SONY E PZ 18-105mm F4 G OSS (SELP18105G) レビューと評価:パワーズーム標準ズームの真髄を探る
はじめに:唯一無二の存在感を放つ標準ズーム
SONY Eマウントレンズラインナップにおいて、E PZ 18-105mm F4 G OSS(型番:SELP18105G、以下 SELP18105G)は、その登場から長い年月を経た今なお、非常にユニークで存在感のあるレンズとして多くのユーザーに支持されています。APS-Cフォーマット対応の標準ズームレンズでありながら、広角18mmから中望遠105mmまでという非常に広いズームレンジをカバーし、さらにズーム全域で開放F値4固定、そして「パワーズーム」機能を搭載、加えてSONYの高性能レンズ群である「Gレンズ」の名を冠するという、他に類を見ない特徴をいくつも兼ね備えています。
このレンズは、特に動画撮影を重視するクリエイターや、一本で多様なシーンに対応したいと考える静止画ユーザーから熱い視線を浴びてきました。しかし、そのユニークさゆえに、一般的な標準ズームレンズとは異なる特性も持ち合わせています。パワーズームの操作感、F4固定絞りの影響、Gレンズとしての描写性能、そして広角端の歪曲など、購入前に知っておきたい情報は多岐にわたります。
本記事では、SELP18105Gを多角的に深く掘り下げ、その真価、メリット、デメリット、そしてどのようなユーザーに最適なのかを徹底的にレビュー・評価します。約5000語にわたる詳細な解説を通じて、このレンズのすべてを明らかにし、読者の皆様のレンズ選びの一助となることを目指します。
1. SELP18105Gの基本仕様と位置づけ
SELP18105Gは、SONY EマウントのAPS-Cセンサー搭載ミラーレスカメラ(α6000シリーズ、α6100, α6400, α6600, α6700, α7C II/R IIのAPS-Cクロップモードなど)に対応したレンズです。その主要な仕様は以下の通りです。
- 型番: SELP18105G
- レンズ名称: E PZ 18-105mm F4 G OSS
- 焦点距離: 18-105mm (35mm判換算 27-157.5mm相当)
- 開放絞り: F4 (ズーム全域固定)
- 最小絞り: F22
- レンズ構成: 12群16枚 (非球面レンズ2枚, EDレンズ3枚)
- 絞り羽根: 7枚 (円形絞り)
- 最短撮影距離: 広角端0.45m, 望遠端0.95m (AF時) / 0.35m (MF時)
- 最大撮影倍率: 0.11倍
- フィルター径: φ72mm
- 手ブレ補正: 光学式手ブレ補正 (OSS) 内蔵
- モーター: リニアモーター (AF駆動、パワーズーム駆動)
- 外形寸法: 最大径φ78mm × 長さ約110mm
- 質量: 約427g
- その他: 防塵防滴に配慮した設計 (完全な防塵防滴を保証するものではありません)
このレンズがラインナップの中でどのような位置づけにあるかを見てみましょう。
まず、EマウントAPS-C標準ズームとしては、キットレンズのSELP1650(16-50mm F3.5-5.6)、高性能コンパクトズームのSEL1670Z(Vario-Tessar T* E 16-70mm F4 ZA OSS)、高倍率ズームのSEL18135(E 18-135mm F3.5-5.6 OSS)などがあります。
SELP18105Gの最大の特徴は、これらのレンズと比較して以下の点に集約されます。
- 広いズームレンジ: 18mmから105mmまでをカバーし、汎用性が高い。
- F4固定絞り: ズーム全域で明るさが一定しており、露出設定が容易。ボケ量や被写界深度のコントロールも焦点距離で調整しやすい。
- パワーズーム搭載: 電動での滑らかなズーミングが可能で、特に動画撮影で威力を発揮。
- Gレンズ: SONYの高性能ブランドであり、高い描写性能と信頼性を追求している。
- OSS内蔵: 手持ち撮影や動画撮影時のブレを軽減。
これらの特徴から、SELP18105Gは単なる静止画用標準ズームというよりは、動画撮影も視野に入れたオールラウンダー、特に動画性能を重視するユーザーにとって強力な選択肢として設計されていることが分かります。
2. 外観と操作性:パワーズームの感触
SELP18105Gは、EマウントAPS-C用レンズとしては比較的大きめのサイズです。全長は約110mm、最大径は78mm、質量は約427g。α6000シリーズなどのコンパクトなボディに装着すると、レンズの方が存在感を放ちます。しかし、そのサイズ感は、ズームレンジの広さやF4固定、そしてパワーズーム機構を内蔵していることを考慮すれば妥当と言えるでしょう。Gレンズらしい、マットな質感のプラスチック外装は質感も良く、安っぽさはありません。
操作部には、幅広のズームリングとフォーカスリングが配置されています。
特に特徴的なのは、このレンズが物理的なズームリングとパワーズームレバー(あるいはズームリングを電動ズームとして使うことも可能)の両方でズーム操作ができる点です。
- パワーズームレバー: レンズ鏡胴側面に配置されたレバーで、これを動かすことで電動ズームが作動します。レバーの倒し加減によってズーム速度を無段階に調整できます。ゆっくり倒せば非常に滑らかで遅いズーム、大きく倒せば素早くズームできます。この滑らかなズーミングは、まさに動画撮影のために設計された機能と言えるでしょう。特に、一定速度でのズーミングは手動では非常に難しいですが、パワーズームを使えば容易に行えます。レバー操作は非常にスムーズで、動画撮影中のフレーミング調整に最適です。
- ズームリング: 物理的なズームリングも備わっていますが、このリングを回してもレンズは物理的に伸縮しません。これは「バイワイヤ式」と呼ばれる電動ズームの一種です。リングを回す速度や量に応じて、内蔵モーターがズームレンズ群を駆動させます。これにより、手動に近い感覚でズーム操作を行うことができます。ただし、物理的なズームリングのように瞬時に、あるいは精密に特定の焦点距離に合わせるのは慣れが必要です。また、電源オフ時にはズームリングは機能しません。
静止画撮影に慣れているユーザーにとって、物理的に伸縮しないズームリングや、電動ズーム独特のタイムラグやステップ感に最初は戸惑うかもしれません。特に、広角端から望遠端へ一気にズームしたい場合など、瞬発的な操作は物理ズームの方が優れています。しかし、この電動ズーム機構は、動画撮影時の「滑らかなズームイン/ズームアウト」という目的においては非常に有効です。
フォーカスリングもバイワイヤ式です。回し心地は滑らかで、マニュアルフォーカス時も正確なピント合わせが可能です。鏡胴にはAF/MF切り替えスイッチやOSSのON/OFFスイッチはありません。これらの設定はカメラ本体側で行う必要があります。
レンズ鏡胴前面には、フィルター径φ72mmのフィルターネジが切られています。比較的一般的なサイズですが、交換用フィルターを用意する際は径を確認する必要があります。レンズフード(ALC-SH128)は付属しており、逆光時のフレア・ゴースト軽減やレンズ保護に役立ちます。このフードは花形形状で、レンズに装着するとさらに大きめの印象になります。
全体として、操作性はパワーズームという特殊な機構に最適化されています。静止画メインで物理ズームのダイレクト感を好むユーザーには独特の使用感かもしれませんが、動画撮影を重視するならば、このパワーズーム機構は大きなメリットとなります。
3. パワーズーム機能の詳細と動画撮影での活用
SELP18105Gの最大の特徴であり、その存在理由とも言えるのが「パワーズーム」機能です。この機能は、単に電動でズームできるというだけでなく、動画撮影における表現の幅を大きく広げます。
3.1. パワーズームのメカニズムと操作方法
SELP18105Gのパワーズームは、レンズ内に内蔵されたリニアモーターによってズームレンズ群を電子的に駆動させます。この方式は、ズームリングを直接機械的に操作する従来のズームレンズとは根本的に異なります。
操作方法は主に以下の2つです。
- レンズ鏡胴のパワーズームレバー: 最も直感的で、動画撮影時に多用される方法です。レバーを倒し加減によってズーム速度をコントロールできます。遅くしたいときは少しだけ倒し、速くしたいときは大きく倒します。これにより、始まりから終わりまで一定の速度で、あるいは途中で速度を変えながら、意図したスピードで滑らかなズームイン/アウトを実現できます。
- ズームリング: ズームリングを回す速度に応じて電動ズームが作動します。回す速度が速いほどズーム速度も速くなります。静止画撮影など、物理ズームに近い感覚で操作したい場合に便利ですが、前述の通り物理ズームのようなダイレクト感はありません。
- カメラ本体の操作: α6000シリーズなどの一部のボディでは、本体のズームレバーや、カスタムボタンに割り当てた操作でパワーズームを動かすことも可能です。また、リモートコマンダーなどを利用して外部からズーム操作を行うこともできます。
3.2. 動画撮影におけるパワーズームのメリット
パワーズームは、動画撮影において以下のような顕著なメリットをもたらします。
- 圧倒的な滑らかさ: 手動ズームでは、どんなに慎重に操作しても、どうしてもズームの開始時や終了時に速度のムラが生じたり、細かな振動が乗ったりしやすいものです。パワーズームを使えば、まるでクレーンやドリーを使ったかのような、プロフェッショナルな滑らかさでズームイン/アウトを行うことができます。これは映像のクオリティを大きく向上させる要素です。
- 定速ズーム: パワーズームレバーの倒し加減を一定に保つことで、完全に一定の速度でズームすることができます。これは、映画的な演出や、時間の経過を表現するようなシーンで非常に有効です。
- 静音性: リニアモーターによる駆動は非常に静かです。動画撮影中にズーム操作を行っても、レンズの動作音がマイクに拾われにくいため、クリアな音声と共に映像を記録できます。
- カメラ本体からの操作: カメラ本体やリモートコマンダーからの操作が可能なので、ジンバルに載せた状態や、カメラから離れた位置からのリモート撮影時にも便利です。
- ドリーZOOM(ヒッチコックズーム): パワーズームの速度調整機能を活用し、被写体との距離を一定に保ちながら(例えばジンバルで被写体から遠ざかりながら)、望遠側にズームしていくことで、背景だけが歪むような特殊効果「ドリーZOOM」を比較的容易に実現できます。
3.3. 静止画撮影におけるパワーズームの留意点
一方、静止画撮影においては、パワーズームが必ずしもメリットばかりではありません。
- 操作のタイムラグ: 物理ズームに比べて、ズーム操作から実際の焦点距離が変化するまでにわずかなタイムラグがあります。咄嗟のフレーミング変更には向かない場合があります。
- 物理ズームの感覚との違い: ズームリングを回してもレンズが伸縮しないため、物理ズームに慣れているユーザーは違和感を覚えるかもしれません。また、リングの回し方によってズーム速度が変わるという特性も、慣れるまで感覚を掴むのが難しい場合があります。
- 電源オフで操作不能: 電動駆動のため、カメラの電源が入っていないとズーム操作は一切できません。
静止画撮影においては、これらの特性を理解した上で使う必要があります。特に動きのある被写体や素早いフレーミングが求められるシーンでは、物理ズームのレンズの方が使いやすいと感じるかもしれません。しかし、風景撮影やポートレートなど、比較的じっくりと構図を決められるシーンであれば、ズームリングを使って細かくフレーミングを調整することも可能です。
結論として、SELP18105Gのパワーズームは、動画撮影性能を最優先する設計思想を体現する機能です。静止画撮影においてはやや癖があるものの、その滑らかさと制御性は動画クリエイターにとって非常に強力な武器となります。
4. 光学性能の評価:Gレンズの実力
SELP18105Gは「Gレンズ」の名を冠しています。SONYのGレンズは、ZEISSレンズに次ぐ高性能レンズ群であり、高い解像力と美しいボケ味を両立させることを目指しています。SELP18105Gの光学性能は、そのGレンズの名に恥じないものなのでしょうか。
4.1. 解像度(シャープネス)
解像度は、レンズの最も重要な性能の一つです。SELP18105Gは、ズーム全域F4固定という設計により、開放から比較的安定した性能を発揮するように最適化されています。
- 広角端 (18mm): 開放F4から画面中央部は非常にシャープです。細部までしっかりと描写され、Gレンズらしい高画質を実感できます。しかし、画面周辺部は中央部に比べてやや甘さが見られます。特に開放F4ではその傾向が顕著ですが、F5.6やF8まで絞ることで改善され、実用的なレベルになります。画面周辺部の解像度を重視する風景撮影などでは、少し絞って使うのがおすすめです。
- 中間域 (約35-70mm): この焦点距離域は、ズーム全域の中でも最も安定した描写性能を発揮します。中央部はもちろん、周辺部もF4開放から非常にシャープで、安心して使用できます。ポートレートやスナップなど、幅広い用途で高い画質が得られます。
- 望遠端 (105mm): 望遠端でも、開放F4から中央部は良好なシャープネスを示します。中間域ほどではないものの、十分実用的です。画面周辺部は広角端と同様に、開放ではやや甘さが見られますが、F5.6やF8に絞ることで改善されます。ただし、望遠端では空気の揺らぎなども影響するため、シャープネス評価はやや難しくなります。
全体として、SELP18105Gはズーム全域で中央部の解像度は非常に高く、Gレンズの名に恥じない性能です。周辺部は開放F4ではやや改善の余地がありますが、少し絞ることで十分実用的なレベルに達します。特に、動画撮影で多用されるF4固定という条件においては、安定した解像性能を提供しており、動画用レンズとしては非常に優秀と言えます。
4.2. 色収差(フリンジ)
色収差は、レンズが光の色によって屈折率が異なるために発生する現象で、特に高コントラストな被写体の輪郭などに色ズレ(フリンジ)として現れます。SELP18105Gは、EDレンズを3枚使用しており、色収差の補正に配慮した設計がされています。
実写では、特に高コントラストな場面(逆光で樹木の枝や電線など)で、わずかな軸上色収差や倍率色収差が見られることがありますが、Gレンズとしては比較的良好に抑えられています。また、多くのEマウントカメラではレンズ補正機能(色収差補正)が利用できるため、気になる場合はカメラ側で補正を適用することで、さらに目立たなくすることが可能です。動画撮影においては、この程度の収差であればほとんど気にならないレベルと言えるでしょう。
4.3. 歪曲収差
歪曲収差は、レンズを通した像が歪んで写る現象です。広角端では樽型歪曲、望遠端では糸巻き型歪曲が発生しやすい傾向があります。
SELP18105Gは、広角端18mmにおいて非常に強い樽型歪曲が見られます。特に、補正をオフにして撮影した場合、直線的な被写体(建物、水平線など)が大きく歪むのが分かります。これは、このレンズがコンパクトなサイズと広いズームレンジ、F4固定を実現するために、光学設計段階で意図的に歪曲を残し、ソフトウェアによる補正を前提としているためと考えられます。
しかし、多くのEマウントカメラでは、JPEG撮影時や動画撮影時に自動的に歪曲収差補正が適用されます。この補正は非常に効果的で、補正適用後の画像や動画では、広角端の強い歪曲はほとんど解消されます。RAW現像時も、現像ソフト(Lightroom, Capture Oneなど)のレンズプロファイルを使用すれば容易に補正可能です。
望遠端105mmでは、わずかに糸巻き型歪曲が見られますが、広角端ほど顕著ではなく、カメラ内補正や現像ソフトで簡単に修正できます。
この広角端の強い歪曲は、補正を前提とした設計であるため、補正機能を使わない場合は大きなデメリットとなります。しかし、通常使用においてはカメラが自動で補正してくれるため、実用上はほとんど問題になりません。ただし、補正によって画角がわずかに狭くなること、そして画面周辺部の解像感に影響を与える可能性があることは理解しておく必要があります。
4.4. 周辺光量落ち(口径食)
周辺光量落ちとは、画面の中心部に比べて周辺部が暗くなる現象です。特に大口径レンズの開放絞りで発生しやすい傾向があります。
SELP18105Gは、開放F4において、特に広角端でわずかに周辺光量落ちが見られます。しかし、ズーム全域F4固定としては比較的良好に抑えられている方です。少し絞る(例えばF5.6やF8)ことで周辺光量落ちは改善されます。また、多くのカメラには周辺光量落ち補正機能が搭載されており、自動で補正することも可能です。動画撮影においては、この程度の周辺光量落ちはほとんど気にならないレベルでしょう。
4.5. 逆光耐性・フレア・ゴースト
逆光耐性は、光源が画面内にある場合や、強い光がレンズに当たる場合に、フレア(画面全体が白っぽくなる)やゴースト(光の玉や筋が現れる)が発生しにくいかを示す性能です。SELP18105GはGレンズとして、内部反射を抑える設計がされており、逆光耐性は比較的良好です。
強い光源が直接画面内に入った場合でも、フレアの発生は比較的少なく、コントラストの低下も最小限に抑えられています。ゴーストも、発生しても小さく、目立ちにくい形状であることが多いです。ただし、非常に強い光源(太陽など)を直接画面に入れるような場合は、当然ながらフレアやゴーストが発生する可能性はあります。レンズフードを使用することで、側面から入る不要な光を防ぎ、逆光耐性をさらに向上させることができます。
4.6. ボケ味
SELP18105Gはズーム全域F4固定という絞り値です。開放F値が明るい単焦点レンズやF2.8通しのズームレンズと比較すると、被写界深度を浅くして大きく背景をぼかす、いわゆる「よくボケる」レンズではありません。しかし、APS-Cセンサーにおいて望遠端105mm (35mm判換算157.5mm相当) F4という条件であれば、被写体との距離や背景との距離によっては、それなりに背景をぼかすことは可能です。
ボケの質については、Gレンズとして円形絞りを採用しており、比較的滑らかで自然なボケ味を目指しています。強い点光源のボケ玉は、絞り羽根の形状が出やすいレンズもありますが、SELP18105Gでは比較的円形に近い形で描写されます。ただし、背景がごちゃごちゃしている場合など、条件によっては二線ボケが発生しやすい場面も見られます。
ポートレート撮影などで被写体を浮かび上がらせるような大きなボケを得たい場合は、F1.4やF1.8といった明るい単焦点レンズの方が有利です。しかし、SELP18105GのF4固定という絞り値は、被写体全体にピントを合わせたいテーブルフォトや商品撮影、あるいは風景撮影など、ボケ量よりも被写界深度をある程度確保したいシーンには適しています。また、動画撮影においては、過度にボケすぎず、被写界深度をコントロールしやすいF4という絞り値は、むしろ使いやすい場合が多いです。
4.7. 近接撮影能力
最短撮影距離は広角端0.45m、望遠端0.95m(AF時)です。特に広角端0.45mは、APS-Cの18mmとしてはあまり寄れる方ではありません。最大撮影倍率は0.11倍と、マクロ撮影には不向きです。テーブルフォトなどで被写体に大きく寄りたい場合は、広角端では少し物足りなさを感じるかもしれません。マニュアルフォーカスに切り替えると、広角端で0.35mまで寄ることができますが、それでも劇的に寄れるわけではありません。
5. AF性能と手ブレ補正(OSS)
5.1. AF性能
SELP18105Gはリニアモーターを搭載しており、静止画・動画ともに高速かつ静かで正確なAFを実現しています。
- 静止画AF: ピント合わせは比較的速く、迷いも少ないです。特にコントラストの高い被写体や十分な光量がある環境下では、非常に快適なAFが可能です。α6000シリーズ以降のボディとの組み合わせでは、瞳AFなどもスムーズに機能します。
- 動画AF: 動画撮影時においても、AFの追従性は良好です。被写体が動いてもスムーズにピントを追いかけてくれます。また、リニアモーター駆動のため、AF動作音が非常に静かで、動画の音声に干渉する心配がほとんどありません。パワーズームと組み合わせることで、フレーミングとピント合わせを同時に、しかも静かに行えるため、動画撮影において非常に有利です。
全体として、AF性能はGレンズとして要求されるレベルを満たしており、特に動画撮影における静音性と追従性は大きなメリットと言えます。
5.2. 手ブレ補正(OSS)
SELP18105Gは、光学式手ブレ補正機構(OSS)を内蔵しています。これにより、手持ちでの静止画撮影や、動きながらの動画撮影時におけるブレを効果的に軽減します。
補正効果は体感で3段分程度と言われています。特に望遠端105mmでの手持ち撮影や、やや暗い場所での撮影時にその効果を実感できます。α6500やα6600、α6700など、ボディ内手ブレ補正機能を搭載したカメラと組み合わせた場合、協調制御によってさらに強力な手ブレ補正効果が得られる場合もあります(対応ボディによる)。
動画撮影時もOSSは非常に有効です。手持ちでのパンやティルト、あるいは歩きながらの撮影など、どうしても発生してしまう細かなブレを軽減し、より安定した映像を得ることができます。ただし、激しい動きや長時間の歩き撮影などでは、完全にブレを抑え込むことは難しいため、ジンバルなどの機材を併用することも検討が必要です。
OSSはレンズ鏡胴にON/OFFスイッチはありませんが、カメラ本体のメニュー設定でON/OFFを切り替えることができます。通常はONにしたままで問題ありませんが、三脚使用時など、場合によってはOFFにした方が安定することもあります。
6. 実写レビュー:様々なシーンでの使い勝手と描写
SELP18105Gは、その広いズームレンジとパワーズーム、F4固定という特性から、非常に多様なシーンで活躍できるレンズです。ここでは、いくつかの代表的な撮影シーンでの使い勝手と描写についてレビューします。
- 風景撮影: 広角端18mm(35mm判換算27mm相当)は、風景を広く捉えるのに十分な画角です。前述の通り、広角端の強い樽型歪曲はカメラ内補正や現像ソフトで解消すれば問題ありません。中央部のシャープネスは開放から非常に高く、遠景の描写もクリアです。ただし、画面周辺部の解像度を最大限に引き出すためには、F5.6やF8まで絞るのがおすすめです。望遠端105mm(35mm判換算157.5mm相当)を使えば、風景の一部を切り取ったり、圧縮効果を活かしたりすることも可能です。F4固定なので、ズームしても露出が変わらないのは便利です。
- ポートレート: 望遠端105mm F4という条件であれば、背景を適度にぼかして人物を浮かび上がらせるポートレート撮影が可能です。大きなボケ量は得られませんが、全身やウェストアップ程度の撮影であれば、主題と背景を分離させるのに十分なボケが得られます。ボケ味は比較的滑らかで、ポートレートにも使いやすいでしょう。また、中間の焦点距離を使えば、より自然な描写で人物を捉えることができます。F4固定のため、ズームで画角を変えても絞りを気にせず撮影できるのは便利です。
- スナップ撮影: 18-105mmという広いズームレンジは、スナップ撮影において非常に便利です。広角で場の雰囲気を取り込んだり、望遠で被写体を引き寄せたりと、その場で瞬時に画角を変えて対応できます。ただし、物理ズームのような瞬発的な操作は難しいため、被写体の動きに合わせて素早くフレーミングを変えたい場合は、少し慣れが必要です。また、パワーズームレバーを使えば、動画のように滑らかにズームしながらスナップすることも、面白い表現になります。レンズのサイズはAPS-C用としてはやや大きめですが、一本で多くのシーンに対応できる汎用性を考えれば、持ち運ぶ価値は十分にあります。
- 動画撮影: SELP18105Gの本領が最も発揮されるのが動画撮影です。パワーズームレバーによる滑らかなズーム操作は、手動ズームでは決して真似できません。ズーム速度を自在にコントロールできるため、様々な演出に対応できます。静音性も非常に高く、AF動作音やズーム動作音が録画される音声にほとんど影響しません。OSS内蔵で手持ちでの撮影も安定します。幅広いズームレンジをF4固定で使えるため、明るさの変化を気にせずズームしながら撮影できるのも動画では非常に重要です。YouTubeやVlog撮影、プロモーションビデオ制作など、様々な動画制作において強力なツールとなります。
- テーブルフォト/物撮り: 広角端の最短撮影距離が0.45mとあまり寄れないため、テーブルフォトなどでは少し引き気味で撮影する必要があります。しかし、F4という絞り値は、テーブルに乗せた料理全体にピントを合わせたい場合など、適度な被写界深度を得るのに使いやすいです。望遠端を使えば、被写体の一部を切り取って圧縮効果を出すこともできます。Gレンズらしいクリアな描写で、質感描写も良好です。
- イベント/屋内撮影: F4固定は、室内や夜間の撮影ではやや暗さを感じる場合があります。特にシャッタースピードを確保したい場合は、ISO感度を上げる必要があります。しかし、OSS内蔵である程度の手ブレは抑えられます。また、広角端18mmからF4で使えるため、室内全体を写すような場合や、明るい被写体を捉える場合には十分対応できます。より暗所に強いレンズを求める場合は、単焦点レンズやF2.8通しのズームレンズを検討する必要があります。
総じて、SELP18105Gは、静止画でも優れた描写性能を発揮しますが、特に動画撮影におけるパワーズームのメリットが際立つレンズです。幅広いシーンに一本で対応できる汎用性と、動画で活きる特殊機能を両立させた点が最大の魅力と言えるでしょう。
7. 競合レンズとの比較
SELP18105Gを検討する際に、比較対象となることが多いAPS-C用標準ズームレンズがいくつかあります。それぞれの特徴を踏まえ、SELP18105Gとの違いを見てみましょう。
- SONY E PZ 16-50mm F3.5-5.6 OSS (SELP1650):
- SELP18105Gより優れている点: 圧倒的にコンパクト・軽量。安価(キットレンズとして入手しやすい)。広角端が16mmとより広い。
- SELP18105Gより劣っている点: 描写性能(特に周辺部)はSELP18105Gに劣る。ズームレンジが狭い。開放F値が変動する。パワーズームの操作感はSELP18105Gほど滑らかではない。Gレンズではない。
- 比較: カメラを小さく軽く持ち運びたい、とりあえず標準ズームが欲しい、というユーザー向けのレンズ。画質や動画性能を重視するならSELP18105Gの方が圧倒的に優れています。
- SONY Vario-Tessar T* E 16-70mm F4 ZA OSS (SEL1670Z):
- SELP18105Gより優れている点: よりコンパクト・軽量。広角端が16mmと広い。ZEISSレンズとして高い描写性能(特に中央部)を持つ。歪曲収差がSELP18105Gほど極端ではない。物理ズーム。
- SELP18105Gより劣っている点: ズームレンジが狭い(特に望遠端)。パワーズームではない。価格が高い。
- 比較: コンパクトさを重視しつつ、高い画質(特に静止画)を求めるユーザー向けのレンズ。パワーズームや動画性能よりも、静止画での描写性能や携帯性を重視するならこちら。
- SONY E 18-135mm F3.5-5.6 OSS (SEL18135):
- SELP18105Gより優れている点: 望遠端が135mmとより広い。よりコンパクト・軽量。価格がSELP18105Gよりやや安価。物理ズーム。
- SELP18105Gより劣っている点: 開放F値が変動する(望遠端で暗くなる)。パワーズームではない。描写性能(特に望遠端や周辺部)はSELP18105Gにやや劣る。Gレンズではない。
- 比較: 一本でより広範囲をカバーしたい、高倍率ズームを求めるユーザー向けのレンズ。描写性能や動画性能(パワーズーム)よりも、ズームレンジの広さや携帯性を重視するならこちら。
これらの比較から分かるように、SELP18105Gは「広めのズームレンジ」「F4固定」「パワーズーム」「Gレンズの描写」という、他の標準ズームにはないユニークな組み合わせを持っています。特にパワーズームとF4固定という点は、動画撮影を強く意識した設計であり、他のAPS-C用標準ズームとは一線を画しています。SEL1670Zは静止画画質とコンパクトさで優れますが、望遠側が短くパワーズームもありません。SEL18135は望遠側が有利で物理ズームですが、F値変動でパワーズームもありません。SELP1650はコンパクトさと価格が魅力ですが、描写とズームレンジ、機能面で大きく劣ります。
したがって、SELP18105Gは、APS-Cシステムで動画撮影を本格的に行いたいユーザーにとって、最も有力な標準ズームレンズと言えるでしょう。また、静止画においても、F4固定の使いやすさやGレンズらしい描写は魅力的であり、幅広いシーンを一本でこなしたいユーザーにも適しています。
8. メリットとデメリットのまとめ
SELP18105Gのメリットとデメリットを整理してみましょう。
メリット:
- 広いズームレンジ (18-105mm): 広角から中望遠まで一本で対応できるため、交換の手間が省け、多様なシーンをカバーできる。
- ズーム全域F4固定: ズームしても明るさが変わらないため、露出設定が容易。動画撮影で特に便利。
- パワーズーム機能: 動画撮影において、非常に滑らかで一定速度のズームイン/アウトが可能。操作音も静か。
- Gレンズらしい高い描写性能: 特に中央部の解像度が高く、ズーム全域で安定した写り。
- 光学式手ブレ補正 (OSS) 内蔵: 手持ち撮影や動画撮影時のブレを軽減。
- 高速・静音AF: リニアモーター採用により、静止画・動画ともに快適なAF性能。
- コストパフォーマンス: Gレンズ、F4固定、パワーズームというスペックを考えると、比較的リーズナブルな価格設定。
デメリット:
- APS-C用としては大きめ・重め: α6000シリーズなどのコンパクトなボディに装着するとバランスが悪く感じる場合がある。
- 広角端の強い樽型歪曲: 補正を前提とした設計であり、補正なしでは歪みが顕著。
- パワーズーム独特の操作感: 物理ズームのようなダイレクト感はなく、慣れが必要。静止画での咄嗟の操作には不向きな場合がある。
- F4固定による限界: 明るい単焦点レンズやF2.8通しズームに比べ、ボケ量が少なく、暗所に弱い。
- 最短撮影距離があまり短くない: 広角端での近接撮影には不向き。
- レンズ単体でのAF/MF、OSS ON/OFF切り替えスイッチがない: カメラ本体での操作が必要。
9. どんな人におすすめか
SELP18105Gは、そのユニークな特性から、特定のユーザー層にとって非常に魅力的な選択肢となります。
- 動画クリエイター、Vlogger: これがSELP18105Gの最も得意とする領域でしょう。パワーズームによる滑らかなズーム操作、静音AF、F4固定絞り、手ブレ補正内蔵と、動画撮影に必要な要素を高いレベルで満たしています。一本で多様な画角に対応できるため、レンズ交換の手間も省けます。
- 汎用性の高い一本が欲しいユーザー: 旅行やイベントなど、様々なシーンを一本のレンズで済ませたいユーザーにも適しています。広角から中望遠までをカバーし、静止画・動画どちらも一定以上のクオリティで撮影可能です。F4固定なので、絞りやISO感度を大きく変えることなくズームできるのも便利です。
- F4固定絞りを活かしたいユーザー: ズーム全域で明るさが一定であることのメリットを理解し、活用できるユーザー。特に、被写界深度をコントロールしたいシーンや、ストロボ撮影で絞りを固定したい場合などに有効です。
- 手持ち撮影が多いユーザー: OSS内蔵により、手持ちでの静止画・動画撮影時のブレを軽減できるため、三脚を持ち歩きたくないユーザーにもおすすめです。
一方で、以下のようなユーザーには、他のレンズの方が適しているかもしれません。
- 徹底的にコンパクトさを追求するユーザー: APS-Cシステムであっても、レンズはできるだけ小さく軽くしたい、というユーザーには大きすぎると感じる可能性があります。
- 静止画メインで、物理ズームのダイレクト感を好むユーザー: パワーズームの操作感に馴染めない場合、ストレスを感じるかもしれません。
- 大きなボケ量を重視するユーザー: F4固定では、単焦点レンズやF2.8通しズームのような大きなボケは得られません。
- 頻繁に暗い場所で撮影するユーザー: F4では明るさに限界があるため、より明るいレンズが必要になる場合があります。
- 広角端の歪曲補正に抵抗があるユーザー: 補正を前提とした設計であるため、補正なしの描写は厳しいです。
10. 総評と結論
SONY E PZ 18-105mm F4 G OSS (SELP18105G) は、APS-C用標準ズームレンズとして非常にユニークで魅力的な存在です。広角18mmから中望遠105mmまでをカバーする広いズームレンジ、ズーム全域F4固定の明るさ、そして最大の特長であるパワーズーム機能を、Gレンズらしい高い描写性能と光学式手ブレ補正と共に実現しています。
このレンズは、特に動画撮影を重視するユーザーにとって、EマウントAPS-Cシステムにおける「ド定番」と言える存在です。パワーズームによる圧倒的な滑らかさ、静音AF、そしてF4固定の使いやすさは、動画制作の現場で非常に大きなアドバンテージとなります。
静止画撮影においても、中央部の解像度が高く、ズーム全域F4固定の利便性は魅力的です。ただし、広角端の強い歪曲やパワーズーム独特の操作感など、物理ズームのレンズとは異なる特性を理解し、受け入れる必要があります。周辺部の描写性能は、開放F4ではやや甘さが見られますが、絞ることで改善されますし、動画やウェブ用途ではほとんど問題にならないレベルです。
価格帯は、同クラスの標準ズームとしては決して安くはありませんが、Gレンズとしての品質、F4固定、パワーズーム、広いズームレンジ、OSS内蔵といった機能を総合的に考慮すると、十分に見合う、あるいはそれ以上の価値があると言えます。特に動画と静止画を両立させたいクリエイターにとっては、非常にコストパフォーマンスの高い一本です。
登場から時間が経過してもなお、SELP18105Gを超えるAPS-C用のパワーズーム標準ズームは現れていません(上位のSELP1650は存在するものの、描写性能やズームレンジはSELP18105Gに劣ります)。この事実は、SELP18105Gがいかに独自のポジションを確立しているかを示しています。
もしあなたが、SONYのAPS-Cカメラを使って本格的に動画撮影に取り組みたいと考えているなら、あるいは、一本で静止画も動画も高いレベルでこなせる汎用性の高いレンズを探しているなら、SELP18105Gは間違いなく最有力候補の一つとなるでしょう。パワーズームという特性を理解し、そのメリットを活かせるユーザーにとって、このレンズは間違いなくあなたの表現の幅を大きく広げてくれる、強力なパートナーとなるはずです。
広角端の歪曲やパワーズームの操作感といった弱点も確かに存在しますが、それらを補って余りあるほどのメリット、特に動画撮影における性能の高さが、このレンズの最大の魅力であり、多くのユーザーに支持され続ける理由です。あなたの撮影スタイルにSELP18105Gの特性がフィットするかどうか、本記事がその判断の助けとなれば幸いです。