RHEL 10とは？最新情報と主要な新機能を徹底解説

はじめに：エンタープライズLinuxの現在とRHELの役割

現代の複雑化するIT環境において、安定した、信頼性の高い、そしてセキュアなオペレーティングシステム（OS）は、あらゆるビジネスの基盤となります。特にエンタープライズ分野では、ミッションクリティカルなシステムを支えるOSには、長期にわたるサポート、厳格なテスト、そして幅広いハードウェアおよびソフトウェアとの互換性が求められます。

Red Hat Enterprise Linux (RHEL) は、長年にわたりこのエンタープライズLinux市場を牽引してきたデファクトスタンダードの一つです。その堅牢性、セキュリティ機能、そしてRed Hatが提供する充実したサポート体制により、世界中の多くの企業や組織で採用されています。RHELは、オンプレミスのデータセンターからプライベートクラウド、パブリッククラウド、さらにはエッジコンピューティング環境まで、様々なITインフラストラクチャで利用されており、その重要性は増すばかりです。

Red Hatは、コミュニティ版であるFedoraやその派生プロジェクト、そしてCentOS Streamを通じて最新の技術動向を取り入れつつ、エンタープライズ向けに品質と安定性を確保したRHELを定期的にリリースしています。各メジャーリリースは長期にわたるサポート期間が設定されており、ユーザーは安心してシステムを運用することができます。

そして今、RHELの次のメジャーバージョンである「RHEL 10」に大きな注目が集まっています。RHEL 9がリリースされて以降、技術は目まぐるしく進化し、ビジネスの要求も多様化しています。ハイブリッドクラウド、AI/MLワークロード、コンテナ、Kubernetes、エッジコンピューティング、そしてサイバーセキュリティの脅威増大など、対応すべき課題は山積しています。RHEL 10は、これらの現代的および将来的なITニーズに応えるべく開発が進められていると予測されます。

本記事では、未だ正式発表されていないRHEL 10について、これまでのRHELのリリースサイクルやRed Hatの技術動向、そして現代のエンタープライズLinuxを取り巻く環境から予測される「最新情報」と「主要な新機能」を徹底的に解説します。公式情報が限られる中での解説となりますが、RHEL 10がどのような方向性で進化し、私たちにどのようなメリットをもたらすのか、その可能性を探ります。

RHEL 10のリリースサイクルと位置づけ（予測）

RHELのメジャーリリースは、およそ3年ごとに登場するというサイクルが定着しています。RHEL 9は2022年5月にリリースされました。このサイクルに基づけば、RHEL 10は2025年頃に登場すると予測するのが自然でしょう。

RHELのリリースプロセスは、通常、以下の段階を経て行われます。

発表: Red HatがRHELの次期メジャーバージョンについて、開発計画や主要な目標を発表します。Red Hat Summitのようなイベントで発表されることが多いです。
開発: コミュニティプロジェクトであるFedoraやCentOS Streamでの成果を基に、エンタープライズ向けの安定性と品質を確保するための開発、テスト、パッケージングが行われます。CentOS Streamはこの開発プロセスにおいて、RHELの「次のマイナーバージョン」や「次のメジャーバージョン」のための継続的な開発ブランチとして機能します。
ベータリリース: 開発がある程度進んだ段階で、広くユーザーやパートナーにテストしてもらうためのベータ版が公開されます。この段階で、新機能の試用や互換性の確認が行われます。
一般提供 (GA – General Availability): ベータテストを経て品質が十分に確認された後、正式版として一般に提供が開始されます。これ以降、長期にわたるサポート期間が開始されます。

RHEL 10は、このサイクルに沿って開発が進められていると予測されます。RHEL 9がリリースされて以降、Linuxカーネルや主要なミドルウェアは大きく進化しました。また、前述の通り、ITインフラの要求はさらに高度になっています。RHEL 10は、これらの進化と要求に応え、RHEL 9よりもさらに最新の技術を取り込みつつ、エンタープライズ品質で提供されることが期待されます。

RHEL 10は、RHEL 9の後継として、今後10年以上（フルサポート期間とメンテナンスサポート期間を含む）にわたってエンタープライズシステムの基盤となるOSとしての役割を担うことになります。そのため、単なる技術のアップデートに留まらず、将来のITランドスケープを見据えた設計がなされると考えられます。

RHEL 10の主要なテーマと方向性（予測）

RHEL 10がどのようなOSになるか、その方向性はRed Hatが近年注力している分野から予測できます。主要なテーマとしては、以下の点が挙げられるでしょう。

ハイブリッドクラウドおよびマルチクラウド環境への最適化: オンプレミス、プライベートクラウド、複数のパブリッククラウドを連携させて利用するハイブリッド/マルチクラウド環境は、もはや特別なものではなく主流となっています。RHEL 10は、これらの環境で一貫した操作性、管理性、セキュリティを提供するための機能を強化すると考えられます。
AI/MLワークロードへの対応強化: 人工知能（AI）や機械学習（ML）の活用が急速に進んでいます。これらのワークロードは、高性能なハードウェア（GPUなど）と最適化されたソフトウェアスタックを要求します。RHEL 10は、AI/ML開発者や運用者が利用しやすい環境を提供することを目指すでしょう。
開発者エクスペリエンスの向上: アプリケーション開発のスピードがビジネスの競争力に直結する現代において、開発者が効率的に作業できる環境を提供することはOSの重要な役割です。最新の開発ツール、言語ランタイム、コンテナ技術などを容易に利用できる仕組みが強化されると予測されます。
セキュリティ機能のさらなる強化: サイバー攻撃は日々巧妙化しており、OSレベルでのセキュリティ対策は不可欠です。サプライチェーンセキュリティ、新しい暗号化技術、システム整合性の検証など、多角的なセキュリティ機能が強化されるでしょう。
エッジコンピューティングへの対応: データが発生する現場に近い場所で処理を行うエッジコンピューティングの重要性が増しています。RHEL 10は、リソースが限られた環境や、ネットワーク接続が不安定な環境でも安定して動作し、容易に管理できる機能を提供することが期待されます。
自動化と運用の効率化: システムの規模が拡大し、複雑化する中で、自動化による運用効率の向上は喫緊の課題です。RHEL 10は、運用管理ツールや自動化フレームワークとの連携をさらに深め、Day-0からDay-2にかけての運用を効率化する機能を提供するでしょう。

これらのテーマに基づき、RHEL 10では以下に挙げるような具体的な技術要素のアップデートや新機能の導入が行われると予測されます。

RHEL 10の主要な新機能と技術要素（予測・詳細解説）

1. 最新Linuxカーネルの搭載

RHELの根幹をなすのはLinuxカーネルです。RHEL 9はLinuxカーネル 5.14をベースとしていますが、RHEL 10ではさらに新しいバージョンのカーネルが採用されることは間違いありません。通常、RHELはリリース時点での最新に近い、長期サポート（LTS）版のカーネルを採用する傾向にあります。RHEL 10リリース時に利用可能なカーネルバージョンは予測が難しいですが、例えばLinuxカーネル 6.x系のLTSバージョン（例: 6.6など）がベースとなる可能性が考えられます。

新しいカーネルの搭載により、RHEL 10では以下のようなメリットが期待できます。

ハードウェアサポートの拡充: 最新のCPU（Intel, AMD, ARMなど）、GPU、ネットワークインターフェースカード（NIC）、ストレージデバイスなど、新しいハードウェアに対するサポートが強化されます。これにより、最新世代のサーバーやワークステーションの性能を最大限に引き出すことができます。
パフォーマンスの向上: カーネルスケジューラ、メモリ管理、ネットワークスタック、ファイルシステムなど、OSの中核部分における様々な改善により、全体的なシステムパフォーマンスが向上します。特に、高負荷なワークロードやI/O集中型のアプリケーションでその恩恵を受けるでしょう。例えば、非同期I/Oフレームワークであるio_uringのさらなる機能強化や、eBPF (extended Berkeley Packet Filter) を活用したネットワーキングやセキュリティ機能のパフォーマンス向上などが考えられます。
新しいファイルシステムの機能: 現在RHELのデフォルトファイルシステムはXFSですが、新しいカーネルではXFSのさらなる機能強化や、他のファイルシステム（例えばBtrfsの成熟）に関連する機能が取り込まれる可能性があります。
セキュリティ機能の強化: カーネルレベルでのセキュリティ対策（例えば、Landlock LSMのような新しいLinux Security Module、Spectre/Meltdownなどのサイドチャネル攻撃対策、メモリアクセス制御など）が強化されます。

2. システムコアコンポーネントのアップデート

カーネルだけでなく、glibc (GNU C Library)、systemd、GCC (GNU Compiler Collection) といったシステムの中核をなすコンポーネントも、最新バージョンにアップデートされます。

glibcのアップデート: glibcは多くのアプリケーションが依存する基盤ライブラリです。新しいバージョンでは、パフォーマンス最適化、新しいCPUアーキテクチャへの対応、新しい標準仕様への準拠、セキュリティの修正などが含まれます。これにより、RHEL 10上で動作するアプリケーション全体のパフォーマンスや互換性が向上します。
systemdの進化: systemdはLinuxシステムの初期化、サービス管理、ログ管理などを司る重要なコンポーネントです。RHEL 10に搭載されるsystemdは、systemd-homedによるホームディレクトリ管理の強化、systemd-oomdによるOut-Of-Memory killerの改善、コンテナとの連携強化、セキュリティ機能（Unified Control Group v2など）の活用といった、より高度な機能を提供すると予測されます。
GCCと開発ツールの最新化: GCCやClang/LLVMといったコンパイラ、GDBデバッガ、Binutilsなどの開発ツールチェーンが最新バージョンになります。これにより、開発者は最新のプログラミング言語機能（C++20/23など）を利用でき、生成されるバイナリのパフォーマンスやセキュリティが向上します。また、新しいハードウェア固有の最適化も可能になります。

3. セキュリティ機能の徹底的な強化

エンタープライズ環境におけるセキュリティは最も重要な要素の一つです。RHEL 10では、既存のセキュリティ機能の強化に加え、新しい脅威に対応するための機能が導入されると予測されます。

SELinux (Security-Enhanced Linux) のポリシー強化: SELinuxは、強制アクセス制御（MAC）を実装し、システム上のプロセスやファイルに対するアクセス権限を細かく制御することで、システム全体のセキュリティを向上させます。RHEL 10では、新しいサービスや機能に対応した最新のSELinuxポリシーが提供され、デフォルト設定のセキュリティレベルがさらに高められる可能性があります。また、ポリシー管理ツールの改善も期待されます。
OpenSCAPプロファイルと準拠性の強化: OpenSCAPは、システムのセキュリティ設定が様々なセキュリティ基準（CIS Benchmarks, STIGsなど）に準拠しているかを確認・修正するためのツールです。RHEL 10では、最新のセキュリティ基準に基づいたOpenSCAPプロファイルが提供され、システムのセキュリティ設定の自動チェックと強化がより容易になります。
暗号化技術のアップデートとFIPSモード: OpenSSLや他の暗号化ライブラリが最新バージョンになります。これにより、より強力で効率的な暗号化アルゴリズム（TLS 1.3の普及、Post-Quantum Cryptography (PQC) への対応検討など）が利用可能になります。特に、連邦情報処理標準（FIPS）に準拠したモードでの動作についても、最新の標準に基づいたサポートが提供されるでしょう。
サプライチェーンセキュリティ: ソフトウェアのサプライチェーン攻撃が問題となる中、RHEL 10ではソフトウェアパッケージの署名検証の強化、ビルドプロセスの透明性向上、SBOM (Software Bill of Materials) の生成・活用支援など、サプライチェーン全体のセキュリティを向上させるための取り組みが進められる可能性があります。
認証とアクセス管理: OpenSSH、SSSD (System Security Services Daemon) といった認証・認可に関連するコンポーネントもアップデートされ、より安全で柔軟なユーザー認証・アクセス管理機能が提供されるでしょう。FIDO2/WebAuthnなどの新しい認証技術への対応も期待されます。

4. コンテナ技術とクラウドネイティブへの対応深化

コンテナとKubernetesは、現代のアプリケーション開発・運用において中心的な存在となっています。RHELは、Podman, Buildah, Skopeoといったコンテナツールを積極的に推進しており、RHEL 10でもこの方向性はさらに強化されると予測されます。

Podmanの機能強化: Podmanはデーモンレスかつrootlessでコンテナを実行できるDocker互換のコンテナエンジンです。RHEL 10では、Podmanの機能がさらに充実し、Kubernetesとの互換性（PodmanによるPodの実行、Kubernetes YAMLファイルの生成・実行など）、コンテナネットワーキング、ストレージ管理、署名付きイメージのサポートなどが強化されるでしょう。特に、Quadletのような新しい仕組み（systemdユニットファイルからコンテナを起動する仕組み）の成熟により、コンテナ化されたサービスの管理がより容易になると期待されます。
BuildahとSkopeoの進化: Buildahはコンテナイメージのビルド、Skopeoはコンテナイメージのコピーや検証を行うツールです。これらのツールもアップデートされ、より効率的でセキュアなイメージ管理が可能になります。例えば、より高速なイメージビルド、異なるレジストリ間でのイメージ転送の最適化などが考えられます。
CRI-Oの活用: Kubernetesのコンテナランタイムインターフェース (CRI) 実装であるCRI-Oは、KubernetesノードとしてRHELを利用する際に重要な役割を果たします。RHEL 10では、CRI-Oが最新化され、Kubernetesの最新機能やセキュリティ要件に対応できるようになるでしょう。
コンテナイメージの最適化: RHEL UBI (Universal Base Image) は、Red Hat製品やパートナー製品、顧客独自のアプリケーションをビルドするための公式な最小限のOSイメージです。RHEL 10ベースのUBIが登場し、サイズ削減、セキュリティ強化、特定のワークロード（AI/MLなど）に特化したバリアント提供などが進む可能性があります。

5. 開発者ツールとランタイムの最新化

RHELは開発プラットフォームとしての側面も持ちます。RHEL 10では、開発者が最新技術を容易に利用できるよう、様々なツールやランタイムがアップデートされます。

Programming Language Runtimes: Python, Node.js, OpenJDK (Java), Ruby, PHP, Perl, Goなど、主要なプログラミング言語の最新バージョンが提供されます。特に、AppStreamリポジトリを通じて、複数のバージョンを選択してインストールできる柔軟性が維持・強化されると考えられます。
Database Systems: PostgreSQL, MariaDB, MySQL, Redisといったデータベースシステムの最新バージョンが提供されます。これらのデータベースは多くのアプリケーションにとって重要なバックエンドとなるため、最新機能の利用やパフォーマンス向上は開発者にとって大きなメリットです。
Web Servers and Application Servers: Apache HTTP Server, Nginx, TomcatなどのWebサーバーやアプリケーションサーバーも最新化されます。これにより、HTTP/3のような新しいプロトコルへの対応や、セキュリティ、パフォーマンスの向上による恩恵を受けることができます。
Developer Tools: GCC, Clang/LLVM, Make, Autoconf, Debuggers (GDB), Profilers (perf) といった開発ツールチェーンの最新化に加え、Visual Studio CodeなどのIDEとの連携を強化するツールやライブラリが提供される可能性があります。
AppStreamモデルの継続と改善: RHEL 8で導入されたAppStream (Application Streams) モデルは、OSのコアコンポーネントとは独立して、アプリケーション関連のパッケージ（言語ランタイム、データベースなど）を複数のバージョンで提供する仕組みです。RHEL 10でもこのモデルは継続され、より多くのソフトウェアや、異なるバージョンの提供がスムーズに行われるように改善されると考えられます。これにより、システムの安定性を損なうことなく、開発者は特定のアプリケーションが必要とする最新または特定のバージョンのソフトウェアを利用できます。

6. ストレージとファイルシステムの強化

増大するデータを効率的かつセキュアに管理するために、ストレージ関連の機能も強化されます。

XFSの継続的な改善: RHELのデフォルトファイルシステムであるXFSは、大規模ファイルシステムや高性能ストレージにおいて高い信頼性とパフォーマンスを発揮します。RHEL 10に搭載されるカーネルでは、XFSのさらなるスケーラビリティやパフォーマンスに関する改善、新しいハードウェア機能（例えば、より高速なSSDやNVMeデバイス）への最適化が含まれるでしょう。
ストレージ管理ツールの進化: LVM (Logical Volume Manager) やVDO (Virtual Data Optimizer) といったストレージ管理ツールもアップデートされ、論理ボリュームの作成・管理、データ重複排除・圧縮といった機能が強化されます。また、デバイスマッパーに関連する機能改善も期待されます。
新しいストレージ技術への対応: NVMe over Fabrics (NVMe-oF) やComputational Storageのような新しいストレージ技術に対するサポートが強化される可能性があります。
ファイルシステムセキュリティ: ファイルシステムレベルでの暗号化機能や、整合性検証機能（dm-integrityなど）が強化され、データのセキュリティと信頼性が向上します。

7. ネットワーキング機能の強化

高性能で安定したネットワーク接続は、現代のシステムにおいて不可欠です。RHEL 10では、ネットワーキングスタックのパフォーマンス向上と新しい技術への対応が進められます。

ネットワークスタックの最適化: カーネルレベルでのネットワーキングコードの改善により、スループットの向上、レイテンシの削減、コネクション処理能力の向上が期待されます。特に、高トラフィック環境やマイクロサービスアーキテクチャにおいてその効果を発揮するでしょう。
新しいプロトコルのサポート: TLS 1.3やQUIC (HTTP/3の基盤技術) といった新しいインターネットプロトコルへの対応が強化されます。
ネットワーキングデバイスのサポート: 最新世代のNIC（100Gbps以上）や、DPU (Data Processing Unit) /SmartNICのような新しいタイプのネットワーキングハードウェアに対するサポートが強化されます。
ネットワーク設定と管理: NetworkManagerのようなネットワーク管理ツールがアップデートされ、複雑なネットワーク構成（Bonding, Teaming, VLANs, VPNs）の管理がGUIやCUIからより容易に行えるようになるでしょう。

8. 管理性と運用の効率化

システムの導入、設定、監視、トラブルシューティングといった運用管理タスクの効率化は、TCO (Total Cost of Ownership) の削減に直結します。RHEL 10は、これらの側面で様々な改善を提供すると予測されます。

Cockpit Webコンソールの機能拡張: Cockpitは、RHELサーバーをWebブラウザ経由で管理するための使いやすいツールです。RHEL 10では、Cockpitで管理できる範囲がさらに広がり、ストレージ、ネットワーキング、コンテナ、仮想マシン、システムログの確認、パフォーマンス監視など、より多くの管理タスクをGUIから実行できるようになるでしょう。サードパーティ製ツールの統合も進むかもしれません。
Red Hat Insightsとの連携強化: Red Hat Insightsは、RHELシステムの潜在的なリスク（セキュリティ、パフォーマンス、可用性）を予測・分析し、改善策を提示するSaaS型のサービスです。RHEL 10は、Insightsエージェントが標準でインストールされ、より詳細なシステム情報をInsightsに送信できるようになるなど、連携がさらに強化されると考えられます。これにより、プロアクティブなシステム管理が可能になります。
自動化ツールとの連携: Ansibleのような自動化ツールとの連携は、RHEL管理において不可欠です。RHEL 10は、新しい設定オプションやモジュールを提供することで、自動化されたシステム構築や設定管理をより効率的に行えるように設計されるでしょう。
トレースとプロファイリングツールの進化: パフォーマンス問題やシステムトラブルの原因究明に役立つトレースツール（BPFトレースポイントなど）やプロファイリングツールが強化されます。これにより、システムの内部動作をより詳細に可視化し、問題解決にかかる時間を短縮できます。
ロギングと監査の機能強化: systemd-journaldによるログ管理や、auditdによるシステムコール監査といった機能もアップデートされ、より信頼性の高いログ収集とセキュリティ監査が可能になります。集中ログ管理システム（rsyslog, Vectorなど）との連携も考慮されるでしょう。

9. AI/MLワークロードへの対応強化

前述のように、AI/MLはRHEL 10の重要なテーマの一つです。OSレベルでのサポート強化により、AI/ML開発者やデータサイエンティストがより効率的に作業できる環境が提供されます。

GPUおよびアクセラレーターサポートの強化: NVIDIA, AMD, Intelなどの主要なGPUやAIアクセラレーターに対するドライバーサポートが強化され、最新ハードウェアの性能を最大限に引き出せるようになります。これにより、モデル学習や推論処理を高速化できます。
主要AI/MLライブラリの提供: TensorFlow, PyTorch, scikit-learn, NumPy, SciPyといった主要なAI/MLライブラリが、AppStreamを通じて容易にインストールできるようになるでしょう。これらのライブラリは、GPUサポートを含めて最適化された状態で提供されることが期待されます。
開発環境の整備: Jupyter Notebookや関連ツールなど、AI/ML開発に必要なツールやフレームワークをRHEL上でセットアップしやすくする機能が提供される可能性があります。コンテナイメージとしての提供も進むでしょう。
データ処理ライブラリ: Apache Arrowのようなインメモリデータ処理ライブラリのサポート強化により、大規模データの高速処理が可能になります。

10. デスクトップ環境のアップデート

RHELはサーバーOSとしての側面が強いですが、ワークステーションや開発環境としてデスクトップ環境も提供しています。

GNOMEの最新バージョン: RHEL 10では、GNOMEデスクトップ環境が最新に近いバージョンにアップデートされると考えられます。これにより、ユーザーインターフェースの改善、パフォーマンス向上、新しい機能（例えば、Waylandセッションのデフォルト化の推進、新しい設定オプションなど）が提供されます。
Waylandの成熟: X Window Systemに代わるディスプレイサーバープロトコルであるWaylandのサポートは、RHEL 8/9で進められてきました。RHEL 10ではWaylandがさらに成熟し、より多くのアプリケーションやユースケースで安定して利用できるようになることが期待されます。
ワークステーション向け機能の強化: 開発者やデータサイエンティスト向けのツールや環境設定が、より使いやすい形で提供される可能性があります。

11. 特定ハードウェアおよびアーキテクチャへの対応

RHELは複数のハードウェアアーキテクチャをサポートしています。

Intel, AMDプロセッサー: 最新世代のIntel Xeon ScalableプロセッサーやAMD EPYCプロセッサーに対する最適化、新しい命令セットの活用、セキュリティ機能（TDX, SEVなど）への対応が強化されます。
ARMアーキテクチャ: ARMv8および将来のARMv9アーキテクチャに対するサポートが継続・強化されます。クラウド環境（AWS Gravitonなど）やエッジデバイスにおけるARMの普及に対応するため、パフォーマンス最適化やハードウェアサポートの充実が進むでしょう。
RISC-V: 現時点でのRHELにおけるRISC-Vサポートは限定的ですが、コミュニティにおけるRISC-Vの普及に伴い、RHEL 10でより広範なサポート（特に開発者向け環境など）が提供される可能性も考えられます。
IBM Power, IBM Z: これらのエンタープライズ向けレガシーシステムに対するサポートも継続されます。

12. アップグレードパスと移行ツールの改良

既存のRHEL 8またはRHEL 9システムからRHEL 10へのスムーズな移行は、多くのユーザーにとって重要な懸念事項です。

Leappツールの強化: RHELは、メジャーバージョン間のインプレースアップグレードツールとしてLeappを提供しています。RHEL 10に向けて、LeappはRHEL 8およびRHEL 9からのアップグレードパスをサポートするように改良され、より多くのシステム構成やアプリケーションに対応できるようになると予測されます。アップグレード前のチェック機能や、問題発生時のロールバック機能なども強化されるでしょう。
移行ツールの提供: 他のLinuxディストリビューション（例えば、CentOS Linux 7など、サポート終了が近づいているもの）からRHEL 10への移行を支援するツールやガイドが提供されると考えられます。

RHEL 9からの変更点と進化（予測）

RHEL 10はRHEL 9の後継として登場するため、RHEL 9からの変更点や進化を理解することは、RHEL 10の全体像を掴む上で重要です。主な進化点は、前述の新機能と重複しますが、ここではRHEL 9の技術スタックと比較する形でまとめます。

カーネルバージョン: RHEL 9 (5.14) からRHEL 10 (予測: 6.x系LTS) へのアップデート。最新ハードウェアサポート、パフォーマンス、セキュリティ機能が大きく向上。
コアライブラリ/ツールチェーン: glibc, systemd, GCCなどがメジャーバージョンアップ。アプリケーションの互換性、パフォーマンス、開発環境が更新。
コンテナツール: Podman, Buildah, Skopeoの機能がさらに強化され、クラウドネイティブ開発・運用に適した機能（Quadletなど）が追加。
セキュリティ: SELinuxポリシー、OpenSCAPプロファイルが最新化。暗号化ライブラリのアップデート（PQC対応検討）。サプライチェーンセキュリティ対策の強化。
開発者向けツール: Python, Node.js, OpenJDKなどの言語ランタイム、データベース、Webサーバーが最新バージョンに。AppStreamモデルで提供されるソフトウェアの種類やバージョンが増加。
管理ツール: Cockpitの機能拡張、Red Hat Insightsとの連携深化。自動化や可観測性（トレーシング、ロギング）関連ツールの進化。
ハードウェアサポート: 最新世代のCPU、GPU、ネットワークデバイス、ストレージへの対応強化。ARMv9やRISC-Vへの対応進展（予測）。
デスクトップ: GNOMEバージョンのアップデート、Waylandの成熟。

また、RHEL 10では、一部の古い機能やパッケージが非推奨（Deprecated）となったり、削除（Removed）されたりする可能性があります。これは、最新技術への移行やセキュリティリスクの低減、メンテナンスコストの最適化のためです。RHEL 9からRHEL 10への移行を計画する際は、非推奨/削除リストを確認することが重要になります。

RHEL 10のターゲットユーザーとユースケース（予測）

RHEL 10は、これまでのRHELと同様に幅広いエンタープライズユーザーを対象としますが、特に以下のようなユーザーやユースケースにおいて、その価値を発揮すると予測されます。

基幹システムおよびミッションクリティカルワークロード: 安定性、信頼性、長期サポートが最優先される金融システム、通信インフラ、製造業の制御システムなど。RHEL 10の堅牢性とセキュリティ機能は、これらのシステムにとって不可欠です。
ハイブリッドクラウドおよびマルチクラウド環境の構築・運用者: オンプレミスとクラウドを跨がる環境で一貫したOS基盤を求める企業。RHEL 10は、様々な環境でのデプロイと管理を容易にする機能を提供します。
クラウドネイティブアプリケーションの開発者および運用者: コンテナやKubernetesを活用してアプリケーションを開発・運用するチーム。RHEL 10のコンテナツール、最新の開発ツール、Kubernetesノードとしての最適化は、開発・運用効率を向上させます。
AI/MLワークロードを実行する組織: 大規模なデータ処理やモデル学習を行う必要のある研究機関や企業。RHEL 10は、最新のGPUサポート、最適化されたライブラリ、開発環境を提供し、AI/MLワークロードの実行を加速します。
エッジコンピューティング環境を構築する企業: IoTデバイス、店舗、工場など、中央データセンターから離れた場所でデータ処理を行う必要のあるケース。RHEL 10は、リソースが限られた環境での安定稼働とリモート管理を支援する機能を提供するでしょう。
セキュリティを重視する組織: 政府機関、金融機関など、厳格なセキュリティポリシーが求められる組織。RHEL 10の強化されたセキュリティ機能は、これらの要求に応えます。

今後の展望：RHEL 10のライフサイクルと次のステップ

RHEL 10が一般提供されると、Red Hatは長期にわたるサポートを提供します。RHELのメジャーリリースは、通常10年間のライフサイクル（5年間のフルサポート＋5年間のメンテナンスサポート）が設定されています。これは、エンタープライズユーザーが長期的なIT投資計画を立てる上で非常に重要な要素です。RHEL 10も同様の長期サポートが提供されると考えられます。

RHEL 10リリース後も、Red Hatは定期的にマイナーバージョン（例: 10.1, 10.2…）をリリースし、バグ修正、セキュリティアップデート、ハードウェアサポートの追加などを行います。また、AppStreamを通じて提供されるソフトウェアパッケージも随時アップデートされます。

RHEL 9を利用中のユーザーは、RHEL 10へのアップグレードを計画することになります。Leappツールを利用したインプレースアップグレード、あるいは新規インストールによる移行が選択肢となります。重要なシステムについては、事前に十分なテスト計画と検証を行うことが不可欠です。

RHEL 10は、次のメジャーバージョン（RHEL 11など）が登場するまでの間、エンタープライズLinuxの最前線を担うことになります。Red Hatは、CentOS Streamを通じてコミュニティと協力しながら、RHEL 10の進化と、将来のRHELに向けた技術開発を継続していくでしょう。

まとめ：RHEL 10がもたらす価値

本記事では、未発表であるRHEL 10について、これまでのトレンドや技術進化から予測される最新情報と主要な新機能を解説しました。RHEL 10は、単なるRHEL 9のアップデート版に留まらず、ハイブリッドクラウド、AI/ML、コンテナ、エッジコンピューティング、そしてセキュリティといった、現代および将来のIT環境における主要な課題に対応するための重要な進化を遂げると予測されます。

RHEL 10がもたらすと期待される主な価値は以下の通りです。

最新技術への対応: 最新のLinuxカーネルやミドルウェアの搭載により、新しいハードウェアの活用、パフォーマンス向上、新機能の利用が可能になります。
ハイブリッドクラウドの強化: 様々な環境での一貫した操作性、管理性、セキュリティを提供し、ハイブリッド/マルチクラウド戦略を強力に推進します。
AI/MLワークロードの加速: AI/ML開発・実行に必要な環境をOSレベルで最適化し、データサイエンスの取り組みを加速します。
開発者エクスペリエンスの向上: 最新の開発ツールやランタイムを容易に利用できる環境を提供し、アプリケーション開発の効率を高めます。
セキュリティのさらなる強化: 多層防御、サプライチェーンセキュリティ、新しい暗号化技術などにより、増大するサイバー脅威に対する防御力を高めます。
運用の効率化と自動化: Cockpit, Insights, 自動化ツール連携の強化により、システムの導入から日々の運用管理にかかるコストと労力を削減します。
長期的な安定性とサポート: 長期にわたるサポート期間により、安心して基幹システムを運用することができます。

RHEL 10の正式発表はまだ行われていませんが、その登場はエンタープライズLinuxの世界に新たな基準をもたらすこととなるでしょう。現代ITの複雑な要求に応え、将来の技術革新に対応するための基盤として、RHEL 10は非常に重要な役割を担うことになります。

企業や組織がRHEL 10の導入を検討する際は、自社のIT戦略、必要なワークロード、既存システムからの移行計画などを慎重に考慮する必要があります。RHEL 10の正式リリースが近づき、詳細な情報が公開され次第、本記事で解説した予測がどのように実現されるかを確認し、具体的な導入計画を立てることが推奨されます。

エンタープライズITの未来は、RHEL 10のような堅牢で革新的なOSによって支えられていくでしょう。その登場が待ち望まれます。