MariaDB入門:特徴、MySQLとの比較、インストール方法をわかりやすく解説
近年、データベース管理システム(DBMS)の重要性はますます高まっています。企業の基幹システムからウェブアプリケーションまで、あらゆる場所でデータは不可欠な要素であり、それを効率的に管理・運用できるDBMSの選択は、システムのパフォーマンスや安定性、セキュリティに大きな影響を与えます。
数あるDBMSの中でも、MariaDBは特に注目を集めているオープンソースのRDBMS(リレーショナルデータベース管理システム)です。MySQLから派生した経緯を持ち、MySQLとの互換性を保ちつつ、独自の機能拡張や性能改善を重ね、多くの企業や開発者に採用されています。
この記事では、MariaDBの基本的な特徴、MySQLとの比較、そして主要なOSへのインストール方法をわかりやすく解説します。MariaDBをこれから始めたい方、MySQLからの移行を検討している方にとって、最適な選択をするための情報を提供することを目的としています。
目次
- MariaDBとは?
- 1.1 オープンソースRDBMSとしてのMariaDB
- 1.2 MySQLとの関係とフォークの経緯
- 1.3 MariaDB Foundationの役割とコミュニティ
- MariaDBの特徴
- 2.1 高いパフォーマンスとスケーラビリティ
- 2.2 豊富なストレージエンジン
- 2.3 拡張性と柔軟性
- 2.4 セキュリティ機能の強化
- 2.5 オープンソースとしてのメリット
- MySQLとの比較
- 3.1 ライセンスの違い
- 3.2 機能の違い
- 3.3 パフォーマンスの違い
- 3.4 ストレージエンジンの違い
- 3.5 コミュニティの違い
- 3.6 移行の検討ポイント
- MariaDBのインストール
- 4.1 環境構築の準備
- 4.2 Linux(Ubuntu/Debian)へのインストール
- 4.3 Linux(CentOS/RHEL)へのインストール
- 4.4 Windowsへのインストール
- 4.5 macOSへのインストール
- MariaDBの基本操作
- 5.1 MariaDBへの接続
- 5.2 データベースの作成と削除
- 5.3 テーブルの作成と削除
- 5.4 データの挿入、更新、削除
- 5.5 データの検索
- MariaDBの活用事例
- 6.1 ウェブアプリケーションのバックエンドデータベース
- 6.2 大規模データ分析基盤
- 6.3 IoTデータ管理
- MariaDBの学習リソース
- 7.1 公式サイトとドキュメント
- 7.2 オンラインコースとチュートリアル
- 7.3 コミュニティフォーラム
- まとめ
1. MariaDBとは?
MariaDBは、高速性、信頼性、拡張性を兼ね備えたオープンソースのRDBMSです。MySQLから派生した経緯を持ち、多くの点でMySQLと互換性がありますが、独自の進化を遂げています。
1.1 オープンソースRDBMSとしてのMariaDB
オープンソースであることは、MariaDBの重要な特徴の一つです。ソースコードが公開されており、誰でも自由に利用、修正、再配布することができます。これにより、ベンダーロックインを回避し、独自のニーズに合わせてカスタマイズすることが可能です。また、活発なコミュニティによって支えられており、バグ修正や機能追加が迅速に行われています。
1.2 MySQLとの関係とフォークの経緯
MariaDBは、MySQLの開発者が中心となって設立されたMariaDB Foundationによって開発・管理されています。MySQLがOracleに買収された後、オープンソースとしてのMySQLの将来を懸念した開発者たちが、MySQLのフォークとしてMariaDBを開発しました。そのため、初期のMariaDBはMySQLと非常に高い互換性を持っていました。
1.3 MariaDB Foundationの役割とコミュニティ
MariaDB Foundationは、MariaDBの普及と発展を目的とした非営利団体です。MariaDBのソースコードの管理、開発ロードマップの策定、コミュニティの育成などを行っています。活発なコミュニティは、MariaDBの強みの一つであり、世界中の開発者やユーザーが情報交換や問題解決に貢献しています。
2. MariaDBの特徴
MariaDBは、MySQLの利点を引き継ぎつつ、独自の機能拡張や性能改善を施し、多くの優れた特徴を備えています。
2.1 高いパフォーマンスとスケーラビリティ
MariaDBは、パフォーマンスの最適化に重点を置いて開発されており、特に大規模なデータ処理や高負荷な環境において、優れたパフォーマンスを発揮します。また、スケールアップ(サーバーの性能向上)だけでなく、スケールアウト(サーバーの台数増加)にも対応しており、システムの成長に合わせて柔軟に拡張することができます。
- ストレージエンジンの最適化: XtraDB、InnoDB、Ariaなど、様々なストレージエンジンをサポートし、用途に合わせて最適なエンジンを選択できます。
- クエリ最適化: より効率的なクエリ実行計画を生成することで、パフォーマンスを向上させています。
- 並列処理: 複数のCPUコアを活用して、クエリ処理を並列化することで、処理時間を短縮します。
2.2 豊富なストレージエンジン
MariaDBは、MySQLよりも多くのストレージエンジンをサポートしています。これにより、様々な要件に対応したデータベース設計が可能になります。
- InnoDB: ACID特性を保証するトランザクション処理に優れたストレージエンジン。
- XtraDB: InnoDBをベースに、パフォーマンスを向上させたストレージエンジン。MariaDBのデフォルトエンジンとして採用されています。
- Aria: MyISAMを置き換えることを目的としたストレージエンジン。高速な読み書き性能が特徴です。
- ColumnStore: 大規模データ分析に特化したカラム型ストレージエンジン。
- Spider: 異なるMariaDBサーバーに分散されたデータを連携させるストレージエンジン。
2.3 拡張性と柔軟性
MariaDBは、プラグインアーキテクチャを採用しており、様々な機能拡張が可能です。これにより、データベースの機能を柔軟にカスタマイズし、特定のニーズに対応することができます。
- 認証プラグイン: 様々な認証方式(LDAP、PAMなど)に対応できます。
- 監査プラグイン: データベースへのアクセスログを記録できます。
- セキュリティプラグイン: 様々なセキュリティ機能を拡張できます。
2.4 セキュリティ機能の強化
MariaDBは、MySQLよりもセキュリティ機能が強化されています。
- ロールベースのアクセス制御 (RBAC): ユーザーに細かく権限を付与できます。
- 暗号化: データを暗号化することで、セキュリティを向上させます。
- 監査: データベースへのアクセスログを記録することで、不正アクセスを検知できます。
2.5 オープンソースとしてのメリット
オープンソースであることは、MariaDBに多くのメリットをもたらします。
- 無償で利用可能: ライセンス費用を気にすることなく利用できます。
- ベンダーロックインの回避: 特定のベンダーに依存することなく、自由に選択できます。
- 柔軟なカスタマイズ: ソースコードを自由に修正し、独自のニーズに合わせてカスタマイズできます。
- 活発なコミュニティ: 世界中の開発者やユーザーが情報交換や問題解決に貢献しています。
3. MySQLとの比較
MariaDBは、MySQLから派生したRDBMSですが、両者にはいくつかの重要な違いがあります。
3.1 ライセンスの違い
- MySQL: Oracleによって所有されており、デュアルライセンス(GPLと商用ライセンス)で提供されています。商用ライセンスは、特定の条件下で必要になります。
- MariaDB: GPLライセンスで提供されており、完全にオープンソースです。商用ライセンスは不要です。
3.2 機能の違い
MariaDBは、MySQLにはない独自の機能を追加しています。
- 新しいストレージエンジン: Aria、ColumnStore、Spiderなど、MySQLにはないストレージエンジンをサポートしています。
- クエリ最適化: MariaDBは、MySQLよりも高度なクエリ最適化機能を備えています。
- ロールベースのアクセス制御 (RBAC): MariaDBは、より細かく権限を管理できるRBACをサポートしています。
- JSON関数: MariaDBは、JSONデータを扱うための関数を豊富に備えています。
3.3 パフォーマンスの違い
一般的に、MariaDBはMySQLよりも優れたパフォーマンスを発揮すると言われています。特に、大規模なデータ処理や高負荷な環境において、その差は顕著になります。これは、MariaDBがクエリ最適化やストレージエンジンの最適化に重点を置いて開発されているためです。
3.4 ストレージエンジンの違い
MariaDBは、MySQLよりも多くのストレージエンジンをサポートしています。これにより、様々な要件に対応したデータベース設計が可能になります。特に、AriaやColumnStoreは、特定の用途に特化した高性能なストレージエンジンです。
ストレージエンジン | MySQL | MariaDB | 説明 |
---|---|---|---|
InnoDB | ○ | ○ | トランザクション処理に優れた、ACID特性を保証する標準的なストレージエンジン。 |
MyISAM | ○ | ○ | 高速な読み取り性能を持つが、トランザクション処理をサポートしない。 |
Aria | × | ○ | MyISAMを置き換えることを目的とした、高速でクラッシュセーフなストレージエンジン。 |
ColumnStore | × | ○ | 大規模データ分析に特化したカラム型ストレージエンジン。 |
Spider | × | ○ | 異なるMariaDBサーバーに分散されたデータを連携させるストレージエンジン。 |
Memory | ○ | ○ | データをメモリに保存するため、高速なアクセスが可能だが、サーバー再起動時にデータが消失する。 |
3.5 コミュニティの違い
MySQLは、Oracleによって管理されており、商用サポートが充実しています。MariaDBは、MariaDB Foundationによって管理されており、活発なコミュニティによって支えられています。どちらのコミュニティも活発ですが、MariaDBの方がよりオープンで、ユーザーからのフィードバックを重視する傾向があります。
3.6 移行の検討ポイント
MySQLからMariaDBへの移行は、比較的容易に行うことができます。ただし、いくつかの検討ポイントがあります。
- 互換性: MariaDBは、MySQLとの高い互換性を維持していますが、100%互換ではありません。移行前に、アプリケーションとの互換性を確認する必要があります。
- ストレージエンジン: 使用しているストレージエンジンがMariaDBでサポートされているか確認する必要があります。
- 機能: MariaDBの新しい機能を活用するかどうか検討する必要があります。
- テスト: 移行前に、必ずテスト環境で動作確認を行う必要があります。
MySQLからの移行を検討する際には、以下の点を考慮すると良いでしょう。
- コスト: MariaDBはオープンソースであり、ライセンス費用がかからないため、コスト削減につながる可能性があります。
- パフォーマンス: MariaDBは、MySQLよりも優れたパフォーマンスを発揮する可能性があるため、アプリケーションのパフォーマンス向上につながる可能性があります。
- 機能: MariaDBの新しい機能を活用することで、アプリケーションの機能拡張につながる可能性があります。
- コミュニティ: MariaDBの活発なコミュニティは、問題解決や情報収集に役立ちます。
4. MariaDBのインストール
MariaDBのインストール方法は、OSによって異なります。ここでは、主要なOS(Linux(Ubuntu/Debian、CentOS/RHEL)、Windows、macOS)へのインストール方法を解説します。
4.1 環境構築の準備
- OSの準備: MariaDBをインストールするOSを用意します。
- インターネット接続: インストール時に必要なパッケージをダウンロードするために、インターネット接続が必要です。
- 管理者権限: インストール作業には、管理者権限が必要です。
4.2 Linux(Ubuntu/Debian)へのインストール
-
リポジトリの追加: MariaDBのリポジトリをaptに追加します。
bash
sudo apt-get install software-properties-common
sudo apt-key adv --fetch-keys 'https://mariadb.org/mariadb_release_signing_key.asc'
sudo add-apt-repository 'deb [arch=amd64,arm64,ppc64el] https://mirrors.xtom.com/mariadb/repo/10.11/ubuntu jammy main' # 例: Ubuntu 22.04 (Jammy Jellyfish)の場合
jammy
の部分は、お使いのUbuntuバージョンに合わせて変更してください。(例: bionic, focal)
2. パッケージリストの更新: aptのパッケージリストを更新します。bash
sudo apt-get update
3. MariaDBのインストール: MariaDBサーバーとクライアントをインストールします。bash
sudo apt-get install mariadb-server mariadb-client
4. MariaDBの起動と自動起動設定: MariaDBを起動し、システム起動時に自動起動するように設定します。bash
sudo systemctl start mariadb
sudo systemctl enable mariadb
5. セキュリティ設定:mysql_secure_installation
コマンドを実行し、rootパスワードの設定や匿名ユーザーの削除などのセキュリティ設定を行います。bash
sudo mysql_secure_installation
対話形式で質問に答えて設定を進めます。推奨される設定を選択してください。
4.3 Linux(CentOS/RHEL)へのインストール
-
リポジトリの追加: MariaDBのリポジトリをyumに追加します。
bash
sudo vim /etc/yum.repos.d/MariaDB.repo
ファイルに以下の内容を記述します。(例: MariaDB 10.11の場合)[mariadb]
name = MariaDB
baseurl = https://mirrors.xtom.com/mariadb/repo/10.11/centos/$releasever/$basearch
module_hotfixes=1
gpgkey = https://mirrors.xtom.com/mariadb/repo/RPM-GPG-KEY-MariaDB
gpgcheck = 1
$releasever
の部分は、お使いのCentOS/RHELバージョンに合わせて自動的に置き換えられます。
2. パッケージリストの更新: yumのパッケージリストを更新します。bash
sudo yum update
3. MariaDBのインストール: MariaDBサーバーとクライアントをインストールします。bash
sudo yum install mariadb-server mariadb-client
4. MariaDBの起動と自動起動設定: MariaDBを起動し、システム起動時に自動起動するように設定します。bash
sudo systemctl start mariadb
sudo systemctl enable mariadb
5. セキュリティ設定:mysql_secure_installation
コマンドを実行し、rootパスワードの設定や匿名ユーザーの削除などのセキュリティ設定を行います。bash
sudo mysql_secure_installation
対話形式で質問に答えて設定を進めます。推奨される設定を選択してください。
4.4 Windowsへのインストール
- MariaDB公式サイトからのダウンロード: MariaDBの公式サイト(https://mariadb.org/download/)から、Windows用のインストーラーをダウンロードします。
- インストーラーの実行: ダウンロードしたインストーラーを実行します。
- インストール手順:
- ライセンス契約に同意します。
- インストール先を選択します。
- インストールするコンポーネントを選択します。(MariaDB Server、Client programsなど)
- rootパスワードを設定します。
- MariaDBをWindowsサービスとしてインストールするかどうか選択します。
- その他の設定を行います。(ポート番号など)
- インストールの完了: インストールが完了したら、MariaDBを起動します。
4.5 macOSへのインストール
macOSへのインストール方法はいくつかあります。
-
Homebrew: Homebrewを利用してインストールする方法が一般的です。
bash
brew update
brew install mariadbインストール後、以下のコマンドで起動できます。
bash
brew services start mariadbセキュリティ設定は、
mysql_secure_installation
コマンドで同様に行います。 -
MariaDB公式サイトからのダウンロード: MariaDBの公式サイトから、macOS用のインストーラーをダウンロードしてインストールすることもできます。手順はWindows版とほぼ同様です。
5. MariaDBの基本操作
MariaDBのインストールが完了したら、基本的な操作を試してみましょう。
5.1 MariaDBへの接続
ターミナルまたはコマンドプロンプトから、以下のコマンドでMariaDBに接続します。
bash
mysql -u root -p
-u root
: rootユーザーで接続します。-p
: パスワードを要求します。
パスワードを入力すると、MariaDBのプロンプトが表示されます。
5.2 データベースの作成と削除
-
データベースの作成:
sql
CREATE DATABASE mydatabase; -
データベースの選択:
sql
USE mydatabase; -
データベースの削除:
sql
DROP DATABASE mydatabase;
5.3 テーブルの作成と削除
-
テーブルの作成:
sql
CREATE TABLE users (
id INT PRIMARY KEY AUTO_INCREMENT,
name VARCHAR(255) NOT NULL,
email VARCHAR(255) UNIQUE
); -
テーブルの削除:
sql
DROP TABLE users;
5.4 データの挿入、更新、削除
-
データの挿入:
sql
INSERT INTO users (name, email) VALUES ('John Doe', '[email protected]'); -
データの更新:
sql
UPDATE users SET name = 'Jane Doe' WHERE id = 1; -
データの削除:
sql
DELETE FROM users WHERE id = 1;
5.5 データの検索
-
全データの検索:
sql
SELECT * FROM users; -
条件付きの検索:
sql
SELECT * FROM users WHERE name = 'John Doe'; -
特定のカラムのみ検索:
sql
SELECT name, email FROM users;
6. MariaDBの活用事例
MariaDBは、様々な分野で活用されています。
6.1 ウェブアプリケーションのバックエンドデータベース
MariaDBは、高速性、信頼性、スケーラビリティに優れているため、ウェブアプリケーションのバックエンドデータベースとして広く利用されています。WordPress、Drupal、Joomla!などのCMS(コンテンツ管理システム)もMariaDBをサポートしています。
6.2 大規模データ分析基盤
MariaDBのColumnStoreストレージエンジンは、大規模データ分析に特化しており、高速なデータ分析を可能にします。
6.3 IoTデータ管理
IoTデバイスから収集される大量のデータを効率的に管理するために、MariaDBが利用されています。MariaDBのスケールアウト機能により、システムの成長に合わせて柔軟に拡張することができます。
7. MariaDBの学習リソース
MariaDBを学習するためのリソースは豊富に用意されています。
7.1 公式サイトとドキュメント
MariaDB公式サイト(https://mariadb.org/)には、MariaDBに関する最新情報やドキュメントが掲載されています。ドキュメントは、初心者から上級者まで、様々なレベルのユーザーに対応しています。
7.2 オンラインコースとチュートリアル
Udemy、Coursera、edXなどのオンライン学習プラットフォームでは、MariaDBに関するコースやチュートリアルが提供されています。これらのコースを受講することで、体系的にMariaDBを学習することができます。
7.3 コミュニティフォーラム
MariaDBには、活発なコミュニティフォーラムがあります。Stack OverflowやMariaDB Knowledge Baseなどのフォーラムでは、質問を投稿したり、他のユーザーの質問に回答したりすることができます。
8. まとめ
MariaDBは、高速性、信頼性、拡張性を兼ね備えたオープンソースのRDBMSです。MySQLとの互換性を保ちつつ、独自の機能拡張や性能改善を重ね、多くの企業や開発者に採用されています。
この記事では、MariaDBの基本的な特徴、MySQLとの比較、そして主要なOSへのインストール方法を解説しました。MariaDBは、様々な分野で活用できる強力なデータベース管理システムです。ぜひ、MariaDBを導入して、その優れた機能を体験してみてください。