SQL Server 2022入門:知っておきたい基本と変更点

SQL Server 2022 入門:知っておきたい基本と変更点の詳細

はじめに

現代のビジネスにおいて、データの蓄積、管理、分析は必要不可欠です。これらのデータを取り扱う上で中心的な役割を果たすのが、データベース管理システム(DBMS)です。数あるDBMSの中でも、Microsoftが提供するSQL Serverは、長年にわたり企業の基幹システムからWebサービス、データ分析基盤に至るまで、幅広い用途で利用されてきました。その信頼性、豊富な機能、Microsoftエコシステムとの連携の強さが評価されています。

そして、2022年には、SQL Serverの最新バージョンである「SQL Server 2022」が登場しました。このバージョンは、「Azure Enabled SQL Server」というコンセプトを掲げ、オンプレミス環境とMicrosoft Azureクラウド環境との連携をこれまでになく強化しています。また、パフォーマンス、セキュリティ、可用性、開発者向け機能など、多岐にわたる機能強化が図られています。

本記事は、これからSQL Serverを学び始めたい初心者の方、あるいは既存のSQL Server環境をSQL Server 2022へアップグレード・移行を検討している方に向けて、SQL Serverの基本的な概念から、SQL Server 2022で追加・変更された主要な機能や知っておくべきポイントまでを網羅的に解説します。SQL Server 2022の導入を検討する上で、また、そのポテンシャルを最大限に引き出すための第一歩として、本記事がお役に立てれば幸いです。

SQL Serverの基本

SQL Server 2022の具体的な変更点に入る前に、まずはリレーショナルデータベースとSQL Serverの基本的な概念についておさらいしておきましょう。

リレーショナルデータベースとは

SQL Serverは、リレーショナルデータベース管理システム(RDBMS)です。リレーショナルデータベースとは、データを「テーブル」という形式で管理するデータベースモデルです。テーブルは、行(レコード)と列(フィールド)から構成され、異なるテーブル間は「リレーション(関連)」によって結びつけられます。このリレーションは、共通の列(主キーや外部キー)を使って表現され、データの整合性を保ちながら、複雑なデータを効率的に管理することができます。

SQL Serverの主要な構成要素

SQL Server環境は、いくつかの階層的な要素から構成されます。

  • サーバー (Server/Host): SQL Serverソフトウェアがインストールされている物理的または仮想的なコンピュータです。
  • インスタンス (Instance): サーバー上で稼働するSQL Serverのサービス群です。一つのサーバーに複数のSQL Serverインスタンスをインストールして実行することができます。インスタンスごとに独立したデータベースエンジンが動作します。既定のインスタンスと名前付きインスタンスがあります。
  • データベース (Database): データの集合を格納する論理的なコンテナです。ユーザーデータやシステムデータはデータベース単位で管理されます。一つのインスタンスは複数のデータベースを持つことができます。各データベースは、データファイル(.mdf, .ndf)とログファイル(.ldf)から構成されます。
  • テーブル (Table): リレーショナルデータベースにおける基本的なデータの格納単位です。行と列から構成されます。
  • 行 (Row / Record): テーブル内の単一のデータエントリです。例えば、顧客テーブルにおける一人の顧客の情報などがこれにあたります。
  • 列 (Column / Field): テーブル内の各行が持つ属性です。例えば、顧客テーブルにおける「顧客名」「住所」「電話番号」などがこれにあたります。列には特定のデータ型(整数、文字列、日付など)が定義されます。

SQL言語の役割

SQL (Structured Query Language) は、リレーショナルデータベースを操作するための標準的な言語です。データの作成、読み取り、更新、削除(CRUD操作)を行うための主要な手段です。SQLは、その用途によっていくつかの種類に分類されます。

  • DDL (Data Definition Language): データベースオブジェクト(テーブル、インデックス、ビュー、プロシージャなど)の構造を定義、変更、削除するための言語です。
    • 例: CREATE TABLE, ALTER TABLE, DROP TABLE, CREATE INDEX, DROP VIEW
  • DML (Data Manipulation Language): データベース内のデータを操作するための言語です。
    • 例: SELECT (データの取得), INSERT (データの挿入), UPDATE (データの更新), DELETE (データの削除)
  • DCL (Data Control Language): データベースオブジェクトやデータへのアクセス権限を管理するための言語です。
    • 例: GRANT (権限付与), REVOKE (権限剥奪), DENY (権限拒否)
  • TCL (Transaction Control Language): トランザクション(一連の操作の単位)を管理するための言語です。
    • 例: BEGIN TRANSACTION, COMMIT TRANSACTION (変更の確定), ROLLBACK TRANSACTION (変更の取り消し)

SQL Server Management Studio (SSMS) または Azure Data Studio (ADS)

SQL Serverを操作するための主要なGUIツールとして、SQL Server Management Studio (SSMS) と Azure Data Studio (ADS) があります。

  • SSMS: Windowsベースの非常に高機能な管理ツールです。データベースの設計、クエリの実行、パフォーマンス監視、セキュリティ設定、バックアップ/復元など、あらゆる管理作業を行うことができます。伝統的にSQL Serverの主要なツールとして利用されてきました。
  • ADS: Windows, macOS, Linuxで動作するクロスプラットフォーム対応のツールです。SSMSに比べて軽量で、特に開発者向けの機能(Notebooks, Git連携など)が強化されています。SQL Serverだけでなく、Azure SQL Database, Azure Synapse Analytics, PostgreSQL, MySQLなど、様々なデータベースに対応しています。

どちらのツールもMicrosoftのWebサイトから無償でダウンロード・インストールできます。初心者の方は、まずはSSMSをインストールして、データベースへの接続、クエリの実行などを試してみるのが良いでしょう。

基本的なSQLクエリの例

ここでは、DMLの中心である基本的なクエリをいくつか紹介します。

“`sql
— Customers というテーブルから全ての行と列を取得
SELECT *
FROM Customers;

— Customers テーブルから特定の列 (CustomerID, CustomerName) を取得
SELECT CustomerID, CustomerName
FROM Customers;

— Customers テーブルから住所 (City) が ‘London’ である顧客のみを取得
SELECT *
FROM Customers
WHERE City = ‘London’;

— Customers テーブルに新しい顧客情報を挿入
INSERT INTO Customers (CustomerName, City)
VALUES (‘New Customer’, ‘Tokyo’);

— CustomerID が 1 の顧客の名前を ‘Updated Customer’ に更新
UPDATE Customers
SET CustomerName = ‘Updated Customer’
WHERE CustomerID = 1;

— CustomerID が 2 の顧客情報を削除
DELETE FROM Customers
WHERE CustomerID = 2;
“`

これらの基本的なクエリは、SQL Serverを含むほとんどのリレーショナルデータベースで共通して使用できます。

データの型

SQL Serverでは、列に格納できるデータの種類に応じて様々なデータ型が提供されています。主要なデータ型には以下のようなものがあります。

  • 文字型:
    • CHAR, VARCHAR, NCHAR, NVARCHAR: 固定長または可変長の文字列。NプレフィックスはUnicodeを扱います。
    • TEXT, NTEXT: 非推奨の大きなテキストデータ型(代わりにVARCHAR(MAX), NVARCHAR(MAX)を使用推奨)。
  • 数値型:
    • INT, BIGINT, SMALLINT, TINYINT: 整数型。格納できる値の範囲が異なります。
    • DECIMAL, NUMERIC: 精度の高い固定小数点数型。通貨計算などに適しています。
    • FLOAT, REAL: 浮動小数点数型。概数となります。
    • MONEY, SMALLMONEY: 通貨型。
  • 日付/時刻型:
    • DATE: 日付のみ (YYYY-MM-DD)。
    • TIME: 時刻のみ (HH:MM:SS.nnnnnnn)。
    • DATETIME, SMALLDATETIME: 日付と時刻。
    • DATETIME2: DATETIMEより広い範囲と高い精度を持つ日付と時刻。
    • DATETIMEOFFSET: 日付、時刻、タイムゾーンオフセット。
  • バイナリ型:
    • BINARY, VARBINARY: バイナリデータ。
    • IMAGE: 非推奨の大きなバイナリデータ型(代わりにVARBINARY(MAX)を使用推奨)。
  • その他:
    • BIT: ブール値 (0または1)。
    • UNIQUEIDENTIFIER: GUID(グローバル一意識別子)。
    • XML: XMLデータ。
    • GEOMETRY, GEOGRAPHY: 空間データ型。

データの性質に合わせて適切なデータ型を選択することは、ストレージ効率、パフォーマンス、データ整合性の観点から非常に重要です。

インデックスの基本概念

インデックスは、テーブルからデータを検索する際のパフォーマンスを向上させるためのデータベースオブジェクトです。書籍の索引(インデックス)のようなもので、特定の列の値に基づいてデータの物理的な場所を素早く見つけ出すことができます。

  • クラスター化インデックス: テーブルの物理的な格納順序を決定します。テーブルごとに一つだけ定義できます。テーブル自体がソートされた状態になります。主キーはデフォルトでクラスター化インデックスが作成されることが多いです。
  • 非クラスター化インデックス: データの物理的な格納順序には影響せず、インデックス自体がソートされた構造を持ち、データ行へのポインタを持ちます。複数の非クラスター化インデックスを定義できます。

インデックスは検索パフォーマンスを向上させますが、データの挿入、更新、削除時にはインデックスも更新する必要があるため、これらの操作のオーバーヘッドが増加します。したがって、インデックスは検索頻度が高く、更新頻度が低い列に作成するのが一般的です。

トランザクションの基本概念

トランザクションとは、一つ以上のデータベース操作を論理的な一つの単位として扱う仕組みです。トランザクション内の全ての操作は成功するか、あるいは全て失敗するかのいずれかであり、部分的に成功するという状態は許されません。これにより、データの整合性と信頼性が保証されます。

トランザクションは、ACID特性と呼ばれる以下の4つの特性を満たすように設計されています。

  • Atomicity (原子性): トランザクション内の全ての操作は不可分な単位として扱われます。全てが実行されるか、何も実行されないかのどちらかです。
  • Consistency (一貫性): トランザクションの開始前と完了後で、データベースは一貫性のある状態を保ちます。例えば、外部キー制約などのルールが破られることはありません。
  • Isolation (独立性): 複数のトランザクションが同時に実行されても、互いに干渉せず、あたかも単独で実行されているかのように見えます。様々な分離レベル(Read Uncommitted, Read Committed, Repeatable Read, Serializable, Snapshot)が存在し、分離レベルが高いほどデータの一貫性は保証されますが、同時実行性は低下する可能性があります。
  • Durability (永続性): トランザクションが一度完了(コミット)したら、その変更はシステム障害(電源断など)が発生しても失われることはありません。

SQL Serverでは、BEGIN TRANSACTION, COMMIT TRANSACTION, ROLLBACK TRANSACTIONといったTCLコマンドを使用してトランザクションを制御します。

SQL Server 2022で知っておくべきこと

SQL Server 2022の基本を理解したところで、このバージョン固有の導入に関する考慮事項を見てみましょう。

エディションについて

SQL Server 2022は、利用目的や規模に応じて複数のエディションが提供されています。

  • Express: 無償のエディションで、学習、開発、小規模なアプリケーション向けです。CPU制限(1ソケットまたは4コア)、メモリ制限(1GB)、データベースサイズ制限(10GB)があります。
  • Developer: 開発およびテスト目的のための無償エディションです。Enterprise Editionの全機能を含みますが、実稼働環境では使用できません。
  • Standard: 中小規模のアプリケーション向けの有償エディションです。基本的なデータベース機能、レポート、分析機能が含まれます。CPU制限(4ソケットまたは24コア)、メモリ制限(128GB)があります。
  • Enterprise: 大規模なミッションクリティカルなアプリケーション向けの有償エディションです。Standard Editionの全機能に加え、高度なパフォーマンス、可用性、セキュリティ機能(Always On 可用性グループ、Transparent Data Encryption (TDE) など)を提供し、ハードウェア制限もありません。
  • Web: ホスティングプロバイダー向けの低価格エディションです。特定のライセンス条項があります。

初心者の方は、まずは無償のExpress EditionまたはDeveloper Editionから始めるのが良いでしょう。

インストールと構成のポイント

SQL Server 2022のインストールプロセスは、以前のバージョンと大きく変わりませんが、いくつかの推奨事項があります。

  • ハードウェア要件の確認: エディションや想定されるワークロードに応じて、CPU、メモリ、ディスク容量、ネットワーク帯域幅などの要件を確認します。特にSQL Server 2022の新機能(例: Azure Synapse Link)を利用する場合は、追加のリソースが必要になる場合があります。
  • オペレーティングシステム: SQL Server 2022は、Windows Server 2022, Windows Server 2019, Windows 10/11 (Pro, Enterprise, Education) など、特定のバージョンのOSでサポートされています。Linux (RHEL, SLES, Ubuntu) やDockerコンテナでも実行可能です。
  • サービスアカウント: SQL Serverサービスを起動するためのアカウントは、セキュリティのためにドメインユーザーアカウントを使用し、必要最小限の権限を付与することが強く推奨されます。ローカルシステムアカウントやローカルユーザーアカウントの使用は避けるべきです。
  • 認証モード: Windows認証、SQL Server認証、または両方(混合モード)を選択できます。Windows認証はActive Directoryと連携し、セキュリティが高いため推奨されます。SQL Server 2022ではAzure Active Directory認証も利用可能です(後述)。
  • 照合順序 (Collation): 文字データのソート順序や大文字・小文字の区別などを定義します。データベース作成時に慎重に選択する必要があります。後から変更するのは手間がかかります。
  • TempDBの構成: TempDBは多くの操作で使用されるシステムデータベースであり、パフォーマンスのボトルネックになりやすいです。推奨される構成として、CPUコア数に応じた複数のデータファイル(最大8つ)、データファイルとログファイルの分離、SSDへの配置などがあります。
  • メモリ割り当て: SQL Serverが使用できるメモリの最大値を適切に設定します。OSや他のアプリケーションが必要とするメモリを確保しつつ、SQL Serverに十分なメモリを割り当てることで、ディスクI/Oを減らしパフォーマンスを向上させます。

互換性レベルについて

SQL Serverの各データベースには「互換性レベル」という設定があります。これは、そのデータベースがどのSQL Serverのバージョンで導入されたクエリプロセッサの動作や機能を使用するかを制御するものです。

  • SQL Server 2022で作成された新しいデータベースは、デフォルトで互換性レベル160(SQL Server 2022)になります。
  • 以前のバージョンのSQL Serverからデータベースを移行または復元した場合、デフォルトでは元のデータベースの互換性レベルが維持されます。

互換性レベルを上げる(例: 150から160へ変更する)ことで、SQL Server 2022で導入された新しいクエリ最適化機能やT-SQL構文の恩恵を受けることができます。しかし、互換性レベルを上げることで、以前のバージョンでは問題なく動作していたクエリの実行計画が変更され、パフォーマンスが低下したり、予期しない動作が発生したりする可能性もゼロではありません。

したがって、互換性レベルを変更する際は、テスト環境で十分に評価を行うことが非常に重要です。クエリストアなどのツールを使用して、互換性レベル変更前後のクエリのパフォーマンスを比較・分析することが推奨されます。SQL Server 2022の多くのパフォーマンス関連の新機能は、データベースの互換性レベルを160に設定することで有効になります。

SQL Server 2022の主な変更点・新機能の詳細

SQL Server 2022は、これまで以上に多くの新機能と改善が盛り込まれています。ここでは、その中でも特に注目すべき主要な変更点を詳しく見ていきましょう。

Azure連携の強化 (Azure Enabled SQL Server)

SQL Server 2022の最も重要なコンセプトの一つは、「Azure Enabled」であることです。オンプレミスや他のクラウド環境で実行されているSQL ServerとAzureサービスとの連携を強化し、ハイブリッド環境でのデータ管理や分析を容易にします。

  • Azure Synapse Link for SQL:
    • 目的: オンライン処理(トランザクション)と分析処理(アナリティクス)を分離しつつ、ニアリアルタイムでデータを分析可能にする機能です。従来のETLプロセスによるデータウェアハウスへのロードに比べて、データ鮮度が高く、OLTPワークロードへの影響を最小限に抑えられます。
    • 仕組み: SQL Serverの変更フィード(トランザクションログ)をほぼリアルタイムでキャプチャし、Azure Synapse AnalyticsまたはAzure Data Lake Storage (Gen2) へ継続的にレプリケーションします。これにより、OLTPデータベースに負荷をかけることなく、Synapse Analytics上で最新のデータに対する分析クエリを実行できます。
    • メリット: HTAP (Hybrid Transactional/Analytical Processing) シナリオを効率的に実現。分析のためのデータレイク構築を簡素化。OLTPデータベースのパフォーマンスへの影響を軽減。
  • Azure Purview連携:
    • 目的: データガバナンス、データカタログ、データリネージ(データの出所や加工経路)管理を強化します。
    • 仕組み: SQL Server 2022インスタンスをAzure Purviewに登録することで、データベーススキーマ、テーブル、列などのメタデータを自動的にスキャンし、データカタログに登録できます。これにより、組織内の様々なデータソース(SQL Server, Azure Storage, Azure SQL DB, Oracleなど)を一元的に検索・発見・管理できるようになります。
    • メリット: データ資産の可視化と検索性の向上。データの利用促進と統制。コンプライアンス対応の支援。
  • Azure Active Directory認証:
    • 目的: Microsoft Entra ID (旧称 Azure Active Directory) を使用してSQL Server 2022への認証を可能にします。オンプレミスSQL ServerでもAzure ADユーザーやグループでログインできます。
    • 仕組み: SQL ServerインスタンスをAzure Arc (後述) に登録し、Azure ADとの連携を構成します。ユーザーはAzure ADの資格情報(パスワード、MFAを含む)を使用してSQL Serverに接続できます。
    • メリット: ID管理の一元化(シングルサインオン)。多要素認証 (MFA) によるセキュリティ強化。パスワード管理の簡素化。オンプレミスとクラウドで一貫した認証メカニズムを提供。
  • Managed Instance Link:
    • 目的: オンプレミスのSQL Server 2022からAzure SQL Managed Instanceへのデータベース移行や、レプリケーションを容易にする機能です。
    • 仕組み: 可用性グループ技術を応用し、オンプレミスとAzure SQL Managed Instance間でデータを非同期または同期的にレプリケーションします。これにより、最小限のダウンタイムで移行を実行したり、クラウドをDRサイトとして利用したりすることが可能です。
    • メリット: クラウドへの移行パスを簡素化・迅速化。ハイブリッドDRシナリオの構築。
  • SQL Ledger:
    • 目的: データベース内のデータが改ざんされていないことを暗号学的に証明する機能です。Azure SQL Databaseで先行して提供されていた機能がSQL Server 2022にバックポートされました。
    • 仕組み: テーブルに加えられた変更のハッシュ値を計算し、そのハッシュ値をブロックチェーンのような構造でチェーン化して安全に保存します。改ざんが検出された場合は、その事実を証明できます。データの信頼性が非常に重要な監査ログやトランザクションデータなどに適しています。
    • メリット: データの非改ざん性の証明。監査やコンプライアンス要件への対応。データの信頼性の向上。
  • Azure Arc連携:
    • 目的: SQL Server 2022インスタンスをAzure Arcに登録することで、オンプレミスや他のクラウド上のSQL ServerをAzureポータルから一元的に管理・監視できるようにします。
    • 仕組み: SQL ServerインスタンスにAzure Arcエージェントをインストールし、Azureサブスクリプションに登録します。
    • メリット: ハイブリッド環境全体でのインベントリ管理、監視、セキュリティポリシー適用、パッチ管理などをAzureから実行。Azure AD認証やSQL LedgerなどのAzure連携機能を利用可能にする基盤。

これらのAzure連携機能は、SQL Server 2022が単なるオンプレミスデータベースの最新バージョンではなく、Microsoftのハイブリッドデータプラットフォーム戦略の中核を担う存在であることを示しています。

パフォーマンスの向上

SQL Server 2022では、インテリジェントなクエリ処理機能を中心に、パフォーマンスに関連する多くの改善が加えられています。

  • Parameter Sensitive Plan (PSP) Optimization:
    • 目的: ストアドプロシージャなどのパラメータ化されたクエリにおいて、初回実行時のパラメータ値によって生成された実行計画が、その後の異なるパラメータ値を持つ実行で最適ではない場合がある問題を解決します。
    • 仕組み: クエリプロセッサがパラメータ値の範囲を考慮し、複数の実行計画をキャッシュしたり、パラメータ値の特性に応じて適切なプランを選択したりするようになります。これにより、多様なパラメータを持つクエリのパフォーマンスが安定します。
    • メリット: パラメータスニッフィング問題の緩和。ワークロード全体のパフォーマンスと安定性の向上。
  • Query Store Hints:
    • 目的: アプリケーションコードを変更することなく、クエリストアを使用して特定のクエリに対して実行計画ヒント(例: OPTION (RECOMPILE))を適用できるようになりました。
    • 仕組み: クエリストアに記録された特定のクエリIDに対して、適用したいヒントを指定します。SQL Serverはそのクエリが実行される際に、指定されたヒントを動的に適用します。
    • メリット: パフォーマンス問題が発生したクエリに対する迅速な修正。アプリケーションコードのデプロイなしでの対応。開発チームとDBA間の連携を容易に。
  • Cardinality Estimation (CE) Enhancements:
    • 目的: クエリプロセッサがクエリ結果セットの行数を推定する精度を向上させます。この推定(カーディナリティ推定)は実行計画の良し悪しに大きく影響します。
    • 仕組み: SQL Server 2022では、より洗練された統計情報処理や、異なる互換性レベル間のCEモデルのハイブリッド使用などにより、特定のパターン(特に相関のある述語など)での推定精度が向上しています。
    • メリット: より最適な実行計画の生成。クエリパフォーマンスの向上と安定化。
  • Accelerated Database Recovery (ADR) の機能強化:
    • 目的: クラッシュリカバリやロールバック処理の時間を大幅に短縮します。SQL Server 2019で導入されたADRがさらに強化されました。
    • 仕組み: 永続化されたバージョンストアと論理UNDOログにより、ロールバックが必要なトランザクションに関係なく、データファイルの一貫性をほぼ即座に復元します。SQL Server 2022では、大規模なトランザクションでのパフォーマンスと管理性が向上しています。
    • メリット: データベースの可用性向上(復旧時間の短縮)。長時間実行されるトランザクションのロールバック時間の短縮。
  • TempDBの同時実行性の向上:
    • 目的: 一時テーブルやワークテーブルなどが多用されるワークロードにおいて、TempDBへのアクセス競合(ラッチコンテンション)を軽減します。
    • 仕組み: システムテーブルのラッチ粒度の細分化や、メタデータアクセスの最適化などにより、TempDBへの並列アクセス性能が向上しています。
    • メリット: TempDBがボトルネックとなるワークロードのパフォーマンス向上。特に高並列環境でのスケーラビリティ改善。

これらのパフォーマンス機能は、データベース互換性レベル160で有効になるものが多いです。アップグレード後、互換性レベルをテストの上、変更することを検討してください。

セキュリティの向上

SQL Server 2022では、データの保護とアクセス制御に関連するセキュリティ機能も強化されています。

  • Azure AD認証の強化: 前述のAzure連携の一部ですが、セキュリティ機能としても重要です。条件付きアクセスやMFAサポートにより、より強固な認証ポリシーを適用できます。
  • SQL Ledger: 前述のAzure連携で触れましたが、データの改ざん検出・防止という点でセキュリティ機能として非常に有効です。監査要件が厳しい環境でデータの信頼性を高めます。
  • Always Encrypted with Secure Enclaves の機能強化:
    • 目的: 暗号化されたデータのままで、データベースエンジン内での計算(比較、結合、集計など)を可能にします。SQL Server 2019で導入されましたが、SQL Server 2022では機能が拡張されています。
    • 仕組み: 信頼できる実行環境(Secure Enclave、例えばIntel SGXやAMD SEV)を利用して、暗号化解除キーや平文データをOSやSQL Serverエンジン自体から隔離します。SQL Server 2022では、この機能を使用して実行できる操作の種類が増えています。
    • メリット: データの機密性を保ったまま、より複雑なクエリを実行可能に。コンプライアンス要件(GDPR, HIPAAなど)への対応を支援。
  • 細粒度データベース権限:
    • 目的: データベース内の特定のスキーマやオブジェクトに対する権限管理をより細かく行えるようになります。
    • 仕組み: GRANT, DENY, REVOKEステートメントで、スキーマ単位での権限設定が可能になりました(例: GRANT SELECT ON SCHEMA::HumanResources TO SalesRole;)。
    • メリット: セキュリティ原則である最小権限の原則をより容易に実装。権限管理の柔軟性と精度の向上。

可用性と災害復旧 (HADR) の向上

ミッションクリティカルなシステムにとって不可欠な高可用性(HA)と災害復旧(DR)に関連する機能も進化しています。

  • Contained Availability Groups:
    • 目的: 可用性グループ内でユーザーアカウントやSQL Serverエージェントジョブなどのメタデータを管理できるようになります。これにより、フェールオーバー発生時に、レプリカ側でログインが使用不可になったり、ジョブが実行されなかったりといった問題を軽減します。
    • 仕組み: 従来の可用性グループはログインなどのインスタンスレベルのオブジェクトを共有しませんでしたが、Contained Availability Groupsではこれらのオブジェクトを可用性グループの一部として含めることができます。
    • メリット: フェールオーバー時のアプリケーションの可用性向上。可用性グループ管理の簡素化。
  • Cross-Platform Snapshot Backups:
    • 目的: S3互換のオブジェクトストレージ(Azure Blob Storage, AWS S3, MinIOなど)に対して、ファイルスナップショットバックアップを実行できるようになります。
    • 仕組み: ストレージベンダーが提供するスナップショットAPIを利用して、データベースファイルの整合性を保ったままストレージレベルでのスナップショットを作成します。
    • メリット: 大規模データベースの高速バックアップと復元。クラウドストレージをバックアップ先として利用。様々なプラットフォームへの対応。

開発者機能の強化

SQL Server 2022は、T-SQL言語や開発ツール連携においても改善が加えられています。

  • JSON機能の拡張:
    • 目的: JSONデータの操作性を向上させます。
    • 新機能: JSON_OBJECT, ISJSON with schemaなど、新しい関数や構文が追加されました。
    • 例:
      “`sql
      — JSON_OBJECT を使用してJSONオブジェクトを生成
      SELECT JSON_OBJECT(‘name’:’Alice’, ‘age’:30);

      — ISJSON with schema を使用してJSONの構造を検証
      SELECT ISJSON(‘{“name”:”Bob”, “city”:”New York”}’, N’ lax $.name, strict $.city’);
      ``
      * メリット: データベース内でのJSONデータの生成、検証、操作がより容易に。JSONを扱うアプリケーションとの連携強化。
      * **DATALENGTHの機能強化:**
      * 目的:
      DATALENGTH関数が、VARCHAR(MAX),NVARCHAR(MAX),VARBINARY(MAX)といった「ラージオブジェクト (LOB)」型に対して、ストリーミングではなくバッチモードでも効率的に動作するようになりました。
      * メリット: 大容量データを扱う際のパフォーマンス向上。
      * **新関数 (GREATEST, LEAST, WINDOW関数など):**
      * 目的: より便利なT-SQL関数を追加し、クエリ記述を簡素化・強力化します。
      * 新関数:
      *
      GREATEST,LEAST: 複数の引数の中から最大値または最小値を取得します。
      *
      FIRST_VALUE,LAST_VALUE: ウィンドウ関数として、パーティション内の最初または最後の値を取得します。
      *
      APPROX_PERCENTILE_CONT,APPROX_PERCENTILE_DISC: 大規模なデータセットに対して近似的なパーセンタイルを計算します。
      * メリット: 複雑な計算や集計をより簡潔なクエリで実現。データ分析の効率向上。
      * **T-SQLにおけるCREATE OR ALTER:**
      * 目的: ストアドプロシージャ、関数、ビューなどのデータベースオブジェクトを作成または変更する際に、既存のオブジェクトが存在するかどうかを気にせず、単一のステートメントで実行できるようになります。
      * 仕組み:
      CREATE OR ALTER PROCEDURE,CREATE OR ALTER FUNCTION,CREATE OR ALTER VIEW`といった構文を使用します。オブジェクトが存在しない場合は作成され、存在する場合は変更されます。
      * メリット: スクリプトの記述・管理が簡素化。デプロイメントプロセスの効率化。

データ仮想化の機能強化

異なるデータソースに格納されたデータに、SQL Serverを通してアクセスできるようにするPolyBase機能も強化されています。

  • PolyBaseの機能強化:S3互換ストレージへの外部テーブル:
    • 目的: オンプレミスや他のクラウド上のS3互換オブジェクトストレージに格納されたデータ(Parquet, Delimited Textなど)に対して、SQL Serverから直接クエリを実行できるようになります。
    • 仕組み: 外部データソース、外部ファイル形式、外部テーブルを定義し、リモートのS3ストレージ上のデータを仮想的にテーブルとして扱います。
    • メリット: データの移動やETLプロセスなしでのデータ分析。データレイクに格納されたデータの活用。ハイブリッド環境でのデータ統合。
  • OPENROWSETによる外部データソースへの接続:
    • 目的: アドホックなクエリや小規模なデータアクセス向けに、外部データソースへの接続がさらに柔軟になりました。
    • 仕組み: OPENROWSET関数で、Azure Blob Storage (S3互換), Azure Data Lake Storage Gen2, Azure Cosmos DB (MongoDB API) などの外部データソースに直接接続し、データを取得できます。
    • メリット: 一時的な外部データアクセスが容易に。様々なデータソースとの連携オプションの拡充。

管理機能の向上

データベース管理者 (DBA) が日常的に行う作業に関連する改善も行われています。

  • Query Storeの自動有効化(推奨):
    • 目的: データベースのパフォーマンス監視とトラブルシューティングに不可欠なクエリストアを、新しいデータベース作成時にデフォルトで有効にすることを推奨します。
    • メリット: データベースのパフォーマンス履歴が常に記録され、実行計画の変更やパフォーマンス問題の分析が容易に。手動での有効化忘れを防ぎます。
  • エラーメッセージの改善:
    • 目的: エラーメッセージがより分かりやすくなり、問題の特定と解決に役立ちます。
  • システムビュー、DMVの追加/改善:
    • 新しいシステムビュー(sys.dm_server_diagnostics_log_readなど)や動的管理ビュー (DMV) が追加され、SQL Serverの内部状態やパフォーマンスに関する詳細な情報を取得できるようになりました。
    • メリット: 監視、診断、トラブルシューティング能力の向上。

SQL Server 2022を選ぶ理由・活用シナリオ

SQL Server 2022のこれらの新機能は、どのような場合にメリットをもたらすのでしょうか。

  • オンプレミスとクラウドの連携が必須な場合:
    • 企業のデータがオンプレミスとAzureに分散している場合、Azure Synapse LinkやAzure Arc連携、Managed Instance Linkは、ハイブリッド環境でのデータ統合、分析、管理を劇的に簡素化します。オンプレミスSQL ServerをAzureの一部として管理したい場合に最適です。
  • 最新のセキュリティ機能を利用したい場合:
    • Azure AD認証による一元的なID管理とMFAの利用、SQL Ledgerによるデータの非改ざん性保証、Always Encryptedの機能強化は、コンプライアンス要件が厳しく、データの機密性と信頼性を極めて高く保つ必要がある場合に大きなメリットがあります。
  • パフォーマンスの安定化・向上を図りたい場合:
    • Parameter Sensitive Plan optimizationやQuery Store Hints、CE Enhancementsといったインテリジェントクエリ処理機能は、既存のアプリケーションコードに大きな変更を加えることなく、多くのクエリのパフォーマンスを向上・安定化させることができます。ADRの強化は、大規模データベースの可用性向上に直結します。
  • ハイブリッドなデータプラットフォームを構築したい場合:
    • オンプレミスの基幹系データと、クラウド上のデータレイクや他のサービスを連携させて、全社的なデータ活用基盤を構築したい場合に、SQL Server 2022はその中心的な役割を果たすことができます。PolyBaseによるデータ仮想化もこのシナリオを強力に後押しします。
  • 開発者にとって便利な機能を利用したい場合:
    • JSON機能の拡張、新しいT-SQL関数、CREATE OR ALTER構文は、データベース開発の効率と表現力を向上させます。

SQL Server 2022は、単なる性能向上や新機能の追加にとどまらず、ハイブリッドおよびマルチクラウドの世界におけるデータプラットフォームのあり方を見据えたバージョンと言えます。既存のSQL Serverユーザーはもちろん、これからリレーショナルデータベースの導入を検討する組織にとっても、強力な選択肢となるでしょう。

学習リソース

SQL Server 2022をさらに深く学びたい方のために、いくつかの学習リソースを紹介します。

  • Microsoft Learn: Microsoftが提供する無償のオンライントレーニングプラットフォームです。SQL Serverの基礎から、SQL Server 2022の新機能、Azureサービスとの連携まで、構造化されたモジュール形式で学ぶことができます。実践的な演習環境も用意されています。
  • SQL Server 2022 公式ドキュメント: Microsoft Docsで提供されている公式ドキュメントは、最も正確で詳細な情報源です。機能の詳細な説明、インストール手順、T-SQLリファレンスなどが網羅されています。
  • Microsoft SQL Server Community: フォーラム、ブログ、ビデオ、ウェビナーなど、様々な形で情報が共有されています。他のユーザーやMicrosoftの専門家から学ぶことができます。
  • 各種書籍、オンラインコース: 初心者向けの入門書から、特定の機能に特化した専門書まで、多くの学習教材が市販されています。UdemyやCourseraなどのオンライン学習プラットフォームでも、SQL Server関連のコースが提供されています。

まずはMicrosoft Learnで基礎を固め、公式ドキュメントを参照しながら実際にSQL Server 2022をインストールして触ってみるのがおすすめです。

まとめ

本記事では、SQL Server 2022の入門として、リレーショナルデータベースとSQL Serverの基本的な概念から、SQL Server 2022で特に重要な変更点や新機能について詳細に解説しました。

SQL Server 2022は、従来のSQL Serverが持つ堅牢性、パフォーマンス、豊富な機能に加え、「Azure Enabled」という明確な方向性を打ち出しています。Azure Synapse Link, Azure Purview, Azure AD認証, Managed Instance Linkといった機能は、オンプレミスや他のクラウド上のSQL ServerとMicrosoft Azureサービスとの間の壁を取り払い、ハイブリッド環境でのデータ活用を強力に推進します。

また、インテリジェントなクエリ処理機能によるパフォーマンスの自動最適化、SQL LedgerやAlways Encryptedの強化によるセキュリティ向上、Contained Availability GroupsやCross-Platform Snapshot Backupsによる可用性の向上、開発効率を高めるT-SQL機能の追加など、データベースの基本的な要素においても着実な進化を遂げています。

SQL Server 2022は、オンプレミス環境、ハイブリッド環境、さらにはマルチクラウド環境において、信頼性の高い、セキュアで高性能なデータプラットフォームを構築・運用するための強力なツールとなります。これからSQL Serverを学ぶ方も、既存システムからのアップグレードを検討する方も、SQL Server 2022が提供する新しい可能性をぜひ探求してみてください。

データの重要性がますます高まる現代において、SQL Server 2022はあなたのデータ戦略において中心的な役割を果たすポテンシャルを秘めています。本記事が、SQL Server 2022の世界への第一歩を踏み出すための一助となれば幸いです。

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