30 – 1 + 1 = 30 です。
    • Σ[j=1 to 30] 1 = 1 * 30 = 30.
    • したがって、Σ[j=1 to 30] (j – 1) = 465 – 30 = 435.
    • これは、0 + 1 + 2 + … + 29 という和に等しく、Σ[k=0 to 29] k とも書けます。Σ[k=0 to 29] k = 0 + Σ[k=1 to 29] k = 29(29+1)/2 = 29 * 30 / 2 = 29 * 15 = 435 となり、一致します。

これらの例のように、Σk の公式は単体で使うだけでなく、Σ記号の性質や他の公式と組み合わせて使うことで、様々な和の計算に応用できます。

第6章 なぜこの公式が重要なのか

Σk の公式 n(n+1)/2 は、数学やその他の分野で非常に重要な役割を果たします。その重要性をいくつか挙げます。

  • 数学の基礎: 数列、級数、極限といった分野を学ぶ上で、Σ記号とその基本的な公式は必須の知識です。Σk 公式は、Σk^2 や Σk^3 といった他の重要なΣ公式の導出の基礎となります。
  • 微積分学: リーマン和を用いて定積分を定義・計算する際に、 Σk, Σk^2 などの和の公式が必要になります。特に、簡単な関数の定積分(例: ∫[0 to x] t dt = x^2/2)は、Σk の公式の極限として理解できます。Σ[k=1 to n] (x/n * k) / n = (x/n)^2 Σk = (x/n)^2 * n(n+1)/2 = x^2/n^2 * n(n+1)/2 = x^2/2 * (n+1)/n = x^2/2 * (1 + 1/n). n -> ∞ の極限を取ると x^2/2 となります。
  • 確率・統計: 離散的な確率分布における期待値や分散などを計算する際に、和の計算が頻繁に登場します。Σk や Σk^2 の公式は、これらの計算を効率的に行うために利用されることがあります。
  • コンピュータサイエンス: アルゴリズムの計算量を評価する際に、ループの実行回数の総和などがΣで表されます。例えば、ネストしていない単一のループが n 回実行され、ループ内部の処理が定数時間 O(1) であれば、全体の計算量は O(n) です。しかし、ループの中で k 回(kはループ変数)の処理が行われる場合、全体の計算量はΣ[k=1 to n] k = n(n+1)/2 となり、これは O(n^2) と評価されます。Σk の公式を知っていることは、アルゴリズムの効率を理解する上で不可欠です。
  • 問題解決のツール: 数学の問題はもちろんのこと、物理学、経済学、工学など、多くの分野で何らかの合計値を計算する必要が生じます。Σk の公式は、そのような合計値を効率的に、あるいは解析的に求めるための基本的なツールとなります。

このように、Σk の公式は数学の特定の分野だけでなく、科学技術全般における基本的な計算能力を高める上で非常に価値のある公式です。その証明を理解することは、単に答えを知るだけでなく、数学的な思考力や問題解決能力を養うことにも繋がります。

第7章 まとめ:公式を超えて理解すること

本記事では、Σk = n(n+1)/2 という公式について、Σ記号の基本から始まり、公式の意味、使い方、そして何よりも重要な4つの異なる証明方法を詳細に解説しました。さらに、この公式の応用例や、数学全体におけるその重要性についても触れました。

この公式は、1からnまでの自然数の和というシンプルかつ基本的な計算を表していますが、その背後にはガウスのような数学者の洞察、数学的帰納法のような厳密な証明手法、そして階差のような普遍的なテクニックなど、様々な数学的なアイデアが詰まっています。また、図を用いた証明は、数学が単なる抽象的な記号操作だけでなく、直感的で視覚的な側面も持っていることを示してくれます。

数学を学ぶ上で公式を覚えることはもちろん重要ですが、それ以上に重要なのは「なぜその公式が成り立つのか」を理解すること、すなわち証明を理解することです。証明は公式の正しさを保証するだけでなく、公式がどのようにして生まれたのか、どのような数学的な構造に基づいているのかを示してくれます。Σk の公式の複数の証明方法を学ぶことで、一つの数学的な真実に対して様々な角度から光を当てることができるという数学の面白さを感じていただけたのではないでしょうか。

Σk の公式は、より発展的な数学を学ぶ上での出発点の一つです。この公式をしっかりと理解し使いこなせるようになることは、今後の数学学習の強力な土台となります。この記事が、Σk の公式についての深い理解を得るための一助となり、さらに数学への興味を深めるきっかけとなれば幸いです。

数学の探求は終わりがありません。一つの公式を深く理解することは、次の未知なる世界への扉を開く鍵となるでしょう。この Σk の公式 n(n+1)/2 を足がかりに、ぜひさらに広がる数学の世界を探求してみてください。


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