CentOS 8 サポート終了後の選択肢:Rocky Linux 9への移行

CentOS 8 サポート終了後の選択肢:Rocky Linux 9への移行 – 詳細ガイド

CentOS 8 は、2021年末にサポートが終了し、多くのシステム管理者に頭痛の種となっています。Red Hat Enterprise Linux (RHEL) のクローンとして、サーバーインフラの基盤として CentOS 8 を利用していた組織は、早急に移行先を決定し、スムーズな移行計画を立てる必要があります。幸いなことに、CentOS の代替として、Rocky Linux や AlmaLinux など、コミュニティ主導の RHEL 互換ディストリビューションが登場し、移行の選択肢を広げています。

本記事では、CentOS 8 のサポート終了後の移行先として、特に Rocky Linux 9 に焦点を当て、その特徴、メリット、デメリット、移行手順、移行後の運用について詳細に解説します。Rocky Linux 9 への移行を検討しているシステム管理者にとって、意思決定と移行作業を支援するための包括的なガイドとなることを目指します。

1. CentOS 8 サポート終了の背景と影響

CentOS (Community ENTerprise Operating System) は、Red Hat Enterprise Linux (RHEL) のソースコードを元に、Red Hat の商標を取り除いて再構築された、無償で利用可能なLinuxディストリビューションです。CentOS は、RHEL とほぼ完全に互換性があるため、RHEL のテスト環境や、開発環境、そして本番環境においても、コストを抑えながら RHEL と同等の安定性・信頼性を求めるユーザーに広く利用されてきました。

しかし、2020年12月、Red Hat は CentOS の方向性を変更することを発表しました。CentOS Linux を CentOS Stream に置き換え、開発の上流 (upstream) に位置づけ、RHEL の将来バージョンをプレビューする役割に変更したのです。これにより、従来の CentOS Linux は、RHEL のダウンストリームとしての役割を終え、CentOS 8 は予定よりも早く、2021年末にサポートが終了することになりました。

CentOS 8 のサポート終了は、以下の点において重大な影響を与えます。

  • セキュリティリスクの増加: サポートが終了した OS は、セキュリティアップデートが提供されなくなるため、脆弱性が放置されたままとなり、攻撃対象となるリスクが高まります。
  • コンプライアンス違反の可能性: 多くの業界や規制では、セキュリティアップデートが適用された最新の OS を利用することが求められます。サポートが終了した OS を利用し続けることは、コンプライアンス違反につながる可能性があります。
  • システム障害のリスク: サポートが終了した OS は、バグ修正や機能改善が行われなくなるため、システム障害が発生した場合、解決が困難になる可能性があります。
  • アプリケーションの互換性の問題: 新しいアプリケーションやソフトウェアは、最新の OS に最適化されることが多く、サポートが終了した OS では正常に動作しない可能性があります。

これらのリスクを回避するため、CentOS 8 を利用している組織は、早急に移行先を決定し、移行計画を立てる必要があります。

2. CentOS 8 の代替ディストリビューションの選択肢

CentOS 8 の代替となりうる RHEL 互換ディストリビューションは、いくつか存在します。主な選択肢として、以下のものが挙げられます。

  • Rocky Linux: CentOS の創設者である Gregory Kurtzer 氏が中心となって立ち上げた、コミュニティ主導の RHEL 互換ディストリビューションです。RHEL とのバイナリ互換性を重視しており、CentOS ユーザーにとって最も自然な移行先の一つと言えます。
  • AlmaLinux: CloudLinux 社が開発・サポートする、コミュニティ主導の RHEL 互換ディストリビューションです。安定性と信頼性を重視しており、エンタープライズ環境での利用に適しています。
  • Oracle Linux: Oracle 社が提供する、RHEL ベースのLinuxディストリビューションです。Oracle 製品との親和性が高く、Oracle 環境を利用しているユーザーにとってメリットがあります。
  • Red Hat Enterprise Linux (RHEL): Red Hat 社が提供する、商用Linuxディストリビューションです。サポート体制が充実しており、エンタープライズ環境での利用に最適ですが、サブスクリプション費用が発生します。

これらのディストリビューションはそれぞれ特徴があり、組織のニーズや環境に合わせて選択する必要があります。本記事では、特に Rocky Linux 9 に焦点を当て、その詳細について解説していきます。

3. Rocky Linux 9 の特徴とメリット

Rocky Linux は、CentOS の代替として開発された、コミュニティ主導の RHEL 互換ディストリビューションです。CentOS の創設者である Gregory Kurtzer 氏が中心となって立ち上げたプロジェクトであり、CentOS の理念を引き継ぎ、無償で利用可能で、RHEL とのバイナリ互換性を重視しています。

Rocky Linux 9 は、RHEL 9 をベースにしており、以下の特徴とメリットがあります。

  • RHEL とのバイナリ互換性: RHEL 9 とほぼ完全に互換性があるため、CentOS 8 で動作していたアプリケーションやワークロードを、ほとんど変更せずに Rocky Linux 9 に移行することができます。これにより、移行作業にかかる時間とコストを大幅に削減することができます。
  • 長期的なサポート: Rocky Linux は、RHEL と同様に、長期的なサポートが提供されます。Rocky Linux 9 は、2032年5月までサポートされる予定であり、安心して長期的に利用することができます。
  • コミュニティ主導の開発: Rocky Linux は、コミュニティ主導で開発されており、透明性が高く、ユーザーからのフィードバックを積極的に取り入れています。これにより、ユーザーのニーズに合致した、より良いディストリビューションへと進化していくことが期待できます。
  • 無償で利用可能: Rocky Linux は、無償で利用可能であり、サブスクリプション費用は発生しません。これにより、コストを抑えながら、RHEL と同等の機能と安定性を得ることができます。
  • 充実したドキュメントとサポート: Rocky Linux の公式ドキュメントは、詳細かつ分かりやすく記述されており、移行作業や運用に関する疑問を解決することができます。また、コミュニティフォーラムやメーリングリストを通じて、他のユーザーや開発者からサポートを受けることができます。
  • 最新のテクノロジー: Rocky Linux 9 は、RHEL 9 をベースにしているため、最新のカーネル、ツール、ライブラリが含まれています。これにより、最新のテクノロジーを活用したアプリケーションやワークロードを、安定した環境で実行することができます。
  • セキュリティの重視: Rocky Linux は、RHEL と同様に、セキュリティを重視しており、定期的にセキュリティアップデートが提供されます。これにより、脆弱性を迅速に修正し、システムを安全に保つことができます。
  • 様々なプラットフォームへの対応: Rocky Linux は、x86_64、aarch64 (ARM64)、ppc64le、s390x など、様々なプラットフォームに対応しています。これにより、幅広い環境で利用することができます。

これらの特徴とメリットにより、Rocky Linux 9 は、CentOS 8 の代替として、非常に魅力的な選択肢と言えます。

4. Rocky Linux 9 のデメリット

Rocky Linux 9 は多くのメリットを持つ一方で、いくつかのデメリットも存在します。

  • 比較的新しいディストリビューション: Rocky Linux は、比較的新しいディストリビューションであるため、CentOS や RHEL に比べて、実績や情報が少ない場合があります。特に、特定のハードウェアやソフトウェアとの互換性に関する情報が不足している可能性があります。
  • コミュニティ主導のサポート: Rocky Linux は、コミュニティ主導でサポートされているため、商用サポートに比べて、レスポンスの遅延や解決までの時間が長くなる可能性があります。エンタープライズ環境で、迅速なサポートが必要な場合は、商用サポートの利用を検討する必要があります。
  • サードパーティ製ソフトウェアの入手性: 一部のサードパーティ製ソフトウェアは、RHEL または CentOS 向けに提供されている場合があり、Rocky Linux で利用するためには、別途リポジトリを追加したり、ソフトウェアを再構築する必要がある場合があります。
  • RHEL との完全な同一性ではない: Rocky Linux は、RHEL とのバイナリ互換性を重視していますが、100% 同一ではありません。ごく稀に、RHEL と Rocky Linux で挙動が異なる場合があります。特に、カーネルモジュールや、ハードウェアドライバなどの低レベルな部分で、差異が発生する可能性があります。

これらのデメリットを考慮した上で、Rocky Linux 9 を選択するかどうかを検討する必要があります。

5. Rocky Linux 9 への移行計画

Rocky Linux 9 への移行を成功させるためには、事前に綿密な計画を立てることが重要です。移行計画は、以下のステップで構成されます。

5.1. アセスメント

まず、現在の CentOS 8 環境を詳細にアセスメントし、移行対象となるシステム、アプリケーション、データを洗い出します。

  • ハードウェアとソフトウェアのインベントリ: システムに搭載されているハードウェア構成、インストールされているソフトウェア、ライブラリ、ツールなどをリストアップします。
  • アプリケーションの依存関係の分析: 各アプリケーションが依存しているライブラリ、サービス、データベースなどを特定します。
  • データ量の見積もり: 移行対象となるデータの量を見積もり、移行に必要なストレージ容量やネットワーク帯域幅を把握します。
  • リスクの評価: 移行作業に伴うリスク (ダウンタイム、データ損失、アプリケーションの互換性問題など) を評価します。
  • 現状の運用体制の確認: 現在の運用体制 (バックアップ、監視、セキュリティ対策など) を確認し、移行後の運用体制を検討します。

5.2. テスト環境の構築

本番環境への移行前に、テスト環境を構築し、移行手順を検証します。

  • テスト環境の要件定義: テスト環境に必要なハードウェアリソース (CPU、メモリ、ストレージ) を定義します。
  • テスト環境の構築方法の選択: 物理サーバー、仮想マシン、クラウド環境など、テスト環境を構築する方法を選択します。
  • テスト環境の構築: 定義した要件と選択した方法に基づいて、テスト環境を構築します。
  • テストデータの準備: 本番環境から一部のデータをコピーするか、テスト用のデータを生成し、テスト環境に準備します。

5.3. 移行方法の決定

移行方法を決定します。主な移行方法として、以下のものが挙げられます。

  • インプレースアップグレード: 現在の CentOS 8 システムを、Rocky Linux 9 に直接アップグレードする方法です。手軽に移行できますが、互換性の問題が発生する可能性が高いため、推奨されません。
  • クリーンインストール: 新しい Rocky Linux 9 システムを構築し、アプリケーションとデータを移行する方法です。手間はかかりますが、最も安全で確実な移行方法です。
  • コンテナ化: アプリケーションをコンテナ化し、Docker や Kubernetes などのコンテナオーケストレーションツールを利用して、Rocky Linux 9 上にデプロイする方法です。アプリケーションの移植性が向上し、運用管理が容易になります。

5.4. 移行手順の作成

決定した移行方法に基づいて、詳細な移行手順を作成します。移行手順には、以下の項目を含める必要があります。

  • 事前準備: 移行作業に必要なソフトウェアのインストール、設定ファイルのバックアップ、データのバックアップなどを行います。
  • 移行作業: 実際に Rocky Linux 9 をインストールしたり、アプリケーションとデータを移行したりする作業を行います。
  • 移行後の確認: 移行したシステムが正常に動作しているか、アプリケーションが正常に起動するか、データが正しく移行されているかなどを確認します。
  • トラブルシューティング: 移行作業中に発生する可能性のある問題とその解決策を記述します。
  • ロールバック手順: 移行作業に失敗した場合に、元の状態に戻すための手順を記述します。

5.5. 移行テストの実施

作成した移行手順に基づいて、テスト環境で実際に移行テストを実施します。

  • テストケースの作成: 移行手順の各ステップを検証するためのテストケースを作成します。
  • テストの実行: 作成したテストケースに基づいて、移行テストを実行します。
  • 結果の記録: テストの結果を記録し、問題点や改善点を洗い出します。
  • 手順の修正: テストの結果に基づいて、移行手順を修正します。

5.6. 本番環境への移行

テスト環境での移行テストが成功したら、本番環境への移行を実施します。

  • 移行スケジュールの策定: 本番環境への移行スケジュールを策定し、関係者に周知します。
  • 移行作業の実施: 作成した移行手順に基づいて、本番環境への移行作業を実施します。
  • 移行後の確認: 移行したシステムが正常に動作しているか、アプリケーションが正常に起動するか、データが正しく移行されているかなどを確認します。
  • 運用体制の移行: 移行後の運用体制にスムーズに移行します。

6. Rocky Linux 9 への移行手順

ここでは、クリーンインストールによる Rocky Linux 9 への移行手順について解説します。

6.1. Rocky Linux 9 の入手

Rocky Linux の公式ウェブサイト (https://rockylinux.org/) から、Rocky Linux 9 の ISO イメージをダウンロードします。

6.2. インストールメディアの作成

ダウンロードした ISO イメージを、DVD または USB ドライブに書き込み、インストールメディアを作成します。

6.3. システムの起動

作成したインストールメディアからシステムを起動します。

6.4. インストーラの起動

インストーラが起動したら、画面の指示に従って、言語、キーボードレイアウト、タイムゾーンなどを設定します。

6.5. インストール先の選択

インストール先となるディスクを選択します。既存のパーティションを削除したり、新しいパーティションを作成したりすることができます。

6.6. ネットワークの設定

ネットワークを設定します。DHCP を利用するか、手動で IP アドレス、ネットマスク、ゲートウェイなどを設定します。

6.7. root パスワードの設定

root ユーザーのパスワードを設定します。

6.8. ユーザーの作成

必要に応じて、一般ユーザーを作成します。

6.9. パッケージの選択

インストールするパッケージを選択します。最小構成にするか、グラフィカルデスクトップ環境を含めるかなどを選択できます。

6.10. インストールの開始

設定が完了したら、インストールを開始します。インストールには時間がかかる場合があります。

6.11. システムの再起動

インストールが完了したら、システムを再起動します。

6.12. 初期設定

再起動後、初期設定を行います。タイムゾーン、キーボードレイアウトなどを確認し、必要に応じて変更します。

6.13. アプリケーションとデータの移行

CentOS 8 から、アプリケーションとデータを Rocky Linux 9 に移行します。

  • アプリケーションのインストール: Rocky Linux 9 に、必要なアプリケーションをインストールします。
  • 設定ファイルの移行: CentOS 8 から、設定ファイルを Rocky Linux 9 に移行します。
  • データの移行: CentOS 8 から、データを Rocky Linux 9 に移行します。

6.14. 動作確認

移行したアプリケーションとデータが正常に動作するか確認します。

7. 移行後の運用

Rocky Linux 9 への移行が完了した後も、継続的な運用管理が必要です。

  • セキュリティアップデートの適用: 定期的にセキュリティアップデートを適用し、システムを安全に保ちます。
  • バックアップの実施: 定期的にバックアップを実施し、データ損失に備えます。
  • 監視体制の構築: システムの状態を監視し、異常を早期に発見できるようにします。
  • パフォーマンスのチューニング: 必要に応じて、システムのパフォーマンスをチューニングします。
  • ドキュメントの整備: 移行作業や運用に関するドキュメントを整備し、共有します。

8. まとめ

CentOS 8 のサポート終了は、システム管理者にとって大きな課題ですが、Rocky Linux 9 への移行は、その解決策の一つとなります。Rocky Linux 9 は、RHEL との互換性、長期的なサポート、コミュニティ主導の開発など、多くのメリットを備えています。

本記事で解説した移行計画と手順を参考に、綿密な準備を行い、慎重に移行作業を進めることで、CentOS 8 から Rocky Linux 9 へのスムーズな移行を実現することができます。

付録:移行に役立つツール

  • leapp: Red Hat が提供する、RHEL 7 または CentOS 7 から RHEL 8 へのインプレースアップグレードツールです。Rocky Linux へのインプレースアップグレードも可能ですが、互換性の問題が発生する可能性が高いため、推奨されません。
  • rsync: ファイルやディレクトリを効率的にコピーするためのツールです。データの移行に利用できます。
  • scp: Secure Copy の略で、安全にファイルをコピーするためのツールです。データの移行に利用できます。
  • Docker: アプリケーションをコンテナ化するためのツールです。コンテナ化されたアプリケーションは、環境に依存せずに動作するため、移行が容易になります。
  • Kubernetes: コンテナ化されたアプリケーションをオーケストレーションするためのツールです。アプリケーションのデプロイ、スケーリング、管理を容易にします。

これらのツールを適切に活用することで、移行作業を効率化することができます。

本記事が、CentOS 8 から Rocky Linux 9 への移行を検討しているシステム管理者にとって、有益な情報となることを願っています。

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