RHEL 10 vs. CentOS Stream 9:移行パスと最適な選択肢
Red Hat Enterprise Linux(RHEL)は、エンタープライズ環境で広く利用されているLinuxディストリビューションであり、その安定性、セキュリティ、そしてRed Hatによる長期的なサポートが特徴です。一方、CentOS Streamは、RHELの開発プロセスにおける上流(upstream)プロジェクトとして、RHELの次のメジャーバージョンに向けた継続的な更新を提供します。RHEL 10とCentOS Stream 9の比較は、RHELユーザーにとって、将来のインフラストラクチャ戦略を検討する上で重要な要素となります。
本記事では、RHEL 10とCentOS Stream 9の主な違い、移行パス、そしてそれぞれの環境がどのようなユースケースに最適かについて、詳細に解説します。これにより、組織は自社のニーズに最も適したプラットフォームを選択し、将来を見据えたインフラストラクチャを構築するための情報に基づいた意思決定を行うことができます。
1. RHELとCentOS Streamの歴史と関係
RHELとCentOS Streamの関係を理解することは、両者の違いと、移行パスを検討する上で不可欠です。
-
RHEL (Red Hat Enterprise Linux): 商用Linuxディストリビューションであり、Red Hatによって開発、保守、そしてサポートされています。RHELは、エンタープライズ環境での利用を前提に設計されており、ミッションクリティカルなワークロードに対応するための高い安定性とセキュリティを提供します。Red Hatは、RHELに対して長期的なサポートを提供し、定期的なセキュリティアップデートやバグ修正を提供します。
-
CentOS: 以前はRHELのダウンストリームビルドであり、RHELのソースコードを再構築して作成されていました。CentOSは、RHELとのバイナリ互換性を持つことを目指しており、無償で利用できるエンタープライズグレードのLinuxディストリビューションとして人気を博しました。
-
CentOS Stream: 2020年にRed Hatは、CentOSプロジェクトの方向性を変更し、CentOS Streamを発表しました。CentOS Streamは、RHELのダウンストリームビルドではなく、RHELの開発における上流プロジェクトとなりました。つまり、CentOS Streamは、RHELの次のメジャーバージョンに取り込まれる可能性のある、最新の機能やアップデートをテストするためのプラットフォームとして機能します。
RHELとCentOS Streamの関係を図で表すと以下のようになります。
+-------------------+
| 開発コミュニティ |
+-------------------+
|
| コード貢献、パッチ
V
+-------------------+
| Fedora Project |
+-------------------+
|
| 最新機能、実験的要素
V
+-------------------+
| CentOS Stream |
+-------------------+
|
| 継続的な更新、RHELのプレビュー
V
+-------------------+
| RHEL |
+-------------------+
|
| 安定性、セキュリティ、長期サポート
V
+-------------------+
| エンタープライズ環境 |
+-------------------+
2. RHEL 10とCentOS Stream 9の主な違い
RHEL 10とCentOS Stream 9は、どちらもLinuxディストリビューションですが、その目的、開発モデル、サポート体制、そしてユースケースにおいて、大きな違いがあります。
特徴 | RHEL 10 | CentOS Stream 9 |
---|---|---|
目的 | エンタープライズ環境での安定性と信頼性を提供 | RHELの次期バージョンに向けた継続的な更新のテストプラットフォーム |
開発モデル | クローズド開発 (Red Hatによる開発) | オープンな開発 (コミュニティとの連携) |
リリースサイクル | メジャーリリース (数年に一度) | 継続的なリリース (定期的な更新) |
サポート体制 | Red Hatによる商用サポート | コミュニティサポート (Red Hatによる限定的なサポート) |
安定性 | 非常に高い | 比較的高いが、RHELほどではない |
セキュリティ | 非常に高い | 比較的高いが、RHELほどではない |
最新機能 | 厳選された安定した機能のみが含まれる | 最新の機能が比較的早く利用可能 |
ユースケース | ミッションクリティカルなワークロード、本番環境 | 開発環境、テスト環境、最新技術の検証 |
料金 | 商用ライセンスが必要 | 無償で利用可能 |
2.1. 安定性と信頼性
RHELは、エンタープライズ環境における安定性と信頼性を最優先事項としています。Red Hatは、RHELに対して厳格なテストプロセスを実施し、認定ハードウェアとの互換性を確保することで、システムの安定性を高めています。また、RHELは、長期的なサポートを提供し、定期的なセキュリティアップデートやバグ修正を提供することで、システムの信頼性を維持します。
CentOS Streamは、RHELほど厳格なテストプロセスを経ていないため、RHELと比較すると、安定性と信頼性は若干劣ります。しかし、CentOS Streamは、継続的な更新を提供することで、常に最新の機能やセキュリティアップデートを利用できるというメリットがあります。
2.2. 開発モデル
RHELは、Red Hatによって開発、保守、そしてサポートされています。RHELの開発プロセスは、クローズドな開発モデルに基づいており、Red Hatのエンジニアが中心となって開発を行います。Red Hatは、品質管理を徹底し、安定性とセキュリティを確保するために、厳格なテストプロセスを実施しています。
CentOS Streamは、オープンな開発モデルに基づいており、コミュニティとの連携を重視しています。CentOS Streamの開発には、Red Hatのエンジニアだけでなく、コミュニティの貢献者も参加しています。CentOS Streamは、RHELの次期バージョンに取り込まれる可能性のある、最新の機能やアップデートをテストするためのプラットフォームとして機能します。
2.3. サポート体制
RHELは、Red Hatによって商用サポートが提供されています。Red Hatのサポートは、24時間365日の対応、技術的な問題解決、セキュリティアップデートの提供などを含みます。RHELの商用サポートは、エンタープライズ環境におけるシステムの安定性と信頼性を維持するために不可欠です。
CentOS Streamは、コミュニティサポートが中心となります。Red Hatは、CentOS Streamに対して限定的なサポートを提供しますが、商用サポートは提供していません。CentOS Streamのユーザーは、コミュニティフォーラムやメーリングリストなどを通じて、問題解決のための情報交換を行うことができます。
2.4. 最新機能
RHELは、安定性と信頼性を重視するため、最新の機能を取り入れることに慎重です。RHELは、厳選された安定した機能のみを含み、新しい機能は十分にテストされた後に、次のメジャーリリースで導入されます。
CentOS Streamは、最新の機能を比較的早く利用できるというメリットがあります。CentOS Streamは、RHELの次期バージョンに取り込まれる可能性のある、最新の機能やアップデートをテストするためのプラットフォームとして機能するため、常に最新の技術に触れることができます。
3. RHEL 10への移行パス
RHEL 10への移行は、既存のRHEL環境のバージョン、アプリケーションの互換性、そして組織の要件に応じて、いくつかの異なるパスが考えられます。
3.1. RHEL 8からのインプレースアップグレード
RHEL 8を使用している場合、RHEL 10へのインプレースアップグレードが可能です。インプレースアップグレードは、既存のシステムを停止することなく、新しいバージョンにアップグレードする方法です。ただし、インプレースアップグレードは、システムの複雑さやアプリケーションの互換性によっては、リスクを伴う可能性があります。
インプレースアップグレードを実行する前に、以下の点を確認する必要があります。
- ハードウェア要件: RHEL 10のハードウェア要件を満たしているか確認します。
- アプリケーションの互換性: RHEL 10で動作することが確認されているアプリケーションのみを使用します。互換性のないアプリケーションは、アップグレード前にアンインストールまたは更新する必要があります。
- データのバックアップ: アップグレード前に、必ずシステムのバックアップを作成してください。万が一、アップグレード中に問題が発生した場合、バックアップからシステムを復元することができます。
- Red Hatのドキュメント: Red Hatが提供する公式ドキュメントをよく読み、手順に従ってアップグレードを実行してください。
3.2. 新規インストールとアプリケーションの移行
RHEL 8以前のバージョンを使用している場合、またはインプレースアップグレードにリスクを感じる場合は、RHEL 10を新規にインストールし、アプリケーションを移行する方法が推奨されます。この方法では、新しいシステムをクリーンな状態から構築できるため、より安定した環境を構築できます。
新規インストールとアプリケーションの移行を行う場合は、以下の手順に従ってください。
- RHEL 10を新規にインストールします。
- アプリケーションをRHEL 10にインストールします。
- データを古いシステムから新しいシステムに移行します。
- アプリケーションが正常に動作することを確認します。
3.3. コンテナ化とKubernetesの活用
アプリケーションをコンテナ化し、Kubernetesなどのコンテナオーケストレーションツールを活用することで、RHEL 10への移行を簡素化することができます。コンテナ化されたアプリケーションは、プラットフォームに依存しないため、RHEL 8からRHEL 10への移行が容易になります。
コンテナ化とKubernetesを活用する場合は、以下の手順に従ってください。
- アプリケーションをコンテナ化します。
- KubernetesクラスタをRHEL 10に構築します。
- コンテナ化されたアプリケーションをKubernetesクラスタにデプロイします。
4. CentOS Stream 9からの移行
CentOS Stream 9からRHEL 10への直接的なインプレースアップグレードは、Red Hatによって公式にはサポートされていません。CentOS Streamは、RHELのアップストリームプロジェクトであり、RHELの安定版とは異なる開発サイクルを持っています。そのため、CentOS Stream 9からRHEL 10への移行は、新規インストールとアプリケーションの移行が必要となります。
5. RHEL 10とCentOS Stream 9の最適な選択肢
RHEL 10とCentOS Stream 9のどちらを選択するかは、組織のニーズと要件によって異なります。
5.1. RHEL 10が最適なケース
- ミッションクリティカルなワークロード: 安定性、セキュリティ、そしてRed Hatによる長期的なサポートが必要な場合は、RHEL 10が最適な選択肢です。
- 本番環境: 本番環境で使用するシステムは、RHEL 10のような安定したプラットフォーム上で実行することが推奨されます。
- 商用サポートが必要な環境: Red Hatによる商用サポートが必要な場合は、RHEL 10を選択する必要があります。
- 規制遵守が厳しい環境: 規制遵守が厳しい環境では、RHEL 10のような認定されたプラットフォームを使用することが求められる場合があります。
5.2. CentOS Stream 9が最適なケース
- 開発環境: 最新の機能や技術を試したい場合は、CentOS Stream 9が最適な選択肢です。
- テスト環境: 新しいアプリケーションやアップデートをテストする場合は、CentOS Stream 9を使用することができます。
- 学習環境: Linuxの知識を深めたい場合は、CentOS Stream 9を学習環境として利用することができます。
- 無償で利用したい場合: RHELの機能を無償で利用したい場合は、CentOS Stream 9を選択することができます。ただし、商用サポートは提供されないことに注意してください。
6. 移行計画の策定
RHEL 10への移行を計画する際には、以下の要素を考慮する必要があります。
- アプリケーションの互換性: RHEL 10で動作することが確認されているアプリケーションのみを使用します。互換性のないアプリケーションは、アップグレード前にアンインストールまたは更新する必要があります。
- ハードウェア要件: RHEL 10のハードウェア要件を満たしているか確認します。
- ダウンタイム: 移行作業に必要なダウンタイムを見積もり、ダウンタイムを最小限に抑えるための対策を講じます。
- リソース: 移行作業に必要な人員、時間、そして予算を見積もります。
- テスト: 移行作業が完了したら、システムが正常に動作することを確認するために、徹底的なテストを実施します。
7. 移行後の運用と保守
RHEL 10への移行が完了した後も、システムの安定性とセキュリティを維持するために、継続的な運用と保守が必要です。
- セキュリティアップデート: 定期的にセキュリティアップデートを適用し、システムを最新の状態に保ちます。
- 監視: システムのリソース使用状況、パフォーマンス、そしてセキュリティを監視します。
- バックアップ: 定期的にシステムのバックアップを作成し、万が一の事態に備えます。
- トラブルシューティング: 問題が発生した場合は、迅速に原因を特定し、解決します。
- パフォーマンスチューニング: 必要に応じて、システムのパフォーマンスをチューニングします。
8. その他の考慮事項
- Red Hat Insights: Red Hat Insightsは、RHELシステムの分析、問題検出、そして修復のためのツールです。RHEL 10への移行を検討する際には、Red Hat Insightsを活用して、移行計画の策定、移行後の運用、そして保守を効率化することができます。
- Ansible: Ansibleは、インフラストラクチャの自動化ツールです。Ansibleを活用することで、RHEL 10への移行、構成管理、そしてアプリケーションのデプロイを自動化することができます。
- コンテナ技術: コンテナ技術を活用することで、アプリケーションの移植性を高め、RHEL 10への移行を簡素化することができます。
9. まとめ
RHEL 10とCentOS Stream 9は、それぞれ異なる目的と特性を持つLinuxディストリビューションです。RHEL 10は、エンタープライズ環境における安定性、セキュリティ、そしてRed Hatによる長期的なサポートを提供します。一方、CentOS Stream 9は、RHELの次期バージョンに向けた継続的な更新のテストプラットフォームとして機能します。
組織は、自社のニーズと要件を慎重に検討し、RHEL 10とCentOS Stream 9のどちらが最適な選択肢かを判断する必要があります。RHEL 10への移行を計画する際には、アプリケーションの互換性、ハードウェア要件、ダウンタイム、リソース、そしてテストなどの要素を考慮する必要があります。
本記事が、RHEL 10とCentOS Stream 9の比較、移行パス、そして最適な選択肢について理解を深める一助となれば幸いです。