はい、承知いたしました。Amazon Bedrockの概要から使い方まで、約5000語の詳細な解説を含む記事を作成します。
【最新】Amazon Bedrockの概要から使い方まで徹底ガイド
はじめに:生成AI時代の幕開けと企業の課題
近年、人工知能(AI)の進化は目覚ましく、特に「生成AI(Generative AI)」の登場は、ビジネスの世界に革命をもたらそうとしています。文章、画像、音声、コードなどを、まるで人間が作ったかのように自然に生成できる能力は、多くの企業の業務効率化、新たなサービスの創出、顧客体験の向上といった可能性を秘めています。
しかし、生成AIの導入と活用には、いくつかの課題が存在します。
- 多様な基盤モデル(Foundation Models: FMs)の選択と管理: 生成AIを支えるFMsは、様々な企業から提供されており、それぞれ得意な分野や性能、コストが異なります。自社の用途に最適なモデルを選び、複数のモデルを比較・検証し、必要に応じて切り替えるプロセスは複雑です。
- インフラストラクチャの構築と運用: 高性能なFMsを利用するためには、膨大な計算資源(GPUなど)が必要になります。自社でこのインフラを構築・運用するのはコストが高く、専門知識も必要です。
- セキュリティとコンプライアンス: 生成AIモデルに入力するデータや、生成されたデータには、機密情報や個人情報が含まれる可能性があります。これらのデータを安全に取り扱い、企業のセキュリティポリシーや業界規制を遵守するための対策が不可欠です。
- アプリケーションへの組み込み: FMを単体で使うだけでなく、既存のシステムやワークフローに組み込み、特定のビジネス課題を解決するためのアプリケーションを開発する必要があります。これには、API連携、データ処理、ユーザーインターフェース開発など、技術的なハードルが存在します。
- モデルのカスタマイズと精度の向上: 汎用的なFMでは、特定の業務やドメインに最適化されていない場合があります。自社のデータを使ってモデルをカスタマイズし、性能を向上させるプロセスも容易ではありません。
- 責任あるAIの実践: 生成AIが不適切、不正確、あるいは有害なコンテンツを生成するリスクを管理し、公平性、透明性、説明責任といった「責任あるAI」の原則に基づいた利用を担保する必要があります。
これらの課題を解決し、企業が安全かつ効率的に生成AIの力を活用できるように設計されたのが、Amazon Bedrockです。
この記事では、Amazon Bedrockが提供する機能、サポートされるモデル、具体的な使い方、そしてビジネスにおける活用事例まで、Bedrockを深く理解し、自社の生成AI戦略に役立てるための情報を網羅的に解説します。生成AIの導入を検討している方、Bedrockについて詳しく知りたい方、そしてBedrockを使い始めて一歩進んだ活用を目指したい方にとって、必読のガイドとなるでしょう。
第1章:Amazon Bedrockとは?
Amazon Bedrockは、大手AI企業が提供する高性能な基盤モデル(FMs)を、単一のAPIを通じて利用可能にするフルマネージドサービスです。AWSの堅牢で安全なインフラストラクチャ上で動作し、モデルの選択、構築、デプロイ、スケーリングといった煩雑な作業をAWSが引き受けることで、企業は生成AIアプリケーションの開発に集中できます。
Bedrockが解決する課題
- モデル選択の複雑性: 様々なプロバイダーのモデルを一元的に利用できます。API呼び出しは共通化されているため、異なるモデルを試したり、必要に応じて切り替えたりするのが容易です。
- インフラ構築・運用負担: モデル実行に必要な計算資源はAWSが管理するため、ユーザーはインフラのプロビジョニングやメンテナンスについて気にする必要がありません。利用量に応じた従量課金またはプロビジョンドスループットによる課金モデルで利用できます。
- セキュリティとデータプライバシー: AWSの高度なセキュリティ機能(IAMによるアクセス制御、VPC PrivateLinkによる閉域網接続など)を活用できます。入力データがモデルプロバイダーに共有されることなく(多くのモデルで)、安全に処理されます。生成された出力データもユーザーが完全に管理できます。
- アプリケーション開発の加速: 生成AIアプリケーション開発に必要な機能(モデルアクセス、エージェント、ナレッジベース、カスタマイズ、評価、ガードレール)が統合されており、より短期間で価値あるアプリケーションを構築できます。
Bedrockの目的
Amazon Bedrockの主な目的は、あらゆる規模の企業が、独自のインフラを構築したり、個別のモデルプロバイダーと契約したりすることなく、最先端の生成AI技術を手軽に、安全に、スケーラブルに利用できるようにすることです。これにより、企業は生成AIを活用したイノベーションを加速できます。
他のAWS AI/MLサービスとの関連性
AWSは、Amazon SageMaker、Amazon Rekognition、Amazon Textractなど、様々なAI/MLサービスを提供しています。Bedrockはこれらのサービスとどのように連携するのでしょうか?
- Amazon SageMaker: SageMakerは、機械学習モデルの構築、学習、デプロイのためのエンドツーエンドのプラットフォームです。スクラッチからのカスタムモデル開発、オープンソースモデルの学習・デプロイなど、機械学習プロジェクト全般をカバーします。一方、Bedrockは、既に学習済みの巨大な基盤モデル(FM)へのアクセスと、それを活用した生成AIアプリケーション開発に特化しています。Bedrockで利用できるFMは、SageMaker上でカスタマイズ(ファインチューニングなど)することも可能です。Bedrockで開発したアプリケーションからSageMaker Endpointにデプロイされたカスタムモデルを呼び出す、といった連携も考えられます。
- その他のAIサービス: Rekognition(画像分析)、Textract(ドキュメント分析)、Comprehend(自然言語処理)などは、特定のタスクに特化したAIサービスです。Bedrockは、これらのサービスでは対応できないような、より柔軟で創造的なテキスト生成、対話、要約、推論などのタスクに適しています。Bedrockを中核としつつ、特定の機能にこれらのサービスを組み合わせることで、より高度なアプリケーションを構築できます(例:Textractで抽出したテキストをBedrockで要約する、Rekognitionで検出したオブジェクトに基づきBedrockで解説文を生成するなど)。
Bedrockは、特に「生成AI」をビジネスに活用したいという明確な目的を持つ企業にとって、最も直接的で効率的なスタート地点となります。
第2章:Amazon Bedrockの主要機能とアーキテクチャ
Amazon Bedrockは単に基盤モデルへのAPIを提供するだけでなく、生成AIアプリケーション開発を強力に支援するための様々な付加機能を提供しています。これらの機能を組み合わせることで、より高度で実用的なアプリケーションを構築できます。
Amazon Bedrockの主要機能
Bedrockが提供する主な機能は以下の通りです。
-
多様な基盤モデルへのアクセス (Access to Foundation Models):
- Anthropic, AI21 Labs, Stability AI, Amazon, Cohere, Meta, Mistral AIなど、複数のトップAI企業が提供する高性能なFMsを、共通のAPIインターフェースを通じて利用できます。
- テキスト生成、チャット、画像生成、埋め込み(Embedding)生成など、様々なタスクに対応したモデルが用意されています。
- 各モデルのバージョン管理も容易です。
-
エージェント (Agents for Amazon Bedrock):
- ユーザーの自然言語での指示に基づき、複数のステップを計画し、外部システム(自社API、データベースなど)と連携してタスクを自律的に実行する機能です。
- 複雑なワークフローを自動化し、ユーザーに代わってアクションを実行できます。
-
ナレッジベース (Knowledge Bases for Amazon Bedrock):
- S3に格納されたドキュメントなどの非構造化データを自動的に取り込み、ベクトル埋め込みを生成し、ベクトルデータベースに格納します。
- 生成AIモデルが、社内データや最新情報に基づいて回答を生成する(Retrieval Augmented Generation: RAG)仕組みを容易に構築できます。ハルシネーション(事実に基づかない情報を生成すること)を抑制し、回答の信頼性を高めます。
-
モデルカスタマイズ (Customization):
- 独自のデータセットを使用して、特定のタスクやドメインに合わせて基盤モデルをカスタマイズ(ファインチューニングやPEFT: Parameter-Efficient Fine-Tuning)できます。
- これにより、モデルの性能を向上させ、特定の用途に最適化された生成AIを構築できます。
-
モデル評価 (Model Evaluation):
- 異なる基盤モデルやプロンプト設定を比較し、タスクの目的に対して最も適したモデルを選択するためのフレームワークです。
- 自動評価メトリクス(正確性、一貫性など)と、人間による評価の両方をサポートします。
-
ガードレール (Guardrails for Amazon Bedrock):
- 生成AIアプリケーションの安全性、適切性、信頼性を確保するためのセキュリティ機能です。
- ヘイトスピーチ、差別、暴力、性的に露骨なコンテンツなどの不適切コンテンツのフィルタリング、個人情報(PII)のマスキング、禁止ワードやトピックの設定などが可能です。
-
プロビジョンドスループット (Provisioned Throughput):
- 大量のトラフィックや低レイテンシが求められる本番稼働環境向けに、特定のモデルに対して一定量の処理能力を事前に予約する機能です。
- 予測可能なパフォーマンスと、大量利用時におけるコスト最適化を実現します。
アーキテクチャの概要
Amazon Bedrockの基本的なアーキテクチャは、シンプルかつスケーラブルです。
- ユーザーインターフェース/アプリケーション: ユーザーのアプリケーションやシステムは、AWS SDKs、AWS CLI、またはAWSマネジメントコンソールを通じてBedrockにアクセスします。
- Amazon Bedrockサービス: Bedrockは、受け取ったAPIリクエストを適切な基盤モデルにルーティングします。この際、Bedrockはセキュリティ、アクセス制御(IAM)、モニタリング(CloudWatch)などを統合的に管理します。ユーザーの入力データは、多くのモデルにおいて、モデルプロバイダーがモデル学習に再利用することはありません。
- 基盤モデル(FMs): Bedrockのバックエンドでは、複数のAI企業が提供するFMsが稼働しています。BedrockはこれらのモデルとのAPI連携を抽象化し、ユーザーには共通のインターフェースを提供します。
- 統合サービス: Bedrockの各機能(Agents, Knowledge Bases, Guardrails, Customization, Evaluation)は、それぞれ内部的にAWSの他のサービス(S3, Lambda, OpenSearch Serverless, SageMakerなど)と連携しながら動作します。
このアーキテクチャにより、ユーザーは特定のモデルにロックインされることなく、複数のモデルを柔軟に活用しつつ、AWSの信頼性とセキュリティの恩恵を受けながら、生成AIアプリケーションを開発・運用できます。
第3章:利用可能な基盤モデル (Foundation Models: FMs)
Amazon Bedrockの最大の特徴の一つは、多様な基盤モデルにアクセスできることです。Bedrockは、常に最新のモデルを取り込み、その選択肢を広げています。2024年〇月現在(執筆時点)、Bedrockで利用可能な主なモデルプロバイダーとモデルファミリーは以下の通りです。(※ Bedrockで利用可能なモデルはリージョンや時期によって変動します。最新情報はAWS公式ドキュメントをご確認ください。)
主要なモデルプロバイダーとモデルファミリー
- Anthropic:
- Claude: 自然な対話、長文理解・要約、推論、コーディング支援などが得意な強力な言語モデルファミリー。Claude 3(Opus, Sonnet, Haiku)、Claude 2.1, Claude Instant 1.2 などが提供されています。特に長大なコンテキストウィンドウ(一度に処理できるテキスト量)が特徴です。Opusは最も高性能、Sonnetはバランス型、Haikuは高速・軽量型です。
- AI21 Labs:
- Jurassic-2: テキスト生成、要約、質問応答などが得意な言語モデルファミリー。UltraとMidが提供されており、Ultraはより大規模で高性能です。
- Stability AI:
- Stable Diffusion: テキストプロンプトから高品質な画像を生成する画像生成モデル。様々なスタイルや解像度での画像生成が可能です。Stable Diffusion XL (SDXL 1.0) などが利用できます。
- Amazon:
- Titan: Amazonが開発した基盤モデルファミリー。
- Titan Text: テキスト生成、要約、質問応答などが得意な言語モデル。表現力の豊かなテキスト生成に優れています。LiteとExpressがあります。
- Titan Embeddings: テキストを数値ベクトル(埋め込み)に変換するモデル。意味的に類似したテキストの検索、クラスタリング、分類などのタスクに利用されます。テキストをベクトル化する際、高い性能と効率を提供します。テキスト埋め込み(text-v1)とマルチモーダル埋め込み(multimodal-v1)があります。
- Titan Image Generator: テキストプロンプトから画像を生成するモデル。Safety Classifierを備え、安全な画像生成に配慮されています。
- Titan Multimodal Embeddings: テキストと画像を両方数値ベクトルに変換し、クロスモーダルな検索や比較を可能にするモデル。
- Titan: Amazonが開発した基盤モデルファミリー。
- Cohere:
- Command: 自然言語による指示(コマンド)に従ってテキストを生成するモデル。チャットボット、テキスト生成、要約などが得意です。Command R Plus, Command R, Command Light, Commandなどが提供されています。特にRファミリーはRAGに最適化されています。
- Embed: テキストを高品質な埋め込みベクトルに変換するモデル。意味検索やクラスタリングに優れています。
- Meta:
- Llama: 大規模なオープンモデル。Metaが開発し、Bedrockを通じてアクセス可能です。Llama 2 (13B, 70Bパラメータ版)、Llama 3 (8B, 70Bパラメータ版) などが提供されています。様々なテキスト生成タスクに利用できます。
- Mistral AI:
- Mistral: 軽量かつ高性能なモデルファミリー。Mistral 7B、Mixtral 8x7B(Sparse Mixture of Expertsモデル)などが利用可能です。特にMixtralは、高い性能と比較的効率的な推論を両立しています。
モデル選択のポイント
Bedrockを利用する際、どのモデルを選択するかは重要な決定です。以下の要素を考慮して最適なモデルを選びましょう。
- タスクの種類: テキスト生成、チャット、画像生成、埋め込み生成など、達成したいタスクに特化したモデル(または得意とするモデル)を選択します。
- 性能と精度: 複雑な推論や高度な自然言語理解が必要な場合は、Anthropic Claude OpusやMeta Llama 3 70Bのような大規模で高性能なモデルが適しています。
- レイテンシとスループット: リアルタイム応答が必要なアプリケーションでは、推論速度が速いモデル(Anthropic Claude Haiku, Mistral 7Bなど)や、プロビジョンドスループットが利用可能なモデルが有利です。
- コンテキストウィンドウのサイズ: 長いドキュメントの要約や、長い対話履歴を考慮したチャットボットを構築する場合は、より大きなコンテキストウィンドウを持つモデル(Anthropic Claudeファミリーなど)が必要になります。
- コスト: モデルのサイズや性能によってコストは異なります。タスクの要件を満たす最低限のコストで済むモデルを選択することも重要です。多くのモデルは入力トークンと出力トークンの数に基づいて課金されます。
- 特定の機能への対応: AgentsやKnowledge Bases、Model Evaluation、Guardrailsといった Bedrockの付加機能との連携状況も考慮します。一部の機能は特定のモデルでのみ利用可能です。
- リージョンでの提供状況: 利用したいモデルが、デプロイ先のAWSリージョンで提供されているか確認が必要です。
BedrockのPlaygrounds機能やModel Evaluation機能を利用して、異なるモデルに同じプロンプトを与えて応答を比較するなど、実際に試してみるのが最適なモデルを見つける最も良い方法です。
第4章:Bedrockのコア機能 詳細解説
Amazon Bedrockは、単なるモデルアクセスのゲートウェイにとどまらず、生成AIアプリケーション開発に必要な多くの機能を提供します。ここでは、第2章で触れた主要機能について、さらに詳しく解説します。
4.1 多様な基盤モデルへのアクセス
Bedrockの核となる機能は、複数のAIプロバイダーの基盤モデルに単一のAPIエンドポイント (bedrock-runtime.REGION.amazonaws.com
) を通じてアクセスできる点です。
- 一貫したAPI: テキスト生成や埋め込み生成など、共通のタスクに対しては、モデルプロバイダーが異なっていても、基本的なAPIインターフェースは共通しています(
InvokeModel
またはInvokeModelWithResponseStream
)。モデルごとにパラメータの名称や形式に若干の違いはありますが、アプリケーション側でのモデル切り替えが比較的容易です。 - モデルIDによる指定: 利用したいモデルは、API呼び出し時にモデルID(例:
anthropic.claude-3-sonnet-20240229-v1:0
,amazon.titan-text-express-v1
,stability.stable-diffusion-xl-v1
)で指定します。 - バージョン管理: モデルプロバイダーはモデルの新しいバージョンをリリースすることがあります。Bedrockでは、特定のモデルバージョンを指定して利用できるため、アプリケーションの安定性を保ちやすくなります。
- APIプレイグラウンド: AWSマネジメントコンソールには、テキスト、チャット、画像の各Playgroundが用意されています。ここでは、様々なモデルを選択し、プロンプトを入力し、パラメータを調整しながら、モデルの振る舞いをインタラクティブに試すことができます。API呼び出しのコード(Python, JavaScript, Javaなど)も自動生成されるため、開発の初期段階で非常に役立ちます。
モデルへのアクセスを開始するには、まずAWSマネジメントコンソールで Bedrockサービスにアクセスし、「モデルアクセス」設定から利用したいモデルを有効にする必要があります。デフォルトでは、どのモデルも有効になっていません。
4.2 エージェント (Agents for Amazon Bedrock)
大規模言語モデル(LLM)はテキストを理解・生成することに優れていますが、それ自体が外部のツールを使ったり、複数のステップを経て複雑なタスクを完了させたりすることはできません。エージェントは、このギャップを埋めるための機能です。
- 目的: ユーザーの自然言語による複雑な指示を理解し、計画を立て、外部システム(API、データベースなど)を呼び出し、その結果を使ってユーザーの意図を達成すること。
- 構成要素:
- 基盤モデル (FM): エージェントの「脳」となるモデルです。指示の理解、計画立案、応答生成を行います。ClaudeやLlamaなどの強力な言語モデルが使用されます。
- 指示 (Instructions): エージェントにどのような目的で、どのような役割を担い、どのように行動してほしいかを記述した自然言語のテキストです。「あなたは親切な旅行予約アシスタントです。ユーザーの希望を聞いて、旅行予約APIを使ってホテルや航空券を検索・予約できます。」のように設定します。
- ツール (Tools/Action Groups): エージェントが外部システムと連携するための手段です。主にLambda関数やAPIスキーマ(OpenAPIスキーマ形式)として定義します。「旅行予約APIの検索機能」「データベースから顧客情報を取得する機能」などがこれに該当します。
- ナレッジベース (Knowledge Bases): 外部のドキュメントなどの情報を参照するための機能です(後述)。エージェントがRAGを行う場合に連携します。
- 仕組み:
- ユーザーからの指示を受け取る。
- FMが指示を理解し、タスクを完了するために必要なステップを推論する(Thought)。
- 推論に基づき、どのツール(Action Group)を、どのようなパラメータで呼び出すべきか決定する(Action)。
- 決定したツールを呼び出す。
- ツール実行結果を受け取る。
- 結果に基づき、次のステップを推論・決定するか、最終的な応答を生成するかを判断する。
- 必要なステップを繰り返し、最終的にユーザーへの応答を生成する。
- 利点:
- 自然言語による複雑なタスク自動化。
- 複数のシステム連携を要するワークフローの構築が容易。
- 開発者はAPI連携のロジックを詳細にコーディングする必要がなく、エージェントに指示とツールを与えるだけで済む。
- 構築ステップ概要:
- Agentの作成: BedrockコンソールまたはAPIでAgentを作成します。使用する基盤モデルを選択します。
- Instructionsの設定: エージェントの役割と目的を具体的に記述します。
- Action Groupの設定: エージェントが呼び出せる外部システムのアクションを定義します。APIスキーマ(OpenAPI)をアップロードするか、Lambda関数を指定します。各アクションが何をするのか、どのような入力が必要で、どのような出力を返すのかを記述します。
- Knowledge Baseの連携 (オプション): 必要に応じて、ナレッジベースをAgentに紐付けます。
- テストとデプロイ: コンソールでAgentの動作をテストできます。デプロイすると、外部から呼び出し可能なAgentエイリアスが作成されます。
例えば、「〇〇という製品について、社内マニュアルを見て説明し、在庫を確認して購入手続きを開始したい」というユーザーの指示に対し、Agentは「社内マニュアル参照(ナレッジベース利用)」「在庫管理API呼び出し」「購入手続きAPI呼び出し」といったステップを自律的に実行し、ユーザーと対話しながらタスクを完了させることができます。
4.3 ナレッジベース (Knowledge Bases for Amazon Bedrock)
基盤モデルは学習データに基づいて応答を生成しますが、その知識は学習時点の情報に限られます。また、学習データに含まれていない企業の内部情報や、特定のドメインに関する最新情報については回答できません。さらに、モデルが「知らない」ことを推測して事実に基づかない情報を生成する「ハルシネーション」も課題となります。
ナレッジベースは、これらの課題を解決するために、Retrieval Augmented Generation(RAG)という手法を Bedrock 上で簡単に実装できる機能です。
- 目的: 独自のドキュメント(社内規定、製品マニュアル、FAQ、レポートなど)に基づいた、より正確で関連性の高い応答を生成すること。
- 仕組み:
- データソースの準備: S3バケットに、PDF, DOCX, TXT, CSV, HTMLなどの形式でドキュメントを配置します。
- データ取り込み (Ingestion): BedrockがS3バケットのドキュメントを自動的に読み込みます。
- 前処理とチャンク化: ドキュメントを小さな単位(チャンク)に分割します。
- 埋め込み生成: Bedrockに設定した埋め込みモデル(Amazon Titan Embeddingsなど)を使って、各チャンクの内容を数値ベクトル(埋め込みベクトル)に変換します。
- ベクトルストアへの格納: 生成された埋め込みベクトルと元のテキストチャンクを、ベクトルデータベースに格納します。Bedrockは、OpenSearch Serverless、Pinecone、Redis Enterprise Cloudといったベクトルストアとの連携をサポートしています。
- 検索・応答生成 (RAG): ユーザーからの質問があると、その質問を埋め込みベクトルに変換し、ベクトルストア内で意味的に類似性の高いドキュメントチャンクを検索します。検索された関連ドキュメントチャンクを、元のユーザー質問とともに基盤モデルへのプロンプトに追加し、モデルに回答を生成させます。
- 利点:
- 社内データや最新情報に基づいた応答生成が可能。
- ハルシネーションのリスクを低減し、回答の信頼性を向上。
- モデルを再学習させることなく、知識を更新・追加できる。
- 特定のドメインに特化したAIアプリケーションを構築できる。
- 構築ステップ概要:
- Knowledge Baseの作成: BedrockコンソールまたはAPIでKnowledge Baseを作成します。使用する埋め込みモデルを選択します。
- データソースの設定: S3バケットのパスを指定します。
- ベクトルストアの設定: 使用するベクトルストア(OpenSearch Serverlessなど)を指定し、接続情報を設定します。必要なインデックスを作成します。
- データの同期: S3バケットのデータをベクトルストアに取り込み、同期します。
- 利用: 作成したKnowledge Baseを、Agents for Bedrockや Bedrock の Retrieve API/RetrieveAndGenerate API を通じて利用します。
Knowledge Basesは、チャットボットが社内ポリシーに基づいて回答したり、ドキュメント検索アプリケーションが自然言語で質問に答えたりする場合に非常に強力な機能です。
4.4 モデルカスタマイズ (Customization)
汎用的な基盤モデルは多くのタスクで高い性能を発揮しますが、特定の業界固有の用語、企業の独自のスタイル、あるいは特定の狭いドメインタスクにおいては、さらに性能を向上させたい場合があります。Bedrockでは、独自のデータセットを使って基盤モデルをカスタマイズする機能を提供しています。
- 目的: 特定のタスク、ドメイン、出力スタイルに合わせてモデルの性能を最適化すること。
- 方法:
- Fine-tuning: モデルのすべてのパラメータ、または大部分のパラメータを少量のデータで再学習させる方法です。高い性能向上が期待できますが、計算リソースとデータ準備にコストがかかります。
- Parameter-Efficient Fine-Tuning (PEFT): モデルのごく一部のパラメータ、または追加された小さなアダプター層のみを学習させる方法です(例: LoRA, QLoRA)。Fine-tuningに比べて必要な計算資源とデータ量が少なく、学習が高速です。Bedrockでは、主にPEFT手法(現在はLoRA)によるカスタマイズをサポートしています(サポートされるモデルは限定されます)。
- Custom Model Import: ユーザーがSageMakerなどで学習したモデルをBedrockにインポートして利用する機能です(現在は限られたモデルタイプで提供)。
- 利点:
- 特定のタスクにおける精度の大幅な向上。
- 企業のブランドボイスや特定のスタイルに合わせたテキスト生成。
- 狭いドメイン知識をモデルに注入できる。
- 場合によっては、より大きな汎用モデルを使うよりも、カスタマイズした小さなモデルの方が効率的でコスト削減につながる可能性があります。
- カスタマイズプロセス概要:
- 学習データの準備: モデルに学習させたい入力と期待する出力のペアデータセットを用意します。データは指定されたフォーマット(通常はJSON Lines形式)でS3に配置します。データの質と量は、カスタマイズの成果に大きく影響します。
- カスタマイズジョブの作成: BedrockコンソールまたはAPIでカスタマイズジョブを作成します。ベースとなる基盤モデル、学習データの場所、ハイパーパラメータ(学習率、エポック数など)を設定します。
- ジョブの実行: ジョブを開始すると、Bedrockが自動的に必要な計算リソースをプロビジョニングし、学習を実行します。
- カスタマイズ済みモデルの利用: 学習が完了すると、新しいモデルとしてBedrockから利用可能になります。このカスタマイズ済みモデルをAPI呼び出し時に指定することで、カスタマイズの効果を反映した生成が得られます。
カスタマイズは、FAQ応答の精度向上、特定の業界レポート作成の自動化、社内チャットボットの応答品質向上などに有効です。ただし、汎用的なタスクであればカスタマイズ不要な場合も多いので、必要性を十分に検討することが重要です。
4.5 モデル評価 (Model Evaluation)
生成AIモデルの選択は、アプリケーションの性能やユーザー体験に直結するため非常に重要です。しかし、複数のモデルやプロンプト設定がある中で、どれが最も目的に適しているか客観的に判断するのは容易ではありません。Model Evaluation機能は、このモデル選定プロセスを支援します。
- 目的: 複数の基盤モデル、プロンプト、設定を比較し、特定のタスクにおいて最も優れたパフォーマンスを発揮するものを特定すること。
- 方法:
- 自動評価: Bedrockが提供する組み込みメトリクスや、独自のメトリクスを使用して、生成された出力の品質をプログラムで評価します。
- 人間参加型評価: 人間のレビュアーが生成された出力を見て、関連性、正確性、有害性、スタイルなどの観点から評価します。
- 評価メトリクス:
- 正確性 (Accuracy): 事実に基づいているか。
- 関連性 (Relevance): ユーザーのプロンプトや質問に適切に答えているか。
- 有害性 (Toxicity): 不適切、攻撃的、差別的な内容が含まれていないか。
- 一貫性 (Coherence): 生成されたテキストが論理的で自然な流れになっているか。
- スタイル (Style): 目的のトーンや形式(例: ポエム、コード、レポート)に合致しているか。
- その他、要約の忠実度、質問応答の正確率など、タスク固有のメトリクスも設定可能です。
- 利点:
- モデル選択の客観的な基準を提供。
- 異なるプロンプト戦略の効果を比較検討できる。
- 継続的なモデル性能の追跡。
- ABテストのような形式での比較が可能。
- 利用ステップ概要:
- 評価タスクの作成: 評価したいタスク(例: テキスト生成、質問応答)を指定します。
- モデルとプロンプトの指定: 比較したい基盤モデル(複数選択可能)と、各モデルで使用するプロンプトやパラメータを設定します。
- データセットの準備: 評価に使用する入力プロンプトと、期待される参照出力(オプション、自動評価用)を含むデータセット(CSV, JSON Lines形式など)をS3に配置します。
- 評価方法の選択: 自動評価または人間参加型評価、あるいはその両方を選択します。
- 評価ジョブの実行: 設定に基づいて評価ジョブを実行します。
- 結果の分析: ジョブ完了後、Bedrockコンソールで各モデル/プロンプトの評価メトリクスや人間評価の結果を確認し、比較分析を行います。
モデル評価は、生成AIアプリケーションを本番環境にデプロイする前や、モデルをアップデートする際に不可欠なプロセスです。
4.6 ガードレール (Guardrails for Amazon Bedrock)
生成AIモデルは強力である一方、意図しない、または有害なコンテンツを生成するリスクも伴います。ガードレールは、このようなリスクを軽減し、生成AIアプリケーションを安全に利用するためのセキュリティレイヤーです。
- 目的: アプリケーションのセキュリティ、信頼性、適切性を確保し、不適切な利用や有害なコンテンツ生成を防ぐこと。
- 機能:
- 不適切コンテンツフィルタリング: ヘイトスピーチ、差別、暴力、性的に露骨な内容、犯罪行為、危険行為などのカテゴリに分類されるコンテンツを検出・フィルタリングします。各カテゴリに対して、許可レベル(なし、低、中、高)を設定できます。
- 個人情報 (PII) フィルタリング: 氏名、住所、電話番号、メールアドレス、クレジットカード番号などの個人情報を検出・マスキング(特定の文字列に置換)します。
- 禁止ワード/句リスト: 特定のキーワードやフレーズが入力または出力に含まれている場合にブロックします。
- 禁止トピックリスト: アプリケーションで扱ってほしくない特定のトピックを設定し、それに関する会話を制限します。
- ポリシー違反時の応答: ガードレールによってフィルタリングが行われた場合に、ユーザーに返すメッセージを設定できます。「このリクエストは当社のポリシーに違反するため処理できません。」のようなカスタムメッセージを表示できます。
- 仕組み:
- ユーザーからの入力プロンプトはまずガードレールによって検査されます。
- 検査をパスした入力のみが基盤モデルに渡されます。
- 基盤モデルからの出力も再度ガードレールによって検査されます。
- 検査をパスした出力のみがユーザーに返されます。ポリシー違反があれば、設定されたブロックメッセージが代わりに返されます。
- 利点:
- アプリケーション利用時のリスク低減。
- 企業のブランドイメージ保護。
- 法規制やコンプライアンス要件の遵守支援。
- 責任あるAIの原則に基づいたアプリケーション開発。
- 設定ステップ概要:
- Guardrailの作成: BedrockコンソールまたはAPIでGuardrailを作成します。名前と説明を設定します。
- ポリシーの設定:
- コンテンツフィルタのレベル(低、中、高)をカテゴリごとに設定します。
- PIIフィルタを有効にし、マスキングしたいPIIタイプを選択します。
- 禁止ワード/句リスト、禁止トピックリストを設定します。
- ポリシー違反時のメッセージを設定します。
- テスト: コンソールで様々な入力と期待される出力をテストし、Guardrailが正しく機能することを確認します。
- 関連付け: 作成したGuardrailを、Bedrock API (
InvokeModel
など) 呼び出し時、Agent、またはKnowledge Baseに紐付けて適用します。
ガードレールは、顧客向けのチャットボットや一般公開される生成AIアプリケーションにおいて、必須のセキュリティ機能と言えます。
4.7 プロビジョンドスループット (Provisioned Throughput)
Amazon Bedrockのデフォルトの料金モデルは、入力および出力トークン数に基づいた従量課金(オンデマンド)です。これは開発や試験段階では柔軟でコスト効率が良いですが、本番環境で大量のトラフィックを処理したり、厳格な低レイテンシ要件を満たす必要がある場合、予測可能なパフォーマンスとコスト管理が課題となることがあります。
プロビジョンドスループットは、このようなユースケースに対応するための機能です。
- 目的: 特定の基盤モデルに対して、一定量の推論能力(スループット)を事前に予約し、予測可能なレイテンシと高スループットを保証すること。
- 仕組み: 特定のモデルのキャパシティユニット(単位時間あたりのトークン処理能力など、モデルによって定義が異なる)を、1ヶ月または6ヶ月の契約期間で購入します。購入したキャパシティは常に専有的に利用できるため、トラフィックの変動によるレイテンシ増加やスロットリングのリスクを軽減できます。
- 利点:
- 予測可能なパフォーマンス: 一定のスループットが保証されるため、低レイテンシと安定した応答時間が得られます。リアルタイムアプリケーションに最適です。
- コスト最適化: 大量の推論リクエストが発生する場合、オンデマンド料金よりもプロビジョンドスループットの方が単位あたりのコストが低くなる可能性があります。利用量が多いほどコスト効率が向上します。
- 容量保証: ピーク時でも必要な処理能力が確保されます。
- 考慮事項:
- 一定期間の契約が必要であり、その期間中は購入したキャパシティに対して料金が発生します。利用量が少ない場合でも固定費がかかります。
- サポートされるモデルは限定されます。
- 利用方法: BedrockコンソールまたはAPIを通じて、プロビジョンドスループットを購入したいモデルと、必要なキャパシティユニット数、契約期間を指定してリクエストを送信します。承認されると、そのキャパシティが利用可能になります。API呼び出し時には、プロビジョンドスループットに関連付けられたARN(Amazon Resource Name)を指定して呼び出すことになります。
高頻度での利用や、ミッションクリティカルなアプリケーションにおいて、プロビジョンドスループットは有効な選択肢となります。
第5章:Amazon Bedrockの使い方(実践編)
Amazon Bedrockを実際に使う方法を、最も簡単なマネジメントコンソールでの利用から、AWS SDKを使った開発まで見ていきましょう。
5.1 マネジメントコンソールでの利用
AWSマネジメントコンソールは、Bedrockの機能を試したり、設定を行ったりするための最も手軽な方法です。
- Bedrockへのアクセス: AWSマネジメントコンソールにサインインし、サービス検索バーで「Amazon Bedrock」と入力して Bedrock コンソールを開きます。
- モデルアクセスの有効化: Bedrockコンソールに初めてアクセスした場合、デフォルトではどのモデルも利用できません。左側のナビゲーションメニューから「Model access」を選択し、「Manage model access」ボタンをクリックします。利用したいモデルプロバイダーとモデル(例: Anthropic Claude 3 Sonnet, Amazon Titan Text Express, Stability AI Stable Diffusion XLなど)を選択し、「Request access」または「Save changes」をクリックしてアクセスを有効化します。承認されるまで数分かかる場合があります。
- Playgroundsでの試用: モデルアクセスの有効化後、様々なPlaygroundでモデルを試すことができます。
- Text playground: テキスト生成タスクに使用します。左側でモデルを選択し、中央のテキストエリアにプロンプトを入力します。右側でパラメータ(最大トークン数、温度、トップPなど)を調整できます。「Run」をクリックすると生成結果が表示されます。
- Chat playground: 対話タスクに使用します。チャット形式でモデルと会話できます。過去の対話履歴がコンテキストとして考慮されます。
- Image playground: 画像生成タスクに使用します(Stable Diffusionなど画像生成モデルが有効な場合)。プロンプトを入力し、生成したい画像のスタイルや枚数などを指定して画像を生成します。
- 各Playgroundの下部には、現在の設定でAPIを呼び出すためのサンプルコード(Python, JavaScript, Java, C++)が表示されます。これをコピーして開発に利用できます。
マネジメントコンソールは、異なるモデルの性能比較、プロンプトエンジニアリングの実験、パラメータ調整の効果確認などに最適です。
5.2 AWS SDKsを使った開発
本番のアプリケーションからBedrockを呼び出す場合は、AWS SDKsを利用するのが一般的です。ここではPython (boto3) を例に基本的な使い方を紹介します。
まず、boto3ライブラリをインストールします。
bash
pip install boto3
5.2.1 基本的なテキスト生成 (invoke_model
)
最も基本的なAPI呼び出しは invoke_model
です。プロンプトをモデルに送信し、生成されたテキストを受け取ります。
“`python
import boto3
import json
Bedrock Runtime クライアントを作成 (リージョンを指定)
bedrock_runtime = boto3.client(
service_name=’bedrock-runtime’,
region_name=’us-east-1′ # ご利用のリージョンに合わせて変更
)
利用するモデルIDを指定
model_id = ‘anthropic.claude-3-sonnet-20240229-v1:0’ # 例: Claude Sonnet
model_id = ‘amazon.titan-text-express-v1’ # 例: Amazon Titan Text Express
model_id = ‘meta.llama2-13b-chat-v1’ # 例: Llama 2 Chat 13B
プロンプトとモデル固有のパラメータを定義
if ‘claude’ in model_id:
body = json.dumps({
“messages”: [{“role”: “user”, “content”: “AWSについて3行で説明してください。”}],
“max_tokens”: 300,
“temperature”: 0.7
})
elif ‘titan’ in model_id:
body = json.dumps({
“inputText”: “AWSについて3行で説明してください。”,
“textGenerationConfig”: {
“maxTokenCount”: 300,
“temperature”: 0.7
}
})
elif ‘llama’ in model_id:
body = json.dumps({
“prompt”: “AWSについて3行で説明してください。”,
“max_gen_len”: 300,
“temperature”: 0.7
})
else:
raise ValueError(“Unsupported model ID”)
モデルを呼び出し
response = bedrock_runtime.invoke_model(
modelId=model_id,
contentType=’application/json’,
accept=’application/json’,
body=body
)
応答を解析
response_body = json.loads(response[‘body’].read())
モデルによって応答フォーマットが異なるため、適切に処理
if ‘claude’ in model_id:
generated_text = response_body[‘content’][0][‘text’]
elif ‘titan’ in model_id:
generated_text = response_body[‘results’][0][‘outputText’]
elif ‘llama’ in model_id:
generated_text = response_body[‘generation’]
else:
generated_text = “Could not parse response.”
print(“生成されたテキスト:”)
print(generated_text)
“`
注意点: モデルプロバイダーによって、リクエストボディとレスポンスボディのJSONフォーマットが異なります。上記の例のように、利用するモデルIDに応じてペイロードを適切に構築・解析する必要があります。これはBedrock APIを利用する上での主要な注意点の一つです。
5.2.2 ストリーミング応答の処理 (invoke_model_with_response_stream
)
長文のテキスト生成など、応答をリアルタイムで表示したい場合は、ストリーミングAPI (invoke_model_with_response_stream
) を使用します。
“`python
import boto3
import json
bedrock_runtime = boto3.client(
service_name=’bedrock-runtime’,
region_name=’us-east-1′ # ご利用のリージョンに合わせて変更
)
model_id = ‘anthropic.claude-3-sonnet-20240229-v1:0’ # ストリーミング対応モデル
ストリーミング用のペイロードは invoke_model と同様
body = json.dumps({
“messages”: [{“role”: “user”, “content”: “AWSの歴史について詳しく教えてください。”}],
“max_tokens”: 1000,
“temperature”: 0.7,
“anthropic_version”: “bedrock-2023-05-31” # Claude 3 はバージョン指定が必要
})
モデルをストリーミングモードで呼び出し
response = bedrock_runtime.invoke_model_with_response_stream(
modelId=model_id,
contentType=’application/json’,
accept=’application/json’,
body=body
)
ストリームからデータを読み込み、表示
event_stream = response.get(‘body’)
if event_stream:
for event in event_stream:
chunk = event.get(‘chunk’)
if chunk:
chunk_obj = json.loads(chunk.get(‘bytes’).decode())
# モデルによってイベント形式が異なるため、適切なキーを処理
# Claude 3 の場合:
if ‘delta’ in chunk_obj and ‘text’ in chunk_obj[‘delta’]:
print(chunk_obj[‘delta’][‘text’], end=”)
# その他のモデルの場合、形式を確認して適宜変更
print(“\n— ストリーミング終了 —“)
“`
ストリーミング応答は、特にチャットボットのようにユーザーにリアルタイムで応答を表示するアプリケーションで重要です。レスポンスはチャンクに分割されて送信され、各チャンクに含まれるデータを順次処理します。モデルによってストリーミングイベントの形式が異なるため、注意が必要です。
5.2.3 埋め込みベクトルの取得
テキストの意味的な類似性を比較したり、検索や分類、クラスタリングなどのタスクに利用できる埋め込みベクトルを生成します。
“`python
import boto3
import json
bedrock_runtime = boto3.client(
service_name=’bedrock-runtime’,
region_name=’us-east-1′ # ご利用のリージョンに合わせて変更
)
model_id = ‘amazon.titan-embed-text-v1’ # Amazon Titan Embeddings モデル
埋め込みを生成したいテキストリスト
texts = [
“Amazon Bedrockは生成AIサービスです。”,
“このサービスは基盤モデルへのアクセスを提供します。”,
“機械学習モデルの学習にはAmazon SageMakerが使えます。”,
“今日はお天気が良いです。” # 関連性の低いテキスト
]
リクエストボディの構築(モデル依存)
Titan Embeddings v1 の場合
body = json.dumps({“inputText”: texts})
モデルを呼び出し
response = bedrock_runtime.invoke_model(
modelId=model_id,
contentType=’application/json’,
accept=’application/json’,
body=body
)
応答を解析(モデル依存)
response_body = json.loads(response[‘body’].read())
embeddings = response_body.get(‘embeddings’) # Titan Embeddings v1 の場合
if embeddings:
print(f”埋め込みベクトルの数: {len(embeddings)}”)
print(f”最初のテキストの埋め込みベクトルの次元数: {len(embeddings[0])}”)
# print(“最初の埋め込みベクトルの一部:”, embeddings[0][:10]) # ベクトル自体は長い数値の配列
# 간단한 의미 유사성 비교 (コサイン類似度など実際の計算は別途必要)
print("\nテキスト間の意味的な近さ(例):")
print(f"テキスト1とテキスト2: 生成AIサービスと基盤モデルは関連性が高い")
print(f"テキスト1とテキスト3: BedrockとSageMakerは関連性が低い(AWSだが用途が異なる)")
print(f"テキスト1とテキスト4: 生成AIと天気は関連性が低い")
else:
print(“埋め込みベクトルを取得できませんでした。”)
“`
埋め込みベクトルはそのまま人間が読める形式ではありませんが、ベクトルデータベースに格納して類似度検索を行ったり、機械学習モデルの入力として利用したりすることで、様々なタスクに活用できます。
5.2.4 簡単なチャットボットの実装例
invoke_model
を使い、メッセージ履歴を管理することで簡単なチャットボットを実装できます。
“`python
import boto3
import json
import sys # for streaming output
bedrock_runtime = boto3.client(
service_name=’bedrock-runtime’,
region_name=’us-east-1′ # ご利用のリージョンに合わせて変更
)
model_id = ‘anthropic.claude-3-sonnet-20240229-v1:0’ # チャットに適したモデル
メッセージ履歴を格納するリスト
messages = []
print(f”{model_id} とのチャットを開始します(終了するには ‘終了’ と入力)。”)
while True:
user_input = input(“あなた: “)
if user_input.lower() == ‘終了’:
break
# ユーザーの入力をメッセージ履歴に追加
messages.append({"role": "user", "content": user_input})
# モデルへのリクエストボディ構築(Claude 3 の場合)
body = json.dumps({
"messages": messages, # これまでのメッセージ履歴を渡す
"max_tokens": 500,
"temperature": 0.8,
"anthropic_version": "bedrock-2023-05-31"
})
try:
# ストリーミングでモデルを呼び出し
response = bedrock_runtime.invoke_model_with_response_stream(
modelId=model_id,
contentType='application/json',
accept='application/json',
body=body
)
print(f"{model_id}: ", end="")
assistant_response = ""
event_stream = response.get('body')
if event_stream:
for event in event_stream:
chunk = event.get('chunk')
if chunk:
chunk_obj = json.loads(chunk.get('bytes').decode())
if 'delta' in chunk_obj and 'text' in chunk_obj['delta']:
text_chunk = chunk_obj['delta']['text']
print(text_chunk, end='')
sys.stdout.flush() # 出力を即座にフラッシュ
assistant_response += text_chunk
print() # 改行
# アシスタントの応答をメッセージ履歴に追加
if assistant_response:
messages.append({"role": "assistant", "content": assistant_response})
except Exception as e:
print(f"エラーが発生しました: {e}")
# エラー時は対話履歴が不正になる可能性があるので、履歴の最後を削除するなどの考慮が必要
print(“チャットを終了します。”)
``
messages` リスト) ととも Bedrock に送信し、モデルからの応答を表示・履歴に追加するシンプルなループです。実際のチャットボットでは、メッセージ履歴のサイズ管理、エラー処理、ユーザーインターフェースの実装などが必要になります。
このコードは、ユーザーからの入力を受け付け、これまでの会話履歴 (
5.3 エージェント/ナレッジベースの構築例
AgentやKnowledge Baseは、BedrockコンソールまたはAPI/IaC(CloudFormation, CDKなど)で構築できます。コンソールを使った簡単な構築手順を以下に示します。
エージェントの構築(概要)
- Bedrock コンソールで「Agents」を選択し、「Create agent」をクリック。
- Agent名、説明、そしてこのAgentの「Instructions」(どのような目的で、どのように振る舞うべきか)を入力します。
- Agentが使用する基盤モデルを選択します。
- 必要に応じて、Agentに紐付けるKnowledge Baseを選択します。
- 「Add action group」をクリックして、Agentが呼び出せる外部ツール(APIなど)を定義します。
- APIスキーマをアップロードするか、Lambda関数を指定します。
- 各アクションの具体的な説明(スキーマや関数が何をするか)を記述します。
- 設定を確認し、Agentを作成します。
- Agentの詳細画面で「Test」を実行し、様々な自然言語の指示を与えて期待通りに動作するか確認します。必要に応じてInstructionsやAction Group定義を修正します。Agentは実行計画(Thought/Action)を表示してくれるので、デバッグが容易です。
- テストが完了したら、「Deploy」をクリックしてAgentエイリアスを作成します。このエイリアスを通じて外部からAgentを呼び出せるようになります。
ナレッジベースの構築(概要)
- Bedrock コンソールで「Knowledge bases」を選択し、「Create knowledge base」をクリック。
- Knowledge Base名と説明を入力します。
- このKnowledge Baseが使用する埋め込みモデル(Amazon Titan Embeddingsなど)を選択します。
- データソースとなるS3バケットのパスを指定します。複数のパスや特定のファイルパターンを指定できます。
- 使用するベクトルストアを選択します(OpenSearch Serverless, Pinecone, Redis Enterprise Cloud)。
- OpenSearch Serverlessを選択した場合、コレクションARN、インデックス名、フィールドマッピング(埋め込みベクトル、テキストチャンク、メタデータのフィールド名)を指定します。OpenSearch側で事前にインデックスを作成しておく必要があります。
- 同期設定(手動または定期的な自動同期)を行います。
- 設定を確認し、Knowledge Baseを作成します。
- 作成したKnowledge Baseを選択し、「Sync」ボタンをクリックしてS3からデータをベクトルストアに取り込みます。
- 同期が完了すると、このKnowledge BaseをAgentから利用したり、Bedrock API (
Retrieve
,RetrieveAndGenerate
) から呼び出してRAGを実行したりできるようになります。
5.4 モデルカスタマイズの実践例(LoRA)
現在BedrockがサポートするPEFT(Parameter-Efficient Fine-Tuning)手法の一つであるLoRA(Low-Rank Adaptation)を使ったカスタマイズは以下の流れで行います。
- 学習データの準備:
- カスタマイズしたいタスクに合わせたデータセットを作成します。例えば、特定のドメインのQ&Aデータ、特定のスタイルのテキスト生成データなどです。
- データはJSON Lines形式(1行1データ)でS3バケットに配置します。各データは、モデルへの入力と期待される出力をキー・バリューで持つ必要があります(例:
{"input": "質問文", "output": "回答文"}
)。モデルによって必要なキーが異なります。 - データの質と量は、学習の成果に直結します。通常、数百から数千件のデータがあれば一定の効果が期待できますが、タスクの複雑さによります。
- カスタマイズジョブの作成:
- Bedrock コンソールで「Custom models」を選択し、「Create training job」をクリック。
- ジョブ名を入力し、カスタマイズしたいベースモデルを選択します。
- 学習データのS3パスを指定します。
- 出力データのS3パスを指定します(学習済みモデルのチェックポイントなどが保存されます)。
- ハイパーパラメータ(学習率、エポック数など)を設定します。PEFT(LoRA)関連のパラメータも設定できます。
- 設定を確認し、ジョブを作成します。
- ジョブの実行:
- 作成したジョブを選択し、「Start」をクリックします。
- Bedrockが必要な計算リソースをプロビジョニングし、学習を実行します。学習にはデータの量やモデルによって時間がかかります。
- カスタマイズ済みモデルのデプロイと利用:
- 学習ジョブが成功すると、新しいカスタマイズ済みモデルが「Custom models」リストに表示されます。
- このカスタマイズ済みモデルを選択し、API呼び出し時にそのモデルARNを指定することで利用できます。使い方は通常のモデル呼び出し (
invoke_model
) と同じです。
カスタマイズは強力な機能ですが、適切なデータセットの準備が最も難しいステップの一つです。
第6章:Amazon Bedrockの活用事例
Amazon Bedrockを活用することで、様々な業界や業務で生成AIのメリットを享受できます。以下に代表的な活用事例を挙げます。
- カスタマーサポートの高度化:
- チャットボットによる一次対応の自動化(Agent + Knowledge Bases)。社内FAQや製品マニュアルに基づいた正確な情報提供。
- 過去の問い合わせ履歴やドキュメントに基づいたオペレーター向け応答候補生成。
- 顧客からの問い合わせ内容の自動要約や感情分析。
- コンテンツ作成と編集:
- マーケティングコピー、ブログ記事、メール、レポートなどのドラフト生成。特定のスタイルやトーンに合わせた生成(カスタマイズ)。
- コードの自動生成、補完、デバッグ支援。
- 長文ドキュメントや会議議事録の自動要約。
- プレゼンテーション資料や契約書などのレビューと修正提案。
- 広告バナーやWebサイトに使用する画像の生成(Image Generation)。
- 情報検索と分析:
- 社内ナレッジ検索システムの構築(Knowledge Bases)。自然言語での質問に対する関連ドキュメントや回答提示。
- 大量の非構造化データ(ニュース記事、ソーシャルメディア投稿など)からの主要情報の抽出と要約。
- 調査レポートや市場トレンドに関する情報の収集と分析支援。
- セールスとマーケティング:
- 顧客属性や過去の購買履歴に基づいたパーソナライズされたメールや提案書作成。
- Webサイトのキャッチコピーや広告文のバリエーション生成と効果検証。
- ターゲット顧客向けのクリエイティブアセット(画像など)生成。
- 教育とトレーニング:
- 個々の学習進度や興味に合わせたカスタマイズされた学習コンテンツ生成。
- 学生からの質問に対する自動応答(FAQボット)。
- 教材の要約や難易度調整。
- デザインとクリエイティブ:
- テキストによる指示からのコンセプトアートやデザインラフ生成(Image Generation)。
- デザイン案に対するテキストでのフィードバックや改善提案。
- 複数のデザインバリエーションの自動生成。
- 開発とオペレーション:
- テストケースの自動生成。
- ドキュメント生成(APIドキュメント、コードコメントなど)。
- エラーログの分析と原因推定、解決策提案。
- インフラ構成変更に関するドキュメント検索とリスク評価。
これらの事例は Bedrock の活用可能性の一部にすぎません。Bedrock が提供する様々なモデルと機能を組み合わせることで、企業の独自の課題解決やイノベーション創出に貢献できます。
第7章:Amazon Bedrockを利用するメリット・デメリット
Amazon Bedrockの利用を検討するにあたり、そのメリットとデメリットを理解することは重要です。
メリット
- マルチモデル戦略の容易さ: 複数の大手プロバイダーの多様な基盤モデルに、単一のAPIインターフェースを通じてアクセスできます。これにより、特定のモデルにロックインされることなく、タスクや要件に応じて最適なモデルを選択・比較・切り替えることが容易になります。
- フルマネージドサービスによる運用負担軽減: 基盤モデル実行のためのインフラ構築、デプロイ、スケーリング、パッチ適用、メンテナンスといった煩雑な作業は全てAWSが管理します。ユーザーは生成AIアプリケーションの開発に集中できます。
- AWSの堅牢なセキュリティとコンプライアンス: AWSのグローバルインフラ上で動作し、IAMによるきめ細やかなアクセス制御、VPC PrivateLinkによるセキュアな接続、CloudTrailによるAPIアクティビティの監査ログなどが利用できます。企業の厳しいセキュリティ要件を満たすことが可能です。
- 既存のAWSサービスとの容易な連携: S3(データソース)、Lambda(Agentの実行アクション)、OpenSearch Serverless(Knowledge Basesのベクトルストア)、CloudWatch(モニタリング)、SageMaker(カスタムモデルインポート/連携)など、既存のAWSサービスとシームレスに連携できます。
- データプライバシーの保護: 多くのモデルにおいて、ユーザーの入力データはモデルプロバイダーがモデル学習に再利用することはありません。データはお客様のアカウント内で安全に処理・管理されます。
- アプリケーション開発を加速する統合機能: Agent、Knowledge Bases、Guardrails、Model Evaluation、Customizationといった、生成AIアプリケーション構築に必要な付加機能が統合されており、開発プロセスを加速できます。
- スケーラビリティと信頼性: AWSのマネージドサービスとして提供されるため、アプリケーションの利用量の増加に応じて自動的にスケーリングし、高い可用性と信頼性を提供します。
- 新機能と最新モデルの迅速な追加: AWSは生成AI分野の進化に合わせてBedrockの機能を継続的にアップデートし、新しい基盤モデルを迅速に追加しています。
デメリット
- 利用可能なモデルの選択肢はプロバイダーがBedrockを通じて提供するものに限られる: Bedrockで利用できるのは、パートナープロバイダーがBedrockプラットフォームに統合したモデルのみです。全てのオープンソースモデルや、他のプラットフォームで利用可能な最新モデルが即座に利用できるわけではありません。
- 最新モデルのサポートにタイムラグがある可能性: モデルプロバイダーが新しいモデルやバージョンをリリースしても、それが Bedrock に統合されるまでに一定のタイムラグが発生する可能性があります。
- カスタマイズオプションはプロバイダー/Bedrockが提供するものに限られる: Bedrockがサポートするカスタマイズ手法(現在は主にPEFT/LoRA)や、カスタマイズ可能なモデルは限定されます。より深いモデルの改変や、Bedrockがサポートしない特定の学習手法を利用したい場合は、SageMakerなどを検討する必要があります。
- コスト構造の理解が必要: オンデマンド料金とプロビジョンドスループット料金があり、さらにモデルごと、機能ごとに料金が異なります。利用状況に応じた最適なコスト管理には、ある程度の理解とモニタリングが必要です。
- モデルごとのAPIペイロードの違い: 基本的なAPIインターフェースは共通ですが、モデル固有のパラメータ設定や応答フォーマットに違いがあるため、複数のモデルを扱うアプリケーションを開発する際には、モデルごとのペイロード変換処理が必要になります。
- 基盤モデル自体の限界: Bedrockはあくまで基盤モデルへのアクセスと付加機能を提供するサービスであり、基盤モデル自体の持つ限界(ハルシネーション、バイアスなど)は依然として存在します。ガードレールなどの機能を使ってリスクを軽減する必要があります。
これらのメリット・デメリットを総合的に判断し、自社の生成AI戦略において Bedrock が最適な選択肢であるかを検討することが重要です。多くの企業にとって、特にエンタープライズレベルでの生成AI活用においては、Bedrockの提供するセキュリティ、スケーラビリティ、マネージド機能のメリットが大きいはずです。
第8章:料金体系
Amazon Bedrockの料金は、主に以下の要素に基づいて計算されます。
- 基盤モデルの利用料金:
- オンデマンド (On-Demand): 入力プロンプトのトークン数と、モデルが生成した出力トークン数に応じて課金されます。画像生成モデルの場合は、生成された画像の枚数に応じて課金されます。これは最も柔軟な料金モデルで、利用した分だけ支払います。開発やテスト、利用量が予測できない初期段階に適しています。
- プロビジョンドスループット (Provisioned Throughput): 特定のモデルに対して、一定期間(1ヶ月または6ヶ月)のキャパシティユニット(単位時間あたりの処理能力)を予約する料金モデルです。購入したキャパシティに対して、契約期間中、時間単位で料金が発生します。大量のリクエストを予測可能な低レイテンシで処理する必要がある本番稼働環境に適しています。利用量が一定量を超える場合、オンデマンドよりもコスト効率が良くなる可能性があります。
- モデルごとの料金: モデルプロバイダーやモデルのサイズ・性能によって、トークンあたりの単価や画像1枚あたりの単価、プロビジョンドスループットのキャパシティユニットの定義と単価は異なります。必ず最新の料金ページで確認が必要です。
- その他の機能の利用料金:
- Agents for Amazon Bedrock: Agentが実行したタスク数や、Agentがモデルを呼び出した回数などに基づいて課金されます。
- Knowledge Bases for Amazon Bedrock: データの取り込み(Ingestion)にかかるコンピューティング時間、および検索(Retrieval)にかかるリクエスト数やコンピューティング時間に応じて課金されます。
- Model Customization: カスタマイズ(学習)ジョブの実行にかかるコンピューティング時間(GPU時間など)に応じて課金されます。
- Model Evaluation: 評価ジョブの実行にかかるコンピューティング時間や、人間評価のレビュー時間などに応じて課金されます。
- Guardrails for Amazon Bedrock: ガードレールを適用したAPI呼び出し数などに基づいて課金されます。
コスト管理のヒント
- コストのモニタリング: AWS Cost ExplorerやCloudWatch Metricsを利用して、Bedrockの利用状況やコストを継続的に監視します。モデルごとのコストを把握することが重要です。
- 最適なモデルの選択: タスクの要件を満たす最低限のコストで済むモデルを選択します。大規模なモデルは高性能ですが、コストも高くなる傾向があります。
- プロンプトエンジニアリングの最適化: 入力/出力トークン数を減らすようにプロンプトを最適化することで、コストを削減できます。冗長な指示や不要なテキストを削減します。
- プロビジョンドスループットの検討: 大量の予測可能なトラフィックがある場合は、プロビジョンドスループットがコスト効率の良い選択肢となるかシミュレーションします。
- 無料利用枠: AWSにはBedrockの無料利用枠が用意されています。まずは無料利用枠を活用して Bedrock を試してみるのが良いでしょう。
最新かつ正確な料金情報については、必ずAWSの公式Amazon Bedrock料金ページを参照してください。料金は予告なく変更される可能性があります。
第9章:Bedrockの将来展望
生成AIの技術は日々進化しており、Amazon Bedrockもそれに合わせて急速に発展しています。Bedrockの将来は、さらなるモデルの多様化、機能の強化、性能向上、そしてエンタープライズユースケースへのさらなる対応が中心となるでしょう。
- サポートモデルの拡大: より多くの高性能な基盤モデルや、新しいタイプのモデル(マルチモーダルモデル、専門分野特化型モデルなど)が Bedrock に順次追加されることが予想されます。これにより、ユーザーはさらに幅広い選択肢の中から最適なモデルを選べるようになります。
- 機能の強化・追加: Agents、Knowledge Bases、Guardrailsなどの既存機能は、より柔軟性、制御性、性能が向上していくでしょう。例えば、Agentのより複雑なタスク実行能力、Knowledge Basesのデータソース多様化やRAG性能向上、Guardrailsの詳細なポリシー設定などが期待されます。
- マルチモーダル対応の強化: 現在も画像生成モデルやマルチモーダル埋め込みモデルが利用できますが、テキスト、画像、音声、動画などを組み合わせた、より複雑なマルチモーダルタスクへの対応が強化される可能性があります。
- 開発者体験の向上: SDKやツールの進化により、Bedrock を利用したアプリケーション開発がさらに容易になるでしょう。IaCツールとの連携強化や、CI/CDパイプラインへの組み込み支援なども進むと考えられます。
- 性能向上とコスト効率: 基盤モデル自体の推論性能の向上に加え、Bedrockプラットフォーム側の最適化により、レイテンシの短縮やスループットの向上が図られるでしょう。また、コスト効率の高いモデルや料金体系オプションが追加される可能性もあります。
- エンタープライズユースケースへの深化: より高度なセキュリティ、コンプライアンス、ガバナンス機能が追加され、金融、医療、公共分野など、特に厳しい要件を持つ企業でも Bedrock を安心して利用できるようになるでしょう。
Amazon Bedrockは、AWSの生成AI戦略の中核となるサービスとして、今後もイノベーションを取り込みながら進化し続けることが期待されます。
第10章:まとめ
この記事では、Amazon Bedrockの概要から主要機能、利用可能な基盤モデル、具体的な使い方、活用事例、メリット・デメリット、そして料金体系と将来展望まで、幅広く詳細に解説しました。
Amazon Bedrockは、企業の生成AI導入における様々な課題(モデル選択、インフラ運用、セキュリティ、開発効率など)を解決し、誰もが最先端の生成AI技術を容易に、安全に、スケーラブルに利用できるプラットフォームです。
- 複数のAIプロバイダーの基盤モデルを単一APIで利用できるマルチモデル戦略を実現。
- エージェントで外部ツール連携によるタスク自動化。
- ナレッジベースで社内データに基づいたRAGを実現。
- カスタマイズでモデル性能を向上。
- モデル評価で最適なモデルを選定。
- ガードレールでアプリケーションの安全性を確保。
- プロビジョンドスループットで本番環境の性能を保証。
これらの強力な機能と、AWSの堅牢なインフラ、セキュリティ、既存サービスとの連携により、企業は生成AIを活用した新しい顧客体験の提供、業務効率の向上、イノベーションの加速を実現できます。
生成AIはもはや一部の先進企業のものではなく、あらゆる企業にとって変革の機会をもたらす技術です。Amazon Bedrockは、その変革を実現するための最も強力なツールの一つと言えるでしょう。
まずはAWS無料利用枠を活用して、BedrockのPlaygroundsで様々なモデルを試したり、簡単なAPI呼び出しを試したりすることから始めてみましょう。そして、徐々にAgentsやKnowledge Basesといった高度な機能を活用することで、自社のビジネスに最適化された生成AIアプリケーションを構築していくことが可能です。
このガイドが、皆様のAmazon Bedrockの理解を深め、生成AI活用の第一歩を踏み出すための一助となれば幸いです。