【目的別】NASキットの選び方:ファイル共有、バックアップ、メディアサーバー
NAS(Network Attached Storage)は、家庭やオフィスでデータを一元管理し、共有、バックアップ、メディア配信など、さまざまな用途に活用できる便利なデバイスです。特に、NASキットは、自分でHDD/SSDを組み込むことで、容量や性能を自由にカスタマイズできるため、多くのユーザーに支持されています。
しかし、NASキットは種類が豊富で、どれを選べば良いか迷ってしまう方もいるでしょう。そこで本記事では、NASキットを選ぶ際のポイントを、ファイル共有、バックアップ、メディアサーバーという3つの主要な目的に焦点を当てて詳しく解説します。
1. NASキットとは?
まず、NASキットの基本的な概念と、完成品NASとの違いについて確認しましょう。
1.1 NASキットの概要
NASキットとは、HDD/SSDなどのストレージドライブが付属していないNAS本体のことです。ユーザーは、用途や予算に合わせて自分でストレージドライブを選択し、NASに組み込む必要があります。
NASキットのメリット:
- 柔軟性: ストレージ容量や種類を自由に選択できる。
- コスト効率: 初期費用を抑えることができる場合がある。
- 拡張性: 将来的にストレージ容量を増やすことができる。
1.2 完成品NASとの違い
完成品NASは、あらかじめストレージドライブが組み込まれた状態で販売されているNASです。
完成品NASのメリット:
- 手軽さ: 購入後すぐに使用できる。
- 安心感: メーカーによる動作保証がある。
1.3 NASキットがおすすめな人
- ストレージ容量や性能にこだわりたい人
- 予算を抑えたい人
- 将来的にストレージ容量を拡張したい人
- 自作PCの経験がある人
2. NASキットを選ぶ前に考えるべきこと
NASキットを選ぶ前に、以下の点を明確にしておくことで、より最適な製品を選ぶことができます。
2.1 必要なストレージ容量
NASの最も重要な要素の一つは、ストレージ容量です。現在のデータ量だけでなく、将来的なデータの増加も考慮して、十分な容量を確保しましょう。
- 個人の場合: 写真、動画、音楽などのデータを保存する場合は、最低でも2TB以上がおすすめです。4K動画を大量に保存する場合は、4TB以上を検討しましょう。
- SOHO/中小企業の場合: ファイル共有、バックアップ、データベースなどを保存する場合は、用途に応じて4TB以上、場合によっては10TB以上が必要になることがあります。
2.2 RAID構成
RAID(Redundant Array of Independent Disks)は、複数のストレージドライブを組み合わせて、データの冗長性やパフォーマンスを向上させる技術です。NASキットを選ぶ際には、どのRAIDレベルに対応しているかを確認しましょう。
- RAID 0: ストライピングと呼ばれる技術で、複数のストレージドライブにデータを分散して書き込むことで、パフォーマンスを向上させます。ただし、1台のドライブが故障すると、すべてのデータが失われる可能性があります。
- RAID 1: ミラーリングと呼ばれる技術で、複数のストレージドライブに同じデータを書き込むことで、データの冗長性を確保します。1台のドライブが故障しても、もう1台のドライブからデータを復元できます。
- RAID 5: パリティと呼ばれるデータを生成し、複数のストレージドライブに分散して書き込むことで、データの冗長性とパフォーマンスを両立します。1台のドライブが故障しても、パリティデータからデータを復元できます。
- RAID 6: RAID 5と同様にパリティデータを使用しますが、2台のドライブが同時に故障してもデータを復元できます。
- RAID 10 (RAID 1+0): RAID 1とRAID 0を組み合わせた構成で、高いパフォーマンスと高い冗長性を実現します。
2.3 CPUとメモリ
NASのCPUとメモリは、パフォーマンスに大きく影響します。特に、複数のユーザーが同時にアクセスする場合や、動画のトランスコードなどの負荷の高い処理を行う場合は、高性能なCPUと十分なメモリが必要です。
- CPU: Intel Celeron、Intel Pentium、AMD Ryzenなどが一般的です。コア数が多いほど、並行処理能力が高くなります。
- メモリ: 1GB以上が推奨されます。動画のトランスコードを行う場合は、2GB以上が望ましいです。
2.4 ポートの種類
NASには、LANポート、USBポートなど、さまざまなポートが搭載されています。用途に合わせて、必要なポートの種類と数を確認しましょう。
- LANポート: NASをネットワークに接続するために必要です。ギガビットイーサネット(GbE)に対応しているものが一般的ですが、より高速な10ギガビットイーサネット(10GbE)に対応しているものもあります。
- USBポート: 外付けHDD/SSDを接続したり、プリンターを共有したりするために使用します。USB 3.0に対応しているものがおすすめです。
- HDMIポート: NASを直接テレビやモニターに接続して、メディアを再生するために使用します。
2.5 その他の機能
NASには、さまざまな便利な機能が搭載されています。以下の機能も考慮して、自分に合ったNASを選びましょう。
- メディアサーバー機能: DLNAに対応しており、家庭内のテレビやスマートフォンで動画や音楽を再生できます。
- バックアップ機能: 自動バックアップ、差分バックアップ、クラウドバックアップなど、さまざまなバックアップ機能に対応しています。
- モバイルアプリ: スマートフォンやタブレットからNASにアクセスしたり、ファイルを共有したりできます。
- セキュリティ機能: ファイアウォール、アンチウイルス、暗号化など、セキュリティ機能を搭載しているものもあります。
3. 目的別NASキットの選び方
ここからは、具体的な目的別にNASキットの選び方を詳しく解説します。
3.1 ファイル共有
ファイル共有は、NASの最も基本的な機能の一つです。家庭やオフィスで、複数のユーザーがファイルを共有したり、共同作業を行ったりするのに役立ちます。
3.1.1 必要なスペック
- CPU: Intel Celeron、AMD Ryzenなどで十分です。
- メモリ: 1GB以上が推奨されます。
- LANポート: ギガビットイーサネット(GbE)に対応しているものがおすすめです。
- ストレージ容量: 共有するファイルのサイズや数に応じて決定します。
3.1.2 おすすめの機能
- ユーザーアカウント管理: ユーザーごとにアクセス権を設定できます。
- グループ管理: ユーザーをグループ化して、アクセス権をまとめて設定できます。
- ファイル共有プロトコル: SMB/CIFS、AFP、NFSなど、さまざまなファイル共有プロトコルに対応しているものがおすすめです。
- WebDAV: WebブラウザからNASにアクセスして、ファイルを共有できます。
3.1.3 おすすめのNASキット
- Synology DiskStation DS223j: 手頃な価格で、基本的なファイル共有機能が充実しています。
- QNAP TS-233: 高性能なCPUを搭載しており、複数のユーザーが同時にアクセスしても快適に動作します。
3.2 バックアップ
NASは、データのバックアップ先としても非常に有効です。PC、スマートフォン、タブレットなどのデータをNASにバックアップすることで、万が一の事態に備えることができます。
3.2.1 必要なスペック
- CPU: Intel Celeron、AMD Ryzenなどで十分です。
- メモリ: 1GB以上が推奨されます。
- LANポート: ギガビットイーサネット(GbE)に対応しているものがおすすめです。
- ストレージ容量: バックアップするデータのサイズや数に応じて決定します。
- RAID構成: RAID 1、RAID 5、RAID 6など、データの冗長性を確保できるRAID構成がおすすめです。
3.2.2 おすすめの機能
- 自動バックアップ: 設定したスケジュールに従って、自動的にバックアップを実行します。
- 差分バックアップ: 変更されたファイルのみをバックアップすることで、バックアップ時間を短縮できます。
- バージョン管理: 過去のバージョンのファイルを復元できます。
- クラウドバックアップ: Amazon S3、Google Cloud Storage、Azure Backupなど、クラウドストレージにバックアップできます。
- スナップショット: 特定の時点でのファイルシステムの状態を保存できます。
3.2.3 おすすめのNASキット
- Synology DiskStation DS423+: RAID 5に対応しており、データの冗長性を確保できます。
- QNAP TS-453D: 高性能なCPUを搭載しており、高速なバックアップを実現します。
3.3 メディアサーバー
NASは、動画、音楽、写真などのメディアファイルを保存し、家庭内のテレビやスマートフォンで再生できるメディアサーバーとしても活用できます。
3.3.1 必要なスペック
- CPU: Intel Celeron、Intel Pentium、AMD Ryzenなどがおすすめです。動画のトランスコードを行う場合は、より高性能なCPUが必要です。
- メモリ: 2GB以上が推奨されます。
- LANポート: ギガビットイーサネット(GbE)に対応しているものがおすすめです。
- ストレージ容量: 保存するメディアファイルのサイズや数に応じて決定します。
- HDMIポート: NASを直接テレビやモニターに接続して、メディアを再生する場合に必要です。
3.3.2 おすすめの機能
- DLNA: DLNAに対応しているテレビやスマートフォンで、NASに保存されたメディアファイルを再生できます。
- トランスコード: 動画の形式を変換して、さまざまなデバイスで再生できるようにします。
- Plex Media Server: 高度なメディア管理機能を提供するソフトウェアです。
- Video Station: Synology製のメディア管理ソフトウェアです。
- Music Station: Synology製の音楽管理ソフトウェアです。
- Photo Station: Synology製の写真管理ソフトウェアです。
3.3.3 おすすめのNASキット
- Synology DiskStation DS223: DLNAに対応しており、基本的なメディアサーバー機能が充実しています。
- QNAP TS-453D: 高性能なCPUを搭載しており、動画のトランスコードをスムーズに行えます。
4. その他考慮すべき点
NASキットを選ぶ際には、上記の目的別のスペックや機能だけでなく、以下の点も考慮しましょう。
4.1 メーカー
Synology、QNAP、ASUSTORなど、さまざまなメーカーからNASキットが販売されています。各メーカーによって、製品の特長やサポート体制が異なります。
- Synology: ソフトウェアの使いやすさに定評があります。初心者にもおすすめです。
- QNAP: ハードウェアの性能が高いことで知られています。高度な機能を求めるユーザーにおすすめです。
- ASUSTOR: 独自の機能を搭載した製品を多く販売しています。
4.2 サポート体制
NASは、長期間使用する可能性が高いため、メーカーのサポート体制も重要です。製品の保証期間、サポート窓口、オンラインドキュメントなどを確認しましょう。
4.3 消費電力
NASは、24時間365日稼働することが多いため、消費電力も考慮しましょう。省エネ性能の高い製品を選ぶことで、電気代を節約できます。
4.4 静音性
NASは、長時間稼働するため、静音性も重要です。ファンの音やHDDの動作音などが気になる場合は、静音性に優れた製品を選びましょう。
5. まとめ
本記事では、NASキットを選ぶ際のポイントを、ファイル共有、バックアップ、メディアサーバーという3つの主要な目的に焦点を当てて詳しく解説しました。
NASキットを選ぶ際には、まず、必要なストレージ容量、RAID構成、CPUとメモリ、ポートの種類、その他の機能などを明確にしましょう。そして、自分の目的に合ったNASキットを選ぶことで、より快適なデータ管理環境を構築できます。
最後に、NASキットは、一度購入すると長期間使用することが多いため、慎重に検討することをおすすめします。本記事が、あなたのNASキット選びの参考になれば幸いです。
NASキットを選ぶ際のチェックリスト:
- 目的: ファイル共有、バックアップ、メディアサーバーなど、NASの主な用途を明確にする。
- ストレージ容量: 現在のデータ量と将来的なデータの増加を考慮して、十分な容量を確保する。
- RAID構成: データの冗長性を確保するために、適切なRAIDレベルを選択する。
- CPUとメモリ: 複数のユーザーが同時にアクセスする場合や、負荷の高い処理を行う場合は、高性能なCPUと十分なメモリを搭載したモデルを選ぶ。
- ポートの種類: LANポート、USBポート、HDMIポートなど、必要なポートの種類と数を確認する。
- 機能: メディアサーバー機能、バックアップ機能、モバイルアプリ、セキュリティ機能など、必要な機能を確認する。
- メーカー: Synology、QNAP、ASUSTORなど、各メーカーの特長やサポート体制を比較検討する。
- サポート体制: 製品の保証期間、サポート窓口、オンラインドキュメントなどを確認する。
- 消費電力: 省エネ性能の高い製品を選ぶことで、電気代を節約できる。
- 静音性: 静音性に優れた製品を選ぶことで、快適な使用環境を構築できる。
補足:
- NASキットの価格は、搭載されている機能やスペックによって大きく異なります。予算に合わせて、最適な製品を選びましょう。
- NASキットの設置や設定には、ある程度の知識が必要です。自信がない場合は、専門業者に依頼することも検討しましょう。
- NASキットは、定期的なメンテナンスが必要です。ファームウェアのアップデートやHDDの健康状態のチェックなどを定期的に行いましょう。
この記事が、あなたのNASキット選びの助けとなることを願っています。