Redisライセンス徹底解説:選び方と注意点
Redisは、その高速性と柔軟性から、キャッシュ、セッション管理、メッセージキュー、リアルタイム分析など、幅広い用途で利用されている人気のインメモリデータストアです。しかし、Redisのライセンスは過去に何度か変更されており、最新のライセンス形態を理解し、適切なライセンスを選択することは、プロジェクトの成功と法的な問題を回避するために非常に重要です。
本記事では、Redisのライセンスの歴史、最新のライセンス形態であるRSALv2とSSPLv1の詳細、それぞれのライセンスのメリット・デメリット、そしてプロジェクトに最適なRedisの選び方を徹底的に解説します。
目次
- Redisのライセンスの歴史: オープンソースからデュアルライセンスへ
- RSALv2 (Redis Source Available License v2): 制限付きのソース公開ライセンス
- RSALv2の条項詳細
- RSALv2のメリット・デメリット
- RSALv2の適用範囲: Redis Stackの各モジュール
- SSPLv1 (Server Side Public License v1): クラウドプロバイダー向けの制約
- SSPLv1の条項詳細
- SSPLv1のメリット・デメリット
- SSPLv1の適用範囲: Redis、RedisInsight
- BSDライセンス版 Redis: コミュニティ版とOSSとしての継続
- BSDライセンス版 Redisの概要
- BSDライセンス版 Redisのメリット・デメリット
- BSDライセンス版 Redisの選択肢と注意点
- Redisライセンスの変更の背景: なぜライセンスが変更されたのか?
- プロジェクトに最適なRedisの選び方: ライセンスの選択肢と考慮事項
- 使用目的別の推奨ライセンス
- コストとサポートの考慮
- 将来の拡張性と柔軟性の確保
- Redisライセンスに関するFAQ: よくある質問と回答
- まとめ: 適切なRedisライセンスの選択でプロジェクトを成功へ
1. Redisのライセンスの歴史: オープンソースからデュアルライセンスへ
Redisは、初期の頃はBSDライセンスという非常に寛容なオープンソースライセンスで提供されていました。BSDライセンスは、商用利用、改変、再配布を自由に認めており、Redisの普及に大きく貢献しました。しかし、2018年、Redis Labs(現在のRedis Inc.)は、Redisモジュールの一部をApache 2.0ライセンスとSSPLv1のデュアルライセンスに変更しました。この変更は、クラウドプロバイダーによるRedisの商用利用に対する懸念が背景にありました。
そして、2024年、Redis Inc.はライセンスをさらに変更し、コアとなるRedisデータベース自体を含む全てのRedis StackモジュールをRSALv2とSSPLv1のデュアルライセンスとしました。このライセンス変更は、コミュニティに大きな波紋を広げ、オープンソースとしての継続性を危惧する声も上がりました。
このように、Redisのライセンスは、その人気と利用状況の変化に対応して、段階的に変更されてきたという歴史があります。
2. RSALv2 (Redis Source Available License v2): 制限付きのソース公開ライセンス
RSALv2は、Redis Inc.が開発した比較的新しいライセンス形態です。これは、厳密にはオープンソースライセンスではありません。なぜなら、いくつかの制限が加えられているからです。RSALv2は、ソースコードは公開されているものの、Redis Inc.の許可なく、Redis Inc.が提供するものと同じようなデータベース製品やサービスを構築・提供することを制限しています。
2.1 RSALv2の条項詳細
RSALv2の主な条項は以下の通りです。
- ソースコードの利用: ソースコードは自由に閲覧、学習、デバッグできます。
- 改変: ソースコードを改変することも可能です。
- 非競合的な利用: Redisデータベースと同様の機能を提供する商用データベース製品やサービスの開発、提供は禁止されています。ただし、Redis Inc.から明示的な許可を得た場合は例外です。
- 派生物のライセンス: 改変したコードを配布する場合、RSALv2と同等の制限を持つライセンスを適用する必要があります。
- 商標の利用制限: Redisの商標は、Redis Inc.の許可なく利用することはできません。
これらの条項から、RSALv2は、Redisデータベースの機能を模倣した競合製品の開発・販売を阻止することを目的としていることがわかります。
2.2 RSALv2のメリット・デメリット
- メリット:
- ソースコードが公開されているため、透明性が高く、セキュリティレビューが可能です。
- Redisの機能を学習し、内部構造を理解するのに役立ちます。
- バグ修正や機能改善に貢献できます。
- Redis Inc.から許可を得れば、商用利用も可能です。
- デメリット:
- Redisデータベースと同様の機能を提供する商用製品を開発・販売することはできません。
- RSALv2は、オープンソースの定義を満たさないため、一部の企業や組織では利用を制限される可能性があります。
- ライセンス条項が複雑で、解釈が難しい場合があります。
2.3 RSALv2の適用範囲: Redis Stackの各モジュール
RSALv2は、コアとなるRedisデータベースと、Redis Stackに含まれる以下のモジュールに適用されます。
- RedisJSON
- RedisSearch
- RedisGraph
- RedisTimeSeries
- RedisBloom
- RedisInsight
これらのモジュールは、それぞれ異なる機能を提供し、Redisの機能を拡張します。これらのモジュールを利用する際は、RSALv2のライセンス条項を遵守する必要があります。
3. SSPLv1 (Server Side Public License v1): クラウドプロバイダー向けの制約
SSPLv1は、MongoDB Inc.によって開発されたライセンスで、クラウドプロバイダーによるRedisの商用利用を制限することを目的としています。SSPLv1は、AGPLv3をベースにしており、ネットワーク経由でソフトウェアをサービスとして提供する場合、そのサービスを構成する全てのソースコードを公開することを義務付けています。
3.1 SSPLv1の条項詳細
SSPLv1の最も重要な条項は以下の通りです。
- サービス提供時のソースコード公開: ソフトウェアをネットワーク経由でサービスとして提供する場合、そのサービスを構成する全てのソフトウェアのソースコード(ライブラリ、サポートユーティリティ、管理インターフェース、自動化スクリプトなどを含む)を、SSPLv1と同等のライセンスで公開する必要があります。
- 利用者の権利: SSPLv1は、ソフトウェアを個人的に利用したり、社内で利用したりする場合は、特に制限を設けません。
- 商標の利用制限: Redisの商標は、Redis Inc.の許可なく利用することはできません。
SSPLv1は、クラウドプロバイダーがRedisをサービスとして提供する場合、そのサービスを構成する全てのソフトウェアのソースコードを公開することを義務付けることで、Redis Inc.が提供するRedis Cloudとの競争を公平にしようとする意図があります。
3.2 SSPLv1のメリット・デメリット
- メリット:
- クラウドプロバイダーによるRedisの商用利用に対する公平性を確保できます。
- コミュニティへの貢献を促進できます。
- デメリット:
- クラウドプロバイダーは、Redisをサービスとして提供する場合、全てのソースコードを公開する必要があるため、ビジネスモデルに大きな影響を与える可能性があります。
- SSPLv1は、オープンソースの定義を満たさないため、一部の企業や組織では利用を制限される可能性があります。
- ライセンス条項が複雑で、解釈が難しい場合があります。
3.3 SSPLv1の適用範囲: Redis、RedisInsight
SSPLv1は、コアとなるRedisデータベースと、RedisInsightに適用されます。RedisInsightは、RedisデータベースのGUIクライアントで、Redisのデータ構造を可視化したり、クエリを実行したりするのに役立ちます。
4. BSDライセンス版 Redis: コミュニティ版とOSSとしての継続
Redis Inc.によるライセンス変更後、コミュニティはBSDライセンスで提供されていたRedis 6.2をベースに、オープンソース版のRedisをフォークしました。これは、オープンソースとしてのRedisの継続を望むコミュニティの強い意思の表れです。
4.1 BSDライセンス版 Redisの概要
BSDライセンス版 Redisは、Redis 6.2のコードをベースに、コミュニティによって開発・保守されています。BSDライセンスは、非常に寛容なオープンソースライセンスで、商用利用、改変、再配布を自由に認めています。
4.2 BSDライセンス版 Redisのメリット・デメリット
- メリット:
- 真のオープンソースライセンスであるため、自由な利用が可能です。
- 商用利用、改変、再配布に制限はありません。
- コミュニティによって開発・保守されているため、透明性が高く、活発な開発が期待できます。
- デメリット:
- Redis Inc.の公式なサポートは受けられません。
- 最新機能やセキュリティアップデートの提供が遅れる可能性があります。
- コミュニティの規模や活動状況によっては、開発が停滞する可能性があります。
4.3 BSDライセンス版 Redisの選択肢と注意点
BSDライセンス版 Redisを選択する際は、以下の点に注意する必要があります。
- コミュニティの活動状況: コミュニティの規模や活動状況を調査し、活発な開発が行われているか確認しましょう。
- サポート体制: Redis Inc.の公式なサポートは受けられないため、コミュニティによるサポートや、サードパーティベンダーによるサポートを検討しましょう。
- セキュリティアップデート: 最新のセキュリティアップデートが定期的に提供されているか確認しましょう。
5. Redisライセンスの変更の背景: なぜライセンスが変更されたのか?
Redis Inc.がRedisのライセンスを変更した背景には、主に以下の2つの要因があります。
- クラウドプロバイダーによるRedisの商用利用: クラウドプロバイダーがRedisをサービスとして提供する際、Redis Inc.に収益が還元されないという問題がありました。Redis Inc.は、Redisの開発・保守に多大なリソースを投入しており、そのための資金を確保する必要がありました。
- Redisの競争力維持: Redisは、高速性と柔軟性から、多くの企業や組織で利用されています。Redis Inc.は、Redisの競争力を維持するために、継続的な開発・改善を行う必要があり、そのためには十分な資金が必要でした。
これらの要因から、Redis Inc.は、クラウドプロバイダーによるRedisの商用利用を制限し、自社の収益を確保するために、ライセンスを変更しました。
6. プロジェクトに最適なRedisの選び方: ライセンスの選択肢と考慮事項
プロジェクトに最適なRedisを選ぶためには、以下の点を考慮する必要があります。
- 使用目的: Redisをどのような目的で使用するのかによって、最適なライセンスは異なります。
- コスト: Redisのライセンス費用やサポート費用を考慮しましょう。
- サポート体制: Redisのサポート体制を考慮しましょう。
- 将来の拡張性: プロジェクトの将来的な拡張性を考慮しましょう。
- 法的リスク: ライセンス違反による法的リスクを回避するために、ライセンス条項を十分に理解しましょう。
6.1 使用目的別の推奨ライセンス
- 個人的な利用や社内での利用: RSALv2、SSPLv1、BSDライセンス版 Redisのいずれを選択しても問題ありません。
- 商用サービスの一部としてRedisを利用する場合 (例: 自社開発のアプリケーション): RSALv2 が適している可能性がありますが、競合するデータベース製品やサービスではないことを確認する必要があります。念のため、Redis Inc. に確認することをお勧めします。
- クラウドプロバイダーとしてRedisをサービスとして提供する場合: SSPLv1の条項を遵守する必要があります。すべての関連ソフトウェアのソースコードを公開する必要があります。
- オープンソースプロジェクトでRedisを利用する場合: BSDライセンス版 Redisを選択することをお勧めします。
6.2 コストとサポートの考慮
- Redis Enterprise: Redis Inc.が提供する商用版Redisで、エンタープライズ向けの機能やサポートが含まれています。ライセンス費用がかかりますが、高品質なサポートを受けることができます。
- Redis Cloud: Redis Inc.が提供するクラウド版Redisで、フルマネージドサービスとして利用できます。利用量に応じて料金が発生します。
- OSS版Redis: RSALv2/SSPLv1版とBSDライセンス版があり、無料で利用できますが、公式なサポートは提供されていません。
6.3 将来の拡張性と柔軟性の確保
プロジェクトの将来的な拡張性を考慮し、Redisのライセンスを選択しましょう。たとえば、将来的にクラウドプロバイダーとしてRedisをサービスとして提供する可能性がある場合は、SSPLv1の条項を遵守できるか検討する必要があります。
7. Redisライセンスに関するFAQ: よくある質問と回答
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Q: RSALv2とSSPLv1は、オープンソースライセンスですか?
- A: いいえ、どちらもオープンソースライセンスではありません。RSALv2は、Redisデータベースと同様の機能を提供する商用製品の開発・販売を制限しており、SSPLv1は、クラウドプロバイダーがRedisをサービスとして提供する場合、全てのソースコードを公開することを義務付けています。
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Q: Redisの商用利用には、必ずライセンス費用を支払う必要がありますか?
- A: いいえ、個人的な利用や社内での利用、またはRSALv2の制限に抵触しない商用利用の場合は、ライセンス費用を支払う必要はありません。ただし、Redis EnterpriseやRedis Cloudなどの商用版Redisを利用する場合は、ライセンス費用や利用料金が発生します。
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Q: BSDライセンス版 Redisは、今後も開発が継続されますか?
- A: コミュニティの活動状況によりますが、現時点では活発な開発が行われています。
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Q: Redisのライセンスに関する不明点がある場合は、どこに問い合わせればよいですか?
- A: Redis Inc.にお問い合わせいただくか、ライセンスに関する専門家にご相談ください。
8. まとめ: 適切なRedisライセンスの選択でプロジェクトを成功へ
Redisは、高速性と柔軟性から、幅広い用途で利用されている人気のインメモリデータストアです。しかし、Redisのライセンスは過去に何度か変更されており、最新のライセンス形態を理解し、適切なライセンスを選択することは、プロジェクトの成功と法的な問題を回避するために非常に重要です。
本記事では、Redisのライセンスの歴史、最新のライセンス形態であるRSALv2とSSPLv1の詳細、それぞれのライセンスのメリット・デメリット、そしてプロジェクトに最適なRedisの選び方を徹底的に解説しました。
プロジェクトの規模、予算、要件を慎重に検討し、最適なRedisライセンスを選択することで、Redisの強力な機能を最大限に活用し、プロジェクトを成功に導きましょう。ライセンスについて不明な点がある場合は、専門家への相談を推奨します。