ラズパイでArch Linux ARM:手軽に始めるLinux開発環境

ラズパイでArch Linux ARM:手軽に始めるLinux開発環境

ラズベリーパイ(Raspberry Pi, ラズパイ)は、小型で低価格なシングルボードコンピュータであり、その汎用性から様々な用途で利用されています。その中でも、Linuxベースのオペレーティングシステム(OS)をインストールして、開発環境として活用するケースは非常に多く、特にArch Linux ARMは、そのカスタマイズ性の高さと最新のパッケージが利用できることから、高度な開発者やLinux愛好家から人気を集めています。

本記事では、ラズパイにArch Linux ARMをインストールする方法から、初期設定、基本的な使い方、そして開発環境の構築までを、詳細な手順と解説を交えて解説します。Arch Linux ARMをラズパイに導入することで、Linuxの深い知識を習得し、より自由度の高い開発環境を手に入れることができるでしょう。

1. Arch Linux ARMとは

Arch Linux ARMは、x86_64アーキテクチャ向けに開発されたArch Linuxを、ARMアーキテクチャに対応させたものです。Arch Linuxの哲学である「シンプルさ」「最新性」「ユーザー中心」を継承しており、必要最低限のパッケージのみで構成され、ユーザーが自由にカスタマイズできることが特徴です。

Arch Linux ARMのメリット

  • シンプルさ: 必要最低限のパッケージで構成されているため、起動が速く、リソース消費も少ない。
  • 最新性: ローリングリリースモデルを採用しており、常に最新のパッケージを利用できる。
  • カスタマイズ性: ユーザーが自由にパッケージを選択し、システムをカスタマイズできる。
  • AUR(Arch User Repository): コミュニティによって管理される豊富なパッケージリポジトリを利用できる。
  • Pacman: 高速で使いやすいパッケージマネージャ。
  • 学習機会: システムの構築から設定までを自分で行うため、Linuxの知識を深めることができる。

Arch Linux ARMのデメリット

  • 難易度: インストールや設定が他のLinuxディストリビューションに比べてやや難しい。
  • メンテナンス: システムのメンテナンスを自分で行う必要がある。
  • 情報収集: 問題が発生した場合、自分で解決策を探す必要がある場合がある。

2. 必要なもの

ラズパイにArch Linux ARMをインストールするには、以下のものが必要です。

  • ラズベリーパイ本体: Raspberry Pi 3, 4, 400, 5など、Arch Linux ARMが対応しているモデル。
  • microSDカード: 8GB以上を推奨。
  • microSDカードリーダー/ライター: microSDカードにArch Linux ARMのイメージを書き込むために必要。
  • PC: microSDカードへのイメージ書き込みや、ラズパイへのSSH接続などに使用。
  • LANケーブルまたはWi-Fi: ラズパイをネットワークに接続するために必要。
  • 電源アダプタ: ラズパイに電源を供給するために必要。
  • キーボードとマウス: 初期設定時に必要。SSH接続できる場合は不要。
  • モニター: 初期設定時に必要。SSH接続できる場合は不要。

3. Arch Linux ARMイメージのダウンロード

まず、Arch Linux ARMの公式サイトから、お使いのラズパイモデルに対応したイメージファイルをダウンロードします。以下のURLにアクセスしてください。

https://archlinuxarm.org/platforms

このページで、お使いのラズパイのモデル(例えば、Raspberry Pi 4であれば”Raspberry Pi 4″)を見つけ、対応するダウンロードリンクをクリックして、イメージファイルをダウンロードします。イメージファイルは、通常、”.img.xz”という拡張子で圧縮されています。

4. イメージファイルの書き込み

ダウンロードしたイメージファイルを、microSDカードに書き込みます。この作業には、専用のツールが必要です。代表的なツールとしては、以下のものがあります。

  • Etcher: シンプルで使いやすく、Windows、macOS、Linuxに対応しています。
  • Rufus: Windows専用ですが、高速に書き込みできます。
  • dd: Linux/macOSに標準搭載されているコマンドラインツール。

ここでは、Etcherを使用した手順を説明します。

  1. Etcherをダウンロードし、インストールします。
    https://etcher.balena.io/
  2. Etcherを起動します。
  3. “Flash from file”をクリックし、ダウンロードしたArch Linux ARMのイメージファイル(.img.xz)を選択します。
  4. “Select target”をクリックし、microSDカードを選択します。
  5. “Flash!”をクリックし、イメージファイルの書き込みを開始します。

書き込みが完了するまで待ちます。書き込みが完了すると、Etcherが自動的にベリファイ(検証)を行います。

5. ラズパイの起動と初期設定

microSDカードへのイメージ書き込みが完了したら、microSDカードをラズパイに挿入し、キーボード、マウス、モニターを接続し、LANケーブル(またはWi-Fiの設定)を接続してから、電源アダプタを接続してラズパイを起動します。

ラズパイが起動すると、コンソールが表示されます。初期ユーザー名は”root”、パスワードは”root”です。

5.1 ネットワーク設定

まず、ネットワークに接続されていることを確認します。

bash
ip addr

上記コマンドを実行し、eth0またはwlan0にIPアドレスが割り当てられているかを確認します。

  • 有線LANの場合: LANケーブルを接続していれば、自動的にIPアドレスが割り当てられているはずです。
  • Wi-Fiの場合: Wi-Fiの設定を行う必要があります。以下の手順で設定します。

    1. iwctlコマンドを実行して、Wi-Fi設定ツールを起動します。
    2. device listコマンドを実行し、Wi-Fiデバイスの名前を確認します(例: wlan0)。
    3. station wlan0 scanコマンドを実行し、利用可能なWi-Fiネットワークをスキャンします。
    4. station wlan0 get-networksコマンドを実行し、利用可能なWi-Fiネットワークの一覧を表示します。
    5. station wlan0 connect <SSID>コマンドを実行し、接続したいWi-FiネットワークのSSIDを入力します(例: station wlan0 connect MyWiFi)。
    6. パスワードを求められたら、Wi-Fiネットワークのパスワードを入力します。
    7. exitコマンドを実行して、Wi-Fi設定ツールを終了します。

ネットワーク接続が確立したら、以下のコマンドでインターネットに接続できるか確認します。

bash
ping archlinuxarm.org

5.2 パッケージマネージャの設定

Arch Linux ARMでは、Pacmanというパッケージマネージャを使用します。Pacmanの設定ファイルを編集し、ミラーリストを更新します。

bash
nano /etc/pacman.d/mirrorlist

このファイルには、パッケージサーバー(ミラー)の一覧が記述されています。日本のミラーサーバーを優先的に使用するように、ファイルの先頭に以下の行を追加します。

Server = http://ftp.riken.jp/Linux/archlinux/$repo/os/$arch
Server = http://ftp.tsukuba.wide.ad.jp/Linux/archlinux/$repo/os/$arch

編集が終わったら、ファイルを保存して閉じます。そして、以下のコマンドでパッケージデータベースを更新します。

bash
pacman -Syy

5.3 システムの更新

パッケージデータベースの更新が完了したら、以下のコマンドでシステム全体を更新します。

bash
pacman -Syu

このコマンドを実行すると、インストールされているすべてのパッケージが最新バージョンに更新されます。更新には時間がかかる場合があります。

5.4 タイムゾーンの設定

タイムゾーンを設定します。以下のコマンドを実行し、タイムゾーンを選択します。

bash
timedatectl set-timezone Asia/Tokyo

5.5 ロケールの設定

ロケールを設定します。/etc/locale.genファイルを編集し、使用するロケールのコメントアウトを解除します。

bash
nano /etc/locale.gen

例えば、日本語ロケールを使用する場合は、ja_JP.UTF-8 UTF-8の行のコメントアウトを解除します。

編集が終わったら、ファイルを保存して閉じます。そして、以下のコマンドでロケールを生成します。

bash
locale-gen

次に、/etc/locale.confファイルを作成し、ロケールを設定します。

bash
nano /etc/locale.conf

ファイルに以下の行を追加します。

LANG=ja_JP.UTF-8

編集が終わったら、ファイルを保存して閉じます。

5.6 キーボードレイアウトの設定

キーボードレイアウトを設定します。/etc/vconsole.confファイルを作成し、キーボードレイアウトを設定します。

bash
nano /etc/vconsole.conf

ファイルに以下の行を追加します。

KEYMAP=jp106

編集が終わったら、ファイルを保存して閉じます。

5.7 ホスト名の設定

ホスト名を設定します。/etc/hostnameファイルを作成し、ホスト名を設定します。

bash
nano /etc/hostname

ファイルに好きなホスト名を入力します(例: raspberrypi)。

編集が終わったら、ファイルを保存して閉じます。次に、/etc/hostsファイルを編集し、ホスト名をlocalhostに関連付けます。

bash
nano /etc/hosts

ファイルに以下の行を追加します。

127.0.0.1 localhost
::1 localhost
127.0.1.1 raspberrypi.localdomain raspberrypi

raspberrypiは、先ほど設定したホスト名に置き換えてください。編集が終わったら、ファイルを保存して閉じます。

5.8 rootパスワードの変更

初期パスワードは”root”なので、必ず変更してください。以下のコマンドを実行し、新しいパスワードを設定します。

bash
passwd

5.9 一般ユーザーの作成

セキュリティのため、rootユーザーで作業するのではなく、一般ユーザーを作成して作業することを推奨します。以下のコマンドで新しいユーザーを作成します。

bash
useradd -m -G wheel <username>
passwd <username>

<username>は、作成したいユーザー名に置き換えてください。次に、sudoコマンドを使用できるように、wheelグループに所属するユーザーにsudo権限を付与します。/etc/sudoersファイルを編集します。

bash
EDITOR=nano visudo

ファイルの%wheel ALL=(ALL:ALL) ALLの行のコメントアウトを解除します。

5.10 SSHサーバーの有効化

SSHサーバーを有効化すると、別のPCからラズパイにリモート接続できるようになります。以下のコマンドを実行して、SSHサーバーを有効化します。

bash
systemctl enable sshd
systemctl start sshd

5.11 自動ログインの無効化

セキュリティのため、自動ログインを無効化することを推奨します。/etc/systemd/system/[email protected]/autologin.confファイルを作成し、自動ログインを無効化します。

bash
mkdir /etc/systemd/system/[email protected]
nano /etc/systemd/system/[email protected]/autologin.conf

ファイルに以下の内容を記述します。

[Service]
ExecStart=
ExecStart=-/usr/bin/agetty --noclear %I $TERM

編集が終わったら、ファイルを保存して閉じます。

5.12 再起動

設定が完了したら、以下のコマンドでラズパイを再起動します。

bash
reboot

6. 開発環境の構築

ラズパイにArch Linux ARMをインストールしたら、開発環境を構築します。ここでは、代表的な開発環境の構築手順を説明します。

6.1 Gitのインストール

Gitは、バージョン管理システムです。以下のコマンドでインストールします。

bash
sudo pacman -S git

6.2 Pythonのインストール

Pythonは、汎用的なプログラミング言語です。以下のコマンドでインストールします。

bash
sudo pacman -S python

Pythonのパッケージ管理ツールであるpipもインストールします。

bash
sudo pacman -S python-pip

6.3 Node.jsのインストール

Node.jsは、JavaScriptの実行環境です。以下のコマンドでインストールします。

bash
sudo pacman -S nodejs npm

6.4 Dockerのインストール

Dockerは、コンテナ仮想化技術です。以下のコマンドでインストールします。

bash
sudo pacman -S docker

Dockerデーモンを起動し、自動起動するように設定します。

bash
sudo systemctl enable docker
sudo systemctl start docker

6.5 エディタのインストール

テキストエディタは、プログラムのソースコードを編集するために必要です。代表的なエディタとしては、以下のものがあります。

  • Vim: 高機能なテキストエディタ。
  • Emacs: 高機能なテキストエディタ。
  • Nano: シンプルで使いやすいテキストエディタ。
  • VS Code: Microsoft製の高機能なエディタ。

ここでは、VS Codeをインストールする手順を説明します。VS Codeは、AUR(Arch User Repository)からインストールできます。AURを使用するためには、まず、yayというAURヘルパーをインストールする必要があります。

bash
sudo pacman -S --needed git base-devel
git clone https://aur.archlinux.org/yay.git
cd yay
makepkg -si

yayがインストールされたら、以下のコマンドでVS Codeをインストールします。

bash
yay -S visual-studio-code-bin

7. まとめ

本記事では、ラズパイにArch Linux ARMをインストールする方法から、初期設定、基本的な使い方、そして開発環境の構築までを詳細に解説しました。Arch Linux ARMは、カスタマイズ性が高く、最新のパッケージを利用できるため、高度な開発環境を構築するのに適しています。ぜひ、本記事を参考に、ラズパイでArch Linux ARMを活用し、自由度の高い開発環境を構築してみてください。

8. トラブルシューティング

Arch Linux ARMのインストールや設定で問題が発生した場合、以下の点をチェックしてみてください。

  • ネットワーク接続: インターネットに接続されているか確認してください。
  • イメージファイルの書き込み: イメージファイルが正しく書き込まれているか確認してください。
  • 設定ファイル: 設定ファイルの内容に誤りがないか確認してください。
  • Arch Linux Wiki: Arch Linuxに関する情報は、Arch Linux Wikiに豊富に掲載されています。
    https://wiki.archlinux.org/

9. 今後の学習

Arch Linux ARMをさらに活用するために、以下のテーマについて学習することをおすすめします。

  • systemd: システムの起動やサービス管理を行うための仕組み。
  • Linuxカーネル: OSの中核となる部分。
  • シェルスクリプト: コマンドを自動化するためのスクリプト言語。
  • コンテナ技術: Dockerなどのコンテナ技術を活用することで、開発環境を簡単に構築・配布できる。

Arch Linux ARMは、奥深い世界です。積極的に学習し、様々なことに挑戦することで、Linuxの知識を深め、より高度な開発スキルを身につけることができるでしょう。

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