ライズオブ P:どんなゲーム?レビューと評価

ライズオブ P:童話の残酷な再解釈と磨き抜かれたソウルライクアクションを徹底レビュー

はじめに

童話「ピノキオ」――それは、木の人形が人間になることを夢見る、愛と成長の物語として世界中で知られています。しかし、もしその舞台が、狂気によって崩壊寸前の都市で、主人公が「嘘」をつくことによって人間性を獲得していくとしたら? そして、その冒険が極めて高い難易度と奥深いアクションによって描かれるとしたら?

そんな刺激的な問いに対する答えが、今回ご紹介するゲーム、『ライズオブ P(Lies of P)』です。韓国の開発スタジオNeowizとRound8 Studioが手がけた本作は、リリース前から「ダークピノキオ」「ピノキオ版ブラッドボーン」といった呼び名で注目を集め、発売されるやいなや世界中のゲームファン、特に「ソウルライク」と呼ばれるジャンルの愛好家から絶賛の声が上がりました。

本作は、フロム・ソフトウェアが生み出した『Demon’s Souls』や『DARK SOULS』シリーズに代表される、高難易度のアクションRPGというジャンルを強く意識して作られています。しかし単なる模倣に終わらず、独自のシステム、魅力的な世界観、そして大胆な原作の再解釈を盛り込むことで、唯一無二の存在感を確立しています。

この記事では、『ライズオブ P』が一体どのようなゲームなのか、その詳細なシステム、プレイ体験に基づいたレビュー、そして総合的な評価を、約5000語にわたって徹底的に掘り下げていきます。童話ファン、アクションゲームファン、そしてソウルライクファン、すべての方に本作の魅力をお伝えできれば幸いです。

ゲーム概要:狂気に染まった美しい街「クラット」での過酷な旅

『ライズオブ P』の舞台となるのは、19世紀末のヨーロッパ、特にベル・アポック時代のフランスを思わせる架空の都市「クラット」です。アール・ヌーヴォー様式の華麗な建築物が立ち並び、人々は高度な人形技術に支えられた豊かな生活を送っていました。しかし、ある日を境に、街を支えていたはずの人形たちが突如暴走を開始。人間を無差別に襲い、クラットは瞬く間に地獄絵図へと変貌します。

物語の主人公は、ゼペット博士によって作られた一体の人形「P」。彼はある日、不気味な声に導かれてクラット駅で目を覚まします。街は既に人形たちの狂気に覆われ、生存者は隠れて暮らしているか、狂気と戦っているかのどちらかです。Pは、自分を導く声と、街の唯一の安全地帯である「クラットホテル」に避難したゼペット博士を探すため、この危険な街へと足を踏み入れます。

Pは他の人形と異なり、特別な能力を持っています。それは、彼だけが「嘘」をつくことができるという点です。この嘘をつく能力は、彼の人間性メーターに影響を与え、物語の展開やエンディングを大きく左右する重要なシステムとなります。人間になることを夢見るPは、真実と嘘の選択を迫られながら、残酷な現実と対峙していくことになります。

基本的なゲームプレイは、広大な都市「クラット」を探索し、凶暴な敵である人形やクリーチャーと戦い、エルゴ(経験値兼通貨)を獲得して自身を強化し、道を切り開いていくという流れです。死亡すると、所持していたエルゴはその場に落とし、最後に休憩した場所(ステラ)に戻されます。エルゴを回収する前に再度死亡すると、そのエルゴは消滅してしまいます。この死亡時のペナルティや、休憩による敵のリポップといった要素は、ソウルライクジャンルの典型的な特徴です。

物語の進行は、主にメインクエストを追う形で進みますが、個性的なNPCたちとの出会いや、彼らから依頼されるサブクエスト、そして街中に散りばめられた手記やアイテムの説明文から世界の謎を読み解く要素も存在します。ゼペット博士の行方、人形暴走の真実、そして主人公Pの存在意義――多くの謎がプレイヤーを待っています。

「ライズオブ P」の主な特徴:ピノキオ、ソウルライク、そして独自のシステム

『ライズオブ P』を語る上で外せない特徴は多岐にわたりますが、特に以下の点が挙げられます。

  1. 童話「ピノキオ」のダークな再解釈:
    本作の最もユニークな点は、古典童話「ピノキオ」を大胆かつ残酷に再解釈していることです。主人公はピノキオをモデルにした人形「P」、製作者はゼペット博士、頼れる相棒はコオロギをモデルにした「ジミニー」(ただし本作では機械仕掛けのランプ「ジミニー」として登場)。彼らを取り巻くキャラクターや出来事も、童話の要素を捻じ曲げたり、新たな解釈を加えたりしています。例えば、ピノキオの鼻が伸びる「嘘」は、本作の根幹をなすシステムとなり、Pが人間性を獲得する鍵となります。人形が人間になるというテーマはそのままに、その過程が「嘘をつく」という行為と結びつけられている点が秀逸です。無垢な子供向けの物語が、退廃的でシリアス、時には恐ろしい大人向けのダークファンタジーへと昇華されています。

  2. ソウルライクとしての完成度とオリジナリティ:
    本作は「ブラッドボーン」や「DARK SOULS III」に強い影響を受けていることが明らかです。高難易度の戦闘、スタミナ管理、死亡時のペナルティ、篝火にあたる「ステラ」システム、広大なマップの探索とショートカット開通、敵の配置や攻撃パターンの学習といったソウルライクの基本要素は忠実に踏襲されています。しかし、単なる劣化コピーではありません。

    • 独自の戦闘システム: ガード時のHP回復システム「ガードリゲイン」、敵の体勢を崩すための「リーサルアタック」「ブレイクリミット」、武器ごとに異なる強力な必殺技「フェイブルアーツ」、そして左腕に装備する特殊能力「リージョンアーム」といった独自のシステムが戦闘に戦略性と奥深さを加えています。
    • 武器カスタマイズ: 本作独自の最も革新的なシステムの一つが、武器の「刃」と「柄」を自由に組み合わせて性能をカスタマイズできる点です。これにより、攻撃力、リーチ、攻撃モーション、スタミナ消費量、そしてフェイブルアーツが変化します。無限に近い組み合わせが可能であり、プレイヤー自身のプレイスタイルに合わせた最適な武器を作り出す楽しさがあります。
    • P機関システム: 主人公「P」の身体能力そのものを強化するシステムです。脳、心臓、肺、ケーブルといった部位に対応するノードを解放することで、パッシブスキル(ガードリゲイン量増加、回避距離延長など)や特殊アクション(緊急回避、空中攻撃など)を獲得できます。これはキャラクターのビルド構築において非常に重要な要素となります。
  3. 圧倒的な世界観とビジュアル:
    ベル・アポック時代の美しい美術様式と、人形の狂気、そして奇怪なクリーチャーによる退廃的な雰囲気が融合した世界観は、本作の最大の魅力の一つです。街の建築物、内装、装飾品に至るまで、その作り込みは圧巻です。蒸気機関やゼンマイ仕掛けといったスチームパンク的な要素も加わり、独特の美しさと不気味さが同居する「クラット」の街は、探索するだけでプレイヤーを引き込みます。敵である人形たちのデザインも秀逸で、かつての役割(警備、労働、娯楽など)を反映したかのような姿で襲いかかってきます。

  4. 「嘘」が紡ぐ物語:
    本作のタイトルにもある「嘘」は、ゲームシステムと物語の両面において非常に重要な役割を果たします。ゲーム中の会話において、プレイヤーは「嘘をつく」か「真実を語る」かの選択を迫られる場面が度々訪れます。これらの選択は、Pの人間性メーターに影響を与え、それが最終的に物語の結末に影響を及ぼします。童話とは異なり、嘘をつくことが人間になるためのステップとなるという皮肉な設定は、物語に深みを与え、プレイヤーに倫理的な問いを投げかけます。

ゲームシステム詳細:クラットを生き抜くための知識

クラットの街を生き抜くためには、本作の様々なシステムを理解し、使いこなす必要があります。ここでは、主要なシステムについてより詳しく解説します。

戦闘システム

『ライズオブ P』の戦闘は、一撃の重みと敵の攻撃パターンを見極めることが重要な、戦略的なアクションです。

  • 基本操作:

    • 攻撃: 弱攻撃と強攻撃があります。連携することでコンボになります。
    • ガード: 敵の攻撃を受け止めてダメージを軽減します。ガード中はスタミナを消費します。
    • 回避: 敵の攻撃をステップで避けます。無敵時間がありますが、スタミナを消費します。連続使用には制限があります。
    • ターゲットロックオン: 特定の敵に視点を固定します。複数の敵がいる場合は、ロックオンを切り替える必要があります。
    • ジャストガード(パーフェクトガード): 敵の攻撃が当たる直前にタイミング良くガードを入力すると発生します。ダメージを完全に無効化し、敵の体勢を崩しやすくなります。本作の戦闘における最重要テクニックの一つです。
  • スタミナ管理: 攻撃、ガード、回避といった全てのアクションはスタミナを消費します。スタミナが切れると行動が制限されるため、常にスタミナ残量を意識しながら戦う必要があります。

  • リーサルアタックとブレイクリミット:

    • 特定の攻撃(ジャストガード、強攻撃の溜めなど)を当てることで、敵に「ブレイク」状態を蓄積させることができます。
    • ブレイクゲージが満タンになると、敵は一定時間体勢を崩します。この隙に強力な攻撃を叩き込むことで、大ダメージを与えることができます。
    • 体勢を崩した敵に対して、特定の条件下(通常は強攻撃の溜め)で発動できる強力な一撃が「リーサルアタック」です。ボスクラスの敵には、リーサルアタックを当てることで、その後の追撃チャンスが生まれます。
  • ガードリゲイン: ガードで受けたダメージの一部は、一定時間内に敵に攻撃を当てることで回復できます。リスクを冒してでも攻撃を続けることで、被弾のリスクを軽減できる、本作独自の攻防一体システムです。

  • フェイブルアーツ: 武器ごとに設定された強力な必殺技です。使用するには「フェイブルスロット」を消費します。フェイブルスロットは敵に攻撃を当てることで回復します。複数のフェイブルアーツを持つ武器もあり、状況に応じて使い分ける戦略性が生まれます。

  • リージョンアーム: 主人公Pの左腕に装着できる特殊な武器です。初期装備の「パペットストリング」(敵を引き寄せるワイヤー)から、炎を噴射する「フレアアーム」、強力なスタン攻撃を放つ「ショックコイル」、範囲攻撃を行う「フルミナ」など、様々な種類があります。リージョンアームは「リージョンゲージ」を消費して使用し、クラットホテルで改造・強化することで性能が向上します。探索や戦闘において、状況を有利に進めるための重要なツールです。

武器カスタマイズ

本作の戦闘の核となる要素の一つが、武器の「刃」と「柄」を組み合わせるシステムです。

  • 刃: 攻撃力、属性、攻撃範囲、攻撃モーションのリーチなどに影響します。
  • 柄: 攻撃モーション(速度、パターン)、スタミナ消費量、攻撃属性の補正、そして最も重要な要素である「武器の補正ステータス」に影響します。
  • 組み合わせの影響: 例えば、攻撃力は高いが遅いモーションの「重い刃」に、素早い攻撃モーションの「軽い柄」を組み合わせることで、速度をある程度補いつつ高い攻撃力を維持するといったことが可能になります。逆に、リーチは短いが素早い「短剣の刃」に、長い「大剣の柄」を組み合わせることで、リーチを伸ばすこともできます。
  • フェイブルアーツの変化: 同じ刃でも、組み合わせる柄によって使えるフェイブルアーツが変わることもあります。
  • 補正ステータス: 柄には「技量」「勇気」といったステータスへの補正が設定されています。これは、武器の攻撃力がPのどのステータスによって伸びやすいかを示します。技量特化、勇気特化、あるいは両方に振るかなど、キャラクター育成の方針と合わせて武器を選ぶ(あるいはカスタマイズする)ことが重要です。
  • 武器強化: 武器はエルゴと強化素材を使って強化することで、基本的な攻撃力を向上させることができます。
  • 特殊武器: ボスの「エルゴ」を消費して、そのボスにちなんだ強力な「特殊武器」を作成することもできます。これらの武器は刃と柄が固定されており、カスタマイズはできませんが、強力なフェイブルアーツを持つなど、独自の性能を持っています。

このカスタマイズシステムにより、プレイヤーは自分だけの最適な武器を作り出すことができ、ビルドの幅が大きく広がります。

キャラクター育成:エルゴとP機関

主人公Pは、敵を倒したりアイテムを使用したりして得られる「エルゴ」を消費して成長します。

  • レベルアップ: ステラで休息中にエルゴを消費し、以下のステータスを上昇させることができます。
    • 生命力: HPの最大値。
    • 活力: スタミナの最大値。
    • 積載量: 装備できる武器や防具の重量上限。重すぎると移動や回避が遅くなります。
    • 順応: 回避の無敵時間、リージョンゲージ回復速度、状態異常耐性に影響します。
    • 技量: 技量補正のある武器の攻撃力、リーサルアタックダメージ、特定のリージョンアームの性能に影響します。
    • 勇気: 勇気補正のある武器の攻撃力、フェイブルスロットの上限、特定のリージョンアームの性能に影響します。
  • P機関: 本作独自の成長システムです。特定のアイテム「クオーツ」を消費して、P機関のツリー上のノードを解放していきます。
    • P機関は複数の「フェーズ」に分かれており、各フェーズには複数のノードスロットがあります。
    • ノードスロットには、ガードリゲイン量増加、回避性能向上、アイテム所持数増加、エルゴ獲得量増加、特殊アクション(緊急回避や空中回避など)といった様々な能力を解放するためのノードをセットできます。
    • 特定のノードを複数解放すると、そのフェーズのメイン能力が解放されたり、次のフェーズに進むための条件を満たしたりします。
    • P機関による強化は、基本的なステータス上昇とは異なる、パッシブスキルやアクションの追加という形でPを強化するため、ビルド構築において非常に重要な要素となります。

探索と進行

クラットの街は複雑に入り組んでおり、探索はゲーム進行の鍵となります。

  • ステラ: クラットの各地に設置されたオブジェクトで、ソウルライクにおける篝火やランタンにあたります。
    • ステラで休息すると、HP、リージョンゲージ、フェイブルスロット、消耗品アイテム(回復薬など)が回復し、倒した雑魚敵がリポップします。
    • エルゴを消費してレベルアップできます。
    • ステラ間を高速移動できます。
    • クラットホテルに移動できます。
  • クラットホテル: ゲームの拠点となる安全地帯です。
    • ゼペット博士や他の生存者NPCたちが集まっています。
    • 武器の強化、修理、カスタマイズが行えます。
    • P機関の強化が行えます。
    • アイテムの購入、売却、倉庫の利用ができます。
    • 様々なNPCと会話することで、物語の背景を知ったり、サブクエストが発生したりします。
  • ショートカット: 複雑なマップを探索し、閉ざされていた扉や梯子、エレベーターなどを開通させることで、ステラから次のエリアやボスまでの道のりを短縮できます。新たなショートカットを発見したときの達成感は、ソウルライクならではの喜びです。
  • NPCイベントとサブクエスト: クラットホテルのNPCや、探索中に見かける生存者たちとの会話によって、様々なイベントやサブクエストが発生します。これらのクエストをクリアすることで、物語の背景がより深く理解できたり、貴重なアイテムを入手できたりします。

嘘と真実の選択:人間性メーター

物語の重要な局面で、プレイヤーは会話の選択肢として「嘘をつく」か「真実を語る」かの選択を迫られます。

  • これらの選択は、主人公Pの「人間性」メーターに影響を与えます。嘘をつくほど人間性が上昇します。
  • 人間性メーターの上昇度合いは、物語の展開やキャラクターとの関係性、そして最終的なエンディングに影響を与えます。
  • 童話の「ピノキオ」では嘘をつくと鼻が伸びますが、本作では嘘をつくことで人形から人間へと近づいていくという逆説的な設定です。
  • このシステムは、プレイヤーに道徳的な問いを投げかけるだけでなく、ゲームのプレイ体験自体を変化させるユニークな要素となっています。

レビューと評価:ソウルライクの新星か、それとも…?

『ライズオブ P』を実際にプレイしてみてのレビューと評価を、良い点、気になる点に分けて詳細に記述します。

良い点(Pros)

  1. ソウルライクとしての完成度が非常に高い:
    本作は、ソウルライクというジャンルを初めてプレイする人にはもちろん、長年のベテランプレイヤーにも自信を持って勧められるほど、基本システムが非常に高いレベルで作り込まれています。敵の攻撃パターン、スタミナ管理の重要性、死亡時の緊張感、そして強敵を打ち破った時の達成感といった、ソウルライクの「面白さのコア」をしっかりと押さえています。特に戦闘は、パリィ(ジャストガード)の重要性、リーサルアタックによる爽快感、そして独自のガードリゲインシステムによって、他のソウルライクとは一味違う、より攻撃的でハイテンポな駆け引きが楽しめます。「ブラッドボーン」や「SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE」の良い部分を吸収しつつ、独自の味を出していると感じました。

  2. 中毒性のある戦闘システムと武器カスタマイズ:
    前述の通り、戦闘システムは非常に洗練されています。特にジャストガードの成功時のリターンが大きく、これを習得することで強敵との戦いが格段に有利になります。武器カスタマイズは、本作の最大の独自要素であり、やり込み要素でもあります。新しい刃や柄を入手するたびに「これを組み合わせたらどうなるんだろう?」とワクワクさせられます。自分のプレイスタイルや、次に挑むエリアやボスに合わせて武器を調整するだけでも時間が過ぎてしまうほど、奥深く中毒性があります。攻撃力重視、リーチ重視、速度重視など、様々なビルドを試すことができます。

  3. 圧倒的に美しい世界観と退廃的な雰囲気:
    クラットの街のビジュアルは、まさに「眼福」と表現しても過言ではありません。ベル・アポック調の建築物は細部まで作り込まれており、光の表現も相まって、その場に立っているだけで息を呑むほどの美しさです。しかし、その美しさとは裏腹に、街は狂気に染まった人形たちによって破壊され、至る所に悲劇の跡が残されています。この「美しさ」と「退廃」が同居する雰囲気は、プレイヤーを深く物語の世界に引き込みます。敵のデザインも、かつて人間社会で働いていた人形たちが歪んだ姿に変貌したという設定が反映されており、不気味でありながらどこか哀愁も漂わせています。

  4. ピノキオモチーフの物語が秀逸:
    童話「ピノキオ」をベースにしながらも、全く新しいダークファンタジーとして見事に成立しています。単なるリメイクではなく、原作の要素を大胆に解釈し直し、大人が楽しめるシリアスで深みのある物語に仕上がっています。主人公Pが「嘘」をつくことで人間になるという設定は、オリジナルの童話が持つテーマを根底から覆しつつ、本作独自のテーマ性を確立しています。プレイヤーの選択が物語に影響を与える「嘘」システムも、単なる分岐要素に留まらず、プレイヤー自身に「人間性とは何か?」という問いを投げかける役割を果たしています。

  5. 適度な難易度と達成感:
    ソウルライクであるため難易度は高いですが、全体的に絶妙なバランスに調整されていると感じました。敵の攻撃パターンは読みやすく、ジャストガードの判定も比較的寛容な部類です。ボス戦は歯ごたえがありますが、試行錯誤を繰り返し、システムの理解を深めれば必ず突破できる設計になっています。強敵を倒した時の達成感は格別で、このジャンルならではの喜びを存分に味わえます。キャラクターの育成やP機関による強化によって、攻略が有利になることも、プレイヤーの成長を実感させてくれます。

  6. 洗練された操作性とUI:
    キャラクター操作は非常に滑らかでレスポンスが良く、ストレスを感じさせません。戦闘中のターゲットロックオンや回避、パリィといった重要なアクションも正確に行えます。UI(ユーザーインターフェース)もシンプルで分かりやすく、武器カスタマイズやP機関といった複雑なシステムも直感的に操作できます。

  7. 世界観を彩るサウンド:
    BGMはクラットの街の雰囲気に合った、美しくも物悲しい、あるいは緊迫感のある楽曲が多く、ゲームへの没入感を高めてくれます。効果音も敵の金属質な動きや攻撃の重みがしっかりと表現されており、戦闘を盛り上げます。

気になる点 / 改善点(Cons/Points for Improvement)

  1. ソウルライクからの強い影響(オリジナリティの賛否):
    本作は、その完成度の高さゆえに、フロム・ソフトウェアのソウルライク作品、特に「ブラッドボーン」や「DARK SOULS III」に「似すぎている」という意見も散見されます。UIデザイン、基本的なゲームサイクル、レベルアップの仕組み、敵の攻撃パターン、さらには一部のボス戦の演出に至るまで、既視感を覚える部分があることは否定できません。これは裏を返せば、それほどまでにソウルライクの基本を忠実に、かつ高品質に再現できているということでもありますが、完全に独自の道を歩んでいるわけではない、という見方もできます。この点は、プレイヤーのソウルライク体験度や、新しい体験をどこまで求めるかによって評価が分かれるかもしれません。

  2. 一部ボスの難易度調整:
    全体的な難易度バランスは良好ですが、ごく一部のボスが他のボスと比べて極端に強く、人によってはそこで躓き、大きなフラストレーションを感じる可能性があります。特定の攻撃に対する有効な対策を見つけられないと、ひたすら同じパターンでやられてしまう、という状況に陥りやすいボスも存在します。これはソウルライクのお約束とも言えますが、もう少しスムーズに学習・突破できるようなバランスだと、より多くのプレイヤーが最後まで楽しめるかもしれません。

  3. 序盤の戦闘の単調さ:
    ゲーム序盤は、使用できる武器の種類やフェイブルアーツ、リージョンアーム、そしてP機関による強化が限られているため、戦闘の選択肢が少なく、やや単調に感じることがあるかもしれません。特に敵の攻撃パターンもシンプルなので、ガードや回避を繰り返して隙を突くという基本戦術に偏りがちです。武器カスタマイズやP機関がアンロックされ、様々な能力が解放されていく中盤以降になると、戦闘の幅が大きく広がり、俄然面白さが増します。序盤のこの「下積み」期間を乗り越えられるかどうかが、本作を楽しめるかどうかの分かれ道になる可能性があります。

  4. ストーリーテリングの断片性:
    物語は魅力的なのですが、ソウルライクの常として、主要な物語以外は環境ナラティブ(マップの雰囲気やアイテムの説明文など)やNPCの断片的な会話を通じて語られる部分が多く、全体像を把握するためにはプレイヤー自身が情報を繋ぎ合わせる必要があります。これはこのジャンルの醍醐味でもありますが、物語を一本道で分かりやすく追いたいプレイヤーにとっては、やや不親切に感じるかもしれません。

  5. ロード時間:
    ゲームのプラットフォームやPCのスペックにもよりますが、死亡時のリトライやエリア移動の際のロード時間が、他のゲームと比較してやや長いと感じることがあります。ソウルライクは死亡回数が多くなりがちなため、このロード時間は積み重なるとプレイのテンポを損なう可能性があります。

  6. カメラワーク:
    一部の狭い場所や、巨大なボスの足元に潜り込んで戦う際に、カメラの視点が見づらくなることがあります。敵の全体像や次に繰り出す攻撃が見えづらくなるため、被弾の原因となることもあります。

どんな人におすすめ?

  • ソウルライクが好きな人: 『DARK SOULS』シリーズ、『Bloodborne』、『SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE』などを楽しめた方には、間違いなくおすすめです。高い完成度と独自のシステムで、新たな刺激的な体験ができます。
  • 高難易度アクションに挑戦したい人: 難しいけれど、試行錯誤の末に勝利した時の達成感が好きな方。
  • ダークファンタジーやスチームパンク調の世界観が好きな人: 19世紀末ヨーロッパ風の退廃的で美しい世界観に魅了されるはずです。
  • 童話の再解釈やシリアスな物語に興味がある人: 有名な童話をベースにした、意外性のある大人向けの物語を楽しめます。「嘘」システムが好きな方にも。
  • 武器カスタマイズやビルド構築が好きな人: 刃と柄の組み合わせやP機関によるキャラクター育成で、自分だけのプレイスタイルを追求できます。

おすすめできない可能性のある人

  • 難易度の高いゲームが苦手な人: 本作はソウルライクであり、敵は強く、簡単に死にます。繰り返し挑戦する根気が必要です。
  • ストーリーを分かりやすく解説してほしい人: 断片的な情報から物語を読み解くスタイルが合わないかもしれません。
  • カジュアルにサクサク進めたい人: じっくり時間をかけて探索し、敵と対峙し、試行錯誤する必要があります。

まとめと総評

『ライズオブ P』は、古典童話「ピノキオ」をモチーフに、狂気に染まった美しい街を舞台にしたダークファンタジーアクションRPGです。その最も顕著な特徴は、フロム・ソフトウェアが生み出した「ソウルライク」というジャンルを非常に高い完成度で踏襲しつつ、独自のシステムや世界観、そして大胆な原作の再解釈によって、単なる模倣ではない、独自の魅力を確立している点にあります。

中毒性のある戦闘システムは、特に「ガードリゲイン」「フェイブルアーツ」「リージョンアーム」といった独自の要素と、無限の可能性を秘めた「武器カスタマイズ」によって、繰り返しプレイしても飽きさせない奥深さを持っています。敵の攻撃を見切り、ジャストガードを決め、隙を突いて強力な攻撃を叩き込む一連の流れは、プレイヤーに高い集中力と的確な判断を要求しますが、成功した時の快感は他のゲームではなかなか味わえません。

ベル・アポック調の美しくも退廃的な世界観は、本作の大きな魅力の一つです。精緻に作り込まれた街並み、個性的な敵やNPCのデザイン、そしてそれらを彩るサウンドは、プレイヤーを深く物語の世界に引き込みます。ピノキオの物語を「嘘をつくことで人間になる」という逆説的なテーマで再構築したストーリーも秀逸で、プレイヤーの選択が物語に影響するというシステムは、没入感をさらに高めてくれます。

難易度はソウルライクらしい歯ごたえのあるものですが、全体としてバランスが取れており、試行錯誤とキャラクターの成長によって乗り越えられるように設計されています。一部のボス戦で極端な難しさを感じる可能性はありますが、それはこのジャンルを愛するプレイヤーにとってはむしろ挑戦しがいのある要素かもしれません。

ソウルライクからの強い影響を感じさせる点は、本作のオリジナリティをどこまで評価するかという点で意見が分かれるかもしれませんが、こと「ソウルライクとしてのゲームプレイの面白さ」という点においては、本家にも劣らない、あるいは凌駕する部分さえあると言えるでしょう。開発元のNeowizとRound8 Studioが、このジャンルに対して深い理解と情熱を持って本作を制作したことが伝わってきます。

『ライズオブ P』は、ソウルライクというジャンルにおいて新たなスタンダードの一つを打ち立てた、紛れもない傑作です。ダークファンタジーの世界観、奥深いアクション、そしてユニークな物語に惹かれる方であれば、ぜひプレイしてみる価値があります。過酷なクラットの旅は、きっと忘れられない体験となるでしょう。

総合的な評価として、10点満点中、本作には9点をつけたいと思います。わずかな気になる点はあれど、それを補ってあまりあるほど、ゲームとしての完成度、オリジナリティのあるシステム、そして魅力的な世界観が高水準でまとめられています。ソウルライクジャンルのファンであれば必見であり、このジャンルに興味がある方にも、本作は優れた入門編となり得るポテンシャルを持っています。

謝辞

ここまで約5000語にもわたる『ライズオブ P』の詳細なレビュー記事をお読みいただき、誠にありがとうございました。本作の魅力が少しでも伝わったのであれば幸いです。クラットの街は危険に満ちていますが、その先には忘れられない冒険と感動が待っています。

もし『ライズオブ P』のプレイを検討されている方がいらっしゃいましたら、ぜひこの過酷で美しい旅に挑戦してみてください。そして、あなた自身の手で、ピノキオことPの物語を紡いでみてください。嘘をつくこと、そして人間になることの意味を、きっと深く考えることになるでしょう。

それでは、クラットでお会いしましょう。健闘を祈ります。

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