cmanとは?クラスタ管理ツールの基本と活用事例
近年、企業のITインフラは複雑化の一途を辿っており、サーバー台数の増加やアプリケーションの多様化に伴い、システムの管理・運用はますます困難になっています。このような状況において、複数のサーバーをまとめて管理し、効率的な運用を実現する「クラスタ管理ツール」の重要性が高まっています。
本記事では、代表的なクラスタ管理ツールの一つである「cman (Cluster Management)」に焦点を当て、その基本的な概念から、具体的な機能、活用事例までを詳細に解説します。cmanがどのようにしてシステムの可用性向上、負荷分散、リソース効率化に貢献するのか、具体的な設定例やコマンド例を交えながら、その実用性を明らかにしていきます。
目次
-
クラスタ管理ツールとは?
- 1.1. クラスタとは?
- 1.2. クラスタ管理ツールの役割と重要性
- 1.3. クラスタ管理ツールの種類
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cmanとは?
- 2.1. cmanの概要と特徴
- 2.2. cmanのアーキテクチャ
- 2.3. cmanが提供する主な機能
-
cmanのインストールと設定
- 3.1. インストール前の準備
- 3.2. cmanのインストール
- 3.3. cmanの設定ファイル
- 3.4. Quorum設定
- 3.5. フェンシングの設定
-
cmanの基本的な操作
- 4.1. サービスの起動と停止
- 4.2. ノードの追加と削除
- 4.3. クラスタの状態確認
- 4.4. フェイルオーバーのテスト
-
cmanを活用したクラスタ構成例
- 5.1. 高可用性Webサーバークラスタ
- 5.2. データベースクラスタ
- 5.3. ファイルサーバークラスタ
-
cmanの高度な活用
- 6.1. リソースグループの設定
- 6.2. スクリプトによる自動化
- 6.3. 監視ツールとの連携
- 6.4. fencingの高度な設定
-
cmanのメリットとデメリット
- 7.1. メリット
- 7.2. デメリット
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他のクラスタ管理ツールとの比較
- 8.1. Pacemaker
- 8.2. Keepalived
- 8.3. Kubernetes
-
cmanに関するトラブルシューティング
- 9.1. よくあるエラーと解決策
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cmanの将来展望
1. クラスタ管理ツールとは?
1.1. クラスタとは?
クラスタとは、複数のコンピューター(ノード)を連携させ、あたかも一つのシステムのように動作させる構成のことです。クラスタを構成することで、単一のコンピューターでは実現できない高い可用性、処理能力、スケーラビリティを実現できます。
クラスタには様々な種類がありますが、代表的なものとして以下のようなものがあります。
- 高可用性クラスタ (HAクラスタ): システムの一部に障害が発生した場合でも、自動的に別のノードに処理を引き継ぎ、システム全体の停止時間を最小限に抑えることを目的としたクラスタです。
- 負荷分散クラスタ: 複数のノードに処理を分散させることで、システム全体の処理能力を向上させることを目的としたクラスタです。
- 並列処理クラスタ: 大量のデータを複数のノードで並列処理することで、処理時間を短縮することを目的としたクラスタです。
1.2. クラスタ管理ツールの役割と重要性
クラスタ管理ツールは、複数のノードで構成されるクラスタを効率的に管理・運用するためのソフトウェアです。クラスタ管理ツールを利用することで、以下のメリットが得られます。
- 可用性の向上: 障害発生時に自動的にフェイルオーバー (処理の引き継ぎ) を行うことで、システムの停止時間を最小限に抑えます。
- 負荷分散: 複数のノードに処理を分散することで、システム全体の処理能力を向上させます。
- リソース効率の向上: 複数のノードのリソースを効率的に利用することで、システム全体のコストを削減します。
- 管理の簡素化: 複数のノードを一元的に管理することで、管理者の負担を軽減します。
クラスタ管理ツールは、現代のITインフラにおいて非常に重要な役割を果たしており、特に大規模なシステムやミッションクリティカルなシステムにおいては、不可欠な存在となっています。
1.3. クラスタ管理ツールの種類
様々なクラスタ管理ツールが存在しますが、代表的なものとして以下のものが挙げられます。
- cman: Red Hat Cluster Suiteの一部として提供されていたクラスタ管理ツールです。現在はPacemakerが主流となっています。
- Pacemaker: Linuxの標準的なクラスタ管理ツールとして広く利用されています。柔軟な設定が可能で、様々なアプリケーションに対応できます。
- Keepalived: ロードバランサや高可用性構成を実現するためのツールです。VRRP (Virtual Router Redundancy Protocol) を利用して、仮想IPアドレスを管理します。
- Kubernetes: コンテナ化されたアプリケーションのデプロイ、スケーリング、管理を自動化するためのプラットフォームです。
それぞれのツールには特徴があり、システムの要件や構成に合わせて適切なツールを選択する必要があります。
2. cmanとは?
2.1. cmanの概要と特徴
cman (Cluster Management) は、Red Hat Cluster Suiteの一部として提供されていたクラスタ管理ツールです。cmanは、複数のノードで構成されるクラスタを管理し、高可用性、負荷分散、リソース効率化を実現することを目的としています。
cmanの特徴は以下の通りです。
- シンプルで使いやすい: 設定ファイルが比較的シンプルで、コマンドラインツールも直感的です。
- Quorumベースのアーキテクチャ: Quorum (定足数) を利用して、クラスタの安定性を確保します。
- フェンシング機能: 障害が発生したノードを隔離することで、データ破損やシステム全体の停止を防ぎます。
ただし、cmanは現在ではメンテナンスが終了しており、新しいシステムへの導入は推奨されていません。Pacemakerなど、より新しいクラスタ管理ツールへの移行が推奨されます。
2.2. cmanのアーキテクチャ
cmanのアーキテクチャは、以下の要素で構成されています。
- cmanデーモン: クラスタの各ノードで動作するデーモンで、クラスタの状態を監視し、ノード間の通信を処理します。
- Quorum: クラスタの過半数のノードが正常に動作している状態を指します。Quorumが維持されている場合、クラスタは正常に機能し、フェイルオーバーなどの処理を実行できます。
- フェンシング: 障害が発生したノードをネットワークから隔離したり、電源を切断したりする処理です。これにより、データ破損やシステム全体の停止を防ぎます。
- clurgmgrdデーモン: クラスタリソースマネージャー (Cluster Resource Manager) デーモンで、クラスタリソース (アプリケーション、サービスなど) の起動、停止、フェイルオーバーを管理します。
- rgmanager: リソースグループを管理するためのツールです。
2.3. cmanが提供する主な機能
cmanは、以下の主な機能を提供します。
- クラスタメンバーシップ管理: クラスタに参加しているノードの状態を監視し、ノードの追加や削除を管理します。
- Quorum管理: クラスタのQuorumを監視し、Quorumが失われた場合に適切な措置を講じます。
- フェンシング: 障害が発生したノードを隔離します。
- リソース管理: クラスタリソース (アプリケーション、サービスなど) の起動、停止、フェイルオーバーを管理します。
- リソースグループ管理: 複数のリソースをグループ化し、一括して管理します。
- ログ管理: クラスタの動作に関するログを収集し、分析します。
- コマンドラインインターフェース: クラスタを管理するためのコマンドラインツールを提供します。
3. cmanのインストールと設定
3.1. インストール前の準備
cmanをインストールする前に、以下の準備が必要です。
- OSの準備: 各ノードにLinux (Red Hat Enterprise Linux、CentOSなど) をインストールします。
- ネットワーク設定: 各ノードがネットワークを通じて相互に通信できるように設定します。
- ホスト名の設定: 各ノードに一意のホスト名を設定します。
- タイムゾーンの設定: 各ノードのタイムゾーンを統一します。
- SELinuxの設定: SELinuxを有効にする場合は、cmanが正常に動作するように設定を調整する必要があります。
- ファイアウォールの設定: ファイアウォールを有効にする場合は、cmanが正常に動作するようにポートを開放する必要があります。具体的には、UDPポート5405を開放する必要があります。
3.2. cmanのインストール
cmanは、Red Hat Cluster Suiteの一部として提供されていました。Red Hat Enterprise LinuxまたはCentOSを使用している場合は、以下のコマンドでcmanをインストールできます。
bash
yum install cman
3.3. cmanの設定ファイル
cmanの設定ファイルは、/etc/cluster/cluster.conf
にあります。このファイルには、クラスタの構成情報 (ノード、リソース、フェンシング方法など) が記述されています。
cluster.conf
ファイルはXML形式で記述されており、手動で編集することもできますが、cman_tool
コマンドを使用すると、より簡単に設定できます。
以下は、cluster.conf
ファイルの例です。
“`xml
```
この例では、以下の内容が定義されています。
- クラスタ名:
mycluster
- ノード:
node1
(nodeid: 1)、node2
(nodeid: 2) - フェンスデバイス:
myfence
(agent:fence_scsi
) - サービス:
webserver
(IPアドレス:192.168.1.100
、スクリプト:/etc/init.d/httpd
)
3.4. Quorum設定
Quorumは、クラスタの安定性を確保するために非常に重要な要素です。Quorumが失われると、クラスタは正常に機能しなくなり、フェイルオーバーなどの処理を実行できなくなります。
Quorumは、クラスタのノード数の過半数で構成されます。例えば、3ノードのクラスタの場合、Quorumは2ノードです。
cmanは、自動的にQuorumを管理しますが、必要に応じて設定を調整することもできます。
3.5. フェンシングの設定
フェンシングは、障害が発生したノードを隔離し、データ破損やシステム全体の停止を防ぐための重要な機能です。
cmanは、様々なフェンシング方法をサポートしています。代表的なフェンシング方法として、以下のようなものがあります。
- fence_scsi: SCSIデバイスを共有している環境で使用されます。SCSIデバイスを通じて、障害が発生したノードをリセットします。
- fence_ipmilan: IPMI (Intelligent Platform Management Interface) を使用して、障害が発生したノードをリモートでリセットします。
- fence_virt: 仮想化環境で使用されます。仮想マシンの管理ツール (VMware vCenter、KVMなど) を使用して、障害が発生した仮想マシンをリセットします。
- fence_manual: 手動でフェンシングを行う方法です。
フェンシングの設定は、cluster.conf
ファイルで行います。fencedevices
セクションでフェンスデバイスを定義し、services
セクションでサービスにフェンスデバイスを関連付けます。
4. cmanの基本的な操作
4.1. サービスの起動と停止
cmanを使用してサービスを起動、停止するには、clusvcadm
コマンドを使用します。
- サービスの起動:
bash
clusvcadm -e <service_name>
- サービスの停止:
bash
clusvcadm -d <service_name>
例えば、webserver
サービスを起動するには、以下のコマンドを実行します。
bash
clusvcadm -e webserver
4.2. ノードの追加と削除
ノードを追加または削除するには、cman_tool
コマンドを使用します。
- ノードの追加:
bash
cman_tool create -n <node_name> -i <node_id>
- ノードの削除:
bash
cman_tool destroy <node_id>
4.3. クラスタの状態確認
クラスタの状態を確認するには、cman_tool
コマンドを使用します。
bash
cman_tool status
このコマンドを実行すると、クラスタのメンバーシップ情報、Quorumの状態、各ノードの状態などが表示されます。
4.4. フェイルオーバーのテスト
フェイルオーバーをテストするには、fence_node
コマンドを使用します。
bash
fence_node <node_name>
このコマンドを実行すると、指定されたノードがフェンスされ、サービスが別のノードにフェイルオーバーします。
5. cmanを活用したクラスタ構成例
5.1. 高可用性Webサーバークラスタ
高可用性Webサーバークラスタは、Webサーバーを複数のノードで構成し、可用性を高めることを目的としたクラスタです。
cmanを使用すると、Webサーバーの障害発生時に自動的に別のノードにフェイルオーバーさせることができます。
設定例:
- 2台のWebサーバー (node1, node2) でクラスタを構成します。
- 共有ストレージにWebサイトのコンテンツを配置します。
- 仮想IPアドレス (192.168.1.100) を設定し、クライアントからのアクセスを受け付けます。
- Webサーバーの起動、停止、フェイルオーバーをcmanで管理します。
- fence_scsiを使用して、障害が発生したノードをフェンスします。
5.2. データベースクラスタ
データベースクラスタは、データベースサーバーを複数のノードで構成し、可用性、処理能力、スケーラビリティを高めることを目的としたクラスタです。
cmanを使用すると、データベースサーバーの障害発生時に自動的に別のノードにフェイルオーバーさせることができます。
設定例:
- 2台のデータベースサーバー (node1, node2) でクラスタを構成します。
- 共有ストレージにデータベースファイルを配置します。
- 仮想IPアドレス (192.168.1.101) を設定し、クライアントからのアクセスを受け付けます。
- データベースサーバーの起動、停止、フェイルオーバーをcmanで管理します。
- fence_scsiを使用して、障害が発生したノードをフェンスします。
5.3. ファイルサーバークラスタ
ファイルサーバークラスタは、ファイルサーバーを複数のノードで構成し、可用性、処理能力、スケーラビリティを高めることを目的としたクラスタです。
cmanを使用すると、ファイルサーバーの障害発生時に自動的に別のノードにフェイルオーバーさせることができます。
設定例:
- 2台のファイルサーバー (node1, node2) でクラスタを構成します。
- 共有ストレージにファイルデータを配置します。
- NFS (Network File System) または Samba を使用して、ファイルデータを共有します。
- 仮想IPアドレス (192.168.1.102) を設定し、クライアントからのアクセスを受け付けます。
- ファイルサーバーの起動、停止、フェイルオーバーをcmanで管理します。
- fence_scsiを使用して、障害が発生したノードをフェンスします。
6. cmanの高度な活用
6.1. リソースグループの設定
リソースグループは、複数のリソースをグループ化し、一括して管理するための機能です。例えば、Webサーバーとデータベースサーバーをまとめてリソースグループに登録し、Webサーバーがフェイルオーバーする際に、データベースサーバーも同時にフェイルオーバーさせることができます。
リソースグループの設定は、cluster.conf
ファイルで行います。
6.2. スクリプトによる自動化
cmanは、スクリプトによる自動化をサポートしています。例えば、サービスの起動、停止、フェイルオーバーなどの処理をスクリプト化し、自動的に実行することができます。
スクリプトは、/etc/cluster/script.d
ディレクトリに配置します。
6.3. 監視ツールとの連携
cmanは、様々な監視ツール (Nagios, Zabbixなど) と連携することができます。監視ツールと連携することで、クラスタの状態を監視し、異常が発生した場合にアラートを送信することができます。
監視ツールとの連携には、SNMP (Simple Network Management Protocol) を使用する方法と、カスタムスクリプトを使用する方法があります。
6.4. fencingの高度な設定
フェンシングは、クラスタの安定性を確保するために非常に重要な機能ですが、設定を誤ると、誤ったノードをフェンスしてしまう可能性があります。
cmanでは、フェンシングの動作を詳細に制御するための様々な設定が用意されています。
- fence_order: フェンシングの実行順序を制御します。
- fence_priority: フェンシングの優先度を制御します。
- fence_timeout: フェンシングのタイムアウト時間を制御します。
これらの設定を適切に設定することで、より安全で信頼性の高いフェンシングを実現できます。
7. cmanのメリットとデメリット
7.1. メリット
- シンプルで使いやすい: 設定ファイルが比較的シンプルで、コマンドラインツールも直感的です。
- Quorumベースのアーキテクチャ: Quorumを利用して、クラスタの安定性を確保します。
- フェンシング機能: 障害が発生したノードを隔離することで、データ破損やシステム全体の停止を防ぎます。
- 高可用性: システムの可用性を向上させ、停止時間を最小限に抑えます。
7.2. デメリット
- メンテナンス終了: 現在ではメンテナンスが終了しており、新しいシステムへの導入は推奨されていません。
- 機能制限: Pacemakerなど、より新しいクラスタ管理ツールに比べて機能が限られています。
- サポート終了: 公式サポートが終了しているため、問題が発生した場合の解決が難しい場合があります。
- 新しい技術への対応不足: コンテナ技術やクラウド環境への対応が十分ではありません。
8. 他のクラスタ管理ツールとの比較
8.1. Pacemaker
Pacemakerは、Linuxの標準的なクラスタ管理ツールとして広く利用されています。cmanよりも柔軟な設定が可能で、様々なアプリケーションに対応できます。
Pacemakerは、cmanの事実上の後継ツールであり、cmanで実現できた機能に加えて、より高度な機能を提供します。
8.2. Keepalived
Keepalivedは、ロードバランサや高可用性構成を実現するためのツールです。VRRP (Virtual Router Redundancy Protocol) を利用して、仮想IPアドレスを管理します。
Keepalivedは、主にロードバランシングやIPアドレスのフェイルオーバーに特化しており、cmanやPacemakerのような複雑なクラスタ管理には適していません。
8.3. Kubernetes
Kubernetesは、コンテナ化されたアプリケーションのデプロイ、スケーリング、管理を自動化するためのプラットフォームです。
Kubernetesは、コンテナ化された環境におけるクラスタ管理に特化しており、従来の物理サーバーや仮想マシン環境におけるクラスタ管理には適していません。
9. cmanに関するトラブルシューティング
9.1. よくあるエラーと解決策
- Quorumの喪失: クラスタの過半数のノードが正常に動作していない場合、Quorumが失われます。Quorumが失われた場合は、障害が発生しているノードを特定し、復旧する必要があります。
- フェンシングの失敗: フェンシングの設定が誤っている場合、フェンシングが失敗することがあります。フェンシングの設定を確認し、必要に応じて修正する必要があります。
- サービスの起動失敗: サービスが正常に起動しない場合は、ログファイル (
/var/log/messages
など) を確認し、原因を特定する必要があります。 - 通信の問題: ノード間の通信に問題がある場合は、ネットワーク設定を確認し、ファイアウォールが適切に設定されていることを確認する必要があります。
10. cmanの将来展望
cmanは、現在ではメンテナンスが終了しており、将来的な開発は行われません。新しいシステムへの導入は推奨されず、Pacemakerなど、より新しいクラスタ管理ツールへの移行が推奨されます。
cmanの知識は、Pacemakerなどの新しいクラスタ管理ツールを理解するための基礎となります。
本記事が、cmanに関する理解を深め、適切なクラスタ管理ツールを選択する上で役立つことを願っています。