外付けHDDのNAS化でできること:ファイル共有、バックアップ、メディアサーバー

外付けHDDのNAS化:ファイル共有、バックアップ、メディアサーバー構築で広がる活用法

外付けHDDは、手軽に容量を増設できる便利なストレージデバイスですが、単体で使用するだけではそのポテンシャルを十分に活かしきれません。そこで注目したいのが、外付けHDDをNAS化するテクニックです。NAS(Network Attached Storage)とは、ネットワークに接続されたストレージデバイスのことで、家庭内やオフィス内でファイル共有、バックアップ、メディアサーバーといった様々な用途に活用できます。

本記事では、外付けHDDをNAS化することで実現できること、その具体的な方法、そして注意点などを詳しく解説します。

1. 外付けHDDのNAS化とは?

NAS化とは、外付けHDDをネットワークに接続し、複数のデバイスからアクセスできるようにすることです。通常、外付けHDDはUSBケーブルなどで直接パソコンに接続して使用しますが、NAS化することで、パソコンだけでなく、スマートフォン、タブレット、スマートテレビなど、ネットワークに接続された様々なデバイスから同じファイルにアクセスできるようになります。

NAS化には、専用のNASケースやNASアダプターを利用する方法と、Raspberry Piなどのシングルボードコンピュータを利用する方法があります。いずれの方法も、外付けHDDをネットワークに接続し、専用のソフトウェアや設定を行うことで、NASとしての機能を実現します。

2. 外付けHDDのNAS化でできること

外付けHDDをNAS化することで、主に以下の3つのことが実現できます。

  • ファイル共有: 家庭内やオフィス内で、複数のユーザーが同じファイルにアクセスできるようになります。
  • バックアップ: パソコンやスマートフォンなどのデータを自動的にバックアップできます。
  • メディアサーバー: 映画、音楽、写真などのメディアファイルをネットワーク上のデバイスで再生できます。

それぞれの機能について、さらに詳しく見ていきましょう。

2.1 ファイル共有

NAS化された外付けHDDは、ネットワーク上の共有フォルダとして利用できます。これにより、家族や同僚と簡単にファイルを共有することができます。

  • メリット:

    • ファイルの受け渡しが簡単: メールやUSBメモリを介することなく、ネットワーク上でファイルを共有できます。
    • 共同編集が容易: 複数のユーザーが同じファイルに同時にアクセスし、編集することができます。
    • ファイルの集中管理: 散在していたファイルを一元的に管理できます。
    • 場所を選ばないアクセス: 同じネットワークに接続されていれば、どこからでもファイルにアクセスできます。
  • 活用例:

    • 家族写真や動画の共有: 家族旅行の写真や動画をNASに保存し、家族みんなで共有できます。
    • 仕事の資料の共有: プロジェクトの資料をNASに保存し、チームメンバーと共有できます。
    • 音楽や映画の共有: 音楽ファイルや映画ファイルをNASに保存し、家庭内のデバイスで再生できます。
  • 共有設定:

    • 共有フォルダごとにアクセス権を設定できます。
    • ユーザーごとにアクセス権を設定できます。
    • パスワードを設定して、不正アクセスを防ぐことができます。

2.2 バックアップ

NAS化された外付けHDDは、パソコンやスマートフォンなどのデータを自動的にバックアップする場所として利用できます。

  • メリット:

    • データの損失を防ぐ: パソコンやスマートフォンが故障した場合でも、NASにバックアップしておけば、データを復元できます。
    • 自動バックアップ: 定期的に自動的にバックアップを実行するので、手間がかかりません。
    • 複数のデバイスをバックアップ: 複数のパソコンやスマートフォンをまとめてバックアップできます。
    • バージョン管理: バックアップデータを世代管理することで、過去のデータに戻すことができます。
  • 活用例:

    • パソコンのシステムイメージのバックアップ: パソコン全体のバックアップを作成し、万が一のシステムトラブルに備えることができます。
    • スマートフォンの写真や動画のバックアップ: スマートフォンのデータを定期的にバックアップし、紛失や故障に備えることができます。
    • 重要なファイルのバックアップ: 仕事の資料や個人的な写真など、重要なファイルをNASにバックアップすることができます。
  • バックアップソフト:

    • Windowsのバックアップ機能: Windowsには標準でバックアップ機能が搭載されています。
    • macOSのTime Machine: macOSにはTime Machineというバックアップ機能が搭載されています。
    • Synology Hyper Backup: Synology製のNASを使用している場合は、Hyper Backupというバックアップソフトを利用できます。
    • QNAP Hybrid Backup Sync: QNAP製のNASを使用している場合は、Hybrid Backup Syncというバックアップソフトを利用できます。
    • Acronis True Image: 市販のバックアップソフトとして、Acronis True Imageなどがあります。

2.3 メディアサーバー

NAS化された外付けHDDは、映画、音楽、写真などのメディアファイルをネットワーク上のデバイスで再生するためのメディアサーバーとして利用できます。

  • メリット:

    • メディアファイルの集中管理: 散在していたメディアファイルを一元的に管理できます。
    • 様々なデバイスで再生: スマートテレビ、スマートフォン、タブレットなど、ネットワーク上の様々なデバイスでメディアファイルを再生できます。
    • DLNA対応: DLNAに対応しているので、DLNA対応のデバイスであれば、特別な設定なしにメディアファイルを再生できます。
    • 外出先からのアクセス: 設定によっては、外出先からでもメディアファイルにアクセスできます。
  • 活用例:

    • 映画鑑賞: NASに保存した映画ファイルをスマートテレビで再生できます。
    • 音楽鑑賞: NASに保存した音楽ファイルをスマートフォンで再生できます。
    • 写真鑑賞: NASに保存した写真をタブレットで再生できます。
    • 家族との思い出共有: 家族旅行の写真や動画をNASに保存し、家族みんなで共有できます。
  • メディアサーバーソフト:

    • Plex Media Server: Plex Media Serverは、豊富な機能を備えたメディアサーバーソフトです。
    • Emby: Embyは、美しいインターフェースが特徴のメディアサーバーソフトです。
    • Kodi: Kodiは、カスタマイズ性の高いメディアセンターソフトです。
    • MiniDLNA: MiniDLNAは、軽量でシンプルなメディアサーバーソフトです。

3. 外付けHDDをNAS化する方法

外付けHDDをNAS化するには、主に以下の2つの方法があります。

  • NASケース/アダプターを利用する方法: 専用のNASケースやNASアダプターを利用して、外付けHDDをネットワークに接続します。
  • Raspberry Piを利用する方法: Raspberry Piなどのシングルボードコンピュータに外付けHDDを接続し、NAS化ソフトウェアをインストールしてNASを構築します。

それぞれの方法について、詳しく解説します。

3.1 NASケース/アダプターを利用する方法

NASケース/アダプターは、外付けHDDをNAS化するために設計された専用のデバイスです。外付けHDDをNASケース/アダプターにセットし、LANケーブルでネットワークに接続することで、簡単にNASを構築できます。

  • メリット:

    • 設定が簡単: 専用のソフトウェアや設定ツールが付属しているため、比較的簡単に設定できます。
    • 省電力: 消費電力が少ないため、電気代を抑えることができます。
    • コンパクト: 場所を取らないコンパクトな設計です。
    • 安定性: NASとしての機能に特化しているため、安定した動作が期待できます。
  • デメリット:

    • 拡張性が低い: 基本的に、搭載できるHDDの数や種類が限られています。
    • 自由度が低い: ソフトウェアや機能が固定されているため、カスタマイズの自由度は低いです。
    • 費用がかかる: NASケース/アダプター本体の費用がかかります。
  • 選び方:

    • 搭載可能なHDDの種類と数: 必要な容量に合わせて、搭載可能なHDDの種類と数を確認しましょう。
    • インターフェース: 必要なインターフェース(USB、LANなど)を確認しましょう。
    • 機能: ファイル共有、バックアップ、メディアサーバーなど、必要な機能が搭載されているか確認しましょう。
    • メーカーと価格: 信頼できるメーカーの製品を選び、予算に合わせて価格を比較しましょう。
  • 設定方法:

    1. NASケース/アダプターに外付けHDDをセットします。
    2. LANケーブルでNASケース/アダプターをルーターに接続します。
    3. NASケース/アダプターの電源を入れます。
    4. パソコンにNASケース/アダプターに付属のソフトウェアをインストールします。
    5. ソフトウェアを使って、NASの設定を行います(IPアドレス、共有フォルダ、ユーザーアカウントなど)。

3.2 Raspberry Piを利用する方法

Raspberry Piは、小型で安価なシングルボードコンピュータです。Raspberry Piに外付けHDDを接続し、NAS化ソフトウェアをインストールすることで、NASを構築できます。

  • メリット:

    • 自由度が高い: ソフトウェアや機能を自由にカスタマイズできます。
    • 拡張性が高い: USBポートを使って、複数の外付けHDDを接続できます。
    • 費用を抑えられる: Raspberry Pi本体と外付けHDDの費用だけでNASを構築できます。
    • 多機能: NAS以外にも、様々な用途に活用できます。
  • デメリット:

    • 設定が難しい: ある程度のLinuxの知識が必要になります。
    • 消費電力が高い: NASケース/アダプターに比べて、消費電力が高くなる傾向があります。
    • 安定性: NASケース/アダプターに比べて、安定性に劣る場合があります。
    • 知識が必要: Linuxの知識やネットワークの知識が必要となる場合があります。
  • 必要なもの:

    • Raspberry Pi: Raspberry Pi 4 Model B(4GB RAM以上推奨)
    • MicroSDカード: 16GB以上推奨
    • 外付けHDD: 必要な容量に合わせて選択
    • USBケーブル: 外付けHDDをRaspberry Piに接続するためのケーブル
    • LANケーブル: Raspberry Piをルーターに接続するためのケーブル
    • 電源アダプター: Raspberry Piを起動するための電源アダプター
    • Raspberry Piケース: Raspberry Piを保護するためのケース(任意)
    • HDMIケーブルとモニター、キーボード、マウス: 初期設定時に必要
  • 構築手順:

    1. Raspberry Pi OSのインストール:

      • Raspberry Pi Imagerを使って、MicroSDカードにRaspberry Pi OS(Raspberry Pi OS Lite推奨)を書き込みます。
      • Raspberry Pi Imagerの設定で、SSHを有効にし、Wi-Fiを設定しておくと便利です。

        1. Raspberry Piの起動と初期設定:
      • MicroSDカードをRaspberry Piに挿入し、モニター、キーボード、マウスを接続して起動します。

      • ターミナルを開き、以下のコマンドを実行して、システムを最新の状態に更新します。
        bash
        sudo apt update
        sudo apt upgrade
      • Raspberry PiのIPアドレスを確認します。(ifconfigコマンドなどで確認できます)

        1. SSH接続:
      • 別のパソコンからSSHを使ってRaspberry Piに接続します。
        bash
        ssh pi@<Raspberry PiのIPアドレス>

        パスワードは、Raspberry Pi OSの初期設定時に設定したパスワードを入力します。(デフォルトはraspberry

        1. NAS化ソフトウェアのインストール:
      • Samba: Sambaは、Windowsとのファイル共有を可能にするソフトウェアです。以下のコマンドを実行してインストールします。
        bash
        sudo apt install samba samba-common-bin

      • Nextcloud: Nextcloudは、Dropboxのようなクラウドストレージを構築できるソフトウェアです。

        • 先にLAMP環境(Linux, Apache, MySQL, PHP)を構築する必要があります。
        • Nextcloudのインストール方法は、公式ドキュメントを参照してください。
        • Sambaの設定:
      • Sambaの設定ファイル(/etc/samba/smb.conf)を編集します。

      • 以下の内容をファイルの末尾に追加します。(例)
        [share]
        comment = Shared Folder
        path = /mnt/hdd
        browseable = yes
        writable = yes
        guest ok = no
        read only = no
        create mask = 0777
        directory mask = 0777
        valid users = pi
        force user = pi

        • path: 共有フォルダのパス(外付けHDDのマウントポイント)を指定します。
        • valid users: アクセスを許可するユーザーを指定します。(piユーザーなど)
      • Sambaサービスを再起動します。
        bash
        sudo systemctl restart smbd

        1. 外付けHDDのマウント:
      • 外付けHDDをRaspberry Piに接続します。

      • 外付けHDDのUUIDを確認します。(sudo blkidコマンドなどで確認できます)
      • /etc/fstabファイルを編集し、外付けHDDを自動マウントするように設定します。
        UUID=<外付けHDDのUUID> /mnt/hdd ext4 defaults,nofail 0 0

        • /mnt/hddはマウントポイント(フォルダ)です。事前に作成しておく必要があります。(sudo mkdir /mnt/hdd
      • 設定を反映させるために、以下のコマンドを実行します。
        bash
        sudo mount -a

        1. 共有フォルダへのアクセス:
      • Windowsのエクスプローラーから、\\<Raspberry PiのIPアドレス>\shareにアクセスします。

      • Sambaの設定で指定したユーザー名とパスワードを入力します。
  • より高度なNAS構築:

    • OpenMediaVault (OMV): OpenMediaVaultは、GUIベースで簡単にNASを構築できるLinuxディストリビューションです。
    • Rockstor: Rockstorは、Btrfsファイルシステムを利用した高度なNASソリューションです。
    • ownCloud: ownCloudは、Nextcloudと同様に、クラウドストレージを構築できるソフトウェアです。

4. 注意点

外付けHDDをNAS化する際には、以下の点に注意する必要があります。

  • セキュリティ:
    • NASへのアクセス制限を適切に設定しましょう。
    • 強力なパスワードを設定しましょう。
    • 定期的にセキュリティアップデートを実行しましょう。
    • 不要なポートは閉じましょう。
    • ファイアウォールを有効にしましょう。
  • バックアップ:
    • NASに保存されたデータは、NAS自体が故障した場合に失われる可能性があります。
    • 重要なデータは、別の場所にバックアップしておきましょう。
    • 定期的にバックアップを実行しましょう。
    • 3-2-1ルール(データのコピーを3つ作成し、2種類のメディアに保存し、1つはオフサイトに保管する)を参考に、バックアップ戦略を立てましょう。
  • パフォーマンス:
    • 外付けHDDの性能やネットワーク環境によって、NASのパフォーマンスが左右されます。
    • 高速な外付けHDDや高速なネットワーク環境を構築しましょう。
    • ファイルサイズが大きいファイルを共有する場合は、特に注意が必要です。
  • 信頼性:
    • 安価な外付けHDDは、長期的な使用に耐えられない場合があります。
    • NAS用の高信頼性HDDを使用することをおすすめします。
    • RAID構成を検討しましょう。(複数のHDDを組み合わせることで、データの冗長性を高めることができます)
  • 消費電力:
    • Raspberry Piを使用する場合は、NASケース/アダプターに比べて消費電力が高くなる傾向があります。
    • 省電力設定を有効にしましょう。
  • 互換性:
    • メディアサーバーソフトを使用する場合は、対応しているファイル形式を確認しましょう。
    • DLNA対応デバイスを使用する場合は、DLNAのバージョンを確認しましょう。
  • 法的責任:
    • 著作権保護されたコンテンツを無断で共有することは違法です。
    • ファイルの共有範囲には十分注意しましょう。

5. まとめ

外付けHDDをNAS化することで、ファイル共有、バックアップ、メディアサーバーといった様々な機能を自宅やオフィスで手軽に実現できます。NASケース/アダプターを利用する方法は、設定が簡単で初心者におすすめです。Raspberry Piを利用する方法は、自由度が高く、より高度なNAS構築を目指す方におすすめです。

本記事で紹介した情報を参考に、ぜひ外付けHDDのNAS化に挑戦してみてください。

補足:

  • 本記事は、一般的な情報に基づいて記述されています。具体的な設定方法や手順は、使用するNASケース/アダプター、Raspberry Pi、ソフトウェアによって異なります。
  • 最新の情報は、各メーカーのウェブサイトやドキュメントを参照してください。
  • NASの構築や設定は、自己責任で行ってください。
  • ご不明な点があれば、専門家にご相談ください。

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