強化学習初心者向け!PPOアルゴリズムをやさしく解説

はい、承知いたしました。強化学習初心者向けに、PPOアルゴリズムをやさしく、詳細に解説する約5000語の記事を作成します。


強化学習初心者向け!PPOアルゴリズムをやさしく解説

はじめに:なぜ強化学習?そしてPPOはなぜ重要なのか?

ようこそ、強化学習の世界へ!

近年、AI技術の進化は目覚ましく、自動運転、ロボット制御、ゲームAI、囲碁や将棋の世界でのトッププレイヤー越えなど、様々な分野で驚異的な成果が見られています。これらの成果の多くを支えている技術の一つが、強化学習 (Reinforcement Learning, RL) です。

強化学習は、人間や動物が経験を通じて学ぶプロセスに似ています。ある環境の中で、エージェント(学習する主体)が行動を選択し、その行動の結果として「報酬」を受け取ります。エージェントは、より多くの報酬を得られるような行動戦略(ポリシ ー)を学習していきます。

例えるなら、初めて自転車に乗る練習をする子供のようなものです。
* エージェント: 子供自身
* 環境: 道路、自転車、風、地面など
* 状態: 今の自分のバランス、自転車の速度、周りの状況など
* 行動: ペダルをこぐ、ハンドルをきる、ブレーキをかける、バランスをとるなど
* 報酬: うまくバランスが取れた、少し前に進めた(ポジティブ報酬)、転んでしまった(ネガティブ報酬=罰)

子供は、何度も試行錯誤を繰り返しながら、転ばずに、より速く進めるようなハンドルのきり方やペダルのこぎ方を学んでいきます。これがまさに強化学習です。

さて、強化学習には様々なアルゴリズムが存在します。その中でも、PPO (Proximal Policy Optimization) は、比較的新しいながらもその性能と安定性から、現在最も広く使われているアルゴリズムの一つ と言われています。OpenAIなどの研究機関が開発・推進しており、多くのベンチマークタスクや実応用で高いパフォーマンスを示しています。

しかし、初心者にとってPPOは少し難しそうに見えるかもしれません。そこで、この記事では、強化学習の基本的な考え方から出発し、PPOがなぜ生まれ、どのように動作するのかを、専門用語を避けつつ、ステップバイステップで丁寧に解説していきます。数学的な厳密さよりも、直感的な理解を深めることを目標とします。

この記事を読めば、PPOの核心を理解し、強化学習の次のステップに進むための強力な足がかりを得られるはずです。さあ、PPOの世界へ一緒に飛び込みましょう!

強化学習の基本をおさらいしよう

PPOの前に、まずは強化学習の基本的な構成要素と概念を簡単に復習しておきましょう。これらはPPOを理解する上で不可欠です。

  1. エージェント (Agent): 学習し、環境と相互作用する主体です。
  2. 環境 (Environment): エージェントを取り巻く世界です。エージェントの行動に対して、新しい状態と報酬を返します。
  3. 状態 (State, $S$): ある瞬間の環境の状況を表す情報です。例えば、ロボットの位置や角度、ゲームの盤面などです。
  4. 行動 (Action, $A$): エージェントが環境に対して行う動作です。例えば、ロボットの関節を動かす、ゲームで特定のボタンを押すなどです。
  5. 報酬 (Reward, $R$): エージェントの行動が良いものだったか、悪いものだったかを評価する数値です。通常、良い行動には正の報酬、悪い行動には負の報酬(罰)が与えられます。エージェントの究極の目標は、将来にわたって得られる報酬の合計(累積報酬)を最大化すること です。
  6. 方策(ポリシー) (Policy, $\pi$): ある状態において、どの行動を選択するかを決定するエージェントの戦略です。確率的な方策 ($\pi(a|s)$ は状態 $s$ で行動 $a$ をとる確率) や、決定的な方策 (状態 $s$ に対して取るべき行動 $a$ を直接返す) があります。強化学習の多くのアルゴリズムは、この方策を学習することを目指します。
  7. 価値関数 (Value Function): ある状態や、ある状態である行動をとったときに、将来どれくらいの累積報酬が得られるかの期待値 を表す関数です。
    • 状態価値関数 ($V(s)$): 状態 $s$ から開始して、ある方策 $\pi$ に従った場合に将来得られる累積報酬の期待値。$V^\pi(s) = E_\pi[\sum_{k=0}^\infty \gamma^k R_{t+k+1} | S_t = s]$ のように定義されます($\gamma$ は割引率)。
    • 行動価値関数 ($Q(s, a)$): 状態 $s$ で行動 $a$ をとり、その後方策 $\pi$ に従った場合に将来得られる累積報酬の期待値。$Q^\pi(s,a) = E_\pi[\sum_{k=0}^\infty \gamma^k R_{t+k+1} | S_t = s, A_t = a]$ のように定義されます。

強化学習の学習プロセスは、基本的に以下の繰り返しです。

  1. エージェントが現在の状態を観測する。
  2. エージェントが自身の方策に従って行動を選択する。
  3. 環境がその行動を受け入れ、新しい状態報酬を返す。
  4. エージェントは得られた情報(状態、行動、報酬、新しい状態)をもとに、自身の方策価値関数を更新する。

これを繰り返すことで、エージェントはより高い累積報酬を得られるような方策を学習していくのです。

方策勾配法 (Policy Gradient Methods) とその課題

PPOは「方策勾配法」と呼ばれる強化学習アルゴリズムの一種です。方策勾配法は、方策関数を直接学習する アプローチをとります。

方策勾配法の基本的な考え方

価値関数を学習する(Q学習やDQNなど)のではなく、方策(どの状態であのアクションをどのくらいの確率で取るか)を表す関数(通常はニューラルネットワーク)を用意し、その関数を直接的に、より高い報酬が得られる方向に更新 していきます。

どうやって「より高い報酬が得られる方向」を知るのでしょうか? それは、勾配 (Gradient) を計算することで行います。数学では、関数の勾配はその関数が最も急峻に増加する方向を示します。方策勾配法では、「期待累積報酬」を最大化するために、方策パラメータの勾配を計算し、その方向に方策パラメータを更新します。

最も基本的な方策勾配法の一つに REINFORCEアルゴリズム があります。REINFORCEは、エピソード(開始から終了までのプレイ)を最後まで実行し、そのエピソードで得られた全ての報酬を用いて、エピソード中にとった各行動を評価します。そして、良い結果(高い累積報酬)につながった行動をとった確率を増やし、悪い結果につながった行動をとった確率を減らすように方策を更新します。

REINFORCEの更新式は、おおよそ以下のようになります(概念的な説明です):

$\text{方策パラメータ} \leftarrow \text{方策パラメータ} + \alpha \cdot (\text{累積報酬}) \cdot \nabla \log \pi(a|s, \theta)$

ここで、
* $\alpha$ は学習率
* 累積報酬はその行動が属するエピソードの総報酬
* $\nabla \log \pi(a|s, \theta)$ は、状態 $s$ で行動 $a$ をとった確率を最大化する方向を示す勾配です。

この式は、「エピソードの累積報酬が高ければ高いほど、そのエピソードでとった行動の確率を増やす方向に方策を更新する」という意味になります。

方策勾配法の課題

REINFORCEのような基本的な方策勾配法は直感的で理解しやすいですが、いくつかの大きな課題を抱えています。

  1. 高い分散 (High Variance): 方策の更新が、エピソード全体で得られたたった一つの累積報酬に大きく依存します。エピソードごとに環境のランダム性やエージェントの初期状態によって累積報酬は大きく変動するため、勾配の推定値が非常に不安定(分散が大きい)になりがちです。これは、学習の効率を著しく低下させたり、学習が収束しにくくなったりする原因となります。
    例えるなら、一回のテストの点数だけで、生徒の年間を通じた勉強法を評価し、大きく変更するようなものです。たまたま簡単な問題が出たテストで高得点だったからといって、その勉強法が常に良いとは限りません。

  2. 適切な学習率の設定が難しい (Difficulty in Setting Learning Rate): 方策を更新する際、パラメータをどのくらい大きく変化させるか(学習率)の決定が非常に重要です。学習率が小さすぎると学習が遅くなります。一方、学習率が大きすぎると、せっかく良い感じになってきた方策が、一回の更新で大きく崩壊してしまう 「壊滅的な忘却 (Catastrophic Forgetting)」 を引き起こす可能性があります。
    方策勾配法は、現在のデータで計算された勾配を使って方策を更新しますが、方策が少し変わるだけで、次に得られるデータの分布が大きく変わってしまう可能性があります。そのため、現在の勾配が次の状態でも「良い方向」を示しているとは限らないのです。大きな更新は、エージェントを未知の、非常に悪い状態に連れて行ってしまうリスクがあります。

これらの課題を克服し、より安定して効率的に学習を行うために、様々な改良が加えられてきました。

アクター・クリティック法 (Actor-Critic Methods) による改善

方策勾配法の高い分散を減らすための一般的な手法として、アクター・クリティック法 があります。

アクター・クリティック法では、方策を学習する アクター (Actor) と、状態や行動の価値を評価する クリティック (Critic) の二つのネットワーク(あるいは関数)を同時に学習します。

  • アクター: 方策 $\pi(a|s)$ を表すネットワーク。どの状態 $s$ でどの行動 $a$ をとるかを決定します。
  • クリティック: 価値関数(状態価値関数 $V(s)$ や行動価値関数 $Q(s,a)$)を表すネットワーク。アクターが選択した行動や、現在の状態の良さを評価します。

アクターは、クリティックによる評価(通常は 「アドバンテージ (Advantage)」)を利用して方策を更新します。アドバンテージ $A(s,a)$ は、ある状態 $s$ で特定の行動 $a$ をとることが、その状態の平均的な期待値(状態価値 $V(s)$)と比べてどれだけ良いか を表します。

$A(s,a) = Q(s,a) – V(s)$

または、実際によく使われるのは、TD誤差(時間的差分誤差)に基づいたアドバンテージ推定です。例えば、1ステップTD誤差を使ったアドバンテージは $R_{t+1} + \gamma V(S_{t+1}) – V(S_t)$ で推定できます。これは「実際にとった行動の結果(報酬 $R_{t+1}$ と次の状態の価値 $\gamma V(S_{t+1})$)が、元の状態の価値 $V(S_t)$ と比べてどれだけ良かったか」を表します。

アクターは、REINFORCEのようにエピソードの累積報酬全体を使うのではなく、この アドバンテージ を使って方策を更新します。

$\text{方策パラメータ} \leftarrow \text{方策パラメータ} + \alpha \cdot A(s,a) \cdot \nabla \log \pi(a|s, \theta)$

アドバンテージを使うことで、基準(ベースライン)からの相対的な良さで行動を評価できるため、REINFORCEよりも勾配の分散を効果的に減らすことができます。クリティックは、価値関数を学習することで、このアドバンテージを正確に推定する役割を担います。

アクター・クリティック法は方策勾配法の分散問題を改善しましたが、大きな学習率で方策を更新すると、方策が大きく変わりすぎてしまう(そして壊滅する可能性がある)という課題 は依然として残っています。これは、On-policy (オンポリシー) アルゴリズム(データを収集した方策と、学習・更新する方策が同じであるアルゴリズム)に共通する難しさです。少し方策が変わると、次に集まるデータも変わるため、学習が不安定になりやすいのです。

トラスト・リージョン法 (Trust Region Methods): 安定性への追求

学習率の設定の難しさ、つまり「方策をどの程度まで安全に更新できるか」という問題を正面から捉えたのが、トラスト・リージョン法 です。

トラスト・リージョン(信頼領域)という考え方は、「現在のデータで計算された勾配は、現在の 方策の近くでしか信頼できない」という直感に基づいています。したがって、方策を更新する際には、現在の政策からあまり離れすぎないように制約を設けるべきだ、という考え方です。

最も有名なトラスト・リージョン法の一つが、TRPO (Trust Region Policy Optimization) です。TRPOは、方策の更新量を、新しい方策が古い方策からどの程度「異なるか」 を測る指標(通常はKLダイバージェンスという指標)を用いて制約します。

TRPOの最適化問題は、おおよそ以下のようになります:

現在のデータで計算された目的関数(アドバンテージを用いた方策勾配目的関数に似ている)を 最大化 する。
ただし、新しい方策 $\pi_{new}$ と古い方策 $\pi_{old}$ の間の KLダイバージェンスが、ある小さな値 $\delta$ 以下である という制約を満たす。

KLダイバージェンス $D_{KL}(\pi_{old} || \pi_{new})$ は、二つの確率分布がどれだけ異なるかを示す尺度です。TRPOでは、このKLダイバージェンスが小さい範囲(信頼領域)内で方策を更新しようとします。

TRPOは、方策の更新を安定化させることに非常に成功しました。KLダイバージェンスによる制約があるため、学習率を大きくしても方策が一気に破滅的に変わってしまうリスクが低減されました。これは、複雑なタスク、特に連続行動空間を持つロボット制御などで高い性能を発揮することにつながりました。

しかし、TRPOには大きな欠点があります。それは、実装が非常に複雑である という点です。KLダイバージェンス制約付き最適化問題を解くためには、共役勾配法などの二次情報(ヘッセ行列のベクトル積)を必要とする高度な最適化手法を用いる必要があり、これは初心者にとってはハードルが高く、計算コストも高くなる傾向があります。

ここで、ついにPPOが登場します!

PPO: トラスト・リージョンのアイデアをシンプルに実現

PPO (Proximal Policy Optimization) は、TRPOの持つ安定性高い性能という利点を引き継ぎつつ、その複雑さを解消することを目指して開発されました。PPOは、TRPOのような複雑な制約付き最適化問題を解く代わりに、目的関数にシンプルな修正(クリッピング)を加える ことで、方策の更新量が極端に大きくならないように調整します。

PPOの核となるアイデアは以下の通りです。

「新しい方策が古い方策から大きく逸脱した場合、その状態・行動ペアに対する目的関数の貢献をクリップ(制限)してしまおう」

これを実現するために、PPOでは以下の要素を導入します。

  1. 確率比 (Probability Ratio): 新しい方策 ($\pi_{new}$) と古い方策 ($\pi_{old}$) の下で、特定の状態 $s$ で特定の行動 $a$ が選択される確率の比率 $r_t(\theta)$ を計算します。

    $r_t(\theta) = \frac{\pi_\theta(a_t | s_t)}{\pi_{\theta_{old}}(a_t | s_t)}$

    ここで、
    * $\theta$ は更新中の新しい方策のパラメータ
    * $\theta_{old}$ はデータを収集した古い方策のパラメータ
    * $s_t, a_t$ は、古い方策 $\pi_{\theta_{old}}$ を使って環境と相互作用した際に実際に得られた状態と行動のペアです。

    この比率 $r_t(\theta)$ が 1 に近いほど、新しい方策は古い方策と似ています。1より大きい場合は、新しい方策がその行動を選択する確率を増やしたことになり、1より小さい場合は確率を減らしたことになります。

  2. クリップ付き目的関数 (Clipped Objective Function): PPOの中心となるのが、この特殊な目的関数 $L^{CLIP}(\theta)$ です。方策の更新は、この目的関数を最大化するように行われます。

    $L^{CLIP}(\theta) = \hat{E}_t [ \min(r_t(\theta) \hat{A}_t, \text{clip}(r_t(\theta), 1-\epsilon, 1+\epsilon) \hat{A}_t) ]$

    ここで、
    * $\hat{E}_t$ は、収集されたデータ(経験)にわたる平均を表します。
    * $\hat{A}_t$ は、状態 $s_t$ で行動 $a_t$ をとった際のアドバンテージ推定値です。通常、クリティックネットワークを使って計算されたり、GAE (Generalized Advantage Estimation) などの手法で推定されたりします。アドバンテージは「その行動が平均よりどれだけ良かったか」を表す値でしたね。
    * $\epsilon$ (イプシロン) は、PPOの重要なハイパーパラメータで、クリッピングの範囲を決定します。例えば $\epsilon=0.2$ の場合、比率 $r_t(\theta)$ は $[0.8, 1.2]$ の範囲にクリップされます。
    * $\text{clip}(r, l, h)$ は、関数 $r$ を $[l, h]$ の範囲にクリップする関数です。$r$ が $l$ より小さければ $l$、 $h$ より大きければ $h$、その間であれば $r$ そのものを返します。
    * $\min(x, y)$ は、 $x$ と $y$ のうち小さい方を選択する関数です。

このクリップ付き目的関数は、少し複雑に見えるかもしれません。順番に分解して考えてみましょう。

目的関数は、エージェントが集めた各状態・行動ペア $(s_t, a_t)$ について計算される項の平均(期待値)です。その各項は $\min(r_t(\theta) \hat{A}_t, \text{clip}(r_t(\theta), 1-\epsilon, 1+\epsilon) \hat{A}_t)$ という形をしています。

この項は、次の二つの値のうち小さい方を選びます。

  • 第一項: $r_t(\theta) \hat{A}_t$
    これは、新しい方策の確率比とアドバンテージを掛け合わせたものです。これは、TRPOが登場する前の基本的な方策勾配法で使われていた目的関数(アドバンテージベースラインを使った場合)に非常に似ています。アドバンテージ $\hat{A}_t$ が正であれば、行動 $a_t$ は平均よりも良い行動だったということなので、$r_t(\theta)$ (その行動をとる確率比)を大きくする(つまり新しい方策でその行動をとる確率を増やす)方向に学習すれば目的関数は増加します。アドバンテージが負であれば、行動 $a_t$ は平均よりも悪い行動だったので、$r_t(\theta)$ を小さくする(確率を減らす)方向に学習すれば目的関数は増加します(負の値の絶対値が小さくなる)。

  • 第二項: $\text{clip}(r_t(\theta), 1-\epsilon, 1+\epsilon) \hat{A}_t$
    これは、確率比 $r_t(\theta)$ を $[1-\epsilon, 1+\epsilon]$ の範囲にクリップしてからアドバンテージと掛け合わせたものです。

なぜこの二つの項の $\min$ を取るのでしょうか? これこそがPPOの「信頼領域を模倣する」部分です。

考えてみてください。目的関数 $L^{CLIP}(\theta)$ を 最大化 することが目標です。

ケース1: アドバンテージ $\hat{A}_t$ が正の場合 ($ \hat{A}_t > 0$)

これは、状態 $s_t$ で行動 $a_t$ をとった結果が、その状態での平均的な結果よりも良かった、つまり良い行動だったということです。エージェントは新しい方策でこの行動をとる確率を増やしたいと考えます。つまり、確率比 $r_t(\theta) = \frac{\pi_\theta(a_t | s_t)}{\pi_{\theta_{old}}(a_t | s_t)}$ を大きくしたい(1より大きくしたい)方向に方策を更新しようとします。

  • もし $r_t(\theta)$ が $[1-\epsilon, 1+\epsilon]$ の範囲内にあれば、$\text{clip}(r_t(\theta), …) = r_t(\theta)$ なので、第一項と第二項は等しくなり、目的関数のこの項は $r_t(\theta) \hat{A}_t$ となります。これは、確率比を大きくすればするほど(かつ、その比率がクリップ範囲内であれば)、目的関数が素直に増加することを示します。良い行動の確率を増やすことに報酬を与えているわけです。

  • もし $r_t(\theta)$ が $1+\epsilon$ より大きくなった場合、つまり新しい方策が古い方策から大きく離れて、この良い行動をとる確率を過度に増やしてしまった場合、$\text{clip}(r_t(\theta), …) = 1+\epsilon$ となります。このとき、第一項は $r_t(\theta) \hat{A}_t$ (より大きな値)、第二項は $(1+\epsilon) \hat{A}_t$ (より小さな値) となります。$\min$ を取るため、目的関数のこの項は $(1+\epsilon) \hat{A}_t$ に制限されます。

    これは何を意味するのでしょうか? たとえ新しい方策がその良い行動をとる確率を $1+\epsilon$ 倍以上に増やしたとしても、目的関数の増加は$1+\epsilon$倍で打ち止めになるということです。つまり、「すごく良い行動だったからといって、古い方策の確率の2倍、3倍…と無制限に確率を増やしても、それ以上のボーナスは上げませんよ」という制限をかけているのです。これにより、たまたま良いアドバンテージが得られた行動に対して、方策が過剰に反応し、不安定になるのを防ぎます。これが「クリッピング」による信頼領域の模倣です。

ケース2: アドバンテージ $\hat{A}_t$ が負の場合 ($ \hat{A}_t < 0$)

これは、状態 $s_t$ で行動 $a_t$ をとった結果が、その状態での平均的な結果よりも悪かった、つまり悪い行動だったということです。エージェントは新しい方策でこの行動をとる確率を減らしたいと考えます。つまり、確率比 $r_t(\theta)$ を小さくしたい(1より小さくしたい)方向に方策を更新しようとします。目的関数は $r_t(\theta) \hat{A}_t$ のような項の合計を最大化するので、負の値 $\hat{A}_t$ に掛けられる $r_t(\theta)$ は小さい方が(0に近い方が)項の値は大きくなり、合計として目的関数は増加します。

  • もし $r_t(\theta)$ が $[1-\epsilon, 1+\epsilon]$ の範囲内にあれば、$\text{clip}(r_t(\theta), …) = r_t(\theta)$ なので、第一項と第二項は等しくなり、目的関数のこの項は $r_t(\theta) \hat{A}_t$ となります。これは、確率比を小さくすればするほど(かつ、その比率がクリップ範囲内であれば)、目的関数が素直に増加することを示します。悪い行動の確率を減らすことに報酬(負の報酬の絶対値の減少)を与えているわけです。

  • もし $r_t(\theta)$ が $1-\epsilon$ より小さくなった場合、つまり新しい方策がこの悪い行動をとる確率を過度に減らしてしまった場合、$\text{clip}(r_t(\theta), …) = 1-\epsilon$ となります。このとき、第一項は $r_t(\theta) \hat{A}_t$ (例えば $r=0.5, \hat{A}=-1$ なら $0.5 \times -1 = -0.5$)、第二項は $(1-\epsilon) \hat{A}_t$ (例えば $\epsilon=0.2, r=0.5, \hat{A}=-1$ なら $(1-0.2) \times -1 = -0.8$) となります。$\min$ を取るため、目的関数のこの項は $(1-\epsilon) \hat{A}_t$ に制限されます。

    これは何を意味するのでしょうか? たとえ新しい方策がその悪い行動をとる確率を $1-\epsilon$ 倍以下に減らしたとしても、目的関数の増加は(1-$\epsilon$) $\hat{A}_t$ で打ち止めになるということです。これは少し分かりにくいかもしれません。目的関数は最大化したいものです。$\hat{A}_t$ は負の値です。$r_t(\theta) \hat{A}_t$ という項を大きくするには、$r_t(\theta)$ を小さくする必要があります。つまり悪い行動の確率を減らしたいのです。もし $r_t(\theta)$ が $1-\epsilon$ より小さくなると、$\text{clip}$ された値は $1-\epsilon$ になります。第一項 $r_t(\theta) \hat{A}_t$ は、負の値同士の掛け算で、より小さくなるにつれて(例えば-0.5, -0.4, -0.3 … と0に近づくにつれて)項の値は増加します。第二項 $(1-\epsilon) \hat{A}_t$ は、 $r_t(\theta)$ が $1-\epsilon$ より小さくなっても一定です。
    $\min(r_t(\theta) \hat{A}_t, (1-\epsilon) \hat{A}_t)$ ($ \hat{A}_t < 0$) を考えます。
    * $r_t(\theta) > 1-\epsilon$ の場合: $r_t(\theta) \hat{A}_t < (1-\epsilon) \hat{A}_t$ なので $\min$ は $r_t(\theta) \hat{A}_t$。
    * $r_t(\theta) \le 1-\epsilon$ の場合: $r_t(\theta) \hat{A}_t \ge (1-\epsilon) \hat{A}_t$ なので $\min$ は $(1-\epsilon) \hat{A}_t$。
    つまり、$r_t(\theta)$ が $1-\epsilon$ 以下になっても、項の増加は $(1-\epsilon) \hat{A}_t$ を超えません。これは、悪い行動を過度に減らしすぎても、それ以上の大きなボーナスは与えないということです。これにより、悪い行動に対して方策が過剰に反応し、多様性を失ったり、別の問題を引き起こしたりするのを防ぎます。

まとめると、PPOのクリップ付き目的関数は:

  • 良い行動 ($ \hat{A}_t > 0$) については、その行動をとる確率を増やすことを奨励するが、増やしすぎても $1+\epsilon$ 倍までしか評価しない。
  • 悪い行動 ($ \hat{A}_t < 0$) については、その行動をとる確率を減らすことを奨励するが、減らしすぎても $1-\epsilon$ 倍になった時点での評価で打ち止めにする。(そして、もし悪い行動をとる確率を増やしてしまった場合は、$r_t(\theta) > 1+\epsilon$ となり $\min$ の第一項 $r_t(\theta) \hat{A}_t$ が選ばれ、大きな負の値として厳しく罰せられます。)

このクリッピング機構により、方策の更新量が、古い方策からの乖離が大きくなるにつれて自動的に抑制されるのです。これが、複雑な制約なしにTRPOのような安定した更新を実現するPPOの核となるアイデアです。

価値関数ロスとエントロピー項:学習の安定化と探査の促進

PPOの完全な目的関数は、通常、方策を更新するためのクリップ付き目的関数だけでなく、価値関数を更新するためのロス関数 と、探査を促進するためのエントロピー項 も含んでいます。

価値関数ロス (Value Function Loss)

PPOはアクター・クリティック法の一種であり、アドバンテージ推定のためにクリティック(価値関数ネットワーク)を学習します。価値関数(状態価値関数 $V(s)$)は、通常、方策ネットワークとは別に、または一部の層を共有する形で実装されます。

クリティックネットワークは、状態 $s_t$ を入力として、その状態の価値 $V(s_t)$ を出力します。この出力が、実際のターゲット価値に近づくように学習されます。ターゲット価値としては、例えば、実際の累積報酬や、TD学習のターゲット($R_{t+1} + \gamma V(S_{t+1})$ など)が使われます。

価値関数を学習するためのロス関数としては、予測された価値とターゲット価値の間の平均二乗誤差 (Mean Squared Error, MSE) がよく使われます。

$L^{VF}(\theta) = \hat{E}t [ (V\phi(s_t) – V_t^{target})^2 ]$

ここで、
* $V_\phi(s_t)$ はクリティックネットワークによる状態 $s_t$ の価値予測
* $V_t^{target}$ はその状態のターゲット価値(例えば、実際に得られた報酬の合計、あるいはTDターゲットなど)
* $\phi$ はクリティックネットワークのパラメータです。

この価値関数ロスを最小化することで、クリティックネットワークはより正確な価値推定、ひいてはより正確なアドバンテージ推定ができるようになり、方策(アクター)の学習をサポートします。

エントロピー項 (Entropy Term)

強化学習において、エージェントが様々な行動を試すこと(探査, Exploration)は非常に重要です。特に学習の初期段階では、偶然良い行動を見つけ出すために多様な行動をとる必要があります。方策が早くからごく一部の行動しかとらなくなる(方策の出力確率が特定の行動に偏る)と、まだ発見していないより良い行動を見つける機会を失ってしまいます。

これを防ぎ、方策が多様な行動をとりやすくするために、目的関数に エントロピー項 が加えられることがあります。方策のエントロピーは、方策の無秩序さ、つまり特定の状態において方策がどれだけランダムに行動を選択するかを示す尺度です。エントロピーが高いほど、方策は多様な行動をとる傾向があります。

エントロピー項は、方策ネットワークの出力のエントロピーに係数を掛けたもので、通常は目的関数に 加算 されます。目的関数を最大化する過程でエントロピー項も最大化されるように働くため、方策はより多様な行動をとるように促されます。

$S(\pi_\theta) = \hat{E}t [ \text{Entropy}(\pi\theta(\cdot|s_t)) ]$

このエントロピー項に、正の係数 $c_2$ を掛けたものを全体の目的関数に加えます。

PPOの最終的な目的関数

以上を組み合わせると、PPOで最大化する目的関数は以下のようになります。

$L(\theta, \phi) = \hat{E}t [ L^{CLIP}(\theta) – c_1 L^{VF}(\phi) + c_2 S(\pi\theta) ]$

ここで、
* $L^{CLIP}(\theta)$ は方策を更新するためのクリップ付き目的関数(最大化したい)
* $L^{VF}(\phi)$ は価値関数を学習するためのMSEロス(最小化したいので、全体目的関数ではマイナス $c_1$ を掛けている)
* $S(\pi_\theta)$ は方策のエントロピー(最大化したいので、全体目的関数ではプラス $c_2$ を掛けている)
* $c_1, c_2$ はそれぞれの項の重要度を調整する係数です。

PPOの学習は、この目的関数 $L(\theta, \phi)$ を勾配上昇法(Adamなどの最適化手法)を用いて最大化するように、方策パラメータ $\theta$ と価値関数パラメータ $\phi$ を同時に更新することで行われます。

PPOアルゴリズムの実行ステップ

PPOが実際にどのように学習を進めるのか、具体的なアルゴリズムのステップを見てみましょう。

PPOはオンポリシーアルゴリズムの一種と考えられますが、収集したデータを複数回利用する(ミニバッチSGDを複数エポック行う)点で、標準的なオンポリシーアルゴリズムとは少し異なります。この複数回利用は、データの再利用効率を高め、サンプル効率の向上に貢献します。

典型的なPPOの学習ループは以下のようになります:

  1. 初期化: 方策ネットワーク $\pi_{\theta}$ と価値関数ネットワーク $V_{\phi}$ のパラメータ $\theta, \phi$ をランダムに初期化します。また、クリッピングに使われる古い方策のパラメータ $\theta_{old}$ を $\theta$ で初期化します。

  2. データの収集 (Rollout):

    • 現在の最新の方策 $\pi_{\theta_{old}}$ を使って、環境と相互作用し、一定量のデータ(例えば $T$ ステップ分、または $N$ 個の並列環境で同時にステップを進めて合計 $N \times T$ ステップ分)を収集します。
    • 収集するデータには、各ステップにおける (状態 $s_t$, 行動 $a_t$, 報酬 $r_t$, 次の状態 $s_{t+1}$, 終了フラグ) と、そのステップで古い方策 $\pi_{\theta_{old}}$ が行動 $a_t$ を選んだ確率 $\pi_{\theta_{old}}(a_t|s_t)$ が含まれます。古い方策の確率は、後の確率比 $r_t(\theta)$ の分母として必要になります。
  3. アドバンテージの推定:

    • 収集したデータを使って、各ステップにおけるアドバンテージ $\hat{A}t$ を推定します。これには、収集した報酬シーケンスと、現在の価値関数ネットワーク $V\phi$ による状態価値予測を利用します。
    • 一般的には、GAE (Generalized Advantage Estimation) と呼ばれる手法が使われますが、これは将来の報酬をどれだけ考慮するか(バイアス-バリアンスのトレードオフ)を調整する手法です。初心者の方は、アドバンテージは「その行動が状態の平均的な価値よりどれだけ良かったか」を示す値であると理解しておけば十分です。
  4. ネットワークの更新:

    • 収集したデータ(状態、行動、アドバンテージ推定値、古い方策での行動確率、ターゲット価値など)を準備します。ターゲット価値は、例えばTD(lambda)ターゲットやモンテカルロターゲットなど、様々な方法で計算できます。
    • 方策ネットワーク $\pi_\theta$ と価値関数ネットワーク $V_\phi$ を、複数エポック にわたって更新します。これは、収集したデータを使い捨てにするのではなく、数回繰り返し学習に利用することを意味します。これがPPOのサンプル効率を向上させる一因です。
    • 各エポックでは、収集したデータを小さなミニバッチに分割し、各ミニバッチに対して以下の処理を行います。
      • 現在のパラメータ $\theta, \phi$ を持つネットワークを使って、各ステップにおける新しい方策での行動確率 $\pi_\theta(a_t|s_t)$、確率比 $r_t(\theta) = \frac{\pi_\theta(a_t | s_t)}{\pi_{\theta_{old}}(a_t | s_t)}$、状態価値 $V_\phi(s_t)$ を計算します。
      • 先ほど説明したPPOの目的関数 $L(\theta, \phi)$ を計算します。
      • 最適化手法(Adamなど)を使って、この目的関数を最大化する方向にパラメータ $\theta, \phi$ の勾配を計算し、更新します。
  5. 古い方策の更新: ネットワークの更新フェーズ(複数エポック)が終了したら、次のデータ収集ラウンドのために、古い方策のパラメータ $\theta_{old}$ を現在の新しい方策のパラメータ $\theta$ で更新します。

  6. 繰り返し: ステップ2に戻り、新たな方策でデータを収集し、学習を繰り返します。これを収束するまで、あるいは十分な性能が出るまで続けます。

このように、PPOはデータを一定量集めてから、そのデータを複数回使って学習するというミニバッチ学習のスタイルをとります。そして、学習時には古い方策からの大きな逸脱をクリッピングで抑制することで、学習の安定性を高めています。

PPOの利点と欠点

PPOが広く使われている理由、そしていくつかの考慮事項をまとめます。

PPOの利点 (Advantages)

  1. 優れた性能 (Good Performance): 多くの強化学習のタスクにおいて、PPOは高い性能を発揮することが知られています。連続行動空間、離散行動空間の両方に対応でき、複雑な環境でも効果的です。
  2. 安定した学習 (Stable Training): クリッピング機構により、方策の更新量が適切に制限されるため、学習が非常に安定しています。大きな学習率を使っても、方策が急激に悪化するリスクが低減されます。これは特に、開発やハイパーパラメータチューニングの際に大きな助けとなります。
  3. 実装の容易さ (Implementation Simplicity): TRPOと比較して、PPOは目的関数にシンプルな修正を加えるだけであり、特別な二次最適化手法などを必要としません。標準的な深層学習ライブラリ(TensorFlowやPyTorch)を使って比較的容易に実装できます。これが普及の大きな理由の一つです。
  4. サンプル効率の向上 (Improved Sample Efficiency): 収集したデータを複数回利用して学習できるため(オンポリシーでありながらミニバッチ学習)、REINFORCEのような純粋なオンポリシー手法に比べて、同じ量の経験からより多くの学習が進みます。ただし、DQNやSACのようなオフポリシー手法ほどサンプル効率は高くありません。
  5. 汎用性 (Generality): 様々な種類の環境(シミュレーション、ロボット、ゲームなど)やタスクに対して、比較的良好な性能を示す傾向があります。

PPOの欠点・考慮事項 (Disadvantages/Considerations)

  1. ハイパーパラメータチューニング (Hyperparameter Tuning): 他の深層強化学習アルゴリズムと同様に、PPOもいくつかの重要なハイパーパラメータ(例: クリッピングパラメータ $\epsilon$, 学習率, バッチサイズ, 収集データ量, 価値関数ロスやエントロピー項の係数 $c_1, c_2$, 更新エポック数など)を持っており、これらを適切に設定することが性能に大きく影響します。タスクごとに適切な設定を見つけるためのチューニングが必要です。
  2. オフポリシー手法ほどのサンプル効率ではない: 収集したデータを複数回使うとはいえ、基本的にはオンポリシーのデータ(古い方策で収集したデータ)を使っています。時間が経つと新しい方策と古い方策が乖離するため、収集したデータを無限に使い回すことはできません。したがって、大量のデータを再利用できるオフポリシー手法(DQN, SACなど)に比べると、環境との相互作用の回数(サンプル効率)は劣る場合があります。
  3. クリッピングの限界: クリッピングはあくまで近似的なトラスト・リージョンです。厳密な理論的保証はTRPOほど強力ではありません。また、クリッピング自体が最適な更新を妨げる場合も理論上は考えられます。ただし、実用上は十分な性能を発揮します。

PPOのバリアント(余談)

PPOには、ここで解説したクリッピングを使う手法(PPO-Clip)の他に、KLダイバージェンスが大きくなった場合に目的関数にペナルティ項を加える手法(PPO-Penalty または PPO2)も存在します。

$L^{PENALTY}(\theta) = \hat{E}t [ \frac{\pi\theta(a_t | s_t)}{\pi_{\theta_{old}}(a_t | s_t)} \hat{A}t – \beta D{KL}(\pi_{\theta_{old}}(\cdot|s_t) || \pi_\theta(\cdot|s_t)) ]$

この手法は、KLダイバージェンスが動的に調整される(大きくなるとペナルティ係数 $\beta$ が増加する)ように設計されています。理論的にはこちらの方がよりTRPOに近いですが、PPO-Clipの方が実装がさらに容易であり、多くのタスクでPPO-Penaltyと同等以上の性能を示すことが確認されているため、PPOといえばPPO-Clipを指すことが多いです。

まとめと次のステップ

この記事では、強化学習の基本から始まり、方策勾配法の課題、アクター・クリティック法やトラスト・リージョン法(TRPO)による改善を経て、PPOがどのようにして生まれ、その核となるクリッピング機構がどのように機能するのかを詳しく解説しました。

PPOは、TRPOの安定性を、目的関数へのシンプルな修正(クリッピング)によって模倣した、実装が比較的容易で、高い性能と安定性を両立させた 強化学習アルゴリズムです。方策ネットワークと価値関数ネットワークを同時に学習するアクター・クリティックの枠組みを採用し、収集したデータを複数回利用することでサンプル効率も向上させています。

PPOは、その実用性の高さから、現在進行中の多くの強化学習の研究や応用プロジェクトで採用されています。PPOの理解は、深層強化学習の実践において非常に強力な武器となるでしょう。

次のステップとして:

  1. PPOの実装例を見てみる: TensorFlowやPyTorchなどの深層学習フレームワークを使ったPPOの実装コードを探して読んでみましょう。Stable Baselines3などのライブラリには、PPOの信頼性の高い実装が含まれています。
  2. 簡単な環境で動かしてみる: OpenAI GymやMuJoCoなどのシミュレーション環境で、PPOを使ってエージェントを学習させてみましょう。自分でコードを書くか、既存のライブラリを利用する形で試すことができます。CartPoleやLunarLanderのような比較的簡単な環境から始めるのがおすすめです。
  3. ハイパーパラメータチューニングを試す: 環境を変えたり、同じ環境でも異なるハイパーパラメータ(特に $\epsilon$ や学習率)でPPOを実行し、どのように性能が変化するか観察してみましょう。
  4. 関連研究やアルゴリズムを学ぶ: PPOを理解したら、TRPO、A2C/A3C、SAC、TD3など、他の最新の強化学習アルゴリズムについても学ぶと、より深く強化学習全体を理解できるようになります。

強化学習の世界は奥深く、常に新しいアルゴリズムや手法が生まれています。しかし、PPOは現在の強化学習の「標準」とも言えるアルゴリズムの一つであり、これをしっかりと理解することは、この分野を学ぶ上で非常に重要です。

この記事が、あなたの強化学習の旅における一助となれば幸いです。頑張ってください!


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