Azure Site RecoveryでVMware仮想マシンをAzureへ移行する手順 (詳細解説)
本記事では、Azure Site Recovery (ASR) を利用して、オンプレミスのVMware仮想マシンをAzureへ移行するための詳細な手順を解説します。移行の計画から、構成、レプリケーション、テスト、そして本番移行まで、各ステップを丁寧に説明し、スムーズな移行を実現するための知識を提供します。
1. はじめに: Azure Site Recoveryとは
Azure Site Recovery (ASR) は、Microsoft Azureが提供するディザスタリカバリ(DR)と移行のためのサービスです。オンプレミス環境の物理サーバーや仮想マシン(VMware、Hyper-V)、Azure仮想マシンをAzureリージョン間でレプリケーションし、障害発生時のフェイルオーバーや、計画的な移行を支援します。
VMware仮想マシンのAzureへの移行において、ASRは以下のメリットを提供します。
- シンプルな構成: 直感的なGUIと豊富なドキュメントにより、容易に構成と管理が可能です。
- 継続的なレプリケーション: 変更されたデータのみをレプリケーションするため、ネットワーク帯域幅を効率的に利用できます。
- テストフェイルオーバー: 本番環境への影響を最小限に抑えつつ、移行の検証を行うことができます。
- 柔軟な復旧: 障害発生時だけでなく、計画的な移行にも対応できます。
- コスト効率: 使用量に応じた課金体系で、初期投資を抑えることができます。
2. 移行前の準備: 計画と要件の確認
Azureへの移行を成功させるためには、事前の計画が不可欠です。以下の項目を十分に検討し、要件を明確にしましょう。
- 移行対象の特定: 移行する仮想マシンを特定し、それぞれの役割、依存関係、リソース要件などを把握します。
- Azure側のリソース要件: 移行先のAzureリージョン、仮想ネットワーク、サブネット、ストレージアカウント、仮想マシンのサイズなどを決定します。オンプレミス環境のリソース要件と照らし合わせ、適切なサイズを選択する必要があります。
- ネットワーク構成: オンプレミス環境とAzure間のネットワーク接続を確立します。VPN GatewayまたはExpressRouteを利用するのが一般的です。必要な帯域幅を見積もり、適切なネットワーク構成を選択しましょう。
- セキュリティ要件: セキュリティグループ(Network Security Group: NSG)の設定、暗号化、ID管理など、Azure側のセキュリティポリシーを定義します。オンプレミス環境のセキュリティ要件を満たすように構成する必要があります。
- アプリケーションの互換性: Azureで動作するアプリケーションの互換性を確認します。OS、ミドルウェア、データベースなどのバージョンがAzureでサポートされているか、アプリケーションの動作に影響がないかなどを検証する必要があります。
- テスト計画: 移行後の検証計画を策定します。機能テスト、性能テスト、セキュリティテストなど、移行が成功したことを確認するためのテストケースを定義します。
- ロールバック計画: 万が一、移行に失敗した場合のロールバック計画を準備します。オンプレミス環境への切り戻し手順、必要なリソース、タイムラインなどを明確にしておく必要があります。
- Azure Site Recoveryの制限事項: ASRには、サポートされるOSバージョン、ディスクの種類、ネットワーク構成など、いくつかの制限事項があります。移行対象の環境がこれらの制限事項に適合していることを確認してください。詳細はMicrosoftのドキュメントを参照してください。
3. 前提条件と必要なコンポーネント
ASRを利用したVMware仮想マシンのAzureへの移行には、以下のコンポーネントが必要です。
- Azureサブスクリプション: Azureアカウントが必要です。無料試用版も利用できます。
- Recovery Services コンテナー: ASRの設定と管理を行うためのリソースです。Azure portalで作成します。
- 構成サーバー (Configuration Server): VMware環境とAzureを結びつけるためのサーバーです。オンプレミスのVMware vCenterまたはvSphereホストに展開します。
- プロセス サーバー (Process Server): オンプレミス環境からAzureへのデータ転送を処理するサーバーです。構成サーバーに組み込まれていますが、スケールアウトのために追加のプロセスサーバーを展開することも可能です。
- モビリティ サービス (Mobility Service): 移行対象の各仮想マシンにインストールするエージェントです。データのレプリケーションとフェイルオーバーを担います。
- VMware vCenter ServerまたはvSphere ESXiホスト: 移行対象の仮想マシンが存在するVMware環境です。
- Azure仮想ネットワーク: 移行先のAzure仮想マシンが接続するネットワークです。
- Azureストレージアカウント: レプリケートされたデータが格納されるストレージアカウントです。
4. Recovery Services コンテナーの作成
まず、Azure portalにログインし、Recovery Services コンテナーを作成します。
- Azure portal (https://portal.azure.com/) にログインします。
- 「リソースの作成」をクリックし、「Recovery Services コンテナー」を検索して選択します。
- 「作成」をクリックします。
- コンテナーの名前、サブスクリプション、リソースグループ、リージョンを入力します。
- 「確認と作成」をクリックし、設定を確認後、「作成」をクリックします。
5. 構成サーバーの展開
次に、オンプレミスのVMware環境に構成サーバーを展開します。構成サーバーは、Microsoft Azure Site Recovery VM Replication Applianceとして提供されます。
- Azure portalで、作成したRecovery Services コンテナーを開きます。
- 「Site Recovery インフラストラクチャ」 -> 「ソース」を選択します。
- 「ソースの準備」で、「VMware vSphere Hypervisor または vCenter Server」を選択し、「構成サーバーの準備」をクリックします。
- 構成サーバーのダウンロードリンクが表示されるので、OVAファイル(Microsoft Azure Site Recovery VM Replication Appliance)をダウンロードします。
- ダウンロードしたOVAファイルをVMware vSphere ClientまたはvCenter Clientを使用して展開します。
- 展開した仮想マシンを起動します。
- 仮想マシンに割り当てられたIPアドレスを確認し、ブラウザから構成サーバーの設定ページにアクセスします (https://<構成サーバーのIPアドレス>:443)。
- パスワードを設定し、ライセンス契約に同意します。
- 構成サーバーの登録を行います。Azureサブスクリプション、Recovery Services コンテナー、リージョンを選択し、Azure Active Directory認証情報を入力します。
- VMware vCenter ServerまたはvSphere ESXiホストの情報を登録します。
- 仮想マシンの自動検出を有効にするかどうかを選択します。
- インターネット接続の設定を行います。プロキシサーバーを使用する場合は、プロキシサーバーの設定を入力します。
6. モビリティ サービスのインストール
移行対象の各仮想マシンにモビリティ サービスをインストールします。
- Azure portalで、作成したRecovery Services コンテナーを開きます。
- 「Site Recovery インフラストラクチャ」 -> 「レプリケーション インフラストラクチャ」 -> 「マシン」 -> 「VMware vSphere/物理マシン」を選択します。
- 構成サーバーを選択し、「OK」をクリックします。
- 検出された仮想マシンの一覧が表示されます。移行対象の仮想マシンを選択します。
- 「マシンの有効化」をクリックします。
- モビリティ サービスのインストール方法を選択します。
- プッシュインストール: 構成サーバーから自動的にモビリティ サービスをインストールします。この方法を使用するには、仮想マシンに管理者権限を持つアカウントが必要です。
- 手動インストール: モビリティ サービスのインストーラーを手動で仮想マシンにコピーし、インストールします。
- プッシュインストールを選択した場合は、仮想マシンのオペレーティングシステム、ユーザー名、パスワードを入力します。
- レプリケーションポリシーを選択します。デフォルトのポリシーを使用するか、カスタムポリシーを作成できます。
- 「マシンの有効化」をクリックします。
7. レプリケーションの開始
モビリティ サービスのインストールが完了したら、レプリケーションを開始します。
- Azure portalで、作成したRecovery Services コンテナーを開きます。
- 「保護」 -> 「レプリケートされたアイテム」を選択します。
- 移行対象の仮想マシンを選択します。
- レプリケーションの状態が「保護中」に変わるまで待ちます。初期レプリケーションには時間がかかる場合があります。
- レプリケーションの進捗状況は、Azure portalで確認できます。
8. テストフェイルオーバーの実施
本番移行の前に、テストフェイルオーバーを実施して、移行が正常に機能することを確認します。テストフェイルオーバーは、本番環境に影響を与えずに実行できます。
- Azure portalで、作成したRecovery Services コンテナーを開きます。
- 「保護」 -> 「レプリケートされたアイテム」を選択します。
- 移行対象の仮想マシンを選択します。
- 「テストフェイルオーバー」をクリックします。
- テストフェイルオーバーを実行するRecovery Services コンテナー、仮想ネットワーク、フェイルオーバーポイントを選択します。
- 「OK」をクリックします。
- テストフェイルオーバーが開始されます。完了するまで待ちます。
- テストフェイルオーバーが完了したら、Azure portalで仮想マシンが起動していることを確認します。
- 仮想マシンにアクセスし、アプリケーションが正常に動作することを確認します。
- テストが完了したら、「テストフェイルオーバーのクリーンアップ」をクリックします。
9. 本番移行の実施
テストフェイルオーバーが成功したら、本番移行を実施します。
- Azure portalで、作成したRecovery Services コンテナーを開きます。
- 「保護」 -> 「レプリケートされたアイテム」を選択します。
- 移行対象の仮想マシンを選択します。
- 「フェイルオーバー」をクリックします。
- シャットダウンする前に仮想マシンをシャットダウンするかどうかを選択します。
- フェイルオーバーポイントを選択します。
- 「OK」をクリックします。
- フェイルオーバーが開始されます。完了するまで待ちます。
- フェイルオーバーが完了したら、Azure portalで仮想マシンが起動していることを確認します。
- 仮想マシンにアクセスし、アプリケーションが正常に動作することを確認します。
10. 移行後の作業
本番移行が完了したら、以下の作業を行います。
- DNSの切り替え: オンプレミス環境からAzure環境にDNSレコードを切り替えます。
- アプリケーションの動作確認: アプリケーションが正常に動作することを再度確認します。
- パフォーマンスの監視: Azure仮想マシンのパフォーマンスを監視し、必要に応じてリソースを調整します。
- バックアップの設定: Azure Backupを使用して、Azure仮想マシンのバックアップを設定します。
- オンプレミス環境のシャットダウン: Azure環境への移行が完了したら、オンプレミス環境の仮想マシンをシャットダウンします。
- レプリケーションの停止: Azure portalで、レプリケーションを停止します。
11. トラブルシューティング
ASRを使用した移行中に問題が発生した場合は、以下の点を確認してください。
- 構成サーバーの状態: 構成サーバーが正常に動作していることを確認します。
- モビリティ サービスの状態: モビリティ サービスが正常にインストールされ、動作していることを確認します。
- ネットワーク接続: オンプレミス環境とAzure間のネットワーク接続が正常であることを確認します。
- Azure Site Recoveryのログ: Azure Site Recoveryのログを確認し、エラーメッセージや警告メッセージを調査します。
12. ベストプラクティス
ASRを使用した移行を成功させるためのベストプラクティスを以下に示します。
- 十分なテスト: 本番移行の前に、テストフェイルオーバーを十分に行い、移行の検証を行います。
- 段階的な移行: 一度にすべての仮想マシンを移行するのではなく、段階的に移行を行います。
- 移行計画の作成: 移行計画を事前に作成し、リスクを軽減します。
- ドキュメントの参照: Microsoftのドキュメントをよく読み、ASRの機能と制限事項を理解します。
- サポートの利用: 問題が発生した場合は、Microsoftのサポートを利用します。
13. まとめ
Azure Site Recoveryは、VMware仮想マシンをAzureへ移行するための強力なツールです。本記事で解説した手順とベストプラクティスに従うことで、スムーズな移行を実現できます。移行の際は、事前の計画、十分なテスト、そして慎重な実行が重要です。
この詳細なガイドが、あなたのAzureへの移行プロジェクトの成功に貢献できることを願っています。