Amazon Elasticsearch Service (Amazon ES) vs OpenSearch:どちらを選ぶべき?


Amazon Elasticsearch Service (Amazon ES) vs OpenSearch:どちらを選ぶべき?

検索エンジンは、現代のデジタル環境において不可欠な役割を果たしています。ウェブサイトの検索バーから、大規模なデータ分析まで、さまざまな用途で利用されています。その中でも、Elasticsearch は長年にわたり、広く採用されてきたオープンソースの検索・分析エンジンです。しかし、Amazon Web Services (AWS) が Elasticsearch をフォークして OpenSearch を開発したことで、ユーザーはどちらのプラットフォームを選ぶべきか迷う状況が生じています。

この記事では、Amazon Elasticsearch Service (Amazon ES) と OpenSearch を詳細に比較し、それぞれのメリット・デメリット、ユースケース、コスト構造などを解説します。読者の皆様が、自身のニーズに最適なプラットフォームを選択できるよう、包括的な情報を提供することを目的としています。

目次

  1. はじめに:検索エンジンとしての Elasticsearch と OpenSearch
  2. 歴史的背景:Elasticsearch から OpenSearch へ
  3. アーキテクチャと主要機能:類似点と相違点
  4. Amazon Elasticsearch Service (Amazon ES) の概要
    • メリット
    • デメリット
    • ユースケース
    • 料金体系
  5. OpenSearch の概要
    • メリット
    • デメリット
    • ユースケース
    • 料金体系
  6. 機能比較:詳細な分析
    • 検索機能
    • 分析機能
    • 可視化機能
    • セキュリティ機能
    • 拡張性とスケーラビリティ
    • プラグインとエコシステム
    • 管理と運用
  7. パフォーマンス比較:ベンチマークと現実世界のシナリオ
  8. コスト比較:TCO (Total Cost of Ownership) の分析
  9. どちらを選ぶべきか?:判断基準と推奨事項
    • 技術的な要件
    • 予算
    • ベンダーロックインのリスク
    • コミュニティとサポート
    • 将来の展望
  10. 移行戦略:Elasticsearch から OpenSearch への移行
  11. まとめ:最適な検索エンジンの選択

1. はじめに:検索エンジンとしての Elasticsearch と OpenSearch

検索エンジンは、大量のデータを効率的に検索し、分析するための強力なツールです。ウェブサイトの検索機能、ログ分析、セキュリティ情報イベント管理 (SIEM)、ビジネスインテリジェンス (BI) など、様々な分野で活用されています。Elasticsearch と OpenSearch は、どちらも分散型のリアルタイム検索・分析エンジンであり、大量のデータを迅速に処理し、高度な検索機能を提供します。

これらのプラットフォームは、JSON 形式のドキュメントをインデックス化し、全文検索、構造化検索、地理空間検索など、多様な検索クエリをサポートします。また、集計、可視化、機械学習などの分析機能も備えており、データの洞察を得るのに役立ちます。

2. 歴史的背景:Elasticsearch から OpenSearch へ

Elasticsearch は、2010 年に Shay Banon によって開発され、Apache 2.0 ライセンスの下でオープンソースとして公開されました。その後、Elastic NV によって商業的にサポートされ、急速に普及しました。しかし、2021 年に Elastic NV が Elasticsearch のライセンスを SSPL (Server Side Public License) と Elastic License に変更したことが、オープンソースコミュニティに大きな影響を与えました。

このライセンス変更により、AWS は Elasticsearch のフォークを作成し、Apache 2.0 ライセンスの下で OpenSearch として公開しました。OpenSearch は、コミュニティ主導のオープンソースプロジェクトとして、透明性とオープンな開発プロセスを重視しています。

3. アーキテクチャと主要機能:類似点と相違点

Elasticsearch と OpenSearch は、アーキテクチャの面で多くの類似点を持っています。どちらも、以下のような主要なコンポーネントで構成されています。

  • クラスタ: 1 つ以上のノードで構成される、検索エンジンの論理的なグループ。
  • ノード: クラスタ内の個々のサーバー。データノード、マスターノード、コーディネートノードなど、様々な役割があります。
  • インデックス: 関連するドキュメントのコレクション。
  • ドキュメント: インデックスに格納される、JSON 形式のデータ。
  • シャード: インデックスを分割した単位。並列処理を可能にし、スケーラビリティを向上させます。
  • レプリカ: シャードのコピー。データの可用性と耐障害性を高めます。

主な機能も共通しており、以下のようなものが挙げられます。

  • 全文検索: テキストデータに対する高度な検索機能。
  • 構造化検索: 特定のフィールドに対する検索機能。
  • 地理空間検索: 地理的なデータに対する検索機能。
  • 集計: データの統計的な分析機能。
  • 可視化: データをグラフやチャートで表示する機能。

ただし、OpenSearch は Elasticsearch のフォークであるため、Elasticsearch の最新バージョンに存在する機能が OpenSearch に実装されていない場合があります。また、OpenSearch はコミュニティ主導の開発であるため、Elasticsearch とは異なる方向に進化する可能性があります。

4. Amazon Elasticsearch Service (Amazon ES) の概要

Amazon Elasticsearch Service (Amazon ES) は、AWS が提供するマネージド型の Elasticsearch サービスです。ユーザーは、Elasticsearch クラスタを簡単にデプロイ、管理、スケーリングできます。Amazon ES は、AWS の他のサービスとの統合も容易であり、セキュリティ、モニタリング、バックアップなどの機能も提供します。

メリット

  • マネージドサービス: インフラの管理やソフトウェアのアップデートなどの運用作業を AWS が代行するため、ユーザーは検索エンジンの利用に集中できます。
  • AWS との統合: AWS の他のサービス (S3、Kinesis、CloudWatch など) との統合が容易であり、AWS 環境での利用に最適です。
  • セキュリティ: AWS のセキュリティ機能 (IAM、VPC、暗号化など) を利用して、クラスタを安全に保護できます。
  • スケーラビリティ: 必要なときに簡単にクラスタをスケールアップ/ダウンできます。
  • 可用性: マルチ AZ (Availability Zone) 構成により、高い可用性を実現できます。

デメリット

  • ベンダーロックイン: AWS のサービスに依存するため、他のクラウドプロバイダーへの移行が難しくなる可能性があります。
  • Elasticsearch のバージョン: Amazon ES は、常に最新の Elasticsearch バージョンをサポートしているとは限りません。
  • カスタマイズの制限: マネージドサービスであるため、Elasticsearch の詳細な設定をカスタマイズできない場合があります。
  • 料金: オンプレミス環境や他のクラウドプロバイダーと比較して、料金が高くなる可能性があります。

ユースケース

  • ログ分析: アプリケーションやシステムのログデータを収集、分析し、問題の特定やパフォーマンスの監視を行います。
  • セキュリティ情報イベント管理 (SIEM): セキュリティイベントデータを収集、分析し、脅威の検出やインシデント対応を行います。
  • ウェブサイト検索: ウェブサイトの検索機能を構築し、ユーザーがコンテンツを簡単に見つけられるようにします。
  • e コマース検索: e コマースサイトの検索機能を構築し、ユーザーが商品を簡単に見つけられるようにします。
  • ビジネスインテリジェンス (BI): ビジネスデータを収集、分析し、意思決定を支援します。

料金体系

Amazon ES の料金は、主に以下の要素に基づいて計算されます。

  • インスタンスタイプ: クラスタ内のノードに使用するインスタンスタイプ (EC2 インスタンス) の料金。
  • ストレージ: クラスタで使用するストレージの容量の料金。
  • データ転送: クラスタに出入りするデータ転送量の料金。
  • その他: スナップショットのストレージ、Kibana の利用料金など。

5. OpenSearch の概要

OpenSearch は、AWS が Elasticsearch をフォークして開発した、コミュニティ主導のオープンソース検索・分析エンジンです。Apache 2.0 ライセンスの下で公開されており、誰でも自由に使用、変更、配布できます。OpenSearch は、透明性とオープンな開発プロセスを重視しており、コミュニティの貢献を奨励しています。

メリット

  • オープンソース: Apache 2.0 ライセンスの下で公開されているため、ベンダーロックインのリスクを回避できます。
  • コミュニティ主導: コミュニティによって開発、サポートされているため、ユーザーのニーズに合わせた機能が追加される可能性があります。
  • カスタマイズ性: オープンソースであるため、ソースコードを自由にカスタマイズできます。
  • 柔軟性: オンプレミス、クラウド、ハイブリッド環境など、様々な環境にデプロイできます。
  • 料金: オープンソースであるため、ライセンス費用は不要です。

デメリット

  • 運用: インフラの管理やソフトウェアのアップデートなどの運用作業をユーザー自身が行う必要があります。
  • サポート: 商用サポートは提供されていません。コミュニティフォーラムやメーリングリストなどを利用してサポートを受ける必要があります。
  • 機能: Elasticsearch の最新バージョンに存在する機能が OpenSearch に実装されていない場合があります。
  • 成熟度: Elasticsearch と比較して、まだ歴史が浅いため、安定性や機能の成熟度が低い可能性があります。

ユースケース

OpenSearch のユースケースは、Amazon ES とほぼ同じです。

  • ログ分析: アプリケーションやシステムのログデータを収集、分析し、問題の特定やパフォーマンスの監視を行います。
  • セキュリティ情報イベント管理 (SIEM): セキュリティイベントデータを収集、分析し、脅威の検出やインシデント対応を行います。
  • ウェブサイト検索: ウェブサイトの検索機能を構築し、ユーザーがコンテンツを簡単に見つけられるようにします。
  • e コマース検索: e コマースサイトの検索機能を構築し、ユーザーが商品を簡単に見つけられるようにします。
  • ビジネスインテリジェンス (BI): ビジネスデータを収集、分析し、意思決定を支援します。

料金体系

OpenSearch はオープンソースであるため、ライセンス費用は不要です。ただし、インフラ (サーバー、ストレージ、ネットワークなど) の費用は発生します。OpenSearch を AWS で利用する場合、EC2 インスタンス、S3 ストレージ、EBS ボリュームなどの費用が発生します。

6. 機能比較:詳細な分析

ここでは、Amazon ES と OpenSearch の機能を詳細に比較します。

機能 Amazon ES OpenSearch
検索機能 Elasticsearch と同等 Elasticsearch と同等
分析機能 Elasticsearch と同等 Elasticsearch と同等
可視化機能 Kibana (オプション) OpenSearch Dashboards
セキュリティ機能 AWS IAM、VPC、暗号化など OpenSearch Security (ロールベースアクセス制御など)
拡張性とスケーラビリティ 容易にスケールアップ/ダウン可能 ユーザー自身でスケールアップ/ダウンする必要がある
プラグインとエコシステム Elasticsearch のプラグインと互換性がある可能性 OpenSearch のプラグイン
管理と運用 AWS が代行 ユーザー自身で行う必要がある

検索機能:

どちらのプラットフォームも、全文検索、構造化検索、地理空間検索など、高度な検索機能をサポートしています。検索クエリの構文や API は、ほぼ同じです。

分析機能:

どちらのプラットフォームも、集計、可視化、機械学習などの分析機能を提供しています。集計機能は、データの統計的な分析に役立ち、可視化機能は、データをグラフやチャートで表示するのに役立ちます。

可視化機能:

Amazon ES では、Kibana を利用してデータを可視化できます。Kibana は、Elasticsearch の公式の可視化ツールであり、豊富な種類のグラフやチャートを提供します。OpenSearch では、OpenSearch Dashboards を利用してデータを可視化できます。OpenSearch Dashboards は、Kibana をベースに開発されており、Kibana と同様の機能を提供します。

セキュリティ機能:

Amazon ES では、AWS のセキュリティ機能 (IAM、VPC、暗号化など) を利用して、クラスタを安全に保護できます。OpenSearch では、OpenSearch Security プラグインを利用して、ロールベースアクセス制御、認証、認可などのセキュリティ機能を提供します。

拡張性とスケーラビリティ:

Amazon ES は、必要なときに簡単にクラスタをスケールアップ/ダウンできます。OpenSearch は、ユーザー自身でクラスタをスケールアップ/ダウンする必要があります。

プラグインとエコシステム:

Amazon ES は、Elasticsearch のプラグインと互換性がある可能性があります。OpenSearch は、OpenSearch のプラグインを提供しています。

管理と運用:

Amazon ES は、マネージドサービスであるため、インフラの管理やソフトウェアのアップデートなどの運用作業を AWS が代行します。OpenSearch は、ユーザー自身でインフラの管理やソフトウェアのアップデートなどの運用作業を行う必要があります。

7. パフォーマンス比較:ベンチマークと現実世界のシナリオ

Amazon ES と OpenSearch のパフォーマンスは、クラスタの構成、データの量、クエリの種類など、様々な要因によって異なります。一般的に、どちらのプラットフォームも、大規模なデータを迅速に処理し、高速な検索結果を提供できます。

パフォーマンスを比較するためには、ベンチマークテストを実施することが重要です。ベンチマークテストでは、様々なデータセットやクエリを使用して、両方のプラットフォームのパフォーマンスを測定します。

現実世界のシナリオでは、ログ分析、SIEM、ウェブサイト検索など、様々なユースケースにおけるパフォーマンスを比較する必要があります。

8. コスト比較:TCO (Total Cost of Ownership) の分析

Amazon ES と OpenSearch のコストを比較するためには、TCO (Total Cost of Ownership) を分析することが重要です。TCO には、以下の要素が含まれます。

  • インフラ費用: サーバー、ストレージ、ネットワークなどの費用。
  • ソフトウェア費用: ライセンス費用 (OpenSearch は不要)。
  • 運用費用: インフラの管理、ソフトウェアのアップデート、セキュリティ対策などの費用。
  • 人件費: エンジニアの人件費。

Amazon ES はマネージドサービスであるため、インフラ費用と運用費用を削減できます。OpenSearch はオープンソースであるため、ライセンス費用は不要ですが、インフラ費用と運用費用はユーザー自身が負担する必要があります。

どちらのプラットフォームがコスト効率が高いかは、ユースケースや組織の規模、技術力などによって異なります。

9. どちらを選ぶべきか?:判断基準と推奨事項

Amazon ES と OpenSearch のどちらを選ぶべきかは、以下の判断基準を考慮して決定する必要があります。

  • 技術的な要件: 必要な機能、パフォーマンス要件、スケーラビリティ要件などを考慮します。
  • 予算: 利用可能な予算を考慮します。
  • ベンダーロックインのリスク: ベンダーロックインのリスクを許容できるかどうかを考慮します。
  • コミュニティとサポート: コミュニティの規模と活発さ、利用可能なサポートオプションを考慮します。
  • 将来の展望: 将来の機能拡張や改善の可能性を考慮します。

推奨事項

  • マネージドサービスを希望する場合: Amazon ES を推奨します。Amazon ES は、インフラの管理やソフトウェアのアップデートなどの運用作業を AWS が代行するため、ユーザーは検索エンジンの利用に集中できます。
  • オープンソースを重視する場合: OpenSearch を推奨します。OpenSearch は、Apache 2.0 ライセンスの下で公開されており、ベンダーロックインのリスクを回避できます。
  • AWS 環境で利用する場合: Amazon ES を推奨します。Amazon ES は、AWS の他のサービスとの統合が容易であり、AWS 環境での利用に最適です。
  • コストを重視する場合: OpenSearch を推奨します。OpenSearch はオープンソースであるため、ライセンス費用は不要です。ただし、インフラ費用と運用費用はユーザー自身が負担する必要があります。

10. 移行戦略:Elasticsearch から OpenSearch への移行

Elasticsearch から OpenSearch への移行は、以下の手順で実施できます。

  1. 互換性の確認: Elasticsearch のバージョンと OpenSearch のバージョン間の互換性を確認します。
  2. データのバックアップ: Elasticsearch のデータをバックアップします。
  3. OpenSearch クラスタの構築: OpenSearch クラスタを構築します。
  4. データの移行: Elasticsearch のデータを OpenSearch クラスタに移行します。
  5. アプリケーションの変更: アプリケーションが OpenSearch クラスタを指すように変更します。
  6. テスト: アプリケーションが正常に動作することを確認します。
  7. Elasticsearch クラスタの停止: Elasticsearch クラスタを停止します。

移行プロセスは、データの量や複雑さによって異なります。事前に計画を立て、十分なテストを実施することが重要です。

11. まとめ:最適な検索エンジンの選択

Amazon Elasticsearch Service (Amazon ES) と OpenSearch は、どちらも強力な検索・分析エンジンであり、様々なユースケースで利用できます。どちらのプラットフォームを選ぶべきかは、技術的な要件、予算、ベンダーロックインのリスク、コミュニティとサポート、将来の展望などを考慮して決定する必要があります。

この記事が、読者の皆様が自身のニーズに最適な検索エンジンを選択するのに役立つことを願っています。


この記事は、Amazon ES と OpenSearch の比較検討を行うための包括的な情報を提供することを目的としています。より詳細な情報や最新の情報については、AWS の公式ドキュメントや OpenSearch の公式サイトを参照してください。また、特定のユースケースや要件に関するアドバイスが必要な場合は、専門家にご相談ください。

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