Azure Redis Cache の障害対策:可用性を高めるための設計
Azure Redis Cache は、マイクロサービス、Web アプリケーション、モバイル アプリケーションなど、幅広いアプリケーションにおいて、高性能なインメモリ データ キャッシュを提供します。高速な応答時間とスケーラビリティにより、データベースの負荷を軽減し、アプリケーションのパフォーマンスを向上させることができます。しかし、あらゆるインフラストラクチャと同様に、Redis Cache も障害の影響を受ける可能性があります。
可用性の高いアプリケーションを構築するためには、Azure Redis Cache の障害対策を慎重に設計する必要があります。この記事では、Azure Redis Cache の可用性を最大限に高めるための様々な設計パターン、ベストプラクティス、および考慮事項について詳しく説明します。
1. 可用性要件の理解
可用性の高いシステムを構築する前に、まずアプリケーションの可用性要件を明確に理解する必要があります。以下の点を考慮してください。
- 許容可能なダウンタイム: アプリケーションはどの程度のダウンタイムを許容できますか? 計画メンテナンスや予期せぬ障害を含め、年間で何分または何時間のダウンタイムが許容範囲内ですか?
- ビジネスインパクト: ダウンタイムはビジネスにどのような影響を与えますか? 収益損失、顧客満足度の低下、ブランドイメージの毀損などが考えられます。
- 復旧時間目標 (RTO): システムを復旧させ、正常な状態に戻すまでの目標時間です。
- 目標復旧時点 (RPO): データ損失を許容できる最大期間です。たとえば、RPO が 1 時間の場合、過去 1 時間以内のデータ損失は許容されます。
これらの要件を理解することで、適切な障害対策戦略を選択し、コストと複雑さを適切に調整できます。
2. Azure Redis Cache の高可用性オプション
Azure Redis Cache は、様々なレベルの可用性を提供する複数の構成オプションを提供しています。主なオプションは以下のとおりです。
- Basic: 単一ノードの構成で、開発/テスト環境に適しています。可用性は保証されていません。
- Standard: 2 つのノードで構成されており、片方がプライマリ、もう片方がセカンダリとして機能します。プライマリノードに障害が発生した場合、セカンダリノードが自動的にプライマリノードに昇格します。これにより、基本的な可用性が提供されますが、フェイルオーバー時にわずかなダウンタイムが発生する可能性があります。
- Premium: Standard レベルの機能に加えて、以下の機能を提供し、より高い可用性を実現します。
- Redis Cluster: 複数の Redis ノードにデータを分散し、水平方向にスケーラブルなソリューションを提供します。ノード障害が発生した場合、クラスターは自動的にデータを再分散し、可用性を維持します。
- データ永続化: 定期的にデータをストレージアカウントにバックアップすることで、データの損失を防ぎます。RDB (Redis Database) スナップショットと AOF (Append Only File) の 2 つのオプションがあります。
- 可用性ゾーン: Azure の異なる可用性ゾーンに Redis ノードを配置することで、ゾーン全体の障害に対する耐性を向上させます。
3. Azure Redis Cache の障害対策設計パターン
可用性を向上させるためには、以下の設計パターンを組み合わせることを検討してください。
- レプリケーション: データを複数の Redis ノードにレプリケートすることで、単一障害点を取り除きます。Azure Redis Cache の Standard および Premium レベルは、自動的なプライマリ/セカンダリ レプリケーションを提供します。
- シャーディング: データを複数の Redis インスタンスに分割することで、単一インスタンスの負荷を軽減し、可用性を向上させます。Redis Cluster は、自動シャーディングを提供します。
- フェイルオーバー: プライマリノードに障害が発生した場合、自動的にセカンダリノードに切り替えるメカニズムを実装します。Azure Redis Cache の Standard および Premium レベルは、自動フェイルオーバーを提供します。
- データ永続化: データを定期的に永続化することで、データ損失を防ぎます。Azure Redis Cache の Premium レベルは、RDB スナップショットと AOF の両方のオプションを提供します。
- キャッシュウォームアップ: フェイルオーバー後に、キャッシュにデータを再populateするプロセスです。事前に重要なデータをキャッシュにロードしておくことで、アプリケーションの応答性を向上させることができます。
- Circuit Breaker: Redis Cache に接続できない場合、アプリケーションが Redis Cache への接続を試みるのを一時的に停止します。これにより、ダウンストリームの Redis Cache への過負荷を防ぎ、アプリケーションの安定性を向上させます。
- 再試行ロジック: 一時的なネットワークエラーやRedis Cache の一時的な過負荷など、一時的なエラーが発生した場合に、操作を自動的に再試行します。ただし、再試行ロジックは、指数バックオフのようなメカニズムを使用して、エラーを悪化させないように慎重に設計する必要があります。
4. 可用性を高めるための具体的な設計
以下に、Azure Redis Cache の可用性を高めるための具体的な設計例をいくつか示します。
例 1: 基本的な高可用性
- 目的: 最小限のコストで、ある程度の可用性を確保する。
- 構成: Azure Redis Cache Standard レベルを使用。
- 設計:
- 2 つの Redis ノードで構成され、プライマリ/セカンダリ レプリケーションを使用。
- プライマリノードに障害が発生した場合、セカンダリノードが自動的にプライマリノードに昇格。
- アプリケーションに、Redis Cache への接続を試行する再試行ロジックを実装。
- 利点:
- 低コストで実装が容易。
- 自動フェイルオーバーにより、ある程度のダウンタイムを削減。
- 欠点:
- フェイルオーバー時に、数秒から数分程度のダウンタイムが発生する可能性がある。
- データ永続化機能がないため、重大な障害が発生した場合、データ損失が発生する可能性がある。
- スケーラビリティに制限がある。
例 2: 高度な高可用性
- 目的: 高可用性とスケーラビリティを確保する。
- 構成: Azure Redis Cache Premium レベルを使用し、Redis Cluster を有効にする。
- 設計:
- Redis Cluster を使用して、データを複数の Redis ノードに分散。
- 各ノードは、複数のレプリカを持つ。
- データ永続化を有効にし、定期的にデータをストレージアカウントにバックアップ。
- アプリケーションに、Circuit Breaker パターンを実装。
- キャッシュウォームアップ戦略を実装。
- 利点:
- 高い可用性とスケーラビリティ。
- ノード障害が発生した場合でも、自動的にデータを再分散し、可用性を維持。
- データ永続化により、データ損失を防ぐ。
- 欠点:
- 高コスト。
- 複雑な構成と管理が必要。
例 3: 可用性ゾーンを利用した高可用性
- 目的: リージョン内のゾーン障害に対する耐性を向上させる。
- 構成: Azure Redis Cache Premium レベルを使用し、可用性ゾーンを有効にする。
- 設計:
- Redis ノードを、同じリージョン内の異なる可用性ゾーンに分散。
- 可用性ゾーン全体の障害が発生した場合でも、他のゾーンのノードが引き続き動作し、可用性を維持。
- 利点:
- ゾーン障害に対する高い耐性。
- リージョン全体の障害が発生した場合でも、他のリージョンにフェイルオーバーすることで、可用性を維持。
- 欠点:
- 可用性ゾーンがサポートされているリージョンでのみ利用可能。
- リージョン間のデータレプリケーションは、ネットワークレイテンシが増加する可能性がある。
5. 考慮事項
Azure Redis Cache の高可用性を設計する際には、以下の点を考慮してください。
- コスト: 高可用性構成は、より多くのリソースを必要とするため、コストが高くなります。可用性要件と予算のバランスを考慮する必要があります。
- 複雑さ: 高可用性構成は、より複雑な管理と運用が必要となります。必要なスキルとリソースを考慮する必要があります。
- パフォーマンス: フェイルオーバーやデータレプリケーションは、パフォーマンスに影響を与える可能性があります。パフォーマンス要件を考慮する必要があります。
- モニタリング: Redis Cache のパフォーマンスと可用性を継続的にモニタリングし、問題が発生した場合に迅速に対応できるようにする必要があります。Azure Monitor を使用して、Redis Cache のメトリックを監視し、アラートを設定することができます。
- テスト: フェイルオーバーやデータ復旧などの障害シナリオを定期的にテストし、高可用性設計が期待どおりに機能することを確認する必要があります。
6. Azure Redis Cache の監視とアラート
高可用性を維持するためには、Azure Redis Cache を継続的に監視し、異常が発生した場合に迅速に対応する必要があります。以下のメトリックを監視することを推奨します。
- CPU使用率: CPU使用率が高い場合、パフォーマンスの問題が発生する可能性があります。スケールアップまたはスケールアウトを検討する必要があります。
- メモリ使用率: メモリ使用率が高い場合、データの削除や応答時間の遅延が発生する可能性があります。スケールアップまたはスケールアウトを検討する必要があります。
- 接続数: 接続数が上限に近づいている場合、新しい接続を確立できなくなる可能性があります。接続数を増やすために、スケールアップまたはスケールアウトを検討する必要があります。
- キャッシュヒット率: キャッシュヒット率が低い場合、キャッシュの効果が低下している可能性があります。キャッシュの有効期限やデータ構造を見直す必要があります。
- レプリケーションの状態: プライマリ/セカンダリ レプリケーションが正常に機能していることを確認する必要があります。
- フェイルオーバーの発生: フェイルオーバーが発生した場合、原因を調査し、再発防止策を講じる必要があります。
Azure Monitor を使用して、これらのメトリックを監視し、異常が発生した場合にアラートを設定することができます。アラートは、電子メール、SMS、または Webhook を介して通知できます。
7. Azure Redis Cache のデータ永続化
データ永続化は、Redis Cache の可用性を高めるための重要な要素です。データ永続化を有効にすることで、Redis Cache がクラッシュしたり、予期せぬ障害が発生した場合でも、データを復旧することができます。
Azure Redis Cache の Premium レベルでは、RDB (Redis Database) スナップショットと AOF (Append Only File) の 2 つのデータ永続化オプションが提供されています。
- RDB スナップショット: 定期的に Redis Cache のメモリ上のデータをディスクにスナップショットとして保存します。RDB スナップショットは、高速な復旧が可能ですが、スナップショット間隔の間にデータが失われる可能性があります。
- AOF: Redis Cache で実行されたすべての書き込み操作をログファイルに記録します。AOF は、RDB スナップショットよりもデータ損失が少ないですが、復旧に時間がかかる可能性があります。
どちらのオプションを選択するかは、RTO と RPO の要件によって異なります。RTO が重要な場合は、RDB スナップショットを選択し、RPO が重要な場合は、AOF を選択することを推奨します。
8. まとめ
Azure Redis Cache は、アプリケーションのパフォーマンスを向上させるための強力なツールですが、高可用性を確保するためには、慎重な設計が必要です。この記事では、Azure Redis Cache の可用性を高めるための様々な設計パターン、ベストプラクティス、および考慮事項について詳しく説明しました。
- アプリケーションの可用性要件を明確に理解する。
- Azure Redis Cache の高可用性オプションを検討する。
- レプリケーション、シャーディング、フェイルオーバー、データ永続化などの障害対策設計パターンを組み合わせる。
- コスト、複雑さ、パフォーマンス、モニタリングなどの考慮事項を考慮する。
- Azure Redis Cache のパフォーマンスと可用性を継続的に監視し、異常が発生した場合に迅速に対応する。
- フェイルオーバーやデータ復旧などの障害シナリオを定期的にテストする。
これらの手順に従うことで、Azure Redis Cache の可用性を最大限に高め、アプリケーションの安定性と信頼性を向上させることができます。