NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S レビュー・評価

NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S レビュー・評価:Zマウント望遠ズームの決定版は伊達じゃない

はじめに:Zマウントシステム待望の超望遠ズーム

ニコンZマウントシステムが登場して以降、多くのユーザーが待ち望んでいたレンズの一つに、焦点距離100-400mmクラスの望遠ズームレンズがありました。風景、鉄道、航空機、モータースポーツ、そして野鳥撮影など、幅広いジャンルで活躍するこのクラスのレンズは、システムを構築する上で非常に重要なピースとなります。その待望のレンズとして、2021年12月に満を持して登場したのが「NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S」(以下、Z 100-400mm S)です。

ニコンのZマウントレンズにおいて、「S-Line」を冠するレンズは、光学性能、操作性、ビルドクオリティの全てにおいて最高レベルを追求したレンズ群です。このZ 100-400mm Sも、その名の通りS-Lineの一員として開発され、発表当初から高い注目を集めました。特に、Fマウント時代の名玉AF-S NIKKOR 80-400mm f/4.5-5.6G ED VRの後継とも言える位置づけであり、Zマウントの高いポテンシャルを最大限に引き出すべく、ゼロから設計されたこのレンズには、多くのユーザーから期待が寄せられていました。

本記事では、このNIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR Sを徹底的にレビューし、その実力と魅力に迫ります。外観、操作性、光学性能、AF性能、VR性能、そして実際の撮影における使用感まで、多角的な視点から詳細に評価します。果たして、このレンズはZマウントシステムにおける望遠ズームの決定版と呼ぶに相応しい性能を持っているのでしょうか。その答えを、深掘りしていきましょう。

外観と操作性:S-Lineに恥じない精緻な造り

まず、Z 100-400mm Sを手にした時の第一印象は、「さすがS-Line」というものでした。マットなブラック仕上げの鏡筒は非常に質感が高く、所有欲を満たしてくれます。金属と高品位なプラスチック素材を組み合わせたボディは剛性感があり、悪条件下での撮影でも安心して使用できそうです。

サイズと重量

サイズは最大径が約98mm、長さが収納時で約222mm(レンズマウント基準面からレンズ先端まで)です。重量は約1,355g(三脚座を含む)で、超望遠ズームとしては比較的軽量な部類に入ります。FマウントのAF-S 80-400mmG(約1,570g)や他社同クラスのズームレンズと比較しても、十分に軽量コンパクトと言えます。Z 6IIやZ 7II、Z 9などのフルサイズボディに装着してもバランスが良く、手持ちでの撮影も苦になりにくいです。

各部の名称と機能

鏡筒には様々なリングやスイッチが配置されており、操作性はS-Lineらしく洗練されています。

  • ズームリング: 前方に配置されており、回転角は約80度と比較的小さめです。これにより、100mmから400mmまで素早くズーム操作が可能です。ズームリングのトルク感は適度で滑らかであり、ズーム時に鏡筒が繰り出す際の感触も非常にスムーズです。これにより、フレーミングの微調整が快適に行えます。
  • フォーカスリング: ズームリングの後方に配置されています。MF時の操作感は非常に滑らかで、ピントの微調整が容易です。バイワイヤ方式ですが、リニアなレスポンス設定も可能であり、MFでの置きピンなどにも対応しやすい設計です。
  • コントロールリング: フォーカスリングのさらに後方に配置されています。ZマウントS-Lineレンズの特徴的な機能で、絞り、露出補正、ISO感度など、任意の機能を割り当てて使用できます。クリック感のないスムーズな回転も設定可能で、動画撮影時の絞り操作などに便利です。
  • L-Fnボタン: 鏡筒の四方に配置されたカスタマイズ可能なボタンです。AFロック、AF/AEロック、再生ボタンなど、ボディ側の設定で様々な機能を割り当てられます。特に望遠レンズの場合、カメラを構えたまま素早く操作できるL-Fnボタンは非常に重宝します。
  • DISPLAYボタン: レンズ鏡筒上部にある情報パネルの表示内容を切り替えるボタンです。
  • 情報パネル: 鏡筒上部に搭載された有機ELディスプレイです。絞り値、焦点距離、撮影距離、被写界深度などを表示できます。暗所でも視認性が高く、現在の設定を素早く確認できるのは便利です。
  • ズームロックスイッチ: ズームリングの手前に配置されています。100mm端でズームリングを固定し、レンズが自重で伸びてしまう「ズームクリープ」を防ぎます。持ち運び時や、下向きに構える際に役立ちます。
  • 三脚座: 取り外し可能な回転式の三脚座が標準で付属します。アルカスイス互換形状になっており、多くの三脚雲台に直接取り付け可能です。縦位置・横位置の切り替えもスムーズに行えます。金属製で非常に堅牢な造りです。

ビルドクオリティ

S-Lineに相応しく、防塵・防滴に配慮した設計がなされています。各部のシーリングや鏡筒の接合部など、細部までしっかりと作り込まれており、多少の悪天候下でも安心して撮影を続けられます。レンズの前面にはフッ素コートが施されており、水滴や汚れが付着しにくく、メンテナンスも容易です。

全体として、Z 100-400mm Sの外観と操作性は非常に優れています。S-Lineらしい精緻な造りと、撮影者が快適に操作できるような配慮が随所に感じられます。特に、ズームリングとフォーカスリングの滑らかさ、コントロールリングやL-Fnボタンの配置は、実戦的な使用において大きなアドバンテージとなります。

光学性能:S-Lineが誇る描写力

望遠ズームレンズにおいて最も重要視されるのが光学性能です。特にテレ端400mmでの描写性能は、このレンズの価値を大きく左右します。Z 100-400mm SはS-Lineとして、最新の光学設計と高品質なレンズ素材、そして高度なコーティング技術が投入されています。

レンズ構成

レンズ構成は19群25枚(EDレンズ6枚、スーパーEDレンズ2枚、SRレンズ1枚、アルネオコート、ナノクリスタルコート、フッ素コートあり)という贅沢なものです。ED(特殊低分散)レンズとスーパーEDレンズを多数使用することで、色収差を効果的に補正しています。また、SR(Short-wavelength Refractive)レンズは、特に短波長の光(青色の光)を大きく屈折させる特性を持ち、これにより色収差の補正に加え、レンズの全長短縮にも寄与しています。

実写レビューに基づく評価

  • 解像度:
    ズーム全域、特に開放F値から非常にシャープな描写を見せます。広角端100mmから望遠端400mmまで、中央部はもちろん、周辺部まで安定した高解像度を実現しています。特にテレ端400mm、開放F5.6での描写は圧巻です。遠景の被写体でも細部までしっかりと解像し、コントラストも高いです。風景写真などで、画面の隅々までシャープに写したい場合にその威力を発揮します。絞りを一段絞るとさらに描写が向上しますが、開放でも実用上全く問題ないレベルです。ポートレートなどでは、このシャープさが肌の質感を強調しすぎる場合もあるかもしれませんが、風景や動物などの撮影では非常に好ましい特性です。
  • 色収差:
    EDレンズやスーパーEDレンズを多数使用している効果は絶大です。通常、望遠レンズ、特にズームレンズでは発生しやすい軸上色収差や倍率色収差が非常に良好に補正されています。高コントラストな被写体のエッジ部分にも色のにじみはほとんど見られません。これは、画像の品質を大きく左右する重要な要素であり、S-Lineらしい高い補正能力を示しています。
  • 歪曲収差:
    広角端100mmではわずかに糸巻き型、望遠端400mmではわずかにタル型(またはほぼゼロ)の歪曲が見られますが、非常に少なく良好に補正されています。特に風景や建築物の撮影で、直線が歪むのを気にすることなく撮影できます。カメラ内補正やRAW現像ソフトで簡単に修正可能なレベルですが、元々少ないに越したことはありません。
  • 周辺光量落ち(口径食):
    開放F値では、特に広角端100mmや望遠端400mmでわずかに周辺光量落ちが見られます。しかし、これも目立つほどではなく、実写においてはほとんど気にならないレベルです。F8程度まで絞ればほぼ解消されます。Fマウントの同クラスレンズと比較しても、周辺光量落ちはより良好に補正されています。
  • 逆光耐性:
    アルネオコートとナノクリスタルコートというニコンの誇る二つの最先端コーティング技術が採用されています。これにより、強い光源が画面内に入るような逆光条件下でも、ゴーストやフレアの発生を極めて効果的に抑制しています。太陽を画面内に入れて撮影する場合でも、コントラストの低下が少なく、クリアな描写が得られます。これは、特に風景写真や日中の航空機撮影などで大きなアドバンテージとなります。
  • ボケ味:
    S-Lineレンズは、シャープな描写性能と同時に、美しく自然なボケ味も追求しています。Z 100-400mm Sも、その期待に応えるボケ味を持っています。望遠レンズらしく背景が大きくボケますが、二線ボケや年輪ボケのような不快なボケは少なく、比較的滑らかで自然なグラデーションを描きます。特に、被写体との距離を開けて背景を整理した場合、柔らかなボケで被写体を際立たせることができます。玉ボケは、特に周辺部で口径食の影響を受けやすいですが、中心部は比較的円形を保ち、エッジも硬すぎず自然です。開放F値が可変であるため、焦点距離によってボケの量が変わる点は考慮する必要がありますが、総じて望遠ズームとしては非常に良好なボケ味と言えます。
  • 近接撮影性能:
    このレンズの隠れた(あるいは顕著な)魅力の一つが、その近接撮影性能の高さです。最短撮影距離は、広角端100mmで0.75m、望遠端400mmで0.98mと、ズーム全域で非常に短いのが特徴です。特にテレ端400mmで1mを切る最短撮影距離は驚異的です。これにより、テレマクロ的な撮影が可能となり、最大撮影倍率は400mm時で約0.38倍に達します。小さな昆虫や花などを大きく写し出すことができるため、望遠ズーム一本で幅広い被写体に対応できます。この高い近接性能は、他の同クラスのレンズにはない大きな強みと言えるでしょう。

光学性能を総合的に見ると、NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR Sは、S-Lineの名に恥じない、非常に高い描写性能を持っています。特にテレ端400mmでの解像度、色収差の補正、逆光耐性は目覚ましいものがあります。高い近接性能も相まって、このレンズ一本で様々な撮影表現が可能になります。

AF性能:高速・高精度な追従性

望遠レンズ、特に動体を追う撮影が多いこのクラスのレンズにとって、AF性能は描写性能と同じくらい重要です。Z 100-400mm Sは、Zマウントシステムのために最適化されたAFシステムを搭載しています。

AF駆動には、ステッピングモーター(STM)またはそれに類するニコン独自のマルチフォーカス方式などが採用されていると考えられます(公式には詳細なモーターの種類は公開されていませんが、非常に高速で静粛な駆動を実現しています)。

合焦速度と追従性

静体への合焦は非常に高速かつ正確です。迷うことなくスッとピントが合焦します。動体追従性能も優れており、鉄道や航空機、モータースポーツなどの高速で移動する被写体や、野鳥などの動きの予測しにくい被写体に対しても、粘り強く追従し続けます。特に、Z 9やZ 8といった最新のボディに搭載されている高性能な被写体検出AFと組み合わせることで、そのポテンシャルを最大限に引き出すことができます。一度被写体を捉えれば、高い精度でピントを合わせ続けるため、決定的な瞬間を逃しにくいです。

AF精度

S-Lineレンズらしい高いAF精度も特徴です。特に開放F値での撮影において、狙った位置にピンポイントで合焦する信頼性の高さは、歩留まりの向上に大きく貢献します。

AF時の静音性

AF駆動は非常に静かです。ほぼ無音でピント合わせが行われるため、動画撮影時にもAF駆動音が気になることはありません。静かな環境での撮影、例えば野生動物や昆虫などを驚かせたくない場合にも有利です。

動画撮影時のAF性能

動画撮影においても、スムーズで静粛なAF駆動は大きなメリットです。フォーカスブリージング(フォーカス位置の変化によって画角が変動する現象)も非常に小さく抑えられており、動画撮影時の画角変化が気になりにくい設計です。これもS-Lineとしてのこだわりが感じられる点です。

AF性能に関しても、Z 100-400mm Sは非常に高いレベルにあります。高速かつ正確な合焦、優れた動体追従性能、そして静粛性は、あらゆる撮影シーンでユーザーを強力にサポートしてくれます。

手ブレ補正(VR)性能:安定したフレーミングと低速シャッター

望遠レンズでの手持ち撮影において、手ブレ補正機構(VR)は欠かせない機能です。特に400mmのような超望遠域では、わずかな揺れでも大きなブレにつながるため、VRの性能が重要になります。

Z 100-400mm Sは、光学式VR機構を搭載しており、カタログスペックでは5.5段分の手ブレ補正効果を発揮するとされています(CIPA規格準拠)。さらに、対応するZカメラボディ(Z 6II, Z 7II, Z 9など)と組み合わせることで、ボディ内手ブレ補正(VR)とレンズ内VRが協調する「シンクロVR」に対応しており、最大5.5段分(※Z 9使用時)の効果を得られます。

手ブレ補正効果の実感

実写において、この5.5段分という補正効果は非常に強力です。400mmという焦点距離でも、かなりの低速シャッター速度で手持ち撮影が可能です。例えば、通常400mmでの手ブレしないシャッター速度の目安は1/400秒ですが、5.5段分の補正があれば、計算上は1/10秒程度まで手ブレを抑えられることになります。もちろん、撮影者の腕や被写体によって変わりますが、私が試した限りでも、1/30秒や1/15秒といったシャッター速度でも、歩留まり良くシャープな写真を撮影することができました。これにより、光量の少ない時間帯や室内での撮影でも、ISO感度を上げすぎずに手持ちで撮影する選択肢が広がります。また、ファインダー像も非常に安定するため、フレーミングが容易になり、被写体の追従も快適に行えます。

流し撮りモード

通常モードに加え、流し撮りに適したモード([SPORT]モードなど)も搭載されています。このモードを使用することで、手ブレ補正が特定の方向にのみ働き、流し撮り時の縦方向の揺れは補正しつつ、横方向のパンニングは邪魔しないように制御されます。これにより、背景をきれいに流した迫力ある写真を撮影することができます。

シンクロVRの効果

シンクロVRに対応したボディで使用すると、より強力な手ブレ補正効果を得られることがあります。特に広角端付近では、ボディ内VRとレンズ内VRの連携により、手持ちでの低速シャッター撮影がさらに安定します。望遠端でも、フレーミングの安定性が向上し、精密な構図決定がしやすくなります。

Z 100-400mm SのVR性能は、望遠ズームレンズとして最高レベルと言えます。5.5段分という強力な補正効果により、手持ち撮影の可能性が大きく広がります。特に、機動性が求められるシーンや、三脚の使用が難しい場所での撮影において、この強力なVRは大きな味方となります。

実写レビュー:様々なシーンでの使い勝手

実際にNIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR Sを持って、様々な被写体を撮影してみました。その使用感や、各焦点距離での特性について記述します。

風景撮影

100mmは風景の一部を切り取るのに適した焦点距離です。S-Lineらしい解像度とコントラストの高さは、遠景の山並みや建物をシャープに描写するのに最適です。400mmまでズームすれば、肉眼では捉えきれない遠くのディテールや、圧縮効果を活かした迫力ある構図を作ることができます。前述の通り、周辺部まで安定した描写なので、画面全体でシャープさが求められる風景写真にも安心して使えます。強力なVRは、風のある場所や不安定な足場での手持ち撮影にも役立ちます。

鉄道・航空機・モータースポーツ

これらの動体撮影は、望遠ズームの最も得意とするジャンルの一つです。高速・高精度なAFと優れた追従性能により、猛スピードで移動する被写体もしっかりと捉え続けます。400mmという焦点距離は、比較的遠くの被写体を引き寄せるのに十分な長さです。流し撮りモードを使えば、動きのある写真も効果的に撮影できます。強力なVRは、流し撮り時の垂直方向のブレを抑えるのにも効果的です。また、比較的軽量なため、長時間手持ちで構えていても疲れにくいのは大きなメリットです。

野鳥撮影

野鳥撮影は、一般的にさらに長い焦点距離(600mm以上)が好まれることが多いですが、400mmでも十分楽しめるシーンは多いです。特に、比較的近くに来てくれる野鳥や、公園などでの撮影では活躍します。優れたAF追従性能は、予測不可能な動きをする野鳥を追うのに役立ちます。そして何より、驚異的な近接撮影性能が非常に便利です。例えば、止まっている野鳥や昆虫などを、近づいて大きく写したい場合に、最短撮影距離が短いというのは大きな強みとなります。最大撮影倍率0.38倍は、マクロレンズに近い感覚で使えるレベルです。

ポートレート

100mmやそれ以上の焦点距離は、ポートレート撮影において、適度な距離感と自然なパースペクティブで撮影するのに適しています。開放F値がF4.5-5.6と特別明るいわけではありませんが、望遠効果による背景の圧縮と、比較的良好なボケ味により、被写体を背景から分離させて立体感のある描写が得られます。特に、全身やバストアップなどのポートレートに適しています。

近接撮影(テレマクロ)

このレンズの大きな特徴である近接撮影性能は、様々な被写体で威力を発揮します。花や昆虫、テーブルフォトなど、通常のマクロレンズでは難しい距離から、望遠効果を活かして背景を整理しつつ、被写体を大きく写すことができます。最短撮影距離がズーム全域で短いので、被写体を見つけたらすぐにズームとフォーカスで対応できる機動性があります。

使い勝手全体のまとめ

Z 100-400mm Sは、100mmから400mmまでという非常に実用的なズーム域をカバーし、その全域で高い描写性能を発揮します。高速・高精度なAF、強力なVR、そして驚異的な近接撮影性能が、このレンズ一本で幅広い撮影シーンに対応できる汎用性の高さを実現しています。ズーム操作やフォーカス操作もスムーズで、S-Lineらしい高い操作性は、撮影時のストレスを軽減し、撮影者が意図した通りの表現をサポートしてくれます。特に、手持ちでの機動性を重視するユーザーにとって、このレンズは非常に魅力的な選択肢となるでしょう。

他のレンズとの比較:最適な選択肢を見つけるために

Z 100-400mm Sを評価する上で、他のレンズとの比較は避けて通れません。Fマウントの同クラスレンズや、同じZマウントの他の選択肢、競合他社のレンズなどと比較検討してみましょう。

Fマウント AF-S NIKKOR 80-400mm f/4.5-5.6G ED VRとの比較

Z 100-400mm Sの最も直接的な先代とも言えるレンズです。Fマウント時代に高い評価を得ていたレンズですが、Zマウント用に最適化されたZ 100-400mm Sは、描写性能、AF速度、VR性能、そして近接撮影性能の全てにおいて、AF-S 80-400mmGを上回っています。特に、Zマウントの高い解像度に対応するために最適化された光学設計と、Zボディとの連携がスムーズなAFシステムは大きな違いです。また、Z 100-400mm Sの方がわずかに軽量コンパクトであり、ズームリングの操作感なども現代的なレンズとして洗練されています。価格はZレンズの方が高価ですが、その性能差を考えれば妥当と言えるでしょう。Fマウント資産があり、FTZアダプターを使う場合はAF-S 80-400mmGも選択肢になりますが、Zマウントシステムで最高の性能を求めるならZ 100-400mm Sが圧倒的に優位です。

競合他社レンズとの比較(Canon RF 100-400mm F5.6-8 IS USM、Sony FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSSなど)

キヤノンやソニーからも同クラスのレンズが発売されています。それぞれのシステムで最適化されており、一概に優劣をつけるのは難しいですが、スペックやレビューを見る限り、Z 100-400mm Sは描写性能、AF性能、VR性能においてこれらの競合レンズと肩を並べる、あるいは一部で凌駕する高いレベルにあります。特に、Z 100-400mm Sの近接撮影性能の高さは、他の追随を許さない大きな特徴です。キヤノンのRF 100-400mm F5.6-8 IS USMは非常に軽量コンパクトで価格も抑えられていますが、開放F値が暗く、描写性能やビルドクオリティはS-LineクラスのZレンズの方が優れています。ソニーのFE 100-400mm GMは高い評価を得ていますが、Z 100-400mm Sもそれに匹敵する性能を持っていると言えます。

NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR S + テレコンバーターとの比較

同じS-Lineのズームレンズとして、F2.8通しの明るさを持つNIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR SにZ TELECONVERTER TC-1.4xまたはTC-2.0xを装着するという選択肢もあります。

  • TC-1.4x装着時: 焦点距離は98-280mm f/4-5.6相当となり、Z 100-400mm Sの広角側と一部重複します。F値が一段明るくなります。
  • TC-2.0x装着時: 焦点距離は140-400mm f/5.6-8相当となり、Z 100-400mm Sの望遠側と重複します。F値が二段暗くなります。

比較ポイント:

  • 焦点距離: TC装着時は最大400mmですが、Z 100-400mm Sは100-400mmを単体でカバーします。ズーム域の柔軟性ではZ 100-400mm Sが優れます。
  • 明るさ: Z 70-200mm F2.8Sは単体でF2.8通し、TC-1.4x装着時でもF4-5.6相当となり、Z 100-400mm S(F4.5-5.6)より明るい焦点距離域があります。暗所での撮影やボケ量を重視する場合は、Z 70-200mm F2.8S + TCの組み合わせが有利な場合があります。
  • 描写性能: Z 70-200mm F2.8SはS-Lineの中でも最高の描写性能を誇りますが、テレコンを装着することで若干描写性能が低下します。Z 100-400mm Sは単体で400mmまで最適化されており、特にテレ端400mmでの描写は非常に優れています。TC-2.0xを装着したZ 70-200mm F2.8Sの400mm F8での描写と、Z 100-400mm Sの400mm F5.6での描写を比較すると、Z 100-400mm Sの方が有利なシーンが多いでしょう。
  • 取り回し: Z 70-200mm F2.8Sにテレコンを装着すると、全長が長くなり、重さも増します。Z 100-400mm Sは単体で400mmまでカバーできるため、レンズ交換の手間がなく、取り回しは優れています。
  • 価格: Z 70-200mm F2.8Sとテレコンバーターを組み合わせる場合、合計価格はZ 100-400mm Sよりもかなり高価になります。

結論として、明るさや汎用性の高い200mmまでのF2.8ズームが必要で、さらに必要に応じてテレコンで望遠域をカバーしたい場合はZ 70-200mm F2.8S + TCが適しています。一方、主に100-400mmの焦点距離を使い、描写性能、取り回し、そして近接性能を重視するならば、Z 100-400mm Sが最適な選択となります。

今後のZマウント望遠ズームレンズとの棲み分け

Zマウントシステムでは、今後さらに望遠ズームレンズがラインナップされることが予想されます。例えば、すでに発表されているNIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VRのような、さらに長い焦点距離をカバーするレンズが登場します。

Z 180-600mm f/5.6-6.3 VRは、より遠距離の被写体(特に野鳥や野生動物など)を専門的に狙いたいユーザーにとって魅力的な選択肢となるでしょう。しかし、100mmからカバーできるZ 100-400mm Sの方が、より幅広いシーンに対応でき、近接性能も優れています。また、Z 180-600mmは恐らくZ 100-400mm Sよりも大きく重くなることが予想されます。

したがって、Z 100-400mm Sは、機動性を重視しつつ、100mmから400mmまでの実用的なズーム域と高い描写性能、汎用性を求めるユーザーにとって、今後もZマウント望遠ズームレンズラインナップの中核をなす存在であり続けると考えられます。

長所と短所:冷静な評価

長所

  • 圧倒的な描写性能: ズーム全域、特にテレ端400mmでの解像度とコントラストは素晴らしい。色収差や歪曲収差も良好に補正されている。S-Lineの名に恥じない高画質。
  • 高速・高精度なAF: 静体・動体問わず、迅速かつ正確にピントを合わせる。優れた動体追従性能。静粛性も高い。
  • 強力な手ブレ補正: 光学VR単体で5.5段分、シンクロVR対応ボディと組み合わせることで、手持ち撮影の可能性を大きく広げる。フレーミングの安定性も向上。
  • 優れた操作性とビルドクオリティ: S-Lineらしい精緻な造り、適度なトルク感のリング、便利なカスタマイズボタン、情報パネルなど、使いやすさが追求されている。防塵防滴設計。
  • 驚異的な近接撮影性能: 最短撮影距離が短く、テレ端400mmで0.98m、最大撮影倍率約0.38倍は、このクラスのレンズとして特筆に値する。テレマクロ的な使い方が可能。
  • テレコンバーター対応: Z TELECONVERTER TC-1.4xおよびTC-2.0xに対応しており、さらに焦点距離を伸ばすことが可能。TC-1.4x装着時で560mm F8、TC-2.0x装着時で800mm F11相当となる。描写性能の低下は避けられないが、超望遠域が必要な場合に有効な選択肢となる。

短所

  • 価格: S-Lineレンズであるため、価格は比較的高価です。気軽に購入できる価格帯ではないかもしれません。
  • 開放F値が可変: F4.5-5.6という可変F値です。ズームしていくと暗くなるため、明るい単焦点レンズやF2.8通しのズームレンズと比較すると、暗所での撮影や大きなボケを得るには不利な場合があります。ただし、この点は多くの同クラスの望遠ズームレンズに共通する特性であり、軽量化とのトレードオフと言えます。
  • 重量: 約1.3kg台という重量は、超望遠ズームとしては軽量な部類に入りますが、人によっては手持ちでの長時間撮影で負担に感じる可能性はあります。

どのようなユーザーにおすすめか

NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR Sは、以下のようなユーザーに特におすすめできるレンズです。

  • Zマウントシステムで本格的な望遠撮影を始めたい、あるいはステップアップしたいユーザー: 風景、鉄道、航空機、モータースポーツ、野鳥、スポーツなど、幅広いジャンルに対応できる万能な望遠ズームを探している方。
  • 高画質と機動性を両立したいユーザー: 重くて大きな超望遠単焦点レンズではなく、持ち運びやすく、手持ちでの撮影も快適に行える望遠ズームを求めている方。特に手持ち撮影が多い方にとって、強力なVRは大きなメリットです。
  • 単なる望遠ズーム以上の汎用性を求めるユーザー: 高い近接撮影性能を活かして、望遠撮影だけでなく、テレマクロ的な表現も楽しみたい方。
  • FマウントのAF-S 80-400mmGからの買い替えを検討しているユーザー: Zマウントシステムへの移行に伴い、より高性能な望遠ズームを求めている方。描写性能、AF性能、VR性能、操作性など、全ての面でZ 100-400mm Sは先代を凌駕しています。
  • 将来的にテレコンバーターの使用も視野に入れているユーザー: 必要に応じて超望遠域までカバーしたい方。

逆に、F値の明るさを最優先する方や、主に600mm以上の超望遠域を専門的に撮影する方にとっては、F2.8通しの望遠ズームや、より長い焦点距離の超望遠レンズ(今後登場予定のZ 180-600mm VRなど)が適しているかもしれません。

まとめ:Zマウント望遠ズームの新たな基準

NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR Sは、ニコンのZマウントシステムにおける望遠ズームレンズの新たな基準となる傑出した一本です。S-Lineの名に相応しい、圧倒的な描写性能、高速・高精度なAF、強力な手ブレ補正、そして優れた操作性とビルドクオリティを兼ね備えています。特に、テレ端400mmでの妥協のない描写と、驚異的な近接撮影性能は、他の同クラスのレンズにはないこのレンズの大きな強みです。

風景から動体、そしてテレマクロ的な表現まで、このレンズ一本で非常に幅広い撮影シーンに対応できる汎用性の高さも魅力です。決して安価なレンズではありませんが、その価格に見合うだけの、いや、それ以上の価値を提供する高性能なレンズと言えるでしょう。

ニコンZマウントユーザーで、本格的な望遠撮影を始めたい方、あるいは現在の望遠ズームレンズからのステップアップを考えている方にとって、NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR Sは間違いなく最有力候補の一つです。このレンズが、あなたの写真表現の可能性を大きく広げてくれるはずです。

Zマウントシステムの望遠ズームラインナップは、このレンズの登場によって、いよいよ本格的に充実してきました。今後のニコンZシステムの展開にも、ますます期待が高まります。

(記事終)

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