Adobe Photoshop アートボード完全ガイド:サイズ変更、追加、削除、そして効率的な活用法
Adobe Photoshopは、写真編集や画像加工のための強力なツールとして広く知られていますが、近年ではWebデザイン、モバイルアプリUI、バナー制作、複数のデザインバリエーション作成など、多様な用途で活用されています。こうした現代的なワークフローにおいて、欠かせない機能となっているのが「アートボード」です。
アートボードは、一つのPhotoshopドキュメント内に複数の独立したキャンバスエリアを作成し、それぞれ異なるデザイン要素やレイアウトを配置できるようにする機能です。これにより、以前は複数のPSDファイルに分けて管理していたデザイン要素を、一元的に管理し、効率的に作業を進めることが可能になります。
この詳細ガイドでは、Photoshopのアートボード機能に初めて触れる方から、さらに効率的に使いこなしたい方までを対象に、アートボードの基本的な概念から、今回の主目的であるサイズ変更、追加、削除の方法、さらにはアートボードを活用した効率的なワークフローまでを徹底的に解説します。約5000語にわたる解説を通じて、アートボード機能をあなたのデザイン作業に最大限に活かすための知識とテクニックを習得していただけることを目指します。
さあ、Photoshopアートボードの世界を深く掘り下げていきましょう。
第1章:アートボードとは?その概念と利点
アートボードの詳細な操作方法に入る前に、まずアートボードがどのようなものであり、なぜそれが現代のデジタルデザインワークフローにおいて重要なのかを理解することが不可欠です。
1.1 アートボードの基本的な概念
アートボードは、簡単に言えば「ドキュメント内の独立した作業エリア」です。従来のPhotoshopドキュメントは単一のキャンバスを持っていましたが、アートボード機能が登場してからは、一つのPSDファイルの中に複数のキャンバス(アートボード)を持つことができるようになりました。
それぞれのアートボードは、その内部に独自のレイヤー構造を持つかのように振る舞います。つまり、あるアートボード上に配置されたレイヤーは、基本的にそのアートボードの境界線でクリップ(切り取られる)され、そのアートボードの外側には表示されません。これにより、複数の異なるデザインや画面サイズを一つのファイルで管理しやすくなります。
アートボードはレイヤーパネル上でも特殊なグループとして表示されます。各アートボードは最上位のグループとして扱われ、その中に属するレイヤーやレイヤーグループが格納される構造になっています。
1.2 アートボードがもたらす主要な利点
アートボード機能が登場する以前は、例えばPCサイト、スマートフォンサイト、タブレットサイトのデザインを同時に行う場合、それぞれのデバイス向けに別々のPSDファイルを作成するのが一般的でした。また、同じデザインのバリエーション(例:色違いのバナー広告数種類)を作成する場合も、ファイルを複製して修正するか、一つのPSDファイル内で複雑なレイヤーの表示/非表示を切り替える必要がありました。
アートボードは、こうした従来のワークフローが抱えていた多くの課題を解決し、以下のような重要な利点をもたらします。
-
一元管理と整理:
- 複数のデザイン要素、画面サイズ、デザインバリエーションを一つのPSDファイルでまとめて管理できます。
- レイヤーパネルでアートボードごとにレイヤーが整理されるため、非常に見やすくなります。
- 関連する要素が同じファイル内にあるため、要素の再利用やデザインの整合性を保ちやすくなります。
-
効率的なデザイン比較と修正:
- 複数のアートボードを同時に画面に表示できるため、デザインの比較や整合性の確認が容易です。
- あるアートボードの要素を別のרתボードに簡単にコピー&ペーストしたり、ドラッグ&ドロップしたりできます。
- 全体的なデザインの方向性を確認しながら、個別の要素を調整できます。
-
効率的な書き出し(エクスポート):
- アートボードごとに画像を自動的に書き出す機能が提供されています(「ファイル」>「書き出し」>「アートボードをファイルに」や「アートボードをPDFに」、「生成」機能など)。
- これにより、各デザインを手動でトリミングして保存する手間が省け、特に多くのバリエーションや画面サイズを扱う場合に絶大な威力を発揮します。
- Webサイトやアプリのアセット書き出しにも最適です。
-
関連要素の共有:
- カラーパレット、タイポグラフィスタイル、共有されるデザインパターンなどをファイル全体で共有しやすくなります。スマートオブジェクトやライブラリと組み合わせることで、さらに効率的な管理が可能です。
-
UI/UXデザインワークフローの最適化:
- ウェブページやモバイルアプリの異なる画面(ホーム、詳細、設定など)をそれぞれのアートボードで作成することで、ユーザーフロー全体を一つのファイルで表現できます。
- プロトタイピングツールとの連携もしやすくなります。
アートボードは、特にデジタルデザインやUI/UXデザインに携わる方にとって、もはや必須の機能と言えるでしょう。その操作方法を習得することは、Photoshopでの生産性を大幅に向上させる鍵となります。
第2章:新規ドキュメントでアートボードを作成する
アートボードを使用する最も一般的な方法の一つは、最初からアートボードを持つ新規ドキュメントを作成することです。
2.1 新規ドキュメントダイアログの活用
Photoshopを起動し、「ファイル」>「新規」を選択するか、Ctrl+N
(Windows)またはCmd+N
(Mac)のショートカットキーを使用します。新規ドキュメントダイアログが表示されます。
このダイアログの右側にある設定オプションの中に、「アートボード」というチェックボックスがあります。
- アートボードを使用する場合: このチェックボックスをオンにします。
- 従来通りの単一キャンバスを使用する場合: このチェックボックスをオフにします。
アートボードのチェックボックスをオンにすると、新規ドキュメントは最初からアートボードを持つ状態で作成されます。デフォルトでは、指定した幅と高さを持つ「Artboard 1」という名前の最初のアートボードが一つ作成されます。
新規ドキュメント作成時のアートボード設定:
- ドキュメントプリセットの選択: 目的の用途(Web、モバイル、印刷など)に応じたプリセットを選択します。これらのプリセットの中には、最初からアートボードが有効になっているものもあります。例えば、「Web」や「モバイル」カテゴリには、様々なデバイスサイズに対応したアートボードプリセットが用意されています。
- アートボードのチェックボックス: 明示的にアートボードドキュメントとして開始したい場合は、ここでチェックを入れます。プリセットによっては自動的にチェックが入ることもありますが、必要に応じて手動でオン/オフできます。
- 幅と高さ: 最初のアートボードのサイズを指定します。単位(px, in, cmなど)もここで設定します。WebやUIデザインの場合は通常ピクセル(px)を使用します。
- 方向: 横向きまたは縦向きを選択します。
- 解像度: WebやUIデザインの場合は通常72 ppi(ピクセル/インチ)を使用しますが、印刷物など高解像度が必要な場合は適切な値を設定します。
- カラーモード: RGBカラー(Web、UI用)、CMYKカラー(印刷用)などを選択します。
- 背景コンテンツ: アートボードの背景色(白、黒、透明、カスタムカラー)を設定します。アートボードの背景は、そのアートボードに属するレイヤーの下に表示されます。
これらの設定を終えて「作成」ボタンをクリックすると、指定したサイズのアートボードが一つ含まれる新しいドキュメントが開きます。レイヤーパネルを確認すると、「Artboard 1」という名前の特殊なレイヤーグループが表示されているのが確認できます。
2.2 プリセットからの選択
「新規ドキュメント」ダイアログの左側には、様々なカテゴリー(保存済み、写真、印刷、アート&イラスト、Web、モバイル、フィルム&ビデオ)のプリセットが表示されます。特に「Web」や「モバイル」カテゴリーのプリセットを選択すると、最初からアートボードが有効になっているテンプレートが多く用意されています。
例えば、「Web」カテゴリーを選択し、「一般的なWebページ」や特定のデバイスサイズ(例: 「Web (最小) 1024 x 768」)を選択すると、アートボードチェックボックスが自動的にオンになり、そのサイズでドキュメントが作成されます。
特定のデバイス(例: iPhone X/XS/11 Pro、Google Pixel 4など)向けのデザインを開始したい場合は、「モバイル」カテゴリーから適切なプリセットを選択すると、最初からそのデバイスの画面サイズに対応したアートボードが用意されます。
これらのプリセットを活用することで、一般的なデバイスサイズや用途に合わせたアートボードを素早く作成できます。
第3章:既存ドキュメントにアートボードを追加する(非アートボードドキュメントからの変換)
すでに作業を進めている、または以前に作成した単一キャンバスのPhotoshopドキュメントがあり、そこに後からアートボードを追加したい場合もあります。Photoshopでは、既存のドキュメントをアートボードドキュメントに変換する簡単な方法が提供されています。
3.1 レイヤーパネルからの変換
最も一般的な方法は、レイヤーパネルを使用することです。
- レイヤーパネルを開く: ウィンドウメニューから「レイヤー」を選択するか、
F7
キーを押してレイヤーパネルを表示します。 - 背景レイヤーまたはレイヤーを選択: 背景レイヤーをアートボードに変換したい場合、レイヤーパネルで「背景」レイヤーを右クリック(Macの場合はControl+クリック)します。背景レイヤー以外の通常のレイヤーやレイヤーグループを変換したい場合も同様に選択して右クリックします。
- コンテキストメニューから選択: 表示されるコンテキストメニューの中から「レイヤーからの新規アートボード」または「グループからの新規アートボード」(選択したのがレイヤーグループの場合)を選択します。
- アートボード名の指定: 新しいアートボードの名前を入力するダイアログが表示されます。デフォルトの名前(例: 「Artboard 1」)を使用するか、任意の分かりやすい名前を入力して「OK」をクリックします。
これにより、選択したレイヤーまたはレイヤーグループをコンテンツとして含んだ新しいアートボードが作成されます。元のドキュメントのキャンバスサイズが、最初のアートボードのサイズになります。
注意点: 背景レイヤーを「レイヤーからの新規アートボード」で変換した場合、背景レイヤーは通常のレイヤーに変換されてからアートボードに格納されます。元の背景レイヤーの「背景」としての特別な性質(ロックされている、透明ピクセルを持てないなど)は失われます。
3.2 アートボードツールからの変換
アートボードツールを使って、既存のキャンバスをアートボードに変換することも可能です。
- アートボードツールを選択: ツールバーから「アートボードツール」を選択します。アートボードツールは、「移動ツール」のグループの中に格納されていることが多いです。移動ツールを長押しすると、ドロップダウンリストにアートボードツールが表示されます。
- オプションバーを確認: アートボードツールを選択すると、画面上部のオプションバーの内容が変わります。もしドキュメントがまだアートボードを含んでいない場合、オプションバーの左端に「アートボードの追加」のようなオプションが表示されることがあります。
- 変換アクションの実行: オプションバーに表示される「アートボードの追加」ボタンをクリックするか、あるいはキャンバス上で右クリックして表示されるコンテキストメニューにアートボードに関するオプションが表示される場合もあります。Photoshopのバージョンや状況によってUIが若干異なる場合がありますが、アートボードツールを選択した状態でキャンバスエリアを操作することで、既存のキャンバスをアートボードに変換するアクションを見つけることができます。
- より確実なのは、
レイヤーパネルからの変換
方法です。アートボードツールでの変換は、特定のバージョンやワークフローに依存することがあります。
- より確実なのは、
既存コンテンツの扱い:
既存のドキュメントをアートボードに変換した場合、変換前のドキュメントに含まれていたすべてのレイヤーやレイヤーグループは、作成された最初のアートボードの中に自動的に格納されます。つまり、元のキャンバス上の全てのコンテンツが、そのアートボード内に引き継がれます。
この方法で変換した後、必要に応じて最初のアートボードのサイズを変更したり、新たなアートボードを追加したりして作業を進めることができます。
第4章:新しいアートボードを追加する
既存のアートボードドキュメントに、さらなるアートボードを追加する方法は複数あります。目的に応じて最適な方法を選びましょう。
4.1 アートボードツールを使用する
アートボードツールは、アートボードの管理を行うための主要なツールです。
- アートボードツールを選択: ツールバーから「アートボードツール」を選択します(移動ツールを長押しすると表示されます)。
- キャンバス上の「+」ボタン: アートボードツールを選択すると、既存のアートボードの四辺および四隅の中央付近に「+」ボタンが表示されます。
- これらの「+」ボタンをクリックすると、既存のアートボードと同じサイズの新しいアートボードが、クリックしたボタンの方向(上、下、左、右)に隣接して作成されます。
- 例えば、アートボードの右側に表示される「+」ボタンをクリックすると、そのアートボードのすぐ右に同じサイズのアートボードが追加されます。
- ドラッグでアートボードを作成: キャンバス上の何もない場所(既存のアートボードの外側)をクリック&ドラッグすることでも、新しいアートボードを自由なサイズと位置で作成できます。ドラッグ中に
Shift
キーを押すと正方形のアートボードを作成できます。Alt
(Windows)/Option
(Mac)キーを押しながらドラッグすると、クリック開始地点を中央としてアートボードを作成できます。
アートボードツールを使用するこの方法は、既存のアートボードと隣接して素早くアートボードを追加したい場合や、特定の場所に自由なサイズのアートボードを作成したい場合に便利です。
4.2 既存のアートボードを複製する
既存のアートボードのデザインをベースに、少しだけ変更を加えた別のアートボードを作成したい場合は、アートボードを複製するのが効率的です。
- アートボードツールを使用: アートボードツールを選択します。
- アートボードを選択: 複製したいアートボードをクリックして選択します(アートボードの名前部分をクリックすると選択しやすいです)。
- Option/Alt + ドラッグ:
Alt
キー(Windows)またはOption
キー(Mac)を押しながら、選択したアートボードをドラッグします。ドラッグを開始すると、元の 아트ボードの複製が作成され、ドラッグ先の位置に配置されます。ドラッグ中にShift
キーも同時に押すと、水平または垂直方向に正確に移動させながら複製できます。
この方法は、アートボード自体とその中に含まれる全てのレイヤーやレイヤーグループをまとめて複製できるため、デザインのバリエーションを作成する際に非常に強力です。
4.3 レイヤーパネルからの追加
レイヤーパネルからも新しいアートボードを追加できます。
- 新規アートボードの作成: レイヤーパネルの下部にある「新規レイヤーを作成」ボタンの横にあるメニュー(
≡
アイコン)をクリックするか、レイヤーパネルの空白部分を右クリックします。表示されるメニューから「新規アートボード」を選択します。 - 設定ダイアログ: 「新規アートボード」ダイアログが表示されます。ここで新しいアートボードの名前、幅、高さを指定できます。プリセットサイズを選択することも可能です。
- OKをクリック: 設定後、「OK」をクリックすると、指定したサイズと名前の新しいアートボードが作成されます。この方法は、空のアートボードを作成するのに適しています。作成されたアートボードは、レイヤーパネルのリストの最後に(または選択中のアートボード/レイヤーに応じて適切な位置に)追加されます。
4.4 レイヤーやグループからアートボードを作成
既存のレイヤーやレイヤーグループを新しいアートボードに変換して追加することも、アートボードの追加とみなせます(これは第3章で「既存ドキュメントにアートボードを追加する」方法としても紹介しましたが、複数のレイヤー/グループを選択して複数のアートボードを同時に作成することも可能です)。
- レイヤーパネルで選択: 新しいアートボードにしたいレイヤーやレイヤーグループを一つまたは複数選択します。
- 右クリックまたはメニュー: 選択したレイヤー/グループの上で右クリックし、コンテキストメニューから「レイヤーからの新規アートボード」または「グループからの新規アートボード」を選択します。
- OKをクリック: ダイアログでアートボード名を確認(複数選択した場合は連番になります)して「OK」をクリックします。
選択したレイヤーやグループそれぞれが、新しい独立したアートボードとして作成されます。作成されたアートボードのサイズは、元のレイヤー/グループのコンテンツの境界ボックスに合わせて自動的に調整されます。この方法は、既存のデザイン要素を基にアートボードを整理したい場合に便利です。
これらの方法を組み合わせることで、ワークフローや目的に合わせて柔軟にアートボードを追加していくことができます。
第5章:アートボードの選択とナビゲーション
複数のアートボードがあると、目的のアートボードを選択したり、ドキュメント内を効率的に移動したりする方法を知っていることが重要です。
5.1 アートボードの選択
- アートボードツールを使用: アートボードツールがアクティブな状態で、キャンバス上で任意のアートボードの名前をクリックすると、そのアートボードが選択されます。選択されたアートボードは、境界線がハイライト表示されます。
Shift
キーを押しながらクリックすることで、複数のアートボードを選択できます。アートボードの名前以外の部分をクリック&ドラッグすると、そのアートボード内のオブジェクトを選択して移動できます(これは移動ツールと同様の動作になります)。アートボード自体を選択するには、アートボードの名前をクリックするのが最も確実です。 - レイヤーパネルを使用: レイヤーパネルで、目的のアートボードに対応するアートボードグループの名前をクリックすると、そのアートボードが選択されます。レイヤーパネル上では、アートボードは特殊なフォルダアイコンで表示されます。
Shift
キーやCtrl
(Windows)/Cmd
(Mac)キーを使って複数のアートボードを選択することも可能です。レイヤーパネルでの選択は、アートボードが重なっている場合など、キャンバス上でクリックしにくい場合に便利です。
5.2 アートボード間のナビゲーション
- ナビゲーターパネル: ウィンドウメニューから「ナビゲーター」パネルを開くと、ドキュメント全体の鳥瞰図が表示されます。ナビゲーターパネルの左下には、現在表示されているアートボード名と総アートボード数が表示されます。左右の矢印ボタンをクリックすることで、前後のアートボードに簡単に切り替えることができます。ドロップダウンリストから特定のアートボード名を選択してジャンプすることも可能です。ナビゲーターパネルは、複数のアートボードがあるドキュメント全体を俯瞰し、目的のアートボードに素早く移動するのに非常に役立ちます。
- ショートカットキー: Photoshopには、アートボード間を移動するための便利なショートカットキーが用意されています。
Alt
+Page Up
/Page Down
(Windows) またはOption
+Page Up
/Page Down
(Mac): 前/次のアートボードに移動します。- これらのショートカットキーは、アートボードを順番に確認したい場合に便利です。
- レイヤーパネルでのスクロール: レイヤーパネルでアートボードリストをスクロールし、目的のアートボードを選択することでも、表示領域がそのアートボードにジャンプすることが多いです。
これらの方法を組み合わせることで、多くのアートボードがあるドキュメントでも迷子にならず、効率的に作業を進めることができます。
第6章:アートボードのサイズを変更する
アートボードのサイズを変更することは、デザイン要件の変更に対応したり、異なる画面サイズに対応したバリエーションを作成したりする上で不可欠な操作です。アートボードのサイズ変更にはいくつかの方法があります。
6.1 アートボードツールを使ったサイズ変更(ドラッグ)
アートボードツールは、直感的にアートボードのサイズを変更できるツールです。
- アートボードツールを選択: ツールバーから「アートボードツール」を選択します。
- アートボードを選択: サイズを変更したいアートボードをクリックして選択します(名前部分をクリック)。選択されたアートボードの周囲にバウンディングボックスが表示されます。
- 境界線をドラッグ: バウンディングボックスのコーナーまたは辺の中央に表示されるハンドル(小さな四角形)をクリック&ドラッグします。
- コーナーハンドルをドラッグすると、縦横比を維持せずにサイズを変更できます。
- 辺の中央ハンドルをドラッグすると、その辺に垂直な方向のみサイズを変更できます。
- ドラッグ中に
Shift
キーを押すと、縦横比を維持したままサイズを変更できます。 - ドラッグ中に
Alt
キー(Windows)/Option
キー(Mac)を押すと、アートボードの中心を基準にサイズを変更できます。 Shift
+Alt
/Option
を同時に押すと、縦横比を維持しつつ中心基準でサイズを変更できます。
この方法は、視覚的にサイズを調整したい場合や、特定の比率を維持したい場合に便利です。
6.2 オプションバーまたはプロパティパネルでの数値入力
正確なサイズを指定したい場合は、オプションバーまたはプロパティパネルで数値入力するのが最も確実です。
- アートボードツールを選択: アートボードツールを選択します。
- アートボードを選択: サイズを変更したいアートボードをクリックして選択します。
- オプションバー/プロパティパネルを確認: 画面上部のオプションバーまたは、ウィンドウメニューから表示できる「プロパティ」パネル(アートボードを選択しているとアートボードに関する情報が表示される)を確認します。ここには、選択中のアートボードに関する様々な情報と設定が表示されます。
- 幅(W)と高さ(H)の入力: オプションバーまたはプロパティパネルに、「W」(幅)と「H」(高さ)の入力フィールドが表示されます。ここに希望する正確な幅と高さをピクセルなどの単位で入力します。入力後、
Enter
キーを押すか、他のフィールドをクリックすると変更が適用されます。 - 基準点(アンカーポイント): オプションバーまたはプロパティパネルには、アートボードのサイズ変更の基準となる点を指定するためのマス目アイコンが表示されます。デフォルトでは中央が選択されています。例えば、左上隅を基準点として選択した場合、幅や高さを変更しても、アートボードの左上隅の位置は固定され、右下方向に向かってサイズが変更されます。特定の角や辺の位置を固定したい場合に便利です。
- X座標とY座標: プロパティパネルには、アートボードの左上隅のX座標とY座標も表示されます。これらの値を変更することで、アートボードの位置を正確に指定できます。
数値入力によるサイズ変更は、特定のデバイスサイズ(例: 1920×1080ピクセル)や、デザインガイドラインで定められたサイズに合わせる必要がある場合に最適です。
6.3 プロパティパネルでのサイズプリセットの選択
プロパティパネルには、アートボードのサイズを一般的なデバイスサイズや用途に合わせて素早く変更するためのプリセットドロップダウンメニューが用意されています。
- アートボードツールを選択: アートボードツールを選択します。
- アートボードを選択: サイズを変更したいアートボードをクリックして選択します。
- プロパティパネルを開く: ウィンドウメニューから「プロパティ」を選択します。
- サイズドロップダウンメニュー: プロパティパネルの「アートボード」セクションに、「サイズ」というドロップダウンメニューがあります。ここには、「カスタム」の他に、「Web (最小)」「iPhone 11 Pro」「iPad Pro」など、様々なデバイスや用途に対応したプリセットサイズがリストされています。
- プリセットを選択: 目的のプリセットサイズを選択すると、選択したアートボードのサイズがそのプリセットに合わせて自動的に変更されます。
この方法は、特定の標準サイズにアートボードを合わせたい場合に非常に迅速かつ便利です。
6.4 アートボードオプションダイアログでのサイズ変更
特定のアートボードの詳細なオプション設定を行う際にも、サイズを変更できます。
- アートボードを選択: サイズを変更したいアートボードをレイヤーパネルまたはアートボードツールで選択します。
- アートボードオプションを開く: レイヤーパネルで選択したアートボードの名前を右クリックし、コンテキストメニューから「アートボードオプション…」を選択します。または、アートボードツールを選択した状態で、オプションバーにある「アートボードオプション」ボタンをクリックします。
- サイズ設定: 表示される「アートボードオプション」ダイアログに、アートボードの名前、背景オプションと共に、幅(W)と高さ(H)の入力フィールドとサイズプリセットのドロップダウンメニューが表示されます。
- サイズを入力または選択: ここで数値入力またはプリセット選択によってサイズを変更します。
- OKをクリック: 設定後、「OK」をクリックすると変更が適用されます。
この方法は、サイズ変更と同時にアートボードの名前や背景などのオプションも設定したい場合に便利です。
6.5 サイズ変更とコンテンツの扱い
アートボードのサイズを変更する際、そのアートボード内に既に配置されているレイヤーやオブジェクトがどのように扱われるかは重要なポイントです。
- デフォルトの動作: 通常、アートボードのサイズを変更しても、そのアートボード内のレイヤーやオブジェクトは元の位置とサイズを維持します。アートボードが小さくなった場合、アートボードの境界線からはみ出した部分は非表示(クリップ)されます。アートボードが大きくなった場合、新しい領域は空になります。
- コンテンツに合わせてサイズを調整: プロパティパネルやアートボードオプションダイアログには、アートボードのサイズをアートボード内のコンテンツの境界ボックスに合わせて自動調整するオプションは基本的にありません(レイヤー/グループから新規アートボードを作成した場合はコンテンツに合わせられます)。アートボードサイズとコンテンツサイズを連動させたい場合は、手動で調整するか、コンテンツをスマートオブジェクト化して調整する必要があります。
- レイヤーの自動移動: 特定のレイヤー(特に背景やデザインの基準となる要素)をアートボードサイズ変更時に自動的に追従させたい場合、そのレイヤーをアートボードの端などに揃えて配置し、アートボードサイズ変更後の位置を手動で調整する必要があります。デザインの柔軟性を高めるためには、レイアウトにリキッドな性質を持たせる工夫(例:幅可変の背景、要素間の相対的な配置)が必要になる場合がありますが、これはPhotoshopのアートボード機能の範疇を超えるテクニックです。
サイズ変更方法の選択は、必要な精度や操作の速さ、そして既存コンテンツの扱い方によって異なります。これらの方法を理解し、状況に応じて使い分けることが効率的な作業につながります。
第7章:アートボードを削除する
不要になったアートボードは削除してドキュメントを整理する必要があります。アートボードの削除方法と、その際に中のコンテンツがどうなるかを理解しておきましょう。
7.1 レイヤーパネルからの削除(推奨)
最も一般的で推奨されるアートボードの削除方法は、レイヤーパネルを使用することです。この方法の最大の利点は、アートボード自体は削除されますが、そのアートボード内に含まれていたレイヤーやレイヤーグループは削除されずにドキュメント内に残るという点です。
- レイヤーパネルを開く: ウィンドウメニューから「レイヤー」を選択するか、
F7
キーを押します。 - 削除したいアートボードを選択: レイヤーパネルで、削除したいアートボードに対応するアートボードグループの名前をクリックして選択します。複数のアートボードを選択して一度に削除することも可能です(
Shift
キーやCtrl
(Windows)/Cmd
(Mac)キーを使用)。 - Deleteキーを押す: 選択したアートボードグループがハイライト表示された状態で、キーボードの
Delete
キー(Windows)またはBackspace
/Delete
キー(Mac)を押します。 - コンテキストメニューからの削除: または、選択したアートボードの名前の上で右クリックし、コンテキストメニューから「アートボードを削除」を選択します。
これにより、選択したアートボードの枠組みだけが削除されます。アートボード内にあった全てのレイヤー(通常のレイヤー、調整レイヤー、スマートオブジェクト、レイヤーグループなど)は、階層を一つ上がり、削除されたアートボードがあった位置に配置されます。これらのレイヤーは「非アートボード領域」に配置された状態になります。
この方法の利点:
* アートボードの枠だけを削除し、中のデザイン要素は保持したい場合に最適です。
* 後で別の新しいアートボードにそれらの要素を移動させたい場合などに便利です。
7.2 アートボードツールを使った削除
アートボードツールを使用してもアートボードを削除できます。ただし、この方法で削除した場合、アートボードとその中に含まれる全てのコンテンツ(レイヤー)が一緒に削除される可能性があるため、注意が必要です。Photoshopのバージョンや設定によって挙動が異なる場合もありますが、一般的にはこの方法での削除は慎重に行うべきです。
- アートボードツールを選択: ツールバーから「アートボードツール」を選択します。
- 削除したいアートボードを選択: キャンバス上で、削除したいアートボードの名前をクリックして選択します。
- Deleteキーを押す: 選択したアートボードがハイライト表示された状態で、キーボードの
Delete
キー(Windows)またはBackspace
/Delete
キー(Mac)を押します。
この方法で削除した場合、通常はアートボードだけでなく、その中に含まれていた全てのレイヤーも一緒に削除されます。
この方法の注意点:
* 中のコンテンツも完全に削除されるため、コンテンツを保持したい場合は絶対にこの方法を使わないでください。
* アンドゥ(Ctrl+Z
/Cmd+Z
)で戻すことは可能ですが、誤って重要なデザイン要素を削除しないよう注意が必要です。
7.3 レイヤーパネルメニューからの削除
レイヤーパネルのメニュー(パネル右上または下部にある≡
アイコン)からもアートボードに関する操作を行えますが、「アートボードを削除」という直接的なメニュー項目は提供されていません。アートボードの削除は、主にレイヤーパネルでのアートボード選択とDeleteキーまたは右クリックメニューで行います。
7.4 複数のアートボードを一度に削除する
複数のアートボードを一度に削除したい場合は、レイヤーパネルで削除したいアートボードを複数選択(Shift
キーまたはCtrl
(Windows)/Cmd
(Mac)キーを使用)してから、Delete
キーを押すか右クリックメニューから「アートボードを削除」を選択します。この場合も、推奨されるのはレイヤーパネルからの削除です。
7.5 削除されたコンテンツの行方(レイヤーパネルからの削除の場合)
レイヤーパネルからアートボードを削除し、中のコンテンツが残った場合、それらのレイヤーはどのようになるのでしょうか?
- 削除されたアートボードに属していたレイヤーは、もはやどのアートボードにも属さない「非アートボード領域」に移動します。
- これらのレイヤーは、レイヤーパネル上では他のアートボードレイヤーと同じ階層に表示されますが、どのアートボードグループにも含まれていません。
- 非アートボード領域のコンテンツは、画面全体(ドキュメントの境界)内であれば表示されますが、通常はドキュメントウィンドウの左上隅を基準に配置されます。
- これらのレイヤーを再度アートボードに入れたい場合は、目的のアートボードのレイヤーグループ内にドラッグ&ドロップするか、それらのレイヤーを選択した状態で右クリックして「レイヤーからの新規アートボード」を選択します。
アートボードを削除する際は、必ずレイヤーパネルから行うことを強く推奨します。これにより、誤って中のコンテンツを失うリスクを回避できます。アートボードツールでの削除は、中のコンテンツも不要な場合のみ、慎重に使用してください。
第8章:アートボードの配置と整列
複数のアートボードを作成した場合、キャンバス上でそれらを視覚的に整理し、整列させることで、ドキュメント全体の構造を把握しやすくなります。
8.1 アートボードツールの整列・分布オプション
アートボードツールを選択している間、オプションバーまたはプロパティパネルに、選択中のアートボードを整列・分布するためのオプションが表示されます。
- 複数のアートボードを選択: アートボードツールを使用して、整列または分布したい複数のアートボードを選択します(
Shift
キーを押しながらクリックするか、ドラッグで範囲選択)。 - オプションバー/プロパティパネルのアイコン: オプションバーまたはプロパティパネルに、整列(左揃え、中央揃え、右揃え、上揃え、中間揃え、下揃え)および分布(水平方向等間隔、垂直方向等間隔)のためのアイコンが表示されます。
- 整列・分布の実行: 目的の整列または分布アイコンをクリックします。選択したアートボードが、他の選択されたアートボードまたはドキュメント全体を基準に整列・分布されます。
これらの機能を使用することで、関連するアートボードをまとめて配置したり、一定の間隔で並べたりすることが容易になります。例えば、モバイルデザインの各画面を垂直方向に等間隔に並べたい場合などに便利です。
8.2 レイヤーパネルでの並べ替え
レイヤーパネルでのアートボードの並び順は、キャンバス上のアートボードの配置順には直接影響しません(アートボード間の相対的な前後関係には影響する場合がありますが、物理的な位置は独立しています)。ただし、レイヤーパネルでの順番を整えることで、アートボードの管理自体はしやすくなります。
- レイヤーパネルでアートボードグループをドラッグ&ドロップすることで、リスト内の順番を自由に変更できます。関連するアートボード(例:ユーザー登録フローの各画面)をまとめて配置すると、レイヤーパネルが見やすくなります。
8.3 アートボードの手動配置
アートボードツールを選択した状態で、キャンバス上のアートボードを直接クリック&ドラッグすることで、自由に位置を移動させることができます。Shift
キーを押しながらドラッグすると、水平または垂直方向に限定して移動できます。手動での配置は、特定のデザインレイアウトに合わせて柔軟にアートボードを配置したい場合に適しています。
多くのPhotoshopユーザーは、ドキュメントの左上から右下に向かって、関連性の高いアートボードを順番に配置していくことが多いようです。これにより、全体の流れや構造を把握しやすくなります。
第9章:アートボードのオプションと設定
各アートボードには、名前の変更や背景色の設定など、いくつかのオプション設定があります。
9.1 アートボードオプションダイアログ
各アートボードの詳細設定は、「アートボードオプション」ダイアログで行います。
- 対象のアートボードを選択: 設定を変更したいアートボードをレイヤーパネルまたはアートボードツールで選択します。
- ダイアログを開く: レイヤーパネルで選択したアートボードの名前を右クリックし、コンテキストメニューから「アートボードオプション…」を選択します。または、アートボードツールを選択した状態で、オプションバーにある「アートボードオプション」ボタンをクリックします。
- 設定項目: ダイアログには以下の設定項目があります。
- 名前: アートボードの名前を変更できます。分かりやすい名前(例: “ホーム画面”, “ログインページ”, “バナー広告_300x250″)を付けることは、特にアートボードが多くなった場合に管理上非常に重要です。
- 幅(W)と高さ(H): アートボードのサイズを変更できます(第6章参照)。
- サイズプリセット: 定義済みのサイズプリセットから選択できます(第6章参照)。
- 背景コンテンツ: アートボードの背景を「なし(透明)」「白」「黒」「カスタム」から選択できます。
- 「なし(透明)」を選択した場合、アートボードの領域は透明になり、その下に何もレイヤーがなければ透明の背景として扱われます。
- 「白」「黒」「カスタム」を選択した場合、指定した色の不透明な背景レイヤーがアートボードの最下層に自動的に追加されます。これは通常のアートボード内のレイヤーとは異なり、アートボードのオプションとして設定される特殊な背景です。書き出し時にもこの背景が反映されます。
- アートボードのコンテンツをクリップ: このオプションは通常オンになっています。これをオンにすると、アートボードの境界線からはみ出したアートボード内のレイヤーコンテンツは非表示になります。これはアートボードの主要な機能の一つです。特殊な理由がない限り、通常はこのオプションをオンのままにしておきます。
これらのオプションを適切に設定することで、アートボードの視覚的な表現や管理をカスタマイズできます。
9.2 アートボード名の変更
アートボード名の変更は、レイヤーパネルでアートボードグループ名をダブルクリックすることでも簡単に行えます。アートボードオプションダイアログを開くよりも迅速です。分かりやすい命名規則を設けることは、アートボードを使ったワークフローの効率性を大きく向上させます。
9.3 アートボードの背景色
アートボードオプションで設定した背景色は、そのアートボードに何もレイヤーがない場合や、アートボード内のレイヤーが部分的に透明である場合に表示されます。これは、アートボード内のレイヤーとして追加する通常の背景レイヤーとは異なります。オプションで設定した背景色は、アートボードの最も下層に位置し、書き出し時にも反映されます。例えば、特定のデバイスのインターフェースカラーを背景として設定しておくと、デザイン作業中に完成イメージを掴みやすくなります。
第10章:レイヤーとアートボードの関係
アートボードはレイヤーパネル上で特殊なグループとして扱われます。アートボードドキュメントにおけるレイヤーの扱いには、いくつかの独特な点があります。
10.1 アートボード内のレイヤー構造
- レイヤーパネルでは、各アートボードが最上位のグループ(フォルダ)のように表示されます。
- アートボードを作成したり、アートボード内にオブジェクトを配置したりすると、それらのレイヤーはそのアートボードグループの中に格納されます。
- アートボード内のレイヤーは、そのアートボードグループ内で自由に並べ替えたり、レイヤーグループを作成したりできます。これは通常通りのレイヤー管理と同じです。
10.2 レイヤーのアートボードへの所属
- レイヤーパネル上でレイヤーをアートボードグループの中にドラッグ&ドロップすることで、そのレイヤーを特定のアートボードに所属させることができます。
- 逆に、アートボードグループからレイヤーを外にドラッグ&ドロップすると、そのレイヤーはどのアートボードにも属さない「非アートボード領域」に移動します。
- アートボードツールまたは移動ツールを使ってキャンバス上でレイヤーを移動させる際、別のアートボードの上にレイヤーをドラッグすると、そのレイヤーは自動的に移動先のアートボードに所属するようになります。これは、複数のアートボード間で要素をコピー&ペーストする際にも同様に機能します。
10.3 非アートボード領域のレイヤー
アートボードドキュメントには、どのアートボードにも属さないレイヤーが存在できます。これらは「非アートボード領域」のレイヤーと呼ばれます。
- レイヤーパネルで、どのアートボードグループにも含まれていないレイヤーがこれに該当します。
- これらのレイヤーは、全てのアートボードの下に描画されます。つまり、アートボード内のコンテンツによって隠される可能性があります。
- 非アートボード領域のレイヤーは、アートボードの境界線によるクリッピングを受けません。ドキュメント全体のキャンバスサイズ(アートボードドキュメントの場合、これは「全てのアートボードと非アートボード領域を包含する最小の矩形領域」のようなものとして扱われます)内で表示されます。
- 共通のガイドラインや、全てのアートボードに共通して表示したい(ただしアートボード自身には含まれたくない)要素などを配置するのに利用できます。ただし、一般的には全てのアートボードを何らかのアートボードに所属させておく方が管理しやすいです。
10.4 レイヤーのクリッピング
前述の通り、「アートボードのコンテンツをクリップ」オプションが有効(デフォルト)な場合、アートボード内に配置されたレイヤーはそのアートボードの境界線でクリップされます。これは、アートボードのサイズに合わせてデザイン要素の表示領域を制限するのに不可欠な機能です。アートボードの外側に描画された内容は、アートボード内では見えなくなります。
第11章:アートボードからの書き出し(エクスポート)
アートボード機能の最大の利点の一つは、複数のデザインバリエーションや画面サイズを効率的に書き出せることです。
11.1 アートボードをファイルに書き出す
個々のアートボードを独立した画像ファイル(PNG, JPG, PDFなど)として一括で書き出すことができます。
- メニューを選択: 「ファイル」>「書き出し」>「アートボードをファイルに…」を選択します。
- 設定ダイアログ: 「アートボードをファイルに」ダイアログが表示されます。
- 保存先: 書き出しファイルの保存先フォルダを指定します。
- ファイル名の接頭辞: 書き出しファイル名の先頭に付加する文字列を指定します(例: “design_”)。アートボード名とこの接頭辞を組み合わせてファイル名が生成されます(例: “design_Artboard 1.png”)。
- アートボードのみ書き出し: このオプションにチェックを入れると、アクティブなアートボードだけでなく、ドキュメント内の全てのアートボードが書き出し対象となります。特定のアートボードだけを書き出したい場合は、レイヤーパネルで対象のアートボードを選択した状態でこのダイアログを開く、などの方法がありますが、基本的に「アートボードのみ書き出し」をオンにして、書き出し対象のファイルタイプや品質を設定するのが一般的です。
- ファイルタイプ: 書き出す画像の形式(PNG-24、PNG-8、JPEG、PSD、PDF)を選択します。PNG-24は透明度をサポートし、Web用途でよく使用されます。JPEGは写真に適しており、品質設定でファイルサイズを調整できます。
- オプション: 選択したファイルタイプに応じて、透過、品質、メタデータなどのオプションを設定します。
- アートボード名からファイル名を生成: アートボードの名前をそのままファイル名として使用する場合にチェックを入れます。接頭辞と組み合わせて使用することもできます。アートボード名を適切に命名している場合に非常に便利です。
- 拡張機能を含める: ファイル名の末尾にファイル拡張子を自動的に付加する場合にチェックを入れます。
- 実行: 設定後、「実行」ボタンをクリックします。Photoshopはドキュメント内の全てのアートボード(または指定したアートボード)を、指定した形式で個別のファイルとして書き出し、指定したフォルダに保存します。
この機能は、複数のバナー広告、Webサイトの各ページ、アプリの各画面などを一度に書き出す場合に、手作業でスライスやトリミングを行う手間を省き、時間を大幅に節約できます。
11.2 アートボードをPDFに書き出す
全てのアートボードを一つのPDFファイルにまとめて書き出すことも可能です。これは、プレゼンテーション資料、デザイン仕様書、ポートフォリオなどを作成する際に便利です。
- メニューを選択: 「ファイル」>「書き出し」>「アートボードをPDFに…」を選択します。
- 設定ダイアログ: 「アートボードをPDFに」ダイアログが表示されます。
- 保存先: PDFファイルの保存先フォルダを指定します。
- ファイル名の接頭辞: PDFファイル名の先頭に付加する文字列を指定します。
- アートボードのみ書き出し: 通常オンにします。
- ファイルタイプ: PDFを選択します。
- 複数ページのドキュメントとして書き出し: これにチェックを入れると、各アートボードがPDFの独立したページとして書き出されます。
- 各アートボードを別個のPDFファイルに書き出し: こちらにチェックを入れると、アートボードごとに個別のPDFファイルが作成されます。
- ファイル名の接頭辞: PDFファイル名の接頭辞を指定します。
- PDF互換性: 使用するPDFのバージョンを選択します。
- エンコーディング、圧縮、出力などのオプション: 用途に応じてPDFの詳細設定を行います。
- アートボード順序: PDFファイルでのアートボードの順序を指定できます(ファイル名、レイヤーパネル順、または配置順)。
- 実行: 設定後、「実行」ボタンをクリックします。Photoshopはドキュメント内の全てのアートボードを、指定したPDF設定で書き出します。
複数ページPDFとして書き出す機能は、UIフローやプレゼンテーション資料を効率的に作成・共有するのに非常に強力です。
11.3 生成(アセット書き出し)
「生成(Generator)」機能を使用すると、レイヤー名に特定の拡張子(.png, .jpg, .gif)を含めることで、そのレイヤーまたはレイヤーグループを自動的に画像ファイルとして書き出し、ドキュメントの更新に合わせてリアルタイムでファイルを更新することができます。アートボードと組み合わせることで、特定のアートボード内のアセットを効率的に書き出すことができます。
- 生成を有効にする: 「ファイル」>「生成」>「画像アセット」にチェックを入れます。
- レイヤー名の変更: 書き出したいレイヤーやレイヤーグループの名前を、
<アセット名>.<拡張子>
の形式に変更します(例:button.png
,[email protected] 80%
)。アートボードドキュメントの場合、レイヤー名の変更によってアセット書き出しがトリガーされると、そのレイヤーが含まれるアートボードの名前を付けたサブフォルダが自動的に作成され、その中にアセットファイルが保存されます。 - 自動書き出し: レイヤー名が変更されるか、該当するレイヤーに変更が加えられるたびに、指定された形式と品質で画像ファイルが自動的に書き出されます。
生成機能は、Web開発やアプリ開発など、頻繁にアセットの更新が必要なワークフローにおいて、アートボードと連携して効率的なアセット管理を実現します。
第12章:アートボードを活用するためのヒントとベストプラクティス
アートボード機能を最大限に活用し、効率的なデザインワークフローを確立するためのいくつかのヒントとベストプラクティスを紹介します。
12.1 分かりやすいアートボード名の使用
これは非常に重要です。アートボードが多くなると、レイヤーパネルでアートボードを区別するのが難しくなります。アートボードの名前は、その内容を明確に表すものにしましょう。
- 例: 「Homepage_Desktop」「ProductPage_Mobile」「ContactForm_Tablet」「Banner_300x250_Red」「IconSet_iOS」など、用途、デバイス、サイズ、内容などを組み合わせた具体的な名前を付けます。
- 書き出し機能でアートボード名がファイル名として使用されることを考えると、命名規則はより重要になります。ファイル名として使用できない特殊文字(/, \, ?, %, *など)は避けるべきです。
12.2 関連アートボードのグルーピングと配置
デザインフローや関連性に基づいてアートボードをキャンバス上で配置し、レイヤーパネルでも関連アートボードを近くに配置することで、全体の構造を把握しやすくなります。例えば、ユーザーフローを表現する場合、スタート画面からゴール画面までの流れをアートボードの配置で視覚的に示すと、非常に分かりやすくなります。
12.3 共通要素の管理(スマートオブジェクト、ライブラリ)
複数のアートボードで共通して使用される要素(ヘッダー、フッター、ボタン、アイコンなど)は、スマートオブジェクトとして管理することをおすすめします。スマートオブジェクトを使用すると、元のオブジェクトを一度修正するだけで、それを配置している全てのアートボード上のインスタンスが自動的に更新されます。
さらに、Adobe Creative Cloud Librariesを活用することで、複数のPSDファイルや他のCreative Cloudアプリケーション間で共通要素、カラー、文字スタイルなどを共有・管理できます。これは、大規模なプロジェクトやチームでの作業において特に強力です。
12.4 非アートボード領域の活用
非アートボード領域は、アートボードには含まれないがドキュメント全体で参照したい要素(デザインガイドライン、カラースウォッチ、文字スタイルの例、使用を検討している画像アセットのプールなど)を置いておくのに便利です。ただし、書き出し時には基本的にアートボード内の要素のみが対象となるため、この領域の要素が意図せず書き出されないように注意が必要です。
12.5 パフォーマンスへの配慮
アートボードの数が増えすぎたり、各アートボードが非常に複雑なレイヤー構造や高解像度の要素を含んでいたりすると、Photoshopのパフォーマンスが低下する可能性があります。ドキュメントが重くなってきたと感じたら、以下の点を検討してください。
- 不要なレイヤー/アートボードの削除: 使わない要素は積極的に削除します。
- スマートオブジェクトの活用: 多くのラスターレイヤーを持つ複雑なデザイン要素をスマートオブジェクトに変換することで、ファイルサイズを最適化できる場合があります。
- ファイルの分割: あまりにも多くの異なるセクションやページを一つのファイルで管理するのが難しくなってきたら、ドキュメントを機能やセクションごとに分割することも検討します。
- 適切な画像サイズと解像度: 必要以上に高解像度の画像を配置しないように注意します。
12.6 定期的な保存とバックアップ
多くのアートボードを含むドキュメントは、単一キャンバスのドキュメントよりも情報量が多いため、ファイルが破損した場合の損失も大きくなります。定期的にファイルを保存し、重要なファイルはバックアップを取る習慣をつけましょう。Creative Cloudの同期機能を利用するのも良い方法です。
第13章:よくある質問とトラブルシューティング
アートボードの使用に関して、ユーザーがよく遭遇する問題とその解決策について解説します。
13.1 アートボードが見えない/選択できない
- アートボードツールが選択されているか確認: アートボードの境界線や「+」ボタンが表示されない場合は、ツールバーでアートボードツールが選択されているか確認してください。
- ズームレベルを確認: アートボード全体が表示される程度にズームアウトしてみてください。
- 表示設定を確認: 「表示」メニューの中にアートボードの表示に関する設定がある場合があります。必要に応じて表示をオンにしてください。
- レイヤーパネルを確認: レイヤーパネルにアートボードグループが存在するか確認します。もし存在しない場合、ドキュメントはアートボードドキュメントではない可能性があります(第3章を参考に変換してください)。
13.2 レイヤーがアートボードにクリップされない
- レイヤーがアートボードグループ内に格納されているか確認: クリップしたいレイヤーが、目的のアートボードに対応するレイヤーグループの中に存在するか、レイヤーパネルで確認してください。アートボードの外にあるレイヤーはクリッピングされません。
- アートボードオプションで「アートボードのコンテンツをクリップ」がオンか確認: アートボードツールを選択し、オプションバーまたはプロパティパネルで「アートボードオプション」を開き、このオプションが有効になっているか確認してください。
13.3 アートボードを削除したら中のレイヤーも消えてしまった
- これは第7章で説明したように、アートボードツールを選択した状態でアートボードを削除した場合によく発生します。
- 解決策: レイヤーパネルからアートボードグループを選択して削除するようにしてください。そうすれば、中のレイヤーはドキュメント内に残ります。
- 復旧: もし誤って削除してしまった場合は、すぐに
Ctrl+Z
(Windows)/Cmd+Z
(Mac)でアンドゥ(取り消し)を実行してください。
13.4 レイヤーを移動させてもアートボードに所属しない
- レイヤーパネルで、移動させたいレイヤーがロックされていないか確認してください。
- 移動ツールやアートボードツールでレイヤーをドラッグする際、目的のアートボードの中央付近にドロップしてみてください。アートボードの端にドロップすると、意図しないアートボードに所属したり、所属しなかったりすることがあります。
- 最も確実なのは、レイヤーパネルで該当レイヤーを目的のアートボードグループ内に手動でドラッグ&ドロップすることです。
13.5 書き出し時に意図しないアートボードが含まれる/含まれない
- 「ファイル」>「書き出し」>「アートボードをファイルに」ダイアログで、「アートボードのみ書き出し」オプションがどのように設定されているか確認してください。通常はこれがオンになっていれば、ドキュメント内の全てのアートボードが対象になります。
- 特定のアートボードのみを書き出したい場合は、レイヤーパネルでそれらのアートボード以外を非表示にする、あるいは一時的に別ファイルにコピーするなど、ワークアラウンドが必要になる場合があります。ただし、基本的な書き出し機能は全てのアートボードを対象とすることが多いです。
- 書き出し対象から外したいアートボードがある場合は、レイヤーパネルでそのアートボードグループ自体を非表示にするか、一時的に別ドキュメントに移動させてから書き出しを実行するという方法があります。
結論
この詳細ガイドを通じて、Adobe Photoshopのアートボード機能がいかに強力で、現代のデジタルデザインワークフローにおいて不可欠なツールであるかをご理解いただけたことと思います。新規ドキュメントの作成から始まり、既存ドキュメントへの追加、そして本ガイドの主要なテーマであるアートボードのサイズ変更、追加、削除に至るまで、様々な操作方法とそれぞれのニュアンスを解説しました。
アートボードを使いこなすことで、複数のデザインバリエーションや画面サイズを一つのファイルで効率的に管理し、作業の整理整頓を図ることができます。また、アートボードからの効率的な書き出し機能は、特に多くのデザインアセットを扱うプロジェクトにおいて、作業時間を劇的に短縮することを可能にします。
アートボードは単なる複数のキャンバスではなく、レイヤーパネルとの連携、オプション設定、そして賢い命名規則や整理方法と組み合わせることで、その真価を発揮します。スマートオブジェクトやCreative Cloud Librariesといった他のPhotoshop機能と組み合わせることで、さらに強力なデザイン環境を構築できます。
最初は慣れない操作もあるかもしれませんが、実際に手を動かしながら様々なアートボード操作を試してみてください。ご紹介したサイズ変更、追加、削除のテクニック、そしてヒントやベストプラクティスを日々のデザイン作業に取り入れることで、Photoshopでの生産性が間違いなく向上するはずです。
Photoshopのアートボード機能をマスターし、よりスムーズで効率的なクリエイティブワークフローを実現しましょう。この記事が、あなたのPhotoshopスキルの向上に役立つことを願っています。