必須ツールGPU-Z!ダウンロードから活用方法まで完全ガイド
はじめに:なぜGPU-ZがPCユーザーにとって必須なのか
現代のPCにおいて、グラフィック処理はゲーム、動画編集、3Dモデリング、さらには日常的なWebブラウジングやビジネスアプリケーションに至るまで、その重要性を増しています。そして、このグラフィック処理の中核を担うのが、Graphics Processing Unit、すなわちGPU(グラフィックス処理ユニット)です。GPUは、その性能や機能がPC全体の体験を大きく左右すると言っても過言ではありません。
しかし、あなたのPCに搭載されているGPUがどのようなモデルで、どのようなスペックを持ち、現在どのような状態で動作しているのか、正確に把握できているでしょうか? 多くのユーザーは、購入時の仕様書やOSの基本的な情報画面を見るだけかもしれません。しかし、それだけでは得られない、より深く、より詳細なGPUの情報が必要となる場面は多々あります。
例えば、
- 新しく購入したPCやグラフィックボードが、宣伝通りのスペックを持っているか確認したい。
- ゲームのフレームレートが伸び悩んでいるとき、GPUがボトルネックになっているか、あるいは適切に動作しているか調べたい。
- グラフィックボードのドライバを更新する際に、現在のドライババージョンやデジタル署名を確認したい。
- グラフィックボードの温度が高すぎないか、ファンは正常に動作しているかリアルタイムで監視したい。
- オーバークロック(OC)を試す際に、クロック周波数、電圧、消費電力、温度の変化を正確に追跡したい。
- 将来的なアップグレードのために、現在のGPUの正確なモデル名やインターフェースを確認したい。
- 中古のグラフィックボードを購入または売却する際に、その仕様や状態を客観的に確認したい。
- 偽造されたGPUが出回っていると聞き、自分のGPUが本物か確認したい。
これらの疑問やニーズに応えてくれる、まさに必須中の必須ツールが、今回ご紹介する「GPU-Z」です。
GPU-Zは、あなたのPCに搭載されているグラフィックボードに関するありとあらゆる情報を、コンパクトかつ分かりやすいインターフェースで提供してくれる無料のユーティリティソフトです。主要なGPUメーカーであるNVIDIA、AMD、Intelのほとんどの製品に対応しており、その膨大な情報量と精度の高さから、世界中のPC愛好家、ゲーマー、プロフェッショナルから絶大な信頼を得ています。
このガイドでは、GPU-Zのダウンロードから、インストール(または起動)、そしてその豊富な機能と表示される情報の全てを、初心者の方にも分かりやすく、かつ詳細に解説していきます。GPU-Zを使いこなすことで、あなたのPCのGPUに関する理解が深まり、より快適で安定したPC環境を構築するための強力な武器となるでしょう。
さあ、あなたのGPUの真の姿を知る旅に出かけましょう。
ステップ1:GPUの基本を知る – なぜGPU情報が重要なのか
GPU-Zの詳細に入る前に、そもそもなぜGPUの情報がそんなに重要なのか、簡単に触れておきましょう。
GPUとは?
GPU(Graphics Processing Unit)は、その名の通り、主に画像や映像といったグラフィック関連の計算処理を専門に行う半導体チップです。CPU(Central Processing Unit)が汎用的な計算処理を担うのに対し、GPUは並列処理に特化しており、大量の単純な計算を同時に高速に行うのに非常に長けています。
初期のGPUは主に3Dグラフィックス描画のために発展しましたが、現在ではゲームのレンダリングはもちろん、動画編集、AI・機械学習、科学技術計算など、グラフィック以外の分野でもその並列処理能力が活用されています(GPGPU – General-Purpose computing on Graphics Processing Units)。
なぜGPUの情報が必要なのか?
GPUのモデルによって、その処理能力、対応する機能(DirectXのバージョン、レイトレーシング、DLSS/FSRなどのアップスケーリング技術、動画コーデックなど)、消費電力、発熱量などが大きく異なります。これらの情報を正確に把握することは、以下のような点で非常に重要です。
- 性能の評価とボトルネックの特定: 使用しているアプリケーション(特にゲーム)が必要とするGPUスペックを満たしているか、あるいは性能が十分に発揮されているかを確認できます。もし性能が低い場合、それがGPUのスペック不足なのか、それとも温度上昇による性能低下(サーマルスロットリング)なのか、あるいはドライバの問題なのかなど、ボトルネックの切り分けに役立ちます。
- 互換性の確認: 特定のゲームやアプリケーション、あるいは新しいディスプレイ技術(例:特定の高リフレッシュレートやHDR)が、お持ちのGPUやそのドライバに対応しているかを確認できます。
- ドライバ管理: GPUドライバは性能や安定性に大きく影響します。現在のドライババージョンを知り、最新版と比較することで、ドライバの更新が必要か判断できます。また、ドライバがOSのバージョンやGPUモデルに正確に対応しているか確認することも重要です。
- ハードウェアの状態監視: GPUの温度、ファン速度、電圧、消費電力などを監視することで、ハードウェアが正常に動作しているか、あるいは異常な発熱や電力消費がないかを確認できます。これは特にオーバークロック時や、PCの安定性に問題がある場合に役立ちます。
- 適切な設定: ゲームやアプリケーションのグラフィック設定を最適化する上で、GPUの性能やメモリ容量といった正確な情報が参考になります。
- 将来設計: 将来的にGPUをアップグレードする際に、現在のGPUのスペックやマザーボードとの互換性(PCI Expressのバージョンなど)を確認するのに役立ちます。
このように、GPUに関する正確な情報は、PCを快適に、そして最大限に活用するために不可欠なのです。そして、その情報を提供してくれる最も優れたツールがGPU-Zというわけです。
ステップ2:GPU-Zのダウンロード
GPU-Zは、TechPowerUpという海外の有名なハードウェア情報サイトが開発・提供しています。信頼できる公式サイトからダウンロードすることが、マルウェア感染などのリスクを避けるために非常に重要です。
TechPowerUp公式サイトからのダウンロード手順:
- Webブラウザを開き、TechPowerUpのGPU-Zダウンロードページにアクセスします。
- 通常、検索エンジンで「TechPowerUp GPU-Z download」と検索すればすぐに見つかります。公式サイトのURLは
https://www.techpowerup.com/gpuz/です。直接アクセスすることをお勧めします。
- 通常、検索エンジンで「TechPowerUp GPU-Z download」と検索すればすぐに見つかります。公式サイトのURLは
- ダウンロードページに移動します。
- ページ上部に大きな「Download」ボタンがあります。これをクリックします。
- ダウンロードミラーを選択します。
- 世界中にTechPowerUpのダウンロードミラーサーバーが設置されています。通常は「Primary Download Server (TechPowerUp)」、「Mirrors from across the globe」から、お住まいの地域に近いサーバーを選択するのが最も高速です。どれを選んでもダウンロードされるファイルは同じです。
- 例:「Asia (Japan)」や「Europe (Germany)」など。
- ダウンロードが開始されます。
- 選択したサーバーのページに移動すると、自動的にダウンロードが開始されるか、「Download GPU-Z vX.Y.Z」のようなリンクが表示されます。リンクをクリックしてダウンロードを開始してください(X.Y.Zはバージョン番号です)。
- ファイル名は通常
GPU-Z_vX.Y.Z.exeのようになります。
ダウンロード時の注意点:
- 必ずTechPowerUpの公式サイトからダウンロードしてください。 偽サイトや第三者のダウンロードサイトには、マルウェアや不要なバンドルソフトが含まれている可能性があります。
- ダウンロードファイルは通常exe形式の実行ファイルです。ダウンロード前にファイルサイズや提供元(TechPowerUp)を確認しましょう。
- ウイルス対策ソフトがダウンロードファイルをスキャンすることがありますが、公式サイトからのダウンロードであれば通常は問題ありません。
ポータブル版とインストール版について:
GPU-Zのダウンロードファイルを実行すると、通常は最初に以下の選択肢が表示されます。
- Install: GPU-ZをPCにインストールします。スタートメニューやデスクトップにショートカットを作成したり、プログラム一覧に登録したりできます。PCに常駐させたり、頻繁に起動する場合はこちらが便利です。
- Not now: GPU-Zをインストールせず、そのまま起動します(ポータブルモード)。実行ファイルがある場所から起動され、レジストリを汚しません。USBメモリに入れて持ち運んだり、一時的に使いたい場合に便利です。特にこだわりがなければ「Not now」を選択するポータブルモードが手軽でおすすめです。どちらを選んでも、プログラムの機能自体に大きな違いはありません。
ステップ3:GPU-Zのインストールまたは起動
ダウンロードした GPU-Z_vX.Y.Z.exe ファイルを実行します。
- ファイルの実行: ダウンロードしたexeファイルをダブルクリックして実行します。
- インストール/起動の選択: 前述の通り、「Install」または「Not now」を選択します。
- 「Install」を選択した場合:通常のソフトウェアインストールプロセスが開始されます。指示に従ってインストールを完了してください。インストール完了後にGPU-Zを起動できます。
- 「Not now」を選択した場合:インストールは行われず、すぐにGPU-Zのメインウィンドウが開きます。このモードで起動した場合、次にGPU-Zを使いたいときは、ダウンロードしたexeファイルを再度実行する必要があります。
- UAC (ユーザーアカウント制御) の確認: 実行時にWindowsのユーザーアカウント制御ダイアログが表示されることがあります。「はい」をクリックして許可してください。GPU-Zはハードウェアの詳細情報にアクセスするため、管理者権限が必要になる場合があります。
- 最初の確認ダイアログ: GPU-Zの起動後、初回起動時やアップデート後に「Run when Windows starts?」のようなダイアログが表示されることがあります。これはWindows起動時にGPU-Zを自動的に起動するか尋ねるものです。通常は必要ないので「No」を選択して閉じて構いません。もし常にセンサー情報を監視したいなどの目的があれば「Yes」を選択しても良いですが、PCの起動がわずかに遅くなる可能性があります。
これでGPU-Zが起動し、あなたのGPUに関する情報が表示されるはずです。
ステップ4:GPU-Zのメインインターフェース徹底解説
GPU-Zを起動すると、シンプルながらも多くの情報が表示されたウィンドウが開きます。このウィンドウは複数のタブに分かれており、それぞれ異なる種類の情報を提供しています。主要なタブは以下の通りです。
- Graphics Card: 搭載されているGPUの基本的な仕様や識別情報。
- Sensors: GPUのリアルタイムの動作状態(クロック、温度、負荷など)を監視。
- Advanced: GPUの対応技術や詳細設定に関するさらに踏み込んだ情報。
- Validation: GPU情報をTechPowerUpのデータベースに送信し、検証を行う機能。
それでは、各タブの詳細な項目を一つずつ見ていきましょう。
4.1 Graphics Cardタブ
このタブは、あなたのGPUに関する基本的な「身分証明書」のようなものです。搭載されているGPUのモデル名、チップ名、製造プロセス、メモリ情報、ドライババージョンなど、静的な仕様情報が一覧表示されます。
- Name: グラフィックボードの製品名です。メーカー名(ASUS, MSI, GIGABYTEなど)とGPUモデル名(GeForce RTX 4080, Radeon RX 7900 XTなど)が表示されます。複数のGPUが搭載されている場合は、ウィンドウ下部のドロップダウンメニューから選択して表示を切り替えられます。
- GPU: 搭載されているGPUチップのコードネームです(例:AD103、NAVI 31、Alder Lakeなど)。NVIDIAの場合は「AD103」、AMDの場合は「NAVI 31」、Intelの場合は「Alder Lake」といった具体的なチップ名が表示されます。同じ世代のGPUでも、性能ランクによってチップ名が異なる場合があります。
- Revision: GPUチップのリビジョン(改訂版)番号です。同じチップ名でも、後から改良版が出ることがあり、その場合にリビジョン番号で区別されます。通常ユーザーが気にする必要はあまりありません。
- Technology: GPUが製造されたプロセスルール(半導体の微細化技術)です。nm(ナノメートル)単位で表示されます(例:5 nm, 7 nm, 10 nmなど)。数字が小さいほど微細化が進んでおり、一般的に同じ面積により多くのトランジスタを搭載でき、消費電力や発熱を抑えやすくなります。
- Die Size: GPUチップの実際の面積です(平方ミリメートル mm²)。チップが大きいほど、通常は多くの計算ユニットを搭載でき、高性能になりますが、製造コストも高くなります。
- Transistors: GPUチップに搭載されているトランジスタの数です(百万単位)。トランジスタ数が多いほど、複雑な処理や多くの並列計算が可能になります。GPUの世代が新しくなるにつれて、トランジスタ数は飛躍的に増加しています。
- Release Date: そのGPUチップが最初に発表されたおおよその日付です。グラフィックボード製品の発売日とは異なる場合があります。
- BIOS Version: グラフィックボードに書き込まれているBIOS(またはUEFIファームウェア)のバージョンです。ベンダー名や日付などが含まれていることが多いです。グラフィックボードの動作設定や特性を決定する重要なファームウェアです。
- 右側のフロッピーディスクアイコンをクリックすると、このBIOSイメージファイルをファイルとして保存できます(BIOS抽出機能)。ただし、これは上級者向けの機能であり、安易な書き換えはグラフィックボードを破損させるリスクがあるため、注意が必要です。
- Device ID: そのGPUのハードウェア的な識別子です。VEN(Vendor ID、製造元)、DEV(Device ID、デバイスの種類)、SUBSYS(Subsystem ID、ボードベンダーや製品モデル)、REV(Revision ID)で構成されます。ドライバがハードウェアを認識する際に利用される情報です。
- Subvendor: グラフィックボードを製造・販売しているメーカー名です(例:ASUS, MSI, GIGABYTE, Sapphireなど)。リファレンスデザインの場合は「NVIDIA」や「AMD」と表示されることもあります。
- Bus Interface: マザーボードとの接続インターフェースです。現在の主流はPCI Express (PCIe) x16です。バージョンの数字(例:PCIe x16 4.0)は帯域幅(データ転送速度)を示します。数字が大きいほど高速です。多くのグラフィックボードはPCIe x16スロットを使用しますが、小型PC向けなどではx8やx4の場合もあります。
(Current Link Speed)という表示が括弧内に含まれている場合、これは実際に現在動作しているPCIeのレーン数や速度を示します。例えば、省電力機能や特定の状況下では、帯域幅を節約するためにリンク速度が低下していることがあります。ゲーム中などに高い負荷をかけた状態で確認すると、フルスピードで動作しているか確認できます。
- Shaders: GPUに搭載されているシェーダーユニットの数です。NVIDIAではCUDAコア、AMDではStream Processors、IntelではXe-coresやExecution Units (EUs) と呼ばれることもありますが、GPU-Zでは「Shaders」として統一的に表示されます。この数が多ければ多いほど、並列処理能力が高く、高性能である傾向があります。
- DirectX Support: そのGPUがハードウェアレベルで対応しているDirectXのバージョンです。DirectXはWindowsでゲームなどのグラフィック処理を行うためのAPI(アプリケーションプログラミングインターフェース)です。最新バージョンへの対応は、新しいゲームやグラフィック機能を利用するために重要です。表示されるバージョンは、機能レベル(Feature Level)と呼ばれることもあり、単なるバージョン番号だけでなく、そのGPUが実装しているDirectXの特定の機能セットを示します。
- Texture Fillrate: GPUが1秒間に処理できるテクスチャの数を示す指標です(GTexel/s – ギガテクセル毎秒)。テクスチャとは、3Dオブジェクトの表面に貼り付ける画像のことです。この値が大きいほど、複雑なテクスチャを持つシーンを高速に描画できます。
- Pixel Fillrate: GPUが1秒間に描画できるピクセルの数を示す指標です(GPixel/s – ギガピクセル毎秒)。画面解像度やフレームレートに直接影響します。この値が大きいほど、高解像度や高フレームレートでの描画に有利です。
- Memory Type: 搭載されているビデオメモリ(VRAM)の種類です。現在の主流はGDDR6やGDDR6X、HBM2/3などです。種類によって帯域幅や消費電力が異なります。
- Memory Size: 搭載されているビデオメモリの容量です(MBまたはGB)。高解像度や高画質設定、複雑なシーンを扱う場合、より多くのVRAMが必要になります。容量が不足すると、フレームレートの低下やスタッタリング(カクつき)の原因になります。
- Bus Width: ビデオメモリとGPUチップを結ぶバスの幅です(bit)。この幅が広いほど、GPUがビデオメモリにアクセスできる帯域幅(データ転送速度)が向上します。通常、256bit、384bit、512bitなどがあります。
- Bandwidth: ビデオメモリとGPU間の最大データ転送速度です(GB/s – ギガバイト毎秒)。 Memory Type、Memory Clock、Bus Widthによって決まります。
(Memory Clock * Bus Width / 8)で計算される理論上の最大値が表示されます。この値が大きいほど、GPUがテクスチャやフレームバッファなどのデータに高速にアクセスでき、特に高解像度や複雑なシーンで性能に影響します。 - Driver Version: インストールされているグラフィックドライバのバージョンです。ゲームの最適化やバグ修正のために、常に最新のドライバを使用することが推奨されます。
- Driver Date: インストールされているグラフィックドライバのリリース日です。
- Digital Signature: ドライバのデジタル署名に関する情報です。通常は「Digital Signature: WHQL」と表示されます。WHQL (Windows Hardware Quality Labs) は、Microsoftがハードウェアやドライバの互換性・安定性をテストし認証したことを示します。これにより、そのドライバがWindows上で安定して動作することが期待できます。
- WDDM: Windows Display Driver Modelのバージョンです。Windows Vista以降で採用されているディスプレイドライバのアーキテクチャです。バージョンが大きいほど新しいOSの機能に対応しています。
- OpenGL: OpenGLの対応バージョンです。OpenGLはクロスプラットフォームのグラフィックAPIで、CADや3Dモデリングソフトなどでよく利用されます。
- OpenCL: OpenCLの対応バージョンです。OpenCLは並列コンピューティングのためのAPIで、GPUを汎用計算に利用するGPGPUの分野で使われます。
- NVIDIA SLI / AMD CrossFire: 複数のグラフィックボードを連携させて処理性能を向上させる技術(SLIはNVIDIA、CrossFireはAMD)の状態を示します。対応しているか、有効になっているかなどが表示されます。最近のGPUやゲームではあまり使われなくなってきています。
- Resizable BAR: Resizable BAR (リサイズアブルバー) または Smart Access Memory (SAM) の対応・有効化状態です。CPUがGPUのVRAM全体に直接アクセスできるようになることで、特定の条件下でパフォーマンスが向上する技術です。対応GPUとマザーボード、そしてUEFI設定での有効化が必要です。GPU-Zで対応しているか、有効になっているかを確認できます。
- Computing Technologies: そのGPUが対応している様々な並列計算やグラフィック関連の技術一覧です。
- CUDA: NVIDIAが開発したGPGPUプラットフォームです。対応していると、CUDAを利用する様々なアプリケーション(動画編集、エンコーディング、AIなど)でGPUの計算能力を活用できます。
- PhysX: NVIDIAの物理演算エンジンです。対応していると、ゲームなどでよりリアルな物理シミュレーション(煙、布、水の動きなど)が可能になります。
- DirectCompute: MicrosoftのGPGPU APIです。DirectX 10以降に含まれています。
- DirectML: Microsoftの機械学習APIです。Windows上でAIアプリケーションの高速化にGPUを利用できます。
- Vulkan: Khronos Groupが開発した次世代グラフィックAPIです。オーバーヘッドが低く、よりハードウェアに近い制御が可能で、DirectX 12と同様に高い性能を引き出せます。
- Raytracing: ハードウェアアクセラレーションによるリアルタイムレイトレーシングへの対応状況です。レイトレーシングは光線の軌跡をシミュレーションすることで、よりリアルな陰影や反射、GI(大域照明)を描画する技術です。対応GPUと対応ゲーム/アプリケーションが必要です。GPU-ZではDXR (DirectX Raytracing) と Vulkan RT (Vulkan Ray Tracing) の対応状況が表示されます。
- その他、ベンダー独自の技術名などが表示される場合もあります。
これらの項目を見ることで、お持ちのGPUの正確な仕様や対応機能を網羅的に把握できます。PCの構成を理解したり、必要なドライバやソフトウェアの対応状況を確認する上で非常に役立ちます。
4.2 Sensorsタブ
このタブは、GPU-Zの中で最も頻繁に参照されるであろう、GPUのリアルタイムの動作状態を監視するためのタブです。GPUのクロック周波数、温度、負荷、電力消費、ファン速度など、様々なセンサーデータが表示されます。
各センサーの項目と意味を詳しく見ていきましょう。表示される項目はGPUモデルやメーカーによって多少異なります。
- Core Clock: GPUコアの現在のクロック周波数です(MHz)。負荷状況に応じて変動します。高いほど計算能力が高まります。
- Memory Clock: ビデオメモリの現在のクロック周波数です(MHz)。データ転送速度に直接影響します。
- Shader Clock: (旧世代のNVIDIA GPUのみ) シェーダーユニットのクロック周波数です。最近のGPUではCore Clockと同期していることがほとんどです。
- GPU Temperature: GPUチップの現在の温度です(摂氏 °C)。GPUの性能や寿命に大きく関わる重要な指標です。通常、アイドル時は30-50°C程度、高負荷時は60-80°C程度が一般的ですが、モデルや冷却性能によって異なります。90°Cを超えるような高熱は、性能低下(サーマルスロットリング)やハードウェアの損傷につながる可能性があるため注意が必要です。
- Hot Spot Temperature: (AMD GPUなど) GPUチップ上の最も温度が高い部分(ホットスポット)の温度です。全体的なGPU温度よりも高くなる傾向があり、より厳密な温度上限の指標として使われます。
- Memory Temperature: ビデオメモリの温度です(摂氏 °C)。特にGDDR6Xなどの高速メモリは発熱しやすいため、この項目があるモデルでは確認が推奨されます。メモリ温度が高すぎると、エラーや性能低下の原因になります。
- GPU Load: GPUコアの使用率です(%)。現在GPUがどれだけ計算処理を行っているかを示します。ゲーム中などに100%に近い場合は、GPUが性能の限界に近い状態で動作していることを意味します。低い場合は、CPUがボトルネックになっている、あるいは電力制限や温度制限がかかっているなどの可能性があります。
- Memory Controller Load: ビデオメモリコントローラーの使用率です(%)。GPUがビデオメモリにどれだけアクセスしているかを示します。
- Video Engine Load: 動画エンコード・デコード専用エンジン(例:NVIDIA NVENC/NVDEC, AMD VCE/VCN, Intel Quick Sync Video)の使用率です(%)。動画再生や編集時に使用されます。
- Bus Interface Load: マザーボードとのバスインターフェース(PCIe)の使用率です(%)。GPUとシステムメモリ間でデータ転送が頻繁に行われているかを示します。
- Board Power Draw: グラフィックボード全体の消費電力です(W – ワット)。正確な値は搭載されているセンサーによって異なり、常に表示されるわけではありません。
- GPU Chip Power Draw: GPUチップ単体の消費電力です(W)。こちらもセンサーがある場合に表示されます。
- Power Consumption (%): 設定されている電力制限に対する現在の消費電力の割合です(%)。100%に近い場合は、電力制限が性能のボトルネックになっている可能性があります。オーバークロック時に電力制限を引き上げる(Power Limitを上げる)ことで、クロックを高く維持できるようになる場合があります。
- Voltage: GPUコアの現在の電圧です(V – ボルト)。負荷や温度に応じて変動します。オーバークロック時にこの値を変更することもありますが、リスクが伴います。
- Fan Speed (RPM): グラフィックボードに搭載されているファンの回転速度です(RPM – Revolutions Per Minute)。ファンが回転しているか、適切な速度で回転しているかを確認できます。
- Fan Speed (%): ファン速度を最大回転数に対する割合で表示します(%)。
- PerfCap Reason: GPUが性能を制限している原因を表示します。GPU-Zの非常に便利な機能の一つです。
VRel: 電圧制限VOp: 動作電圧上限に到達Pwr: 電力制限 (Power Limit)Tmp: 温度制限 (Temperature Limit)Util: GPU使用率が低い (GPUがボトルネックではない)None: 制限なし (フルパワーで動作中、またはアイドル状態)Thrm: サーマルスロットリングが発生している(温度が危険なレベルに達し、強制的にクロックが下げられている状態)- その他、様々な理由が表示される可能性があります。ゲーム中にこの項目を監視することで、何がGPUの性能を制限しているのか一目で判断できます。
- Memory Used: 現在使用されているビデオメモリの容量です(MBまたはGB)。ゲームやアプリケーションが必要とするVRAM容量を確認できます。特に高解像度や高画質設定でプレイする場合、必要なVRAM容量が増加します。容量が不足すると、テクスチャの読み込み遅延やスタッタリングが発生しやすくなります。
- D3D Usage: (Windows 10/11のみ) DirectXを使用しているアプリケーションによるGPUの使用率です(%)。GPU Loadと似ていますが、よりDirectXに特化した負荷を示します。
- VRM Temperature: (一部のグラフィックボードのみ) 電圧レギュレーターモジュール(VRM)の温度です(摂氏 °C)。VRMはGPUやメモリに電力を供給する重要な部品で、これも高温になりやすいため、表示される場合は確認が推奨されます。
センサーデータの表示オプション:
GPU-ZのSensorsタブでは、各センサーの値の表示方法を切り替えることができます。
- リアルタイム表示: デフォルトでは、現在の値をリアルタイムで更新しながら表示します。
- グラフ表示: 各項目の左側にある小さな矢印をクリックすると、そのセンサー値の推移をグラフで表示できます。複数の項目をグラフ表示することも可能です。
- 値の表示切り替え: 各項目の表示部分をクリックすると、以下の表示を順番に切り替えられます。
Current(現在の値)Min(GPU-Z起動以降の最小値)Max(GPU-Z起動以降の最大値)Avg(GPU-Z起動以降の平均値)
特にゲーム中などの高負荷時の最大温度や平均負荷などを確認するのに役立ちます。
センサーログ機能:
Sensorsタブの下部にある「Log to File」のチェックボックスをオンにすると、表示されているセンサーデータを一定間隔でCSVファイルに記録できます。これは、長時間のゲームプレイ中やストレステスト中のGPUの状態を後から詳細に分析したい場合に非常に便利です。
- 「Log to File」にチェックを入れると、ログファイルの保存先を指定するダイアログが開きます。
- ファイル名と保存場所を指定して保存を開始します。
- 記録間隔は、GPU-Zの設定画面で変更できます(デフォルトは1秒)。
- ログを停止するには、「Log to File」のチェックを外します。
ログファイルには、各センサーのタイムスタンプ付きの値が記録されます。これを表計算ソフトなどで開けば、時間の経過に伴う温度やクロック、負荷などの変化をグラフ化したり分析したりできます。
4.3 Advancedタブ
このタブには、より技術的な、GPUがサポートする機能やAPIに関する詳細情報が表示されます。一般ユーザーが頻繁に参照する項目ではないかもしれませんが、特定の状況下で必要となる情報が含まれています。
タブ上部のドロップダウンメニューから、表示したい情報のカテゴリを選択します。
- General: GPUの一般的な情報やドライバ設定に関する一部の情報が表示されます。Graphics Cardタブと重複する部分もあります。例えば、ドライババージョン、WDDMバージョン、DirectXバージョン、そしてResizable BARの状態などが確認できます。
- DXVA: DirectX Video Accelerationの略で、GPUによる動画デコード支援機能に関する情報です。対応している動画コーデック(H.264, HEVC, VP9, AV1など)や解像度、プロファイルなどが一覧表示されます。PCで高解像度動画や高圧縮動画を再生する際に、GPUの支援が有効になっているか、対応しているコーデックは何かなどを確認できます。
- OpenCL: GPUがサポートしているOpenCLに関する詳細情報です。対応バージョン、サポートしている拡張機能などが表示されます。OpenCLを利用するプロフェッショナル向けアプリケーション(科学計算、画像処理など)を使用する際に参考になります。
- Vulkan: GPUがサポートしているVulkan APIに関する詳細情報です。対応バージョン、インスタンス、デバイス、キューファミリー、メモリタイプ、拡張機能などが表示されます。Vulkanを使用するゲームやアプリケーションの開発・デバッグ、あるいは互換性確認に役立ちます。
- CUDA: (NVIDIA GPUのみ) GPUがサポートしているCUDAに関する詳細情報です。CUDAコア数、SM(Streaming Multiprocessor)数、Compute Capability(CUDAのバージョン)、メモリ情報、PCIe情報などが表示されます。CUDAを利用する様々なアプリケーション(Blレンダー、Adobe Premiere Pro/After Effects、AI関連フレームワークなど)の性能や互換性確認に重要です。
- Ray Tracing: (対応GPUのみ) GPUがサポートしているレイトレーシング機能に関する詳細情報です。DirectX Raytracing (DXR) と Vulkan Ray Tracing の機能レベルや性能指標(例:RT Cores / Ray Tracing Accelerators 数、性能値など)が表示されます。レイトレーシング対応ゲームをプレイする際に、ハードウェアがどの程度のレベルで対応しているかを確認できます。
- NVIDIA BIOS: (NVIDIA GPUのみ) グラフィックボードのBIOSに関するさらに詳細な情報です。UEFI対応、BIOSのバージョン、サブバージョンなどが表示されます。Graphics CardタブのBIOS Versionよりも詳細な情報が含まれることがあります。
- ASIC quality: (一部のGPU、特に古いNVIDIA/AMDカードで表示されることがある) ASIC (Application-Specific Integrated Circuit) の品質を表す指標です(%)。チップの製造歩留まりなどに基づいて算出される推定値であり、一般的にこの数値が高いほど、より低い電圧で動作したり、より高いクロックで安定動作する傾向があるとされます。ただし、これはあくまで目安であり、表示されないGPUも多いです。現在のGPU-Zではほとんどの新しいカードで表示されません。
これらのAdvancedタブの情報は、特定の技術を利用するユーザーや、GPUのポテンシャルをより深く知りたいユーザーにとって価値のある情報源となります。
4.4 Validationタブ
このタブは、GPU-Zによって読み取られたGPU情報をTechPowerUpのオンラインデータベースに送信するための機能です。
「Submit Validation」ボタンをクリックすると、現在GPU-Zに表示されている情報がTechPowerUpのサーバーに送信されます。送信が完了すると、その情報がウェブブラウザで表示され、他のユーザーの情報と比較したり、共有したりできます。
この機能にはいくつかの目的があります。
- 情報共有とデータベースの構築: 世界中のユーザーが様々なGPUの情報を共有することで、TechPowerUpのGPUデータベースがより正確で網羅的なものになります。
- GPU情報の検証: 送信された情報は、TechPowerUpによって検証されることがあります。特に新しいGPUが登場した際や、珍しいモデルの情報は、このバリデーションプロセスによってデータベースに追加されたり、既存情報が更新されたりします。
- 偽造GPUの検出: 市場には、古いGPUのBIOSを書き換えて新しいGPUに見せかけたり、スペックを偽装したりした「偽物」のグラフィックボードが出回ることがあります。GPU-ZのValidation機能に情報を送信することで、表示されたスペックとデータベース上の正規のスペックが大きく異なる場合、偽物である可能性を示唆してくれます。ただし、GPU-Z自体が表示している情報が偽物である可能性もあるため、Validationはあくまで補助的な判断材料として利用します。
Validationを行う必要は必須ではありませんが、TechPowerUpの活動に貢献したい場合や、自分のGPU情報が正確か確認したい場合に利用すると良いでしょう。
ステップ5:GPU-Zの便利な機能
メインのタブ機能以外にも、GPU-Zにはいくつかの便利な機能が搭載されています。
-
スクリーンショット機能:
- GPU-Zウィンドウの右下にあるカメラアイコンをクリックすると、現在のGPU-Zウィンドウのスクリーンショットを撮影できます。
- 撮影した画像は、ファイルとして保存したり、クリップボードにコピーしたり、画像をホスティングサービスにアップロードしてURLを取得したりできます。
- GPUの仕様を共有したい場合や、センサーデータを特定の瞬間に記録しておきたい場合に手軽に利用できます。
-
Lookup機能:
- Graphics Cardタブの「Lookup」ボタンをクリックすると、現在表示されているGPUの情報をTechPowerUpのGPUデータベースで検索し、ウェブブラウザで表示します。
- これにより、GPU-Zに表示された情報だけでなく、そのGPUに関するより詳細な仕様、ベンチマーク性能、レビューなどの情報をオンラインで確認できます。
- 自分のGPUがどのような位置づけの製品なのか、他のGPUと比較してどの程度の性能なのかなどを調べたい場合に便利です。
-
BIOSの抽出・保存機能:
- Graphics CardタブのBIOS Versionの右側にあるフロッピーディスクアイコンをクリックすることで、グラフィックボードのBIOS(ファームウェア)をファイルとして保存できます(通常
.romまたは.bin形式)。 - これは、グラフィックボードの改造や修理(例:異なるモデルのBIOSを書き込んで性能を変える、元のBIOSに戻すなど)を行う上級者向けの機能です。
- 警告: グラフィックボードのBIOS書き換えは、失敗するとグラフィックボードが起動しなくなるなど、非常に高いリスクを伴います。特別な理由がない限り、この機能は使用しないでください。抽出したBIOSファイルも、安易にインターネット上に公開したり、入手したBIOSを自分のカードに書き込んだりすることは危険です。
- Graphics CardタブのBIOS Versionの右側にあるフロッピーディスクアイコンをクリックすることで、グラフィックボードのBIOS(ファームウェア)をファイルとして保存できます(通常
-
設定 (Preferences):
- GPU-Zウィンドウの左上にあるGPU-Zのロゴアイコンをクリックすると、メニューが表示されます。「Preferences」を選択すると設定ウィンドウが開きます。
- General Settings:
Start GPU-Z with Windows: Windows起動時にGPU-Zを自動起動するかどうか。Remember main window position: GPU-Zウィンドウの最後に閉じた位置を記憶するかどうか。Confirm exit: GPU-Zを閉じるときに確認ダイアログを表示するかどうか。
- Sensor logging:
Sensor refresh rate: Sensorsタブの表示更新間隔(ミリ秒または秒)を設定できます。値を小さくするほどリアルタイム性は増しますが、PCにわずかな負荷がかかります。通常はデフォルト(1000ms = 1秒)で十分です。
- Temperature Units:
Celsius (°C)またはFahrenheit (°F)で温度を表示するか選択できます。
- Language: (一部の言語に対応) UIの表示言語を選択できます。日本語は公式には対応していませんが、非公式の言語ファイルが存在する場合があります。
- その他の設定項目は通常、変更する必要はありません。
ステップ6:GPU-Zの活用方法 – 具体的なシナリオ
GPU-Zが提供する様々な情報を、実際のPC運用でどのように活用できるのか、具体的なシナリオを通して見ていきましょう。
1. PC購入時 / グラフィックボード増設時の確認
新しいPCを購入したり、グラフィックボードを買い増したりした際に、まずGPU-Zを起動して「Graphics Card」タブを確認しましょう。
- モデル名、GPUチップ名、VRAM容量などが、購入した製品の仕様と一致しているか? 特に中古品の場合、スペック偽装のリスクがないか確認できます。
- ドライババージョンが古すぎないか? もし古ければ、最新版のドライバをダウンロードしてインストールしましょう。
- Bus InterfaceのCurrent Link Speedが「PCIe x16 4.0 @ x16 4.0」のように、マザーボードとGPUがサポートする最大速度でリンクしているか? 稀に、マザーボード側の設定や接続不良、あるいは省電力機能によって速度が制限されている場合があります。
2. ドライバの更新・確認
グラフィックドライバは、ゲーム性能やアプリケーションの安定性に大きく影響します。新しいドライバがリリースされたら、GPU-Zで現在のドライババージョンを確認し、アップデートが必要か判断しましょう。
- 「Graphics Card」タブの「Driver Version」と「Driver Date」を確認します。
- GPUメーカー(NVIDIA, AMD, Intel)の公式サイトで、お使いのGPUモデルに対応する最新ドライバのバージョンとリリース日を確認します。
- GPU-Zのバージョンと最新版を比較し、必要であれば最新ドライバをダウンロードしてインストールします。
- ドライバを更新した後、再度GPU-Zを起動して、バージョン情報が正しく更新されたか確認することも重要です。
3. オーバークロック (OC) 時の監視
グラフィックボードの性能をさらに引き出すためにオーバークロックを行う場合、GPU-Zの「Sensors」タブは必須の監視ツールとなります。
- Core ClockとMemory Clock: OCによってこれらのクロックが設定値通りに上昇しているか確認します。
- GPU Temperature / Hot Spot Temperature / Memory Temperature: OCによって消費電力と発熱が増加するため、温度が危険なレベルに達していないか継続的に監視します。適切な冷却(ケース内のエアフロー改善、ファンの増設・交換など)が重要です。
- Voltage: 設定した電圧が反映されているか確認します。過度な電圧印加はハードウェアの寿命を縮める可能性があります。
- Board Power Draw / Power Consumption (%): OCによって消費電力がどれだけ増加しているか、電力制限がボトルネックになっていないかを確認します。
- PerfCap Reason: クロックが伸び悩んでいる場合、その原因が電力制限(Pwr)、温度制限(Tmp/Thrm)、あるいは電圧制限(VRel/VOp)など、何によって制限されているのかを判断できます。これに基づいて、電力制限を引き上げる、冷却を強化するなどの対策を検討できます。
OCの安定性を確認するには、GPU-Zでセンサーデータを表示したまま、ゲームやベンチマークなどの高負荷アプリケーションを長時間実行し、温度やクロックが安定しているか、エラーが発生しないかを確認するのが一般的です。
4. ゲームやアプリケーション実行時のパフォーマンス監視
ゲーム中にGPUがどのように動作しているかを知ることは、パフォーマンス問題を診断する上で非常に役立ちます。GPU-Zを起動したままゲームをウィンドウモードやボーダーレスウィンドウモードで実行し、Sensorsタブを監視しましょう。あるいは、GPU-Zのログ機能を有効にして、ゲームプレイ中のデータを後から分析することもできます。
- GPU Load: ゲーム中にGPU Loadが常に99-100%に近い場合、GPUが性能の限界に達しており、GPUがボトルネックになっている可能性が高いです。この場合、グラフィック設定を下げるか、より高性能なGPUへのアップグレードが必要かもしれません。もしGPU Loadが低い(例えば50%以下)のにフレームレートが低い場合、CPUがボトルネックになっている、あるいは他の原因(メモリ不足、ストレージ速度など)が考えられます。
- GPU Temperature: ゲーム中にGPU温度が上昇しすぎないか確認します。もし温度が繰り返し80°Cや90°Cを超え、「PerfCap Reason」が「Tmp」や「Thrm」を示している場合、サーマルスロットリングによって性能が低下している可能性があります。ケース内のエアフローを見直す、ファンを掃除する、サーマルペーストを塗り直すなどの対策が必要です。
- Core Clock: ゲーム中の平均的なGPUクロックを確認します。期待されるブーストクロックに近い値が出ているか確認します。温度や電力制限によってクロックが大きく低下していないか確認します。
- Memory Used: プレイしているゲームが必要とするVRAM容量を確認します。もしVRAM容量がゲームの要求量を超えている場合、テクスチャが読み込み直されたり、システムメモリの一部がVRAMとして使われたりすることで、スタッタリングやフレームレートの低下が発生する可能性があります。
- PerfCap Reason: ゲーム中にGPUの性能が制限されている具体的な理由を確認します。
5. トラブルシューティング
PCの安定性がない、画面表示がおかしい、ブルースクリーンが頻繁に発生するなどの問題が発生した場合、GPU-Zのセンサー情報は原因特定の手がかりとなることがあります。
- 異常な温度: アイドル時でもGPU温度が異常に高い、あるいは少し負荷をかけただけで急激に温度が上昇する場合、冷却系の問題(ファン停止、ヒートシンクの接触不良など)が考えられます。
- 異常なクロック: 想定されるクロック周波数よりも常に低い値で動作している場合、電力供給不足、温度制限、あるいはハードウェアの故障の可能性があります。
- ファン速度: ファンが全く回転していない、あるいは常に最高速度で回転しているなど、異常なファン動作がないか確認します。
- PerfCap Reason: 問題発生時にどのような性能制限がかかっているか確認します。例えば、温度制限が頻繁にかかるなら冷却系、電力制限が頻繁にかかるなら電源ユニットやボードの電力供給設計に問題がある可能性が考えられます。
これらの情報から、ハードウェア的な問題なのか、それともソフトウェア(ドライバやOS)の問題なのかを切り分ける参考にできます。
6. GPUの売却・購入時
GPUを中古で売却する際、GPU-Zのスクリーンショットを添付することで、そのGPUの正確な仕様を買い手に提示でき、信頼性が向上します。購入する側も、GPU-Zでスペックを確認することで、偽物や状態の悪い製品を避けるのに役立ちます。
- 「Graphics Card」タブの情報をスクリーンショットで共有します。
- 「Sensors」タブで、アイドル時と高負荷時(例:FurMarkなどのストレステスト実行時)の温度やクロック、ファン速度などの状態を提示すると、より丁寧です。
7. 偽物GPUの判別
残念ながら、市場には古いチップを新しいモデル名で偽装したグラフィックボードが出回ることがあります。これらの多くは、GPU-Zを起動すると、表示されるスペック(シェーダー数、メモリ容量、バス幅など)が、そのモデル名本来の仕様と大きく異なる場合があります。
- GPU-Zの「Graphics Card」タブで表示されるスペックが、オンラインの公式情報や信頼できるデータベース(TechPowerUpのGPUデータベースなど)の情報と一致するか確認します。
- 特に、Shaders数、Memory Type/Size/Bus Width、DirectX Supportなどが、製品名に対して明らかに低い場合、偽物の可能性が非常に高いです。
- 「Validation」タブで情報を送信し、TechPowerUpの検証結果を確認することも補助的な判断材料になります。
GPU-Zは偽物GPUを100%確実に検出できるわけではありませんが、その詳細なスペック表示は、不審な点を見抜く上で強力な手助けとなります。
ステップ7:GPU-Zを使う上での注意点
GPU-Zは非常に有用なツールですが、使用上の注意点もいくつかあります。
- ダウンロードは必ず公式サイトから: 前述の通り、TechPowerUpの公式サイト以外からのダウンロードは危険です。
- 常に最新版を推奨: GPU-Zは新しいGPUモデルへの対応やバグ修正のために頻繁にアップデートされます。お使いのGPUが正しく認識されない場合や、センサー値がおかしい場合は、最新版にアップデートしてみましょう。
- BIOS抽出・書き換えは高リスク: BIOSの抽出機能は便利ですが、安易な書き換えはグラフィックボードを起動不能にする可能性があります。十分に知識と経験がない限り、BIOSの書き換えは行わないでください。
- センサーデータの解釈: 表示されるセンサーデータ(特に温度)の「正常値」は、GPUモデル、冷却システム、ケース内のエアフロー、室温など、多くの要因によって異なります。他のユーザーの報告値や公式情報を参考に、お使いの環境での適切な範囲を把握することが重要です。極端に高い値や低い値が出ている場合は注意が必要です。
- 他の監視ツールとの併用: GPU-ZはGPUに特化したツールですが、PC全体の状況を把握するためには、CPU温度、マザーボード温度、システムメモリ使用量などを監視できる他のツール(例:HWiNFO, MSI Afterburnerなど)と併用すると、より包括的なトラブルシューティングや最適化が可能になります。
- 表示情報の精度: GPU-Zはハードウェアから情報を読み取りますが、稀にドライバのバグやハードウェアの問題、あるいはGPU-Z自体の非対応などにより、情報が正確に表示されないことがあります。複数のツールで確認したり、公式情報と照らし合わせたりすることも考慮しましょう。
ステップ8:よくある質問 (FAQ)
GPU-Zに関するよくある質問とその回答です。
Q: GPU-Zは無料ですか?
A: はい、GPU-Zは完全に無料で利用できます。ただし、TechPowerUpの活動を支援したい場合は、寄付を行うことができます。
Q: GPU-Zは安全ですか?
A: TechPowerUpの公式サイトからダウンロードした純正のGPU-Zは安全です。しかし、前述の通り、偽サイトからのダウンロードや、出所不明のexeファイルを実行することは危険です。
Q: GPU-ZはどのOSに対応していますか?
A: GPU-ZはMicrosoft Windowsに対応しています。Windows XP以降の比較的古いバージョンから、最新のWindows 10やWindows 11まで幅広く対応しています。ただし、新しいGPUや機能に対応するためには、比較的新しいバージョルのWindowsとGPU-Zが必要になる場合があります。macOSやLinuxには対応していません。
Q: PCに複数のグラフィックボードを搭載している場合、GPU-Zはどのように表示しますか?
A: 複数のグラフィックボード(例:メインGPUと内蔵GPU、またはSLI/CrossFire構成)が搭載されている場合、GPU-Zウィンドウの下部にドロップダウンメニューが表示されます。このメニューから、情報を表示したいGPUを選択して切り替えることができます。
Q: GPU-Zに表示される情報が、公式情報や他のツールと少し違うのですが?
A: 表示される情報にわずかな差異が生じることは稀にあります。これは、ハードウェアからの情報の読み取り方の違い、ドライバのバージョン、GPU-Z自体のバージョン、あるいはUEFI/BIOS設定などが影響する可能性があります。特にクロック周波数は、アイドル時や負荷状況によって変動するため、測定タイミングによって異なる値が表示されるのが一般的です。ただし、Shaders数やVRAM容量など、固定的な仕様情報が大きく異なる場合は、偽物である可能性や、ハードウェアの異常の可能性も考慮してください。
Q: SensorsタブでASIC Qualityが表示されません。なぜですか?
A: ASIC Qualityは、初期のGPU-Zの機能であり、現在ではほとんどの新しいNVIDIA GeForceカードやAMD Radeonカードでは表示されなくなっています。これは、メーカー側がASIC品質に関する情報を公開していない、あるいはGPU-Zがその情報を取得できなくなったためです。表示されないのは正常な動作であり、心配する必要はありません。
Q: SensorsタブのPerfCap Reasonで「Pwr」や「Tmp」がよく表示されるのですが、これは何ですか?
A: 「PerfCap Reason」はPerformance Capability Reasonの略で、GPUが意図的に性能を制限している原因を示します。「Pwr」は電力制限(Power Limit)、「Tmp」は温度制限(Temperature Limit)による制限です。これらが頻繁に表示されるということは、GPUが設定された電力や温度の上限に達し、それ以上の性能を出せない状態になっていることを意味します。ゲーム中にこれが頻繁に表示される場合、GPUの性能を最大限に引き出せていない可能性があります。電力制限を引き上げる(ただし消費電力と発熱が増加します)か、冷却性能を向上させることで、制限がかかりにくくなる可能性があります。ただし、これは自己責任で行ってください。
Q: GPU-Zを起動すると画面が点滅したり不安定になったりします。
A: 非常に稀なケースですが、特定のGPUやドライバの組み合わせ、あるいはGPU-Zのバージョンによっては、GPU-Zのハードウェアアクセスが原因で画面表示が不安定になることがあります。最新版のGPU-Zやグラフィックドライバを試してみる、あるいは他の監視ツールを試してみるなどの対応が考えられます。
まとめ:GPU-ZはPCユーザーの強力な味方
ここまで、GPU-Zのダウンロードから各機能、そして具体的な活用方法まで、詳細に解説してきました。GPU-Zは、そのコンパクトなサイズからは想像できないほど、膨大で正確なGPU情報を提供してくれる強力なツールです。
- お使いのGPUがどのようなモデルで、どのようなスペックを持っているのか。
- ゲームやアプリケーション実行中に、GPUがどれだけ頑張っているのか、温度は大丈夫なのか。
- オーバークロックは成功しているのか、性能を制限している原因は何なのか。
- 購入したグラフィックボードは仕様通りか、偽物ではないか。
これらの疑問に答えるための情報は、すべてGPU-Zの中に詰まっています。
GPU-Zは、単にPCの仕様を確認するだけでなく、PCの安定性を保ち、パフォーマンスを最適化し、さらにはトラブルシューティングを行う上でも、まさに「必須」と呼べる存在です。特にPCゲームをプレイする方、動画編集や3Dモデリングを行う方、あるいはPCの自作や改造に興味がある方にとっては、手放せないツールとなるでしょう。
このガイドを通して、あなたがGPU-Zを自信を持って活用できるようになることを願っています。ぜひ今すぐGPU-Zをダウンロードし、あなたのPCに搭載されているGPUの真の実力を探ってみてください。GPU-Zは、あなたのPCライフをより豊かで快適なものにしてくれるはずです。