Ora2Pgで実現!Oracle→PostgreSQLへのスムーズなDB移行

はい、承知いたしました。Ora2Pgを使用したOracleからPostgreSQLへのデータベース移行に関する詳細な記事を作成します。約5000語を目指し、準備から完了までのステップ、設定、課題、解決策を含めた網羅的な内容とします。記事の内容を直接表示します。


Ora2Pgで実現!Oracle→PostgreSQLへのスムーズなDB移行 – 詳細ガイド:準備から完了までのステップと注意点

はじめに:なぜOracleからPostgreSQLへ?そしてOra2Pgの役割

長年、リレーショナルデータベース(RDB)の分野で強力な存在感を放ってきたOracle Database。その堅牢性、高機能性は多くのエンタープライズシステムで採用される理由でした。しかし近年、システムのクラウド移行、コスト最適化、オープンソース技術へのシフトといった流れの中で、Oracle Databaseからの移行を検討する企業が増えています。

移行先の有力候補として挙げられるのが、PostgreSQLです。PostgreSQLは、オープンソースでありながら、高度なSQL機能、ACID準拠、豊富なデータ型、拡張性の高さなど、商用データベースにも劣らない、あるいはそれ以上の機能を備えています。多くのクラウドベンダーがマネージドサービスとして提供しており、ライセンスコストを大幅に削減できる可能性があります。また、活発なコミュニティによって常に進化を続けている点も魅力です。

OracleからPostgreSQLへの移行は、単にデータを移すだけでなく、スキーマ定義、データ型、ストアドプログラム(プロシージャ、ファンクション、パッケージ)、さらにはアプリケーションコードの変更を伴う、決して容易ではないプロジェクトです。特に、Oracle独自の機能や構文が多く使われている場合、手作業での変換には多大な工数とリスクが伴います。

ここで登場するのが、Ora2Pgという強力なオープンソースツールです。Ora2Pgは、Perlで記述されたツールで、Oracleデータベースの構造を分析し、スキーマ定義(DDL)、データ、ストアドプログラムなどをエクスポートし、PostgreSQLで実行可能な形式に変換する機能を提供します。手作業による変換作業を大幅に削減し、移行プロジェクトの効率と成功率を高めるための、Oracle→PostgreSQL移行におけるデファクトスタンダードとも言えるツールです。

本記事では、このOra2Pgを徹底的に活用し、OracleからPostgreSQLへのデータベース移行を成功させるための詳細なガイドを提供します。Ora2Pgのインストールから基本的な設定、スキーマおよびデータのエクスポート、PostgreSQLへのインポート、移行後の検証、さらには移行で直面しがちな課題と解決策まで、実践的なステップを追って解説します。

Oracleからの移行をご検討されているDB管理者、開発者、プロジェクトマネージャーの方々にとって、本記事が具体的なアクションへの一助となれば幸いです。

第1部:Ora2Pgとは?その特徴と利点

Ora2Pgは、OracleデータベースからPostgreSQLデータベースへの移行を支援するために設計された、Perlベースのコマンドラインツールです。その主な目的は、Oracleデータベースのオブジェクト定義(テーブル、インデックス、シーケンス、ビュー、ストアドプロシージャなど)とデータを抽出し、PostgreSQL互換のSQLスクリプトとして出力することです。

Ora2Pgの主な機能

  1. スキーマ分析と評価: 移行対象のOracleデータベースを分析し、PostgreSQLとの互換性、移行に必要な工数、潜在的な課題などをレポートとして出力できます。これにより、移行計画の初期段階でリスクを把握できます。
  2. スキーマ定義(DDL)のエクスポートと変換:
    • テーブル定義(カラム、データ型、NOT NULL制約、デフォルト値)
    • プライマリキー、ユニークキー、外部キー制約
    • インデックス
    • シーケンス
    • ビュー
    • ストアドプロシージャ、ファンクション、パッケージ
    • トリガー
    • シノニム、DBリンク(可能な範囲で変換を試みるか、代替策を提示)
      Ora2Pgは、Oracle固有のデータ型や構文をPostgreSQL互換のものに自動的に変換しようと試みます。
  3. データのエクスポート: Oracleテーブルからデータを抽出し、PostgreSQLのCOPYコマンド形式(高速)またはINSERTステートメント形式で出力します。大量データの移行に対応するための並列エクスポート機能も備えています。
  4. 設定の柔軟性: 豊富な設定オプションを提供し、移行のニーズに合わせて出力内容を細かく制御できます。特定のオブジェクトのみを対象とするフィルタリング機能や、データ型のマッピングルールをカスタマイズする機能などがあります。
  5. 互換性の高い出力: 生成されるSQLスクリプトは、可能な限りPostgreSQLの標準SQLおよびPL/pgSQL(PostgreSQLのプロシージャ言語)に準拠するように設計されています。

Ora2Pgを利用する利点

  • 工数削減: 手作業でのDDL変換やデータ抽出と比較して、移行にかかる時間と労力を大幅に削減できます。
  • ミスの削減: 自動化された変換プロセスにより、手作業による入力ミスや変換漏れのリスクを低減できます。
  • 標準化されたアプローチ: 移行プロセスを標準化し、繰り返し実行可能なスクリプトとして管理できます。
  • コスト効率: オープンソースツールであり、ライセンス費用はかかりません。
  • カスタマイズ性: 複雑な要件や特定のオブジェクトに対するカスタマイズが比較的容易に行えます。

Ora2Pgが万能ではない点

ただし、Ora2PgはOracle→PostgreSQL移行における強力な支援ツールではありますが、万能ではありません。特に以下の点については注意が必要です。

  • PL/SQLの完璧な自動変換は困難: Oracleの高度なPL/SQL(パッケージ、複雑なカーソル、例外処理、Oracle固有の組み込み関数など)は、PostgreSQLのPL/pgSQLに完全に自動変換することは非常に難しいです。Ora2Pgは変換を試みますが、多くの場合、手作業による修正や書き換えが必要になります。これは、Oracle→PostgreSQL移行における最大の課題の一つです。
  • Oracle固有機能の代替: Oracle Real Application Clusters (RAC)、Automatic Storage Management (ASM)、Partitioning (方法によっては変換可能)、Database VaultなどのOracle固有の高度な機能は、PostgreSQLで同等の機能を探すか、アプリケーション側で吸収する必要があります。Ora2Pgはこれらの機能自体を移行するわけではありません。
  • パフォーマンスチューニング: Ora2Pgが出力するSQLスクリプトは、PostgreSQLの標準機能に基づいています。移行後のパフォーマンス最適化は、別途PostgreSQLの専門知識に基づいて行う必要があります。

これらの点を理解した上でOra2Pgを活用することで、より現実的で効果的な移行計画を立てることができます。

第2部: Ora2Pgの導入と準備

Ora2Pgを使用するための環境準備について解説します。移行作業を実行するサーバー(以下、移行サーバー)が必要です。このサーバーは、OracleデータベースおよびPostgreSQLデータベースの両方にネットワーク接続できる必要があります。OSとしては、Linux/Unix系の環境が一般的です。

必要なソフトウェアとライブラリ

Ora2Pgを実行するために、以下のソフトウェアとライブラリが必要です。

  1. Perlインタープリター: Ora2PgはPerlで記述されているため、Perl実行環境が必要です。多くのLinuxディストリビューションにはデフォルトでインストールされていますが、バージョンを確認してください(通常、5.8以上が推奨されます)。
  2. 必要なPerlモジュール: Ora2Pgの機能に必要なPerlモジュールをインストールする必要があります。特に重要なのは以下のモジュールです。
    • DBI: Database Independent Interface、データベース接続のための共通インターフェースです。
    • DBD::Oracle: Oracleデータベースに接続するためのDBIドライバです。Oracle Client Libraryが必要です。
    • DBD::Pg: PostgreSQLデータベースに接続するためのDBIドライバです。(一部の機能やテストに必要ですが、主なエクスポートには必須ではありません)
    • Data::Dumper
    • Encode
    • File::Path
    • File::Spec
    • File::Copy
    • Getopt::Long
    • Pod::Usage
    • Storable
    • Time::HiRes
      これらのモジュールは、CPAN (Comprehensive Perl Archive Network) を利用するか、OSのパッケージマネージャー(yum, apt, dnfなど)を使用してインストールできます。
  3. Oracle Client Library: DBD::OracleがOracleデータベースに接続するために必要です。Oracle Instant Clientが推奨されます。Oracle Technology Network (OTN) からダウンロードできます。移行サーバーのOSアーキテクチャ(32bit/64bit)に合ったものを選んでください。
  4. Ora2Pg本体: Ora2Pgの最新版を公式サイトまたはGitHubリポジトリからダウンロードします。

インストール手順

ここでは、Linux環境における一般的なインストール手順を説明します。

1. Perlおよび必須モジュールのインストール

OSのパッケージマネージャーを使用するのが最も簡単です。

“`bash

CentOS/RHELの場合

sudo yum update
sudo yum install perl perl-DBI perl-DBD-Pg perl-Data-Dumper perl-Encode perl-File-Path perl-File-Spec perl-File-Copy perl-Getopt-Long perl-Pod-Usage perl-Storable perl-Time-HiRes

Ubuntu/Debianの場合

sudo apt update
sudo apt install perl libdbi-perl libdbd-pg-perl libdata-dumper-perl libencode-perl libfile-path-perl libfile-spec-perl libfile-copy-perl libgetopt-long-perl libpod-usage-perl libstorable-perl libtime-hires-perl
“`

DBD::Oracleは、Oracle Client Libraryが必要なため、通常パッケージマネージャーでは提供されません。CPANまたは手動でインストールします。

2. Oracle Instant Clientのインストール

Oracle Technology NetworkからInstant Client Basic LightまたはBasicパッケージをダウンロードします。

“`bash

例:Instant Client Basic Package (64-bit) for Linux

wget https://download.oracle.com/otn_software/linux/instantclient/instantclient-basic-linuxx64-21.x.0.0.0.zip # バージョンは適宜変更
unzip instantclient-basic-linuxx64-21.x.0.0.0.zip
sudo mkdir /opt/oracle
sudo mv instantclient_21_x /opt/oracle/instantclient_21_x # バージョンディレクトリ名を変更
“`

環境変数を設定します。ユーザーの.bashrc.profile、またはシステム全体の設定ファイルに記述します。

“`bash
export ORACLE_HOME=/opt/oracle/instantclient_21_x
export LD_LIBRARY_PATH=$ORACLE_HOME:$LD_LIBRARY_PATH
export PATH=$ORACLE_HOME:$PATH

必要に応じて、TNS_ADMINを設定

export TNS_ADMIN=/path/to/your/tnsnames.ora/directory

“`

設定を反映します。

bash
source ~/.bashrc # あるいはログアウト/ログイン

必要に応じて、Instant Clientライブラリへのシンボリックリンクを作成します。

bash
sudo sh -c "echo /opt/oracle/instantclient_21_x > /etc/ld.so.conf.d/oracle.conf"
sudo ldconfig

3. DBD::Oracleのインストール

Oracle Client Libraryが設定された環境で、CPANを使ってDBD::Oracleをインストールします。

bash
sudo cpan DBD::Oracle

インタラクティブな設定が求められる場合があります。特にOracle Client Libraryの場所などを尋ねられたら、正しく指定します。

注意: DBD::Oracleのインストール中にエラーが発生する場合、Oracle Client Libraryのパス設定や、必要なOSパッケージ(gcc, makeなど)が不足している可能性があります。エラーメッセージをよく確認してください。

4. Ora2Pg本体のインストール

Ora2Pgのソースコードをダウンロードします。

bash
wget https://github.com/darold/ora2pg/archive/v24.0.tar.gz # 最新バージョンは確認
tar zxf v24.0.tar.gz
cd ora2pg-24.0

インストールします。

bash
perl Makefile.PL
make
sudo make install

これで、ora2pgコマンドがシステムパスに含まれるようになります。

インストール後の確認

Ora2Pgが正しくインストールされたか確認します。

bash
ora2pg --version

バージョン情報が表示されれば成功です。

次に、Oracleデータベースへの接続に必要な情報を準備します。

  • Oracleデータベースのホスト名またはIPアドレス
  • リスナーポート番号 (通常1521)
  • SIDまたはサービス名
  • 接続ユーザー名とパスワード (移行対象のスキーマに対するSELECT権限、DBMS_METADATAパッケージに対するEXECUTE権限などが必要です)

これらの情報を元に、次のセクションで設定ファイルを作成します。

第3部:Ora2Pg設定ファイル (ora2pg.conf) の活用

Ora2Pgの動作は、設定ファイルによって細かく制御されます。デフォルトでは/etc/ora2pg/ora2pg.confが使用されますが、プロジェクトごとに設定ファイルをコピーして使用し、-cオプションで指定するのが一般的です。

bash
sudo cp /etc/ora2pg/ora2pg.conf . # 現在のディレクトリにコピー

このコピーしたファイル (ora2pg.conf) を編集して、移行元のOracleデータベース情報、移行先のPostgreSQLデータベース情報(必要であれば)、出力先ディレクトリ、エクスポート対象、変換ルールなどを定義します。

以下に、主要な設定パラメータとその役割を解説します。ファイル内のコメントも参考にしながら設定を進めてください。

接続設定

  • ORACLE_DSN: 移行元のOracleデータベースへの接続情報。以下の形式があります。
    • dbi:Oracle:host=<hostname>;sid=<SID>
    • dbi:Oracle:host=<hostname>;service_name=<service_name>
    • dbi:Oracle:tns=<TNS別名> (TNS_ADMIN環境変数を設定している場合)
      例: ORACLE_DSN dbi:Oracle:host=192.168.1.10;sid=ORCL
  • ORACLE_USER: 接続ユーザー名。例: ORACLE_USER migration_user
  • ORACLE_PWD: 接続パスワード。例: ORACLE_PWD mypassword
  • SCHEMA: 移行対象のスキーマ名。大文字小文字を区別して正確に記述します。例: SCHEMA MYAPP_SCHEMA
  • ORACLE_HOME: Oracle Client Libraryのパス(通常は環境変数で設定されていれば不要ですが、明示的に指定することも可能)。
  • TNS_ADMIN: tnsnames.oraが存在するディレクトリ(環境変数で設定されていれば不要)。

  • PG_DSN, PG_USER, PG_PWD: これらの設定は、Ora2PgがOracleから直接PostgreSQLへデータをロードする場合や、移行元のスキーマを移行先のスキーマと比較する際などに使用します。一般的なエクスポート→インポートのワークフローでは必須ではありませんが、一部の機能で使用可能です。

出力設定

  • OUTPUT: 生成されるSQLスクリプトやレポートの出力先ディレクトリ。例: OUTPUT /mnt/migration_output
  • OUTPUT_FILE: 生成されるSQLスクリプトのファイル名。TYPE設定と組み合わせて使用します。例: OUTPUT_FILE schema.sql
  • LOGFILE: Ora2Pgの実行ログを出力するファイルパス。トラブルシューティングに役立ちます。例: LOGFILE /var/log/ora2pg.log

移行対象の制御 (TYPE)

最も重要な設定の一つです。どのようなオブジェクトをエクスポートするかを指定します。カンマ区切りで複数指定できます。

  • SCHEMA: スキーマ全体の定義(テーブル、インデックス、制約、ビュー、シーケンス、プロシージャなど)
  • TABLE: テーブル定義のみ
  • DATA: テーブルデータのみ
  • PACKAGE: PL/SQLパッケージのみ
  • PROCEDURE: ストアドプロシージャのみ
  • FUNCTION: ストアドファンクションのみ
  • VIEW: ビューのみ
  • SEQUENCE: シーケンスのみ
  • TRIGGER: トリガーのみ
  • GRANT: オブジェクトに対するGRANT権限
  • SYNONYM: シノニム
  • DBLINK: データベースリンク
  • FULL: SCHEMA + DATA (非推奨、分割して実行すべき)
  • REPORT: 移行評価レポートの生成
  • SHOW_REPORT: 移行評価レポートを標準出力に表示
  • SHOW_SCHEMA: スキーマ内のオブジェクト一覧を表示
  • SHOW_TABLE: テーブル一覧を表示
  • SHOW_COLUMN: テーブルのカラム一覧を表示
  • SHOW_GRANT: GRANT権限一覧を表示
  • SHOW_SEQUENCE: シーケンス一覧を表示
  • SHOW_VIEW: ビュー一覧を表示
  • SHOW_COST: 移行コストレポートを標準出力に表示

例: TYPE SCHEMA,DATA (非推奨、後述の実行手順を参照)
例: TYPE SCHEMA (スキーマ定義をエクスポートする場合)
例: TYPE DATA (データをエクスポートする場合)
例: TYPE SHOW_REPORT (移行評価レポートを表示する場合)

変換ルールとカスタマイズ

  • TRANSLATE_MODE: ストアドプロシージャ/ファンクション/パッケージの変換モード。
    • NULL (デフォルト): DDLをそのままに近い形で出力(PL/SQLはコメントアウトされることが多い)。手動変換を前提とする場合に適します。
    • PLSQL: PL/pgSQLへの自動変換を試みます。複雑なコードには対応できないことが多いです。
    • FDW: Oracle FDW (Foreign Data Wrapper) を使用する場合の設定(あまり一般的ではありません)。
      例: TRANSLATE_MODE PLSQL
  • MODIFY_TYPE: データ型のマッピングをカスタマイズします。Oracleのデータ型をPostgreSQLのデータ型に変換するルールを定義します。
    形式: ModifyType <Oracleデータ型>:<PostgreSQLデータ型> [[ADD_LENGTH|IGNORE_LENGTH],...]
    例: MODIFY_TYPE NUMBER(*,0):BIGINT (小数点以下のないNUMBERをBIGINTにマッピング)
    例: MODIFY_TYPE NUMBER:NUMERIC (すべてのNUMBERをNUMERICにマッピング)
    例: MODIFY_TYPE VARCHAR2:VARCHAR
    例: MODIFY_TYPE NVARCHAR2:VARCHAR
    例: MODIFY_TYPE DATE:TIMESTAMP WITHOUT TIME ZONE
    例: MODIFY_TYPE TIMESTAMP:TIMESTAMP WITH TIME ZONE
    例: MODIFY_TYPE BLOB:BYTEA
    例: MODIFY_TYPE CLOB:TEXT
    デフォルトの変換ルールを確認し、必要に応じてカスタマイズしてください。ADD_LENGTHを使うと、VARCHAR2(100)をVARCHAR(100)のように、長さを引き継ぎます。IGNORE_LENGTHはその逆です。
  • DROP_FOREIGN_KEYS: スキーマエクスポート時に外部キー定義を含めないかどうか。データロードを高速化するために1 (含めない) に設定し、データロード後に別途追加するワークフローが推奨されます。例: DROP_FOREIGN_KEYS 1
  • DROP_INDEXES: スキーマエクスポート時にインデックス定義を含めないかどうか。データロードを高速化するために1に設定し、データロード後に別途追加するワークフローが推奨されます。例: DROP_INDEXES 1
  • REPLACE_TABLES: 生成されるCREATE TABLE文の前にDROP TABLE IF EXISTSを追加するかどうか。例: REPLACE_TABLES 1
  • PKEY_IN_CREATE: CREATE TABLE文の中でプライマリキー制約を定義するかどうか。例: PKEY_IN_CREATE 1
  • FKEY_IN_CREATE: CREATE TABLE文の中で外部キー制約を定義するかどうか。通常はDROP_FOREIGN_KEYS 1とセットで0にします。例: FKEY_IN_CREATE 0
  • USE_ORACLE_COLUMN_NAME: Oracleの列名の大文字/小文字をそのまま使用するかどうか。Oracleは通常大文字ですが、PostgreSQLはデフォルトでは小文字として扱います。大文字のままにするには1に設定し、QUOTE_ALL_IDENT1にする必要があります。例: USE_ORACLE_COLUMN_NAME 1
  • QUOTE_ALL_IDENT: すべての識別子(テーブル名、列名など)を二重引用符で囲むかどうか。PostgreSQLでは識別子がデフォルトで小文字に変換されるのを防いだり、予約語との衝突を回避したりするために重要です。USE_ORACLE_COLUMN_NAME1にする場合は必須です。例: QUOTE_ALL_IDENT 1
  • FORCE_LOWER_CASE: すべての識別子を強制的に小文字に変換するかどうか。PostgreSQLのデフォルトの振る舞いに合わせたい場合に便利です。QUOTE_ALL_IDENTUSE_ORACLE_COLUMN_NAMEと同時に設定すると意図しない結果になることがあります。
  • ORA_RESERVED_WORDS: Oracleでは予約語ではないがPostgreSQLでは予約語である単語リスト。これらの単語が識別子として使用されている場合に問題を起こさないように、通常はOra2Pgが自動的に処理しますが、必要に応じて追加できます。
  • SEQUENCE_AS_SERIAL: プライマリキーとして使用されているシーケンスをPostgreSQLのSERIALまたはBIGSERIAL型に変換するかどうか。手動で変換するよりも簡単ですが、全てのケースで適切とは限りません。例: SEQUENCE_AS_SERIAL 1
  • LOB_ENABLE: LOB(BLOB, CLOB)データをエクスポートするかどうか。例: LOB_ENABLE 1
  • LOB_TYPE: LOBデータのPostgreSQLでの型。通常はBYTEAまたはTEXT。例: LOB_TYPE BYTEA

パフォーマンス設定

  • JOBS: データエクスポート時の並列処理数を指定します。CPUコア数やディスクI/O性能などを考慮して調整します。例: JOBS 4
  • DATA_LIMIT: データエクスポート時に各テーブルからエクスポートする行数を制限します。テスト用途に便利です。例: DATA_LIMIT 10000

オブジェクトフィルタリング

  • SCHEMA_FILTER: エクスポート対象のスキーマを正規表現で指定します。SCHEMA設定と組み合わせて使用します。
  • TABLE_FILTER: エクスポート対象のテーブルを正規表現で指定します。例: TABLE_FILTER ^(?!TEMP_).*$ (TEMP_で始まるテーブルを除く)
  • OBJECT_FILTER: エクスポート対象のオブジェクト(ビュー、シーケンスなど)を正規表現で指定します。
  • EXCLUDE_SCHEMA, EXCLUDE_TABLE, EXCLUDE_OBJECT: エクスポートから除外するスキーマ、テーブル、オブジェクトを正規表現で指定します。

これらのフィルタリングオプションを駆使することで、移行対象範囲を正確にコントロールできます。

その他の設定

  • ORACLE_COPIES: 各テーブルのデータをエクスポートする際に、Oracle側で同時に実行するクエリ数を指定します。JOBSと連携してOracle側の負荷にも影響します。
  • PG_COPY_CHUNK_SIZE: データをCOPYコマンドでインポートする際のチャンクサイズ(一度にロードする行数)。
  • STOP_ON_ERROR: スクリプト実行中にエラーが発生した場合に停止するかどうか。

設定ファイルの編集が終わったら保存します。この設定ファイルを指定してora2pgコマンドを実行することになります。

第4部:移行プロセス:ステップバイステップガイド

Ora2Pgのインストールと設定が完了したら、いよいよ実際の移行作業に進みます。一般的には、以下の順序で作業を進めます。

  1. 移行評価レポートの生成と分析
  2. スキーマ定義 (DDL) のエクスポート
  3. 生成されたスキーマDDLのレビューと修正(重要!)
  4. PostgreSQLへのスキーマインポート
  5. テーブルデータのエクスポート
  6. PostgreSQLへのデータインポート
  7. シーケンスの現在値調整
  8. 外部キー制約とインデックスの追加(データロードを高速化するために遅延させた場合)
  9. ストアドプログラム(プロシージャ、ファンクション、パッケージなど)の手動変換とインポート
  10. 移行後の検証とテスト

ステップ1:移行評価レポートの生成と分析

移行作業を開始する前に、対象となるOracleデータベースの構造を分析し、移行の複雑さや潜在的な問題を把握することが重要です。Ora2PgのREPORTまたはSHOW_REPORTタイプを使用します。

まず、設定ファイルでTYPEREPORTに設定します。

“`ini

ora2pg.conf


TYPE REPORT
OUTPUT /mnt/migration_output
OUTPUT_FILE migration_report.html

“`

そして、レポートを生成します。

bash
ora2pg -c /path/to/your/ora2pg.conf

OUTPUT_FILEに指定したファイル(例: migration_report.html)に、移行に関する詳細なレポートが出力されます。このレポートには、オブジェクトの種類ごとの数、Ora2Pgが自動変換できる度合い、手動での作業が必要と思われる箇所(特にPL/SQL)に関する評価、推奨される設定変更などが含まれます。

SHOW_REPORTを使用すると、レポートが標準出力に表示されます。

bash
ora2pg -c /path/to/your/ora2pg.conf -t SHOW_REPORT

このレポートを丹念に分析し、移行計画におけるリスク箇所や必要な工数を洗い出してください。特に、PL/SQLの複雑性スコアが高い箇所は、手動変換の大きな負荷になる可能性が高いです。

また、SHOW_SCHEMA, SHOW_TABLE, SHOW_COLUMNなどのタイプを使用して、特定のオブジェクトの詳細情報を確認することもできます。

bash
ora2pg -c /path/to/your/ora2pg.conf -t SHOW_TABLE

ステップ2:スキーマ定義 (DDL) のエクスポート

次に、テーブル定義、インデックス、制約、ビュー、シーケンスなどのスキーマオブジェクトのDDLをエクスポートします。この段階ではデータはエクスポートしません。

設定ファイルでTYPESCHEMAに設定します。外部キー制約やインデックスはデータロード後に作成する方が高速なので、DROP_FOREIGN_KEYSDROP_INDEXES1に設定することを推奨します。

“`ini

ora2pg.conf


TYPE SCHEMA
OUTPUT /mnt/migration_output
OUTPUT_FILE schema.sql
DROP_FOREIGN_KEYS 1
DROP_INDEXES 1

“`

Ora2Pgを実行してスキーマDDLを生成します。

bash
ora2pg -c /path/to/your/ora2pg.conf

指定したOUTPUT_FILE(例: schema.sql)に、PostgreSQL互換のDDLスクリプトが生成されます。

ステップ3:生成されたスキーマDDLのレビューと修正(重要!)

これが移行プロセスにおいて最も時間と労力がかかる可能性のあるステップです。Ora2Pgは多くのオブジェクトを自動変換しますが、完璧ではありません。生成されたschema.sqlファイルをテキストエディタで開き、以下の点に注意してレビューし、必要に応じて手動で修正します。

  • データ型マッピング: Ora2Pgが変換したデータ型が適切か確認します。特にNUMBER型がNUMERICINTEGERBIGINTのどれにマッピングされているか、小数点以下の精度が失われていないかなどを注意深くチェックします。FLOAT, DOUBLEなどの浮動小数点数型も確認します。DATETIMESTAMPのタイムゾーンに関する扱いの違いも考慮します。
  • 識別子の引用符と大文字小文字: Oracleでは大文字/小文字を区別しない(unless quoted)のに対し、PostgreSQLではデフォルトで小文字に変換されます(quotedの場合は区別)。Ora2Pgの設定(QUOTE_ALL_IDENT, USE_ORACLE_COLUMN_NAME, FORCE_LOWER_CASE)に従って出力されますが、意図した通りになっているか確認します。特に既存のアプリケーションコードが特定の記述に依存している場合は重要です。
  • PL/SQLの変換: ストアドプロシージャ、ファンクション、パッケージ、トリガーなどのPL/SQLコードは、TRANSLATE_MODEによって自動変換が試みられますが、多くの場合、手動でのリファクタリングや書き換えが必要です。
    • Oracle固有の組み込み関数やパッケージ (DBMS_OUTPUT, UTL_FILE, DBMS_JOB/DBMS_SCHEDULERなど) は、PostgreSQLで代替機能を探すか、アプリケーション側で処理する必要があります。
    • 例外処理 (EXCEPTIONブロック) の構文や挙動の違いを修正します。
    • カーソルの宣言や使用方法の違いを修正します。
    • パッケージはPostgreSQLには直接対応する概念がないため、通常は個別のファンクションやプロシージャに分解するか、PostgreSQLのスキーマ構造や関数オーバーロードで代替することを検討します。
  • ビュー定義: Oracle固有の関数や構文(例: DUALテーブルの使用、特定の分析関数)がビュー定義に含まれている場合、PostgreSQL互換の構文に修正する必要があります。ROWNUMLIMIT句に置き換えます。
  • シーケンス: SEQUENCE_AS_SERIAL設定を使用した場合、プライマリキー列がSERIAL/BIGSERIAL型に変換されます。そうでない場合、または他の用途で使用されているシーケンスは、独立したCREATE SEQUENCE文としてエクスポートされます。後でデータロード後にシーケンスの現在値を最新のIDに合わせて更新する必要があります(後述)。
  • 特殊なオブジェクト: シノニム(通常はビューに変換するか、検索パスで対応)、データベースリンク(Foreign Data Wrapperやアプリケーションレベルの連携で代替)など、Oracle固有の機能に依存するオブジェクトの扱いは、個別に対応を検討します。
  • コメント: Oracleのコメント(テーブルコメント、カラムコメント)はPostgreSQLのCOMMENT ON文としてエクスポートされますが、正しく変換されているか確認します。

このレビューと修正のプロセスは、移行プロジェクトの成功を左右する非常に重要な工程です。時間をかけて丁寧に行い、必要に応じてPostgreSQLのエキスパートの助けを借ります。

ステップ4:PostgreSQLへのスキーマインポート

修正が完了したschema.sqlファイルをPostgreSQLデータベースにインポートします。

まず、移行先のPostgreSQLサーバー上に、移行対象のデータベースとスキーマ(必要であれば)を作成し、Ora2Pg実行ユーザーに適切な権限(CREATE、ALTER、DROPなど)を付与しておきます。

スキーマのインポートは、psqlコマンドを使用します。

bash
psql -h <pg_host> -p <pg_port> -U <pg_user> -d <pg_db> -f /path/to/your/migration_output/schema.sql

  • -h: PostgreSQLサーバーのホスト名またはIPアドレス
  • -p: PostgreSQLのポート番号 (通常5432)
  • -U: PostgreSQLへの接続ユーザー名
  • -d: 接続するデータベース名
  • -f: 実行するSQLファイル

インポート中にエラーが発生した場合、エラーメッセージを注意深く確認し、schema.sqlファイルまたはPostgreSQLの設定(権限など)を修正して再実行します。

ステップ5:テーブルデータのエクスポート

スキーマが正常にインポートされたら、次にOracleからテーブルデータをエクスポートします。

設定ファイルでTYPEDATAに設定します。大量データの場合、JOBSを適切な並列数に設定して高速化を図ります。LOB_ENABLEが必要であれば1に設定します。

“`ini

ora2pg.conf


TYPE DATA
OUTPUT /mnt/migration_output
OUTPUT_FILE data.sql # ファイル名は任意
JOBS 4 # 例:4並列でエクスポート
LOB_ENABLE 1 # LOBデータもエクスポートする場合

“`

Ora2Pgを実行してデータをエクスポートします。

bash
ora2pg -c /path/to/your/ora2pg.conf

これにより、データがPostgreSQLのCOPYコマンド形式またはINSERTステートメント形式でdata.sqlファイルに書き出されます。COPY形式の方がはるかに高速なので推奨されます。

注意: 非常に大規模なデータセットの場合、単一の大きなdata.sqlファイルとして出力するのではなく、テーブルごとに分割してファイルを出力することを検討してください。Ora2Pgはデフォルトでテーブルごとにファイルを作成する設定も可能です (OUTPUT_FILEに特定の変数を使用)。

ステップ6:PostgreSQLへのデータインポート

生成されたデータファイル (data.sqlなど) をPostgreSQLデータベースにインポートします。

大量データをインポートする際は、以下の点を考慮するとパフォーマンスが向上します。

  • COPYコマンドを使用する: Ora2PgがCOPY形式で出力していることを確認します。これはINSERT文を多数実行するより圧倒的に高速です。
  • 外部キー制約、トリガーを一時的に無効化: データの整合性チェックやトリガーの実行は、データロードのオーバーヘッドになります。ロード前に無効化し、ロード後に再度有効化します。
    • ALTER TABLE table_name DISABLE TRIGGER ALL;
    • ALTER TABLE table_name DISABLE CONSTRAINT ALL; (これはPostgreSQLのバージョンによって動作が異なる場合あり。ALTER TABLE table_name ALTER CONSTRAINT constraint_name DEFERRED; や、制約をDROP/ADDする方が確実な場合も)
  • インデックスの削除: スキーマインポート時にインデックスを含めなかった場合はこのステップは不要です。含めてしまった場合、データロード前にインデックスを削除し、ロード後に再作成する方が高速です。
  • PostgreSQLの設定チューニング: postgresql.conffsync, synchronous_commit, wal_level, checkpoint_segments (または max_wal_size) などの設定を一時的に緩めることで、データロード速度を向上させることができます。(ただし、クラッシュリカバリ時のリスクが増加するため、慎重に適用し、ロード後に元に戻すこと)

データファイルのインポートを実行します。

bash
psql -h <pg_host> -p <pg_port> -U <pg_user> -d <pg_db> -f /path/to/your/migration_output/data.sql

インポート中にエラーが発生した場合(データ型の不一致、制約違反など)、エラーの原因を調査し、データファイルまたはPostgreSQLのスキーマ定義を修正して、影響を受けたテーブルのみを再度ロードし直すなどの対応が必要です。

ステップ7:シーケンスの現在値調整

SEQUENCE_AS_SERIALを使用せず、独立したシーケンスとして移行した場合、PostgreSQLのシーケンスの現在値は初期値(通常1)になっています。しかし、テーブルのプライマリキーなどで使用されているシーケンスは、データロードによって挿入された行の最大IDよりも大きな値から開始するように調整する必要があります。そうしないと、新しい行を挿入した際に主キー重複エラーが発生します。

各シーケンスについて、以下のSQLを実行して現在値を調整します。

sql
SELECT setval('your_sequence_name', (SELECT MAX(your_id_column) FROM your_table_name));

もし、テーブルにまだデータが全くない(MAXがNULLになる)場合は、setval('your_sequence_name', 1, false);のように、次の値が1になるように設定します(第三引数をfalseにすると、設定した値の次から採番されます)。

多数のシーケンスがある場合、この調整スクリプトを自動生成することを検討してください。Ora2PgのSHOW_SEQUENCEタイプとシェルの組み合わせなどでリストを取得し、SQLを生成できます。

ステップ8:外部キー制約とインデックスの追加

データロードを高速化するために外部キー制約とインデックスの作成を遅延させた場合、ここで追加します。

ora2pg.confTYPESCHEMAにし、DROP_FOREIGN_KEYSDROP_INDEXES0に設定し、OUTPUT_FILEを別の名前にしてOra2Pgを実行します。これにより、制約とインデックスのみを含むDDLファイルが生成されます。

“`ini

ora2pg.conf (別バージョンとして保存または編集)


TYPE SCHEMA
OUTPUT /mnt/migration_output
OUTPUT_FILE constraints_indexes.sql
DROP_FOREIGN_KEYS 0 # 外部キーを含める
DROP_INDEXES 0 # インデックスを含める
REPLACE_TABLES 0 # DROP TABLEは含めない

“`

bash
ora2pg -c /path/to/your/ora2pg_constraints.conf # 新しい設定ファイル名を指定

生成されたconstraints_indexes.sqlファイルをPostgreSQLにインポートします。

bash
psql -h <pg_host> -p <pg_port> -U <pg_user> -d <pg_db> -f /path/to/your/migration_output/constraints_indexes.sql

インポート中にエラーが発生する場合、外部キー制約のエラーは、参照整合性が保たれていないデータが存在することを示唆します。データの不整合を修正してから再度制約を追加する必要があります。

ステップ9:ストアドプログラムの手動変換とインポート

ステップ3でレビューしたストアドプロシージャ、ファンクション、パッケージ、トリガーなどのPL/SQLコードを、手動でPostgreSQLのPL/pgSQLまたは適切な代替手段(例: アプリケーションコード、外部関数)に変換します。

変換が完了したら、それぞれのオブジェクト定義を個別に、またはまとめたSQLファイルとしてPostgreSQLにインポートします。

“`bash
psql -h -p -U -d -f /path/to/your/plpgsql_functions.sql
psql -h -p -U -d -f /path/to/your/plpgsql_procedures.sql

トリガーも同様

“`

この作業は、OracleとPostgreSQLのストアドプログラミング言語の深い知識を必要とします。地道な作業ですが、アプリケーションのロジックに直結する部分なので、正確性が求められます。

ステップ10:移行後の検証とテスト

データベースのスキーマ、データ、およびストアドプログラムのインポートが完了したら、移行が成功したことを検証する必要があります。

  • オブジェクト数の確認: OracleとPostgreSQLで、テーブル、ビュー、シーケンス、関数、プロシージャ、トリガーなどのオブジェクト数が一致しているか確認します。
    • Oracle: SELECT COUNT(*) FROM user_tables;, SELECT COUNT(*) FROM user_views; など
    • PostgreSQL: SELECT count(*) FROM information_schema.tables WHERE table_schema = 'your_schema'; など
  • 行数の確認: 主要なテーブルについて、OracleとPostgreSQLで行数が一致しているかSELECT COUNT(*)で確認します。
  • データサンプルの確認: 各テーブルからランダムに少数の行を抽出し、データの内容が一致しているか目視またはスクリプトで確認します。
  • インデックス、制約の確認: 作成したインデックスや外部キー制約が正しく存在し、有効になっているか確認します。
  • アプリケーションテスト: 移行したPostgreSQLデータベースに対して、アプリケーションが正常に動作するか、期待通りの結果を返すか、十分にテストします。機能テスト、パフォーマンステスト、負荷テストなどを行います。
  • パフォーマンスチューニング: アプリケーションテストの結果に基づいて、PostgreSQLのサーバー設定 (postgresql.conf)、スキーマ(インデックスの追加/削除、テーブルのVACUUM/ANALYZE)、クエリの最適化 (EXPLAIN ANALYZE) などを行います。

この検証とテストのサイクルは、移行の品質を保証するために非常に重要です。問題が見つかった場合は、原因を特定し、必要に応じて移行プロセスをやり直すか、手動で修正を行います。

第5部:カスタマイズと高度な機能

Ora2Pgは、基本的な移行だけでなく、特定の要件に合わせてカスタマイズするための多くのオプションを提供しています。

データ型マッピングの詳細

MODIFY_TYPE設定は非常に強力です。例えば、OracleのNUMBER(p, s)型をどのようにマッピングするかは、その精度とスケール、およびPostgreSQLでの用途によって慎重に決定する必要があります。

  • NUMBER(*,0) または NUMBER(p,0): 小数点以下の桁がない場合、INTEGERまたはBIGINT(p > 9の場合)にマッピングすることが多いです。MODIFY_TYPE NUMBER(*,0):BIGINT
  • NUMBER(*,s) または NUMBER(p,s) (s > 0): 小数点以下がある場合、NUMERIC(p, s)または単にNUMERICにマッピングするのが最も安全です。Ora2Pgのデフォルトでは通常NUMERICになります。MODIFY_TYPE NUMBER:NUMERIC
  • FLOAT, REAL, DOUBLE PRECISION: これらはPostgreSQLでも同じ名前の型が存在しますが、浮動小数点数の精度に関する扱いはDBMSによって微妙に異なることがあるため注意が必要です。

アプリケーションがOracleの特定のデータ型の挙動に強く依存している場合、マッピングは特に重要になります。

オブジェクトフィルタリングの活用例

大規模なデータベースや、一部のスキーマ/テーブルのみを移行したい場合に、フィルタリングオプションは不可欠です。正規表現を使用して柔軟に指定できます。

  • 特定のスキーマのみ: SCHEMA_FILTER ^MY_SCHEMA$
  • 特定のテーブルのみ: TABLE_FILTER ^(users|products|orders)$
  • 特定のプレフィックスを持つテーブルを除く: EXCLUDE_TABLE ^OLD_.*
  • ビューとパッケージのみをエクスポート: TYPE VIEW,PACKAGE (他のタイプは指定しない)

並列処理 (JOBS, ORACLE_COPIES)

データエクスポートのパフォーマンスを向上させるには、JOBSORACLE_COPIESを適切に設定します。

  • JOBS: Ora2Pgがデータファイルを生成する際の並列プロセス数です。移行サーバーのCPUコア数に合わせて設定します。
  • ORACLE_COPIES: 各Ora2PgプロセスがOracleからデータをフェッチする際に、Oracle側で同時に実行するクエリ数です。Oracleサーバーの負荷を考慮して調整します。あまり大きな値を設定するとOracleサーバーに過負荷をかける可能性があります。

これらの設定は、移行サーバーおよびOracleサーバーのハードウェアリソース、ネットワーク帯域幅などを考慮してチューニングする必要があります。

LOBデータの扱い (LOB_ENABLE, LOB_TYPE)

BLOBやCLOBといったラージオブジェクト(LOB)は、データ量が大きくなりがちで、パフォーマンスやストレージ消費に影響を与えます。Ora2Pgは通常、これらをPostgreSQLのBYTEA型(BLOB)またはTEXT型(CLOB)にマッピングします。

  • LOB_ENABLE 1にすることでLOBデータもエクスポート対象になります。
  • LOB_TYPEでPostgreSQL側の型を指定します。
  • 非常に大きなLOBデータが多い場合、エクスポート/インポートに時間がかかる可能性があります。また、PostgreSQLで大きなLOBデータを扱う際のパフォーマンス特性(行内保存 vs TOAST)も理解しておく必要があります。

パーティショニングされたテーブルの扱い

Oracleのパーティショニング機能はPostgreSQLにも存在しますが、その構文や管理方法は異なります。

Ora2Pgは、Oracleのパーティション定義を読み取り、PostgreSQLのパーティショニング構文に変換しようと試みます。PARTITION_METHOD設定で、どのようなパーティショニング方法(レンジ、リスト、ハッシュ)で変換するかを指定できます。

しかし、Ora2Pgによる自動変換は基本的な定義に限られることが多く、特にサブパーティション、リファレンスパーティション、システム管理パーティションなどの高度な機能、またはパーティションメンテナンス操作(分割、マージ、交換など)に関連するロジックは、手動でPostgreSQLのパーティショニング機能に合わせて書き換える必要があります。

その他のOracle固有オブジェクト

  • シノニム: Ora2Pgはシノニムをビューに変換することが可能です。SYNONYMS設定で制御します。PostgreSQLでは、スキーマ検索パス(SET search_path TO ...)を使用することで、別スキーマのオブジェクトをスキーマ名を省略して参照できるようになり、シノニムの代替としてよく利用されます。
  • データベースリンク: Ora2Pgはデータベースリンク定義をコメントアウトして出力します。PostgreSQLでは、Foreign Data Wrapper (FDW) を使用して外部データベース(Oracle含む)に接続することが可能ですが、用途によってはアプリケーション側でのデータ連携処理に置き換える方が適切な場合もあります。

第6部:移行で直面しがちな課題と解決策

Ora2Pgを使用しても、OracleからPostgreSQLへの移行はいくつかの一般的な課題に直面することがあります。

課題1:PL/SQLの変換

前述の通り、これが最大の課題です。Ora2PgはPL/SQLコードをPL/pgSQLに自動変換しようと試みますが、複雑なコードやOracle固有機能(パッケージ、特定の関数、例外処理構文など)は手動での書き換えがほぼ必須です。

  • 解決策:
    • 移行前にPL/SQLコードの棚卸しと複雑性の評価を行います(Ora2Pgのレポートが役立ちます)。
    • 複雑なストアドプログラムは、PostgreSQLの機能(テーブル関数、CTEなど)を活用したり、処理の一部をアプリケーションコードに移動したりすることも検討します。
    • PostgreSQLのPL/pgSQL開発経験のあるエンジニアがレビューや書き換えを担当します。
    • テスト駆動開発の考え方を取り入れ、変換したストアドプログラムがOracleでの挙動と一致することを繰り返しテストします。

課題2:データ型マッピングの不一致や精度問題

OracleのNUMBER型など、一部のデータ型はPostgreSQLでの表現方法に選択肢があり、意図しないマッピングや精度問題が発生する可能性があります。

  • 解決策:
    • Ora2PgのMODIFY_TYPE設定を慎重に行い、対象データベースのデータ特性に合わせてカスタマイズします。
    • 特に重要な数値列については、移行後にデータサンプリングや統計情報を比較して、値が正確に移行されているか確認します。
    • アプリケーションレベルでデータの丸めや精度に依存している箇所がないか確認し、必要に応じて修正します。

課題3:識別子の引用符と大文字小文字の問題

Oracleではデフォルトで大文字で扱われ、引用符なしでも大文字小文字を区別しませんが、PostgreSQLではデフォルトで小文字に変換され、引用符で囲むと大文字小文字を区別します。これにより、アプリケーションコードやSQLスクリプトで問題が発生することがあります。

  • 解決策:
    • Ora2PgのQUOTE_ALL_IDENTUSE_ORACLE_COLUMN_NAME1に設定し、Oracleの大文字/小文字および引用符の有無をできるだけPostgreSQLに引き継がせるようにします。ただし、これによりPostgreSQL側で常に引用符付きで識別子を指定する必要が生じる場合があります。
    • または、FORCE_LOWER_CASE1に設定し、すべての識別子を小文字に統一します。この場合、アプリケーションコードやSQLスクリプトもすべて小文字に修正する必要があります。
    • 移行先のPostgreSQLの命名規則ポリシーを事前に決定し、それに合わせてOra2Pgの設定や手動修正を行います。

課題4:パフォーマンス問題

データロードに時間がかかったり、移行後のPostgreSQLデータベースでアプリケーションの応答性能が悪化したりすることがあります。

  • 解決策:
    • データロード時には、COPYコマンドの使用、制約/トリガー/インデックスの一時無効化、JOBSによる並列化など、Ora2PgおよびPostgreSQLの高速化手段を活用します。
    • 移行後のパフォーマンス問題は、PostgreSQLのチューニング(postgresql.conf設定)、インデックス戦略の見直し、実行計画 (EXPLAIN ANALYZE) に基づくクエリの最適化によって解決します。
    • Oracleの実行計画とPostgreSQLの実行計画を比較し、ボトルネックとなっているクエリを特定します。

課題5:Oracle固有機能の代替

Oracle RAC、ASM、Database Vault、特定のPL/SQLパッケージ、Oracle TextなどのOracle固有の高度な機能をどのように代替するかは、移行計画において重要な検討事項です。

  • 解決策:
    • これらの機能について、PostgreSQLで同等の機能(ストリーミングレプリケーション、外部データラッパー、全文検索機能など)があるか調査します。
    • 同等機能がない場合は、アプリケーションロジックで代替するか、サードパーティ製品の導入を検討します。
    • 移行対象のOracle機能が必須かどうか、代替手段にかかるコストと労力を評価します。

課題6:キャラクタセットの問題

OracleとPostgreSQLで異なるキャラクタセットを使用している場合、データの文字化けやインポートエラーが発生することがあります。

  • 解決策:
    • 移行元と移行先のデータベースで、互換性のあるキャラクタセット(例: UTF8)を使用することを強く推奨します。
    • 移行元のOracleデータベースがAL32UTF8以外の場合、エクスポート前にOracle側でデータのエクスポートエンコーディングを設定するか、Ora2Pgの適切な設定を確認します。
    • PostgreSQLデータベースはUTF8で作成し、クライアント接続のエンコーディングもUTF8に設定します。

これらの課題は、移行計画の初期段階で特定し、適切な対策を講じることで、移行プロジェクトの成功率を大幅に高めることができます。

まとめ:Ora2Pgを活用した移行成功の鍵

OracleからPostgreSQLへのデータベース移行は、コスト削減や技術的な柔軟性の向上といった多くのメリットをもたらしますが、同時に複雑な技術的課題を伴うプロジェクトです。

Ora2Pgは、この複雑な移行プロセスにおいて、スキーマやデータのエクスポート・変換を自動化し、手作業による工数とリスクを大幅に削減する強力なツールです。本記事で解説したように、Ora2Pgの豊富な設定オプションを適切に利用することで、多くのオブジェクトを効率的に移行できます。

しかし、Ora2Pgは万能ではありません。特にOracle固有の高度なPL/SQLコードの変換や、Oracle独自の機能の代替は、手動での作業やPostgreSQLの専門知識が必要となります。

移行プロジェクトを成功させるための鍵は、以下の点に集約されます。

  1. 事前の徹底した分析と計画: Ora2Pgのレポート機能を活用し、移行対象データベースの構造、複雑性、潜在的な課題を正確に把握します。これにより、現実的なスケジュールと必要なリソースを見積もることができます。
  2. Ora2Pgの設定ファイルの適切なカスタマイズ: 対象データベースの特性に合わせてora2pg.confを細かく設定します。特にデータ型マッピング、識別子の引用符、フィルタリング、並列処理などの設定は、移行の品質とパフォーマンスに直結します。
  3. 生成されたSQLスクリプトの丁寧なレビューと手動修正: Ora2Pgが生成したスキーマDDLやストアドプログラム定義を必ずレビューし、特にPL/SQLなど自動変換が困難な箇所は、PostgreSQLの構文や特性に合わせて手動で修正します。この工程が移行の品質を大きく左右します。
  4. 段階的な移行と繰り返しテスト: 一度にすべてを移行するのではなく、テーブルや機能ごとに段階的に移行を進めるアプローチがリスクを低減します。各段階でスキーマインポート、データロード、そしてアプリケーションテストを繰り返し実行し、問題がないことを確認しながら進めます。
  5. PostgreSQLの知識習得とチューニング: 移行後のデータベース運用はPostgreSQLで行われるため、PostgreSQLのアーキテクチャ、運用管理、パフォーマンスチューニングに関する知識が不可欠です。

Ora2Pgは、Oracle→PostgreSQL移行という困難な道のりを照らす灯台のような存在です。この強力なツールを最大限に活用し、計画的かつ慎重にプロジェクトを進めることで、Oracleからのスムーズな旅立ちと、PostgreSQLという新たな環境での成功を実現できるはずです。

本記事が、皆様のデータベース移行プロジェクトの一助となれば幸いです。


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