快適なネット環境はMTUから!基本と確認方法を紹介

はい、承知いたしました。「快適なネット環境はMTUから!基本と確認方法を紹介」というタイトルの詳細な記事を作成します。約5000語のボリュームを目指し、MTUの基本概念から、ネットワークへの影響、確認方法、設定変更、トラブルシューティングまでを網羅的に解説します。


快適なネット環境はMTUから!基本と確認方法を徹底解説

インターネットは現代社会において、もはや電気や水道と同じくらい生活に不可欠なインフラとなりました。Webサイトの閲覧、動画視聴、オンラインゲーム、リモートワーク、友人とのコミュニケーション。これら全てが、安定した快適なネットワーク環境の上に成り立っています。しかし、「なんとなくインターネットが遅い」「特定のサイトだけ表示が崩れる」「オンラインゲームでラグが多い」といった問題を経験したことはないでしょうか?

これらの不調の原因は多岐にわたりますが、その一つに「MTU(Maximum Transmission Unit)」と呼ばれる設定値が適切でないことが挙げられます。MTUは、インターネット通信において、一度に送受信できるデータパケットの最大サイズを定めたものです。この値がネットワーク環境に対して最適化されていないと、通信効率が悪化したり、パケットロスが発生したりして、結果としてインターネットの速度や安定性が損なわれる可能性があります。

この記事では、MTUとは何かという基本的な概念から、なぜMTUが重要なのか、現在のMTU値を確認する方法、そして最適なMTU値を見つけ、必要に応じて変更する方法までを、初心者の方にも分かりやすく、かつ詳細に解説します。MTUを正しく理解し、設定を最適化することで、あなたのインターネット環境はさらに快適になるかもしれません。ぜひ最後までお読みいただき、ご自身のネットワーク環境を見直すきっかけとしてください。

はじめに:なぜMTUが快適なネット環境に繋がるのか?

インターネット上のデータ通信は、小さな「パケット」と呼ばれる単位に分割されて行われます。例えば、大きな画像をダウンロードしたり、ウェブページを表示したりする場合、そのデータはそのまま一塊で送られるのではなく、決められたサイズのパケットに細切れにされて、インターネットを経由して相手に届けられ、そこで再び元のデータに組み立てられます。

MTUは、この「一度に送れるパケットの最大サイズ」を規定する値です。例えるなら、郵便で荷物を送る際に、「ゆうパックなら最大30kgまで、レターパックなら最大4kgまで」といったように、輸送手段によって一度に運べる最大サイズが決まっているようなものです。ネットワークの世界では、この最大サイズがMTUにあたります。

MTUが適切であれば、一度の通信で効率よくデータを運ぶことができます。しかし、MTUが大きすぎたり小さすぎたりすると、データの送受信プロセスに無駄が生じたり、トラブルが発生しやすくなったりします。

例えば、送信側が大きなMTUでパケットを送ろうとしても、経路上のどこかにそのサイズを受け付けられない機器があった場合、パケットは分割されるか、最悪の場合は破棄されてしまいます。パケットが分割されることを「フラグメンテーション」と呼びますが、これはネットワーク機器に余分な処理負荷をかけ、通信遅延の原因となります。また、パケットが破棄されてしまうと、再送処理が必要になり、これもまた通信速度の低下や不安定化を招きます。

逆に、MTUが小さすぎると、データを送信するために必要なパケットの数が過剰に増えてしまいます。パケットには、中身のデータ本体だけでなく、送り先や順番などの情報を記録した「ヘッダー」と呼ばれる付加情報が含まれています。MTUが小さいと、同じ量のデータを送るのにたくさんのパケットが必要になり、その分ヘッダー情報の量も増え、データ本体に対してヘッダーの占める割合(オーバーヘッド)が増加します。これは、小さな封筒にちょっぴりの手紙を入れて何通も送るようなもので、効率が悪く、通信速度を低下させる要因となります。

このように、MTUはデータの効率的な送受信に直接関わっており、その値が環境に最適化されているかどうかが、インターネットの快適さに大きく影響するのです。

MTUの基本概念:パケット、フレーム、MSSとの関係

MTUをより深く理解するために、ネットワーク通信におけるデータ単位と、関連する他の概念についても触れておきましょう。

パケット、セグメント、フレーム

インターネット通信では、OSI参照モデルやTCP/IPモデルといった階層モデルに基づいてデータが処理されます。MTUは主にネットワーク層(IP層)とデータリンク層(Ethernetなど)に関わる概念です。

  • セグメント (Segment): トランスポート層(TCPやUDP)で扱われるデータの単位です。例えばTCPでは、上位層(アプリケーション層)から渡されたデータを適切なサイズに分割し、TCPヘッダーを付加してセグメントを作成します。このとき、TCPは「Maximum Segment Size(MSS)」という概念を持っており、IP層に渡すデータの最大サイズを決定します。
  • パケット (Packet): ネットワーク層(IP層)で扱われるデータの単位です。トランスポート層から渡されたセグメントに、IPヘッダー(送信元・送信先IPアドレスなど)を付加したものです。MTUは、このIPパケット全体(IPヘッダー + データ部分)の最大サイズを指します。
  • フレーム (Frame): データリンク層で扱われるデータの単位です。ネットワーク層から渡されたIPパケット全体に、データリンク層のヘッダー(送信元・送信先MACアドレスなど)やフッター(エラー検出符号など)を付加したものです。MTUという言葉はIPパケットの最大サイズを指すことが多いですが、データリンク層で実際に物理媒体に乗せて運ばれる最大の単位であるフレームサイズと密接に関連しています。特にEthernetの場合、MTUはフレームサイズからEthernetヘッダーやフッターのサイズを引いた値となります。

つまり、アプリケーションで発生したデータは、TCP/UDP層でセグメントに分割され、IP層でパケットにカプセル化され、さらにデータリンク層でフレームにカプセル化されて、物理的なネットワークを伝送されます。MTUはIPパケットの最大サイズを、MSSはTCPセグメントの最大サイズを規定していると言えます。

MTUの役割:データの分割とフラグメンテーション

MTUの最も重要な役割は、ネットワーク経路上の各区間(リンク)を通過できるパケットサイズの最大値を定めることです。異なる種類のネットワーク技術(例:Ethernet、Wi-Fi、PPPoEなど)は、それぞれ異なるMTUを持つ場合があります。

データが送信される際、IP層は上位層(トランスポート層)から渡されたデータがMTUを超えるかどうかを確認します。もしMTUを超える場合は、データをMTU以下の複数のパケットに分割します。このプロセスを「フラグメンテーション(断片化)」と呼びます。

フラグメンテーションされたパケットは、それぞれ独立して宛先に送られます。宛先 host では、分割されたすべての断片パケットが揃ってから、元のデータに再構成されます。

フラグメンテーションの問題点:

  1. 処理負荷の増加: 送信元では分割処理、経路上のルーターではフラグメンテーションされたパケットのルーティング処理、そして宛先では再構成処理が必要になります。これらの処理は通常のパケット転送に比べてCPUリソースを多く消費し、通信の遅延を引き起こす可能性があります。
  2. パケットロスの影響拡大: フラグメンテーションされたパケットは、たとえ一つでも欠落すると、宛先で元のデータに再構成できなくなります。TCPなどの信頼性のあるプロトコルでは、データ全体を再送する必要があります。これにより、わずかなパケットロスが通信全体の大きな遅延や途絶に繋がる可能性があります。
  3. ファイアウォールやNATとの相性: フラグメンテーションされたパケットの断片は、IPヘッダーに加えて、元のパケットのどこからどこまでのデータかを示す情報(フラグメントオフセットなど)を持ちます。これらの断片パケットは、通常のパケットとは異なる特性を持つため、ファイアウォールが正しく検査できなかったり、NAT(Network Address Translation)を通過できなかったりする場合があります。

このような問題があるため、近年のネットワークではフラグメンテーションを避けることが推奨されています。IPヘッダーには「Don’t Fragment (DF)」というフラグがあり、このフラグがセットされたパケットは、もしMTUを超える場合にフラグメンテーションされる代わりに破棄されます。多くのOSやアプリケーションは、デフォルトでDFフラグをセットしてパケットを送信します。

MSS(Maximum Segment Size)とMSSクランプ

前述の通り、MTUはIPパケットの最大サイズですが、TCPプロトコルにはMSS(Maximum Segment Size)という概念があります。これは、TCPセグメントのデータ部分(TCPヘッダーを除く)の最大サイズを指します。

TCP通信を開始する際(TCP Three-way Handshake)、通信相手とMSS値を交換します。これにより、相手が一度に受け取れるTCPセグメントの最大サイズを把握し、そのサイズ以下のセグメントでデータを送信するようにします。

MSSはMTUと密接に関連しています。TCPセグメントはIPパケットのデータ部分に格納されるため、MSSはIPパケットの最大データサイズからIPヘッダーとTCPヘッダーのサイズを引いた値になります。

MSS = MTU - IPヘッダーサイズ - TCPヘッダーサイズ

一般的なIPv4の場合、IPヘッダーは通常20バイト、TCPヘッダーも通常20バイトです。したがって、MTUが1500バイトであれば、MSSは 1500 - 20 - 20 = 1460 バイトとなります。

フラグメンテーションを避けるためには、送信元のホストは、通信経路上の最小MTU(Path MTU)を把握し、それに合わせてMSS値を調整する必要があります。この仕組みが「経路MTU探索(Path MTU Discovery: PMTUD)」です。

経路MTU探索(PMTUD: Path MTU Discovery)

PMTUDは、送信元ホストが、通信経路上のすべてのルーターやリンクを通過できる最大のMTU(これを経路MTU、Path MTUと呼びます)を動的に見つけ出す仕組みです。

PMTUDは以下のように機能します。

  1. 送信元ホストは、通常、ローカルネットワークのMTU(例:Ethernetなら1500バイト)で、DFフラグをセットしたパケットを送信します。
  2. 経路上のいずれかのルーターで、そのパケットサイズがルーターから次のリンクへのMTUを超える場合、ルーターはそのパケットを破棄し、送信元ホストに対してICMPv4 “Fragmentation Needed” メッセージ(Type 3, Code 4)またはICMPv6 “Packet Too Big” メッセージを返信します。このICMPメッセージには、ルーターから次のリンクへのMTU値が含まれています。
  3. ICMPメッセージを受信した送信元ホストは、そのMTU値を学習し、以降のパケットサイズをそのMTU値以下に調整して再送します。
  4. このプロセスを繰り返すことで、送信元ホストは最終的に経路上の最小MTU(Path MTU)を特定し、それに基づいてMSS値を調整します。

PMTUDが正常に機能すれば、ホストは自動的に最適なMTU/MSSを見つけることができるため、フラグメンテーションを避けて効率的な通信を行うことが可能です。

しかし、PMTUDが失敗する場合があります。最も一般的な原因は、経路上のファイアウォールやルーターがICMPメッセージ(特に Fragmentation Needed / Packet Too Big)をブロックしてしまうことです。ICMPメッセージが送信元ホストに届かないと、ホストはパケットが破棄された理由を知ることができず、より小さなMTUで再送することができません。結果として、ホストはいつまでも大きなサイズのパケットを送り続け、それが破棄され続ける、という状況に陥ります。これを「PMTUD Black Hole」問題と呼びます。

PMTUD Black Holeが発生すると、通信は確立できるものの、一定サイズ以上のデータを含むパケット(例えば、大きな画像を読み込む場合や、SSL/TLS通信で証明書を交換する場合など)がすべて破棄されてしまうため、Webサイトが最後まで表示されなかったり、SSL/TLS接続が確立できなかったり、特定のサービスが利用できなかったり、といった現象が発生します。

PPPoE接続とMTU/MSSクランプ

日本で広く利用されているインターネット接続方式の一つにPPPoE(Point-to-Point Protocol over Ethernet)があります。ADSLや一部の光回線で使われています。

PPPoEは、Ethernetネットワーク上でPPP(Point-to-Point Protocol)というプロトコルを使用するための技術です。PPPはユーザー認証やIPアドレスの割り当てなどを行います。PPPoEでは、IPパケットをPPPヘッダーとPPPoEヘッダーでカプセル化してEthernetフレームに乗せます。

このPPPoEヘッダーなどの付加情報が、通常のEthernetフレームよりも数バイト多くなります。標準のEthernetのMTUは1500バイトですが、PPPoEのヘッダー(PPPヘッダー8バイト + PPPoEヘッダー6バイト)が加わるため、IPパケットとして送れる最大サイズがその分小さくなります。

PPPoEのMTU = EthernetのMTU - PPPoE/PPPヘッダーサイズ
PPPoEのMTU = 1500 - (6 + 2) = 1492 バイト
(PPPヘッダー8バイトの内訳は、PPPヘッダー6バイト + PPP Protocol Identifier 2バイト)
多くの実装では、PPP Protocol Identifierの2バイトを含めて8バイトとして計算されるため、PPPoEのMTUは一般的に 1492バイト となります。

したがって、PPPoE接続環境では、PCやルーターのMTU設定を1492バイトにするのが最適となります。もしPCのMTUが1500バイトのままだと、PPPoEアダプターやルーターで1492バイトにフラグメンテーションされるか、DFフラグが付いている場合は破棄されてしまう可能性があります。

この問題を回避するため、多くの家庭用ルーターには「MSSクランプ(MSS Clamping)」という機能が搭載されています。ルーターは、WAN側(インターネット側)に出ていくTCPパケットのSYNパケット(TCP通信開始時に送られるパケット)を監視し、そのMSS値がルーターのWAN側MTU(PPPoEの場合は1492)に基づいたMSS値(1492 – 20 – 20 = 1452)よりも大きい場合に、MSS値を1452に書き換えて送信します。

MSSクランプ機能により、PC側でMTUが1500バイトになっていても、ルーターが通信開始時にMSS値を適切に調整してくれるため、フラグメンテーションやPMTUD Black Hole問題を回避できるようになっています。特にPPPoE接続環境では、ルーターのMSSクランプ機能が非常に重要です。

MTUがネット環境に与える影響を具体的に掘り下げる

MTUの基本と関連技術を理解したところで、具体的なインターネット利用シーンでMTUがどのように影響するのかを見ていきましょう。

通信速度(スループット)への影響

MTUが小さすぎると、同じ量のデータを送るのに多くのパケットが必要になり、パケットごとのヘッダー情報という「おまけ」が増えてしまいます。これにより、データ本体を運ぶ効率が悪化し、実効速度(スループット)が低下する可能性があります。例えるなら、少量ずつしか運べない小さなトラックを何台も使うよりも、一度にたくさん運べる大きなトラックを使った方が効率が良い、というイメージです。

一方、MTUが大きすぎると、経路上のどこかでフラグメンテーションが発生したり、DFフラグが原因でパケットが破棄されたりするリスクが高まります。フラグメンテーションは処理負荷を増やし遅延の原因に、パケット破棄は再送処理を発生させ速度低下に繋がります。特に無線LAN環境など、元々パケットロスが発生しやすい環境では、大きなパケットは損失リスクが高まり、MTUを少し小さくすることで安定性が向上し、結果的に再送が減って実効速度が上がるケースもあります。

安定性(パケットロス、遅延)への影響

前述のPMTUD Black Hole問題は、まさにMTU設定の不適切さが安定性に悪影響を与える典型例です。ICMPがブロックされるなどの理由でPMTUDが機能しないと、大きなパケットが透過できず破棄され続けるため、通信が完全に停止したり、特定の操作だけができなかったり(例:Webサイトの表示はできるが、ログインボタンを押すと進まないなど、大きなデータを送る必要がある場面で問題が発生)といった不安定な状況に陥ります。

フラグメンテーションも安定性を損なう要因です。分割されたパケットは、一つでも失われると全体が再構成できません。不安定な回線状況下でフラグメンテーションが頻繁に発生すると、パケットロス率が実質的に上昇し、通信が途切れやすくなります。

Webサイトの表示速度

Webサイトの表示は、多数の小さなファイル(HTML、CSS、JavaScript、画像など)をダウンロードすることで構成されます。これらのファイルはTCP通信で転送されます。TCPのMSS値は、Webサイトの表示速度に大きく影響します。

TCP通信は、最初は小さなサイズのデータから送信を開始し、徐々に送信サイズを大きくしていく「輻輳制御」を行います。しかし、MSSが適切でないと、効率的なデータ転送ができません。特に、TCPのハンドシェイクや初期のデータ転送では、比較的大きなMSSでデータを送信しようとします。この時にPMTUDが機能しない(ICMPがブロックされるなど)と、大きなパケットが破棄され、再送が発生し、結果としてWebサイトの表示開始が遅れたり、表示が完了しなかったりします。

オンラインゲームや動画視聴への影響

オンラインゲームや動画ストリーミングは、リアルタイム性が求められるアプリケーションです。これらの通信はUDPプロトコルを利用することが多いですが、TCPを利用する場合もあります。

UDPは信頼性よりもリアルタイム性を重視するため、パケットが失われても基本的に再送はしません。MTUが不適切でフラグメンテーションが発生したり、DFフラグ付きのパケットが破棄されたりすると、データが失われ、ゲームであればラグ(遅延)やキャラクタのワープ、動画であればコマ落ちや再生停止といった問題が発生します。

特にUDP通信では、PMTUDのような自動調整機能がないため、MTUの設定が非常に重要になる場合があります。ただし、多くのゲームやストリーミングサービスは、このような問題を避けるため、比較的小さなサイズのパケットで通信するよう設計されています。

VPN接続とMTU

VPN(Virtual Private Network)は、インターネット上に仮想的なプライベートネットワークを構築する技術です。VPN通信では、元のIPパケット全体をさらにVPNプロトコル(例:OpenVPN, IPsec)のヘッダーでカプセル化します。

このカプセル化によって、元のパケットサイズにVPNヘッダーのサイズが追加されます。例えば、元のMTUが1500バイトで、VPNヘッダーが数十バイト付加される場合、カプセル化後のパケットサイズは1500バイトを超えてしまう可能性があります。

このカプセル化されたパケットが、その下のネットワークのMTU(例:家庭のインターネット回線のMTU)よりも大きくなってしまうと、フラグメンテーションが発生したり、PMTUD Black Holeに遭遇したりするリスクが高まります。VPN接続が不安定だったり、速度が出なかったりする場合、VPNのMTU/MSS設定を調整することで改善することがよくあります。

多くのVPNクライアントソフトウェアやVPNルーターには、MTU/MSS調整機能が備わっています。利用している回線のMTUとVPNプロトコルのヘッダーサイズを考慮して、適切なMTU/MSS値を設定することが推奨されます。

理想的なMTU値とは

MTUの理想的な値は、通信経路上の「最小のMTU」です。この最小のMTUのことを「経路MTU(Path MTU)」と呼びます。経路MTUより大きなパケットを送信すると、フラグメンテーションやパケット破棄のリスクが生じるため、経路MTU以下のサイズでパケットを送信するのが最も効率的かつ安定的です。

一般的なMTU値

  • Ethernet: 標準的なEthernet V2フレームのMTUは 1500バイト です。多くのLAN環境や、IPoE(IPv4 over IPv6を含む)接続のインターネット回線では、この1500バイトが経路MTUとなることが多いです。
  • PPPoE: 前述の通り、PPPoE接続ではPPP/PPPoEヘッダーが付加されるため、MTUは 1492バイト となります。
  • その他の技術:
    • ADSLなどの古い技術では、MTUが1454バイトなど、さらに小さい場合があります。
    • 一部のモバイル通信では、MTUが1400バイトや1360バイトなど、さらに小さい場合があります。
    • ジャンボフレーム:特定のLAN環境(特にデータセンターなど)では、MTUを9000バイトなどに拡張したジャンボフレームが使用されることがありますが、これは特殊なケースであり、インターネット上では使用できません。

家庭で一般的なインターネット回線を利用している場合、接続方式によってMTUは1500または1492バイトのどちらかであるケースがほとんどです。

経路MTU探索(PMTUD)の重要性

理論的には、PCやルーターはPMTUDによって経路MTUを自動的に特定し、それに基づいてMSS値を調整してくれるはずです。特にIPv6においては、フラグメンテーションは送信元ホストのみが行うことになっており、経路上のルーターはフラグメンテーションを行いません(DFフラグが常にオンのような状態)。そのため、IPv6ではPMTUDが正常に機能することがIPv4以上に重要です。

しかし、前述のPMTUD Black Hole問題のように、PMTUDが機能しない環境も存在します。このような場合、手動でMTU値を調整することが問題解決に繋がる可能性があります。

ルーターのMSSクランプ機能

PPPoE環境でPCのMTUが1500バイトのままでも問題なく通信できることが多いのは、ルーターのMSSクランプ機能のおかげです。ルーターが適切なMSS値(PPPoEの場合は1452バイト)に調整してくれるため、PCは1500バイトのIPパケット(1460バイトのTCPセグメント)を生成しても、フラグメンテーションや破棄を避けられるのです。

IPoE接続(フレッツ光クロスや一部の光コラボなど)では、通常MTUは1500バイトです。この場合、特に手動でMTUを変更する必要はありません。PPPoE接続の場合でも、最新のルーターであれば多くの場合デフォルトでMSSクランプが有効になっているため、基本的にはPC側のMTU設定はデフォルト(通常1500)のままで問題ないことが多いです。

しかし、古いルーターを使用している場合や、特定のネットワーク環境(複雑なVPN接続など)では、MTU/MSS値が問題を引き起こすことがあります。このような場合に、現在のMTU値を確認し、必要であれば適切な値に調整することが有効な対策となります。

現在のMTU値を確認する方法

ご自身のPCやネットワーク機器の現在のMTU値を確認する方法は、OSや機器によって異なります。ここでは、Windows、macOS、Linux、そしてルーターでの確認方法を解説します。

1. WindowsでのMTU値確認

Windowsでは、コマンドプロンプトを使ってMTU値を確認するのが一般的です。

方法1:netshコマンドを使う

ネットワークインターフェースごとのMTU値を一覧で確認できます。

  1. コマンドプロンプトを起動する: スタートメニューから「cmd」と検索して実行します。管理者として実行する必要はありません。
  2. 以下のコマンドを入力し、Enterキーを押す:
    bash
    netsh interface ipv4 show subinterfaces

    またはIPv6の場合:
    bash
    netsh interface ipv6 show subinterfaces
  3. 結果を確認する: ネットワークインターフェースの一覧が表示され、それぞれの「MTU」列に現在の設定値が表示されます。
    MTU MediaSenseState Bytes in Bytes out Interface
    ------ --------------- --------- --------- ---------
    1500 1 123456789 987654321 Wi-Fi
    1500 5 0 0 Bluetooth Network Connection
    1492 1 1234567 7654321 イーサネット

    上記例では、「Wi-Fi」インターフェースのMTUが1500、「イーサネット」インターフェース(有線LAN)のMTUが1492であることがわかります。ご自身の利用しているインターフェースのMTU値を確認してください。

方法2:pingコマンドを使って経路MTUを推測する

pingコマンドを使って、特定の宛先IPアドレスやホスト名に対して、指定したサイズのパケットがフラグメントされずに到達できるかを確認することで、経路上のMTUを推測できます。

  1. コマンドプロンプトを起動する: スタートメニューから「cmd」と検索して実行します。
  2. pingコマンドを実行する: 以下の形式でコマンドを入力し、Enterキーを押します。
    bash
    ping -f -l [パケットサイズ] [宛先IPアドレスまたはホスト名]

    • -f:パケットをフラグメントしない (Don’t Fragment) オプションです。このオプションを付けることで、MTUを超えるサイズのパケットはフラグメントされずに破棄されます。
    • -l [パケットサイズ]:送信するICMPエコーリクエストのデータ部分のサイズをバイト単位で指定します。

    宛先としては、GoogleのDNSサーバー(8.8.8.8)や、ご契約プロバイダのDNSサーバーなど、安定して応答があることがわかっているIPアドレスが適しています。

    例: データ部分のサイズを1472バイト(MTU 1500に対応)でピングを打つ場合
    bash
    ping -f -l 1472 8.8.8.8

  3. 結果から経路MTUを推測する:

    • Reply from 8.8.8.8: ... のような応答があれば、指定したサイズのパケットはフラグメントされずに宛先に到達できたことを意味します。
    • Packet needs to be fragmented but DF set. のようなメッセージが表示された場合、指定したサイズのパケットは経路上のMTUを超えているため、フラグメントが必要だがDFフラグがセットされているために破棄されたことを意味します。

    この結果を利用して、最適なパケットサイズを探します。最初は大きめのサイズ(例: 1472)から始めて、フラグメントが必要だと出たらサイズを小さくして試行錯誤します。

    パケットサイズとMTU値の換算:
    pingコマンドの -l オプションで指定するサイズは、ICMPエコーリクエストのデータ部分のサイズです。実際のIPパケットサイズは、このデータ部分にIPヘッダー(20バイト)とICMPヘッダー(8バイト)を加えたサイズになります(合計28バイト)。
    したがって、pingがフラグメントされずに成功した最大のデータサイズに28バイトを加えた値が、経路上のMTU値である可能性が高いです。

    • 例: ping -f -l 1472 8.8.8.8 が成功した場合、経路MTUは 1472 + 28 = 1500 バイト。
    • 例: ping -f -l 1472 8.8.8.8 が失敗し、ping -f -l 1464 8.8.8.8 が成功した場合、経路MTUは 1464 + 28 = 1492 バイト。

    この方法で、応答が返ってくる最大のデータサイズを見つけることで、経路MTUを特定できます。

方法3:GUIで確認(参考)

ネットワークアダプターの詳細設定からMTU値を確認できる場合もありますが、通常は上記コマンドの方が確実です。

  1. コントロールパネル > ネットワークとインターネット > ネットワークと共有センター を開きます。
  2. 左側の「アダプターの設定の変更」をクリックします。
  3. 利用しているネットワークアダプター(Wi-Fiやイーサネット)を右クリックし、「プロパティ」を選択します。
  4. 「構成…」ボタンをクリックします。
  5. 「詳細設定」タブをクリックします。
  6. プロパティの一覧の中に「Jumbo Packet」や「Large Send Offload」などの項目がある場合がありますが、直接MTUという名前の項目は少ないです。MTUを直接確認・設定できるのは、通常はコマンドラインかレジストリです。

2. macOSでのMTU値確認

macOSでも、ターミナルを使ってMTU値を確認するのが一般的です。

方法1:ifconfigコマンドを使う

ネットワークインターフェースごとのMTU値を一覧で確認できます。

  1. ターミナルを起動する: アプリケーション > ユーティリティ > ターミナル を開きます。
  2. 以下のコマンドを入力し、Enterキーを押す:
    bash
    ifconfig
  3. 結果を確認する: ネットワークインターフェースの一覧が表示されます。利用しているインターフェース(例: en0 が有線LAN、en1en2 などがWi-Fi)を探し、その行にある mtu の値を確認します。
    en0: flags=8863<UP,BROADCAST,SMART,RUNNING,SIMPLEX,MULTICAST> mtu 1500
    options=400<CHANNEL_CAP,ICMP_STAMP>
    ether xx:xx:xx:xx:xx:xx
    inet 192.168.1.100 netmask 0xffffff00 broadcast 192.168.1.255
    ...

    この例では、インターフェース en0 のMTUは1500バイトであることがわかります。

方法2:networksetupコマンドを使う

特定のネットワークサービス(Wi-Fi、Ethernetなど)のMTU値を指定して確認できます。

  1. ターミナルを起動する: アプリケーション > ユーティリティ > ターミナル を開きます。
  2. サービス名を確認する: まず、設定可能なネットワークサービスの名前を確認します。
    bash
    networksetup -listallnetworkservices

    出力例:
    An asterisk (*) denotes that a network service is disabled.
    Wi-Fi
    Ethernet
    Bluetooth PAN
    Thunderbolt Bridge
  3. MTU値を確認する: 確認したいサービス名を指定して以下のコマンドを実行します。
    bash
    networksetup -getMTU <ネットワークサービス名>

    例: Wi-FiのMTUを確認する場合
    bash
    networksetup -getMTU Wi-Fi

    出力例:
    Configured MTU for Wi-Fi: 1500
    (You can press Control-C to stop this process)

方法3:pingコマンドを使って経路MTUを推測する

Windowsと同様に、pingコマンドを使って経路MTUを推測できます。

  1. ターミナルを起動する: アプリケーション > ユーティリティ > ターミナル を開きます。
  2. pingコマンドを実行する: macOSのpingコマンドでは、Windowsの -f オプションの代わりに -D オプションを使用します。パケットサイズは -s オプションで指定します。
    bash
    ping -D -s [パケットサイズ] [宛先IPアドレスまたはホスト名]

    • -D:パケットをフラグメントしない (Don’t Fragment) オプションです。
    • -s [パケットサイズ]:送信するICMPエコーリクエストのデータ部分のサイズをバイト単位で指定します。

    例: データ部分のサイズを1472バイトでピングを打つ場合
    bash
    ping -D -s 1472 8.8.8.8

  3. 結果から経路MTUを推測する:

    • 1472 bytes from 8.8.8.8: ... のような応答があれば成功です。
    • ping: sendto: Message too long のようなエラーが表示された場合、指定したサイズは大きすぎることを意味します。

    Windowsと同様に、この結果を利用して最適なパケットサイズを探し、それに28バイト(IPv4の場合)を加えることで経路MTUを推測します。

3. LinuxでのMTU値確認

Linuxでも、ターミナルを使ってMTU値を確認します。

方法1:ipコマンドを使う

ネットワークインターフェースごとのMTU値を一覧で確認できます。

  1. ターミナルを起動する: アプリケーションメニューからターミナルを開きます。
  2. 以下のコマンドを入力し、Enterキーを押す:
    bash
    ip addr show
  3. 結果を確認する: ネットワークインターフェース(例: eth0 が有線LAN、wlan0 がWi-Fiなど)の情報が表示され、mtu の値が示されます。
    2: eth0: <BROADCAST,MULTICAST,UP,LOWER_UP> mtu 1500 qdisc pfifo_fast state UP group default qlen 1000
    link/ether xx:xx:xx:xx:xx:xx brd ff:ff:ff:ff:ff:ff
    inet 192.168.1.101/24 brd 192.168.1.255 scope global dynamic eth0
    ...

    この例では、インターフェース eth0 のMTUは1500バイトであることがわかります。

方法2:ifconfigコマンドを使う(古いシステム向け)

一部の古いLinuxシステムでは ifconfig コマンドが使われます。

  1. ターミナルを起動する: アプリケーションメニューからターミナルを開きます。
  2. 以下のコマンドを入力し、Enterキーを押す:
    bash
    ifconfig
  3. 結果を確認する: 各インターフェースの情報が表示され、MTU: の値が示されます。
    eth0: flags=4163<UP,BROADCAST,RUNNING,MULTICAST> mtu 1500
    inet 192.168.1.101 netmask 255.255.255.0 broadcast 192.168.1.255
    ...

方法3:pingコマンドを使って経路MTUを推測する

Linuxのpingコマンドも、WindowsやmacOSと同様に経路MTUの推測に使えます。

  1. ターミナルを起動する: アプリケーションメニューからターミナルを開きます。
  2. pingコマンドを実行する: Linuxのpingコマンドでは、Windowsの -f オプションやmacOSの -D オプションに相当するものとして -M do オプション(DFフラグセット)を使用します。パケットサイズは -s オプションで指定します。
    bash
    ping -M do -s [パケットサイズ] [宛先IPアドレスまたはホスト名]

    • -M do:パケットをフラグメントしない (Don’t Fragment) オプションです。
    • -s [パケットサイズ]:送信するICMPエコーリクエストのデータ部分のサイズをバイト単位で指定します。

    例: データ部分のサイズを1472バイトでピングを打つ場合
    bash
    ping -M do -s 1472 8.8.8.8

  3. 結果から経路MTUを推測する:

    • 1480 bytes from 8.8.8.8: icmp_seq=1 ttl=119 time=12.3 ms のような応答があれば成功です。(Linuxのpingは指定サイズにICMPヘッダー8バイトを含めたサイズを表示する場合があるため、注意が必要です。-s で指定した値がデータサイズです。)
    • ping: local error: Message too long, mtu=1492 のようなエラーが表示された場合、指定したサイズは大きすぎることを意味し、エラーメッセージ中に経路上のMTU値(この例では1492)が示される場合があります。

    WindowsやmacOSと同様に、エラーが出ない最大のデータサイズを見つけ、それに28バイト(IPv4の場合)を加えることで経路MTUを推測します。

4. ルーターでのMTU値確認

家庭用のWi-Fiルーターなどの場合、ルーター自体のWAN側(インターネット側)のMTU値が重要になります。これは、ルーターが家庭内ネットワークとインターネットを繋ぐ境界に位置するため、経路MTUに最も影響を与える機器の一つだからです。

確認方法はルーターのメーカーや機種によって大きく異なりますが、一般的な手順は以下の通りです。

  1. ルーターの管理画面にアクセスする: Webブラウザを開き、ルーターのIPアドレス(多くの場合 192.168.1.1 または 192.168.0.1)を入力してアクセスします。
  2. ログインする: ルーター設定時に設定したユーザー名とパスワードを入力してログインします。
  3. WAN設定またはインターネット設定の項目を探す: メニューの中から、「WAN設定」「インターネット設定」「接続設定」「基本設定」といった名前の項目を探します。
  4. MTUまたは関連する項目を探す: WAN設定の画面内で、「MTU」「最大転送単位」といった名前の項目を探します。PPPoE接続の場合は、「PPPoE設定」の項目内にMTU設定があることもあります。
  5. 現在の設定値を確認する: MTUの値が表示されているはずです。多くの場合、PPPoE接続であれば1492、IPoE接続であれば1500になっているはずです。

ルーターによっては、MTU値を手動で設定できる項目がある一方で、接続方式(PPPoEやDHCPなど)を選択するとMTU値が自動的に設定され、変更できないようになっているものもあります。また、MSSクランプ機能の設定項目がある場合もありますので、併せて確認しておくと良いでしょう。

最適なMTU値を特定する方法(pingコマンドを使った探索)

前述のpingコマンドによる確認方法は、経路MTUを特定するのに役立ちます。ここでは、pingを使って最適なMTU値を段階的に絞り込む具体的な手順を改めて解説します。

これは、あなたが使用しているネットワーク環境(特にルーターより先、インターネット側)の経路MTUを推測する方法です。これにより、ご自身のPCやルーターのMTU設定を、この経路MTUに合わせるか、またはそれ以下の値に調整する際の参考にできます。

手順:

  1. コマンドプロンプト(Windows)、ターミナル(macOS/Linux)を起動する。
  2. DFフラグをセットし、任意の宛先に対して大きめのデータサイズでpingを実行する。

    • 多くの環境で最大と思われるMTU 1500に対応するデータサイズ 1472 から試すのが良いでしょう(1500 – 20(IPヘッダー) – 8(ICMPヘッダー) = 1472)。
    • Windows: ping -f -l 1472 [宛先IP/ホスト名]
    • macOS: ping -D -s 1472 [宛先IP/ホスト名]
    • Linux: ping -M do -s 1472 [宛先IP/ホスト名]
    • 宛先は、Google DNS (8.8.8.8) や契約プロバイダのDNSサーバーなどが良いでしょう。
  3. 結果を判断する:

    • 成功した場合: 指定したサイズは大きすぎません。より大きなサイズで試す価値があります。ただし、通常のインターネット接続で1500バイトを超える経路MTUであることは稀です。1500バイトで成功すれば、経路MTUは1500の可能性が高いです。
    • 失敗した場合(フラグメントが必要な旨のエラー): 指定したサイズは大きすぎます。パケットがフラグメントされたか、DFフラグによって破棄されました。次に試すサイズを小さくする必要があります。エラーメッセージにMTU値が示されることもあります(特にLinux)。
  4. サイズを調整して繰り返し実行する: 失敗した場合は、前回より小さなサイズで試します。成功した場合は、さらに大きなサイズで試します(ただし、通常1500を超えることはありません)。

    • 例えば、1472で失敗した場合、PPPoE環境の可能性を考慮して 1464 (MTU 1492に対応)で試してみます(1492 – 20 – 8 = 1464)。
    • ping -f -l 1464 8.8.8.8
    • これが成功した場合、経路MTUは1492バイトである可能性が高いです。

    もし1464でも失敗する場合は、さらにサイズを小さくして、成功する最大のデータサイズを見つけるまで試行錯誤を繰り返します。例えば、14001300 など、大きく値を下げてから、成功したら少しずつ大きくしていく方法もあります。

  5. 最適なデータサイズから経路MTUを計算する: フラグメントされずに成功した 最大のデータサイズ に、IPヘッダー(20バイト)とICMPヘッダー(8バイト)の合計 28バイト を加えた値が、経路MTUの候補となります。

    経路MTU ≒ (pingが成功した最大のデータサイズ) + 28

    例:
    * 1472バイトで成功 → 1472 + 28 = 1500バイト
    * 1464バイトで成功 → 1464 + 28 = 1492バイト
    * 1400バイトで成功 → 1400 + 28 = 1428バイト

この方法で特定した値が、あなたの環境における経路MTUの目安となります。PCやルーターのMTU設定をこの値、またはそれ以下に設定することで、フラグメンテーションやパケット破棄のリスクを減らすことができます。

MTU値を変更する方法

MTU値を変更する必要があるのは、主に以下のようなケースです。

  • pingコマンドなどによる経路MTU探索で、現在のMTU設定値よりも小さい経路MTUが検出された場合。
  • PMTUD Black Hole問題など、MTUに関連すると思われる具体的な通信不具合が発生している場合。
  • PPPoE接続なのに、PCやルーターのMTUが1500のままで、MSSクランプが正しく機能していない可能性がある場合。
  • 特定のVPN接続でMTU/MSS調整が必要な場合。

注意点: MTU値の変更は、ネットワーク通信の根幹に関わる設定です。安易な変更は通信断に繋がる可能性があります。変更を行う際は、必ず現在の設定値を控えておき、問題が発生した場合はすぐに元の設定に戻せるようにしてください。ほとんどの環境では、デフォルト設定やルーターの自動調整機能で問題なく通信できるため、特別な理由がない限り手動での変更は推奨されません。

1. WindowsでのMTU値変更

WindowsでMTU値を変更するには、管理者権限を持つコマンドプロンプトまたはPowerShellを使用します。

  1. 管理者としてコマンドプロンプトまたはPowerShellを起動する: スタートメニューから「cmd」または「PowerShell」を検索し、右クリックして「管理者として実行」を選択します。
  2. ネットワークインターフェース名を確認する: 変更したいネットワークインターフェースの正確な名前を確認します。これは、前述の netsh interface ipv4 show subinterfaces コマンドで確認できます。例: Wi-Fiイーサネット など。
  3. MTU値を変更するコマンドを実行する: 以下のコマンドを実行します。
    bash
    netsh interface ipv4 set subinterface "[インターフェース名]" mtu=[新しいMTU値] store=persistent

    またはIPv6の場合:
    bash
    netsh interface ipv6 set subinterface "[インターフェース名]" mtu=[新しいMTU値] store=persistent

    • [インターフェース名]:MTUを変更したいネットワークアダプターの名前。例: "Wi-Fi""イーサネット"
    • [新しいMTU値]:設定したいMTU値。例: 1492
    • store=persistent:設定をシステムの再起動後も維持するためのオプションです。これを付けないと、再起動で元の値に戻る場合があります。

    例: イーサネットアダプターのMTUを1492に変更する場合
    bash
    netsh interface ipv4 set subinterface "イーサネット" mtu=1492 store=persistent

  4. 設定が反映されたか確認する: 念のため、再度 netsh interface ipv4 show subinterfaces コマンドを実行し、MTU値が変更されていることを確認してください。

  5. 通信テストを行う: 設定変更後、Webサイトが正常に閲覧できるか、pingが通るかなど、通信に問題がないか確認してください。

元の設定に戻す場合: 変更前のMTU値を控えておき、上記コマンドでその値を再設定します。

2. macOSでのMTU値変更

macOSでMTU値を変更するには、管理者権限を持つターミナルを使用します。

  1. ターミナルを起動する: アプリケーション > ユーティリティ > ターミナル を開きます。
  2. ネットワークサービス名を確認する: 変更したいネットワークサービス(Wi-FiやEthernetなど)の正確な名前を確認します。前述の networksetup -listallnetworkservices コマンドで確認できます。
  3. MTU値を変更するコマンドを実行する: 以下のコマンドを実行します。管理者権限が必要なため、コマンドの前に sudo を付け、実行時にパスワード入力を求められます。
    bash
    sudo networksetup -setMTU <ネットワークサービス名> <新しいMTU値>

    • <ネットワークサービス名>:MTUを変更したいネットワークサービスの名前。例: Wi-FiEthernet
    • <新しいMTU値>:設定したいMTU値。例: 1492

    例: Wi-FiのMTUを1492に変更する場合
    bash
    sudo networksetup -setMTU Wi-Fi 1492

  4. 設定が反映されたか確認する: 念のため、再度 networksetup -getMTU Wi-Fi のようなコマンドを実行し、MTU値が変更されていることを確認してください。

  5. 通信テストを行う: 設定変更後、通信に問題がないか確認してください。

元の設定に戻す場合: 変更前のMTU値を控えておき、上記コマンドでその値を再設定します。システム環境設定の「ネットワーク」からもMTU値を手動設定できる場合がありますが、コマンドの方が確実です。

3. LinuxでのMTU値変更

LinuxでMTU値を変更するには、管理者権限を持つターミナルを使用します。設定は一時的なものと永続的なものの2種類があります。

一時的な変更(再起動で元に戻る):

  1. ターミナルを起動する: アプリケーションメニューからターミナルを開きます。
  2. ネットワークインターフェース名を確認する: 変更したいインターフェースの名前(例: eth0, wlan0)を確認します。前述の ip addr show または ifconfig コマンドで確認できます。
  3. MTU値を変更するコマンドを実行する: 以下のコマンドを実行します。
    bash
    sudo ip link set dev [インターフェース名] mtu [新しいMTU値]

    • [インターフェース名]:MTUを変更したいインターフェースの名前。例: eth0wlan0
    • [新しいMTU値]:設定したいMTU値。例: 1492

    例: eth0 のMTUを1492に変更する場合
    bash
    sudo ip link set dev eth0 mtu 1492

    または ifconfig を使う場合(古いシステム向け):
    bash
    sudo ifconfig [インターフェース名] mtu [新しいMTU値]

    例: eth0 のMTUを1492に変更する場合
    bash
    sudo ifconfig eth0 mtu 1492

  4. 設定が反映されたか確認する: ip addr show または ifconfig コマンドでMTU値が変更されていることを確認してください。

  5. 通信テストを行う: 設定変更後、通信に問題がないか確認してください。

この方法は、一時的なテストには便利ですが、システムの再起動やネットワークサービスの再起動で元に戻ってしまうため、永続化設定が必要です。

永続的な変更:

永続的な変更方法は、使用しているLinuxディストリビューションやネットワーク管理方法(例: systemd-networkd, NetworkManager, /etc/network/interfaces など)によって大きく異なります。一般的な設定ファイルの例を示しますが、ご自身の環境に合わせて適切な方法を確認してください。

  • Debian/Ubuntu系(/etc/network/interfaces を使用する場合):
    該当するインターフェースの設定ブロックに mtu [新しいMTU値] の行を追加します。
    ini
    auto eth0
    iface eth0 inet dhcp
    mtu 1492 # この行を追加または編集

    変更後、ネットワークサービスを再起動するか、システムを再起動します。

  • RHEL/CentOS/Fedora系(/etc/sysconfig/network-scripts/ifcfg-[インターフェース名] を使用する場合):
    該当ファイルに MTU=[新しいMTU値] の行を追加または編集します。
    ini
    TYPE=Ethernet
    PROXY_METHOD=none
    BROWSER_ONLY=no
    BOOTPROTO=dhcp
    DEFROUTE=yes
    IPV4_FAILURE_FATAL=no
    IPV6INIT=yes
    IPV6_AUTOCONF=yes
    IPV6_DEFROUTE=yes
    IPV6_FAILURE_FATAL=no
    NAME=eth0
    UUID=...
    DEVICE=eth0
    ONBOOT=yes
    MTU=1492 # この行を追加または編集

    変更後、ネットワークサービスを再起動するか、システムを再起動します。

  • systemd-networkd を使用する場合:
    /etc/systemd/network/ ディレクトリに、該当インターフェースの設定ファイル(例: 20-wired.network)を作成または編集し、[Link] セクションに MTUBytes=[新しいMTU値] の行を追加します。
    “`ini
    [Match]
    Name=eth0

    [Link]
    MTUBytes=1492
    ``
    変更後、
    sudo systemctl restart systemd-networkd` コマンドでサービスを再起動します。

元の設定に戻す場合: 永続化設定ファイルから追加または編集したMTU関連の行を削除するか、変更前の値に戻し、ネットワークサービスを再起動またはシステムを再起動します。

4. ルーターでのMTU値変更

ルーターでのMTU値変更も、メーカーや機種によって手順が大きく異なります。前述の確認方法と同様に、ルーターの管理画面にアクセスし、WAN設定やインターネット設定の項目でMTUの設定箇所を探します。

多くのルーターでは、接続方式としてPPPoEを選択すると、MTU値が自動的に1492に設定されるか、または1492から変更できないようになっています。IPoE接続の場合は通常1500です。

もしMTU値を手動で入力できる項目がある場合は、そこで新しいMTU値を設定します。

変更時の注意点:

  • 設定変更後は、必ずルーターを再起動して設定を反映させてください。
  • 誤ったMTU値を設定すると、インターネットに全く接続できなくなる可能性があります。変更前の値を必ず控えておいてください。
  • 多くのルーターでは、PPPoEの場合はMTU 1492、IPoEの場合はMTU 1500が適切です。これらの値以外に変更する必要があるのは、特定のプロバイダや環境でのみ発生する特殊なケースや、特定のVPN接続で問題が発生している場合など、限定的です。
  • ルーターのMSSクランプ機能が有効になっているかどうかも確認してください。この機能が有効であれば、PC側のMTUが1500のままでもPPPoE環境での問題が発生しにくくなります。

MTUに関するトラブルシューティング

MTUが原因で発生する可能性のあるトラブルと、その切り分け・対策について解説します。

症状:特定のWebサイトやサービスが利用できない/表示が崩れる

  • 考えられる原因: PMTUD Black Hole問題の可能性が高いです。特定のWebサイトやサービスとの通信経路上のどこかでICMPパケット(Fragmentation Neededなど)がブロックされている可能性があります。
  • 切り分け:
    • 問題が発生するサイト/サービス以外は正常に利用できるか?
    • ping -f -l [サイズ] コマンドで、問題のサイト/サービスがあるサーバーに対して、経路MTUを探索してみる。小さなサイズ(例: 1300)で成功するか? 大きなサイズ(例: 1500や1492)で失敗するか?
    • 他のネットワーク環境(スマホのLTE回線など)からアクセスするとどうか?
    • ルーターのファイアウォール設定でICMPがブロックされていないか確認する。
  • 対策:
    • PCのMTU値を、経路MTU探索で特定した値(多くの場合1492や1500)か、それより少し小さい値(例: 1400や1300)に一時的に変更してみる。
    • ルーターのMTU設定を、接続方式に合わせた適切な値(PPPoEなら1492、IPoEなら1500)に設定し、MSSクランプ機能が有効になっているか確認する。
    • ルーターのファイアウォール設定で、WAN側からのICMPパケット(特にType 3 Code 4)を許可するように設定する。ただし、セキュリティリスクも考慮する必要があります。
    • 特定のVPN利用時に発生する場合は、VPNクライアント/サーバーのMTU/MSS設定を確認・調整する。

症状:インターネット接続が全体的に遅い/不安定

  • 考えられる原因:
    • MTUが小さすぎてオーバーヘッドが大きい。
    • MTUが大きすぎて頻繁にフラグメンテーションやパケットロスが発生している。
    • 回線自体の問題(帯域不足、信号品質の劣化など)。
  • 切り分け:
    • 現在のPCやルーターのMTU設定値を確認する。
    • pingコマンドで経路MTUを探索し、現在の設定値と比較する。経路MTUより大きな設定になっていないか?
    • MTU以外の要因(ルーターやONUの不調、LANケーブルの劣化、Wi-Fiの干渉、プロバイダ側の問題など)も考慮する。
  • 対策:
    • ルーターのMTU設定を、接続方式に合わせた適切な値(PPPoEなら1492、IPoEなら1500)に設定する。
    • PC側のMTUは、基本的にデフォルトのまま(通常1500)で、ルーターのMSSクランプに任せるのが推奨ですが、ping探索で経路MTUがそれより小さいことが判明した場合は、PC側もその値以下に調整してみる。
    • 特に無線LAN環境では、MTUを少し小さくすることで安定性が向上する場合があります(例: 1400など)。ただし、これは最後の手段であり、速度低下を招く可能性もあります。
    • 回線速度テストを実施し、契約通りの速度が出ているか確認する。
    • ルーターやONUの再起動を試す。
    • LANケーブルやWi-Fi環境を見直す。

症状:VPN接続ができない、または不安定

  • 考えられる原因: VPNプロトコルによるカプセル化でパケットサイズが大きくなり、経路MTUを超えてしまっている。
  • 切り分け:
    • VPN接続せずにインターネット接続できるか?
    • 他のネットワーク環境(スマホのテザリングなど)から同じVPNサーバーに接続できるか?
    • VPNクライアントやサーバーのログを確認する。
    • VPN接続中のインターフェースのMTU値を確認する。
  • 対策:
    • VPNクライアントソフトウェアやVPNルーターの設定で、MTUまたはMSS値を手動で調整する。
    • 最適なMSS値は、ご自身のインターネット回線の経路MTUから、IPヘッダー、TCPヘッダー、そして利用しているVPNプロトコルのヘッダーサイズを引いた値になります。VPNプロトコルによってヘッダーサイズが異なるため、利用しているVPNのドキュメントなどを参照してください。目安として、PPTPなら1450、L2TP/IPsecなら1400、OpenVPN/WireGuardなら1300~1400程度に設定するとうまくいく場合があります。
    • VPNサーバー側でMSSクランプが設定されていないか確認する(サーバー管理者向け)。

これらのトラブルシューティングを行う際は、一つずつ設定変更を行い、その都度通信状況を確認することが重要です。複数の設定を同時に変更すると、何が原因で問題が解決したのか、あるいは新たな問題が発生したのかが分からなくなってしまいます。

まとめ:MTUを理解して、より快適なネットライフを

この記事では、MTU(Maximum Transmission Unit)がインターネットの快適性にどのように影響するのか、その基本的な概念から、確認方法、設定変更、そしてトラブルシューティングまでを詳細に解説しました。

MTUは、ネットワーク上で一度に送受信できるパケットの最大サイズを定める重要な設定値です。この値がネットワーク環境の「経路MTU」に対して最適化されていないと、フラグメンテーションの発生、パケットロス、通信遅延、そして特定のWebサイトやサービスが利用できなくなるといった問題を引き起こす可能性があります。

特に、PPPoE接続ではMTUが1492バイトとなることが多く、標準的なEthernetの1500バイトとは異なります。多くの家庭用ルーターにはMSSクランプ機能が搭載されており、PC側のMTUが1500のままでも通信を円滑に行えるように補正してくれますが、この機能が正しく動作しない場合や、PMTUD Black Hole問題が発生する環境では、MTUの手動調整が有効な対策となることがあります。

快適なネット環境のためのMTUのポイント:

  • MTUは経路上の最小値(経路MTU)に合わせるのが理想的。
  • 一般的な家庭用インターネット回線では、PPPoEなら1492、IPoEなら1500が適切なMTU値であることが多い。
  • PC側のMTU設定は、基本的にはデフォルト(通常1500)のままで問題ないことが多い。 多くの場合はルーターのMSSクランプ機能が適切に処理してくれる。
  • ルーターのWAN側MTU設定と、MSSクランプ機能が最も重要。
  • pingコマンド(-f -l-D -s など、DFフラグオプション付き)を使って経路MTUを探索することができる。 これにより、ご自身の環境の適切なMTU値を推測できる。
  • MTU値の手動変更は慎重に。 安易な変更は通信断のリスクがあるため、問題が発生した場合に、経路MTU探索の結果や接続方式に基づいて行うのが望ましい。変更前には必ず元の設定値を控えておくこと。
  • 特定の通信不具合(特定のサイトが見られない、VPNが不安定など)は、MTUやPMTUDの問題である可能性がある。

MTUは普段意識することの少ない裏方の設定値ですが、インターネットの快適性を大きく左右する可能性があります。もし現在ご利用のネットワーク環境に不満がある場合は、一度ご自身のMTU設定を確認し、経路MTUを探索してみる価値は十分にあります。

この記事が、MTUを理解し、より快適なインターネット環境を構築するための一助となれば幸いです。


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